2016年11月20日

日本核武装計画 トランプ発言で勢いを得るか?田母神さんの日本核武装20年計画



トランプ次期米大統領が選挙運動期間中に、北朝鮮の核に対抗するために、日本も韓国も核武装したらよいという発言をしていることが、マスコミでも取り上げられている。



「富士山噴火」などのクライシス小説を得意とする高嶋哲夫さんの「日本核武装」という小説も売れている。

日本核武装
高嶋 哲夫
幻冬舎
2016-09-23


同じような題名だが、元自衛隊幕僚長の田母神さんの「日本核武装論」を読んでみた。

田母神さんの本は、以前「座して平和は守れず」という本のあらすじを紹介している



この本ではあまり参考になるデータ等は紹介されていない。

たとえば、世界の核保有国のリストはあるが、保有核弾頭数は記載なく、どこがどれだけ核弾頭をもっているのかわからないので、この辺りはこのブログで紹介している元陸将補の矢野義昭さんの「核の脅威と無防備国家日本」という本のあらすじもあわせて参照願いたい。



田母神さんは日本の工業技術をもってすれば、核爆弾製造など簡単にできるだろうという前提でこの本を書いているので、本当に日本でも核爆弾ができるのかどうかは、このブログで紹介している「日本は原子爆弾をつくれるのか」のあらすじも参照願いたい。



筆者はこの本を読んで、田母神さんは、太平洋戦争に突入していった旧陸軍軍部のような発想の人だと感じた。

すべてが楽観的な見通しに基づいて議論しており、特に日本がNPT(核拡散防止条約)から撤退して核爆弾を製造し始めたら、当然予想される世界中からの制裁(当然エネルギーと食料の供給がストップすることだってありうる)にどのようにして耐えていくのかというロジスティックスを全く考えていない。

上記で紹介した「核の脅威と無防備国家日本」も同様の内容の本で、どちらもスキだらけで、突っ込みどころがありすぎる。

田母神さんの主張は、この本の「はじめに」で明らかにされている。要約すると:

「バブル崩壊以降の日本経済はひどいものだった。アメリカがもくろんだ通り、日本は弱体化し、世界一と言われた日本経済は海の底に沈んだ。

こんなことになった根本的原因は、日本がアメリカに守ってもらい、アメリカに依存して生きてきたからということに行きつく。

日本の政治家に日本派はほとんどいない。いるのはアメリカ派と中国派だけだ。しかし、日本人もバカではない。数少ない日本派の政治家の安倍晋三を総理に据え、ようやく踏ん張りを見せ始めた。

その一歩がアベノミクスだが、これだけでは不十分だ。憲法改正、自衛隊の国防軍化、自主防衛体制の確立が不可欠だ。

そもそも自分の国を自分で守れない国は、世界では独立国の扱いをされない。いくら経済が強くても、一流国とは絶対に認められない。だから、まずは自主防衛。そして核武装なのだ。

『世界中の国が願わくば核武装したいと思っている』『核武装をすれば国はより安全になる』と言っても、ピンとこない人が多いのがこの日本である。」


というぐあいだ。

「なんちゃってなか見!検索」で、目次を紹介しておく。目次を読むだけで、この本の内容が推測できるだろう。

はじめに 今こそ「核武装」の議論を

第1章 力なき正義は無能である

・アメリカの「正義」とはアメリカの「国益」である
・敗戦で吹っ飛んだ日本の正義
・領土問題でも無視される日本の正義
・力があるから正義が通る
・国連が国のエゴを抑え込めない理由
・国連常任理事国だけが持つ核の特権
・イスラエルとイランへの対応はなぜ違う?
・核廃絶を訴える人が核保有国を喜ばせている
・国際政治は子供の世界と同じである

第2章 抑止力としての「核武装」を日本に
・核武装で日本は安全になる
・広島・長崎から始まった核兵器の時代
・広島・長崎以降、核は一度も使われていない
・北朝鮮やイランが持っても核は二度と使われない
・核兵器は戦力の均衡を必要としない
・核の登場で世界は安全になった
・「核兵器が亡くなれば平和になる」の嘘

第3章 核武装国が言う「核廃絶」に騙されるな
・核武装国の本音
・日本のリーダーたちはなぜ騙されるのか
・発言力は軍事力と経済力で決まる
・憲法改正がなぜ必要なのか
・冷戦終結後、アメリカの日本弱体化計画が始まった
・アメリカに守ってもらっている限り、経済も良くならない

第4章 「核武装」の言論統制に怯むな
・核武装を考えていた日本の首相たち
・非核武装には外務省も反対だった
・「核の傘」と引き換えに宣言された「非核三原則」
・そして核武装論は復活した
・唯一の被爆国には核武装する権利がある
・「核武装で日本は孤立する」の嘘
・できない理由ばかり並べる人たち
・核アレルギー拡大に利用された原発事故
・「日本も核を持て」とアメリカが言っても反対するのか?

第5章 日本が核武装国なら「尖閣問題」は起こらなかった
・国際法で中国船を排除できない日本
・「太平洋をアメリカと2分したい」と言った中国
・「アメリカが永久に日本を守ってくれる」という幻想
・アメリカの「核の傘」がなくなったら…
・核武装すれば中国は尖閣に近寄れない
・現在でも「日本は核を絶対に使いません」とは言えない

第6章 世界平和は「核武装」によって保たれる
・「生活が豊かになれば戦争はなくなる」の嘘
・軍事バランスの均衡が戦争を抑止してきた
・経済力に見合った軍事力を持たないとその地域は不安定になる
・日本が核武装していれば拉致問題も起こらなかった

第7章 核武装国にならなければ一流国になれない
・アンバランスな日本の経済力と発言力
・自分の国を自分で守れない国は常任理事国になれない
・核武装は一流国の条件である
・相手の嫌がることをするのが外交である
・核武装国となれば日本と仲良くなろうとする国が増える

第8章 日本核武装20年計画 前編 武器輸出解禁〜非核三原則見直し
・核武装20年計画で日本に鉄壁の守りを
・核武装20年計画その1−武器輸出の解禁 ひそかに武器をつくって国産体制に切り替えよ
・核武装20年計画その2−国民の意識改革
・核武装20年計画その3−憲法改正
・核武装20年計画その4−非核三原則の見直し

第9章 日本核武装20年計画 後編 レンタル核〜核実験
・核武装20年計画その5−核兵器の貸与を要求
・核武装20年計画その6−ニュークリア・シェアリングの実施
・核武装20年計画その7−核開発の意思表明
・核武装20年計画その8−NPT脱退
・核武装20年計画その9−核開発の実行
・核武装20年計画その10−核実験

筆者が冒頭に書いたNPT条約から脱退した場合の制裁については、田母神さんは次のように述べている。

「インドやパキスタンの場合はアメリカが制裁を呼びかけ、日本などが同調したが、それはあくまでもインド、パキスタンの場合だ。日本とアメリカは同盟国であり、日本はアメリカに黙っていきなり脱退をするわけではないのだ。

核武装の意思をアメリカに話した段階で、もしアメリカが絶対反対と言い、それでも日本が核武装を行う場合は、その時点で日米安保を破棄するなりして同盟関係も壊れる可能性が高い。そうなったらアメリカも日本いじめに走るかもしれないが、そうならないように事前の説得を行うわけである。

そして、インドやパキスタンの例を見ればわかるように、たとえアメリカを中心とした国際社会の非難を浴びたとしても、それは核を保有するまでの話で、持ってしまったらその国を無視することなど結局はできないのだ。

アメリカは中国と組んで日本の孤立化を匂わせながら、日本が核保有を断念するように仕組んでくるかもしれない。こうなると国内でも、アメリカに見捨てられて日本は生きていけるのか」といった弱気な世論が出始め、政府もおろおろするというのがよくあるパターンだ。だが、核武装に踏み切る以上、アメリカの意地悪というのは初めから織り込み済みにしておかなければだめだ。

そうなってもいいように自主防衛の体制を築いておくわけで、そもそも核武装するのはアメリカに依存しない本当の意味での独立国の体制をつくるためなのだから、「アメリカに見捨てられては困る」というのは本末転倒なのである。

だいたい、インドやパキスタンを見捨てなかったアメリカが、「核武装するなら日本とは縁を切る」などと脅しで言うことはあっても、本気でいうことはないはずだ。

中略

アメリカは日本に防波堤の役割を担ってもらわなければ困るはずなのである。

つまり、核兵器を持つまでは、アメリカからの意地悪もある程度は覚悟しなければならない。しかし、(中略)核保有にまでたどりつけばそこでおしまい。向こうが勝手に「ハイ、それまでよ」と挙げたこぶしを下してくれるのである。」


超楽観論である。これが筆者が田母神さんを「太平洋戦争に突入していった旧陸軍軍部のような発想の人」と評する理由だ。

さらに、

「近年南シナ海で中国に脅かされてきたASEANの国々や日本の原発を買おうとしているインドは、日本の核武装を支持し、応援してくれる可能性が高いのである。

いずれにしても日本の技術力をもってすれば、核開発に入ってから核兵器を作り上げるまでに「持っているぞ」を見せるだけのものなら1年以内、きちんとつくっても2、3年あれば核兵器は完成することだろう。」


と言い切っている。

ASEANとインドについては、田母神さんが出席した米国が毎年主催している世界の空軍の参謀長会議での、インドの空軍参謀長やインドネシアの参謀総長との会話を根拠としている。しかし、この程度の立ち話?で、ASEANとインドは応援してくれる可能性が高いと断言できるのか、全く疑問である。

また日本の技術力については、冒頭に記した通り、全くの思い込みで、なんの根拠もない。

筆者の大学の先輩も含めて、日本の原子力技術者は、研究の際の被ばくに備えて、精液を保存している(正確には、していたというべきかもしれない。現在はどうしているのかわからないが、たぶん同様だと思う)。

原子力の平和的利用の場合でも、被ばくのリスクがあるのに、「日本は原子爆弾をつくれるのか」で紹介したような、複雑な構造の原子爆弾をつくる際の被ばくのリスクを考えると、原子爆弾開発には、良心的就労拒否の研究者も多数でてくることが予想される。

Implosion_bomb_animated








出展:Wikipedia

田母神さんは、この本を「日本国の平和と安全のため、豊かな未来のために、我々は核武装を目指すべきである」という言葉で結んでいる。

トランプ次期大統領の発言で、半信半疑の人も含めて、やや勢いを得ている日本核武装論だが、依然として日本国民の少数意見であることは間違いない。

トランプ外交の展開によっては、検討すべき課題となるかもしれないが、もしNPT条約を脱退し、核武装を進めるなら、世界中から制裁を受ける前提で全てを考える必要があるだろう。

筆者は日本核武装論は日本の国益にも国民感情にも反すると思うが、興味のある人は、今回紹介した三冊のあらすじを参考にして、さらに自分で研究願いたい。


参考になったら、投票ボタンをクリック願いたい。






  
Posted by yaori at 02:16Comments(0)TrackBack(0)

2014年11月25日

靖国神社 集団的自衛権行使容認が靖国問題を解決する?

靖国神社 (幻冬舎新書)
島田 裕巳
幻冬舎
2014-07-30


「葬式は、要らない」など、ヒット作を出している宗教学者の島田裕巳(ひろみ)さんの本。

今まで小林よしのりの「靖国論」などを読んで、靖国神社のことを理解した様に思っていたが、全然基本的なことを理解していなかったことがよくわかった。



ちなみに小林よしのりは「保守も知らない靖国神社」という新書を出しているので、次に読んでみる。

保守も知らない靖国神社 (ベスト新書)
小林 よしのり
ベストセラーズ
2014-07-09


靖国神社は日本の内戦の官軍側の死者を弔うために建立され、賊軍は一切祀られていない。もともと賊軍を差別するために建立された神社だった。

その後、尊王攘夷で明治になる前に死亡した坂本竜馬など維新殉難者たちも靖国神社に合祀されたが、たとえば西郷隆盛などの反明治政府勢力は、合祀されていない。

一般的に合祀とは、すでに神社で祀られている祭神を別の神社でも祀ることをいうが、靖国神社の場合には、靖国神社のみで祭神となる場合でも合祀と呼ぶ。

靖国神社は東京招魂社として設立され、別格官幣社として神社の社格を整えたが、もともとは神官がいなかった。その後、陸軍省と海軍省の管理となって、神官を置くようになった。

明治時代のなかばまでは官軍の戦死者を祀る神社だったが、日清戦争、日露戦争を経て、対外戦争で亡くなった戦死者と戦病死者、亡くなった軍属を祀るようになって、ご祭神の数は一挙に増えた。

戊辰戦争以来の合祀者は1万5千人ほどだたが、日清戦争の戦死者・戦病死者だけで1万3千人にも上った。

日清戦争以前は、戦病死者は合祀されていなかったが、日清戦争の死者の86%は戦病死者だったので、合祀基準も改められ、戦死者と戦病死者ということになった。

日露戦争でも8万8千人が合祀され、全部で10万人を超える戦没者が靖国神社に合祀された。

現在では太平洋戦争の戦死者・戦没者を含めて全部で246万人以上が合祀されている。

陸軍と海軍の管理下にあった靖国神社は、戦後すぐに最大の存続の危機を迎えた。

しかし、昭和20年11月にGHQ支配下で開かれた臨時大招魂祭にGHQの民間情報局のダイク准将他が参観に訪れ、神社神道は欧米の宗教とは異なり、煽動的なものではないことがわかったため、国家管理から民間の一宗教法人になったものの、神社として存続できた。

GHQ支配下では合祀は一時期禁止されていたが、昭和24年から合祀が許され、独立回復後の大量合祀を含めて、靖国神社には満州事変の戦没者1万7千名、日中戦争の戦没者19万1千人、太平洋戦争の戦没者213万4千人が合祀されている。

靖国神社の戦後の合祀は実質的に国が主導したもので、実務を担当したのは厚生省引揚援護局の職員となった元軍人たちだった。遺族年金がもらえるかどうかも、合祀されるかどうかで決まった。

太平洋戦争では民間人も多数死亡した。民間人は原則として合祀されないが、沖縄県の民間人戦没者、阿波丸沈没の遭難者、対馬丸沈没の遭難者などは合祀されている。

戦犯の合祀は靖国神社の総代会でも議論が続けられ、昭和34年春の例大祭にBC級戦犯353名が、ひっそりと合祀された。

戦犯の合祀は関係者のみで進めたので、問題化していなかった。そこで厚生省の援護局(引揚援護局が昭和36年に改組)は昭和41年にA級戦犯7名の刑死者と5名の獄死者を祭神名簿を靖国神社に送っている。

靖国神社では総代会にかけて討議し、昭和44年の総代会でいったん合祀決定されたが、その後昭和45年に保留とされた。当時の宮司(ぐうじ)の元皇族の筑波藤麿が合祀を保留にしていたのだ。

筑波宮司が昭和53年に死亡し、代わって宮司になったのが第6代宮司松平永芳(ながよし)宮司だ。

松平は元海軍少佐で、戦後は陸上自衛隊に入り、一等陸佐で退官した。松平は東京裁判を否定しなければ、日本精神の復興はできないと考え、推薦者の元最高裁長官石田和外(かずと)にもそう語っていたという。

松平宮司は就任した昭和53年7月に就任すると、さっそく10月にA級戦犯14名の合祀を決め、御所に形の上での上奏を行った。

A級戦犯14名は次の通りだ。

絞首刑7名
1.東條英機
2.広田弘毅
3.土肥原賢二
4.板垣征四郎
5.木村兵太郎
6.松井石根
7.武藤章

判決前または刑期中に病死7名
1.平沼騏一郎
2.小磯国昭
3.松岡洋右
4.東郷茂徳
5.永野修身
6.梅津美治郎
7.白鳥敏夫

当時の侍従長の徳川義寛は、「そんなことをしたら陛下は行かれなくなる」と伝えたという。松平宮司は確信犯だったのだ。

平成18年に日経新聞がスクープした元宮内庁長官の「富田メモ」の昭和63年4月28日の記述でも、昭和天皇がA級戦犯合祀に不快感を持っていたことが知られている。

富田メモはその信憑性をめぐる議論がだされたが、その後平成19年に、卜部亮吾・元侍従の日記の昭和63年4月28日にも同旨の昭和天皇発言が記録されていることがわかり、徳川義寛侍従長も同様のことを語っているので、信憑性は高い。

冨田メモ
















出典:いわゆる冨田メモ疑惑サイト

靖国神社の存在は憲法の政教分離に反するという意見が以前からあり、これに対して政府は「靖国神社法案
」を昭和44年以来、何度も国会に提出したが、そのたびに廃案となった。そこで昭和53年に政府は「内閣総理大臣等の靖国神社参拝についての政府統一見解」を発表した。

これは私人としての参拝は問題にはならないというものだ。

この辺の政府答弁の推移は、官邸の「追悼・平和祈念のための記念碑等施設の在り方を考える懇談会」の第2回議事録の資料としてまとめられている。

中曽根元首相は、昭和60年8月9日に「閣僚の靖国神社参拝問題に関する懇談会」の有識者による報告書が出ているので、報告書が出た直後の8月15日に靖国神社を公式参拝し、前日に藤波官房長官が翌日総理が靖国神社を参拝することを発表している。

この時に中国から「東條英機ら戦犯が合祀されている靖国神社への首相の公式参拝は、中日両国人民を含むアジア人民の感情を傷つけよう」という非難が初めて出された。

中国のほかにも、韓国、香港、シンガポール、ベトナム、ソ連から批難が出され、そのこともあって、中曽根元首相は正式な参拝の礼儀をしなかった。中曽根元首相は、その後は首相在任中に靖国神社を参拝することはなかった。

次に首相の立場にある者が靖国神社に参拝するのは、11年後の平成8年の橋本龍太郎となった。

昭和天皇陛下も昭和50年に天皇親拝の後、亡くなるまで靖国神社に親拝することはなかった。

この本で初めて存在を知ったのが靖国神社の中にある鎮霊社だ。島田さんは、この本の最初と最後にこの鎮霊社参拝を紹介している。

20081004104902b





















出典:ぞえぞえねっと

安倍首相は平成25年の靖国参拝時にあわせて参拝し、「また、戦争で亡くなられ、靖国神社に合祀されていない国内、及び諸外国の人々を慰霊する鎮霊社にも、参拝いたしました。」と語っている。平成26年4月のオバマ大統領来日の際にも共同記者会見で言及している。

鎮霊社は筑波藤麿宮司の時代に筑波宮司の強い意向で建てられたものだ。

筑波宮司は「核兵器禁止宗教者平和使節団」の一員として昭和38年に欧米諸外国を訪問し、ローマ法王、ロシア正教大主教、カンタベリー大主教や国連のウ・タント事務総長らと面会した。この体験から日本の英霊を祀るだけでなく、世界の英霊を祀らなければ世界平和は実現しないと考えるようになったという。

安倍首相としては、「靖国問題」に解決の糸口を見つけようとして、鎮霊社参拝を思いついたのだろうが、マスコミも国民全体もさしたる関心を示さず、空振りに終わった。

この本の「おわりに」で、島田さんは「集団的自衛権行使容認の閣議決定が行われた日(平成26年7月1日)に」、として集団的自衛権の行使により死亡した自衛官が靖国神社に祀られるかどうかで、「靖国問題」の性格が根本から変わっていくことを示唆している。

日本が外国での戦闘に参加すること自体が、近隣諸国からは軍国主義の復活と受け取られる事態であり、もはや「靖国」は問題にされないのではないかと。

「『靖国問題』が騒がれていた時の方が、私たちははるかに平和で安全な社会に生きていると言えるのかもしれないのである。」と結んでいる。

欲を言えば、歴代首相経験者で首相在任中の靖国参拝歴に加えて、首相になる前と首相を退任してから後も靖国神社に参拝しているのか調べて欲しかったが、これについては、また他の本を探すことにする。

読みやすく、大変よくまとまった「靖国問題」の本である。


参考になったら、投票ボタンをクリック願いたい。

  
Posted by yaori at 21:56Comments(0)TrackBack(0)

2014年08月30日

重火器の科学 仮想敵国の嫌がる武器が最大の抑止力



自衛隊の武器補給処技術課研究班に勤務し、2004年に定年退官した かのよしのりさんの本。

図書館の新刊書コーナーに置いてあったので読んでみた。

大砲やロケット弾、地雷、手りゅう弾などの基礎が学べる。

かのさんは他にも「自衛隊VS中国軍」や「銃の科学」といった著書を書いているので、今度読んでみる。

自衛隊vs中国軍 (宝島社新書)
かの よしのり
宝島社
2013-03-09




最も参考になったことは、簡単で安上がりな兵器が最も防衛に適しており、周辺国はすべて普通に装備しているのに、日本はそれらを人道的見地から放棄したということだ。

たとえばクラスター弾だ。日本は2008年クラスター爆弾禁止条約に調印した。そして国土防衛用に配備していた多連装ロケット発射器から打ち出すクラスターロケット弾も廃棄した。

自衛隊は敵が上陸してきた場合、海岸に密集しているタイミングでクラスター弾で打撃を加える戦略だったが、みずからその有効な手段を放棄した。

一方、米国はじめ中国、ロシア、韓国、北朝鮮、台湾のいずれもクラスター爆弾禁止条約には参加していない。

日本は自ら安価で有効な国土防衛の武器を放棄したのだ。

img053






















出典:本書90〜91ページ

そして対人地雷禁止条約にも調印しているので、地雷も廃棄した。こちらも米国、中国、ロシア、韓国、北朝鮮、台湾はいずれも調印していない。

人道的な見地から、これらの残虐な兵器を禁止するという趣旨は理解できるが、全世界の国、特に仮想敵国となりうる国がすべて参加しない限り、相手が嫌がる武器を自ら放棄して、防衛力を弱めるだけになるだろう。

日本には恐るべき地雷があった。

img054






















出典:本書150〜151ページ

ショックを与えると本体が1メートル程度ジャンプして、空中で爆発し、250個の鉄球をばらまいて殺傷するという恐ろしい兵器だ。敵の兵士に与える恐怖感は絶大だろう。

中国の人民解放軍の兵士が持っている手りゅう弾は、直径3ミリの鉄球1,600個を飛散させる。

img055






















出典:本書184〜185ページ

最近では小銃で実弾を使って、手榴弾や擲弾を発射できる。

img056






















出典:本書188〜189ページ

もし中国軍が日本に侵攻してきたら、まずはクラスターロケット弾で自衛隊の陣地にクラスター弾を雨あられと降らせて打撃を与え、近接戦では小銃擲弾と手榴弾を使って日本の兵士を攻撃するだろう。

日本も反撃するだろうが、クラスター弾でダメージを受けた部隊は、はたして立て直すことができるのか?

ヒューマニズムの精神にはもちろん賛成だが、日本の仮想敵国である周辺国すべてがダーティな武器を持ち続ける以上、日本だけが放棄しては抑止力の低下はまぬがれない。

相手の嫌がる武器を持つことが、安価で有効な抑止力ではないのか。そんなことを考えさせられる本である。


参考になれば投票ボタンをクリック願いたい。



  
Posted by yaori at 01:35Comments(0)TrackBack(0)

2014年08月13日

再掲  「零の遺伝子」 国産ステルス戦闘機 試験飛行決定

2014年8月13日再掲:

夏休みや冬休みが終わりに近くになると、このブログのランキングは上がる。
休み中の課題図書となっている本の感想文を書くために、小中学生がこのブログを参考にしているのだと思う。

「助かりました」という感謝のコメントをもらうこともある。小中学生はあらすじを読んだら、律儀に文末の「このブログに投票する」をクリックしてくれるから、ランキングが上がるのだろう。

現在のこのブログの人気記事ランキングは次の様になっている。

1.「海賊と呼ばれた男」 百田尚樹

2.「ホームレス中学生」 田村裕

3.「零の遺伝子」 春原剛

4.「日本男児」 長友佑都

5.「心を整える。」 長谷部誠

たぶん3.を除いて、他は課題図書になっているのだと思う。

3.は、このブログの人気記事のランキングにずっと入っている。たぶんあまり他のブログ等で紹介されていないからなのだろう。

その国産ステルス戦闘機開発に関して、新しいニュースがあった。開発者の三菱重工がステルス戦闘機「心神」の試作機の初飛行を2015年1月に行うと報じられたのだ。

国産ステルス機配備計画は、エンジン調達など、まだまだ課題があるが、予定通り進められているようだ。

来年1月の初飛行を期待して、「零の遺伝子」のあらすじを再掲する。


2012年11月22日初掲:
零の遺伝子: 21世紀の「日の丸戦闘機」と日本の国防 (新潮文庫)零の遺伝子: 21世紀の「日の丸戦闘機」と日本の国防 (新潮文庫)
著者:春原 剛
新潮社(2012-07-28)
販売元:Amazon.co.jp

日経新聞編集委員の春原 剛(すのはら つよし)さんの本。春原さんは先日の日経・CSISシンポジウムでアーミテージ・ナイ鼎談の進行役を務めていた。

1990年代の次期支援戦闘機FSX商戦では、自主開発を求める自衛隊の制服組や三菱重工業などの産業界を、米国との外交関係を重視した日本政府が押し切り、F16をベースとした共同開発に決着した経緯がある。

たそがれゆく日米同盟―ニッポンFSXを撃て (新潮文庫)たそがれゆく日米同盟―ニッポンFSXを撃て (新潮文庫)
著者:手嶋 龍一
新潮社(2006-06)
販売元:Amazon.co.jp




これにより、日本の開発したアクティブ・フェーズド・アレイ・レーダー技術と炭素複合材を使った軽量主要成型技術が米国に召し上げられ、生産分担分も米国に持って行かれるという結果となり、日本の航空エンジニアは2重の屈辱を味わった。

FSXをトラウマとして抱える防衛省・自衛隊の関係者は、いつしか日本の独自開発で戦闘機を作る夢を持ち続けた。それが現在も開発が進められている先進技術実証機ATD−X、コードネーム「心神(しんしん)」と呼ばれる国産ステルス戦闘機で、これを支援したのが「防衛庁の天皇」と呼ばれ、事務次官を異例の4年も続けた守屋事務次官だった。


守屋次官の政治力

山田洋行の過剰接待を受けた収賄罪で起訴され、現在は懲役刑で服役している「防衛庁の天皇」と言われた守屋武昌次官は、かつて「日米キャデラック・カローラ論」を掲げていたという。第5世代戦闘機としてはF22がキャデラックであり、カローラに相当するのが、日本の「心神」である。

実際、F22が推力15トンのF119エンジン2基を搭載するのに対して、推力5トンのIHI製のXF5エンジンを2基使った「心神」はたしかにカローラのようなコンパクト機となる。日本にも推力10トン以上の自主開発エンジンの計画があるが、費用は1兆円を超えるので、なかなか踏み切れないのだ。

セロ戦もライバルF6Fヘルキャットのエンジンが2,000馬力超に対し、当初の栄エンジンは1,000馬力以下だった。非力なエンジンを使ったので、軽量で敏捷な戦闘機ができたことから、この本ではセロ戦と「心神」の類似性をタイトルに使っている。

ちなみに、このブログで守屋さんの「普天間交渉秘録」のあらすじを紹介しているので、興味ある方は参照してほしい。淡々と事実を説明しており、わかりやすい本だった。

守屋次官は、小泉純一郎首相に気に入られていたので、米軍再編問題で外務省が打ち出していた「スモール・パッケージ」(横田基地の米軍司令部のグアム移転だけ受け入れて、米陸軍第1軍司令部の座間移転は拒否する)に対抗して、米軍のグローバル再編に協力する「トータル・パッケージ」として小泉首相に説明し、「トータル・パッケージはおもしろいじゃないか」という言葉を引き出すことに成功する。

「トータル・パッケージ」とは、1.米海軍厚木基地の艦載機部隊を海兵隊岩国基地へ移転、2.普天間飛行場の移転、3.相模補給廠や牧港補給地区など使用頻度の低い遊休施設の返還などを含んだ防衛省の独自プランだ。

2004年9月の小泉・ブッシュ会談のために、小泉首相は守屋次官に発言要旨メモをまとめるよう指示し、ここで日米交渉の主導権は外務省から防衛省に移った。


「機体はつくるな」という指令

防衛庁幹部には、米国の印象を悪くするような「新・国産戦闘機プロジェクト」を声高に進めるのは賢明でないという考えがあったので、「心神」開発は「高運動飛行制御システム」という名目で始められた。2004年前後に130億円の予算を確保したが、「機体はつくるな」とクギを刺されていたという。

そこで防衛省の技術開発本部は「心神」の実物大のモックアップ模型をつくって、フランスの仏国防整備庁の設備でステルス性能を試した。このことはYouTubeの次の映像で報じられている。




もともとF22が欲しかった防衛庁

防衛庁は国産開発の「心神」をもとから欲しかったわけではない。第5世代戦闘機のトップに位置する米軍のF22が導入希望のトップだった。F22のステルス性能は、自動車ぐらいの大きさのものが、レーダーではゴルフボールくらいにしか映らないという驚異的なものだ。

フランスでの「心神」のステルス性能テスト結果は、上記のビデオでは「中型の鳥よりは小さいが、虫よりは大きい」と防衛庁幹部が語っている。「せいぜいサッカーボールぐらい」だったという。



現代の戦闘機は戦闘機だけで行動するわけではない。強力なレーダーを持つ早期警戒機や地上・海上のレーダーと一体化した高速データリンクの中で、敵を攻撃する役割が与えられている。だから敵の「脳」ともいえる早期警戒機を撃墜できる能力があり、また「敵地深くに入り込み、爆撃する能力」を持つステルス戦闘爆撃機は、「核にも匹敵する戦略兵器」と言われるのだ。

F22は燃料を大量に消費するアフターバーナーを使わず超音速飛行ができるので航続距離も長く、グアム島から北朝鮮に侵入して、電撃爆撃し、北朝鮮軍機とドッグファイトをしてグアム島に帰還することが可能という。航空自衛隊のF15だと、日本から北朝鮮の往復飛行がやっとで、ドッグファイトすると「片道切符」になるという。

F15があれば、F22は要らない」と言っていた航空自衛隊は、2007年に沖縄で行われた航空自衛隊のF15対米軍F22の共同訓練で、双方が早期警戒機を導入していたにもかかわらず、完全に「お手上げ」の状態だったことから、F22導入希望に変わったという。

これに先立ち2004年に行われたインドと米軍の合同軍事演習で、F15がSU30に惨敗したという情報を自衛隊は得ていた。この時は、早期警戒機なしのデータリンク抜き、自動追尾ミサイルなしのドッグファイトだった。

次のビデオを見れば、SU30の驚異的な運動性能がわかると思う。まるで風に舞う木の葉のようだ。



2009年5月に自民党の新・国防族を代表する浜田靖一防衛大臣は、ワシントンを訪問して当時のゲーツ国防長官と面談した時に、次期主力戦闘機にF22を有力候補として位置付けていることを強調した。しかし、ゲーツ長官はF35を「良い戦闘機」だと勧める発言をした。




F22は打ち切り、F35は大増産

F22は1983年にコンセプトをつくり、2005年に実戦配備が始まった。ところがあまりにカネがかかり、しかも飛ぶごとに毎回お化粧直しが必要ということもあり、メインテナンスもバカにならない。

このため米国では183機で生産中止が決まっている。米国議会の輸出禁止決議もあり、日本がF22を購入することは不可能となった。

一方F35は、同じ生産ラインから空軍仕様、海軍仕様、海兵隊のSTOVL仕様が一括生産でき、米空軍1,800機、米海軍400機、米海兵隊600機、英国空軍150機に加え、NATO諸国、イスラエルも導入し、日本も2011年末にF35を導入決定した戦闘機のベストセラーだ。

F22,F35と並ぶ第5世代戦闘機としては、ロシアのPAK FAと呼ばれるSU50や中国の殲20がある。






第6世代戦闘機

米軍の中では、第6世代戦闘機は、いよいよ無人機になると言われている。映画「ステルス」もAIを搭載した無人機が、隊長を自らの意思で救出するというストーリーだ。同じようなことが次世代の戦闘機では起こる可能性があるという。



次世代戦闘機の特性は"morphing”(変形)というコンセプトだという。なにやら映画「ターミネーター2」のT−1000のような印象があるが、「しなり」に近いものを機体に持たせるものとみられているという。



ちなみに航空自衛隊は、早くから無人飛行機の研究を続けており、F104の無人機を10機以上生産した。

パイロット訓練用の逃げ回るターゲットとして考えられていたが、運輸省との論争で航路が限定されたため、すぐに撃ち落とされるようになり、結局岐阜県の航空自衛隊第2補給処に死蔵されているという。


F35は空軍、海軍、海兵隊が同じ戦闘機を使う初めてのケースで、その意味ではいままで米軍戦闘機が抱えていたインターオペラビリティの問題を抜本的に解決した戦闘機である。(いままでの米軍の戦闘機はF15、F−16は空軍だけ、F14、F−18は海軍だけ、ハリヤーは主に海兵隊が使っており、ミサイル、弾薬、燃料、潤滑油、レーダー、タイヤに至るまで装備品の仕様が異なっていた)。

