2020年07月01日

大前研一の「経済を読む力」 新しい情報が満載で参考になる

2020年7月1日再掲:

大前さんが「大賛成」と、期待していたので、野村総研のエクゼクティブ・エコノミスト(役員待遇ということか?)で、日銀の政策委員会審議委員も務める木内登英(たかひで)さんのリブラに関する本を読んでみたので、追記する。



大前さんの本が出た当時は、リブラ協会は28の企業、団体が設立メンバーとして名を連ねていたが、2019年10月にペイパル、マスターカード、ビザ、e-Bay、メルカド・パゴ、ストライプ(決済端末サービス)が脱退し、2020年1月にはアフリカNo.1の携帯電話送金サービスのMペサを持つボーダフォンが脱退した

一方、電子商取引大手のShopifyと仮想通貨プライムブローカーTagomiの二社が今年新たにメンバーに加わっているが、脱退した企業に比べれば小粒を言わざるを得ない。

米国系企業がこぞって脱退した理由は、Yahoo!Newsに詳しく述べられているので参照願いたいが、米国議会からの警告状、フェイスブックの脆弱なセキュリティ、ガバナンスの問題などが指摘されている。

フェイスブックは2016年の米国大統領選挙の際に、イギリスのデータ分析・コンサルタント会社に8,700万人もの個人情報が流出して、そのデータがトランプ陣営に有利なニュースを流すことに使われたとして、米国FTCと50億ドル(5,400億円)という巨額で和解しており、同じ事件でSECからも1億ドルの罰金を科せられている。

2019年末にも2億6千万人分の個人情報が漏えいしており、これらの情報セキュリティ管理の甘さが、上記の一流企業がリブラ協会から脱退した主因であることは間違いない。

この漏えいは米国のユーザー情報の様だが、もしEUの人の個人情報が含まれていると、全世界の売上高の4%までというGDPR(欧州一般データ保護規則)による最高罰金が科せられる可能性もある。

また、フェイスブックは、米国で顔認証データを悪用したとして、総額350億ドルの賠償を求める集団訴訟も提訴されている。

そういうわけで、2020年にスタートする予定だったリブラも、コロナ禍もあるし、フェイスブック自体が踏んだり蹴ったりなので、そもそも本当にスタートできるのか不明だ。


2020年5月28日初掲:



大前研一さんの近著。2017年の「武器としての経済学」に加筆・修正して新書版にしたものだ。

武器としての経済学
大前研一
小学館
2017-09-29



「武器としての‥」というと、2019年8月に47歳で亡くなった京都大学准教授の瀧本 哲史さんを思い出す。

このブログでは瀧本さんの「武器としての決断思考」「僕は君たちに武器を配りたい」のあらすじを紹介しているので、参照して欲しい。

瀧本さんは東大法学部助手のあと、マッキンゼーに就職し、その後独立して「エンジェル投資家」としてスタートアップ企業に投資する傍ら、京都大学産官学連携センターの客員准教授として教鞭をとっていた。

武器としての決断思考 (星海社新書)
瀧本 哲史
講談社
2011-09-22



僕は君たちに武器を配りたい
瀧本哲史
講談社
2019-04-19



瀧本さんは、2019年8月に亡くなっているが、「2020年6月30日にまたここで会おう(瀧本哲史伝説の東大講義)」というタイトルの本が2020年4月に出版されたばかりだ。この本のあらすじは2020年6月30日にアップした




この本では、次のような質問に対するQ&Aという形で、ポイントをまとめているのでわかりやすい。これらに対する大前さんの答えももちろん書かれている。ネタバレになるので、各問の答えは紹介しないが、ところどころヒントや参考リンクをつけておく。

第1部 新聞ではわからない「株価と為替と景気」の新常識

Q 円安と円高、結局、どちらのほうが日本にとってよいのか?

Q 日本は将来、インフレになるのか? それにどう備えるべきか?


ヒント:「日本でハイパーインフレを望んでいる人がいるとしたら、それは財務省の役人だろう。」

Q なぜ日銀が株を”爆買い”にしているのに株価が上がらないのか?

参考:「日銀がETFを年間6兆円買うと、日経平均を2000円ほど押し上げる効果があるという試算がある。」

Q 「マイナス金利」を導入しても景気が良くならないのはなぜか?

