2013年04月13日

円高の正体 浜田宏一教授推薦書 第2弾 マネー不足が円高の原因

円高の正体 (光文社新書)円高の正体 (光文社新書)
著者:安達誠司
光文社(2012-01-17)
販売元:Amazon.co.jp

以前紹介したイェール大学浜田宏一名誉教授が、「アメリカは日本経済の復活を知っている」で推薦していた本。

アメリカは日本経済の復活を知っているアメリカは日本経済の復活を知っている
著者:浜田 宏一
講談社(2012-12-19)
販売元:Amazon.co.jp

前回の「日本銀行デフレの番人」のあらすじに続く、浜田教授推薦書の第2弾だ。

著者の安達誠司さんは、大和総研、富士投信投資顧問、クレディスイスファーストボストン証券などの調査部でキャリアを積み、現在はドイツ証券経済調査部シニア・アナリストとして活躍している。

日銀副総裁に就任した岩田紀久男教授の「昭和恐慌の研究」では、安達さんも共著者の一員として加わっている。

バーナンキFRB議長は大恐慌の研究で有名だ。期せずして、大恐慌の研究家と、昭和恐慌の研究家が日米の中央銀行の首脳となったわけだ。

昭和恐慌の研究昭和恐慌の研究
著者:岩田 規久男
東洋経済新報社(2004-03-19)
販売元:Amazon.co.jp

Essays on the Great DepressionEssays on the Great Depression
著者:Ben Bernanke
Princeton Univ Pr(2004-01-05)
販売元:Amazon.co.jp

この本の最初に、謎の言葉が掲げられている。

「あと28.8兆円」

本の最後で、米国カーネギー・メロン大学のベネット・マッカラム教授による「目標とする名目経済成長率を達成するために、中央銀行はどの程度マネタリーベースを供給する必要があるかを割り出す方程式」を紹介している。

マクロ金融経済分析―期待とその影響
著者:ベネット・T. マッカラム
成文堂(1997-06)
販売元:Amazon.co.jp

それが「マッカラム・ルール」と呼ばれるもので、それによると2%の経済成長を達成するには、日銀が現在の121兆円から28.8兆円追加すればよい。それが冒頭の「あと28.8兆円」の意味だ。

この場合、2%の名目成長率を達成して、ドル=円レートは95円、インフレ率は1.5%程度になるという。

さらに4%の成長を達成するには、78.8兆円の追加のマネタリーベースが必要となる。この場合、ドル=円レートは115円、インフレ率は3%程度と計算されるという。次がこの28.2兆円と78.8兆円を割り出したグラフだ。

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出典:本書187ページ

そうすることで日本は成長を取り戻して、円高とデフレから脱却することになる。

ところで、2013年4月の黒田・日銀の「異次元の金融緩和」で打ち出したのは、現在のマネタリーベースを倍にする、つまり138兆円から270兆円に増加させるものだ。安達さんの言うように、マッカラム・ルールを適用すると6%程度の成長になると思われる。

6%の成長が実現するかどうかわからないが、それだけアグレッシブな金融政策なのだ。


円高になると名目GDPは減少する

安達さんは、次の2003年以降のグラフを使って、円高になると名目GDPが減少すると説明している。

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出典:本書53ページ

なぜこうなるかというと、「輸出産業(と輸入品競合産業)の利益が減っていく負の効果」のほうが、「輸入産業の利益が増える正の効果」より大きいためだ。

円高で日本の賃金は対外的に割高となるので、企業の海外移転も増え、日本の雇用が失われる。


円高だと税収も減少

円高になると税収も減る。安達さんは次のグラフを使って示している。

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出典:本書 109ページ


「良い円高」論のウソ

安達さんは「良い円高」論者は、”何にとって”良いと言っているのか見極める必要があると語り、「良い円高論者」を次の3パターンに分類している。

1.「強い円」志向説 
たとえば2009年に亡くなった日本銀行元総裁の速水優さんの「強い円 強い経済」や「円が尊敬される日」などが代表的だ。

強い円 強い経済強い円 強い経済
著者:速水 優
東洋経済新報社(2005-02)
販売元:Amazon.co.jp

円が尊敬される日
著者:速水 優
東洋経済新報社(1995-12)
販売元:Amazon.co.jp

その一節を安達さんは引用している。

「各業界においても、円の価値が強いことが対外的な信認を得ることになる。(中略)日本の軍事力、外交力を補填する存在感、発言力は、通貨の強さから出てくるという事実を、過去の半世紀の動きで私は十分理解しているつもりである」。

出典:「強い円 強い経済」154ページ

以前紹介した榊原英資さんの「強い円は日本の国益」も同様の論旨だ。

強い円は日本の国益強い円は日本の国益
著者:榊原 英資
東洋経済新報社(2008-09-04)
販売元:Amazon.co.jp

2.通貨暴落のトラウマ説
変動相場の国では通貨危機は起こらない。だから通貨暴落は円には起こらない。

銀行法違反で有罪となった木村剛・元日本振興銀行会長が喧伝していた「キャピタルフライト」は起こらない、と安達さんは説く。

キャピタル・フライト 円が日本を見棄てるキャピタル・フライト 円が日本を見棄てる
著者:木村 剛
実業之日本社(2001-11)
販売元:Amazon.co.jp

