2009年04月23日

ウェブ進化論再読 クラウドコンピューティングとは「ネットのあちら側」

最近クラウドコンピューティングが注目されている。

筆者は以前インターネット企業に出向していたが、数億円掛けた自前のサーバー群を毎月数百万円もハウジングコストが掛かるデータセンターに置いて、ハードやソフトの償却と保守料、システム監視コストなどを入れると毎月多大なコストがかかったものだ。

しかもサーバーのCPUはすぐに旧式になり、何千万円も掛けてXEONベースのブレードサーバーに入れ替えても、最新のパソコンのQuad-Coreなどがより高性能になってきて、旧式になってしまう。

もし自前のシステムを持たずに、クラウドコンピューティングでシステムを構築できれば、システムコストは大幅にコストダウンできると思う。

クラウドコンピューティングのことは、2006年の「ウェブ進化論」で梅田望夫さんが、「あちら側」と呼んで説明しているので、再度「ウェブ進化論」のあらすじを掲載する。

今読んでも決して陳腐化していない。是非「ウェブ進化論」の再読をおすすめする。

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)
著者:梅田 望夫
販売元:筑摩書房
発売日:2006-02-07
おすすめ度:4.5
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atamanisutto前書き: 著者の梅田望夫(うめだもちお)さんはブログを『究極の知的生産の道具』と呼んでいるが、筆者も同感である。

このブログは筆者の備忘録も兼ねて作成しているが、この本についてはあまりに参考になることが多すぎて、備忘録が長くなりすぎてしまった。

以下のあらすじは元々非公開版としていたものだ。元のあらすじの1.5倍くらいのボリュームがある。

あらすじを公開、非公開と2種類つくったのは、はじめてだ。それほど参考になるということである。

間違いなく、ベストセラーになるだけのことはある中身の濃い本である。もし読んでいない方がいたら、新書の定価の740円以上の価値があること、筆者が請け合います。



以下は2006年3月の初掲載当時の記述。

昔の仕事仲間、日本最大の間接資材のネットショップMonotaROモノタロウ瀬戸社長に最近読んだ本で一番良いとすすめられて読んだ。

今世界のインターネット業界でなにが起こっているのか、どんな構造変化が起こっているのかよくわかる。

著者の梅田さんのブログによると発売して4週間で15万部売れているそうだ。筆者の近くの書店でも売り切れだったので、アマゾンで買った。まさに爆発的な売れ行きである。

筆者は米国駐在時代の1999年にインターネットの威力と将来性に驚き、会社・上司の了解を得て、それまで鉄鋼原料のトレーダーのキャリアから、インターネット関連業界に移った。

モノタロウの瀬戸社長は米国駐在からダートマスのMBAを取った異色の存在で、元々は鋼材トレーダーだが、鉄鋼原料を経て、インターネット関連業界に移った仲間だ。

筆者がインターネット関連業界に移った理由は、まさにPCスクリーンのあちら側に『未来』が見える様な気がしたからだった。

当時、ソニーの出井さんは『インターネットは(恐竜を死滅させたと言われる)巨大隕石だ』と表現していた。

日本に帰国してそれから5年余りたち、出張もせず東京で過ごしていると、アメリカや世界の情勢にどうしてもうとくなるが、インターネットで、いわば第2の隕石が落ちた様な変化が起きていることを思い知らされたのがこの本だ。

著者の梅田望夫さんは、シリコンバレー在住のコンサルティング会社ミューズ・アソシエイツ代表。梅田さんご自身のブログMy Life Between Silicon Valley and Japanもある。

梅田さんが常時寄稿しているCNETや、asahi.comITPROなどが梅田さんとのインタビューを載せているのでこれも参考になる。


現状分析がわかりやすく、かつ鋭い

まずは現状分析だ。現在のウェブ社会を次の3大潮流で説明している。

1.インターネット 
リアル世界に対するバーチャル世界・経済の出現。文章、映像、動画等、知的財産をなんでもネットに置き、不特定多数が見られ、何百万件でも検索して網羅できる。

