2017年01月15日

大前研一 「ビジネスモデル」の教科書 生きた題材を使った経営の問題集



大前さんがBBT(ビジネス・ブレーク・スルー)大学で、実際に取り上げた12のRTOCS(Real Time Online Case Study)の事例を、大前流に分析・考察・結論付けしたもの。

多くのビジネススクールが、すでに時代遅れとなった過去の事例(たとえば、「コダックとポラロイドの戦い」とか「ゲートウェイ2000はいかにしてトップシェアを取ったか」などという、ネットからデータも取れないような古い過去の話)を扱っていたりするという。

それに対して、RTOCSは現在進行中のフレッシュな事例を取り上げ、当事者たるリーダーと同じ立場に立って、自分ならどうするという自分なりの結論を出す訓練だ。

結論を出すためにどういった情報を集めて、それらをどう読み、どう分析し、どう活かすのかを徹底的に考える癖をつけることが目的だ。

BBT大学の学生は毎週1回このRTOCSに取り組み、リーダーになった気持ちで経営課題を考え、クラスでディスカッションする。

こういったトレーニングを2年間やれば、100本ノックならぬ、100本ケーススタディで、頭の回転も驚くほど速くなり、リサーチ作業や収集した情報を整理、分析するスピードも格段に上がると大前さんはいう。

この本で取り上げている12の事例は次の通りだ。

CASE 1 Coca ColaのCEOだったら

CASE 2 ローソンの社長だったら

CASE 3 UberのCEOだったら

CASE 4 任天堂の社長だったら

CASE 5 キャノンのCEOだったら

CASE 6 シャオミ(小米)のCEOだったら

CASE 7 ゼンショーの社長だったら

CASE 8 クックバッドの代表だったら

CASE 9 日本経済新聞社の社長だったら

CASE10 AirbnbのCEOだったら

CASE11 ニトリの社長だったら

CASE12 島精機製作所の社長だったら

それぞれのケースにBBT大学総研が作成した分析チャートが多く配置されており、その会社の現状の姿と経営上の課題が浮き彫りになる。

本来ならその分析まで自分でやるべきところだが、BBT総研の分析は非常にわかりやすく、その会社の問題点がよくわかる。

そのうえで、大前さんが考えるその会社が取るべき経営戦略を解説している。

たとえば、ローソンについては、成城石井の商品を取り込んで「ショップ・イン・ショップ」形式で商品力を強化すること、都心店舗ではコンシェルジュサービスを導入して、顔の見える営業を展開し、半径200メートル内の住民を確実に囲い込むこと、地方店舗は現状維持というものだ。

また、2007年の4.5兆円をピークに、リーマンショック後は売上高が低迷しているキャノンは、オフィス向けソリューション、医療、理化学機器分野、商業用・産業用プリンターという3つの収益事業を強化するために、M&Aを積極的に仕掛け、各分野で圧倒的なトップを狙う、などというものだ。

BBT総研の分析がわかりやすく、チャートが見やすいので、ついつい大前さんの考える経営戦略まで読み進んでしまうが、この本が最高に役立つのは、その会社の現状分析のところで、いったん読み進むのをやめて、そこで自分なりにアイデアを練って、それから大前さんの案を読むという活用法だ。

経営に正解などない。大前さんの案とは違ってもいいので、自分なりのアイデアを考える経営の問題集としての活用をおすすめする。


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2016年10月15日

「0から1」の発想術 大前研一のアイデア発想法

「0から1」の発想術
大前 研一
小学館
2016-04-06


常に考えるヒントを提供してくれる大前研一さんの近著。

この本では、基礎編として次の11の発想法を紹介している。

1.SDF(Strategic Degrees of Freedom)戦略的自由度 消費者の求めているものは何か?

2.アービトラージ 情報格差

3.ニュー・コンビネーション 組み合わせで成功する

4.固定費に対する貢献 稼働率は利益率と直結

5.デジタル大陸時代の発想 5年後の生活を予想する 

6.早送りの発想 グーグルの動きを「ヒント」にする 孫正義氏の”時間差攻撃”

7.あいているものを有効利用する発想 UBERAirbnb

8.中間地点の発想 「業界のスタンダード」を捨てる 4枚増えて値段は同じ。どっちが得か(富士フィルムの24枚撮り)

9.RTOCS(Real Time On-line Case Study)/他人の立場に立つ発想 2つ上の立場で考える

10.すべてが意味することは何? "森全体”を見る視点にジャンプする

11.構想 ウォルト・デイズニー X ワニのいる湿地

そして実践編として、次の4つの「新たな市場」を作り出す発想法を紹介している。

1.感情移入 ナイキ創業者は大学生のウッズに興奮した

2.どんぶりとセグメンテーション セグメンテーションで生まれるビジネスチャンス

3.時間軸をずらす 手元に資金がなくてもビジネス開発は可能

4.横展開 アパレル企業がトヨタに学んで急成長

おわりに 「0から1」の次は「1から100」を目指せ

読みながら自然と考えるので、大変参考になる。

たとえば、ニューコンビネーションで紹介されているコンビニの話。

日本のコンビニ業界の中で、セブンーイレブンは突出している。一店舗当たりの平均日版がセブンは67万円に対し、ローソンは55万円、ファミマは52万円である。

コンビニの売り上げは基本的には立地で決まるが、セブンに客が集まるのは、企画力、商品開発力に差があるからだ。

たとえば「セブンカフェ」は2013年にスタートし、今では7億杯飲まれているという。マクドナルドから客を奪い、客数は増え、調理パンの売り上げは3割増、スイーツは2割増になったという。

プライベートブランドの「セブンプレミアム」も成功しており、イオンの「トップバリュ」を上回り、ほぼ1兆円の規模となっている。

大前さんは近所の各コンビニを定期的にチェックし、気になった商品は実際に購入して試している。セブンには他のコンビニにはないユニークな商品、少し値段は高くても、つい買いたくなるような商品が並んでいるという。

この本の中で、「あなたがローソンの社長だったら」というケーススタディを出している。

この本が出た後、三菱商事がローソンを子会社化すると発表した。

1,500億円程度の投資で、ローソンの収益を連結でき、大きなリターンを上げられるので、三菱商事の資本政策上は得策であることは間違いない。しかし、肝心のローソンにとっては、三菱商事の子会社になることはプラスとなるのか不明だ。

セブンやユニー(サークルKサンクス)と経営統合してローソンを売り上げ規模で抜いたファミマとの競争上、商品企画力がカギとなると大前さんはいう。

筆者の考えでは、ローソンは商品開発力もさることながら、売り上げ予測に基づく在庫管理に難があるように思える。

筆者はローソンのツナ&タナゴサンドは、わざわざローソンまで買いに行くほど気に入っているが、品切れとなっていることが多く、ローソンに行っても何も買わないで出てくることがよくある。

サンドイッチがなければ、おにぎりを買うという気にはならない。ローソンのおにぎりはおいしいと思うが、筆者は定番のツナ&タマゴサンドが好きなのだ。ローソンになければ、仕方ないので他のコンビニで買う。

売り上げ機会の喪失は、データには出てこないので、ローソンは実態をつかめていないのではないかと思う。セブンは売り上げ機会の喪失を一番に考えて、英語にまでそのまま取り入れられている「単品管理」という考えを導入した。

このあたりのことは、このブログで紹介している「鈴木敏文の『本当のようなウソを見抜く』」に詳しいので、参照してほしい。



いくつか印象に残った話を紹介しておく。

熊本県の黒川温泉の話。

熊本県の黒川温泉は、温泉のウェブサイトにも「黒川温泉は九州の北部中心くらいにあります。山間部の為公共交通機関ご利用はご不自由をお掛けいたします。できればお車かレンタカーのご利用がよろしいかと思います。」と書いてあるような不便な場所にある。

それでも黒川温泉は全国の人気温泉地トップクラスにある。「黒川温泉一旅館」というコンセプトのもとに、乱立していた旅館の看板200本をすべて撤去するなどで景観を統一し、風情ある街並みを完成させ、一つのブランドとしたのだ。

そして、3か所の旅館の露天風呂に入れる「入湯手形」を販売した。そうすると、全部で24か所の露天風呂があるので、全部制覇しようというリピーターが現れて人気を呼んだ。

黒川温泉のウェブサイトを見ると、全旅館の空室状況が一覧でわかるようになっている。温泉旅館全部が協力して、みんなで消費者の利便性を高めようとしていることがわかる。

今年は熊本地震があり、最近阿蘇山が噴火した。旅館の予約状況を見ると、黒川温泉はあまり影響がないように思えるが、ぜひみんなで力を合わせて苦境を乗り越えてほしいものである。

「構想」の事例として挙げられているシティグループの”10億人の口座”という構想も面白い。

1984年に45歳の若さでシティバンクの会長兼CEOに就任したジョン・リードは、これからの銀行のあり方を構想し、「これからは10億人の口座がないと、銀行はリテール部門で生き残れない。だから10億口座はなんとしてでも必ず達成しろ」と指示したという。

この構想から生まれたのが「電子ウォレット」という携帯電話のサービスだ。

シティバンクは現在160カ国以上の国と地域に2億人の口座を持っている。インドのバンガロールでは、最低預入額を25ドルとしたバンキングサービスを始めて、大ヒットしたという。10億人に向けて突き進んでいる。

今はマイクロソフトの傘下に入ったが、フィンランドのノキアのヨルマ・オリラ元会長兼CEOの構想力も優れている。

ノキアは元々はゴムの長靴やタイヤ、紙、電子部品を製造する小さな会社だったが、オリラ氏は「携帯電話を誰もが持つ時代がやってくる」という構想のもと、1988年には当時のCEOが自殺し、倒産寸前だったノキアを携帯電話会社として転換し、一時は世界一の携帯電話メーカーに変貌させた。

「感情移入」に関しては、ナイキの元CEOフィル・ナイト氏やアップルの故・スティーブ・ジョッブス氏の話を紹介している。

大前さんはナイキの社外取締役を務めていた関係で、ナイキの元CEO、ナイト氏をよく知っている。

ナイト氏はいろいろな業界からマネージメントを依頼されるが、「23時間働く覚悟」を持てる仕事でないと、断ってしまう。たとえば、感情移入できないから「電気は苦手」だという。

「やることすべて成功する必要はない。何回失敗しようが、最後の1回で成功すれば、あなたは成功者と呼ばれる」

とよく口にしていたという。

このブログで紹介しているヴァージン・アトランティックのリチャード・ブランソンも、すぐれた構想力が成功の要因だ。



最後の「手元に資金がなくてもビジネス開発は可能」は、発想の転換の一例で、参考になる。

大前さんがマッキンゼー時代に手掛けた案件で、香港の新空港を香港政庁の資金を使わずに建設したNPV(Net Present Value)という考え方だ。

まず新空港ができると、収益が見込めるものをすべて書き出してみる。

・航空機着陸料
・ホテル事業
・エンジン整備などのメンテナンス事業
・免税店の出店料
・レストランなどのテナント料
・荷物のハンドリング

こうした収益事業を権利化して、金融機関に抵当に入れて、建設資金を調達する。問題点は、空港が開港すると、収益を先取りしてしまったために、全く収益が見込めないことで、NPV化した事業とは別の付加価値の高いサービスを考え出していく必要がある。

大前さんは今年73歳になったと思うが、何歳になっても大前さんの本は、フレッシュな話題で参考になる事例が満載である。

具体的事例が多く、簡単に読めるので、一読をお勧めする。


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2012年11月05日

福島第1事故検証プロジェクト 最終報告書 大前研一の中立的報告書

原発再稼働「最後の条件」: 「福島第一」事故検証プロジェクト 最終報告書原発再稼働「最後の条件」: 「福島第一」事故検証プロジェクト 最終報告書
著者:大前 研一
小学館(2012-07-25)
販売元:Amazon.co.jp
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元原子炉設計者の大前研一さんが、福島第1原発事故の真相を自費でまとめた検証報告書。

自費といっても、事前に細野豪志原発担当相に相談して賛同を得て、細野さんの口添えで東京電力、日本動燃、日立GEニュークリア・エナジー、東芝などの技術者に大前さんが質問して資料提供を受け、それを大前アンド・アソシエーツパートナーの柴田巌さんが取りまとめるという手順を踏んでおり、調査の緻密さには驚く。

元原子炉設計者の大前さんならではの内容である。

細野大臣はこの報告書をボランタリーな「セカンド・オピニオン」として大変ありがたいと共同記者会見で語っている。

大前さんはこの調査のために、事故検証チームH2Oを2011年6月に立ち上げ、2011年10月28日に細野原発担当大臣に報告書を手渡すとともに、一緒に記者会見を行った。この内容がYouTubeで公開されている。



マスコミが全く報道しないので、ほとんど知られていないが、大前さんは報告書をYouTubeで公開し、事務局長の柴田巌さんとともに2時間にわたり骨子を解説している。



中間報告書最終報告書ビジネスブレークスルーのPRページに公開されており、全編ダウンロードできるようになっている。

さらに世界の原子炉技術者が福島の事故から学べるようにという気持ちを込めて、大前さんは英語でも中間報告書最終報告書の要約版を公表している。

また上記のYouTubeの映像は2012年3月に英語の字幕が追加されている。画面右下の四角の「字幕」ボタンをクリックすると、ボタンの色が赤に変わり、英語と日本語の字幕が表示できる。

YouTubeには多言語翻訳機能もついている。英語や日本語の字幕を他の言語の字幕にも機械翻訳できるようになっているので、世界の技術者に知ってもらうという意味では、YouTubeの字幕機能は大変便利だと思う。

この本では公開されている最終報告書の主要部分と、追加で大飯第3,4号機の安全対策検証と視聴者からの質問に答えている。上記ウェブサイトで公開されている報告書では詳細なデータが満載されているので、中間報告書で186ページ、最終報告書で290ページある。

この本も175ページあるが、しろうと向けに整理されているので、この本の方が読みやすいと思う。この本の目次は次の通りだ。

第1章 地震と津波は原発にどんなダメージを与えたのか?

第2章 福島第1原発はどのようにして過酷事故に至ったか?

第3章 メルトダウンした原子炉と生き残った原子炉の分かれ道

第4章 福島第一事故からどんな教訓が得られるのか?

第5章 今後はどんなアクシデント・マネジメント体制が必要か?

    枝野官房長官の国民へのメッセージを検証

第6章 再稼働した大飯原発3、4号機の安全対策を検証する

第7章 なぜ福島第一原発1号機だけが事故の進展が早かったのか?

おわりに 福島の惨事から学んだ貴重な課題をいかさないまま終わっていいのか?

冒頭で紹介したYouTubeの細野大臣との共同記者会見で、この報告書の概要を大前さんが説明しており、福島第1原発の事故の根本原因は天災ではなく、人災であると結論付けている。

今回の福島第1原発の1〜4号機で事故が起こり、5〜6号機や他の東北地方の原発では冷温停止まで持って行けた差は、全電源の喪失に尽きる。それを比較したのが次の表だ。

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出典:本書82ページ

原発は交流電源喪失の場合は、ディーゼル自家発電機を備えていたが、肝心のディーゼル発電機は水冷式だったので、津波では流されなかったものの、冷却用の海水取り入れ装置が津波で機能しなかったため、冷却ができず発電できなかった。

福島第1の5号機、6号機が冷温停止できたのは、唯一残ったディーゼル発電機が空冷式だったことから、それを使って両方に電力を供給し、なんとか冷温停止ができたのだ。

このような事態に陥ったのは、原発の設計指針として政府がそれまで出していた「安全指針」で、”長期間にわたる全交流動力電源喪失は、送電線の復旧又は非常用交流電源設備の修復が期待できるので、考慮する必要はない”としていたことが根本原因だ。

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出典:本書116ページ

つまり国の原発の設計方針が、今回のような全電源喪失という事態を想定しなくてよいとしていたから、原発の設計者が全電源喪失といった事態を設計の際に考慮していなかったのだ。

そんな環境の中で、福島第1原発の現場はよくやったと、大前さんは記者会見の最後で高く評価している。

また、共同記者会見では大前さんは、原発の設計は「確率論ではダメ」と語っていた。10メートルを超す津波は1,000年に一回だからとかいった理由で、確率を原発の設計に織り込んではならないと大前さんは語る。

どんな事態が起こるかわからないので、未知の事態が起こっても対応できるような設計とすべきだという。

大前さんは、原発存廃の是非は国民が判断すべきことであるが、今後日本で原発を新設することはたぶんできないと思うが、再生エネルギーはまだまだコストも高く、原発をすぐに代替できるほど供給力がない。

したがって、現在ある原発は寿命の30年間は操業して、30年後には原発をゼロにするというのが現実的な解決策だと大前さんは語っている。

その考えに基づいて、福島第1原発事故から得られた教訓を忠実に学ぶべきであり、「日本のエネルギーの未来」を考えるうえでの一助として本書を書いたのだと。

そして福島の二の舞を絶対に演じないために、取るべき対策を次の通り提案している。

1.電源の確保

2.冷却機能の確保

3.制御室機能の確保

4.ベント機能の確保

5.水素爆発の防止

6.アクシデント・マネジメントの整備

7.インフラの強化など

大飯原発3,4号機は、これらの対策を適切に導入し、非常時に備え、休日や夜間も訓練をしていることが紹介されている。

大飯原発の現場でも真剣に安全対策に取り組んでいることがよくわかる。

大飯原発は敷地の中に活断層があるかもしれないということで、原子力規制委員会が調査しており、活断層があれば原発をすぐに停止すべきと主張している学者もいるので、先行きが気になるところである。

公開されている報告書もあるが、中間報告書や最終報告書はボリュームがあるので、
まずは次のYouTubeの大前さんのまとめ(12分)を見るか、中間報告書のまとめ(37ページ)を読んでから、この本を読むことをお薦めする。



筆者はこの本を図書館で借りて読んでから買った。日本国民として福島第1原発の事故を正確に知っておく必要があると考えたからだ。

今後のスケジュールについては、東電の「中長期ロードマップ」を紹介し、福島第1原発については、これから燃料デブリの取り出しや、核廃棄物処理の完了まで30〜40年掛ることを説明している。

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出典:本書20ページ

大前さんは、地震発生直後からYouTubeで情報発信するなど、福島原発事故については、大変参考になる活動をしてきた。



大前さんの活動の集大成として価値ある報告書だと思う。


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2011年11月09日

「リーダーの条件」が変わった 大前研一さんの最新作

「リーダーの条件」が変わった (小学館101新書)「リーダーの条件」が変わった (小学館101新書)
著者:大前 研一
小学館(2011-09-20)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

2011年9月に発売されたばかりの大前健一さんの最新作。「SAPIO」と「週刊ポスト」の連載コラムの記事を加筆修正して再構成したものだ。いつもながら大前さんのネタの新鮮さには驚かされる。

この本はアマゾンの「なか見!検索」に対応していないので、「なんちゃんてなか見!検索」で目次を紹介しておく。大体の内容がわかると思う。


はじめに ー 能力なきリーダーしかいない日本の不幸


第1章 東日本大震災でわかった「危機に克つリーダー」の条件

★スピード 一週間でできない「緊急対策」は、一年かけてもできない

★危機管理力 組織のダメージを最小限にする工夫と判断が必要だ

★行動力と交渉力 次世代の国家リーダーに求められる「3つの条件」


第2章 組織を元気にするリーダーシップの育て方

★ビジョナリー・リーダー 世界で勝つ企業は人材育成に毎年1000億円かけている

★中間管理職”再生術” 組織を動かすには「”揺らぎ”のシステム」を使いこなせ

★新・人材教育カリキュラム リーダーシップは”天与”のものではない


第3章 日本が学ぶべき世界のリーダーシップ

★イギリス・キャメロン首相1. 弱冠43歳にしてトップに立ったリーダーはどこが凄いのか?

★イギリス・キャメロン首相2. 「グレート・ソサエティ」構想で活かすべき「民の力」

★ロシア・メドベージェフ大統領 「結果を出す指導者」の驚くべき決断力と行動力

★日本VS中国リーダー比較 国民の差ではなくリーダーの差が国家の関係を規定する


第4章 私が「リーダー」だったら日本の諸課題をこう乗り越える

★震災復興 「緊急度の掌握」ができなければ非常時のリーダー失格だ

★電力インフラの再構築 原発と送電網は国有化、電力会社は分割して市場開放せよ

★食糧価格の高騰 世界の農地に日本の農業技術、ノウハウを売り込め

★水資源争奪戦 水道事業を民営化して「水メジャー」並の競争力をつけよ

★エコカー開発競争 劇的な低価格を実現し、世界市場で優位に立つ「新EV革命」

★財政危機 所得税・法人税ゼロの「日本タックスヘイブン化」で経済は甦る


おわりに ー 「強いリーダー」は強い反対意見の中から生まれる



もし大前さんが日本の首相だったら

もし大前さんが日本の首相だったら、次のように行動するという。

まず第1案として「脱原発」の方針を示す。総電力量に占める原子力発電の比率は約30%だが、原発の稼働率は3割に落ちているので、日本全体の電力消費量を15−20%削減すれば原発なしでも電力は足りる。

そこで1.電力消費を前年比2割削減、違反者には料金5割アップのペナルティ、2.家電製品の電力消費を5年以内に3割カット、3.電力危機警報システムを導入し、電力使用率が90%を超えると警報を出す、というような対策をとる。

その上で第2案として「原発維持」を提案する。日本には原発は54基あり、ウェスティングハウスを買収した東芝はじめ日本企業は世界最先端の原子力技術を持っている。日本の技術に期待している国もあるので、今回の事故の教訓を生かして、より安全な原発をつくる。21世紀の日本の基幹産業となりうる原発を維持することを国民に提案する。災い転じて福となすを国民に提案するのだ。


台湾の馬英九総統を日本の首相に!

馬総統は大陸出身で日本に弱いと言われていたが、東日本大震災で台湾は世界で最も多い200億円の義捐金を送り、馬総統は義捐金受付のコールセンターに最初の四時間は自分で応対するというリーダーシップを見せた。

馬総統は大前さんの話に興味を示し、次の大前さんの来台では閣僚と軍の上層部全員呼んで大前さんの話を聞かせたという。

中国との三通(通商、通信、通航)ではいまや週558便、中国37都市に直行便があるという。直行便が認められていなかった前任者の陳水扁氏の時代とは大違いなのだ。


次世代の日本のリーダーに求められる3要件

日本の国と公機関の借金は2011年内には1,000兆円を上回る勢いだ。このままいくと日本国債のデフォルト風評が出る恐れがある。

次のリーダーに絶対必要な第一の能力は、イギリスに見られるように大幅な歳出カットと増税をやり抜き、国民に納得させられるコミュニケーション能力だ。

第二の能力は新しい世界情勢に対応した新しい外交の座標軸を決めることだ。鳩山元首相の思いつきの「日米中正三角形」ではなく、BRICSも含めた「多面体」外交だと大前さんは提唱する。

第三の能力は人材を強化することだ。アジアでも韓国、中国、シンガポール、インドネシアなどの若者はグローバルで活躍する意欲にあふれ、能力も高い。

インドに至っては、フォーチュン500の300社以上にインド人の副社長以上が居る。日本人の副社長以上はゼロである。アメリカの医者の五人に一人、イギリスの医者の五人に二人はインド人だ。シリコンバレーで起業して、上場まで持っていた外国人経営者のトップはインド、二位イスラエル、三位が台湾だ。こちらも日本人はゼロである。

この人材格差を埋めないと日本はジリ貧になるばかりだ。平均レベルの人材を大量生産する工業社会時代の教育から、傑出した少数精鋭を育成するIT社会時代の教育に転換しなければならない。


リーダーの最も重要な要素はビジョンとコミュニケーション能力

リーダーの最も重要な要素はビジョンとコミュニケーション能力である。リーダーシップは教育によってはぐくむことができる。

代表に選ばれる前から自民・公明との大連立を標榜していた野田佳彦氏などリーダーシップの片鱗もないと酷評している。イギリスも連立だが、日本の連立は足し算した連立であって、一つの見解でまとまった政権ではない。だから吹けば飛ぶような社民党や国民新党の意見に左右される民主党政府は何の改革もできないし、国民からそっぽを向かれる。

イギリスのキャメロン首相は、銀行の休眠口座に放置されている資金を元にして「ビッグ・ソサエティ・バンク」を創設する構想を明らかにした。サッチャー以来の伝統である「スモール・ガバメント」は維持しながら、社会政策を充実するために「ビッグ・ソサエティ」という民の力の活用だ。

日本には国家公務員、地方公務員、郵便局や大学など公務員に準ずる人が700万人いて、総人件費は60兆円かかっていると言われている。公務員をギリシャ並に1/3削減すれば20兆円は削減できるのだ。

その公務員が減った分を、民間のボランティアなどで補うという構想だ。ボランティアなど何らかの貢献があった人には、ポイント制を導入してポイントを与えても良い。そして郵貯の休眠口座もイギリスと同様に洗い出して、日本国債の償還に充てる。


メドベージェフ大統領の「大ウスリー島方式」

メドベージェフ大統領は中国との国境線確定で導入した面積を二等分する「大ウスリー島方式」で、ノルウェーとの長年の国境紛争を解決した。2009年にプーチン首相が来日した時に、「大ウスリー島方式」で3.5島返還論が出てきたが、外務省からリークされて世論の反対で潰れた。

この方式を一ひねりして国家主権は日本だが、択捉島だけは「共通の家」とするような方式で決着すべきだと大前さんは提案している。

民主党政権は対ロシア外交でも失敗している。また尖閣列島問題でも小平以来「棚上げ」してきた過去の経緯を無視した民主党の幼稚な外交の結果だと切り捨てている。

寝た子を起こした結果となった背景には中国大使に民間出身の丹羽さんを起用した民主党政権への外務省のサボタージュもあるという。


ヘビににらまれたカエル

温家宝首相を”待ち伏せ”した屈辱的な菅外交として、菅前首相の外交でのていたらくを非難している。下を向いてひたすたメモを見て、胡錦涛首相の目を見ない菅首相には、筆者もおよそリーダー失格という評価をしていた。大前さんも全く同じことを言っている。

一国のリーダーたる矜持は微塵も感じられず、ヘビににらまれたカエルのようだったと。


原発問題

原発については、東電はGE崇拝で、大前さんが新設計の原子炉の設計図を持って行っても、GEのお墨付きのない原子炉などいらないということで、門前払いをくらったという。だから大前さんは日立を二年間で辞めたのだと。せっかく日本独自の原子炉をつくるために勉強してきたのに、GEの技術指導を強いられたのでは、原子炉を設計している意味がないからだ。

今回の福島第一原発の事故ではGEの設計者はよく考えていることがわかったという。

地震で炉心が緊急停止すると、1.外部電源、2.非常用ディーゼル発電、3.原子炉自身の蒸気をつかってタービンを回して自動的に冷却するというしつこいシステム(これが何かの理由で機能しなかった)、4.蓄電池、5.外部の電源車という五重の安全対策システムがついていた。

さすがGEと感心するくらいシステム防御策が念入りに考えられていたという。今回の事故は設計よりも”現場の知恵”が不足していたことに問題があるという。たとえば外部電源の取り入れ口が水没すると分かっていれば、機密性を高めたり、440Vという外部電源はおかしいと気づいたはずである。

2002年に起こった圧力容器にヒビ割れがあるというGEの下請けのエンジニアの告発による「原発トラブル隠し」が大問題となって東電の原子力畑の人はことごとく粛正された。原子力に三割依存しているのに、だれも経営陣が原発の構造を知らないという会社となっていたのだ。


資産課税と付加価値税導入

税金についての大前さんの提案は資産課税と付加価値税だ。資産は生産財控除などを認めた上で、1%にすると35兆円程度が見込める。付加価値税は5%とすると、25兆円が見込める。合計で60兆円は現在の税収の1.5倍である。

付加価値税は、日本ではなじみがないが、海外では通称VAT(Value Added Tax)と呼ばれ、多くの国で日本の消費税と同じように導入されている。計算は販売金額から仕入れ金額を引いた付加価値の部分に課税するやり方だ。

日本のGDPが500兆円なので、5%課税とすると大体25兆円の税収が見込める。


その他の具体的施策

★稼働・停止が比較的容易な小型ガスタービン発電(30万KW程度)をいくつもつくり、発電量の確保に備える。

★原子力発電所はすべて国が買い取って国営とする。送電網は国有化して、電力会社は発電会社と配電会社に分ける。発電会社ー送電会社(国)ー配電会社の3層構造にする。50HZと60HZという日本国有の問題も技術的に解消する。

★消費税を期間限定で上げる。被災地支援のために国民が一致すれば、前向きの駆動力を生みだし、経済の活性化にも繋がる。財務省ではこのような案もあったが、民主党でグシャグシャにされているという。船長のいない幽霊船のような状態になっているからだと。

★道州制を導入し、”変人知事”や”変人市長”のパワーを利用して地方分権を推進し、中央に陳情するのではなく、世界に営業する自治体をつくる。5つの道州をつくり、大阪と京都で「本京都」、名古屋で中京都、新潟州、福岡都、神奈川都をつくる。福岡都と神奈川都は県内に政令指定都市が複数あって非効率だからだ。

