2020年04月26日

上級国民/下級国民 コロナ対策でもその差が出ている



池袋で旧通産省工業技術院の飯塚幸三元院長(88歳)が、自動車を暴走させて、31歳の若い母親と3歳の女児を死亡させ、10名を重軽傷させた「池袋自動者暴走死傷事故」は2019年4月19日に起こった。



あの痛ましい、そして高齢者の運転に関する日本人の考え方に大きなインパクトを与えた死傷事故の直後に出版された橘玲(たちばなあきら)さんの本。

このブログでも、多くの橘さんの本のあらすじを紹介している。いつもながらキャッチーな話題をいち早く取り入れ、持論を展開しているのはさすがだ。

池袋事件の犯人の飯塚元院長は、2020年2月に在宅起訴され、いまは「飯塚被告」となったが、事件発生当初は、逮捕されず、朝日新聞、毎日新聞、東京新聞などが、「飯塚さん」と呼んだことから、日本全体で批判の渦が巻き起こり、「上級国民」という言葉が生まれ、流行語大賞にもノミネートされた(ちなみに、「上級国民」は2015年にオリンピックエンブレムの盗作疑惑の時も流行語となっている)。

読売新聞が「容疑者」と呼ばない理由について、紙上で弁明している通り、飯塚被告が逮捕されなかったのは、高齢で事故で骨折して入院したからで、新聞が「さん」付けしたのは、「容疑者」という表現は、逮捕や指名手配されないと使えないからだったが、理屈は通らず、「上級国民」という表現が広まった。

この本では、日本のみならず、世界でも、「上級」、「下級」の分断が進んでいる現状を紹介し、そんな状況下で生き抜く方策を提言している。

次は一人当たりGDPの世界ランキング1位〜25位の表だ。赤字になってい部分が日本だが、最新の2018年は、26位(39,308ドル)なので、この表から脱落している。

gdp_percapita_ranking1-25














出典:ファイナンシャルスター

橘さんは、平成年間は「日本がどんどん貧乏くさくなった」時代だという。

日本の雇用に関しては、一橋大学の神林龍教授の本から、1982年から2007年の間の男女年代別、若年女性、若年男性の正社員、非正規社員、自営業、パート/アルバイト、無業者の比率を比較している。



18〜54歳の男女合計での変化は次の通りだ。
      1982年     2007年    差
正社員     46%      46%     0
非正規      4%      12%    +8%
自営業     14%       7%    −7%
無業者     26%      23%    ー3%

つまり全体としては、正社員比率は46%で変わらずだが、自営業と無業者が減ったので、非正規比率は4%から12%に増加している。つまり、正社員の雇用は維持されているのだ。

一方、22〜29歳男性で見ると、次の様に変化している。
      1982年     2007年    差
正社員     75%      62%    −13%
非正規      4%      15%    +11%
無業者     10%      16%    + 6%

若年男性では、もろに正社員が減り、非正規と無業者が増加していることがわかる。

22〜29歳女性では、正社員は40%⇒43%とあまり変わらないが、無業者が43%から26%に減り、非正規雇用が5%から22%に増加している。専業主婦が減り、非正規雇用で働く主婦が増えたということだろう。

       1982年     2007年    差
正社員     40%       43%     +3%
非正規      5%       22%    +17%
無業者     43%       26%    ー17%

今は、コロナ禍による出社自粛要請により、正社員のみならず、非正規・自営業の人も減収で大変だという状態は変わらないだろうが、平成を通してみると、年功序列・終身雇用の日本型雇用慣行は維持されたが、それは若者(とりわけ男性)の雇用を破壊することで、中高年の雇用が維持されているのだ。

欧米諸外国と同様の「同一労働同一賃金」も、2020年4月から大企業に適用されることになっているが、団塊の世代は、75歳以上の後期高齢者がほとんどで、現役労働者ではないので、「同一労働同一賃金」を導入しても、彼らの既得権侵害にはならない。

日本社会では、団塊の世代が新聞を読み、本・雑誌を買う人たちで、活字メディアにとって、団塊の世代を批判することは最大のタブーになっていると橘さんは言う。

団塊の世代は政治家にとって最大の票田で、団塊の世代の利害は「年金」だ。だから社会保険改革は誰も言い出せない。また、誰も興味がない。令和の今後20年間はひたすら対症療法を繰り返して、年金が破綻しそうになったら、保険料を引き上げて、2040年以降の高齢化比率下落を待つというのが某若手官僚が語った「霞が関の論理」だと。ちなみに、2045年はAIが人間の知能を超えるといわれるシンギュラリティの予想年だ。

橘さんは、”「モテ」と「非モテ」の分断”という題で、学歴、年収、結婚などを取り上げている。

社会学者の吉川徹さんの「日本の分断 切り離される非大卒若者(レッグス)たち」という本を引用し、2000年代に流行語になった「下流社会」は、学歴にかかわらず、だれでもが下流に落ちる可能性があるという内容だったが、現代日本社会においては、「下流」の大半は高卒・高校中退の「軽学歴」(レッグス=Lightly Educated Guys)だと結論づけている。

学歴と年収はおおむね比例する。







次に、「モテ」の例として、結婚率を取り上げている。

男性(30〜39歳)の未婚率は、1970年代までは10%以下だったが、2015年には35%に上昇している。30代になれば、だれもが結婚するのが当たり前の時代から、3人に一人が40手前まで独身という時代になっている。一方女性の未婚率も上昇したが、23.9%、つまり4人に一人にとどまっている。

