2020年07月18日

断罪 村上誠一郎議員と古賀茂明さんの安倍政権批判対談



このブログで、著書の「日本中枢の崩壊」「信念をつらぬく」のあらすじを紹介した元経済産業省のエリート官僚の古賀茂明さんが、「自民党ひとり良識派」を自称する村上誠一郎議員と、2017年12月から2018年4月までの間で対談した内容をまとめた本。

以前、知人から借りて読んだが、集団的自衛権を考え直す上で、再度読んでみた。

日本中枢の崩壊
古賀 茂明
講談社
2011-05-20


信念をつらぬく (幻冬舎新書)
古賀 茂明
幻冬舎
2013-01-30



2018年5月に出版された本だが、いまでもこの本の議論は通用する。というか、安倍政権は、全く当時から変わっていないし、この2年間で何の問題も解決されていない。しいていえば、相手基地攻撃力をもつがゆえに、逆に相手からも最初の攻撃目標とされるイージス・アショア計画が撤回されたくらいだ。

さらに、2020年に入って、コロナウイルスとの戦いでは、だれが責任者なのかわからない衆愚政治により、コロナウイルスの日本全国への拡散を招いた(この文は7月18日にアップするが、残念ながら筆者は日本はコロナウイルス対策で失敗した唯一の東アジアの国になるのではないかと思う)ことで、安倍首相は一刻も早く退陣すべきだというこの本の主張に同意する。

村上誠一郎議員は、松島みどり議員のところでも触れたように、筆者の同級生で、みずから村上水軍の末裔と学生時代から言っており、愛媛2区から11期連続で衆議院議員に当選している。昔は普通の体形だったが、今は体重110キロあるという。

村上誠一郎議員は、自民党の中でも「ひとり良識派」として、安倍政権の政権運営について表立って反対するので、総裁選で安倍さんと戦って敗れた石破茂さんと一緒に、衆議院議員席の一番後ろの列で、「セントヘレナ島」のように、二人だけさらに飛び出て席があるという。
自民党ひとり良識派 (講談社現代新書)
村上 誠一郎
講談社
2016-06-15



村上誠一郎議員は、政治家4代目で、安定した選挙基盤を持っているからこそ、自民党執行部にもズバズバものがいえる恵まれた立場だ。

筆者自身も、当初は安倍政権に期待をしていて、株価上昇と「いざなぎ超え」の景気を結果として生んだアベノミクスを支持していた。しかし、首相在任期間が長くなるにつれて、どんどん欠点が見えてきて、あきらかな権力の濫用が目立ってきた。

モリカケ問題などの政治の私物化、安倍内閣に人事権を握られた官僚の劣化と、政権批判を忘れたマスコミの機能喪失、そして2020年に入ってからは、衆愚政治で結果的に日本を東アジアで唯一コロナウイルス対策で失敗した国へと導こうとしている。

この本の目次は次の通りだ。論点が整理されている。

はじめに 村上誠一郎議員
第1章 リベラル保守再生のためにー私たちの自民党改造論
第2章 国を亡ぼす忖度官僚は要らないー私たちの「霞が関:」改造論
第3章 破綻寸前の金融・財政をどう立て直すのかー私たちの日本再生論1
第4章 税と社会保障の一体改革を再びー私たちの日本再生論2
第5章 庶民を潤す真の成長戦略とはー私たちの日本再生論3
第6章 憲法改正をなぜ急ぐ?外交と安全保障をめぐるあやまちの糺す
第7章 日本を危うくする安倍政治に決別を
最終章 希望は教育の再生にあり
おわりに 古賀茂明さん

安倍政権の政権運営を考える上で、大変参考になった。

<官邸の官僚コントロール>

古賀さんは、官僚には3つのタイプがあるという。‥儀薪な出世を目指している人たち、官僚になれば食いっぱぐれがなく、勤めあげれば天下りして70歳まで生活が保障されるという「凡人型」、市民を助けるのが自分の仕事という「消防士型」。

