2016年11月20日

日本核武装計画 トランプ発言で勢いを得るか?田母神さんの日本核武装20年計画



トランプ次期米大統領が選挙運動期間中に、北朝鮮の核に対抗するために、日本も韓国も核武装したらよいという発言をしていることが、マスコミでも取り上げられている。



「富士山噴火」などのクライシス小説を得意とする高嶋哲夫さんの「日本核武装」という小説も売れている。

日本核武装
高嶋 哲夫
幻冬舎
2016-09-23


同じような題名だが、元自衛隊幕僚長の田母神さんの「日本核武装論」を読んでみた。

田母神さんの本は、以前「座して平和は守れず」という本のあらすじを紹介している



この本ではあまり参考になるデータ等は紹介されていない。

たとえば、世界の核保有国のリストはあるが、保有核弾頭数は記載なく、どこがどれだけ核弾頭をもっているのかわからないので、この辺りはこのブログで紹介している元陸将補の矢野義昭さんの「核の脅威と無防備国家日本」という本のあらすじもあわせて参照願いたい。



田母神さんは日本の工業技術をもってすれば、核爆弾製造など簡単にできるだろうという前提でこの本を書いているので、本当に日本でも核爆弾ができるのかどうかは、このブログで紹介している「日本は原子爆弾をつくれるのか」のあらすじも参照願いたい。



筆者はこの本を読んで、田母神さんは、太平洋戦争に突入していった旧陸軍軍部のような発想の人だと感じた。

すべてが楽観的な見通しに基づいて議論しており、特に日本がNPT(核拡散防止条約)から撤退して核爆弾を製造し始めたら、当然予想される世界中からの制裁(当然エネルギーと食料の供給がストップすることだってありうる)にどのようにして耐えていくのかというロジスティックスを全く考えていない。

上記で紹介した「核の脅威と無防備国家日本」も同様の内容の本で、どちらもスキだらけで、突っ込みどころがありすぎる。

田母神さんの主張は、この本の「はじめに」で明らかにされている。要約すると:

「バブル崩壊以降の日本経済はひどいものだった。アメリカがもくろんだ通り、日本は弱体化し、世界一と言われた日本経済は海の底に沈んだ。

こんなことになった根本的原因は、日本がアメリカに守ってもらい、アメリカに依存して生きてきたからということに行きつく。

日本の政治家に日本派はほとんどいない。いるのはアメリカ派と中国派だけだ。しかし、日本人もバカではない。数少ない日本派の政治家の安倍晋三を総理に据え、ようやく踏ん張りを見せ始めた。

その一歩がアベノミクスだが、これだけでは不十分だ。憲法改正、自衛隊の国防軍化、自主防衛体制の確立が不可欠だ。

そもそも自分の国を自分で守れない国は、世界では独立国の扱いをされない。いくら経済が強くても、一流国とは絶対に認められない。だから、まずは自主防衛。そして核武装なのだ。

『世界中の国が願わくば核武装したいと思っている』『核武装をすれば国はより安全になる』と言っても、ピンとこない人が多いのがこの日本である。」


というぐあいだ。

「なんちゃってなか見!検索」で、目次を紹介しておく。目次を読むだけで、この本の内容が推測できるだろう。

はじめに 今こそ「核武装」の議論を

第1章 力なき正義は無能である

・アメリカの「正義」とはアメリカの「国益」である
・敗戦で吹っ飛んだ日本の正義
・領土問題でも無視される日本の正義
・力があるから正義が通る
・国連が国のエゴを抑え込めない理由
・国連常任理事国だけが持つ核の特権
・イスラエルとイランへの対応はなぜ違う?
・核廃絶を訴える人が核保有国を喜ばせている
・国際政治は子供の世界と同じである

第2章 抑止力としての「核武装」を日本に
・核武装で日本は安全になる
・広島・長崎から始まった核兵器の時代
・広島・長崎以降、核は一度も使われていない
・北朝鮮やイランが持っても核は二度と使われない
・核兵器は戦力の均衡を必要としない
・核の登場で世界は安全になった
・「核兵器が亡くなれば平和になる」の嘘

第3章 核武装国が言う「核廃絶」に騙されるな
・核武装国の本音
・日本のリーダーたちはなぜ騙されるのか
・発言力は軍事力と経済力で決まる
・憲法改正がなぜ必要なのか
・冷戦終結後、アメリカの日本弱体化計画が始まった
・アメリカに守ってもらっている限り、経済も良くならない

第4章 「核武装」の言論統制に怯むな
・核武装を考えていた日本の首相たち
・非核武装には外務省も反対だった
・「核の傘」と引き換えに宣言された「非核三原則」
・そして核武装論は復活した
・唯一の被爆国には核武装する権利がある
・「核武装で日本は孤立する」の嘘
・できない理由ばかり並べる人たち
・核アレルギー拡大に利用された原発事故
・「日本も核を持て」とアメリカが言っても反対するのか?