国境等の物理的限界はなく、コミュニケーションも瞬時に行える。全世界の『不特定多数無限大』の人がはじめて経済ベースで捉えられるようになった。

2.チープ革命 
ムーアの法則は半導体の集積度が18ヶ月で倍増するというものから、IT製品のコストは年率30−40%下落すると広義に解釈されている。

3.オープンソース 
世界中の200万人の開発者がネット上でバーチャルな組織をつくり、イノベーションの連鎖で、最先端ソフトウェアをつくっていく世にも不思議な開発手法。


ネット界の3大法則

上記3大潮流が相乗効果を起こし、次の3大法則を生み出した:

1.神の視点からの世界理解 
Yahoo!などのネットサービスは1,000万人もの人にサービスを提供し、しかも一人一人の行動を確実に把握できる。膨大なミクロの情報を全体として俯瞰(ふかん)でき、今なにが起こっているのかがわかるのだ。

まさにお釈迦様、神のみぞ知るということが実現している。

2.ネット上につくった人間の分身がカネを稼いでくれる新しい経済圏ネット上に自分の分身(ブログやウェブサイト)をつくると、分身がネットでチャリンチャリンと稼いでくれる世界が生まれた。

自分は寝ていても儲かるしくみができる。奥さんもサイトを持っていれば、ダブルインカムならぬ、クアドラプルインカムも可能なのだ。

3.無限大 x ほぼゼロ = なにがしか(Something)
『不特定多数無限大』の人とつながりを持つためのコストはほぼゼロとなった。

不特定多数無限大の人々から1円貰って1億円稼ぐことが可能となったのだ。


これら3大潮流と3大法則が引き起こす地殻変動で、想像もできなかった応用が現実のものとなった。その本質がGoogleである。


バーチャル世界政府のシステム開発部門Google

梅田氏のGoogleに勤める友人は『世界政府というものが仮にあるとして、そこで開発しなければならないはずのシステムは全部Googleでつくろう。それがGoogle開発陣のミッションなんだよね。』と真顔で語っていると。

梅田氏はグーグルはシリコンバレーの頂点を極めるとてつもない会社だと確信しているそうで、Googleのすごさを次の観点から説明している:

1.世界中の情報を整理し尽くす

グーグルは自らのミッションを『世界中の情報を組織化し、それをあまねく誰からでもアクセスできるようにすること』と定義している。

全世界のウェブサイトの情報を集めるグーグル検索、全世界のニュースを優先順位を付けるグーグル・ニュース、過去出版されたすべての本をデータベース化するとブチ上げ、著作権者ともめているグーグル・ブックサーチ。

個人のメール内容を判断して最適な広告を載せるGメール。グーグル・マップグーグル・アース等々。

グーグルのサービスすべてを通して言えるのが、情報を人手を使わずコンピューターによって自動的に分析して組織化するという基本思想だ。人が扱わないのだから個人のメール内容などもプライバシーの問題はないという理屈だ。


2.構想を実現するために情報発電所とも言うべき30万台から成る巨大コンピューターシステムを、ネットの『あちら』側に構築したこと

すべての言語におけるすべての言葉の組み合わせに対して、最も適した情報を対応させる。これがグーグル検索エンジンの仕事だ。

グーグルの判断基準は、ウェブサイト相互に張り巡らされるリンクで判断する『民主主義』である。

全世界を英語圏のシステム一本で運営するための自動翻訳機能も、最適の情報を対応させるための必要機能だ。

そのためにグーグルの30万台ものコンピューターが日々稼働し続けている。


3.巨大コンピューターシステムを圧倒的な低コスト構造で自製したこと
オープンソースを最大限に利用して、30万台ものリナックスサーバーを自社でつくり、運営している

この30万台というのはCPUを備えたマザーボードの推定数で、最近はブレードサーバーというマザーボード差し込み式の、昔のサーバーの何十台分もの機能があるものも出ているが、それにしても30万台というのは尋常な数ではない。

