2008年04月06日

ビジネス力の磨き方 大前研一が説く21世紀に必要な5つのスキル

+++今回のあらすじは長いです+++

ビジネス力の磨き方 (PHPビジネス新書 27)


大前研一氏が説く21世紀の日本のビジネスマンに必要なスキル。

大前さんは「サラリーマンサバイバル」とか、このブログでも紹介している「ザ・プロフェッショナル」、最近では「即戦力の磨き方」など、日本のビジネスマンの能力アップのために多くの著書を出しており、これもその一つだ。

サラリーマン・サバイバル (小学館文庫)


ザ・プロフェッショナル


即戦力の磨き方 (PHPビジネス新書)


大前研一氏は、筆者の好きな著者の一人なので、このブログでも「大前研一」のカテゴリーで15冊以上紹介している。

この本は2007年3月に出版された本で、21世紀に必要となるビジネススキルについて雑誌"THE 21"読者から寄せられた質問に対する解答をまとめたものだ。


5つのビジネス力

この本で大前さんが21世紀のビジネススキルとして身につけるべき力として挙げているのは次の5つだ。

1.先見力
2.突破力
3.影響力
4.仕事力
5.人間力

前記の3冊などを含め様々な本で21世紀に必須のスキルとして、語学(英語)力、論理思考、コミュニケーション、IT力などについて取り上げてきているので、この本では今まであまり取り上げてこなかったスキルについて説明している。


1.先見力を磨け

大前さんは1995年に文藝春秋に「不動産はまだ下がる」と記事を書いたが、事実不動産は下がり続け、2002年にはバブル前の水準まで下がってしまった。

ホリエモンや村上ファンドが坂本龍馬と同じ運命をたどったことなど、その他にも大前氏の予測通りになったことがいくつもあるという。

これは大前氏に先を読む特殊な力が備わっているわけではなく、先見力とは訓練すれば誰でも身につけられるスキルだからだと。

大前氏の先見力は、現在起こっている事柄をこまめに調べて、そこから変化の兆しを見つけ、その兆しが今後どのようなトレンドになるかをしつこく考えた結果なのだ。

そこで重要なのがFAW(Force at Work)である。これはマッキンゼーの創始者の一人のマービン・バウアーの考え出した概念であり、「そこで働いている力」とでもいうもので、ある傾向を伴った事象があれば、そこには必ずその事象を発生させるだけの力(FAW)が働いているはずだから、それを分析し発見するのだという。

FAWがわかったら早送り(FF)して5年後、10年後の変化が見えてくる。

つまり先見力とは、(1)観察、(2)兆しの発見、(3)FAW、そして(4)FFが正しくできる能力なのだと。

このFAWを使って、都心の地価、熱海/軽井沢の地価、高齢化先進国のアメリカ/ヨーロッパ、ソニーの将来などのケースを説明しており、興味深い。

ソニーや日立など日本の総合電器メーカーとGEとの差は、経営力の差であると。

日本の場合、日立にしてもソニーにしても、社長になるのはその時一番儲かっている事業部のトップである。大前さんにいわせれば、中小企業で功成り名を遂げた社長をいきなり大企業の社長に任命してしまうのとなんら変わりないから、うまくいくはずがないのだと手厳しい。

安倍前首相の「美しい国日本」の取り組みも的を得ていない。大前さんは21世紀に活躍できる「考える力」を育成するために、高校教育にも乗り出している。船橋学園東葉高校という広域通信制の高校がそれで、2007年に開校している。


第2章 突破力を磨け

目の前の壁がどんなに手強そうにみえても、絶対に自分から弱音を吐かないのが突破力の基本である。突破する勇気を養うには、先達の偉業にふれ、それから勇気を貰うのが良い。

ケネディのアポロ計画が良い例だ。到底できそうになかった月への宇宙旅行を期限を切って実現してしまった。

壁を突破した本人に会うことを大前さんは勧めている。エベレストの最高年齢登山にいどむスキーの三浦雄一郎氏、60歳から絵を始めた加山雄三氏などを例に挙げている。

大前さんが20年以上言い続けている道州制をやっと政府も検討し始めたが、全国知事会や地元マスコミなど既得権を持つ抵抗勢力が強い。道州制になったら大半の知事は失業し、県庁所在地にある地元マスコミも淘汰されるからだ。

また北方領土については、四島一括返還は日本の悲願といいながら、実現すると防衛線を千島にあげる費用がかかり、実際に四島に住みたい人はほとんどいないというのが現実で、メリットはほとんどない。

だからこだわりを捨てて、ロシアの二島返還を受け入れ、後は継続協議として、日ロ平和条約を締結し、千島列島だけといわず極東ロシア全体の開発を日ロ共同でやることを提案している。

さらに経済面だけでなく、防衛面でも助け合える関係作りをしておけば、北朝鮮の脅威は低減し、有事の場合にはロシア兵を日当一万円くらいで傭兵として自衛隊に組み入れれば良いと大前さんは提案する。

どの首相でも四島一括返還という思いこみを突破できたら、歴史に残る名宰相として名を残すことになろうと。

今後の日米関係、中国やインドの巨大化、日本の経済進出の余地などを考えると、たしかにロシアと早急に平和条約を締結して、シベリア開発に日ロで取り組むことは、日本の国家戦略として大変意義があると筆者も思う。

今や売れっ子の佐藤優氏が外務省に在任していた時に、橋本首相、小渕首相を動かして日ロ平和条約を実現しようとしていたことは、「北方領土特命交渉」に詳しい。

北方領土特命交渉 (講談社+アルファ文庫 G 158-2)


日本も米国ばかり見ずに、世界を見回して日本の10年20年後を考えるべきだろうと筆者も思う。


第三章 影響力を磨け

自分の影響の及ぶ範囲が広ければ広いほど、その人の価値は高い。

小澤征爾氏、安藤忠雄氏、イチロー、松井など芸術やスポーツの世界では、世界に名を知られている日本人はいるが、ビジネスマンで世界に影響を与えられる一流の日本人はほとんどいない。

日本のビジネスマンの頭の中が、20世紀の加工貿易のままだからだと大前氏は語る。

加工貿易の頃は、教えられた答えを丸暗記し、マニュアルをつつがなく遂行できることがなにより重要な能力だった。今そういう人たちが集まった企業は危機に瀕している。

今必要なのは答えを自分で出すことができる人だ。

マレーシアのマハティール前首相のアドバイザー、中国遼寧省、天津市の経済顧問、ナイキ等のボードメンバー、いろいろな大学のアドバイザリーボードメンバー等々、大前さんは、自分では口幅ったいいい方だが、世界的に影響力がある日本人ナンバーワンだと思うと語る。

この本では大前さんがいかにして世界に影響を与える人間になったのかが述べられている。

マッキンゼーでの仕事の実績もあるが、著書の影響が大きい。

「企業参謀」、ボーダレス・ワールド (新潮文庫)、「新・資本論」など大前さんの本は、世界で何冊もベストセラーになっているという。

企業参謀 (講談社文庫)


大前研一「新・資本論」―見えない経済大陸へ挑む


またウォールストリートジャーナル、ニューヨーク・タイムズ、ハーバード・ビジネスレビューなどに継続的に記事や論文を発表してきたことも知名度アップに役立った。

しかし物を言うのは知名度ではなく、書いた内容だと大前さんは語る。

要するに、そこにある問題を発見し、解決策を発見できる人間であれば、人種や国籍に関係なく、世界中どこに行っても影響力を発揮できるのだと。

「影響力を強めるには型を持て」と大前さんは語る。

大前さんの場合、「ボーダレス経済と地域国家論」が型であると。

大前さんがジャック・ウェルチに中国は6つの地域国家の集合体だと言うと、さっそく6つの地域にわけてGEの戦略を議論したという。

影響力をつけるために、権威にすりよるのでは意味がない。影響力をつけるためには、まずは思考の型を身につけろと大前さんは説く。

大前さん自身もマッキンゼーでピラミッドストラクチャーや、MECE(Mutually Exclusive Collectively Exhausive、それぞれ重複なく、かつ全体として網羅されていること)というロジカルシンキングの手法を自分の型になるまで徹底的に仕込まれたという。

これがあるから大前さんはどんな事象でも論理的に分析することができるのだと。

このマッキンゼー式のロジカルシンキングについては、大前さんと同じくマッキンゼー出身の勝間和代さんも紹介している。マッキンゼーの新入社員は徹底的に仕込まれるのだそうだ。ちなみに勝間和代さんが推薦するロジカルシンキングの本は次の本だ。

ロジカル・シンキング―論理的な思考と構成のスキル (Best solution)


型を自分のものにするには、ケーススタディを無限回繰り返すのが効果的だ。

自分が○○だったらというケーススタディを続ければ、頭は大いに開発される。BBT大学院大学では、「あなたがリチャード・ワゴナーだったら、どうGMを立て直すか」といった課題が毎週出るという。

二年間で100本の課題をこなすことが卒業の条件で、2007年3月に第一期の卒業生が誕生した。

友人とディスカッションすることもMECEを鍛える上で有効だ。

ケーススタディも友人とのディスカッションも時間が掛かるので、自分の時間の使い方を考えよと大前さんは語る。

日本のビジネスマンは、テレビや新聞、雑誌、インターネットに費やす時間の比重が大きすぎるから、それを最小限に減らせば良いと。

ケーススタディとして世界で最も影響力がある国はアメリカかどうか分析している。結論として斜陽の大国にすがるよりも、フィンランドとかデンマークの様に教育によって世界に通じる人材を生み出していく方が、よっぽど世界に影響力のある国家になれる。

フィンランドとデンマークでは学校に「教える」という概念はない。生徒に考えさせ、先生は考えを引き出すファシリテーターだ。また先生だけでなく、国中のおとなが教育に積極的に参加している。

たとえば野菜の生産、流通、価格決定、職業につき町の八百屋さんが学校にやってきて説明してくれるのだと。

大国のエゴより、小国の知恵。これが21世紀の国際関係を解く鍵なのであると大前氏は提唱する。


第四章 仕事力を磨け

仕事をスピードアップするポイントはダンドリにある。この本では大前さんのダンドリ術が披露されている。仕事をスピードアップする理由は、自分の思考トレーニングに充てるための空き時間をつくるためだ。

「あれ、どこにあったっけ?」が時間を食うので、大前さんは資料はとりあえずパソコンに取り込み、Google Desktopで検索。さらにGMailですべて自分宛に送っておく。メールの強力なメッセージ検索機能が使えるので、二重にリトリーブできるようにしておけば、より確実に目的の情報を見つけられるから安心であると。

