2015年05月13日

草の花 西伊豆戸田を描いた福永武彦の小説

草の花 (新潮文庫)
福永 武彦
新潮社
1956-03-13


筆者は西伊豆の戸田(へだ)に毎年夏に行く。夏休みに戸田に行きたくて1年間働いているようなものだ。大学4年生の時は戸田で20日以上過ごしたし、卒業後も独身時代は毎夏数日行っていた。

結婚して家族ができると、なかなか一人で戸田に行くのは難しくなったが、子供が大きくなるにつれ、また一人で行けるようになった。

毎年戸田には沼津から船で行っていたが、戦前から続いた伝統ある定期船も残念ながら昨年で廃止された。

筆者の場合、行きか帰りに沼津港に寄って「双葉寿司」で食事するというのが、戸田に行く楽しみの一つだ。

しかし、定期船がなくなると、修善寺からバスで行かざるをえず、そうなると沼津港に寄るのはかなり寄り道となる。今年は「双葉寿司」にも行けなくなるかもしれない。

戸田に行くのは、そこに大学の保健体育寮があり、昔の寮委員の仲間が集まるからだ。

戸田寮は創設120年ちかい伝統ある寮だ。そんな寮での戦前の弓道部の合宿生活が取り上げられている小説が福永武彦の「草の花」だ。

学生時代に読んで、もう読んだこと自体も忘れていたが、先日寮委員のOB会があり、後輩から教えてもらって読んでみた。

福永武彦は1979年に亡くなっているので、すでに没後36年も経つが、この3月に福永武彦の経歴をまとめた「『草の花』の成立―福永武彦の履歴」という本が出版されている。

独特な描写は病的ともいえるほど繊細で、依然として人気のある作家である。



物語は戦争が終わって間もない昭和20年代の結核病棟(サナトリウム)でスタートする。

6人部屋で恢復中の「私」と、近くのサナトリウムから転院してきた大学同窓生が知り合い、その同級生は成功の確率の低い肺の摘出手術を自ら志願し、術中死する。

私に託された2冊の大学ノートを開くと、彼の2つの物語が綴られているという展開だ。

最初の物語は、戦前の旧制第一高等学校の弓道部が、春の合宿を西伊豆の戸田寮で行うところからスタートする。

文庫本の表紙絵にもなっている和船がなつかしい(表紙の絵は艪(ろ)が流されて漂流している時のものなので、艪は書いていない)。

艪で漕ぐ和船の操船は難しいが、筆者は戸田寮にいたおかげで和船の操船はお手の物だ。 伝統的な和船の操船風景がU-tubeに載っている。



弓道部の先輩・後輩で惹かれあう、今でいうとボーイズラブの苦悩が繊細なタッチで描かれている。

2番目のノートに綴られた物語は、その弓道部の美しい後輩が若くして病死し、残された妹を愛するというストーリーだ。

戦時中の話で、いずれ来る召集令状(赤紙)の恐怖、キリスト教の信仰心、純粋な愛などが中心テーマだ。

漱石の「こころ」は「先生」からの手紙だったが、「草の花」では術中死した友人のノートが物語を伝える。

こころ (新潮文庫)
夏目 漱石
新潮社
2004-03


やはり青春時代に読む小説で、オッサンの筆者が読むのは、やや場違いという感じもあるが、ともあれ、夏の戸田で過ごした学生時代のことなどが思い出されて楽しめる。


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2015年04月25日

フォルトゥナの瞳 ぐいぐい引き込まれる百田尚樹さんの新作

フォルトゥナの瞳
百田 尚樹
新潮社
2014-09-26


このブログでもあらすじを紹介した「海賊と呼ばれた男」につぐ、百田尚樹さんの長編小説。




フォルトゥナとはローマ神話の運命の女神だ。

死期が迫っている人間を見分けることができる能力がある木山は、幼いころに両親と2歳の妹を火事でなくし、それ以来、施設で暮らし、中学卒業とともに就職し、現在は自動車のポリッシングサービスの工場で働いている。

死期が迫っている人間は、まずは指が消えて見え、死に近づくにつれて体の部分や顔までもが透明となってくる。

そのように木山には見えるのだ。

木山は死期が迫っている工場の社長の運命を変えようと、自ら仕掛けて社長を災難から救う。

しかし、その途端に激しい動悸に襲われる。

他人の運命を変えてしまった時には、かならず自分の体も痛めつけられるのだ。

木山のポリッシングは好評で、社長は資金を援助して、木山を独立させる。木山は一国一城のあるじとして、事業は順調に拡大する。

ある日、木山は透明になりかかっている人の運命を変えようと、自ら働きかけるが、見知らぬ男に後ろから声をかけられ、制止される。

その男も人の死期が見えるのだ。

男は人の運命を変えると、自分の血管や心臓もダメージを受けると、木山に警告する。「神の領域に足を踏み込む」からだ。死神の邪魔をするなと。

木山は事故死するはずだった携帯電話の販売員の女性の運命を変え、それからその女性と付き合うようになる。

その女性と結婚まで夢見て、木山は二人で旅行にいく計画を立てるが、町のいたるところに、指や手が消え始めてる人が増えていることに気が付く。

多くの人が死ぬことになるのか…。木山と恋人はそれでも旅行にいくのか…。

といったストーリーだ。

映画「ゴースト」のシーンを思い出す



あの映画では、人間は亡霊を見られないが、亡霊は人間に働きかけられるという設定だった。、

この本では亡霊や死神は出てこないが、映画「ゴースト」の亡霊のような、他人には見られないものを見られる力を持った人間が、数名登場する。

感情移入がスムーズにでき、ぐいぐいひきつけられるストーリー展開だ。

360ページ余りの作品だが、一日で一気に読める。大変面白い小説である。


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2014年12月21日

格闘する者に○ 三浦しをんさんのデビュー作

格闘する者に○ (新潮文庫)
三浦 しをん
新潮社
2005-03-02


このブログで、「まほろ駅…」シリーズなど、何点か作品を紹介している三浦しをんさんのデビュー作。

まほろ駅前多田便利軒 (文春文庫)
三浦 しをん
文藝春秋
2009-01-09


三浦しをんさんは早稲田大学第一文学部を卒業。24歳の時に、この作品で小説デビューした。その当時は筆者が住んでいる町田市に三浦さんは住んでいて、高原書店という本屋でアルバイトしていたという。

東京の郊外の広い家に義母と義理の弟と暮らす大学の文学部に通う政治家の大学生の娘が主人公だ。政治家の父自身は東京都内に住んで、家に寄りつかない。

実は父は代々政治家の家への入り婿で、主人公以外には政治家の家の血筋を引く者がいないという設定だ。

主人公はマンガが好きで、マンガの編集者になるために出版社の就職を狙っている。大学院に進学することを考えている男友達と、すぐにイケメンに惹かれる美人の女友達といつも一緒だ。

K談社とか、集A社、丸川といった出版社が出てくる。

K談社のビルはパルテノン神殿のような古い建物ということだが、現在は近代的なビルに建て替わっている。

集英社は神保町にある。

タイトルは、K談社の筆記試験の監督者が、「該当(ガイトウ)するものに丸をしてください」と言うのを「カクトウ」と言っていたことに発している。

就職活動を描いた作品では、朝井リョウさんの「何者」をこのブログで紹介している

何者
朝井 リョウ
新潮社
2012-11-30


三浦しをんさんは2000年の作品。朝井さんは2012年の作品だ。

同じ早稲田大学を出て、実際に出版社に就職した朝井リョウさんの作品の方が、就職活動の苦しさや葛藤を描いていて、リアル感がある。

三浦しをんさんの方が、主人公もその友人たちも本当に就職する気があるのかよ?という感じだが、小説だから別にリアルである必要もないのかもしれない。

老人の書道家とつきあっている美脚の大学生という設定も奇抜で、喫茶店の中年男の独身のマスターなど、脇役も豊富で、テンポよくストーリーが展開する。

最初に唐突に出てくる象を引き連れた求婚者たちと王女の南国のお見合いの話が、半ばごろまで読み進めると、なぜ出てくるのか意味がわかってくる。

この出だしは面白い。

手軽に読めて楽しめる作品である。


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2014年12月01日

1941年。パリの尋ね人 今年のノーベル文学賞作家 モディアノの作品

1941年。パリの尋ね人
パトリック モディアノ
作品社
1998-07


ノーベル文学賞受賞者発表の時期が近づくと、かならず村上春樹さんの名前が候補として挙げられるが、正直言って、筆者は村上春樹さんのような流行作家がはたしてノーベル文学賞を受賞するのか疑問に思っている。

たとえば今年ノーベル文学賞を受賞したのは、日本ではほとんど名前が知られていないパトリック・モディアノというフランス人作家だ。

どんな作家なのか興味があったので、モディアノの作品を読んでみた。

最初に読んだのが、この「1941年。パリの尋ね人」だ。

この作品は、ドイツ占領下のフランスでユダヤ系住民がどんどん逮捕され、アウシュビッツなどの強制収容所に送られた時代を取り上げている。その数7万5千人余り。

原題は「ドラ・ブリュデール」で、1941年12月31日の「パリ・ソワール」誌に掲載された尋ね人広告で、行方を捜された15歳のユダヤ系少女だ。

この作品は小説というよりは、尋ね人広告の背景と結末を調査した報告書のようなものだ。

モディアノはたまたま気づいたドイツ占領下のパリの尋ね人広告に興味を抱いた。

15歳の少女が行方不明。1941年12月31日に尋ね人の広告が出される。

どんな家族が広告を出したのか?行方をくらました15歳の少女がどうなったのか?両親と少女はどうなったのか?

少女は結局1942年4月に両親の元に戻ってきたが、その間にポーランド系ユダヤ人の父親は逮捕され、収容所に入れられていた。少女もほどなく逮捕されて父親と同じ収容所に入れられる。

1942年9月18日、父親と一緒に少女はアウシュビッツ行の第34移送列車に乗せられる。

1942年9月20日列車がアウシュビッツ到着。移送された1、000人のうち、859人は到着とともにガス室に送られた。少女と父親もガス室で息絶えた。

1943年1月ハンガリー系ユダヤ人の母親も逮捕される。2月に第47移送列車で、母親もアウシュビッツに送られる。

移送者数998名のうち、802名は到着とともにガス室に送られる。少女の母親もガス室で死亡。

まさに映画「シンドラーのリスト」そのものだ。

シンドラーのリスト [Blu-ray]
リーアム・ニーソン
NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
2014-12-03





もちろんフランスの警察がゲシュタポに協力したからこそ、ユダヤ系の人びとが逮捕されたのだ。

フランス警察そのものが対独協力者といってよい。

重い作品である。

作者のモディアノ自身もユダヤ系の血をひく。

父親はギリシャ系ユダヤ人で、ドイツ軍占領中は偽名を使って闇屋として活躍していたという。父親とは一度会ったきりだったという。

母親はベルギー生まれの女優。

モディアノは生まれた時から両親からほとんどかまってもらえず、2歳年下の弟のリュディと寄宿舎に入れられた。10歳の時に、弟のリュディが白血病で死んで、ショックを受ける。

モディアノ自身、「自分は占領時代の汚物から生まれた」と語っている。

ドイツ占領下のフランスで、ドイツ軍に協力したヴィシー政権などの人びとは、戦後リンチで殺されたり、裁判にかけられたりして1万人が死んだという。

ユダヤ人連行の歴史はフランスがあまり知られたくない歴史なのだろう。

そんな暗黒の歴史に迫る作品である。

こんな重い作品を読むと、村上春樹のノーベル賞受賞の可能性は限りなく低く思えてくる。そんな気になる作品である。


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2014年11月16日

天地明察 やはり本屋大賞受賞作は面白い

天地明察(上) (角川文庫)
冲方 丁
角川書店(角川グループパブリッシング)
2012-05-18


2010年の本屋大賞を受賞した、江戸時代の改暦(暦を800年もの間使われてきた中国の唐でつくられた宣明暦から日本独自の貞享暦に変えた)を題材にした作品だ。作者は冲方 丁(うぶかたとう)さん。

明察とは正解のことだ。

本屋大賞受賞作は、このブログでも何冊か取り上げている。この作品も含めて、大変面白い作品ばかりだ。

2014年 「村上海賊の娘」
2013年 「海賊と呼ばれた男」
2012年 「舟を編む」
2011年 「謎解きはディナーのあとで」
2010年 「天地明察」

岡田准一主演で映画にもなっているので、こちらも見てみた。原作から一部ドラマタイズした部分があるが、物語の重要な構成物の一つの神社に貼られた絵馬に書かれた算術の問題がどういうものかわかり、江戸時代の算術の計算方法や当時の天体観測のやり方がわかって大変参考になる。今ならレンタルビデオで2泊100円で借りられるので、こちらもおすすめだ。

天地明察 [DVD]
岡田准一
角川書店
2013-02-22


マンガにもなっている。



江戸時代の将軍の前で「御前碁」を打つ碁打ち衆として登城を許された4家(安井、本因坊、林、井上)出身の安井算哲、後の渋川春海の物語だ。

安井算哲は、碁打ち衆ながら、算術と天文にも興味を持ち、算術塾の村瀬塾にも出入りするうちに、稀代の天才和算学者・関孝和の存在を知る。

算哲は、関に向けて絵馬で算術問題を出すが、関は不明な記号を書きつけて、解答しなかった。実は、問題が間違っていたのだ。

算哲は日本全国で北極星を観測して各地の緯度を図る「北極出地」観測隊に組み入れられ、2年間の間日本全国を旅する。その間に、誤問の恥をそそぐため、関孝和向けに算術の設問を考えて、再度挑戦する。

江戸帰還後、算哲は天文の知識と算術の知識を駆使して、800年間使われてきた宣明暦を変える一大プロジェクトのリーダーとして改暦作業を始める。

最初に選んだのは授時暦だ。

日本の暦は天皇が決めるので、朝廷対策として宣明暦、元の時代に編み出された授時暦、明の時代に授時暦を修正した大統暦の3暦勝負を始めるが、…。

好事魔多し。最後の最後で授時暦は部分日食を外してしまう。

失意の算哲は関孝和の研究成果も使って、3暦勝負の敗因を研究し、今度は…。

というようなストーリーだ。映画では宮崎あおいが演じる算術塾の村瀬の親類の娘・えんが小説に花を添える。

まるでノンフィクションかと思わせるように、江戸幕府の大老、老中などの要人、算哲を支援する会津藩藩主、水戸光圀、北極出地の観測隊上司、最強の碁打ち衆・本因坊道策などの登場人物が小説に深みを与えている。

大変面白い本だった。「本屋大賞の本は必ず読もう」という気にさせる本である。


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2014年11月10日

荒神 宮部みゆきさんの時代小説

荒神
宮部みゆき
朝日新聞出版
2014-08-20


2013年から2014年にかけて宮部みゆきさんが、朝日新聞に連載していた小説を単行本として出版したもの。

筆者は自宅で朝日新聞を取っているが、連載小説は読んでいなかった。この本を読むまで宮部さんが連載小説を書いていたことを知らなかった。

新聞の連載小説を毎日楽しみに読むというのは、渡辺淳一さんが日経新聞に連載していた「化身」以来ない。だから、連載小説を読むという習慣がついていないためだろう。

化身〈上巻〉 (集英社文庫)
渡辺 淳一
集英社
2009-09-18


この小説は、時代小説ではあるが、「ファンタジー小説」というべきなのかもしれない。

東北の隣り合わせの小藩、永津野藩と香山藩。香山藩はもともと永津野藩から関ヶ原の合戦後に別れ出た藩だが、隣同士仲が悪い。

その藩境に近い香山藩の寒村で、村人がいなくなるという事件が起こった。11歳の少年・蓑吉(みのきち)が生き残り、永津野藩の村で傷の手当を受ける。体はボロボロ、皮膚は裂け、記憶も失っている。

村は怪物に襲われたのだ。

その怪物は永津野藩の砦も襲う。刀もやりも鉄砲も歯が立たない。どんどん倒され、喰われる武士たち。

どうやって退治するのか?