第5章 日本が核武装国なら「尖閣問題」は起こらなかった
・国際法で中国船を排除できない日本
・「太平洋をアメリカと2分したい」と言った中国
・「アメリカが永久に日本を守ってくれる」という幻想
・アメリカの「核の傘」がなくなったら…
・核武装すれば中国は尖閣に近寄れない
・現在でも「日本は核を絶対に使いません」とは言えない

第6章 世界平和は「核武装」によって保たれる
・「生活が豊かになれば戦争はなくなる」の嘘
・軍事バランスの均衡が戦争を抑止してきた
・経済力に見合った軍事力を持たないとその地域は不安定になる
・日本が核武装していれば拉致問題も起こらなかった

第7章 核武装国にならなければ一流国になれない
・アンバランスな日本の経済力と発言力
・自分の国を自分で守れない国は常任理事国になれない
・核武装は一流国の条件である
・相手の嫌がることをするのが外交である
・核武装国となれば日本と仲良くなろうとする国が増える

第8章 日本核武装20年計画 前編 武器輸出解禁〜非核三原則見直し
・核武装20年計画で日本に鉄壁の守りを
・核武装20年計画その1−武器輸出の解禁 ひそかに武器をつくって国産体制に切り替えよ
・核武装20年計画その2−国民の意識改革
・核武装20年計画その3−憲法改正
・核武装20年計画その4−非核三原則の見直し

第9章 日本核武装20年計画 後編 レンタル核〜核実験
・核武装20年計画その5−核兵器の貸与を要求
・核武装20年計画その6−ニュークリア・シェアリングの実施
・核武装20年計画その7−核開発の意思表明
・核武装20年計画その8−NPT脱退
・核武装20年計画その9−核開発の実行
・核武装20年計画その10−核実験

筆者が冒頭に書いたNPT条約から脱退した場合の制裁については、田母神さんは次のように述べている。

「インドやパキスタンの場合はアメリカが制裁を呼びかけ、日本などが同調したが、それはあくまでもインド、パキスタンの場合だ。日本とアメリカは同盟国であり、日本はアメリカに黙っていきなり脱退をするわけではないのだ。

核武装の意思をアメリカに話した段階で、もしアメリカが絶対反対と言い、それでも日本が核武装を行う場合は、その時点で日米安保を破棄するなりして同盟関係も壊れる可能性が高い。そうなったらアメリカも日本いじめに走るかもしれないが、そうならないように事前の説得を行うわけである。

そして、インドやパキスタンの例を見ればわかるように、たとえアメリカを中心とした国際社会の非難を浴びたとしても、それは核を保有するまでの話で、持ってしまったらその国を無視することなど結局はできないのだ。

アメリカは中国と組んで日本の孤立化を匂わせながら、日本が核保有を断念するように仕組んでくるかもしれない。こうなると国内でも、アメリカに見捨てられて日本は生きていけるのか」といった弱気な世論が出始め、政府もおろおろするというのがよくあるパターンだ。だが、核武装に踏み切る以上、アメリカの意地悪というのは初めから織り込み済みにしておかなければだめだ。

そうなってもいいように自主防衛の体制を築いておくわけで、そもそも核武装するのはアメリカに依存しない本当の意味での独立国の体制をつくるためなのだから、「アメリカに見捨てられては困る」というのは本末転倒なのである。

だいたい、インドやパキスタンを見捨てなかったアメリカが、「核武装するなら日本とは縁を切る」などと脅しで言うことはあっても、本気でいうことはないはずだ。

中略

アメリカは日本に防波堤の役割を担ってもらわなければ困るはずなのである。

つまり、核兵器を持つまでは、アメリカからの意地悪もある程度は覚悟しなければならない。しかし、(中略)核保有にまでたどりつけばそこでおしまい。向こうが勝手に「ハイ、それまでよ」と挙げたこぶしを下してくれるのである。」


超楽観論である。これが筆者が田母神さんを「太平洋戦争に突入していった旧陸軍軍部のような発想の人」と評する理由だ。

さらに、

「近年南シナ海で中国に脅かされてきたASEANの国々や日本の原発を買おうとしているインドは、日本の核武装を支持し、応援してくれる可能性が高いのである。

いずれにしても日本の技術力をもってすれば、核開発に入ってから核兵器を作り上げるまでに「持っているぞ」を見せるだけのものなら1年以内、きちんとつくっても2、3年あれば核兵器は完成することだろう。」


と言い切っている。

ASEANとインドについては、田母神さんが出席した米国が毎年主催している世界の空軍の参謀長会議での、インドの空軍参謀長やインドネシアの参謀総長との会話を根拠としている。しかし、この程度の立ち話?で、ASEANとインドは応援してくれる可能性が高いと断言できるのか、全く疑問である。

また日本の技術力については、冒頭に記した通り、全くの思い込みで、なんの根拠もない。

筆者の大学の先輩も含めて、日本の原子力技術者は、研究の際の被ばくに備えて、精液を保存している(正確には、していたというべきかもしれない。現在はどうしているのかわからないが、たぶん同様だと思う)。

原子力の平和的利用の場合でも、被ばくのリスクがあるのに、「日本は原子爆弾をつくれるのか」で紹介したような、複雑な構造の原子爆弾をつくる際の被ばくのリスクを考えると、原子爆弾開発には、良心的就労拒否の研究者も多数でてくることが予想される。

Implosion_bomb_animated








出展:Wikipedia

田母神さんは、この本を「日本国の平和と安全のため、豊かな未来のために、我々は核武装を目指すべきである」という言葉で結んでいる。

トランプ次期大統領の発言で、半信半疑の人も含めて、やや勢いを得ている日本核武装論だが、依然として日本国民の少数意見であることは間違いない。

トランプ外交の展開によっては、検討すべき課題となるかもしれないが、もしNPT条約を脱退し、核武装を進めるなら、世界中から制裁を受ける前提で全てを考える必要があるだろう。

筆者は日本核武装論は日本の国益にも国民感情にも反すると思うが、興味のある人は、今回紹介した三冊のあらすじを参考にして、さらに自分で研究願いたい。


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Posted by yaori at 02:16│Comments(0)TrackBack(0)自衛隊・安全保障 | 田母神俊雄

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