大前さんのいう「21世紀の情報収集法」ではテレビCMがなくなるという。YouTubeと、ハードディスクレコーダーやTiVoが普及するからだ。

大前さんは朝の貴重な時間をNHKのニュースと日経新聞に費やす前世紀の習慣は、いまではほとんど時間の浪費にすぎないから、即刻辞めるべきだという。

新聞に書かれていることは、記者が集め、記者のフィルターを通したごく限られた情報だけで、しかも新聞社の都合で記事を構成している。読んでいる人は永遠に記者のレベルを超えられない。テレビも同様だと。

たしかに日本のメディアだけでは世界の情報が集まらない。筆者は25年あまり"Time"を読んでいたが、日本のビジネス誌や新聞と情報の質・量面での大きな差を感じていたものだ。(アメリカで契約したら"Time"は5年契約すると一冊50セント以下だった。もちろん日本に戻っても同じ契約が継続され、シンガポールからアジア版を送っていた)

大前さんは10年前に新聞の購読をやめ、ネットで新聞を読み、RSSリーダーで必要な情報を自動的に集めているのだと。

毎朝RSSリーダーが集めた500の記事に15分で目を通し、重要と思われるものはパソコンに保存し、スタッフに送付していると。週末の大前さんの番組で情報を分析したり、組み合わせて次の展開を予想する。これが大前さんのニュースの読み方だと。

筆者は日経新聞を毎朝KIOSKで買っていたが、ここ数週間この長年の習慣をやめて、RSSと日経ネットに切り替えている。家では朝日新聞を取っているし、新聞を完全にやめたわけではないが、最近日経本誌は、あまり読むところがないという気がしてならなかったので、購読を止めてみた。

大前さんの本を読んで日経をやめたわけではないが、奇しくも大前さんに背中を押されたような形となった。

当面RSSとネットの情報収集で、日経新聞以上の情報を効率的に集められるかどうかやってみようと思う。


第五章 人間力を磨け

仕事も人生も下地がなければ楽しめない。若い頃から意識して教養や、スポーツで体を鍛えたり、趣味をつくったりして下地をつくるのだ。

大前さんはオフの予定から先に入れ、残業より家族との会話を優先せよと語る。

始業ぎりぎりに会社に飛び込み、朝は二日酔い、夜は残業の後、職場の同僚と一杯というような20世紀の生活習慣は改善しなければならないと。

朝型にするのだ。大前さんは4時に起きて、5時からパソコンのチェック、RSSリーダーでニュースのチェック。メール処理で一仕事終えて家族と朝食を摂り、9時からオフィスに出社するのだという。

最後に大前さんは、優秀なリーダーがいることが国にとっても重要なことを強調する。

ノキアのヨルマ・オリラというたった一人のリーダーがノキアを復活させ、フィンランドを復活させた。オリラの前任者は倒産の瀬戸際に立たされ、自殺している。そんな企業を携帯電話に集中する戦略で数年で世界一とし、フィンランドに希望をもたらした。

GEのジャック・ウェルチも同様だ。21世紀の世界競争に勝つための指標は、ジャック・ウェルチを何人つくれるかだと大前氏は語る。

マッキンゼー、GE、この二社は誰もがほしがる人材の輩出企業だが、社内の選別も厳しい。

マッキンゼーをアメリカの会社だと思っている人間は社内にはいないという。社員の半分はハーバードビジネススクール(HBS)出身だが、一時は役員会のメンバーには二人しかHBS出身者はいなかった。

日本を21世紀に通用する国家にするためには、甘っちょろい格差論議をやめることだと大前さんはいう。

ハングリーな人間にこそチャンスがある。たとえば農業のプロフェッショナルになれと呼びかけている。


いつもながら具体例が満載で、刺激を受ける。是非手に取ってみて欲しい本である。


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2007年12月27日

大前流心理経済学 個人金融資産を政府系ファンドで積極運用し生活者大国へ

2007年12月27日追記: 本日の日経新聞がトップで報道していたが、12月26日に内閣府が「国民経済計算」で日本のGDPと一人当たりGDPの国際比較を発表した。世界2位からの転落のスピードの早さが明らかなので追掲する。

GDP1






GDP2






GDP3






今やオーストラリアにも抜かれ、OECD30ヶ国の中で18位である。いかに円安と、低成長、低金利が日本の国際的地位を毀損したかよくわかるグラフだ。

大前流心理経済学 貯めるな使え!


日本人の不安心理を根底から払拭し、資産の積極運用で日本経済を21世紀も世界に君臨する様に立て直す大前研一氏の新提言。

いつも通り、非常にわかりやすく、論点も明快だ。

大前さんの本は、「はじめに」と目次を読むと本の大体の内容がわかり、最後の数ページを読むと提言がわかるので、頭にスッと入る。Amazonの「なか見検索」に最適の構成だが、講談社のこの本は「なか見検索」に対応していないのが残念だ。


要約:

今回のあらすじは長いので、なか見検索の代わりに要約しておく:

日本の個人金融資産は1,500兆円といわれ、アメリカの5,000兆円に次ぐ世界第2位の規模である。

この個人金融資産はいわば巨大な水ガメで、これが流れ出したら世界が今まで経験したことのないようなインパクトの経済効果が生まれる。世界の市場を動かしているオイルマネーでさえ、100兆円規模でしかないのだ。

ところがこの水は流れ出る気配もなく、日本国内で低金利で運用され、あまり増えていない。日本人が持つ将来への漠然たる不安が、国内で低金利の郵便貯金(オイルマネーを超える250兆円規模)とか、銀行預金に資金を留めている原因だ。

世界では高齢者になるほど資産が減っていくが、日本では逆で、不安心理により高齢者になるほど資産が増え、最後には一人平均3,500万円もの金融資産を残して死んでいく。しかしカネは墓場まで持ち込めない。

要介護者は全体の1/7,75歳以上でも3割で、ほとんどの人が「ぽっくり逝ってしまった」パターンだ。大半の人は、不安を持つことなどないのだ。

低金利政策は国の放漫借金の穴埋め、金融機関支援策であり、その実体は個人財産の収奪だ。日本の個人資産はここ10年で、2割しか増えていないが、欧米は8割前後増えている。

円の価値は円安で20年前の水準に戻り、米国には水をあけられ、他国にはどんどん追いつかれている。このままでは欧米はおろか、時間の問題で、中国等にもGNP、産業競争力で負け、資産でも負けてしまう。

もう日本の時代は終わったと中国あたりにまで言われて意気消沈し、30代の人でさえ将来に不安を持っている。子供まで将来に明るい希望を持てないという日本の現状だ。このまま国力が落ち、若者のいなくなった日本は、北朝鮮の侵略の良い標的となる危険性もある。

しかし既に日本人は問題解決の手段を持っている。あとは心理を変えるだけなのだ。世界2位の1,500兆円という資産を、世界水準の年率10%前後で積極運用して日本の国富を増やし、少子高齢化になっても他国の追従を許さない世界最大の資本供給国として世界に君臨し、老齢者はアクティブなシニアライフを楽しめるのだ。

日本ほど国民の心理によって経済が大きく動く国はない。心理を動かすことこそが景気回復の最も効果的な方法であり、非効率かつ閉鎖的な社会システムを変革し、生活者主権の国を築くための最後のチャンスなのだ。

そして誰もが日本人に生まれてよかったと思えるような国になれる。これが大前流「心理経済学」の帰結である。


心理経済革命を提唱

大前さんがこの本で提唱するのは、「心理経済革命」で、日本人の心理を動かすための経済政策であり、日本を生活者大国にするための筋道である。

これは全く新しい経済概念を打ち出すものであり、大前経済学の最先端であると同時に、現時点での決定版であると大前さんは力説する。

政府は個人金融資産1,500兆円をずっと塩漬けにして、パクるつもりなのだ。これからは国家が国民を守るのではなく。国民をだます時代になる。おとなしい国民は、借金漬けでせっぱ詰まった政府に世界一の蓄えをカモられる。

だから国民は自衛しなければならない。自分のカネは納得できる人生を生きるために使い切らなければならないのだと。

眠ったままの1,500兆円の個人金融資産を市場に流れるようにすれば、世界を席巻するパワーを持つ。

日本では銀行の定期預金に250兆円、郵便貯金に250兆円、合計500兆円が塩漬けになっている。さらに外貨準備に100兆円あるので、合計600兆円のすぐに運用できる資産がある。

ハーバード大学の資金は3兆円規模で、運用益は15%だ。たとえば600兆円を10%超で運用できれば年間約50兆円の日本の税収を上回る年間60兆円の運用益が出る。この一部を国家再建に使うのだ。


国家全体が「夕張」化する日本

2006年6月に北海道の夕張市が、財政再建団体指定を申請、実質倒産した。夕張市の人口は1万3千人、債務は630億円。日本が1億3千万人で、国債発行残高は637兆円。ちょうど夕張市の一万倍の規模だ。

しかし日本のほうが地方債を含めると債務は840兆円もあり、夕張市よりひどい。夕張市は大幅な職員削減や給与カットを行っているが、日本はなにもドラスティックな対策は打っていない。

それは政府なら輪転機でいくらでもお金を印刷できるからだ。しかしこのまま輪転機でお金を刷っていれば、ハイパーインフレとなる。

国の債務だけではなく、特別会計支出や、全国に1,000ほどある特殊法人の債務をあわせると国の借金は1,200兆円を超える。

さらに少子高齢化だ。少子化の直接原因が未婚・晩婚化である以上、政策によって出生率を増加させるのは難しく、人口はこれからどんどん減っていく。2046年には一億人を割り、2055年には9,000万人になると予測されている。

生産年齢人口はどんどん減ってくる。65歳以上の老齢人口は、2040年頃まで増え続け、4,000万人近くに達する。かたや生産年齢人口は2005年の8,400万人から2055年には4,600万人にまで減少すると予想されている。

生産年齢人口には学生や主婦も含まれているので、実質的な労働力は現在でも6,600万人、それが2055年には3,000万人台まで減ると予想されている。

国の約束している年金を払おうとすると、将来800兆円の財源が不足する。つまり日本の本当の債務は2,000兆円もあるのだ。国民一人当たりにすると債務は2,000万円を超え、勤労者1人当たりだと3,000万円を超える。

このままでは日本が世界に誇る個人資産1,500兆円をもってしても、まかなえなくなるのだ。

借金を返す人口は年を追う毎に減少し、50年後には今の半分となっている。つまり、一人当たりの負担額は倍となり、実質的に返済は不可能となる。


ボツワナ並みの日本国債の格付け

これだけの債務を返済するにはデフォルト、増税、そして世界中からお金を借りるの3つしか手はない。

アメリカは世界中からカネを借りているが、GDP比では0.65程度で比較的健全で、しかも国債の金利は5%の高い金利をつけている。

日本はボツワナ並みの格付けだが、債務残高の対GDP比は次の表の様に先進国ではダントツに高い1.8だ。

ボツワナはダイヤモンドなどが採れるので、いざというときはダイヤモンドを掘って借金を返すことができるが、日本は資源がないので、高齢者も含めて人が働いて返すしかないのだ。