マスコミ操縦術に長けているが、世界から富を呼び込むという発想のない”変人知事”の実力もわかるだろう。田中角栄以来の「均衡ある発展」は捨て去り、地域同士の競争を盛んにするのだ。

★食糧安保問題では、農林水産省が打ち出した「食料自給率」を「ためにする議論」として切り捨てている。たとえば牛肉の自給率は43%だが、飼料は輸入に頼っている。

この辺の議論は以前紹介した「日本は世界第5位の農業大国」のあらすじで詳しく紹介しているので、参照して欲しい。

日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率 (講談社プラスアルファ新書)日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率 (講談社プラスアルファ新書)
著者:浅川 芳裕
講談社(2010-02-19)
販売元:Amazon.co.jp
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農水省は種の海外持ち出しを規制しているが、種も技術も人材もウクライナやアルゼンチンなどの世界の農業最適地に持って行って、日本のひもつきの生産をすべきだと語る。それが日本にとってベストの食糧安保戦略だと。

★水事業については、日本では上下水道の設計・建設ノウハウは民間企業、運営・維持ノウハウは自治体が独占している。事業主体は東京都以外は市町村単位となっており、グローバル展開は遅れている。

日本の水は全体の65%が農業用水、15%が工業用水、20%が水道用水として使われているが、最も上流のおいしい水が農業用水として使われており、水道水は下流で取水している。基本的に水利権は江戸時代の(士)農工商の身分制度そのままなのだ。

たとえば東京都の水道水は主に利根川の支流の江戸川から取水しているが、利根川の上流で取水すれば、JR東日本がミネラルウォーターとして販売している旧「大清水」(上越新幹線の大清水トンネル開削工事の沖に湧き出た水が原料)と同じおいしい水が水道で味わえる。

★EVの電池はカセット式を普及させる。アメリカのベタープレイスという会社も推進しているが、充電に時間がかかる電池をカセット式にしてガソリンスタンドに充電済みのカセットを置くようにすれば、自動車の値段もカセット電池分安くできる。

充電インフラと充電時間の問題を克服できる上、EVの価格が一気に安くなって普及に拍車がかかり、経営が苦しいガソリンスタンドも潰れないですむという一石三鳥の解決策なのだと。

★EVの新技術のインホイールモーターは、30年にわたってEVを研究してきた慶応大学環境政策学部の清水浩教授が社長になって設立した産学連携ベンチャーのシムドライブ社が推進している技術で、ガソリン車の1/4のエネルギーで走行でき、一回の充電で600キロ走ることができる。

現在はどこの国のどの企業も一社2000万円の参加料を払えば参加でき、開発した技術はオープンソースとして供与し、量産段階では1−3億円の権利金を払えば製造の技術・ノウハウ・コンサルティングも提供するというビジネスモデルとなっている。しかし、このような「お人よし」契約はやめるべきで、インホイールモーターを含めたコントロールユニットをブラックボックス化して先行者利益を確保するべきだと大前さんは推奨する。

すでにベタープレイス社は中国南方電網と提携してカセット電池パックを使ったEVを普及させる計画があり、日本は電池技術でアドバンテージがあるうちに、インホイールモーターと組み合わせたEVを開発・普及させるべきであると。

車の排ガスによる環境汚染に苦しんでいるのは中国だけではなく、インド、ブラジル、ロシアの大都市も同じなので巨大な需要が見込める。


日本の税金を倍にして、予算を半減させないと、このまま国債発行がふえていけば、ある日突然国債が暴落して、預貯金や保険が吹き飛ぶ。そしてハイバーインフレが来て、タンス預金は紙くずになり、年金生活者も困窮する。1990年代のロシアの状況が再現されるのだ。

日本のリーダー不在が続くと、いずれIMF駐留軍に経済を握られることになると大前さんは警鐘を鳴らす。前回野田佳彦首相の「民主の敵」のあらすじを紹介したが、そのビジョンのなさにはあきれた。

野田首相でも民主党は変わらないだろう。たけしの予言したとおりである

リーダー不在が続く日本で、むなしく響く大前さんのリーダーに向けた提言だが、自分の考え方を整理するには適切な本である。


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2011年06月28日

大前研一 洞察力の原点 大前版「道をひらく」

大前研一 洞察力の原点 プロフェッショナルに贈る言葉大前研一 洞察力の原点 プロフェッショナルに贈る言葉
著者:大前研一
日経BP社(2011-02-24)
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大前研一さんの過去40年間にわたる100冊以上の著書や雑誌のコラムなどの言葉を集めた本。

いわば大前版「道をひらく」だ。

道をひらく道をひらく
著者:松下 幸之助
PHP研究所(1968-05)
販売元:Amazon.co.jp
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元々はビジネス・ブレークスルーのスタッフが、大前さんの言葉をツイッターで紹介する「大前研一 BOT」を開始したところ、またたく間にフォロアーが万人単位で増え、それが注目されたものだという。

筆者は大前さんの本はかなり読んでいる。引用した本を入れると、このブログでもたぶん40冊くらいは紹介していると思う

大前さんの本を読んでいつも感心するのは、ネタが常に新しいということだ。

大前さんはサラリーマン「再起動」マニュアルで、神田地区にある「江戸っ子寿司」がいきつけだと言っていたが、ネタが新鮮な大前さんが推薦する「江戸っ子寿司」はさぞかしネタが良いのだと思う。

edokkosusi






冗談はさておき、この本は筆者があらすじを書く上でも大変参考になった。というのは、この本には大前さんの250くらいの言葉がまとめられているので、ブログで紹介する言葉に優先順位をつける必要があったからだ。

筆者は通常読んだ本で、参考になったところにはポストイットを貼っておき、あとでその部分を中心にあらすじを書いている。しかしあまりにも参考になる部分が多いとポストイットが多すぎて、結局あらすじが書けない本がいくつもある。

その代表例がカーネギーの「人を動かす」だ。

人を動かす 新装版人を動かす 新装版
著者:デール カーネギー
創元社(1999-10-31)
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カーネギーの「人を動かす」は日本語では数回しか読んだことがないが(最初は日本語で読んだ)、英語のオーディオブックはたぶん100回くらいは聞いていると思う。ほとんどのストーリーが頭に入っているが、あまりに参考になる部分が多いので、あらすじにまとめきれないのだ。

この本も参考になる言葉が多く、ポストイットだらけになったが、1ページに一つの文だけなので、優先順位を付けやすかった。だから最初に読んだときにポストイットを貼りまくり、次にポストイットを貼った場所に優先順位をつけて、あらすじに紹介す言葉を選び出した。

同じやり方で、他の本のあらすじもまとめればよいということに気が付いた。つまりポストイットの部分をすべて紹介するのではなく、参考になる部分をさらに厳選してあらすじにまとめるのだ。

このやり方で、まだあらすじを書けていないウォルマートのサム・ウォルトンの本とか、ポストイットだけ貼って、あらすじを書けていない本を今後紹介していく。

私のウォルマート商法 すべて小さく考えよ (講談社プラスアルファ文庫)私のウォルマート商法 すべて小さく考えよ (講談社プラスアルファ文庫)
著者:サム・ウォルトン
講談社(2002-11-20)
販売元:Amazon.co.jp
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閑話休題。

横道にそれたが、上記の一次選抜>二次選抜方式で、選んだのが次の10作の大前さんの言葉だ。

この本は「なか見!検索」に対応しているので、ここをクリックして目次も見て欲しい。

未来は予測できる

「その力はなぜ起きているのか。一時的なものか、継続的なものか。継続するとすれば、その力は強くなるのか。ベクトルは一定か、変化するかなどを考え、その結果、現象が先々どのように変化するのかと考える。

こうした論理的な洞察を繰り返すことで、自ずと未来が予測できる。これは「予言者」の勘、あるいは霊感とは異なり、誰でも身につけることのできる能力だ。」

原出典:「Think!」 2009 No.30

この未来予測可能性については、「ビジネス力の磨き方」のあらすじを参照して欲しい。

「未来は予測できる」という発想が重要だ。


ノウハウを手にする

「与えられた仕事は、文句をつけたり拒んだりするべきではない。すべてはチャンスだ。せっかくいやな仕事をやり遂げるのだから、自分は必ずノウハウを手にしてやる、と心に決めて取りかかっていけばいい。」

原出典:「朝日新聞」 2003年3月2日

同趣旨のことは、楽天の三木谷さんも言っている。三木谷さんの場合にはルーティンジョブの典型の外国為替に配属されたが、与えられた仕事に集中し、ついには銀行派遣のハーバード留学生になれた。

筆者も全く同感だ。就職が決まった大学4年生の長男にも、この言葉を贈りたい。


指数関数

「人の二倍考える人間は10倍の収入を得ることができる。三倍考える人間は、100倍稼ぐことができる。」

原出典:「考える技術」


人間が変わる三つの方法

「人間が変わる方法は三つしかない。一つは時間配分を変える、二番目は住む場所を変える、三番目は付き合う人を変える。この三つの要素でしか人間は変わらない。もっとも無意味なのは、「決意を新たにする」ことだ。」

原出典;「プレジデント」2005年1月17日号


世間話ができない

「日本全体のこととか、世界経済だとか、東京全体の問題とかは、一生懸命考えてきたけれど、下町の風景のなかでおじいちゃん、おばあちゃんと世間話ができない。

日本改造から自分はスタートしたが、まずは自分の改造が先だということに気がついたのだった。」

原出典;「大前研一敗戦記」

このブログで紹介した大震災と原発事故からの復興計画を提案する「日本復興計画」でも、この傾向が出ていると思う。大前さんの欠点の一つは、庶民感覚がないのだ。

日本復興計画 Japan;The Road to Recovery日本復興計画 Japan;The Road to Recovery
著者:大前 研一
文藝春秋(2011-04-28)
販売元:Amazon.co.jp
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大前さんは政治家には向いていないと思う。


妥協

「ビジネス・プロフェッショナルに、『妥協』の二文字は厳禁です。妥協とは自分の都合であって、顧客の都合はもちろん、ビジネス・パートナーの都合なども一方的に無視する、甘えた態度です。」

原出典:「ザ・プロフェッショナル」

筆者もインターネット企業に出向して、このことを痛感し、かつ反省している。”NO”はいつまで経っても”NO”で、”YES”とはならないのだ。何に”NO”を言うのかが、経営者の職務なのだ。


自分の家の庭に原子炉を作るつもりで考える

「MIT(マサチューセッツ工科大学)の原子力工学部の名物教授で、マンハッタン計画にも参画していたトムプソン教授の言葉を思い出す。

彼はわれわれ大学院生に原子炉の安全に関しての講義のなかで、『一番基本的なことは開発技術者としての知識を云々するよりも、当該原子炉を自分の家の裏に作る、という態度で物事を考えること』と教えてくれた。」

原出典:大前の頭脳

現在原発事故で問題になっている原子炉の安全性の基本がこれだ。つまり原子炉設計者は、NIMBY(=Not In My Back Yard)ではイカンという教えである。

最近も原発の現場で作業に当たっている東電社員が累積350ミリ・シーベルトの放射線を浴びたという報道があった。

現場のみんなが決死の覚悟で作業に当たっておられるのだと思う。

このブログで紹介した京大原子炉実験所の助教の小出裕章さんの「隠される原子力 核の真実」に書いてあった通り、放射線が身体にダメージを与えることは間違いない。

隠される原子力・核の真実―原子力の専門家が原発に反対するわけ隠される原子力・核の真実―原子力の専門家が原発に反対するわけ
著者:小出 裕章
創史社(2011-01)
販売元:Amazon.co.jp
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生命体を構成しているDNAなどの分子結合エネルギーはせいぜい数電子ボルトだが、放射線のエネルギーは数百万から数千万電子ボルトに達する。放射線が身体に飛び込んでくれば、DNAはじめ身体の分子構造が切断されてしまうのだ。

筆者の先輩で原子力学科を卒業した人は、結婚するときに精子を保存したと言っていた。

大前さん自身もMITで放射能を含んだ物質を呑み込んでしまったとYouTubeで公開されているビジネスブレークスルー大学院大学の講義で言っていた。まさに内部被ばくである。それだけ原子力関係者は被ばくのリスクにさらされているのだ。



筆者は、このブログで紹介した広瀬さんや小出さんの言うように、原発を全部廃止することは、人類の進歩に逆行すると思う。原子力関係者の奮闘を評価して、原発をより安全なものにすべく我々も支援すべきだと思う。


唯一のツール

「私の唯一のツールは、「なぜか」である。同じ商品なのに、売れるセールスマンとそうでない人間がいるのは「なぜ」だろう。東京で売れて、大阪で売れないのは「どうして」だろう。そういうことをいつも考えていると、答えは見えてくる。」

原出典:「ニュービジネス活眼塾


サマリーを作る練習をする

「プレゼン能力を高めるためには、サマリーを作る練習を繰り返さなければならないのである。具体的にはどうすればいいのか?私は、ベストセラー小説や文学賞を受賞した小説を読んで、それがなぜベストセラーになったのか、自分なりの論理で説明する、という訓練を薦めたい。」

原出典:「サラリーマン『再起動』マニュアル

筆者もまさにこのブログで、サマリーを作る練習を繰り返している。このブログで書いた様に、要約の重要性がわかったのは、アルゼンチンでスペイン語を学んだ時だ。

アルゼンチン駐在の二年目はカトリック大学の講師にオフィスに来て貰って、週1回個人教授を受けていた。その教え方が要約だった。

短編小説集を教材にして、一つの短編を翌週までに読見込んで、次の授業の冒頭でその短編のあらすじをスペイン語で説明する。そして短編を読んで新しく覚えた単語を使ってスペイン語で作文するのが宿題だった。

この勉強を続けたので、帰国して研修生上がりでは唯一のスペイン語社内検定一級になれた。

サマリーを作る練習を筆者も是非お勧めする。あなたのビジネス力がアップすること請け合いだ。


ビル・ゲイツも悪夢を見る

「マイクロソフトにしても、トヨタ自動車にしても、経営トップは強烈な危機何を抱いています。かつてビル・ゲイツは、「今日、私が一つ判断を誤れば、この会社は明日にも潰れる。そういう夢をいまでもよく見る」と私に語ってくれました。」

原出典:「ザ・プロフェッショナル


冒頭に紹介したように、松下幸之助の「道をひらく」のように、毎日1ページ読む座右の書としても使える本だと思う。

大前さんの特長である「ネタ」の新しさがこの本では味わえないので、やや魅力には欠けるが、大前さんの考え方が概略わかって参考になる本である。


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2011年06月06日

日本復興計画 大前さんの原発事故と東日本大震災からの復興計画

日本復興計画 Japan;The Road to Recovery日本復興計画 Japan;The Road to Recovery
著者:大前 研一
文藝春秋(2011-04-28)
販売元:Amazon.co.jp
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大前さんがビジネスブレークスルー大学院大学で東日本大震災と、その後の福島原子力発電所事故について解説した番組を加筆して緊急出版したもの。

このブログでも紹介している通り、大前さんは東日本大震災が起こり福島の原発事故が発生した直後の3月13日から毎週、ビジネスブレークスルー大学院大学で原発事故について講義をしていた。これらはYouTubeにも収録されている。



大前さんは当初からこれで日本原子力産業は終わったと言っていた。

大前さんの復興計画の根幹をなすのは次の2点だ。

1.道州制
2.個人の意識改革

道州制については、大前さんが「平成維新の会」を立ち上げる前から主張しているものだ。

今回の提案は、被災地に最初に道州制を導入するという先行導入案だ。県単位でバラバラに復興計画が出されて、全体最適が損なわれる事態を、道州制を導入して全体で整合性のある復興計画にしようというものだ。

たとえば昔の「ここより下には家をつくるな」の石碑などの例にならい、住居は高台につくり、漁師などは海辺に車で通勤するとかの提案が含まれている。



最近では道州制賛同者も増え、公的な会議の議題にも道州制が上る様になってきた。先日前経団連の御手洗さんの講演を聞く機会があった。御手洗さんも道州制を復興計画の柱として提案されていた。

2.の個人の意識改革というのは、大前さんが「大前流心理経済学」などで、繰り返し提案しているものだ。

大前流心理経済学 貯めるな使え!大前流心理経済学 貯めるな使え!
著者:大前 研一
講談社(2007-11-09)
販売元:Amazon.co.jp
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次の表の通り、日本は20年間所得が減り続けている世界唯一の先進国だという。これを克服するには日本人のメンタリティを変えなければならない。住宅、車、教育の3大熱病は早く治すべきだと語る。

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出典:本書109ページ


筆者の場合、すべての「熱病」を抱えており、いまさらどうにもならないが、たしかに賃貸物件もいいものがあるので、若い人がこれからマンションとかを買うのは考えた方が良いかもしれない。


特筆すべき発言

テレビ放送を本にしたものなので、オフレコ的な発言も収録されている。

★たとえば4島返還でなくてもよいから日露平和条約を早期に締結して、シベリアの無人地域に核廃棄物の埋設場所を確保させてもらうことを提案している。

放射性廃棄物の問題は日本の国難であり、北方4島と次元が異なる問題だからだという。

合理的な提案かもしれないが、ロシアと日本の国民感情を考えれば、到底受け入れられる提案とは思えない様に筆者には思える。

今後紹介する「大前研一 洞察力の原点」で、世間話ができないことを「大前研一敗戦記」で書いていることが紹介されている。


世間話ができない

「日本全体のこととか、世界経済だとか、東京全体の問題とかは、一生懸命考えてきたけれど、下町の風景のなかでおじいちゃん、おばあちゃんと世間話ができない。

日本改造から自分はスタートしたが、まずは自分の改造が崎だということに気がついたのだった。」

原出典;「大前研一敗戦記」

「シベリアで核廃棄物埋設場建設」というのも、この傾向が出ていると思う。つまり大前さんの欠点の一つは、庶民感覚がないのだ。


★大前さんの奥さんはアメリカ人なので、アメリカ大使館から連絡があってヨウ素カリを大使館指定の薬局でもらってきたという。アメリカの本気度と日本に対する信頼のなさが読み取れるという。

表の顔、裏の顔を使い分けて万全を期すのがアメリカのやり方だ。いかにもありそうな話だと思う。


★日本には「ウラの国策」があり、プルトニウムをためていけば90日で原爆が造れるという。日本は唯一の被爆国として非核三原則を掲げているが、それに抵触しないで核武装の能力だけは備えておく、つまり90日で原爆を作る能力のある「ニュークリア・レディ」国なのだ。

だから使用済み核燃料を国内にずっとため込んでいるのだと。

この「ニュークリア・レディ」の話を読んで、大前さんもヤキがまわったと思っていた。

以前「日本は原子爆弾をつくれるのか」で紹介したとおり、プルトニウム原爆の起爆装置は非常に複雑で、実験もできずノウハウもない日本が90日で原爆ができるとは到底思えない。

Implosion_bomb_animated








出典:Wikipedia

日本は原子爆弾をつくれるのか (PHP新書)日本は原子爆弾をつくれるのか (PHP新書)
著者:山田 克哉
PHP研究所(2009-01-16)
販売元:Amazon.co.jp
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ましてや運搬手段のミサイルも爆撃機もない日本で、原爆弾頭だけつくっても、何の役にも立たない。そもそも原爆保有を大多数の国民が許すとは到底思えず、中国や北朝鮮から攻められるとかいう事態があっても、国民のコンセンサスは得られないのではないか?

ところが、最近読んだ京都大学原子炉実験所小出裕章助教の「隠される原子力・核の真実」という本を読んで、日本はせっせとプルトニウムをため込んでおり、すでに長崎原爆を4,000個つくれるだけのプルトニウムを保有していることがわかった。

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出典:「隠される原子力・核の真実」46ページ

隠される原子力・核の真実―原子力の専門家が原発に反対するわけ隠される原子力・核の真実―原子力の専門家が原発に反対するわけ
著者:小出 裕章
創史社(2011-01)
販売元:Amazon.co.jp
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大前さんはヤキがまわったのではなく、元原子力関係者として一般人が知らない真実をチラッと明かしただけなのかもしれない。そんな気がした。


大前さんはこの本の印税をすべて寄付するという。震災・原発直後の復興提案としては提案スピードといい、提案内容といい、優れたものだと思う。

本を読むか、あるいは上記のYouTubeの2番目の映像の公開講義を見ることを、ぜひおすすめする。


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2010年11月13日

大前研一の資本主義の論点 ハーバードビジネスレビュー論文集

大前研一の新しい資本主義の論点大前研一の新しい資本主義の論点
著者:大前 研一
販売元:ダイヤモンド社
発売日:2010-08-06
おすすめ度:4.5
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大前研一さんの近著。大前さんは序論の「ポスト金融危機の経営戦略」という40ページほどの論文を担当し、他はハーバードビジネスレビューに掲載された論文を集めた本だ。

ニュー・ノーマルの世界

大前さんの論文では、リーマンショック以降、世界経済の主役は先進国からBRICsなどに代わり、もはや世界は昔の秩序には戻らないことがはっきりした。この状態をニュー・ノーマルと呼ぶ人もいるという。

2008年と2009年の主要国のGDP成長率比較の資料が載っている。もやは主役交代は明らかだ。

2008-2009年の主要国GDP成長率










出典:本書3ページ

2010年には先進国が1-2%の低成長が予想される一方、BRICs、VISTA他の国の2010年のGDP成長率予測は次の通りだ。

2010年GDP成長率予想







出典:本書7ページ

インドネシアに注目

大前さんが注目しているのは、インドネシアだ。2004年に初の直接選挙で選ばれたユドヨノ大統領のリーダーシップの下で、汚職撲滅、経済成長、治安回復を目ざす諸政策が実施され、政治と社会が安定し、経済も成長起動に乗っている。ここ5年で国民一人当たりGDPが2、000ドルを超えて倍増している。

人口は2億3千万人、石油、ガス、石炭、アルミなどの天然資源もある。過去の宗教・民族対立に根を発する政情不安も、経済が発展したので国民団結が進み、政治・社会は安定している。

大前さんはBRICsではなく、インドネシアも入れたBRIICsと呼ぶべきだと主張する。

インドネシアは筆者も好きな国だ。

訪問したことは2回だが、実は筆者の亡くなった父親がインドネシアで従軍していたのだ。昭和18年に召集されて、上海、香港、サイゴンなどを経由してインドネシアのジャワ島に派遣された。

父の後続の部隊は輸送船がすべて敵潜水艦にやられて、全く現地までたどり着けなかったので、結局終戦まで父たちの年代が一番下だったといっていた。

今度紹介する山本七平さんの「日本はなぜ敗れるのか」にも書いてあったが、バシー海峡を通る日本軍の輸送ルートを、山本さんはナチの強制収容所以上に効率の良い大量殺人工程と呼ぶ。

日本はなぜ敗れるのか―敗因21ヵ条 (角川oneテーマ21)日本はなぜ敗れるのか―敗因21ヵ条 (角川oneテーマ21)
著者:山本 七平
角川グループパブリッシング(2004-03-10)
販売元:Amazon.co.jp
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わずかな駆逐艦と航空機の護衛だけで、兵隊を満載した輸送船をどんどん送り出しては、かたっぱしから敵潜水艦の犠牲となり、兵隊も兵器もすべて海の藻屑と消えたのだ。

陸軍は喪失のリスクが高いことを知りながら、それでもどんどん輸送船を送るものだから、最後はほとんど廃船のようなボロ船で山本さん達はフィリピンに送られたという。

筆者の父も、霧に紛れて出航したが、同僚の船が潜水艦にやられ、駆逐艦がしきりに爆雷を投下したが、潜水艦はやっつけられなかったと言っていた。まさに九死に一生を得ていたのだ。

陸軍では当時「ビルマ地獄、ジャワ極楽、マニラ享楽」と呼んでいたそうだが、米軍の飛び石作戦で、インドネシアは米軍の反攻対象とならなかったので、父はほとんど戦闘を経験せずに済んだ。

780px-Second_world_war_asia_1943-1945_map_de






出典: Wikipedia

戦後はオランダ兵が進駐してきたが、オランダ人はインドネシア人に憎まれていたので、日本軍は武装解除せず、オランダ兵を守ってやっていたと言っていた。

日本人はインドネシア人に好かれていたので、日本軍人のなかには、スカルノなどのインドネシア独立軍の顧問としてインドネシアに居続けた人もいる。

父が日本に無事戻ってこなければ、筆者も生まれていなかったわけで、その意味でインドネシアにはいわば「命の恩人」として親しみを感じているのだ。

閑話休題。


アジアの中間層を狙う

2025年頃には日本はインドにGDP規模で抜かれ、インドネシアにも抜かれる可能性がある。そんな状況下、日本企業として決断すべきなのは、7億人のアジア新中間層を狙うことだと大前さんは語る。

アジアの中間層は次のように急速に各国で拡大して、いまやアジア全体で7億人もいて、購買力もそこそこあるのだ。

アジアの中間所得層の人口推移






出典: 本書35ページ

インドネシアに進出して成功している企業の例として、大塚製薬のポカリスエット、ユニチャームを紹介している。


他のハーバードビジネスレビュー論文

この本では大前さんの論文以外に28のハーバードビジネスレビューの論文を次のカテゴリーで紹介している。

第1部 経済と金融
第2部 企業
第3部 グローバリゼーションと新興経済
第4部 技術と環境

印象に残ったのは、GEのリバース・イノベーションの例だ。CTスキャナーは従来10万ドル以上したが、リバース・イノベーションで1,000ドルの携帯型心電計とノートPCを利用する15,000ドルのコンパクトCTスキャナーを開発した。

従来GEのイノベーションは、先進国で開発した製品・技術を後進国に持って行くという「グローカリゼーション」が中心だった。この格安CTスキャナーは後進国である中国のチームが開発し、世界に広める「リバース・イノベーション」だという。

リバースイノベーションの例








出典:本書209ぺージ

それと6つのクリーン・エネルギー技術というまとめの表も参考になった。いずれのクリーン・エネルギーもまだ市場の勝ち組にはなっていない。

clean energy1






clean energy2



出典:本書308-311ページ

筆者の職場ではハーバードビジネスレビューを購読しているが、実は筆者は読んでいない。ちょっとレベルが高すぎるのだ。

大前さんの本だと思って読むと失望するかもしれないが、気に入った論文だけじっくり読めば良いと思う。専門的な論文もあるので世界の一級の頭脳が何を考えているのかがわかって、参考になると思う。


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2010年04月20日

最強国家にッポンの設計図 大前研一の日本再建提案

最強国家ニッポンの設計図最強国家ニッポンの設計図
著者:大前 研一
販売元:小学館
発売日:2009-05-29
おすすめ度:4.0
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2009年6月、衆議院選挙の直前に出版された大前研一さんの日本再建のための提案。

隔週発行の「SAPIO」に同じタイトルで連載されていたシリーズをまとめただけでに、提案内容も奇抜でControversialな(異論の多い)ものが多い。

大前さんは今から20年以上前の平成元年頃に「平成維新」を掲げ、マッキンゼーをやめて東京都知事選挙に出たり、「平成維新の会」を立ち上げて与野党の政治家を評価して公認したり、政治的な活動を活発にやっていた。

平成維新平成維新
著者:大前 研一
販売元:講談社
発売日:1989-06
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しかし東京都知事戦で、自宅にこもって遊説を行わないにもかかわらず、タレント候補として知名度だけで支持を受けた青島幸男が勝利し、自らは惨敗した(たしか5位だったと思う)ことに衝撃を受け、「敗戦記」を書いて政治からは身を引いていた。

大前研一 敗戦記
著者:大前 研一
販売元:文藝春秋
発売日:1995-11
おすすめ度:4.5
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しかしこの20年間で、どんどん変わる世界の動きに対して、改革らしい改革がない日本が次第に遅れていくのを見て、再度「いい国作ろう!」との思いで、日本を繁栄に導くシナリオをこの本で提案するのだと大前さんは語る。

この「いい国作ろう!」という思いは、松下幸之助に通じるものがある。筆者が座右の書として、スキマ時間があるときに1−2章ずつ読んでいる松下幸之助の「道をひらく」の最後に「日本よい国」として次のように語っている。

「日本はよい国である。こんなよい国は、世界にもあまりない。だから。このよい国をさらによくして、みんなが仲よく、身も心もゆたかに暮らしたい。

よいものがあっても。そのよさを知らなければ、それは無きに等しい。

もう一度この国のよさを見直してみたい。そして、日本人としての誇りを、おたがいに持ち直してみたい。考え直してみたい。」


道をひらく道をひらく
著者:松下 幸之助
販売元:PHP研究所
発売日:1968-05
おすすめ度:4.5
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松下幸之助は、良い国日本作りを「松下政経塾」で後進育成という形で実現した。与野党に松下政経塾出身者は多い

大前さんはシンクタンク株式会社ザ・ブレイン・ジャパン(TBJ)を立ち上げて、改革運動を起こすべく準備をしている。TBJには年俸2,000万円で優秀な若い人材を50人集め、頭脳集団をつくるという。

brainjapan







まずはITを基盤とした国家戦略をつくり、国民の個人情報をデータベース化して、すべての行政サービスの基幹に置き、国のITインフラを合理化する。道州制、外交政策、新憲法試案をつくり、20年計画で活動するというものだ。