平和の配当で、どの国も防衛予算を削減している流れのなかで、F35は世界各国が参加した文字通りの"Joint Strike Force"といえる共同開発機種である。

日本もライセンス生産という形で、その開発に加わることになるので、いまさら日本独自で「心神」戦闘機を開発するということになるとは考えにくい。それゆえ「心神」はせいぜい試作機にとどまるのではないかと思うが、今後の動きに注目したい。

問題点がよく整理された本である。もともと2009年に単行本として出版され、2012年に文庫化された。春原さんの本をいろいろ読んでみて、この本が一番よくまとまっていると思う。


参考になれば投票ボタンをクリック願いたい。

  
Posted by yaori at 22:11Comments(2)TrackBack(0)

2013年10月22日

レアメタルの太平洋戦争 これが日米開戦のミッシング・ピースだ



ジャーナリストの藤井 非三四(ひさし)さんが書いた太平洋戦争を金属資源の観点から分析しなおした本。

筆者が読んでから買った数少ない本の一つだ。

よく知られているように、米国に1941年8月1日の対日石油輸出禁止を決断させた直接の原因は、1941年7月の日本軍の南部仏印進駐だ。この辺の事情をまとめた「戦争と石油」という記事がJOGMECの情報誌に載っているので紹介しておく。

この予想もしていなかった米国の強硬な態度に、日本政府関係者はみんな驚いた。当時の陸軍の軍務課長だった佐藤賢了は、「私達はこんな形で経済封鎖を受けることは予想していなかった。私は南部仏印に進駐しても日米戦争にはならないと判断しておった」と語る。

「日本軍部隊はすでに北部仏印に進駐しており、それがヴィシー政府との協定に基づいて、南部仏印に転出するだけで、戦争でもなければ侵略でもない。そこは米国の領土でも植民地でもない。日本はフィリピンの安全は保障する。南部仏印進駐によって、米国が対日戦争をしかける理由はない。」というのが当時の陸軍の一般的な考え方だったという。

「南進」が米国の虎の尾を踏んだのだ。日本で「南進」を警戒していたのは、皮肉なことに松岡洋右だけだったという。

いままで、米国の対日禁輸を招いた南部仏印進駐は、一般に言われているように「米国が南部仏印進駐をドミノ理論的にとらえ、東南アジア全域を支配するための第一歩と受け止めた」と考えていたが、この本を読んで、なぜ南部仏印進駐が、米国の過剰反応を引き起こしたのかわかった。

それは、南部仏印に進駐することで、米国のマレーシア、フィリピン、インドネシアなどから輸入しているレアメタル資源や天然ゴムの供給を脅かすからなのだ。

ミッシング・ピースが見つかった思いだ。

アメリカには石油、石炭に加え、鉄、銅、アルミなど戦争に必要な金属資源は豊富にある。裾野の広い自動車産業が発達していたこともあり、19世紀後半から金属の生産量は世界最大をずっと保っていた。

そのアメリカにないものが、ニッケル、クロム、錫だ。ニッケルは隣のカナダで大量に生産するので、大きな問題はないが、クロムはフィリピン、そして錫はマレーシアやインドネシアのバンカ島、ビリトン島に頼っていた。

錫はあらゆる電気製品に使われるハンダ原料で、自動車、船舶、飛行機すべてに使われている重要部品の軸受を作るのに必要なバビットメタルなどに不可欠の金属だった。またクロムも兵器生産に不可欠の金属だ。マレーシアの天然ゴムも戦略物資だ。

日本に東南アジアを抑えられてしまえば、天然ゴムに加え、クロムと錫が止まる。米国は、ひそかにボリビアで錫の鉱山、キューバでクロムの鉱山を開発していたが、それでもクロムと錫の主要な供給源を日本に抑えられることは、大きな痛手となる。だから南部仏印進駐に対して石油禁輸で厳しく対抗したのだ。

一般に太平洋戦争の直接の動機は、米国の対日石油禁輸だといわれている。米国の石油禁輸により、このままでは石油の備蓄を食いつぶしてジリ貧となると考え、それまで対米戦に反対していた海軍が対米戦容認に動いたからだ。

たしかに石油は重要だ。石油がなくては近代の軍艦は動かないし、飛行機も飛ばない。戦車もトラックも汽車も動かせない。しかし戦争するには、石油だけでは戦争できない。火薬を作るためには、硫安や硝石などの化学物資が必要だ。

ドイツが空気から人造硝石をつくって火薬原料とし、石炭から人造石油をつくって戦車や飛行機の燃料にしていたから、ヒトラーが戦争に踏み切れたことは、「大気を変える錬金術」のあらすじで紹介した通りだ。



しかし、石油や火薬だけでは戦争はできない。どんな武器を作るにもレアメタルが絶対必要だ。


銃弾に使われているレアメタル

たとえば次がこの本に載っている日本軍の38式歩兵銃の銃弾の構造だ。

scanner570








出典:本書19ページ

38年式実包と呼ばれ、口径6.5ミリ、全長76ミリ、重量21.2グラムで、一発が4銭7厘から7銭5厘、大体タバコひと箱の値段と同じだったという。弾丸は硬鉛と呼ばれる鉛とアンチモニーの合金、弾丸を包む金属ジャケットは銅:ニッケルが8:2の白銅だった。

「フル・メタルジャケット」という映画があったが、鉛主体の弾頭を金属で覆ったものがフル・メタルジャケットだ。



薬きょうは銅合金で、回収して再利用していた。同じく銅不足に悩むドイツ軍に学んで、昭和16年に鋼製薬きょうを導入したが機関銃の撃ち殻が薬室から抜けなくなる事故が続出した。これは致命的な欠陥である。

ガス化しやすい薬剤を薬きょうに塗って、抜けやすくするように工夫したが、それでも虎の子の機関銃で薬きょうが詰まる事故が続出し、こんなところでも資源小国の悲哀を味わうことになった。


砲弾に使われているレアメタル

次は砲弾だ。日本陸軍が多用していた75ミリ野砲の通常榴弾は次のような構造だ。

scanner571








出典:本書27ページ

全部の重量は10キロほどで、弾体は合金鋼、薬きょうだけで6キロほどの黄銅が使われている。日本は銅不足のために、薬きょうはリサイクルしていた。

鋼でつくった薬きょうを砲弾用に実用化していたが、黄銅なら3回の搾伸で済むところを、8回も搾伸して、そのたびごとに焼きなまし、洗浄、銅めっきを繰り返す必要があり、生産性は黄銅に比べて1/3近くに落ちた。

銅と亜鉛が豊富に供給される米国や英国は、薬きょうの鋼化には無関心で、ひたすら銃弾や砲弾の生産性を重視していたという。

そのほか小銃の砲身や発射機構は合金製だし、鉄兜もクロム・モリブデン鋼を使用している。戦車や軍艦の防弾板も大量の合金鋼でできている。このように見ていくと、戦争には大量の金属が必要なことがわかってくる。


飛行機生産に不可欠なアルミ

飛行機の兵器としての重要性は、第2次世界大戦で明らかとなった。飛行機はアルミ合金でできている。次がこの本で紹介されている大戦期間中の主要国のアルミニウム生産量だ。

scanner573








出典:本書123ページ

隣国のカナダを合わせると、米国は大戦中にドイツの3倍以上、日本の12倍のアルミを生産していた。これが米国30万機、ドイツ11万機、日本6万5千機という差になってくる。米国はソ連にアルミを大量に供給し、ソ連はそれを使って大戦後半に12万機もの飛行機を生産して、独ソ戦に投入している。

しかも米国はエンジン4発のB17やB29といった大型重爆撃機を3万3千機以上も生産している。この間に日本が実用化した4発の航空機は2式大艇のみで、その数167機だった。

ドイツがジェット戦闘機をまっさきに実用化しても、多勢に無勢、戦局を変える効果はなかったのだ。


日本の兵器戦略の致命的問題

資源面から日本と米国は圧倒的な差がある。主要兵器にも大きな差があるが、それ以上に日本の兵士を苦しめたのは、行き当たりばったりの兵器開発によって生じたインターオペラビリティ(共用性)の欠如だ。

その良い例が、銃弾だ。

戦争を熟知している国は、基本となる小火器弾薬は信頼できる実包(実弾)を大量生産して使い続けると藤井さんは語る。小銃、機関銃を実包にあわせて設計するのだ。

たとえば英国は1889年に採用された303ブリティッシュ実包を、1957年にNATO共通弾に切り替えるまで使っていた。ブリティッシュ実包は口径7.7ミリ、薬きょう長57ミリ、起縁(リムド)型の古めかしいものだが、小銃からヴィッカース機関銃までこれを使っていた。

米国は1903年制定の30.06スプリングフィールド実包だ。口径7.62ミリ(0.3インチ)、薬きょう長63ミリ、無起縁(リムレス)型で、M1903スプリングフィールド銃M1ガーランド銃BARブローニング自動銃重軽機関銃をすべてこの実包で統一して第2次世界大戦、朝鮮戦争を戦い抜いた。

ソ連も同様で、1891ねんからリムド型の7.62X54mmR弾を現在まで使っている。

次がこの本で紹介されている日本の小火器で使用される銃弾の一覧表だ。

scanner575








出典:本書203ページ

この表を理解するためには、この本で紹介されている薬きょうの形も知っておく必要がある。。

scanner574









出典:本書201ページ

主力小銃で、38式歩兵銃と新型の99式歩兵銃では口径が6.5ミリと7.7ミリと異なるので、同じ銃弾は使えない。

これは日中戦争で、6.5ミリ弾は対人では威力を発揮したものの、ちょっと厚い鉄板は打ち抜けないなどの問題が指摘され、日本陸軍全体が7.7ミリに切り替えようとしていたもので、やむないところかもしれない。

しかし、戦っている最中の軍隊で主力小銃の銃弾に兌換性がないというのは致命的だ。

ところで、38式歩兵銃は設計者の有坂成章中将の名前をとって、アリサカライフルと呼ばれ、今でも米国などのガンマニアには評判のライフルだ。反動がすくなく、命中精度が高いという。



日本軍の主力重機関銃だった92式重機関銃は99式歩兵銃と同じ口径7.7ミリだが、薬きょうの形がセミリムドと、リムレスと異なる。



無理に使えないことはないが、機関銃として致命的な装弾不良を覚悟しなければならない。

一方92式重機関銃の実包は、リムがあるので、99式小銃の薬室には収まらない。

92式重機関銃は55キロと重いので、後継の1式重機関銃は32キロにまで軽量化した。これに使用するのは99式小銃と同じ99式実包だった。これで主力重機関銃の間のインターオペラビリティは失われた。

銃弾がこれだけ種類があっては、ある種類の弾が残っているのに、自分の銃器では使えないという絶望的な事態を招いたことも戦場ではあったのではないかと思う。


あらすじが長くなりすぎるので、この辺にしておくが、大変参考になる本だった。冒頭に記したように、ミッシングピースを見つけた思いだ。

筆者が読んでから買った数少ない本の一つだ。

2013年7月に出たばかりの本なので、一度本屋で手に取ってみることをお勧めする。


参考になったら、投票ボタンをクリック願いたい。






  
Posted by yaori at 18:07Comments(0)TrackBack(0)

2013年06月02日

モサド・ファイル イスラエル最強スパイとその敵列伝

2013年6月2日追記:

マイケル・バー=ゾーハーのスパイ小説「エニグマ奇襲指令」を読んでみた。小説のあらすじは詳しく紹介しないが、最後の史実に基づくどんでん返しが面白い。

エニグマ奇襲指令 (ハヤカワ文庫 NV 234)エニグマ奇襲指令 (ハヤカワ文庫 NV 234)
著者:マイケル・バー・ゾウハー
早川書房(1980-09)
販売元:Amazon.co.jp

エニグマはナチス・ドイツの暗号通信機として有名だが、実は第2次世界大戦がはじまる前にポーランドの情報部がエニグマを1台入手していた。

そのエニグマが英国に渡り、英国は暗号解読情報を「ウルトラ」として最高幹部のみに配布していた。

暗号解読によりコベントリー爆撃情報を事前に得ていたが、チャーチルはコベントリー市民に何の警報も出さなかった。暗号解読をドイツに疑われないためだ。

エニグマは複数の文字盤から構成され、文字盤は時々差し替えられた。



そのたびごとに沈没寸前のドイツのUボートや、船舶などから文字盤入手努力が続けられ、暗号解読がなんとか継続されたのだ。

ディスカバリーチャンネル Uボート 捕獲大作戦-エニグマ暗号を解読せよ!- [DVD]ディスカバリーチャンネル Uボート 捕獲大作戦-エニグマ暗号を解読せよ!- [DVD]
角川書店(2005-12-23)
販売元:Amazon.co.jp


2013年5月11日初掲:

モサド・ファイルモサド・ファイル
著者:マイケル バー=ゾウハー
早川書房(2013-01-09)
販売元:Amazon.co.jp

世界最強と言われるイスラエルの情報機関モサドのスパイや、モサドと敵対したテロ集団のリーダーなど21人の列伝。

イスラエルの元国会議員で、「エニグマ奇襲指令」や「ミュンヘン」などのスパイ小説を多く書いているマイケル・バー=ゾウハーとジャーナリストのニシム・ミシャルの作品。

ミュンヘン―オリンピック・テロ事件の黒幕を追え (ハヤカワ文庫NF)ミュンヘン―オリンピック・テロ事件の黒幕を追え (ハヤカワ文庫NF)
著者:マイケル,バー ゾウハー
早川書房(2006-01)
販売元:Amazon.co.jp

HONZに紹介されていたので読んでみた。HONZは書く人のノルマが決まっているためだと思うが、たいして面白くない本まで紹介しているので玉石混交だが、中には面白い本もある。

周囲をアラブ諸国に囲まれ、自前の核兵器は持っているものの、イラン、イラク、シリアなどで続けられる核開発の阻止のために、暗殺や空爆などあらゆる手段を使って自国を守っているモサドの活動を描いていて大変面白い。

この本で取り上げられている21の物語は、大別すると次の4パターンとなる。それぞれの代表的な章のあらすじを紹介しておく。


パターン1.モサドの主要人物の紹介

第1章 闇世界の帝王
YouTubeにもインタビューが掲載されているメイル・ダガン前モサド長官の話だ。


第1章では、ダガン長官のイスラエル国防軍時代のPFLPパレスチナ解放戦線のテロリストキャンプ奇襲など数々の功績が紹介されている。

ダガンの祖父はチェコでナチスに殺害された。この本では、撃たれる直前にナチスの前で法衣を着て抗議する祖父の写真を紹介している。ダガン長官はこの写真をデスクに飾っていたという。

ダガンは国防軍から引退していたが、アリエル・シャロン首相の選挙を手伝ったことから、2002年にシャロン首相からモサドのトップに任命された。

シャロン首相の口説き文句は、「口の中に短剣を隠し持つ男をモサド長官に据える必要がある」だったという。

ダガンは2011年までの9年間モサドのトップを務め、シリアの原子炉を破壊し、イランの核兵器製造計画をつぶし(第2章参照)、ヒズボラなどのテロリスト幹部を暗殺した。

第5章 「ああ、それ? フルシチョフの演説よ…」
KGBのスパイとなったモサドスパイのヴィクトル・グラエフスキの二重スパイとしての活動が紹介されている。

ヴィクトルはモサドのスパイになる前に、ポーランドの党書記長秘書からスターリン批判をしたフルシチョフの演説を数時間借りて、イスラエル大使館に持ち込んでコピーさせた。

フルシチョフは1956年に、スターリンは数百万人のロシア人と外国人を殺害した大量殺人犯であることを暴露していたが、西側はその情報をつかんでいなかった。

これが西側がスターリン批判を知る初めてのきっかけで、モサドはCIAに情報を提供して感謝された。ヴィクトルがモサドのスパイとなった後、KGBからスパイとしてリクルートされ、二重スパイとなった。

ヴィクトルは、長年モサドが都合よく編集したイスラエル情報をKGBに流して、KGBから勲章をもらった。その後モサドからも表彰され、ダブルで勲章を受けた初めての二重スパイとなったという。

第9章 ダマスカスの男
シリアで政権党のバース党に近づき、政財界の大物や夫人に多額の贈り物をして、最高権力を持つ実力者グループの一員となったエリ・コーヘンの物語。

シリア政府はヨルダン川の流れを変えて、イスラエルを水不足にしようという計画を進めていた。

エリ・コーヘンは、計画立案と工事を請け負ったサウジアラビア人実業家のビン・ラディン(オサマ・ビン・ラディンの父親)と親しくなって情報を入手し、イスラエルに無線で送信した。

イスラエルは情報に基づく正確な空爆で工事を中止に追い込んだ。シリア政府は毎晩送信される通信の出所を突き止め、エリ・コーヘンを逮捕する。

エリは公開処刑されたが、イスラエルの国民的英雄となった。


パターン2.イランを中心にアラブ世界でも核開発を推進しようとする動きを、何としても阻止しようとするイスラエルの動き

第2章 テヘランの葬儀
イランはシャー時代はイスラエルと同盟国で、イスラエルはイランの原子力発電所建設を警戒していなかった。しかし、イスラム革命が起こり、イラン・イラク戦争が勃発すると事態は一変した。

イランは核兵器開発を決断し、パキスタンからウラン濃縮技術を買い取って自前の核兵器生産計画に着手した。当初の敵はイラクだったが、その後はイスラエルが仮想敵国となった。

イランにウラン濃縮技術や設計図を売り渡したのは、パキスタンの死神博士と呼ばれるアブドゥル・カディール・カーン博士だ。

この本では多くの飛行機墜落事故や原因不明の爆発、ミサイル攻撃、自動車爆弾など、あらゆる手を使って、専門家を殺し、施設を破壊して、イランの核開発を遅らせたモサドの工作が暴かれている。

ダガン前モサド長官は、2011年に退任するときに、「イランの核計画の完成は少なくとも2015年まで延びた」と語ったという。

第8章 モサドに尽くすナチスの英雄
第2次世界大戦中、1943年9月にムッソリーニが反体制派のクーデターでアペニン山脈に幽閉されていた時に、ナチス空挺師団が救い出した。その一員のスコルツェニーは戦後スペインに移住して会社を経営していた。

1963年にモサドはスコルツェニーを訪問して、協力を要請した。当時エジプトがドイツ人のロケット科学者を多数リクルートして、ミサイル開発をしていたからだ。

当時のイスラエルのベングリオン首相は、西ドイツのアデナウアー首相と個人的な信頼関係を築いており西ドイツから砂漠の開発費用として多額の借款を受けたり、数億ドルの戦車、大砲、ヘリコプター、飛行機をユダヤ人虐殺の償いとして無償で提供を受けていた。

エジプトのミサイル開発に圧力をかけてもらうようにアデナウアーに要求して、西ドイツとの良好な関係を壊したくなかったイスラエル政府は、独自の解決方法を選ぶことにした。

スコルツェニーは、モサドが彼の命を狙わないことを条件に協力を約束し、エジプト国内で働くドイツ人科学者のリストなどの情報をモサドに提供した。

モサドはエジプトに協力しているドイツ人科学者のオフィスなどに手紙爆弾を送り付けたり暗殺を試みたりして妨害し、とうとうエジプトにミサイル開発を断念させた。

後日談として著者がV2ロケット開発者で、NASAの宇宙開発計画の責任者・ヴェルナー・フォン・ブラウン博士に米国のアラバマ州ハンツヴィルで会った時に、この時のドイツ人科学者リストを見せたら、「こうした二流科学者たちに、実戦配備可能なミサイルを製造できた可能性はごくわずかだろう」と語っていたという。

第15章 アトム・スパイの甘い罠(ハニー・トラップ)
イスラエルの原爆製造工場に勤務していたオペレーターのモルデカイ・ヴァヌヌが、カメラを持ち込んで原爆製造工場内のあちこちを撮影し、後に写真と詳細な図面などを英国の新聞の「サンデー・タイムズ」に売った1986年の事件。

イスラエルの原爆製造工場のディモナ研究センターの極秘の第2研究所は表向きは2階建ての建物だが、地下6階まである。

レイアウトは次のようなものだ。

2階    事務室とカフェテリア
1階    事務室と組み立て部屋
地下1階 パイプ配管とバルブ
地下2階 中央制御室と「ゴルダのバルコニー」と呼ばれる地下工場が一望できるテラス
地下3階 燃料棒の作業場
地下4階 (3階分の高さがある)燃料棒からプルトニウムを抽出する工場と分離施設
地下5階 冶金部門と爆弾の部品を製作する研究室
地下6階 廃棄物貯蔵所

このうち地下4階と地下5階が原子爆弾製造工場だ。

ヴァヌヌは、1986年にディモナ研究センターをクビになったあと、海外を旅行し、持ち出した写真とレイアウトなどを英国の「サンデー・タイムズ」に売った。

「サンデー・タイムズ」が出してきた購入条件は、即金で10万ドル、原稿の著作料の40%、出版した場合の著作権の25%、さらに映画化もありうるというものだった。

モサドは独身で世界をうろついているヴァヌヌに、ブロンドの「ファラ・フォーセットに似た美人」エージェントのシンディをアプローチさせ、英国政府の監視の目が厳しい英国から、ある意味どうにでもなるイタリアにヴァヌヌを連れ出し、イタリアで捕えてイスラエルに連行した。ハニー・トラップの典型である。

「サンデー・タイムズ」はヴァヌヌの情報に基づいて特集シリーズの連載を始め、イスラエルの原爆保有が10〜20基どころではなく、150〜200基の核爆弾を保有し、水素爆弾と中性子爆弾の製造能力を持っていることを暴露した。

第16章 サダムのスーパーガン
まさにフォーサイスの「神の拳」で出てきたサダム・フセインの巨大大砲建設計画だ。

神の拳〈上〉 (角川文庫)神の拳〈上〉 (角川文庫)
著者:フレデリック フォーサイス
角川書店(1996-11)
販売元:Amazon.co.jp


カナダの科学者ジェラルド・ブル博士は、スーパーガンに取りつかれ、サダム・フセインから注文を受けて、射程1、000キロ近く砲弾を撃ち込める「バビロン計画」を推進しようとした。

本物は長さ150メートル、重さ2,100トン、口径1メートルだが、その前に「ベビー・バビロン」と呼ばれる長さ45メートルの試作砲をつくることになった。

「パイプラインの部品」として欧州4カ国にオーダーされた部品は、着々とイラクに到着した時、ブルは何者かに拳銃で射殺された。1990年のことだ。

第18章 北朝鮮より愛をこめて
北朝鮮の協力により完成間近だったシリアの原子炉はイスラエル空軍の爆撃とミサイル攻撃で破壊された。

イスラエルのオルメルト首相は、トルコのエルドアン首相に連絡を取り、シリアのアサド大統領あての伝言を託したという。

「イスラエルはシリアと戦争する気はないが、隣国のシリアが核兵器を保有することは容認できない」という内容だった。

イスラエルの爆撃にもかかわらず、再度核施設を建設しようとしたスレイマン大統領補佐官はイスラエルの特殊機関の狙撃手に殺害された。


パターン3.元ナチスの戦争犯罪人や反イスラエルのテロリストを逮捕・暗殺しようとする動き

第6章 「アイヒマンを連れてこい! 生死は問わない」
ナチスでユダヤ人抹殺計画を立てたアドルフ・アイヒマンは、終戦直後の混乱に紛れ、南米に逃れ、妻子とアルゼンチンで偽名を名乗って暮らしていた。

アイヒマンはブエノスアイレス郊外の、Chacabuco 4261, Olivos, Buenos Airesという住所に住んでいて、同じく郊外のアベジェネーダに引っ越したところで、モサドに捕まって、秘密裏にイスラエルに移送された。1960年のことだ。

筆者は1978年から80年までの2年間、ブエノスアイレスの中心部に住んでいたが、アイヒマンがブエノスアイレスに住んでいたことは知らなかった。

Olivos(オリーボス)というのは、ブエノスアイレスの郊外で、どちらかというと高級住宅地なのだが、この本では貧しい地区と言っている。貧しい地区というのは、捕まったアベジャネーダの方だと思う。

アイヒマンは、「体調不良で引き返す乗務員」に仕立て上げられ、ずっと睡眠薬で眠らされ、医師同行のもとでイスラエルの国有航空会社エル・アルの飛行機のファーストクラスに乗せられ、イスラエルまで移送された。

この本では、まさに「スパイ大作戦」ばりの捕り物劇、囚人移送劇が展開されている。

アイヒマンは、1961年にイスラエルで裁判にかけられて死刑となり、1962年5月に絞首刑が執行された。アイヒマンの最後の言葉は、「また会おう…私は、神を信じて生きてきた…戦争法に従い、旗に忠誠を尽くした…」だったという。

アイヒマンの遺体は焼却炉で焼かれ、地中海に散骨された。

「死の天使」ことユダヤ人を生きたまま人体実験に使ったヨーゼフ・メンゲレもブエノスアイレスに本名を明かして住んでいた。アイヒマン逮捕が世界中で報道されたので、身の危険を感じて、ひそかにパラグアイに移住した。メンゲレは1979年2月に心臓発作で死亡するまで姿を隠したままだった。

第12章 赤い王子をさがす旅
1972年のミュンヘンオリンピックで、「黒い9月」と名乗るテロリストがイスラエルの選手村に潜入し、コーチと選手1人ずつを殺し、9人を人質に取った。西ドイツによる人質救出作戦は失敗し、人質全員が死亡した。

この事件はスピルバーグが映画にしている。



「黒い9月」はヨルダンのフセイン国王による自国内のテロリスト攻撃に反発したアラファトPLO議長がひそかにつくったテロリスト集団で、ミュンヘンテロ事件を計画したアリ・ハサン・サラメは、血塗られた「赤い王子」と呼ばれた。

「ミュンヘンの夜」事件は、ゴルダ・メイア首相を打ちのめし、モサドはテロリストに対する復讐・「神の怒り」作戦を開始した。赤い王子はベイルートで、自動車爆弾で殺害された。

第20章 カメラはまわっていた
テレビのバラエティ番組でも報道されたモサドの暗殺チームが、ハマスの指導者のアルマブフーフをドバイのホテルで殺害した事件。

YouTubeにもテレビ番組が掲載されている。



パターン4.第4次まで繰り返された中東戦争など、イスラエルとアラブの武力抗争にからむ動き

第10章 「ミグ21が欲しい!」
1966年にモサドはイラク人パイロットをそそのかして、当時の東側の最新鋭ジェット戦闘機のミグ21ごとイスラエルに亡命させた。

Mikoyan-Gurevich_MiG-21





出典:Wikipedia

イスラエルは米国と一緒にミグ21を徹底的に調べて弱点を研究した。その研究成果が実り、1967年に起こった第3次中東戦争では、イスラエル空軍は数時間でエジプト空軍を壊滅させた

亡命したイラク人パイロットは、イスラエル空軍のテストパイロットがミグ21をいとも簡単に操縦するのに驚き、「きみのようなパイロットが相手では、アラブ人は決して勝てないだろう」と語ったという。


世界最強のスパイ組織のモサドの暗殺や破壊活動を詳細に描いている。さすがイスラエルの国会議員までやった作家だけに、相当な情報をつかんでいる。

テロリストを国歌を挙げて抹殺しようとするモサドの姿勢は、国として生きていくために必要な暗殺なり爆破工作なのかもしれないが、今から4,000年も前のハンムラビ法典の「目には目を、歯に歯を」と同じ世界が、いまだに中東の現実であることに驚く。

きれいごとでは済まされない、血で血を洗う世界がまだそこにある。

イスラエルを取り巻く中東で何が起こったか、何が起こっているのかを知るために大変役立つ本である。


参考になれば投票ボタンをクリック願いたい。

<

  
Posted by yaori at 09:42Comments(0)TrackBack(0)

2012年12月26日

ドッグファイトの科学 元戦闘機パイロットが描く戦闘機のすべて

ドッグファイトの科学 知られざる空中戦闘機動の秘密 (サイエンス・アイ新書)ドッグファイトの科学 知られざる空中戦闘機動の秘密 (サイエンス・アイ新書)
著者:赤塚 聡
ソフトバンククリエイティブ(2012-09-20)
販売元:Amazon.co.jp

元自衛隊のF15パイロットという経歴を持つ航空カメラマンの赤塚聡さんの戦闘機の紹介。

アマゾンのなか見!検索に対応しているので、ここをクリックして目次を見てほしい。次のような構成で詳しく戦闘機の基本戦闘行動や使い方、武装などを紹介している。

第1章 戦闘機の機動の基本を知る

第2章 各種の基本戦闘機動

第3章 戦闘機に搭載される武装

第4章 戦闘機の使い方

第5章 曲芸飛行の技

第6章 素朴な疑問

戦闘機は単独で行動することはなく、すべて早期警戒機や地上レーダーなどの情報リンクのもとに行動する。

国籍不明機が領土に接近すると、早期警戒機などの警報に基づき、戦闘機がスクランブル出撃して相手を識別する。そして敵と識別されたら、まずは中距離ミサイルを撃つ。

中距離ミサイルで撃ち漏らした場合は、距離を縮めて今度は短距離ミサイルを撃つ。それも撃ち漏らした場合にはドッグファイトで、機関砲で射撃して敵を攻撃する、というのが戦闘パターンだ。

scanner434








出典:本書125ページ

ステルス戦闘機は、レーダーには小鳥くらいのサイズにしか映らないので、早期発見は難しい。いきなり近接戦となったり、あるいは気が付いたら敵のミサイルが発射されていたというような展開となる。

中距離ミサイルを使っての戦闘では、どちらが最初にミサイルを発射するかで勝負が決まる。だから、ステルス戦闘機は圧倒的に有利だ。





戦闘機は大小さまざまなミサイルや兵装を積んでいる。

scanner436










出典:本書165ページ

翼の一番外側の細いミサイルが短距離ミサイルの代表作、サイドワインダー。1958年の台湾海峡での空中戦に初めて使われ、台湾軍のF86戦闘機が全部で30機以上のMIG17を撃ち落とした。F86の損失は1機だけだった。MIG17は性能はF86より優れていたが、ミサイルの前には無力だった。

scanner431













出典:本書67ページ



これが国産のサイドワインダー代替ミサイルのAAM-5だ。後方のロケットノズルには推力偏向用の羽根(ガイドベーン)がついている。

scanner432













出典:本書69ページ

その内側に左右2本づつ積んでいるのが中距離ミサイル。

scanner433






出典:本書79ページ

中距離ミサイルの略称はAMRAAM(アムラーム)だ。



その内側は増加燃料タンクだ。この他に、妨害電波を出すユニットなどを積む場合もある。

搭載する数々の武器を並べると次の写真のようになる。

scanner430














出典:本書61ページ

この本ではいくつかの曲芸飛行のパターンも紹介している。YouTubeではロシアのSU-30の驚くべき曲芸飛行が掲載されている。



この曲芸飛行のパターンはコブラやクルビットだ。

scanner435














出典:本書163ページ


プロペラ戦闘機の戦術も紹介

第2次世界大戦中にドイツ軍のエース・ヴェルナー・メルダースが生み出して、ほかの国でも取り入られた2機の戦闘機の編隊行動をベースとしたロッテ戦術や、アメリカのエースが生み出したサッチ・ウィーブ日本のゼロ戦の木の葉落としなどのプロペラ機時代の伝統的戦法も紹介されている。

写真や図解が多くてパラパラ眺めていても楽しい。さすが元F15パイロットだけあって、戦術や戦い方の説明もリアルだ。航空ファンにはこたえられない本だと思う。


参考になれば投票ボタンをクリック願いたい。


  
Posted by yaori at 23:00Comments(1)TrackBack(0)

2012年06月18日

日本の瀬戸際 森本新防衛大臣の本を読んでみた

日本の瀬戸際日本の瀬戸際
著者:森本 敏
実業之日本社(2011-03-01)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

第2次野田内閣で、防衛大臣に就任した防衛庁・外務省出身で、拓殖大学教授の森本敏(さとし)さんの本。

森本さんは昭和16年生まれ。防衛庁出身(防衛大学理工学部卒業)で、外務省に出向した後、外務省に入りなおして、在米日本大使館の一等書記官や、情報調査局安全保障政策室長など一貫して安全保障の実務を担当し、退官後は野村総研や、大学の講師や客員教授となり、平成12年からは拓殖大学教授という経歴を持つ。

野田内閣で森本さんの経歴を見たときに、「こんな防衛大臣に適任の民間人がいるとは!」と驚き、野田さんは人を見る目があるなと思ったので、興味を抱いて森本さんの本を読んでみた。

この本は2011年3月の発売なので、森本さんの最近著である。このほかに、「日本防衛再考論」という本も出しているので、これも読んでみる。

日本防衛再考論―自分の国を守るということ日本防衛再考論―自分の国を守るということ
著者:森本 敏
海竜社(2008-05)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

ひと言で言って、「百聞は一見に如(し)かず」だ。

この人は「学者」ではない。

この本にも、「日本防衛再考論」にも何の出典・参考文献・自己論文等も示されていない。この人がどれだけ安全保障について研究してきたのか、全くわからない。

一流の学者なら自分の本を書く場合、欧米なら数十ページ、日本でも最低数ページや十数ページは出典などを示すものである。

拓殖大学教授という肩書と、この本の内容に強く違和感を感じる。

一例を示すと、森本さんは「北朝鮮には莫大な天然ウランが埋蔵されている」とこの本で語っている(49ページ)。

1950年代末に中国の専門家の資源調査で莫大な天然ウランが埋蔵されていることを知り、1960年代からソ連から原子炉を購入し、この原子炉を動かして生産(前後の関係から重工業生産と読める)に必要な原子力エネルギーを確保してきたと書いている。

筆者が浅学なのかもしれないが、北朝鮮に莫大な天然ウラン資源があるという話は聞いたことがない。また北朝鮮の電力発電用の原子炉は止まっており、ソ連から購入した原子炉はすべて実験機規模だった。重工業生産を支えるエネルギーを原子力発電でまかなってきたわけではない。

この情報一つをとっても、出典・根拠を全く示さない森本さんの情報の正確性は非常に疑問に思える。

また安全保障の「専門家」なのかもしれないが、書いてあることが抽象的すぎて、具体論にかける。

たとえば第4章(日本の外交・安全保障政策と日米同盟進化はどうあるべきか)という章では、次のようなサブタイトルがならぶ。

1.外交・安保政策における日本の基本課題とは何か

 ・国益を追求する国家戦略を早急に構築すべし

 ・政策決定プロセスの封印で検証が不能に陥る(筆者注:そもそもタイトルからして何を言いたいのか不明)

 ・国家の情報機能を強化すべし

 ・法律で完全に縛られた自衛力を見直す局面に来ている

 ・価値観を共有する国々と連携強化すべき(韓国、豪州、ASEAN諸国など)

 ・日米同盟による抑止力強化が最重要課題

 ・アジア太平洋の地域的枠組みの進展に日本がイニシアティブを!

