2018年05月11日

おとなの法律事件簿 今度は家庭編 ストライクゾーンがわかる



ガンホー・オンライン・エンターテイメントやティーガイアなどのIT企業の監査役や桐蔭法科大学院長としても幅広く活躍している蒲弁護士が、5年間「ヨミウリオンライン」の「おとなの法律事件簿」というコラムで書いた事例(フィクション)から22ケースを選んで編集したもの。最後の第22ケースは120年ぶりの民法改正について紹介している。

民法改正は、元々は「ヨミウリオンライン」で2015年に紹介された話題だ。なかなか国会で成立せず、やっと2017年に民法改正が国会で成立し、2020年4月に施行されることになった。

22のケーススタディは身近な話題ばかりで、「ヨミウリオンライン」に掲載した内容に、最新の判例や法令等を加筆・反映してアップデートしている。

この本で取り上げている身近な話題は次の通りだ。

これらの話題に関して、プラスになる判例等とマイナスになる判例等の両方を紹介し、どの辺が今の裁判所のストライクゾーンなのかが大体わかる。その意味でも実務家ならではの役立つ本だ。

第1章 転職、起業に関わる諸問題

CASE1 自分の名前で検索すると悪い情報が…。ネットの検索結果は削除できる?

このケース1は、アマゾンの「なか見!検索」で立ち読みできるので、こちらをクリックして見ていただきたい。

前作と同様、個人情報に関する最新のトピック、今回はEUで始まった「忘れられる権利(現在は消去権と呼ばれている)」について紹介していて参考になる。

CASE2 会社に内緒で副業を始めたいが、何か問題になる?

筆者も会社の人事部のOKを取って、会社員と審査員の二足の草鞋(わらじ)を履いて10年間、本業(子会社管理・統制業務)に直接役に立つ副業を続けてきた。結局副業が本業となって、会社を設立したようなものだ。自分のキャリアデベロプメントプランを考えて、積極的に副業を身につけることをおすすめする。

CASE3 自宅を利用して民泊を始めたいが、何に気をつければいい?

日本には民泊を規制する法律が何種類もある。民泊を始めるには、どの法律に沿って開始するのかで、次の選択肢がある。
・「旅館業法」(許可が必要)
・国家戦略特区の「特区民泊」(市長・区長の認定でOK。特区のみが対象)
・「民泊新法」(届け出だけでOK。年間180日まで)。
自分の住居に客を泊める余裕がある人は、どれが自分のニーズに合うのか見極めてスタートすることが重要だ。

CASE4 逮捕歴や懲戒処分歴、転職時に履歴書に書かないと経歴詐称?

いろいろな判例が紹介されているが、一言でいうと会社との信頼関係を根本から崩すような経歴詐称は、会社にバレると解雇等につながる可能性がある。

第2章 老親に関わる諸問題

CASE5 高齢の母を悪徳商法から守るにはどうすればいいか?

任意後見人制度法定後見人制度の活用。

CASE6 認知症の人が起こした事故における家族の責任とは

2016年3月1日の最高裁判決を紹介している。91歳の徘徊老人が、JRにはねられ死亡し、JRが遺族(要介護1認定の85歳の妻と遠隔地に住む長男)に720万円の損害賠償を求めていた裁判で、最高裁は家族の責任を否定した。

人身事故で電車の運行を止めた場合、家族に多額の損害賠償が求められるといういわば都市伝説があり、ネットでもいくつかの説が紹介されている。

一般化はできないが、事例によっては家族の責任が問われないケースもある、程度に考えておく方が無難だと思う。

万が一の事態に備え、賠償責任保険には入っておくほうが良いと思う。

第3章 子供に関わる諸問題

CASE7 子供が起こした事故、親はどこまで責任を負うか?

ケース7で紹介されている2015年4月9日の最高裁の判決は大変興味深い。小学校の校庭でサッカーボールでフリーキックの練習をしていた小学6年生の蹴ったボールが、たまたま校庭の外に出て、バイクで通りがかった85歳の男性がボールを避けようとして転んで死亡したという事件だ。

この判決で、最高裁は1審、2審の判決を破棄して、親の責任を否定した。

一方、小学5年生の児童が坂道を猛スピードで下って、老女に衝突し、老女が意識が戻らない状態が続いているという事例で、9500万円の賠償が認められた判決もあり、一般化はできず、事例ごとの個別判断が必要だろう。

CASE8 息子が同級生からいじめで大ケガ 法的手段は?

この例では、まず同級生の親、次に学校の責任を問えるか、親の慰謝料を請求できるか等について細かく解説している。もしこんなケースが発生したら大変役に立つと思う。

キーワードは「いじめ」。これを学校側が認識しているが、放置していたかどうかだ。

CASE9 娘の裸の写真がネットに流出、どうすればいい?

リベンジポルノ法のことが詳しく紹介されている。

このケースは、「SNSで知り合った人に裸の写真を交換」という事例で、本当にこんなケースがあるのか知らなかったが、この行為は「セクストーション」と呼ばれ、東京都では2017年12月に18歳以下の男女に自分の裸の写真を送るように脅す行為を禁止する条例を成立させているので、実際に多発しているようだ。

CASE10 血は繋がってなくても子供が欲しい! 特別養子縁組とは?

