2013年01月20日

個を動かす ローソン新浪社長のローソン改革10年

個を動かす  新浪剛史、ローソン作り直しの10年個を動かす 新浪剛史、ローソン作り直しの10年
著者:池田信太朗
日経BP社(2012-12-13)
販売元:Amazon.co.jp

ローソン新浪社長のローソン改革10年を描いた本。筆者のアルゼンチン駐在時代の友人の元三菱商事の人に紹介されて読んでみた。その友人は食品部門で新浪さんの先輩だった。

この本の著者の池田信太朗さんは、日経ビジネスデジタルの編集長で、現在は日経の香港支局の特派員だ。

新浪さんはマスコミに登場する機会も多い。安倍内閣が、経済再生のブレーンとして設置した産業競争力会議のメンバーにも選ばれている


日本型コンビニの生みの親はセブンの鈴木さん

コンビニ業界については、セブン・イレブンCEOの鈴木敏文さんの「商売の原点」、「商売の創造>」、「本当のようなウソを見抜く」のあらすじを、このブログで紹介している。

鈴木敏文 商売の原点 (講談社+α文庫)鈴木敏文 商売の原点 (講談社+α文庫)
著者:緒方 知行
講談社(2006-04-21)
販売元:Amazon.co.jp

鈴木敏文 商売の創造 (講談社+α文庫)鈴木敏文 商売の創造 (講談社+α文庫)
講談社(2006-05-19)
販売元:Amazon.co.jp

鈴木敏文の「本当のようなウソを見抜く」―セブン‐イレブン式脱常識の仕事術 (日経ビジネス人文庫)鈴木敏文の「本当のようなウソを見抜く」―セブン‐イレブン式脱常識の仕事術 (日経ビジネス人文庫)
著者:勝見 明
日本経済新聞出版社(2008-07)
販売元:Amazon.co.jp



セブンとローソン

コンビニエンス業界ナンバーワンは依然としてセブンイレブンだ。セブンの売上高は3兆円弱、これに対してローソンは1.8兆円。セブンの一店舗の平均日販は62万円。これに対してローソンの平均日販はで、セブンを10万円ほど下回る。他のチェーン店も同様に、セブンとは10万円以上の差がある。

この本を読むまでは、セブンが効率的で、かつ顧客もセブンを好んでいると思っていた。しかし、よく考えると、セブンは47都道府県のうち、いまだに出店ゼロの県があり、都市圏に集中している。

一方、ローソンは47都道府県すべてに出店しており、田舎の店も多い。人口の多い都市に集中的に出店していれば、おのずと平均日販も上がる。だから、セブンの方が日販額が多いから、それをもって消費者がセブンの方を好んでいるということにはならない。

筆者は以前はセブンの方が格上と感じていたが、最近はローソンに行くようになった。

オサイフケータイのiD決済をいち早く取り入れたこと。品ぞろえ、欠品率(筆者の自宅の近くのセブンは土日の1時過ぎに行くと、サンドイッチやおにぎりに欠品が目立つ)、駐車場の利用しやすさなどからローソンの方が便利と感じている。

新浪さんが2002年にローソン社長に就任した当時は、セブンをベンチマークして研究していたが、やがてセブン追随はやめた。ローソンはセブンにはなれない。それが現実だと気がついだのだと。


新浪さんの経歴

新浪さんは横浜出身。マリノスや横浜FCのホームグラウンドの三ツ沢球技場のあるあたりで、高校は翠嵐高校。高校時代はバスケットボール部のキャプテンとして部活を熱心にやった。チームは関東大会3位まで行き、新浪さんは優秀選手として国体選手に選ばれたが、膝を壊して選手生命を断たれてしまう。

東大法学部受験に失敗して慶応大学の経済学部に入る。体育会の器械体操部のマネージャーとして裏方をやり、在学中にスタンフォード大学に交換留学生として留学する。三菱商事には1981年に入社した。

三菱商事では砂糖部に配属された。企業派遣留学生を目指すが、留学申請を出しても上司のOKが取れなかったり、2年続けて重役面接に落ちたりして、なかなか留学できなかった。

新浪さんは会社のOKが出る前に、自分で試験勉強して、勝手に入学試験を受け、会社のOKが出た直後にハーバードの合格通知が来たという。

言いだしたら聞かない新浪さんの性格がわかるエピソードだ。この本では新浪さんの子供のころの話も紹介されている。

ハーバードビジネススクールでは、楽天の三木谷さんや、マイクロソフトの樋口さんなどと同じころに学んだ。東大よりいい大学を卒業することで、東大に対するコンプレックスがなくなったようだと新浪さんの友人は語っている。