どれもこれも抽象論だ。具体策と筋道がないので、「足が地についた」議論ではない。

尖閣列島問題では、「尖閣諸島の実効支配が急務の課題」というサブタイトルを掲げて、5つほどのポイントを説明している。

「その第1は、尖閣諸島の実効支配をいかに強化するかについてである。(中略)…その具体的な方法については、まだ検討中である。」

「第2には、海上保安庁の能力向上についてである。(中略)…海上保安庁の予算を急に増やすことは、現実問題として難しく、…(後略)」という具合に、尻切れトンボの寄せ集めだ。

これでは「評論家」だ。「専門家」ともいえないだろう。

このブログは筆者のポリシーとして本の批判は書かない。世の中にろくでもない本は多くある。そういう本は、そもそもあらすじを書く対象としては選ばないのだ。

しかしこの本については、突如登場した防衛大臣という重要なポストの閣僚だけに、あえて批判めいた筆者の意見を公開する。

いずれ森本さんの真の能力が試される時が来るだろう。


参考になれば投票ボタンをクリックして頂きたい。


  
Posted by yaori at 07:32Comments(0)TrackBack(0)

2011年10月15日

原発はほんとうに危険か? フランスの元文部科学大臣の対談

フランスからの提言 原発はほんとうに危険か?フランスからの提言 原発はほんとうに危険か?
著者:クロード・アレグレ
原書房(2011-07-07)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

フランスの元文部科学大臣がジャーナリストとの対談を通して原子力政策について語る本。どの雑誌だったか忘れたが、立花隆さんの書いたものに紹介されていたので読んでみた。

書店に置いてある本には次のような帯がかかっている。

scanner241












しかしこの本をくまなく読んでみたが、「技術は二流、人は三流」という発言はない。フランスの原子力技術は日本やドイツなどより上だというような発言はあるが、このような刺激的な発言ばない。

元々日本の政府や東電を批判する目的の本ではなく、フランスの原子力政策を肯定する本なので、「日本のあるべき姿をさし示す」という帯のセールス・キャッチは、「売らんかな」という編集者の創作だと思う。

このブログでは広瀬隆さんの本京都大学の小出助教の反原発本を紹介してきた。

広瀬さんや小出さんの本は、いままでは中小の出版社から出版されていた。しかし福島第一原発の事故以降、反原発本が一流出版社から出版され、原発推進派の本はこの本の原書房のように中小出版社から出版されるという風に完全に逆転した。

この本もアマゾンの売り上げ順位で85,000位と、あまり売れていない様だ。

今や菅前総理はじめ多くの人が、日本国民の福島原発事故以来の原子力アレルギーを考えて反原発という姿勢を表明している。本当にそれで良いのかと冷静に考える必要があると思う。

その意味では、この本と大前健一さんの最近作で今度あらすじを紹介する「『リーダーの条件』が変わった」が参考になる。

「リーダーの条件」が変わった (小学館101新書)「リーダーの条件」が変わった (小学館101新書)
著者:大前 研一
小学館(2011-09-20)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る


筆者のクロード・アレグレさんのメッセージ

「日本語版によせて」に著者のクロード・アレグレさんのメッセージが載っている。

最初に福島原発事故の被災者にお見舞いを表明するとともに、福島第一原発は旧式だったために、大災害に対する対策が不十分で、事故後の当局の対応を後手にまわったと結論づけている。

そして日本の将来的なエネルギー政策を再考するにあたって、西ヨーロッパ諸国にない自然災害というリスクを考えると脱原発という選択肢もあるが、それだとおそらく電気料金は2倍となり、温室効果ガスの排出量も増える。

だから原子力政策を維持・発展することも選択肢の一つだと訴える。

この場合には、日本の固有事情も考慮しながら、すべての原発を安全対策を強化した近代的コンセプトの原発に交換する。

具体的には冷却水パイプラインなどを敷設することにより海岸から離れた立地、完全密閉型の石棺の内部に小型の原子炉を格納、海底に原子炉を開発などの方策を提案している。

また政治やビジネスから影響を受けない独立の国家原子力委員会の必要性を説いている。日本は「原子力村」による政策から決別すべきだと。

原子力発電のリスクはいままで制御されてきており、これからも制御されなければならない。科学技術大国である日本はそれが十分可能な選択だアレグレさんは語っている。


ゴチャ混ぜ思考に警鐘

アレグレさんはまず「ゴチャ混ぜ思考」に警鐘を鳴らす。民生用原発のリスクは軍事用原子力、核廃棄物の脅威や核分裂物質の闇市場の脅威に比べればはるかに低く、「脅威」ではなく「リスク」であると語る。

天然のウラン鉱石中の核分裂を起こすウラン235含有量は0.73%、原発に使うウランはウラン235含有量4%、そして原爆に使う濃縮ウランはウラン235含有量80〜95%と濃縮度が全然違う。

だから万が一原発が爆発しても原爆にはならないのだとアレグレさんは繰り返し述べている。

フランスには地震も津波もないため、日本の原発とは全く事情が異なる。原子力技術も日本よりはるかに進歩しており、原発はきちんと管理され、直接・間接的に20万人の雇用を生んでいる。

フランスのメディアは在日フランス人や、日本から避難してくるフランス人の話ばかり報道していたが、メディアはフランスの切り札である原子力産業を弱体化させ、失業者を増やしたいのかと切り返している。


原子力エネルギー発祥の地はフランス

アレグレさんは、原子力エネルギー発祥の地はフランスで、アンリ・ベクレルがドイツ人レントゲンの発見したX線と呼ばれる謎の電磁波をウラン鉱石が放出していることを1896年に発見したのが最初だ。

ベクレルの研究にピエールとマリー・キュリー夫妻が加わり、ウラン以外にも放射性物質はあることが突き止められ、1903年3人は揃ってノーベル物理学賞を受賞した。

キュリー夫人は夫とベクレルの死後も研究を続け、1911年にはラジウムの発見でノーベル化学賞を受賞する。

原子爆弾の開発につながる原子核分裂は1938年12月22日のドイツのオットー・ハーンとストラスマンが発見した。

これにはイタリアのエンリコ・フェルミ、キュリ−夫人の娘イレーヌ・ジョリオと夫フレデリック、ナチから逃れたユダヤ人のリーゼ・マイトナー、オットー・フリッシュなども直接間接に関わっている。

アインシュタインがルーズベルトに原爆開発を薦める手紙が有名だが、実際にはアインシュタインの手紙はアメリカ軍部は夢物語としてまともに取り合わなかった。

マンハッタン計画を実現したのは、中性子を発見したイギリスのジェームズ・チャドウィックが1941年にチャーチルを説得し、チャーチルがルーズベルトを説得したからで、アメリカが原爆の開発・製造に踏み切り、イギリスも参加した。


原発の危険性

原発の燃料は核分裂を起こすウラン235の割合が4%程度なので、原子爆弾のように一挙に核分裂を起こすことはない。

核分裂で発生する中性子を次の核分裂につなげるためには、20回ほど水の分子とぶつけて減速する必要がある。そのために大量の水が使われており、その水がウランと接触して高濃度の放射性物質を含んでいるのだ。

福島原発の原子炉建屋の爆発は、原子炉の電源が断たれたので、圧力容器内の核反応が暴走し温度が上昇して原子炉内の水が蒸発した。そして建屋内に充満した水蒸気が分解されて水素と酸素に分かれ、水素爆発を起こして建屋を破壊し、放射能を含んだ水素や水蒸気が大気中に放出され、地域が汚染されたのだ。

フランスの原発には生成された水素は、すぐに酸素と結合させて水にする触媒装置が備わっているが、日本の原発には「水素再結合装置」がなかったという。

大気中に放出された水蒸気の他にも、原子炉建屋附近で残留している大量の汚染された水の処理がこれからの問題である。同じことを大前さんの「『リーダーの条件』が変わった」でも指摘している。

福島の原発はBWR沸騰水型炉だったので、水の循環系は一系統だけだった。しかしフランスに多いPWR加圧水型炉は、核燃料と接触する一次冷却系とタービンをまわる二次冷却系の二つがあるので、一次冷却系が破壊されなければ、外部が放射能で汚染される恐れはない。

沸騰水型原子炉

BoilingWaterReactor





加圧水型原子炉

PressurizedWaterReactor





フランスの加圧水式原子炉は、一次冷却系は300度Cの水が流れており、155気圧に維持されているという。この熱が熱交換機を通じて二次冷却系の水を温め、発電タービンを回すのだ。

地震のないフランスはともかく、筆者の感覚では地震のある日本では、155気圧という超高圧システムが必要な加圧水型原子炉の方が、かえってリスクがあるように思えるが、アレグレさんはその辺はコメントしていない。


その他、参考になった点を紹介しておく。

★いままで軍事核実験により17万人が犠牲になっており、被曝量のめやすは被曝した人を長年にわたって追跡調査して割り出した数字だ。

普通に暮らしていて年間に受ける放射線量は2.4ミリシーベルト、250ミリシーベルトを超えるあたりから警戒が必要で、1,000ミリシーベルトを超えると白血球が変化する。2,400ミリシーベルトを超えると発ガンする確率が高まる。そして5,000ミリシーベルトを超えると致死量だ。

★放射性同位元素は、体内に入ると体内被曝を起こす。たとえば放射性ヨウ素は甲状腺に貯まりやすく、甲状腺から内部被曝を起こす。それで前もって安定同位体元素のヨウ素を飲んでおけば、放射性ヨウ素が集積するのを防げるのだ。

このブログで紹介した大前健一さんの「日本復興計画」では、大前さんのアメリカ人妻にもアメリカ大使館からヨウ素カリが配られたという。ヨウ素カリを飲んで、被曝する前に甲状腺をブロックしようという考えだ。

★フランスは高速増殖炉のスーパーフェニックスは停止させ、同じ原理のフェニックスは再稼働させた。同じ技術でも大規模のものは制御ができなかったからだ。日本の高速増殖炉「もんじゅ」にも同じナトリウム漏洩問題が発生した。

高速増殖炉の魅力は、天然ウランを利用した核燃料ができることだ。天然ウランの99%は、ウラン238で、これを中性子をぶつけてウラン239にして、それからネプツニウム239を経てプルトニウム239を作るのだ。

ただし二次冷却材の材質に問題がある。水は中性子を減速してしまうので使えないため、液体ナトリウムを使ったが、非常に危険でうまく制御できなかった。フェニックスの規模なら制御できたが、スーパーフェニックスの規模では制御不能だったという。

★トリウム炉はウランの埋蔵量の4倍のトリウムからウラン233を作り出して燃焼させる。現在は実験炉の段階だが、トリウム炉は廃棄物がほとんど排出されない点がメリットだ。

この本では風力発電、太陽光発電、水力発電、バイオ燃料などについても手短にまとめている。

★シェールガスは既にアメリカのエネルギー消費の20%を占めている。水平に掘削し、水圧破砕法でシェールガスを回収するが、大量の水が必要なので、環境汚染の問題が起こる恐れがある。ヨーロッパにもアメリカと同じくらいの莫大なシェールガス埋蔵量があるだろうが、環境問題から開発は進んでいない。


監修者の言葉は正しいのか

監修者の岡山大学教授は、彼が最も衝撃を受けたのは、原発周辺には津波によって瓦礫に埋もれて助けを求めていた人がいたにもかかわらず、彼らを見殺しにしたことだと告発している。これは戦後の日本の歴史の痛恨の汚点であると。

本来であれば国民の命や財産を守るはずの法律を盾にして政府並びに関係者は人命を見捨てたのだと。

この情報は知らなかったが、ありうべしだと思う。


今や反原発が主流で、原発促進波が少数派のようになってしまったが、果たしてそれで良いのか。考えさせられる本である。


参考になれば投票ボタンをクリックして頂きたい。




  
Posted by yaori at 01:20Comments(0)TrackBack(0)

2011年06月01日

「普天間」交渉秘録 元防衛事務次官 守屋武昌さんの本

+++今回のあらすじは長いです+++

「普天間」交渉秘録「普天間」交渉秘録
著者:守屋 武昌
新潮社(2010-07-09)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

2003年から4年の長きにわたり防衛事務次官を務めた守屋武昌さんの本。守屋さんは山田洋行から度重なる夫婦ゴルフ接待など便宜を受けたとして収賄罪で起訴され、現在最高裁で係争中だ。

最近また「普天間」問題が頻繁に報道されるようになっている。「V字」滑走路案が復活したり、はたまた米国上院で普天間の海兵隊ヘリコプター部隊を嘉手納に統合する案が出されたりしている。

この本ではその「普天間」の解決案がどのように変わってきたのか、そしてその背景は何なのかを、防衛省でずっと交渉を担当してきた守屋さんが過去の詳細な日記を元に明らかにしている。

守屋さんは1審で有罪となり、懲役2年6ヶ月、追徴金1,250万円という判決を受け、それが2審でも支持された。上告中なので、裁判は未決ではあるが、すでに退職金も全額自主返納したという。

しかし、山田洋行をめぐる疑惑については、便宜を図ったことは誓ってないが、多大な迷惑をかけたことをお詫びしたいと、この本では一切釈明していない。

在日米軍基地再編問題と防衛省昇格についてだけ書いている。その意味では立派だと思う。

普天間問題については、鳩山前首相を初めとする民主党が、何も知らずに県外移設とかコミットしてしまい、ファンブルしたという印象を筆者は持っている。

今年の初め、沖縄総領事だったケビン・メア米国国務省日本部長が、「沖縄はゆすりの名人」という、学生の前でポロッとしゃべったオフレコ発言が問題にされて辞任している。

「日本の文化は合意に基づく和の文化だ。合意形成は日本文化において重要だ。しかし、彼らは合意と言うが、ここで言う合意とはゆすりで、日本人は合意文化をゆすりの手段に使う。

合意を追い求めるふりをし、できるだけ多くの金を得ようとする。沖縄の人は日本政府に対するごまかしとゆすりの名人だ。」


この本では「在日米軍の基地の74%が沖縄に集中している」と主張をする沖縄が、既に合意している米軍基地施設返還に協力しなかったり、普天間移設についても、できるだけ埋め立て工事などの公共事業が生まれるように動いている現実があることが明らかにされている。

メア氏は日本語も流ちょうと聞くが、問題発言は英語だと思う。どういう言葉を使ったのか興味があるところだ。「ゆすり」という言葉で、日本政府と合意しても沖縄県の反対で、いっこうに実行されない普天間移設案に対するメア氏のいらだちが、非公式の場でポロリと出たのだと思う。


守屋さんの経歴

守屋さんは、1944年宮城県塩竃市の出身。1971年に防衛庁に入庁し、防衛庁内の数々のポジションを歴任したほか、内閣審議官として官邸に出向していた経歴を持ち、小泉首相はじめ多くの政治家と太いパイプを持つ防衛省きっての実力者だった。だから防衛次官として異例の4年間という任期をつとめ、小池百合子防衛大臣と衝突して退任し、山田洋行がらみの収賄罪で有罪判決を受けた。

この本でも小泉首相から直接了解を得て、外務省をすっ飛ばして米国側と交渉していた守屋さんの実力のほどが伺える。首相に直接話し、首相からお墨付きを貰うなど、普通の官僚ではなかなかできないことだ。


9.11以降の米軍の世界戦略に基づく米軍再編

次が守屋さんが小泉首相に2004年9月に説明した米軍再編問題だ。

2001年9月11日以降、米国は2002年に国土安全保障省(FEMA: Federal Emergency Management Agency)を新設し、日本でいえば税関、入国管理局、警察庁、消防庁、国土交通省の防災局、海上保安庁を一緒にした。同時に米軍の配置見直し(GPR: Global Posture Review)を行い、ヨーロッパ諸国、韓国と在留米軍の見直しについて合意し、最後に残ったのが日本との米軍再編問題だった。

米国が日本に提示したのは次の2点で、これはトータル・パッケージと呼ばれている。米軍は冷戦終了とともに世界戦略の中心をヨーロッパからアジアに移してきている。いまや在日米軍のトップ経験者が次の米軍のトップになるようになったのだ。

1.米陸軍第一軍司令部(ワシントン州フォート・ルイス)をキャンプ座間に移す。
2.横田基地にある第5空軍司令部をグアムに移転する。

外務省はこのうち2.だけを認めるスモール・パッケージの考えだが、これではアメリカと合意することは難しい。むしろこの機会に米軍問題を解決して、「日本の戦後」を終わらせるために次の3点も提案すべきだと守屋さんは小泉首相に説明した。

1.厚木基地の空母艦載機部隊を岩国の海兵隊基地へ移す。
2.相模原補給廠省や牧港補給廠(沖縄)の返還。
3.普天間飛行場移設合意の見直し。

この案は守屋さんが、旧知の米国のカート・キャンベル現国防次官補とすりあわせた案だという。小泉首相は、「本当に日本の戦後を終わらせることが出来るんだな?」と聞いたという。

実は現在でも東京の港区、渋谷区、新宿区、西部地域の上空7千メートルまでは米軍の空域となっている。羽田に向かう旅客機が銚子から回り込むように着陸しているのは、この空域を避けて飛ばなければならないからだ。このルートはハワイ、グアムから最短距離で朝鮮に行く航空路だ。だから守屋さんが「戦後を終わらせる」と言っているものだ。


普天間返還問題

この本の大半が普天間問題の経緯についてだ。普天間飛行場は1945年に建設された海兵隊のヘリコプター飛行場で、建設された当時は普天間町は1万5千人ほどの人口だったのが、9万人を超え、市街地の中の飛行場になっている。

まず日米間で1996年に名護市沖の海上浮体方式とする移転案が合意された。

scanner045









出典:本書26ページ

ところが、当時の大田知事が単純返還を主張、その後の稲嶺知事は軍民共用飛行場を辺野古沖(キャンプ・シュワブ)に埋め立てで建設する案を出したが、結局なにもせず環境アセスメントが遅れる。

scanner046









出典:本書27ページ

2004年に米軍ヘリの墜落事件が起こり、普天間移設は政治問題化する。辺野古沖軍民共用空港案は巨額の建設費用がかかる上に、アセスメントが進まないことで事実上凍結となる。

代わりに出てきたのが、今回も出てきている嘉手納統合案だ。しかし低速のヘリコプターと高速の戦闘機の航空管制は異なる。発着回数の激増が飛行場運用を難しくし、なおかつ地元住民の負担が増すという問題がある。

一方守屋さんはキャンプ・シュワブ陸上案を推し進める。

scanner047









出典:本書47ページ

ところがアメリカから提案された案は、名護ライト案という名護市の土建業の有力者が推す案だった。その有力者はワシントンまで出向いてペンタゴン担当者にこの案を説明し、これなら沖縄住民は賛成すると吹き込んでいたという。

scanner048









出典:本書55ページ

ところがこの名護ライト案では珊瑚礁のきれいな海を埋め立てるという問題がある。ジュゴンの生態にも影響を与え、国民の支持を失う恐れがあったので、守屋さんはキャンプ・シュワブ宿営地案L字型案を出す。

scanner049









出典:本書61ページ

これならサンゴの少ない海を埋め立てることになり、埋め立て面積も大きいので地元(土建業者)も納得するはずという考えだった。当初米国は難色を示したが、なんとか乗り切り米国もL字案で合意した。

合意の直後、守屋さんは夫妻で園遊会に呼ばれて天皇陛下にお会いしたという。各省の事務次官は2年に一度園遊会に呼ばれるのだという。守屋さんは防衛次官としては20年ぶりに今上天皇陛下にご進講したことがあったので、天皇陛下から「この間はありがとう」と声を掛けられたという。

2006年になると1月5日に鈴木宗男議員から「検察が防衛庁をねらっているから気を付けろ」という不可解な電話が入る。防衛施設庁の空調工事汚職でOBと現役役人が逮捕された。

聞いて驚く話だが、2.26事件以来警察と防衛庁は仲が悪い。2.26事件で軍の前に警察は無力だったからその怨念があるという。

一旦日米で合意したL字案は、その後住宅地の上をヘリが通る等の理由で、名護市から300メートル海上にずらせというX字案が出てくる。これで建設費は500億円増える。土木工事利権のからんだ非常に政治的な動きだ。

scanner054









出典:本書125ページ

さらに飛行ルートの安全性も考慮して最終的に名護市と合意したのがV字案だった。

scanner052







出典:本書139ページ

ところが合意の会見場で、稲嶺知事は合意していないと言い張る。その後沖縄を訪問した小泉首相には「防衛は国の専権事項で地方がどうこう言える問題ではない。しかし県内的には基地は容認できないという立場をとらないと私は生きていけない。どうぞ総理、理解してください」と言っていたという。

こういう話は他でも出てくる。稲嶺知事は合意書の形式を拒否したという。「合意書の形をとることは、私がいかにも国に歩み寄った格好になり、県民の反発を呼ぶことになるから

その後も稲嶺知事の後を継いだ元通産省技官の仲井真知事や、名護市島袋市長などの沖縄側から、山崎拓副総裁などを経由して、さらに沖合に550メートル出せと圧力がある。

沖合に出す距離を50メートルから数百メートルの間で、まさに手を変え品を変えて沖縄側は交渉してきた経緯がこの本には実名で詳しく書いてある。

「V字案を受け入れる条件として、1.那覇空港の滑走路の新設、2.モノレールの北部地域までの延伸、3.高規格道路、4.カジノ」という話が仲井真知事の使者と名乗る人物(本には実名が書いてある)から寄せられたという。


「アメとムチ」の沖縄対策費

沖縄に支給されている基地対策予算は巨額だ。2006年度の北部振興事業費は総額115億円。このうち国が98億円負担している。

scanner056





出典:本書162−163ページ

沖縄県には北部振興策を含め、約3,000億円の「沖縄振興開発事業費」が支払われている。これは1972年の沖縄復帰の際に制定された「沖縄振興開発特別措置法」で決められている。振興事業にかかわる経費の95%は国が負担するという特別措置だ(他の都道府県では3分の1以下)。

普天間移転は8年経っても進まないのに、北部振興策には毎年予算がついていた。

守屋さんは太平洋セメントの諸井虔(もろい・けん)相談役から「政府は沖縄に悪い癖をつけてしまったね。何も進まなくてもカネはやるという、悪い癖をつけてしまったんだよ」と言われたという。

逆に、沖縄側から振興策は「アメとムチで沖縄県民の心を引き裂くものではないか」と言われ、当時の橋本首相は「そういう言い方をされるのは悲しい」と語った。しかし、それが現実で、沖縄の政治のFAW(Forces at work=動かす力)となっていることを示している。

もっとも、筆者はこのことで沖縄を非難するつもりはない。これは沖縄だけの話ではないからだ。誰もNIMBY(Not In My Back Yard=自分の地域では困る)と思うから、原発立地や基地立地の自治体には手厚い支援があるのは当然だ。

定年延長して防衛次官を務めていた守屋さんを退任させたのが小池百合子大臣だ。この本では小池百合子防衛大臣の就任の時に、小泉首相から守屋さんに直接電話があったことや、防衛省をバカにした小池大臣の発言が引用されている。

「防衛省には英語ができる人、いないんでしょ。私は外国からのお客さんと直接やるから、英語がわかる秘書官でないと困るわ。それから私が環境大臣だったときに作らせたエコカーね、あれを持ってきて私の公用車にしてほしい」

現在は防衛省は民間の語学学校で6ヶ月の語学研修を受けさせ、さらに米英の大学への留学、在外公館への勤務などで人材の育成に努めているという。


防衛事務次官人事で小池大臣と衝突

各省の事務次官、各局長などの人事は次の手順で決められると守屋さんは書いている。

1.各省庁の事務方が大臣の了解した人事案をつくり、官邸に提出する。
2.官邸では内閣官房長官と三人の内閣官房副長官から成る「人事検討会議」に諮られ検討される。
3.人事検討会議の審査が終わってから、直近の閣議に諮られ了解される。

この不文律は政治と行政の間で国家公務員の身分保障を確保する「最後の砦」として存在していた。小池大臣が守屋次官の退任と後任人事を新聞にリークしたのは、これらのルールを無視したものなので、守屋もファイトバックした。

小池大臣に協力した西川官房長(後任次官として新聞で発表されていた)を「役人として恥を知れ」と怒鳴りつけ、「閣議了解の前に公にされた場合は、その人事は差し替えられる」という4番目の不文律に従って官房長官に新たな人事案を提出し、西川次官という新聞辞令は葬られた。守屋さんの後任は増田人事教育局長となった。


日本の地政学的重要性

日本の国土は世界で61番目で、イギリス、イタリアより大きく、ドイツとほぼ同じ面積だ。先進国としては遜色のない面積を持っている。さらに200海里の排他的経済水域を入れると日本は世界で6番目となる。

scanner053











出典:本書331ページ

日本本土の在日米軍基地

scanner043











出典:本書10ページ

沖縄県内の在日米軍基地

scanner044











出典:本書11ページ

実名で書いてあるので、暴露本という面もある。内容も守屋さんの立場を正当化しているので、実名で書かれた人には異論があるだろうし、当事者の一方的な理解を伝えているにすぎない。

その分は差し引いて読む必要があるが、いまだにくすぶり続けている普天間移設問題と沖縄の基地問題の経緯と力学がわかって大変参考になる本だった。


参考になれば投票ボタンをクリックして頂きたい。




  
Posted by yaori at 12:50Comments(0)TrackBack(0)

2011年03月18日

中国最大の敵 日本を攻撃せよ 中国軍現役大佐のトンデモ戦争論

中国最大の敵・日本を攻撃せよ中国最大の敵・日本を攻撃せよ
著者:戴旭
徳間書店(2010-12-17)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

中国空軍現役の戴旭(ダイシュイ)大佐の世界軍事情勢分析と対日米戦争論。戴旭大佐は中国の有名な軍事専門家ということで、著作も多く北京大学の中国戦略研究センター研究員も兼任している。

このブログで田母神元航空幕僚長の「座して平和は守れず」などを紹介しているが、戴旭大佐は中国で30万部も売れているというトンデモ本を出版して何のおとがめもないのが大きな違いだ。

決して中国の支配層を代表する意見とは思わないが、こういう見方もあるということを知っておくことは、日米両国には役立つと思う。

この本はアマゾンのなか見!検索に対応していないので、サブタイトルまで含めた目次を紹介しておく。この本の内容が大体推測できると思う。

第1章 日米のC型包囲網を突破せよ
 1  中国の出口を閉ざす「海上包囲網」
 2  鉄格子を撃ち込まれた「陸上包囲網」
 3  アメリカの標的は、イスラム世界、ロシア、中国に絞られた
 4  中国はまもなく戦争に突入する
 5  中国は三たび分割の危機に直面する
 6  中国をむしばむ国内のガン
 7  今こそ中国は勇敢に戦争を肯定せよ

第2章 中国は日本との戦争が避けられない
 1  日本という猛獣が凶器を手にする日
 2  右傾化しはじめた日本は何を狙っているのか
 3  中国は日本の「戦争」にいかに対処するか
 4  日本はその正体を決して見せない
 5  300年にわたる「抗日戦争」はまだ続くのか
 6  琉球は日本のものではない
 7  迎撃ミサイルは、アメリカによる日本への新しい首輪

第3章 中国空軍はこうして戦う
 1  ラプターを狩れ!
 2  中国が目指す次世代戦闘機開発
 3  「J−8精神」で自主イノベーションを起こせ
 4  「攻防一体」を担う戦闘機の開発を急げ
 5  ステルス機には長距離弾道ミサイルで対抗する
 6  2015年にステルス機を完成させる日本の魂胆
 7  中国はいかに攻め、いかに守るか
コラム 金融危機はアメリカが仕掛けた戦争だった

第4章 中国軍は陸海でこう戦う
 1  時代遅れの陸軍をすぐに改革せよ
 2  日本とロシアを捕捉せよ
 3  中国海軍は自国領海内の存在感を高めよ
 4  南沙進出が中国の未来を決める鍵
 5  国家利益を守るため一流の海軍を建設せよ
 6  中国は空母を所有し、占領された島々を奪還せよ
コラム アメリカの「反テロ」の本当の標的はロシアだ

第5章 強大な中国が世界を救う
 1  中国は世界の覇権など狙っていない
 2  中国が目指すのはアジアの大国
 3  中国を侵略する勢力に対する攻撃
 4  中国が強大になれば世界は平和になる
 5  正義の戦争は中国発展のチャンス


読んでいてバカらしく思えるような過激なタイトルが並ぶ。


中国は日本との戦争が避けられない?

