2020年08月02日

パナマ文書 1150万件のタックスヘイブン文書が流出

パナマ文書 (角川ebook)
フレデリック・オーバーマイヤー
KADOKAWA
2017-09-05


中田敦彦さんのYouTube大学の「 税金を逃れる大企業」という講義で紹介されていたので読んでみた。



中田さんの講義では、ネタ本が今回紹介する「パナマ文書」ではなく、「脱税の世界史」という元国税調査官の大村大次郎さんが書いた本なので、プーチン大統領やイギリスのキャメロン元首相自身がタックスヘイブンの利用者に名を連ねていたと説明している。

しかし、実際はプーチン大統領自身が契約しているわけではなく、親しい友人のチェリストが契約者となっていたり、キャメロン首相は、お父さんがダミー会社を持っていたりするので(キャメロン元首相自身はその会社の取締役に名を連ねていた)、直接的にタックスヘイブンを利用しているわけではない。

それでもキャメロン元首相の場合は、キャメロン元首相自身がタックスヘイブン利用の脱税を強く批判していたこともあり、言行不一致として、英国民を裏切る結果となり、ブレクジット問題もからみ、パナマ文書公開後3ケ月で辞任につながった。

脱税の世界史
大村 大次郎
宝島社
2019-04-18



パナマ文書は、2016年4月に南ドイツ新聞を中心に、各国のメディアが協力して、パナマの法律事務所から週出したタックスヘイブンの会社を使った世界的なマネーロンダリング、資産隠しについて公開した秘密文書の総称だ。

南ドイツ新聞に協力したメディアは、国際調査報道ジャーナリスト連合 (ICIJ)をはじめ、このブログで紹介したスノーデン事件にかかわった英国ガーディアン紙、BBC放送、仏ル・モンド紙、ニューヨークタイムズ、アルゼンチンのラ・ナションなどだ。

パナマの法律事務所は、中国でも9カ所にオフィスを置いて、活発に商売をしていた。しかし、南ドイツ新聞は中国や香港のジャーナリストを誘わなかった。というのは、以前南ドイツ新聞と提携していた香港の「明報」が、前回のオフショア・リークス発表の時に、多くの中国の権力者の親族がタックスヘイブンにあるペーパーカンパニーでビジネスをやっていることを暴くと、数時間後には中国のほとんどの報道に検閲が入り、南ドイツ新聞とICIJパートナー各報道機関のサイトにもアクセスできなくなった。おまけに、「明報」主筆ケヴィン・ラウが公表直前にクビになり、何者かに路上でナイフで背中を6回刺されて重傷を負うということがあったからだ。

公開された秘密文書は、パナマに本拠を置いて、世界約50カ所に拠点を持っていたモサック・フォンセカという国際法律事務所の内部文書だった。モサック・フォンセカの2013年の売上は4260万ドルだったという。従業員数は588人、342人がパナマ、140人がアジア、40人が英領ヴァージン諸島。他に30カ国に50のオフィスがある。うち、9カ所が中国と香港のオフィスだ。

共同経営者のユルゲン・モサックはドイツ人で、父はナチス武装親衛隊にいたが、戦後米国に渡り、CIAの協力者だったらしい。

合計で2.6テラバイト、1,150万件、20万社以上のダミー会社の登録・運用関係の書類、連絡メール、ダミー会社購入者のパスポートコピーなどの本人確認書類が含まれていた。

過去、スノーデンファイルウィキリークスオフショア・リークスルクセンブルク・リークスなどの秘密文書流出事件があったが、それらはいずれもギガバイト台であり、パナマ文書の2.6テラバイトは桁が違う。

社内のメールなども含む秘密文書であり、厳重に管理されていたはずだが、小刻みに持ち出したとはいえ、これらだけのデータを持ち出せるのは、あきらかに管理者権限を持ったシステム関係者の仕業だと思う。実際、パナマ文書公開直後に、モサック・フォンセカのスイスジュネーブ事務所のシステム関係者がスイス検察当局に身柄を拘束されている。このシステム関係者が「ジョン・ドゥ(John Doe)」として、パナマ文書公開の中心となった南ドイツ新聞に持ち込んだ疑いが濃い。しかし、誰が持ち出したのかわからないまま、モサック・フォンセカは、2018年に廃業している。

