池上彰+「池上彰スペシャル!」制作チーム
文藝春秋
2020-09-17
日韓関係を分析した池上さんの近著。
目次は次の通りだ。
第1章 なぜ日本に厳しく、北朝鮮に甘いのか
第2章 反日の象徴「不買運動」のその後
第3章 意外と知らない!?徴用工問題
第4章 若者世代に変化のきざし
第5章「反日種族主義」と嘘の歴史教育
第6章 日本と韓国がわかり合うために
池上彰からのラストメッセージ
日本でもベストセラーとなっている「反日種族主義」の編著者の元ソウル大学教授李栄薫(イ・ヨンフン)さんとの対談も載っている。
新型コロナウイルス対策で、ドライブスルーPCR検査導入などで韓国は比較的成功してきたので、文在寅(ムン・ジェイン)政権は日本に対してPCR検査キットの支援を検討していたが、日本政府からの要請がなかったので実現しなかったという。
韓国は米国にはPCR検査キットを60万回分2020年4月に輸出している。
コロナウイルス対策で、国際協力が必要なときに、日韓関係の悪化がそれを阻んでいるのだ。
この本を読むと、反日教育を強制されたと韓国の高校生が告発して話題になったり、日韓の対立の根源は、「嘘の歴史教育」にあると指摘して自国を痛烈に批判した「反日種族主義」が、日本と韓国でベストセラーになったり、日韓関係好転の芽は出つつあることがわかる。
日韓合同プロデュースの
NiziUの活躍も、いずれ日韓の交流拡大に役立つことだろうが、メンバーが日本人ばかりなので、
韓国では、デビューが白紙らしい。
現在の日韓関係の悪化の原因は、「徴用工問題」に尽きる。これまでも「慰安婦問題」が日韓関係を悪化させてきたが、「徴用工問題」では、日本企業に損害が生じる恐れが強い。
韓国の最高裁にあたる大法院が元徴用工の日本企業に対する「慰謝料」請求を認めたことから、日本政府は1965年の日韓国交回復時の日韓請求権協定に反する行為として韓国政府に抗議した。これに対し文在寅大統領は、「韓国は三権分立の国であり、司法の決定に行政は関与できない」と突っぱねたのだ。
韓国の歴代大統領は、反日政策を繰り返すと国民の支持が得られる。文在寅大統領は、就任以来一貫して反日姿勢を取ってきているので、当然の反応なのだろう。
文在寅大統領の両親は北朝鮮出身で、朝鮮戦争の混乱期に韓国に逃げてきた。文在寅大統領自身は、巨済島(コジュド)の生まれだが、弁護士出身の革新派として、弁護士事務所の同僚の廬武鉉大統領を支えて出世し、北朝鮮との統一を悲願としており、「親日残滓」(親日派)の清算は長年の宿題だと公式に表明している根っからの反日派だ。
文在寅大統領は、1960〜70年代以降に中学、高校の反日教育を受けた世代で、純粋な反日世代だという。「反日種族主義」の編著者の李栄薫さんは、今が反日教育を受けた世代の絶頂の時ではないかと語っている。
日本が韓国に対して半導体製造用資材の輸出管理を強化したことに反発して始まった日本製品の不買運動は、最近でこそ若干収まって、日本のビールも韓国の小売店の店頭に戻ってきているようだが、
ユニクロの韓国最大の明洞(ミョンドン)旗艦店は閉店となる。
2019年の韓国の若年層の失業率は10%を超え、文在寅大統領の不支持率が支持率を上回る状態だったので、2020年4月の総選挙を迎える前に反日姿勢を強調して、経済政策の失敗を隠して、選挙に勝利したいという思惑があったのではないかと池上さんは疑問を投げかけている(実際には、文在寅政権のコロナウイルス対策が評価されて、4月の総選挙は与党が勝利した)。
1965年の日韓国交正常化に至る交渉過程での記録から、韓国は「対日請求要綱8項目」を出し、その中の5に「被徴用韓人の未収金、補償金及びその他の請求権の弁済を請求する」が含まれており、1961年5月の日本側の「個人に対して支払ってほしいということか?」という問合せに対して、韓国政府は、「国として請求して、国内での支払いは国内措置として必要な範囲でとる」と答えている。
