筆者の本件に関する見方は選挙前と変わっていない。
やはり米国民は”チェンジ”を選んだ。民主党でなく、共和党を選んだ。その共和党の代表がトランプだったということだ。
トランプがこの本で公約したことが、すべてそのまま実現するとは思わないが、再度トランプの言っていたことを紹介するために、このあらすじを再掲する
米国大統領選挙が11月8日(火)にせまっている。民主党のヒラリー・クリントン、共和党のドナルド・トランプ、いずれが大統領になっても、史上最低の大統領となるのではないかという気がする。
バラク・オバマも、大統領になる前に筆者は期待を込めて、オバマの「マイ・ドリーム」と「合衆国再生」の2冊のあらすじを紹介している。
この本の帯に、トランプは「次期アメリカ大統領に最も近い男」として、紹介されている。たしかに、相手のヒラリー・クリントンは女性なので、トランプが”もっとも近い男”であることは間違いない。
だから、トランプには期待していないが、トランプの自伝のあらすじを紹介する。
同じく本の帯に、”救世主か”、”詐欺師!か”、”日本の敵か”、”味方か”という文句も載っている。
日経新聞では「もしトラ」という、もしトランプが大統領になったらというシリーズを立ち上げて、半信半疑で予行演習している。みんなトランプが大統領になったら…という一抹の不安を持っているからだ。
この本は、図書館の新刊書コーナーに置いてあったので、読んでみた。米国大統領の座を争っている候補者の本が新刊書コーナーに置いてあっても、誰も手を出さないということは、トランプが大統領になんてならないと、みんな思っているからだろう。
しかし、この本を読んで、”ひょっとして”ということもあるかもしれないと思えてきた。というのは、トランプが言っていることは、オバマが8年前に言っていたことと同じだからだ。
”チェンジ”である。
トランプは”チェンジ”という言葉は使わないが、オバマがこの8年間で、失政を積み重ねて、米国を現在のような状態にまで追い込んだ。自分は「オバマケア」など、オバマのやった多くのことをすぐに廃止する。私は、米国が再び偉大な国になるまで、祖国のために戦い続けるのだと主張している。
この本の原題は、"Crippled America"(訳すと”障害者アメリカ”となる)だ。原著は、わざと怒っているトランプの写真を表紙にしている。
Donald J. Trump
Threshold Editions
2015-11-03
オバマ政権に対する民衆の失望を自分の力にしようというトランプの作戦だ。
外交政策
この本でトランプは、メキシコとの国境に壁を作って、不法移民をシャットアウトするという政策を繰り返している。国境の地形から、壁が必要なのはせいぜい1,600キロで、すでにアリゾナのユマにモデルとなる長さ192キロの壁ができているという。
ユマ・セクターと呼ばれる壁ができてからは、不法入国を試みて逮捕された人の数は72%減少したという。
「建設資金はメキシコに絶対に払わせる。」
「国境に関する様々な費用を値上げしたり、ビザ手数料を値上げしたり、関税を変えたり、メキシコへの海外支援を打ち切ってもよい。」
「私は移民を愛している。移民受け入れには積極的だが、不法移民はお断りだ。」
「米国は法治国家かそうでないかをはっきりさせる。口先だけで行動を起こさない政治家にはうんざりだ」。
トランプは、生得市民権にも反対だ。「なぜ米国で生まれたからといって、不法移民の子供にまで自動的に市民権を付与しなければならないのか。」
「もともと合衆国憲法修正第14条は、南北戦争後に解放された奴隷に市民権を付与することが目的だったのだ」。
防衛政策
トランプは、米軍を強化する。
「中東その他における米軍の軍事政策があまりに弱腰なために、誰も我々を信じようとしない。」
「はっきり言っておこう、米国は今後、米国史上最強の存在となる。兵士たちは最高の武器と防御装備を供与される。兵士たちは米国の英雄だ。だが現政権はそのことをすっかり忘れている。」
「サウジアラビアにも、ドイツにも、日本も韓国にもイギリスでも米軍はただ働きで安全を守っている。」
「米国に守られている国々は、正当な金額を我々に支払うべきだ。私に舵取りをさせれば、彼らに必ず払わせる!」
トランプは、ニューヨークの学校でトラブルメーカーだったので、ニューヨーク・ミリタリー・アカデミーに送られ、そこを卒業している。最終的にはペンシルベニア大学MBAコースのウォートン・スクールを卒業している。
「オバマ大統領のイランとの交渉は、私が知る限り最悪のものだ。あれ以上まずいやり方は不可能だろう。
どんな犠牲を払おうと、どんな手段を用いようと、イランに核兵器を作らせてはならない。」
「私は以前から、ユダヤ人を愛し、尊敬し、イスラエルと特別な関係を結ぶことに賛成してきた。米国の次期大統領は、伝統的に強固なイスラエルとのパートナーシップを再建しなければならない。」
「中国は敵以外の何者でもない。彼らは低賃金労働者を利用して我々の産業を破壊し、数万人の仕事を奪い、我々のビジネスをスパイし、テクノロジーを盗み、自国の通貨を操作し、切り下げることによって中国市場での米国製品の価格をつり上げ、時には販売不能に追い込んだ。」
