2013年04月06日

東日本大震災 被災市町村のすがた  統計と地図は雄弁だ

統計と地図でみる東日本大震災被災市町村のすがた統計と地図でみる東日本大震災被災市町村のすがた
著者:衞藤 英達
日本統計協会(2012-03)
販売元:Amazon.co.jp

大学のクラブの先輩が、東日本大震災被災地に関する本を出版したので読んでみた。

著者の衛藤さんは、元・総務省統計局長で、現在は(財)日本統計協会の専務理事。杏林大学の客員教授、青山学院大学の非常勤講師などを務めている。


数字は雄弁

タイトルに「統計と地図で見る」という枕詞がついている。

太平洋沿岸の岩手県12市町村、宮城県15市町村、福島県15市町村の、統計と被災地図に若干のコメントを加えたコンテンツだが、まさに「数字は雄弁」だ。

市町村名がわかりやすいように、スキャンした表紙の写真を紹介しておく。

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単に統計と地図なのだが、これらを見ていると被災した人たち、亡くなった人たち、今も行方不明の人たちのことに、自然と思いを馳せる。

統計と地図で、感情移入してしまうというのも変な話なのだが、それだけ重大な真実が、ここにはある。

いくつか参考になった例を紹介しておく。


全体の犠牲者の状況

次が市町村別の犠牲者(死者と行方不明者)だ。

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出典:本書2ページ(以下出典はすべて本書)

東北の太平洋側でも、宮古市から東松島市に至るリアス式港湾と、遮蔽物のなかった平坦な仙台平野などが大きなダメージを受けていることがわかる。

次が年齢別・男女別の死者数だ。

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死者の大半が60歳以上の高齢者で、男女とも死者の年齢のピークは75歳前後だ。高齢のために逃げ遅れたのか、それとも身体に障害があり、逃げられなかったのか…。


人口ピラミッド

東北の太平洋岸の市町村は、元から高齢者人口が多かった。たとえば、陸前高田市の2010年の人口ピラミッドは次の通りだ。

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圧倒的に高齢者が多い。男性より女性の人口の方が多いことがわかる。だから、津波の犠牲者も高齢者が多く、女性の方が多い。

東京電力の火力発電所がある福島県の広野町の人口ピラミッドと比べると、好対照だ。広野町では40〜50代の働き盛りや、子どもも多い。

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産業別就業者レーダーチャートでわかる大きな差

岩手県太平洋沿岸の市町村の産業別就業者レーダーチャートは、ほとんどが次の陸前高田市の様な農林漁業突出のグラフだ。

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これに対して、東電の火力発電所のある広野町はエネルギー業が突出している。

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福島第一原発がある大熊町と双葉町も、広野町と同様にエネルギー業が突出したレーダーチャートとなっている。

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一人当たり市町村所得

一人当たり市町村所得(住民の所得+企業の所得を人口で割ったもの)は、岩手県の陸前高田市は177万円/年。岩手県の漁業を主な産業とする市町村は、大体このレベルだ。

これに対して、東電の発電所がある福島県の町は、一人当たり市町村所得で、400万円を超えている。広野町は564万円と福島県でも突出している。

企業の所得が、そのまま町の税収となるわけではないが、やはり地元に発電所のような巨大な産業施設があると、市町村所得は潤う。


犠牲者データは語る

岩手県で犠牲者の人口比が大槌町に次いで高かった陸前高田市の犠牲者データは、次のようになっている。

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これに対して、同じ岩手県でも、過去の数度の津波の経験から15.5メートルの防波堤や水門を建設していた普代町では、行方不明1名のみと犠牲者は少なかった。

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普代町では、1896年の明治三陸沖地震では、1,000人以上が死亡、昭和三陸地震では600人が死亡した。

この過去の経験から、40年間村長をつとめた人物の強い指導力で、15.5メートルの防波堤と水門を長期間かけて建設していた。これが上記のような奇跡的に少ない犠牲者ですんだ要因だ。


浸水地図

次が東日本大震災で人口の8.56%を失い、犠牲者の人口比が最も高かった大槌町の浸水地図だ。大槌町では、町庁舎で町長以下の幹部も犠牲となり、行政機能がマヒした。

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次が「万里の長城」と呼ばれた高さ10.5メートル、全長2.4キロの、エックス字型の大防波堤があった宮古市田老地区の浸水地図だ。

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津波の高さは最大19.5メートルで、巨大な防波堤を超え、内部の住宅街は壊滅した。なかには、堤防があるからと、逃げなかった人もいたという。この地区では200人以上の住民が犠牲となっている。

東北の市町村の中で、最大の犠牲者を出した石巻市では、避難中の大川小学校の児童74人と教員10人が犠牲になった。避難誘導の失敗が追求されている。


原発事故の避難地域

福島県だけ、沿岸の津波被災地に加えて、福島第一原発の放射能被害により非難を余儀なくされた周辺市町村が含まれている。

たとえば飯舘村の産業別就業者レーダーチャートは次の通りだ。

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発電所がある広野町や大熊町のレーダーチャートとは大きな差があることがわかる。

ちなみに飯館村の一人当たり市町村所得は170万円で、福島県平均を100とする指数で62となっている。


写真集と統計

東日本大震災では、もちろん写真集も多く出版されている。

報道写真全記録2011.3.11-4.11 東日本大震災報道写真全記録2011.3.11-4.11 東日本大震災
著者:朝日新聞社
朝日新聞出版(2011-04-28)
販売元:Amazon.co.jp

河北新報特別縮刷版 3.11東日本大震災1ヵ月の記録河北新報特別縮刷版 3.11東日本大震災1ヵ月の記録
竹書房(2011-06-20)
販売元:Amazon.co.jp

写真集を見ているだけでは、解消できない「なぜ?」という疑問の答えが、統計にはある。

統計は写真と同じく雄弁であることがわかる貴重な資料である。


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Posted by yaori at 10:23│Comments(0)TrackBack(0) 歴史 

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