50歳時の未婚率も男性23.4%に対して、女性14.1%とかなりの差がある。

男性の未婚率と年収とは逆相関関係があり、年収300万円以下では、3割、200万円以下では4割が生涯独身だが、年収600万円以上で9割、1,000万円を超えると95%が一度は結婚している。

このことから、橘さんは、現代日本社会は「モテ」る男が、結婚と離婚を繰り返す事実上の「一夫多妻制」だと指摘する。つい最近の例の東出昌大さんのことを思い出してしまうが、(東出さんが身長189センチもあるとは知らなかった。)先進国では共通に見られる傾向であると。

一方、若い女性の「エロス資本」についても紹介している。若い女性は期間限定ではあるが、大きな「エロス資本」を持っており、それを資本市場でマネタイズしているのだと。

もっとも、コロナ禍の現状ではエロス産業も閉鎖しているので、そこで働く人(「黒服」も含めて)は大変だと思う。一時しのぎではあるが、一時金の支給が待たれるところだ。

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キャサリン・ハキム
共同通信社
2012-03-03



この格差拡大社会を生き抜くために橘さんは、ロバート・ライシュ元米労働長官の「ザ・ワーク・オブ・ネーションズ」を紹介している。



クリントン政権時代に米国の労働長官も務めたUCバークレー教授・ロバート・ライシュ博士は「ザ・ワークス・オブ・ネーションズ」で、これからの仕事は”シンボリック・アナリスト”と”対人サービス業者”、”ルーティン労働者”に分かれ、米国の中産階級は崩壊すると予測した。

”対人サービス業者”は移民やウーバーなどのスキマビジネス、そして将来的には自動運転に脅かされる。”ルーティン労働者”の雇用は、工場がどんどん米国から海外に移転することで少なくなっている。

トランプ大統領は、これらの”対人サービス業者”、”ルーティン労働者”が支持層なので、工場の海外移転には断固として反対して、移民規制を強化している。トランプのやることはめちゃくちゃだと思うが、その着目点は優れていると言わざるを得ない。

一方”シンボリック・アナリスト”と呼ばれる、エンジニア、投資銀行家、法律家、経営コンサルタント、システムアナリスト、広告・マーケティング専門家、ジャーナリスト、映画製作者、大学教授などの「知的でクリエイティブな仕事」をする新上流階級は、米国の勝ち組として、全米の富を独占し、上位1%が米国の個人資産の42%を保有している。

ライシュの処方箋は、「みんなのための資本論」という映画でも紹介されている。大企業や高額所得者から税を徴収し、それを原資に公教育を立て直し、”シンボリック・アナリスト”を増やそうというものだ。


ライシュ教授の予想はその通りになったが、処方箋は機能していない。

低所得の家庭の子どもと高所得の家庭の子供の学力差は拡大するばかりで、家庭資産上位10%の家庭の子どもと、下位10%の家庭の子どもでは、SAT(大学進学適性試験)のスコアで、1985年当時で800満点中、90点差だったのが、2014年には125点に開いている。

教育では格差は埋められず、米国の教育格差はさらに拡大しているのだ。

米国には、「スーパーZIP」と呼ばれる高所得層・知識層の集まるコミュニティがあり、「スーパーZIP」の集積地が、ワシントンDC、ニューヨーク、サンフランシスコ(シリコンバレー)、ロサンゼルス、ボストンなどだという。

筆者も2000年まで米国に2期にわたって、合計9年間住んでいた。

当時は「スーパーZIP」という言葉はなかったが、昔から米国では富裕層が住む町と貧困層が住む町、混住の町がはっきり分かれていた。

その見分け方は、学校の教師の平均給与だ。

米国で不動産を持っていると、評価価格の5〜10%のスクールタックスがかかる。これは町の収入となり、町立の学校(幼稚園から高校まで)の運営費用に充てられる。いい教育をするために、高い給料を払って、いい教師をそろえる。教師の年収が高いということは、不動産の価格が高く、それゆえ高額所得者でないと住めないということになるのだ。

米国では様々なデータが公開されており、地域ごとの学校の先生の平均給与と人数も公開されている。リンク先はピッツバーグ市の例だ。

筆者が住んでいた米国ピッツバーグも、町ごとに教師の給与を決めており、教師の年収が最低の町では34,115ドル、最高の町は93,724ドルと3倍弱の差がある。筆者の住んでいた町の教師の平均年収は、81,518ドルだ。

これは米国の話で、日本では「スーパーZIP」の様な目に見える差別はないが、日本でも一億総中流は崩れかけ、貧富の差は拡大し、さらに再生産されている。コロナ禍でも、収入に全く影響が出ない人と、コロナ対策で閉鎖されて職を失った人の差は大きい。

この本の結論として、橘さんは、2つの生き方を挙げている。一つは、ライシュ教授の”シンボリック・アナリスト”的な専門職。もう一つは、ユーチューバーの様な「評判資本」をマネタイズする生き方だ。

いずれにしても、自分で生きる道を切り開かなければならないことには変わりはない。


いろいろな情報が得られて参考になった。いつもながら、うまく情報をまとめている本である。

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Posted by yaori at 13:42│Comments(0) 趣味・生活に役立つ情報 | 橘玲