2014年1月末にJリーグチェアマンを退任した
大東さんと、後任チェアマンの村井さんの本。サッカーライターの秋元大輔さんが構成(ライティング)している。
大東さんがJリーグチェアマンを務めた3年間で、クラブライセンス制の構築、J1昇格プレーオフ導入、ポストシーズン制、J3創設など、様々な改革が推進され、大東さんは2014年シーズンが始まる前にリクルート出身の村井満氏にチェアマンを引き継いだ。まさに継続的改善だ。
大東さんは筆者の会社のラグビー部のチームメートで、一緒にスクラムを組んだ。今でも年に1〜2回は当時のメンバーで集まっている。
4月の大東さんのチェアマン退任慰労会で、大東さんがJリーグの広告代理店を変えたという話をされていたので、筆者は単純に電通の方がスポーツには強いのだなと勘違いしていた(筆者は博報堂との合弁会社に4年半出向していたので、広告業界はある程度知見がある)。
しかし、この本を読むと、電通が博報堂より強いとかいったレベルの問題ではなく、電通と博報堂の力をもってしても、スポンサーが集まらない今のJリーグの窮状がよくわかる。
Jリーグの現状
そもそもJリーグが赤字になりそうなことは、この本を読んで初めて知った。
Jリーグは2015年からのポストシーズン制導入を決定した。2014年のJリーグ収入が最大13億円減収になるという予想が出たことがきっかけとなった。
13億円減収となると、クラブへの分配金を減らさなければならないが、経営体質の弱いクラブにダメージを与える恐れがある。
年間1ステージのホーム&アウェイ方式が理想だが、ポストシーズン制を導入すれば増収につながるという見込みが立ったので、やむなくポストシーズン制を導入したというのが今回の制度改定の背景だ。
出典:
Jリーグプレスリリース
Jリーグの収益構造
Jリーグの収入は、大体年間120億円で、放映権料(毎年50億円程度)、協賛金(トップパートナー全12枠、約40億円)、入場料30億円という構成だ。
Jリーグのテレビ視聴率と一試合平均の入場者数の推移は次の通りだ。
出典:本書16ページ
出典:本書22ページ
視聴率が上がらないとNHK、TBS、スカパーの3社との放映権料交渉も難航する。
協賛金に至っては、Jリーグ発足以来の広告代理店で、ファミリーともいえる博報堂が買い取っていたが、12社のパートナー=広告主を確保できないので、穴埋めのため毎年赤字取引になっていたという。
博報堂が2005年に東証一部に上場されたことから、赤字取引にメスが入り、2011年から電通も加わった。しかし博報堂と電通の力をもってしても、新しいパートナーは日本マクドナルド1社のみに留まっている。
Jリーグチームも赤字のチームがあり、責任企業から補てんを受けられないチームは、時々経営危機が表面化する。
岡田武史元日本代表監督は、今年で22年目を迎えるJリーグについて「最初の10年で選手がプロになり、次の10年で監督がプロになった。最後に残ったのは、経営者のプロ化だ」と語っているそうだ。しかし、言葉では「プロ化」とか言えても、会社経営と同じで、クラブ経営は簡単なものではない。
Jリーグが4大リーグのファーム化?