この本が生まれた遠因には、レーガン政権で国防長官を7年間勤めたキャスパー・ワインバーガー氏が書いた「ネクスト・ウォー」という本がある。

ネクスト・ウォー―次なる戦争ネクスト・ウォー―次なる戦争
著者:キャスパー ワインバーガー
二見書房(1997-05)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

今度この本も読んでみるが、こちらの本では2007年に日本戦艦が中国領海内に侵入し、強力なコンピューターウィルスをまき散らすロジック爆弾を中国と台湾に発射し、すべての運輸・航空管制・社会基盤システムを破壊する。中国軍が機能停止している間に日本軍は中国、台湾に飛行機による爆撃と巡航ミサイルを雨のように振らせ、そのうち中国はやむなく講和を受け入れるというシナリオだという。

しかし空軍力で圧倒した後は、歩兵が侵攻しなければならないわけで、ワインバーガー氏が描く先制攻撃など、中国にとっては即時講和を望むほどのダメージにはならないだろう。

日本は侵略戦争の準備はほとんどなく、とりわけ兵力を敵地に送り込む”パワープロジェクション能力”がゼロであることは、以前紹介した故江畑謙介さんの「日本に足りない軍事力」の通りだ。

今回の東北関東大震災でも、自衛隊の災害支援トラックを米軍の揚陸艦が運んでいるところをテレビが報道していた。道路が渋滞でマヒしている今回のような災害出動の場合、米軍の力を借りないと日本国内でさえ自衛隊は大規模輸送ができないというのが現実だ。

パワープロジェクション能力のない自衛隊が中国侵略に大軍を繰り出せるとは思えないし、空爆や巡航ミサイルで圧倒できるほど中国は小さい国ではないことは第2次世界大戦が証明している。

たぶん「中国も空軍力を増強すべき」という結論を誘導したいのだろう、戴旭大佐はこのような仮想攻撃がトム・クランシーの"Clear and Present Danger"(いま、そこにある危機)のように、すぐにも現実化する脅威だと喧伝したいようだ。

いま、そこにある危機〈上〉 (文春文庫)いま、そこにある危機〈上〉 (文春文庫)
著者:トム クランシー
文藝春秋(1992-06)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

”日本は新型軍用大型機の開発で中国からリードを奪おうともくろんでおり”、ヘリ空母を持ち、国産のC−X輸送機P−X哨戒機を開発し、国内に数千発の原子爆弾がつくれるプルトニウムを貯蔵していると戴旭大佐は語る。


ステルス戦闘機の脅威と中国の対抗策

この本ではF−22ステルス戦闘機を、大きな脅威と位置づけており、日本がF−3導入計画でステルス能力のある国産戦闘機を製造するようになると、さらに大きな脅威になると警告している。

F−22

F-22






出典: Wikipedia

そしてF−22に対抗する手段は、ステルス機の航続距離≪2,000キロ)の外から長距離弾道ミサイルで基地や空母を叩くことだと語る。

たとえば精密装備を持たないコストの安い無人機を10万機くらい持ち、衛星測位システムにより誘導して爆弾を持たせて敵を攻撃するという「人海戦術」ならぬ「機海戦術」もあると語っている。

中国が最近「殲ー20」というF−22そっくりのステルス戦闘機のテストフライトに成功したことが報じられたが、中国も自前ステルス戦闘機開発に拍車を掛けているようだ。



この本の第5章のサブタイトルのひとつのように「中国は世界の覇権など狙っていない」なら、なぜ自前のステルス戦闘機が必要なのか理解に苦しむところだ。


南沙地域が中国の生命線

「満蒙は大日本帝国の生命線」というのは、戦前の日本のスローガンだったが、戴旭大佐は「南沙進出が中国の未来を決める鍵」と語っており、非常に違和感を覚えるところだ。

南沙列島は中国がフィリピン、マレーシアなどと領有権を争っている地域だ。

この本によると、この南沙地域には数百億トンの石油と天然ガス資源があるという。そして既に石油と天然ガスの生産は、中国の近海石油・ガス生産量の数倍の規模だという。

南沙諸島にそれだけの天然資源があると推測している根拠は、「権威ある部門の推計による」と書いているが、参考までに世界で最も「権威ある」BPの世界のエネルギー資源の統計を紹介しておく。

次のグラフはすべてBPがホームページで公開している資料だ

世界の国別石油埋蔵量

oil_reserve_2010











世界の国別石油生産量

oilproductionstatistical_review_of_world_energy_full_report_2010











世界の国別天然ガス確定埋蔵量

gasreservestatistical_review_of_world_energy_full_report_2010











世界の国別天然ガス生産量

gasproductionstatistical_review_of_world_energy_full_report_2010











少なくとも今の確定埋蔵量や生産量では、南沙周辺や尖閣列島周辺に戦争をしてまで争うほどの大規模な化石燃料資源があるとは思えない。


中国のGDPは年8−9%で成長しており、軍事費も10%以上の伸びを示している。

本のタイトルが刺激的が、現役の中国軍人が日本やアメリカをどう見ているのかがわかって参考になる貴重な資料だと思う。


参考になれば投票ボタンをクリックして頂きたい。


  
Posted by yaori at 13:10Comments(0)TrackBack(0)

2010年10月10日

日本は原子爆弾をつくれるのか NHKスクープドキュメントに関連して

2010年10月10日追記:

NHKのスクープドキュメント「”核”を求めた日本ー被爆国の知られざる真実」が10月3日からNHK総合テレビやBSで放映された。

それのきっかけとなるニュースがYouTubeに掲載されている。



またNHKオンデマンドで有料で配信されている。

NHK核を求めた日本





1964年の中国の核実験成功やインドの核兵器を持とうという動きをにらんで、当時の佐藤栄作政権は、日本の核保有を真剣に検討していたことが報道されている。

当時の内閣調査室で1968年9月に「日本の各政策に関する基礎的研究」というレポートが作成されている。

日本の核政策に関する基礎的研究






日本の核政策に関する基礎的研究結論






NHKの画面から結論の部分を読み取ると次の通りだ(一部画面からは読み取れない部分は筆者推測)。

「結び 要するに、単にプルトニウム原爆を少数製造することは可能であり、また比較的容易である。しかし、近い将来有効な核戦力を創設するというのであれば、前述のような多くの困難が横たわっている。

日本の核戦力創設能力の検討に当たっては、技術的、財政的、人的・組織的条件だけから結論を導き出すことは不可能であり、さらに戦略的、国民心理的、外交的側面について十分に検討することが必要である。」

この研究結果を受け、佐藤栄作首相は米国の核の傘の下に入ることをきめ、訪米時に当時のジョンソン大統領に「日本防衛が核攻撃を含む攻撃に遭った時でも、日本を防衛する」との言質を取っている。

このときのマクナマラ国防長官との面談時に、佐藤首相は「日本の安全確保のために核を持たないことははっきり決意しているのだ。米国の核の傘の下で安全を確保する。」と語っている。

その2ヶ月後、核兵器の絶滅を目ざす、持たない、つくらない、持ち込ませないという非核3原則を表明する。佐藤元総理はこの非核3原則で、1974年のノーベル平和賞を受賞した。

佐藤元首相は非核3原則を世界各国に広めようとノーベル賞受賞スピーチで、そのように呼びかけようと原稿を作成するが、直前にアメリカのキッシンジャー国務長官がアメリカの核戦略を縛るような発言に不快感を示したため、授賞式では非核3原則には触れられなかった。

米国の核の傘の下に入った日本は、唯一の核被爆国にもかかわらず、核軍縮を求める国連決議の大半に反対か棄権している。「日米安保条約で核の傘で守って貰っているのだから、相手(米国)が嫌だということが分かっている決議には、反対か棄権することはしょうがない。」という立場を貫いている。

先月の国連総会での菅直人首相の「唯一の被爆国である日本は、『核兵器のない世界』」の実現に向けて具体的に行動する道義的責任を有している」という言葉が空虚に響く。

ドイツはヨーロッパ各国と連携し、ヨーロッパに配備されている米国の核兵器を撤去するように働きかけているという。

考えさせられるNHKの番組だった。

この番組をよりよく理解するために、米国在住の日本人科学者が書いた「日本は原子爆弾をつくれるのか」を再掲する。


2009年2月20日初掲:

日本は原子爆弾をつくれるのか (PHP新書)日本は原子爆弾をつくれるのか (PHP新書)
著者:山田 克哉
販売元:PHP研究所
発売日:2009-01-16
おすすめ度:1.5
クチコミを見る


原子爆弾や量子力学についてブルーバックスなどで入門書をいくつも書いているロサンジェルス・ピアース大学物理学教授の山田克哉さんの本。

タイトルに惹かれて読んでみた。

この本はアマゾンのなか見検索に対応しているので、是非目次をチェックしてみてほしい。それぞれの項のタイトルまで読めば大体この本の内容が推測できると思う。

量子力学の基本から始めて、1938年ナチス時代のドイツで核分裂が発見され、ヒットラーが原子爆弾を開発することを恐れたアメリカがマンハッタン計画を立ち上げ、延べ45万人を投入して3年間で原子爆弾をつくりあげたこと。原子力発電技術と原子爆弾製造技術は全く異なるが、日本の技術をもってすれば3年から5年程度で原爆は作れる可能性があることなどを説明している。

しかし核武装についての国民のコンセンサスが得られないだろうし、たとえ原爆製造能力はあっても、日本は決して原爆製造をすべきでないと結んでいる。


放射能と放射線

原爆が怖いのは、爆発したときの衝撃波と超高熱もあるが、放射能放射線による人体への影響が長期間にわたって続くことだ。

放射線は放射性物質が放つもので、次の4種類がある。

1.アルファ線
  ウランなどがアルファ崩壊するとエネルギーとともに、ヘリウム原子の核と同じ2個の陽子と2個の中性子が核から吐き出される。これがアルファ線で電荷(プラス)も質量もある。

  アルファ線は物質や人体を構成している原子と激しい電気反応を起こす。人体に当たると皮膚で激しく反応し、呼吸器から吸い込まれると肺の細胞を壊し肺がんを誘発する。

2.ベータ線
  核がベータ崩壊すると中性子が陽子に変わり、電子が核外に飛び出す。これがベータ線で、マイナス電荷をもつ。質量はアルファ粒子の1/7000。

  ベータ線が人体に入ると原子から電子を弾き飛ばすので細胞が機能を失い、場合によっては細胞は死滅する。大量のベータ線が頭にあたると髪の付け根の細胞が死滅し、髪が簡単に抜けてしまう。

3.ガンマ線
  核がアルファ崩壊、ベータ崩壊を起こした後、エネルギーの高いガンマ光子と呼ばれる粒子が核から吐き出される。これがガンマ崩壊で、放出されるのがガンマ線だ。電磁波なので電荷も質量もない。
  
  ガンマ線も電子を吹き飛ばし、ベータ線のように細胞を死滅させることがある。

4.中性子線
  核から中性子が時間をかけて飛び出すもの。電荷はないが質量はある。

  中性子は核に吸収されやすく、中性子過剰になった核はベータ崩壊を起こし、元素自体が放射性物質に変化してしまう。


原子爆弾の構造

原爆には広島型(砲弾型ウラン爆弾)と長崎型(爆縮型プルトニウム爆弾)の2種類がある。

広島型はリトルボーイと呼ばれ、砲弾(ガン・バレル)型ウラン爆弾で、二つに分けたウラン塊を爆着させることで、臨界を起こし、核分裂を起こさせる。課題は核分裂の持続時間がせいぜい100万分の1秒程度と短く、多くの核が分裂しないまま爆発してしまうことだ。

リトルボーイの爆弾の重さは4トン、使われた濃縮ウラン(86%)は20Kgだ(Wikipediaでは約60Kgとなっている。どちらが正しいのか不明)。

Little_boy





出展:Wikipedia

一方長崎型プルトニウム爆弾はファットマンと呼ばれる球状の爆縮型で、真ん中がポロニウムとベリリウムでできた中性子発生体。次に直径4.2Cm,重さ6.2Kgのプルトニウム、まわりを厚さ7Cmのウランで固めている。

それをさらに燃焼速度の異なる二種類の爆薬でつくられた爆縮レンズで取り囲み、爆薬の衝撃波でプルトニウムの臨界をつくり核分裂を起こすのだ。

Fat_man





出展:Wikipedia


Implosion_Nuclear_weapon






出展:Wikipedia

次の図はアニメーションになっていて、爆縮する過程を示しているので、クリックしてみてほしい。

Implosion_bomb_animated








出展:Wikipedia

砲弾型より爆縮型の方が核分裂効率が高く、少ないプルトニウムあるいはウラン量で爆弾ができるので、こちらが主流だ。

爆縮レンズは2種類の爆薬を組み合わせた複雑な構造をしているが、これが可能となったのはフォン・ノイマンの数学的計算によるものだという。

アメリカは1956年に小型原爆の開発に成功し、スワンと名付けている。これは第三の原爆とも呼べるもので、英語でBoosted fission weaponと呼ばれている。重水素(D)と三重水素(T)のD−Tガスをプルトニウム球の中心に入れた構造のものだ。

D−T型原爆がもっとも効率が良く分裂比率が30%、長崎型で14%、広島型は1.4%だという。

その他の核兵器としては、核融合反応を用いた水爆、中性子爆弾(建造物に影響は少ないが、生物の細胞を破壊する)、コバルト爆弾(放射能汚染がひどい)、そして劣化ウラン弾がある。

湾岸戦争でも使われた劣化ウラン弾は、ウラン濃縮で残るウラン238を砲弾につかったもので、鉛の倍の比重があり貫通量が高く、敵の装甲を貫通するときに1200度の高熱を発するので、敵戦車の乗員を焼死させ、さらにウランが放射性微粒子となって空中に飛散するので、肺がんや白血病の原因となる。


原爆研究のはじまり

ナチス政権下の1938年にベルリンのカイザー・ウィルヘルム研究所で、オットー・ハーンリーぜ・マイトナーがウラン235のみに起こる中性子による核分裂を発見、この事実が一躍世界に知られた。当時世界では超ウラン元素の研究を至るところで行っており、日本でも理化学研究所が研究していた。

ハーンは戦争中の1944年にノーベル化学賞を受賞している。一方マイトナーはナチスの迫害をさけるためにスウェーデンに行っていたため、オットーハーンのみがノーベル賞を受けた。

核分裂が起こると、発生するエネルギーは化学反応の100万倍以上で、数百万度の温度になる。連鎖的に核分裂を起こさせると(臨界)巨大なエネルギーが生まれることがわかった。科学者達の頭に爆弾というアイデアが浮かんだのだ。

戦争に突入したこともあり、各国はそれぞれ独自に核爆弾の研究を始めた。日本でも陸軍は理化学研究所の仁科芳雄博士に原爆の研究を依頼し、二号研究という名前で、熱拡散法によるウラン濃縮技術を研究した。

海軍も「F研究」の名称で、有名な物理学者を集め、こちらは遠心分離法によるウラン濃縮を研究したが、結局ウラン濃縮には成功しなかった。

この過程でサイクロトロンを戦争中に完成させていたが、敗戦後占領軍がサイクロトロンを東京湾に投棄させた。

ドイツの敗戦直前の1945年3月にドイツを出たU−234号にドイツから日本に供与されたMe262ジェット戦闘機、ジェットエンジン、光学ガラス、航空機の設計図と装置類、そして酸化ウラン560Kgが積まれていたが、日本へ向かう途中にドイツが降伏し、艦長は投降を決定、乗船していた日本の技術将校二人は自決した。

Messerschmitt_Me_262




出展:Wikipedia

この話は「深海の使者」という小説になっている。

深海の使者 (文春文庫)深海の使者 (文春文庫)
著者:吉村 昭
販売元:文芸春秋
発売日:1976-01
おすすめ度:5.0
クチコミを見る



マンハッタン計画

アメリカはナチスが原爆をつくることをおそれ、当時の金で20億ドルという巨費を費やして延べ45万人(うち科学者10万人)を動員して、原子爆弾の製造を1942年に始め、わずか3年間で原子爆弾を完成させた。これがマンハッタン計画だ。

マンハッタン計画では次の三カ所の研究所が新設された。

1.クリントン研究所(現オークリッジ国立研究所) テネシー州 
  ウラン濃縮のため、K−25と呼ばれた巨大なガス拡散法によるウラン濃縮工場で製造した濃縮ウランを、Y−12と呼ばれた電磁法(カルトロン)によるウラン濃縮工場にかけてようやく濃縮度90%近くの濃縮ウラン235を製造した。ここにはX−10と呼ばれた原子炉と熱拡散によるウラン濃縮装置も建設された。

その濃縮ウランはロスアラモス研究所に運ばれて、リトルボーイが完成した。リトルボーイは実験することなしに広島に投下された。

2.ハンフォード研究所 ワシントン州
  原子炉(黒鉛炉)によるプルトニウム239生産工場。ここのプルトニウム摘出装置は現在の核燃料再処理工場の原型である。

3.ロスアラモス国立研究所 ニューメキシコ州
  前述の爆縮機構を含む原子爆弾の起爆装置と本体を製造

ファットマンは、ハンフォード研究所の原子炉でプルトニウム239が製造され、ロスアラモス研究所で2個の爆弾がつくられ、1個で実験して威力を確認後、残る1個が長崎に投下された。

筆者の山田さんはテネシー大学の原子力工学科に留学したので、マンハッタン計画に使われたテネシー州のオークリッジ国立研究所に一年間通ったそうだが、その巨大さに驚いたという。

コードネームX−10もY−12も東大本郷キャンパスの3倍程度で、K−25に至っては本郷の10倍という広さで、研究所というより大工場を思わせたという。

アポロ計画もすごいが、ゼロから3年で原爆を完成させたマンハッタン計画は、ヒットラーが原爆を開発する前に完成させるという切迫感に迫られたプロジェクトだった。


原爆用のウラン製造

ウランは自然界に存在するものの、原子爆弾に使える放射性物質のウラン235はウラン鉱の0.7%のみで、残りの99.3%は安定したウラン238だ。この天然ウラン精鉱(次の写真のイエローケーキと呼ばれる)をフッ素化合物とし、6フッ化ウランとしてガス化する。

LEUPowder






出展:Wikipedia

そのガスを加熱かつ1分間に10万回転という超高速回転するシリンダーに入れ、ウラン238を外側に飛ばし、ウラン235と分ける。

ウラン235もウラン238も同じ元素で単に原子量が違うアイソトープなので、技術的に分離することが非常に難しい。

すこしずつウラン235の濃度を高めていって、原爆用の濃度90%程度のウラン235をつくるには、7、000台もの遠心分離機を通すことが必要だ。だからマンハッタン計画で使われたテネシー州のオークリッジ研究所は、研究所というよりは巨大工場みたいだという。


原爆用のプルトニウム製造

プルトニウムは自然界には存在しないので、原子炉をつかって作り出す必要がある。

原子炉のタイプには軽水炉(普通の水を中性子の減速剤につかうので、燃料のウラン235はロスを補うために3−5%に濃縮する)、重水炉(高価な重水を使うので、減速ロスがないので天然ウランが使える)、黒鉛炉(減速剤として黒鉛を使用。天然ウランが使える)の3タイプがある。

日本の原子力発電所はすべて軽水炉タイプで、このタイプの原子炉の使用済み核燃料棒は再処理され、ウランとプルトニウムに分離されるが、軽水炉の核燃料再処理で取り出されるプルトニウムは「原子炉級プルトニウム」と呼ばれているプルトニウムアイソトープの混合体だ。

プルトニウム238から242までの多種が含まれており、原爆に使われるプルトニウム239は60%、残りが238,240,241,242のプルトニウムであり、プルトニウム239の純度は低く原子爆弾の原料には使えない。

またプルトニウム240が曲者で、自然に未熟爆発を起こし熱を発生させるので、非常に扱いにくい放射性物質である。

高速増殖炉は、核燃料再処理で得られたプルトニウム239とウラン238を混合させた燃料棒が使われ、プルトニウム239が核分裂して飛び出した中性子でウラン238がプルトニウム239に変わる。

入れたプルトニム239が1.3倍になって帰ってくるというまさにネーミングの通り「文殊(もんじゅ)の知恵」の様な技術だが、日本では1994年に運転を開始した1年後にナトリウム漏れ事故があり、それ以来停止している。

新しい技術として、日本ではプル・サーマル原子炉の建設計画があるが、住民の反対が強くなかなか前に進まないままである。


日本は原爆をつくれるのか?

日本にはこれまでの軽水炉での核燃料再処理で得た原子炉級プルトニウムが内外にあわせて44トンあると言われているが、問題はプルトニウム240による未熟爆発で、そのままでは原子爆弾には使えない。

アメリカエネルギー省は1962年に原子炉級プルトニウムを使って長崎型原爆と同規模の原爆を作ったと発表しているが、真相は不明のままである。

原子爆弾級のプルトニウムはプルトニウム239が90%以上で、これを作るには黒鉛炉か重水炉の使用済み核燃料を再処理するか、高速増殖炉でプルトニウム239を生産するかだが、日本のもんじゅは停止したままだ。

現在の核保有国アメリカ、ロシア、中国、フランス、イギリスでは黒鉛炉で兵器級プルトニウムを生産している。上記5カ国以外にインド、パキスタンが核保有国となり、イスラエルは核保有の噂が絶えず、最近では北朝鮮が核実験を行ったが、いずれも黒鉛炉を持っている。

さらに原爆ができても運搬手段がなくては意味がないので、ミサイル制御技術も欠かせないが、日本の宇宙ロケット開発技術をつぎ込めば、弾道ミサイルを開発することは可能だろう。

山田さんは日本が核軍備に走ることを絶対反対という立場ながらも、原子爆弾をつくるシミュレーションを行っている。

必要な設備は:

1.ウラン濃縮装置
  特に理化学研究所で長年研究してきた赤外線レーザー法濃縮技術を使うと、ウラン235の濃縮は比較的小規模な設備で非常に効率よくできる可能性があるという。ウラン235に赤外線レーザーの波長をあわせれば、電荷を帯びて集合して電極に塊となってたまる。このプロセスを繰り返して濃縮ウランを製造するのだ。

2.兵器級プルトニウム生産原子炉
  高速増殖炉か黒鉛炉または兵器用重水炉。

3.核再処理設備


この本で説明されている要素技術を組み合わせれば、原爆一個つくるだけなら3年、たぶん5年程度で日本は原子爆弾の製造とミサイルによる運搬手段の核軍備が可能であろうと。

しかし世界で唯一の被爆国である日本で核武装をすることなど、到底国民感情が許すとは思えないし、山田さんも日本の核軍備には絶対反対だという。


原爆の基礎的なことがわかって、参考になる。一部の右翼政治家の日本が核武装する気になれば、すぐに数千発の原子爆弾をつくれるという発言が科学的根拠に基づいていないことがわかった。

科学、原子爆弾の知識を手軽につけるには適当な本である。まずはアマゾンのなか見検索で目次を読み、書店で一度手にとってパラパラっと読むことをおすすめする。


参考になれば投票ボタンをクリックしてください。


  
Posted by yaori at 03:16Comments(0)TrackBack(0)

2009年12月12日

核の脅威と無防備国家日本 防衛省元制服組の核武装論

核の脅威と無防備国家日本―日本人は核とどう向きあうのか核の脅威と無防備国家日本―日本人は核とどう向きあうのか
著者:矢野 義昭
販売元:光人社
発売日:2009-11
クチコミを見る

図書館の新刊書コーナーに置いてあったので読んでみた。今年12月に出たばかりの本だ。

著者の矢野義昭さんは、昭和25年生まれの元陸将補で、平成18年に陸上自衛隊の小平学校副校長をもって退官し、現在は拓殖大学大学院で安全保障を研究しているという。

矢野さんは世界の核保有国の動向、特に中国やロシアの核兵器強化の動きを取り上げ、米国の核の傘がいざとなったときに本当に頼れるのか疑問を投げかける。


矢野さんの描く核武装後のバラ色の日本の未来

そして日本を取り巻く核保有国の現状とミサイル防御(MD)システムの限界、北朝鮮の核武装、核保有による抑止力効果などを説明し、元制服組として国を守る使命から、憲法では認められていない「集団的自衛権」を容認し、国際核管理体制の構築が望ましいと語る。

しかし国際的な核管理には時間が掛かるだろうから、まずは日本は核保有をすべきだと。

「被爆国の日本が、かりに自衛のために核を保有したとしても、どの国もそれを道義的に責めることはできないはずである。また、日本の立場に、理解を示す国も出てくるかもしれない。」

また防衛予算上も核兵器の方が安くつくので、今後の日本の少子高齢化と財政事情を考慮した場合、中国・ロシア・核を持つ統一朝鮮と通常兵力のみで拮抗させるのは不可能なので、費用対効果上も核保有は効率的な防衛手段であると。

潜水艦搭載巡航ミサイルと地上配備ICBMの組み合わせで2兆円、核巡航ミサイルだけなら1兆円、運用経費は1兆円という見方があるという。

日本が核を保有し、地域的な核均衡が維持されれば、米軍縮小も可能で、日本の国際的な威信と外交交渉力が高まり、長年の懸案であった国連安保理の常任理事国入り、領土問題解決に前進が見られるだろう。

日本の国家としての危機対処力への内外の信頼が高まり、邦人拉致なども減少。

日本の経済力も軍事的な実力を背景とすることから、国際的な信頼度がたかまり、日本との自由貿易協定を希望する国も増え、円は基軸通貨の一角を占めるようになり、通商摩擦でもより強く国益を主張できる。

科学技術でも核兵器技術が国家的先端技術力の一分野となり、原子力の民生利用、宇宙開発、海洋開発などの国家プロジェクト推進の基盤がより強固となり、好影響を与える。自立的な核燃料サイクルも確立する。

まったくテレビの”太田総理”のマニフェストの様である。「こうして日本は平和になった…。」


生命よりも大切なもの

矢野さんは、「個々人の生命を危険にさらしても守るべき共通の価値がある」という。矢野さんの結論を引用すると。

「核保有は国家の主権護持の意思と能力の象徴である。

究極的には自国みずからの意志決定にもとづき運用すべきものであり、同盟国であっても核作戦指揮権限は本来、委譲すべきものではない。

その意味では、核共有にも限界があり、同盟も永遠ではなく安全保障を全面的に依存できるものではない。

最終的な力の拠り所となる核戦力については、種々制約があるなかでも、いざというときに最大限に自主独立性をもって行使できる体制をめざし、可能なすべての努力を傾注すべきである。」


現在の世界の核配備状況

整理の意味でSIPRI(ストックホルム国際平和研究所) Year Bookによる世界で配備されている核弾頭数を次に記す。

     2006年         2009年
米国  約1万発         2,702発
ロシア 約1万6千発       4,834発
中国    130発         186発
英国    185発         160発
フランス  348発         300発
インド   110発          60〜70発
パキスタン 110発          60発
北朝鮮    10発          不明
イスラエル  60〜85発       80発

2009年には各国の削減が進んで、米国とロシアは2006年の数字の1/4強にまで削減している。

このほかに戦術核弾頭が米国で500発、ロシアで5〜6,000発、ミサイルからはずされて備蓄している核弾頭が米国で予備弾頭も入れて6,000発、ロシアで1万発、核弾頭解体後に残されたプルトニウムの弾芯が、米国で1万4千個、ロシアでも同数以上保管されているという。

配備された核兵器は削減しても、米国・ロシアともに、いざとなったら核攻撃能力はすぐに復活できる体制にあるのだ。


参考になった情報

結論には全く賛成できないが、参考になった情報を箇条書きで紹介しておく。

★2005年に中国国防大学防務学院長朱成虎少将が、米軍が攻撃してきた場合、中国は核兵器を使用する。米国は西岸の100から200の都市が破壊されることを覚悟すべきだと恫喝している。

(筆者コメント:この種の発言をする中国軍人はいつの時代でも必ずいる。軍人の本音だろうが、検閲されているとはいえインターネットで情報を収集し、自由化に慣れた中国国民が米国との全面核戦争を臨むかは疑問だ)

★中国の軍事的台頭により、いずれ米国の核の傘も機能しない時がくる。

★米国では2002年からRRW(Reliable Replacable Warhead=信頼性のある交換可能な弾頭)計画を進めてきた。核弾頭配備は削減するが、核弾頭備蓄は続けるというものだ。

ロシアの2007年の国防予算は311億ドルで、アメリカの5,000億ドルに比べて圧倒的に少ないので、新型戦術核ミサイルなどの少数精鋭兵器に力を入れている。新型の路上移動、潜水艦搭載型のICBMSS−27 トーポリMは慣性誘導弾でなく、軌道を修正できる機動型弾頭だ。

★現在の迎撃ミサイルによるミサイル防衛システム(MD)は慣性運動体のみを対象としており、ロシアのトーポリMなどの非慣性誘導弾は簡単に回避できる。またおとりミサイルやおとり弾頭で簡単に対策ができる。

★レーザーによるミサイル防衛システムができれば、確実にミサイルを破壊できるが、多大な研究開発費が必要で、開発にはめどが立っていない。

★イギリスは核弾頭と原子力潜水艦を自国でつくり、ミサイルだけ米国から購入している。米国に一部依存しながらも自前の核戦力を持つ。

★フランスはドゴール時代の対米不信から核兵器を自前で開発し、1966年からはNATOの軍事機構を脱退していた。2009年サルコジ大統領がNATOへの完全復帰を宣言し、ドイツとの核兵器の共同保有を提案しているが、ドイツのメルケル首相は拒否したという。

★ドイツ、イタリア、カナダ、オランダ、ベルギー、ギリシャ、トルコの7カ国(のちにカナダとギリシャが脱退)は非核保有国ながら、米国と核兵器のニュークリア・シェアリングを行っている。これは戦闘爆撃機に搭載する20発の核爆弾のみであり、平時には米軍の管理下で、有事には米国大統領の命令に基づき、核爆弾のhandling overを行うというものだ。


筆者の意見

この本の結論には全く賛同できないが、資料としては参考になった。

田母神さんの本を読んで、ニュークリアシェアリングに興味を持っていたが、現実的ではないことがこの本でよくわかった。また日本として核武装は決して取るべき道ではないことを強く感じた。

またそもそも核爆弾はそんな簡単に作れるわけではないことは、以前「日本は原子爆弾をつくれるのか」で紹介した通りだ。

日本の強みは資源ではない。勤勉な国民と工業力、つまり無形資産だ。

いかなる国が日本を核攻撃して占領しても、日本の無形資産を破壊してしまった後では全く意味が無いだろう。やはり日本は被爆国として今までの方針を堅持して、世界の核廃絶を呼びかけるべきだろう。

オバマ大統領登場で核廃絶の流れは変わった。もちろん世界から核廃絶がそう簡単にできるとは誰も思っていない。しかし一歩を踏み出すことが重要なのだ。だからオバマ大統領が昨日12月10日ノーベル平和賞を受賞したのだ。

世界で唯一の被爆国である日本が、堂々と核廃絶を国是として世界に訴えることが、世界から信頼と尊敬を得る正攻法ではないかと強く感じた。それこそ国連安保理事会の常任理事国になるための、日本ならではの主張ではないか。

退役自衛官だから書けた、一部の(たぶん少数だと思うが)自衛官の本音なのかもしれない。

冒頭に紹介したバラ色の未来の様なスキだらけの議論で、あまりおすすめできない本だが、反面教師として自らの考えをまとめるには役に立つと思う。


参考になれば投票ボタンをクリックしてください。


  
Posted by yaori at 00:16Comments(0)TrackBack(0)

2009年10月03日

日本海軍の戦略発想 ”マベリック”海軍参謀の敗戦分析と反省記

+++今回のあらすじは長いです+++

日本海軍の戦略発想日本海軍の戦略発想
著者:千早 正隆
販売元:プレジデント社
発売日:2008-12
おすすめ度:5.0
クチコミを見る

最後の海軍大学卒業生で、終戦の時に連合艦隊砲術参謀中佐だった千早正隆さんが昭和22年に書いた日本海軍の反省記の改訂版。プレジデント社で1982年に発売され、1995年に文庫本になっている。

読んだのは中公文庫版だが、2008年12月に、プレジデント社から再発売されている。たぶん日本海軍の戦略の失敗の現代的意味を問い直そうということだろう。

千早さんは戦後GHQの戦史室調査員となり、このブログでも紹介した「ミッドウェーの奇跡」などを書いたGHQ戦史室長ゴードン・プランゲ博士の調査に協力した。

この本は英訳されて、多くの英語の戦史研究に引用されている。


千早さんはいわば”マベリック”

映画トップガンを見た人は覚えているだろうか?トム・クルーズが演じる主人公のコードネームが”マベリック”だ。マベリックとは、異端者、へそまがりという意味で、千早さん自身も自らの性格をそう評している。



たとえば千早さんはアメリカ人の戦争観を知るためにシンガポールで押収した「風とともに去りぬ」を見たいと、海軍大学時代に言いだしたが、さすがにこれは認められなかったという。



次にクレマンソーを研究したいと言い出して、クレマンソー研究家の酒井陸軍中将を招いて講演をしてもらったら、酒井中将は大東亜戦争出直し論を2時間論じたという。

クレマンソーといえば、「皇族たちの真実」で終戦直後の総理大臣に就任した東久邇宮稔彦王が、フランス留学時代に親交のあった元首相のクレマンソーに警告されたという話を思い出す。

「アメリカが太平洋へ発展するためには、日本はじゃまなんだ。(中略)アメリカはまず外交で、日本を苦しめてゆくだろう。日本は外交がへただから、アメリカにギュウギュウいわされるのにちがいない。その上、日本人は短気だから、きっとけんかを買うだろう。

つまり、日本の方から戦争をしかけるように外交を持ってゆく。そこで日本が短気を起こして戦争に訴えたら、日本は必ず負ける。アメリカの兵隊は強い。軍需品の生産は日本と比較にならないほど大きいのだから、戦争をしたら日本が負けるのは当たり前だ。それだからどんなことがあっても、日本はがまんをして戦争してはならない」

まさにクレマンソーの警告した通りの展開になったわけだ。


海軍大学卒業に際して放校になりかける

海軍大学卒業に際して、教授連に対して、ほとんど造反ともいえるマベリックぶりを見せた。

千早さんたち学生に意見を求められたので、千早さんは海軍大学の教育方針を独善的で各科バラバラであると評した。

科学的に戦争そのものを分析して、日米戦の対策はどうあるべきかという大命題の下に、あらゆる科目を統合して研究すべきで、艦隊の運動の研究などはその一部にすぎないと書いた。

「現在の戦況の苦境もつまるところ、研究に不真面目であったためである。深く戒む(いましむ)るところがなければならない」と要約したら、翌日学生全員が集められ、主任教官より名前を挙げて譴責されたという。

処分の話も出たが、同期生全員がかばってくれたのと、校長が代わったので処分なしで終わったという。


参謀としてもマベリック

参謀としても並み居る海軍大学出身参謀たちと対立して、ビアク島防衛の重要性を強調し、「ビアク気違い」と呼ばれたりしたという。

ちなみにビアク島には1万人の兵力が駐留し、米軍の攻撃までに十分陣地を構築する時間がなかったにもかかわらず、善戦して米軍を手こずらせたのでマッカーサーは激怒し、指揮官を子分のバターンボーイズの一人のアイケルバーガー中将に代えている。

マッカーサーが厚木飛行場に乗り込んできた時に、ぴったり寄り添っているのがアイケルバーガー中将だ。

733px-MacArthur_arrives_at_Atsugi%3Bac01732






出典:以下特記ないかぎりWikipedia


千早さんの経歴

千早さんは昭和2年の海兵第58期生。昭和5年に海兵を卒業後、すぐに艦隊勤務となり、駆逐艦、巡洋艦などの現場を経験し、砲術学校での学習を経て巡洋艦・戦艦の対空砲の分隊長となった。