そのカギは、「御筆頭様」と呼ばれる永津野藩藩主の側近・曽谷弾正と、その双子の妹・朱音(あかね)の出自の秘密にあった…。

旅の絵師の力を借りて、思いもよらない方法で怪物に立ち向かう人びと…。

というようなストーリーだ。

怪物の倒し方が奇想天外だ。

「インディ・ジョーンズレイダーズ失われたアーク」の最後の方のシーンを思わせる場面もある。

インディ・ジョーンズ レイダース 失われたアーク《聖櫃》 [DVD]
ハリソン・フォード
パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
2008-06-06



あとは読んでのお楽しみとしておこう。

このブログでは、宮部みゆきさんの「ソロモンの偽証」を紹介している。



同じく歴史ファンタジー路線では、「蒲生邸事件」も面白い。

蒲生邸事件 (文春文庫)
宮部 みゆき
文藝春秋
2000-10

蒲生邸事件」

宮部さんの作風の広さには感心する。


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2014年10月26日

原発ホワイトアウト 現役霞が関官僚が鳴らす原発再稼働への警鐘

原発ホワイトアウト
若杉 冽
講談社
2013-09-12


東大法学部卒の現役霞が関官僚の若杉冽(れつ)さんが書いたという原発再稼働への警鐘を鳴らす小説。

小説のあらすじは、いつも通り詳しくは紹介しない。

原発再稼働を推し進める経済界、経済産業省と政治家四世の総理(名前は出てこない)をトップとする「保守党」政権のトライアングル。その背景には、電力をめぐる巨大な政治資金の流れがある。

経済産業省(資源エネルギー庁)から分離・独立はしたが、依然として経産省シンパの原子力規制庁と原子力規制委員会。

原子力規制庁の幹部職員は、原子力推進官庁には戻らないというノーリターン・ルールがある。しかし、経産省出身の幹部は依然として経産省ファミリー意識でいる。

直接の電話では「オレ」、「オマエ」の仲の資源エネルギー庁高官と原子力規制庁高官。

地元の知事や市町村長の同意がないと原発の稼働はできないというルールは、法律上の根拠がない。しかし、法律上の根拠がなくても今や地元自治体の首長のOKがなければ、事実上、原発再稼働はできなくなっている。

そのルールに基づいて、「関東電力」の新崎原発の地元の新崎県の伊豆田知事(新潟県の泉田知事を連想させる)が原発再稼働の安全性について正論をぶつ。

しかし、原発再稼働トライアングルは、電力業界にたてつくものはたとえ知事であろうとも、国家権力を使って国策捜査で追い落とす。伊豆田知事は親類の政治資金問題で逮捕されてしまう。

そこで、経産省から原子力規制庁に出向している原子力反対派の課長補佐が、経産省と原子力規制庁幹部の癒着をマスコミにリーク。しかし、漏えい元をつき止められて、ねんごろになったフリーランスの女性記者と一緒に国家公務員法違反で逮捕される。

やがて、原子力規制庁の承認を得て、鉄のトライアングルが推進する15基の原発が再稼働する。

その冬は異常気象で超大型低気圧が発生していた。

大雪をもたらす超大型低気圧。

新崎原発への道路アクセスは遮断され、ホワイトアウト状態に。

5メートル先も見えないホワイトアウトのなかで、暗視ゴーグルをつけ、ある場所をめざして在日の同行者と一緒に雪をかきのけて進む元関東電力社員。

そして二人は雪の中で……というようなストーリー展開だ。

「関東電力」は、地域対策関係者として地元のマスコミ、県市町村議会議員、農協、ゼネコン、商工会、県庁幹部、市役所幹部、教職員組合幹部、はては在日朝鮮人や地元の暴力団関係者までリストアップしていると。

「関東電力」はフリージャーナリストも年収1千万円を超える丸抱えのAランクジャーナリストを十数名、それ以外にも多くのジャーナリストを抱えて、電力会社を擁護する記事を様々な場所で書かせていたという。

どちらも、いかにもありそうな話だ。

匿名の著者は東大法学部卒だそうだが、面白いことを登場人物の資源エネルギー庁の高官に言わせている。

「最高学府とは東京大学のことをいうのではない。東京大学法学部のことをいうのだ。経済学部出身の小島(日本電力連盟常務理事、元関東電力総務部長)が検察に働きかけたからといって何ができるというのだ。」

「東大法学部と経済学部の偏差値の差も、経産省のキャリア官僚と電力会社社員との社会的立場の差も…。」

その資源エネルギー庁の高官は「家柄こそ平凡なサラリーマンの子息ではあるが、四谷大塚(小学生の中学受験指導塾)で総合順位一桁、筑駒出身…」だという。

「四谷大塚」なんて、ひょっとして著者自身のことかと思わせる。

ともあれ、原子力発電についてかなりの知識がある原発反対派の人が書いた本であることに間違いはない。

世論に一石を投ずるということなのだろう。

一部には、日本の重電メーカーは欧米並みのコアキャッチャー(メルトダウン防止のために底を極端に厚くした格納容器)がつくれないとか、疑問を感じる部分もある。

筆者が駐在していたピッツバーグに本社のあった世界三大原発メーカーの一つのウェスティングハウスは東芝に買収された。日本の重電メーカーがつくれないはずがないと思うが。

小説の結末としては、「想定内」ではあるが、起こりうる事態かもしれない。

堺屋太一さんが通産省の現役官僚の時に、匿名で出版した「油断!」の衝撃には到底及ばないが、面白くて一気に読める。

油断! (日経ビジネス人文庫)
堺屋 太一
日本経済新聞社
2005-12


原発推進派の人も、原発反対派の人も、それなりに得るところのある本だと思う。


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2014年10月12日

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 やっとタイトルの意味がわかった



全世界で作品が売れており、毎年ノーベル文学賞受賞者発表の時期になると話題に上る村上春樹さんの2013年の作品。今年(2014年)も最有力候補に挙がりながら、結局受賞を逸した。

村上さんの作品は、一時大ベストセラーになり、書店でも売り切れていた1Q84を、このブログで紹介している。




タイトルから、色盲の人が巡礼に出る話かと思ったら全然違った。

色彩を持たないというのは、主人公の多崎つくるが属していた高校時代の仲良し5人組のうち、多崎つくるだけが名前に色がついていなかったからだ。

他の4人(男女二人ずつ)はそれぞれ、アカ、アオ(以上男性)、シロ、クロ(以上女性)という風に、色を表す漢字が名前についていた。

また、巡礼に出るわけでもない。

「巡礼の年」は、楽曲の名前だ。1Q84はヤナーチェックの「シンフォニエッタ」が、作品の構成に重要な役割を果たしていた。



この作品では、リストの「巡礼の年」の中の「ル・マル・デュ・ペイ」が作品に重要な意味づけを与えている。



作品に登場するラザール・ベルマンのレコード(LP)は、今はCD3枚組で売られている。これの第1年「スイス」の8曲目が、「ル・マル・デュ・ペイ」(Le Mal du Pays)だ。

リスト:巡礼の年(全曲)
ユニバーサルクラシック
2013-05-15



小説のあらすじはいつも通り詳しく紹介しない。名古屋出身で、東京の工科大学を卒業して新宿に本社のある私鉄会社の駅舎を設計管理する部署に勤める36歳の独身の多崎つくるが主人公だ。

多崎つくるは名古屋の高校時代、名前に色の文字がつく男女2名ずつと5人で仲良しグループをつくっていたが、つくるだけ東京に出てきて2年目の20歳の夏に、名古屋に住む他のメンバーから突然理由もわからず絶交を言い渡される。

理由は「自分に聞いてみろよ」と。

それからつくるは自殺も考えたが、結局理由がわからないままに会社に就職し、親の買ってくれたマンションに住んで36歳まで独身で過ごす。

ある時たまたま深い仲となった2歳年上の女性から、つくるの心の傷となっている20歳の時の出来事の真相を明かすべきだと言われ、真相究明に乗り出すと、驚いたことに旧友4人は……。

というような感じだ。

途中で「小説のトゲ」と大沢在昌が言う、気になる部分がいくつもちりばめられている。6本指の奇形の話とか、「ラウンド・ミッドナイト」を弾くジャズピアニストの話等々。



引き込まれるストーリーで、筆者は一日で読んでしまった。

しかし、この人はノーベル文学賞は取れないのではないかという気がする。作風は全然違うが、昔、アルゼンチンに住んでいた時に、毎年ホルヘ・ボルヘスが候補に挙げられながら、結局ノーベル文学賞は取れなかったことを思いだす。

伝奇集 (岩波文庫)
J.L. ボルヘス
岩波書店
1993-11-16



筆者の見込み違いであればよいのだが…。


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2014年09月06日

村上海賊の娘 マンガか

村上海賊の娘 上巻
和田 竜
新潮社
2013-10-22


週刊新潮に約2年間にわったって連載された小説。人気のある本なので読んでみた。

著者の和田竜(りょう)さんは、「のぼうの城」で小説家デビューしている。




「のぼうの城」は映画化され、和田竜さんが脚本を書いている。戦国時代、秀吉に攻められる小田原北条氏の傘下の城の攻防戦を取り上げた物語だ。



この「村上海賊の娘」は上下1,000ページ弱の本で、上巻は陸戦、下巻は海戦の場面が続き、それぞれ数日かかるが、一気に読める。

驚かされるのは、そこここに資料を引用して、あたかもノンフィクションのようなテイストを与えていることだ。

この種の歴史小説としてはすごい量の参考文献が巻末に紹介されている。こんな具合だ:

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出典:本書下巻巻末

小説のあらすじはいつも通り詳しく紹介しない。戦国時代、天下統一を目指す織田信長は、浄土真宗の総本山で大阪で絶大な権力を握る大坂本願寺(石山本願寺)を攻め、本願寺を包囲し、兵糧攻めを行った

大坂本願寺は諸国の大名に支援を求め、毛利氏がこれに応じ、10万石もの大量のコメを送った。このコメの輸送を担当したのが、毛利氏に味方した村上水軍だった。

織田信長は、毛利・村上水軍に対抗するため、真鍋氏を中心とする水軍で迎え撃った。これがこの本が描く第一次木津川口の戦いだ。

村上水軍の娘、村上景(きょう)は、この第一次木津川口の戦いで活躍する。

ちなみに、信長の秘密兵器としてよく知られている鉄甲船が登場するのは、この2年後の第二次木津川口の戦いで、この本には鉄甲船は登場しない。その後、大坂本願寺は火災で焼失し、そのあとに秀吉が築城したのが大阪城だ。

まるでマンガ、あるいはアクション映画、というストーリーだ。

敵でも味方でも、中心人物はどれだけ敵が多くて、矢や鉄砲を浴びても、何十人もの敵を切り倒して生き延びる。

敵(かたき)役は敵役で、死んだように見えても必ず復活する。

戦闘の場面は息も尽かさぬ展開ではあるが、食事や恋愛、操船や剣術の訓練など、普通の生活の場面の描写がほとんどないことが、マンガか?という平板な印象を与えている。

ともあれ、速い展開で、一気に読めるエンターテインメント作品である。


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2014年05月20日

夢を売る男 百田尚樹さんの出版界を描いたブラックユーモア小説

夢を売る男
百田 尚樹
太田出版
2013-02-15


処女作「永遠の0」が映画化とともに、爆発的に売れ、「海賊とよばれた男」も本屋大賞一位と、一躍売れっ子作家になった百田尚樹さんの出版界を題材にした小説。

まさに小説はエンターテインメント、文句なしに楽しめる。

主人公の牛河原勘治は、中小出版社の丸栄社の取締役編集部長。元は文芸出版社の夏波書房の編集長だったが、売れない小説ばかり出すことに疲れて、印刷会社上がりの丸栄社に転職した(この岩波書店を想起させる夏波書房というのが、大沢在昌がいう「小説のトゲ」だ)。

丸栄社は、著者に出版費用を一部負担させるというジョイント・プレスというビジネスモデルで、他の出版社が本が売れなくて万年赤字経営が続いているのを尻目に、毎年大幅な黒字を続けていた。

普通の自費出版なら30万円程度で、本はすべて著者のものになる。

しかしこのジョイント・プレスという方式は、著者が200〜300万円を負担するにもかかわらず、できた本自体はすべて丸栄社のものだ。

本が欲しかったら著者は自分で著者割引を受けて、丸栄社から購入しなければならない。もう絶版というときには、著者はあわてて500部単位で購入する。

本が売れても売れなくても、丸栄社は儲かる。丸儲けのビジネスモデルなのだ。

プライドの高い素人や、どうしても自分の本を出したい作家志望者などを、どんどん落として、本を出させていく口八丁、手八丁のやりとりが軽妙で面白い。

曰く、「新聞広告を出す」、「取次ルートで販売する」、「ISBNコードもつく」、「国会図書館にも納められる」、「プロが編集し、校正する」等々。

百田さん自身も、

「元テレビ局の百田何某(なにがし)みたいに、毎日、全然違うメニューを出すような作家も問題だがな。前に食ったラーメンが美味かったから、また来てみたらカレー屋になっているような店に顧客がつくはずもない。しかも次に来てみれば、たこ焼き屋になってる始末だからな」