実親とは親子関係がなくなる養子縁組が特別養子縁組だ。

この特別養子縁組制度が成立した遠因を作ったのが菊田医師事件だ。

岩手県在住の産婦人科医が、妊娠中絶を考えている女性に出産を勧め、生まれた子を子宝に恵まれない夫婦に無報酬であっせんしたものだ。当時は現在の特別養子縁組制度に相当する法律が日本には無かったため、その際にはやむを得ず偽の出生証明書を作成して引き取り手の実子とした。それは実親の戸籍に出生の記載が残らないよう、また養子であるとの記載が戸籍に残らないよう、そして養親が実子のように養子を養育できるように配慮したためだった。

結局菊田医師は医師法違反などで同業者から告発され、有罪となったが、法律に違反しながらも100名以上の乳児の命を守ったことへの賛同の声が巻き起こり、特別養子縁組制度が誕生したものだ。

第4章 夫婦関係に関わる諸問題

CASE11 不倫をした夫から妻に対して離婚請求、認められる?

「踏んだり蹴ったり」判決として知られている1952年2月19日の最高裁判決で、有責配偶者からの離婚請求は認められないという判例が確立していたが、1987年9月2日最高裁判決は、その判例を覆す判断を下した。ただし、それは有責配偶者ならだれでも認められるというわけではない。

CASE12 妻と離婚しても子供と会える?

2013年12月23日に離婚調停中の男性が文京区の小学校に侵入し、次男と一緒に焼身自殺するという事件が起こった。

離婚してからも子供と面会できるかどうかは重要な問題だ。2012年の民法改正で、面会交流は明文化された。離婚後も親権を持つ親が、面会交流を認めない場合には、1日当たり5万円の支払いを命じた判決を正当と判断した最高裁判決(2013年3月28日)もある。

CASE13 妻と離婚したら自分の退職金と年金はどうなる?

年金分割制度が始まったが、離婚した妻が、元夫の年金、退職金の半分をもらえるわけではない。

会社員は3階建てと言われている年金制度の仕組みとか、別居期間はカウントされるか、退職金は対象となるのか、何年後にもらえる退職金まで対象となるか、どのように払うのかなど、具体的な内容について詳しく説明している。

第5章 身近な事件・事故に関わる諸問題

CASE14 愛犬が他人に怪我をさせた…。飼い主の責任は?

民法第718条第1項は、飼い犬が他人に損害を与えた場合、飼い主が責任を負う旨を規定している。飼い主が「相当の注意」を行っていれば、免責される場合もあるが、「相当の注意」を行ったという立証は非常に困難だ。

CASE15 プロ野球観戦中に打球が直撃して失明、誰に責任追及?

札幌ドームでファールボールが野球観戦中の女性の目にあたり、失明した事件で、2016年5月20日の控訴審の札幌高等裁判所は、3,350万円の日本ハムの賠償責任を認め、球場を管理する札幌ドームと札幌市の責任は認めなかった。

女性がボールの行方を最後まで見ていなかった点も過失相殺されている。

CASE16 自転車の危険運転による事故が多発、前科がつくおそれも

2015年6月1日に施行された改正道路交通法では自転車の危険行為として14類型を挙げて、安全運転違反者には自転車運転者講習の受講を命じることができるとしている。

第6章 住宅に関わる諸問題

CASE17 賃貸マンション退去時の補修費用、誰が負担?

筆者も誤解していたが、通常の原状回復のための補修費用は家主が負担するもので、賃借人には負担させられない。

第7章 相続や自分の死に関わる諸問題

CASE18 遺言書がないと、残された妻は兄弟に財産を奪われる?

まさにタイトル通りだ。子供がいないDINKS夫婦の場合には、残された配偶者に全財産を残すことを公正証書による遺言書にしておかないと、亡くなった配偶者の兄弟が「遺留分」を請求すると対抗できない。

CASE19 「全財産を兄に」と亡父が遺言、弟は1円も相続できない?

ケース18と同じ兄弟の遺留分の問題だが、蒲弁護士は法的解決でなく、まずは兄弟間でよく相談して解決することを勧めている。その通りだと思う。

CASE20 縁の切れていた亡父の莫大な負債、支払うべき?

本来相続開始から3ケ月以内に相続放棄はしなければならないが、後から巨額の負債があることが分かった場合などは、3ケ月を過ぎていても例外的に認められる場合がある。

CASE21 終活ブームの日本、尊厳死・安楽死の現状

米国のブリタニー・メイナードさんは2014年11月1日に予告通り「尊厳死」を選び、服毒死した。

この本では、究極の「終活」ともいえる「尊厳死」と「安楽死」の違いなど、具体的な事例を挙げて説明している。

第8章 総合編

CASE22 2020年4月施行の改正民法、ポイントを教えて

120年ぶりに全面改正される改正民法の主なポイントを紹介している。

1〜3年の短期消滅時効の廃止、法定比率の引き下げ(これにより保険料に影響がでる)、保証人の責任限度、敷金は原則返還、購入した商品の欠陥(「瑕疵担保」という難しい言葉はなくなるようだ)、定型約款などについての変更点を解説している。

改正民法の施行は2020年4月1日だ。オリンピック直前には改正民法が話題になることだろう。

以上のように、しろうとにも大変分かりやすく、かつ、話題としても面白い。この本はオンデマンド出版なので、ネット販売と一部の大手書店のみで取扱っており、一般の書店には並んでいないため、まずはアマゾンの「なか見!検索」で、立ち読みしてから購入することをお勧めする。


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Posted by yaori at 18:18│Comments(0) 趣味・生活に役立つ情報 | 蒲俊郎