内政について
トランプは再生可能エネルギー開発に反対だ。
「そもそも再生可能エネルギーの開発は、地球の気象変化は二酸化炭素の排出が原因だとする誤った動機から始まっていた。ソーラーパネルは確かに効果はあるが、経済的には無価値だ。」
トランプはオバマケアは即刻廃止すべきだと主張する。
「疑問の余地はない。オバマケアは大災害だ。」
「民主党が『オバマケア』を無理やり成立させたやり方を思い出すと私は今でも怒りに震える。」
「私ほどビジネスというものを理解している人間はいない。より良い保険により安く加入したいのなら、消費者のために保険会社を競合させることだ。私の理屈通りに事を運べば、我が国の医療制度も、そして経済もすぐに上向くだろう。」
経済政策
経済政策については、トランプは「経済こそが大事なのだ。愚か者め」という題の章を設けているが、内容は抽象的で、具体策はない。
「私は金持ちだ。半端でない金持ちだ」、と言い出したかと思うと。
(本の最後にトランプのバランスシートが掲載されている。それによると総資産が92億ドル、負債5億ドル、純資産87億ドルとなっている。トランプは過去5年間で、1億ドル以上寄付したという)
「社会保障に手を付けるべきではない。議論の余地は全くない。」
と高齢者にリップサービスをして。
「米国に仕事がない。仕事が消え去ってしまったのだ。だから、中国、日本、メキシコといった国々から雇用を取り戻さなければならない。」
この章の最後はこんな終わり方だ。
「そして今、私は米国のために戦う。私は米国に再び勝利して欲しいと願っている。そしてそれは可能なのだ。
我々がすべきことは、勝利のために専心し、かつて『メイド・イン・アメリカ』が持っていた名誉を取り戻すことだ。」
(筆者コメント:具体策はなにもない。米国企業が外国に生産を移しているのは、経済合理性のためであり、外国製品を買っているのは、ほかならぬ米国民だ。これでは何をすればいいのかわからない、と言っているのと同じことだろう)。
「ナイスガイは一番になれる」
「ナイスガイは一番になれる」という章もある。
「断っておくが私は「ナイスガイ」だ。本当だ。」
この章で出てくる例は、メイシーズのCEOと長年良い関係を結んできたが、トランプのメキシコに関する発言で、メイシーズはトランプとの関係を断つとプレスリリースした、とか、NBCはトランプの関係するミスユニバースなどのショーのオンエアを拒否したので、トランプが訴えた、とかいった話だ。
おまけに、
「言っておくが私の髪はすべて自毛である。」
武器を持つ権利
トランプは武装する権利を擁護する。
合衆国憲法修正第2条は、市民が武器を保有し、携帯する権利を保障している。トランプ自身も武器を持っており、銃の「コンシールド・キャリー」(外から見えないようにしていれば銃を持ち歩ける)の許可証も持っていると。
(筆者コメント:これで一定のNRA票は確保できるだろう)。
メディアやロビイストを相手にしない
トランプは、メディアとは常に敵対している。また、選挙運動はすべて自分の金で運営しているので、ロビイストの入り込む余地はないと。
「メディアというものは恥ずかしげもなく嘘をつき、ニュースを捻じ曲げてしまうのだ。あらゆる世論調査が、人々がもはやメディアを信用していないことを示している。」
税制
トランプは、「私ほど税法を理解している政治家は他にいない。米国の税制はすべての米国人にとってフェアで、もっとシンプルな制度に変えなければならない」という。
トランプの税制改革案は、0%、19%、20%、25%の4つの税率にする。さらに。相続税をなくす、というものだ。金を稼いだのは故人で、税金はすでに支払われているからだ。
大金持ちの控除の多くは廃止するというが、相続税をなくすことは、大金持ち優遇とみられても仕方がないだろう。
しかし、減税につながる税制改革案は一定の支持が得られるだろう。
過去のセクハラ
ヒラリー陣営から過去のセクハラを攻撃されている。これについては、トランプ自身は次のように言っている。
「私は、自分の今までの女性への接し方を、これ以上ないほど誇りに思っている。」
この件に関してもっとも的確な意見を行けるのは、娘のイヴァンカだろう。私の子供たちは私のために働いているだけでなく、私が批判された時には真っ先に弁護してくれる。このことも私にとって大きな誇りだ。
この本で、あきらかに、トランプは保守派、中産階級、労働者階級、高齢者の票にターゲットを絞って、これらの人へのリップサービスに努めている。オバマ=民主党より、ましではないかと思わせたいのだろう。
今回の大統領選挙の結果は、まともにいけばヒラリーの勝ちだろうが、議会でも少数派となっている民主党から米国民の支持が離れている傾向があるので、民主党から再び大統領がでるかどうか予断は禁物である。
大統領選挙が終わるまでの賞味期限の本かもしれないが、トランプの主張はよく理解できた。
とりあえずは、あまり積極的に読む必要はない本なので、上記あらすじを参考にしてほしい。
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