2014年02月02日

日本電産永守重信、世界一への方程式



パソコン向けハードディスク市場の急激な縮小から、2013年3月期には純利益が前年同期比80%も減少したにもかかわらず、2013年に文字通りV字回復を示した日本電産・創業社長の永守重信さんの経営手腕を紹介した本。

永守さんと長い付き合いがあるという日経ビジネス編集委員の田村賢司さんが書いている。永守さんは、2012年第4四半期に254億円という営業赤字を計上して、2013年の業績急回復の布石を打った。「残尿感なし。絞りきった!」と言っていたという。

文字通りV字回復を実現したのはさすがだ

このブログで紹介した「人を動かす人になれ」などの永守さん自身の本に比べて、迫力はないが、日本電産の戦略を紹介していて大変参考になる。


大前研一さんなどが絶賛する日本電産の永守さんに注目したのは、「人を動かす人になれ」のあらすじでも書いた通り、筆者のアルゼンチン駐在時代の友人が銀行を辞めて、日本電産に転職しているからだ。

1998年発刊の「人を動かす人になれ」では”365日フル回転”と永守さんは書いていたが、最近は元旦だけは休むらしい。それでも、事実上フル稼働であることに変わりはない。

1984年からここ30年間の売上高と営業利益の推移は次の通りだ。

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出典:本書17ページ

なかなかここまでは仕事漬けにはなれない。すごい経営者である。

この本では37社の企業を買収して、急速に業容を拡大した日本電産が、最初はハードディスク駆動用の精密モーター関連分野に集中、そして次は車載用・家電用・産業用モーターなどの異業種向け多角化と、2段ロケットで、さらなる成長を遂げた姿を紹介している。

過去10年の業績推移の中ほどで紹介されている商品グループ別売上高推移を見ると、車載用・家電用・産業用モーターの売り上げが、精密モーターと肩を並べるくらいまで成長してきていることがわかると思う。

XPパソコンを買い替えた記事で書いた様に、パソコン向けハードディスクはどんどん駆動部がないSSDに変わっている。ノートPCでは特に顕著だ。

コストの問題から、サーバやデスクトップPC向けは当分ハードディスクで変わらないだろうし、大容量のハードディスクをバックアップ用の外付けとして使用する用途はなくならない。

だから、ハードディスクがなくなることは近い将来ないだろうが、それでも精密モーターの最大市場だったハードディスクや、ブルーレイなどのメディア向けディスクドライブの市場は、大きな成長は見込めない。

そんな状況を見越したM&Aは、タイムリーで優れた企業戦略だ。

この本では、モーターの技術的な側面も紹介していて面白い。たとえば日本電産の得意なのはブラシレスモーターである。

最近も教えているかどうかわからないが、筆者が中学の時に工作でつくったようなモーターはブラシ付モーターだ。

ブラシレスモーター















出典:東芝ホームページ

ブラシレスは回転部分に接するブラシがないため、ブラシ部分の摩耗がなく、メインテナンスフリーで、高速回転が可能、騒音も少ないというメリットがある。家電や自動車などのモーターに静穏化が求められる傾向のなかで、売り上げを伸ばしているのがブラシレスモーターだ。

精密モーター分野では、軸受をボールベアリングからオイルで満たすFDB(Fluid Dynamic Bearing)に変えて、より一層の高速化を実現した。

これが日本電産がハードディスク用モーターで市場シェア80%を勝ち取った一つの要因になった。

ball bearing














出典:日本電産ホームページ

FDBモーター

















出典:日本電産ホームページ

買収した37社(2014年に入って1社買収したので、現在は38社)の、時系列的なリストは次の通りだ。
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出典:本書111ページ

地域と製品をマトリクス表にすると見事に日本電産の世界戦略が見えてくる。

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出典:本書130ページ

日本電産は、買収した会社の経営陣にそのまま経営を担当させる。日本電産から送り込む役員はせいぜい数名だ。永守さん自身が会長として毎週行くこともある。

買収された会社はそれなりの理由があって、赤字だったために、買収されたわけだが、それを永守流のKプロ(経費節減)、Mプロ(「まけてよ」の意味、購買コスト削減)、意識改革で大体1年で黒字転換する。

その方程式の例が紹介されている。(日本電産セイミツグループの健全企業経営の指針)

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出典:本書55ページ

この実現のために、世界各地の日本電産グループの会社には、永守さんをキャラクター化した次のようなポスターが貼ってあるという。スローガンは日本語、英語、中国語で書かれている。

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出典:本書162ページ

この本の最後に、「奇人変人の創業者とどう向き合えばよいのか」という永守さんが、一部の経営幹部に送ったメールが紹介されている。

強烈な個性を持った経営者だけに、転職組で、永守流に合わずに辞めていく人もいる。

永守さんは、途中入社の幹部に対しても、どこまで永守さんの叱責に耐えられるかを見極めて、「これなら簡単に敵前逃亡しない人物だから信用できる」と判断して責任ある地位に登用してきたという。いわばストレステストに合格することで、信頼関係が構築できたと判断するやり方なのだと。

役員の中では、長年の同士ともいえるプロパー生え抜き役員の他に、買収した会社の経営者、自動車部品のカルソニック・カンセイ前社長、三菱自動車で電気自動車を育成した役員、三菱電機から外資系を経たCFOなど、多用な人材がいる。

著者の田村さんは、創業から20年は「超ワンマン」の時代、M&Aが本格化した1990年代からは「みこし型ワンマン」の時代、2010年から海外M&Aが増え、「分権型ワンマン」の時代と呼ぶ。

強い思いは変わらない「変わらぬ永守」と、経営者としてのあり方を自ら変えていく「変わる永守」がいるのだと締めくくっている。

200ページ余りの本だが、平易で簡単に読める。日本電産の戦略と永守さんの考えがよくわかる優れた本である。


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Posted by yaori at 01:39│Comments(0)TrackBack(0) ビジネス | 企業経営

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