拡張性に優れるスケーラブル・ストラクチャーをつくり、処理能力を上げるためにはサーバー数を増やせば良い構造とし、一部が故障しても全体としては動くしくみを取り入れている。


4.検索連動型広告『アドワーズ』に加え、個人サイトに自動的に広告配信する『アドセンス』を実装し、個人にまで広告収入が入る『富の再配分』のメカニズムを実現したこと

筆者も一時『アドセンス』をこのブログに貼り付けていたが、たしかに個人サイトでもグーグルから自動配信される広告表示で、チャリンチャリンとお金が落ちる感覚を体験できた。

インターネット広告業界では、ネット専業代理店が力を持っており、電通・博報堂など大手広告代理店が相手にしない小さなクライアントまで広告の裾野を広げているが、それにしてもアドセンスで配信される情報起業の様な小企業などは到底カバーできない。

アドセンスは、英語圏の先進国の広告報酬設定なので、先進国では小遣い程度でも、途上国では生計が立てられる収入となりうる。


5.多くが博士号を持つベスト・アンド・ブライテスト社員5,000人が情報共有する特異な組織運営

グーグルは株式公開したとはいえ、創業者のセルゲイ・ブリンとラリー・ページが一般株主とは違う種類の株式を持つ特異な所有形態である。これはマイクロソフトによる敵対的買収や経営介入を防ぐためだという。

グーグルには経営委員会などの経営組織はなく、5,000人の社員全員が情報を共有し、情報が『自然淘汰』される。

博士号を持つ社員も多いが、それぞれ仕事の20%は自分のテーマで研究することを求められる。アイデアは社内で共有され、平均3人の小組織がアイデア実現のスピードを競争するのだ。


6.既に存在するネット企業のどことも似ていないこと。

強いて言えばYahoo!はメディア、グーグルはテクノロジーであると。

Yahoo!は人間が介在してサービスの質が上がるなら、人手を使うべきだという考えである。


それぞれの論点につき興味深い分析がなされており、もっと詳しく説明したいところだが、それだと『あらすじ』でなくなってしまうので、上記の通り切り口だけ紹介しておく。


いくつか印象に残った点を紹介しておこう。


『こちら側』と『あちら側』

パソコンは『こちら側』。機能を提供する企業のサーバーやネットワークは『あちら側』だ。どちらかというと日本のIT企業はこちら側に専念し、アメリカの企業はあちら側に注力している。

これを象徴する出来事が昨年起こった。売上高1兆円のIBMのパソコン部門がレノボに2、000億円以下で売却され、売上高3,000億円のグーグルの公開直後の時価総額は3兆円で、いまは10兆円だ。

グーグルの動きはすべてあちら側の動きだ。


『恐竜の首』と『ロングテール』

ロングテールについてはアマゾンでは専門書と古典的名著が売れる例で紹介したが、リアル店舗では返品の憂き目にあう『負け犬』商品がアマゾンでは売上の1/3を占める。

パレートの80:20の法則で、従来は20%の売れ筋商品=『恐竜の首』に注力すれば良かったのが、インターネットにより陳列・在庫・販売コストを気にしなくて良くなった今、残り80%の『負け犬』もちりも積もれば山となることが可能となった。

グーグルのアドセンスは個人でもクレジッドカード払いで広告出稿でき、無数にある個人サイトに広告を掲載することができる。

梅田さんの言葉で言うと『ロングテール』、筆者の言葉で言うと『バンカー・ツー・バンカー』が、巨大なビジネスとなっている。


Web 2.0

今までのインターネット企業や機能をWeb 1.0と呼び、開発者向けにプログラムしやすいデータ、機能(API=Application Program Interface)を公開するサービスをウェブサービスと呼ぶ。

