2014年04月30日

東大教授 大学法人化で東大教授もずいぶん変わった

東大教授 (新潮新書)
沖 大幹
新潮社
2014-03-15


地球上の水を扱う科学=水文学(すいもんがく)者の沖大幹東大教授の本。沖教授は専門の水文学では、「水危機、ほんとうの話」などの本を書いている。



沖教授は今年50歳。新進気鋭の教授だ。毎年のスケジュールは、大体年初に決まってしまうという売れっ子教授でもある。

そんな沖教授が、この本を書いた理由は、1.東大で学問に取り組む際の様々な知恵や心構えを後進に伝えたかったこと、2.優秀な若者が東大教授を目指さない(東大経由で海外の大学で奉職する)のは、長期的に悪影響が大きいという危機感、3.東大教授への信頼感の欠如に発奮、なのだという。

この本はアマゾンの「なか見!検索」に対応していないので、「なんちゃってなか見!検索」で、目次を紹介しておく(節のタイトルは重要なものだけ選んだ)。目次からもだいたいの内容が推測できると思う。後進へのアドバイスが満載なことがわかると思う。

まえがき
・死ぬまでの暇つぶしのために
・自由と名誉と資産がほしいなら
・東京大学教授道

第1章 東京大学教授解体新書
・大学教授の定義
・年齢構成は?
・なぜ「総長」なのか
・旧制第一高等学校とは?
・東京大学名誉教授の条件
・給与について
・平均的キャリアは?
・給与は増やせるのか?
・勤務時間は?
・勤務はどう評価されるのか
・車、個室、秘書など待遇は?
・企業としての東大
・安定した自由業

第2章 どうすればなれるのか
・世界一になるのは簡単
・「東大卒」は必須条件か?
・東大入学への道
・「最難関」入試の考察
・進学の振り分けは?
・専門分野の選び方
・研究室と指導教員の選択
・地球の水循環と世界の水資源
・若者、ばか者、よそ者
・研究はスポーツ的か、芸術的か
・動物的研究と植物的研究
・論文書きの論文読み
・博士課程へ進むべきか
・「論文博士」とは?
・東大教授になるチャンス

第3章 社会的役割と権威
・日本を代表するには?
・国の審議会に参加したら
・政府の委員会での立ちふるまい
・英語で講演するために
・海外出張は魅力的か
・テレビ出演の注意
・新聞や雑誌との付き合い方
・政策立案支援と研究審査
・論文執筆こそ命
・有名学術誌から原稿を依頼されたら
・書籍の執筆法
・一般向けの講演も刺激的
・講演料はいくらか?
・東大教授の役得

第4章 醍醐味と作法
・講義こそ自己啓発の源
・弱小チームでも勝つには
・明日やろうは馬鹿野郎
・ゼミは英語で
・留学生の真実
・外国人教員の損得
・東大と国家百年の計
・次世代を育てるには
・教科書を書き換える研究
・伯楽への道

第5章 知的生産現場のマネジメント
・学内組織を円滑に運営するには
・学内会議のしきたり
・雑用を考察する
・東大の予算とは?
・業務マネジメント
・東大教授ほど素敵な商売はない

第6章 おわりに
・本書執筆の3つの理由
・究極の目的は何か
・知の統合のために

いくつか参考になった点を紹介しておく。


生まれ変わっても東大教授となりたい

沖教授は、生まれ変わっても東大教授として働けたらいいなと思う」という。東大教授になったら、自由、名誉、資産、いずれも努力が報われる程度には、バランスよく得られるのだと。

東大には3,900人の教員がいて、そのうち1,300人が教授だ。また、別枠で特任教授や特任研究員などの2,000人ほどの特定有期雇用教員がいる。職員は、事務系職員が1,500人、技術系職員が800人、医療系職員が1,800人いる。

東大教授の平均年齢は55.4歳で、東大教授に占める女性の割合は5%だ。准教授の平均年齢は45.6歳、助教は40.1歳だ。

ちなみに東大の財務報告を中心とした「事業報告書」と、より大学の実態を説明した「業務の実績に関する報告書」がネットで公開されているので、興味のある人は参照してほしい。


東大教授の給与

東大教授の平均年間給与は1,123万円、准教授で900万円、助手で730万円となっている。50歳前後で教授となって、年収は1,000万円程度、定年の65歳で1,200万円というのが平均的キャリアだ。医師免許を持っている場合は、大学外で医師になった場合の給与格差補てん(最大35年間の「初任給調整手当」)があるので、医学系の給与は、それ以外より高いという。

教授に昇格してからは、普通は出世もなく肩書きも変わらず、給与もあまり増えないが、減りはしない。成果が上がっても、上がらなくても、世間に認められようが、認められまいが、大学内ではほぼ同じように遇される。

沖教授は、この平等主義が東大の学問の自由を支えていると語る。つまり、結果が出るかどうか確信が持てずとも、学問的に重要だと信じる新しい研究に挑戦できるのだと。究極的には人類社会のためになるという信念があれば、研究に打ち込めるのだ。