そして世界に雄飛する日本人をつくり、第4の黄金期(第1期は明治維新、第2期は日露戦争勝利から大東亜戦争に入るまで、第3は敗戦直後、松下やソニー、ホンダなど、気概のある経営者の時代)をつくるのだと。


各種の政策提言

大前さんの提言する各種の提言は次のようなものだ。

1.年金と税金改革
現在の年金は10年も持たずに破綻すると予想されるので、税金で基礎年金、2階建て部分は任意積み立てに変更する。2階部分の積立金は年金だからこその長期投資資金として資源国投資、日本型成長モデル輸出、通貨分散投資、好老リゾート開発に費やす。

★所得税は12%、法人税は25%、相続税ゼロの世界標準大減税を実施。世界各国は競って企業や資金を呼び込むために大減税競争をしている。これに日本も参戦する。

★究極は所得税・法人税全廃。資産税(市町村税)・付加価値税(道州税)導入。国は道州と市町村から上納金を集め、国家としてやらなければならない外交、防衛、通貨発行の予算とする、

★外貨準備から50兆円の国家ファンドをつくり、10%利回り運用を目指す。


2.経済復興と産業振興
中国市場の「規模感」は圧倒的だ。中国を「お客様」にして日本は生きていく。明治維新以来の140年間は日中の地位は逆転していたが、過去2、000年間は日本は中国の国力の10%程度だったという。

★近未来の4大国は中国、インド、米国、EUとなるだろう。正しい世界観を持って、世界を利用して繁栄するしたたかな戦略が日本に必要なのだ。

★格差是正のサッチャー前のイギリスは長期低迷に苦しみ、格差拡大のロシア・中国は発展した。格差拡大は必ずしも悪とはいえない。

★日本は「エネルギー大国ニッポン」となれる。原子力発電所を作れるのは世界で日本の3メーカーとフランスのアレバだけだ。大前さんは藻(=クロレラなども含む)をバイオ燃料にすることも提案する。

★ウクライナ、オーストラリア、カナダ、アメリカなど世界のそれぞれの穀物生産の最適地で農場を買収し、日本の農業従事者が行って農場を経営し、穀物を輸入する。


3.人材教育と雇用
日本は1500年前に渡来人を受け入れて礎を築いた国なので、移民を恐れず世界に冠たる多国籍国家となるのだと。

★21世紀の教育の目的は、どんなに新興国や途上国が追いかけてきても、日本がメシを食べられる人材、答がない世界で果敢にチャレンジして、世界のどこに放り出されても平気な人材を生み出すことだ。これは「フラット化する世界」でトム・フリードマンが描いた人間像と一致する。

★教えるのは英語、ファイナンス、ITの3種の神器とリーダーシップだ。

★ヨーロッパの就職試験では、「履歴書に書いてない特筆すべき経験がありますか?」と聞くのだという。リーダーシップの素養を聞くのだ。

★日本政府は教育再生会議などに提案を出させているが、「教育再生」ではなく、全く新しい教育をつくることが必要だと。


4.憲法改正と道州制で新しい国家のかたち
オールクリアして新しい国の形を考え、それを実現する憲法をつくるべき。

★今の憲法は、明治憲法、アメリカの独立宣言と憲法、フランスの人権宣言、それと起草スタッフの個人的な思い(たとえば夫婦平等)の3つで構成された「モンタージュ」憲法だと大前さんは語る。いろいろな人の顔の部分部分を継ぎ合わせて作るモンタージュ写真のようだからだ。


5.主要国との新しい外交関係

★日米関係は円熟夫婦であると。

★イスラム・テロをなくしてアラブ地域を安定させるのは、アラブユニオン(AU)をつくるべきだと。宗教色を排除し、純粋にエコノミックコミュニティにする。

★大前さんの領土問題解決シナリオは、現実的な実効支配を追認することだ。反対論は承知で竹島は現状維持、尖閣列島は実効支配を続け、北方領土は2島返還を優先すると説く。極東ロシアの経済開発を日本の経済振興に生かす議論はこのブログでも紹介した「ロシアショック」に詳しい。

ロシア・ショックロシア・ショック
著者:大前 研一
販売元:講談社
発売日:2008-11-11
おすすめ度:4.0
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★途上国の資源開発に投資し、カザフスタン、ナイジェリア、モンゴルなどに「投資部隊」として人材を送り込んで開発を支援し、生産された資源の大半を日本が買い取る。

★核、空母、憲法改正、国民皆兵制もタブー視しない新の国防論


元々月刊誌(月2回ではあるが)のコラムでの主張なので、本にすると過激で到底実現不能だったり、突拍子もないものが多いように感じる。

「いい国作ろう!」という主張には大賛成だが、方法論はいろいろ議論する必要がある。まずは議論を始めるためのたたき台としては役にたつスパイスの効いた政策提言だと思う。


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2010年03月24日

衝撃!EUパワー 理念と対話から生まれた人類の英知の超国家

+++今回のあらすじは長いです+++

衝撃! EUパワー 世界最大「超国家」の誕生衝撃! EUパワー 世界最大「超国家」の誕生
著者:大前 研一
販売元:朝日新聞出版
発売日:2009-11-06
おすすめ度:3.5
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日本を代表するビジネス「伝道師」大前研一氏の最新作。今度はEUとグレーターEUということで、中欧やCISの国も紹介している。

本と同じくDVDも発売されている。

衝撃!  EUパワー 世界最大「超国家」の誕生 (DVD)衝撃! EUパワー 世界最大「超国家」の誕生 (DVD)
著者:大前 研一
販売元:ビジネス・ブレークスルー出版
発売日:2009-11-20
おすすめ度:5.0
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この本の中でイチオシとされているウクライナとルーマニアの詳細レポートも含まれているので、この地域のビジネスチャンスを研究している人は、DVDも参考になるだろう。

このブログでも大前さんの「ロシアショック」と、「東欧チャンス」のあらすじを紹介している。

ロシア・ショックロシア・ショック
著者:大前 研一
販売元:講談社
発売日:2008-11-11
おすすめ度:4.0
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東欧チャンス (PATHFINDER (5))東欧チャンス (PATHFINDER (5))
著者:大前 研一
販売元:小学館
発売日:2005-06-15
おすすめ度:4.0
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同じような地域についての三冊めの本ではあるが、同じネタの繰り返しは少なく、新しい情報とインサイト(洞察)が多いのはさすがである。

この本では、戦争なしで版図を拡大した超国家EUのすごさと、EU加盟を申請している各国のなかから有望な国にフォーカスして説明している。

ヨーロッパがここまで進化してこれたのは、「二度とお互いが戦いあうなどという愚かなことはするまい」という固い決意があったからだと大前さんは語る。

フランスが指導者という面で貢献し、ドイツが資金的に応分以上の負担をしてきた。トップ同士が仲が良く、しかも長年指導的立場にいた。これがEUがここまで進化した理由である。

「東アジア共同体」とかいう言葉を意味もなく連発する指導者が日本におり、中国や韓国は日本と一緒にやっていこうという気はさらさらない。

EUの60年にわたる執念と、ドイツの徹底した第2次世界大戦に対する反省がなければ、共同体も共通通貨も成り立たない。だから日本の「東アジア共同体」とかいう構想は、実現への工程表も決意もない代物である。

戦後日本と同じ復興の道を歩んできたドイツが、今や世界最大の超国家EUの中核として変貌している姿を見ると、大前さんは「スゲー!」と感嘆するという。自国の持つ強みを失わず、周辺国と軋轢なく共存している姿はしたたかさと尊敬の念を感じるのだと。

この本を読むと、たしかにEUは人類の英知の産物だと思う。


EUのすごさ

筆者はEUには駐在したことはなく、いままで出張や旅行でしかEUに行ったことがないので、合計9年間駐在したアメリカの方が土地勘があり親しみがあるが、この本を読んで、いまさらながらに超国家EUを作り上げた先駆者、ビジョナリー達の「戦争に頼らず話し合いで理想の大国を作ろう」という熱意と先見性に頭が下がる思いだ。

実は昨年読んで、まだあらすじを書いていないのだが、EUの父、ジャン・モネーの回想録も大変参考になった。

ジャン・モネ―回想録ジャン・モネ―回想録
著者:ジャン・オメール・マリ・ガブリエル モネ
販売元:日本関税協会
発売日:2008-12-05
おすすめ度:1.0
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大前さんの本では、EUの発端の欧州石炭鉄鋼共同体の提唱者ロベール・シューマンやEEC(欧州経済共同体)の委員長を10年間務めたジャック・ドロールなどの名前しか出てこず、ジャン・モネの名前は出てこないが、英仏独間の難しい交渉をまとめ上げた実務部隊の中心はジャン・モネである。


EU加盟国

EU加盟国は27ヶ国、通貨Euro採用国は16ヶ国だ。EU加盟国27ヶ国の人口を合計すると約5億人(アメリカは3億人)、GDPはアメリカの14兆ドルを超え、18兆ドルに達する巨大マーケットだ。

EUの加盟国拡大は次の図の通りだ。年を追うごとに加盟国が増えていくのがよくわかる。

European_Union_enlargement







出典:Wikipedia

ゴールドマンサックスはじめ、アナリストの中には、21世紀はBRICsの時代だとか、米中2大国の時代とか予想する人が多いが、大前さんの予想は異なる。

大前さんは「21世紀は超国家EUの時代になる」と予言している。

以前大前さんの「東欧チャンス」のあらすじで紹介したが、レスター・サローの"Building Wealth"では次のように書いている。

宇宙から見た場合、地球上で文化が発達し、裕福で教育水準が高い人が多く住んでいる最も魅力的な場所。それがEUだ。(筆者訳)

Building Wealth: The New Rules for Individuals, Companies, and Nations in a Knowledge-Based EconomyBuilding Wealth: The New Rules for Individuals, Companies, and Nations in a Knowledge-Based Economy
著者:Lester C. Thurow
販売元:Harper Paperbacks
発売日:2000-08-01
おすすめ度:4.5
クチコミを見る

中東欧・CISの中では資源と農業生産のウクライナと、低賃金で良質な労働力が確保できるルーマニア、一律10%のフラットタックスを導入したブルガリアが有望だ。

EUはこれからも東方展開を続け、2012年プーチンが大統領に復帰して2回目の大統領を退任する2020年頃にロシアもEUに加盟すると大前さんは予想する。

EUのいわば「秘密兵器」はトルコだ。トルコはもう20年以上も加盟交渉を続けてきたが、まだ加盟が決定していない。トルコは徴兵制があり、NATOでも2番目に大きい軍隊の規模で、アメリカもトルコのEU加盟を後押ししている。

トルコについては「世界一の親日国トルコ」という本を読んだので、今度あらすじを紹介する。筆者のピッツバーグ時代の隣人にはトルコ人でアメリカンフットボールのピッツバーグスティーラーズの元スタープレーヤーも居た。もっと早くトルコのことを知っておくべきだったと反省することしきりである。


小国や発展途上国も輝いている超国家

初めてのEU大統領には、ベルギーの元首相ヘルマン・ファン・ロンパウが就任した。大前さんの予想は、イギリスのトニー・ブレアかドイツのメルケルだったが、予想は外れている。

ベルギーもどちらかというと小国だ。小国が輝いている超国家、それがEUだ。

ブルガリア、ルーマニアという賃金の低い国を加盟させることによって、生産コストの面でも中国に負けない工業生産が可能となった。EUは一つの超国家なので、物流も一元化でき、貿易は既に65%がEuro取引となっているので、為替リスクもない。

中東欧賃金比較




出典:本書188ページ

バルト3国、スロベニア(人口2百万人)やルクセンブルク(人口46万人)の例もある通り、EU加盟は小国の繁栄を後押しする。昔のような「一定の大きさがないと独自の通貨や軍隊が持てず。国として成り立たない」という観念はEU誕生により消滅した。EUがセーフティネットを提供するので、通貨も大きな軍隊もない小国でも列国に伍することができるのだ。


地域国家論

大前さんは以前から英語で論文を書き、「地域国家論」、「ボーダレス・ワールド」を提唱しているが、現在のEUは大前さんの地域国家論が現実化した存在だ。

地域国家論―新しい繁栄を求めて地域国家論―新しい繁栄を求めて
著者:大前 研一
販売元:講談社
発売日:1995-03
おすすめ度:4.5
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ボーダレス・ワールド (新潮文庫)
著者:大前 研一
販売元:新潮社
発売日:1994-04
おすすめ度:5.0
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大前さんは、この地域国家論がEUで実現したことに気をよくして、AU(イスラエルとパレスチナまで含めたアラブユニオン)、中国・台湾と周辺諸国の中華ユニオン、インド・パキスタン・バングラデシュ・スリランカのインドユニオンもアイデアとして提唱している。

インドの本当の敵は国内の階級対立で、国内をまとめるために仮想敵国のパキスタンが必要なのだという。パキスタンも同様の事情がある。

このように他の地域でも横展開の可能性があり、その意味でもEUには是非成功して欲しいと思っていると大前さんは語る。


通貨ユーロの強さ

ユーロは加盟国が財政赤字はGDPの3%以下とかの厳しい財政規律を守っているから、ドル・円・ポンドなどに対して今後強くなっていくだろう。

実際、政治が関係する外貨準備はまだドルが6割、ユーロが26%だが、私企業である主要国の銀行の海外資産残高では既にユーロがドルと並んで40%を占めている。

さらに国際債券の発行高ではユーロが48%、ドルが36%を既にユーロがドルを上回っている。長期投資家は通貨安定を好むので、財政規律の厳しいユーロが人気がある。

ユーロ採用は「行きはよいよい、帰りはこわい」だ。

たとえばイタリアなどがリラに戻ろうとしても、今は通貨の独自発行権がないので、事実上戻れない。加えてユーロから離脱するような弱い通貨は、投機資金の食い物にされるおそれがある。

イギリスはユーロを採用していないが、大前さんはイギリスにとってユーロ不加盟は自国の産業の競争力を弱め、長期的にはマイナスになると見ている。

日銀の福井前総裁の最大の功績は、アメリカべったりの小泉政権時代にもかかわらず日本の外貨準備を誰にも知られないままにユーロ30%に押し上げていたこと。誰もユーロシフトを考える前に日本がやっていたのだ。

ユーロ創設にあたっては西ドイツが犠牲を引き受けた。ドイツ国民の納めたユーロ税が、ギリシャやポルトガルなどの経済発展が遅れていた国への補助金として交付され、経済発展が進んだ。

いわば「ノブリス・オブリージュ」をドイツが引き受けたのだ。アジアにしろどこにしろ共通通貨を創る時には、必ず中心の国が犠牲を強いられる。日本はその覚悟があるのかと?


EUの国際化

EUの共通語は英語で、EUの工業規格や国際会計基準(IFRS)が世界ルールになってくる。

ロイヤル・ダッチ・シェルの会長はノキア会長のヨルマ・オリラが兼務していたり、BPの会長はスウェーデンのエリクソンの元会長というように、人材も急速にオールEU化している。


日本企業の成功例

日本企業の成功例としては、50年以上も前にインドに進出していたことでも判るとおり、国際化が進んでいる旭硝子、世界敵なしのYKK、ワイヤーハーネスの矢崎総業、ディーゼルエンジンの微粒子除去炭化珪素フィルターでヨーロッパの圧倒的シェアを持つイビデン、有害物質不使用のエアコンでヨーロッパのスプリットエアコンの6割のシェアーを持つダイキンなどの日本メーカーが挙げられてる。

日本企業は今までの国別の支社制度をやめ、全EUという"United States of Euroland"という見方が必要で、全EUの中で生産コストが安いなど、メリットのある国に生産拠点を移すべきだと。


ウクライナの魅力

強い円でウクライナなどの資源を買えと大前さんは檄を飛ばす。ウクライナの鉄鋼メーカーは老朽した設備を動かしているが、ミッタルのように既に進出している外資もある。鉄鉱石埋蔵量は世界NO.1なので、日本企業がテコ入れすれば、見違えるように良くなるはずだと。ウクライナにはJT、いすゞ自動車、矢崎総業など進出日本企業は数えるほどしかない。

もちろん肥沃な土地を使った農業生産は大きなポテンシャルがある。

先日のNHKスペシャルの「世界農地争奪戦」でも取り上げられていた通りだ。最近は韓国が各国で農地買収を拡大しているのが印象的な番組だった。

世界農地争奪戦








情報産業もエンジニアのレベルが高く、IT系のエンジニアでも賃金は7−8万円と安い。


日本ができない「したたかな外交」

2008年にウクライナへの投資引き上げが起こり、通貨グルブナが50%以上も暴落した時にIMFが1,800億円の融資を行ってウクライナの経済危機を救った。

しかしこの資金の財源は日本の拠出した10兆円だ。

韓国の通貨危機の時のも同じ事が起こった。IMFを経由せず、日本が直接韓国やウクライナに援助を行っていたら、日本の国際的地位も全然違っただろう。

人のふんどしでもなんでも使うというより、同じ金を出すなら最大の効果を目指すという「したたかな外交」の姿勢が欠落している。

日本外交の最大の失敗は湾岸戦争の時の130億ドルの援助が全くクウェートなどに評価されなかったことだ。

これを題材にした手嶋龍一さんの小説もある。

外交敗戦―130億ドルは砂に消えた (新潮文庫)外交敗戦―130億ドルは砂に消えた (新潮文庫)
著者:手嶋 龍一
販売元:新潮社
発売日:2006-06
おすすめ度:4.0
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EUのリスク

EUのアキレス腱はエネルギー供給をロシアに頼っていること。ただお互いもちつもたれつなので、ロシアもムチャはできない。エネルギーではアラブよりはロシアの方が信頼できるというのがヨーロッパ人の本音だという。

ちなみにロシアの天然ガス販売価格は4段階あるという。

最安値はCIS諸国向け、次がウクライナとベラルーシ向け、その次がバルト3国向け、そして西欧向け=国際市場価格だ。ロシアの意向で価格は決定されており、バルト3国の様にEU入りすると、国際価格とほぼ同等の価格まで引き上げられる。


日本でも戦略的な税制を

ヨーロッパの法人税は20%が標準となっており、税率の高い北欧諸国もホールディングカンパニーは無税というような抜け道を用意している。

ロシアのフラットタックスは有名だし、他の国でもフラットタックスを導入する国は増えている。

相続税の廃止は世界的な傾向だが、日本だけが逆行している。既にイタリア、カナダ、オーストラリアは相続税が廃止され、アメリカ、イギリス、フランスなどでも廃止の方向で検討が進んでいる。

日本も相続税を廃止し、相続税を支払うために金持ちが相続した土地を売ったり、消費を削るというような経済を縮小させる税制ではなく、金持ちが大手を振って金を消費に回すということが、経済発展のためには効果的だろう。

日本と世界各国のGDPは差がどんどん開いている。

主要地域のGDP予想





出典:本書295ページ


日本人がEUより学ぶべきもの

エピローグで、大前さんは日本がEUにまず学ぶべきものは、ライフスタイルだという。

イタリアでは夏休みは2ヶ月で、ドイツでも1ヶ月が普通だ。教育分野でもフィンランドなどは、答えを覚えるやり方でなく、答えを見つける方法を工夫する21世紀型教育に脱皮している。

たしかにEUからはまだまだ学ぶものがあると思う。BRICsのみに目を向けるのではなく、EUにも注目すべきであることがよくわかる。


いつもながら大変示唆に富み。参考になる本である。是非一読をおすすめする。


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2009年04月12日

さらばアメリカ 大前研一氏のMixed feeling

さらばアメリカさらばアメリカ
著者:大前 研一
販売元:小学館
発売日:2009-02-07
おすすめ度:4.0
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ブッシュ前政権末期の秩序のない経済運営やモラルハザードを様々な角度で批判しながらも、ケネディ・クリントンをしのぐ演説のうまいバラク・オバマ大統領による「第2のアポロ計画」に期待する大前研一氏の複雑な心境(Mixed feeling)を書いた本。


四権分立のブッシュ政権末期

大前さんはブッシュ政権末期のポールソン財務長官時代のアメリカは、建国以来例のない「四権分立」となっていたと語る。

選挙で選ばれた訳でもないポールソン財務長官が、「金融安定化法」なる打ち出の小槌を編み出し、不良債権買い取りを目的としていた7,000億ドルもの資金を金融機関への資本注入に使った。

さらに個人的な好き嫌いで、ベア・スターンズを救済しながらも、長年のライバルのリーマンを破綻させ、以前の上司のルービン元財務長官のいるシティを助けるという超法規的措置を議会の承認もなく決めてしまった。

オバマ政権の経済運営にも大前さんの見方は悲観的だという。

ガイトナー新財務長官は、ポールソン前財務長官、バーナンキFRB議長とともに”経済失敗三銃士”と呼ばれていた人物で、このうち二人が経済運営の主役として残っている。

ガイトナー財務長官は1988年に日本の米国大使館に駐在していたことから「日本の轍は踏まない」が口癖だが、同じ穴のムジナが後釜にすわるという情実以外の何物でもない人事を見る限り、新政権の経済政策には大きな期待は持てないと大前さんは手厳しい。

シティの救済は損失の九割を国民負担というやり方だし、GMとフォードはダブルノックアウトになる恐れがあり、クレジットカード社会崩壊の危険もある。

さらに第二のサブプライム問題となりうるFHA(米連邦住宅局)保証ローンの焦げ付きという危険性も浮上しており、モラルハザードのオンパレードで、アメリカの”失われた10年”の始まりだと大前さんは語る。


寛容なアメリカは過去のこと

第二次世界大戦後のアメリカは正義と自由の味方の「善玉」で、外国人に寛容な国だった。

ところが9.11以降”ホームランド・セキュリティ”という名の下に石油と防衛産業に強いテキサスマフィアの意向で国が動いた。

彼らの利権を守るため産油国防衛には強い関心を示すが、日本や韓国・台湾の防衛の優先順位は低下しており、米軍の規模も除々に縮小されている。

アメリカジャーナリズムも9.11以来政治的に政府寄りに変質し、もはや世界の支持を失っているという。


それでもアメリカに期待する

アメリカの恐慌回避策として、大前さんはアメリカの大学の競争力に期待している。

大前さんはMITで原子力の研究で博士号を取っており、昔の寛大で親切なアメリカに世話になったという思いがあるという。

実際アメリカの高等教育の競争力は依然として世界トップで、大学の評価では世界のトップ100のうち60をアメリカの大学が占める。

アメリカの競争力の源泉は大学で、世界中から優れた人材を集め、かつ卒業後アメリカで雇用するという他の国にはない産学共同体制ができている。

もう一つの期待はアメリカのIT産業の競争力で、特にGoogleとGoogleが買収したYouTubeに注目しているという。

Googleは楽天などの出店料を取る”間接出会い系”ビジネスモデルでなく、出店料のない”直接出会い系”なのでありとあらゆる分野の買い手と売り手を結びつける可能性を持っているという。

そしてGoogleの検索とYouTubeの映像を組み合わせれば”サイバーコンシェルジュ”として”右脳型賞品”まで売れる様々なビジネスが展開できると予測している。

オバマ政権が打ち出すべき指標として次を上げている。

1.すべてのアメリカ人よ、今の2倍働け  
  オバマ政権は貧者優遇を実現するだろうが、働かざる者食うべからずの大原則を確認しないと、単に人気取りに終わってしまう。

2.「地球破壊者との戦争」こそ”新たな冷戦”  
  すでに”グリーン・ニューディール政策”などをぶち上げているが、ケネディ大統領のアポロ計画のように環境問題との戦いを本格的に推し進めていけば地球規模の連帯ともつながり、世界と共存できるアメリカへ転換できるだろう。

オバマ大統領には期待も込めて次を復活の条件としてアドバイスしたいと語る。

1.世界に対して謝る ー イラク侵攻と金融危機を謝る

2.世界の一員となる ー 国連に代わる新世界構想が必要

3.戦争と決別する ー アメリカ版憲法第九条を提唱する


日本の選択肢:「属国か独立か」

大前さんは日本の選択肢は2つしかないと語る。それはアメリカの属国になるかならないかだけだと。それ以外のオプションは次の三つだ。

1.中国との関係強化

2.EUとの協調

3.ASEANとの協調

アメリカは、これからEUとの「アトランティックの戦い」(ドルとユーロの世界の基準通貨をめぐっての戦い)を続けなければ、ドルを基準通貨としてきた今までの経済の基盤が崩れてしまう。だからEUとは基準通貨を巡って戦わなければならない。

その戦いにアメリカは疲れてくるだろうから、日本はEU,ASEAN,中国の順で関係を強化し10〜20年の長期戦略を進めていけば、20年後にはアメリカとの関係もイコールパートナーに近づいていくだろうと。

これが大前さんの日本「独立」のシナリオである。

本書のタイトルは「さらばアメリカ」だが、英語のサブタイトルは"So long America! until you come back to yourself"となっている。

オバマのアメリカにケネディのアポロ計画なみのリーダーシップを期待しながらも、ビッグ3救済や金融、雇用の問題に足を取られると地球規模の問題に着手すらできないことになる。

いつもの大前さんの鋭い切り口がない様な印象があるので、その意味でこのあらすじのタイトルは「大前研一氏のMixed feeling」としたが、複雑な思いを込めてのオバマ大統領への期待は誰しも持っているところだろう。

筆者もこのブログでオバマ氏の著作を紹介し、オバマ氏には大統領になる前から大きな期待を持っている。

是非ケネディの様な暗殺という悲劇が起こらずに、大きな仕事をやり遂げてほしいものだ。



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2009年04月01日

マネー力 大前研一氏の「株式・資産形成講座」

マネー力 (PHPビジネス新書)マネー力 (PHPビジネス新書)
著者:大前 研一
販売元:PHP研究所
発売日:2009-01-17
おすすめ度:3.5
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世界金融危機以降、世界は大変だが、日本はチャンス!と呼びかける大前研一氏の近著。

「いよいよ日本の出番」と、まるで長谷川慶太郎さんの本の様だ。

千載一遇の大チャンス千載一遇の大チャンス
著者:長谷川 慶太郎
販売元:講談社インターナショナル
発売日:2008-12-18
おすすめ度:4.0
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それでも、「平成恐慌」はありません。―これが、世界経済再生のシナリオ (WAC BUNKO)それでも、「平成恐慌」はありません。―これが、世界経済再生のシナリオ (WAC BUNKO)
著者:長谷川 慶太郎
販売元:ワック
発売日:2009-03
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筆者もグリーンテクノロジーなどの分野で、日本の出番だと思うが、サブプライムローン問題ではほぼ無傷の日本が、昨年11月以降製造業中心に、これほど大きなダメージを受けるとは予想していなかった。

最も裾野の広い自動車業界が最もダメージを受けている。

自動車の買い換えを1年くらいのばしても、今の日本車なら全く問題ない。”合成の誤謬”で、みんなが買い換え時期を延ばすと理論的には1年分の国内需要がなくなる。この消費者の買い換え意識の減退が、現在の急激な自動車生産の落ち込みの原因の一つだと思う。

それと日米での自動車リースの普及度の差が大きい。

アメリカでは法人はほぼ100%リース、個人でもリースが大半なので、3年前後のリースの期限がきたらほとんどが新車に乗り換える。そのためアメリカの自動車業界の方が需要の落ち込みが緩やかとなる。

(筆者は二度ピッツバーグに駐在したが、最初の駐在時は家内の車も含めてローンで2台購入したが、2度めの駐在では2台ともリースにした。リースなら頭金20万円程度で車が手に入るし、帰国するときはリースを解約すれば良いので、車を処分するのもラクだ。)

自動車業界のリース比率の差が、今回日米の自動車生産の落ち込みの厳しさの差となっていると思う。

中国の自動車業界は輸出が少なく内需中心なので、今でも生産量を増やしており、国としても中国は依然として6−7%の成長を維持している。先進国が軒並みマイナス成長になっているので、差が急速に縮まっており、3年後は中国の経済規模は日本を抜くと大前さんは予想している。

この本は、「大前流心理経済学」の続編のような内容で、資産運用力をつけるには今がチャンスと呼びかけている。

大前流心理経済学 貯めるな使え!大前流心理経済学 貯めるな使え!
著者:大前 研一
販売元:講談社
発売日:2007-11-09
おすすめ度:3.5
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いくつか参考になった点を紹介しておく。


世界のホームレスマネーは3,000兆円の規模

2008年の金融危機以降の株価下落、石油などコモディティ価格下落、不動産価格下落により、世界の余剰資金の規模は半分に減ったが、それでも約3,000兆円が行き場を求めてさまよっている。

マネー力を強化するためには、このホームレスマネーの動きを読めるようにすることが必要だと大前氏は語る。

日本にいては、ダイナミックなお金の流れはわからない。世界を足で歩けという。

ホームレスマネーは、先進国のファンド、オイルマネー、中国マネーの3種類あり、中国マネーのおかげで香港とマカオは未曾有の活況を呈していた。

中国の金持ちのスケール、中国のマーケットの大きさ(毎月携帯電話の新規契約者が5百万人ずつ増える!)はとてつもないものがある。

マネー力をつけるためには、中国マネーは体験しておく必要があると大前氏は語る。

中国の外にインドやロシアも見逃せない。大前氏は「ロシア・ショック」でも書いているが、オイルマネーとプーチンのフラット・タックス改革で、ロシアの時代は必ず来ると予想する。

日本だけ見ているとこれからはせいぜい1〜2%の成長がやっとだ。15%業績をのばすと宣言したGEのイメルト会長のように、15%の成長を遂げている国の事業を伸ばすのだ。

GEは向こう3年間でインドで現在の10倍の5万人体制を敷くと宣言している。

逆に大前さんはアメリカには関心がなくなったという。2007年には一度もアメリカを訪問しなかったが、こんな事は初めてだと。家も6軒所有していたが、すべて売却したという。

「ブッシュ前大統領がいかにアメリカを、自己中心的で世界と没交渉のつまらない国にしたかは後世の歴史家が証明してくれることだろう」と辛辣だ。


自分の資産は自分で守れ!

