2020年07月09日

池上彰の世界の見方 朝鮮半島 朝鮮半島情勢を理解するために



+++今回のあらすじは長いです+++

池上彰さんの「世界の見方」シリーズの朝鮮半島編。中田敦彦さんのYouTube大学でも取り上げられていた(次の第1回講義の25:20頃に池上さんの本の紹介がある)。





「世界の見方」シリーズは、現役高校生に対する授業をまとめたもので、今回は都立西高の生徒への講義録だ。「内在的論理」として、その国について筆者もこれまで知らなかったドライビング・フォースが紹介されていて参考になる。

いくつか紹介すると。

★北朝鮮建国の父、「偉大な領袖・金日成同士」と呼ばれる金日成の実像と公式伝記の比較表が参考になる。本名・金成柱が、ソ連の後ろ盾もあり「抗日運動の英雄・金日成」を名乗る。

金日成実像














































出典:本書63ページ

★農業のことを知らない金日成は、毛沢東の大躍進政策と同じような大間違いの農業政策を指示する。それにより、トウモロコシ栽培用の段々畑をつくるために、北朝鮮の山の木は切り倒されて、はげ山となり、洪水が頻発した。栽培したトウモロコシは悪天候に弱く、収穫できず、飢饉が発生した。また、洪水により運ばれた土砂は、北朝鮮の良好な近海漁場を埋め、沿岸漁業も壊滅状態になるという最悪の結果をもたらした。

★韓国にも建国神話がある。1910年の日韓併合後、1919年3月1日に朝鮮半島で200万人が日本の支配に反対して暴動を起こしたが、朝鮮総督府に制圧される(「3.1独立運動」。その後、日本統治反対派が上海に逃げ、中華民国の支援を得て「大韓民国臨時政府」を組織する。この抗日運動で日本と戦った「大韓民国臨時政府」の正当な後継者が「大韓民国」なのだと。

★1965年朴正煕大統領との間で「日韓基本条約」と「日韓請求権並びに経済協力協定」が締結される。締結後、日本は3億ドルの無償供与と2億ドルの借款を実施した。これが「漢江の奇跡」と呼ばれる韓国の経済復興に役立った。日本と韓国は一度も戦争をしていない。だから賠償金ではなく、経済協力で支援するという建前をとったのだ。これにより日本側は請求権問題は、「完全かつ最終的に解決した」という立場を取っているが、請求権協定には、「この協定をめぐって何か意見の相違があった時には、再び交渉する」という項目も入っているという。

★韓国の憲法裁判所が、李明博大統領時代に、慰安婦問題で日本と交渉しないのは憲法違反であるという判断を出しているので、韓国の政治家としては、それに従わなければならないのだと。池上さんは、少し突っ込んで慰安婦問題はどの国の軍隊にもあったこと、ソ連はスターリンの指示で、慰安婦を用意しなかったので、ソ連兵は占領地すべてで強姦・略奪と狼藉の限りを尽くしたことなどを説明している。

★池上さんは、ナチスの被害にあった国とドイツとの間では、「許そう、しかし忘れない。」という関係があるのだと。かつて、シンガポールのリー・クアンユーも同じように語った。日本と韓国も、将来的にそう言ってもらえるような関係が望ましいのだろうと池上さんは語っている。

★1960年代のスターリン批判後の中ソ対立とキューバ危機により、北朝鮮は自国は自国で防衛するという決意を固め、核兵器とICBM開発を始める。キューバ危機で、ソ連はもし核戦争の危険が迫ると、自国が大切で、周りの国を見捨てるので、いざ核戦争になった時に守ってくれる保証はない。だから、自分で守るのだと。

★金日成死後、金正日が引き継いだ後は、「先軍政治」というスローガンを掲げ、すべてにおいて軍が優先し、北朝鮮はテロ国家そのものだった。この本では、「1968年の青瓦台襲撃未遂事件」、「1983年のラングーン事件」、「1987年の大韓航空機爆破事件」、「1996年の北朝鮮潜水艦座礁事件」、日本人拉致事件、「よど号ハイジャック事件」が紹介されている。

ちなみに、池上さんは言及していないが、青瓦台襲撃未遂事件に対する韓国の報復工作が映画「シルミド」で取り上げられている1971年の実話だ。

シルミド/SILMIDO [DVD]
ホ・ジュノ
アミューズソフト
2006-06-23


この時期、1970年には「金大中事件」も起こっている。韓国も無茶なことをしている時代なのだ。

★日本人拉致事件

この本では、日本政府認定の17人の拉致被害者リストを掲載している。北朝鮮が入国を認めていない人もいるし、横田めぐみさんなど、既に死去していると北朝鮮が主張している人もいるが、決して忘れてはならないリストだ。

