
著者:朝日新聞いいひと賞選考委員会
講談社(2010-03-26)
販売元:Amazon.co.jp
朝日新聞朝刊2面に、ほぼ毎日掲載されている名物コラムの「ひと」から、その月の最優秀作を集めた本。
以前紹介した「作文の技術」で、著者の外岡秀俊さんが、「ひと」から、よくできた作文例として連続20回以上TOEIC満点を達成し、ひきこもりから英語教師となった海外旅行経験ゼロの「イングリッシュ・モンスター」さんなどのコラムを紹介していたので、興味を惹かれて読んでみた。

著者:菊池健彦
泰文堂(2011-07-15)
販売元:Amazon.co.jp
「いいひと賞」は、「ひと」コラムで、その月の最優秀作を書いた記者に送られる賞だ。
選考委員会のメンバーは、座長がシニアライターで政治記者経験が長い早野透・コラムニスト。紙面委員が司会をして、政治、経済、社会・地域報道、国際報道、生活、科学医療、スポーツ、文化、BE編集、編集センター、校閲センターの11グループのデスクたち(おおむね40代なかば)の13人。
事前に推薦作品をだし、委員会ではそれぞれが推薦理由を話す。
「いいひと賞」選考基準
選考基準は次のようなものだという。
1.書き出しは魅力的か(定型すぎないか?奇をてらいすぎていないか?)
2.取り上げた人物の本質が読者に伝わるエピソードがふんだんに盛り込まれているか
3.文章にテンポがあるか
4.業界用語のような、やたら難しい言葉をしたり顔で使っていないか
5.いちいち前に戻って確認しなければならないような引っかかりはないか
6.締めに余韻が残っているか
7.取り上げた人物は旬のひとか
8.いやに誉め過ぎていないか
心を打つ「いいひと」は一人も登場しない
この本の構成は次のようになっている。
いいひと賞 2009年1〜12月
いいひと賞 2007年1月〜2008年12月
いいひと賞 2005年1月〜2006年12月
いい文賞 2009年1月〜12月
原稿用紙2枚くらいの短いコラムで、スペースが限られていることもあるが、この本を見て、どれも画一的な「つくり」となっているという印象を受けた。
「いい人」を事務的に紹介しているような印象だ。
筆者は読んで感動するような「いいひと」を期待していたのだが、はっきり言って、心を打つ「いいひと」は一人も登場しない。
もしこのような作品に「いいひと賞」が与えられているのなら、単に記者の職業訓練のための賞ではないかという気がする。
いい文章のために深代惇郎さんを研究
最近、「いい文章」の研究のために、朝日新聞で名文家と言われた深代惇郎(ふかしろじゅんろう)さんの「旅立つ」や、追悼作品の「記者ふたり世界の街角から」を読んでみた。
旅立つ (1981年)
著者:深代 惇郎
ダイヤモンド社(1981-11)
販売元:Amazon.co.jp

著者:深代 惇郎
朝日新聞社(1985-04)
販売元:Amazon.co.jp
そのなかで「作文の技術」でも頻繁に登場する朝日新聞の名文記者・疋田桂一郎さんの発言が紹介されている。
疋田さんが、記者仲間の集まりで、「長い間、上手い文を書こう、いい文章を書こうと思ってやってきたが、このごろ、そういう自分がいやだね。」と言っていたという。
深代さんは「あのときの話、このごろよく解るよ。」と言っていたという。
これを読んで、筆者はわかったような気がする。
文章は読者に著者の思いや感動を伝えることが、目的ではないのか?
朝日新聞の記者は「いいひと」を「いい文」で、きれいに描こうとするあまり、基本のところ、つまり相手に感動を与えることを忘れているのではないかと思う。
こんなことなら、しろうとが書いた文でも、思いのたけを込めて書けば、新聞記者が書いた事務的なコラムより、よっぽど感動を与えるのではないかと思う。
心を打つ「いい文賞」作品
もちろん原稿用紙2枚という制限があることも、きれいにまとめた文章ばかりになる原因だろう。その証拠に、この本の「いい文賞」の部分の作品は、感動を与えたり、なるほどと納得する作品がある。
たとえば、次のような作品だ。
★兄の形見「ぼく使う」阪神大震災から13年たったランドセル「ぼろくてもいいねん」
★ホームレス歌人さん、連絡求ム 昨年末、朝日歌壇に 経歴一切不明 ほぼ毎週入選
★(文化特捜隊)ピアノ入門でバイエル離れ
★つらい思い 詠んで忘れる 「朝日歌壇」に投稿して半世紀、福岡の大塚さん
★(週刊首都圏)結婚式に「親友」も派遣 代役ビジネスが人気
ノンフィクションライターの野村進さんがスゴイ
「いい文章」の研究では、次に紹介するフリーランスのノンフィクションライター・野村進さんの「調べる技術・書く技術」には感動した。

著者:野村 進
講談社(2008-04-18)
販売元:Amazon.co.jp
例文として紹介されている「歌舞伎俳優・市川笑也(えみや) 大部屋の『玉三郎二世』」や、5人の中学生の集団自殺を取り上げた「五人の少女はなぜ飛び降りたか」を読んでみたら、「いいひと賞」で取り上げられている話など、ぶっとんでしまう。
「心」がこもった文とはどういうものか、考えさせられるとことが多かった本である。
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