グーグルの台頭にYahoo!が危機感を強め、自社の検索エンジンを導入することを決定したのが、2002年から2003年にかけてであり、ちょうどこのころインターネットの先駆者たちは、Web 2.0を研究しだした。

(筆者はこのWeb 2.0というのが、どうもよく理解できなかったが、筆者のたとえでいうと、いわばひもでつないでいた鵜飼いの鵜(個人サイト)を、ひもなしの不特定多数の漁船群(企業サイト)に変え、網元が一挙に魚を捕る量を拡大し始めたという感じではないか。)

アマゾンアソシエイトで一個一個の商品にリンクをつけて販売するのが、従来からのWeb 1.0。アマゾンの商品データベースへのアクセスを認め、アマゾンが卸売りのようになり、専門サイト、小売りがアマゾンの商品を販売するのを支援するのがWeb 2.0。

もちろんアマゾンの全世界単一システムに巨大な負荷が掛かるはずだが、それをこなすシステム増強をアマゾンは『あちら側』で行って、Web 2.0を可能とのだろう。

単にアマゾンが配信する次のようなダイナミックリンク広告ではなく、ECサイト全体をアマゾンのウェブサービス(商品データベース)を使って作り上げるやり方で、インターフェースを公開することにより、開発を不特定多数の外部開発者に依存する手法だ。

ウェブサービスにおけるアマゾンの利益率は15%なので、今やアマゾン本サイトよりもウェブサービスの方が利益率が良くなっており、自己増殖的に増えていると。




ブログと総表現社会

米国ではブログ数が2,000万を越え、日本でも500万を越えた。ブログの増殖の理由は

1.量が質に変化したこと
  いくら母集団が玉石混淆でも、母集団が大きくなるとキラリと光るブログが現れてくる。500万のたとえ0.1%でも5、000である。

いままでネットで情報発信していた人たちはマスコミやネット企業関係の圧倒的少数だったが、絶対多数の声なき声が表現する場を得たのだ。

2.ネット上の玉石混淆問題を解決する糸口が技術の進歩で見えつつある。それは検索エンジンの進歩であり、ブログの持つトラックバック、RSS(Really Simple Syndication)、更新情報送信等の機能だ。

まだまだコンテンツの玉石混交問題は解決されていないが、Yahoo!など検索エンジンがトップにランクするブログはやはりそれなりに支持されている。ここでも自然淘汰がおこっているのだ。


知的生産の道具としてのブログ

梅田さんはブログこそが究極の知的生産の道具ではないかと感じ始めているそうだ。
ブログの効用とは:

1.時系列にカジュアルに記載でき、容量に事実上限界がない
2.カテゴリー分類とキーワード検索ができる
3.てぶらで動いてもインターネットへのアクセスがあれば情報にたどり着けること
4.他者とその内容をシェアするのが容易であること
5.他者との間で知的生産の創発的発展が期待できること

筆者も同感である。ただブログは出典を明らかにして、リンクを貼るという著作権上の配慮は重要である。


マス・コラボレーション

オープンソース、マス・コラボレーションの例としてウィキペディアを挙げている。ウィキペディア・プロジェクトは2001年1月にスタートしたので、5年強の歴史だが、既にブリタニカの65,000項目に対して、英語では870,000項目にも及ぶ百科事典が既にできあがり、200にも及ぶ言語毎に百科事典がつくられ、日本語版でも16万項目以上に揃ってきた。

誰でも書き込み、修正できるが、それでいてかなりの水準に達している。


不特定多数無限大は衆愚か?

