2020年08月19日

ギリシャ人の真実 ギリシャは日本の先例となるのか?

ギリシャ人の真実
柳田 富美子
講談社
2013-11-06


日本の公的債務額はGDP比2倍を超え、先進国でもダントツのワーストだ。

日本債務残高の国際比較




















日本国債発行残高




















いずれも出典:財務省 財政に関する資料

そんな日本の国債がある日突然暴落して、IMFなどの支援を得て財政を立て直すというシナリオになった場合にどうなるのか。ギリシャの例を調べてみた。

ギリシャの歴史

まずは、ギリシャの歴史を簡単に紹介しておこう。

3,000年前からギリシャでは各都市国家がポリスとして独立し、ギリシャ文明を生んだ。「デモクラシー」の起源もギリシャ語だ。その伝統を引き継いで、ギリシャ人は政治参加の意識が高く、ギリシャの市議会議員は無報酬だが、選挙で選ばれている。

パルテノン神殿の歴史を描いた動画がYouTubeにアップされている。



これを見るとギリシャの歴史がわかる。

パルテノン神殿は2,400年前にアテネのアクロポリスの丘の上に、アテネ市の守護神を祀るために建てられたが、その後異民族の攻撃を何度も受けて、現在の遺跡となった。元々は、極彩色の彫刻やレリーフで飾られた美しい神殿だった。

ギリシャ文明の後は、ローマ帝国による支配、そしてローマ帝国がキリスト教を国教とすると、パルテノン神殿を飾っていた裸体彫刻はすべてキリスト教徒によって破壊された。パルテノン神殿は6世紀にはギリシャ正教の教会となった。

ローマ帝国が東西に分裂後、東ローマ帝国は1,000年以上続いた。13世紀には西ヨーロッパからやってきたフランク人に征服され、パルテノン神殿はカトリック教会となった。

東ローマ帝国の首都コンスタンチノープルがオスマン・トルコによって陥落したのは、1453年で、それからパルテノン神殿は、イスラム教のモスクに改修された。

17世紀末に、ベネチア軍がオスマン帝国を攻撃した時に、火薬庫として使われていたパルテノン神殿は砲撃を受け、大半が吹っ飛び、現在の姿になった。

そして19世紀初頭にイギリスが残っていた彫刻やレリーフを剥がし取って自国に持ち帰った。それが、ギリシャが返還を求めている大英博物館に展示されているパルテノンの遺跡の一部だ。

ギリシャの人口は1,100万人、国土の広さは日本の1/3だ。島の数は2,500で、そのうち200の島に人が住んでいる。

オスマン・トルコから独立して、ギリシャという国ができたのは1830年のことだ。

オスマン・トルコには400年の間支配されていたが、きつい制約があったわけではなく、ギリシャ正教の信仰も認められており、ギリシャ語も教会で教えられていたという。

近代になってもトルコとは何度も戦火を交えてきた。ギリシャは、途中で君主制から共和制になったり、君主制に戻ったりした。

第二次世界大戦では連合国側についたが、イタリアの侵攻を受け、それを跳ね返すと、ムッソリーニはナチスの援軍を頼んで、結局ギリシャは敗北、ギリシャは3分割されてしまう。

戦後は君主制が復活したが、1967年に軍事クーデターが起こり、1967年から1974年には軍事独裁政権下にあった。

1974年に軍事政権が崩壊し、国民投票で君主制が廃止され、共和制の国家となった。

1981年にEC(現在のEU。10番目の加盟国だった)に加盟し、ヨーロッパから各種の補助金や借入金が入る様になった。これで国営企業をつくったり、公務員数が膨大となり、労働組合の力も強大になった。

2001年には通貨ドラクマを廃止し、ユーロを導入した。これによりギリシャの信用力が増し、多くのお金を外国から借りることができるようになり、銀行も庶民や企業にどんどん貸し付け、借金は雪だるま式に増えていった。ギリシャ版バブルだ。

バブルの頂点が2004年のアテネオリンピックだ。2009年リーマンショック後に、世界的に貸付先絞り込みが起こり、ギリシャ経済がおかしくなった。

2009年秋に国政選挙で、野党(パソク。全ギリシャ社会主義運動)が大勝利して政権を奪取すると、前政権が財政赤字を隠蔽して、粉飾をしていたことをあばき、ギリシャがずっと財政赤字だったことが明るみにでて、EUの監視下に置かれた。

ギリシャは日本の先例となるのか?