債務残高の国際比較






当時の財務相の塩川正十郎氏(塩爺)が「国民の多くがエイズ患者である国と同格とは何事か!」と怒ったが、日本は次表のように少子高齢化の影響で、いびつな年齢構成となっており、若年層が多いボツワナより事態はずっと深刻なのだ。

人口ピラミッド







円安は日本の長期衰退の象徴

円安を歓迎する日本人の思考は不可解であると大前さんは語る。

学者は何も言わず、財界は輸出型企業のトップが牛耳っており、マスコミもそれに乗るので、国民も円安のほうが良いのかという気になる。

ところが既に2005年度で資本収支の黒字が貿易黒字を上回っており、輸出に有利というモノの流れだけで経済を考え、円安を歓迎する意識は完全に時代遅れである。

円安は日本の長期衰退の象徴なのであると。

筆者もこれを読んで思ったが、対ドルだとあまり気がつかないが、世界のほかの通貨との実効レートで比較すると、ユーロやポンド、元、ウォン、オーストラリアドルなどに対して弱くなっているのである。実効為替レートからすると、なんと円高の始まりとされる1985年のプラザ合意時点での相場まで落ちているのである。

大前さんの本に載っているグラフにならって、自分で日銀の公開資料から次の円の実効為替レート推移表をつくってみて驚いた。

昔「エコノミックアニマル」と呼ばれ、必死に輸出で外貨を稼いで外貨準備を増やし、結果的に円の価値を国際的に上げてきたが、今は完全に逆コースだ。

YEN実効レート





一人当たりGNPも一時は世界2位だったが、現在ではOECD30カ国中14位まで低落している。筆者も、いまだに世界第2位のような気持ちでいたが、円安の影響は厳しいものがある。

最近東京に外資系のホテルが何社も進出し、一泊最低6万円からという話を何か別世界の話の様に感じていたが、思えばヨーロッパの主要都市のホテルはちょっとしたホテルでも5ー6万円はざらという話だ。外国人が日本に旅行に来て、日本は安いと思うわけだ。

要は円が弱くなったので、ヨーロッパが異常に高く感じるのだ。

資源高により原材料費は上がっているので、円安は物価高とインフレを招き、国民にとって明らかにマイナスだ。また国際比較での国力も低下しているゆゆしき事態なのだ。


日本の個人資産の優位性は低下

日本人の金融資産の内容を見ると現金・預金が51%、保険・年金が26%で、併せて77%を占める。リスク資産の株式は12%のみだ。

これに対してアメリカは現金・預金は13%だけで、債権・投資信託・株式が52%。32%を占める保険・年金準備金は401kで投資されているので、資産の85%を投資・運用していることになる。

金融資産と非金融資産(不動産など)の合計もバブル時代の1990年に日本は2,700兆円で、アメリカの3,500兆円に次ぐ規模で、日米比は1:1.3だったのが、現在ではバブルがはじけて日本は2,500兆円に減少する一方、アメリカは8,000兆円に増え、1:3.2と大きな差がついている。

アメリカの投資資金は72%が退職後の資金となっており、投資信託も原則として5年や10年以上の長期保有で、預金金利の5%を超える運用益で回しているので、5,000兆円の資産は毎年数百兆円増えているのだ。

これでは日本と差が出るのも当たり前である。日本の一人当たりの家計金融資産額は、1,206万円で国際比較ではどんどん順位が落ち、一時は世界一だったのが、現在は四位で、運用利回りが高いオーストラリアに肉薄されている。

ここ10年間で、日本人の家計金融資産は21%しか増えていないが、フランスは87%、イギリスは79%、アメリカも77%、ドイツでも56%増えている。諸外国との差は拡大するばかりだ。

大前さんは、あまり役に立たない大学受験までは必死に勉強するにもかかわらず、社会人になってから収入アップにつながるような勉強をしないのか、そして運用によって資産を増やそうとしないのか、これも理解不可能な日本人の心理だと手厳しい。


日本人の心理を動かす7つの方法

大前さんは日本人の心理を動かす方法として、7つの提案をしている。

1.金利を上げる
2.相続、贈与等の関する税制を見直し、資産の若年層への移動を早めにする
3.住宅の建て替えを奨励する
4.アクティブ・シニアのためのコミュニティをつくる
5.いくらあれば生活できるのかライフプランを提示する
6.ベンチャー企業のエンジェルになる
7.資産運用を国技にする


政府系ファンドをつくり国民の資産を高率で運用する

前述の7つの提案のうち、最も重要なのは7.の資産運用を国技にするという提案だ。

最近シンガポール、ドバイ、中国などの政府系ファンドが注目を集めている。

本日(12月20日)の日経新聞にも、「国家マネー 世界に広がる影響力」というタイトルで、2006年からの政府系ファンドによる欧米金融機関などへの投資実績が掲載されている。1位、2位は後述のシンガポールのGIC、テマセクが占めており、GICはUBSに約100億ドル、テマセクはスタンダード・チャータード銀行に約80億ドル、バークレイズ銀行に約20億ドル投資している。

その他にも、アブダビ投資庁のシティグループへの約80億ドル、中国投資のモルガン・スタンレーへの約50億ドル、ブラックストーンへの約30億ドルの出資など、サブプライム問題でバランスシートが痛んでいる欧米の超優良投資銀行などの株に巨額の投資を実施している。

サブプライム問題は基本的には一過性の問題と見ているのだろう。機を見て敏な政府系ファンドの動きが注目されているが、ファンド本家のアメリカは後述のように、確定拠出型年金401k導入で、資産運用を国民みんなの関心事として国技にしており、世界中の企業を追いかけている。

日本も個人金融資産の1,500兆円の一部を使って、有名ファンドマネージャーを雇ったシグニチャーファンドをつくり、世界中の国に分散投資するのだと大前さんは提唱する。

10%から15%の運用実績があがるのであれば、ファンドマネージャーに1%の手数料を払っても惜しくない。

カナダのジェームズ・オショネシー、アメリカのロバート・ソロモン、インドのランジット・バンディットなど有名ファンドマネージャーがいるが、ワールドクラスの人を雇って運用実績ランキングを出すのだと。

日本でもやっと、議員や政府代表団がシンガポールのGICなどを視察し、政府系ファンドの研究が始まったようだが、中国、ロシアの国営ファンドは急速に拡大している。

中国は外貨準備の20%を投資に向けると発表しているが、150兆円の20%、30兆円あれば、オイルマネーの100兆円よりは少ないがサウジアラビア一国の運用規模に匹敵する。前述の通り、モルガン・スタンレーやブラックストーングループに巨額の出資をしている。

ただし国家ファンドは危険な面もある。圧倒的なファンドの資金力を利用して、一国の軍需産業とか、重要産業を実質コントロールするというような陰謀も可能だ。

だから政治的・国家的な意図を含む恐れがあるので、自分たちで運用すると絶対に失敗するから、世界のファンドマネージャーを集めて運用をゆだね、そして年金も401k型(個人が運用先を自由に選べる年金)にして、ファンドで組成するのだ。

こうした資産形成を通じて、日本人が本当に世界のことを理解するようになることを、大前さんは期待すると。

筆者も答えがわからないのだが、例えばなぜ南米のペルーの経済が伸びているのか、石油の出ないドバイがなぜ好調なのか、ロシアでなぜ三菱車が売れているのかなど、新聞には出ない情報を国民が調べようとするようになる。それが日本を変えるのだと。


注目されるシンガポールの国家投資ファンド

シンガポールは、20年以上前から第二次産業から第三次産業中心にモデルを転換し、空港や港湾に力を入れ、アジアの交易のセンターになっている。

規制を撤廃し、税率を下げて多国籍企業のアジア本社誘致に力を注ぎ、今や500社以上の世界的企業が、東京、香港を尻目にシンガポールにアジア本社を置いている。

さらに金融機関の誘致をして、今ではアジア一のファイナンシャルセンターとなり、ヨーロッパ系ファンドの多くがシンガポールに進出している。

国民年金GICリー・クアンユー元首相自身が、長らく理事長となって年金の運用を世界的に分散し、10兆円の規模で、ここ25年間の平均で9.9%という高い運用益を挙げているので、国民は安心して引退できるようになっている。

政府系企業の持ち株会社テマセクも中国系企業の株を売り、400%という高い投資リターンを得て、それを欧米に投資するなどフットワークが軽い。

シンガポールは東京23区程度の面積で、人口400万人だから、国民一人当たり年金資産は250万円となる。

大前さんは、かつてシンガポールの経済開発庁のアドバイザーを務めていた関係で、リー・クアンユーに聞いたことがあるが、彼の答えは明快だったという。

「中国が目覚めた今、どんなに産業政策に力を入れてもかなわない。しかし、シンガポールの人口であるなら、年金資金を世界中の有望企業、有望地域に投資すればそのリターンで国民を食わしていくことができる。産業政策は首相がやればいい。僕は、国民を食わせるために年金の投資を世界規模でやるのだ。」

一国の指導者とは、このような人のことを言うのだと、つくづく思ったものだと。


アメリカのレーガン革命

世界の投資ファンドの本家本元ともいえるアメリカではレーガン大統領の時に、どう計算しても政府の約束していた年金が払えないことがわかったから、401Kという自分で運用先を選べる確定拠出型年金を導入した。

そうすると運用益を向上させるためにみんなが一斉に勉強を始め、株式市場やファンドなどが大盛況となった。国民を突き放すことによって、むしろ国民は勉強し、今の金融大国アメリカが誕生した。

筆者は米国に二度駐在したが、二回目はちょうどインターネットバブルの時で、アメリカ人の同僚が、インターネット向け投資ファンドを401Kに組み込んでいたことに驚いた。普通の人が投資に非常に敏感で、実際に自分の年金資金を様々なファンドで運用しているのだ。

アメリカの401kでは自社株の組み込み比率が50%以上の場合もあり、GEとかナイキとか業績好調企業の従業員は、20年以上勤めてリタイアするとみんな1億円以上の億万長者になっているケースが続出した。

大前さんが社外取締役をやっていたナイキなどは、あまりに社員の年金が積み上がるので、一年間積み立てを免除したほどだという。

アメリカの空前の高級住宅ブームは、平均的なサラリーマンが年金の担保余力によって年俸からは想像できないような高額住居に手を出した結果だという。

やはり資産は持っているだけではダメで、運用してなんぼという気がする。


中台関係は霜降り化

中台関係のパラダイム変換の指摘も面白い。大前さんは台湾海峡有事は起こりえないと思っている。中国と台湾の経済はもはや完全にビルトインされて、いわば霜降り状態だからだと。