日本人拉致被害者









































出典:本書142ページ

★韓国の若者が、腐敗した李承晩政府を倒した1960年の「4.19革命」が、歴史的な成功体験となっている。

不正選挙に怒った大学生・高校生数万人が大統領官邸を包囲、抗議のデモを行う。運動は全国に広がり、李承晩は警官隊を導入、4月19日だけで、全国で186人が射殺され、6000人を超える負傷者が出た。政府は戒厳令を発令、軍隊の出動を要請するが、軍隊は動かず、李承晩はハワイに亡命した。これが「4.19革命」だ。

この本では、韓国の歴代大統領のリストが掲載されている。李明博元大統領と、朴槿恵前大統領については、それぞれ著書や関連書のあらすじを紹介しているので、参照願いたい。

大統領退任後逮捕されたり、自殺したりと、受難者のリストの様だ。

歴代韓国大統領










































出典:本書188ページ

★テレビの取材で2回北朝鮮に行ったことがあるという池上さんの体験談が面白い。10年ほど前にピョンヤンに行き、6年ほど前には軍事境界線近くの開城(ケソン)まで行ったという。

北朝鮮は、基本的には旅行者にはピョンヤンしか見せない。ピョンヤンは、映画のセットの様な街だという。表向きは高層ビルが立ち並ぶ都会だが、裏に回ると壁もちゃんと塗ってなかったりする。

必ず2人の案内人がつき、25階建ての高層アパートに案内されたという。

ピョンヤン市内








出典:Wikipedia

★エレベーターは、外国人に見せるためだけに運転しており、住民は普段は階段で上り下りする。取材した高層アパートの住人に、テレビディレクターが「水道の水は出ますか」と失礼な質問をしたので、池上さんはドキッとしたが、奥さんは「水は出ますよ。一日2回」と答えたという。

外国人が宿泊できるホテルは2か所しかなく、部屋は壁の片方が全面鏡張りになっている。マジックミラーで常時監視されているのだ。

★北朝鮮では国民を階層分けしており、最上位は「核心階層」(25%)で、政権に対して忠実な人たち、「核心階層」だけがピョンヤンに住める。次は「動揺階層」(55%)で、インテリや日本からの帰国者など。体制に忠誠を誓っているが、必ずしも信用できないので、監視対象。

下位が「敵対階層」(20%)で、日本統治時代に日本に協力していた人たちとその子孫、元大地主などで、特別監視対象であり、僻地への強制移住、配給停止(ピョンヤン以外の地方には配給はない)などを強いられており、飢饉で餓死する人はこの階層が多い。現在は、これら3つの階層をそれぞれ、64以上にさらに細かく分けているという。

★朝鮮戦争が勃発し、北朝鮮が攻めてきて、一気にソウルを占領し、韓国軍・米軍が釜山付近に押し込まれた原因の一つは、北朝鮮軍はソ連から貸与された250両の戦車があったが、米軍は山の多い地形の韓国には不適だとして、戦車は一台も配備していなかったことだった。

朝鮮戦争に関しては、ドキュメンタリー映画がYouTubeで公開されている。前編後編で90分の映画だ。





★ソウルにある米軍基地は、北朝鮮に近いソウルの北側にあって、いわば防衛線のようになっていたが、ジョージ・W. ブッシュ大統領の時に、ソウルの南側に移転した。当初は、北朝鮮の攻撃があったら、まっさきに米軍に死者が出るので、それが国内世論を盛り上げて米軍が参戦しやすいという「トリガー理論」(たとえば「リメンバーパールハーバー」、「リメンバーアラモ」といったのが有名だ)に基づいていた。

★朝鮮半島の核危機

当時は筆者も全く知らなかったが、クリントン政権時代の北朝鮮の核施設への攻撃計画のことが明かされている。北朝鮮は、自国の電力供給不足解消のために原子力発電を導入するという名目で、1985年にソ連から黒鉛炉型原子炉を導入。購入の条件は「核拡散防止条約」(以下「NPT」=Non- Proliferation Treaty)への加盟だったが、北朝鮮はIAEAの査察を拒否、世界各国の圧力で、ようやく1992年にIAEAの査察を受けたところ、使用済み核燃料からプルトニウムを密かに精製していた痕跡が見つかった。

もとから、電力供給が目的ではなく、自国は自国で守るという方針のもと、核爆弾を作る目的だったのだ。北朝鮮は1993年に「NPT」からの脱退を表明。危機感を抱いたクリントン政権は、北朝鮮の核施設に対する限定的な攻撃を計画する。当然北朝鮮は反撃するので、ふたたび挑戦半島が戦場になる可能性があるので、このとき在韓米軍兵士の家族を避難させている。当時NHKにいた池上さんは、もしかしたら戦争が始まるかもしれないという危機感を持って米国の出方を注視していたという。

