2012年12月30日

なぜ日本経済は世界最強と言われるのか 日本国債は世界一安全?

なぜ日本経済は世界最強と言われるのかなぜ日本経済は世界最強と言われるのか
著者:ぐっちーさん
東邦出版(2012-09-14)
販売元:Amazon.co.jp

日本経済の強さを力説するブティック投資家・ぐっちーさんの本。会社の読書家の友人から借りて読んでみた。

ぐっちーさんは、1960年生まれ。丸紅を経て1986年にモルガン・スタンレーに移籍、給料が倍になったという。10年ほど在籍したのちに、欧米系金融機関のABNアムロ、ベア・スターンズなどを経て、ブティック投資銀行を開設した。ぐっちーさんのトークショウ広告に頭がぼさぼさで、時代劇に出てくる浪人風の写真が載っている。興味ある人はこちらをクリックして見てほしい。

この本は「グッチーさんの金持ちまっしぐら」というブログ(現在はGuccipostというウェブサイトに移行している)やメルマガの記事を編集加筆したもので、ぐっちーさんの最初の本だ。

一流の投資家であれば資産家が相手なので、一般大衆相手の本やメルマガなどは出さないだろう。どちらかというとメルマガ(月々840円で、数千人読者がいるという)や講演などで儲けているように思える。

とんでも本のように見えるが、予断を排して読んでみた。


ワイン談義はいただけない

ただし、米国と中国、米国と日本の関係を説明するのに、小泉首相訪米の時のディナーで出されたカリフォルニア州産ワインと2011年11月の胡錦濤主席の訪米の時のワシントン州産ワインの比較をして、小泉首相の時のワインの方が断然格上と言っているのはいただけない。

ぐっちーさんはシアトルでも仕事をしているそうだが、小泉首相訪米時のカリフォルニアワインを世界最高のジンファンデルの最高の作り手の最高ヴィンテージと絶賛し、胡錦濤主席訪米時のワシントン州のワインは格落ちとしている。

はたしてそうか?

ためしに楽天でそれぞれの銘柄の2008年ものの値段を調べてみると、次のような結果となった。

クイルセダ クリーク カベルネソーヴィニヨン コロンビアヴァレー[2008]△クリセダ クウィルシーダ クウィルシダ Quilceda Creek CabernetSauvignon ColumbiaValley [2008]△
クイルセダ クリーク カベルネソーヴィニヨン コロンビアヴァレー[2008]△クリセダ クウィルシーダ クウィルシダ Quilceda Creek CabernetSauvignon ColumbiaValley [2008]△

リッジ リットンスプリングス [2008] 750ml
リッジ リットンスプリングス [2008] 750ml

胡耀邦主席の時のワシントン州のクイルセダ・クリーク・カベルネが27,300円、小泉首相の時のリッジ・リットン・スプリングス・ジンファンデルが7,800円だ。

もちろんヴィンテージとか、採れたぶどう畑によりプレミアムがつくことがあるので、組み合わせによっては上記の楽天のような価格差が常にあるというわけではない。

ジンファンデルは、米国が最高なのかもしれないが、最高級赤ワインをつくれるぶどう品種ではないので、他の国や地域ではあまり生産されていないだけだ。その証拠に米国でもカリフォルニア以外の州ではほとんど生産されていない。

ワイン仲間を集めて、両方飲んでテイスティングしてみるが、赤ワインだけ比較すると、胡耀邦主席の時のワシントン州のワインの方が格上といわざるをえない。

ただし、大統領もブッシュとオバマで違うし、ぐっちーさんも書いているように、胡耀邦主席の時は、アメリカに来たらアメリカ料理でもてなすということで、リブアイステーキや、ロブスターなどの”オールアメリカン”の食事だった。

年配の中国人向け料理ではなく、胡耀邦主席は抵抗があったと思うので、赤ワインだけをとって一概に比較はできない。

”ワインは政治や企業にとってのいわば「戦略兵器」だとお心得ください”と書いているわりには、ワシントン州のワインを見くびっている点は残念だ。

ともあれ、本の他の内容は参考になる点が多いので、ぐっちーさんの論点を整理して紹介しておく。


日本国債は世界一安全?