ハーバードMBAで経営に目覚める

MBAを取ることで、新浪さんは経営という仕事を明確に理解した。

MBAで学んだことを活かし、新浪さんは帰国後、給食会社を買収し、売上高100億円の規模にまで育てる。

その頃ダイエーの創業者中内功さんが主催する若手勉強会に出ていたところ、ローソン株の購入を持ちかけられる。

ダイエーと縁が深い丸紅との競合の上、上司の小島・現三菱商事会長の支援を得て、ローソン株を購入する。

ローソン株は2000年1月に三菱商事が購入後(単価7,400円/株)、ITバブルがはじけて株価が暴落し、三菱商事は巨額の含み損を抱えるようになる。

三菱商事でも一度に償却すると決算ができないほどの巨額の含み損だったので、評価損は出さない決算処理を続けていたことも思い出す。


まずはおにぎりで成功

2002年に新浪さんはローソン社長に就任して、まず「一番うまいおにぎりを作ろう」とローソン社内に呼びかけた。

玄人の商品部(仕入れ担当)を外して、素人ばかりの研究グループをつくり、価格は高いがうまいおにぎりを作り出した。これを「おにぎり屋」のブランドで売り出したところ、大ヒットした。

新潟のコシヒカリは冷めてもおいしいので、ブランド米のコシヒカリを使った。

サケは従来はフレークを使っていたのを、切り身とした。フレークを使っていた理由は、骨が入らないようにということだったので、人件費の安いタイで加工することで費用削減して1個160円前後で売り出した。

それまではおにぎり1個100円前後だったので、おにぎりとしては高額だったが、大ヒットした。

おにぎりの成功で、それまでは「いずれ三菱商事に帰る人」と見られていた新浪さんの求心力が高まり、ローソン改革が順調に進むことになった。

ちなみに3.11のあと、東北地方の店舗では「手作りおにぎり」を自分の店舗でつくって販売している。


セブンは中央集権。ローソンは支店・支社経営

セブンイレブンでは毎週開かれる(現在は隔週となっている)全国のOFC(Operation Field Counselor)を集めた会議が有名だ。上記の「商売の原点」と「商売の創造」は1,300回を超えるOFC会議の記録をまとめたものだ。

OFC会議の中心はCEOの鈴木さんだ。

全国のOFCからの情報を整理して本部方針を出し、OFCが全国に散らばって、会議で打ち出した方針を各店舗に伝え、新規商品の販売を進めるという中央集権的な運営だ。

これに対し、ローソンは7支社、76支店に権限を委譲しての経営だ。

さらにサブ・フランチャイザーを認めて、MO(マネジメント・オーナー)と呼ばれる複数店オーナーにサブライセンシングを認めている。

新浪さんは、「一緒に、オーナーの地位を高めようよ」と、オーナー福祉会理事長に言っていたという。

まさにセブンとは正反対の考え方だ。


フランチャイズロイヤルティー料率変更

コンビニチェーンのロイヤルティー料率は次の通りだった。

        店舗オーナーが土地・建物調達  チェーン本部が土地・建物調達
セブンイレブン   43%固定          56〜76%スライド制

ローソン      34%固定          50%、45%固定

ローソンの方が日販が低いので、上記のようなセブンより低い利率で出店者を集めなければならなかった。

チェーン本部が土地・不動産を調達する場合の料率を、セブンと同じスライド制に変更できたのは、2012年3月になってからだった。


ミステリーショッパー(MS)導入

ダイエーがローソンを経営していた時代に、ダイエーの余剰人員にローソン店長をやらせる自社店舗を700店も出していた。しかしこれらはほとんど赤字店だったので、新浪さんが社長に就任してすぐに整理した。

その代り、余った人材をMS(ミステリー・ショッパー)として、店のサービス品質向上の仕組みをつくった。

MSが客のふりをして店で購入して、様々な観点から店のサービスを評価する。MSの年間運営費は30億円にも上るというが、これでローソンのサービスは格段に向上した。


個客をとらえる

この本のタイトルが「個を動かす」となっているように、ローソンの戦略は「個」の創造力を磨き、「個客」の消費を捕捉し、「個店」の集合体を作り上げることだという。

その主要なツールが共通ポイントプログラムのPontaだ。

2010年3月にスタートしたPontaの会員売上比率は現状では50%弱にとどまるが、従来POSで男女年齢をレジ係が判断して登録していた時代は終わった。

Pontaを使えば、個人を特定でき、その人の購買履歴がわかるようになってきた。この本では、「ひるぜん焼そば」という新製品の購入者データを分析した例が紹介されている。