「馬鹿ですね」

「まあ、じきに消える作家だ」

という風に登場する。

一作ごとに違った芸風なのはさすがだ。このブログで小説家育成講座の「売れる作家の全技術」を紹介した大沢在昌は、次のように言っている。

「プロになっても、引き出しが少ないために苦労している人は実はたくさんいる。書く時間よりも読む時間をはるかに多く持ち、どんどん読んで、どんどん引き出しを増やして、アイデアを膨らましている人が作家を目指している。」

小説講座 売れる作家の全技術 デビューだけで満足してはいけない
大沢 在昌
角川書店(角川グループパブリッシング)
2012-08-01


まさにこの通り。百田さんの引き出しの多さには敬服する。

この程度のあらすじにとどめておく。大変楽しめる小説である。

是非一読をおすすめする。

なお、本当に本を出したい人には、商社に勤めるビジネスマンが書いた、こちらの本をおすすめする。

ビジネスマンのための40歳からの本を書く技術
三輪 裕範
ディスカヴァー・トゥエンティワン
2009-01-18



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2014年04月27日

ルーズヴェルト・ゲーム 池井戸潤さんの企業スポーツ小説

2014年4月27日再掲:

TBS系で「ルーズヴェルト・ゲーム」の放送が始まった

ルーズベルトゲーム















昨年「半沢直樹」シリーズで、大ヒットを飛ばしたTBSが再度池井戸潤作品をてがけている、

詳しいあらすじを紹介すると興ざめなので、「ステルスモード」で簡単なあらすじを紹介した記事を再掲する。


2013年5月14日初掲:
ルーズヴェルト・ゲームルーズヴェルト・ゲーム
著者:池井戸 潤
講談社(2012-02-22)
販売元:Amazon.co.jp

このブログで紹介した「下町ロケット」「空飛ぶタイヤ」など、中小企業を題材にした小説の第一人者・池井戸潤さんの直木賞受賞第1作。

下町ロケット下町ロケット
著者:池井戸 潤
小学館(2010-11-24)
販売元:Amazon.co.jp

空飛ぶタイヤ(上) (講談社文庫)空飛ぶタイヤ(上) (講談社文庫)
著者:池井戸 潤
講談社(2009-09-15)
販売元:Amazon.co.jp

タイトルの「ルーズベルト・ゲーム」とは、「野球の試合は8:7が一番面白い」という、野球好きのルーズベルトの言葉から取っている。

ストーリーは次のような展開だ。

創業者・青島毅(たけし)が一代で築き上げたイメージセンサーなどのカメラ部品や電子部品をつくる青島製作所は、売上高500億円の中堅電子部品メーカーだ。

野球好きの創業者がつくった青島製作所野球部は、かつては都市対抗野球などの常連で名門チームだったが、不況の影響もあり、最近は成績が低迷している。

そんななかでリーマンショックの影響で、青島製作所の主力顧客向けの売り上げが激減した。

需要が落ちている上に、半導体部品メーカーのミツワ電器がイメージセンサー市場に参入すべく、100億円以上の設備投資をして、安値で営業攻勢をかけているからだ。

野球でもミツワ電器は、青島製作所の監督を引き抜いた。監督はエースと四番バッターを引き連れてミツワ電器に移籍し、青島製作所野球部の戦力は一気にダウンする。

赤字の青島製作所に主力銀行が追加融資に難色を示す。最重要顧客のカメラメーカーが要求する高性能センサーは、いつ開発が終えるかわからず、先が見えない状態だった。青島製作所は、やむなく人員整理をふくむリストラに踏み切った。

青島製作所が緊急事態にある時に、重要顧客の社長の斡旋で、ミツワ電器社長から合併の話が青島製作所社長に持ち込まれる。

創業者の青島は会長としてなかば引退し、日常の業務はコンサル出身の中途入社の細川社長に任せている。

青島会長も細川社長も、「合併で規模を拡大して生き残るしか青島製作所が生きる道はないのでは」と思いはじめる。

人員整理で6億円のコスト削減を実現しようと努力するなかで、年間3億円も維持費がかかる野球部は銀行の圧力で廃部が決まる。

一方、ミツワ電器が仕掛けた合併の話は、ライバルつぶしと青島製作所のセンサー技術狙いとわかり、青島製作所の経営陣は合併提案を拒否する。

しかし、懲りないミツワ電器は、青島製作所が未上場で、少数の大株主が株式の過半数を握っていることに目をつけ、ミツワと合併すれば株式上場の道が開け、持ち株の利益実現が可能となると大株主に持ちかける。

欲に目のくらんだ株主は、緊急株主総会開催を要求し、株主総会で合併提案を拒否した経営陣を糾弾する…。

どんでん返しの連続で大変面白い。

青島製作所野球部も、廃部は決まったが、信じられない頑張りを見せて連勝を重ねる。実は、青島製作所の契約社員のなかに、高校時代に暴力事件で野球をやめたピッチャーの逸材が埋もれていたのだ。

彼の活躍と、以前は控え選手だった若手選手の頑張りで、青島製作所の選手たちは最後のミツワ電器との試合に、「ルースベルト・ゲーム」を…。


というようなストーリー展開だ。

前回紹介した「売れる作家の全技術」で、大沢在昌が、”小説のとげ”と呼んでいた謎や伏線が縦横無尽に張り巡らされ、ストーリー展開が心地よいテンポで進む。

まさにエンターテイメントだ。400ページ余りの小説だが、面白くて一気に読める。

別の池井戸作品が読みたくなる本である。


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2014年04月10日

永遠の0(ゼロ) 映画を見た

2014年4月10日追記:

映画が公開されてだいぶ経つが、ロングラン公開されているので、遅ればせながら映画を見た。広い劇場で、ほとんど人がいなかったので、ゆったり映画鑑賞ができた。



話に聞いていた通り、戦闘シーンも迫力あり、特に空母赤城の再現が見事だった。

エレベーテッド・フロアというか、2層構造となっている空母の構造がよくわかった。また、ミッドウェー海戦で米軍機の爆撃で赤城の格納庫に並んでいた爆弾を積んだ飛行機が爆発するシーンなど、大変迫力あった。



映画のストーリーは小説とは若干違うが、よくできた脚本だと思う。

以前日経新聞電子版で読んだ、百田尚樹さんのインタビュー記事で、百田さんが感心したという山崎貴監督の脚本だけに、なるほどと思った。



俳優陣も、この映画を撮り終えてすぐに亡くなった夏八木勲さんといい、主人公の宮部久蔵役で、現在放映中のNHKの大河ドラマ「黒田官兵衛」の主役で大人気の岡田准一はもちろん、凖主役の三浦春馬吹石一恵井上真央、脇役の橋爪功といい、大変すばらしい演技で、2時間半の映画に完全に没頭することができた。

原作者の百田尚樹さんは、上記のインタビューで「10年に一度の傑作」と言っている。10年に一度かどうかわからないが、いままでほとんど日本映画を見たことがない筆者が、これからも日本映画を見ようという気にさせるほどの傑作であることは間違いない。


2014年1月11日追記:

映画「永遠の0」が昨年12月に公開された。見てきた人の話では、CGを使った戦闘シーンや空母赤城の再現など、大変迫力ある楽しめる映画だったということだ。



予告編を見てもたしかに面白そうだ。今度見に行こうと思う。

2012年5月22日追記:

いつもは500人/日前後のこのブログのユニークユーザー(UU)数が、5月21日に一挙に1,000人を超えた。

やはり清武さんのナベツネ告発本に興味がある人が多いのかな?と思っていたら、なんのことはない”永遠の0”で検索してこのブログを訪問する人が急増していた。

どうやら”永遠の0”の映画撮影が順調に進んでいるという報道が流れたからのようだ。

V6の岡田准一が丸坊主になるということでも話題になっているらしい。

あらすじを再掲する。映画公開が楽しみだ。


2011年9月21日初掲:

永遠の0 (講談社文庫)永遠の0 (講談社文庫)
著者:百田 尚樹
講談社(2009-07-15)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

図書館でリクエストして百田尚樹さんのデビュー作の「永遠の0」を読んだ。

単行本は2006年、文庫本は2009年に出ているが、依然人気が高く、2ヶ月ほど待ってやっと手に入れた。

このブログでも紹介した「靖国への帰還」の様な小説ではないかと思っていたが、「永遠の0」は特攻で26歳で戦死した祖父の戦友を訪ねて話を聞くというストーリーだ。

靖国への帰還靖国への帰還
著者:内田 康夫
講談社(2007-12-15)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

昭和16年12月に真珠湾攻撃で始まった太平洋戦争開戦から、昭和20年8月の敗戦までの一連の流れを生き残った戦友の口から語るという形で、真珠湾攻撃や珊瑚海海戦ガダルカナル島の激闘、ラバウル航空隊ミッドウェー海戦、そしてマリアナ沖海戦沖縄戦フィリピン戦特攻特攻ロケット兵器桜花などについて説明している。

主人公の祖父は日本海軍のゼロ戦パイロットで、撃墜数何十という超エースながら、「生きて帰りたい」と希望を常に語る当時であれば許されないヒューマニスト軍人で、なぜか終戦直前に特攻に志願して戦死するという設定だ。





次が靖国神社の遊就館に展示されているゼロ戦だ。

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出典:以下特に記載ないかぎり出典はすべてWikipedia

戦友の話は資料に基づいて構成しているのだと思うが、圧倒的な戦力と最新鋭軍事技術、そして数ヶ月戦闘に従事すれば、休暇で帰国できるという余裕をもった米軍と対比して、特に補給戦において様々な戦略の誤りを犯し、兵隊・下士官を死ぬまで酷使して消耗品扱いする日本軍のリアルな描写にはフィクションとはいえ思わず引き込まれる。

当初はゼロ戦の敵ではなかったF4F

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そしてアリューシャン列島でほぼ無傷で捕獲されたゼロ戦を徹底的に研究して投入されたF6Fコルセア戦闘機

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「マリアナの七面鳥狩り」と呼んで日本軍のカミカゼ攻撃をほとんんど無力化したVT信管(電波で飛行機を感知すると自動的に爆発する)などの説明もわかりやすい。

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小説のあらすじは詳しく説明すると読んだときに興ざめなので、この程度にとどめておく。予想外の最後の展開に驚くことをつけくわえておく。

文庫で600ページもの小説だが、一気に読めて大変楽しめる作品である。


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2014年04月03日

ソロモンの偽証 2,200ページを読み切るのはエネルギーが要る

ソロモンの偽証 第I部 事件
宮部 みゆき

新潮社
2012-08-23


ソロモンの偽証 第II部 決意
宮部 みゆき
新潮社
2012-09-20


ソロモンの偽証 第III部 法廷
宮部 みゆき
新潮社
2012-10-11


タイトルに惹かれて、宮部みゆき著「ソロモンの偽証」3部作、全2,200ページを10日ほどで読み終えた。

筆者は本は図書館で借りて、よっぽど気に行ったものだけ読んだ後買う様にしている。図書館から借りれば、2週間以内に返却する必要があり、必ず読むからだ。

この本も図書館から借りて読んで正解だった。自分で買ったら、途中で読み疲れて止めてしまっただろうと思う。

小説のあらすじはいつもどおり詳しくは紹介しない。東京都内の中学校で、雪が降ったクリスマスイブに、不登校だった2年生の男子生徒が校舎の屋上から落ちて亡くなっているのが発見された。遺書はなかったが、その前の行動から両親は生徒が自殺したと思い、警察も自殺と断定した。

みんなが自殺だと思っていたところ、3カ月経って、中学校の不良グループの3人組が、その中学生を屋上から突き落として殺害した現場を目撃したという告発状が届く。

この告発がきっかけとなって、自殺した生徒の同級生が中心となって、夏休みに校内模擬裁判を陪審制で開催する。

はたして模擬裁判で真相は判明するのか?

意外な関係者とは?

…といった感じだ。

中学生が模擬裁判、それも陪審裁判をやるというプロットだけに、正直あり得ないストーリーだと思ったが、作者の宮部みゆきさんは、この作品のホームページにある「インタビュー」の中で次の様に語っている。

「一九九〇年に神戸の高校で、遅刻しそうになって走って登校してきた女子生徒を、登校指導していた先生が門扉を閉めたことで挟んでしまい、その生徒が亡くなるという事件がありました。その後、この事件をどう受け止めるかというテーマで、校内で模擬裁判をやった学校があった。それがすごく印象に残っていたんです。」

また、小説家になる前に、宮部さんは法律事務所に勤めていたという。法廷のことに詳しいはずだ。

「ソロモンの偽証」の紹介サイトを新潮社が開設している。

ソロモンの偽証1



















ホームページには、登場人物の関係図も載っている。

ソロモンの偽証2



















宮部みゆきさんの著者メッセージの肉声も聞けるようになっており、面白い。

ソロモンの偽証3



















既に2015年正月公開の映画化が決定され、出演者の中学生全員をオーディションで選出するとして話題になった。

ソロモンの偽証4



















ソロモンの偽証5




















本を全部読み切るのはかなりエネルギーが要るが、興味をそそるタイトルでもあり、まずは読み始めることをお勧めする。


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2013年12月28日

まほろ駅前狂騒曲 まほろ駅前多田便利軒シリーズ最新作

まほろ駅前狂騒曲
三浦 しをん
文藝春秋
2013-10-30


三浦しをんさんの、まほろ駅前多田便利軒シリーズの最新作。筆者の住んでいる町田市をモデルにしている。三浦しをんさんもかつて町田に住んで、書店でアルバイトをしていたようだ。

このシリーズは映画化され、多田便利軒のオーナーの多田に瑛太、いそうろう兼助手の行天に松田龍平という若手人気俳優が出演している。



第2作はテレビドラマになっている。




町田市は町おこしの一環で、映画が公開されるタイミングで通りの名前を「まほろ大通り」などに変えるなど、この小説を応援している。町田市図書館でも「まほろ駅前…」シリーズは大量に蔵書している。

この本も10月末に発売されたばかりの本だが、町田図書館で28冊も蔵書があるので、早めに予約したら12月にはもう読めた。

登場人物のイラストが楽しい。

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出典:本書イラスト

いつも通り小説のあらすじは詳しく紹介しない。「まほろ」駅前にある便利屋ー多田便利軒をめぐる出来事だ。

多田は幼い息子の死をきっかけに、妻と離婚して今の便利屋稼業を始めた。

そこに転がりこんできたのが高校の同級生の行天だ。行天は女性同士のカップルに精子を提供して、子供をつくるのを手伝ったという過去がある。

この本で、行天は「怖いものがあるのか」と聞かれて、「あるよ。記憶」と答える。

なぜ記憶が怖いんだ?