ヒント:1,800兆円の個人金融資産を消費に向かわせる「心理経済学」

Q なぜ失業率が低いのに景気は回復しないのか?

Q 「GDPを引き上げる」ことがそんなに重要なことなのか?

ヒント:GDPを引き上げたいなら労働力人口を増やすこと(移民を増やす)と、政府が企業に補助金を出すことだ。しかし、企業が補助金を使って、設備投資や生産性を上げると、ホワイトカラー中心に失業者が増大する可能性がある。

Q 東京オリンピックを機に不動産価格が下がるという話は本当か?

ヒント:中国人の不動産投資は、中国国家外為管理局の海外不動産投資規制強化で先細りになっている。

Q 日本の「年金」は現実にはいつまで維持できるのか?

ヒント:人口ピラミッドで明らかなように、現役世代が退職者を支える賦課方式の日本の年金はすでに破綻している。米国のカリフォルニア州では移民を増やすことで年金問題を好転させた。移民受け入れは、反対意見も多く、一筋縄ではいかないだろう。

参考:レーガンは年金制度そのものを変えた。ー給開始年齢を67歳まで引き上げ、運用を自己責任(401K)とした。同時に大幅減税も実施したので、国民から反対の声は上がらなかった。日本でも受給開始を70歳、いずれは75歳まで伸ばす案が出されている。

2020年の人口動態

















出典:GDFreak!

Q 税金を上げたら景気悪化、下げたら財政危機‥‥どうすればいい?

第2章 新しい「世界経済」と「日本経済」への視点

参考:2019年9月に起きたサウジアラビアの石油施設への攻撃は、爆弾を抱えた18機の「カミカゼドローン」と7発の巡航ミサイルによるものとされている。この攻撃はどこが仕掛けたのかは不明だが、ドローンは1000KM飛んで、きわめて精密に目標を攻撃しているという。



ドローンは低空を飛んでくるので、レーダーに捕捉されにくく、イージス艦や迎撃ミサイルでは撃墜できない。ドローン技術は中国が圧倒的に進んでおり、今や1000機のドローンをプログラミングして、空中に文字を作ることもできるようになっているという。「カミカゼドローン」は、「貧者の戦略兵器」になる可能性があるのだ。

Q トランプ大統領がまき散らす世界的混乱をどう乗り越えるか?

ヒント:今、まさにフェイク情報発信源として問題となっているトランプ大統領の「ツイッター政治」だ。JPモルガンチェースによると、トランプのツイートは1日平均10回を超え、2017年1月の就任以来、1万4千回に達したという。

Q 「自国第一」の経済政策でアメリカの貧困層を救えるのか?

ヒント:世界の企業の時価総額ランキングによると、上位50社のうち、米国企業が32社を占めている。トランプ大統領がやるべきことは、これら巨大企業が全世界で創り出した莫大な利益をアメリカ本国に還元させることだ。

Q アメリカと中国の”報復合戦”に着地点はあるのか?

Q 韓国がいつまでも「経済先進国」になれないのはなぜか?


ヒント:イノベーション欠如、極端な学歴社会、ファミリー企業の「ガラスの天井」、頻繁なリストラ

Q ジョンソン首相「ブレグジット強行」で何が変わるのか?

ヒント:いずれ「イングランド・アローン」となるだろう。

Q フェイスブックの仮想通貨「リブラ」は世界をどう変えるのか?

大前さんはフェイスブックが提唱する「リブラ」に大賛成だという。「リブラ」は、グローバルな「リブラ協会」が管理する。大前さんが昔から主張している「ボーダレスエノコミー」に於ける仮想「グローバル政府」の通貨として「ユーロ」の様に管理すれば、基軸通貨ドルの国際決済システム(SWIFT)を握っている米国のトランプ大統領の「ツイッター政治」などに振り回されることはなくなる。

このままだと、中国共産党が監視している「アリペイ」や「ウィーチャットペイ」という中国発のデジタル通貨(いずれもユーザー数は既に10億人以上)が世界を席巻してしまう恐れがある。



Q これから成長するビジネスの「新たな潮流」は何か?

ヒント:シェアエコノミー、アイドルエコノミー、クラウド〇〇

Q 「フィンテック革命」をビジネスチャンスにつなげるには?

