2013年05月06日

売れる作家の全技術 大沢在昌の小説講座 懇切丁寧な指導が光る

+++今回のあらすじは長いです+++

小説講座 売れる作家の全技術  デビューだけで満足してはいけない小説講座 売れる作家の全技術 デビューだけで満足してはいけない
著者:大沢 在昌
角川書店(角川グループパブリッシング)(2012-08-01)
販売元:Amazon.co.jp

「新宿鮫」シリーズなどの刑事小説の大御所・大沢在昌が、角川書店の「小説 野生時代」の企画で、12人の「どうしてもプロになりたい」という小説家志望者に対して1年間続けた「小説家講座」の講義録。


筆者が最近、人に勧めている本のナンバーワン

筆者は、年間250−300冊のペースで本を読んでいるので、「最近読んだ面白い本を教えてくれ」と聞かれることが多い。そんな時に、最近、筆者が勧めているのがこの本だ。

もっとも、この本を勧めると、「別に小説家になりたいわけではないので…」というような反応を示す人がいるが、この本は小説家志望の人向けだけに書かれたものではない。

一般読者には、「作家はこんな風に考えて、こんなテクニックを使って小説を書いているのか」ということがわかり、かえって小説を読む楽しみが増すと思う。

また、この本で紹介されている小説のいくつかは本当に面白い。たとえば直木賞を受賞した朝井リョウの「桐島、部活やめるってよ」や、三崎亜紀の「となり町戦争」などは大変面白い小説である。


「名前は知っているけど、読まないと決めた作家」という壁

大沢在昌は、長くやってきて知名度も高くなった作家ほど「名前は知っているけど、読まないと決めた作家」という壁にぶち当たると語る。

だから「ほぼ日」で「新宿鮫」の最新シリーズを連載したりして、新しい試みで、その壁を突破しようとしているのだという。

実は、筆者も、この本をきっかけとして大沢在昌の「新宿鮫」シリーズなどの作品を読んでみた。

新宿鮫 (光文社文庫)新宿鮫 (光文社文庫)
著者:大沢 在昌
光文社(1997-08)
販売元:Amazon.co.jp

大沢在昌は、筆者が「読まないと決めた作家」の一人だった。筆者は元々刑事ものには興味がない。もし、この本を読まなかったら、大沢在昌の作品は読むことはなかっただろう。


「デビューだけで満足してはいけない」

この本を読むと、アマチュア相手に、これだけ懇切丁寧に、愛情をこめて指導している大沢在昌自身に興味を惹かれる。講義の最後には、受講生12人すべての作品を読み、一人ひとりへのアドバイスを与えている。

受講生はすべて動物の名前で、「ネコ」とか「イルカ」とかになっている。将来世に出た際に、この小説講座を受講していたことがマイナスの評価にならないために、仮名にしたという。すごい思い入れだ。

サブタイトルは「デビューだけで満足してはいけない」。

大沢在昌自身がまさに、「デビューだけして全く売れなかった作家」だったから、指導にも熱が入っているのだと思う。

大沢在昌は23歳でデビューして、11年間全く本が売れなかった。28冊の本が、すべて初版どまりで「永久初版作家」と呼ばれたという。それでもなんとか食えたのは、出版業界が今とは比べものにならないほど豊かで、気の長い編集者が育ててくれたからだと。

28冊、毎回、「これでどうだ」、「これじゃ駄目か」、「それならこうしてやる」と手を変え品を変え、他人の作品はもちろん、映画や漫画からも、おもしろい話を作るメソッドを盗もうとしていたが、売れなかった。

29冊目の本の「新宿鮫」がヒットし、その後文学賞をいくつか受賞したこともあって、いまは大きな顔をしているが、1作のヒットで一生食えることなどありえない。むしろそのヒット作を上回るものを作らないと、「あの人はあれで終わったな」と言われてしまう。

作家に安全確実なポジションなどない。過去の成功は過去でしかない。いつも今書いている作品、これから書く作品を問われるのだ。

講義の最後の大沢在昌の言葉は次の通りだ。

「自分を苦しめ、追い詰めて、これ以上ないと思った、さらにその先があると信じて書くこと。

100パーセントの力を出し切って書けば、次は120パーセントのものが書けるし、限界ぎりぎりまで書いた人にしか次のドアを開けることはできません。それを超えた人間だけがプロの世界で生き残っているんです」。