行天の両親のことや、幼い頃のことが今回初めて明らかになる。

無農薬野菜をまほろ市各地で生産し、販売しているHHFA(Home and Healthy Food Association)という集団が今回登場する。

そのリーダーが行天を知っていた。なぜだ?

行天とこの集団との接点は?

多田のロマンスや、行天の精子で人工授精して誕生した行天の娘・はるもはじめて登場する。

横中バス(神奈中バスのパロディ)の間引き運転有無の調査を多田に依頼するおじいさんや、息子に依頼されて息子を装って多田が見舞いに行く市民病院に入院している認知症のおばあさんなど、いわばレギュラー出演者も出てくる。(上のイラストから、それらしい人物がわかると思う)

470ページ余りの作品だが、一気に読んでしまう。まさにエンターテインメント小説である。


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2013年11月04日

ここは退屈迎えに来て 間違って(?)読んでしまった本

ここは退屈迎えに来て
山内 マリコ
幻冬舎
2012-08-24


短編「十六歳はセックスの齢」で、2008年に第7回R-18文学賞・読者賞を受賞した山内マリコさんのデビュー作。

なんでこの本を読んだのか思い出せない。

たぶん他の幻冬舎の本を読んだ時に、巻末の本の広告で紹介されていたからだと思う。

タイトルに惹かれて図書館で借りて読んだが、1日で読んで返却した。

おっさんの読む本ではなかった、と思う。

舞台は地方都市。サッカーがうまくて高校を卒業して実業団チームに入ったが、ほどなくして退団、今は自動車教習所の教官をやって3歳の娘がいる椎名一樹を中心として、まわりの女性たちのことを描いた短編を集めている。

山内さんは富山県出身で、大学は大阪芸術大学芸術学部卒だ。自分の経験を元に、地方都市出身者の女性の思いを書いている。

このブログで何度も紹介している大沢在昌さんの「売れる作家の全技術」で書いているように、いまは出版界が余裕がなくなり、大沢さんのように11年間28冊も初版だけで”永久初版作家”と呼ばれた人を気長に育ててくれる編集者がいない。

小説講座 売れる作家の全技術 デビューだけで満足してはいけない
大沢 在昌
角川書店(角川グループパブリッシング)
2012-08-01


だから、山内マリコさんも2008年に第7回R-18文学賞・読者賞を受賞していながら、なかなか本が出せず、今回がデビュー作となったのだろう。

幻冬舎には、自費出版の要素も取り入れて一定部数までは、作者が売り上げを保証する制度があると聞いている。あるいは、その制度を使っての出版かもしれない。

小説を書く人には、厳しい時代だが、ぜひくじけずに続けてほしいものである。

文章は整理されて読みやすく、頭にスッと入る。筆者のようなおっさんには無理だが、山内さんのような地方出身者の女性は容易に感情移入できるだろう。


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2013年11月03日

7つの会議 半沢直樹と同時にドラマ化されたもう一つの池井戸作品

七つの会議
池井戸 潤
日本経済新聞出版社
2012-11-02


大ヒットした「半沢直樹」シリーズと同じタイミングでNHKでドラマ化された池井戸潤さんの作品。

このブログでは池井戸さんの作品は「オレたちバブル入行組」「オレたち花のバブル組」「ロスジェネの逆襲」などの「半沢直樹」シリーズや、「下町ロケット」「空飛ぶタイヤ」「鉄の骨」「ルーズベルト・ゲーム」など中小企業を舞台とした企業小説を紹介している。

この7つの会議は、他のどの池井戸作品とも異なる。主人公がいないのだ。「半沢直樹」が大ヒットして、NHKのこのドラマが陰に隠れたのは、そのせいだろう。

7つの会議








出典:NHK番組紹介ページ

大手電機メーカー・ソニックの子会社の東京建電は、住宅向け設備や家電製品、飛行機や電車のイスなどを製造している。会社の最重要営業部門である営業第1部の坂戸課長が、同じ課の万年係長・八角からパワハラで訴えられ、人事部付となる。

代わって営業第1部の課長になった原島は、板戸の処分には何か裏があることに気づく。飛行機や電車などに使われるイスで使われる重要部品のネジのサプライヤーが、数年前に入れ替わっていた。元は営業のエースだった八角も、自分が板戸おろしに使われた本当の理由を知るために乗り出す。

実はネジのサプライヤー交換は重大な意味を持っていたのだ。

主要な登場人物が出てくるたびごとに、その人の生い立ちとか家庭環境、経験とかを紹介するために、その人が主人公となったショートストーリーが出てくる。これの連続なので、主人公は誰かわからなくなってしまう。

アマゾンのカスタマー・レビューで、☆一つを付けた人が言っているように、ビジネスの現場を知っている人には、ありえない設定や展開だ。

なぜありえないか、一つヒントを書いておく。

サーバとPC、どちらもハードディスクが使われるが、サーバが高価で、PCが安いのはなぜだろう?

その違いは不良率と耐久性にある。もちろん材質も違うし、テストも厳しい。ネジは見かけは同じでも、材料となる棒鋼の規格は全く異なる。民生用と特注品と同じものが使われることなど、ビジネスではありえないのだ。

池井戸さんは元銀行マンなので、あまり実業は知らないなという印象を受けるが、小説は楽しめればいいので、「ありえないなぁ」と思いながらも、引き込まれてしまう本である。


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2013年10月26日

死神の浮力 伊坂幸太郎さんの「死神の千葉」シリーズ最新作

死神の浮力
伊坂 幸太郎
文藝春秋
2013-07-30


家内が図書館で借りていたので読んでみた。

伊坂幸太郎さんの作品を読むのは初めてだ。

伊坂さんの作品は、2008年の本屋大賞を受賞した「ゴールデンスランバー」が有名だ。



「ゴールデンスランバー」は「半沢直樹」で一躍トップスターとなった堺雅人主演で映画化されている。

ゴールデンスランバー [DVD]
堺雅人
アミューズソフトエンタテインメント
2010-08-06





この本では伊坂さんの「死神」シリーズに登場する、「千葉」と名乗る死神につとまとわれる小説家夫婦が主人公だ。

「千葉」と名乗る死神は、「情報部」から派遣された調査員だった、人間を1週間密着調査して、調査結果が「可」であれば、8日めにその人間は、なんらかの原因で死ぬ。

調査結果が「見送り」であれば、とりあえずは生き延びる。

小説家夫妻には小学生の一人娘がいたが、冷酷なサイコパス(良心を持たない男)に連れ去られ、毒物を注射されて殺される。

犯人は娘が死ぬ映像をメールで小説家に送り付けた。その映像データはウィルスを仕組まれていて、小説家が見た後、パソコンからデータが消滅して証拠はなくなった。

ほどなく防犯カメラに映っていた小学生の娘と一緒に歩いていた男が捕まり、裁判にかけられる。しかし、目撃者の老婆が証言を翻したため、証拠不十分で無罪判決が出る。

無罪判決に憤った小説家夫妻は男に対する復讐するため男のホテルを襲い、意外な事実を男に伝える。実は裁判は…。

小説家夫婦と行動を共にする死神の「千葉」。逆に拳銃、爆弾で反撃する男。

物語は思いがけない展開を遂げる。

間の抜けた「千葉」の受け答えや、音楽なしではやっていけない死神という設定がユーモラスだ。

430ページ余りの単行本だが、一気に読めえ、楽しめる本だ。


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2013年10月20日

64(ロクヨン) 横山秀夫さんのベストセラー警察小説

64(ロクヨン)
横山 秀夫
文藝春秋
2012-10-26


このブログで「震度0」を紹介した横山秀夫さんのベストセラー。「64(ロクヨン)」も「震度0」も警察小説だ。

震度0 (朝日文庫 よ 15-1)
横山 秀夫
朝日新聞出版
2008-04-04


「64」は単行本で650ページ弱の大作だが、予想もできない展開につい引き込まれる。

小説のあらすじはいつも通り詳しく紹介しない。D県警で長年刑事畑にいた三上義信は46歳にして、2度目の広報室勤務を命ぜられる。今回は広報室トップの広報官だ。

前回は刑事3年目で広報室勤務を命ぜられ、1年で刑事部に戻された。以来、20年以上、刑事としてキャリアを積んできた。捜査1課の強行犯、盗犯、特殊犯で実績を挙げ、捜査2課に移ってからは知能犯の捜査でD県警でも一目置かれる存在となった。それが青天の霹靂の広報官就任だ。

三上の家族は元ミス県警の妻・美那子と、父親に似ているルックスを嫌い、親と衝突して家出している高校生の娘・あゆみの2人だ。

以前紹介した大沢在昌さんの「売れる作家の全技術」に出てくる、「小説のとげ(あとで伏線となる話)」が、あちこちに仕込まれている。その一つが無言電話だ。家出した娘からの無言電話だと、三上と美那子は思い込んでいたが…。

小説講座 売れる作家の全技術 デビューだけで満足してはいけない
大沢 在昌
角川書店(角川グループパブリッシング)
2012-08-01


もう一つの「小説のとげ」がこの本の冒頭の電話ボックスの写真だ。

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この電話ボックスがなぜ「小説のとげ」なのかは、最後まで読むとわかる。

D県警には時効直前の未解決事件があった。通称「64(ロクヨン)」と呼ばれる雨宮翔子ちゃん誘拐殺人事件だ。昭和64年1月5日に発生したので、64(ロクヨン)と呼ばれている。昭和最後の年・昭和64年は1月7日に昭和天皇が崩御したので、わずか7日しかない。

その短い昭和64年に起こり、犯人を逮捕して絶対に昭和の時代に連れ戻すという強い警察の意志から、「64(ロクヨン)」と呼ばれているのだ。

しかしその「64」も時効まで1年の14年を経過し、捜査本部は依然として設けられているものの、新しい証拠はなく、手詰まり状態だった。

そんな中で、全国26万人の警察官のトップ・警察庁長官がD県を訪問する際に、雨宮さん宅を訪問して事件解決に対する強い意気込みを被害者に伝え、その場で記者会見するという話が持ち上がった。

警察庁長官訪問を機に、警察庁につながる刑務部と、代々県警のたたき上げがトップを務める刑事部の対立が激化する。本庁はD県警刑事部トップにキャリア警察官僚を送り込み、「天領」とするつもりなのか?

一方、被害者の父親・雨宮さんからは、長官訪問は遠慮すると言われる。

このとき三上は別件の自動車事故で被疑者の名前を言う言わないで、記者クラブともめ、記者から取材ボイコットを受けていた。弱り目に祟り(たたり)目。

広報室の部下と一緒に、12社+アルファの報道機関対策に手を焼きながらも、三上は警察庁長官の遺族訪問を実現すべく、雨宮さんの翻意を促すために、あらためて「64」の捜査関係者から話を聞きまわる。

犯人からの脅迫電話を録音する「自宅班」4人のうち、2人が事件後、ほどなく警察を辞めていた。三上は歴代の刑事部長をはじめ、関係者から話を聞くうちに、刑事部が代々隠匿していた秘密がある事を知る。

そして警察庁長官の訪問の直前に、急に刑事部が大捜査体制をつくって、部外者を締め出す。「64」の手口を全くコピーした新たな誘拐事件が発生したのだ。三上はマスコミが要求する追加情報を求めて、敬愛する刑事部の松岡参事官・捜査1課長の捜査指揮車に同乗する。

すると松岡は、「お前がもたらした情報が端緒となった。この車は今、ロクヨンの捜査指揮を執っている」と言い出す。なぜ?…。

電話ボックスがどのように使われたのか、これがこの小説の一番のポイントだ。思いもよらない展開に驚くとともに、横山さんの発想力に感心する。

650ページの大作だが、読み始めたら止まらない。最後まで楽しめる作品である。


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2013年09月29日

【再掲】ロスジェネの逆襲 次の半沢直樹はこのストーリー

2013年9月29日再掲:

TBSドラマの「半沢直樹」が好評裏に9月22日に終了した。最終回の視聴率は関東地区で42%、関西地区では45%を記録したらしい。

大変面白いテレビドラマで毎週日曜日夜9時に見ていたので、今週からはなにか張り合いがなくなったような気持ちだ。

是非次作を期待したい。

「半沢直樹」シリーズの次作は、このブログで紹介した「ロスジェネの逆襲」になるだろう。再度紹介しておく。

2013年6月10日初掲:

ロスジェネの逆襲ロスジェネの逆襲
著者:池井戸 潤
ダイヤモンド社(2012-06-29)
販売元:Amazon.co.jp

「下町ロケット」で直木賞を受賞した池井戸潤さんの半沢直樹シリーズ第3弾。

7月7日からTBSの東芝日曜劇場で、「半沢直樹」としてドラマが放送され、次の2冊がドラマの原作となった。

オレたちバブル入行組 (文春文庫)オレたちバブル入行組 (文春文庫)
著者:池井戸 潤
文藝春秋(2007-12-06)
販売元:Amazon.co.jp

オレたち花のバブル組 (文春文庫)オレたち花のバブル組 (文春文庫)
著者:池井戸 潤
文藝春秋(2010-12-03)
販売元:Amazon.co.jp


池井戸さんによると、日本のビジネスマンには次の3つの特徴的な世代があるという。

団塊世代   : 1947〜1949年に生まれた第一次ベビーブーマー世代。バブル生みの親?