大前さんは日本の国は将棋で言えば”詰んでいる”という。年金とかで国になんとかしてもらおうとなどと、ゆめゆめ思わないことだと。

2055年の人口動態予測が載っている。

2055年人口動態日本の人口ピラミッドが年々変化していく様子国立社会保障・人口問題研究所がホームページのトップに公開しているので、紹介しておく。

ピラミッド型から逆ピラミッド型に変化していく様がスライドショーで紹介されている。


ドルからユーロへの基軸通貨シフト

アメリカはドルの衰退で、”ブラジル化”すると大前氏は予想する。ドルとユーロのアトランティックの戦いに敗れると、アメリカ人も自国通貨を売って、強い通貨に変えようとするだろう。これが大前さんが言う”ブラジル化”だ。

アメリカはこれには耐えられないので、ユーロとドルを統一させようとする。それが大前さんの予想する仮称”ユーラー”か”ドーロ”の誕生だ。

こうなると世界の通貨の85%は米欧統一通貨となる。円とかウォンとかの弱小通貨は生き延びられず、結局世界統一通貨の”グロボ”とかになるだろうと。

これは大前さんの仮説だが、こういうシナリオを持っていれば、たとえドルが大暴落してもパニックになることはないと語る。


マネー脳の鍛え方

マネー脳を鍛えるにはITと英語は不可欠だ。世界中の国が競って英語を勉強している。最近では特にドイツの英語力向上がめざましいという。

大前さんは韓国の2つの大学で名誉・客員教授をやっているが、韓国の大学では1997年の通貨危機以来、英語が話せる国際派人材の育成ということで、世界中から講師を招き、当たり前のように英語の授業をしているという。

2008年1月に教育再生会議の最終報告書が出されたが、”ニートやフリーダーをなんとかしよう”とか、”いじめをなくそう”とか、教育の本質とは関係ない事ばかりが書かれていて、肝心の世界で通用する人材をこうやって教育するという内容は見あたらなかったという。

ニートやフリーターを減らしても、日本の経済力は上がらない。

それよりも「世界中の人とコミュニケーションが可能で、どの国の人に対してもリーダーシップを発揮することができ、なおかつ余人をもって代え難いスキルをもつ人材の育成」をするべきだと大前氏は語る。

筆者も最近のマスコミは、弱者の味方となって企業の”派遣切り”を断罪しているが、そもそも派遣労働者を拡大してきたのは、政府の政策であったことが忘れられているのではないかと思う。

企業の競争力を高め、労働者も希望するなら勤務時間に拘束されず、自由に働けるしくみが派遣労働者だったはずだ。

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出展:「連合」資料

大前さんは”ストリート・スマート”だけが生き残ると語る。給料をもらったらすぐに強い通貨に変えるかつてのブラジルとか、ルーブルをドルやユーロに換えるロシアのタクシー運転手など、生活の中で学んで生きていくのだ。

筆者は1978年から1980年まで年間のインフレ率が100%を超えるアルゼンチンで研修生として働いていたが、給料を受け取ったらすぐにドルやドイツマルク、最後の1年間は金貨に換えていた。

ちょうどこのころ金が暴騰し、1オンス300ドル台から、一挙に800ドルを超え、筆者が帰国前に処分したときは300ドル以下で買った金貨が、640ドルまで上がっていた。

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出展:Wikipedia

金貨は8枚程度しか持っていなかったが、まさに”ストリート・スマート”を体験できた。

大前さんは日本人は国を信じる危険に目覚めよ、マネー脳は中国人に学べと説く。現在中国では資産を自由に海外に持ち出すことは法律上できないので、家族の一人に外国籍を取らせ、その人を通して海外投資するのだと。

その裏には外国居住の中国人を増やしてロビー活動に使おうという中国政府のしたたかな計算があるという。

日本円や日本政府に義理だてする必要などない。学ぶべきは中国人のしたたかさである。


大前健一の株式・資産形成講座

大前さんは2006年からビジネス・ブレークスルー大学院大学オープンカレッジで、「大前健一の株式・資産形成講座」という講座を開講している。自ら判断できる力を養うことが目的だ。

大前さんは日本人のマネー力は幼稚園児レベルだという。ほとんどの日本人が額に汗して働き、稼いだお金は銀行やゆうちょ銀行に預けておくだけだ。

”効率よくお金にお金を稼がせる”ことを考えていないと。

お金にお金を稼がせるるというのは、「アメリカの高校生が学ぶ経済学」でも高校生が学ぶことで、いまだにベストセラーとなっているロバート・キヨサキの「金持ち父さん、貧乏父さん」が主張するところでもある。

アメリカの高校生が学ぶ経済学 原理から実践へアメリカの高校生が学ぶ経済学 原理から実践へ
著者:ゲーリーE.クレイトン
販売元:WAVE出版
発売日:2005-09-15
おすすめ度:4.0
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金持ち父さん貧乏父さん金持ち父さん貧乏父さん
著者:ロバート キヨサキ
販売元:筑摩書房
発売日:2000-11-09
おすすめ度:4.0
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家を買うか借りるかもマネー力があれば迷わない、資産形成は長期運用、分散投資が基本、専門家に聞くのが一番、実際にやらなければ力は身に付かない、などとBBT事務局からの内容説明や、受講者の声も紹介している。

終章”いよいよ日本の出番”では、いつも通り大前さんがいくつか具体的提案をしているので、箇条書きで紹介しておく。

・このまま入ったら長期衰退

・オバマは環境戦争を始める 相手は地球環境破壊者だ 日本の環境技術の出番だ

・眠れる1500兆円を市場に誘い出す 相続税廃止で資産を老人から若者へ

 ちなみに現在相続税のない国は、スイス、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、スウェーデン、イタリア、マレーシアなどで、現在相続税廃止を検討中なのは、イギリス、フランス、ドイツなどだと。

 アメリカはかつて60%だった相続税率を2001年から段階的に下げており、2010年にはゼロとし、その後は上げていく予定だ。この2010年相続税ゼロという「ブッシュ・プラン」」がアメリカの救世主になるかもしれない。

 日本の相続税収は1兆5千億円程度で、この税収のために1,500兆円がフリーズしているのが現状なのであると。

・東京をマンハッタン化せよ 東京のフロア数は山手線の内側でも平均2.6階 電線地下埋設と高層化

・「戦略事業単位」としての道州制

・チャンスを生かすには意志がいる 若い人の国を変えようという意識高揚が必要

   
今回は大前さん自身のビジネスブレークスルー大学院大学講座の宣伝という色彩が強かったが、投資術初級編として参考になる内容である。

本屋で手にとってみることをおすすめする。


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2008年12月25日

サラリーマン再起動マニュアル 自分を差別化する「再起動」

サラリーマン「再起動」マニュアルサラリーマン「再起動」マニュアル
著者:大前 研一
小学館(2008-09-29)
販売元:Amazon.co.jp
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大前研一氏の自分を差別化する「再起動」のすすめ。

週刊ポストでの連載コラムを集めたものだが、次の目次のテーマに編集されており、ばらばらのコラムを集めたという印象はない。

イントロダクション 志のあるサラリーマンは、きつい仕事を厭わない

第1章 {現状認識}なぜ今「再起動」が必要か?

第2章 {基礎編} 「再起動」のための準備運動

第3章 {実践編} 「中年総合力」をつける

第4章{事業分析編}”新大陸エクセレントカンパニー”の条件

第5章 {メディア編} 「ウェブ2.0」時代のシー・チェンジ

エピローグ     新大陸の”メシの種”はここにある


最初に2008年春の日本電産永守社長の「休みたいならやめればいい」という物議をかもした発言が紹介されている。

「日本電産では創業から35年一度も人員整理はない」と雇用の維持が優先される考えを示した上で、「うちはまだ三,四合目。ワークライフバランスでゆっくりしたい人は他の会社へ行ったらいい」という発言だ。

「連合」などがこの発言に噛み付いたというが、大前さんはなぜこの発言が非難されるのかさっぱりわからないと語る。

永守さんの「人を動かす人になれ!」は、このブログでも紹介しているが、サラリーマン経営者にはないバイタリティある経営者だ。大前さんも講演をしばしばお願いしており、アンケートを取ると常に「もう一度話を聞きたい経営者」の上位にいるという。

永守さんは多くの会社を買収して、経営再建を実現しているが、永守流経営を導入することで最初はどこの会社も仕事は厳しくなるが、結果的に利益が上がり、それを社員に還元して給料を上げることで社員みんなから感謝されているという。

しかし仕事がきついところが、連合とかマスコミの非難を浴びている。

これが現代の風潮である。

今の日本の社会の中核である日本の30代ー40代の人口は男女あわせて3,500万人くらいいる。しかし大前さんはトラクション(駆動力)を感じないと語る。現状に危機感を抱いて戦闘意欲を持っている人は、15万人程度ではないかと。

「トラクション」という言葉を使う人は初めてだが、まさに適切な言葉だと思う。

バブル崩壊後日本はぬるま湯につかっていたせいで政府・企業・個人もたるんでおり、「フリーズ」状態だ。だから志あるサラリーマンにはチャンスであり、「再起動」してグローバルに通用する人材になれば世界中の企業で活躍できるのだと。

21世紀は見えない新大陸、バーチャルな世界での新しい経済が出現した。企業も個人もこの新大陸で生き残れなければ明日はない。そのための戦闘準備として、大前さんは様々な提案をしている。

特に印象に残ったものをいくつか紹介しておく。


できる人の共通点は「ハングリーでリスクテイカー」

マッキンゼー風採用は、面接官全員「○」でも不採用で、誰か一人でも「◎」(絶対に採用すべし)をつけていれば、他が全員「×」でも採用になるという。

大前さん自身が受けた採用面接でも一人だけ「◎」で、他は「×」や判定不能だったという。

大前さん自身が「◎」をつけて採用した人はディー・エヌ・エー南場智子社長など、マッキンゼーを卒業して成功している人が多い。

このブログでも紹介しているIBMのルイス・ガースナー元会長もそうだが、彼らはみなハングリーでリスクテイカーだという。

彼らは安住の地を見つけることよりも、死ぬまで自分の可能性をためすタイプであり、たとえ失敗しても「面白かった」といえる人生を求めている。

こういったタイプの人に安藤忠雄さん、デルのマイケル・デル会長などがいる。

これからの日本企業に必要な人は、構想力があり、将来の絵をはっきり描いて実行できる人である。事業構想が必要なのは5年後のライフスタイル像を考えて仕事をするためだ。

大前さんはブルーレイディスクには5年後の姿は見えないと語る。シネコンは生き残るが、家庭ではホームサーバーが5年後は主流となるだろうと。

構想力の話をするときに、大前さんはウォルトディズニーがフロリダのEPCOTセンター構想を説明するビデオを見せるという。そのビデオがYouTubeで見られるので、紹介しておく。

24分強と長いが、ウォルト・ディズニーが楽しそうに構想を説明している。

筆者が子どもの頃は、ウォルト・ディズニーは存命で、毎週金曜8時のディズニーアワーの初めと終わりにウォルト・ディズニー自身が登場して、ストーリーを紹介していたことを思い出す。




「再起動」のための準備運動

「再起動」のためには、新大陸で生き残る3つのスキルのFT(財務力),IT,LT(語学力)をつける必要がある。

時間のリストラをして「再起動」のための時間をつくり、30−40代が弱い英語力をTOEIC860点以上にするためのアイデアを紹介している。

海外旅行は「脳の筋トレ」なので、インターネットで事前調査を十分行ってから訪問することをすすめている。ただし先入観を持たずに現地を見ることが重要で、これにより見えなかったものも見えてくるのだ。

住居費、教育費、マイカーの三種のコストを削減する方法も提案している。


マッキンゼーの人材育成グリッド

マッキンゼーでは人材育成用に、横軸に勤続年数、縦軸に要求されるスキルを書いて年毎に育成していく人材育成グリッドを書いて管理するという。

たとえば縦軸にはコミュニケーション能力、プレゼンテーション能力、交渉力、チームをマネージする能力、部下を育てる能力などだ。

そして入社時に5年後にも在籍する可能性は20%であることを告げられるという。毎年20%の人員がカットされるのだ。


「中年総合力」をつける

この本の中心テーマである「再起動」のために、大前さんは「中年総合力」をつけろと提案する。

「インプット力」ではGoogleの時価総額が17兆円になったことを紹介し、インプット力の重要性を語る。

大前さんの3つのインプット術は1.ネットに掲載されている新聞記事のRSSによる収集、2.BBT大学院大学のクラスディスカッションなどを通じての様々な人からのインプット、3.自分の足で歩き回るインプット、MBWA(=Management By Walking Around)である。

できる人になるためには、アンテナを全方位に張っておいて、頭の中にワインセラーのような情報の整理だなを構築するのだ。これが出来る人は、「おぬし、やるのう」という感じだと。

頭の中のワインセラーとは面白い表現で、言いえて妙である。

「中年総合力」とはゼネラリスト能力であり、大前さんはT型人間、あるいはΠ(パイ)型人間となれと語る。つまり一本あるいは二本深い専門分野と、広いゼネラリストとしての知識の総合力だ。

世の中の森羅万象に興味を持って常に勉強する努力が重要だ。

そして自分の前後15歳の年代を研究する。プラス15歳はなりたくないモデル、マイナス15歳は新大陸時代の若者とつきあい、いかに戦力化していくかを考えるためだ。


発想力向上には右脳を刺激せよ

大前さんはいつも進行方向に向かって左側の窓際の席に座って、窓の外の光が左目に入って右脳を刺激して、良いアイデアが浮かぶのだと。

今までこんなことを意識したことがなかったが、これからは左目で見ることを意識してやってみようと思う。


新大陸エクセレントカンパニー

新大陸エクセレントカンパニーとして、多くの会社の例が紹介されている。

IBMのパソコン事業のレノボへの売却は象徴的だという。

コモディティ化したビジネスにはうまみはない。既存のものを"do more better"(改善)するのでなく、現状を否定してブレークスルーを見つける能力が求められているのだと。

1.デル 
  デルを訪問して大前さんは驚いたという。会社のためにシステムがあるのではなく、システムの上に会社がある。それらはCRMSCMERPだ。カスタマーサービスオペレーターが苦情受付のみならず、注文受付そして発注まで行うすべての贅肉をそぎ落としたシステムである。

2.シスコ
  シスコ製品の故障は7−8割がソフトウェアなので、オンラインで自動診断して、ネット経由で修理してしまうシステムをつくっている。これによりサービス要員は最小限に抑えられている。

他も贅肉をそぎ落としており、14,000人の従業員に対し、総務部は数人で、経費精算などもアメックスにアウトソーシングしているという。

3.スペインのZARAブランドのインディテックス
  本社の隣の工場と倉庫で、世界2,000店向けに注文を受け付けたら48時間以内に出荷する体制をとっているので、店の在庫は持たなくて良い。

新製品は2週間で店まで届けるので、その時点で流行しそうな商品、流行している商品をつくればよいので、流行を予測する必要がないという。

  アパレル界のデルと大前さんは呼ぶ。これに比べれば中国での大量生産が主体のユニクロはまだWeb 1.0企業だと。

4.中堅スーパーのヤオコー、イズミ、ヨークベニマルなど
  経営者の現場感覚がすぐれており、消費者の金の使い道をするどくキャッチし、それに応じて地域別、店舗別に商品をクリエートする「生活提案力」をつけ、高収益を達成している。

  世界の流通業では、ウォルマートとカルフールが電子調達に熱心で、世界各地から直接仕入れている。

電子調達を駆使すれば製品の仕入れコストは半額以下になることもあるが、見えない相手から買うことは信用情報やパフォーマンスで相当のノウハウを持っていないとできない。

5.iPodもWiiも独占製造する台湾の「鴻海=ホンハイ」
  世界最大のEMS「鴻海」はiPod、Wii、iPhone、パソコンから携帯電話まで話題の商品をみんなつくっている。

鴻海は金型技術に優れ、金型製造設備と技術者を大量に社内に保有して24時間体制で運用している。自社で設計から製造まで手がけ、客先がコンセプトを持ち込めば、普通なら数ヶ月掛かる試作品を1週間で仕上げてくるという。

台湾企業は日本、台湾、韓国、中国を知り尽くし、日本語、英語、そして中国語ができるので電機業界では世界最強だ。情報家電では日本が材料の2/3、製造設備の1/2、基幹部品も1/3抑えているので、日本企業を知る必要があり、まだまだ中国企業は台湾企業には追いつけないという。

6.パナソニックは2007年4月から3万人が在宅勤務
  方向性としては良いが、情報セキュリティ・個人情報保護の問題が指摘されている。この金融危機後は、在宅勤務がどうなるか注目されるところである。

7.ヨーロッパのライアンエアー
  ヨーロッパのライアンエアーは予約はネットのみ、着陸料の高い空港は避ける、預ける荷物は15キロまで、超過分は1キロ当たり8ユーロといった徹底的なコスト削減により、最安値は税金・諸費用除いて片道1ポンド(地下鉄よりも安い)を実現しているという。


ウェブ2.0時代のシー・チェンジ

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シー・チェンジとはホーン岬を抜けて、荒れた大西洋から静かな太平洋に出たマゼランが叫んだ言葉ではないかと大前さんは言う。同じ海だが、全く異なる。これをシー・チェンジと呼ぶ。

ウェブ2.0も使っている機器は同じだが、利用法・ボリュームが異なる。

大前さんはデジタル化でテレビ局は死を急いだと語る。民放の広告費依存ビジネスが崩壊する可能性が高いからだ。

米国ではTiVoが普及し、2割以上の家庭が使っているという。CMスキップ機能があり、HDDに録画するので、月額13ドル弱でいつでも見たいときに見られるのだ。

デジタル時代にテレビが生き残る形はGyaoのような広告モデルか、オンデマンドの有料モデルだが、無料のYouTubeに放送直後から紅白歌合戦のビデオがアップされる時代なので、デジタル時代に有料化で大きく儲けることは難しい。

NHKオンデマンドも放送翌日から最大10日間配信するというが、放送直後からYouTubeに載るので、まったく意味がない。

日本のデジタル化投資の1兆円、総工費500億円の東京スカイツリーもYouTubeの前に無用の長物、バベルの塔となるだろうと大前さんは予測している

56社が参加し、300億円を掛ける日の丸検索エンジン(情報大航海プロジェクトは笑止千万であると。56社もいると身動きがとれないし、「B29を竹やりで落とす」ようなものであると酷評している。だいたい官民相乗りプロジェクトは死屍累々なのだと。


あらゆる企業は広告宣伝戦略を変えよ

テレビ、ラジオ、新聞など既存媒体広告の費用対効果は悪い。

ネット広告も検索上位に打つ検索連動型広告や成果報酬型ならともかく、バナー広告などのクリック率は落ちてきているという。

このブログでもサイバーエージェントの藤田晋さんの本を紹介しているが、大前さんはこのままでは、伝統的な広告代理店の業務をネット化しただけのネット広告代理店の将来はないだろうと予測する。

ウェブ2.0時代では、すべての会社が自分でネットの世界からSEO等でお客さんを見つけてくる努力をしなければならない。

売上げを伸ばすには、過去に自分の会社を利用したお客さんをデータベース化して、属性を分析し、対象を絞り込んでナローキャスティング、ポイント・キャスティングすればよいのだと。

グーグルはダブルクリック買収などから見ても広告ビジネスを独占することを狙っていると思われ、ショッピングもグーグルチェックアウトを利用してAPIを公開して拡大する戦略のようだ。

検索サイトがショッピングサイトになることを目指しているのだ。これに対抗してアマゾンが総合サイト化を目指しているが、その狙いはグーグル対策だ。

米国では楽天のようなモールはなく、個別マーチャントのサイトが巨大化している。アマゾンも様々な商品のポータルを作って、巨大化することでモール化しようとしている。


新大陸のメシの種

新大陸のメシの種として、健康な高齢者向けのビジネス、一人暮らしの孤独(3割が独身)を癒すビジネス、死にまつわる産業などが伸びることを予測している。

クルマも高級ブランドにも興味のない「物欲喪失世代」にモノを売るのは至難の業なので、健康な高齢者がターゲットとなってくるのだ。


アイデアの使いまわしがなく、新鮮なアイデアがとめどなく出てくるには感心する。簡単に読めるので、まずは手にとってページをめくって欲しい。


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2008年12月05日

ロシア・ショック 大前研一氏の新著 日本にとって極めて重要な国ロシア

ロシア・ショックロシア・ショック
著者:大前 研一
販売元:講談社
発売日:2008-11-11
おすすめ度:4.5
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日本人よ、今こそロシアとの新しい関係を構築せよ!と呼びかける大前研一氏の最新作。

グラフ等も多く資料としてもすぐれており、世界金融危機発生後の10月頃に書き終えた本なので内容も最新だ。

読んだ本しか買わない筆者が買った今年6冊目の本だ。

前回紹介したように発刊前に図書館で予約したので、2008年11月11日の発売の本を11月16日に手に入れ、先週読み終えた。

いま日本が最も注目すべき国はどこかと聞かれれば、大前氏は悩むことなくロシアと答えるという。これからの世界の潮流のなかで、最もインパクトを持って台頭してくるのがロシアであり、そして実は日本と最も相性が良く、関係を大事にしていかなければならない国がロシアなのだと。


大前さんのロシア原体験

ロシアは日本の面積の45倍、時差は11時間ある。人口は日本よりやや多い1億4千万人だが減少しつつある。

大前さんはMITの学生生活の最後の年、1970年にソ連時代のロシアを訪問して、それ以来40年間ロシアの変貌を見てきたという。

大前さんの最初の訪問では、ビザを持っていたにもかかわらず、シェレメチェボ国際空港の係員に空港から外にでることを禁じられ、まるで収容所のようなターミナルに閉じこめられたという。

空手のふりを見せ、係員と交渉してJALのチケットをアエロフロートのチケットに代えることで(これで係員はドルが入る)、モスクワの町に行くことができ、リムジンに案内係付きでモスクワを観光したという。

暗殺されたアンナ・ポリトコフスカヤの「ロシアン・ダイアリー」のあらすじで書いたが、筆者も1993−4年にロシアを訪問したので、シェレメチェボ国際空港はよく覚えている。

今はさすがに変わっているのではないかと思うが、そのころはシェレメチェボ国際空港をはじめ、ほとんどのロシアの空港は右ウィングと左ウィングに分かれていた。

片方が外国人とCIS国民向け、もう片方がインド(?)、キューバやアフリカなどの同盟国からの出稼ぎ労働者向けだったと思う。どちらも人でごった返していたが、出稼ぎ労働者ウィングはターミナルで寝起きしている人も多く、まるで家畜小屋だと言われていた。

そして中央部が「代議員ホール」と呼ばれる特権階級しか利用できないところで、日本企業の駐在員・出張者はそこを利用できていた。

当時は飛行機はターミナルには直づけはせず、ターミナルから飛行機までバスか歩きで行ったので、こんな風にターミナルが分けれていたのだ。

大前さんはたぶん出稼ぎウィングに押し込められたのだと思う。


ロシアは日本の最良のパートナー

ソ連が崩壊して、ロシア国民はどん底を経験したが、プーチン政権での最近の劇的な経済の復活、社会の変化には目を見張るばかりだ。

ロシアは生産量・埋蔵量ともに世界第1位の天然ガスと、世界2位の生産量の石油があり、外貨準備は潤沢で経済成長が著しい。なにより教育水準がBRICsのなかではずば抜けて高く、ITや先端技術の人材も豊富である。

エネルギー資源がなく、人材も不足している日本にとってロシアは最良のパートナーである。

柔道家のプーチンの日本好きは有名だが、一般のロシア人でも無条件に日本のことが好きだという。日本の製品があれば最優先で買い、オタク文化まで愛してくれるという。これほど無条件に日本の事を好きなのは、世界の中でロシアとインド、そしてトルコぐらいのものだと大前氏は語る。

ロシアは日本にとって極めて重要な国なのだ。


プーチンのロシア

ゴルバチョフのソ連時代からエリツィンのロシア時代まで経済成長率はずっとマイナスで、エリツィン大統領初年度の1992年には最悪のマイナス15%を記録した。

ところがプーチンが大統領代行になった1999年からプラス成長に転じ、大体6%前後の成長を続けてきた。

一つの要因は、それまで12〜30%の累進課税で年収5,000ドル以上は30%の税率だったため脱税や地下経済が盛んだったが、税率をすべて13%のフラットタックスにすることで、アングラマネーが表に出てきた。2001年、2002年には個人所得はそれぞれ約25%増加し、国家財政は好転した。

1999年に1バレル10ドル程度に下落していた原油価格が、2000年代を通じて上昇したことも大きい。原油高が経済を押し上げ、ロシアは債務国から債権国に転じ、外貨準備は急増し2008年7月末で中国、日本に次ぐ世界第3位の約6,000億ドルになっている。

プーチンは2期目になると年金改革を行い、年金額を徐々に上げたので高齢者の人気も高まり、2007年には支持率は92%という驚異的なものとなった。プーチンの後を継いだメドベージェフもプーチン人気を受け継ぎ、今年5月に政権が誕生したときの支持率は70%強だった。

支持率が高い最大の要因は、プーチンが強いロシアを復活させたからだ。

プーチンは自分でジェット戦闘機を操縦して地方に行き、柔道では5段の猛者だ。YouTubeにプーチンが山下泰裕氏と一緒に撮った柔道のプロモーションビデオが載っているので紹介しておく。



2007年グアテマラで開かれたIOC総会で、プーチンは冬季オリンピック開催をソチに招致するために流ちょうな英語とフランス語で演説を行い、冬ソナで有名な平昌(ピョンチャン)を押すライバルの韓国のノムヒョン大統領の演説とは雲泥の差だったという。

YouTubeにも収録されているが、説得力ある英語の演説はたいしたものだ。



プーチンはまだ56歳と若いので、側近のメドベージェフに4年間大統領をつとめさせた後に、再度大統領として登場し2012年から2020年まで大統領となると大前さんは予測している。


高学歴人材が最大の資産

ソ連の残した最大の遺産が人材だ。ロシアの大学以上の進学率は72%で、ブラジルや中国の20%台とは圧倒的な差がある。

人口はインドの1/8だが、ロシアはインドと同じ毎年20万人の大卒IT技術者を輩出している。

道徳教育の質も高い。松下幸之助の「道をひらく」には、ソ連の「生徒守則」に「年上のものを尊敬せよ。親のいうことをきき、手助けをし、弟妹のめんどうをみよ」と書かれていることを紹介している。

道をひらく道をひらく
著者:松下 幸之助
販売元:PHP研究所
発売日:1968-05
おすすめ度:5.0
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こういった一般国民に対する道徳教育の面では他のBRICs諸国とは比較にならないほど、ロシアがすぐれているのではないかと思う。

モスクワで1,500人の宇宙工学のエンジニアを雇用するボーイングや、ロシア各地で3,000人のエンジニアを雇用するインテルの話を紹介している。

インテルについては面白い話を紹介している。インド人のプログラマーは、「まず、スペックを見せてくれ」という。ロシア人のプログラマーは、「どこが問題なのか?何を解決してもらいたいのか?」と聞くという。彼らは元々プログラマーではない。科学者なのだ。

この本ではロシア地場のレクソフトルクソフト(Luxoft)とか、データアート、ベラルーシのIBAなどのロシアIT企業を紹介している。

勿論アメリカと競った宇宙技術や軍事技術は世界トップクラスであり、他のBRICs諸国とは比較にならない。だからボーイングも進出してきたのだ。


ロシア型格差社会

ロシアの一人当たりGDPは2007年で9,000ドル程度だが、地域格差が大きく、自然条件は厳しいが油田のあるネネツは52,000ドルと高い。上位は油田やガス田地帯だが、資源のない地方は平均以下だ。

所得格差も大きく、2006年で人口の93%が年収1,200ドル以下。一方年収約15億ドルを超える人が60人いて、かれらだけで国全体のGDPの16%を占めている。

ロシアの資産家はフォーブスのビリオネアランキングに87人ランキング入りしており、アメリカに次ぐ数だという。

アルミ世界最大手のUCルサールのデリバスカ氏、イギリスのサッカーチームチェルシーのオーナーの石油王アブラモビッチ氏、鉄鋼王セベルスターリのモルダショフ氏、金融・小売コングロマリットのアルファグループのフリードマン氏などが有名だ。

ロシアで格差が広がったのは、国営企業民営化で12歳以上の全国民に1万ルーブル相当の国営企業の株券バウチャーが配布されたが、ほとんどの人は意味がわからずバウチャーを売り払った。それを大量に買い集めた人がオリガルヒと呼ばれる大富豪になったのだ。