驚かされるプロの作家の読書量

大沢在昌の読書量はハンパではない。最も読んだときは高校2年生の時で、毎日3冊ずつ図書館の棚の端から端まで読んで、1年間で1,000冊読んだという。

作家になるまでも毎年500〜1,000冊、スタンダードなミステリーはもちろん、新しい作家のものや優れたノンフィクションも読んだ。

いろんな作家の本を読むことによって、経験したことのないことにに対する知識や、小説の勘どころみたいなものが身に付くのだと。

ミステリーを書こうとする人には、基礎知識が絶対必要で、「本格推理小説」でも「ハードボイルド」でも、古今東西の名作、古典は一通り読んでいなければならない。本格推理小説にはトリックの知識、警察小説には警察の知識が不可欠だ。

最低でも1,000冊は読んでからでないと、ミステリーの賞に応募することはできないと。

今回の受講者12人には、それほどの読書家はいないようで、大沢在昌は、ことあるごとに作家にとっての読書の重要性を強調している。

「プロの作家がどれだけ多くの本を読んでいるかを知ったら、おそらくびっくりするでしょう。みんなたくさん読んできているし、今現在も読み続けています。

そんな人たちの中に殴り込んでいって自分が名を成そうとするならば、その人たちより少ない読書量、少ない引き出しでは絶対に勝てるわけがない」。

「『本を読むのは嫌だけど書きたい』という人は作家などやめたほうがいい」。

筆者は別に小説家になろうとは思わないが、我が意を得たりという気がすると同時に、「年間300冊でもまだ少ないんだ」、と思う。

先日紹介した「海賊とよばれた男」の最後に参考文献が載っていた。出光佐三や出光興産に関する本ばかり、50冊ほど紹介されているのに驚いた。

やはり、あれだけの本を書くには相当な読書と研究が必要なのだと思う。

大沢在昌は、この本の最後に卒業制作として長編小説を課題に出している。その準備に関して、「準備期間5か月のうち、3か月を材料の仕入れやプロットを考えることに使い、2か月を書くことに使うこと」を勧めている。膨大な読書を含む準備が、いかに重要なのかがよくわかる。


この本の構成

大沢在昌が1年間、毎月続けた講義は、10回が講義、2回が受講者の作品講評という構成となっている。

この本の目次を見ると、毎回10程度取り上げられている講義ポイントがわかる。よくできた目次なので、まずは本屋で目次をパラパラめくってみることをお勧めする。

この本はアマゾンの「なか見!検索」に対応していないので、「なんちゃってなか見!検索」で、目次の一部を抜粋して紹介しておく。どんな感じか、わかると思う。(カッコ)内は特記事項だ。

第一部 講義
第1回 作家で食うとはどういうことか

   ・作家デビューの方法
   ・偏差値の高い新人賞を狙え
   ・作家の財布事情
   ・縮小する出版市場
   ・作家になるために大切な四つのポイント
   ・作家のモチベーション
質疑応答
   ・デビュー前にどれくらい書いていたのか?
   ・無理してでも決めた枚数を書くべきなのか?
   ・途中で駄作だと感じても最後まで書くべきか?

第2回 一人称の書き方を習得する 
   ・3つのハードルを克服しろ
(3つのハードルとは、1.視点の乱れをなくす、2.限定された視点でどこまで読者に情報を提供し、物語を形作れるか、3.視点人物、つまり語り手である「私」や「僕」や「俺」の個性をどれだけ読者に伝えられるか)
   ・「出す」だけでなく、「入れる」ことも忘れない(ネタを常に探し、アイデア帳を身近に置いておき、常に人間観察するなど)

質疑応答
   ・どうすれば嫌な人物を描けるか?
   ・実体験を作品に反映させることはあるのか?
   ・いいタイトルをつける秘訣は?