バブル世代  : 1980年代後半〜1990年代はじめに大量採用された人々。お荷物世代、穀つぶし世代ともいわれる。

ロスジェネ世代: バブル崩壊後、1994〜2004年の就職氷河期に社会に出た人たち。バブル世代の管理職にこき使われている。

この本ではバブル世代に銀行に入社した半沢直樹が、合併・統合を経てメガバンクとなった東京中央銀行の子会社の東京セントラル証券に、部長として出向し、IT業界の買収劇に巻き込まれるというストーリーだ。

ロスジェネとは、買収劇に巻き込まれた東京スパイラルの瀬名社長と、半沢の部下の東京セントラル証券のプロパー社員・森山のことだ。

瀬名と森山は私立の中高一貫校で一緒だったが、バブルがはじけて株価暴落のために瀬名の父親が破産して自殺したため、瀬名は私立高校を辞め、高卒でIT関連企業に就職した。

就職先が倒産した後、瀬名は自分のプログラム技術を生かして友人をさそって起業し、今やIT企業の社長として注目される人物となっていた。

対する森山は、就職氷河期にぶちあたり、なんとか東京セントラル証券に就職できたが、親会社の銀行からの出向者の上司にこき使われ、理不尽を感じている毎日だった。

瀬名の東京スパイラルは、経営陣の内紛から、敵対的企業買収が仕掛けられる。

半沢の東京セントラル証券は、当初その買収計画のアドバイザー契約を獲得する予定だったが、思わぬ展開でカヤの外に追いやられる。

そんな時に、森山は、旧友の瀬名に突然電話を掛ける…。

「やられたら倍返し」という半沢直樹のモットー通りの展開が心地よい。

楽しめる企業小説である。


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2013年08月29日

三匹のおっさん ふたたび 還暦探偵団が帰ってきた

三匹のおっさん ふたたび
有川 浩
文藝春秋
2012-03-28


以前紹介した有川浩の「三匹のおっさん」の続編。

三匹のおっさん (文春文庫)
有川 浩
文藝春秋
2012-03-09



登場する三匹はキヨ、シゲ、ノリの還暦三人組だ。

キヨは建設会社を定年退職して、系列のゲームセンター(アミューズメントパーク)の経理担当となっている。キヨは剣道の達人で、親から引きついだ剣道教室の師範をやっていたが、剣道教室は生徒不足で休業中だ。

キヨの孫の祐希(ゆうき)は高校3年生。アミューズメントパークでアルバイトをしていたが、今は受験勉強のためにアルバイトは辞めている。

シゲは居酒屋を息子に引き継ぎ、今は息子夫婦を手伝う柔道の猛者。いつもジャージを着ているガニマタのおやじだ。昔は国体で、現在の地元警察署長を投げ飛ばしたことがあるほどの腕前だ。

ノリは町工場の経営者で改造スタンガンや改造モデルガンなど、やたらアブナイ道具をコートの下に持ち歩く。ノリは男やもめで、娘の早苗と暮らしている。

早苗はキヨの孫の祐希とつきあっており、同じ大学を受験する予定だが、ノリに良い縁談が持ち上がり、そのせいで早苗の成績が下がってしまう…。

小説のあらすじはいつも通り詳しくは紹介しない。

60歳の還暦3人組という筆者の年齢に近いおっさん3人が、それぞれの特技を生かして犯罪を解決するという中高年探偵団のストリーだ。

今回はキヨの息子の嫁で、お嬢さん育ちの貴子が商店街でバイトする話、アミューズメントパークの駐車場で粗大ごみを持ち込む住人や、ゴミを持ち込んだり、タバコを喫っている中学生の不良予備軍、10年以上ぶりに神社のお祭りを復活させる話、隣町で自警団を始めたニセ三匹などといった話が展開する。

商店街の書店の万引き犯を懲らしめる話は、筆者の有川さんが思い入れを込めて書いている。

一冊の本を売って書店がどれだけ利益が上がるか(大体2割程度)、どれだけ経費が掛って、実質の儲けはどのくらいかなどを登場人物に語らせて、もし万引きで損失が出ると、そんな儲けはふっとんでしまうことを、万引き犯の中学生に教えるというストーリーだ。

有川さんは、ベストセラーが売れるおかげで、出版社はいろいろな本を出せるのだと語る。有川さんも、新人の頃は、同じ出版社の売れている作家の売り上げで本を出させてもらったのだと。

一冊の本にはいろいろな経費が載っており、その中には未来への投資も含まれる。だから、本を買うことで「未来の本に、未来の作家に投資したのだ」と誇ってほしいと訴える。

読者が本を買い支えてくれるおかげで、出版業界の私たちは本を出せているのだと。

三匹とは全く関係ない、「植物図鑑」とのクロスオーバー作品(いわばコラボ)のボーナストラック(おまけの話)、「好きだよと言えずに初恋は、」も面白い。

植物図鑑 (幻冬舎文庫)
有川 浩
幻冬舎
2013-01-11



様々な登場人物がいるので、どんな年代の読者でも気軽に感情移入出来ると思う。

文句なく楽しめる本である。


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2013年07月08日

オレたちバブル入行組 池井戸潤さんのドラマ「半沢直樹」シリーズ原作 

オレたちバブル入行組 (文春文庫)オレたちバブル入行組 (文春文庫)
著者:池井戸 潤
文藝春秋(2007-12-06)
販売元:Amazon.co.jp

池井戸潤さんの半沢直樹シリーズ第一弾。

原作は2004年12月に発刊されている。

今日からテレビドラマの「半沢直樹」が始まった。

半沢直樹











ちょうどテレビを見終えたところだ。

最初の回と2回目が「オレたちバブル入行組」のドラマ化だ。ちょうどいいところで、「次はまた次回」となってしまうが、小説のエッセンスは出ていると思う。

一部脚色はあるが、原作にかなり忠実なストーリーとなっている。

支店長の圧力で、半沢が5億円の融資を決めた西日本スティールは、融資実行直後に倒産した。粉飾決算だったのだ。社長の東田は雲隠れ、会社は清算、社員はちりじりになった。

社内の査問委員会にかけられる半沢。その席で必ず5億円を取り戻すと宣言するが…。

いつも通り、小説のあらすじは詳しく紹介しない。原作はどんでん返しの連続で、いかにもドラマ原作としてふさわしいストーリーだ。池井戸さんの作品はマンガみたいなありえない展開が多いが、この作品はありそうな展開で、安心して?見ていられる。

池井戸潤さんは、元銀行員なので、ところどころに銀行の裏を知ったインサイダーじゃないと絶対に書けない部分もあり、楽しめる。

完結篇の第2話が楽しみだ。

どうでもいいことだが、小説の中では、延々と続く大阪北港のコークス置き場を行ったところに、西日本スチール倒産の影響で、連鎖倒産した竹下金属(赤井秀和が竹下社長役になっている)があることになっている。

しかし、ドラマでは工場街にある設定となっている。どうやら昔、北港にあった大阪ガス?向けのコークスヤードは、今はないのか、あるいはすべて倉庫屋内に置かれているようだ。

筆者は鶴瓶は、竹下金属の社長役で出てくると予想していたが、半沢直樹(堺正人)の父親役だった。



全然似ていないだろ!

金融庁検査官が国税庁に出向しているという設定で、オネエの国税検査官(片岡愛之助)が、はやくも第1話から登場している。

このブログで紹介した「オレたち花のバブル組」や、「ロスジェネの逆襲」もいずれ登場するのだと思う。

オレたち花のバブル組 (文春文庫)オレたち花のバブル組 (文春文庫)
著者:池井戸 潤
文藝春秋(2010-12-03)
販売元:Amazon.co.jp

ロスジェネの逆襲ロスジェネの逆襲
著者:池井戸 潤
ダイヤモンド社(2012-06-29)
販売元:Amazon.co.jp

ドラマの展開が楽しみだ。


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2013年06月25日

鉄の骨 池井戸潤さんのゼネコン小説

鉄の骨 (講談社文庫)鉄の骨 (講談社文庫) [文庫]
著者:池井戸 潤
出版:講談社
(2011-11-15)

池井戸潤さんの作品を最近いくつか読んでいる。

前回紹介した朝井リョウの作品は、高校生や就活生が主人公なので、筆者のようなおっさんには感情移入が難しいが、池井戸さんの作品は企業小説が多いので、無理なく感情移入できる。

以前紹介した「バブル組」シリーズのように、ほとんどマンガだ。

オレたち花のバブル組 (文春文庫)オレたち花のバブル組 (文春文庫) [文庫]
著者:池井戸 潤
出版:文藝春秋
(2010-12-03)

巨大土木プロジェクトをめぐる熾烈な入札競争と、政財官を巻き込んだ談合を題材とした作品だ。

日本の建設業の関係者は540万人で、就業者の12人に一人が建築業界の関係者だ。

そのほとんどが中小零細企業で、体力のない土建業に従事して、細々と食っている。なんとか食えるのは、談合があるからだと。

昔ながらの代議士をバックにしたフィクサーが登場する。
このフィクサーが「小説のトゲ」だ。

しかし、ひと昔前なら談合はありえたかもしれないが、今は内部告発の恐れもあり、コンプライアンス上、談合などやっている会社は到底存続できないと思う。

その意味では、いかにもありそうなストーリーだが、筆者はマンガではないかと思った。

ともあれ、小説はエンターテインメントなので、現実味はともかく、楽しめればよい。

最後のどんでん返しには「これは、ちょっと、あんまりなんじゃないか?」と、驚くとだけ言っておこう。

単行本では500ページ強の作品だが、中だるみもなく一気に読める作品である。


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2013年06月15日

オレたち花のバブル組 池井戸潤さんの半沢直樹シリーズ第2弾

オレたち花のバブル組 (文春文庫)オレたち花のバブル組 (文春文庫) [文庫]
著者:池井戸 潤
出版:文藝春秋
(2010-12-03)

このブログで「ロスジェネの逆襲」や「下町ロケット」「空飛ぶタイヤ」を紹介した直木賞作家・池井戸潤さんの「半沢直樹」シリーズ。

下町ロケット下町ロケット [ハードカバー]
著者:池井戸 潤
出版:小学館
(2010-11-24)

空飛ぶタイヤ(上) (講談社文庫)空飛ぶタイヤ(上) (講談社文庫) [文庫]
著者:池井戸 潤
出版:講談社
(2009-09-15)

「オレたちバブル入行組」が第1弾で、この作品が第2弾、前回紹介した「ロスジェネの逆襲」が半沢直樹シリーズの第3弾だ。

オレたちバブル入行組 (文春文庫)オレたちバブル入行組 (文春文庫) [文庫]
著者:池井戸 潤
出版:文藝春秋
(2007-12-06)

小説のあらすじはいつも通り詳しく紹介しない。この本はまるでマンガだ。「ありえない展開」ばかりで、あきれると同時に面白い。

銀行員が、反対派の取締役や常務を相手に、こんな具合に立ちまわる。

「大和田常務に伝えていただけませんか。常務ともあろう方が派閥意識にとらわれてどうするんです…」

「もしあんたがまともなバンカーなら、おそらく自分のしたことを後悔しているはずだ。この報告書の内容を素直に認めるつもりがあるのかないのか、それを確かめにきた。認めるのなら、取締役会で証言してもらいたい…」

金融庁の検査官は「オネエ」という設定だ。

「もう結構。この前と変わらないじゃないの。いやよねえ。こういうの出してくるなんて。失礼しちゃうわ…」

オネエの検査官にもきっぱり対抗する。

「…正常債権として扱ってなんら問題はありません。…ナルセンの破綻など、もはや全く問題になりませんのでご安心ください。さて、他に何か質問がありますか、黒崎さん…」

「オレは、基本は性善説だ。だが、やられたら、倍返し」という半沢のポリシー通りの展開だ。

7月7日からTBSの東芝日曜劇場での「半沢直樹」シリーズのドラマ放映が始まる。

大変楽しめるエンターテイメント作品である。


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2013年05月06日

売れる作家の全技術 大沢在昌の小説講座 懇切丁寧な指導が光る

+++今回のあらすじは長いです+++

小説講座 売れる作家の全技術  デビューだけで満足してはいけない小説講座 売れる作家の全技術 デビューだけで満足してはいけない
著者:大沢 在昌
角川書店(角川グループパブリッシング)(2012-08-01)
販売元:Amazon.co.jp

「新宿鮫」シリーズなどの刑事小説の大御所・大沢在昌が、角川書店の「小説 野生時代」の企画で、12人の「どうしてもプロになりたい」という小説家志望者に対して1年間続けた「小説家講座」の講義録。


筆者が最近、人に勧めている本のナンバーワン

筆者は、年間250−300冊のペースで本を読んでいるので、「最近読んだ面白い本を教えてくれ」と聞かれることが多い。そんな時に、最近、筆者が勧めているのがこの本だ。

もっとも、この本を勧めると、「別に小説家になりたいわけではないので…」というような反応を示す人がいるが、この本は小説家志望の人向けだけに書かれたものではない。

一般読者には、「作家はこんな風に考えて、こんなテクニックを使って小説を書いているのか」ということがわかり、かえって小説を読む楽しみが増すと思う。

また、この本で紹介されている小説のいくつかは本当に面白い。たとえば直木賞を受賞した朝井リョウの「桐島、部活やめるってよ」や、三崎亜紀の「となり町戦争」などは大変面白い小説である。


「名前は知っているけど、読まないと決めた作家」という壁

大沢在昌は、長くやってきて知名度も高くなった作家ほど「名前は知っているけど、読まないと決めた作家」という壁にぶち当たると語る。

だから「ほぼ日」で「新宿鮫」の最新シリーズを連載したりして、新しい試みで、その壁を突破しようとしているのだという。

実は、筆者も、この本をきっかけとして大沢在昌の「新宿鮫」シリーズなどの作品を読んでみた。

新宿鮫 (光文社文庫)新宿鮫 (光文社文庫)
著者:大沢 在昌
光文社(1997-08)
販売元:Amazon.co.jp

大沢在昌は、筆者が「読まないと決めた作家」の一人だった。筆者は元々刑事ものには興味がない。もし、この本を読まなかったら、大沢在昌の作品は読むことはなかっただろう。


「デビューだけで満足してはいけない」

この本を読むと、アマチュア相手に、これだけ懇切丁寧に、愛情をこめて指導している大沢在昌自身に興味を惹かれる。講義の最後には、受講生12人すべての作品を読み、一人ひとりへのアドバイスを与えている。

受講生はすべて動物の名前で、「ネコ」とか「イルカ」とかになっている。将来世に出た際に、この小説講座を受講していたことがマイナスの評価にならないために、仮名にしたという。すごい思い入れだ。

サブタイトルは「デビューだけで満足してはいけない」。

大沢在昌自身がまさに、「デビューだけして全く売れなかった作家」だったから、指導にも熱が入っているのだと思う。

大沢在昌は23歳でデビューして、11年間全く本が売れなかった。28冊の本が、すべて初版どまりで「永久初版作家」と呼ばれたという。それでもなんとか食えたのは、出版業界が今とは比べものにならないほど豊かで、気の長い編集者が育ててくれたからだと。