ロシア人の平均寿命は59歳と短いこともあり、お金があれば貯蓄でなく消費にまわす傾向が強く、消費ブームが起こっている。嗜好もかわりつつあり、いまやアル中を生み出すウォッカではなく、ビールが人気なのだという。


無条件に日本が好きなロシア人

ロシアでは寿司が評判になり、モスクワでは市内に600軒もの日本料理屋があるという。プーチンも週に1回は寿司屋に行くという。

意識調査によるとロシア人の74%は日本が好きと答えており、日本人の82%のロシアに親しみを感じないと答えているのと好対照だ。

反日感情の強い中国の21%は別にしても、他のBRICsのブラジルの68%、インドの60%に比べても高い。

ロシアのPR会社の社長は、「現在のロシア社会で、日本ほど魅力的なブランドの国はない」と言い切る。「日本はまだこのことに気が付いていない」と。

ユニクロが最近モスクワ進出を発表したが、このことにユニクロの柳井さんは気が付いたのだろう。

ソ連時代からアメリカ嫌いが染みついているロシア人は、日本製品がアメリカ市場を席巻したり、アメリカの企業を買収したりしているのをみて、日本はスゴイと敬意を持つようになっているという。


日本企業のロシア進出

日本のロシアに対する直接投資は2007年末でわずか3億ドルに過ぎないが、電化製品など売れて売れてしょうがない状態で、各社ものすごく儲かっているという。

ロシアで一番大きなビジネスをしているのはJTで、ロシアのタバコ市場の34%のシェアを持ち、大きな利益を上げているという。

自動車メーカーもロシア市場向けの販売を伸ばしており、三菱自動車はセクシーカーという評判で、ロシア市場で人気が高い。トヨタとニッサンはサンクトペテルブルグの周辺で工場を稼働中だ。

トヨタのサンクトペテルブルグ進出は同市出身のプーチンの肝いりと言われているが、トヨタ元会長の奥田碩さんはたしか柔道六段で、山下泰裕氏と対談本を出しているほどなので柔道がとりもった仲かもしれない。

武士道とともに生きる武士道とともに生きる
著者:奥田 碩
販売元:角川書店
発売日:2005-04-25
おすすめ度:3.0
クチコミを見る


日本のロシアに対する最大の投資はサハリンIサハリンIIの石油・天然ガスプロジェクトだが、日本ではロシア政府の横やりで権益を奪われたというマスコミ報道だった。

ところが大前さんが話を聞いた当事者の一社の三菱商事の担当者は冷静で、「とんでもないことをやられている」と思われるだろうが、事業会社の株式譲渡はノーマルでフェアなビジネスだと語っている。

もともとホストカントリーの事情変更で、ガスプロムが入ってくることは予想していた。ガスプロムが過半数の51%を握ったが、その評価を下すのはまだ早いと語っている。

たしかに株を売った三菱商事や三井物産からの、恨みつらみというのは筆者が記憶するかぎりなかったと思う。

日本側としては株を適正価格で売却し、プロジェクトのリスクを取り除き、ガスの引き取り権は失わずにすんだ「うまい話」の範疇に入るのだと大前さんは説明している。


ロシア進出の十大心得

この本で大前さんは、インシアード大学のスタニスラフ・ジェクシューニア教授が、外資30社のトップにインタビューした結果のロシア版「十戒」を紹介している。

1.ロシア人とともに、ロシアのために働く(ロシアはアジアでもヨーロッパでもない)
2.ロシアのルールを尊重しつつも、自分の流儀を忘れない
3.政府や各種行政機関との関係を構築し、人脈作りに励む
4.核心に対しては断固たる態度で、枝葉末節には柔軟に対応する
5.窮地に活路を見出す術を学べ
6.腐敗は生活の一部。うまく対処する術を身につけよ
7.権威主義ではなく、本物のリーダーシップを発揮すべき
8.権限委譲は難しいが重要。それゆえ段階的に実施すべし
9.海外企業の個性が強調されたワンカンパニーを確立すべし
10.早期警戒管理体制を敷く

大前さんは、中国は全体主義、共産主義の国であり、これからは矛盾があちこちに出てくるリスクがあるが、ロシアは資本主義国であり、一度地獄を味わっているので逆に強いと評価している。

経済面では中国は地方分権だが、ロシアは依然として中央集権で官僚制度が温存され許認可など昔のままという問題がある。また原油価格がピークの1/3になったこともあり、一本調子でロシア経済が伸びていくかどうかはわからないが、共産中国対資本主義ロシアというのが21世紀の構図である。


21世紀のパラダイム変換

中国とロシアは永年ウスリー川の国境問題をかかえ、一時は流血の衝突があったが、2008年7月に4,300キロにおよぶ国境を確定している。

ロシアは欧州ロシア、中央部のシベリア、極東の3地区に大きく分けられるが、極東は開発が遅れ、人口も660万人しかいない。隣の中国の東北3省だけで人口は1億人いるので、潜在的に中国に対して恐怖心を持っているという。

そんな状況なので、日本もここで北方四島をめぐるトゲを抜いて、メドベージェフ大統領に点を稼がせ、資源国ロシアと工業国日本の互恵関係をつくることを大前さんは提案する。

旧ソ連諸国や東欧諸国は、様々な事情でロシア離れをしており、EUやNATOに接近をしている。大前さんは、この流れがさらに進み、プーチンの第二期政権?の終わる2020年にはロシアもEUに加盟しているのではないかと予想する。

ジェトロのEUでの意識調査によると、EUの人たちの65%はEUに入るのはロシアがトルコより先と考えているという。

通貨ユーロが強くなっているが、ユーロ導入にあたっては厳しい規律があり、財政赤字はGDPの3%以下、政府債務残高はGDPの」60%以下。物価上昇率と金利変動も一定以下が求められている。輪転機を回せば済むドルや円とは規律が違うからユーロは強くなるのだという。


日ロ関係の未来図

最後に「日ロ関係の未来図」として、大前さんは長谷川毅氏の「暗闘」という第二次世界大戦で日本が降伏に至るまでの過程を描いた作品を紹介し、トルーマンとスターリンの駆け引きで、北海道を南北に分割せよとのスターリンの要求を退ける案としてアメリカが北方領土の領有を認めたという説を紹介している。

暗闘―スターリン、トルーマンと日本降伏暗闘―スターリン、トルーマンと日本降伏
著者:長谷川 毅
販売元:中央公論新社
発売日:2006-02
おすすめ度:5.0
クチコミを見る


この本には興味を持ったので、近々読んであらすじを紹介する。

北方領土は日本固有の領土と言っても、戦後処理でソ連領となったわけでもあり、いまさら間宮林蔵を持ち出しても話は進まない。

実はロシアにとってみれば北方領土四島はそれほど重要ではない。しかし返すためにはインセンティブが必要なので、ロシア国民を納得させる理屈を考えて、物事を進めるべきだと提案する。

1997年の橋本龍太郎・エリツィン会談では、ロシア側は二島先行返還、二島継続協議という案を示したが、これはまさに佐藤優ラスプーチンの外交成果だった。

ロシアは外貨準備が積み上がり、ロシアのSWF(政府系ファンド)である「安定化基金」は世界最大規模のアブダビを抜いて百兆円以上にもならんとしている。もはや少し金を出せば手放すといった「鈴木宗男的発想」はまったく通用しなくなっている。

むしろロシアのあり余る金を使って、日本がアジア諸国と一緒に経済開発を技術的に手伝う、ロシアの原子力発電所建設やシベリア鉄道高速化などで手助けすることが感謝されると大前さんは語る。

大前さんは以前からロシア沿海州と日本の日本海側で地域経済圏をつくれとか、斬新な提案をしているが、この本では日ロ賢人会議で検討するとか、怒る人がいることを承知で、国連信託統治領のような方法を考える手もあるのではないかと語る。

旧島民の気持ちも理解できるが、北方領土が返ってきても、利権の巣窟となり、不要な護岸工事や道路工事が相次いで、納税者の立場からいえば返ってこなかった方が良かったという事態にもなりかねないと大前さんは危惧する。

大前さんが提案するのは、日ロが平和協定を結び、極東やシベリアを共同で開発することだ。サハリンの天然ガス以外でも森林・地下資源・観光資源を開発する。たとえばカムチャッカは最高の釣りレジャー地区となるだろうという。

これからの十数年で世界が体験する「ロシア・ショック」は極めて大きく、日本にとって最大のチャンスにもピンチにもなりうる。

今のロシアは日本人が抱いている冷戦時代のイメージから大きく変化している。いずれロシアとEUが一体となり、世界の極となろうとしている。こうした時代に日本だけが、北方領土問題にこだわり続けていいはずがないと大前さんは語る。


データも最新で大変参考になる。冒頭に書いたとおり筆者が今年読んでから買った6冊目の本だ。是非一読をおすすめする。


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2008年04月06日

ビジネス力の磨き方 大前研一が説く21世紀に必要な5つのスキル

+++今回のあらすじは長いです+++

ビジネス力の磨き方 (PHPビジネス新書 27)


大前研一氏が説く21世紀の日本のビジネスマンに必要なスキル。

大前さんは「サラリーマンサバイバル」とか、このブログでも紹介している「ザ・プロフェッショナル」、最近では「即戦力の磨き方」など、日本のビジネスマンの能力アップのために多くの著書を出しており、これもその一つだ。

サラリーマン・サバイバル (小学館文庫)


ザ・プロフェッショナル


即戦力の磨き方 (PHPビジネス新書)


大前研一氏は、筆者の好きな著者の一人なので、このブログでも「大前研一」のカテゴリーで15冊以上紹介している。

この本は2007年3月に出版された本で、21世紀に必要となるビジネススキルについて雑誌"THE 21"読者から寄せられた質問に対する解答をまとめたものだ。


5つのビジネス力

この本で大前さんが21世紀のビジネススキルとして身につけるべき力として挙げているのは次の5つだ。

1.先見力
2.突破力
3.影響力
4.仕事力
5.人間力

前記の3冊などを含め様々な本で21世紀に必須のスキルとして、語学(英語)力、論理思考、コミュニケーション、IT力などについて取り上げてきているので、この本では今まであまり取り上げてこなかったスキルについて説明している。


1.先見力を磨け

大前さんは1995年に文藝春秋に「不動産はまだ下がる」と記事を書いたが、事実不動産は下がり続け、2002年にはバブル前の水準まで下がってしまった。

ホリエモンや村上ファンドが坂本龍馬と同じ運命をたどったことなど、その他にも大前氏の予測通りになったことがいくつもあるという。

これは大前氏に先を読む特殊な力が備わっているわけではなく、先見力とは訓練すれば誰でも身につけられるスキルだからだと。

大前氏の先見力は、現在起こっている事柄をこまめに調べて、そこから変化の兆しを見つけ、その兆しが今後どのようなトレンドになるかをしつこく考えた結果なのだ。

そこで重要なのがFAW(Force at Work)である。これはマッキンゼーの創始者の一人のマービン・バウアーの考え出した概念であり、「そこで働いている力」とでもいうもので、ある傾向を伴った事象があれば、そこには必ずその事象を発生させるだけの力(FAW)が働いているはずだから、それを分析し発見するのだという。

FAWがわかったら早送り(FF)して5年後、10年後の変化が見えてくる。

つまり先見力とは、(1)観察、(2)兆しの発見、(3)FAW、そして(4)FFが正しくできる能力なのだと。

このFAWを使って、都心の地価、熱海/軽井沢の地価、高齢化先進国のアメリカ/ヨーロッパ、ソニーの将来などのケースを説明しており、興味深い。

ソニーや日立など日本の総合電器メーカーとGEとの差は、経営力の差であると。

日本の場合、日立にしてもソニーにしても、社長になるのはその時一番儲かっている事業部のトップである。大前さんにいわせれば、中小企業で功成り名を遂げた社長をいきなり大企業の社長に任命してしまうのとなんら変わりないから、うまくいくはずがないのだと手厳しい。

安倍前首相の「美しい国日本」の取り組みも的を得ていない。大前さんは21世紀に活躍できる「考える力」を育成するために、高校教育にも乗り出している。船橋学園東葉高校という広域通信制の高校がそれで、2007年に開校している。


第2章 突破力を磨け

目の前の壁がどんなに手強そうにみえても、絶対に自分から弱音を吐かないのが突破力の基本である。突破する勇気を養うには、先達の偉業にふれ、それから勇気を貰うのが良い。

ケネディのアポロ計画が良い例だ。到底できそうになかった月への宇宙旅行を期限を切って実現してしまった。

壁を突破した本人に会うことを大前さんは勧めている。エベレストの最高年齢登山にいどむスキーの三浦雄一郎氏、60歳から絵を始めた加山雄三氏などを例に挙げている。

大前さんが20年以上言い続けている道州制をやっと政府も検討し始めたが、全国知事会や地元マスコミなど既得権を持つ抵抗勢力が強い。道州制になったら大半の知事は失業し、県庁所在地にある地元マスコミも淘汰されるからだ。

また北方領土については、四島一括返還は日本の悲願といいながら、実現すると防衛線を千島にあげる費用がかかり、実際に四島に住みたい人はほとんどいないというのが現実で、メリットはほとんどない。

だからこだわりを捨てて、ロシアの二島返還を受け入れ、後は継続協議として、日ロ平和条約を締結し、千島列島だけといわず極東ロシア全体の開発を日ロ共同でやることを提案している。

さらに経済面だけでなく、防衛面でも助け合える関係作りをしておけば、北朝鮮の脅威は低減し、有事の場合にはロシア兵を日当一万円くらいで傭兵として自衛隊に組み入れれば良いと大前さんは提案する。

どの首相でも四島一括返還という思いこみを突破できたら、歴史に残る名宰相として名を残すことになろうと。

今後の日米関係、中国やインドの巨大化、日本の経済進出の余地などを考えると、たしかにロシアと早急に平和条約を締結して、シベリア開発に日ロで取り組むことは、日本の国家戦略として大変意義があると筆者も思う。

今や売れっ子の佐藤優氏が外務省に在任していた時に、橋本首相、小渕首相を動かして日ロ平和条約を実現しようとしていたことは、「北方領土特命交渉」に詳しい。

北方領土特命交渉 (講談社+アルファ文庫 G 158-2)


日本も米国ばかり見ずに、世界を見回して日本の10年20年後を考えるべきだろうと筆者も思う。


第三章 影響力を磨け

自分の影響の及ぶ範囲が広ければ広いほど、その人の価値は高い。

小澤征爾氏、安藤忠雄氏、イチロー、松井など芸術やスポーツの世界では、世界に名を知られている日本人はいるが、ビジネスマンで世界に影響を与えられる一流の日本人はほとんどいない。

日本のビジネスマンの頭の中が、20世紀の加工貿易のままだからだと大前氏は語る。

加工貿易の頃は、教えられた答えを丸暗記し、マニュアルをつつがなく遂行できることがなにより重要な能力だった。今そういう人たちが集まった企業は危機に瀕している。

今必要なのは答えを自分で出すことができる人だ。

マレーシアのマハティール前首相のアドバイザー、中国遼寧省、天津市の経済顧問、ナイキ等のボードメンバー、いろいろな大学のアドバイザリーボードメンバー等々、大前さんは、自分では口幅ったいいい方だが、世界的に影響力がある日本人ナンバーワンだと思うと語る。

この本では大前さんがいかにして世界に影響を与える人間になったのかが述べられている。

マッキンゼーでの仕事の実績もあるが、著書の影響が大きい。

「企業参謀」、ボーダレス・ワールド (新潮文庫)、「新・資本論」など大前さんの本は、世界で何冊もベストセラーになっているという。

企業参謀 (講談社文庫)


大前研一「新・資本論」―見えない経済大陸へ挑む


またウォールストリートジャーナル、ニューヨーク・タイムズ、ハーバード・ビジネスレビューなどに継続的に記事や論文を発表してきたことも知名度アップに役立った。

しかし物を言うのは知名度ではなく、書いた内容だと大前さんは語る。

要するに、そこにある問題を発見し、解決策を発見できる人間であれば、人種や国籍に関係なく、世界中どこに行っても影響力を発揮できるのだと。

「影響力を強めるには型を持て」と大前さんは語る。

大前さんの場合、「ボーダレス経済と地域国家論」が型であると。

大前さんがジャック・ウェルチに中国は6つの地域国家の集合体だと言うと、さっそく6つの地域にわけてGEの戦略を議論したという。

影響力をつけるために、権威にすりよるのでは意味がない。影響力をつけるためには、まずは思考の型を身につけろと大前さんは説く。

大前さん自身もマッキンゼーでピラミッドストラクチャーや、MECE(Mutually Exclusive Collectively Exhausive、それぞれ重複なく、かつ全体として網羅されていること)というロジカルシンキングの手法を自分の型になるまで徹底的に仕込まれたという。

これがあるから大前さんはどんな事象でも論理的に分析することができるのだと。

このマッキンゼー式のロジカルシンキングについては、大前さんと同じくマッキンゼー出身の勝間和代さんも紹介している。マッキンゼーの新入社員は徹底的に仕込まれるのだそうだ。ちなみに勝間和代さんが推薦するロジカルシンキングの本は次の本だ。

ロジカル・シンキング―論理的な思考と構成のスキル (Best solution)


型を自分のものにするには、ケーススタディを無限回繰り返すのが効果的だ。

自分が○○だったらというケーススタディを続ければ、頭は大いに開発される。BBT大学院大学では、「あなたがリチャード・ワゴナーだったら、どうGMを立て直すか」といった課題が毎週出るという。

二年間で100本の課題をこなすことが卒業の条件で、2007年3月に第一期の卒業生が誕生した。

友人とディスカッションすることもMECEを鍛える上で有効だ。

ケーススタディも友人とのディスカッションも時間が掛かるので、自分の時間の使い方を考えよと大前さんは語る。

日本のビジネスマンは、テレビや新聞、雑誌、インターネットに費やす時間の比重が大きすぎるから、それを最小限に減らせば良いと。

ケーススタディとして世界で最も影響力がある国はアメリカかどうか分析している。結論として斜陽の大国にすがるよりも、フィンランドとかデンマークの様に教育によって世界に通じる人材を生み出していく方が、よっぽど世界に影響力のある国家になれる。

フィンランドとデンマークでは学校に「教える」という概念はない。生徒に考えさせ、先生は考えを引き出すファシリテーターだ。また先生だけでなく、国中のおとなが教育に積極的に参加している。

たとえば野菜の生産、流通、価格決定、職業につき町の八百屋さんが学校にやってきて説明してくれるのだと。

大国のエゴより、小国の知恵。これが21世紀の国際関係を解く鍵なのであると大前氏は提唱する。


第四章 仕事力を磨け

仕事をスピードアップするポイントはダンドリにある。この本では大前さんのダンドリ術が披露されている。仕事をスピードアップする理由は、自分の思考トレーニングに充てるための空き時間をつくるためだ。

「あれ、どこにあったっけ?」が時間を食うので、大前さんは資料はとりあえずパソコンに取り込み、Google Desktopで検索。さらにGMailですべて自分宛に送っておく。メールの強力なメッセージ検索機能が使えるので、二重にリトリーブできるようにしておけば、より確実に目的の情報を見つけられるから安心であると。

大前さんのいう「21世紀の情報収集法」ではテレビCMがなくなるという。YouTubeと、ハードディスクレコーダーやTiVoが普及するからだ。

大前さんは朝の貴重な時間をNHKのニュースと日経新聞に費やす前世紀の習慣は、いまではほとんど時間の浪費にすぎないから、即刻辞めるべきだという。

新聞に書かれていることは、記者が集め、記者のフィルターを通したごく限られた情報だけで、しかも新聞社の都合で記事を構成している。読んでいる人は永遠に記者のレベルを超えられない。テレビも同様だと。

たしかに日本のメディアだけでは世界の情報が集まらない。筆者は25年あまり"Time"を読んでいたが、日本のビジネス誌や新聞と情報の質・量面での大きな差を感じていたものだ。(アメリカで契約したら"Time"は5年契約すると一冊50セント以下だった。もちろん日本に戻っても同じ契約が継続され、シンガポールからアジア版を送っていた)

大前さんは10年前に新聞の購読をやめ、ネットで新聞を読み、RSSリーダーで必要な情報を自動的に集めているのだと。

毎朝RSSリーダーが集めた500の記事に15分で目を通し、重要と思われるものはパソコンに保存し、スタッフに送付していると。週末の大前さんの番組で情報を分析したり、組み合わせて次の展開を予想する。これが大前さんのニュースの読み方だと。

筆者は日経新聞を毎朝KIOSKで買っていたが、ここ数週間この長年の習慣をやめて、RSSと日経ネットに切り替えている。家では朝日新聞を取っているし、新聞を完全にやめたわけではないが、最近日経本誌は、あまり読むところがないという気がしてならなかったので、購読を止めてみた。

大前さんの本を読んで日経をやめたわけではないが、奇しくも大前さんに背中を押されたような形となった。

当面RSSとネットの情報収集で、日経新聞以上の情報を効率的に集められるかどうかやってみようと思う。


第五章 人間力を磨け

仕事も人生も下地がなければ楽しめない。若い頃から意識して教養や、スポーツで体を鍛えたり、趣味をつくったりして下地をつくるのだ。

大前さんはオフの予定から先に入れ、残業より家族との会話を優先せよと語る。

始業ぎりぎりに会社に飛び込み、朝は二日酔い、夜は残業の後、職場の同僚と一杯というような20世紀の生活習慣は改善しなければならないと。

朝型にするのだ。大前さんは4時に起きて、5時からパソコンのチェック、RSSリーダーでニュースのチェック。メール処理で一仕事終えて家族と朝食を摂り、9時からオフィスに出社するのだという。

最後に大前さんは、優秀なリーダーがいることが国にとっても重要なことを強調する。

ノキアのヨルマ・オリラというたった一人のリーダーがノキアを復活させ、フィンランドを復活させた。オリラの前任者は倒産の瀬戸際に立たされ、自殺している。そんな企業を携帯電話に集中する戦略で数年で世界一とし、フィンランドに希望をもたらした。

GEのジャック・ウェルチも同様だ。21世紀の世界競争に勝つための指標は、ジャック・ウェルチを何人つくれるかだと大前氏は語る。

マッキンゼー、GE、この二社は誰もがほしがる人材の輩出企業だが、社内の選別も厳しい。

マッキンゼーをアメリカの会社だと思っている人間は社内にはいないという。社員の半分はハーバードビジネススクール(HBS)出身だが、一時は役員会のメンバーには二人しかHBS出身者はいなかった。

日本を21世紀に通用する国家にするためには、甘っちょろい格差論議をやめることだと大前さんはいう。

ハングリーな人間にこそチャンスがある。たとえば農業のプロフェッショナルになれと呼びかけている。


いつもながら具体例が満載で、刺激を受ける。是非手に取ってみて欲しい本である。


参考になれば次クリックと右のアンケートお願いします。


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2007年12月27日

大前流心理経済学 個人金融資産を政府系ファンドで積極運用し生活者大国へ

2007年12月27日追記: 本日の日経新聞がトップで報道していたが、12月26日に内閣府が「国民経済計算」で日本のGDPと一人当たりGDPの国際比較を発表した。世界2位からの転落のスピードの早さが明らかなので追掲する。

GDP1






GDP2






GDP3






今やオーストラリアにも抜かれ、OECD30ヶ国の中で18位である。いかに円安と、低成長、低金利が日本の国際的地位を毀損したかよくわかるグラフだ。

大前流心理経済学 貯めるな使え!
大前流心理経済学 貯めるな使え!

日本人の不安心理を根底から払拭し、資産の積極運用で日本経済を21世紀も世界に君臨する様に立て直す大前研一氏の新提言。

いつも通り、非常にわかりやすく、論点も明快だ。

大前さんの本は、「はじめに」と目次を読むと本の大体の内容がわかり、最後の数ページを読むと提言がわかるので、頭にスッと入る。Amazonの「なか見検索」に最適の構成だが、講談社のこの本は「なか見検索」に対応していないのが残念だ。


要約:

今回のあらすじは長いので、なか見検索の代わりに要約しておく:

日本の個人金融資産は1,500兆円といわれ、アメリカの5,000兆円に次ぐ世界第2位の規模である。

この個人金融資産はいわば巨大な水ガメで、これが流れ出したら世界が今まで経験したことのないようなインパクトの経済効果が生まれる。世界の市場を動かしているオイルマネーでさえ、100兆円規模でしかないのだ。

ところがこの水は流れ出る気配もなく、日本国内で低金利で運用され、あまり増えていない。日本人が持つ将来への漠然たる不安が、国内で低金利の郵便貯金(オイルマネーを超える250兆円規模)とか、銀行預金に資金を留めている原因だ。

世界では高齢者になるほど資産が減っていくが、日本では逆で、不安心理により高齢者になるほど資産が増え、最後には一人平均3,500万円もの金融資産を残して死んでいく。しかしカネは墓場まで持ち込めない。

要介護者は全体の1/7,75歳以上でも3割で、ほとんどの人が「ぽっくり逝ってしまった」パターンだ。大半の人は、不安を持つことなどないのだ。

低金利政策は国の放漫借金の穴埋め、金融機関支援策であり、その実体は個人財産の収奪だ。日本の個人資産はここ10年で、2割しか増えていないが、欧米は8割前後増えている。

円の価値は円安で20年前の水準に戻り、米国には水をあけられ、他国にはどんどん追いつかれている。このままでは欧米はおろか、時間の問題で、中国等にもGNP、産業競争力で負け、資産でも負けてしまう。

もう日本の時代は終わったと中国あたりにまで言われて意気消沈し、30代の人でさえ将来に不安を持っている。子供まで将来に明るい希望を持てないという日本の現状だ。このまま国力が落ち、若者のいなくなった日本は、北朝鮮の侵略の良い標的となる危険性もある。

しかし既に日本人は問題解決の手段を持っている。あとは心理を変えるだけなのだ。世界2位の1,500兆円という資産を、世界水準の年率10%前後で積極運用して日本の国富を増やし、少子高齢化になっても他国の追従を許さない世界最大の資本供給国として世界に君臨し、老齢者はアクティブなシニアライフを楽しめるのだ。

日本ほど国民の心理によって経済が大きく動く国はない。心理を動かすことこそが景気回復の最も効果的な方法であり、非効率かつ閉鎖的な社会システムを変革し、生活者主権の国を築くための最後のチャンスなのだ。

そして誰もが日本人に生まれてよかったと思えるような国になれる。これが大前流「心理経済学」の帰結である。


心理経済革命を提唱

大前さんがこの本で提唱するのは、「心理経済革命」で、日本人の心理を動かすための経済政策であり、日本を生活者大国にするための筋道である。

これは全く新しい経済概念を打ち出すものであり、大前経済学の最先端であると同時に、現時点での決定版であると大前さんは力説する。

政府は個人金融資産1,500兆円をずっと塩漬けにして、パクるつもりなのだ。これからは国家が国民を守るのではなく。国民をだます時代になる。おとなしい国民は、借金漬けでせっぱ詰まった政府に世界一の蓄えをカモられる。

だから国民は自衛しなければならない。自分のカネは納得できる人生を生きるために使い切らなければならないのだと。

眠ったままの1,500兆円の個人金融資産を市場に流れるようにすれば、世界を席巻するパワーを持つ。

日本では銀行の定期預金に250兆円、郵便貯金に250兆円、合計500兆円が塩漬けになっている。さらに外貨準備に100兆円あるので、合計600兆円のすぐに運用できる資産がある。

ハーバード大学の資金は3兆円規模で、運用益は15%だ。たとえば600兆円を10%超で運用できれば年間約50兆円の日本の税収を上回る年間60兆円の運用益が出る。この一部を国家再建に使うのだ。


国家全体が「夕張」化する日本

2006年6月に北海道の夕張市が、財政再建団体指定を申請、実質倒産した。夕張市の人口は1万3千人、債務は630億円。日本が1億3千万人で、国債発行残高は637兆円。ちょうど夕張市の一万倍の規模だ。

しかし日本のほうが地方債を含めると債務は840兆円もあり、夕張市よりひどい。夕張市は大幅な職員削減や給与カットを行っているが、日本はなにもドラスティックな対策は打っていない。

それは政府なら輪転機でいくらでもお金を印刷できるからだ。しかしこのまま輪転機でお金を刷っていれば、ハイパーインフレとなる。

国の債務だけではなく、特別会計支出や、全国に1,000ほどある特殊法人の債務をあわせると国の借金は1,200兆円を超える。

さらに少子高齢化だ。少子化の直接原因が未婚・晩婚化である以上、政策によって出生率を増加させるのは難しく、人口はこれからどんどん減っていく。2046年には一億人を割り、2055年には9,000万人になると予測されている。

生産年齢人口はどんどん減ってくる。65歳以上の老齢人口は、2040年頃まで増え続け、4,000万人近くに達する。かたや生産年齢人口は2005年の8,400万人から2055年には4,600万人にまで減少すると予想されている。

生産年齢人口には学生や主婦も含まれているので、実質的な労働力は現在でも6,600万人、それが2055年には3,000万人台まで減ると予想されている。

国の約束している年金を払おうとすると、将来800兆円の財源が不足する。つまり日本の本当の債務は2,000兆円もあるのだ。国民一人当たりにすると債務は2,000万円を超え、勤労者1人当たりだと3,000万円を超える。