参考:スマホ決済はアフリカが一番進んでいるという。「バーティ・エアテル」という会社のモバイル決済サービスを使って、出稼ぎ労働者が、ある国の通貨を「エアテル・マネー」という仮想通貨に換えて送金すると、受取国の家族は自国の通貨で受け取れるのだ。

Q 日本の基幹産業「自動車」市場は今後どう変化していくのか?

ヒント:自動運転、トヨタモビリティ

第3部 「2020年代」のための成長戦略

Q 「高齢化」「少子化」社会でどんなビジネスチャンスがあるのか?

ヒント:具体例(今はコロナ禍で苦境に陥っているが)エアビーアンドビー軒先株式会社akippaビィ・フォワード

Q 外国人観光客「3000万人時代」に日本は何をすべきか?

Q 「月45時間」の残業規制は働き方・仕事をどう変えるか?

Q 日本人の生産性と給与を引き上げるカギ「RPA」とは何か?


ヒント:RPA(Robotic Process Automation)で、ホワイトカラーの間接業務の自動化。

Q 日本経済を支えるためのエネルギー政策はどうあるべきか?

ヒント:ロシアからの電力、ガス輸入を。

Q 増税せずに日本経済を再浮上させる成長戦略はあるか?

ヒント:「容積率」の拡大による建て替えブームと無電柱化

Q 日本の財政危機を乗り越える秘策はないか?

Q 企業の投資が低迷する中で「銀行」はどんな役割を果たすべきか?

Q 隣国ロシアとの関係改善が生む経済効果をどう最大化するか?


A(ここだけネタバレ) 北方領土交渉はなかなか進展しないが、この問題は、もっと大局的にな視点で考えるべき。ロシアとの関係強化により得られる経済的メリットは計り知れないほど大きい。

この本でも、大前さんはアベノミクスを厳しく批判している。

「20世紀に他国で展開された金利やマネーサプライ(マネタリーベース)をいじるマクロ経済政策をそのまま信じて展開するアベクロバズーカほど的外れなものはない。

7年目になっても成果がでていないのに、何の反省もない。こうした昔の学説を大胆に展開する”秀才”は、個々の日本人の生活や心理を全く理解していない。患者の診断をしないで旧式のテンプレートから処方箋を書くヤブ医者といっても過言ではないのだ。」


大前さんの提唱するのは、次のような政策だ。

 ―蠧誓如∨/誉任里茲Δ淵侫蹇爾紡个垢覯歙任鯒兒澆靴董◆峪饂裟如廚鯑各する。

日本の個人金融資産は1,800兆円あるので、これに1%課税して18兆円、不動産にも1%課税すると「資産税」合計で約30兆円になる。金持ちは課税されるくらいなら、投資してキャシュフローを稼ごうとするので、貯蓄から投資へという動きか加速する。

野村総合研究所が日本の富裕層は、127万世帯、純金融資産総額は299兆円と推計している。

◆〜蠡垣如贈与税を廃止する。これにより高齢者から資金ニーズのある若い世代に早めに資産が移っていくので、それが消費につながり、経済が活性化する。

 そして、死んでから資産に相続税を課すのではなく、生きているうちに資産の50%を国家に寄付してくれたら、残りの50%とその後稼いだ資産には相続税を掛けないという「資産寄付制度」をつくる。

資産を家族にではなく、国家に相続するという形で、富裕層の富の流動化を促し、それによって経済を活性化しようというアイデアだ。もし、寄付した人が、その後資産を失って、食うに困るような事態になったら、通常の2〜3倍の年金を保証するとかのセーフティネットを設ける。

ちなみに、相続税(税率10〜55%)基礎控除額が引き下げられたのは2013年で、それまでは5,000万円+1,000万円X相続人数だった。

遺族が配偶者+子ども2人なら、8,000万円まで課税無しだったのが、現在は3,000万円+600万円X相続人数となり、同じ遺族のケースだと、4,800万円以上だと相続税が課税される。

ぁ‐暖饑任蓮嵒娉嘆礎誉如廚謀彰垢靴董∪芭┐錬隠亜鵑箸垢襦F本のGDP550兆円の10%なので、約50兆円の税収となる。

これで「資産税」と「付加価値税」を合わせて80兆円の税収となる。

いつも通り、新しい情報が満載で、参考になる本である。


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Posted by yaori at 00:23│Comments(0) 経済 | 大前研一