ローソンにおける「ビッグデータ」時代の幕開けだ。Pontaに会員登録するときは、住所や結婚・未婚データも登録する必要がある。一方、セブンのNanacoは住所も結婚未婚も不要だ。Ponta会員売上比率が上がれば、こういった属性データが生かせる場面が来るだろう。

LINEの企業アカウントを使って、Lチキのクーポンを配信したところ、クーポンの引換率は7%にも上ったという。ほかの媒体の場合、3%なので、圧倒的な動員力だ。

ローソンのLINEアカウントを登録しているユーザー数は412万人、ツイッターのフォロワーが21万人。

セブン、ファミマと比べてローソンのSNS展開の方が明らかに一日の長がある。

こういったデジタルマーケティングと組み合わせると、Pontaの販促機能がうまく活かせるだろう。

ちなみに、このブログでは、世界最高といわれる英国TESCOの、ポイントカードを使った顧客管理を紹介している

Tesco顧客ロイヤルティ戦略Tesco顧客ロイヤルティ戦略
著者:C. ハンビィ
海文堂出版(2007-09)
販売元:Amazon.co.jp

コンビニで買うものは少ないので、マーケットシェア30%超の英国ナンバーワンスーパー・Tescoのように、高度な顧客分析はできないだろう。しかし、ローソンの場合、ケータイ対応することで、コンビニならではの効率的な販促が可能になると思う。

たぶん鍵は来店ポイントだろう。Pontaには来店ポイントはないと思うが、ローソンカードにはもともと来店ポイントがあった。ヤマダ電機のように、来店ポイントを払う代わりに販促メールを受け取ってもらうようにすれば、かなり有効な販促ができると思う。


改革を続けるローソン

ローソンではBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)を行い、本社業務の多くを、アクセンチュアが運営する大連のコールセンターに移植した。

大連の従業員は東京のコールセンターで、3週間ローソンの担当者からジョブトランスファーを受ける。

東京のコールセンター長は、自宅に中国人社員を招いてバーベキューパーティをやってケアしている。中国人に「あの人のメンツをつぶさないように、頑張ろう」と思わせたいのだという。

BPRは単にコールセンターだけではない。いままで三菱商事のグループ会社が独占していたパッケージ材や、物流についても、入札方式にして競争原理を働かすという。


ポスト新浪

ローソンの主要事業は次の3事業だ。

1.国内コンビニ事業
2.海外コンビニ事業
3.Eコマース、エンターテインメント等の事業(ローソンはHMVジャパンを買収している)

元ファーストリテーリング社長の玉塚元一さんがCVSグループCEO、元USENの加茂正治さんがエンタテインメント・ECグループCE、ほかにローソンの各地の支社長が次代のリーダー格だ。新浪さんが海外事業グループCEOを兼任している。

新浪さんは、自分の後任として3人を競争させている。

「僕はずっと、社長の顔色を見るんじゃなくて、『ミッション(使命)』で人が動く会社にならないと駄目だと思っていました。支社制、支店制を入れたのもそのためです。(中略)ミッション・オリエンテッドに会社を変えていくということです」と語っている。


ローソンの今後の発展

EC(eコマース)については、コンビニのマーチャンダイジングが、ネットというインフラに乗れば面白いと語る。

楽天などのモール事業者は販売者責任を負っていないので、マーチャンダイジングはできない(アマゾンは自分で仕入れているものもあるので、分野によってはできている)。

コンビニはその人にとって「新たな生活」ライフパターンをつくっているのもので、それを便利に届けることができる。ローソンに来てくれる顧客に、ECによりもっと豊富な賞品を紹介できれば、アマゾンに勝てるという。


新浪さんの働きぶり

この本の最後で、部下を徹底的に鍛える新浪さんの三菱商事時代の働きぶりが紹介されている。また、オーナーではない若手経営者仲間として、スクウェア・エニックス社長の和田洋一さん(野村証券出身)が、新浪さんのことを評している。

新浪さんは、「信じる」ことで物事を動かしていくタイプの経営者なのだと。

新浪さんは、落下傘でローソンに下りたち、最初はアセットの「本質」が何かということをじっくり見極めて、戦略をつくった。

社内をじっと見て「こいつらの価値って何だろうか」ということから戦略が成り立っている。それが新浪さんの経営の神髄だと、和田洋一さんは評している。


いままで知らなかった、セブンとは違うローソンの経営戦略がわかる。参考になる本である。


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Posted by yaori at 01:16│Comments(0)TrackBack(0) 自叙伝・人物伝 | ビジネス

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