2013年05月13日

隣の国の真実 知っているようで知らない北朝鮮と韓国の現状

隣りの国の真実 韓国・北朝鮮篇隣りの国の真実 韓国・北朝鮮篇
著者:高安雄一
日経BP社(2012-11-22)
販売元:Amazon.co.jp


日経ビジネスオンラインで「知られざる韓国経済」「茶飲み話ではない北朝鮮」として2011年末から2012年初めまで不定期に掲載されていたシリーズものが本になった。

著者の高安雄一さんは、大東文化大学教授。1990年に当時の経済企画庁に入省し、韓国の日本大使館に3年間駐在した経験がある。

この本では韓国経済の基礎知識と、補足として北朝鮮についての統計データを紹介している。

筆者自身も両国に対する基礎知識は断片的だったので、知識拡充に役立った。

たとえば朴槿恵大統領の伝記を紹介した時に、朴正熙元大統領の20年間で韓国と北朝鮮のGDPは逆転したと書いたが、北朝鮮のGDPがそもそもなぜ韓国より高かったのかは知らなかった。

その疑問がこの本を読んで解けた。北朝鮮は第2次世界大戦後ずっとソ連や中国などの共産圏諸国の援助を受けており、これらの無償援助がGDPの多くの部分を占めていたのだ。

たとえば1945〜1960年のソ連や中国の北朝鮮への援助額は18.5憶ドルだった。ところが、中ソ対立で北朝鮮が中国寄りの立場をとったことから、ソ連からの援助は打ち切られ、中国も文化大革命による内紛や援助余力がなかったことから、1961〜1970年には援助額は3.8憶ドルに激減した。

「ガリオア・エロア資金」として知られる米国からの対日復興援助は、1946〜1951年の6年間で18億ドルだった。

国の規模を考えれば、日本の3億ドル/年に対し、北朝鮮の1.2億ドル/年は、優遇といえるだろう。

これが北朝鮮の一人当たりGDPが1950年代の4,000ドル前後から毎年減少し、2010年には推定1,073ドルにまで減少した原因だ。一方、韓国は1950年代は見るべき産業は農業くらいしかなかったが、朴正熙大統領が主導した「漢江の奇跡」により500ドル台から、2010年には20,756ドルと急増して現在に至っている。

現在北朝鮮の一人当たりGDPは世界第144位で、カメルーン、パキスタン、ラオスなどと一緒の下位グループにいる。


北朝鮮の統計

北朝鮮の統計は公式に発表されたものが少ないが、一人当たりGDPが低い割には識字率は100%と高い。

平均寿命は69.3歳で、韓国の79歳に比べて低いが、世界的には中ぐらいに位置する。ただし、幼児死亡率は2.6%と世界117位にとどまっている。ちなみに日本の幼児死亡率は0.2%で世界最低で、韓国は0.4%と世界20位である。


韓国のFTA締結状況

韓国は次の諸国・地域とFTAを締結している。
EU,米国、ASEAN,EFTA(欧州自由貿易連合)、インド、チリ、シンガポール、ペルーの8カ国・地域

現在FTA交渉中なのは、ニュージーランド、オーストラリア、カナダ、メキシコ、GCC,コロンビア、トルコの7件で、日本とはFTA交渉が中断したままとなっている。

よく言われるように韓国の輸出依存度は高い。GDPに占める輸出の割合は韓国では50%近く、15%の日本とは比べ物にならないくらい高いので、輸出が韓国の成長の源であることは国民共通の認識となっている。


農民票の影響度

総人口に占める農民の割合は、日本の5.5%に対して6.4%だ。しかし国民の直接投票によって選ばれる大統領が強大な権限を持っていることや、選挙制度が小選挙区制に基づく一院制で、農民の多い地区は限られていることから、FTAに反対する農業団体の声がマジョリティになりにくい構造がある。

もっともFTA締結のために農業部門を切り捨てているわけではない。農業部門への補助金は莫大なもので、コメの関税化も当初2004年とされていたものを、FTA再交渉で2014年に遅らせている。

しかし、輸出が韓国成長の源なので、韓国政府はTVコマーシャルなどで、「日本が先を走っていきます。中国が先を走っていきます。(中略)より大きな世界に進むための私たちの選択、米韓FTA。…」というような刺激的な言葉で、国民にアピールし、今では国民の過半数がFTA推進を肯定している。

いくつか印象に残った点を要点だけ紹介しておく。

★韓国の財政は健全
韓国の財政は健全で、1988年に導入された国民年金制度は積み立て段階で、まだ支払いが始まっていないこともあり、国家財政は黒字だ。

GDPに対する国家債務比率は33%、それも半分以上の債務が対応資産があるものなので、これらを除くと純債務はGDPの16%程度にとどまる。

1997年の韓国の通貨危機は、財政の赤字が問題ではなく、国際収支の赤字と外貨準備不足によりもたらされたものだ。

★韓国の税率は日本より低い
韓国の税率は日本より低い。1975年には所得税率8〜70%だったが、現在は6〜35%の4段階に下がった。

法人税も20〜40%だったものが、現在は10%と22%の2段階に簡略化されている。付加価値税は1977年の導入以来10%で変わりない。

政府のクレジットカード普及策により法人所得の捕捉率が上がったことも、経済成長と並んで、税率を低く抑えられている原因に挙げられている。

★韓国の予算に占める福祉関係支出は少ない
韓国の予算に占める福祉関係支出はまだ少ないことも均衡財政が保てる理由の一つだ。韓国の65歳以上の高齢者比率は11%で、OECD諸国の間でも低い。