28冊、毎回、「これでどうだ」、「これじゃ駄目か」、「それならこうしてやる」と手を変え品を変え、他人の作品はもちろん、映画や漫画からも、おもしろい話を作るメソッドを盗もうとしていたが、売れなかった。

29冊目の本の「新宿鮫」がヒットし、その後文学賞をいくつか受賞したこともあって、いまは大きな顔をしているが、1作のヒットで一生食えることなどありえない。むしろそのヒット作を上回るものを作らないと、「あの人はあれで終わったな」と言われてしまう。

作家に安全確実なポジションなどない。過去の成功は過去でしかない。いつも今書いている作品、これから書く作品を問われるのだ。

講義の最後の大沢在昌の言葉は次の通りだ。

「自分を苦しめ、追い詰めて、これ以上ないと思った、さらにその先があると信じて書くこと。

100パーセントの力を出し切って書けば、次は120パーセントのものが書けるし、限界ぎりぎりまで書いた人にしか次のドアを開けることはできません。それを超えた人間だけがプロの世界で生き残っているんです」。


驚かされるプロの作家の読書量

大沢在昌の読書量はハンパではない。最も読んだときは高校2年生の時で、毎日3冊ずつ図書館の棚の端から端まで読んで、1年間で1,000冊読んだという。

作家になるまでも毎年500〜1,000冊、スタンダードなミステリーはもちろん、新しい作家のものや優れたノンフィクションも読んだ。

いろんな作家の本を読むことによって、経験したことのないことにに対する知識や、小説の勘どころみたいなものが身に付くのだと。

ミステリーを書こうとする人には、基礎知識が絶対必要で、「本格推理小説」でも「ハードボイルド」でも、古今東西の名作、古典は一通り読んでいなければならない。本格推理小説にはトリックの知識、警察小説には警察の知識が不可欠だ。

最低でも1,000冊は読んでからでないと、ミステリーの賞に応募することはできないと。

今回の受講者12人には、それほどの読書家はいないようで、大沢在昌は、ことあるごとに作家にとっての読書の重要性を強調している。

「プロの作家がどれだけ多くの本を読んでいるかを知ったら、おそらくびっくりするでしょう。みんなたくさん読んできているし、今現在も読み続けています。

そんな人たちの中に殴り込んでいって自分が名を成そうとするならば、その人たちより少ない読書量、少ない引き出しでは絶対に勝てるわけがない」。

「『本を読むのは嫌だけど書きたい』という人は作家などやめたほうがいい」。

筆者は別に小説家になろうとは思わないが、我が意を得たりという気がすると同時に、「年間300冊でもまだ少ないんだ」、と思う。

先日紹介した「海賊とよばれた男」の最後に参考文献が載っていた。出光佐三や出光興産に関する本ばかり、50冊ほど紹介されているのに驚いた。

やはり、あれだけの本を書くには相当な読書と研究が必要なのだと思う。

大沢在昌は、この本の最後に卒業制作として長編小説を課題に出している。その準備に関して、「準備期間5か月のうち、3か月を材料の仕入れやプロットを考えることに使い、2か月を書くことに使うこと」を勧めている。膨大な読書を含む準備が、いかに重要なのかがよくわかる。


この本の構成

大沢在昌が1年間、毎月続けた講義は、10回が講義、2回が受講者の作品講評という構成となっている。

この本の目次を見ると、毎回10程度取り上げられている講義ポイントがわかる。よくできた目次なので、まずは本屋で目次をパラパラめくってみることをお勧めする。

この本はアマゾンの「なか見!検索」に対応していないので、「なんちゃってなか見!検索」で、目次の一部を抜粋して紹介しておく。どんな感じか、わかると思う。(カッコ)内は特記事項だ。

第一部 講義
第1回 作家で食うとはどういうことか

   ・作家デビューの方法
   ・偏差値の高い新人賞を狙え
   ・作家の財布事情
   ・縮小する出版市場
   ・作家になるために大切な四つのポイント
   ・作家のモチベーション
質疑応答
   ・デビュー前にどれくらい書いていたのか?
   ・無理してでも決めた枚数を書くべきなのか?
   ・途中で駄作だと感じても最後まで書くべきか?

第2回 一人称の書き方を習得する 
   ・3つのハードルを克服しろ
(3つのハードルとは、1.視点の乱れをなくす、2.限定された視点でどこまで読者に情報を提供し、物語を形作れるか、3.視点人物、つまり語り手である「私」や「僕」や「俺」の個性をどれだけ読者に伝えられるか)
   ・「出す」だけでなく、「入れる」ことも忘れない(ネタを常に探し、アイデア帳を身近に置いておき、常に人間観察するなど)

質疑応答
   ・どうすれば嫌な人物を描けるか?
   ・実体験を作品に反映させることはあるのか?
   ・いいタイトルをつける秘訣は?

第3回 強いキャラクターの作り方 
   ・キャラクターがストーリーを支える
   ・キャラクターには登場する理由がある
   ・細部を細かく作り上げていく(「スタニスラフスキー・システム」)
   ・主人公に変化のない物語は人を動かさない(ストーリーが登場人物を変化させ、その過程に読者は感情移入する)
   ・人間観察からすべてが始まる(水商売の女性は靴を見てお客を見極める)
   ・ミステリーには基礎知識が必要
質疑応答
   ・名探偵は主人公なのに物語の中で変化しないのでは? 
   ・アマチュアでも取材は可能か?

第4回 会話文の秘密
   ・「実際の会話」と「小説の会話」は違う
   ・キャラクターにふさわしい会話
   ・なぜ「隠す会話」が必要か
   ・効果的な会話のテクニック
   ・決定的なセリフにたどり着け
質疑応答
   ・「神の視点」と視点の乱れの違いは?

第5回 プロットの作り方
   ・どんな楽しみを提供するかを意識する
   ・「謎」の扱いがプロット作りのカギ
質疑応答 
   ・どうすればプロットをうまく使えるようになるか?
   ・作品内のタイムテーブルは作るべきか?

第6回 小説には「トゲ」が必要だ
   ・面白い物語を書くには
   ・最も強い武器を伸ばせ
   ・面白い物語とは何か(自分が書くものは必ず面白いはずだと信じる)
   ・主人公を残酷な目に遭わせろ(主人公に残酷な物語は面白い)
   ・小説の「トゲ」とは何か(読み終えたあと、読者の心の中にさざ波を起こすような何か)
質疑応答
   ・こぢんまりした作品になってしまうのはなぜ?
   ・古典の引用で注意すべきことは?(「フランケンシュタイン」と「マイ・フェア・レディ」は実は同じ話)
   ・小説に実在の人物名を使ってもよいか?
   ・物語のカタルシスには何が必要か?(死ぬほど考えるしかない)
   ・漢字はどの程度使うべきか?
 
第7回 文章と描写を磨け
   ・文章にリズムを持たせろ
   ・正確な文章を書け
   ・「8割感情、2割冷静」で書く
   ・人物をひと言で表現しろ
   ・描写の3要素(「場所」、「人物」、「雰囲気」)
   ・擬音、オノマトペ、外来語
   ・日本文学と海外文学の違い(最小限の言葉で最大限の情報を伝達するスキル)
   ・改行のテクニック(改行は、文章のリズムを作るうえでの数少ないテクニック)
質疑応答
   ・「副詞はなるべく入れるな」は正しい?(読んでいて心地よい文章かどうか)
   ・推敲の方法(その日の仕事を始める前に、必ず前回書いた文を読み返す)

第8回 長編に挑む
   ・設計図と分量配分
   ・冒頭シーンは何度も書き直せ(「新宿鮫」の冒頭シーンの解説)
   ・主人公を印象づけろ
   ・強いキャラクターを複数つくる(「新宿鮫」の「ロケットおっぱいのロッカーの晶」、「まんじゅう(死人)の上司・桃井」)
   ・中だるみを防ぐには謎を解け
   ・一つ目の謎を解き、新たな謎を作る
   ・クライマックスは二度用意する
   ・自分を遊ばせてあげよう(「生きた会話」が書けたのは、私自身、楽しんで書いていたから)
   ・推敲まで作品を寝かせる(時間をあけることによって、あたかも他人の文章を読むように自分の文章を読み返すことができる)
   ・描写に困ったときの虎の巻(「天・地・人・動(動物)・植(植物)」)
   ・読者はMで、作者はS(主人公に対しても読者に対しても、作者は意地悪にならなければならない)
   ・強いタイトルを考えろ
編集者から長編小説への注文 
   ・読者を楽しませる、サービスしてあげるという気持ちは絶対に必要
   ・冒頭の10〜20枚で読者を引き込むように書く
   ・読者を冷静にさせてはいけない
   ・どうすれば読者をもう一度水中深く引っ張り込むことができるのか?
   ・何枚かに1回は山場をつくる、「引き」をつくるという意識を持つ
   ・小さな謎をちりばめておいて、それをところどころで解決していくことで読者を引っ張り続ける
   ・時代の空気を取り入れろ
質疑応答
   ・短編向きのテーマ、長編向きのテーマとは?
   ・思いついたことは作品にすべて注ぎ込むか?
   ・知らない世界をどう描くか?
   ・冒頭から順番に書くべきか?(成功している小説は、おそらく頭から順番に書かれたもの)

第9回 強い感情を描く
   ・面白い物語を作る技術は教えられない
(アイデアの出ない人はプロになれないし、万一プロになれたとしても、もたない)
   ・「作家になりたい」という人生は続く
(とにかく本をたくさん読むこと。それ以外にない。自分の中の蓄積、引き出しが少なすぎる)
   ・作家としての人生もいろいろある
(読むことが好きで好きで読み過ぎて、そこから今度は書きたいという気持ちに転換した、そういう自分を自覚している人でなければ作家にはなれない)
   ・回り道を恐れるな
(プロになっても、引き出しが少ないために苦労している人は実はたくさんいる。書く時間よりも読む時間をはるかに多く持ち、どんどん読んで、どんどん引き出しを増やして、アイデアを膨らましている人が作家を目指している)
  ・足りないものをどう埋めていくか(結局、「才能がなければダメですよ」)
  ・技術は教えられるが才能は教えられない(アイデアが出せなければ、作家になる才能がない。とにかく頭をひねることに尽きる)
質疑応答 
  ・ラストから逆算して書いてもよいか?(人間を駒にしてしまう危険性がある)

第10回 デビュー後にどう生き残るか
  ・プロ小説家の心得(専業か兼業か)
  ・編集者とのつき合い方(「頼りすぎずに頼ること」)
  ・作家同士のつき合い方(北方謙三とのつき合いを紹介している)
  ・パーティに出よう
  ・仕事の依頼は断るな(締切厳守で書くこと)
  ・読者は大切なお客様である(横柄に振る舞うような人は最悪)
  ・出版界の厳しい現実
(直木賞作家でも初版1万部という人がたくさんいる。文庫書き下ろしは約60万円の収入で終わり。それでも文庫書き下ろしの仕事をしている作家は多い)
  ・本を作る仕事は出版社にとって先行投資(一人でも売れる作家が出てくれば元が取れる)
  ・マスメディアとのつき合い方(テレビでよく見る作家で、ちゃんと小説も書いているという人はとても少ない)
  ・「先生」とは呼ばせるな
  ・インターネットの評価は気にするな
  ・デビュー後の5冊が勝負(受賞第1作がダメならば、この作家はダメとなる)
  ・直木賞ぐらいでおたおたするな(直木賞を取ることにエネルギーを使い果たして、燃え尽き症候群になってしまう)
質疑応答
  ・持ち込みでのデビューは可能か?
  ・一般のエンターテインメント小説で「偏差値の高い」新人賞は?
  ・自分にはこれしか書けないというものに対して、愚直なまでに信じて書く
  ・新人賞への挑戦は何回くらい(3回から5回くらい)

第二部 受講生作品講評
課題は次の4つだ。それぞれのテーマにつき9人前後の受講生の作品のあらすじが紹介され、大沢在昌が論評している。

A ラストで「ひっくり返す」物語を書く(原稿用紙40枚)

B 「自分の書きたい世界」を書く(原稿用紙50枚)

C テーマ競作「バラ」と「古い建物」を入れた物語を書く(原稿用紙40枚)

D テーマ競作「恐怖」の感情を書く(原稿用紙30枚


本当に小説家を目指す人には、作品のどのような点が、どう評価されるのかわかるので、大変参考になると思う。「人のふり見てわがふり治せ」という言葉がある。第二部の受講生作品講評も、しろうとの作文とバカにせずに、じっくり読むと、大変参考になる。

この本には収録されていないが、最後に「卒業制作」としてテーマは自由で、原稿用紙250枚から400枚くらいの長編小説が課題として出されている。締切は約5か月で、良い作品があれば角川書店から単行本として出版されることになる。


以上、目次の補足のようなあらすじとなったが、これでも全部の目次の半分程度である。いかに講義の内容が濃いか、わかると思う。

冒頭に記したように、筆者が最近、他人に進めている本のナンバーワンだ。こんな本は、いままで読んだことがない。大沢在昌のパイオニア精神、後輩を育てようとする真摯な姿勢には感心する。

実に様々な味わい方がある本である。


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2013年04月29日

海賊とよばれた男 ベストセラーとなった出光興産創業者・出光佐三の伝記小説

海賊とよばれた男 上海賊とよばれた男 上
著者:百田 尚樹
講談社(2012-07-12)
販売元:Amazon.co.jp

海賊とよばれた男 下海賊とよばれた男 下
著者:百田 尚樹
講談社(2012-07-12)
販売元:Amazon.co.jp

2011年に100周年を迎えた出光興産の創業者・出光佐三(いでみつ・さぞう)の伝記小説。本の中では、「国岡鐵造」として登場する。

会社の知人が出版社の講談社の人と仕事で打合せしたら、講談社の人から「これは面白いですよ」ということで、この本をもらったという話を聞いたので、読んでみた。

作者の百田尚樹さんの最初の作品の「永遠の0」は、このブログで紹介している

永遠の0 (講談社文庫)永遠の0 (講談社文庫)
著者:百田 尚樹
講談社(2009-07-15)
販売元:Amazon.co.jp

小説のあらすじは、いつも詳しく紹介しないので、自分でも「予想外の最後の展開に驚く」と書いていながら、最後の展開がどうだったか忘れていたので、再度「永遠の0」を読み返した。