9万社もの台湾企業が中国で事業を展開し、2,000万人しかいない台湾人の200万人が中国大陸で働いている。しかも台湾企業のみならず、中国の国営企業でも重要なポストを占めている。

仮に台湾海峡有事が起こって台湾人が引き上げたら、中国のダメージのほうが大きいという状態なのだと。

今では中台関係がさらに変化している。

中国には100万都市が200もあり、それが台湾の5倍、6倍のスピードで発展を続けている。

中国ではもう台湾の力は借りなくても良いという「台湾ナッシング」に向かっているのが現状で、そうはさせじと台湾は中国の内部に入り込むという状態なのだ。

中国の輸出トップ10社を見ると、台湾企業のEMS3社が入っている。

日本が今意識しなければならないことは、アメリカが日本よりも中国重視にシフトし始めたことだと。アメリカと中国は、21世紀は米中の時代と思っており、すでに動きだしている。


新しい現実を生きていくためのライフプラン

最後に大前さんは、新しい現実を生きていくためのライフプランを提唱している。20代、30代は世界標準の人間になることだ。英語力だけでなく、真のコミュニケーション能力、多様な価値観を許容できる人間だ。

40代、50代は資産運用を必死に勉強すべしという。自分で5%から10%の運用利益を取れるようにする。ビジネスブレークスルー大学院大学の大前さんの株式・資産形成講座も紹介されている。

そして50代以降は引退後のアクティブシニアライフの準備を具体的に始めろという。移住先の研究、移住後の不動産を早めに買って賃貸に出し、ローンを支払って引退したときに移り住む。

幸福な人生の実現は心理に掛かっている。

日本ほど国民の心理によって経済が大きく動く国はない。心理を動かすことこそが景気回復の最も効果的な方法であり、非効率かつ閉鎖的な社会システムを変革し、生活者主権の国を築くための最後のチャンスなのだ。

そして誰もが日本人に生まれてよかったと思えるような国になれる。これが大前流「心理経済学」の帰結である。


+++++++++++++++


あらすじは以上で、次は筆者の感想である。


何かいつもと違う舌鋒

この本を読んで、いつもと違う舌鋒を感じた。

大前さんは、小泉政権などは、「小泉破れ太鼓」と呼んで、郵政民営化などを時代遅れの政策として以前から批判してきたが、この本では国民をカモる日本政府、ポール・クルーグマンの代弁者竹中平蔵元財務大臣、輸出型企業が牛耳る経団連などとこき下ろしている。

竹中平蔵元財務相がポール・クルーグマンの言うことを代弁していたように、日本の経済学者は外国かぶれの学者ばかりだ」。

「自分で経済を分析すれば、日本と日本人がいかに特殊な行動を取る国(国民)かわかるはずだ。しかし、自説を展開することを恐れ、あるいはサボり、外国の学者の分析を「理論」「学説」と称して輸入、解釈するだけでは今の日本はわからない。」

「ゼロ金利など近代国家はどの国も経験していないし、ゼロ金利でもじっと定期金利や定額貯金に過半の財産を置いている集団はなく、世界中のどこの学者も観察したことがない。」

「自国の経済を外国の学者の説を用いて解釈し、学者同士が自分の師匠の説を正しいとして不毛な論陣を張るこの国のマクロ経済学者、それに乗っかった官僚、そして政治家たちはまったくアテにならないのだ。」と。

いつも通り日本の港湾政策、空港政策(普通に考えれば成田を捨て、羽田をピカピカに磨くしかないと)、道路政策、四島返還にこだわる北方領土政策を批判し、さらに「核やミサイル問題より拉致問題を優先する不思議な北朝鮮政策」と、次のように批判する。

拉致被害者には深く同情するが、だからといって「拉致問題が解決しなければ話し合いに応じない」という姿勢は、結果的に日本の安全を脅かすことになる。

今や中国やロシアが日本を攻撃してくる可能性はほとんどゼロなので、現実的な脅威は北朝鮮の暴発である。北朝鮮からしても、アメリや中国、ロシアと対決する武力はないし、韓国は大事な援助国だから、攻撃対象になるのは日本しかない。

日本こそ北朝鮮の核やミサイルの凍結が最重要課題なのだ。にもかかわらず日本だけが拉致問題で、6ヶ国協議にストップをかけているのは全く理屈に合わない話なのだと。

特に日本が他の国と違うのは、北朝鮮が暴発した時に防ぐ手段がないことだ。現行憲法では自衛隊はやられた後でなければやり返せない。

現状では黙って核ミサイルでやられるのを待つしかないのだ。しかも6ヶ国協議ではすでにつくった原爆とミサイルは対象になっていない(と思われる)。

まずは核とミサイルの問題を解決する。拉致問題については、北朝鮮が「解決済み」というなら、どう解決ずみなのか、残りの人はどうなったのかと、国民が納得できる回答を求めるべきであろうと。

しかし大前さんがこの話をすれば、新聞記者は拉致問題はどうなっても良いのかと、大前バッシングが起こるだろうことは間違いないと結んでいる。


いつも通りの統計をふんだんに使った政策提言的な内容に加え、かなり突っ込んだ政治的な提言をしているので、大前さんもまた何らかの形で政治に挑戦するのかなと、筆者は自分で勘ぐってしまった。

政策提言も豊富で、面白く示唆に富む内容だ。是非一読、そしてアクションを取ることをおすすめする。


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2007年01月06日

旅の極意 人生の極意 添乗員・大前研一の夢の旅行ガイド

旅の極意、人生の極意


大前研一が選んだ15のプレミアムツアーガイド。

正月休みに読むには最適の夢のツアーガイドだ。

大前さんは世界60カ国を訪問したと書いているが、筆者も商社に長年勤めていたので、国数から言うとたぶん同じくらいの国は訪問している。

だが、なにせもっぱら出張で訪問したので、この本に紹介されているリゾートもほとんど知らないところばかりだ。

コンサルタント業界では世界のトップリゾートで会議を開くことが普通だが、大前さんもマッキンゼーの役得で訪問したリゾートや、人に教えてもらったリゾートなど、15カ所のリゾートを紹介している。

筆者も近くまでは行ったことがあるというところが、いくつかあるが、中でも残念なのはベネチアだ。

筆者はベネチアのあるベネト州に行ったことがあるが、訪問したのは空港からベネチアと反対方向に行ったガリレオも住んでいた大学町パドバで、それも鉄鋼メーカーの工場を訪問したものだ。

工場訪問が終わったら、ベネチアに行くのではなく、イタリア人工場長の運転するBMWで時速200キロ出して、今度は北イタリアのコモ湖の近くのもう一つの工場に訪問したという出張だった。

北イタリアはきれいな避暑地で楽しめたが、それにしてもベネチアに行くのと同じ空港に行って、ベネチアに行けなかったのは残念と言うほかない。

あれやこれやで、多くの国を訪問している筆者でも、この本で紹介されている15カ所のリゾートで、行ったことがあるのはイグアスの滝一カ所というお寒い結果だった。

だからこそこの本が夢のリゾート紹介本に思える。


観光ガイドが大前さんの原点

大前さんは学生時代にクラリネットの名器を買うために、観光ガイドの資格を取って、添乗員のアルバイトに精を出し、念願の14万円のクラリネットを購入した。

当時の大卒の月給が1万5千円程度の時に、チップも入れて一ヶ月で20万円も稼いだときがあったという。

FENを聞いて英語を学び、日本の地理や歴史も勉強し、通訳案内業の資格を史上最年少で取得して学生時代にバリバリ儲けたのだ。

その時にアテンドした観光客は2,000人にものぼり、いまだにその息子や娘夫婦とはつきあいが続いている。後々の大前さんのキャリアーに役だつ人脈ができたという。

大前さんがガイドをしていた頃は昭和37年から42年頃までで、当初は新幹線はなく、どこに行っても和式トイレばかりで、マイペースな外国人を連れて目的地への到達時間を念頭に置き、逆算しながら行動していたので、いきおい用意周到になったという。

コンサルタント大前研一の原点は添乗員時代にあると言っても良いと。

英語力のみならず、統率力、対人関係、合理的な時間の使い方、プレゼンテーション、顧客管理というビジネスの手法までが身に付いたという。

とっておきのリゾート

大前さんがこの本で紹介しているリゾートは次の通りだ:

1.南フランス コートダジュール アンティーブ 白亜の殿堂ホテル
2.アマルフィ海岸 南イタリア ナポリ近郊 ナポリを見て死ね
3.ホテルダニエリ ベネチア 美術品のような内装
4.ポンタヴェン&モン・サン・ミッシェル ノルマンディ 牡蠣と景勝地
5.シリアライン フィンランド バルト海のクルーズ 白夜のクルーズ
6.ドバイ 超近代的金持ちリゾート
7.アマンプリ タイ プーケット 地上の楽園 40部屋に600人の従業員
8.カサ・デ・カンポ ドミニカ 極上の巨大パラダイス
9.コナ・ヴィレッジ・リゾート ハワイ島 なにもしないことが最高の贅沢
10.パラオ ダイバーのパラダイス
11.ノース・ストラッドブローク島 ゴールドコースト 4WDで疾走
12.ウィスラー カナダ 言わずとしれたスキーヤーの天国
13.グレンイーグルス スコットランド ゴルフ苦行がしたいならここ
14.イグアスの滝 アルゼンチン、ブラジル国境 世界一のスケール
15.プラハ チェコ 文化と歴史の宝庫中欧

詳しくは本を読んでのお楽しみということで、それぞれひとことだけ紹介を書くのにとどめておく。

どこのリゾートでも超一流ホテルとおすすめレストラン、普通の旅行ガイドなどには載っていない楽しみ方を、大前さん自身の経験から紹介している。

カリブ海などは日本から直接行くよりもアメリカでオプションツアーを買ったら良いとか、親身になってのアドバイスは、さすが元添乗員だけある。

気軽に読めて、読んだだけでリッチな気分になれる。おすすめの本である。


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2006年11月05日

ハイコンセプト 「新しいこと」を考え出す人の時代 大前研一訳の21世紀の勝ち組

ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代


本の帯がふるっている。

21世紀にまともな給料をもらって、良い生活をしようと思った時に何をしなければならないか ー 本書は、この「100万ドルの価値がある質問」に初めて真っ正面から答を示した、アメリカの大ベストセラーである。大前研一

大前さんの訳者解説がこの本の内容をよくまとめているので、大前さんの解説を中心にあらすじを紹介する。

「格差社会」を勝ち抜くための三条件

私は、この本の翻訳を二つ返事で引き受けた。それほどこの本は、これからの日本人にとって大きな意味があるからだ。

それはいま話題の「格差社会」という問題に深くかかわっている。

経済のグローバル化で、中国で生産できるものは中国に、ITなどインドでできるものはインドで、というふうに少しでも人件費が安くすむ地域へ産業は引っ張られ、下の給料は中国・インドに引っ張られる。

一方上の方は、アメリカのプロフェッショナルに引っ張られる。トレーダー、大手コンサルタントなど億単位の給料を貰うのが普通になった。

所得分布がM字型になったとき、われわれは何をしたらよいのか、上に行くには、次の三つを考えなければならない。

1.「よその国、特に途上国にできること」は避ける
2.「コンピューターやロボットにできること」は避ける
3.「反復性のあること」も避ける
   反復性があることは、コンピューターがやってしまうか、アウトソーシングされるからだ

(以上の3点は大前さんのまとめだが、著者のダニエル・ピンクはこう付け加える。

4.自分が提供しているものは、豊かな時代の非物質的で超越した欲望を満足させられるだろうか?)

