2013年01月07日

なぜ、勉強しても出世できないのか? スキルアップをあおった記者の反省

なぜ、勉強しても出世できないのか? いま求められる「脱スキル」の仕事術 (ソフトバンク新書)なぜ、勉強しても出世できないのか? いま求められる「脱スキル」の仕事術 (ソフトバンク新書)
著者:佐藤 留美
ソフトバンククリエイティブ(2012-10-18)
販売元:Amazon.co.jp

ネットバブル期からスキルアップをあおる記事をたくさん書いたというフリーランスライターの佐藤留美さんの反省文。

週刊東洋経済の2011年11月26日号の「さらば!スキルアップ教」で佐藤さんは記事を書いており、それを見た編集者から、この本を書くよう提案があったという。

週刊 東洋経済 2011年 11/26号 [雑誌]週刊 東洋経済 2011年 11/26号 [雑誌]
東洋経済新報社(2011-11-21)
販売元:Amazon.co.jp

この本はアマゾンの「なか見!検索」に対応しているので、ここをクリックして目次をチェックしてほしい。

この本で紹介されている最も「わりに合わない」勉強ランキングは次の通りだ。

1位 各種キャリアアップセミナー

2位 「朝会」「人脈交流会」などの各種イベント

3位 国際ビジネス系資格(MBA,USCPAなど)

4位 一部経営・コンサルタント資格(中小企業診断士、ITコーディネーターなど)

5位 供給過多の国家資格(行政書士、社労士)

その業界で働く人や、資格を持っている人には、アタマに来る話が多いと思う。

この本は元々の出版経緯からしても、悪く言えば「週刊誌的なネタ」のよせ集めだ。これらの情報をもとに「勉強しても出世できない」という結論を出せるとは思えない。

しかし一面の真実は伝えていると思うので、いくつか参考になった情報を紹介しておく。


スキルアップフィーバー

スキルアップ分野では「スキルアップの女王」・勝間和代さんやレバレッジ・シリーズの本田直之さんなどが代表格で、このブログでも勝間本レバレッジ本を4冊ずつ紹介している。

佐藤さんはネットバブル時代にスキルアップをあおる記事を多く書いたが、当時スキルアップを目指した人の中では、成功した人は驚くほど少ないという。


ビジネス書は「毒」に気をつけろ

佐藤さんは、ビジネス書の著者は、何らかの目的があって本を書いているということを意識しておいたほうがいいと語る。あらゆる本にはバイアスがかかっているので、別の価値観の人がうっかり真に受けると痛い目に会うことがある。

例として、「どう考えても元ヤンキーとしか思えない著者が、仁義や義理人情、あるいは突拍子もない奇天烈な仕事術を書いた本を出し、ベストセラーになったりする」と、このブログで紹介している某書を批判している。

「こうした本の著者は、その人が、その職業を、その手法でたまたま成功しただけで、一般的に、読者が同じように同じことをやって果たして成功できるか疑わしい。ロールモデル性は極めて低いと言わざるを得ない」と。

吉本隆明は、「万人が読書は良いことと決めつけているが、それは危険である。読書とは作者の知恵と同様に毒をも浴びる行為である」ということを言っていたという。ビジネス書著者が放つ「毒」にも気を付けたいと、佐藤さんは語る。


USCPA 

世界がIFRSで世界的に統一されつつあるので、USCPAは「履歴書の華やぎ」にしかならないという。資格ごとお役御免になるのだと。USCPA資格予備校だったANJOインターナショナルは2006年に倒産。二番手予備校も跡形もないという。

本当にそうなのか筆者には判断がつかない。

少なくとも会計基準が変わっても、USCPAで勉強した基礎的なことが、全く役に立たないということはないと思う。ともかく佐藤さんの説として紹介しておく。

外資系などスキル重視企業が日本から引き揚げているから、MBAやUSCPAなどの国際ビジネス系資格の需要が減っているという。

日本から撤退した例として、スティール・パートナーズがサッポロ株を売却し、日本での買収ビジネスを手じまいしたことや、リップルウッドが「シー・ガイア」をセガサミーに売却し、日本から引き揚げたことを挙げている。


税理士

「税理士」は、今から取っても食える資格ではないという。日本の税理士7万2千人のうち、60歳以上が半数を占めるので、おじいちゃん税理士と親しくなって、仕事のおこぼれにあずかるのが一番の営業なのだと。

この本には書いていないが、税務署に23年間勤めれば、退職後無試験で税理士となれる。日本の税理士の約半数が税務署OBだという。

試験を受けて税理士資格を取った無経験の税理士と、税務の表も裏も知り、税務署にも顔がある税務署OBの税理士のどっちを起用するかと聞かれたら、誰でも税務署OBの税理士を起用するのではないかと思う。

税理士が「今から取っても食える資格」ではないという背景にはこういった事情がある。筆者が冒頭でこの本を”週刊誌ネタの寄せ集め”と評しているのは、こういった突っ込みが足りない点が目につくからである。


公認会計士

税理士以上にむごい仕打ちを受けているのが、公認会計士だと。弁護士同様に国策的に合格者人数を増やした結果、供給過多になってしまった。

三大会計事務所の一つでは、2010年から大リストラを実施し、「2008年以降に入所した人」を狙い打っているのだという。

2000年までの公認会計士試験の合格者数は、1,000人以下だったが、金融庁が公認会計士の活動領域の拡大を目指して試験内容を平易化した2008年以降は、合格者が3,000人を超えている。上記のリストラはこの「ゆとり会計士」を狙ったリストラなのだ。

