2013年03月21日

アメリカは日本経済の復活を知っている イェール大学浜田教授の最終講義

+++今回のあらすじは長いです+++

アメリカは日本経済の復活を知っているアメリカは日本経済の復活を知っている
著者:浜田 宏一
講談社(2012-12-19)
販売元:Amazon.co.jp

安倍首相のご意見番・イェール大学浜田宏一名誉教授の「最終講義」。

浜田さんは1954年に湘南高校を卒業して東大法学部に入学し、卒業後経済学部に学士入学した。その後大学院の修士課程に進み。館龍一郎教授のアドバイスで、フルブライト留学生としてイェール大学のジェームズ・トービン教授に学んだ。その後東大教授を経て、イェール大学で長く教鞭を取っている。

この本を出版する直前に、安倍自民党総裁から衆議院選挙に臨むうえでの政見について国際電話で相談を受け、「安倍総裁の政見は正しいので、自信を持って進むように」とアドバイスしたことを明かしている。浜田教授と安倍首相との親密さがわかるエピソードだ。

この本は、以前紹介した「伝説の教授に学べ」の、続編のような位置づけで、前著の冒頭に載っていた白川日銀総裁への公開書簡の顛末を紹介している。

伝説の教授に学べ! 本当の経済学がわかる本伝説の教授に学べ! 本当の経済学がわかる本
著者:浜田 宏一
東洋経済新報社(2010-06-25)
販売元:Amazon.co.jp

白川総裁と日銀審議委員に「伝説の教授に学べ!」を献本したところ、白川総裁は「自分で買います」という返書をつけて送り返してきたという。

白川総裁の対応は、大人げないように思えるが、公開書簡が白川総裁の気に障ったのだろう。

浜田教授は、「人は『ノーベル経済学賞候補者の一人』と持ち上げてくれるが、教え子である白川総裁を正しく導くことができなかった。とてもそんな資格はない」と語る。

「日銀は、アダム・スミス以来200年の経済学の普遍の法則を無視して、世界孤高の『日銀流理論』を振りかざし、円高を招き、株安をつくり、失業や倒産を生み出している」。

金融政策をうまく使えば、日本経済が苦しむデフレ、円高、不況、空洞化といった問題が解決できるのに、金融政策を独占する日銀が金融政策を使うのを拒否している。

だから、ズバリ、「20年もの間デフレに苦しむ日本の不況は、ほぼすべてが日銀の金融政策に由来するものである」と結論づけている。


この本の目次

この本はアマゾンの「なか見!検索」に対応していないので、なんちゃってなか見!検索で、章題だけを紹介しておく。実際の目次は、サブタイトルまですべて掲載されているので、目次だけで8ページもある。

序章  教え子、日銀総裁への公開書簡

第1章 経済学200年の常識を無視する国

第2章 日銀と財務省のための経済政策

第3章 天才経済学者たちが語る日本経済

第4章 それでも経済学は日本を救う

第5章 2012年2月14日の衝撃

第6章 増税前に絶対必要な政策

第7章 「官報複合体」の罠

終章  日本はいますぐ復活する


全体の要約

目次では、内容が推測しづらいので、全体を要約しておく:

デフレ脱出のために、インフレターゲットを設定して、金融緩和をするのが経済学の通説・法則であり、世界中の経済学者や日本の心ある経済学者は、日銀がなぜそれをやらないのか不思議に思っている。

日銀は経済学の法則からかけ離れた「日銀理論」を持っており、自らをインフレの番人として、インフレ対策は熱心に行うが、デフレは軽く見て、リーマンショックの後でもほとんど何もしなかった。

他方米国や英国は、FRBやイングランド銀行のトップに著名な経済学者を据え、経済学の法則に従って、急激にバランスシートを拡大し、大幅な金融緩和を実施した。

その結果、何もしない日本は円高となり、産業の競争力が失われ、株式市場は低迷を続けた。サブプライムローンに端を発した世界同時不況により、本来サブプライムローン問題とは無縁の日本経済が、最も大きなダメージを食らった。