要するに、これからは創造性があり、反復性がないこと、イノベーションとか、クリエイティブ、プロデュース、といったキーワードに代表される能力が必要となってくる。


第四の波

アルビン・トフラーの『第三の波』はいまや古典的名著だが、大前さんはトフラーと旧知の仲で、トフラーはビジネスブレークスルーの出資者の一人でもあるので、この本の題名を『第四の波』としていいかどうか、トフラー夫妻に聞いたという。

第三の波とは。第一の波(農耕社会)、第二の波(産業社会)が終わって、これからはナレッジ・ワーカーの情報化社会だというものだ。

このナレッジ・ワーカーの仕事が急速にコンピューターやインターネットに取って代わられてしまっている。弁護士や会計士の仕事を100ドル程度のソフトが肩代わりしているのだ。

それが著者のダニエル・ピンクが提唱する情報化社会から「コンセプチュアル社会」、右脳主体の発想ができる突出した個人の時代となりつつある現在なのだ。


専門力ではない総合力の時代

今まではある種の知識を持った特定の人たちの世の中だった。プログラマー、弁護士、MBA取得者など。

これからは、何かを創造できる人や他人と共感出来る人、つまり芸術家、発明家、デザイナー、ストーリーテラー、介護従事者、カウンセラー、そして総括的に物事を考えられる人たちの時代である。

いままではMBA資格が重視されていたが、これからはMFA(Master of Fine Art)が最も注目されている資格だ。

情報化社会を引っ張ってきた左脳的能力だけではだめで、右脳的な資質が重要になってくる。


6つのセンス

ダニエル・ピンクが重視する6つのセンスとはデザイン、物語、調和、共感、遊び、生きがいだ。

1.これからは機能だけでなくデザインが意味を持ってくる。

2.誰でもすぐにタダで検索できる時代の情報価値は、人に訴えかけることができる物語である。

3.個別よりも全体のシンフォニー(断片をつなぎあわせて統合する能力)が重要だ。これから成功するタイプは、マルチタスク、発明できる人、巧みな比喩(メタフォー)が作れる人である。

4.相手を説得するのは論理ではなく、共感をつくれることが重要だ。これは相手の感情を読みとる能力だ。

5.まじめだけでなく遊び心が重要だ。

米軍のAmerica's Armyテレビゲームを紹介している。

米軍は志願者が減少している現実を踏まえ、志願者を増やす方法として、なんと擬似的に軍の生活や作戦を体験できるゲームをつくって理解を広めることを始めた。

まさに遊び心である。


America's Army








いまやAmerica's Armyは760万人がダウンロードした大人気ゲームとなっている。

America's Armyは目的を達成する上で必要なチームワークや価値観、および責任を強調しているという点で、他のゲームとは一線を画すものだ。

6.物よりも生きがい

最後に、ダライラマの言葉を紹介している。

科学と仏教はとてもよく似ています。なぜなら、どちらもリアリティの本質を探ろうとしているからです。そして、どちらも、人類の苦しみを軽減することを目標としているのです。


ハイコンセプト、ハイタッチの時代

ダニエル・ピンクはこれからは、右脳中心のクリエイティブさ、人々の共感を得られるかどうかが重視されるハイコンセプト、ハイタッチの時代だという。

このことを強烈に印象に残る形で説明しているのが、本文にはない大前さんの解説の「カンニングOK」社会への転換という点だ。

今の義務教育で教えているようなことは、メモリーチップに入れるとせいぜい100円程度の価値しかないという。そこまでつぶしがきかなくなった。

現実にアメリカの高校ではカンニングを容認するようになってきたという。

答のない時代のいま、世の中に出たら、知識を持っていることよりも、多くの人の意見を聞いて自分の考えをまとめる能力、あるいは壁にぶつかったらそれを突破するアイデアと勇気を持った人の方が貴重なのである。

自分一人で考えたり、覚えていることは二束三文の価値しかない。学校で教えてくれる程度のことも二束三文の価値しかないのだ。


教育基本法改正が現在論議になっているが、ダニエル・ピンクの提唱するような右脳素質を伸ばし、21世紀に世界じゅうの国と対等に戦えるクリエイティブな日本人を育成する戦略となっているのだろうか?

筆者も反省するところ大だが、知識詰め込み物知り人間では、世の中が情報検索無料、「カンニングOK」の時代になってきたら役に立たない。

カンニングOKの時代でも競争力のある人材が21世紀の勝ち組となるのだ。大前さんの解説がこの本の価値をより一層高めている。考えさせられる良い本である。


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2006年09月12日

ロウアーミドルの衝撃 大前研一の生活者大国への政治提言

ロウアーミドルの衝撃


大前研一は1990年前後に平成維新の会を立ち上げ、以前からの持論である道州制や生活者主権を提唱して1995年に都知事選に出馬したが、青島幸男他に惨敗し、政界進出をオールクリアした。

生活者主権の基本となる著書としては、新・国富論
平成維新
平成維新〈PART2〉国家主権から生活者主権へ
新 大前研一レポート
などがある。

オールクリアしてからは、ほとんどビジネス関係がメインで、他にアタッカーズビジネススクール、ビジネスブレークスルー大学院大学等に関する著作を時々出していたが、このロウアーミドルの衝撃は、改めて政治提言として生活者主権を提唱している。

2006年は、90年代から始まった日本の長期衰退から抜けだすことができるか、あるいは没落の道を進むのかの分岐点なのであると。


M字型社会

日本は90年代後半から始まった所得減少にともない、総中流社会が崩壊し、年収600万円から1,000万円のアッパーミドルクラスが減少し、年収600万円以下のロウアーミドルクラスが8割を占める様になった。

1,000万円以上の高所得階層は5%前後でわずかながら増加しているが、一番増加したのが300万円以下のロウアークラスである。

ロウアークラスから始めるが、いずれは年収も増えてアッパーミドルクラス、うまくすればアッパークラスで定年を迎えるというシナリオが崩れ、年収は増えないのでロウアーミドルクラスからはい上がれない時代になってきた。

アメリカも1970年代までは総中流社会だったが、70年代後半からレーガン革命を経て、低所得層と高所得層のM字型社会が形成された。日本はアメリカに遅れること30年でM字型社会に突入したと大前氏は語る。


なんちゃって自由が丘

M字型社会に移行するに従って、ミドルクラスをターゲットとしていたGMSは凋落し、ロウアークラスを顧客にするディスカウントストアが台頭してきた。アメリカではGMSの代表のシアーズはとうとう2004年にKマートに買収されてしまった。

日本でも同じことが起こっており、ここ2−3年で利用を増やした業態はネットショップ、100円ショップ、食品スーパー、コンビニ、ドラッグストアで、逆に減らした業態は百貨店、カジュアル衣料専門店、GMSだ。

ロウアーミドルクラス向けの低価格小売業が躍進しているのだ。

しかしそんな中で売上を伸ばしている企業は単に安いだけではない。

キーワードは『なんちゃって自由が丘』だ。これは価格は安いが、センスは自由が丘という商品やサービスのことである。

いずれは住みたいと思っていた街=自由が丘には住めないが、その雰囲気だけは楽しみたいという人が大多数になっているからである。

この例がナチュラルキッチンだ。100円ショップだが、扱っているのはおしゃれな人気輸入雑貨店などに置いてあるようなセンスの良い商品だ。センスはアッパーミドル、価格はロウアーミドルというコンセプトが消費者にうけているのだと。

六本木ヒルズにあるZaraもセンスが良くて安い衣料を揃えて人気がある。

アイリスオーヤマの着せ替えソファー、車であればラグジュアリー・コンパクトカー、ニューラグジュアリー、少し無理すれば手が届くというコーチなどのアクセシブルラグジュアリーも人気だ。

二極化する消費者に対して、別々の商品開発を行っている企業もある。たとえば日清食品は、グータは価格が300円前後で年収700万円以上の層向けなので、ディスカウントストアでは販売せず、年収400万円以下の層には100円前後の商品を販売している。

生活の質を上げて、コストを下げる。今まで大前研一が破れ太鼓のように言い続けていることが現実となってきたのだ。


ライフスタイルを見直す

家、車、教育の見直しで生涯支出額が5,000万円は浮くと大前氏は語る。

日本の消費者の偏見を見直すべきであると。たとえば東京の西高東低の住居価格。これを捨てるだけでコストが安く、広い住居に住める。

またBSEも偏見の最たるものであると。日本ではBSEは20頭、アメリカでは2頭、アメリカは日本の100倍の牛がいるから、BSEの可能性は日本より少ない。にもかかわらず何故国産牛は安全で、米国牛は危険なのか?こんな理不尽なことをしているから、世界から偏狭な国と思われれてしまうのだと。

生活者大国を目指すには、農業補助金で穀物メジャーを買収せよと語る。また市場を開放して、許認可を廃止すれば世界中の安い建材や工法で日本でも600万円で家が建つと語る。

世界的には年収600万円はアッパークラスであり、食品や建物に対する規制を撤廃することで、生活の質が高められるのだ。


公務員はリストラできない

公務員には失業保険はなく、失業させる法律もない。公務員はリストラできないのであると。まずはここから手を着けなければならないと。

公務員以外で身分が保障されているのは第1次産業従事者である。巨大な農業、漁業補助金は、既得権のかたまりだ。


所得税を廃止し、資産課税に切り替える

政府税調はサラリーマン増税を提唱するが、大前研一が提唱する税制改革提案は所得税を廃止して、資産課税に切り替えるというものだ。

日本の社会が成熟期を迎え、フローは減るが、ストックは増えるからだ。

もう一つは付加価値税である。消費税の様なものではなく、製品なりサービスなりに付加価値が加わる段階で課税するものだ。

現行の消費税は徴税のがれの部分が多く、5%課税しているにもかかわらず、約10兆円の税収にしかなっていない。これをヨーロッパ諸国で導入されている透明性の高いインボイス方式を導入すれば、ごまかしが効かないと。