モサック・フォンセカはペーパーカンパニーの名義上の取締役として、レティーシア・モントーヤというパナマ在住の女性を、なんと25,000社の取締役として登録していた。この本では、パナマ文書公開直前に、パナマを訪問した記者が彼女に会った時のことを書いている。彼女の報酬はわずか月400ドルで、パナマシティの郊外の貧民街に住んでいた。

巨大かつスペイン語など、複数の外国語で書かれているパナマ文書を解析するために、国際調査報道ジャーナリスト連合 (ICIJ)に参加する世界70カ国、約200人のジャーナリストが「プロジェクト・プロメテウス」と称して、総力を結集した。「プロメテウス」は、スタートレックシリーズに登場する宇宙船の名前にちなんでいる。

ICIJに参加するのは、推薦されるか、招待されないとメンバーにはなれない。世界で最も重要な調査報道ジャーナリスト集団で、ジョージ・ソロスが多額の寄付を寄せている。ちなみに、ICIJは、オフショア・リークス・データベースとして、パナマ文書とそれ以前のリークの情報をまとめたデータベースを公開していて、だれでも見られる。

この本には最後に池上彰さんの解説が付いていて、全440ページにもなる。

タックスヘイブンのペーパーカンパニーを使って、節税、脱税、マネーロンダリング、資産隠し等を行っている各国の権力者、資産家、企業経営者、スポーツ選手などの個別事例を紹介している。

ウィキペディアで「パナマ文書」で検索すると、タックスヘイブンのペーパーカンパニーを使っている各国の有名人の例が公開されているので、そちらも参照願いたい。

日本のセコム創業者の飯田さんや、楽天の三木谷会長、伊藤忠、丸紅などの例も含まれているが、日本の場合には、大きなスキャンダルにつながるようなケースはない

パナマ文書で明らかになった主なタックスヘイブン利用は次の様なものだ。

ロシア関係
・ロシアのプーチン大統領の友人のチェリスト・セルゲイ・ロルドゥキンが何百万ドルもの大金を「コンサルティング手数料」としてペーパーカンパニーからペーパーカンパニーに移転している。ロルドゥキンの隠し資産は5億ドル以上といわれている。ちなみに、プーチンは、パナマ文書は米国の陰謀だと語っている。

・プーチンの友人で、ロステック社のCEOのセルゲイ・チェメゾフ(KGB時代からの友人だという)。

・プーチンも参加しているサンクトペテルブルクに近い別荘所有者の集まりだったオゼロ・コオペラティブの仲間。そのうちの一人のニコライ・シャマロフの息子とプーチンの下の娘が結婚している。プーチンの義理息子は、結婚後数カ月しないうちに保有するロシア石油化学最大手シブールの持ち株が数%から21%に増えている。

・オゼロ・コオペラティブのメンバー、ユーリ・コヴァルチェクはロシア銀行の頭取兼最大株主だ。セルゲイ・ロルドゥキンもロシア銀行の株主だ。


マネーロンダリング関係
・メキシコの麻薬密売人カーロ・キンテーロのペーパーカンパニーを使った資産隠し。


アラブ関係
・シリアのアサド大統領の最も有名なスポンサー・ラミ・マフルーフの、いくつものペーパーカンパニーを使った取引。マフルールは、米国でもEUでも制裁対象になっている。

・リビアのカダフィーの友人で、行政センター開発機構元長官のアリ・ダバイバのペーパーカンパニー。

・ムバラク元エジプト大統領の息子のペーパーカンパニー。

アフリカ関係
・アフリカでは毎年500億ドル以上が多国籍企業の口座やエリートの金庫に消えてしまう。コンゴ民主共和国のカビラ大統領の姉妹、赤道ギニアの独裁者の息子、モザンビークの元大統領、マラウィの政府高官、コンゴ共和国の元エネルギー相、アンゴラの石油相などがペーパーカンパニーを持っている。