このままでは日本が世界に誇る個人資産1,500兆円をもってしても、まかなえなくなるのだ。

借金を返す人口は年を追う毎に減少し、50年後には今の半分となっている。つまり、一人当たりの負担額は倍となり、実質的に返済は不可能となる。


ボツワナ並みの日本国債の格付け

これだけの債務を返済するにはデフォルト、増税、そして世界中からお金を借りるの3つしか手はない。

アメリカは世界中からカネを借りているが、GDP比では0.65程度で比較的健全で、しかも国債の金利は5%の高い金利をつけている。

日本はボツワナ並みの格付けだが、債務残高の対GDP比は次の表の様に先進国ではダントツに高い1.8だ。

ボツワナはダイヤモンドなどが採れるので、いざというときはダイヤモンドを掘って借金を返すことができるが、日本は資源がないので、高齢者も含めて人が働いて返すしかないのだ。

債務残高の国際比較






当時の財務相の塩川正十郎氏(塩爺)が「国民の多くがエイズ患者である国と同格とは何事か!」と怒ったが、日本は次表のように少子高齢化の影響で、いびつな年齢構成となっており、若年層が多いボツワナより事態はずっと深刻なのだ。

人口ピラミッド







円安は日本の長期衰退の象徴

円安を歓迎する日本人の思考は不可解であると大前さんは語る。

学者は何も言わず、財界は輸出型企業のトップが牛耳っており、マスコミもそれに乗るので、国民も円安のほうが良いのかという気になる。

ところが既に2005年度で資本収支の黒字が貿易黒字を上回っており、輸出に有利というモノの流れだけで経済を考え、円安を歓迎する意識は完全に時代遅れである。

円安は日本の長期衰退の象徴なのであると。

筆者もこれを読んで思ったが、対ドルだとあまり気がつかないが、世界のほかの通貨との実効レートで比較すると、ユーロやポンド、元、ウォン、オーストラリアドルなどに対して弱くなっているのである。実効為替レートからすると、なんと円高の始まりとされる1985年のプラザ合意時点での相場まで落ちているのである。

大前さんの本に載っているグラフにならって、自分で日銀の公開資料から次の円の実効為替レート推移表をつくってみて驚いた。

昔「エコノミックアニマル」と呼ばれ、必死に輸出で外貨を稼いで外貨準備を増やし、結果的に円の価値を国際的に上げてきたが、今は完全に逆コースだ。

YEN実効レート





一人当たりGNPも一時は世界2位だったが、現在ではOECD30カ国中14位まで低落している。筆者も、いまだに世界第2位のような気持ちでいたが、円安の影響は厳しいものがある。

最近東京に外資系のホテルが何社も進出し、一泊最低6万円からという話を何か別世界の話の様に感じていたが、思えばヨーロッパの主要都市のホテルはちょっとしたホテルでも5ー6万円はざらという話だ。外国人が日本に旅行に来て、日本は安いと思うわけだ。

要は円が弱くなったので、ヨーロッパが異常に高く感じるのだ。

資源高により原材料費は上がっているので、円安は物価高とインフレを招き、国民にとって明らかにマイナスだ。また国際比較での国力も低下しているゆゆしき事態なのだ。


日本の個人資産の優位性は低下

日本人の金融資産の内容を見ると現金・預金が51%、保険・年金が26%で、併せて77%を占める。リスク資産の株式は12%のみだ。

これに対してアメリカは現金・預金は13%だけで、債権・投資信託・株式が52%。32%を占める保険・年金準備金は401kで投資されているので、資産の85%を投資・運用していることになる。

金融資産と非金融資産(不動産など)の合計もバブル時代の1990年に日本は2,700兆円で、アメリカの3,500兆円に次ぐ規模で、日米比は1:1.3だったのが、現在ではバブルがはじけて日本は2,500兆円に減少する一方、アメリカは8,000兆円に増え、1:3.2と大きな差がついている。

アメリカの投資資金は72%が退職後の資金となっており、投資信託も原則として5年や10年以上の長期保有で、預金金利の5%を超える運用益で回しているので、5,000兆円の資産は毎年数百兆円増えているのだ。

これでは日本と差が出るのも当たり前である。日本の一人当たりの家計金融資産額は、1,206万円で国際比較ではどんどん順位が落ち、一時は世界一だったのが、現在は四位で、運用利回りが高いオーストラリアに肉薄されている。

ここ10年間で、日本人の家計金融資産は21%しか増えていないが、フランスは87%、イギリスは79%、アメリカも77%、ドイツでも56%増えている。諸外国との差は拡大するばかりだ。

大前さんは、あまり役に立たない大学受験までは必死に勉強するにもかかわらず、社会人になってから収入アップにつながるような勉強をしないのか、そして運用によって資産を増やそうとしないのか、これも理解不可能な日本人の心理だと手厳しい。


日本人の心理を動かす7つの方法

大前さんは日本人の心理を動かす方法として、7つの提案をしている。

1.金利を上げる
2.相続、贈与等の関する税制を見直し、資産の若年層への移動を早めにする
3.住宅の建て替えを奨励する
4.アクティブ・シニアのためのコミュニティをつくる
5.いくらあれば生活できるのかライフプランを提示する
6.ベンチャー企業のエンジェルになる
7.資産運用を国技にする


政府系ファンドをつくり国民の資産を高率で運用する

前述の7つの提案のうち、最も重要なのは7.の資産運用を国技にするという提案だ。

最近シンガポール、ドバイ、中国などの政府系ファンドが注目を集めている。

本日(12月20日)の日経新聞にも、「国家マネー 世界に広がる影響力」というタイトルで、2006年からの政府系ファンドによる欧米金融機関などへの投資実績が掲載されている。1位、2位は後述のシンガポールのGIC、テマセクが占めており、GICはUBSに約100億ドル、テマセクはスタンダード・チャータード銀行に約80億ドル、バークレイズ銀行に約20億ドル投資している。

その他にも、アブダビ投資庁のシティグループへの約80億ドル、中国投資のモルガン・スタンレーへの約50億ドル、ブラックストーンへの約30億ドルの出資など、サブプライム問題でバランスシートが痛んでいる欧米の超優良投資銀行などの株に巨額の投資を実施している。

サブプライム問題は基本的には一過性の問題と見ているのだろう。機を見て敏な政府系ファンドの動きが注目されているが、ファンド本家のアメリカは後述のように、確定拠出型年金401k導入で、資産運用を国民みんなの関心事として国技にしており、世界中の企業を追いかけている。

日本も個人金融資産の1,500兆円の一部を使って、有名ファンドマネージャーを雇ったシグニチャーファンドをつくり、世界中の国に分散投資するのだと大前さんは提唱する。

10%から15%の運用実績があがるのであれば、ファンドマネージャーに1%の手数料を払っても惜しくない。

カナダのジェームズ・オショネシー、アメリカのロバート・ソロモン、インドのランジット・バンディットなど有名ファンドマネージャーがいるが、ワールドクラスの人を雇って運用実績ランキングを出すのだと。

日本でもやっと、議員や政府代表団がシンガポールのGICなどを視察し、政府系ファンドの研究が始まったようだが、中国、ロシアの国営ファンドは急速に拡大している。

中国は外貨準備の20%を投資に向けると発表しているが、150兆円の20%、30兆円あれば、オイルマネーの100兆円よりは少ないがサウジアラビア一国の運用規模に匹敵する。前述の通り、モルガン・スタンレーやブラックストーングループに巨額の出資をしている。

ただし国家ファンドは危険な面もある。圧倒的なファンドの資金力を利用して、一国の軍需産業とか、重要産業を実質コントロールするというような陰謀も可能だ。

だから政治的・国家的な意図を含む恐れがあるので、自分たちで運用すると絶対に失敗するから、世界のファンドマネージャーを集めて運用をゆだね、そして年金も401k型(個人が運用先を自由に選べる年金)にして、ファンドで組成するのだ。

こうした資産形成を通じて、日本人が本当に世界のことを理解するようになることを、大前さんは期待すると。

筆者も答えがわからないのだが、例えばなぜ南米のペルーの経済が伸びているのか、石油の出ないドバイがなぜ好調なのか、ロシアでなぜ三菱車が売れているのかなど、新聞には出ない情報を国民が調べようとするようになる。それが日本を変えるのだと。


注目されるシンガポールの国家投資ファンド

シンガポールは、20年以上前から第二次産業から第三次産業中心にモデルを転換し、空港や港湾に力を入れ、アジアの交易のセンターになっている。

規制を撤廃し、税率を下げて多国籍企業のアジア本社誘致に力を注ぎ、今や500社以上の世界的企業が、東京、香港を尻目にシンガポールにアジア本社を置いている。

さらに金融機関の誘致をして、今ではアジア一のファイナンシャルセンターとなり、ヨーロッパ系ファンドの多くがシンガポールに進出している。

国民年金GICリー・クアンユー元首相自身が、長らく理事長となって年金の運用を世界的に分散し、10兆円の規模で、ここ25年間の平均で9.9%という高い運用益を挙げているので、国民は安心して引退できるようになっている。

政府系企業の持ち株会社テマセクも中国系企業の株を売り、400%という高い投資リターンを得て、それを欧米に投資するなどフットワークが軽い。

シンガポールは東京23区程度の面積で、人口400万人だから、国民一人当たり年金資産は250万円となる。

大前さんは、かつてシンガポールの経済開発庁のアドバイザーを務めていた関係で、リー・クアンユーに聞いたことがあるが、彼の答えは明快だったという。

「中国が目覚めた今、どんなに産業政策に力を入れてもかなわない。しかし、シンガポールの人口であるなら、年金資金を世界中の有望企業、有望地域に投資すればそのリターンで国民を食わしていくことができる。産業政策は首相がやればいい。僕は、国民を食わせるために年金の投資を世界規模でやるのだ。」

一国の指導者とは、このような人のことを言うのだと、つくづく思ったものだと。


アメリカのレーガン革命

世界の投資ファンドの本家本元ともいえるアメリカではレーガン大統領の時に、どう計算しても政府の約束していた年金が払えないことがわかったから、401Kという自分で運用先を選べる確定拠出型年金を導入した。

そうすると運用益を向上させるためにみんなが一斉に勉強を始め、株式市場やファンドなどが大盛況となった。国民を突き放すことによって、むしろ国民は勉強し、今の金融大国アメリカが誕生した。

筆者は米国に二度駐在したが、二回目はちょうどインターネットバブルの時で、アメリカ人の同僚が、インターネット向け投資ファンドを401Kに組み込んでいたことに驚いた。普通の人が投資に非常に敏感で、実際に自分の年金資金を様々なファンドで運用しているのだ。

アメリカの401kでは自社株の組み込み比率が50%以上の場合もあり、GEとかナイキとか業績好調企業の従業員は、20年以上勤めてリタイアするとみんな1億円以上の億万長者になっているケースが続出した。

大前さんが社外取締役をやっていたナイキなどは、あまりに社員の年金が積み上がるので、一年間積み立てを免除したほどだという。

アメリカの空前の高級住宅ブームは、平均的なサラリーマンが年金の担保余力によって年俸からは想像できないような高額住居に手を出した結果だという。

やはり資産は持っているだけではダメで、運用してなんぼという気がする。


中台関係は霜降り化

中台関係のパラダイム変換の指摘も面白い。大前さんは台湾海峡有事は起こりえないと思っている。中国と台湾の経済はもはや完全にビルトインされて、いわば霜降り状態だからだと。

9万社もの台湾企業が中国で事業を展開し、2,000万人しかいない台湾人の200万人が中国大陸で働いている。しかも台湾企業のみならず、中国の国営企業でも重要なポストを占めている。

仮に台湾海峡有事が起こって台湾人が引き上げたら、中国のダメージのほうが大きいという状態なのだと。

今では中台関係がさらに変化している。

中国には100万都市が200もあり、それが台湾の5倍、6倍のスピードで発展を続けている。

中国ではもう台湾の力は借りなくても良いという「台湾ナッシング」に向かっているのが現状で、そうはさせじと台湾は中国の内部に入り込むという状態なのだ。

中国の輸出トップ10社を見ると、台湾企業のEMS3社が入っている。

日本が今意識しなければならないことは、アメリカが日本よりも中国重視にシフトし始めたことだと。アメリカと中国は、21世紀は米中の時代と思っており、すでに動きだしている。


新しい現実を生きていくためのライフプラン

最後に大前さんは、新しい現実を生きていくためのライフプランを提唱している。20代、30代は世界標準の人間になることだ。英語力だけでなく、真のコミュニケーション能力、多様な価値観を許容できる人間だ。

40代、50代は資産運用を必死に勉強すべしという。自分で5%から10%の運用利益を取れるようにする。ビジネスブレークスルー大学院大学の大前さんの株式・資産形成講座も紹介されている。

そして50代以降は引退後のアクティブシニアライフの準備を具体的に始めろという。移住先の研究、移住後の不動産を早めに買って賃貸に出し、ローンを支払って引退したときに移り住む。

幸福な人生の実現は心理に掛かっている。

日本ほど国民の心理によって経済が大きく動く国はない。心理を動かすことこそが景気回復の最も効果的な方法であり、非効率かつ閉鎖的な社会システムを変革し、生活者主権の国を築くための最後のチャンスなのだ。

そして誰もが日本人に生まれてよかったと思えるような国になれる。これが大前流「心理経済学」の帰結である。


+++++++++++++++


あらすじは以上で、次は筆者の感想である。


何かいつもと違う舌鋒

この本を読んで、いつもと違う舌鋒を感じた。

大前さんは、小泉政権などは、「小泉破れ太鼓」と呼んで、郵政民営化などを時代遅れの政策として以前から批判してきたが、この本では国民をカモる日本政府、ポール・クルーグマンの代弁者竹中平蔵元財務大臣、輸出型企業が牛耳る経団連などとこき下ろしている。

竹中平蔵元財務相がポール・クルーグマンの言うことを代弁していたように、日本の経済学者は外国かぶれの学者ばかりだ」。

「自分で経済を分析すれば、日本と日本人がいかに特殊な行動を取る国(国民)かわかるはずだ。しかし、自説を展開することを恐れ、あるいはサボり、外国の学者の分析を「理論」「学説」と称して輸入、解釈するだけでは今の日本はわからない。」

「ゼロ金利など近代国家はどの国も経験していないし、ゼロ金利でもじっと定期金利や定額貯金に過半の財産を置いている集団はなく、世界中のどこの学者も観察したことがない。」

「自国の経済を外国の学者の説を用いて解釈し、学者同士が自分の師匠の説を正しいとして不毛な論陣を張るこの国のマクロ経済学者、それに乗っかった官僚、そして政治家たちはまったくアテにならないのだ。」と。

いつも通り日本の港湾政策、空港政策(普通に考えれば成田を捨て、羽田をピカピカに磨くしかないと)、道路政策、四島返還にこだわる北方領土政策を批判し、さらに「核やミサイル問題より拉致問題を優先する不思議な北朝鮮政策」と、次のように批判する。

拉致被害者には深く同情するが、だからといって「拉致問題が解決しなければ話し合いに応じない」という姿勢は、結果的に日本の安全を脅かすことになる。

今や中国やロシアが日本を攻撃してくる可能性はほとんどゼロなので、現実的な脅威は北朝鮮の暴発である。北朝鮮からしても、アメリや中国、ロシアと対決する武力はないし、韓国は大事な援助国だから、攻撃対象になるのは日本しかない。

日本こそ北朝鮮の核やミサイルの凍結が最重要課題なのだ。にもかかわらず日本だけが拉致問題で、6ヶ国協議にストップをかけているのは全く理屈に合わない話なのだと。

特に日本が他の国と違うのは、北朝鮮が暴発した時に防ぐ手段がないことだ。現行憲法では自衛隊はやられた後でなければやり返せない。

現状では黙って核ミサイルでやられるのを待つしかないのだ。しかも6ヶ国協議ではすでにつくった原爆とミサイルは対象になっていない(と思われる)。

まずは核とミサイルの問題を解決する。拉致問題については、北朝鮮が「解決済み」というなら、どう解決ずみなのか、残りの人はどうなったのかと、国民が納得できる回答を求めるべきであろうと。

しかし大前さんがこの話をすれば、新聞記者は拉致問題はどうなっても良いのかと、大前バッシングが起こるだろうことは間違いないと結んでいる。


いつも通りの統計をふんだんに使った政策提言的な内容に加え、かなり突っ込んだ政治的な提言をしているので、大前さんもまた何らかの形で政治に挑戦するのかなと、筆者は自分で勘ぐってしまった。

政策提言も豊富で、面白く示唆に富む内容だ。是非一読、そしてアクションを取ることをおすすめする。


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2007年01月06日

旅の極意 人生の極意 添乗員・大前研一の夢の旅行ガイド

旅の極意、人生の極意


大前研一が選んだ15のプレミアムツアーガイド。

正月休みに読むには最適の夢のツアーガイドだ。

大前さんは世界60カ国を訪問したと書いているが、筆者も商社に長年勤めていたので、国数から言うとたぶん同じくらいの国は訪問している。

だが、なにせもっぱら出張で訪問したので、この本に紹介されているリゾートもほとんど知らないところばかりだ。

コンサルタント業界では世界のトップリゾートで会議を開くことが普通だが、大前さんもマッキンゼーの役得で訪問したリゾートや、人に教えてもらったリゾートなど、15カ所のリゾートを紹介している。

筆者も近くまでは行ったことがあるというところが、いくつかあるが、中でも残念なのはベネチアだ。

筆者はベネチアのあるベネト州に行ったことがあるが、訪問したのは空港からベネチアと反対方向に行ったガリレオも住んでいた大学町パドバで、それも鉄鋼メーカーの工場を訪問したものだ。

工場訪問が終わったら、ベネチアに行くのではなく、イタリア人工場長の運転するBMWで時速200キロ出して、今度は北イタリアのコモ湖の近くのもう一つの工場に訪問したという出張だった。

北イタリアはきれいな避暑地で楽しめたが、それにしてもベネチアに行くのと同じ空港に行って、ベネチアに行けなかったのは残念と言うほかない。

あれやこれやで、多くの国を訪問している筆者でも、この本で紹介されている15カ所のリゾートで、行ったことがあるのはイグアスの滝一カ所というお寒い結果だった。

だからこそこの本が夢のリゾート紹介本に思える。


観光ガイドが大前さんの原点

大前さんは学生時代にクラリネットの名器を買うために、観光ガイドの資格を取って、添乗員のアルバイトに精を出し、念願の14万円のクラリネットを購入した。

当時の大卒の月給が1万5千円程度の時に、チップも入れて一ヶ月で20万円も稼いだときがあったという。

FENを聞いて英語を学び、日本の地理や歴史も勉強し、通訳案内業の資格を史上最年少で取得して学生時代にバリバリ儲けたのだ。

その時にアテンドした観光客は2,000人にものぼり、いまだにその息子や娘夫婦とはつきあいが続いている。後々の大前さんのキャリアーに役だつ人脈ができたという。

大前さんがガイドをしていた頃は昭和37年から42年頃までで、当初は新幹線はなく、どこに行っても和式トイレばかりで、マイペースな外国人を連れて目的地への到達時間を念頭に置き、逆算しながら行動していたので、いきおい用意周到になったという。

コンサルタント大前研一の原点は添乗員時代にあると言っても良いと。

英語力のみならず、統率力、対人関係、合理的な時間の使い方、プレゼンテーション、顧客管理というビジネスの手法までが身に付いたという。

とっておきのリゾート

大前さんがこの本で紹介しているリゾートは次の通りだ:

1.南フランス コートダジュール アンティーブ 白亜の殿堂ホテル
2.アマルフィ海岸 南イタリア ナポリ近郊 ナポリを見て死ね
3.ホテルダニエリ ベネチア 美術品のような内装
4.ポンタヴェン&モン・サン・ミッシェル ノルマンディ 牡蠣と景勝地
5.シリアライン フィンランド バルト海のクルーズ 白夜のクルーズ
6.ドバイ 超近代的金持ちリゾート
7.アマンプリ タイ プーケット 地上の楽園 40部屋に600人の従業員
8.カサ・デ・カンポ ドミニカ 極上の巨大パラダイス
9.コナ・ヴィレッジ・リゾート ハワイ島 なにもしないことが最高の贅沢
10.パラオ ダイバーのパラダイス
11.ノース・ストラッドブローク島 ゴールドコースト 4WDで疾走
12.ウィスラー カナダ 言わずとしれたスキーヤーの天国
13.グレンイーグルス スコットランド ゴルフ苦行がしたいならここ
14.イグアスの滝 アルゼンチン、ブラジル国境 世界一のスケール
15.プラハ チェコ 文化と歴史の宝庫中欧

詳しくは本を読んでのお楽しみということで、それぞれひとことだけ紹介を書くのにとどめておく。

どこのリゾートでも超一流ホテルとおすすめレストラン、普通の旅行ガイドなどには載っていない楽しみ方を、大前さん自身の経験から紹介している。

カリブ海などは日本から直接行くよりもアメリカでオプションツアーを買ったら良いとか、親身になってのアドバイスは、さすが元添乗員だけある。

気軽に読めて、読んだだけでリッチな気分になれる。おすすめの本である。


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2006年11月05日

ハイコンセプト 「新しいこと」を考え出す人の時代 大前研一訳の21世紀の勝ち組

ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代


本の帯がふるっている。

21世紀にまともな給料をもらって、良い生活をしようと思った時に何をしなければならないか ー 本書は、この「100万ドルの価値がある質問」に初めて真っ正面から答を示した、アメリカの大ベストセラーである。大前研一

大前さんの訳者解説がこの本の内容をよくまとめているので、大前さんの解説を中心にあらすじを紹介する。

「格差社会」を勝ち抜くための三条件

私は、この本の翻訳を二つ返事で引き受けた。それほどこの本は、これからの日本人にとって大きな意味があるからだ。

それはいま話題の「格差社会」という問題に深くかかわっている。

経済のグローバル化で、中国で生産できるものは中国に、ITなどインドでできるものはインドで、というふうに少しでも人件費が安くすむ地域へ産業は引っ張られ、下の給料は中国・インドに引っ張られる。

一方上の方は、アメリカのプロフェッショナルに引っ張られる。トレーダー、大手コンサルタントなど億単位の給料を貰うのが普通になった。

所得分布がM字型になったとき、われわれは何をしたらよいのか、上に行くには、次の三つを考えなければならない。

1.「よその国、特に途上国にできること」は避ける
2.「コンピューターやロボットにできること」は避ける
3.「反復性のあること」も避ける
   反復性があることは、コンピューターがやってしまうか、アウトソーシングされるからだ

(以上の3点は大前さんのまとめだが、著者のダニエル・ピンクはこう付け加える。

4.自分が提供しているものは、豊かな時代の非物質的で超越した欲望を満足させられるだろうか?)

要するに、これからは創造性があり、反復性がないこと、イノベーションとか、クリエイティブ、プロデュース、といったキーワードに代表される能力が必要となってくる。


第四の波

アルビン・トフラーの『第三の波』はいまや古典的名著だが、大前さんはトフラーと旧知の仲で、トフラーはビジネスブレークスルーの出資者の一人でもあるので、この本の題名を『第四の波』としていいかどうか、トフラー夫妻に聞いたという。

第三の波とは。第一の波(農耕社会)、第二の波(産業社会)が終わって、これからはナレッジ・ワーカーの情報化社会だというものだ。

このナレッジ・ワーカーの仕事が急速にコンピューターやインターネットに取って代わられてしまっている。弁護士や会計士の仕事を100ドル程度のソフトが肩代わりしているのだ。

それが著者のダニエル・ピンクが提唱する情報化社会から「コンセプチュアル社会」、右脳主体の発想ができる突出した個人の時代となりつつある現在なのだ。


専門力ではない総合力の時代

今まではある種の知識を持った特定の人たちの世の中だった。プログラマー、弁護士、MBA取得者など。

これからは、何かを創造できる人や他人と共感出来る人、つまり芸術家、発明家、デザイナー、ストーリーテラー、介護従事者、カウンセラー、そして総括的に物事を考えられる人たちの時代である。

いままではMBA資格が重視されていたが、これからはMFA(Master of Fine Art)が最も注目されている資格だ。

情報化社会を引っ張ってきた左脳的能力だけではだめで、右脳的な資質が重要になってくる。


6つのセンス

ダニエル・ピンクが重視する6つのセンスとはデザイン、物語、調和、共感、遊び、生きがいだ。

1.これからは機能だけでなくデザインが意味を持ってくる。

2.誰でもすぐにタダで検索できる時代の情報価値は、人に訴えかけることができる物語である。

3.個別よりも全体のシンフォニー(断片をつなぎあわせて統合する能力)が重要だ。これから成功するタイプは、マルチタスク、発明できる人、巧みな比喩(メタフォー)が作れる人である。

4.相手を説得するのは論理ではなく、共感をつくれることが重要だ。これは相手の感情を読みとる能力だ。

5.まじめだけでなく遊び心が重要だ。

米軍のAmerica's Armyテレビゲームを紹介している。

米軍は志願者が減少している現実を踏まえ、志願者を増やす方法として、なんと擬似的に軍の生活や作戦を体験できるゲームをつくって理解を広めることを始めた。

まさに遊び心である。


America's Army








いまやAmerica's Armyは760万人がダウンロードした大人気ゲームとなっている。

America's Armyは目的を達成する上で必要なチームワークや価値観、および責任を強調しているという点で、他のゲームとは一線を画すものだ。

6.物よりも生きがい

最後に、ダライラマの言葉を紹介している。

科学と仏教はとてもよく似ています。なぜなら、どちらもリアリティの本質を探ろうとしているからです。そして、どちらも、人類の苦しみを軽減することを目標としているのです。


ハイコンセプト、ハイタッチの時代

ダニエル・ピンクはこれからは、右脳中心のクリエイティブさ、人々の共感を得られるかどうかが重視されるハイコンセプト、ハイタッチの時代だという。

このことを強烈に印象に残る形で説明しているのが、本文にはない大前さんの解説の「カンニングOK」社会への転換という点だ。

今の義務教育で教えているようなことは、メモリーチップに入れるとせいぜい100円程度の価値しかないという。そこまでつぶしがきかなくなった。

現実にアメリカの高校ではカンニングを容認するようになってきたという。

答のない時代のいま、世の中に出たら、知識を持っていることよりも、多くの人の意見を聞いて自分の考えをまとめる能力、あるいは壁にぶつかったらそれを突破するアイデアと勇気を持った人の方が貴重なのである。

自分一人で考えたり、覚えていることは二束三文の価値しかない。学校で教えてくれる程度のことも二束三文の価値しかないのだ。


教育基本法改正が現在論議になっているが、ダニエル・ピンクの提唱するような右脳素質を伸ばし、21世紀に世界じゅうの国と対等に戦えるクリエイティブな日本人を育成する戦略となっているのだろうか?