これはひとえに、日銀がデフレの唯一の対策である金融緩和を推し進めなかったからだ。浜田教授は元教え子の白川総裁に公開書簡まで発表して、「歌を忘れたカナリア」からの脱却を求めたが、日銀は無視して何も動かなかった。

しかし、2012年2月14日のバレンタインデーに日銀はインフレ1%を「目途」とすると発表した。とたんに市場の「期待」は変わり、円高と株高に転じた。ところが、日銀は1%と発表しただけで、実際には強力な金融緩和を実施しなかったので、日銀のバレンタインデー発表は「義理チョコ」に終わった。

自民党の安倍総裁は、経済法則をよく理解し、浜田教授他の「リフレ論者」のアドバイスに基づいて、2%のインフレ目標と、日銀法改正も辞さないことを、2012年末の衆議院選挙前に発表した。とたんに市場の「期待」が変わり、円は75円から95円、株式市場は8,000円台から、12,500円にまで回復した(2013年3月中旬現在)。

浜田教授らの主張するリフレ政策、通称「アベノミクス」は正しい経済学の法則に基づく政策であり、正しい金融政策を取れば、日本経済は必ず復活することを、世界は知っているのだ。


60人を超える世界の経済学者などにインタビュー

浜田教授は学究生活の集大成として、日米の政治家、中央銀行関係者、政策当事者、学者、エコノミスト、ジャーナリストなど60人を超える人にインタビューを行った。

その中にはグレゴリー・マンキューウィリアム・ノードハウスマーティン・フェロドシュタイングレン・ハバードベンジャミン・フリードマンデール・ジョルゲンソンロバート・シラーなどの泰斗が含まれる。

日本では安倍晋三堺屋太一竹中平蔵中原伸之黒田東彦岩田規久男岩田一政伊藤隆敏などだ。

外国人学者のほとんどすべて、そして尊敬すべき日本人学者は、日本経済が普遍の法則に則って運営されさえすれば、直ちに復活し、成長著しいアジア経済を取り込み、再び輝きを放つことができることを知っている。それゆえ、この本のタイトルを「アメリカは日本経済の復活を知っている」としたのだ。


民主党政府の閣僚たちは「ヤブ医者」の群れ

「ヤブ医者」としてここで挙げられているのは、円高論者の藤井裕久、与謝野馨、「増税すれば経済成長する」と語った管直人、「利上げすれば経済成長する」と語った枝野幸男、野田佳彦、「経歴から見て財政とは無縁な素人、安住淳」などだ。

このブログでも紹介した藻谷浩介の「デフレの正体」で、デフレの原因は人口減少だとする説は、「俗流経済学」と片づけられている。日銀はこれをデフレの原因としたいようだが、人口をデフレに結びつけるのは、理論的にも(金融論)実証的にも(国民所得会計)、根拠のないものだと切り捨てている。

デフレの正体  経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)
著者:藻谷 浩介
角川書店(角川グループパブリッシング)(2010-06-10)
販売元:Amazon.co.jp

人口減少は、経済学の率直な議論からすれば、インフレの原因ではあっても、デフレの原因とはなりえないと。


この本のグラフが参考になる

一般的な経済書は、グラフや表が多数使われているが、この本では10のグラフが使われているのみだ。

ゲーム理論の国際金融論への応用で、ノーベル賞候補にも挙げられる浜田教授だが、グラフを使って説明するのが得意ではないようだ。しかし、少ない10のグラフだけ見ても、浜田教授の主張のポイントが理解できる。

「伝説の教授に学ぶ!」にも紹介されていた、リーマンショック後に金融緩和をしない日銀と、金融緩和して急激にバランスシートを拡大したイングランド銀行やFRBを対比したグラフのアップデート版を紹介している。中国や韓国も欧米ほどではないが、バランスシートを拡大している。一方、日銀は何もしていないということがわかる。