日本国債は発行残高が1,000兆円を超える規模でも問題ない。日本の経済は世界一強いので、日本が破たんすることはない。年収200万円の亭主が1億円借金していても、奥さんが現金で2億円持っていることと同じだと。

2002年に日本の格付けが下がった時に、海外の格付け機関3社に対して財務省が出した意見書では次のように言っている。これは10年後の今も、外貨準備が中国に抜かれて2位となった(当時の2倍になってはいるが)以外は同じだ。

「日本は世界最大の貯蓄過剰国であり、国債はほとんど国内で極めて低金利で安定的に消化されている。また日本は世界最大の経常黒字国であり、外貨準備も世界最大である。日米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない。デフォルトとしていかなる事態を想定しているのか?」

消費税を上げないと日本が破たんするというのは、税金を上げたい財務省のプロパガンダにすぎないという。

このブログで紹介した高橋洋一さんの「さらば財務省」に高橋さん自身がつくったALM(アセット・ライアビリティ・マネジメント)システムの話が載っている。

さらば財務省! 政権交代を嗤う官僚たちとの訣別 (講談社プラスアルファ文庫)さらば財務省! 政権交代を嗤う官僚たちとの訣別 (講談社プラスアルファ文庫)
著者:高橋 洋一
講談社(2010-06-21)
販売元:Amazon.co.jp

日銀も金融庁もALMを持っていて銀行のポートフォリオを把握しているので、銀行が抜け駆けして国債を処分して国債が大暴落ということはありえない。

そもそもアジア通貨危機の時の韓国の政府債務のGDP比率は20%だった。債務のGDP比は、自国通貨だけの場合は意味がないという。いざとなれば紙幣を印刷すれば済むからだ。

ぐっちーさんの言うように「日本国債は100%安全」と言えるかどうかわからないが、紙幣を刷れば済むという問題ではある。

アルゼンチン駐在時代は年率100%超のインフレを経験した筆者としては、インフレがコントロールできないほど膨れ上がるのは問題だが、5%以下のインフレを覚悟して経済運営を取り進めるアベノミクスは、正しい方向性にあるのではないかと思う。


円高は本当に日本経済にとってダメージか?

世界で唯一国内だけで借金が賄えて、中央銀行がきちんと機能している国は日本しかないから円高になる。

円高で日本の輸出が減って、日本経済にダメージがあるとマスコミは宣伝するが、実はGDPに占める輸出の割合は14%で先進国ではアメリカに次いで低い。

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出典:本書81ページ

ぐっちーさんは触れていないが、自動車産業など輸出産業は裾野が広く、単純な輸出だけでなく、GDPでは国内取引としてカウントされる国内の素材や部品取引にも影響があることは、リーマンショックで経験したところだ。

しかし、そもそもGDPに占める製造業の割合は2割程度で、残り8割を占めるサービス産業などの第三次産業では、円高によるメリットの方が大きいだろう。

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出典:本書167ページ

「貿易立国」と筆者が小学校のころ習ったが、いまや「貿易立国」なのは韓国や中国で、日本は輸入も入れた貿易依存度では27%に留まり、こちらも先進国の中ではアメリカに次いで低い。

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出典:本書89ページ

さらに、貿易取引における円建比率は、輸出で41%と上がっている。たぶんトヨタグループとかの大企業グループ内の取引は円建てで輸出入していると思う。

輸入では円建て比率は23%だ。市況商品などの国際相場はドル建てなので、輸入はドル建てが一番多いのだと思う。

だから輸出は円建てで、輸入をドル建てにしておけば、円高でコストが下がるメリットを享受できる。たぶん円高をエンジョイしている企業は多いはずだ。

ぐっちーさんが会社四季報で調べたところ、海外売上高比率が5割を超えている輸出企業は、東証上場企業では286社(全体の「8%)のみで、海外比率30%まで下げても605社しかないという。