さらに大前研一は付加価値税は道州税とし、資産課税はコミュニティ税として、すっきりした体系とすべきであると。そして国には税収の5%を上納し、外交や防衛など国でしかできないことをやることにする。

大前氏の20年来の持論である道州制も必須だ。

日本を11の地域に分けると、首都圏道は世界7位の経済規模、関西道は世界14位、中部道17位、九州道19位、関東道24位と言った具合に世界規模のブロック経済として相互に競いあい、発展するのだ。


次期首相にやってもらいたいこと

まとめとして大前さんは次の4点を挙げる:

1.統治機構の抜本的変更(道州制の導入)
2.道州制と高齢化社会に合致した、簡素化した税制の採用
3.世界のどこに出しても活躍できる人材の育成
4.生活者の立場で考える行政府の設置

誰が首相になっても、上記がすぐ実現できるとは思えないが、道州制は議論もされだしており、20年を経てやっと大前氏の持論が日の目をみるかもしれない。

最初の第1章は具体例が少なく、いつもの大前節らしくなかったが、2章以下のなんちゃって自由が丘から調子が出てきた。

おすすめできる、参考になる本である。


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2006年06月17日

即戦力の磨き方 大前研一の最近の著作のダイジェスト

即戦力の磨き方


堀紘一さんの著書でもふれたが、トップコンサルタント揃い踏みで、最近刊行されたPHPビジネス新書の新刊である。

PHPの本はアマゾンでなかみ検索ができるので、一度目次などを見て頂きたい。

大前研一氏の著作でいつも感心するのは、ほとんどネタの使い回しがないことだ。

このブログでもこの1年半で大前氏の著書を10冊以上紹介しているが、常にネタは新鮮で、あくなき探求心に頭が下がる。

その大前氏のここ1−2年の著作で紹介したネタを一冊にまとめたのがこの本だ。

大前さんは即戦力を磨くには次の力をつけろと語る。

1.語学力
2.財務力
3.問題解決力

たしか別の著作では3番目にIT活用力を挙げていたが、今回は問題解決力としている。

この3つ以外にこの本では勉強法とマッキンゼー式会話術を紹介している。

『ザ・プロフェッショナル』という本を以前紹介したので、できればご参照願いたいが、21世紀の新しい大陸で生き残れるのは真のプロフェッショナルだけであると。

大前さんの勉強術では60歳より先の人生を考えて勉強せよと説く。

毎年テーマを決めて集中的に勉強し、その分野の専門家をしのぐ本が書ける様になるというのが大前さんの勉強法だ。

2002年から続けて『チャイナ・インパクト』とか『中国シフト』、『中華連邦』という中国3部作を出版したが、これも大前さんの勉強の成果であると。

最近は『東欧チャンス』、今はトルコを研究していると。

当ブログでは大前さんの多くの本のあらすじを紹介済みなので、この本の詳しいあらすじは紹介しないが、手軽に読め、大前さんの最近のネタがまとめて紹介されているので便利だ。

大前さんの最近の考えを1冊で知りたいという人には是非おすすめできる本だ。


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2006年05月06日

私はこうして発想する 大前研一の21世紀を生き抜く発想術

私はこうして発想する


大前研一氏のビジネスブレークスルー(BBT)大学院大学の紹介を中心とした21世紀に通用する人材育成の提言。

大前研一氏の設立したビジネスブレークスルー大学院大学は、MBA取得のためのコースとして1998年にスカパーを使った衛星放送チャンネルとして始まり、2005年に株式会社ビジネスブレークスルーとなった。

勝手連的に始まったアタッカーズビジネススクール一新塾とならぶ大前さんの組織的活動である

スカパーで多くのチャンネルが始まったが、結局現在はテレビ通販とアダルト程度しか採算がとれていないなかで、ビジネスブレークスルーは数少ない生き残りの一つである。

日本で例のない校舎のない大学院を目指し、CS放送とインターネットを駆使した遠隔教育の先駆者として4,000時間以上の膨大な教育コンテンツを蓄積しており、ビジネス基礎講座とか、経営者ライブ、大前研一ライブといった番組を放送している。

Aircampusというインターネットによる双方向授業のためのソフトウェアを開発して、遠隔教育でも対面教育に匹敵するクオリティの授業が行えると。

大前氏の発想の技術は次の6つのメソッドによる発想の積み重ねであると:

メソッド 1 先入観を疑う
メソッド 2 ネットワークから考える
メソッド 3 他ににはないものを目指す
メソッド 4 歴史から教訓を引き出す
メソッド 5 敵の立場で読む
メソッド 6 討論する

21世紀を生き抜くために最も重要なスキルが、発想する技術であると大前さんは語る。

それぞれのメソッドの印象に残った話を紹介しよう。


メソッド1 先入観を疑え

『少子化は大学の危機』とは先入観である。大学はOBに門戸を開けと提案する。

BBTの一期生の平均年齢は38歳、30代が54%、40代が34%で、44%が公認会計士、税理士、中小企業診断士などの資格を持ち、医師、薬剤師もいる。

経営について教えるなら、やはり数年以上の経験のある人たちを対象とすべきであると。

忙しい社会人のための教育ツールが遠隔教育システムのAircampusである。

人口減少に即効薬のクスリは移民を受け入れることであると。

一新塾の新刊書『一新力』で外国人との共生プロジェクトを紹介したが、大前さんの提唱する移民を受け入れるためには、外国人労働者との共生が機能しなければならない。

『一新力』の紹介でもふれたが、一新塾は単に口で言うだけでなく、地に足ついた意義ある活動をしているので感心する。


メソッド2 ネットワークから考える

大前さんのいうネットワークとは、顧客との接点の話だ。いわゆる『ラスト1マイル』とも言えると思う。

BBT大学院大学は、CS放送でUSC(南カリフォルニア大学)のMBA取得コースを始めたが、USCから放送では出席を取れないため、単位が付与できないと指摘された。そのためインターネットを利用した独自の視聴認証システムを開発して、ビジネスモデル特許を取得した。

インターネットの出現を見たときに、大前さんはこれで双方向の授業を実現できるネットワークができると考えたそうだ。

『放送とITの融合』といっても、自前のテレビ局を持てば、他の局のコンテンツは扱えず色つきのネットワークとなってしまうので、ホリエモンは本気でないと見破ったそうだ。

一番重要なのは「インターネットのユーザーは選択を好む」ということである。

さまざまなコンテンツを一箇所ですべて比較できることがベストであり、『無任所中立』というのが一番優れている。

流しっぱなしのテレビに対してケーブルテレビのような課金できるネットワークは強い。ITと放送の融合が実現していると大前さんは語っている。


メソッド3 ”他にはないもの”を目指す

大前さんはCNNの例を挙げている。アメリカの3大ネットワークは幕の内弁当で、CNNは一品料理で成功した。

余談であるが、マイクロソフトのXbox 360も恐るべき機械であると。大前さんはこれを見たときにソニーは次世代ゲーム機では負けるなと思ったと。CNETの記事も引用しておく。

「家庭において、いかに放送とITの融和を起こしていくか」という明確な戦略と哲学が詰め込まれているのだと。

今後ブロードバンドを使ってパソコンでビデオをダウンロードし、それをXbox 360に転送して、リビングのテレビで見るとか、パソコンに入っている旅行の写真をXbox 360に転送して、テレビで見るという、いわば21世紀のデジタル幻灯機(プロジェクター)なのだと。

筆者はこの説明を聞いてもまだピンとこないが、ゲーム業界がどうなるか注目したい。

ソニーはPS3をハイビジョン画質をウリにしようとしているが、子供たち用の小さなテレビでは、PS3のどこがすごいのか実感できないのだと。泥んこ道をフェラーリで走る様なものだと。


メソッド4 歴史から教訓を引き出す

昨年中国の反日デモなどが報道され、中国の若い世代は反日教育が刷り込まれており、問題の根は深いと言われ、日本の経済界でも悲観論が出ている。

これを歴史から教訓を引き出して、突破してみようと大前さんは語る。

中国のイデオロギー教育は、反日に転換する前は、反米、反資本主義であり、その時々で変わる。また中国は内政問題があり、『敵がいないと困る国』なのであると。

日本企業は1980年代にアメリカで起こった強烈なジャパン・バッシングを切り抜け、米国市場で成功した。

それは日本企業が「アメリカ市場抜きでは生きていけない」と不退転の決意を持っていたから切り抜けられたのであると。

台湾企業は「狭い台湾では生き残れない。中国で成功しなかったら未来はない」という意識で中国に大挙して進出している。

日本企業も同じことで、『今こそ中国市場に突っ込む』という発想を持って欲しいと語る。

トップで中国語を勉強している人がどれだけいるか?と。米国市場に対してと同様の熱意と信念で取り組むべきであると提言する。

大前さんはこの章の最後に靖国神社問題にふれている。

戦後30年以上A級戦犯は合祀されていなかった。昭和天皇はかつては、毎年夏に靖国神社にいっていたものが、A級戦犯が合祀されてからは行かなくなった。大前氏は昭和天皇の判断を正しいと思うと。

大前さんは20年近く前に書いた『新・国富論』で、A級戦犯の合祀をやめ、参拝のための場所を別につくるべきだと主張したが、それは今でも変わらないと。


大前研一の新・国富論



メソッド5 敵の立場で読む

この場合の敵とはビジネス上のライバルあるいは顧客などである。

『お客の立場になって考える』というのが大前さんの基本である。

『相手の立場になって考えてみる』ーこれはビジネスに限らず、言い古された言葉ではあるが、問題点を把握するためには不可欠の手段であると大前さんも語る。

練習問題として『あなたが金正日だったらどうする』をあげている。

また韓国経済人のホンネということで、北朝鮮と南北統一したら、人口7千万人の核保有国が東アジアに誕生するので、日本と中国との間のバランサーとなると指摘している。

日本では韓国がこのように変質したと認識しているマスコミはほとんどないが、日本の常任理事国入りに反対するのも、こういった南北統一後の核保有国としての韓国の方が常任理事国にふさわしいという未来像があるからであると。

21世紀は韓国の時代であると韓国人は思い始めていると。

『中国は日本を併合する』というエキセントリックなタイトルの本が最近出たので、近々あらすじを紹介するが、日本外交は本当に今のままでよいのか、筆者は大いに疑問に思っている。