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出典:本書99ページ

このため、為替は円の独歩高となった。最近は人民元も強くなってきているが、バランスシート拡大と円高とは、逆相関関係にあることがわかる。

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出典:本書99ページ

この本には「ソロスチャート」と呼ばれる図を使って、「2国間の為替レートは、両国の通貨量の比率によって決まる」という法則を紹介している。これはまさに白川総裁がシカゴ大学で勉強して持ち帰った「国際収支の貨幣的接近」と同じものだと。

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出典:本書102ページ

各国の2000年からの11年のGDPは次のようなグラフとなり、韓国、中国が台頭し、先進国では金融緩和に踏み切った英国と米国が良いパフォーマンスを示している。

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出典:本書49ページ

リーマンショック後の日米欧の鉱工業生産指数では、サブプライムローンでは本来無傷なはずの日本が、最もダメージを被っていることがわかる。

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出典:本書69ページ

上のグラフと、次の日米欧の実質実効為替レートの推移表を比較すると、円高の独歩高が日本経済に大変なダメージを与えていたかことがよくわかる。

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出典:本書69ページ

円がドルに対して30%強くなり、韓国ウォンは対ドルで30%安い。合計60%ものハンディがあれば、到底競争できない。電機メーカーの競争相手は韓国企業だ。たとえば、メモリメーカーのエルピーダメモリは、日銀につぶされたようなものだと浜田さんは語る。


日銀のバレンタインデー「義理チョコ」金融緩和

上記の日銀のバレンタインデーの「義理チョコ」金融緩和を示すグラフが紹介されている。

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出典:本書33ページ

これを見ると、日銀はインフレ「目途」を1%と発表していながら、発表後半年の間、買い入れ資金の5兆円増加を除いては、なんら金融緩和をしていないことがわかる。

一方、FRBは2012年9月からアメリカの弱点である住宅市場で、毎月400億ドルの規模の住宅ローン担保証券を買い上げることを決めた。これがQE3として知られるものだ。

さらに本書発刊後の2012年12月、FRBは追加で毎月450億ドルの米長期国債を購入する追加金融緩和策を発表した

合計850億ドルもの金融緩和策で、米国の株式市場は史上最高値を記録し、米国経済はシェールガスによるエネルギー自給の見込みが出てきたことから、活況を取り戻しつつある。

また日本は、浜田教授のアドバイスに従って2%のインフレターゲットをアベノミクスの根幹政策として打ち出しているので、円安、株高で景気回復感が出ている。

浜田教授は、小泉首相時代に小泉首相と会って、「デフレを脱却するには、予想と期待形成が重要」と伝えたそうだ。現在は、まさにそのもくろみ通り「インフレ予想と期待」が見事に形成されている。


次期日銀総裁の有力候補

この本で浜田教授は、次期日銀総裁候補として次の人たちを挙げている。やや連発しすぎのきらいはあるが、いまやキングメーカーとなった浜田教授ゆえ、挙げられた人が日銀総裁・副総裁に就任しているのは、さすがだ。

★岩田規久男 学習院大学教授(新任日銀副総裁)
金融論が専門で、日銀のデフレ政策をいわば四面楚歌の中で、長年批判しつづけた。

岩田規久男教授の「日本銀行は信用できるか」は読んだ。FRBと日銀の対比や、インフレターゲット政策を採用した国のパフォーマンスの伸びなどを紹介している。

日本銀行は信用できるか (講談社現代新書)日本銀行は信用できるか (講談社現代新書)
著者:岩田 規久男
講談社(2009-08-19)
販売元:Amazon.co.jp


FRB(FOMC)の顔ぶれ:2名のMBAを除き博士号を持っている人ばかり

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日銀政策委員会顔ぶれ:「女性枠」、「産業枠」があるという

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インフレターゲット政策を採用した国のパフォーマンスの変化

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以上3点の出典はすべて「日本銀行は信用できるか」

「日本銀行は信用できるか」は2009年の本なので、あらすじを紹介していない。現在、岩田規久男教授の近著・「日本銀行 デフレの番人」を読んでいるので、近々あらすじを紹介する。

日本銀行 デフレの番人 (日経プレミアシリーズ)日本銀行 デフレの番人 (日経プレミアシリーズ)
著者:岩田 規久男
日本経済新聞出版社(2012-06-09)
販売元:Amazon.co.jp