その結果、日本政府は無償3億ドル、有償2億ドル、合計5億ドルの経済協力金を韓国に供与した。当時の韓国の国家予算の3.5億ドルを上回る規模の経済協力だった。これにより1965年の日韓請求権協定には「完全かつ最終的に解決された」と文言が明記され、最終決着した。
徴用工による訴訟は日韓国交正常化以降も続き、日本と韓国で訴えを起こし続けてきて、毎回元徴用工側が敗訴してきたが、2012年に大法院が「日本が韓国を植民地支配していたことが不法行為で、未払金を請求しているのではない、『慰謝料』を請求しているのだ」という理由で、元徴用工勝訴の差し戻し判決を下した。
当時の李明博大統領は、即座に請求権問題は解決済みだとして大法院の判決を否定したが、文在寅大統領は、歴代の韓国政権の見解を覆したのだ。
実は韓国国内では、徴用工問題では韓国政府が補償金を払えと要求している団体もある。
池上さんは、徴用工問題を考える上で、日経新聞の元ソウル支局長の峯岸さんの「日韓の断層」という本を引用して、日韓の対立は、「順法対正義」の対立になっているという。
日本人は法律を守らなければならないという考えだが、韓国人は正義にもとるような法律や条約は変えればいいという考え方だという。
韓国は1987年に民主化宣言が出されるまでは軍事独裁政権だったが、大勢の国民がデモや集会に参加し、民主化を国民の手で勝ち取った。だから歴代政権が作った法律や条約よりも、正義が優先すると考えているのだと。
「反日種族主義」の紹介のところで、池上さんは韓国の小学校6年の社会科教科書には、「強制労働に動員されたわが民族」という写真のところに、1926年9月の「旭川新聞」が「残酷極まる土工の虐待」として、日本人の労働者が過酷な労働されられていたことを告発する記事から取った写真を「韓国徴用工」の写真として載せていることを紹介している。このことは「反日種族主義」の韓国版も指摘しているという。
池上さんも、この本の最後に李榮薫さんとの対談を終えて、「私たちの側にもやるべきことはたくさんある。そんな印象を受けました。」と記している。
上皇様が天皇在位中の平成13年の誕生日の代表質問に対して、次の様に語っておられることはよく知られている。
「私自身としては,桓武天皇の生母が百済の武寧王の子孫であると,続日本紀に記されていることに,韓国とのゆかりを感じています。武寧王は日本との関係が深く,この時以来,日本に五経博士が代々招へいされるようになりました。また,武寧王の子,聖明王は,日本に仏教を伝えたことで知られております。
しかし,残念なことに,韓国との交流は,このような交流ばかりではありませんでした。このことを,私どもは忘れてはならないと思います。
ワールドカップを控え,両国民の交流が盛んになってきていますが,それが良い方向に向かうためには,両国の人々が,それぞれの国が歩んできた道を,個々の出来事において正確に知ることに努め,個人個人として,互いの立場を理解していくことが大切と考えます。ワールドカップが両国民の協力により滞りなく行われ,このことを通して,両国民の間に理解と信頼感が深まることを願っております。」
この問答は宮内庁のホームページに公開されている。ちょうど日韓ワールドカップの直前でのインタビューなので、こんな発言があったものだ。再度読み直してほしい。
「近くて遠い国」=これは北朝鮮のことだが、国民感情的には韓国についても同様の思いを感じている人も多いと思う。日韓両国民がいつまでも、そんな感情を抱いたままでいいのか?そんなことを考えさせられる本である。
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