円高で儲けている企業は何も言わない。マスコミの「円高が日本経済をほろぼす」論調には、ぐっちーさんは警鐘を鳴らす。ローマ帝国以来、通貨高で潰れた国はないのだと。

この本が出た2012年10月当時は、1ドル=75円くらいだったのが、ここ1か月は「アベノミクス」で、円高修正に転じて1ドル=85円を超え、株価も上がっている。

為替相場はだれにも予測ができない。今後100円に近づくような局面があるのか、あるいは円高に戻すのかわからないが、為替が動けば投機資金も動く。円安となれば世界の投機資金が日本に集まることは間違いない。当面株高は続くだろう。


【余談】GDPに占める農業の割合は先進国では大体1%のみ

余談になるが、GDPに占める農業の割合は某政治家の発言もあった通り1.5%で、世界最大の農業国・米国でも1.1%に過ぎない。

もはや先進国では農業はGDPの1%前後というのが当たり前となっている。TPPにおける議論などでは、依然として農業の政治的発言力は強い。農業の重要性を否定するつもりはないが、冷静に考えれば、際限なく日本農業を支えることはできないことがわかる。


世界は日本を見直している

信義則が通用しない中国で痛い目にあった世界の企業は、信頼できる日本企業を見直しているとぐっちーさんは語る。

日本のように100年以上続いた企業が1万5千社もある国はない。世界の人々は3.11の大災害にあっても秩序正しく生活する日本人を見てわかった。

アフリカ諸国は中国の経済援助や大規模投資に一度は感謝した。

しかし、アフリカに雇用も富みも残さず、イナゴのようにやってきて資源と仕事を奪い尽くす中国は、昔アフリカを植民地にしたイギリス、フランスより悪い相手だったという「チャイナ・バッシング」が現在起きているという。


ヘッジファンドはいまや張り子の虎

この本の中で、最も参考になった部分がこれだ。

ボルカールールなどで金融機関のリスクテイクに対する締め付けが厳しくなっている。その結果、ヘッジファンドは資金源を断たれ、もはや日本政府に対抗できるようなヘッジファンドは存在しない。

2008年までヘッジファンドが大暴れしていた時代は、100億円の資金を元手に(エクイティーとして)CDO(債務担保証券)をつくって、銀行がそれに1,000億円から5,000億円の資金を融資した。

しかし銀行が自己資本比率を13%以上にしなければならない現状では、担保のないヘッジファンドに融資する銀行はない。だからヘッジファンドはいまや「張子の虎」となった。ソロスも同じで、日本政府、日銀に勝てるヘッジファンドなどもはや存在しないのだ。

ちなみに、いまや金融機関の取れないリスクを取っているのが総合商社だ。金融機関ではないのでボルカールールにはかからない。

総合商社は世界の脚光を浴びている日本的経営の最大の成功例であると丸紅出身のぐっちーさんは語る。

現在の総合商社は、貿易会社だけではなく、様々な分野での総合事業・投資会社に変身した。その意味ではぐっちーさんの言っていることは正しいと思う。


日本の年金は破たんするか?

年金制度については、出生率も高齢者比率も今の年金制度の前提より改善が見込まれるとぐっちーさんは指摘する。

マスコミでは少子高齢化による年金破綻をさかんに宣伝しているが、今の年金制度は出生率1.26、高齢者比率45%で計算している。現実は出生率1.35、高齢者比率が41%なので、現実は想定よりむしろ改善している。

正直あまり聞いたことがない話だが、ネットで調べるとちゃんと根拠があったので、茨城県県議会議員の井出さんのホームページに紹介されている平成19年の厚生労働省年金局の「人口の変化等を踏まえた年金財政への影響(暫定試算)」を紹介しておく。


日本は恒常的経常赤字国に転落する?