小泉首相の靖国問題のミスハンドルで、どれほど貴重な時間を浪費し、国益を損ねたかわからない。

ゴールデンウィークにアフリカに行く前に、中国、韓国との関係を正常化しろと言いたいが、もはや小泉首相では無理だろう。小沢一郎に期待している昨今である。


メソッド6 討論する

BBT大学院大学はAircampusを使って、リアルタイム・オンライン・ケーススタディを行っている。

パワーポイントはもちろん、4,000時間にもおよぶBBTの過去の講義へのリンクを貼ることができ、事実に基づく議論ができるのだ。

いわばインターネット上の掲示板の様なものだが、一週間で千件の発言を呼ぶこともあると。

大前さんが教鞭を取る『新・資本論ケーススタディ』は、その時注目を集めているテーマで学生たちの集中力を高めている。

上記の金正日の質問もこのケーススタディで使った題材だ。他に「あなたが三菱自動車のトップならどうする?」など、最新の話題をケースにして研究している。

普通の大学院は、たとえばハーバードビジネススクールでも、会社を研究してケーススタディに取り上げるまでに平均9ヶ月、長いものでは数年かかっている。

これでは『死体解剖』であり、あらかじめ答を導き出すフレーム(枠組み)が決まっており、答えも決まっていると。

しかし経営の現実はそんな簡単なものではないので、枠組みを越えた発想が、新しい時代を切り開いていくのだと。


最後に

大前さんは松下幸之助の『とらわれない素直な心』で見ると、違う景色、違う発想ができると説く。

今の日本の最大の問題は少子高齢化でも、財政赤字でもなく、今の人材ではこれまでのような経済競争力を維持していくことはできないということであると。

『世界のどこに出しても恥ずかしくない』『どこに出してもリーダーシップがふるえる』21世紀型の人材をつくる教育がないことが最大の問題であると。

筆者も同感である。

トヨタが全寮制の中等教育学校を始めたが、これも同じ様な問題意識からだと思う。

簡単に世の中を変えることができるとは思わないが、しかし日本全体の意識を変えて行くには、マスコミなどに報道されない事実を知ることと、FAW(Forces At Work)背後で動いている力がなにかを考える姿勢を、一人一人が持つことが重要だと思う。

ウェブ2.0がすすみ、ブログなどを通して個人が自らの意見を発表する場は今後とも増えていくと思うが、筆者も大前さんなどの良書のあらすじを紹介することで、少しでも多くの人が問題意識を共有できるよう心がけたい。


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2006年04月28日

ザ・プロフェッショナル 大前研一の予言 日本でもプロフェッショナルクラスが台頭する

ザ・プロフェッショナル


大前研一は好きな著者の一人なので、このブログでも多く紹介してきたが、今回の本では大前さんは、プロフェッショナルクラスが日本でも台頭してくると予言する。

次回紹介する松下幸之助の400万部超のベストセラー『道をひらく』によると、「プロとは、その道をわが職業としている専門家のことである。職業専門家とは、つまりその道において、一人前にメシが食える、ということである」と定義しているが、これは40年前、1968年の定義であり、大前さんは、いわば『プロ中のプロ』という意味でプロフェッショナルを定義する。

プロフェッショナルは専門性の高い知識とスキル、高い倫理観はもとより、例外なき顧客第一主義、あくなき好奇心と向上心、そして厳格な規律、これらをもれなく兼ね備えた人材だと。

『顧客の顧客』に目を配っている人、己の技量を一生かけて磨き続けてしまう人、日本人大リーガーであればイチローと松井秀喜がプロフェッショナルだと大前さんは語る。


プロフェッショナルに必要な力

プロフェッショナルの必要な力は次の通りであると;

1.先見する力

2.構想する力

3.議論する力

4.矛盾に適応する力

それぞれ具体例を紹介し、大前さんは説明しているが、上記表題だけ読んでも大体想像ができると思う。


松下幸之助の影響

以前紹介した松下幸之助の言葉を集めた『成功の法則』を読むまで気が付かなかったが、大前さんもかなり松下幸之助に影響を受けている。

いままで多くの大前さんの著作を読んできたが、松下幸之助の逸話はあまり印象に残っていない。たぶん単に筆者が読みすごしていただけだろう。

前回紹介した柳田邦男氏の『もう一度読みたかった本』再読のすすめにならって、大前さんの代表作も再度読み直してみようと思う。

この本でもソニーの盛田さん、オムロンの立石一真さんとともに、松下幸之助のエピソードがいくつか紹介されている。

松下幸之助は質問の上手な経営者だったと。難しい意志決定に直面した時は、必ず3人以上の社員を呼んで、「それはなぜか」と質問を繰り返し、問題の本質を見極め、自分の判断に最も近い考えをする社員に権限を持たせた。

松下幸之助はいい加減な妥協はしないことの重要性を説いた。得心がいかない時は、仕事を進めず、時機を得て、完璧を期すのだと。アメリカ企業からの技術導入でもこれを貫いた。納得できなければ合意しなかったのだ。

この話は誰かの本で以前読んだことがある。たしかオーティスエレベーターとの合弁会社設立の話だったと思う。

また松下幸之助は経営が内包する矛盾をよく理解し、見事な決断をする経営者だった。

ホームビデオ開発のVHSが良い例だ。松下はフィリップスと一緒にV2000を開発していたが、子会社のビクターはVHSを開発。松下幸之助は700名くらいの技術者の意見に耳を傾け、V2000を断念してVHSに社運をかけるという意志決定をした。

既に数百億円投じたV2000をドブに捨て、自己のエゴを捨て、ソニーに勝つという信念のもと、みずから築いた家電王国をまもるベストの選択をした。

どんなにすばらしいビジネスプランでも、「必ず成功する」という強い信念がなければ、ビジネスは成就しないと大前さんは説く。まさに松下幸之助のダム理論の通り、それに影響された稲盛和夫さんの教え通りである。

かつての日本の経営者には強い信念と覚悟があったが、最近の経営者には欠けていると大前さんは言う。カルロス・ゴーンやマツダのジェームズ・ミラーはかつて世界が賞賛した日本の経営者の『忘れ形見』であるとまで言っている。

筆者ももっと松下幸之助を研究してみようと思う。


面白いストーリーが紹介されているので、一度手にとってみて頂きたいが、印象に残った話をいくつか紹介する。


リクルートのカンニバリゼーション

リクルートはライバル事業を社内に興して成長している。

リクナビは圧倒的な強さを見せているが、かつて就職情報は紙媒体が主だった時、リクルートの創始者の江副さんは「どうせ淘汰されるなら、リクルートの人間に淘汰してもらいたい」と紙媒体からインターネットへの転換を語っていたと。

自分で自分を否定するところからリクルートの成功は始まったのだ。


マルチプル経済

この本はまだライブドアの粉飾決算が公になる前の2005年9月に出版されている。

ライブドアとフジテレビについて大前さんは、経営を知らないホリエモンが、フジテレビのスーパー・ゼネラリストとして誉れの高かった日枝久会長を、赤子の手をひねるように土下座させたと表現している。

経営を知っている人よりも、知らない人のほうが経済に大きなインパクトを与える。これがマルチプル経済であると。

実体の収益力よりも市場の成長性、会社の将来性で、会社の評価は収益力の何十倍にもなっているのだ。このようなマルチプル経済下では、通常ありえないことが起こる時代である。


松下幸之助の偉大さを改めて感じた大前さんの近作だった。


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2006年03月30日

一新力 市民のための政策学校一新塾 『主体的市民』の集まる場がここにある

一新力 ~自分をALL CLEARする勇気ありますか?


一新塾に参加している友人に送って貰った本を読んでみた。

大前研一氏はマッキンゼーを退社して、1992年に平成維新の会を結成して政治活動を開始。『大統領と同様の強大な権限がある東京都知事』選挙に打って出たが、あえなく落選。


平成維新


今で言う政策マニフェストを用意して、都民の良識に訴えたが、全く泣かず飛ばずで、たしか5位くらいだったような記憶がある。

筆者も実は大前氏に一票を投じたのだが、日本で超一流のインテリの大前氏をもってしても、外での選挙活動を一切せずに自宅に引きこもっていたタレントの青島幸男に敗れたことで衝撃を受け、あらためて日本の政治を変えることは難しいと感じた記憶がある。

大前氏は都知事選落選を機に政治活動は一切やめ、その体験を『敗戦記』に書いてオールクリアした。


大前研一 敗戦記


大前氏自身の政治活動はその時に終わったが、平成維新の会で集まった問題意識を持った人々が勝手連的に作り上げたのが、一新塾アタッカーズビジネススクールだ。

一新塾は市民活動の為の政策学校、アタッカーズビジネススクールはビジネススクールという違いはあるが、それぞれユニークな活動をしている。

一新塾は東京三田の30坪弱のスペースにパイプいす80脚を置いて、平日夜に週1回、土日に月1回、講義とディスカッション、小グループ活動などを行っている。事務局長の森嶋伸夫さんが世話役だ。

合宿研修もあり、入会金は3万円、受講料は17万円(分割払いあり)で、学習塾よりずっと安い。

2002年より株式会社からNPOに組織替えした。

塾生は本科60名、地方在住者向けの通信科が40名で、一期約100名の塾生を、17期まで輩出し、卒塾生は2,600人を越え、地方議員54名、国会議員4名、市長2名を輩出している。

この本では一新塾の様々な活動が紹介されている。


超一流の講師陣

一新塾の講師リストはスゴイ。一新塾のホームページに過去や今年の講師の紹介がある。

青山貞一さん片岡勝さんの一新塾の代表理事をはじめ、松沢神奈川県知事、上田埼玉県知事、片山善博鳥取県知事、台湾総督府顧問金美齢さん楽天取締役の小林正忠氏、精神科医の和田秀樹氏、自民党の河野太郎氏、社民党の福島みずほ氏、一新塾出身の国会議員、市長、市民活動家等々様々な分野で活躍している人を選りすぐっている。

しかし一新塾は教室で様々な人の講義を聞くためだけの塾ではない。『生活者主権』をめざす『主体的市民』として(1)政策提言、(2)社会起業、(3)市民プロジェクトのチーム活動に参加し、現場での活動を重んじている。

講義は週一回だが、それ以外の平日の夜とか土日はチーム活動で塾生が集まり、活発な議論がなされている。

創設者の大前研一氏も講師として登場したことはあるが、アタッカーズビジネススクールの様に、学期の最初と最後に講義するということはなく、大前さんは一新塾ではあくまでも創始者としての関わり合いだ。