千早さんの書いた艦隊防空のレポートは、海軍省の昭和16年の最優秀作品に選ばれたという。

千早さんは戦艦大和の艤装作業に立ち会い、大和は1トン爆弾の直撃にも堪えるように全体を装甲200ミリの鉄板で覆っているのに、巡洋艦から転用した副砲塔の装甲は30ミリしかないことを指摘したという。

戦争が始まると戦艦比叡に乗艦し、昭和17年11月の第3次ソロモン海戦で比叡が夜間探照灯砲撃で集中攻撃を受けた際に千早さんも両手の親指を負傷するが、奇跡的に指はつながり、内地で病院生活を送った。

比叡は切手にもなったので、筆者も亡くなった叔父に貰って、この満州国建国記念の切手を今でも持っている。

Japanese_battleship_Hiei_on_stamp




昭和18年7月から海軍大学校に学び翌19年3月に普通2年のところを8ヶ月で繰り上げ卒業し、艦隊参謀、連合艦隊作戦参謀として勤務し終戦を迎える。


千早さんがこの本を書いた理由

千早さんがこの本を書いた理由は、戦後多くの日本人、アメリカ人に次のような質問をされ続け、千早さん自身もその理由を解き明かしたかったからだと。

1.日本で米国のことを一番知っていたのは、日本海軍ではなかったか、その海軍がなぜ米国と戦争することになったのか。

2.アメリカンフットボールで同じ手を使って連敗するのは下の下といわれるが、日本海軍はなぜ同じ手を繰り返してその都度叩きのめされたのか。


米軍の攻撃で最も驚いた点

千早さんが連合艦隊参謀として勤務していて、米軍の攻撃で最も驚いたのは次の点であると。

1.B29による本土爆撃。超航空を飛ぶB29には対空砲も届かず、迎撃戦闘機も有効でなかった。

Boeing_B-29_Superfortress_USAF






2.B29による瀬戸内海への機雷敷設。これは「飢餓作戦」と呼ばれたものだ。使用された機雷は日本海軍が見たこともなかった磁気式、水圧式に度数式を組み合わせた新型のもので、特に低周波音響機雷には有効な掃海手段はなかったので、瀬戸内海はほとんど通行不可能となった。

まさに日本の首を真綿で絞めたのと同じ結果となった。

3.原子爆弾。連合艦隊作戦参謀だった千早さんでも原子爆弾の概念すら持っていなかった。慚愧(ざんき)に堪えないという。


この本の目次

目次を読めば大体この本の内容がわかると思うので、紹介しておく。

第1部 日本海軍の対米戦争に関する判断

 1. 日本海軍の仮想的は米国海軍

 2. 日米戦争に関する研究

 3. 戦術面のみに目が奪われた

 4. 不備だらけの日本海軍の戦務(戦務とは旧海軍用語で、索敵、偵察、海上輸送護衛、補給などの戦争するための諸準備のこと)

 5. 大局を忘れた日本海軍の戦備

 6. 陸海軍協同の不完全

 7. 戦争についての各種判断の誤り

第2部 戦争はかく実証した

 1. ハワイ海戦の戦訓

 2. 日本海軍の小手先芸

 3. 小手先芸の限界

 4. あと1ヶ月あったなら(ガダルカナルも敵に簡単に奪われることもなかったろう)

 5. 馬鹿の一つ覚え

 6. 偵察、索敵の軽視

 7. 追撃戦の宿命
    追撃戦で最後まで徹底的にやった戦例が乏しいのは、徹底性を欠く国民性にあると千早さんはいう。

 8. 慢心と増長の悲劇
    ミッドウェー海戦が典型例である。作戦の根本思想、敵空母出現の可能性の未検討、索敵の不備など、暗号が解読されている以外にも慢心と増長は多い。

 9. 美辞麗句が多くなった作戦命令

10. 用法を誤った潜水艦戦と時代遅れの対潜作戦
    日本の船腹量は約1千万トンだったが、戦争で喪失した船腹量は800万トン、このうち潜水艦の攻撃によるものが全体の57%、航空機が31%、触雷が7%、敵の砲撃はわずか2万トンにすぎない。

    B29と潜水艦の前に日本の戦力は崩壊したといえる。

11. 補給戦に敗れた
    ニューギニア戦線では14万人が補給もなく投入され、実に13万人が死亡したが、戦死はわずか3%で、残りは餓死、戦病死だった。

12. 誤った作戦で犠牲になった設営隊
    昭和19年、暗号が解読されていると千早さんは疑い、わざわざ「長官の名前の画数を足した日」というような指令をだしたが、島の防衛隊からの返信に「では○○日のことか?」と打ち返してきて頭を抱えてしまったという。結局敵に待ち伏せされたという。

13. 軽視した情報、防諜のとがめ

14. 甘かった人事管理

第3部 総まとめ

 1. 後手、後手となった作戦計画

 2. 完敗に終わった「あ」号作戦「捷」号作戦
 3. 水上部隊の悲惨な最期 戦艦大和が片道の燃料で向かったという話は実は誤りで、実際には簿外の在庫を呉の機関参謀がかきあつめ、往復に必要な燃料を積んで死出のはなむけとしたのだと。これでほとんどの艦船を沈められて、燃料もなく日本海軍は静かに死を待った。

 4. マクロ的な考え方と総合性の欠如

 5. 物量の差だけではなかった

 6. 教育に根本の問題があった

いくつか参考になった点を紹介しておく。


日本海軍の仮想的は明治以来米国海軍

明治40年、日露戦争の2年後に決定された「帝国国防方針」では日本の仮想敵は陸軍はソ連、海軍は米国とされた。

米国は日本海軍が兵力を増強するための目標敵であったが、実際に昭和12年南京攻略時に日本の爆撃機が間違って米国の砲艦バネー号を撃沈した時には、米国に陳謝するとともに多額の賠償金を支払った。あくまで仮想敵であって、本当に米国と戦線を開くことなど考えてもいなかったのだ。

ところが三国同盟に猛反対していた米内海軍大臣が昭和15年に及川海軍大臣に交代すると、海軍は簡単に三国同盟に賛同し、一挙に対米戦が現実味を帯びてくる。

昭和14年9月の第2次世界大戦勃発以降、対米関係は悪化の一途をたどった。ナチスの傀儡のヴィシー政権の承認を強引に得た昭和16年7月の南仏印進駐が引き金となって、米国が在米資産凍結、石油全面禁輸を発表し、海軍は対米戦の準備を開始した。

いわゆる月月火水木金金の猛訓練だが、この時も大口径砲の戦艦で敵を迎え撃つ艦隊決戦が戦略の中心で、潜水艦の船団攻撃や船団の対潜護衛の演習は皆無だったという。


太平洋戦争開戦時の連合艦隊の戦力

太平洋戦争が始まった時の連合艦隊の戦力は次の通りだ。これは戦艦と潜水艦こそ米国の6割を切っていたが、航空母艦と重巡洋艦では米国と肩を並べる兵力で、これにくわえて大和、武蔵の巨大戦艦2隻が加わった。

戦艦   10隻
航空母艦  9隻
重巡洋艦 18隻
軽巡洋艦 18隻
駆逐艦  90隻
潜水艦  55隻
潜水母艦  3隻
水上機母艦 2隻
合計   133万トン(基準排水量)

対米戦のために長年兵力を整備した結果だった。日本海軍は米軍に比肩しうる戦力を持っていたことがわかる。

ちなみに今度あらすじを紹介する佐藤晃さんの「太平洋に消えた勝機」という非常に面白い本の巻末に、「日米主要艦の戦力推移」という表が載っているので、紹介しておく。

太平洋に消えた勝機 (光文社ペーパーバックス)太平洋に消えた勝機 (光文社ペーパーバックス)
著者:佐藤 晃
販売元:光文社
発売日:2003-01
おすすめ度:4.5
クチコミを見る


日米主要艦推移







出典:本書230ページ

この表を見ると、日本は戦争の後半でほとんどの艦船が撃沈されているのに対して、アメリカは真珠湾で戦艦2隻、1942年に空母が4隻沈没した他は、1942年以降戦艦の喪失ゼロ、1943年以降は主要艦船の喪失ゼロという状態が続いていたことがわかる。

日本側の一方的敗北だったことがよくわかる表である。昭和19年のマリアナ沖海戦は「マリアナの七面鳥撃ち」を言われ、日本艦船を米軍が面白いように葬ったが、かくも一方的な敗北だと本当に「バカの一つ覚え」と言わざるを得ない。

実はこの表は正規空母までで、米国が圧倒的な産業力を注力して大量に製造した1万トン級のリバティー船と8,000トン級の護衛空母や軽空母が含まれていない。

リバティ船は戦後構造的欠陥が判明したが、溶接を使わず、鉄板をリベット接合して、わずか42日で完成し、戦時中実に531隻が建造された。

Liberty shipWSA_Photo_4235







護衛空母100隻以上が建造され、ドイツ潜水艦の脅威を封じ込めるのに成果を上げた。

USS_Bogue_ACV-9





日露戦争以来の大鑑巨砲主義の旧弊が支配した海軍

日本の大鑑巨砲主義という伝統は崩せず、開戦時の10名の艦隊長官のうち、4名が鉄砲屋(砲術出身)、4名が水雷屋、1名が航海屋、1名が航空屋だった。

唯一井上成実(しげよし)第4艦隊長官が昭和16年1月に「航空兵力の充実、海上護衛兵力の大増強、南方島嶼(とうしょ)の守備の強化」という正鵠を得た「新軍備計画論」を訴えたが、大鑑巨砲主義の主流派から無視される結果となった。


馬鹿の一つ覚えの艦隊決戦でのアウトレンジ戦法

日本の戦法は敵の射程距離外から砲撃して敵を撃滅するというアウトレンジ戦法で、これがため世界最大の46センチ主砲を持つ大和・武蔵を建造したものだ。

この巨大戦艦はパナマ運河を通行できないため、アメリカのように大西洋と太平洋両方に面している国は機動力が生かせないので、アメリカは同じサイズの戦艦をつくれないと見られていた。

そうすると大和・武蔵の46センチ砲はアメリカ戦艦の40センチ砲よりも射程距離が長く、それがためアウトレンジ戦法で勝利できるというシナリオだった。

しかしアウトレンジ戦法が度が過ぎて、射程距離を縮めて命中確率を上げようという積極性に欠け、レーダー測敵機もないので、遠距離から射撃しても非常に悪い命中率にとどまっていた。

たしか大和の大砲は小田原から撃って、東京に届くという話を聞いたことがある。射程距離は最大42キロだという。しかし、現実問題そんなに離れていては光学照準機では到底ねらえない。

戦争中の艦隊決戦の例では、昭和17年のジャワ沖海戦では、日本の重巡洋艦は敵の15センチ砲にまさる20センチ砲を持っていたので、アウトレンジ戦法で砲撃したが、数百発の20センチ砲弾のうち1発が敵に命中しただけだった。

次に戦艦2隻が36センチ砲を打ち込んだが、300発撃って一発も命中しなかった。

アッツ島ではまたもアウトレンジ戦法で、900発撃って5発しか命中しなかった。

昭和19年のレイテ沖海戦では、栗田艦隊の戦艦大和と長門が最初で最後の砲撃を敵艦隊に浴びせるが、大和は約100発、長門は45発撃ち、金剛、榛名がそれぞれ100発づつ撃ったにもかかわらず、敵駆逐艦を1隻沈め、1隻を大破させただけだった。

アメリカ側はレーダー測敵器があるので、照準は正確だったようだ。これが前記の表の圧倒的な日米の艦艇損失の差になるのだ。


不備だらけの日本海軍の戦務

戦務とは旧海軍用語で、索敵、偵察、海上輸送護衛、補給などの戦争するための諸準備のことである。

燃料は海軍は当初の2年分の燃料は備蓄して戦争に臨んだと言われているが、実際には開戦時の備蓄は600万トンだった。

必要な燃料量を年280万トンと見込んで戦争に突入したが、実際には年500万トン近くを消費し、南方などからの石油供給も海上輸送路を攻撃されて満足にできなかった。昭和17年後半以降は常に燃料に苦しめられることとなった。

燃料備蓄量以外にも、日本艦船は日本近海の艦隊決戦を想定して建造されているので、航続距離に問題があったという。

さらに問題なのは弾薬で、開戦時に艦艇に定数通りの量を配給したら、弾薬庫には25ミリ機銃弾がなくなり、その後も弾薬の不足は解消されなかった。

日本海軍の対空砲の弾薬定数は高角砲200発(約10分)、機銃1,500発(約10分)のみで、撃ち尽くしても補充は受けられなかった。

これも艦隊決戦で大砲には一門の大砲が発射する弾数に限度があるので(大口径砲では120発。それ以上だと大砲が焼き付いてしまう)、それと同じ考えを対空火器まで適用したことが問題だった。

この点では相当期日にわたる会戦を単位に弾薬を準備していた日本陸軍の方がましだったと千早さんは語る。


日本は潜水艦による近代戦を理解しなかった

日本の潜水艦戦略には通商破壊戦の考え方はなく、艦隊決戦のみを想定していた。それでも対潜水艦対策は皆無だった。

「享楽的で質実剛健に乏しい米人は、困苦欠乏をもっとも必要とする潜水艦の乗員には適しない。従って、米国潜水艦はあまり恐れる必要はないだろう」とたかをくくっていたという。

有名な米国海軍のフロスト中佐は逆に「潜水艦は米人の使用に好適の艦種である。なんとなれば、米人は敏活、果断、独創に富み、潜水艦の乗員に最適な性質を具備している。われわれ米国海軍軍人は、潜水艦戦において、世界いずれの海軍軍人も凌駕することができる」と語っているという。

まさに日本の見方と正反対だが、これが結果的に真実となった。前述の「日米主要艦の戦力推移表」でも、米国潜水艦に沈められた空母や戦艦が多いことがわかる。

排水量わずか2,000トン程度の潜水艦が、3−5万トンの戦艦や航空母艦を葬り去るのである。実に効率のよい戦いである。

ノックス米海軍長官は「日本は近代戦を理解しないか、あるいはまた近代戦に参加する資格がないか、いずれかである」と語っていたという。


海軍大学の画一的で時代遅れの教育

千早さんは昭和18年7月に海軍大学に入学し、9ヶ月で繰り上げ卒業している。卒業したときはギルバート、マーシャル諸島は敵手に落ち、ラバウルも秋風落莫の状態だったという。

明治につくられ、最終改訂が昭和9年の最高機密「海戦要務令」が絶対規範として生きていた。

これは艦隊決戦主義で、航空部隊も潜水艦部隊もそれを支援するという域を出ていなかった。もちろん通商破壊もなく、対潜水艦作戦もない。いかに日本海軍の用兵者の考えが硬直的だったかがわかる。

海軍大学の戦略、戦術の研究は机上演習に終始し、日米海軍の決戦を想定した自己満足のものだった。

決戦が起こるのか、決戦が起きたら戦争は終わるのか、負けたらどうなるのかといった問題はまじめに研究されなかった。

おまけに机上演習ではゼロ戦は1機でヘルキャット10機に相当するなどという、ありえない前提が演習統監により出されていたという。

千早さんは海軍大学で教育を受けた画一的なエリートが参謀なり司令官なりになって戦争を指導したことが、日本海軍の敗因であると推論している。

アメリカ軍は日本軍の敗因は、チームワークの欠如にあったと分析しているという。マクロ的かつ長期的な総合性と計画性を欠く日本人特有の結果に基づくのではないかと。

たしかにたまたま真珠湾で大勝利してしまったがゆえに、徹底性を欠く一般的な日本人の性格、オペレーションリサーチマインドというか、科学的な彼我の戦術の分析の欠如が、敗戦につながったことは否めないと思う。

いろいろな戦記もののタネ本ともなっている本で、昭和22年に最初の原稿が完成し、まだ戦争の記憶が生々しいなかで書かれたこの本は、冷静な分析と反省に満ちている。

プレジデント社から昨年末再度発売されたことでもあり、是非一度手にとって見て欲しい本である。


参考になれば投票ボタンをクリックしてください。



  
Posted by yaori at 03:36Comments(0)TrackBack(0)

2009年08月06日

座して平和は守れず 田母神さんの国防放談 

座して平和は守れず―田母神式リアル国防論座して平和は守れず―田母神式リアル国防論
著者:田母神 俊雄
販売元:幻冬舎
発売日:2009-05
おすすめ度:4.5
クチコミを見る


このブログでも紹介した「日本は侵略国家ではない」の著者、元航空幕僚長の田母神さんの国防論。

日本は「侵略国家」ではない!日本は「侵略国家」ではない!
著者:渡部 昇一
販売元:海竜社
発売日:2008-12
おすすめ度:3.5
クチコミを見る


本の帯に「世界はみんな腹黒い アメリカも国連も役立たず 日本も核武装すべきである」というような過激な言葉が載っているが、実はこの言葉がこの本の内容をよく言い表している。

「日本は侵略国家ではない」でも提案していたが、ドイツ、オランダ、イタリア、ベルギー、トルコの5カ国が導入しているニュークリアシェアリングやクラスター爆弾についての主張は、国防を考える上で検討すべき意見だと思う。

ちょうど広島、長崎の原爆投下記念日前後でもあり、オバマ大統領が言うように、核兵器廃絶は人類共通の願いであり、筆者もそれを切に望む。しかし、それに至るまでの現実的なプロセスとしては、田母神さんの言うニュークリアシェアリングの考え方も有効ではないかと思う。


クラスター爆弾廃棄の誤り

クラスター爆弾についてはオスロ・プロセスというNGO中心のグループと、穏健な特定通常兵器使用禁止制限条約派(Convention on Certain Conventional Weapons=CCWグループ)の二派があり、日本は元々CCWに入っていたのだが、外務省主導でオスロ・プロセスに加入した。これは大きな誤りだと田母神さんは語る。

条約発行後8年以内にクラスター爆弾を廃棄しなければならないが、アメリカもロシアも中国も韓国も禁止条約を受け入れていない。

対人地雷が禁止されて以降は、クラスター爆弾ほど海岸線の長い日本には有効な防衛武器はない。

航空自衛隊と陸上自衛隊は相当数のクラスター爆弾を保有している。日本にとってクラスター爆弾は国を守る上で不可欠であり、だから石川県の石川製作所で製造しているのだ。

すべて外務省主導で決めたことだが、クラスター爆弾を廃棄するだけでも多額の費用がかかり、どれだけのカネがムダになるのか試算もしなかったのではないかと。

爆弾は整備しなくても何十年も性能は保たれる。抑止力として持っているだけだから、使用しないという前提であれば非常にコストパフォーマンスは高い兵器なのだ。


このクラスター爆弾についての意見は、使わない兵器ー抑止力という意味では、有意義な議論だと思う。しかし、それ以外は田母神さんの性格なのだろう、あまりにも無防備な発言が目立つ。


陸上自衛隊は兵員を削減してF−22を持て!?

田母神さんの話は論理矛盾が多い。

たとえば日本の軍備は海軍に集中し、空母を持つべきで、陸上自衛隊は人数を削るべきだと言う。

その一方で、陸上自衛隊が反対するなら、予算は減らさずに、減員した上で陸上自衛隊でもF−22を2個中隊と空母2隻を持つべきだという。

そもそもF−22は超高性能のステルス戦闘機ではあるが、アメリカ政府自身も調達を止めることが決定した戦闘機である。最高の軍事技術が使われているので、F−22は輸出禁止だし、機密情報がジャジャ漏れの日本に将来も輸出されることはないだろう。

F-22








写真出典:以下明示ない限りWikipedia

日本の航空自衛隊はF−22が欲しくてたまらないようだが、当のアメリカでさえ調達を止めることを決定しているのに、まさに無い物ねだりとしか思えない。

1機200億円ともいわれる超高価な買い物な上に、以前も書いたように、いまさら飛行機に人間が乗って防衛する時代ではないのではないか?

このブログで紹介した「日本に足りない軍事力」で江畑謙介さんが書いていたように、軍事衛星、無人飛行機、無人超高高度飛行船などとパトリオットミサイルやSAMー3ミサイルを組み合わせた無人防衛網がこれからの方向ではないかと思う。

日本に足りない軍事力 (青春新書INTELLIGENCE)日本に足りない軍事力 (青春新書INTELLIGENCE)
著者:江畑 謙介
販売元:青春出版社
発売日:2008-09-02
おすすめ度:4.5
クチコミを見る


戦闘機を導入するにしても、多くの国の共同開発でコストが安く、様々なバリエーションがあるF−35や、ユーロファイターなどを検討すべきではないか?

F−35

F-35








ユーロファイター

ユーロファイター








ここまで書くにはF−22をもっと知らなければならないと思って、「F−22はなぜ最強といわれるのか」という本も読んだ。



たしかにF−22は様々な点で世界最高の戦闘機である。

・航空支配戦闘機(制空権を抑える)という新しいコンセプトを可能にする最高の軍事技術

・ステルス性 巨大な機体がレーダーにはなんと小鳥程度にしか映らないという

・搭載コンピューターの性能

・対巡航ミサイルも含めた多目標攻撃に適した統合火器統制システム

・フライバイワイヤーと呼ばれる最新のコンピューター飛行制御

・2基あるプラットアンドホイットニー製F−119エンジンの推力変向による超機動性

・燃費が悪いアフターバーナーなしでも超音速飛行ができる超音速巡航性(他の戦闘機はアフターバーナーという追加燃料噴射がないと超音速を出せない)

・すべての兵器を機体内部に格納できる徹底したステルスデザイン

対F−15,F−16,F−18などとの空戦シミュレーションで、144対0,241対2という圧倒的戦績を収めたことが、航空自衛隊がF−22に飛びついた理由なのだろうが、だからといって、いまさら人間が戦闘機を操縦して敵の航空機と空戦を行う時代でもないのではないか。

不用意な発言が目立つ本だけに、本音ともとれる発言が多い。

ジェット機はメインテナンスコストが大きい

田母神さんはジェット戦闘機はF−15でも1時間飛ばすと200万円かかり、燃料代は15%で、残り85%は部品代だと明かしている。飛行機はたとえば100時間で部品交換するなど予防整備を行っているのだという。

F−15で1時間200万円なら、もしF−22を買ったらその数倍はかかるだろう。

「ドイツ版最終決戦兵器」という本に、第2次世界大戦中に開発されたドイツの数々のジェット戦闘機やロケット戦闘機が紹介されているが、メッサーシュミットME262のジェットエンジンはたった50時間しか飛行できなかったという。

ドイツ版最終決戦兵器―連合軍を圧倒する恐るべき技術力の成果ドイツ版最終決戦兵器―連合軍を圧倒する恐るべき技術力の成果
著者:桜井 英樹
販売元:光人社
発売日:2002-11
おすすめ度:4.0
クチコミを見る


メッサーシュミットME262ジェット戦闘機

Messerschmitt_Me_262




筆者は昔特殊鋼、超耐熱合金に使うクロム、マンガンなどの原料を輸入していたので、ジェットエンジンの寿命という話もよくわかる。第2次世界大戦中には当時世界最高と言われたドイツの超合金技術でも、ジェットエンジン部品は50時間しかもたなかったのだ。たぶんニッケル、コバルトが手に入らなかったからだろう。ドイツはニッケルの代わりにマンガンを使っていたが、やはり同じ性能は出せなかったのだ。

消耗する部品を壊れる前にどんどん換える必要がある。昔も今もジェット戦闘機は整備が大変なのである。

またパイロットの肉体的負担も大きい。急上昇したりすると飛行中はMAX 9Gという大変なGがかかる。ジェット戦闘機の飛行時間は1時間から2時間、パイロットが第一線で飛ぶのは45歳が限界だと。


アメリカは最先端技術は日本には売らない

F−22を導入すべきという話と矛盾しているのが、この話だ。

日本のF−15は機体は同じだが、レーダーやソフトはアメリカのお古を押しつけられているという。

アメリカは自分のところで新しいものをつくって、旧型の部品が余ったところで日本韓国に売るのだと。

またアメリカから購入する飛行機には暗号キーが設定されており、アメリカ自身に向けて兵器が使われないようにコントロールしている。

たとえばイギリスがイラク戦争の時にSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)を発射しようとしたが、アメリカがGPSを使ってコントロールしていたので、発射できなかったという。

技術属国になった上で、高いものを買わされているのだと。

そこまでわかっているなら、F−22を買ったところで、最新鋭の航空・火器管制システムなどはついてこないだろう。

ナチスの幻の防空ロケット戦略

F−22の話が長くなったが、実は無人防衛網は別に新しいものではない。

ヒトラーお気に入りの建築家でナチスドイツの軍需相をつとめたアルベルト・シュペーアが「第三帝国の神殿にて」で書いている。

第三帝国の神殿にて〈上〉ナチス軍需相の証言 (中公文庫―BIBLIO20世紀)第三帝国の神殿にて〈上〉ナチス軍需相の証言 (中公文庫―BIBLIO20世紀)
著者:アルベルト シュペーア
販売元:中央公論新社
発売日:2001-07
おすすめ度:4.0
クチコミを見る


ドイツではメッサーシュミットME262ジェット戦闘機やV2弾道弾ミサイルが有名だが、シュペーアによるとジェット戦闘機以外にもリモコンで飛ぶ爆弾、ジェット機よりも速いロケット機、熱線追尾型ロケット弾、音響探知ホーミング魚雷、地対空ロケット弾の開発を1944年には終わっていたという。

ジェット戦闘機設計者のリピッシェは、当時の航空機製造の標準をはるかに超えるLi P13aなどのジェット機も開発していた。

リピッシュP13型機(模型)

800px-ModelPhoto_Lippisch_P13a_DM1




ところが開発計画が多すぎた。おまけにヒトラーは間違った優先順位を決定した。

せっかくのジェット機に爆弾を積ませてプロペラ機と変わらない速度の戦闘爆撃機としたことは有名だが、重さ3トンのV2ミサイルを月産900基生産させて英国に対して報復するつもりだった。

当時連合軍は平均4,100機の戦略爆撃機で、一日3,000トンの爆弾を降らせていたのに、一日30基のV2でたった24トンの爆薬をイギリスに投下することで報復しようというばかげた考えだったとシュペーアは語る。

地対空ロケット弾の代わりにヒトラーのV2生産の決定を支持したのはシュペーア自身の重大な誤りだったと語っている。

地対空ロケット弾はWasserfall(滝)と呼ばれ、ペーネミュンデロケット工場フォン・ブラウン博士の下で、大量生産できるほど十分に開発されていた。

長さ8メートルで、短波誘導で300キロの爆薬を高度1万5千メートルまでの敵機に命中させることができたという。

英語だがネットでWasserfallミサイルの情報があるので、紹介しておく。

wasserfall







出典:http://www.luft46.com/missile/wasserfl.html

ジェット機にはR4Mという直径わずか55ミリの空対空ロケット弾を開発していた。R4Mを24発搭載したME262は、1945年の2月の第4週だけで45機の戦略爆撃機と12機の戦闘機を撃墜したという。

r4ms








出典:Wikipedia

シュペーアは、月産900基のV2攻撃用大型ロケットの代わりに、費用の安い地対空ロケットを毎月数千基生産して、ジェット戦闘機と一緒に使えば、連合軍の戦略爆撃を崩壊させることができたろうと語っている。

仮定の話ではあるが、ありえないシナリオではなかったと思う。

閑話休題。


最高指揮官としての総理大臣の自覚欠如

この本は田母神さんの放談集の部分もある。

日本の総理大臣は最高指揮官としての自覚を持っていない。これは世界の標準から見て嘆かわしいことだと。

たとえば昨年9月の「自衛隊高級幹部会同」には全国から将官が集まり、最高指揮官たる総理大臣が訓示をすることが恒例となっているが、福田総理は辞任を表明したためか欠席した。士気が下がり、「こらっ、康夫!」と一喝したいくらいだったという。

文民統制が聞いてあきれると。

軍人は戦争をもっとも避けたがる人種であり、たとえばイラク戦争の時も、元軍人のパウエル国務長官は戦争に反対したがブッシュとチェイニーに押し切られたという。

ヒトラー、ムッソリーニ、毛沢東も皆文民だったと。

たしかに文民統制だから良いとかいった議論ではないかもしれないが、挙げる例が極端すぎないだろうか?

「世界があきれるほどスキだらけ、日本の国防」とは、この本の第1章のタイトルだが、意識も含めてたしかにその通りだと思う。


核戦力が最高の抑止力という現実

英国のサッチャー元首相の時に中距離核戦力が英国に配備され、イギリスに核兵器を置いたら攻撃の対象になるという意見が出たが、サッチャーは「日本がなぜ原子爆弾の攻撃を受けたか?それは、日本が原爆を持っていなかったからです。私は原爆のない世界よりは、原爆があっても平和な世界を選びます」と主張したという。

まさにこれが現実である。

核実験が成功した後の北朝鮮の強気の態度はまさにこの通りである。

核兵器を持った国同士が大規模な戦争をした例は一つもない。

サッチャーの言うように現代の防衛は抑止力を中心に考えるべきだろう。

田母神さんが「日本は侵略国家ではない」で主張していたニュークリアシェアリングも検討に値する提案だと思う。

現在はNATO五カ国で採用されているが、たとえば日米韓台の四カ国でニュークリアシェアリングは検討すべきではないかと思う。


北朝鮮のミサイルは脅威ではない

原爆さえ積んでいなければ北朝鮮のミサイルが運んでくる通常弾頭の弾薬量などたかが知れている。飛来したミサイルが身近に着弾する確率は交通事故に遭う確率よりもはるかに低い。

ミサイルの怖さで騒ぐなら、北朝鮮よりロシアや中国のミサイルの方がよほど怖いはずだと。


妄言のオンパレード

田母神さんはこんな事も書いている。

「アジア情勢や中国の情報に詳しいジャーナリスト・青木直人氏がブログに書いていますが、クリントン政権のとき、大統領夫妻は1980年代から1996年まで、中国共産党と人民解放軍のスパイ組織から繰り返し収賄をしていました」

とくにヒラリーはFBIが人民解放軍スパイ機関のエージェントだったと正式に認定されたバンク・オブ・チャイナ香港の副頭取だったジョン・ホアンから何回も収賄して、商務省の国際経済政策担当・次官補代理のポストを与えたという。

収賄などという重大な罪で、人を非難するならちゃんとした論拠を示す必要がある。フリージャーナリストの青木氏は中国通ということで有名なのかもしれないが、少なくとも筆者は初めて聞く名前だ。

筆者は米国に九年間駐在していたが、米国の公務員は20ドルを超える贈り物を受け取ることは禁止されている。そんな国の公務員に対して収賄していたなど、伝聞証拠でよくも言えるものだ。

それにしても、米人ジャーナリストを解放させるために北朝鮮を訪問した元大統領、妻は米国の国務長官を務めるクリントン夫妻が収賄していたというのなら、証拠を示さないと誰も相手にしない。

ジャーナリストがブログに書いたことを、そのまま真実だと思いこんで本に書いている田母神さんの無神経さはあまりにも危険だ。


石原慎太郎氏の発言?