日本では、ちょうど1993年7月の総選挙で、自民党が過半数を割り、野党に転落、その後、細川護熙政権、羽田孜政権を経て、自社さ連立の村山富市政権となって、驚天動地のまっただ中だったので、朝鮮半島のことはほとんど報道されなかった。

北朝鮮からの反撃があった場合の損害を推定させたところ、戦争開始から3ケ月以内に、米軍兵士5万2千人、韓国軍兵士49万人が死傷するという報告が出され、加えて多数の民間人も犠牲になるので、クリントン大統領は頭を抱えた。

そこで、ジミー・カーター元大統領を大統領特使として、北朝鮮に派遣して、金日成主席との会談で、北朝鮮は、核開発中止、「NPT]復帰の約束をし、黒鉛炉を廃棄する見返りとして、軽水炉の提供や以後北朝鮮に毎年食料と、火力発電用の50万トンの重油を供与することを約束した。

金大中政権の韓国も「太陽政策」として多額の資金を援助した。

北朝鮮は、この合意に沿って、黒鉛炉を廃炉にして、プルトニウム型の原子爆弾を作ることはやめたが、もう一つの原子爆弾の作り方であるウラン濃縮型の核開発をパキスタンから技術を得てひそかに進める。インドに対抗して核兵器を持っているパキスタンに北朝鮮はミサイルを売っており、密接な関係があるのだ。

ウラン濃縮型だと、ウラン鉱石は北朝鮮にもある。原子力発電所の建設は不要で、地下にウラン濃縮工場をつくってそこで秘密裏に核兵器用のウランを製造すればよい。原子爆弾については、「日本は原子爆弾をつくれるのか」のあらすじを紹介しているので、参照して欲しい。



2002年になって米国がこのことを突き止め、ケリー特使を派遣すると、北朝鮮はウラン濃縮型の核開発を認め、翌2003年に「NPT]を脱退する。

米国、ロシア、中国、日本、韓国は北朝鮮を入れた6カ国協議を始めるが、それからは北朝鮮のやり放題だ。

2005年に核兵器保有を宣言。
2006年に初の地下核実験を実施。平行して長距離弾道ミサイルの発射に成功。
2009年に二度目の核実験を実施。
2013年に三度目の核実験を実施。
2016年に四度目(水爆実験に成功したと発表している)、五度目の核実験を実施。
2017年に六度目の核実験を実施。
2018年に最初の米朝首脳会談がシンガポールで開催される
2019年に二度目の米朝首脳会談がベトナムのハノイで開催される
2019年に板門店で、米、韓、北朝鮮の首脳が会談

世界をだまして結局核兵器を持った北朝鮮の金一族は、これで一族安泰とほくそ笑んでいることだろう。核兵器を持った北朝鮮の金正恩は、選挙対策で外交の実績を欲しがる米国のトランプ大統領を手玉に取り、自信をもって、強気で交渉していることがわかる。

池上さんは、金一族の家系図を掲載している。

金一族家系図
























出典:本書215ページ

驚くのは金正恩の冷血さだ。金正日葬儀の時に金正恩と一緒に棺を運んだ体制トップ7人のうち、5人が2年後には粛清または更迭されている。

特に、上記の家系図にもある張成沢の処刑には、池上さんも衝撃を受けたという。張成沢は金正恩の叔父さんで、実質No.2と見られていたが、あっさりと銃殺された。張成沢は、金正日体制に替わった時、秘密警察組織を指揮し、1万人を処刑し、2万5千人を強制収容所に送ったといわれている。

テレビで放映されたマレーシアのクアラルンプール空港でのVXガスによる異母兄金正男暗殺も衝撃的だった。

次が池上さんがまとめている世界の核保有国リストだ。

核保有国と弾頭数









































出典:本書226ページ

核保有国に仲間入りし、金一族の独裁政治を維持するためには、身内も殺すという冷血な指導者が支配している国。そんな北朝鮮にまともに付き合えるとは思えないが、池上さんは当事者同士の話し合いで、核兵器非保有に合意したブラジルとアルゼンチンや、南アフリカなどの例を出して、核兵器の拡散を止めることは無理だと考えないほうがいいと高校生たちに力説する。

最後に民族差別につながる「朝鮮人だから」とか「韓国人は」とか偏見を持たないよう生徒に注意して、池上さんの講義は終わる。

この本を読んでいると、池上さんの知識の広がりは、どれだけあるんだと驚かされる。世界各地に、たとえば北朝鮮には2度行っているという池上さんの実地体験も貴重だ。

高校生向けの講義なので、質疑応答形式で進めていてわかりやすい。他の「世界の見方」シリーズも読んでみようという気になる本である。


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Posted by yaori at 15:01│Comments(0) 池上彰 | 韓国