2013年08月28日

君は一流の刑事になれ 後輩に伝える刑事魂

君は一流の刑事になれ
久保正行
東京法令出版
2010-04-22


東京法令出版というカタい出版社から出された元警視庁捜査1課長からの後輩刑事たちに伝える刑事魂。

この出版社は「捜査研究」という警察関係者向けの月刊誌を出版している。この本も「捜査研究」の「次世代の捜査官たちへ」という連載を編集したものだ。

現場の描写などは詳細で、超リアル。気持ちが悪くなるような表現もあるが、この本の最後で「本文中、現在は不適切と思われる表現が一部ございますが、あくまで捜査現場の様子を描写するためのものとして使用しました。読者各位のご賢察をお願いいたします」と書いてある。


捜査1課とは

「捜査1課」は、よくテレビドラマなどで出てくるが、どんな組織なのかこの本を読んで初めて分かった。

皇居の桜田門に向かって位置する警視庁に勤務する警察官は4万5千人。その中から選り抜きの390人余りが警視庁捜査1課に所属する。

東京で起きた殺人、強盗、放火、強姦、誘拐といった凶悪事件の捜査にあたるのが捜査1課だ。

この本の表紙にある金色に輝くバッチのようなもの。それが”S1S”=捜査1セレクトという捜査1課課員が胸に着ける栄光のバッチだ。

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出典:本書表紙


捜査1課の体制

警視庁刑事部捜査第1課には捜査1課長(警視正、カッコ内は資格)、その下に特殊犯罪対策官(警視)と理事官(警視)の二人がいわば次長として勤務している。警察の資格について詳しく紹介しているサイトがあるので、ここをクリックして参照してほしい。

2009年11月現在では、理事官の下に第1から第7までの強行犯捜査管理官(警視)、そして特殊犯罪対策官の下に第1、第2特殊犯捜査管理官(警視)、そして特命捜査対策室管理官(警視)がいる。それぞれの管理官がいくつかの係を統括している。

全体の体制は本書に載っている次の表の通りだ。

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出典:本書冒頭


著者の久保さんは北海道出身

この本の著者の久保正行さんは、元警視庁捜査第1課長。捜査1課に刑事から警視正までの全階級で勤務した経験を持つ。北海道生まれで、高校の柔道部のキャプテンだったが、北海道警では働きながら大学で勉強できすることは難しいので、柔道を活かして警視庁の警察官となった経歴を持つ。

捜査1課と、鑑識課、機動隊を行ったり来たりしてキャリアを磨き、捜査第1課長、田園調布署長、渋谷署長を経て警視庁第7方面本部長を最後に勇退し、現在は日本航空に勤めている。柔道でも念願の赤白の帯を締められる講道館6段となったという。

いわゆるノンキャリの警察官で、必要とあれば夜も寝ず、家にも帰らず、署の道場に寝泊まりして捜査にあたっている現場の警察官だ。


刑事のみが被害者の無念を晴らすことができる

このブログでも紹介している世田谷一家殺人事件」は依然として未解決のままだ。久保さんもこの本の中で、自分の名刺の裏に世田谷事件の情報提供を呼びかけるメッセージを印刷していたことをふれている。



これだけの凶悪事件で、素人目にはたくさんの証拠が残されている事件が未解決のまま残っているので、正直、警察の捜査力にやや疑問を感じていた。しかし、この本を読んで現場の刑事たちの、私生活を犠牲にして、捜査に打ち込む姿勢には感動した。その刑事たちの誇りが、冒頭で紹介したS1Sのバッチだ。

ホシを挙げて被害者の無念を晴らすのは刑事にしかできないと久保さんはいう。

だから靴底を減らし、私生活を犠牲にしてでも苦労を重ねて検挙する。遺族の「これで成仏できる」との安堵の顔があり、「ありがとうございました」との感謝の言葉に、刑事は心から「よかったね」と、満足感に浸るのだと。

久保さんは、「若者たちよ、損得を先に考えて、手を抜いていないか。額に汗は流れているか。」と呼びかける。もう一度、「人のために何かをしたい」という奉仕の心を原点として立ち返れと。


最初に失敗捜査を語る

この本の最初で犯人が自殺してしまったために、被害者の遺体が今も見つからない捜査1課殺人八係長時代の強盗殺人事件を教訓として紹介している。

この時は捜査中に久保さんは警察署の道場に寝泊まりしていて、被疑者の夢を見て金縛りにあった。その後もそのような夢をたびたび見たという。

花瓶で殴打したことで死亡しうるかの検証も科学的に行い、ABO血液型と、ミトコンドリアDNA検査も導入して証拠をそろえて逮捕状を取って、逮捕に向かったが、あと一歩のところで犯人に逃げられ、高知で自殺されてしまった。

ちなみに、逮捕に向かう日はどんなに長く道場などで寝泊まりなどしていても、必ずきれいな下着を着るのだと。もし殉職したときに汚い下着を着ていたら、それだけでだらしないイメージを与えてしまうからだ。命を賭けてホシを捕る。生き様にこだわり、死に様にもこだわる。それがデカというものだと。

最後に高知県警への感謝と、被害者に対して「どうか許していただきたい。」という一文でこの項を終えている。


この本で紹介している事件と教訓

この本では次のような事件を紹介している。それぞれの事件では、事件の詳細説明の後に教訓がいくつも挙げられている。

第2章 基礎力こそ突破力
     野中署管内ガス自殺偽装殺人事件
     綾瀬署管内女性殺人、死体損壊事件
     元看護師長殺人事件
     渋谷署管内傘による殺人事件

第3章 科学捜査の時代に
     事項直前、DNA鑑定を活用して 綾瀬署管内殺人事件

第4章 難事件に挑む
     外国人によるバラバラ殺人事件(通訳専門の警察官がいることを初めて知った)
     柿がホシを割り出す 新宿署管内強盗殺人事件

第5章 生命の尊さと償い
     母娘死亡強盗殺人事件
     双生児らによる醜悪な強盗殺人事件

第6章 リアルタイムで進行する特殊事件に挑む
     幼児人質立てこもり事件
     酒屋経営者人質立てこもり事件(盾で犯人の包丁から身を守り、犯人を制圧)
     乳児誘拐事件(津川雅彦と朝岡雪路の娘)
     小学生誘拐事件

第7章 若者たちへの道しるべ
     デキる刑事の条件
     よき伝統を引き継ぐ(お茶汲み3年、コロシ3年、アカ(放火)8年など)
     まずマネからはじめよ
     自己への投資はしているか
     捜査力はヤカン酒のごとし
     ひらめきの源は健全な心と身体
     蒔かぬ種は生えぬ
     部下・後輩への愛情
     待っていてくれた先輩

新書などで出ているものとは全然違う内容である。これこそ本物のデカが書いた本だ。刑事小説以上に面白い。

現場の刑事に声援を送りたくなる本である。


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Posted by yaori at 23:08│Comments(0)TrackBack(0) 趣味・生活に役立つ情報 | ノンフィクション

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