2016年12月18日

元検事が明かす「口の割らせ方」 面白い事例が満載



検事出身の弁護士・大澤孝征さんが、自らの体験に基づいて語る本音を語らせる方法。図書館の新刊書コーナーにあったので読んでみた。

まず大澤さんは、本音を言わない理由として次の類型を挙げている。

1.自分自身を守るため
2.虚栄心やプライドなどの感情的な理由から
3.他人をかばうため
4.相手が信用できないため

このうち4の相手が信用できないためという理由が最も多いのではないかと。だから相手に本音を語ってもらうためには、相手の信頼感を得ることが最重要だと説く。


最初に自白を勝ち取ったケース

大澤さんがまだ検事駆け出しの時に、どうしても自白しない被疑者がいた。パン泥棒で、物証や証言は揃っているのだが、本人がどうしても自供しない。勾留期限もぎりぎりになっていた。

大澤さんは部長から、「ばか者!こんな事件を自白させられないで、どうする。これから警察署に行って調べなおしてこい。俺が署長に電話をしてやる」と怒られ、部長の車と専任の事務官をつけてもらって警察署に赴いた。

警察署では署長が出迎え、取調室に案内された。

これまで刑事たちが取り調べても全く自供しなかった被疑者に会い、刑事たちがお手並み拝見と見守る中で、新人の大澤さんは結局、陳腐な、当たり前のことしか言えなかった。

「いくら調べても、いくら考えても、犯人は君しかいないんだ。証拠から見ても、君がやったとしか思えない。だからもう、正直に話してもらえないか」

そうすると、驚いたことに、被疑者は、「検事さん、私がやりました、認めます」と自供を始めた。

大澤さんは「えーっ、認めるの?」と驚いたが、急いで調書を取った。

あとで、「なぜ急に言う気になったの?」と聞くと。

「いやあ、検事さんの顔ですよ。検事さんが入ってきたときの顔があまりにも真剣でいい顔をしていた。自分のことをこんなに真剣に考えてくれていると思ったら、私も嘘はつけませんよ」と語った。

全身全霊で相手にぶつかる、「取り調べは、捜査官の人間性に尽きる」のだと。

狭い密室で、話すものかとがんばる者と、何とか口を割らせようとがんばる者が必死でやりあうのだから、互いの人間性がむき出しになる。そこで真剣勝負ができれば、検事として大きな自信となる。

そのことを新人にわからせるために、部長は逃げ場のない状況に追い詰めたのだろうと。

このような自らの体験に基づく話が満載で、興味深く読める。いくつか事例を紹介しておく。


結婚詐欺師の告白

30代の風采が上がらない男なのに、美女ばかり10人くらいから、ほぼすべての貯金を奪った結婚詐欺の常習犯から聞いた話が面白い。

美人は実はそれほどモテないのだと。

女性同士のグループで、一番早く結婚するのは、3〜4番手の女性からで、美人は最後の方に残ってしまうことも多い。それは男性側に自信がないためだ。フラれる可能性が高いため、男性は一番の美人にはなかなか結婚を申し込まない。

でも一番の美人にしてみれば、自分よりきれいではない友人がどんどん結婚していって、なぜ自分が売れ残るのかという不満をおおいに抱いている、また、自他ともに認める美貌の持ち主だけにプライドも高い。いつか自分の美貌にふさわしい相手が現れるはずと信じている。

そこに結婚詐欺師は目をつける。

医師や大学教授、弁護士、公認会計士などの社会的信用の高い肩書の名刺を作るなど、小道具を準備して、用意周到に女性に近づく。

そのとき、さえない中年男であることが、むしろ真実味を高める。

「医者というけど、この風采だから少し結婚が遅れてしまったのかな。見た目はさえないけど、医者だから頭はいいだろうし、稼ぎもあるだろう」と思わせるような、いかにも本当の医者のように巧みに演じる。

最初は高級レストランなどで贅沢なデートをする。初期投資に金を惜しまず、どんどん金をつかう。

そうすると、「いままで恋愛に縁遠かった男が、自分にメロメロになって尽くしている」と思った女性の方が、いつのまにか結婚詐欺師に籠絡され、自分の貯金をほぼ全額巻き上がられてしまうのだ。

この話は、結婚詐欺師が自慢話として語ったという。罪を犯した人間であっても、他人から認められたいという「承認欲求」を持っているものなのだと。


警察の組織ぐるみの陰謀を暴く

県議会議員の息子が首謀者だった集団強姦事件で、「在宅送致」という方法で、軽微な事件として済ませようとしていた警察の組織ぐるみの陰謀を、現職の刑事を取り調べて暴いた話も面白い。

今ではこんなことは起こらないと思うが、有力な県会議員の息子が首謀者だったので、その議員に対する配慮から警察が組織ぐるみで隠ぺいしようと、出世コースから外れた刑事に担当させて「在宅送致」しようとした。

この刑事は、上からの命令で、やむなく調書をつくったが、自分でも憤懣やるかたなかったので、調書のなかで、被疑者たちは余罪があるようだと、さらっと書いていた。そこに大澤さんは気付いて、この刑事は、最初は否定していたが、必ず落ちると確信していたという。