マスコミでは大震災の影響もあり、日本は2011年度に貿易赤字に転落し、2012年9月には過去最大の貿易赤字に転落したと報道している。

しかし不思議に所得収支も入れた経常収支のことは取り上げない。実は経常収支では黒字に変わりはないのだ。

日本の外貨準備高は中国に抜かれたが、日本は依然として世界最大の対外純資産保有国だ。日本の対外資産は582兆円で、負債を差し引いた対外純資産は253兆円で世界一である。

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出典:本書175ページ

これだけの対外資産から入ってくる所得収支が月間1兆円以上ある。だから貿易赤字があっても、経常収支では2011年度でも盤石の黒字だった。

2012年9月の季節調整済みの経常収支がマイナスになったと財務省は発表している。しかし、季節調整前で5,036億円の経常黒字が、季節調整後1,420億円の経常赤字になるというのは、計算根拠が良くわからないところだ。

日本は「金持ち父さん」風に言うと”ラットレース”の貿易取引で外貨を稼ぐのではなく、先進国型の”お金に汗をかかせる”対外投資で儲ける経済となっているのだ。

金持ち父さん貧乏父さん金持ち父さん貧乏父さん
著者:ロバート キヨサキ
筑摩書房(2000-11-09)
販売元:Amazon.co.jp



中国バブル崩壊

今度紹介する長谷川慶太郎の「中国大分裂」に詳しく説明されているが、ぐっちーさんも中国の現状を「バブル崩壊」と称して、つぎのような事象を挙げている。

中国大分裂 改革開放路線の終焉と反動中国大分裂 改革開放路線の終焉と反動
著者:長谷川 慶太郎
実業之日本社(2012-07-12)
販売元:Amazon.co.jp

★中国には金融政策など存在しない。中国では共産党が決断しないかぎり、金融政策に変更はない。

★中国の人民元の変動幅変更は後出しじゃんけん

★中国の生産人口はもう増えない 年金もない老人が多数いて、大きな社会問題になる可能性がある。

★中国は不動産バブル 500兆円が不要債権化する恐れもあるという

★外国人居住者からも社会保障費を徴収開始

★個人所得税の課税最低額を月間2,000元から3,000元に引き上げる一方、高所得者の税率はアップさせた人気取りの税制改革を行った。これにより給与所得者の9割は無税となり、残り1割のほとんどは税率10%で済む。高額所得者のみ45%の税金がかかる。

★中国人の高額所得者は海外、特にカナダに逃げている。平均7億5千万円の資産を持っている資産家96万人が資産を持って海外に流出しようとしている。日本が資産家移民を優遇したら、日本に移住する中国人は多いだろう。

★中国では地方政府の中央政府の政策に対する造反が起こっている。


苦境に立つ韓国経済

韓国の貿易依存度は9割に達していることを、上記の統計データで紹介した。ぐっちーさんが、韓国の現状を簡単に紹介している。

★2008年に3,174億ドルあった対外債務は、直近の2012年5月には4,100億ドルまで拡大している。ウォン安誘導で、対外債務の金利支払いが拡大しているためだ。

★日本が5.5兆円(700億ドル)のスワップラインを設定して韓国を救った。

★韓国政府の外貨準備高は3,100億ドルあると言われている。日本の外貨準備は現金や米国債など安全なドル資産だが、韓国の場合、米国債比率は12%しかない。残りはCDOなどの不要債権化した外国債券なども含まれており、すぐに現金化できない性質のものが多く含まれている。

★韓国がヘッジファンドに狙われないのは、単にヘッジファンドが資金を確保できていないからにすぎない。


最後にぐっちーさんは、「日本神話、いまだ健在」として、日本は実はうまくいっていることの例として、平均寿命の伸び、円の強さ、世界的に最低水準の失業率(4.2%)、経常黒字がバブル期の3倍以上もあること、香港+中国では日本が4兆円の輸出超過なことなどを挙げている。


日本国債が世界一安全かどうかわからないが、一般的なマスコミの論調とは違う論点は参考になる本だった。


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Posted by yaori at 17:06│Comments(0)TrackBack(0) ビジネス | 経済

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