「永遠の0」の宮部も登場

実は、「海賊とよばれた男」の中に、「永遠の0」の主人公の宮部がチラッと出てくる。それは、昭和15年(1940年)の秋に国岡鐵造(出光佐三)が、当時幅広く事業展開していた中国の支店を訪問する場面だ。

上海で石油タンクを保有している国岡商会の上海支店を、国岡が訪問した時に、旧知の海軍大佐と会って、海軍の最新鋭戦闘機として零戦を見せてもらい、その時の若い航空兵が「宮部」という名札を付けていたという場面だ。

講談社の人が勧めるだけあって、上下700ページほどのボリュームだが、一気に読める。


この本の構成

この本の構成は、よくできている。アマゾンの「なか見!検索」に対応しているので、ここをクリックして目次を見てほしい。

第1章 朱夏 (昭和20〜22年)

第2章 青春 (明治18年〜昭和20年)

第3章 白秋 (昭和22年〜昭和28年)

第4章 玄冬 (昭和28年〜昭和49年)


この本は「伝記小説」だ。筆者は、ポリシーとして「小説」のあらすじは詳しく紹介しない。

しかし、出光佐三の経歴自体は一般的に知られているものなので、「伝記」として扱い、割合詳しいあらすじを紹介する。

この本の面白さは、それぞれのストーリーの痛快さにあり、「あらすじ」ではそれを伝えることができない。

以下のあらすじを参考にして、ぜひ本を読んでみてほしい。


第1章は、戦争直後の話。

戦前、朝鮮や満州、中国で幅広く事業展開していた国岡商店は、日本の敗戦で海外の資産をすべて失い、ゼロから再スタートした。

海外からの帰国社員を一名もクビにせずに、ラジオ修理や海軍の巨大な石油タンクの底さらいなど、なんでもやったという話が、国岡鐵造の「馘首(かくしゅ)はならん!」という言葉とともに紹介されている。

海軍のタンクの底に残っている廃油さらいは、専門家の廃油取扱い業者でも嫌がる危険な作業だったが、国岡商店の社員は、幹部社員でもホワイトカラーでも嫌がらずに真っ黒になりながらやりとげた。

そのことが、GHQも注目するところとなった。国岡鐵造は、一旦、公職追放されたが、GHQが見直して、すぐに取り消されることとなった。


第2章は、国岡鐵造の生い立ちから、戦前、戦争中まで。

国岡鐵造は明治18年(1885年)に福岡県宗像市赤間に生まれた。両親は染物業をいとなんでいたが、家は貧乏だった。

鐵造は、父親に反対されながらも、何とか福岡商業(福岡市立福翔高校)、神戸高商(神戸大学)を卒業する。

神戸高商の校長にもらった色紙に書いてもらった言葉が「士魂商才」で、これが鐵造の座右の銘となった。

神戸高商を卒業後、多くの友人が三井物産や鈴木商店などの大会社に就職する中で、鐵造は社員数名で小麦と機械油を取り扱う神戸の個人商店に入社した。独立を考えていた鐵造は小さな会社で、すべての技能を身につけることを選んだのだ。

台湾向けに三井物産の向こうを張って小麦粉の販路をつくるなど、数年で大きな成果を上げ、出身地の福岡の門司で、親族・家族を社員として国岡商店として独立する。明治44年(1911年)、25歳のときだ。

日邦石油の機械油の取り扱いが主な事業で、起業するときに神戸時代に知り合った支援者の日田重太郎から独立資金を出してもらう。

日田重太郎には、その後も国岡商店が潰れそうになった時に追加出資をしてもらい、鐵造の生涯の恩人となった。

ちなみに、鐵造は日田の恩義に感謝して、1970年には日田の出身地の兵庫県姫路市に製油所を建設し、番地名を日田町と命名している。


石油の公示価格

石油は1859年に米国のドレイク大佐が、ペンシルベニア州で油田を発見し、当初は1バレル20ドル近くまで上がったが、その1年半後には供給過剰で10セントまで下がった。石油相場は乱高下してリスクの高いビジネスとなり、石油を掘り当てても、なかなか大金を投じて石油を開発することが難しく、供給は減少していた。

そこで1800年代末に当時のアメリカの石油精製と販売の80%を押さえていたスタンダード石油のロックフェラーが、この値段で買うという「公示価格」を決めた。

公示価格が決まったことで石油の供給は増え、石油業界は拡大した。その後。1911年にアメリカの独占禁止法であるシャーマン法によりスタンダードオイルは34の会社に分割された。


アイデア商人だった鐵造

すでに既存顧客は機械油の仕入れ先が決まっていたので、鐵造は紡績工場のスピンドル(糸車)の軸受油に注目する。独自の調合で最適の軸受油を作り出し、大手紡績工場から大量受注した。

次は焼き玉エンジンをつかっていた漁船の燃料を、当時使われていた灯油から、税金がかからず安価な軽油に転換させて大成功した。

国岡商店は、門司の販売店で、対岸の山口県には売れなかった。そのため、門司側から伝馬船に軽油を積んで、海上で漁船に売るという方法で販売を拡大させた。

これが「海賊とよばれた男」という、この本のタイトルの由来だ。

鐵造はアイデア勝負で、日邦石油の販売店として販売を伸ばしたが、国内では自由な事業展開が難しいかった。そのためセブン・シスターズと呼ばれるメジャーが牛耳っていた朝鮮や満州、中国で事業展開した。

満州でも独自の配合で極寒の満州でも凍らない車軸油をつくって、メジャーに勝利した。

何事にも筋を通す鐵造は、国がつくった石油統制会社などにも反対していたため、石油業界の異端児と見られていた。

米国が日本向け石油の禁輸に踏み切ったことから、日本の石油流通は石油配給統制会社に一本化されてしまった。


初代「日章丸」

鐵造のユニークな点は、単に石油販売のみにあきたらず、自前のタンクを上海などで建設するとともに、自前のタンカーを持ったことだ。

1939年には自社タンカー「日章丸」が完成している。「日章丸」は戦時中徴用され、1944年にアメリカの艦載機の爆撃で沈没した。国岡は全部で3隻のタンカーを持っていたが、すべて戦争で沈没した。

以前、関榮次さんの「Mrs. Ferguson's Tea-set"のあらすじで紹介したとおり、戦時中の日本船舶の損失は大きく、船員の死亡率は43%と、陸軍軍人の20%、海軍軍人の16%をはるかに超えていた。「日章丸」も例外ではなかったのだ。

Mrs Ferguson's Tea-Set, Japan, and The Second World War: The Global Consequences Following Germany's Sinking of The SS Automedon in 1940Mrs Ferguson's Tea-Set, Japan, and The Second World War: The Global Consequences Following Germany's Sinking of The SS Automedon in 1940
著者:Eiji Seki
Global Oriental(2007-02-28)
販売元:Amazon.co.jp


2代め「日章丸」

戦後まもなく、サンフランシスコ講和条約が締結された直後に、2代めの「日章丸」が播磨造船所で完成している。当時としては世界最大級の1万8千トンという大型タンカーだった。

2代めの「日章丸」は、当初、アメリカからの石油製品の輸入に使われ、アメリカ製のガソリンは「アポロ」の商標で人気を博した。

メジャーは日本の石油会社の多くを直接・間接に支配しており、政府からも言うことを聞かない会社として目をつけられていた国岡は、13対1のような戦いを強いられていた。その国岡の武器がタンカーだった。

1951年にイランがイギリスの国策会社アングロ・イラニアン石油の全施設を接収したところ、イギリスはイラン産の石油は自国のものだと主張し、イラン石油を輸送するタンカーを拿捕した。

そんな中で、「日章丸」は1953年4月にイギリスの警戒網を潜り抜けて、無事にイラン産ガソリンと軽油を日本に輸入した。これがイランが石油施設を国有化してから、最初の輸出となった。

その後、イギリスはアメリカと組んで、両国でイランの石油を抑えにかかり、1953年8月にCIAがわずか70万ドルのコストで、政権転覆させ、シャーを復帰させて親米国に転換させ、国岡の優先権は半年で終結した。

この本では、イランとの交渉では、イラン側がタンカーを購入するために、イランにある約3万トンのスクラップで代金を支払うと提案してきたことが紹介されている。

筆者自身は、イランから2,000トンのステンレススクラップを買い付けた経験がある。

1983年ころだと思うが、ちょうどイラン・イラク戦争の真っ最中だったので、国岡が石油を輸入したイラク国境に近いアバダン港は使えず、戦争の影響のないホルムズ海峡に近いバンダル・アッバス港から輸出したものだ。

コンテナーに積み込むフォークリフトがなく、人手で積み込んだので、船積みは3か月ほど遅れたが、品質の良いものだった。


3代め「日章丸」

1957年には中国の黒竜江省の大慶油田の石油生産が開始された。戦前、満州で大慶油田が発見されていれば、日本の運命は違ったものになっただろうと鐵造はやりきれない思いがしたという。

これを機に鐵造は、中東の原油をいかに安く仕入れるかが日本の将来を左右すると考え、世界最大級である13万トンの3代めの「日章丸」を発注する。

3代目の「日章丸」はあまり目立った活躍はなかった。

筆者の会社では、この「日章丸」が廃船となった時に解体船請負契約を結んで函館ドックで解体した。

当時は造船不況の時代で、新造船がなかったので、やむなく雇用調整金を使って石油ショック以来余剰気味だったタンカーを中心に解体したのだ。「日章丸」も1962年に竣工したが、わずか16年でスクラップになった。

タンカーは次第に大型化して、1978年には50万トンクラスのスーパータンカーまで誕生し、13万トンという「日章丸」が矮小化してしまったためだ。


ガルフとの提携

この本では筆者が合計9年間駐在していたピッツバーグにあったオイルメジャーの一社のガルフと国岡が提携したことが紹介されている。

1955年鐵造は70歳にして初めてアメリカを訪問した。サンフランシスコでバンクオブアメリカを訪問して、当時の国岡の資本金の18倍にあたる1千万ドルの巨額融資を取り付け、ニューヨークのあと、ピッツバーグを訪問した。

ピッツバーグには米国のモルガン、ロックフェラーに次ぐ第3位の財閥のメロン財閥系で、オイルメジャーの一社のガルフ・オイルの本社があったのだ。

ガルフは戦前からクウェートの石油開発に力を入れていたが、アジアには進出していなかったため、クウェート産原油の販売先に困っていたのだ。

この本では、鐵造がガルフの本社の広大な敷地と噴水付きの池や豪華な本社に驚いた様子が描かれているが、筆者にはピンとこない。ガルフの本社はピッツバーグの市内にあり、筆者の務めていたUSスチールのビルの斜め向かいが、ガルフ本社だったからだ。

この本で本社といっているのは、今やピッツバーグ大学の応用研究センターとなった、ピッツバーグ郊外にある旧ガルフの研究所のことかもしれない。


人間尊重の経営

鐵造はガルフに招待されたパーティで、「アメリカの民主主義はニセモノで、人間を信頼していない。国岡は『人間尊重』を第一に考え、社員を家族と考えて経営しているので、タイムレコーダーもなければ出勤簿もなく、定年も馘首のない」と演説すると、会場から盛大な拍手が起こったという。

出光興産のホームページでも「人間尊重の百年」という特設ページが設けられており、出光佐三の言葉や出光興産の歴史、出光史料館(門司)などが紹介されている。


石油精製業界に進出

この時に鐵造は石油精製業に進出するため、徳山での国岡最初の製油所の建設を米国のエンジニアリング会社と契約した。この本では通常3年かかる工期を10か月で完成させた話や、大型タンカーを受け入れるために徳山港の沖合2キロに海上バースを建設した話を紹介している。


民族系石油会社の雄として活躍

その後も、1960年には国岡はソ連原油をカスピ海の第2バクー油田から国際市況の半値で輸入した。

これは当時の池田勇人通産大臣から持ちかけられたものだという。当時の日本のほとんどの石油会社はメジャーと提携しており、民族系は国岡だけだったので、持ちかけられたものだ。

1963年には千葉県の姉ヶ崎に東洋最大級の製油所を建設した。

その年の冬は「三八寒波」と呼ばれる豪雪が降り、日本全国で灯油が足りなくなり、火力発電所の重油も不足する事態となった。

通産省は石油業法を通じて、生産調整させていたため、国岡は有り余る原油がありながら、製品をつくることができなかった。

石油連盟と通産省は石油製品の市況を支えるため生産調整を申し入れたが、国岡は行政指導に反発して石油連盟を脱退した。需要に応えるために石油製品を増産し、当時の通産大臣による勧告を出すとの脅しにも屈しなかった。


石油ショックとその後

鐵造の晩年には1973年に第4次中東戦争を機に石油ショックが起こり、原油の値段はそれまで1バレル4ドルを超えることがなかったのが、一気に12ドルにまで上昇し、狂乱物価を引き起こした。

鐵造は1981年(昭和56年)に95歳で亡くなっている。

出光興産は、長らく非公開会社だったが、2006年に東証一部に上場して公開会社となった。

この本では出光佐三が、最初は日田重太郎、次にいくつかの銀行の融資によって助けられ、事業を拡大していく様子がわかったが、たとえばウォルマートの創業者のサム・ウォルトンは、上場することによってウォルマートの成長が加速したことを自伝で書いている。

私のウォルマート商法 すべて小さく考えよ (講談社プラスアルファ文庫)私のウォルマート商法 すべて小さく考えよ (講談社プラスアルファ文庫)
著者:サム・ウォルトン
講談社(2002-11-20)
販売元:Amazon.co.jp


出光が公開会社だったら、民族系として存続できず、とっくの昔に外資系石油メジャーが株を買い占めたかもしれない。

株を公開しなくても、すぐれた経営者だから資金を調達できたのだろう。

それにしても、戦後ほとんどゼロで再出発して、わずか15年くらいで2か所の新鋭製油所を持つ一大石油会社となったことは、日本の高度成長の一例として驚嘆に値する。

出版社の講談社の人が勧める通り、大変面白く痛快なストーリーを満載した本である。ぜひ一読をお勧めする。


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2013年03月03日

フリーター、家を買う。 なぜ、こっちの方が感情移入できるんだ?