給与を増やそうと思えば、管理職を目指すことになる。総長は倍、理事は6割増しの給与となるし、各組織の長でも理事並みの手当てがつく。しかし理事でない副学長の場合は、多少の上積みはあるが、普通の教授と大差ない。

ちなみに、政府の審議会の委員になった場合の謝礼は2時間の会議で2万円前後だという。


東大の学長を総長と呼ぶ理由

東大の学長を「総長」と呼ぶのは、東大の成り立ちが東京開成学校(法学部、理学部、文学部)と東京医学校(医学部)、工部大学校、予備門(東京英語学校)が一緒となったものだからで、それらを束ねる役職として「総長」が東京帝国大学に置かれた。東大の総長は、総長選考会議で選考される決まりになっているが、実際には、全学の講師以上の教員による投票によって決まるという内規になっている。

沖さんは東大の土木工学科(現在は社会基盤学科)の出身で、同窓会名簿には理学部工学科の卒業生と、工部大学校の卒業生の両方の名前が記されているという。

沖さんの水文学研究

水文学(すいもんがく)とはあまり聞きなれない言葉だが、沖さんたちは、貯水池操作や灌漑取水などの人間活動を含んだグローバルな水循環シミュレーションや、食料の輸入によって水不足地域の水需給がどの程度緩和されるかを見積もるバーチャルウォーター貿易研究、世界の水問題の実態把握、社会変化・気候変動に伴う水需給の変化などを研究しているという。

また、沖教授は、IPCCのウォーターフットプリントに関する作業部会に日本からの専門家として参加している。会議に出席するための旅費は日本政府が出してくれるが、謝礼はなく、経費節減でエコノミークラスにされる場合もあり、キツイという。

ちなみに東大の社会基盤学(土木工学)専攻では、書類選考のみで入学許可が出され、奨学金も受けられるという留学生特別コースを1982年から設けていたので、いまでは600名を超す留学生が卒業している。

東大が平成24年のQS World University Ranking のCivil Engineering分野でMITに次ぎ第2位になったのも、留学生コースの卒業生が活躍してくれているおかげだと。 (ちなみに2014年版では第4位となっている)。 


学問に対する態度

学問に対する態度としては、「論文書きの論文読み」として、何が学術的に高く評価されるのかを知るためにも、文献を地道に読みこなることが必要だと沖教授は語る。

音楽家が音楽をよく聴き、画家が絵を頻繁に鑑賞し、作家が本を濫読するのと同じだと。従来の枠組みを超えるためには、従来の枠組みがどうなっているのかを知っておく必要がある。

また、次の様な話も紹介している。

竜巻の大きさを示すFスケールに名前を残す、シカゴ大学名誉教授の故・藤田哲也教授は、大分県の「青の洞門」の話を小学生の時に聞いたときに、次のように思ったという。

「20年(伝承では30年)かけて穴を掘った人は本当に立派な人だと思いましたが、自分だったらそんな努力はしないで、まず最初の10年で穴を掘る機械を発明し、その後2倍のスピードで穴を掘る方が有効だと思いました。つまり、後に「穴」と「機械」が残りますので。研究でも同じで、仕事を始める前に「道具」をつくっています。そうすれば研究結果と「道具」の2つが残ります」。


以前は小講座制、現在は大講座制

以前は小講座制と呼ばれる伝統的な仕組みで、ある教授が辞めた後、その教授職にだれを据えるかは、辞めていく教授の意志を尊重していた。いわば徒弟制度のように、小講座制の人事には総長といえども選考に意見するのは難しかったという。

この反省で、現在は大講座制となっており、ある特定分野の教授を必ず置くというわけではなく、学問や組織の状況を考慮しつつ、大講座部門の教授の合議制で次に採用する教授の専門分野や候補者を決めるという。

国立大学法人は私立大学のように組織を経営する理事会と、教育研究を所管する教授会とが完全に切り分けられていないので、たとえば予算配分から人事制度、はては防災規則や、駐車場の配置、自転車置き場の通則まで、教員から成る委員会で議論する。

東大の「文化」として、「自分に悪影響が及ばない限りにおいて同僚の足は引っ張らず、やりたいようにやってもらうが、かといって特段の協力もしない」傾向があるという。

東大では2012年に「東京大学ファカルティ・ハンドブック2012(試行版)」という教員業務に関するマニュアルをつくっている。その内容は、この本にも一部紹介されているが、マニュアルなので本当のノウハウなどは含まれていない。この本では、そのノウハウ的な部分も紹介しており、現役の研究者には大変参考になると思う。


沖教授は理系の先生ではあるが、文才があり、文章は読みやすい。筆者も東大教授の先輩・後輩が数名いるが、こういう実務的なことを聞いたことはなく、参考になった。

現役の研究者の役にも立ち、東大教授についての一般知識を得るにも最適な本である。


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Posted by yaori at 08:35│Comments(0) 教育論 | ビジネス