2013年07月13日

この金融政策が日本経済を救う 高橋洋一さんの金融政策入門書

この金融政策が日本経済を救う (光文社新書)この金融政策が日本経済を救う (光文社新書) [新書]
著者:高橋洋一
出版:光文社
(2008-12-16)

リーマンショック直後の2008年末に出版された嘉悦大学教授・元財務官僚の高橋洋一さんの「世界一簡単な金融政策の入門書」。これが現在のアベノミクスのベースとなっている。

このブログでは高橋洋一さんの最近著の2013年3月に出版された「アベノミクスで日本経済大躍進がやってくる」と2012年末に出版された「日本経済の真相」のあらすじを紹介している。

アベノミクスで日本経済大躍進がやってくる (現代ビジネスブック)アベノミクスで日本経済大躍進がやってくる (現代ビジネスブック) [単行本(ソフトカバー)]
著者:高橋 洋一
出版:講談社
(2013-03-28)

日本経済の真相日本経済の真相 [単行本(ソフトカバー)]
著者:高橋 洋一
出版:中経出版
(2012-02-15)

イェール大学の浜田宏一名誉教授も、「アメリカは日本経済の復活を知っている」で、この本を推薦書として挙げている。

アメリカは日本経済の復活を知っているアメリカは日本経済の復活を知っている [単行本]
著者:浜田 宏一
出版:講談社
(2012-12-19)


高橋教授の論点を整理すると次の通りだ。

日本の景気は2007年中ごろから後退しているが、これはサブプライムローンの影響ではない。日銀が2006年から2007年にかけて金融引き締め策を打ち出したからだ。

市場に資金供給を減らしたから、日本は景気後退に陥り、日本株は暴落した、。サブプライムローンから最も縁遠い日本が、最も激しい景気後退に襲われたのだ。

日銀が金融政策を誤り、市場に資金供給を減らしたからだ。

日銀のホームページの「にちぎん☆キッズ」という子供向けのコーナーには次のように書いてある。

「デフレのとき、日本銀行は、銀行などの手持ちのお金をふやすそうさをします。
インフレのときや、インフレになりそうなとき、日本銀行は、銀行などの手持ちのお金をへらすそうさをします」。

昔は、公定歩合の上げ下げが金融政策の基本だったが、現在は「公定歩合」という呼び名すらなくなっている。現在の金融政策の中心ツールは、公開市場操作だ。

つまり、日銀が銀行から国債やREITなどを買い上げて、銀行に資金を振り込む。その資金を銀行は融資に回すのだ。


名目金利と実質金利

日銀や世界の中央銀行は、長い間ゼロ金利政策を続けてきた。これ以上は金利では打つ手がないように思えるが、そうではない。名目金利はゼロ以下には下げられないが、実質金利はいくらでも下げられるので、実質金利を下げればよいのだ。

国民の物価上昇率予想に働きかけ、予想がプラス2%のインフレ予想であれば、ゼロ金利なら実質マイナス2%の金利となる。企業は積極的に設備投資を行って、不況から脱出できるのだ。

逆にデフレで、毎年1%づつ物価が下落していれば、ゼロ金利だとプラス1%の金利がついているのと同じになる。つまり1%の金利で資金を借りると、それは実質2%の金利がかかることになる。だから企業の設備投資が盛り上がらないのだ。

このインフレ予想に働きかけるのが量的緩和策だ。


量的緩和

日銀は紙幣を印刷して、民間銀行が持っている国債などを買い取り、民間銀行の当座預金残高を増やす。民間銀行はそのお金を企業の設備投資資金等に貸し出す。紙幣の発行益は、シニョレッジと呼ばれ、国庫納付金として財政収入となる。

早い話が、紙幣をたくさん刷れば、インフレになるというのと同じだ。

日本では財政政策でなく、公共投資で景気回復するという論陣を張るエコノミストが多いが、高橋さんは、ノーベル経済学賞受賞者の「マンデル・フレミング理論」を紹介し、変動為替相場制のもとでは、公共投資の効果が輸出減、輸入増で海外に流出してしまうので、理論的には財政政策の効果はないと説く。


大恐慌からの脱出は金融政策がカギだった

大恐慌からの脱出は、ニューディール政策による公共投資でなく、金融政策がカギであったと最近の大恐慌研究では明らかになっている。

「オズの魔法使い」は19世紀末のアメリカの金融政策からヒントを得ているという。OZは金の単位のオンスの略号で、ドロシーは伝統的なアメリカ人の価値観、カカシは農民、ブリキのきこりは産業資本、ライオンは民主党のブライアン候補だという。

高橋さんは大蔵省の新人研修で、「男子の本懐」を読んで感想文を書けという問題に対して、高橋さんはなぜ世界大恐慌のなかで、浜口雄幸と井上準之助が金解禁を行ったのか理解できなくて感想文を書けなかったという。

男子の本懐 (新潮文庫)男子の本懐 (新潮文庫) [文庫]
著者:城山 三郎
出版:新潮社
(1983-11)