村上さんは、このうち、今の霞が関を悪くしている元凶が一番目のタイプで、2014年の公務員法改正により、上級公務員の人事権を内閣人事局が握った。次官、局長、筆頭総務課長などの幹部職員だけでなく、候補者も入れた幹部候補名簿を作っているので、課長級まで内閣人事局が影響力を行使できるようになった。出世欲が強いエリート官僚ほど、官邸の鼻息を窺うようになったのだと。

たとえば、森友学園問題で、答弁した佐川元財務省理財局長。嘘で押し通し、証拠文書隠滅に携わった近畿財務局の部下を自殺にまで追い込み、安倍総理に恩を売り、最後は国税庁長官になった。

反対に、安倍政権に不利な真実を語った文科省元事務次官の前川喜平さんの場合、官邸が読売新聞に前川氏の出会い系バー利用などの個人情報をリークして、個人攻撃されて社会的に抹殺されそうになった。こんなことがあると、エリート官僚は、安倍官邸に少しでも逆らうと、個人攻撃までされると、びびって否が応でも「忖度」するようになるだろう。

<「安倍全体主義」の自民党>

村上さんは、第二次安倍政権となってから、かつての良き日の自民党の姿は急速に消え、党内の議論を許さない雰囲気が広がり、真剣な議論をする議員がいなくなりつつあると語る。自民党の税調も力を失っている。

象徴的なのは、集団自衛権の解釈変更の時に、弁護士出身の法律家や、東大法学部、筑波大付属高校の同窓議員は多くいたが、結局内閣案に反対したのは、村上さんと検事出身の若狭勝さんだけで、村上さんは衝撃を受けたという。

小選挙区制になったことから、執行部が選挙における公認・政治資金・比例の順位を一手に握ったために、下手に執行部に反対しようものなら、次の選挙で公認すら得られなくなってしまうからだ。それが自民党議員が勇気をなくした原因だ。

小選挙区制は、元々小沢一郎の党内支配のための道具で、それを完成形にしたのは小泉純一郎元総理だ。2005年の秋の郵政選挙で、小池百合子さんなどの刺客を対立候補として公認し、総理に盾突くと、公認まで外されるというトラウマを自民党議員に植え付けたのだ。

このことを如実に表すのが、河井夫妻の選挙違反事件だろう。河井夫妻は安倍首相と近いので、自民党は河井安里候補には1億5千万円の選挙資金を提供したが、現職でありながら落選した岸田派の溝手議員には、その十分の一の1千5百万円しか支援しなかった。

安倍官邸は、「官邸主導・政治主導」を大義名分にして、いつの間にか国会議員と官僚たちのアンダーコントロール化に成功した。これが政治や行政の混乱を招き、日本は滝つぼに向かっている。

事ここに至っては、安倍総理はいさぎよく武士(もののふ)として政治的及び道義的責任をとり、一刻も早く退陣すべきだ、日本を立て直すにはそれしかないと村上さんと古賀さんは完全に一致している。

<マスコミの安倍政権への屈服>

マスコミは政権に完全に抑え込まれていることが語られている。テレビ局は政権批判は怖くてできないし、新聞は親安倍と反安倍に二分されている。

古賀さんも、菅義偉官房長官と思いっきりけんかして、思いっきり干され、在京のテレビ局には出られず、関西の朝日放送のみ出演が可能なのだと。収入も激減したので、もう怖いものはないという。

<わが国の3大危機>

村上さんは、政治家は国民に対して責任をとらなければならない。安倍政権は国民をだましているとして、次のような「わが国の3大危機」という垂れ幕にして、このような問題先延ばしの政治をずっと続けていていいのかと、総選挙の時に街頭演説をした。

村上誠一郎選挙CP (2)



















出典:本書86ページ

財政再建のためには、増税が避けて通れないというのは共通認識だが、消費税を増税することは経済に悪影響があり、非常にパワーがいる。古賀さんは、いま一番早くやらなければならないのは、金融所得課税の総合課税化だという。格差是正にもつながる増税が今は大切なのだと。

<日本の安全保障>

村上さんは、日本では安全保障と防衛が同じような意味にとられていると指摘する。安全保障の要諦は、「敵を減らして、味方をふやす」ことなので、安倍さんのように敵ばかり増やしたら、いくら防衛予算を増やしても追いつかない。日中、日韓、日台、日露とどこもうまくいっていない。