田母神さんが石原慎太郎東京都知事と対談したときの話だという。

関連部分を引用すると:

「氏が以前アメリカの「湾岸戦争白書」のような資料を見たところ、そこには、

「我々はこの戦争で、日本の先端技術のおかげを被った。これは八万の兵士を送り、ともに血を流したイギリスの貢献よりも数十倍評価すべきだ」

と書いてあったというのです。

氏の説明によれば、ここで言う先端技術とは、ピンポイントミサイルの半導体で、バグダッド参謀本部の屋上の煙突から中に入り、内部で爆発したミサイルを指しています。…」

決めつけて申し訳ないが、もはや笑い話としか思えない。

こんなことアメリカが公式文書の中で、一緒にイラク戦争に出兵してくれて人的損害も被った英国に、口が裂けても言う訳がない。

石原氏でさえ「湾岸戦争白書のような資料」とはぐらかしているではないか。この爆弾が出てくるのは湾岸戦争ではなく、イラク戦争だろう。そんな白書はないのだ。

よしんばこの話が本当だったにしても、ミサイルの半導体はたしかに重要部品で必要不可欠な部品かもしれないが、巨大なミサイルという超音速飛行物体を、風があったり気圧が変わったりする自然条件のなかで、煙突の穴を通すような超高精度のコントロールを可能としたアメリカのGPSを使った遠隔精密操縦技術があくまで主役のはずだ。

さらに続けてFSXを採用するときも、アメリカはF−16をベースにした共同開発を押しつけた。自動車に続いて戦闘機でも、日本に追い抜かれることを警戒したのだと。

「アメリカにしてみれば太平洋戦争開戦の時の無敵のゼロ戦のトラウマがあるのではないか、という石原氏の洞察はさすがです。」

別にゼロ戦を貶めるつもりはないが、緒戦こそアメリカ軍はゼロ戦に手こずったが、アリューシャン列島でゼロ戦を捕獲すると徹底的に研究し、新型戦闘機や新戦法でゼロ戦を打ち負かした。特に戦争末期の最新鋭P−51マスタングにゼロ戦は全く歯が立たなかった。

P−51

784px-P-51H








アメリカにあるのはトラウマではなく、不屈の研究心ではないのか。


このブログはあらすじブログで書評ブログではない。

筆者は本の批判はしないポリシーだが、申し訳ないがこの田母神さんのノー天気ぶりにはあきれてものが言えない。

せっかく良い提案もあり、たぶん田母神さんは純な人であることは間違いないと思うが、本を書くのであれば、伝聞証拠に惑わされず、確実な情報と自らの徹底的な調査に基づいて発言して欲しいものである。


ともあれ参考になる本ではあった。


参考になれば投票ボタンをクリックして頂きたい。




  
Posted by yaori at 00:42Comments(0)TrackBack(0)

2009年06月17日

日本は侵略国家ではない 田母神論文を収録

日本は「侵略国家」ではない!日本は「侵略国家」ではない!
著者:渡部 昇一
販売元:海竜社
発売日:2008-12
おすすめ度:3.5
クチコミを見る


元航空自衛隊幕僚長田母神俊雄さんと、上智大学名誉教授渡部昇一さんの共著。

田母神さんは、昨年「日本は侵略国家であったのか」論文が、アパグループ代表、元谷外志雄さん主催の「真の近現代史観」論文コンテストで優勝したが、政府公式見解と異なる主張を公にした責任を問われて幕僚長を更迭された。

それからはマスコミにしばしば登場し、ひょうきんなキャラクターで人気となっている。

普通本を読む時には、著者の意見に同感できるか、新しい知識を得られないと良い本とは思わない。

その意味ではこの本はどちらも中途半端なので、おすすめはできないが、こんな意見の人もいて、たぶん主張には真実も含まれているのだろうとは思う。


信念の人 田母神さん

田母神さんは信念の人だと思う。

まだ現役だったころに中国に出張した時、日本は侵略国家だったという中国の軍人に対して、真っ向から日本は悪くないと反論したという。

それから日中防衛交流に影響が出る時期もあったが、しばらくしたら収まったという。


辞任の原因 村山談話からの乖離

平成7年の村山富市首相の、「戦後50年の終戦記念日にあたって」、いわゆる「村山談話」は次の通りだ。

「わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。

私は、未来に過ち無からしめんとするが故に、疑うべくもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め、ここにあらためて痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明致します。また、この歴史がもたらした内外すべての犠牲者に深い哀悼の念を捧げます。」

歴代首相は就任すると必ず、野党から「村山談話」を突きつけられ、踏襲するかどうか迫られる。まるで踏み絵だという。

麻生首相が「踏襲」(とうしゅう)を「ふしゅう」と読んでしまったため、マスコミの餌食になったが、麻生首相も例外ではなかった。


村山談話は言論弾圧の道具?

田母神さんは、前述の懸賞論文の件で航空幕僚長を解任された直後に、参議院の外交防衛委員会に参考人として招致された。

田母神さんの個人的な見解は封印され、文民統制違反としてやり玉に挙げられたという。

国会が終わったあと、田母神さんは「『村山談話』は原論弾圧の道具だ。自由な議論を追求することができないなら、日本は北朝鮮と同じだ」と記者に発言し、これまた火に油を注ぐ結果となる。


「日本は悪い国?」

「我が国は侵略国家であり、醜く悪い国」と表明する日本国とは、いったいどういう国なのかと田母神さんは語る。

田母神さんは、日本の戦後知識人が日本を「悪い国」にしたと語り、全面講和を主張した南原繁総長はスターリンの指示を受けて全面講和を貫いたとか、南原さんの後の矢内原忠雄総長は、戦前「神よ、日本を滅ぼしたまえ」という論文を書いており、一橋大学の都留重人名誉教授は、本物の共産党のスパイだったと言われているという。

こんな初めて聞く話がやたら出てくる。


日本のおわび外交は小和田恒さんから?

谷沢永一関西大学名誉教授は、日本がお詫び外交に変わったのは、昭和60年の皇太子妃雅子様の父君の小和田恒(ひさし)氏の、悪いのは日本だったという国会発言からだと語っていることを、渡部氏は紹介している。

国際司法裁判所所長の小和田恒氏は、東大の横田喜三郎教授(後に外務省顧問)の影響を受けているが、横田教授は、東京裁判を国際法上も有効で、アメリカの占領政策を擁護する発言をしていという。

前防衛大臣の石破茂氏は中国共産党系の新聞に、「靖国神社を参拝したこともないし、これからも絶対に参拝しない」、「大東亜戦争は日本の侵略戦争でした」、「南京大虐殺も事実です」などと答えており、売国的発言であると渡部氏は語る。

「日本は悪い国だった」と売国的発言をした当時現役防衛大臣の石破氏が追求されず、「日本はいい国だった」と正論を述べた田母神さんが更迭されるのは、どういうことだと。


航空自衛隊には最高の戦闘機が必要?

田母神さんの話で興味を惹くのは、「日本の航空自衛隊には、徹底的に世界最高の飛行機を与えなければなりません。そしてそれには、一番練度の高いパイロットがいなければなりません。空幕さえしっかりしていれば、敵は来ることができないのです。」という発言だ。

自衛隊は米国が機密が漏れるとして売りたがらないF−22が必要だと言いたいのだろう。以前も書いたが、いまさら人が飛行機に飛び乗って迎撃に行く時代なのだろうか?むしろミサイルや無人機・軍事衛星などの時代ではないのだろうか?

F-22






出典:Wikipedia

田母神さんは、戦前戦後を通じての航空のエース源田実さんの発言を引用して、零戦が勝てなくなって日本はダメになったので、終戦直前には最新鋭の「紫電改」を導入してアメリカ軍を苦しめたが、戦力集中でなく各地に戦力を散らばらせたので負けたのだと語っている。

ちなみに筆者は、ちばてつやさんのマンガ「紫電改のタカ」を子どもの頃読んでいたので、紫電改には親しみがあるが、実際は生産量も少なく、燃料も不足していたので到底戦局を変える力はなかったのが現実だ。

紫電改のタカ (4) (中公文庫―コミック版 (Cち1-4))紫電改のタカ (4) (中公文庫―コミック版 (Cち1-4))
著者:ちば てつや
販売元:中央公論新社
発売日:2006-07
クチコミを見る


800px-1-n1k1-f2






出典: Wikipedia


戦闘機さえ強ければ爆撃機は来られない。爆撃機が来られなければ、船も来られないのだと田母神さんは語っているが、およそあきれた話である。

第2次世界大戦は、石油確保とロジスティックス(兵站)が戦争に勝つための必須条件だという近代戦争の典型だと思う。

日本もドイツも戦闘機は残っていた。特にドイツは最新式のジェット戦闘機、ME262を2,000機以上も製造していたが、燃料が不足していたので、迎撃はおろかパイロットの訓練にも飛び立てず、連合軍の爆撃を許したのだ。

Messerschmitt_Me_262




出典: Wikipedia


紫電改も同じ事だ。全部で1,400機程度では数としても不足な上に、燃料がなくては、迎撃にも飛び立てない。


田母神論文

この本では問題になった田母神論文が原文で紹介されている。

渡部さんも書いているが、原稿用紙にすると18枚であり、これは論文ではなくエッセーである。

証拠も不十分で、言いっぱなしの感があり、論拠としてはきわめて薄弱と言わざるを得ない。

田母神論文の論点を抜き出すと。

★我が国は戦前中国大陸や朝鮮半島を侵略したと言われるが、実は日本軍のこれらの国に対する駐留は条約に基づいたものであることは意外に知られていない。

★日本は相手国の了承を得ないで一方的に軍を進めたことはない。(略)国際法上合法的に中国大陸に権益を得て、これを守るために条約に基づいて軍を配置したのである。

★この日本軍に対して蒋介石国民党は頻繁にテロ行為を繰り返す。邦人に対する大規模な暴行、惨殺事件も繰り返し発生する。(略)日本政府は辛抱強く和平を追求するが、その都度蒋介石に裏切られるのである。

★実は蒋介石はコミンテルンに動かされていた。(略)コミンテルンの目的は日本軍と国民党を戦わせ、両者を疲弊させ、最終的に毛沢東共産党に中国大陸を支配させることであった。

★我が国は蒋介石により日中戦争に引きずり込まれた被害者なのである。

★張作霖爆死事件もコミンテルンの仕業である。

★盧溝橋事件の仕掛け人は自分だと劉少奇自身が東京裁判中に語った。

★日本統治時代に満州の人口は1932年の3千万人が、1945年では5千万人、韓国は35年間で1千3百万人が、2千5百万人に倍増。日本統治時代は豊かで治安が良かった証拠である。

★朝鮮人出身の日本の将軍もいたし、朝鮮王室は日本の宮家となった。

★コミンテルンに動かされていたハリー・ホワイトがハル・ノートを書いた。

★日本はルーズベルトの仕掛けた罠にはまり真珠湾攻撃を決行した。

★日本があのとき大東亜戦争を戦わなければ、現在のような人種平等の世界が来るのがあと100年、200年遅れていたかもしれない。

★大東亜戦争を「あの愚劣な戦争」などという人がいる。戦争などしなくても今日の平和で豊かな社会が実現できたと思っているのだろう。

★今なお大東亜戦争で我が国の侵略がアジア諸国に耐え難い苦しみを与えたと思っている人が多い。しかし私たちは多くのアジア諸国が大東亜戦争を肯定的に評価していることを認識しておく必要がある。

★タイで、ビルマで、インドで、シンガポールで、インドネシアで、大東亜戦争を戦った日本の評価は高いのだ。そして日本軍に直接接していた人たちの多くは日本軍に高い評価を与え、日本軍を直接見ていない人たちが日本軍の残虐行為を吹聴している場合が多いことも知っておかなければならない。

★日本軍の軍紀が他国に比較して如何に厳正であったか多くの外国人の証言もある。我が国が侵略国家だったなどというのは正に濡れ衣である。

★日本は古い歴史と優れた伝統を持つ素晴らしい国なのだ。(略)嘘やねつ造は全く必要がない。個別事象に目を向ければ悪行と言われるものもあるだろう。それは現在の先進国の中でも暴行や殺人が起こるのと同じ事である。

★私たちは輝かしい日本の歴史を取り戻さなければならない。歴史を抹殺された国家は衰退の一途を辿るのみである。


「なんでもコミンテルン陰謀説」

それにしても田母神さんと渡部昇一さんの、いわば「なんでもコミンテルン陰謀説」には閉口する。

筆者が20年以上も前に当時はやっていた「なんでもユダヤ陰謀説」で大変な失敗をした経験があることは以前ブログで書いたが、今度は「なんでもコミンテルン陰謀説」である。

ユダヤが解ると世界が見えてくる―1990年「終年経済戦争」へのシナリオ (トクマブックス)
著者:宇野 正美
販売元:徳間書店
発売日:1986-05
おすすめ度:2.5
クチコミを見る


米国政府財務省高官にハリー・ホワイトというコミンテルンのスパイがいたのかも知れないが、それにしてもコーデル・ハルは以前から対日強硬派の急先鋒で、強硬な対日要求を最終決定したのはルーズベルトである。

今度紹介する「真珠湾の真実」を読むと、たしかに日米開戦は厭戦気分が大勢を占めるアメリカ国民を戦争に向かわせるためにルーズベルトが仕掛けた疑いが強いと思う。

真珠湾の真実 ― ルーズベルト欺瞞の日々真珠湾の真実 ― ルーズベルト欺瞞の日々
著者:ロバート・B・スティネット
販売元:文藝春秋
発売日:2001-06-26
おすすめ度:3.0
クチコミを見る



しかし日米関係を決定的に悪化させたのは、1940年9月の日独伊三国同盟だと思う。

米国が全体主義国のドイツ・イタリアを敵国とみなし、民主主義を守るためとして英国に武器を「駆逐艦・基地協定」を結んで供給し、1941年3月からはロシア、それに中国の蒋介石政権にも最新兵器をレンンドリース法で無償貸与していたのは周知の事実であり、独伊と同盟を結べば、英国を支援する米国とどういう関係になるのかは自明の理である。


1986年頃、「なんでもユダヤ陰謀説」の本は、ベストセラーになったが、今回の「なんでもコミンテルン陰謀説」の本もよく売れているようだ。

歴史を判断するには、前後の動きと力学を大局的に見なければならない。一面の真実が含まれているのかもしれないが、この本については筆者はあえて「なんでもコミンテルン陰謀説」とレッテルを貼らせてもらう。


これでは決して歴史学のメインストリームとはなり得ないだろう。それでも興味ある人にのみおすすめする。



参考になれば次クリック投票お願いします。



  
Posted by yaori at 00:03Comments(0)TrackBack(0)

2009年03月14日

日本に足りない軍事力 本当に有効な戦力とは何かを考えさせられる

日本に足りない軍事力 (青春新書INTELLIGENCE)日本に足りない軍事力 (青春新書INTELLIGENCE)
著者:江畑 謙介
販売元:青春出版社
発売日:2008-09-02
おすすめ度:3.5
クチコミを見る


テレビにもよく登場する軍事評論家江畑謙介さんの本。

来週北朝鮮が人工衛星打ち上げロケット(テポドン?)を発射すると発表しているが、テポドンが発射されたらミサイルで迎撃する可能性もあるので読んでみた。

この本では最新の軍事技術や武器の多くが写真入りで紹介されていて参考になる。

様々な角度から日本の軍事力を分析すると、軍事費の面では世界第3位かもしれないが、戦闘機や戦車、イージス艦など正面装備は世界トップクラスのものを装備していても、本当の戦闘能力、国としての脅威に対処する戦略という意味で日本には大きな問題があることがわかる。

国家の安全保障上の義務は、予想される脅威に備えることだが、日本は予想される脅威に準備をしていない点が多い。

たとえば北朝鮮の脅威は弾道ミサイルだが、日本は1993年のノドン発射自体も米軍から教えてもらって初めてわかったありさまで、1998年のテポドン発射まで日本の体制に大きな変わりはない。

米国からパトリオットミサイルと軍艦から発射するスタンダードSM−3ミサイルを整備して、今度は北朝鮮の弾道ミサイルは迎撃できると言っているが、はたしてそれができるのか。

弾道ミサイルの発射を監視し、早期発見する軍事衛星網はすべて米国に頼っている。2008年に宇宙基本法が成立したので、日本も早期警戒衛星を持つ道が開けたが、江畑さんは衛星でなくともたとえば無人飛行船でも早期警戒はできると語る。

巡航ミサイル防衛もできていない。

800px-Tomahawk_Block_IV_cruise_missile






トマホーク巡航ミサイル

出展:Wikipedia

北朝鮮がウクライナから巡航ミサイルを買って、核攻撃能力を備えたというのが、手嶋龍一さんの「ウルトラダラー」のストーリーだが、日本は超低空で飛行する巡航ミサイルの迎撃体制はない。

ウルトラ・ダラー (新潮文庫)ウルトラ・ダラー (新潮文庫)
著者:手嶋 龍一
販売元:新潮社
発売日:2007-11
おすすめ度:3.5
クチコミを見る


防衛庁は巡航ミサイル探知能力に優れるF−22導入を進めたい考えだが、巡航ミサイルを探知するために超高価でしかも米国が販売を許可しないF−22導入を考えるのは誤りだと江畑さんは指摘する。

F-22






出展:Wikipedia

早期警戒機や、早期探知気球など安価なソリューションが他にある。

日本には長距離地上攻撃能力も対地精密攻撃能力もない。北朝鮮の基地を叩こうといっても、どだい無理な相談なのである。

総合作戦能力もない。帝国陸軍、帝国海軍の連携の悪さを引きずり、陸上自衛隊のヘリコプターを船内に収納できる護衛艦はない。

専守防衛に反するとして、パワープロジェクション能力(短時間に兵員を投入できる能力)を整備していない。だから国際的な人道活動や平和維持軍などにも迅速に対応できない。

サイバー戦の準備も後手だ。2008年3月に自衛隊に「指揮通信システム隊」を発足させ、サイバー戦の準備を始めたが、中国などのサイバー攻撃に十分な防御ができるのかは疑問だ。

このような日本の軍事力の問題点がわかりやすく指摘されている。


最新の軍事技術

江畑さんが解説する最新の軍事技術で特筆すべきものを紹介しておく。

●飛躍的に上がった爆弾必中率

爆弾のCEP(半数必中率)はレーザー誘導と衛星誘導(GPS)の導入により飛躍的に向上している。たとえば1999年のユーゴ空爆ではGPS誘導爆弾のJDAMのCEPは実質3−4メートルになっているという。

これだけ必中率が上がると大型の爆弾を使用する必要はなく、小型の爆弾で良い。


●無人兵器の発達

ラスベガスの基地から誘導されてアフガニスタンやイラクで活躍しているプレデターは、トム・フリードマンの「フラット化する世界」でも紹介されていたが、これの改良型がリーバースカイ・ウォリアーだ。プレデターはヘルファイアーミサイルを搭載しており、リーバースカイ・ウォリアーは大型化され、ミサイルと爆弾まで搭載できる。

800px-080709-F-2511J-105






プレデター

出展:Wikipedia

800px-MQ-9_Reaper_taxis





リーパー(死に神の意味)

出展:Wikipedia

短距離空対地ミサイルの代表がヘルファイアーで、誘導装置も初期のレーザー誘導型から、ミサイル先端部分の誘導装置を交換すれば赤外線誘導型、ミリ波レーダーを使った画像認識誘導型にもできる。

Hellfire_AGM-114A_missile





ヘルファイアーミサイル

出展: Wikipedia

ヘルファイアーはイギリスで改良され、プリムストーンミサイルになった。射程が7キロから12キロに伸び、弾頭はタンデム型(2段型)で、爆発反応装甲(ERA)に対する破壊力が増大している。次の写真の戦車に煉瓦のように積まれているものがERAだ。

先端の弾頭で戦車のERAを爆発させ、防御能力を減衰させてから2段目の弾頭ば戦車の装甲を貫通して爆発するのだ。

ERA






爆発反応装甲(ERA)

出展: Wikipedia

ブリムストーンミサイルは目標の自動発見、捕捉、攻撃能力を持つので、ファイア・アンド・フォゲットの攻撃が可能で、敵のフレア(赤外線妨害弾)やチャフ(レーダー妨害材)がある環境でも的確に目標を捉え、攻撃できる能力が増している。

800px-Missile_MBDA_Brimstone






ブリムストーンミサイル

出展: Wikipedia

複数の目標にも1発ずつ個別に攻撃できるような誘導装置のアルゴリズムが開発され、一つの目標に複数のミサイルが命中するという無駄がなくなった。同志討ち防止や、家のような動かない目標は攻撃しないとか、水面上の船のような大きい目標のみ狙うとかといった設定もできる。

このような自律誘導型のミサイルを多数発射されると、地上部隊はよほど遠方から攻撃機を察知しないと、一方的にやられるままになるおそれがある。


●低コストで戦力アップーロケット弾のミサイル化

第2次世界大戦から使われてきたロケット弾も弾頭部にフィン付きのレーザー誘導装置やGSP誘導装置を取り付けると安価な精密誘導型ロケット弾になる。

自衛隊も持っているMLRS(多連装ロケット弾システム)の先端の弾頭を取り替えるだけで、小型精密ミサイルになり、射程が70キロと長いので”70キロ狙撃銃”に変身できるのだ。

Hydra_70_01






ハイドラ・ロケット弾

出展: Wikipedia


このように手持ちのロケット弾を精密ミサイルに安価に転換する武器が開発され、米軍が大量発注している。


●対レーダー兵器・無人兵器のない日本

日本の自衛隊ではARM(対レーダー攻撃ミサイル)ももっておらず、敵のレーダーを攻撃する兵器を持っていない。これでは危なくて航空機は戦場には近づけない。

これを見ても自衛隊は戦闘機や戦車、ミサイルなどの正面装備の調達には積極的だが、本当に有効な武器の調達には積極的でないと言わざるを得ない。

プレデターなどの無人兵器を展開するには、米国の様な陸軍・海軍・空軍が一体となった統合防御システムを構築する必要があり、これには多額の費用がかかることは間違いない。

しかし米国のソフトをライセンス導入するにしても、これらは日本企業で構築可能であり、今のような不況時にはF−22などに一機数百億円使うよりは、無人機による偵察・防衛システムを構築する方が景気対策にもなり、コスト的にも実効性の高い防御システムではないかと思う。

遠隔操作で操縦する操縦士の育成も必要だが、無人機の操縦士はジェットパイロットの様に身体も頑強である必要はないので、育成のコストも全然違うと思う。(もっとも無人機のパイロットは長時間勤務でメンタル面では結構つらいらしい


●サイバー戦争も現実化

1999年のユーゴ空爆では、実際には存在しないNATO軍機が到来するような偽の情報を米空軍はユーゴの防空システムに送り込み、別の方向から航空部隊を進入させたという。

この種のサイバー攻撃は、2007年のイスラエル軍がシリアの北朝鮮型黒鉛原子炉を爆撃する作戦でも、シリアの防空システムを無力化する手段の一つとして利用されたという。

2007年4月にはエストニアがサイバー攻撃にさらされ、約3週間政府機能や、銀行、携帯電話などのインフラが停止した。エストニアはE-stoninaと名乗るほど、国家としてIT化を進め、電子政府化でペーパーレスになっており、国政選挙にもネット投票が導入されているほど先進的だが、そのネットワークの脆弱部分が攻撃されてしまったという。


最新の軍事技術が写真入りで紹介されており、軍事予算が削減されている環境下で、各国とも低コストで有効な軍事力を備えるため、開発にしのぎを削っていることがよくわかる。

日本の自衛隊も安価で実効性の高い軍備を保有する必要があるのではないか。

日本の軍事力について考えさせられる本である。是非一度手にとってページをめくってみることをおすすめする。


参考になれば投票ボタンをクリックしてください。


  
Posted by yaori at 18:53Comments(1)TrackBack(1)

2008年10月02日

資源世界大戦が始まった 元NHK米総局長日高義樹さんの国際情勢分析

資源世界大戦が始まった―2015年日本の国家戦略資源世界大戦が始まった―2015年日本の国家戦略
著者:日高 義樹
販売元:ダイヤモンド社
発売日:2007-12-14
おすすめ度:4.0
クチコミを見る


元NHKアメリカ総局長で、在米30年あまり、現在はハーバード大学タウブマンセンター諮問委員、ハドソン研主任研究員を務める日高義樹さんの本。

筆者は日高さんの本を読むのは初めてだが、本屋に平積みになっていたので読んでみた。作家として活躍する元NHK手嶋龍一さんの先輩だ。


アマゾンのなか見検索に対応していないので、目次を紹介する。

序章   21世紀の新しい世界戦争が始まった

第1章  世界は変わる
 第1部 温暖化で北極圏の石油争奪戦が始まった
 第2部 核兵器のない新しい抑制戦略が出現した
 第3部 30億人の一大経済圏が世界を変えた
 第4部 アメリカでは十年後に新聞がなくなる
 第5部 アメリカと北朝鮮が国交を樹立する

第2章  日本は「世界の大国」になる
 第1部 日本は世界の一流国になった
 第2部 ロボットが日本経済をさらに強くする
 第3部 日本の軍事力は世界一流になった
 第4部 大国日本には影の部分がある
 第5部 日本の指導者が中国を恐れている

第3章  米中の兵器なき戦いが始まった
 第1部 アメリカは中国を抱き込む
 第2部 中国とは軍事衝突したくない
 第3部 中国の分裂を恐れている
 第4部 中国にアジアを独占させない
 第5部 いつまでだまし合いがつづくか

第4章  ロシアの石油戦略が日本を襲う
 第1部 プーチンは石油を政治的に使う
 第2部 プーチンはアメリカを憎んでいる
 第3部 プーチン大統領とは何者なのか
 第4部 プーチンのロシアは混乱する
 第5部 日本とロシアは対立する

第5章  石油高がドル体制を終焉させる
 第1部 石油の高値がドルを直撃する
 第2部 サウジアラビアがドル本位制をやめる
 第3部 ドル体制は追いつめられている
 第4部 アメリカはなぜ嫌われるのか
 第5部 ブッシュのあとドルはどうなる

第6章  「永田町」の時代は終わる
 第1部 日米軍事同盟は幻想だった
 第2部 日米関係はなぜ疎遠になったのか
 第3部 自民党は3つの党に分裂している
 第4部 民主党はなぜだめなのか
 第5部 永田町の時代は終わった

最終章  日本には三つの選択がある

タイトルだけ見ると長谷川慶太郎さんの本かと思う。結構過激な内容だということが推測できると思う。


日高さんはハドソン研の主任研究員

日高さんはハドソン研の主任研究員だ。ハドソン研といえば、ハーマン・カーン氏を思い出す。PHPの江口克彦さんの「成功の法則」という本に、松下幸之助から「「ハーマン・カーンて人知っているか?」と3回質問されたという話が載っていた。

成功の法則―松下幸之助はなぜ成功したのか (PHP文庫)成功の法則―松下幸之助はなぜ成功したのか (PHP文庫)
著者:江口 克彦
販売元:PHP研究所
発売日:2000-12
おすすめ度:5.0
クチコミを見る


毎月1回「日高義樹のワシントン・リポート」というテレビ東京の番組でアメリカの要人と対談しているので、相当な情報ソースがあるのだろうが、2007年12月の本ながら、アメリカの大統領候補はヒラリー・クリントンとジュリアーニと予想していたりして、予想がはずれて興ざめな部分もある。

もっとも当時は大半がそう予想していたので、日高さんの予想が外れても責められないが、本に書いてあると証拠が残るのでダメージが大きいと思う。

日高さんはキッシンジャーと親しい様だ。日高義樹のワシントン・リポートの正月特集は常にキッシンジャー氏との対談だそうである。

キッシンジャー博士がいつも言うことがある。「日本には世界に友人がいない。アメリカがたった一人の友人だ。」だと。

日高さんは正確には日本にはもう一人の友人がいると。それは台湾だと。


日本ではあまり報道されない世界の動き

ワシントン在住だけに、日本ではあまり報道されない世界の動きがわかって面白い。

たとえば北極海では地下資源の存在が噂されていることもあり、デンマークとカナダの間で紛争が起こっているとか、アラスカの地下資源は1兆ドルを超す資産価値があり、石油資源だけで6千億ドルを超えるとか、北極の氷が溶けて、海上輸送が可能となると東京から欧州への海上運賃は1/3になるとかだ。

日本人の核アレルギーを不必要に刺激するのではないかと思うが、トマホークの様な正確な通常兵器で核施設を攻撃すれば、核兵器で敵を攻撃するのと同じことになるので、核装備をするべきかどうかという議論は古くなりつつあるという。

だから日本にとって必要なことは正確な攻撃のできる通常ミサイルを持つことだという。

北極圏やアフリカなど資源を求めての競争が激しくなってきている。スーダンのダルフールが有名になったのは、独裁者が石油資源を抑えているからで、反対する部族を虐殺している。アメリカは独裁者の非人道的な政治に介入を続けているが、中国は独裁者を支援している。

これがウォレン・バフェットがペトロチャイナ株を持っていた時に非難されていた理由だ。

世界の石油生産量は1日8千万から9千万バレル。今後10年間で世界の石油需要は20%増えると見込まれているが、増産できるのは一部のOPEC諸国に限られる。

インドネシアは石油の輸入国となり、今年12月にOPECから脱退する。OPECは現在13ヶ国だが、新規加入候補はノルウェー、メキシコ、スーダン、ボリビア、シリアなどである。産油国も新顔が増えたものだ。


キャノン機関

日高さんはマッカーサーがつくった秘密組織のキャノン機関のヘッドだったキャノン中佐にインタビューしたことがあるという。

キャノン機関は新しくできたCIAとの抗争の末、権限を取り上げられ解散させられたが、全盛時は本郷の岩崎邸にオフィスを構え、占領時の様々な工作を担当していた。

そのキャノン中佐からアルバムを見せられ、「これは白洲次郎だ、われわれの活動にとって重要な人物だった。」と説明されたのだという。

白洲次郎 占領を背負った男白洲次郎 占領を背負った男
著者:北 康利
販売元:講談社
発売日:2005-07-22
おすすめ度:4.5
クチコミを見る


「いろんな政治家がやってきた。吉田茂も来ていた。彼は他の政治家や役人のように砂糖やバターが欲しいなどとは言わなかったがね」とキャノン氏は語っていたという。

キャノン機関と白洲次郎、日本の政治家がちがどう関わっていたのか資料があるわけではないが、写真を見る限り白洲次郎はキャノン機関の一員といってもおかしくない雰囲気であると。

日高さんはキャノン中佐が自殺した後、夫人からキャノン中佐のアルバムを貰ったという。戦争に敗れた日本がいかにみじめな存在であったか、日米友好の始まりがどういうものであったかを、日高さんはこのアルバムの中に見るという。

日高さんは当時(1981年頃)は白洲次郎を知らなかった由だが、思わぬ処から白洲次郎が出てきたものだ。


中国の指導者を支えるアメリカ政府

2007年にハドソン研究所で中国に関するセミナーが開かれたが、テーマは「中国には強い指導者が必要である」というものだったという。

2007年始め中国軍部は衛星攻撃ミサイルの実験を成功させて世界を驚かせたが、胡錦涛主席が全く知らされていなかったのは明らかであると。

アメリカ政府は胡錦涛主席の知らないところで、中国軍がアメリカに対立的な姿勢を強めているのではないかと疑っているという。

世界の景気が悪くなると中国はこれから失業者が増え続ける。

急激な経済拡大のひずみがひどくなると混乱が起き、中国に内乱でも起こると、混乱がロシアや朝鮮半島に波及し、アジア全体が収拾のつかない状態になることをアメリカは懸念しているという。

中国社会は依然として共産党と軍が動かしているが、経済発展で優秀な若者はビジネス分野に行き、人材が不足してきている。官僚と軍人の質が低下すると優秀な指導者は出てこなくなる。中国の指導者の力が弱くなっているのは、共産党や軍の衰退が原因だとアメリカの中国専門家は見ているという。

世界経済、米国経済の好況は中国経済の成長なくしては考えられないので、アメリカはなんとしても中国の崩壊を防がなければならない。アメリカ政府が中国との間に多くの問題を抱えていても、中国政府を非難せず中国の指導者を助けようとしているのは、ひとえに中国を混乱させたくないためだと日高さんは語る。

こうした状況は第二次世界大戦前のドイツの状況と似ていると日高さんは語る。当時のドイツは第一次世界大戦の敗戦後、経済が不振で失業者が増え、共産党が強くなりつつあった。

ヨーロッパの中心であるドイツが共産化すれば、ヨーロッパ全体が共産化してしまうと考えたアメリカの指導者は、共産党に対抗して登場したヒットラーを支援した。

歴史に明らかなようにヒットラーを強く支持したのは、ヘンリー・フォードやジョン・ロックフェラーであると。彼らはシーメンスやクルップなどの大企業と協力してヒットラーの台頭を助けたと日高さんは語る。

アメリカがヒットラーと戦いを始めたのは、日本がバールハーバーを攻撃したことがきっかけで、日独伊三国同盟に基づきドイツがアメリカに宣戦布告したからだ。

筆者は寡聞にして、フォードやロックフェラーがナチスを助けたとは知らなかったが、共産党の台頭を考えると当然の動きといえるかもしれない。ちなみにロックフェラー家はドイツ出身だ。

アメリカ経済は世界経済を拡大させることによって、自己増殖を続け、繁栄をつづけてきたという。だから中国の経済拡大を続けさせ、中国とうまくやっていくことが米国政府の基本政策なのだと。

アメリカの指導者は基本的には中国は本当の意味での脅威とは捉えていないという。

「われわれはあの強大なソビエトを軍事的に追いつめ屈服させた。中国のことなど心配していない」とアメリカ国防総省の幹部はよく言うという。

日高さんはこのアメリカ人の考え方と中国に対する評価が間違っていないことを望むと書いているが、筆者も日高さんに同感だ。このままでは行かないと思う。先週の「神舟7号」の宇宙遊泳の成功など、中国は米ソに対抗し着実に技術力を付けてきている。


ロシアのプーチン大統領はこき下ろし

プーチン大統領のロシアを日高さんはこき下ろしている。

暗殺されたアンナ・ポリトコフスカヤは「ロシアン・ダイアリー」に、プーチンが大統領に就任した直後に母親、父親、メンターが相次いで死亡したのは、「プーチンが自分の過去を消し去ろうとしたからだ」と書いているという。

ロシアン・ダイアリー―暗殺された女性記者の取材手帳ロシアン・ダイアリー―暗殺された女性記者の取材手帳
著者:アンナ・ポリトコフスカヤ
販売元:日本放送出版協会
発売日:2007-06
おすすめ度:5.0
クチコミを見る


