もう一度読みたかった本
今回紹介する柳田邦男の『もう一度読みたかった本』は柳田邦男氏の個人的なセレクションの解説とあらすじ集なので、そのまたあらすじを紹介することはしないが、筆者には意外な感じのセレクションだった。
平凡社の『月刊百科』という雑誌に、柳田邦男氏が毎月『もう一度読みたかった本』という題で紹介した24冊の名作にまつわる柳田邦男氏自身の思い出、エピソードと、あらすじを集めた本だ。
柳田邦男氏は古希(70歳)になったということだが、この本も団塊世代前後の人が、かつて青春時代に読んだ本を『もう一度読みたい本』として挙げると思われる、いわゆる『青春時代の必読書』を予想していたのだ。
しかし筆者が必読書と思っていた本はあまり含まれておらず、同じ作家の違う本がセレクションに加えられているケースばかりだった。
『青春時代の必読書』とか漠然と言っても、人ごとにセレクションは異なるだろうし、また年代毎に異なるとは思うが、それにしても柳田さんの年代なら、この作家のこれははずせないだろうという本が含まれていない。
なぜだかよくわからないが、柳田さんはあえて、その作家の有名になりすぎた不朽の名作はあえて避けたのか、あるいは本当に個人的に思いこみがある作品を集めたのか、どちらかなのだろう。
その人ごとに『もう一度読みたかった本』が、これほど異なるとは新しい発見だった。
たとえば最初の井上靖の『あすなろ物語』だ。
あすなろ物語
『蒼き狼』とか、『天平の甍』とか、『敦煌』『楼蘭』の西域もの、あるいは繰り返しドラマ化されている『氷壁』などが、筆者なら必ず挙げる井上靖セレクションだが、柳田さんのセレクションは異なる。
蒼き狼
天平の甍
敦煌
もともと柳田さんが個人的に思い入れが強い本の選集なので、一般的ではないのが当たり前なのだろうが、やや違和感を感じた。
同様にヘルマン・ヘッセは『車輪の下』ではなく、その前身・姉妹編とも言える『ペーター・カーメンチント』。
車輪の下
トーマス・マンは代表作の『魔の山』ではなく初期の作品の『トニオ・クレエゲル』。
魔の山〈上〉
太宰治は超有名な代表作『人間失格』ではなく初期の『ダス・ゲマイネ』という風だ。
人間失格
今回柳田さんが挙げている24冊のうち、筆者が読んだことがあるのは4冊しかなかった。
筆者は井上靖なら『蒼き狼』か『天平の甍』をもう一度読みたい。
この本に紹介されているからといって『あすなろ物語』を初めて読む気にはあまりならない。
筆者は中学・高校時代はあまり本を読まなかったものだから、大学時代は1日1冊をいわばノルマとして、4年間で1,000冊以上の本を読み、社会人となってからも読書を続けているので、幅広いジャンルの本をかなり読んだつもりになっていた。
しかし、この本を読んで4勝20敗という結果を突きつけられると、いかに自分の読書が偏った分野で、まだまだ読んでいない名作がたくさんあることを思い知らされた。
いずれリタイアした後は図書館にでも通って、いままで読んだことがなかった名作の読書三昧で過ごそうと漠然と考えている人も多いと思うが、そんな時にはたぶん柳田さんのセレクションが役立つだろう。
筆者の様にこのセレクションが心に響かなかった人もいれば、柳田さんのセレクションがピーンとくる人もいるだろう。
いずれにせよ、それぞれが『もう一度読みたかった本』を読んではどうか、というのが柳田さんの提案なのだと思う。
ある意味刺激を受けた本だった。ご興味のある方、特に団塊前後の世代の方は一度手にとって、セレクションに目を通されることをおすすめする。
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