そこで、刑事の良心とプライドに訴えかけた。

「被害者の涙を見た君が、こんな悪党どもを野放しにして、何も処罰しないような処分ができるのか。刑事として、悔しくはないのか!」

そうすると刑事から本音がでた。

「悔しいですよ!自分だってこんなの、納得できるわけがない」

「察してください。私だってこんなことはやりたくなかった…」

これを聞いて、大澤さんは、その足で警察署に乗り込み、署長に「事情はすべてわかっている。他の余罪をきちんと捜査しなければ、地検で独自に捜査して被疑者を逮捕する。そして公表する」と宣言した。

この事件は最終的に20数名もの逮捕者を出し、議員の息子はもちろん、主要な被疑者たちは10年以上の重い実刑が科せられたという。


チェーン店の店長の使い込み

大澤さんが弁護士となってからの有名チェーン店を展開するやり手の経営者の話も面白い。

30年ほど前の話で、内部告発で、ある店長の使い込みが疑われ、役員による調査では100万円の使い込みを認めた。

さらに、元検事の大澤さんに、まだ隠しているのではないか調べてほしいとの依頼が寄せられ、帳簿や領収書を調べて店長に厳しく尋ねたところ、1,000万円の横領を認めた。

そこで、経営者に刑事告訴を勧めると、経営者は1カ月考えさせてくれという。

1カ月経ったら、経営者から「1,000万円取り戻しましたから、もう本人を許してやってください。彼を呼び出して、先生の方から当座の生活費として100万円を渡してやってくれませんか」と連絡があった。

実は、あの店長が大澤さんの取り調べを受け、1,000万円という額を告白した経緯を店長会議で報告したところ、20数店ある各店舗の店長が恐れをなし、1カ月間どの店長も使い込みをしなかった。

だから、1カ月で前月比1,000万円の利益が上がったのだと。

たたき上げで、トップにのし上がった経営者は、やむを得ない出費の際には、店の売り上げをごまかして、ねん出するしかない店長の立場を知っていた。

そして、相手を許し、100万円を渡した理由は、あの男は、そのまま勤めあげれば1,000万円以上の退職金を支払うはずだった。

許して生活費を渡して温情を示してやると、あの男は今後もこの業界で生きていくはずだから、きっと経営者のことを神様のように思って周囲に吹聴するはずだと。

「多少の宣伝費だと思えば、100万円は安いものですよ」

平然とした顔でそう言ってのける経営者に、大澤さんは開いた口がふさがらなかったという。


裁判官の心を動かした妻の証言

裁判官の心を動かした妻の証言という話も面白い。

酒に酔って何度も他人の家に不法侵入し、住居侵入罪で問われていた男性の裁判で、執行猶予がつくかどうか微妙なケースがあった。

被告人尋問が終わり、奥さんが証人として、裁判官からの質問を受けた。

「奥さん、こんな事件を繰り返す旦那さんは、女として許せないとは思いませんか?」

「はい」

「はっきり言って、ひとでなしですよね」

「そうですね」

「あなたは旦那が戻ってきたら監督すると言っていますけど、こんな人にはいつか愛想が尽きるんじゃないですか?監督すると言ったって無理でしょう」

「いえ、私がきちんと監督します」

「なぜですか。なぜ、あなたはこんな人を監督できると言い切れるんですか」

「好きだからです」

50代の女性の、まっすぐな言葉に裁判官も検事も、一瞬言葉を失ったという。しかし、裁判官は執拗に食い下がり。

「では、あなたが監督していて、旦那さんが再びこんな事件を起こしたらどうしますか」

「私も刑務所に入ります。一緒に!」

何という愚直な言葉。しかし胸を打つ言葉だった。

裁判官はじっと彼女を見つめた後、夫に言った。

「被告人、今、奥さんが言ったことを忘れないように」

これで執行猶予が勝ち取れた。

この本の最後の章では、「実践編 相手の本心を知るためのQ&A」で、結婚して5年目の妻から寄せられた夫に対する疑念とか。新入社員が職場になじめず、何を聞いても「大丈夫」と言っていながら、いきなりうつ病の診断書を持ってきたケース、子供がいじめにあっているようだが、本人は何も言わないといったケースが取り上げられている。

大澤さんは、司法試験に合格した後、サークルの後輩に司法試験の指導をしていた。

司法試験に受かりたければ一日に12時間勉強し、さらに自信を持つためには16時間勉強しろと。

頭の良し悪しや才能のあるなしは関係ない。集中力を保てるかどうか、それを続けられる意思があるかどうか、それだけの話だと。

参考書は目次から索引まで5回精読するのだと。

筆者も実は、学生時代に3年生のときと、4年生の時に司法試験を受験して、最初の短答式で落ちて、全くかすらなかった。

元々あまり法曹職になりたいという強い希望もなかったので、4年で卒業して会社に就職したが、大澤さんの言うように一日に12時間くらいは集中して勉強できるようでなければ司法試験には受からないと思う。

筆者は到底それほど勉強していなかったから、司法試験に落ちるのは当然といえば当然だ。

元検事でカタい話題ではあるが、紹介されている話は面白い。たまたま新刊書コーナーに置いてあった本だが、大変参考になった。これだから図書館通いはやめられない。

一読をお勧めする。


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Posted by yaori at 01:44│Comments(0)TrackBack(0)趣味・生活に役立つ情報 | ノンフィクション

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