本当にそうなのか今度「ロシアン・ダイアリー」を読んでみる。

KGB出身のプーチン大統領自身の経歴は不明だが、プーチンが大統領就任後KGBは復活している。プーチンは、核大国としてロシアをよみがえらせ、石油マネーを使って軍事力を強化している。

プーチンは資源が豊富な極東を手放さないし、北方領土も手放さないと。北極海の氷が溶け、本格的に航行可能になったら、ロシアは自国の権益を守るために日本をはじめ他の国と対決するに違いないと日高さんは予想している。ヒットラーと同じだと。


石油高がドル体制を終焉させる

アメリカ社会は安い石油を湯水のように使うことになれており、国民は貯金をすることが嫌いで、借金を重ねながら生活している。

今までは石油が安かったので、借金をしながらでも経済を拡大してきたから、世界の人もアメリカ経済の拡大を信じてアメリカに投資してきた。

ところが石油の高値によってインフレが起き、ドルが弱くなっては、アメリカ経済への信頼がゆらぎ、ドルへ体制を維持することができなくなってくる。

現在ではサウジアラビア、中国がドルペッグ制をとっており、日本もドルを支えているが、2007年9月のサウジアラビアの新聞にサウジアラビアはドル本位制から脱退するのではないかとの観測記事が出た。

ドルがユーロに対してあまりにも下落したことが原因である。

ブッシュ大統領の考えは極めて単純だという。

「ドルが強ければ世界中の人がアメリカに投資し、アメリカの株や土地が高くなる。土地や株が高くなればアメリカ人の資産が増える」

アメリカの民主党はドルを安くして輸出を増やしたいと考えている。アメリカの労働者の職を確保することを最も大事だと思っているからだと日高さんは語る。

このブログで紹介したルービン回顧録などにも書かれている通り、筆者は誰が大統領になろうとも、ドル体制の維持はアメリカの利益の源泉だと考えている。

今やドル紙幣10枚のうち7枚は海外で流通していると言われており、紙幣を印刷するだけで富がつくれる既得権をアメリカが逃すはずがないと思う。

そのためにスタンスとしてドル高維持は変わらないと見ているので、必ずしも日高さんの意見には同意しないが、誰が大統領になるのかの影響はあるだろう。


日米軍事同盟は幻想だった

日高さんはニクソン大統領からはじまる歴代の大統領、政府高官にインタビューしたが、彼らの答えは常に同じで、次の言葉を繰り返すのみだったという。

「日本はアメリカの重要な同盟国だ。日米安保条約はアメリカにとってかけがえのないものだ」

日米安全保障条約は片務条約で、アメリカの本音は「日本に勝った。アメリカは占領が終わっても基地を使い続けるぞ」というものであると。

日本も同様で、基地は提供しているが、アメリカを軍事的同盟国とは思っていない。アメリカ側も台湾問題でアメリカが中国と戦争を始めても、日本が参戦するとは思っていない。

日高さんは日米関係が疎遠になってきていると指摘するが、その最大の理由は日米安保条約なのだと。

安倍元首相や当時の麻生外務大臣が言い出した「戦後レジームの解体」という言葉に、アメリカは国家主義の台頭を感じ、敏感に反応しているのだという。

アメリカの指導者は中国についてしきりに言う言葉は、「中国は世界のステークホルダーである。中国と関わっていくのがアメリカの政策である」ということだ。

朝鮮半島や台湾で戦争でも起こらない限り、アメリカは中国と対決するつもりはなく、日本と共同で中国の脅威に対抗する気はないと日高さんは語る。

つまり日米とも本音は基地提供条約なのに、安保条約というから建前と本音の差が生じ、これが日米関係が疎遠になっている理由なのだと。

アメリカは中国がアジアの覇権を握るのには強い警戒心を持っているが、だからといって積極的に阻止するつもりはない。中国と友好関係を持つことが重要となっているのは間違いない。

長年の同盟国であるアメリカが、日本とともに中国の脅威に立ち向かってくれるというのは、幻想にすぎないと日高さんは語る。日米安保条約は崩壊寸前なのだと。


自民党と民主党

日高さんは自民党と民主党につき面白い見方している。自民党は小泉アメリカ党、安倍保守独立党、福田中国党の3つから成っている、アメリカのある学者の見方であると。

そうなると麻生新首相は安倍保守独立党の一員ということになると思う。

民主党がだめな理由は次の3つであると。

1,安易な移民政策 

移民を入れての治安悪化、社会不安、不法移民問題など、アメリカ、そして特にヨーロッパで起こっている問題を考えていない

2.老後資金を税金によってまかなうという考えから脱却できていない

そもそも年金をすべて税金でまかなうのであれば、北欧並の高税率が必要だし、国民の納得が必要だ。

アメリカではソーシャルセキュリティを払うが、払った額に応じた年金を受け取るシステムである。老後資金をすべて年金でまかなうという考えではないのだ。

3.国家は自らの力で自らを守るべきだという原則を全く理解していない

国連は紛争後の平和維持までが限界で、局地的紛争ならともかく、大きな紛争を武力をもって解決する力はない。何でもかんでも国連至上主義は誤りであると。


日本の3つの選択肢

最後に日本の3つの選択肢として次を挙げている。

1.憲法を変え、核兵器を持ち、経済力にみあう軍事力を保有して独立独歩で行く

軍事力によってアジアと世界情勢の方向を決める国際的な指導力を持つ。アジアを自らのやり方で動かし、世界に於ける日本の利益を確保する。

2.アメリカと対等の協力関係をつくりあげる 

上下関係のある安保体制をやめ、大国日本にふさわしい軍事力を持ち、国際社会における自己責任を全うする一方、民主主義と人道主義を広めるために、アメリカと協力体制をとり続ける

3.おんぶにだっこのアメリカがいなくなったら中国に頼るという、これまでと同じ外交姿勢をとり続ける

日高さんの意見は2.だ。

安保条約については、元外交官でノンフィクション作家の関榮次さんも「日英同盟」の中で、「日本国民が必ずしも納得しない米国の世界戦略に奉仕することを求められることもある現在の安保条約を、国民的論議も十分に尽くさないまま惰性的に継続することは、日米の真の友好を増進し、世界の平和と繁栄に資する道ではない」と語っている。

日高さんも同様の提言をしているが、これからの日本を考え、中国とアメリカの動きを見ていると、たしかに日米安保条約の継続について真剣に議論すべきだろうと筆者も考える。

日高さんはロシアはこき下ろしているが、筆者はプーチンロシアやEUの台頭は打ち手として使えるのではないかと思っている。

余談になるがF−22の輸入につき防衛庁の制服組が熱心なようだが、F−22でもF−35でも、もはや人が乗って敵戦闘機に対決して防衛する時代でもないのではないか?

潜水艦、無人機とミサイル防衛網で国を防衛すべきではないか?飛行機がいるにしても、せいぜい陸上支援用の軽装備のもので十分ではないか?

アメリカのオハイオ級最新鋭原子力潜水艦ミシガンは154発のトマホークミサイルを搭載しているという。

もし飛行機やミサイルで攻撃を受けた場合、人が戦闘機に乗って数分掛けて急上昇し、敵を見つけて迎撃したりするよりも、潜水艦や艦船からミサイルで迎撃するか、あるいは敵飛行機が飛び立った基地を、トマホークでボコボコにして無事に着地できなくして二度と飛び立てないようにしてしまう方が、よほど確実で効率的なのではないかと思う。

F-22は一機155億円もするという。トマホークミサイルは1発7千万円と言われている。どちらも国産したらもっと高いのだろうが、F-22一機でトマホークが200発買えるのだ。

ハリネズミのようになった国に戦争を仕掛けようと言う国もないはずだ。


在米30年以上ということで、日本人の感覚と違う点が目に付くが、拝聴すべき意見だと思う。

必ずしも日高さんの意見には賛成できない部分もあるが、日本の国家戦略についての議論は盛り上げていくべきであると思う。

国家戦略についての議論がないのが、今の政治に対する筆者の最大の不満であり、次の衆議院選を通して国民の中での本当の選択ができるようなマニフェストを見たいと思う。

そんなことを考えさせられる参考になる本だった。


参考になれば次クリック投票お願いします。




  
Posted by yaori at 13:22Comments(1)TrackBack(0)

2008年03月05日

爆笑問題の戦争論 日本の戦争をテーマにした漫才集

爆笑問題爆笑問題の戦争論―日本史原論


爆笑問題が日清戦争から太平洋戦争までの日本の戦争をネタにして演じた漫才集。

戦争として認識されている日清戦争日露戦争第1次世界大戦太平洋戦争の他に、山東出兵満州事変盧溝橋事件日独伊三国同盟も取り上げている。

戦争の史実を田中が説明し、太田光がボケをかまし、田中が突っ込むという漫才で、読んでいても面白い。

爆笑問題は、ほぼ15年前の人気番組タモリのスーパーボキャブラ天国のボキャブラヒットパレードの時から注目していた漫才コンビだ。

漫才コンビが或るキーワードでネタを競い合うヒットバレードで、才能を見せていたのが爆笑問題で、これと争っていたのがBOOMERX−GUN(ばつぐん、現丁半コロコロ)だった。

ネプチューンとか、くりいむしちゅうー(元海砂利水魚)、ロンブー1号、2号も出ていたが、ネタではあまり面白くなかったことを思い出す。

戦争を漫才のネタに取り上げた理由について、太田光は次のように説明している。

「”テロとの戦争”という戦争は確かにもう始まっていて、だとすれば、現在自分がいる場所は、戦場じゃないかと思ったということだ。そんな中で、日本の戦争というテーマは、漫才として”旬”であると感じたということだ。」

これを漫才にするとこんな感じになる:

田中…「しかし我々は昭和40年生まれで、戦争なんか全く知らない世代なんだけど、今の若い人にはかつて日本と米国が戦争したってこと自体知らない人がいるらしいよね。」

太田…「それどころか、坂東英二さんが野球選手だったってことを知らない奴もいるらしいからな。」

田中…「それはいたっていいよ!」


田中…「漫画でも昔は戦争をテーマにしてものがあったよね。「のらくろ」とか「はだしのゲン」とか。」

太田…「今の子供たちが読んでいるのは、「はだしの石田純一」だからな。」

田中…「そんな漫画ねえよ!どんな漫画だよ!」

太田…「焼け跡で、はだしに革靴の石田純一が長谷川理恵を捜して泣きながら走り回るんだよ。」

田中…「誰も読まねえよ、そんな漫画!………日本て国はかなり戦争してんだよね。開国してからずっと。色んな戦争を繰り返してここまできたのがよくわかるね。まずは日清戦争からはじまるんだけど。」

太田…「あれも、最初はアグネス・チャンと林真理子さんの喧嘩からはじまったんだよな。」

田中…「そんなわけねえだろ!どれだけ大規模にひろがっているんだよ、その喧嘩!その後、日露戦争に突入する。」

太田…「これはサッチーとミッチーの喧嘩が発端だよな。」

田中…「どっちがロシア人なんだよ!いい加減なこと言うな!その後、第一次世界大戦。そして最終的には第二次世界大戦。しかし今こうして振り返ってみると、この戦争は何て無謀な戦争だったんだろうって思うよね。アメリカをはじめとする、世界中の列強を敵に回したんだから、冷静に考えれば勝てるわけはないと思うんだけどね。」

太田…「オーストラリアにすら3対1で負けてんだからな。」

田中…「サッカーの話じゃねえんだよ。とにかくこの戦争で日本はこてんぱんにされて、東京大空襲によって東京は焼け野原にされた。」

田中…「戦争末期、国内の徴兵が限界に達すると、朝鮮兵、台湾兵は日本兵の弾よけとして戦場に投入された。また創氏改名といって民族の名前を取り上げられ日本名を名乗らされた。当時巨人のエースだったスタルヒンは”須田博”と改名させられた。」

田中…「日本人の中にはこれらのことが誇張された歴史だと主張する人もいる。でも、すべてがデタラメであるということはありえない。そう考えると中国の反日運動をはじめ、アジアの人々が日本を今でも恨んでいる理由がわかる気がするよね。」

太田…「そういえば最近、ユンソナの俺を見る目が冷たいんだよな。」

田中…「それは関係ねえよ!」


田中…「何よりひどいのは、沖縄県民は米軍に殺されたというだけでなく、その多くが日本軍によって虐殺されているということだ。日本軍は、隠れる壕の中が一杯になると民間人を追い出し、食料を強奪し、乳幼児が泣くと米軍に見つかるとして絞め殺し、米軍に投降した住民を裏切り者として後ろから撃ち殺したりした。味方であるはずの日本軍に殺された沖縄県民は800人以上になる。」

太田…「俺、今度SPEEDにあったら土下座してあやまるよ。」

田中…「意味ねえんだよ!」


やや偏った見方が気になる点はあるが、全体としては歴史を淡々と説明していてわかりやすい。

ちなみに沖縄戦の日本側戦死者は軍人約9万人、協力者を含めた沖縄住民9万人の合計19万人弱で、日本軍に虐殺された県民の人数の800人というのは疑問が残る数字ではある(少なすぎると思う)。

尚、米国側の戦死者は1万3千人弱だった。


太田…「これで、この「日本史原論・戦争編」も終わりってことだな。」

田中…「そうだね。ようやく終わったという感じがするよね。我々は漫才で戦争の歴史を追ったわけだけど、それだけでも、もう戦争はこりごりだという気分になるよね。」

太田…「次回からは、”第三次世界大戦編”をお送りします。」

田中…「もうやらねえよ!」


漫才なので、詳しく説明すると興ざめゆえ、この程度にしておくが、あえてこのようなシリアスなテーマに挑戦した爆笑問題の太田光にはエールを送りたい。

写真、統計、地図なども入って、資料としてもわかりやすい。

簡単に読めるので、一読をおすすめする。


参考になれば次クリックお願いします。


人気ブログバナー



  
Posted by yaori at 12:15Comments(0)TrackBack(0)

2007年09月28日

日本の防衛戦略 軍事評論家江畑謙介氏による防衛力分析

日本の防衛戦略
日本の防衛戦略


軍事評論家の江畑謙介氏による日本の防衛力の分析。豊富な資料・写真が載っていて、わかりやすい。


自衛隊の装備に対する考え方

自衛隊は導入の時には世界最高のモデルを求めるが、一度導入されると改良努力がほとんどなく、時代の変化にあわせて戦闘能力を強化し、抑止力を高めようという努力がほとんどなされていない。

一例として戦車が取り上げられている。

戦後初の国産戦車61式戦車は1961年(昭和36年)の配備後、アクティブ赤外線投影装置が一部戦車に追加された他は30年間ほとんどなにも改良がなされなかった。

ちなみにアクティブ赤外線投影装置は、今では自分の居場所を敵にあかすこととなるので、ほとんど自殺行為だ。

61式戦車は設計からして朝鮮戦争時代の90ミリ砲を搭載した車高の高い設計で、構想当時からソ連の中心戦車T−55の車高の低さと100ミリ砲に劣っていた。

さらに実戦配備直後にソ連は貫通力の高い115ミリ滑腔砲(かっこうほう)を搭載したT−62戦車を導入し、61式戦車はアウトレンジされることになった。途中で105ミリ砲に換装することも検討されたが、実施されなかった。

結局2世代あとの90式戦車で、120ミリ滑腔砲を導入してロシアの主力戦車と同等の装備となった。

90式戦車







写真出典:Wikipedia

さらに問題は射撃制御装置で、61式戦車はステレオ式光学式(要は幅1メートルの双眼望遠鏡?)のままで、その後中国軍も装備したレーザー測遠機すら装備せず、命中精度の改善はなされなかった。


RPG(携帯式ロケット砲)対策も不在

大砲の大きさも、射撃制御装置も湾岸戦争やイラク戦争の様な対戦車戦以外では致命的な差は出ないかもしれないが、近年では北朝鮮などのテロ勢力が日本に侵入し、戦車がそれを制圧するという局面は予想される。

このブログでも紹介した村上龍の「半島を出よ」が、まさにこのストーリーだ。

北朝鮮の不審船の乗組員が携帯式ロケット砲を、自衛隊の船に向けてぶっぱなした(命中はしなかったが)光景は、テレビで繰り返し報道されたので、記憶されている人も多いと思う。

ゲリラなども必ずといっていいほど携帯式ロケット砲を持っている。

RPG





写真出典:Wikipedia

そんなときには戦車の相手はRPGと呼ばれる携帯式対戦車ロケット砲となり、これに対する備えは装甲の強化が重要だ。

しかし自衛隊の戦車は61式戦車も、その次の74式戦車も他国のように装甲を増着して対RPG防御力を向上させる改良をしていない。

この手の装甲では、イスラエルなどの実戦経験豊富な軍隊の戦車に取り入れられているERAと呼ばれる爆発反応装甲や90式戦車に取り入れられた最新式のセラミックを取り入れた複合装甲などがある。

ロシア、イスラエルや米国の戦車の写真を見ると、やたらと箱が車体に貼り付けてあるが、これが増着装甲だ。不格好だが、重量をあまりふやさずに防御力の強化ができる点で実戦的だ。

ERA







写真出典:Wikipedia


日本の武器の欠点

この本では江畑さんの武器に関する深い造詣に基づき、興味深い事例がいくつも指摘されている。

・航空自衛隊の輸送機には、ミサイル誘導妨害装置がなかったので、イラク派遣が決まったときに急遽購入して付けた。スティンガーなどの携帯式対空ミサイルが普及しているので、誘導妨害装置は必須だ。

・北朝鮮の不審船対策で導入した はやぶさ型ミサイル艇や、水中翼ミサイル艇は、停船勧告に有効な遠隔操作の中口径機関砲がない。20MMバルカン砲は強力すぎ、76mm砲も船を沈めてしまう。

 12.7MM重機関銃は装備できるが、威力不足で、しかもマニュアル操作なので、敵の反撃に遭うと射手が危険にさらされる。

・水中翼艇は、荒れた海では停船ができない。つまり海が荒れると海上臨検とかはできない。

・日本では人的ロスを減らせる無人攻撃機や無人偵察機の導入は遅れている。米軍やイスラエル軍で重用されているプレデター等の無人偵察・攻撃機の導入はやっと2007年度からはじまる予定だ。


次期主力戦闘機F−X

日本の次期主力戦闘機F−Xについてもわかりやすく解説している。

米国議会の反対で購入できないでいるF−22はステルス性にすぐれ、技術的には最も優れているが、コストは一機450億円とも予想され、しかも日本でのライセンス生産はできずに全機輸入となる可能性が高い。

F-22







写真出典:Wikipedia

従いこんな巨額の費用を出すよりは、ステルス性等では劣るが、F−15の改良型で、F−22と同等の電子機器を搭載したF−15EXを、すでに日本にあるF−15生産ラインで生産する方が最も安い選択肢となると江畑さんは語っている。

NATOで採用されているユーロファイターは、コストも安く、NATO採用なので、米軍とのインターオペラビリティもすぐれている。

日本との共同開発にも乗り気といわれているので、F−Xの本命F−22が米国議会の反対で導入できなれければ候補として浮上してくる可能性もある。

ユーロファイター






写真出典:Wikipedia

ミサイル防衛戦略(BMD)

2006年10月の北朝鮮による核実験は初期爆発だけで核分裂の連鎖反応は起こらず、失敗だった可能性が強いが、それでも北朝鮮が核開発能力を持ったことは周辺国には脅威となる。

北朝鮮が核爆弾を持ったら、問題は運搬手段である。

北朝鮮はテポドンはじめミサイル発射実験を繰り返している。

北朝鮮が中国経由ウクライナ製の巡航ミサイルを購入した疑惑については、ジャーナリストの手嶋龍一さんの小説「ウルトラ・ダラー」にも描かれている。

江畑さんは、北朝鮮には巡航ミサイルを積む大型爆撃機がないし、たとえあっても大型機は日本のレーダーにも容易に捕捉されるので、やはり弾道ミサイルが最も可能性の高い運搬手段となるだろうと見ている。

弾道ミサイル防衛(BMD)の方法も興味深い。

旧ソ連の1960年代の初期のBMDは、落下してくる核弾頭を核爆発で誘発させるという方法で、実施されるとモスクワ市民の15%が死ぬという恐ろしいものだった。

これでは何のための防衛かわからないので、核弾頭を用いないで迎撃するシステムが湾岸戦争でも使われたパトリオットミサイルPAC−2だ。

しかしミサイルを打ち落としても、弾頭が落下して爆発すると被害が出るので、弾頭を無力化するために弾頭に命中させるパトリオットミサイルPACー3が開発され、日本でも米軍が沖縄にまず配備し、自衛隊は首都圏から配備している。

またイージス艦には、スタンダードミサイルSMー3という日米共同開発のミサイルが配備されており、これは北朝鮮のミサイルが発射されるのを感知して、すぐに迎撃する。

従い日本のBMDは、SM−3とPAC−3の2段階となっている。


この本は400ページの大作なので、詳しく紹介しているときりがないが、最後に最新の武器技術を紹介しておく。

兵器の進歩という意味で最も驚かされたのが、AGS=Advanced Gun Systemと呼ばれる米軍が開発中の軍艦の艦砲システムだ。

軍艦はもう旧時代の遺物だと思っていたが、AGSが配備されれば一挙にコストの安い最新鋭精密攻撃手段としてよみがえる。

YouTubeにもシミュレーション画像が載せられているが、従来15−30KM程度だった艦砲の射程を、GPS誘導やレーザー誘導装置を持つ精密誘導弾を発射するシステムに変えることによって70−180KMにまで拡大している。

精密誘導155ミリ砲弾で、移動中の車両一台一台でも砲撃できるという、恐るべく効率の良いシステムだ。

100キロ前後離れたところから発射された砲弾が、移動中の自動車まで正確に砲撃できるというまさに「天網恢々(てんもうかいかい)」の、天から降ってくる砲弾だ。

海上自衛隊でも島嶼(とうしょ)防衛用に艦載砲を積極活用する方法を研究、実用化すべきだろうと江畑さんは語っている。


豊富な軍事知識を元に、自衛隊と世界最新の軍備についてわかりやすく説明しており、参考になる。是非一読をおすすめする。


参考になれば次をクリックお願いします。


人気ブログバナー



  
Posted by yaori at 22:42Comments(0)TrackBack(0)

2007年07月22日

ウルトラ・ダラー 元NHKワシントン総局長手嶋龍一さんの小説

ウルトラ・ダラー (新潮文庫 て 1-5)


「インテリジェンス」で佐藤優氏と対談していた元NHKワシントン総局長手嶋龍一さんのサスペンス小説。

手嶋さんは9.11事件の時のNHKワシントン総局長だ。歌舞伎役者の様なハンサムフェイスを覚えている人も多いことだろう。

手嶋さんはこの小説の前にも、NHK在任中に、いくつか小説を書いている。

たとえば湾岸戦争の時に日本が金を130億ドルも出したのに、クウェート政府には公式に感謝されなかった「外交敗戦」や。

(筆者は当時米国に駐在していたのだが、ウォールストリートジャーナルの全面感謝広告で多くの国の名前が列挙されていたのに、日本の名前がなかったことを覚えている)

外交敗戦―130億ドルは砂に消えた (新潮文庫)


結局はアメリカのF-16をベースに改良することになったFSX(現F-2支援戦闘機)の小説、「ニッポンFSXを撃て」などだ。

たそがれゆく日米同盟―ニッポンFSXを撃て (新潮文庫)


これらの小説が認められ、ハーバード大学国際問題研究所にシニア・フェローとして招聘された経歴を持つ外交の専門家だ。

現在はNHKを退職して、外交ジャーナリスト、作家として活躍している。手嶋さん自身のオフィシャルサイトもあり、またウィキペディアでも紹介されているので、参照して欲しい。

小説のあらすじは細かく書かないのが筆者のポリシーなので、詳しくは本を手にとって見て頂きたいが、読んでいて手嶋さんの多方面にわたる知識の深さがよくわかり、またストーリーも面白い。

小説には初めから結末の構想が決まっていて書くものと、雑誌などの連載小説に多い、書き進めながら、なりゆきで結末を考えるものと2種類ある。

ウルトラ・ダラーは後者なのだと思う。

ストーリーは、北朝鮮関係のインテリジェンスがメインテーマで、日本人拉致問題、日本人印刷工拉致、偽ドル印刷、ドル紙幣へのRFID無線タグ埋め込み、核兵器開発、巡航ミサイル密輸、北朝鮮との交渉窓口ミスターXと外務省某局長の間柄など、息をもつかせない展開だ。

登場人物の設定も凝っている。

BBCの日本駐在員がイギリスインテリジェンス要員で、スーパーエージェントという設定だ。しかも自宅にL96A1狙撃銃まで隠し持っている。

細部の描写も手嶋さんの趣味の広さがよくわかる感心する描写だ。手嶋さんは「いいとこのボンボン」なのではないかと思わせる。

例えば、着物の話では:

「越後上布は手づみの上質な麻だけで織り上げますので、それはそれは贅沢な織物です。…北国の粉雪を思わせる白地に、青海波の絵絣(かすり)が織り出されている」

「琉球藍で染め上げた宮古上布はいかがでしょう。…おおぶりの葉が大胆にちりばめられた絣(かすり)もようだ」

という様な描写だ。

この他にも浮世絵、和楽、ファッション、レストラン、食事、食器、ギャンブル、競馬など、細部にこだわりの描写が続く。

もちろん内外政府のインテリジェンス組織、軍事知識は完璧だ。

ロマンスもサスペンスもある。若干終わり方が尻切れトンボ感があるが、こんな終わり方も「粋」なのかもしれない。

着想も面白く、手嶋さんの多趣味と博識にも驚かされる一冊である。


参考になれば次クリックと右のアンケートお願いします。


人気ブログバナー


  
Posted by yaori at 10:33Comments(0)

2007年06月13日

日本軍のインテリジェンス 論文としても一級で、かつ面白い

日本軍のインテリジェンス なぜ情報が活かされないのか (講談社選書メチエ 386)
日本軍のインテリジェンス なぜ情報が活かされないのか (講談社選書メチエ 386)


イギリス政治外交史とインテリジェンス研究が専門の防衛省防衛研究所戦史部教官小谷賢さんの旧日本軍のインテリジェンスに関する研究。

関榮次さんのMr. Ferguson's Tea-setを読んでインテリジェンスについて興味を持ったので、読んでみた。

Mrs Ferguson's Tea-Set, Japan, and The Second World War: The Global Consequences Following Germany's Sinking of The SS Automedon in 1940
Mrs Ferguson's Tea-Set, Japan, and The Second World War: The Global Consequences Following Germany's Sinking of The SS Automedon in 1940


出典などを記した註だけでも460もあり、研究論文としても一級のものだと思うが、内容的にも一般にはあまり知られていない事実を明らかにしており、非常に面白い。

ウィキペディアでも防衛研究所は詳しく紹介されている。

旧日本軍に関する情報は終戦の時に、大半が焼き捨てられているので、直接の資料が少なく、関係者の回想録とかインタビューなどが中心だ。日露戦争や第1次世界大戦の時までの資料はそろっているが、太平洋戦争の資料となると極端に限られていると言われている。

社会の関心が低いことも資料が散逸している根本原因の一つだ。

しかし小谷さんはそんな話をインテリジェンス研究の泰斗ケンブリッジ大学のクリストファー・アンドリュー教授にしたら、次の様にしかられたという。

「けしからん!資料が少ないからといって言い訳などしてはならない。イギリスのインテリジェンス研究にしても、一昔前まではほとんど公開されている史料などなあったが、それでも私はやってきた。それに史料が少ないのはインテリジェンス研究に限ったことではない。例えば中世史の研究を見たまえ。史料が少ないという理由で歴史が記されなかったことがあるかね。あなたの言っていることは研究者の怠慢に過ぎない。」

小谷さんはこの言葉に反省するのみならず感銘を受け、防衛研究所勤務という恵まれたポジションを利用して、旧日本軍のインテリジェンス研究に精を出すことになる。

このクリストファー・アンドリュー教授は、「インフォメーションとインテリジェンスを厳密に分けるのは英語に特有である」と語っており、アングロサクソン特有の情報に対する鋭敏なセンスが現れている。

事実英国ではベスト・アンド・ブライテスト(最優秀)な学生が、インテリジェンスコミュニティにリクルートされているという。

それに対して日本は、最近でこそ佐藤優さんの登場で、インテリジェンスに関心が高まっているが、一般的には関心は低く、特に戦前のインテリジェンスの包括的な考察はなされていない。

歴史を振り返ることは重要で、これが小谷さんが旧日本軍のインテリジェンスを研究する理由だ。


進んでいた旧日本軍の情報収集

太平洋戦争の敗因の一つ日本軍の暗号が米軍に解読されていたことがしばしば挙げられる。たとえばミッドウェー海戦や、山本五十六元帥機の撃墜だ。

しかし小谷さんは、日本陸軍も同様に連合国側の暗号を解読していたと指摘する。問題は情報部が得た情報はセクショナリズムから作戦部に生かされず、さらに陸軍が暗号を解読していたことを1945年まで海軍は知らなかったというありさまだ。

旧陸軍の中央特情部の人員は1945年には1,000名を超え、数学、語学専門の学生を集め、IBM製の統計機を用いていたという。陸軍の機密費の年間の予算は1945年には現在の価値で3,200億円にも増加していた。

ところが旧陸軍の関心は仮想敵国のソ連、中国情報活動であり、ガダルカナル島で敗北した1943年から対米情報活動に注力するようになった。

米軍の最も高度なスプリット暗号も、旧陸軍は解読に成功していたが、時既に遅かった。

対ソ連ではスパイ活動を積極的に行っていたが、対米では人的情報は限られており、新聞などの公開情報が中心で、量的にも不足していた。

ちなみに対米情報活動に当たっていたのが、娘の名前マリコを開戦の暗号としたことで知られる外務省の寺崎英成一等書記官である。

マリコ (1980年)
マリコ (1980年)



防諜の不徹底

陸軍に比べると海軍の情報活動は規模的にも小さく、しかも防諜活動は積極的でなく、情報漏洩が重大な敗因の一つとなっていた。

すでに開戦直後の1942年1月にオーストラリア沖で撃沈された伊号124号潜水艦から暗号が連合国側にわたったのではないかという不安がありながら、なんの対策を講じることもなく、これがミッドウェー海戦の敗北や山本五十六元帥機撃墜につながった。

さらに1944年には海軍飛行艇がフィリピンのセブ島で遭難し、防水の書類ケースに収められた海軍の暗号書と対米作戦計画が米軍にわたった。

米軍は潜水艦でオーストラリアに運び複写した後に、飛行艇の不時着した付近に書類を戻し、日本側に発見させるという手の込んだ諜報作戦を行っている。

海軍は海軍高官が虜囚の辱めを受けたのではないかという調査に終始し、暗号が敵にわたった可能性については配慮されず、米軍の思うつぼにはまった。


陸海軍に於ける情報部の軽視

陸海軍では伝統的に作戦部に最優秀の人材が配置され、情報部の人材は劣るという意識が強かった。さらに石原完爾少将が参謀本部第一作戦部長となった1937年頃からは、作戦部が情報部を無視して自らの情報源と判断で作戦を進めるようになる。

自らの目的にあった情報収集、分析をしてしまうので、客観的な状況把握ができなくなり、太平洋戦争中に問題が続出する。

たとえば1944年の台湾沖航空戦による空母19隻撃破という戦果誤認が(実際には撃沈した空母はゼロ)、レイテ沖海戦で日本海軍が壊滅的な打撃を受けることになる。

搭乗員が未熟で正確な戦果確認ができなかったので、撃破したはずの空母がすべて健在だったのである。


当初の海軍の対米分析は正しかった

開戦直前の日本海軍の陣容は、戦艦10隻、空母10隻、巡洋艦28隻、駆逐艦112隻、潜水艦65隻、(合計98万トン)、航空機3,300機というものだった。

これに対して日本側が算出した米国海軍の戦力は戦艦17隻、空母10隻、巡洋艦37隻、駆逐艦172隻、潜水艦111隻(合計140万トン)、航空機5,500機となり、日本海軍は約7割の戦力を有していた。

7割ならランチェスター法則により、日本海軍は米海軍と互角に戦えると試算していた。

しかし彼我の生産能力の差で、1943年には日本の戦力は5割程度になると予想され、1944年には航空機の差は日本の1万5千機に対し、米国10万機と圧倒的な差となるので、戦争を仕掛けるなら1941年で、最初の1年間は互角に戦えるが、それ以降は見通しがつかないものであった。


3国同盟にいたる情勢判断

1940年夏のドイツによるフランス降伏に次ぎ、イギリスの陥落も時間の問題の様に思われて、「バスに乗り遅れるな」という南進論の元、日本は三国同盟締結に向かう。

しかし、その重大局面で、情報部は呼ばれておらず、ドイツの英本土侵攻は困難という在英武官や、ストックホルム武官、海軍情報部の主張は、親独派の大島浩駐独大使らの意見にかき消されてしまう。