これに対して、EUの安全保障政策には、見習うべきものがあると村上さんは語る。

EUができてから、ロシアから西側は戦争がないという前提が成り立つので、ヨーロッパの中では敵はいない。だから、それまで30万人いたドイツの陸軍はもう7万人くらいしかいない。これが安全保障なのだと。

安倍さんは戦後レジームからの脱却と言っているが、やっていることはその逆で、戦後レジーム(=「アメリカ追従」だと古賀さんは語る)にしがみついている。

<北朝鮮問題>

たとえば2017年7月の核兵器禁止条約も、唯一の被爆国でありながら、日本は締結していない。北朝鮮でさえ、2016年10月の核兵器禁止条約の制定交渉開始の決議では賛成したのに、トランプ大統領が出てきて、北朝鮮をやっつけるといったもんだから、途中で協議から抜けたのだと古賀さんは語る。

アメリカと北朝鮮が戦争になったとして、日本でどれだけの被害が出るのか聞いた日本のマスコミはいないという。アメリカではいくつかシミュレーションが出ていて、国防総省も議会に報告書を出している。アメリカの報道によると、核兵器を使わなくても最初の数日で最低でも3万人が死亡し、核兵器を使えば最大380万人が死亡する。

北朝鮮の核兵器は、いまやアメリカの脅威だ。北朝鮮を先制攻撃することは、アメリカのリスクを避けるための戦争なのだが、当然韓国と日本に甚大な被害が出る。しかし、その被害はアメリカが北朝鮮の核で狙われるリスクに比べれば小さいと報告書に書いてあったと古賀さんは語る。

古賀さんは、日本ではこういったシミュレーションが全く報道されないことを、旧知の東京新聞の望月衣塑子記者に伝え、望月さんは記者会見で菅官房長官に聞いたという。古賀さんが、望月さんが官邸から忌み嫌われる原因を作っていたのだ。ちなみに、望月さんは、「権力と新聞の大問題」という本を書いている。

権力と新聞の大問題 (集英社新書)
マーティン・ファクラー
集英社
2018-06-15



村上さんは、北朝鮮リスクに対して、次の3つの方策を考えているという。
1.圧力だけでは日本の安全保障に大きな危険を生じさせるから、今の安倍さんの圧力一辺倒をやめさせる。
2.日本が呼び掛けて、アメリカに対してアメリカが先に武力行使をしないと言わせる。
3.もし戦争が起きたら、日米間にどんな影響が出るのかをきちんと議論して、認識を正しく共有すること。

この3点が全くやられていないと指摘する。

<教育の再生>

最後に、村上さんの持論である、教育の再生について語っている。「教育は自己発見の旅である」というのが村上さんの人生のテーマだと。国際的に通用する人物を育てていく教育。留学も、卒業後も海外にとどまり、世界で通用するような人材となって帰ってこいと指導する。

村上さんの小学校の時の愛読書が、以前あらすじを紹介した「君たちはどう生きるか」だったと。

漫画 君たちはどう生きるか
羽賀翔一
マガジンハウス
2017-09-19



古賀さんは麻布高校のPTAで講演して、アジアの大学のランキングを示し、「優秀なお子さんだったら、シンガポール大学か清華大学か北京大学を目指してください」というのだと。

実際、古賀さんは30歳になる長男には、外資系の会社に勤めて、いずれ自費でアメリカでMBAを取り、そのままアメリカで就職しろと、ずっと言い続けているのだと。

村上さんは、日本には移民を増やすことが必要なことは、人口動態から明らかなので、アメリカの様な市民権を入口に問題を提起しようと思っていると語る。

古賀さんは、ドイツの例を紹介している。ドイツは移民を経済を支える人材とみなして、ドイツ語教育や職業訓練に力を入れ、フォルクスワーゲンなどの大企業も政府に移民受け入れを強く訴えた。だから、今や移民はドイツ経済の成長を支える重要な存在になってきている。

どちらも東大法学部出身、どちらも安倍政権から敵視されていることもあり、議論がかみあって面白い。

安倍政権を評価する上で参考になる本である。

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Posted by yaori at 00:00│Comments(0) 政治・外交 | 古賀茂明