筆者も反省するところ大だが、知識詰め込み物知り人間では、世の中が情報検索無料、「カンニングOK」の時代になってきたら役に立たない。

カンニングOKの時代でも競争力のある人材が21世紀の勝ち組となるのだ。大前さんの解説がこの本の価値をより一層高めている。考えさせられる良い本である。


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2006年09月12日

ロウアーミドルの衝撃 大前研一の生活者大国への政治提言

ロウアーミドルの衝撃


大前研一は1990年前後に平成維新の会を立ち上げ、以前からの持論である道州制や生活者主権を提唱して1995年に都知事選に出馬したが、青島幸男他に惨敗し、政界進出をオールクリアした。

生活者主権の基本となる著書としては、新・国富論
平成維新
平成維新〈PART2〉国家主権から生活者主権へ
新 大前研一レポート
などがある。

オールクリアしてからは、ほとんどビジネス関係がメインで、他にアタッカーズビジネススクール、ビジネスブレークスルー大学院大学等に関する著作を時々出していたが、このロウアーミドルの衝撃は、改めて政治提言として生活者主権を提唱している。

2006年は、90年代から始まった日本の長期衰退から抜けだすことができるか、あるいは没落の道を進むのかの分岐点なのであると。


M字型社会

日本は90年代後半から始まった所得減少にともない、総中流社会が崩壊し、年収600万円から1,000万円のアッパーミドルクラスが減少し、年収600万円以下のロウアーミドルクラスが8割を占める様になった。

1,000万円以上の高所得階層は5%前後でわずかながら増加しているが、一番増加したのが300万円以下のロウアークラスである。

ロウアークラスから始めるが、いずれは年収も増えてアッパーミドルクラス、うまくすればアッパークラスで定年を迎えるというシナリオが崩れ、年収は増えないのでロウアーミドルクラスからはい上がれない時代になってきた。

アメリカも1970年代までは総中流社会だったが、70年代後半からレーガン革命を経て、低所得層と高所得層のM字型社会が形成された。日本はアメリカに遅れること30年でM字型社会に突入したと大前氏は語る。


なんちゃって自由が丘

M字型社会に移行するに従って、ミドルクラスをターゲットとしていたGMSは凋落し、ロウアークラスを顧客にするディスカウントストアが台頭してきた。アメリカではGMSの代表のシアーズはとうとう2004年にKマートに買収されてしまった。

日本でも同じことが起こっており、ここ2−3年で利用を増やした業態はネットショップ、100円ショップ、食品スーパー、コンビニ、ドラッグストアで、逆に減らした業態は百貨店、カジュアル衣料専門店、GMSだ。

ロウアーミドルクラス向けの低価格小売業が躍進しているのだ。

しかしそんな中で売上を伸ばしている企業は単に安いだけではない。

キーワードは『なんちゃって自由が丘』だ。これは価格は安いが、センスは自由が丘という商品やサービスのことである。

いずれは住みたいと思っていた街=自由が丘には住めないが、その雰囲気だけは楽しみたいという人が大多数になっているからである。

この例がナチュラルキッチンだ。100円ショップだが、扱っているのはおしゃれな人気輸入雑貨店などに置いてあるようなセンスの良い商品だ。センスはアッパーミドル、価格はロウアーミドルというコンセプトが消費者にうけているのだと。

六本木ヒルズにあるZaraもセンスが良くて安い衣料を揃えて人気がある。

アイリスオーヤマの着せ替えソファー、車であればラグジュアリー・コンパクトカー、ニューラグジュアリー、少し無理すれば手が届くというコーチなどのアクセシブルラグジュアリーも人気だ。

二極化する消費者に対して、別々の商品開発を行っている企業もある。たとえば日清食品は、グータは価格が300円前後で年収700万円以上の層向けなので、ディスカウントストアでは販売せず、年収400万円以下の層には100円前後の商品を販売している。

生活の質を上げて、コストを下げる。今まで大前研一が破れ太鼓のように言い続けていることが現実となってきたのだ。


ライフスタイルを見直す

家、車、教育の見直しで生涯支出額が5,000万円は浮くと大前氏は語る。

日本の消費者の偏見を見直すべきであると。たとえば東京の西高東低の住居価格。これを捨てるだけでコストが安く、広い住居に住める。

またBSEも偏見の最たるものであると。日本ではBSEは20頭、アメリカでは2頭、アメリカは日本の100倍の牛がいるから、BSEの可能性は日本より少ない。にもかかわらず何故国産牛は安全で、米国牛は危険なのか?こんな理不尽なことをしているから、世界から偏狭な国と思われれてしまうのだと。

生活者大国を目指すには、農業補助金で穀物メジャーを買収せよと語る。また市場を開放して、許認可を廃止すれば世界中の安い建材や工法で日本でも600万円で家が建つと語る。

世界的には年収600万円はアッパークラスであり、食品や建物に対する規制を撤廃することで、生活の質が高められるのだ。


公務員はリストラできない

公務員には失業保険はなく、失業させる法律もない。公務員はリストラできないのであると。まずはここから手を着けなければならないと。

公務員以外で身分が保障されているのは第1次産業従事者である。巨大な農業、漁業補助金は、既得権のかたまりだ。


所得税を廃止し、資産課税に切り替える

政府税調はサラリーマン増税を提唱するが、大前研一が提唱する税制改革提案は所得税を廃止して、資産課税に切り替えるというものだ。

日本の社会が成熟期を迎え、フローは減るが、ストックは増えるからだ。

もう一つは付加価値税である。消費税の様なものではなく、製品なりサービスなりに付加価値が加わる段階で課税するものだ。

現行の消費税は徴税のがれの部分が多く、5%課税しているにもかかわらず、約10兆円の税収にしかなっていない。これをヨーロッパ諸国で導入されている透明性の高いインボイス方式を導入すれば、ごまかしが効かないと。

さらに大前研一は付加価値税は道州税とし、資産課税はコミュニティ税として、すっきりした体系とすべきであると。そして国には税収の5%を上納し、外交や防衛など国でしかできないことをやることにする。

大前氏の20年来の持論である道州制も必須だ。

日本を11の地域に分けると、首都圏道は世界7位の経済規模、関西道は世界14位、中部道17位、九州道19位、関東道24位と言った具合に世界規模のブロック経済として相互に競いあい、発展するのだ。


次期首相にやってもらいたいこと

まとめとして大前さんは次の4点を挙げる:

1.統治機構の抜本的変更(道州制の導入)
2.道州制と高齢化社会に合致した、簡素化した税制の採用
3.世界のどこに出しても活躍できる人材の育成
4.生活者の立場で考える行政府の設置

誰が首相になっても、上記がすぐ実現できるとは思えないが、道州制は議論もされだしており、20年を経てやっと大前氏の持論が日の目をみるかもしれない。

最初の第1章は具体例が少なく、いつもの大前節らしくなかったが、2章以下のなんちゃって自由が丘から調子が出てきた。

おすすめできる、参考になる本である。


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2006年06月17日

即戦力の磨き方 大前研一の最近の著作のダイジェスト

即戦力の磨き方


堀紘一さんの著書でもふれたが、トップコンサルタント揃い踏みで、最近刊行されたPHPビジネス新書の新刊である。

PHPの本はアマゾンでなかみ検索ができるので、一度目次などを見て頂きたい。

大前研一氏の著作でいつも感心するのは、ほとんどネタの使い回しがないことだ。

このブログでもこの1年半で大前氏の著書を10冊以上紹介しているが、常にネタは新鮮で、あくなき探求心に頭が下がる。

その大前氏のここ1−2年の著作で紹介したネタを一冊にまとめたのがこの本だ。

大前さんは即戦力を磨くには次の力をつけろと語る。

1.語学力
2.財務力
3.問題解決力

たしか別の著作では3番目にIT活用力を挙げていたが、今回は問題解決力としている。

この3つ以外にこの本では勉強法とマッキンゼー式会話術を紹介している。

『ザ・プロフェッショナル』という本を以前紹介したので、できればご参照願いたいが、21世紀の新しい大陸で生き残れるのは真のプロフェッショナルだけであると。

大前さんの勉強術では60歳より先の人生を考えて勉強せよと説く。

毎年テーマを決めて集中的に勉強し、その分野の専門家をしのぐ本が書ける様になるというのが大前さんの勉強法だ。

2002年から続けて『チャイナ・インパクト』とか『中国シフト』、『中華連邦』という中国3部作を出版したが、これも大前さんの勉強の成果であると。

最近は『東欧チャンス』、今はトルコを研究していると。

当ブログでは大前さんの多くの本のあらすじを紹介済みなので、この本の詳しいあらすじは紹介しないが、手軽に読め、大前さんの最近のネタがまとめて紹介されているので便利だ。

大前さんの最近の考えを1冊で知りたいという人には是非おすすめできる本だ。


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2006年05月06日

私はこうして発想する 大前研一の21世紀を生き抜く発想術

私はこうして発想する


大前研一氏のビジネスブレークスルー(BBT)大学院大学の紹介を中心とした21世紀に通用する人材育成の提言。

大前研一氏の設立したビジネスブレークスルー大学院大学は、MBA取得のためのコースとして1998年にスカパーを使った衛星放送チャンネルとして始まり、2005年に株式会社ビジネスブレークスルーとなった。

勝手連的に始まったアタッカーズビジネススクール一新塾とならぶ大前さんの組織的活動である

スカパーで多くのチャンネルが始まったが、結局現在はテレビ通販とアダルト程度しか採算がとれていないなかで、ビジネスブレークスルーは数少ない生き残りの一つである。

日本で例のない校舎のない大学院を目指し、CS放送とインターネットを駆使した遠隔教育の先駆者として4,000時間以上の膨大な教育コンテンツを蓄積しており、ビジネス基礎講座とか、経営者ライブ、大前研一ライブといった番組を放送している。

Aircampusというインターネットによる双方向授業のためのソフトウェアを開発して、遠隔教育でも対面教育に匹敵するクオリティの授業が行えると。

大前氏の発想の技術は次の6つのメソッドによる発想の積み重ねであると:

メソッド 1 先入観を疑う
メソッド 2 ネットワークから考える
メソッド 3 他ににはないものを目指す
メソッド 4 歴史から教訓を引き出す
メソッド 5 敵の立場で読む
メソッド 6 討論する

21世紀を生き抜くために最も重要なスキルが、発想する技術であると大前さんは語る。

それぞれのメソッドの印象に残った話を紹介しよう。


メソッド1 先入観を疑え

『少子化は大学の危機』とは先入観である。大学はOBに門戸を開けと提案する。

BBTの一期生の平均年齢は38歳、30代が54%、40代が34%で、44%が公認会計士、税理士、中小企業診断士などの資格を持ち、医師、薬剤師もいる。

経営について教えるなら、やはり数年以上の経験のある人たちを対象とすべきであると。

忙しい社会人のための教育ツールが遠隔教育システムのAircampusである。

人口減少に即効薬のクスリは移民を受け入れることであると。

一新塾の新刊書『一新力』で外国人との共生プロジェクトを紹介したが、大前さんの提唱する移民を受け入れるためには、外国人労働者との共生が機能しなければならない。

『一新力』の紹介でもふれたが、一新塾は単に口で言うだけでなく、地に足ついた意義ある活動をしているので感心する。


メソッド2 ネットワークから考える

大前さんのいうネットワークとは、顧客との接点の話だ。いわゆる『ラスト1マイル』とも言えると思う。

BBT大学院大学は、CS放送でUSC(南カリフォルニア大学)のMBA取得コースを始めたが、USCから放送では出席を取れないため、単位が付与できないと指摘された。そのためインターネットを利用した独自の視聴認証システムを開発して、ビジネスモデル特許を取得した。

インターネットの出現を見たときに、大前さんはこれで双方向の授業を実現できるネットワークができると考えたそうだ。

『放送とITの融合』といっても、自前のテレビ局を持てば、他の局のコンテンツは扱えず色つきのネットワークとなってしまうので、ホリエモンは本気でないと見破ったそうだ。

一番重要なのは「インターネットのユーザーは選択を好む」ということである。

さまざまなコンテンツを一箇所ですべて比較できることがベストであり、『無任所中立』というのが一番優れている。

流しっぱなしのテレビに対してケーブルテレビのような課金できるネットワークは強い。ITと放送の融合が実現していると大前さんは語っている。


メソッド3 ”他にはないもの”を目指す

大前さんはCNNの例を挙げている。アメリカの3大ネットワークは幕の内弁当で、CNNは一品料理で成功した。

余談であるが、マイクロソフトのXbox 360も恐るべき機械であると。大前さんはこれを見たときにソニーは次世代ゲーム機では負けるなと思ったと。CNETの記事も引用しておく。

「家庭において、いかに放送とITの融和を起こしていくか」という明確な戦略と哲学が詰め込まれているのだと。

今後ブロードバンドを使ってパソコンでビデオをダウンロードし、それをXbox 360に転送して、リビングのテレビで見るとか、パソコンに入っている旅行の写真をXbox 360に転送して、テレビで見るという、いわば21世紀のデジタル幻灯機(プロジェクター)なのだと。

筆者はこの説明を聞いてもまだピンとこないが、ゲーム業界がどうなるか注目したい。

ソニーはPS3をハイビジョン画質をウリにしようとしているが、子供たち用の小さなテレビでは、PS3のどこがすごいのか実感できないのだと。泥んこ道をフェラーリで走る様なものだと。


メソッド4 歴史から教訓を引き出す

昨年中国の反日デモなどが報道され、中国の若い世代は反日教育が刷り込まれており、問題の根は深いと言われ、日本の経済界でも悲観論が出ている。

これを歴史から教訓を引き出して、突破してみようと大前さんは語る。

中国のイデオロギー教育は、反日に転換する前は、反米、反資本主義であり、その時々で変わる。また中国は内政問題があり、『敵がいないと困る国』なのであると。

日本企業は1980年代にアメリカで起こった強烈なジャパン・バッシングを切り抜け、米国市場で成功した。

それは日本企業が「アメリカ市場抜きでは生きていけない」と不退転の決意を持っていたから切り抜けられたのであると。

台湾企業は「狭い台湾では生き残れない。中国で成功しなかったら未来はない」という意識で中国に大挙して進出している。

日本企業も同じことで、『今こそ中国市場に突っ込む』という発想を持って欲しいと語る。

トップで中国語を勉強している人がどれだけいるか?と。米国市場に対してと同様の熱意と信念で取り組むべきであると提言する。

大前さんはこの章の最後に靖国神社問題にふれている。

戦後30年以上A級戦犯は合祀されていなかった。昭和天皇はかつては、毎年夏に靖国神社にいっていたものが、A級戦犯が合祀されてからは行かなくなった。大前氏は昭和天皇の判断を正しいと思うと。

大前さんは20年近く前に書いた『新・国富論』で、A級戦犯の合祀をやめ、参拝のための場所を別につくるべきだと主張したが、それは今でも変わらないと。


大前研一の新・国富論



メソッド5 敵の立場で読む

この場合の敵とはビジネス上のライバルあるいは顧客などである。

『お客の立場になって考える』というのが大前さんの基本である。

『相手の立場になって考えてみる』ーこれはビジネスに限らず、言い古された言葉ではあるが、問題点を把握するためには不可欠の手段であると大前さんも語る。

練習問題として『あなたが金正日だったらどうする』をあげている。

また韓国経済人のホンネということで、北朝鮮と南北統一したら、人口7千万人の核保有国が東アジアに誕生するので、日本と中国との間のバランサーとなると指摘している。

日本では韓国がこのように変質したと認識しているマスコミはほとんどないが、日本の常任理事国入りに反対するのも、こういった南北統一後の核保有国としての韓国の方が常任理事国にふさわしいという未来像があるからであると。

21世紀は韓国の時代であると韓国人は思い始めていると。

『中国は日本を併合する』というエキセントリックなタイトルの本が最近出たので、近々あらすじを紹介するが、日本外交は本当に今のままでよいのか、筆者は大いに疑問に思っている。

小泉首相の靖国問題のミスハンドルで、どれほど貴重な時間を浪費し、国益を損ねたかわからない。

ゴールデンウィークにアフリカに行く前に、中国、韓国との関係を正常化しろと言いたいが、もはや小泉首相では無理だろう。小沢一郎に期待している昨今である。


メソッド6 討論する

BBT大学院大学はAircampusを使って、リアルタイム・オンライン・ケーススタディを行っている。

パワーポイントはもちろん、4,000時間にもおよぶBBTの過去の講義へのリンクを貼ることができ、事実に基づく議論ができるのだ。

いわばインターネット上の掲示板の様なものだが、一週間で千件の発言を呼ぶこともあると。

大前さんが教鞭を取る『新・資本論ケーススタディ』は、その時注目を集めているテーマで学生たちの集中力を高めている。

上記の金正日の質問もこのケーススタディで使った題材だ。他に「あなたが三菱自動車のトップならどうする?」など、最新の話題をケースにして研究している。

普通の大学院は、たとえばハーバードビジネススクールでも、会社を研究してケーススタディに取り上げるまでに平均9ヶ月、長いものでは数年かかっている。

これでは『死体解剖』であり、あらかじめ答を導き出すフレーム(枠組み)が決まっており、答えも決まっていると。

しかし経営の現実はそんな簡単なものではないので、枠組みを越えた発想が、新しい時代を切り開いていくのだと。


最後に

大前さんは松下幸之助の『とらわれない素直な心』で見ると、違う景色、違う発想ができると説く。

今の日本の最大の問題は少子高齢化でも、財政赤字でもなく、今の人材ではこれまでのような経済競争力を維持していくことはできないということであると。

『世界のどこに出しても恥ずかしくない』『どこに出してもリーダーシップがふるえる』21世紀型の人材をつくる教育がないことが最大の問題であると。

筆者も同感である。

トヨタが全寮制の中等教育学校を始めたが、これも同じ様な問題意識からだと思う。

簡単に世の中を変えることができるとは思わないが、しかし日本全体の意識を変えて行くには、マスコミなどに報道されない事実を知ることと、FAW(Forces At Work)背後で動いている力がなにかを考える姿勢を、一人一人が持つことが重要だと思う。

ウェブ2.0がすすみ、ブログなどを通して個人が自らの意見を発表する場は今後とも増えていくと思うが、筆者も大前さんなどの良書のあらすじを紹介することで、少しでも多くの人が問題意識を共有できるよう心がけたい。


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2006年04月28日

ザ・プロフェッショナル 大前研一の予言 日本でもプロフェッショナルクラスが台頭する

ザ・プロフェッショナル


大前研一は好きな著者の一人なので、このブログでも多く紹介してきたが、今回の本では大前さんは、プロフェッショナルクラスが日本でも台頭してくると予言する。

次回紹介する松下幸之助の400万部超のベストセラー『道をひらく』によると、「プロとは、その道をわが職業としている専門家のことである。職業専門家とは、つまりその道において、一人前にメシが食える、ということである」と定義しているが、これは40年前、1968年の定義であり、大前さんは、いわば『プロ中のプロ』という意味でプロフェッショナルを定義する。

プロフェッショナルは専門性の高い知識とスキル、高い倫理観はもとより、例外なき顧客第一主義、あくなき好奇心と向上心、そして厳格な規律、これらをもれなく兼ね備えた人材だと。

『顧客の顧客』に目を配っている人、己の技量を一生かけて磨き続けてしまう人、日本人大リーガーであればイチローと松井秀喜がプロフェッショナルだと大前さんは語る。


プロフェッショナルに必要な力

プロフェッショナルの必要な力は次の通りであると;

1.先見する力

2.構想する力

3.議論する力

4.矛盾に適応する力

それぞれ具体例を紹介し、大前さんは説明しているが、上記表題だけ読んでも大体想像ができると思う。


松下幸之助の影響

以前紹介した松下幸之助の言葉を集めた『成功の法則』を読むまで気が付かなかったが、大前さんもかなり松下幸之助に影響を受けている。

いままで多くの大前さんの著作を読んできたが、松下幸之助の逸話はあまり印象に残っていない。たぶん単に筆者が読みすごしていただけだろう。

前回紹介した柳田邦男氏の『もう一度読みたかった本』再読のすすめにならって、大前さんの代表作も再度読み直してみようと思う。

この本でもソニーの盛田さん、オムロンの立石一真さんとともに、松下幸之助のエピソードがいくつか紹介されている。

松下幸之助は質問の上手な経営者だったと。難しい意志決定に直面した時は、必ず3人以上の社員を呼んで、「それはなぜか」と質問を繰り返し、問題の本質を見極め、自分の判断に最も近い考えをする社員に権限を持たせた。

松下幸之助はいい加減な妥協はしないことの重要性を説いた。得心がいかない時は、仕事を進めず、時機を得て、完璧を期すのだと。アメリカ企業からの技術導入でもこれを貫いた。納得できなければ合意しなかったのだ。

この話は誰かの本で以前読んだことがある。たしかオーティスエレベーターとの合弁会社設立の話だったと思う。

また松下幸之助は経営が内包する矛盾をよく理解し、見事な決断をする経営者だった。

ホームビデオ開発のVHSが良い例だ。松下はフィリップスと一緒にV2000を開発していたが、子会社のビクターはVHSを開発。松下幸之助は700名くらいの技術者の意見に耳を傾け、V2000を断念してVHSに社運をかけるという意志決定をした。

既に数百億円投じたV2000をドブに捨て、自己のエゴを捨て、ソニーに勝つという信念のもと、みずから築いた家電王国をまもるベストの選択をした。

どんなにすばらしいビジネスプランでも、「必ず成功する」という強い信念がなければ、ビジネスは成就しないと大前さんは説く。まさに松下幸之助のダム理論の通り、それに影響された稲盛和夫さんの教え通りである。

かつての日本の経営者には強い信念と覚悟があったが、最近の経営者には欠けていると大前さんは言う。カルロス・ゴーンやマツダのジェームズ・ミラーはかつて世界が賞賛した日本の経営者の『忘れ形見』であるとまで言っている。

筆者ももっと松下幸之助を研究してみようと思う。


面白いストーリーが紹介されているので、一度手にとってみて頂きたいが、印象に残った話をいくつか紹介する。


リクルートのカンニバリゼーション

リクルートはライバル事業を社内に興して成長している。

リクナビは圧倒的な強さを見せているが、かつて就職情報は紙媒体が主だった時、リクルートの創始者の江副さんは「どうせ淘汰されるなら、リクルートの人間に淘汰してもらいたい」と紙媒体からインターネットへの転換を語っていたと。

自分で自分を否定するところからリクルートの成功は始まったのだ。


マルチプル経済

この本はまだライブドアの粉飾決算が公になる前の2005年9月に出版されている。

ライブドアとフジテレビについて大前さんは、経営を知らないホリエモンが、フジテレビのスーパー・ゼネラリストとして誉れの高かった日枝久会長を、赤子の手をひねるように土下座させたと表現している。

経営を知っている人よりも、知らない人のほうが経済に大きなインパクトを与える。これがマルチプル経済であると。

実体の収益力よりも市場の成長性、会社の将来性で、会社の評価は収益力の何十倍にもなっているのだ。このようなマルチプル経済下では、通常ありえないことが起こる時代である。


松下幸之助の偉大さを改めて感じた大前さんの近作だった。


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2006年03月30日

一新力 市民のための政策学校一新塾 『主体的市民』の集まる場がここにある

一新力 ~自分をALL CLEARする勇気ありますか?


一新塾に参加している友人に送って貰った本を読んでみた。

大前研一氏はマッキンゼーを退社して、1992年に平成維新の会を結成して政治活動を開始。『大統領と同様の強大な権限がある東京都知事』選挙に打って出たが、あえなく落選。


平成維新


今で言う政策マニフェストを用意して、都民の良識に訴えたが、全く泣かず飛ばずで、たしか5位くらいだったような記憶がある。

筆者も実は大前氏に一票を投じたのだが、日本で超一流のインテリの大前氏をもってしても、外での選挙活動を一切せずに自宅に引きこもっていたタレントの青島幸男に敗れたことで衝撃を受け、あらためて日本の政治を変えることは難しいと感じた記憶がある。

大前氏は都知事選落選を機に政治活動は一切やめ、その体験を『敗戦記』に書いてオールクリアした。


大前研一 敗戦記


大前氏自身の政治活動はその時に終わったが、平成維新の会で集まった問題意識を持った人々が勝手連的に作り上げたのが、一新塾アタッカーズビジネススクールだ。

一新塾は市民活動の為の政策学校、アタッカーズビジネススクールはビジネススクールという違いはあるが、それぞれユニークな活動をしている。

一新塾は東京三田の30坪弱のスペースにパイプいす80脚を置いて、平日夜に週1回、土日に月1回、講義とディスカッション、小グループ活動などを行っている。事務局長の森嶋伸夫さんが世話役だ。

合宿研修もあり、入会金は3万円、受講料は17万円(分割払いあり)で、学習塾よりずっと安い。

2002年より株式会社からNPOに組織替えした。

塾生は本科60名、地方在住者向けの通信科が40名で、一期約100名の塾生を、17期まで輩出し、卒塾生は2,600人を越え、地方議員54名、国会議員4名、市長2名を輩出している。

この本では一新塾の様々な活動が紹介されている。


超一流の講師陣

一新塾の講師リストはスゴイ。一新塾のホームページに過去や今年の講師の紹介がある。

青山貞一さん片岡勝さんの一新塾の代表理事をはじめ、松沢神奈川県知事、上田埼玉県知事、片山善博鳥取県知事、台湾総督府顧問金美齢さん楽天取締役の小林正忠氏、精神科医の和田秀樹氏、自民党の河野太郎氏、社民党の福島みずほ氏、一新塾出身の国会議員、市長、市民活動家等々様々な分野で活躍している人を選りすぐっている。

しかし一新塾は教室で様々な人の講義を聞くためだけの塾ではない。『生活者主権』をめざす『主体的市民』として(1)政策提言、(2)社会起業、(3)市民プロジェクトのチーム活動に参加し、現場での活動を重んじている。

講義は週一回だが、それ以外の平日の夜とか土日はチーム活動で塾生が集まり、活発な議論がなされている。

創設者の大前研一氏も講師として登場したことはあるが、アタッカーズビジネススクールの様に、学期の最初と最後に講義するということはなく、大前さんは一新塾ではあくまでも創始者としての関わり合いだ。


市民プロジェクト・社会起業のインキュベートの場

この本では多くの市民プロジェクトがレポートされている。そのいくつかを紹介する。

既に何年か続いているものとしては、元々大前さんが提唱し平成維新の会が推進した道州制の実現を目指す道州制ドットコム、投票所でもらえる選挙済証を商店街の割引クーポンとして受け入れ投票率向上をめざす選挙セール、経営不振で廃業が相次ぐ年金を使って建設されたグリーンピアなどのハコモノを再生するプロジェクトなどがある。

新しいプロジェクトとしては、日本に住む外国人労働者との共生を研究する外国人・多文化共生プロジェクトや、病気の子供も預かる病児保育プロジェクト、生活の安定しない芸術家を助ける芸術家のくすり箱プロジェクトなども紹介されている。

外国人・多文化共生プロジェクトは、少子高齢化時代に突入し、予想される深刻な労働力不足のため外国人労働者の受け入れ拡大が叫ばれている今の日本にとって、非常にタイムリーで、意義あるプロジェクトだと思う。

日本には200万人もの外国人労働者が住んでおり、彼らとの共生は必要だが、相互の交流・理解不足のために、先日の広島の履歴詐称ペルー人の女子児童殺害事件などが起きると、言葉の問題、生活習慣の違いなどから外国人全体に対する偏見や誤解が生まれやすい現状だと思う。

このプロジェクトでは、中南米系の労働者が多い群馬県太田市、静岡県富士市など1年間で10箇所余りの自治体を訪問、市役所や、学校などを訪問し、まさに『現場主義』で調査を行い、『ゼロベース思考』で白紙の段階から議論を始め、神奈川県、埼玉県などに政策提言を行っている。

芸術家のくすり箱プロジェクトとは、収入が安定しない芸術家の健康をサポートしようというものだ。

たしか大前さんの『質問する力』に、クラシック音楽の演奏でメシを食える人は日本でも数えるほどしかいないと書いてあったが、芸術で安定的に収入を得られる人はほんの一握りだ。

ほとんどが不安定な収入とアルバイトで暮らしており、ケガや病気でもしたら生活に困窮してしまう。

そんな芸術家たちを助けようというプロジェクトだ。


オールクリアからの始まり

一新塾に参加している人たち、特にビジネスマンは、筆者の友人もそうだが、それまでの経歴をオールクリアして、この活動に一市民として参加する人が多い様だ。

より良き社会にする為に、これからの人生を有効に使おうと決心した一新塾の人たちには頭が下がる思いだ。

楽天の三木谷さんも、「なにができたら成功だと思いますか」と聞かれて、「フェアな社会ができること」と答えたと、どこかで読んだ記憶があるが、ビジネスを通じてでも、あるいは市民活動を通じてでも、より良き社会にすることは可能だと思う。

筆者は当面ビジネスのキャリアを続けるつもりだが、いずれは一新塾の様な魅力あるチームに加わりたいと感じた。

大前さんが平成維新の会を立ち上げ、都知事選に出馬したが、あえなく落選し、一度は地面に落ちた花から種が成長して、だんだんに花開いてきた様な気がする。

是非これからも『主体的市民』として、世界に誇れるユニークなNPO活動を続けていって欲しいものだ。

ちなみに、この本については、欲を言えばもう少し一般の人にもわかりやすく編集上の配慮をして貰えば、さらに良い本になると思う。

たとえば左ページの上に2002年12月からの講師名、講演タイトル、日付が記されており、その数100を超え、講師陣の充実ぶりがよくわかるが、ここに書いてあるのは過去の講義記録だという旨の説明が、筆者には見つけられなかったので、てっきり普通の本の様に、そのページの章題が記されているものと思っていた。

再度読み直して、はじめてここに書かれているのは講義記録だということに気が付いた。

すごい講義記録だが、気が付かなくてはなにもならない。

ともあれ多くの人の活動や講義を紹介しており、その意気込みとエネルギーには感服する。

一新塾の多彩な活動がわかる好著である。


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2006年03月23日

遊ぶ奴ほどよくデキる! 大前さんの計画的遊び、趣味、家族マネージメントのすすめ

亡き友 篠塚一太君の"Work hard. Play hard."を思い出す

筆者は商社に勤めているが、会社の長い歴史の中で飛行機事故で亡くなったのは二人しかいない。それほど飛行機事故に遭うリスクは小さいということだが、二人とも1984年8月のバングラデッシュの飛行機墜落事故で亡くなった。

そのうちの一人は筆者の職場の後輩、篠塚一太君だった。

当時ちょうど筆者も篠塚君もゴルフで50を切るかどうかという時だったので、よく一緒にゴルフに行ったが、彼がよく言っていた言葉が"Work hard. Play hard"だった。

決して洗練された言葉ではなく、和製英語かもしれないが、気持ちは伝わると思う。

この大前さんのエッセーも同じ『良く遊び、良く働け』の精神で、亡き友 篠塚一太君を思い出す。仕事は精一杯やりながら人生を楽しむ様々な実例が紹介されていて面白く、参考になる。


遊ぶ奴ほどよくデキる!