★岩田一政 日銀政策委員

★黒田東彦 アジア開発銀行総裁

★伊藤隆敏 東大教授 インフレ・ターゲット論者

★堺屋太一 元経済企画庁長官

★竹中平蔵慶応大学教授


そのほかの特記事項

この本は、そのほかにも大変参考になる情報が紹介されている。あまり詳しく紹介すると長くなりすぎるので、特記事項として要点だけ紹介しておく。

★小泉首相は、福井前日銀総裁の就任時に、デフレ脱却を約束させたが、就任から3年たって、福井総裁は、約束を反故にして引締めに転じた。

★クルーグマンの処方箋
クルーグマンは、「お金をものすごい勢いで印刷し続けると約束すること。そこには将来の期待が大いに影響する」、「自分であれば、まずインフレターゲットを発表する」と語っている。

★日銀はインフレに対するトラウマが大きい。インフレと闘うことが仕事と思い込んでいる。日銀法では、物価の安定が唯一の目標とされ、日銀の独立性で、手段を勝手に決めることができ、結果についても責任を問われない。

ほとんどの国では、雇用の維持や経済成長の維持などが金融政策の目的に定めている。中央銀行に自主性が与えられるのは、それらの目標を達成する手段として何を選ぶかだけだ。

だから、日銀法を改正して、インフレ目標の導入や、雇用の維持を目的とすることなどを追加しようとの論議が起こっている。

★日本は「金持ち母さんと貧乏父さんの国」
浜田教授はベストセラーのタイトルになぞらえて、国民が1,500兆円の資産を持つ一方、政府が1,000兆円の国債を発行している日本は、「金持ち母さんと貧乏父さんの国」だと言っている。

金持ち父さん貧乏父さん金持ち父さん貧乏父さん
著者:ロバート キヨサキ
筑摩書房(2000-11-09)
販売元:Amazon.co.jp

★消費税で癒着する財務省と新聞社(「官報複合体」)
新聞社は新聞に軽減税率を適用してもらおうという下心があるので、消費税増税に賛成なのだと。

★池上彰の「日銀を知れば経済がわかる」はもともと日銀の広報誌「にちぎん」の連載だった。

日銀を知れば経済がわかる (平凡社新書 464)日銀を知れば経済がわかる (平凡社新書 464)
著者:池上 彰
平凡社(2009-05-16)
販売元:Amazon.co.jp

池上さんの本によるとデフレ脱却法は、「みんなでがお金を使えば、その日から景気が良くなる」だ。しかし、どうやってみんながお金を使うようになるのかの視点が欠けているので、浜田教授はこれでは不十分だという。

「池上彰のやさしい経済学1.&2.」にも制度の仕組みはわかりやすく書いてある。しかし、なぜデフレや円高がおこるのか、不況から脱出する方法は何かなどは書いていないので、やはり不十分だと。

池上彰のやさしい経済学―1 しくみがわかる池上彰のやさしい経済学―1 しくみがわかる
著者:池上 彰
日本経済新聞出版社(2012-03-24)
販売元:Amazon.co.jp

このブログでも「池上彰のやさしい経済学」を紹介している。内容は、経済学史という感じで、歴代の著名な経済学者の学説を紹介しているもので、筆者は、大学の経済学の授業とはこんなものではないかと思う。

浜田教授の要求レベルは、正統派経済学者でなく、いわばストリート・エコノミストの池上さんには高すぎるような気がする。

筆者は池上さんの本は、あれはあれで教養過程の経済学の教科書として十分な内容ではないかと思う。

浜田教授が「最終講義」というだけあって、非常に充実した内容である。筆者自身は「経済学の普遍の法則」というものが本当にあるのかどうか正直疑問を感じる。

単に「多数派の意見」ということではないかと思うが、ともあれ「アベノミクス」による変化をみれば、浜田教授の議論は説得力があることは間違いない。

2013年になって、読んでから買った本の第2号だ。


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Posted by yaori at 13:04│Comments(0)TrackBack(0) 経済 

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