この会計事務所では、J−SOX導入による需要増を見込んで、社員4,500人のところ、2008年には650人以上を新規採用した。ところがリーマンショックでJ−SOXバブルが吹き飛び、2009年には赤字に転落した。いまや資格の学校TACも希望退職を募っている。


ノキ弁にもなれない「ケータイ弁護士」

これまで弁護士は「イソ弁」といって、ボス弁護士の事務所に雇われ、OJTで仕事を覚えて行くのが常道だった。ところが司法試験制度改革で、弁護士資格保持者が2007年から急増し、「イソ弁」になれるのは、”一発合格で合格順位が1,000番以内の25歳以下の男性”だという。

「イソ弁」に慣れなければ、「ノキ弁」(軒先(机)を借りて、固定給なしで働く弁護士)という手もあるが、これも未経験者には狭き門。やむなく「タク弁」(在宅で働く弁護士)の「ソク独」(研修期間が終わってすぐに独立すること)が増えているのだという。

いままで過払い金返還請求で食ってきたが、従来21%だった過払い金報酬をダンピングする弁護士も現れている。武富士が過払い請求受付を終了し、”過払いバブル”は終了したという。

さらに法務大臣の認定を受けた司法書士は、2003年の法改正で、140万円以下の借金についての交渉権と簡易裁判所の訴訟代理権が認められた。消費者金融の過払い金の債務整理業務など、弁護士が行っていた業務ができるようになった。弁護士の仕事がさらに少なくなっているのだ。

司法修習生は以前は国から給費をもらっていたが、現在は返済義務のある貸与制となっている。ロースクール時代の奨学金も含めて、1,000万円以上の借金を背負った弁護士がどんどん誕生しているという。


英語TOEICフィーバー

英語を社内公用語にしたアパレル企業は、毎週10時間、TOEIC700点達成までリスニングやグラマーなどの勉強がノルマとして課せられ、月一回は講師と電話会議する。小型カメラ付きのパソコンが配られ、TOEICの点数が前回より上がっていないとツール使用料5万円が自己負担になる。

店舗勤務の人はいったん退社するフリをして、20時から23時までサービス残業するのが当たり前の社風だから、週10時間のノルマを達成するのが大変。オンラインプログラムはエンターキーを押し続ければ、受講したことになるため、勉強したフリをする社員が続出して、講師と電話会議するリアル学習に切り替えた。

「TOEIC700点以上にあらずんば人にあらず」といわんばかりのトップのアナウンスが徹底している。

同じく英語社内公用語化を発表したインターネット企業では、TOEICの団体特別テストがほぼ毎週行われるので、スコアを上げないと居場所がないプレッシャーがある。

2012年の新卒は730点、2013年の入社予定組は750点を最低クリアーした高得点者ばかりなのも、社員へのプレッシャーになっている。

多くの社員は7時前後に仕事をやめ、毎日2時間くらい仲間と会議室でリスニングやリーディングの勉強をしているという。会社がTOEICに染まりだしてから、社員に秀才型が増えて、ベンチャーっぽくなくなったという社員もいる。


飛べないスーパーマン

最後に佐藤さんは、経営共創基盤パートナーの塩野さんの言葉を紹介している。

「”東大君”が外資コンサルなどに入って、うまくいかなくってクビになり、うまくいかなかったのは、『まだ偏差値が足りないからだ』とばかりに、資格やMBAに走る。そういう人は、いわば『飛べないスーパーマン』。飛べなかったら意味がない。つまり実務ができなければ意味がない。」


「脱スキル」で幸せな職業人生を作る28の仕事術

佐藤さんは、「脱スキル」で幸せな職業人生を作る28の仕事術として、1.地方を目指す、2.仕事を選ばない、4.職場の「デキる人」を真似るなどを28項目提案している。

28の仕事術の最後は、「抽象より具体」だ。自分にとって頼りになるのは、「なんとか力」のような抽象的なものではなく、「お客さん」であり「経験者にしか分からない具体的な業務ノウハウ」であり、「周囲の人間からの確たる評判」などの、極めて具体的なものだという。

この本はスキルに関するプロ・コン(どちらかというとコンが多いが)の本なので、資格や英語力、IT力、FT(Financial Technology)力の面だけをとらえて議論している。

しかし、筆者は成功するためには最も必要なのは、向上心と相手の立場に立って考えられるコミュニケーション能力だと思う。

たとえばマイクロソフト社長の樋口泰行さんが、このブログで紹介した「愚直力」で書いているように、MBA資格に意味があるのではなく、MBAを取るために死にものぐるいで英語の原著を大量に読んで勉強したことが後々生きてくるのだ。

またMBA留学経験者の人脈も大きな宝だ。ローソンの新浪さん、楽天の三木谷さん、マイクロソフトの樋口さんはみんなハーバードMBAだ。ハーバードの人脈は日本だけでなく、世界に広がる。これは日本にいては得難い人的資産だ。

TOEICの点数をはじめ、様々なスキルや資格はあればあったで良いが、それがあるから成功するというわけではないというのは、当たり前だ。

採用選考で企業が最も重視するのはコミュニケーション能力だというアンケート結果が出ている。

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出典:「就活生の親が今、知っておくべきこと」111ページ

スキルはあった方が良いが、スキルだけあっても成功はできない。結論はありふれているし、情報は割り引いて考える必要があるが、参考になる本である。

蛇足ながら、ネットバブル期の説明として、「今では業績絶好調の商社も、ネットバブル期は息も絶え絶え。本社が大手町から”都落ち”した会社もあったほどだ」と書いてある。

たぶんあの会社のことだと思うが、世間から見ればそう見えるんだなと変に納得してしまった。


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Posted by yaori at 23:54│Comments(0)TrackBack(0) ビジネス | 成功哲学

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