日本とギリシャの公的債務の対GDP比の比較表は次の通りだ。

日本ギリシャ国債残高対GDP比推移


















出典:世界経済のネタ帳

日本はGDP比でギリシャを上回る公的債務を抱えている。そして、これからコロナ禍で、経済が落ち込み、税収減、コロナ対策費増で、日本の公的債務はさらに増加するだろう。

ギリシャは、2009年に政権交代が起こり、歴代の政権が実際には赤字だった国の財政状況を黒字と粉飾していたことが発覚し、それが発端でギリシャ危機が起こり、IMFとEUから支援を受けるために、2010年5月から強力な財政引き締め策を余儀なくされた。

この財政引き締め策は、次のような「外科手術」を伴うものだった。

2010年5月の第一次緊縮策
1.これまで年間2カ月分支給されていた公務員のボーナスを廃止
2.これまで年間2カ月分支給されていた年金受給者のボーナスを廃止
3.公務員手当を削減
4.付加価値税を最高額21%から23%に引き上げ
5.不動産、燃料、酒、たばこ、輸入自動車の課税強化
6.最低賃金引下げ

2012年2月の第二次緊縮策
1.最低賃金の22〜32%カット
2.15万人の公務員削減
3.電気料金の請求書に上乗せされる不動産特別税(支払わないと電気をすぐに止められる)
4.年金、手当、社会保障、国防、国家運営、選挙等の費用の削減
5.(汚職の温床となる)各種の営業許可制度を廃止
6.公共交通機関の乗車運賃25%引き上げ
7.公務員手当削減
8.民営化推進
9.200か所の税務署閉鎖。免税、各種減税の廃止。

これらの緊縮策は、ギリシャ人のこれまでの生活水準を劇的に下げた。収入が激減したので、ギリシャ人は今までの生活が維持できなくなった。

国民の猛反対でデモ、ゼネストが続発したが、EU、ECB(欧州中央銀行)、IMFの3者はギリシャ救済チームを作って、3ケ月毎に監視を続けた。

その後、ギリシャは中国に接近し、チャイナマネーによる経済復興を狙った。これが奏功し、「一帯一路」を狙う中国は、ギリシャのヨーロッパへのゲートウェイ機能に注目して、ピレウス港などに大規模投資している。

失業率は2013年の28%から、16%に低下した。若年層の失業率は一時の60%から38%に下がった。

ギリシャ人は、農業なども含め、長時間や3Kの低賃金労働などを好まないため、こういった低賃金の仕事は、アルバニアやブルガリアから流れ込んだ移民が埋めているという。

ともあれ、チャイナマネーにより、今や投資対象として、「成長期待が高まるギリシャ」などと持ち上げられるまでになってきており、ギリシャ再建策は、一応の成果を挙げたといえるだろう。

ちなみに英語で、"It's Greek to me"というのは、チンプンカンプンのことだ。

日本はギリシャの様にはならないというMMT理論

いくら公的債務が増大しても、国内から調達していれば、日本経済は破綻しないというMMT理論が出てきている。

たしかに、日銀が日本円をどんどん刷れば、日本はギリシャの様にIMFやEUの支援を受けるということにはならないだろうが、ハイパーインフレとなり、日本円の価値は下落し、将来の日本国民にツケが回る結果となる。

将来人口が漸減していく日本は、国民一人当たりの各経済指標など国際的地位も下落し、過去から積みあがった債務返済が大きな負担となってのしかかってきて、国家予算もほとんどが借金返済に充てられ、前向きの投資に回す金がないという状況になるだろう。

そんな日本を子孫に残していいのだろうか?

ギリシャはEU主導の緊縮策と、チャイナマネーで財政黒字化を達成した。日本もいずれ上記の様なギリシャ型「外科手術」が必要となってくるだろう。

特に、年金の引き下げ、あるいは年金支給先延ばし、増税は必至だと思う。こういった状況にどのように準備しておくのか、自分でも考えるきっかけになった。

著者の柳田 富美子さんは、ギリシャプラザ代表。ギリシャ語通訳・翻訳・語学講師だ。ギリシャ人の家計や生活実態まで踏み込んで紹介しており、ちょっと変わった観光ガイドブックのように簡単に読める。

日本の将来、そして自分の生き残り戦略を考える上で、参考になる本である。


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Posted by yaori at 23:25│Comments(0) 経済 | 政治・外交