次の表はJリーグから海外移籍した選手のリストだ。
出典:本書29ページ
世界のサッカーマーケットは欧州を中心に動いている。実力のある選手はJリーグから4大リーグ(スペイン、イタリア、イギリス、ドイツ)などへ移籍する。4大リーグの放映権料が高騰し、ローカルリーグが4大リーグのファーム化するのは世界で見られる傾向だ。
アジア戦略
アジアでもJリーグチームが勝てなくなっている。
ACL優勝は2007年の浦和レッズ、2008年のガンバ大阪の後は出ていない。最近ではACLで早期敗退するチームが続出している。中国の富裕クラブ(たとえば2013年に柏レイソルに合計8:1で勝った
広州恒大は年間予算100億円と言われている)やオイルマネーがバックにあるクラブチームに勝てないのだ。
東南アジア初のJリーガー、ベトナムの英雄
レ・コンビンのJ2コンサドーレ札幌加入は、Jリーグの新たな可能性を示した。ベトナムのテレビ局がコンサドーレ札幌の試合を生中継したり、パブリックビューイングも開催された。
レ・コンビンの移籍交渉がまとまらず、在籍はわずか6か月間だったが、アジアにおけるJリーグの認知度を上げ、Jリーグのアジア戦略の重要性を示した効果は大きい。
Jリーグでは、外国人枠3人のほかに、アジア枠が1名あった。2014年からは提携国枠として1名設けて、東南アジア選手の獲得がしやすいように制度変更をしている。
Jリーグチームの活性化策
この本ではJ1チームの活性化策の例として、横浜Fマリノスを紹介している。マリノスは日産を責任企業として持つが、2012年末で16億円の累積赤字を抱えていた。
マリノスの観客数はマリノスのリーグ順位上昇とともに増加し、2012年(4位)から最終節で優勝を逃した2013年には約25%増え、単一試合の62,632人はJリーグ記録を塗り替えた。
マリノスは日産で成功したクロスファンクショナルチームの考え方を導入した。
ホームタウンの横浜市港北地区担当の港北プロジェクトチーム、試合に行ったことのない人をスタジアムに行ってみようという気にさせるプロモーションチーム、試合結果にかかわらず試合に行った人がいい印象を持って帰るようホスピタリティ向上をめざすホスピタリティチームの3つが共同で作業している。
たとえば港北区の25の小学校に毎年トップチームの選手を2名ずつ派遣する活動や、児童全員のマリノスの選手名鑑と試合予定をプリントした下敷きとクリアファイルを配る活動、同じ横浜をベースとする横浜ベイスターズとのタイアップなどの活動を行っている。
J3創設
2014年より
JFLからJリーグ昇格をめざす12チーム(1チームはJ1とJ2のU22選抜)でJ3が誕生した。これでJ1、J2、J3あわせて51チームとなり、36都道府県をカバーすることになった。
J3は小さい予算規模でもまわるように配慮されている。プロ契約選手は3名以上(J2は5名以上)、予算規模は1〜3億円を想定している。
選手としての年俸は無給〜月20万円程度でも、それ以外の仕事をもつことで生計を立てているケースが一般的で、Jリーグ事務局では選手の食と住確保を各J3チームに要望している。
たとえば筆者が住んでいる町田市のチームの
町田ゼルビアでは、
クラブ社長(
イーグル建創社長)が建設関係の仕事をしているので、選手を手ごろな物件に安く住まわせ、地元の食堂と提携して1食あたり500円の食費援助を行っているという。
Jリーグでは選手育成のために、全クラブにアカデミー組織の保有を義務付けている。アカデミーからトップチームに昇格できなかった選手の大半は大学に進学し、大学サッカーのレベルアップに貢献している。
2050年までに自国W杯開催・優勝
日本サッカー協会では
2050年までに自国でワールドカップを開催し、優勝することを目標に掲げている。Jリーグでは、ACLのタイトルを奪還することが、目標の一つだ。
2013年からJリーグでは
ACLクラブサポートプロジェクトをスタートさせ、日本サッカー協会とともに遠征費や強化費といった費用援助や、日程調整についても協力することを表明している。
過密スケジュールとともに、足枷となっていた「
ベストメンバー規定(先発メンバーは直近のリーグ戦5試合の内1試合以上先発出場した選手を6名以上含まなければならない)」も、プロA契約6名以上と緩和された。
選手の平均年俸は現在J1で2,000万円、J2で700万円だ。J2選手の中には年俸300万円程度の選手も多いという。もっと選手の年俸を上げていかないと、将来的にJリーガーを目指す子供が少なくなってしまうかもしれないと両チェアマンは危惧する。
W杯自国開催・優勝というのは、遠い目標だが、それに向けて一歩一歩近づけることはできるはずだ。
筆者は高校2年生まで
湘南高校サッカー部に属し(下手なので3年になって辞めた。OB会には属していない)、最初の駐在地アルゼンチンでは
リーベル・プレートのソシオ(公式サポーター)だった。
プレーヤー歴としては会社に入って始めたラグビーの方が長いが、サッカーに対する愛情も強い。
Jリーグの関心度低下やJリーガーの年棒アップなど、簡単に解決できる問題ではないが、Jリーグの窮状を知り、ファンとして応援することで、Jリーグを盛りたてようという気持ちになった。
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