第3回 強いキャラクターの作り方 
   ・キャラクターがストーリーを支える
   ・キャラクターには登場する理由がある
   ・細部を細かく作り上げていく(「スタニスラフスキー・システム」)
   ・主人公に変化のない物語は人を動かさない(ストーリーが登場人物を変化させ、その過程に読者は感情移入する)
   ・人間観察からすべてが始まる(水商売の女性は靴を見てお客を見極める)
   ・ミステリーには基礎知識が必要
質疑応答
   ・名探偵は主人公なのに物語の中で変化しないのでは? 
   ・アマチュアでも取材は可能か?

第4回 会話文の秘密
   ・「実際の会話」と「小説の会話」は違う
   ・キャラクターにふさわしい会話
   ・なぜ「隠す会話」が必要か
   ・効果的な会話のテクニック
   ・決定的なセリフにたどり着け
質疑応答
   ・「神の視点」と視点の乱れの違いは?

第5回 プロットの作り方
   ・どんな楽しみを提供するかを意識する
   ・「謎」の扱いがプロット作りのカギ
質疑応答 
   ・どうすればプロットをうまく使えるようになるか?
   ・作品内のタイムテーブルは作るべきか?

第6回 小説には「トゲ」が必要だ
   ・面白い物語を書くには
   ・最も強い武器を伸ばせ
   ・面白い物語とは何か(自分が書くものは必ず面白いはずだと信じる)
   ・主人公を残酷な目に遭わせろ(主人公に残酷な物語は面白い)
   ・小説の「トゲ」とは何か(読み終えたあと、読者の心の中にさざ波を起こすような何か)
質疑応答
   ・こぢんまりした作品になってしまうのはなぜ?
   ・古典の引用で注意すべきことは?(「フランケンシュタイン」と「マイ・フェア・レディ」は実は同じ話)
   ・小説に実在の人物名を使ってもよいか?
   ・物語のカタルシスには何が必要か?(死ぬほど考えるしかない)
   ・漢字はどの程度使うべきか?
 
第7回 文章と描写を磨け
   ・文章にリズムを持たせろ
   ・正確な文章を書け
   ・「8割感情、2割冷静」で書く
   ・人物をひと言で表現しろ
   ・描写の3要素(「場所」、「人物」、「雰囲気」)
   ・擬音、オノマトペ、外来語
   ・日本文学と海外文学の違い(最小限の言葉で最大限の情報を伝達するスキル)
   ・改行のテクニック(改行は、文章のリズムを作るうえでの数少ないテクニック)
質疑応答
   ・「副詞はなるべく入れるな」は正しい?(読んでいて心地よい文章かどうか)
   ・推敲の方法(その日の仕事を始める前に、必ず前回書いた文を読み返す)

第8回 長編に挑む
   ・設計図と分量配分
   ・冒頭シーンは何度も書き直せ(「新宿鮫」の冒頭シーンの解説)
   ・主人公を印象づけろ
   ・強いキャラクターを複数つくる(「新宿鮫」の「ロケットおっぱいのロッカーの晶」、「まんじゅう(死人)の上司・桃井」)
   ・中だるみを防ぐには謎を解け
   ・一つ目の謎を解き、新たな謎を作る
   ・クライマックスは二度用意する
   ・自分を遊ばせてあげよう(「生きた会話」が書けたのは、私自身、楽しんで書いていたから)
   ・推敲まで作品を寝かせる(時間をあけることによって、あたかも他人の文章を読むように自分の文章を読み返すことができる)
   ・描写に困ったときの虎の巻(「天・地・人・動(動物)・植(植物)」)
   ・読者はMで、作者はS(主人公に対しても読者に対しても、作者は意地悪にならなければならない)
   ・強いタイトルを考えろ
編集者から長編小説への注文 
   ・読者を楽しませる、サービスしてあげるという気持ちは絶対に必要
   ・冒頭の10〜20枚で読者を引き込むように書く
   ・読者を冷静にさせてはいけない
   ・どうすれば読者をもう一度水中深く引っ張り込むことができるのか?
   ・何枚かに1回は山場をつくる、「引き」をつくるという意識を持つ
   ・小さな謎をちりばめておいて、それをところどころで解決していくことで読者を引っ張り続ける
   ・時代の空気を取り入れろ
質疑応答
   ・短編向きのテーマ、長編向きのテーマとは?
   ・思いついたことは作品にすべて注ぎ込むか?
   ・知らない世界をどう描くか?
   ・冒頭から順番に書くべきか?(成功している小説は、おそらく頭から順番に書かれたもの)