国民皆年金となったのは1999年と日が浅いので、年金をもらえない高齢者には2008年から国家予算から対象者に年金が支給されるが、これは経過的な措置で、いずれ減少が見込まれる。

★医療保険は高齢者への配慮なし
医療保険では日本の健康保険のように、一般は30%だが、高齢者負担が70歳以上20%、75歳以上10%と減る制度ではなく、おおむね同じである。

年間の医療費自己負担額の最高額が決まっており、これを超えると国民健康保険公団が補てんしてくれる制度がある。

介護保険は2008年からスタートしたばかりで、負担も低水準だ。儒教精神で高齢者は家族が看護するという伝統があるせいもあるが、世界でも類のないスピードで高齢化が進む韓国で、このような低負担が将来も続けられるのかは疑問があるところだ。

★外国人労働者は50万人
外国人労働者は現在50万人いて、労働力不足解消に貢献している。

★高い大学進学率
日本の54%に対して79%と高い大学進学率が、これは専修大学(2〜3年)への進学率も含んでおり、実質の4年制大学の比較では日本より若干高い程度である(同じ専修学校も含む基準だと日本は約70%)。

★地方大学よりもソウルの大学
大学は序列化が激しく、ソウルの大学、トップはSKY(ソウル大学、高麗大学、延世大学)が占めており、高学歴は就職等にも有利な現状を反映している。地方大学よりもソウルの大学、専修大学よりも4年制大学の希望が高い。

個別の大学入試はなく、「大学就学能力試験」に一本化されている。国家公務員上級職試験の合格者からみた大学のランキングは次の通りだ。

scanner517













出典:本書

★逆単身赴任(キロギアッパ)
「キロギアッパ」という言葉は、海外留学している子どもに一緒に妻がついていっているんで、夫は韓国に残って、時々子ども・妻を訪問するという、逆単身赴任に近い韓国特有の言葉だ。小学生8、000人、中学生6、000人、高校生4、000人が6か月以上の海外留学中だという。

★大学生の就職難
大学生の数は増えているが、企業の新卒者採用は逆に減少している。これが韓国の大学生の就職難につながっている。

1996年の企業の新卒者に占める転職者の比率は34%だったのが、2002年には82%となっている。このため新卒者に占める非正規雇用者率は4割を超えている。

★兵役義務
男性国民は21か月の兵役義務を負っている。企業は兵役義務を終えたものという条件を課すところが多いので、大学生の間に兵役を果たす人が多く、休学者の90%以上が兵役である。2年から3年間休学する人が多い。

★ウォンはリスク資産
韓国政府の財政状態は健全だが、外債残高に対する外貨準備高が不足していた。そのため1997年1月に中堅財閥の韓宝が破たんしたことがきっかけとなって財閥の連鎖倒産が起こり、金融会社の不良債権が積み上がった。

返済能力に不安を感じた海外の貸し手が、短期貸出のロールオーバーを拒否して、資金の返済を迫ったことから、外貨準備不足でIMFの支援を仰いだ。

通貨危機を契機として、1997年末からは韓国は完全変動相場制となった。ウォンは地政学的リスクがあるので、ハイリスク資産と見なされている。それが、韓国の景気が良くても、ウォンが高くならない理由である。

★韓国の電気料金は格安
韓国の電気料金は国際的にも格安で、日本の4割程度となっている。これは割高な重油発電が1981年の79%から2009年には3%にまで激減し、かわりに割安な石炭火力が45%、原子力が34%と転換が進んだことが理由だ。原子力発電所は20カ所ある。

★韓国の年金制度
韓国の年金制度は1988年に国民年金制度が導入されたが、当初は対象が10名以上の事業所で雇用されている人に限られており、1999年に国民皆年金となった。

このためまだ年金の支給が本格的に始まっていないため、退職世代の格差は大きい。所得格差を示すジニ係数で見ると、日本の退職世代のジニ係数は0.34に対し、韓国は0.4となっている。

韓国の年金は「高齢者に厳しい」年金となっており、最低の10年間年金を払った人への支給額は月8千円程度と低い。

40年間年金を支払った人への所得代替率(現役世代の何割の年金がもらえるかの比率)は日本の50%に対して韓国は40%と低い。

もっとも年金制度のスタートが1988年なので、年金を満額貰える人がでてくるのは2028年以降となる。

出生率は2005年は1.08%で日本よりも低いことを考えると、現在は税金を投入しない純粋保険料方式となっているが、将来的にこれが維持できるかどうかは疑問が残る。


知っているようで知らない韓国と北朝鮮の現状がおさらいできて参考になった。

このあらすじを参考にして、日経ビジネスオンラインの「知られざる韓国経済」「茶飲み話ではない北朝鮮」の高安さんの記事もチェックしてみることをお勧めする。


参考になれば投票ボタンをクリック願いたい。


>



Posted by yaori at 12:51│Comments(0)TrackBack(0) 韓国 | 政治・外交

この記事へのトラックバックURL