フリーター、家を買う。 (幻冬舎文庫)フリーター、家を買う。 (幻冬舎文庫)
著者:有川 浩
幻冬舎(2012-08-02)
販売元:Amazon.co.jp

以前紹介した「三匹のおっさん」の作者・有川浩(ありかわ・ひろ、女性)の他の作品を読んでみた。

三匹のおっさん (文春文庫)三匹のおっさん (文春文庫)
著者:有川 浩
文藝春秋(2012-03-09)
販売元:Amazon.co.jp

「三匹のおっさん」では、同じ年代のおっさんの話なのに、だいたい予想したとおりのストーリーだったので、感情移入できなかった。意外にも、こちらの作品の方がストーリーに引き込まれ、一気に読めた。

小説のあらすじはいつも通り詳しく紹介しない。そこそこの私立大学を卒業した主人公・武誠治は、新卒入社した会社の新人研修で違和感を感じ、会社になじめず3か月で辞める。

それからはコンビニのアルバイトなど、1年以上アルバイトを点々とした後、最終的に夜間工事のガテン系アルバイトに、いわば安住の地を見出し、就職活動をしながら工事のアルバイトを半年ほど続けた。

作業員仲間と打ち解け、きつい現場になれてきたら、作業長=工事会社の社長から採用の話を持ち出され、その土木工事会社に業務部主任として採用となる。

やっと就職できた会社で、誠治の評価はうなぎのぼりに上がる。

入社してすぐ手書き・ワープロの書類をすべてパソコン処理に変え、給与計算で外注していたコンサル費用もカットし、さらに費用を見直して、在庫費用の大幅削減策を打ち出す。

社長の指示で、元バンドマンのフリーターと、東工大土木科出身の現場監督志望の女性という、両極端の2人の第2新卒を採用し、彼らが会社の戦力となることで、さらに誠治の評価が上がる。

一方、隣近所から20年あまり、いじめられ続けてきたという過去を持つ母親が、誠治がフリーターをしていた間に、うつ病になってしまい、通院・薬漬け生活を余儀なくされる。

その家に住んでいると、母親のうつ病が治らないと考え、中堅商社マンで「経理の鬼」と呼ばれる頑固な父親を説得して、自分のためた貯金も頭金として提供し、新しい家を買う。というようなストーリーだ。

後半は、2人の後輩が加わることでストーリー展開にひねりを加えていて面白い。

この本のなかでわからない部分があった。

それは、事務所の前に置かれていた捨て猫の対処の場面で、誠治の思いやりに後輩女性が気づき、誠治が「ごめん、ノーカン」と言う。

しばらくやり取りが続き、後輩女性が「困らせたくないので今はノーカンにします。でも、諦めてない武さんは間に合ってます。絶対にお母さんのこと、間に合ってます。」と言う場面だ。

「ノーカン」は、「ノーカウント」のことで、たぶん「忘れてよ」という意味だと思うが、いま一つ使い方がよくわからない。まあ、どうでもよいことだが…。

ともあれ、感情移入できる大変面白い小説だった。


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2013年02月25日

ガリバー旅行記 本物はこんなストーリーだったんだ

ガリヴァー旅行記〈上〉 (福音館文庫 古典童話)ガリヴァー旅行記〈上〉 (福音館文庫 古典童話)
著者:ジョナサン スウィフト
福音館書店(2006-01-20)
販売元:Amazon.co.jp

図書館でたまたま目についたので、ガリバー旅行記を読んでみた。

上記の本の表紙は、筆者が子供のころに読んだものと同じ挿絵を使っている。チャールズ・ブロックという挿絵画家の描いたものだ。1894年作となっている。

上巻は小人国、文庫版の下巻の表紙は巨人国となっている。

ガリヴァー旅行記〈下〉 (福音館文庫 古典童話)ガリヴァー旅行記〈下〉 (福音館文庫 古典童話)
著者:ジョナサン スウィフト
福音館書店(2006-01-20)
販売元:Amazon.co.jp

ガリバー旅行記を読んだといっても、子供向けの本を読んだので、よく知られている小人国(リリパット)と巨人国(ブロブディンナグ)の第1,2編だけで、第3編と4編は読んだことがなかった。

ガリバー旅行記は全部で4編あるが、子供向けの本では、第3編と4編は省かれていることが多い。

第3編は空飛ぶ島・ラピュータがあるバルニバービという学者の国から始まって、ガリバーは次にグラブダブドリッブという魔法使いの国、ラグナグという不死の国、そして日本に旅する。

ラピュタとは、宮崎駿監督の「天空の城ラピュタ」の題材となっている(ことを実は、今回初めて知った)。



ガリバーが日本に来る部分は、非常に短い。三浦半島あたりで上陸して、江戸につれていかれ、最後は長崎から出国するというストーリーで、18世紀当時のオランダ人の書いた旅行記をパクっているものだという。

第4編は馬に似た理性的なフウイヌムと、人間そっくりのけだもののヤフーの国で、馬とサルと入れ替えれば、ちょうど猿の惑星のようなストーリーだ。



ガリバー旅行記の著者のジョナサン・スウィフトは1667年アイルランドに生まれ、聖職者としての活動のかたわら、政党の機関紙を出版したり、時事問題についての小冊子を多く発行した。

個人的には聖職者としても本来の望みだったイングランドの地位は得られず、持病の頭痛とめまいに悩まされ、家庭にも恵まれず、孤独のうちに1745年、76歳で亡くなっている。

人間に近いヤフーより、馬の姿かたちをしたフウィヌムに惹かれるガリバーは、孤独な生涯を送ったスウィフト自身の姿を投影しているようだ。

ガリバー旅行記はいくつかの出版社から出ているが、やはり福音館のものが挿絵が豊富でいい。昔は単行本だったが、現在は上下となった文庫版が出ている。

2010年には現代版ガリバー旅行記として映画化もされている。



本当のガリバー旅行記を再発見するためにも、読んでみる価値のある本である。


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2013年02月19日

華氏451 「図書館戦争」のさきがけ?

華氏451度 (ハヤカワ文庫SF)華氏451度 (ハヤカワ文庫SF)
著者:レイ ブラッドベリ
早川書房(2008-11)
販売元:Amazon.co.jp

クイズ王選手権だったか、クイズに出題されていたので「華氏451」を読んでみた。この小説はフランソワ・トリュフォー監督により映画化もされているので、映画も見た。

華氏451 [DVD]華氏451 [DVD]
出演:オスカー・ウェルナー
ジェネオン・ユニバーサル(2012-05-09)
販売元:Amazon.co.jp

フランソワ・トリュフォー監督は、スピルバーグの「未知との遭遇」でもフランス人宇宙科学者として登場する。

小説と映画とはエンディングが異なり、映画の方が分かりやすいエンディングとなっている。

映画の予告編で大体のストーリーがわかると思うので、YouTubeに載っている予告編を紹介しておく。



クイズでも出題されていた通り、華氏451度とは紙が燃える温度と言われている。

小説のあらすじは詳しくは紹介しない。

近未来に言論コントロールが発動され、国民はみんな「兄弟」としてテレビを通して啓蒙・連絡される。本など紙の媒体はすべて禁止され、本を持つことはもちろん、本を読むことも禁止されるという設定だ。

そして主人公は消防士ならぬ放火士となって、本を隠し持っている人を見つけては、火炎放射器で本を焼き払うという職業についている。

映画ではこの焼却隊の出動の場面と音楽が印象深い。



映画ではアカデミー賞受賞女優のジュリー・クリスティが、主人公に本を読むことを勧めるクラリスと、主人公の奥さんのリンダの一人二役で出演している。

以前紹介した有川浩の「三匹のおっさん」を読んだ後、有川浩の他の作品の「図書館戦争」なども読んでみた。「図書館戦争」は「華氏451」の発展形のような形となっている。

図書館戦争  図書館戦争シリーズ(1) (角川文庫)図書館戦争 図書館戦争シリーズ(1) (角川文庫)
著者:有川 浩
角川書店(角川グループパブリッシング)(2011-04-23)
販売元:Amazon.co.jp


現代ではたとえ紙の本を禁止したとしても、電子ブックやウェブに掲載されているデータをプリントすれば、本は読める。

ストーリーとしては、もちろんあり得ない話ではあるが、政府などの本の検閲に反対する隠喩を持った小説・映画である。

映画は1966年の作品なので、古臭い場面もある。

通勤手段がモノレールとなっている点は良いとして、電話がロータリー式電話以前の、通話器と聴取器にわかれた形式のものとなっていて、電話交換手が人手でつないでいるのは、ジョークかもしれない。

電話機






電話機








出典:Wikipedia

未来の世界では双方向テレビで人々がコントロールされるというストーリーは、独裁国家が将来も存続するのであれば、今後ありうるかもしれない。

小説は翻訳がやや読みにくいので、まずは上記のYouTubeの予告編(ナレーションは英語)で、どんな内容か見てみることをお勧めする。


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2013年01月29日

三匹のおっさん 還暦オヤジ世代が主人公の小説 挿絵もユーモラス

三匹のおっさん (文春文庫)三匹のおっさん (文春文庫)
著者:有川 浩
文藝春秋(2012-03-09)
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還暦になったおさななじみ3人のおっさんが、故郷の町の自警団となり、それぞれの特徴を生かして、悪を退治していく痛快アクションシリーズ。

著者の有川浩(ありかわ ひろ)さんは、「塩の街」などの自衛隊シリーズや「図書館戦争」シリーズでもヒットを飛ばしている。

塩の街 (角川文庫)塩の街 (角川文庫)
著者:有川 浩
角川書店(角川グループパブリッシング)(2010-01-23)
販売元:Amazon.co.jp

図書館戦争  図書館戦争シリーズ(1) (角川文庫)図書館戦争 図書館戦争シリーズ(1) (角川文庫)
著者:有川 浩
角川書店(角川グループパブリッシング)(2011-04-23)
販売元:Amazon.co.jp

表紙の絵のとおり、ユーモラスな挿絵が特徴を出している。

主人公は次の三人だ。

建設会社を定年退職して、系列のゲームセンター(アミューズメントパーク)の経理担当となったキヨ。キヨは剣道の達人で、会社に副業を認めてもらって、親から引きついだ剣道教室の師範をやっている。

居酒屋を息子に引き継ぎ、今は息子夫婦を手伝う柔道の猛者・シゲ。シゲはいつもジャージを着ているガニマタのおやじだ。昔は国体で、現在の地元警察署長を投げ飛ばしたことがあるほどの腕前だ。

町工場の経営者で改造スタンガンや改造モデルガンなど、やたらアブナイ道具をコートの下に持ち歩く、小男の知性派・ノリ。盗聴器逆探知機など、思いがけない武器も隠し持っている。

剣道、柔道、そして効果的な武器と、三者三様の特徴を生かして事件を解決していく。

キヨの息子夫婦や孫の祐希(ゆうき)、ノリの愛娘・早苗などがからんで、ストーリーを面白くしている。

三匹が事件を解決するという結末は大体予想がつくが、ゲームセンターで高校生をカツアゲしたり、売り上げを横取りする小悪党を捕まえたら、実はゲームセンター関係者とつながりがあったり、町に頻繁に出没する痴漢が早苗を襲うところを、間一髪、捕まえたら、アッと驚く人物だったりして、ひねりを加えていて面白い。

学校のイキモノ係が世話するカルガモを夜中に傷つける犯人は、筆者の予想外の人物だった。

小説のあらすじはいつも通り詳しくは紹介しない。

60歳の還暦3人組という筆者の年齢に近いおっさん3人がそれぞれの特技を生かして犯罪を解決するという、少年探偵団ならぬ、中高年探偵団のストリーだ。あり得ない話ではあるが、そんなことを気にせず、気軽に楽しめるファンタジックな小説である。

有川さんには、他に「フリーター、家を買う」とか「阪急電車」などの作品もある。

フリーター、家を買う。 (幻冬舎文庫)フリーター、家を買う。 (幻冬舎文庫)
著者:有川 浩
幻冬舎(2012-08-02)
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阪急電車 (幻冬舎文庫)阪急電車 (幻冬舎文庫)
著者:有川 浩
幻冬舎(2010-08-05)
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有川さんのほかの作品も読んでみようという気になる。楽しめる小説である。


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2012年12月15日

希望ヶ丘の人びと 重松清さんのニュータウン小説

希望ヶ丘の人びと希望ヶ丘の人びと
著者:重松 清
小学館(2009-01-16)
販売元:Amazon.co.jp

重松清さんの、ニュータウンを舞台にした家族小説。

重松さんの小説を読むのは初めてだが、面白い小説だった。

小説のあらすじは詳しく紹介しない。

39歳で中学教師の妻をがんで亡くした2児の父のサラリーマンが、脱サラしてフランチャイズ制の「栄冠ゼミナール」学習塾経営者となり、亡くなった妻の故郷のニュータウンに転居する。

いじめや、モンスター・ペアレントに出会い、受講者不足で経営危機にも見舞われながら、亡き妻の同級生に様々な形で助けられ、親子3人で生き抜いていくというストーリーだ。

途中で「三匹のおっさん」のようなストーリー展開となっていくところも面白い。

三匹のおっさん (文春文庫)三匹のおっさん (文春文庫)
著者:有川 浩
文藝春秋(2012-03-09)
販売元:Amazon.co.jp

重松さんはエーちゃん(矢沢永吉)ファンなのかもしれない。

GOETHE (ゲーテ) 2012年 09月号 矢沢永吉GOETHE (ゲーテ) 2012年 09月号 矢沢永吉
幻冬舎(2012-07-24)
販売元:Amazon.co.jp

途中で、エーちゃんファンじゃないとわからないような、コンサートでタオルを上に放り投げるシーンも出てくる。

矢沢タオル投げはビーチタオルが必要なのかもしれないが、楽天で見つけられなかったので、ハンドタオルを載せておく。これと同じ柄のビーチタオルがあるはずだ。

矢沢 ハンドタオル 黄 新品

海側は工場地帯で、海側にあるのがガラが悪い湾岸中学。高台にある希望ヶ丘中学は首都圏に通うサラリーマン家庭中心の出来の良い中学で、それぞれの交流はまったくないという設定だ。

この対照的な二つの中学出身者が話をつくりあげていく。

ニュータウンを舞台とした小説だが、堺屋太一さんの「エキスペリエンツ7」のように、リタイア組が主人公ではないので、団塊世代ではない人も感情移入が可能だと思う。

エキスペリエンツ7 団塊の7人〈上〉 (日経ビジネス人文庫)エキスペリエンツ7 団塊の7人〈上〉 (日経ビジネス人文庫)
著者:堺屋 太一
日本経済新聞出版社(2008-12)
販売元:Amazon.co.jp

単行本だと500ページものボリュームだが、一気に読める。楽しめる本である。


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