・コンゴの鉱山を所有するイスラエルの大富豪ダン・ガートラー。ギニアの鉄鉱山の開発権を大手鉱山会社から奪った富豪など。

・前国連事務総長のコフィ・アナンの息子の持つペーパーカンパニーを通してのコンサルタント報酬受取。

ウクライナ関係
・天然ガスで富を成したウクライナの元首相ユリア・ティモシェンコ、前任者のパーヴェル・ラザレンコの資産隠し。ウクライナのペトロ・ポロシェンコ大統領はチョコ―レート王と言われている。

サッカー関係
・FIFA、UEFAの幹部。FIFA役員は国際サッカーの汚職で1億5千万ドル以上のわいろを受け取ったという。いくつものペーパーカンパニーを通したテレビ放映権などの取引で、裏金を作っていた。

・リオネル・メッシと父親が脱税容疑でスペインで訴えられている(その後、スペイン最高裁で有罪が確定した)。パナマ文書のなかで、メッシの「メガスター・エンタープライズ」が肖像権の売買で税金逃れをしていたことが疑われている。

中国関係
習近平主席の義兄弟・家貴はペーパーカンパニーを少なくとも4社持っており、そのうちの一社は中国一の大富豪から購入したカンパニーだという。

元首相の李鵬の娘の所有する英領ヴァージン諸島のペーパーカンパニー

・中国では薄熙来と夫人の谷開来の汚職が、英国領ヴァージン諸島のペーパーカンパニーを通して、薄熙来のコネで財を成した中国の富豪から320万ドルを受け取っている。

太子党のメンバーの近親がいくつもの会社を持っていることが明らかにされている。たとえば、中国の高級時計の販売業者の実業家から、太子党の一人の元党中央政治局常務委員の18歳の孫娘・李紫丹にペーパーカンパニーが簿価1ドルで売却されている

繰り返される「シーメンス事件」
・中南米各地のシーメンス支社長を歴任し、バハマの口座に5億ドル相当の金を持つ元シーメンス役員。2006年に起こったシーメンス贈賄事件(米独当局より1200億円の罰金を科せられる)に関係した元シーメンス役員が、ペーパーカンパニーをいくつも通して自分たちでも会社の金を横領していた。この件に関しては、記者は元シーメンス役員に直接話を聞いている。

シーメンス事件というと、日本では山本権兵衛内閣が総辞職した戦前のシーメンス事件が有名だが、2006年にもシーメンスは、南米などの贈賄で米独当局から巨額の罰金を科せられている。

ドイツ税務当局も別ルートで情報を100万ユーロ払って購入
・ドイツでは、税務当局がモセック・フォンセカ関連のペーパーカンパニー600社の情報を、2013年ごろに情報提供者から100万ユーロで購入し、これに基づいてコメルツ銀行から1700万ユーロ、HSHノルト銀行は2200万ユーロの罰金・課徴金を取り立てている。

アルゼンチン関係
・アルゼンチン元大統領のキルチネル夫妻の6500万ドルといわれる資産の持ち出し。

マクリ現大統領の資産隠し疑惑

アイスランド関係
・パナマ文書が公表されて退陣したアイスランド首相・シグムンドゥル・グンラウグソン

その他
・パキスタンの現首相ナワーズ・シャリフは娘を通してロンドンなどに豪華な邸宅を購入している。

北朝鮮もタックスヘイブンを利用


その他の例は、ウィキペディアの表を参照願いたい

廃業した法律事務所も、まさか内部文書が漏れるとは予想していなかったのだろうが、こういった内部者の犯行による情報漏えいの善悪はともかく、「天網恢恢疎にして漏らさず」という言葉があてはまるケースだと思う。

これまで「パナマ文書」という言葉だけ知っていたが、内容は知らなかった。この本はリークを受けた記者本人が執筆しており、ドキュメンタリーとしても面白い。

筆者もそうだが、在宅勤務で時間ができた時に読むことをお勧めする。


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Posted by yaori at 22:51│Comments(0) 経済 | 政治・外交