第9回 強い感情を描く
   ・面白い物語を作る技術は教えられない
(アイデアの出ない人はプロになれないし、万一プロになれたとしても、もたない)
   ・「作家になりたい」という人生は続く
(とにかく本をたくさん読むこと。それ以外にない。自分の中の蓄積、引き出しが少なすぎる)
   ・作家としての人生もいろいろある
(読むことが好きで好きで読み過ぎて、そこから今度は書きたいという気持ちに転換した、そういう自分を自覚している人でなければ作家にはなれない)
   ・回り道を恐れるな
(プロになっても、引き出しが少ないために苦労している人は実はたくさんいる。書く時間よりも読む時間をはるかに多く持ち、どんどん読んで、どんどん引き出しを増やして、アイデアを膨らましている人が作家を目指している)
  ・足りないものをどう埋めていくか(結局、「才能がなければダメですよ」)
  ・技術は教えられるが才能は教えられない(アイデアが出せなければ、作家になる才能がない。とにかく頭をひねることに尽きる)
質疑応答 
  ・ラストから逆算して書いてもよいか?(人間を駒にしてしまう危険性がある)

第10回 デビュー後にどう生き残るか
  ・プロ小説家の心得(専業か兼業か)
  ・編集者とのつき合い方(「頼りすぎずに頼ること」)
  ・作家同士のつき合い方(北方謙三とのつき合いを紹介している)
  ・パーティに出よう
  ・仕事の依頼は断るな(締切厳守で書くこと)
  ・読者は大切なお客様である(横柄に振る舞うような人は最悪)
  ・出版界の厳しい現実
(直木賞作家でも初版1万部という人がたくさんいる。文庫書き下ろしは約60万円の収入で終わり。それでも文庫書き下ろしの仕事をしている作家は多い)
  ・本を作る仕事は出版社にとって先行投資(一人でも売れる作家が出てくれば元が取れる)
  ・マスメディアとのつき合い方(テレビでよく見る作家で、ちゃんと小説も書いているという人はとても少ない)
  ・「先生」とは呼ばせるな
  ・インターネットの評価は気にするな
  ・デビュー後の5冊が勝負(受賞第1作がダメならば、この作家はダメとなる)
  ・直木賞ぐらいでおたおたするな(直木賞を取ることにエネルギーを使い果たして、燃え尽き症候群になってしまう)
質疑応答
  ・持ち込みでのデビューは可能か?
  ・一般のエンターテインメント小説で「偏差値の高い」新人賞は?
  ・自分にはこれしか書けないというものに対して、愚直なまでに信じて書く
  ・新人賞への挑戦は何回くらい(3回から5回くらい)

第二部 受講生作品講評
課題は次の4つだ。それぞれのテーマにつき9人前後の受講生の作品のあらすじが紹介され、大沢在昌が論評している。

A ラストで「ひっくり返す」物語を書く(原稿用紙40枚)

B 「自分の書きたい世界」を書く(原稿用紙50枚)

C テーマ競作「バラ」と「古い建物」を入れた物語を書く(原稿用紙40枚)

D テーマ競作「恐怖」の感情を書く(原稿用紙30枚


本当に小説家を目指す人には、作品のどのような点が、どう評価されるのかわかるので、大変参考になると思う。「人のふり見てわがふり治せ」という言葉がある。第二部の受講生作品講評も、しろうとの作文とバカにせずに、じっくり読むと、大変参考になる。

この本には収録されていないが、最後に「卒業制作」としてテーマは自由で、原稿用紙250枚から400枚くらいの長編小説が課題として出されている。締切は約5か月で、良い作品があれば角川書店から単行本として出版されることになる。


以上、目次の補足のようなあらすじとなったが、これでも全部の目次の半分程度である。いかに講義の内容が濃いか、わかると思う。

冒頭に記したように、筆者が最近、他人に進めている本のナンバーワンだ。こんな本は、いままで読んだことがない。大沢在昌のパイオニア精神、後輩を育てようとする真摯な姿勢には感心する。

実に様々な味わい方がある本である。


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Posted by yaori at 10:07│Comments(0)TrackBack(0)趣味・生活に役立つ情報 | 小説

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