当時の外務大臣松岡洋右は、日英同盟時代からの縁で近日感のあったチャーチルが戦争は不利益をもたらすという親書を出してきたにもかかわらず、無視して、ソ連も入れた4国同盟というありえない野望を抱き、3国同盟を結ぶ。

チャーチルの警告とは次のような内容だ:

「ドイツが制空権を奪えない状態で、ドイツのイギリス本土侵攻はありえない。イギリス空軍は1941年の終わりにはドイツ空軍を凌駕する。また年間9,000万トンもの鉄を生産している米英両国に対して、年産700万トンの日本がどうやって戦うのでしょう?」

今更ながらに当たり前の議論である。



総力戦研究所

さらに驚くのが太平洋戦争のシミュレーションを戦争直前に行った総力戦研究所のレポートだ。

総力戦研究所とは1941年に陸海軍や官庁から当時の若手官僚35名を集め、日本が直面するであろう総力戦について研究するために内閣直属の組織として設置された研究所である。

その図上演習の結果は、日本は当初2年間は戦えるが、4年後には国力を使い果たし、最後にはソ連が日ソ中立条約を破棄して満州に侵入し、日本が敗北するという見事な予想であった。

これを近衛内閣の政府関係者列席の元に披露した際には、東条英機陸相は「日露戦争でも勝てるとは思わなかったが勝った。机上の空論と言わないとしても、意外裡の要素を考慮したものでない」と切り捨てている。

このような戦力分析に基づく冷静な判断でなく、主観的判断とアメリカは他民族国家なので、いざ戦争になると世論が分かれる等の思いこみで、戦争に走った当時の日本の指導者の愚かさが浮き彫りになる。


日本軍のインテリジェンスの問題点

小谷さんは次が日本軍のインテリジェンスの問題点であると指摘する。

1.情報部の立場の弱さ
2.情報集約機関の不在
3.近視眼的な情報運用
4.リクアイアメント(根本戦略)の不在
5.防諜の不徹底

この本全体を通じて、上記の問題点がわかりやすく説明されている。

知識としても、たとえばウルトラ情報(英国によるドイツエニグマ暗号の解読成功。これがため第2次世界大戦の終結が2年は早まったといわれているほど重要な出来事だ)とか参考になる。

論文としても一級であり、読み物としても面白い。おすすめできる旧日本軍のインテリジェンス研究だ。


参考になれば次クリックと右のアンケートお願いします。


人気ブログバナー




  
Posted by yaori at 23:35Comments(0)TrackBack(0)

2007年03月24日

北方領土 特命交渉 鈴木宗男と佐藤優の対談集

北方領土「特命交渉」


筆者が最近注目している佐藤優(まさる)元外務省主任分析官と、佐藤氏が師事する鈴木宗男新党大地代表の対談集。

北方領土問題解決の為に努力してきた鈴木・佐藤コンビが、現在の日ロ外交の膠着状態を嘆いてのいわば告発本である。

この本に登場する日ロの政治家はもちろん、外務省幹部までが写真入りで紹介されているので、こんな人が交渉しているのかと、イメージがわいて面白い。


1998年の川奈会談の橋本秘密提案

まずは1998年のエリツィン大統領・橋本首相の川奈会談の重要性から始まる。会談の中で、橋本総理が出した秘密提案が北方領土問題解決に向け大きく前進させる内容だった。

この内容は公表されていないが、鈴木宗男氏は橋本総理の特命を受けていたので、この内容を知らされていたのだと。

橋本提案にエリツィン大統領は「リュウからとても興味深い提案があった、私は楽観的だ」と語るほど、北方領土問題は解決に近づいていた。

しかし、会談の席で同席したヤストロジェムスキー報道官が口を挟み、日本側が今一歩踏み込めなかったことで、歴史的合意にはならなかった。


日ロ中のパワーゲーム

1990年代末のロシアは旧ワルシャワ条約機構国が続々NATOに加盟し、アメリカ・ヨーロッパの西側諸国から圧迫されていたので、日本の橋本首相の親ロシア政策に敏感に反応したのだ。

橋本首相は、中国の台頭を予想し、中国と適切なゲームのルールを持つためにもロシアカードを対中牽制に用いることが必要だと考えていた。見事な戦略である。

橋本首相は、消費税増税後、参議院選で自民党が敗北した責任を取って首相を退任したが、その後を継いだ小渕首相も対ロ交渉には力を入れていた。

また森首相もロシア外交は得意だった。ところが小泉内閣となり、田中外相の登場で外務省は機能停止に追い込まれ、ロシア外交は全くの手詰まりで、これが中国、韓国、北朝鮮に対する外交にも大きく影響していると佐藤氏・鈴木氏は指摘する。


北方領土問題はスターリン主義の残滓

鈴木氏は、歴史を振り返った時、ロシアの国民を日ソ中立条約を破って日本に侵攻してきたならず者だとは考えてはいけないと語る。

それはスターリンという恐ろしい独裁者がいた共産主義国だったからであり、ロシア国民もスターリン主義の犠牲者なのであると。

ソ連とロシアでは外交は連続しておらず、日ロの問題はスターリン主義の残滓であるという認識をエリツィン大統領も持っていた。

鈴木氏はエリツィン大統領の側近のブルブリス国務長官(現連邦院議員)と親しくなり、ブルブリス氏は北方四島返還は、スターリン主義の残滓と決別しようとしているロシアの国益にも適うと語ったという。


島は返還寸前だった

そんな布石作りの後に川奈会談が行われた訳で、これがこの本の帯でいう「島は返還寸前だった」という理由だ。

これには伏線があり、1992年にロシア外務次官のクナッゼが北方領土問題解決のために秘密提案を出している。内容は明らかにされていないが、ロシア側が譲歩した提案だった。しかし日本側はロシアの経済が弱いから弱腰の交渉をしてきたと、高飛車に出て結局チャンスを逸してしまう。

佐藤氏は経済が良くても悪くても領土問題を前進させる知恵をだすのが、外務省の仕事で、電力やハコモノ援助で引きつけるとか、北方領土をアイヌ民族の土地とするとか、知恵を絞る必要があると語る。外務官僚の頭が弱いことが問題だと語る。

その後、小泉首相以降、日本側は「日ロ外交の最大の問題はスターリン主義の残滓だ」ということを発言しなくなり、根元的歴史認識が欠落し、それゆえ正しい外交戦略をとることができないのだと佐藤氏は分析する。

そして鈴木氏や当時の外務省の東郷氏や丹羽氏などロシアスクールは2+2返還論を曲解されて、「二島返還論の売国奴」としてパージされてしまう。


日本独自の外交政策

対ロシア外交を有利に展開するために、日本は独自の情報ルートを持って、英米とは異なる立場を取ってきた。その具体例がチェチェン問題だ。

チェチェン問題はロシアの内政問題とすることで、人権問題として取り上げようとする英米とは一線を画し、ロシアの対テロリズムの戦いを助けようというものだ。

ところが小渕内閣で、外務大臣が高村氏から人権派の河野洋平氏に代わったときに、外務省は米英と協調して、チェチェン問題を人権問題としてとらえようとした。

そのとき鈴木氏が、外務省の総合政策局長だった竹内行夫氏(後の外務次官)を厳しく問いただした経緯がある。これを竹内氏は根に持って、その後、鈴木氏追放を画策することになる。


鈴木氏の特命交渉

森総理はロシアとの関係が深いことから、プーチン大統領との関係つくりに積極的で、鈴木氏にプーチン大統領と一番近い人間を探し当てるように特命する。

但しこの特命については、森総理は外務省では秘密が守れないとして、一部の幹部を除いては外務省には極秘としてくれという条件だったという。

そこで鈴木氏はセルゲイ・イワノフ国防相が側近中の側近であることをつきとめ、正規の外務省ルートとは別の、鈴木ーイワノフというチャンネルができる。

これが外務省でつんぼ桟敷に置かれていた一派による鈴木追放の動きにつながる。


手詰まりの対ロシア外交

2005年11月のプーチン訪日で、北方領土問題に関する合意文書ができなかったことで、今後手ぶらで訪日しても良いのだという前例ができていまった。

プーチン訪日を担当した外務省の首脳はみんな田がつく名前なので、鈴木氏は悪のサンタの歴史的大失態と呼んでいる。

2000年前後に平和条約締結に向けて動いていた日ロ関係は、今や有効な打開策もなく、みずからイニシアティブを取って解決しようとするリーダーも不在で、手詰まりとなっている。

しかしこの本で指摘されている様に、日本が独自の外交戦略を持ち、日ロ中韓のパワーバランスのなかで、日ロ関係を良好なものに保てば、必ずや中韓のみならず、米国ともわたりあえる外交ポジションを保つことは可能だろう。

また対北朝鮮交渉にも、日ロ関係の改善は大きな影響があるだろう。

そんなダイナミックな外交こそ、日本がめざすべきものではないか。

そんなことを考えさせられる本だった。一読をおすすめする。


参考になれば次クリックと右のアンケートお願いします。


人気ブログバナー










  
Posted by yaori at 03:05Comments(0)TrackBack(0)

2006年06月05日

中国は日本を併合する センセーショナルなタイトルだが内容は真剣だ

中国は日本を併合する


扇情的なタイトルが目を引く。防衛庁防衛研究所に20年間勤務し、その後杏林大学教授を務めた平松茂雄氏が著者だ。

正直言って本のタイトルがけしからんので、頭に来て読んだというのがホンネだが、本の内容は真剣だ。

『併合』という言葉を使うと、領土として組み入れられるという印象があるが、中国が世界、少なくともアジアの中心となり、日本は手も足もでない状態に追い込まれつつあると平松さんは指摘する。

本の帯に「櫻井よしこ氏推薦」、「数十年にわたって中国情報を収集、分析した本書は私たちに衝撃の事実を突きつける。中華大帝国の再現と日本併合を最終目的とする中国の企みの実態、全国民必読の書である」とある。

たしかにこの本を読んで、中国の最近の一連の動きを全体として見ると、中国は戦わずして、日本を政治・経済圏に取り込むべく着々と準備をしていると考えるのが適当かもしれない。

一連の行動とは;
東シナ海での海上ガス・石油田開発
海洋調査船の日本近辺調査
中国原子力潜水艦の日本領海侵犯
南シナ海でのミスチーフ環礁の領土化
台湾との関係
宇宙開発を通してのロケット制御技術=核ミサイル技術向上
等である。


『長征精神』遠大な中国の核戦略

平松さんは中国の戦略は、すべて遠大なビジョンをベースとする『長征精神』に基づいてのものであると指摘する。

『国家意思』のあり過ぎる中国、なさ過ぎる日本なのだと。

長征とは国民党の蒋介石から圧迫されて、中国共産党軍が1934年から1年掛けて本拠を陜西省の延安に移すまで移動した大移動だが、中国では新しい困難な課題に取り組むときは必ず、この『長征精神』が強調される。

中国は長期的な国家戦略を元に動いており、1958年の台湾との金門島砲撃事件のあと、1959年にソ連が中国に対する核技術供与をやめたときに、毛沢東は「1万年掛かっても原爆をつくる」と語ったほどだ。

フルシチョフは毛沢東の「原爆で中国の半分の3億人が死んでも、残り3億人が生き残り、何年か経てば6億人となり、もっと多くなる」という発言に驚き、非人間的な野獣の考えであると激しく非難したと言われる。

毛沢東は1950年に朝鮮戦争に参戦し300万人の軍隊を送ったほか、1958年に金門島を砲撃する等、多くの犠牲者を出す熱い戦争をしており、毛沢東の中国が原爆を持ったら、世界大戦がはじまっていたかもしれない。

毛沢東は「他人の侮り(あなどり)を受けない」ことをモットーにソ連の核の傘の下に入ることを拒否した。

結局中国は核兵器を自力で開発し、1980年代までに大陸間弾道ミサイル、複数弾頭ミサイル、潜水艦からの弾道ミサイル水中発射、静止衛星打ち上げのすべてに成功した。

その間に米ロの核兵器は小型・移動式、命中精度向上、多弾頭化など、中国の核兵器よりさらに進歩したが、1990年代以降はむしろ核兵器廃棄に進んでおり、今や中国は米ロの2大大国と張り合える核戦力を保有すると言える。


中国の東シナ海資源戦略

日本と中国の間の国境・経済問題は尖閣列島の領有権と東シナ海のガス田開発の二つだ。

1968年に国連アジア極東経済委員会が実施した東シナ海の海底調査で、東シナ海付近には中東に匹敵する豊富な石油資源の可能性があると発表されている。

日本政府はその後30年以上、日本の石油企業からの日本側大陸棚での鉱区を設定しての資源調査を許可しなかったのに、中国側の海洋調査、次いでガス油井設置は黙認したのだ。

中国の東シナ海でのガス、石油開発は春暁、天外天、断橋、残雪の4箇所の海上採掘施設を建設し、処理設備と中国大陸へのガスパイプラインも建設中で、2008年の北京オリンピックまでには完成すると見られている。

これらのガス田は日中中間線の中国側に位置しているが、日本政府は今頃になって中国側から日本側の資源をストローで吸い取ろうとしているとか騒いで、やっと日本企業の資源開発を認めた。

日本と中国に圧倒的な経済格差があった30年間に日本側の開発を認めなかったのは、日本政府の怠慢と言われても仕方がないだろう。

中国は東シナ海だけでなく、南シナ海では南沙諸島(スプラトリー諸島)やミスチーフ環礁に恒久施設を建設し、ベトナム、フィリピンなどの反対を無視して自国の領土化している。

いずれも石油やガス資源があると見られている地域であり、地下資源の開発が目的の行動だ。

尖閣列島は日本の固有の領土にもかかわらず、中国が領有権を主張し、中国民衆が時々騒いでいる。


台湾の軍事統一が中国の究極の目的

台湾は中国にとって地政学的に非常に重要である。もし台湾を中心として大規模な戦略的封鎖が実施されると、中国の海軍と海運は封じ込められてしまう。

逆に中国が台湾を統一できれば、台湾海峡バシー海峡という日本のシーレーンを抑え、日本の資源輸送ルートを抑えることができるのだ。

中国の戦略は台湾を軍事統一することを狙っており、有事には米国の空母機動艦隊の台湾近海への進展を阻むために、中国の潜水艦を使って機雷を設置することを画策している。

中国の海洋調査はそのための海底地形図つくりをしているのだ。

日本の対潜水艦戦闘能力が傑出していることは、『その時自衛隊は戦えるか』で紹介したが、
中国に対抗するために、台湾と連携して対潜水艦対策を進める必要があるのだと平松さんは語っている。

平松さんは、台湾問題は日本にとって他人事と済ませられる問題ではないと語る。

中国は台湾は中国の内政問題であるとして、世界や日本の世論にゆさぶりをかけ、もし台湾を中国が軍事統一するようなことがあると、もはや日本の将来は決まったようなものだ。

その中国に対して、日本は1979年から2004年までに3兆3千億円、民間援助もあわせると6兆円の援助を供与してきた。

日本はODAによって中国の経済成長をささえ、実質世界一の外貨準備高を保有するまで支援し、軍事国家として成長する中国の国家戦略を支援してきたのである。

その間、日本から平均2,000億円の援助を受けながら、中国は毎年600億円の援助をベトナム、カンボジア、パキスタン、アフガニスタンなどに与え、さらにアフリカ諸国などにも積極的に経済援助をしている。

日本政府は国家安全保障の脅威をもたらしている国に対して、友好や人道の名の下に莫大な援助を続け、中国の軍事力の強化を助け、自国の安全を危険にさらすという愚行を犯してきたと平松さんは断じる。

中国はドイツの国連常任理事国入りには賛成するが、日本の常任理事国入りには反対している。対中ODAは政治的にも意義がなかった。


台湾独立と国連加盟

台湾は未だに中華民国と名乗り、中国の正統政府が台湾に逃れただけという立場なので、国連でも北京政府が台湾政府を追い出し、その後がまに座っている。

台湾は独立国ではないから、たとえ中国が台湾に侵攻してきても、国連はなにも手出しできない。

だから台湾が独立国になって国連に加盟することは、東アジア地域の安全保障の上で重要な意味がある。そのため中国は強硬に反対し、またアメリカも中国を刺激しないために、台湾の独立には反対している、

台湾は国民投票を2008年に実施すると見られるが、台湾独立を宣言して、それを日米が軍事力も含めて支援する形となれば、それによって中国とのパワーバランスが保たれるだろうと平松さんは語る。

最後に、もし中国が台湾を軍事的に統一したら、次は朝鮮半島、日本と飲み込んでいくだろう。その時日本はどうするのかと平松さんは警告する。

けしからんタイトルだが、『併合』を『手も足も出なくなる』と読み替えれば、納得できる本だった。


参考になれば次クリックと右のアンケートお願いします。


人気ブログバナー


  
Posted by yaori at 23:04Comments(0)TrackBack(0)

2006年05月23日

日本の戦争力 軍事評論家小川和久氏の事実に基づいた現状分析

日本の「戦争力」


テレビなどによく登場する軍事評論家小川和久氏の事実に基づいた日本の「戦争力」についての現状分析。

北朝鮮がテポドンの発射準備をしているというニュースもあり、タイムリーな話題である。

小川さんは、「はじめに」で政治家に提言する。「日本はどうして、国家の総力を挙げて世界の平和と日本の安全を実現しようとしないのか」と。

日本は十分な「戦争力」が備わっている。この本は『孫子』のいう「百戦百勝は、善の善なるものに非ず。戦わずして人の兵を屈するは、善の善なるものなり」という兵法の「戦わずして勝つ」ための極意について考えようという試みであると。

たしかにこの本を読むと、日本の「戦争力」を持ってすれば北朝鮮に「戦わずして勝つ」こともできると思えてくる。


自衛隊の「戦争力」

1950年6月25日に勃発した朝鮮戦争については『戦略の本質』の中で紹介したが、自衛隊は朝鮮戦争勃発直後の7月8日に『警察予備隊』として誕生し、1954年7月に正式に防衛庁が設置され、陸・海・空自衛隊が発足した。

自衛隊の戦力については『その時自衛隊は戦えるか』で詳しく紹介した。

この本で小川さんは、よくいわれる「自衛隊の実力は世界第何位」という質問は意味がないと断じる。

軍事費比較では、GDPが世界2位で、人件費が高く、コストが何倍掛かっても国産兵器にこだわる自衛隊は必ずトップクラスになるのだと。実際、防衛費のうち、給料と食費が44%を占めている。

自衛隊は対潜水艦戦闘能力、掃海能力では世界トップクラスだが、他は大したことがない。水泳だけ得意なトライアスロン選手の様なものなので、諸外国軍隊とは比較にならないと語る。

ちなみにドイツは国防軍を持っているが、タイガー戦車以来の伝統で、世界最高のレオパルトII戦車を多数配備し、陸軍中心の構成で、旧共産圏からの侵略に対抗する防波堤となっている。

しかし戦時中のU-ボートの悪夢を断つということで、ドイツの潜水艦は500トン以下に制限されているので、ドイツ海軍はほとんど骨抜きのアンバランスな戦力となっている。

自衛隊は専守防衛なので、決定的に欠けているのはパワープロジェクション能力である。これは核兵器なら敵国を壊滅させることができる能力、通常兵器であれば数十万の軍隊を上陸させ敵国を占領できる能力であり、核攻撃あるいは侵略能力である。

小川さんは、日本は自衛隊にはパワープロジェクション能力がないと世界にアピールし、諸外国からの軍国主義の復活とかの批判にちゃんと反論すべきだと語る。


日米安保条約の片務性

日米安保条約では日本に対する武力攻撃への米軍の来援は明記されているが、アメリカに対する攻撃に対しては規定されていない。憲法9条の規定もあり、日本はアメリカを武力支援できない。

このことから、「片務的な日米安保は正常な同盟関係ではない。日本は成熟した同盟国としてちゃんと防衛分担を果たせ」という議論がでている。

しかし小川さんは日米安保条約があるから、アメリカは世界最大の補給基地を安心して置けており、日本抜きではアメリカの世界戦略は成り立たないのだと語る。

筆者はこれを読んで、以前、中曽根首相が、当時のレーガン大統領に言ったという「日本は浮沈空母(unsinkable aircraft carrier)だ」という言葉が、実は非常に当を得ていることを思い出した。さすが元軍人の中曽根首相だけのことはある。

まずは燃料備蓄だ。日本はペンタゴン最大の燃料備蓄ターミナルで、鶴見と佐世保の備蓄でアメリカ第7艦隊は半年戦闘行動ができる量である。

アメリカが引き揚げたフィリピンのスービックベイの備蓄能力は佐世保の半分以下だった。

次に武器弾薬だが、アメリカは広島に3箇所、佐世保、沖縄嘉手納に弾薬庫を持ち、広島県内の弾薬庫だけで、日本の自衛隊が持っている弾薬量を上回る。佐世保には第7艦隊用の弾薬庫。嘉手納にはこれらを上回る米軍最大の弾薬庫がある。

さらに通信傍受設備も世界最大級だ。『象のオリ』と呼ばれる電波傍受用アンテナは三沢にあるものは直径440メートル、高さ36メートル。周辺にも14基のアンテナ群がある。沖縄には直径200メートル、高さ30メートル。東京ドームと同じ大きさだ。

三沢にある世界最大級の設備は、英語圏5カ国以外には秘密とされているエシュロン活動の一端を担っているともいわれている。

アメリカ本土の延長のように、虎の子の燃料と弾薬を備蓄し、世界最大の第7艦隊の母港を置き、いざとなったら高度の補修ができ、最高機密の通信傍受設備も安心して置けるという国はアメリカにとって日本だけと言っても良い。

だからアメリカ政府の高官は「日本はアメリカの最も重要な同盟国である」としばしば発言するのだと。

前述の様に日本自体はパワープロジェクション能力はないが、日本が米軍のアジアにおけるパワープロジェクションプラットフォームになっているのだ。

日本で米軍が事件や事故をおこすと、アメリカはただちに最高の顔ぶれで謝罪する。他の同盟国ではありえないことだと。アメリカの側から見た日米同盟の重要性を象徴していると小川さんは語っている。

以前関榮次さんの『日英同盟』を紹介し、関さんが最も伝えたかったのは日米安保条約の再考ではないかと紹介した。

小川さんも「日米安保が片務だから、多くの日本人が錯覚から生まれた劣等感を抱いているが、日本列島に展開する米軍とは?その基地を置くアメリカの世界戦略は?と検証していけば、それが錯覚に過ぎないことが明らかになる」と説いている。

全世界でアメリカと対等な安保条約を結ぶ同盟国は存在しないのだと。

日本は毎年思いやり予算の2,000億円だけでなく、基地の賃借料、周辺対策費等各種費用もふくめて年間6,000億円を負担しているのだと小川さんは指摘する。

先日沖縄の海兵隊基地をグアムに移転する費用を6,000億円負担する政府間合意がなされたが、これは上記の年間6,000億円に加えての話であり、日米安保条約では日本が米軍基地移転費用を負担しなければならない義務はないという事実を知っておく必要がある。

日米はお互い不可欠のパートナーでもあり、関さんの指摘のように、日米安保体制を現在の世界情勢をふまえて、見直す必要があると筆者も考える。民主党の小沢党首に期待するところ大である。


北朝鮮の「戦争力」

小川さんは北朝鮮脅威論は木を見て森を見ない議論であると切り捨てる。

日本には日米安保条約という日本の安全保障を守るシステムがある。くわえて韓国には今も国連軍(400名ほどだが)が駐在しており、北朝鮮が先制攻撃を仕掛けてきたときには、1953年以来続いている休戦協定違反ということで国連軍が反撃できるのだ。

北朝鮮は国連軍からは先制攻撃はできないとタカをくくっていたが、イラク戦争以降、ブッシュ大統領がテロ支援国家には米軍は先制攻撃も辞さないと発言したことで、恐怖にかられ、それが2002年9月の小泉訪朝、日朝平壌宣言が実現する要因となった。

北朝鮮は核兵器を数個持っているにしても、ミサイルに搭載可能なほど小型化はできていないと見られる。今の北朝鮮のミサイルは通常弾頭だけだろうと小川さんは説く。

もし北朝鮮が日本にミサイルを撃ってきたら、米軍がそれの何十倍もの正確無比のトマホークミサイルを北朝鮮にぶち込むので、ミサイルを撃つ=国家の消滅となる。

そもそも燃料がなく、戦車も航空機も四世代前のものしかない北朝鮮は、兵器の数だけ揃えても、米軍の最新兵器には歯が立たない。

ミサイルを一発でも撃てば北朝鮮は一巻の終わりなので、ビビって虚勢だけなのだから、そのことをわかって、アメとムチの外交を進めるべきであることを小川さんは説く。

大前研一も『私はこうして発想する』のケーススタディで挙げていたが、金正日には選択肢はないのだということが、小川さんの議論からもよくわかる。

この本の帯に「目からウロコ!これが日本の実力だ!!」というキャッチがあるが、むしろ在日米軍、北朝鮮軍の実力がわかりやすく解説してあり、結果として日本の「戦争力」がわかるという構成だ。

さすがに売れっ子の軍事評論家だけのことはある。本の帯に「6万部突破」と書いてあるが、たしかに一読に値する防衛論だ。


参考になれば次クリックと右のアンケートお願いします


人気ブログバナー



  
Posted by yaori at 13:01Comments(0)TrackBack(0)

2006年02月08日

その時自衛隊は戦えるか 自衛隊の実力を知ろう!

そのとき自衛隊は戦えるか


自衛隊につき数々の記事を書いている井上和彦さんの自衛隊の分析。

ちょうど防衛施設庁を舞台とした官製談合に捜査のメスが入っている。

官僚OBに就職口を斡旋しようとして、官製談合を組織的にやっていた防衛施設庁は糾弾されるべきだが、それゆえに自衛隊全体を非難することにはならないだろう。

ゴーマニズムの小林よしのり氏の推薦文が帯に載っているが、「自衛隊が生まれて50年、わしらはもっと真実を知らなきゃいかん」と。

この本はあたらしい歴史教科書で独自路線を歩む扶桑社が出版しており、著者の井上さんは小学館のSAPIOや産経新聞社の『正論』などで記事を書いている。

右寄りの本ではあるが、逆に自衛隊の真実の姿を広く知らしめる動きが、扶桑社、SAPIO、正論、産経新聞などに限られてしまうのは、問題だと思う。

たしかに日本国民は自衛隊をもっと知るべきだと思う。そんなことを考えさせられる本である。


北朝鮮こそ自衛隊生みの親

実は北朝鮮こそ自衛隊の生みの親だ。1950年朝鮮戦争が始まり、北朝鮮が韓国に向けて侵攻を開始したときに、日本政府に対してGHQはいわゆるマッカーサー書簡を送り、警察予備隊の創設を指令した。

海上自衛隊は旧海軍の伝統を継承している。ラッパも海上自衛隊は海軍と同じだ。

これに対し陸上自衛隊は当初旧軍の伝統を排したので、ラッパも陸軍のものを踏襲してない。

空軍はもともと存在していなかったことから、旧陸軍と旧海軍の名パイロット達が集結したのだ。


自衛隊の戦力

自衛隊の国防費は世界第3位で、アメリカ、ロシアに次ぐ規模。第4位は中国だ。但しGNP比では主要国が2−3%であるのに対し、日本の自衛隊は1.0%だ。

防衛白書の内容がウェブで公開されているので、ご興味のある方は見て頂きたい。

総兵員数は24万人で、中国の10分の1、世界第22位だが、装備は最新鋭のものばかりだ。

戦車は最新式の90式戦車を中心に、1,020両。AH1S攻撃ヘリは89機。輸送・偵察ヘリは422機。


特筆されるべき対潜水艦戦闘能力

海上自衛隊は護衛艦54隻、潜水艦は16隻。掃海艇31隻、高速ミサイル艇7隻。

対潜戦闘能力は突出としており、有効射程100キロを超えるハプーン空対艦ミサイルを4発、対潜魚雷8発を搭載できるP3Cオライオン哨戒機を99機、SH60J哨戒ヘリを97機も保有している。

これらの哨戒部隊はソナー等の4種類の各種探知機を完備しており、ロシアや中国の潜水艦のスクリュー音をすべて記録している。

中国の潜水艦は浅い大陸棚で活動せざるをえないが、すぐに自衛隊の哨戒機に探知されてしまうだろう。

米軍でもP3C保有機数は全世界で200機ということなので、いかに自衛隊の対潜水艦戦闘能力が突出しているかよくわかる。


航空自衛隊は戦闘機361機だが、世界最強のF15や日米合作のF2、F4J改などで構成されている。輸送機59機、迎撃ミサイルは6個高射群ある。

これら日本の軍用機の写真を集めたKenny's Mechanical Birdsというサイトがあるので、ご興味があれば見ていただきたい。


自衛隊には7つの世界一があると。それらは次の通りだ:

1.実戦経験が育てた掃海技術

2.海上自衛隊のお家芸対潜作戦

3,原子力潜水艦に劣らない通常型潜水艦戦力

4.先端技術の結晶F2戦闘機(炭素繊維の一体成形とアクティブ・フューズド・アレイレーダーなど)

5.米軍を驚愕させた100発100中のハイテク・ミサイル(SSMー1地対艦ミサイルなど)

国産ミサイルをまとめているMISSILEの解説というサイトがあるので、ご興味あればご覧頂きたい。

6.F15戦闘機を世界最強たらしめる一流パイロットと整備員

7.自衛隊員こそ真の世界一(全将兵が高校以上の教育を受けている志願制の自衛隊は世界でも珍しい。しかも入隊競争率は3倍、幹部候補生学校の競争率は43倍)

対潜戦闘能力に優れた自衛隊と空母をはじめ空軍力を中心とした米軍のコンビネーションは補完関係にあり、極東アジア地域の安全保障の要となっているのだ。


これからの自衛隊

これからの自衛隊では2007年度から導入される予定のイージス艦、情報収集衛星、パトリオットミサイルを使ったBMD(弾道ミサイル防衛)が今後の目玉だ。


北朝鮮の工作船対策

新型ミサイル艇はやぶさ級は76mm砲一門と、射程距離100キロ以上の対艦ミサイル4発、12.7mm機銃2丁の装備を持ち、スクリューでなくウォータージェットで最高時速44ノットを出すことができる。


自衛隊もし戦わば

仮想敵国として次が想定され、それぞれのシナリオが紹介されている:


1.中国人民解放軍 

空の戦いで日米連合軍は圧勝、海でも自衛隊の対潜水艦作戦で封じ込め。空と海で圧倒され、中国陸軍は手も足も出ず。

中国は莫大な国防費を注ぎ込んで兵器の近代化に努めているのに、そんな中国にODAを継続する必要があるのかと議論している。

しかし侮れないのは中国の宣伝力であると。中国の対日外交カードが靖国問題であることはたしかだ。


安全保障装置としての靖国神社?

平成14年の産経新聞で評論家の櫻田淳氏が「靖国神社は兵士の志気を支える仕組みの中核に位置づけられるべき装置である」と語っている。

この本には紹介されていないが、櫻田発言には神道の國民新聞から次のように批判を浴びている

「靖国神社の本質は、国事に殉じた畏き英霊に対しての祭祀を行ふことであり、これが『安全保障政策を最も根本のところで支える『装置』』 と看做されるのは、あくまでも結果論としてにしかすぎず、本末転倒の観点と云ふ他はない。」

この論争はともかく、靖国問題を中国が執拗に取り上げるのは当然のことながら、深い戦略があるわけであり、善し悪しはともかく、中国に宣伝機会を常に与えることが適当なのか、次の首相は考え直す必要があるだろう。


2.北朝鮮 

ほとんどが旧式兵器の北朝鮮だが、唯一脅威なのは超旧式のAN2型アントノフ布貼り複葉プロペラ機を多数保有していることだ。

これは12名の人員を空輸することができ、300メートルという短距離で離着陸できる。超低空を飛行するためレーダーに捕捉されにくく、陸続きの国には大変な脅威であるが、日本海を隔ていれば日本にとっては脅威ではない。

村上龍の半島へにもこのアントノフが北朝鮮軍来襲手段として描かれているが、実際にはなんの遮蔽物もない海上ならレーダーに捕捉されてしまい、小説のようなことにはならないのだ。


この本のタイトルは『そのとき自衛隊は戦えるか』だが、これを読むと自衛隊は極東地域の安全を保障する有効な戦力になっていることがよくわかる。

日本は武器を輸出することができないので、全世界に輸出して生産コストを下げることができる米国の兵器に比べ国産兵器は数倍コストがかかるといわれている。

だからといって本当に3倍とかが妥当かという点は防衛施設庁の官製談合の件もあり、今後厳しく追及される必要があるだろう。

国産兵器はコストが高いので、配備数は少ないが、このように米軍との補完を考え、メリハリのきいた最重要戦略に従った配備をしていれば、非常に有効な戦力となることがよくわかる。

いままであまり自衛隊のことを研究したことがなかったが、簡単に読めて自衛隊の実力がわかる良い本であった。


参考になれば次クリックと右のアンケートお願いします


人気ブログバナー


  
Posted by yaori at 00:07Comments(0)TrackBack(0)