はじめに大前さんのメッセージがある。「『オン』と同じくらい『オフ』にも若いうちから神経を使い、クレバーに時間、金、余裕を生み出して大いに人生を楽しんでもらいたい」と。

『ONとOFF』というタイトルでは、ちょっと前にソニーの出井元会長の本がベストセラーとなった。出井さんの本はソニーの社内報(?)のエッセー集をまとめたもの、大前さんの本は週刊ポストの連載だ。どちらもスッと楽しく読めた。


ONとOFF



大前さんの遊び

大前さんの遊びはスゴイ。本の表紙にモトクロスに参加している写真があるが、スキューバダイビング、スキー、スノーモービル等々。さらに引退した後の楽しみとして、クルージングとつりを残してあると。

大前さんの本には時々商店主の発想の話とかが出てくるが、オフロードバイクでの仲間にはサラリーマンはおらず、商店主や職人の人がほとんどだそうだ。

サラリーマンはもっと遊び、オンと同時にオフも充実させようと呼びかけている。

そのためにはオフを年間の長期休暇計画をつくって計画的に楽しみ、オフの資金も住宅資金、教育資金、自家用車等を見直すことによってつくることをすすめている。

たとえばクルーザーだ。クルーザーを持つということは、贅沢で金持ちの趣味の様に思えるが、実はクルーザー自体は中古なら自家用車程度の価格でも買える。

試しにYahoo! Auctionで『クルーザー』で検索してみると、何艘か出品されている。

もちろん維持費とか係留費とかが掛かるし、免許も要るので、それなりに高く付く遊びではあるが、たしかに手が届かないということではない。

日本は漁民優遇で、2、927もの漁港があるが、現実には漁港として機能していないところが圧倒的に多い。漁港をプレジャーボートなど一般に解放すれば、ふつうにマリンスポーツを楽しめる国となるのではないかと。

いつもながら、なるほどと思わせる。

特にクルーザーのところで、カナダのバンクーバー沖のキングサーモン・フィッシングの話が出てきたが、これは以前、バンクーバー駐在経験者から話を聞いたことがある。筆者も行ってみたくなった。

カナダのフィッシングやウイッスラーのスキーなども、格安チケットを利用すれば、本場での贅沢な楽しみが比較的廉価でできる。

実現可能で、そそられる話だ。


大前さんの趣味

大前さんは多趣味で、ちょっとしたことでも凝っている。元々楽器演奏が趣味で、大学時代はオーケストラでクラリネットを吹いていたこともある。60歳の時には還暦記念コンサートも開催したほどだ。

買い物は定番、たとえばゴールドファイルのセカンドバッグ、トゥミのブリーフケース、香港仕立てのマオカラーのシャツなど。

時間の過ごし方では、美容院、タイ式マッサージ、ネイルサロン、電気自転車でのぶらぶら散策、バイクで江戸川河川敷を散策、蓼科の別荘など。

グルメも行きつけのお気に入りの店(西麻布交差点近くの屋台風のかおたんラーメンがお気に入りだとのこと)の休日の一人メシから、年に数回早朝5時起きして家族で行く築地市場の大和寿司、ビジネスに使える店などTPOに合わせて広いレパートリーを持っている。

読書ではジャックウェルチの『わが経営』や、ユニクロの柳井さんの『一勝九敗』などのビジネス書、敗者を描いた司馬遼太郎の『峠』などの歴史小説、プラトンの『ソクラテスの弁明』などの哲学書、ファラデーの『ロウソクの科学』などの自然科学書なども大前さんのおすすめだ。

筆者は以前は書斎を持っていたのだが、今は次男の子供部屋になってしまった。現在はリビングの書斎コーナーでこのブログを書いているが、大前さんは子供部屋を削っても書斎を持つべきで、ひとりの時間を生産的に過ごせと語る。

パソコンを使っての調べ事、自分史作成、オークションや酒場の楽しみ、男の料理、老後の趣味、ボランティア、海外移住など他の趣味の話も満載だ。


『脱・ビジネス時計』大前さんも元はモーレツ人間

大前さんは今でこそ多趣味で、オン・オフを使い分けているが、マッキンゼーに入って数年は、入社四年目で出版した『企業参謀』が売れに売れて、引っ張りだことなり、ほとんど休みを取らなかったので、過労で体調を崩し、喘息を併発した。

これではマッキンゼーをやめるしかないと思い、当時のアメリカ人支社長に相談すると長期休暇を取るよう薦められた。辞めるかどうかはその後に決めろと。

それで年末年始も入れて3週間の長期休暇を取り、家族でパラオに行った。ダイビングを楽しみ、テレビもなく、新聞もない生活を数日続けていると、自分のなかのビジネス時計が止まり、オフ時計に切り替わったのだと。

脱・ビジネス時計は重要で、『リバー・ランズ・スルー・イット』のモンタナ州はアメリカ人に何もない場所として人気の場所だと。

ロバート・レッドフォード、ブラピのフライフィッシングと、きれいな川の風景を思い出す。筆者もモンタナのイエローストーン自然公園には、実はビジネスで行ったのだが(イエローストーン地区産のタルクを日本に輸出した)、次回は是非フライフィッシングに行きたい。


リバー・ランズ・スルー・イット


国内、海外旅行はオフのメインイベント。マイレージは最高の親孝行のツールだと大前さんは語っている。


大前さんの家族(チーム)マネージメント

大前さんはどんなに忙しくとも毎週木曜日夕食は奥さんとの定期点検にあてて、奥さんから家庭内の悩みを聞き、基本方針の意見統一をしていた。土日は家族や友人で楽しむオフの時間で、悩みを聞いたり、うち明けたりするには不向きだからだと。

筆者は平日でもできるだけ自宅で食事をとるようにしているが、必ずしも家内と意見交換しているわけではない。大前さんのやり方は導入できないかもしれないが、考え方は参考になる。

大前さんの奥さんはアメリカ人だが、趣味は邦楽、歌舞伎、剣道など純日本的だ。大前さんは『夫婦別行動で家族の会話を豊かにしよう!』と言う。それが夫婦円満の秘訣であると。

奥さんに自由と権限を与えれば、熟年離婚は遠のくと。


大前さんの子育て

子育てでは機会を逃さないことが重要であると。

筆者も大前さんと同様に、息子が二人いるが、全く同感である。子供はすぐ大人になるので、子供の時代に一緒に過ごすことが自分にも、将来の子供との関係にも良いと信じている。

子育てについては『ジャングルの掟』とか、「同級生としか遊ばない子供はダメになる」とか、「子供に教えるのでなく、『学ぶ手助け』をしよう」とか、参考になる考え方が披露されている。

特に印象に残ったのは「『小遣い廃止』から始める子供のマネー教育」という部分だ。

日本では1,600万人もが消費者金融を利用しており、多重債務者は150ー200万人と推定されている。個人の自己破産件数は21万件余りだと。

こんな状態になったのは、学校でも家庭でも、お金とのつきあい方を学ぶ子供のためのマネー教育が欠如しているからであると大前さんは言う。

家事手伝いなどで、小遣いは労働の対価だと覚え込ますのだと。


軽い話題でスッと読め、それでいて話題が充実しており、主張すべきことは主張している。大前さんらしい、よくできたエッセー集だ。是非一読をおすすめする。



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2005年12月25日

ニュービジネス活眼塾 大前研一のアタッカーズビジネススクール講義録

ニュービジネス活眼塾 アタッカーズ・ビジネススクール講義録


大前研一氏が塾長をつとめるアタッカーズ・ビジネススクールの1995年から2002年までの大前さんの講義録をまとめたもの。

アタッカーズ・ビジネススクール自体は『平成維新の会』のボランティアたちが、若い人たちに大前さんの経営ノウハウを伝授してもらいたいということで、勝手連的につくりあげたものだ。

講義は半年間で、年間2回開講されている。既に4,000名の卒塾生を送り出し、卒塾生が起業した会社は600社にものぼり、筆者の知人も卒塾生に名を連ねている。

アタッカーズ・ビジネススクールは24時間ビジネス衛星放送のビジネス・ブレークスルーと合併し、ビジネス・ブレークスルーとして最近上場した。

同じ様な経緯でできたものにNPO政策学校『一新塾』があり、筆者の友人にも参加している人がいる。

大前さんは始業式と卒業式に5時間ずつ2回講義をしており、この本はその講義のいくつかをピックアップしたものだ。

大前さんの本は新しいアイデアが常にあり、いつも刺激を受ける。この本はビジネススクールの講義だけに、基本的な発想法や構想力の鍛錬法などを、自分の体験を元に説明しており、参考になる。


いくつか印象に残ったポイントをご紹介する:


メンタルブロックバスター

起業家になるには、メンタルブロック(思いこみ)を外す必要がある。日本の教育は覚えることに主眼を置いて、考える力を養っていない。一旦記憶すると、それが正解だと思ってしまい、そこで思考が止まってしまう。

メンタルブロックバスターで自分を鍛え直すには、何事であれ、わかったつもりにならずに、「本当にそうなのか」、「そうじゃない例が本当にないのだろうか」、「なぜそんなことが言えるのか」ととことん追求してみる訓練が役立つ。

また電車に乗って広告を見たときに、「自分が営業部長ならあんな広告をやるだろうか」とか、「自分ならこうやる」とか、誰を対象に何を訴求するかを常に考える訓練をして、事業について考えるチャンスをつくっていかないといけない。

覚えてしまってはダメである、そのとたんに頭はレイジーになり思考停止してしまうのだと。

大前さんの『考える技術』『質問する力』については、このブログで紹介しているが、たしかに覚えることが目的の教育だと、答が出た段階で満足してしまい、それ以上突っ込むことはしない。

大前研一もMITに留学したとき、原子炉の設計の難しい計算はできるのだが、それなら直径3メートルの原子炉を設計してくれといわれると、とたんにできなくなったという。

筆者も反省するところ大なのだが、なんでも頭に詰め込んで覚える、知識があることだけでは学者の世界はともかく、ビジネス、特に経営の世界ではダメなのだ。

ビジネスに必要なのは考える力であり、質問する力であり、コミュニケーション能力である。

メンタルブロックバスターで面白い問題が例題として出されている。

内径がほとんどピンポン玉と同じで、長さ60センチの鉄パイプが地面に突き刺さっている。ピンポン玉がパイプの中に落ちてしまった。道具は電球のフィラメント、ハンマー、糸、針金、板、鋸、ハンマーなどがある。パイプを破壊せずに、どうやって玉を取り出すか?

答は文末の続きを読むをクリックして見て頂きたいが、筆者は正解できなかった。自分のメンタルブロックを痛感する。


事業戦略の基本は3C

戦略を考える場合のキーワードは3C、最も重要なのがCustomer, 次にCompetitor, 最後がCompany(自分の会社)である。

つまり「カスタマーニーズに対して、コンペティターよりも相対的に優位な製品またはサービスを、持続的に提供すること」が戦略の定義であると。

案外実際のビジネスでは最も重要なCustomerより、自社の技術や製品に対する過信や思いこみ(Company)が優先されてしまうことがよくある。

たとえば写真フィルムはコダックが20枚撮りを出しているということで、長年12枚、20枚、36枚の三通りだった。

大前さんが、18,000枚の写真を分析して、カスタマーニーズを分析して、24枚撮りのフィルムをつくった。またレンズとフラッシュ付きのフィルムをつくったのだと。

カスタマーは何を求めているのかをとことん追求して失敗した事業家はいない。肝に銘じておくべきである。


FAW(Forces At Work)

事業を起こすということは、人が考えないことを考えることでもある。話の根っこにあるトレンド(そこに働いている力:FAW=Forces At Work)について真剣に考える訓練をすべきであると。

知的好奇心と執着力の旺盛さが起業家の基礎的条件である。

アタッカー起業家の例として、オムロンの立石一真さん、ヤマハの川上源一さん、ダスキンの千葉弘二さん(その後逮捕され有罪となったが、経営感覚の価値は決して損なわれるものではないと)、元スクウェア社長でお台場ヴィーナスポートの仕掛け人の宮本雅史さんなどが紹介されており、参考になる。


卒塾生の言葉

第一期塾生のケンコーコム後藤玄利社長が「Just Do It!の精神で起業にチャレンジを!」という一文を寄せている。

後藤氏はアタッカーズビジネススクールを受講したころは、健康食品の通信販売会社を立ち上げたばかりだったが、1999年にアメリカでeコマースが急拡大するのを見て、リスクを取ってeCサイトのケンコーコムをスタートさせた。

どうせリスクにさらされているなら、そのリスクを楽しみ、あわよくばチャンスにしようという精神が、大前氏のJust Do It!というかけ声に感じられ、それを実践したのだと。

アタッカーズビジネススクール。大前さんだからできたユニークな起業家養成組織だ。

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2005年10月08日

東欧チャンス 大前研一が今度は東欧を推薦! 

東欧チャンス


大前研一の最新作。

『チャイナ・インパクト』で中国は地域国家の集合体として考えるべきとか、中国お客様論、大連での日本語コールセンターとか中国における様々なビジネスアイデアを紹介した大前研一が、今度は東欧を紹介する。

日本ではなじみの薄い地域だが、筆者は仕事の関係で旧ユーゴスラビア(行ったことがあるのは現在のクロアチア、マケドニア)、アルバニア、スロバキア、ロシアを何回か訪問したことがあるので、親しみがある。

それぞれ特色ある国だが、約10年前にスロバキアに初めて出張して、3人で鹿肉料理をメインディッシュに夕食をとり、ワインも飲んで全部で30ドルだったのには驚いた。思わず一人分の料金かとおもったくらい物価が安い。

ポーランド国境のオラバ地方の工場を訪問したのだが、ロシアは公害だらけなのに、スロバキアでは環境対策はしっかりしていた。生活レベルもロシアの田舎より数段上と感じた。

ホテルでは英語はダメだが、ドイツ語はできるとか、ドルはダメだがドイツマルクはOKとか、ドイツの経済圏であるということを痛感した旅だった。


まずは中国の現状分析

中国の反日デモは学生運動のようなもので心配ないが、問題は小泉首相である。中国と仲の良い田中角栄に始まる橋本派を、抵抗勢力と目の敵にして、つぶしていった。また解決困難な領土問題などは、棚上げという手もあるのに白黒つけようとする態度が摩擦を引き起こしている。

中国は将来米国、EUと対抗できる3強となるだろう。日本は中国・韓国と一つの経済圏としてまとまって、米国、EUとわたりあっていくことを考える必要があるとして、故・天谷直弘氏(通産審議官)の『町人国家論』も紹介している。

しかしそうはいっても中国一辺倒で良いのかという見方もあり、本書では昨年5月にEUに加盟したポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー、スロベニア、エストニア、ラトビアなどの東欧諸国でのビジネスチャンスを説く。


東欧のビジネスメリット

EUなので関税がゼロなこと。安い労働力があること。工場労働者では中国にかなわないが、ホワイトカラー、技術者は能力が高く、定着率も良く、賃金も割安である。

語学力が高く、ドイツ語、あるいは英語の会話が可能な人材が国民の2〜3割いるので、ドイツ語圏等のバックオフィス業務を移転するBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)が盛んである。

さらに国民のほとんどがロシア語ができるので、将来のロシアとの取引の拡大の可能性がある。

人、モノ、サービス、資本の移動の自由が適用されるので、通関が不要で、東欧からポルトガルあるいはイギリスまで国境検問なしでほぼ1日で輸送ができることは大変なメリットである。

25カ国となった拡張EUは人口4億5千万人、GDP合計は米国を上回る12兆ドル。(日本は4.6兆ドル)生活水準、教育水準、購買力も高く、魅力ある市場である。

東欧諸国のウィークポイントは人口が少ないこと。チェコやハンガリーは1、000万人、最大のポーランドでも3,800万人。ポーランドは失業率が20%と高く、まだまだ労働力の供給余力はあるが、それでも東欧からさらに安い労働力を求めてルーマニア、ブルガリア、さらにウクライナなどに移る流れがある。

たとえば労働集約的な自動車用ワイヤーハーネス(電気配線)を製造する矢崎総業は時系列的にスロバキア→チェコ→リトアニア→ルーマニア→ウクライナと次々に工場を建設している。

頭脳集約的な業務はホワイトカラーの質が高い東欧に。安い労働力が必要な製造業はさらに南東欧かCISなどの周辺国を利用するか、半製品を中国から輸入して、付加価値をつけてEUに無税で輸出する。このような戦略を取れるのが東欧の大きな魅力である。

Building Wealth: The New Rules for Individuals, Companies, and Nations in a Knowledge-Based Economy


レスター・サローの"Building Wealth"を思い出す。宇宙から見た場合、地球上で文化が発達し、裕福で教育水準が高い人が多く住んでいる最も魅力的な場所。それがEUだ。


バルト3国

まずはバルト3国から。筆者は今まで50程度の国を訪問したことがあるが、同じように見える3国が、これだけ違うとは知らなかった。

エストニアはフィンランド、ラトビアはスウェーデン、リトアニアはデンマークとのつながりが深い。それぞれ人種も歴史も異なるのだ。


チェコ

チェコは伝統的に機械産業、特に自動車に強い。

余談となるが筆者の友人の祖父が戦前三菱商事(?)に勤めており、チェコから機関銃を輸入した時、いくつかの機関銃の部品をバラバラにして混ぜ、再度組み立てるとすべてぴったり合ったと。

当時の日本の機関銃は部品の精度が悪く、他の銃の部品とまぜるとちゃんと合わない銃が続出したそうで、やすりで削ってなんとか一丁の銃にしていた由。チェコの機械産業のレベルに驚いたという話だった。

チェコの自動車メーカーシュコダは1839年創業。兵器製造を手がけ、戦前は戦車も作っていた。2000年にフォルクスワーゲンの100%子会社となったが、国内向けブランドは依然シュコダを使っている。シュコダとはギター侍ではないが『残念』という意味だそうだ。

東欧でのBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)の代表例が会計・コンサルグループのアクセンチュアのバックオフィスだ。東欧人は言語能力に優れ、教育レベルが高いので、EU向けのBPOには最適なのだ。

全世界で間接部門の人間を1万5千人かかえ、プラハには900人いるが、これを2,500人まで増やす予定だ

チェコへの外国投資では日本はドイツについで2番目である。

日本からの投資促進に大きな貢献をしているのが、チェコインベストという投資誘致機関である。日本には横浜にオフィスがある。チェコインベストはワンストップサービスを提供でき、すべての政府の手続きの窓口になったり、地元企業を紹介してくれる。

チェコにはボヘミアングラスとか観光資源とか優秀な工業力の他にも外貨を獲得できる手段に恵まれている。筆者はスロバキアには数回行ったが、チェコにはまだ行ったことがない。是非観光で行きたいものだ。

松下電器はイギリスがユーロに加盟しないため、為替の乱高下が経営を圧迫したので、ウェールズのカーディフにあったテレビ工場を、チェコに移し成功している。チェコの輸出大手10社には松下が入っているほどだ。

日本からは1991年に進出した旭硝子を皮切りに、松下電器、三菱電機、京セラ、シマノなど141社が進出。

トヨタもPSA(プジョー・シトロエン)と合弁で30万台規模の工場を建設し、2005年から生産を開始する。

これを機にデンソー、アイシン精機、豊田工機なども進出した。

トヨタのヨーロッパ進出は1964年のポルトガル工場の後は長年動きがなく、ヨーロッパでは他社の後塵を拝していたが、1992年の英国、1994年のトルコ、続いてフランス、ポーランド、チェコと矢継ぎ早に工場を建設しており、2007年のロシア工場でとりあえず完結する。

日本企業にとってもチェコは活動しやすい国の様である。


スロバキア

チェコが工業国であるのに対して、スロバキアは農業国であるが、製鉄所や軍需産業もある。US Steelが買収したコジッチェ製鉄所は見事立ち直り、米国からの民間ベースの経済支援の好例とジャック・ウェルチが近著『ウィニング』の中でほめている。

このコジッチェ製鉄所は筆者の新日鐵の友人がドイツ駐在時代に訪問し、鋼板の平坦度に驚いたという話をしていた事を思い出す。薄い鉄板を全く波打たないように圧延するのは難しいのだ。以前から技術は非常に高いものを持っていた。

スロバキアにはフォルクスワーゲンが進出し、30万台のポロ、ゴルフを組み立てている。プジョー、起亜産業も進出し工場を建設中だ。

日本企業では矢崎総業、ソニー、松下電器、住友電装など19社が進出している。


ハンガリー

ハンガリーは今までに13名のノーベル賞受賞者を出しており、人口が1,000万人しかいないことを考えると人口比世界一だ。理数系教育レベルの高さは定評があり、大学・研究機関も充実している。外国投資のNo. 1はアメリカで、GE、アルコア、IBM等が進出している。

ハンガリー出身の有名人というと、インテルのアンディ・グローブ、投資家のジョージ・ソロスなどがいる。

ハンガリーはエレクトロニクス工業が発達していることから、テレビでサムスン、TCL、海信など、携帯電話のノキアが進出している。

EMS(受託生産)では元国営企業のVIDEOTONが部品から外枠まで製品を一貫生産しており、製造業ではダントツの大手だ。

この本ではGRAFISOFTというCAD(コンピューターを使ってのデザイン)ソフトの会社を紹介している。創業者でCEOのガレロ氏は東京工業大学に留学した経歴の持ち主。他にも日本語が話せるスタッフが多い。製品のアーキCADは日本で9万4千円で売っているが、もっと高く売るべきだと大前氏はすすめる。

ハンガリーにはチェコに次ぐ87社の日本企業が進出しており、筆頭が1991年に進出したマジャール・スズキ、他にソニー、三洋電機、TDKなどがある。

マジャール・スズキはスロバキア国境に近いロケーションで、年産9万台の車を生産している。

主力のスイフトはハンガリーでは1万1千ユーロ(160万円前後)で普通のハンガリー人でも十分手の届く価格だ。従業員の2割は賃金の安いスロバキア人だ。

三洋電機はノキアの携帯電話向けのバッテリーを生産するためにリチウムイオン電池などを生産している。

ちなみにハンガリー人とルーマニア人は仲が良くないということはこの本で初めて知った。行ってみなければわからないものだ。


ポーランド

ポーランドは鉱工業が中心だったが、造船などの古い産業は北、自動車やエレクトロニクスなどはチェコ国境に近い南部と分かれている。フォルクスワーゲン、フィアット、トヨタ、オペル、大宇が進出している。

フィアット本体は赤字でリストラ中だが、ポーランドのフィアットは好調だ。デルファイ、バレオ、マネットマレリなどの自動車関連メーカーの誘致にも成功している

伝統的にフランス、移民の関係からアメリカと親密であり、外国からの投資もフランス、オランダ、アメリカという順番となっている。

隣国ドイツは4番目にとどまっている。

ポーランドには74社、トヨタ、いすゞ、ブリジストン、デンソー、住友電工、日本精工などの日本企業が進出している。

トヨタはロシアのプーチン大統領の出身地サンクトペテルブルグにも年産5万台規模の工場を建設しており、東欧の部品が多く使われる事になるだろう。

大前氏のおすすめは加工食品業だ。

ポーランドの豚肉は競争力が高く、加工食品はすでに輸出品の2位になっており、ポーリッシュハム・ソーセージなどが有名だ。

アメリカのスミスフィールド社が買収したANIMEX社と住友商事が代理店契約を交わし、鶏肉などを日本に輸入している。ANIMEX社はアメリカでも人気のある高級ハムブランドの『クラカス・ハム』のメーカーだ。

ANIMEX社はダウンと馬肉も日本に輸出しており、日本の羽毛の多くはポーランドのダウンが使われており、輸入馬刺の6割はポーランド産だ。


ブルガリア・ルーマニア

ブルガリアはヨーグルトで有名だが、ダノン、ネッスルなどの国際食品企業が進出してきている。

ブルガリア出身の琴欧州が大関を狙って頑張っているが、筆者の先輩の福井宏一郎氏が今年銀行出身者として約50年ぶりに大使になったことでも有名である。

南東欧ではNATOには加盟したブルガリアとルーマニアが労働力も安く、農業も盛んで工業力もあり注目株だ。2007年1月には両国ともEUに加盟する予定だ。

ルーマニアには自動車関連の矢崎総業、住友電工・住友電装、光洋精工などが進出している。

一人あたりGDPで見るとチェコ、ハンガリーが1万ドルでギリシャ、ポルトガルと同水準。スロバキアが7千ドル、ポーランドが6千ドルとメキシコと同水準である。ルーマニア、ブルガリアは4千から3千ドルで、アルゼンチン、ブラジルなどと同水準である。


以上東欧を各国ごとに見てみたが、矢崎総業、住友電工のワイヤーハーネスメーカー2社の進出がめざましいことを初めて知った。パイオニア精神を持った企業だと思う。

たしかに東欧はEUの玄関口としてチャンスだと思う。


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2005年07月02日

なぜか仕事ができる人の習慣 やはりムックでは限界あるね


[図解]なぜか「仕事ができる人」の習慣
大前研一、柳井正、渡邉美樹、堀江貴文、藤田晋、熊谷正寿、野尻佳孝、齋藤正勝(カブドットコム社長)、杉本哲哉(マクロミル社長)等々、きら星のようにIT業界の若手社長などが登場する。

テーマが目標達成とか、段取りとかのコツなのだが、最初の大前研一にガツンとやられる。「勝ち組に入るための目標設定、達成のコツを教えていただきたいのですか?」

「それがもう負け組の発想だ。誰か答えを知っているヤツをつれてきて、ノウハウを頂戴しようというのが。」「自分の頭で考えないで、すぐに答えだけ聞こうとするのは『少年ジャンプ』で育った今の30代、40代の悲しき特徴だぜ。」

「これからの時代、企業も個人も出口の見えないジャングルのなかを進んで行かなきゃならない、安全な道を教えてくれって言ったって、そもそもジャングルに道なんてないんだ。自分の頭で必死に考えて進んで行くしかないんだよ。」

それでもしつこく「50代になって路頭に迷わないためにはどんな目標を立てれば?」と編集者が聞くと。

「まだ聞くか!仕方ない、ヒントだけは教えてやるよ。ポイントは、自分に『値札』と『名札』をつけることを目標にすることだ。」値札とは労働市場におけるその人の値段。名札とは個人で生み出した実績をはっきり言えることだ。

なんとか大前研一からヒントだけは聞き出したが、他の人は一応親切に応対はしているが、所詮雑誌THE21の連載記事を本にしたものなので、つっこみ不足なのは否めない。それぞれの経営者が本を出しており、それがベストセラーばかりなので、やはりムック本では限界あると思う。

このブログの様にそれぞれの経営者の考えの『あらすじ』をまとめようというものなのだろうが、魅力ある表紙の体裁にしては残念ながら内容が薄っぺらすぎると思う。編集者の力量もあるのかもしれない。  
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2005年03月19日

考える技術 大前研一の「考えさせられる」本

多作の大前研一の最新作。

この本の肝は「人の2倍考える人は10倍の収入を得ることができる」ということ。

前作の『質問する力』で何故と思う習慣を付けることを説き、これがその続編として思考回路をつけることを説く。

新しい経済は方程式のように簡単に答えのでるものではなく、複雑系であらゆるものに正解のない時代だから、日頃から思考力を鍛錬し、論理的思考という武器を手にする必要があるのだと。

リンゴが木から落ちたら軌道は計算できるが、葉っぱが木から落ちてもどこに落ちるか予想できない。正解のない問題に答えは幾通りもある。

前提をおき、論理的思考から答えを導き出すのだ。

MITの博士試験に「月の上に架空の原子炉をつくり、地球上と同じ仕掛けのカドミウムの制御棒を突っ込むと、停止までに炉心の温度は何度上がるか。これは安全か」という問題が出て、大前一人が正解の2.8度と回答したのだが、不合格にされたという。

教授の回答は「数字は合っているだけで思考のプロセスがはっきりしていない。これはエンジニアとして最も危険だ」というものだったと。

これで一から勉強をやり直さなければならないと痛感したのだと。

新しい複雑系の経済には4つの空間がある。実態経済、ボーダーレス経済、サイバー経済そしてマルチプル経済なりと。

この新しい世界では旧世界におけるマクロ経済学は全く役に立たないし、これまでのビジネスの手法はもはや通用しないのだ。

ライブドアの動きを見ているとまさにこの指摘が現実化していると感じる。

考える技術
質問する力  続きを読む
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2005年02月09日

50代からの選択 大前研一のひさしぶりの会心作

大前研一、堺屋太一は新しい本が出れば必ず読む好きな作者だが、大前研一は多作な上に、最近は同じようなネタを使い回ししていることが多く、正直失望していた。そんなわけでここ数年は大前研一の本は図書館で借りて読み、買っていない。この本はひさびさに目から鱗の会心作で図書館で借りて読んだが、買おうと思う。選挙の投票率はいつも年齢にリンクしており、老人の政治パワーは若者に常に勝るとか、勝ち逃げ50代(但し住宅ローンは定年前に完済が前提)と割食う40代との深い溝とか、なるほどと考えさせられる。30代、40代を革命の起こせない『少年ジャンプ世代』と呼び、自分が政治活動した時期にも全く動かなかったこの世代の政治無関心が結局墓穴を掘ったと切り捨てている。この人は毒がないとダメだとつくづく思う。
50代からの選択
日本の平均年齢は50歳だそうで、この本のタイトルとなっている50代の読者には、定年まで10年、それから20年程度の人生を、ちょうど平均年齢の50歳代でのリセットを勧めている。  続きを読む
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