ちなみに、このブログで木村剛さんに関する「日銀エリート 挫折と転落」のあらすじを紹介しているので、参照して欲しい。

日銀エリートの「挫折と転落」--木村剛「天、我に味方せず」日銀エリートの「挫折と転落」--木村剛「天、我に味方せず」
著者:有森 隆
講談社(2010-11-30)
販売元:Amazon.co.jp

3.「円高不況は乗り越えられる」という精神論
プラザ合意の後、日本は1985年の1ドル=235円から、1987年末の122円まで円高が続いても耐えられた。だから今回の円高も耐えられるという精神論。

しかし、安達さんは円相場は、1987年12月に122円になったのち反転し、1990年4月まで160円程度まで戻していたこと、原油価格が1980年の1バレル=40ドルから、1986年には8ドル以下まで急落していたことを指摘する。

日本人の努力もあったが、2012年末のような78円というような円相場が続いたわけではなく、原油値下がりによる恩恵もあったので、「たゆまぬ努力とコスト削減で円高不況を乗り越えた」という説は怪しい。


為替相場はマネタリーベースに連動

さらに安達さんは、ソロス・チャートを使って、2008年からの日米のマネタリーベースと、円の対ドル相場は、きれいに連動することを示している。

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出典:本書 124ページ

ソロス・チャートは1987年から2007年の20年で見ると、マネタリーベースと為替相場が連動しなかった時期が5年ほどある。2002年から2007年の時期だ。

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本書:128ページ

しかし、この時はマネタリーベースを増やすために日銀が銀行に無利子で預けても、銀行が産業界に貸し出しを増やさなかった。「インフレ予想」が起こらなかったため、産業界でも積極的な資金需要がなかったためだ。これを「超過準備」と呼ぶ。

ソロスチャートで、マネタリーバランス増加分から、「超過準備」の分を引くと、きれいに連動する。次が「修正ソロスチャート」だ。

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出典:本書 132ページ

修正ソロス・チャートが示すところは、「為替レートは、2国における将来の物価の予想の格差の変動によって動かされている」ということで、基本的にマネタリーベースの差であることがわかる。


「神の見えざる手」

この本の中で安達さんは、為替相場の成立する仕組みや、経済活動を動かす「予想インフレ率」のことを「神の見えざる手」と呼んでいる。

つまりみんながインフレを予想すれば、インフレとなり、通貨が安くなる。それが「見えざる手」のファンクションである。

これはアダム・スミスが「国富論」で「見えざる手」と評した「個人がバラバラの思惑で動いても、経済は不思議と一定の方向に動く仕組み」のことを指している。

筆者は、この「神の見えざる手」という言葉には抵抗がある。アダム・スミスの表現は「見えざる手」であり、”神の”という言葉はついていない。

安達さん以外にも「見えざる手」に”神の”という言葉をつける人は多い。筆者はそういう人には、「ちゃんと勉強しているのか?」という疑問を持たざるを得ない。

「国富論」は岩波文庫では4巻、日経出版のものは2巻の大作で、筆者の読んだ日経出版のものだと、上が430ページ、下が解説も入れて570ページで、合計でちょうど1,000ページある。

国富論〈1〉 (岩波文庫)国富論〈1〉 (岩波文庫)
著者:アダム スミス
岩波書店(2000-05-16)
販売元:Amazon.co.jp

国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究(上)国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究(上)
著者:アダム・スミス
日本経済新聞社出版局(2007-03-24)
販売元:Amazon.co.jp

実は、「見えざる手」は、日経出版だと下巻31ページに一度だけ出てくるだけだ。

このことは、このブログで紹介した「池上彰のやさしい経済学1」や、浜矩子さんの「新・国富論」などの本でも紹介されている通りだ。

池上彰のやさしい経済学―1 しくみがわかる池上彰のやさしい経済学―1 しくみがわかる
著者:池上 彰
日本経済新聞出版社(2012-03-24)
販売元:Amazon.co.jp

新・国富論 グローバル経済の教科書 (文春新書)新・国富論 グローバル経済の教科書 (文春新書)
著者:浜 矩子
文藝春秋(2012-12-17)
販売元:Amazon.co.jp

「国富論」のあらすじはまだ紹介していないが、当時の「重商主義」を批判した本ゆえ、古臭い部分もある。

筆者も長年手を付けていなかったが、日経出版のものが2007年に出たので、いいきっかけと思って、読んでみただけなので、偉そうなことはいえない。

けれども、”神の”をつけている人がいると、経済アナリストといえども、アダム・スミスを、ちゃんと読んでいない人もいるのではないかと疑ってしまう。

ともあれ、全体の論旨としては明快で、浜田宏一教授が推薦書として取り上げていることでもわかるとおり、現在の「アベノミクス」に沿った見解で、参考になった。


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Posted by yaori at 23:41│Comments(0)TrackBack(0) 経済 | ビジネス

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