市民プロジェクト・社会起業のインキュベートの場

この本では多くの市民プロジェクトがレポートされている。そのいくつかを紹介する。

既に何年か続いているものとしては、元々大前さんが提唱し平成維新の会が推進した道州制の実現を目指す道州制ドットコム、投票所でもらえる選挙済証を商店街の割引クーポンとして受け入れ投票率向上をめざす選挙セール、経営不振で廃業が相次ぐ年金を使って建設されたグリーンピアなどのハコモノを再生するプロジェクトなどがある。

新しいプロジェクトとしては、日本に住む外国人労働者との共生を研究する外国人・多文化共生プロジェクトや、病気の子供も預かる病児保育プロジェクト、生活の安定しない芸術家を助ける芸術家のくすり箱プロジェクトなども紹介されている。

外国人・多文化共生プロジェクトは、少子高齢化時代に突入し、予想される深刻な労働力不足のため外国人労働者の受け入れ拡大が叫ばれている今の日本にとって、非常にタイムリーで、意義あるプロジェクトだと思う。

日本には200万人もの外国人労働者が住んでおり、彼らとの共生は必要だが、相互の交流・理解不足のために、先日の広島の履歴詐称ペルー人の女子児童殺害事件などが起きると、言葉の問題、生活習慣の違いなどから外国人全体に対する偏見や誤解が生まれやすい現状だと思う。

このプロジェクトでは、中南米系の労働者が多い群馬県太田市、静岡県富士市など1年間で10箇所余りの自治体を訪問、市役所や、学校などを訪問し、まさに『現場主義』で調査を行い、『ゼロベース思考』で白紙の段階から議論を始め、神奈川県、埼玉県などに政策提言を行っている。

芸術家のくすり箱プロジェクトとは、収入が安定しない芸術家の健康をサポートしようというものだ。

たしか大前さんの『質問する力』に、クラシック音楽の演奏でメシを食える人は日本でも数えるほどしかいないと書いてあったが、芸術で安定的に収入を得られる人はほんの一握りだ。

ほとんどが不安定な収入とアルバイトで暮らしており、ケガや病気でもしたら生活に困窮してしまう。

そんな芸術家たちを助けようというプロジェクトだ。


オールクリアからの始まり

一新塾に参加している人たち、特にビジネスマンは、筆者の友人もそうだが、それまでの経歴をオールクリアして、この活動に一市民として参加する人が多い様だ。

より良き社会にする為に、これからの人生を有効に使おうと決心した一新塾の人たちには頭が下がる思いだ。

楽天の三木谷さんも、「なにができたら成功だと思いますか」と聞かれて、「フェアな社会ができること」と答えたと、どこかで読んだ記憶があるが、ビジネスを通じてでも、あるいは市民活動を通じてでも、より良き社会にすることは可能だと思う。

筆者は当面ビジネスのキャリアを続けるつもりだが、いずれは一新塾の様な魅力あるチームに加わりたいと感じた。

大前さんが平成維新の会を立ち上げ、都知事選に出馬したが、あえなく落選し、一度は地面に落ちた花から種が成長して、だんだんに花開いてきた様な気がする。

是非これからも『主体的市民』として、世界に誇れるユニークなNPO活動を続けていって欲しいものだ。

ちなみに、この本については、欲を言えばもう少し一般の人にもわかりやすく編集上の配慮をして貰えば、さらに良い本になると思う。

たとえば左ページの上に2002年12月からの講師名、講演タイトル、日付が記されており、その数100を超え、講師陣の充実ぶりがよくわかるが、ここに書いてあるのは過去の講義記録だという旨の説明が、筆者には見つけられなかったので、てっきり普通の本の様に、そのページの章題が記されているものと思っていた。

再度読み直して、はじめてここに書かれているのは講義記録だということに気が付いた。

すごい講義記録だが、気が付かなくてはなにもならない。

ともあれ多くの人の活動や講義を紹介しており、その意気込みとエネルギーには感服する。

一新塾の多彩な活動がわかる好著である。


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2006年03月23日

遊ぶ奴ほどよくデキる! 大前さんの計画的遊び、趣味、家族マネージメントのすすめ

亡き友 篠塚一太君の"Work hard. Play hard."を思い出す

筆者は商社に勤めているが、会社の長い歴史の中で飛行機事故で亡くなったのは二人しかいない。それほど飛行機事故に遭うリスクは小さいということだが、二人とも1984年8月のバングラデッシュの飛行機墜落事故で亡くなった。

そのうちの一人は筆者の職場の後輩、篠塚一太君だった。

当時ちょうど筆者も篠塚君もゴルフで50を切るかどうかという時だったので、よく一緒にゴルフに行ったが、彼がよく言っていた言葉が"Work hard. Play hard"だった。

決して洗練された言葉ではなく、和製英語かもしれないが、気持ちは伝わると思う。

この大前さんのエッセーも同じ『良く遊び、良く働け』の精神で、亡き友 篠塚一太君を思い出す。仕事は精一杯やりながら人生を楽しむ様々な実例が紹介されていて面白く、参考になる。


遊ぶ奴ほどよくデキる!


はじめに大前さんのメッセージがある。「『オン』と同じくらい『オフ』にも若いうちから神経を使い、クレバーに時間、金、余裕を生み出して大いに人生を楽しんでもらいたい」と。

『ONとOFF』というタイトルでは、ちょっと前にソニーの出井元会長の本がベストセラーとなった。出井さんの本はソニーの社内報(?)のエッセー集をまとめたもの、大前さんの本は週刊ポストの連載だ。どちらもスッと楽しく読めた。


ONとOFF



大前さんの遊び

大前さんの遊びはスゴイ。本の表紙にモトクロスに参加している写真があるが、スキューバダイビング、スキー、スノーモービル等々。さらに引退した後の楽しみとして、クルージングとつりを残してあると。

大前さんの本には時々商店主の発想の話とかが出てくるが、オフロードバイクでの仲間にはサラリーマンはおらず、商店主や職人の人がほとんどだそうだ。

サラリーマンはもっと遊び、オンと同時にオフも充実させようと呼びかけている。

そのためにはオフを年間の長期休暇計画をつくって計画的に楽しみ、オフの資金も住宅資金、教育資金、自家用車等を見直すことによってつくることをすすめている。

たとえばクルーザーだ。クルーザーを持つということは、贅沢で金持ちの趣味の様に思えるが、実はクルーザー自体は中古なら自家用車程度の価格でも買える。

試しにYahoo! Auctionで『クルーザー』で検索してみると、何艘か出品されている。

もちろん維持費とか係留費とかが掛かるし、免許も要るので、それなりに高く付く遊びではあるが、たしかに手が届かないということではない。

日本は漁民優遇で、2、927もの漁港があるが、現実には漁港として機能していないところが圧倒的に多い。漁港をプレジャーボートなど一般に解放すれば、ふつうにマリンスポーツを楽しめる国となるのではないかと。

いつもながら、なるほどと思わせる。

特にクルーザーのところで、カナダのバンクーバー沖のキングサーモン・フィッシングの話が出てきたが、これは以前、バンクーバー駐在経験者から話を聞いたことがある。筆者も行ってみたくなった。

カナダのフィッシングやウイッスラーのスキーなども、格安チケットを利用すれば、本場での贅沢な楽しみが比較的廉価でできる。

実現可能で、そそられる話だ。


大前さんの趣味

大前さんは多趣味で、ちょっとしたことでも凝っている。元々楽器演奏が趣味で、大学時代はオーケストラでクラリネットを吹いていたこともある。60歳の時には還暦記念コンサートも開催したほどだ。

買い物は定番、たとえばゴールドファイルのセカンドバッグ、トゥミのブリーフケース、香港仕立てのマオカラーのシャツなど。

時間の過ごし方では、美容院、タイ式マッサージ、ネイルサロン、電気自転車でのぶらぶら散策、バイクで江戸川河川敷を散策、蓼科の別荘など。

グルメも行きつけのお気に入りの店(西麻布交差点近くの屋台風のかおたんラーメンがお気に入りだとのこと)の休日の一人メシから、年に数回早朝5時起きして家族で行く築地市場の大和寿司、ビジネスに使える店などTPOに合わせて広いレパートリーを持っている。

読書ではジャックウェルチの『わが経営』や、ユニクロの柳井さんの『一勝九敗』などのビジネス書、敗者を描いた司馬遼太郎の『峠』などの歴史小説、プラトンの『ソクラテスの弁明』などの哲学書、ファラデーの『ロウソクの科学』などの自然科学書なども大前さんのおすすめだ。

筆者は以前は書斎を持っていたのだが、今は次男の子供部屋になってしまった。現在はリビングの書斎コーナーでこのブログを書いているが、大前さんは子供部屋を削っても書斎を持つべきで、ひとりの時間を生産的に過ごせと語る。

パソコンを使っての調べ事、自分史作成、オークションや酒場の楽しみ、男の料理、老後の趣味、ボランティア、海外移住など他の趣味の話も満載だ。


『脱・ビジネス時計』大前さんも元はモーレツ人間

大前さんは今でこそ多趣味で、オン・オフを使い分けているが、マッキンゼーに入って数年は、入社四年目で出版した『企業参謀』が売れに売れて、引っ張りだことなり、ほとんど休みを取らなかったので、過労で体調を崩し、喘息を併発した。

これではマッキンゼーをやめるしかないと思い、当時のアメリカ人支社長に相談すると長期休暇を取るよう薦められた。辞めるかどうかはその後に決めろと。

それで年末年始も入れて3週間の長期休暇を取り、家族でパラオに行った。ダイビングを楽しみ、テレビもなく、新聞もない生活を数日続けていると、自分のなかのビジネス時計が止まり、オフ時計に切り替わったのだと。

脱・ビジネス時計は重要で、『リバー・ランズ・スルー・イット』のモンタナ州はアメリカ人に何もない場所として人気の場所だと。

ロバート・レッドフォード、ブラピのフライフィッシングと、きれいな川の風景を思い出す。筆者もモンタナのイエローストーン自然公園には、実はビジネスで行ったのだが(イエローストーン地区産のタルクを日本に輸出した)、次回は是非フライフィッシングに行きたい。


リバー・ランズ・スルー・イット


国内、海外旅行はオフのメインイベント。マイレージは最高の親孝行のツールだと大前さんは語っている。


大前さんの家族(チーム)マネージメント

大前さんはどんなに忙しくとも毎週木曜日夕食は奥さんとの定期点検にあてて、奥さんから家庭内の悩みを聞き、基本方針の意見統一をしていた。土日は家族や友人で楽しむオフの時間で、悩みを聞いたり、うち明けたりするには不向きだからだと。

筆者は平日でもできるだけ自宅で食事をとるようにしているが、必ずしも家内と意見交換しているわけではない。