世界のどの国でも金本位制は放棄され、現在に至っている。本来愚策の金解禁のはずが、「男子の本懐」では美談に仕立てられている。

この疑問が解消したのは、留学先のプリンストン大学でバーナンキの「大恐慌論文集」を読んでからだという。

世界恐慌は金本位制によって発生して伝播した。大恐慌から脱出するためには、金本位制を捨て、金融緩和をすることが必要だった。金本位制を維持した国は十分な金融緩和ができず、デフレから抜け出せなかった。金本位制を放棄した国は自由に金融緩和ができて、すぐに抜け出せた。

大恐慌論大恐慌論
著者:ベン・S・バーナンキ
日本経済新聞出版社(2013-03-26)
販売元:Amazon.co.jp


大恐慌研究の世界的権威のバーナンキは、政府が国債を大量に発行し、日銀が国債を購入するという高橋是清の政策を高く評価していたという。これが大恐慌脱出の決定版といえる究極の政策で、ミルトン・フリードマンのいう「ヘリコプター・マネー」、バーナンキのいう「マネー・ファイナンシング」なのだと。


デフレなら円高は続く

為替相場も重要だ。一般に物価上昇率に差がある二国の通貨は、物価が低い方の国の通貨は長期的に通貨高になる。デフレを止められなかった日本は、当然の結末として円高になっていたのだ。


日銀の独立性は手段の独立性

高橋さんは、メディアも含めて多くの人が「日銀の独立性」を誤解しているという。「中央銀行は手段の独立性は確保されているが、目標は政府と協調して決めるのが世界の標準」なのだと。

目標は政府が決めるが、その目標のもとで、どのような手段をどのようなタイミングでやるかは中央銀行が責任を持つ。つまり日銀には手段の独立性が認められているかわりに、本来であればPDCAサイクルを導入し、日銀が選んだ手段の有効性を検証して、失敗であればペナルティを課すというのが世界の常識であると。

こういった考え方を持っていたのに、民主党の反対により日銀副総裁就任を拒否されたのが、東京大学の伊藤隆敏教授だ。伊藤教授の「インフレ目標政策」はこのブログでも紹介している。

インフレ目標政策インフレ目標政策
著者:伊藤 隆敏
日本経済新聞出版社(2013-02-26)
販売元:Amazon.co.jp


日本の景気悪化は金融引き締めが原因

この本は2008年12月に発刊された。つまりリーマンショック(2008年9月)の直後だ。当時、筆者も含めた誰もが日本の景気悪化はサブプライムローン問題によるリーマンショックにより、輸出が減少したためだと思っていたと思う。

日本のGDPに占める輸出の割合はせいぜい15%程度なのに、あれだけ景気が急速に悪くなったので、筆者は間接輸出(見かけは国内取引だが、最終製品は輸出される)が、かなりあるためだと思っていた。

全く的外れだったわけだ。

高橋さんは、この本で日本の景気悪化は2006年から2007年にかけての金融引き締めが原因だと断言する。つまり日銀の政策ミスが原因だと。2008年第2四半期のGDP成長率は、サブプライム問題まっただ中の米国がプラス2.8%で、サブプライム問題の影響がないはずの日本がマイナス3%だった。


外為特会を機動的に運用

高橋さんは、「霞が関埋蔵金」で有名だが、埋蔵金のなかでも大きいのが外国為替資金特別会計(外為特会)の超過積立金だ。この本の当時で20兆円あると言われていた。

霞が関埋蔵金男が明かす「お国の経済」 (文春新書)霞が関埋蔵金男が明かす「お国の経済」 (文春新書)
著者:高橋 洋一
文藝春秋(2008-05)
販売元:Amazon.co.jp


高橋さんは、渡辺喜美金融担当大臣時代に、金融庁の金融市場戦略チームの一員となって、超過積立金を米国の政府系金融機関の救済に機動的に運用する戦略を打ち出しているが、実現しなかったという。既に外為特会を使って、ファニーメイ債などに8兆円投資していたので、株式とスワップすることを考えていたのだと。


25兆円の量的緩和と25兆円の政府通貨発行

この本の最後で、高橋さんは非常時(当時はリーマンショックのまっただ中だった)の対策として、25兆円の量的緩和と、25兆円の政府通貨発行を提言している。25兆円の政府通貨発行を財源として、2年くらい社会保険料を免除するのだと。

通常時であればインフレを引き起こすが、100年に一度の大恐慌であれば、インフレは有効な治療薬となるだろうと。実際の黒田日銀の政策は50兆円より規模は大きい。高橋さんの提言は、まさに株高、円安の流れを作ったアベノミクスそのものだ。


高橋さんが、「世界一簡単な金融政策の入門書」というだけあって、数式は一切出てこず、わかりやすい。

筆者が読んでから買った本の一つである。今なら、アマゾンの中古品なら12円(+送料250円)で買える。高橋さんのようなリフレ派は長らく経済学の主流とはなれなかったが、アベノミクス登場で、流れは変わった。例の予備校講師のコマーシャルではないが、12円なら、買うのは「今でしょ」。


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Posted by yaori at 02:57│Comments(0)TrackBack(0) ビジネス | 経済

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