梅田さんはWisdom of Crowds、群衆の英知、日本語訳「『みんなの意見』は案外正しい」を紹介している。仮説ではあるが、ネット上で起こっているオープンソース、コラボレーション、バーチャル開発の質の高さを考えると、不特定多数無限大の人が参加する知的プロジェクトは成功すると言えるのではないかと思う。

「みんなの意見」は案外正しい「みんなの意見」は案外正しい
著者:ジェームズ・スロウィッキー
販売元:角川書店
発売日:2006-01-31
おすすめ度:4.0
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羽生善治名人の高速道路論

梅田さんは羽生名人と親しいそうだが、羽生名人はITがもたらした将棋界への影響として、「将棋が強くなるための高速道路が一気に敷かれたということです。でも高速道路を走り抜けた先では大渋滞が起きています」と語ったそうだ。

羽生名人の言葉によると奨励会の2段くらいまでは、一気に強くなるが、それから上は人間の能力の深淵にかかわる難問であり、これを抜けることが次のブレークスルーに繋がる。

羽生善治さんの「決断力」も参考になるので、こちらのあらすじも参照して欲しい。

決断力 (角川oneテーマ21)決断力 (角川oneテーマ21)
著者:羽生 善治
販売元:角川書店
発売日:2005-07
おすすめ度:4.5
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以上2006年に書いたあらすじを見直したが、あらためてこれを読み返しても梅田さんの書いておられることが全然新鮮味を失っていないことがよくわかる。

既に読んだ人も、まだ読んでいない人も、このあらすじを参考にして本を手にとって頂きたい。


参考になれば投票ボタンをクリックしてください。





  
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2008年07月01日

ウェブ時代 5つの定理 梅田望夫氏の選んだ名言集

ウェブ時代 5つの定理 この言葉が未来を切り開く!


「ウェブ進化論」で一躍有名になったシリコンバレー在住の梅田望夫氏の最新作。

梅田さんは毎日4時とか5時に起きて毎日3−4時間も読書しながら、今まで1万冊もの本を集め、シリコンバレーを中心としたアメリカのビジョナリーピープルの言葉を研究し、変化の予兆を捉えようとしてきた。

そしてその金言を著作の中に、隠し味のようにして織り込むことで勉強してきたという。

いわば砂漠での砂金探しのように、膨大な量を読んだり聞いたりしても金言は本当に少ないが、いざ見つかると、だれもが生きるヒントを得られ、仕事に生かせる。未来を切り開く言葉だという。

そんな梅田さんが推奨する金言をこの本では紹介している。

最初のアントレプレナーシップ(起業家精神)では、梅田さんがメンターと仰ぐゴードン・ベル(DECの初期コンピューターPDPシリーズを設計したコンピュータ産業の先駆者の一人)の言葉(プログラム言語)を紹介している。

驚いたことにGordon Bellはすべての自分の著作、プレゼンテーション、論文などを自分のウェブで公開している様だ。

以下は彼のサイトに掲載されている"High-Tech Ventures"の梅田さんがピックアップした一節だ。

Start a high-information-technology company

if frustration is greater than reward

and greed is greater than fear of failure

and a new technology/product is possible then begin

exit (job);

get (tools to write business plan); write (business plan);

get (venture capital);

start (new company);

もしフラストレーションが報酬よりも大きかったら、そして失敗の恐れよりも欲の方が大きかったら、そして、新しい技術や製品がつくれるのなら、始めよ。
(仕事を)辞めよ
そして(ビジネスプランを書くツールを)揃え
(ビジネスプラン)を書き、
(ベンチャーキャピタルから)資金を集め、
(新しい会社を)始めるのだ。


この言葉はゴードン・ベルの"High-tech Ventures"の最初のページにプログラム形式で書いてある。


このような至言をシリコンバレーで活躍する人を中心に34人ピックアップしている。

それぞれ別のシチュエーションで発言したものを集めて、5つのカテゴリーに分類しtているので、次のようなマトリクス表をつくって整理してみた。

Visionary matrix





5つのカテゴリーとは:
1.アントレプレナーシップ
2.チーム力
3.技術者の眼
4.グーグリネス
5.大人の流儀だ。

スティーブン・ジョッブスは、4.のグーグリネスを除いてすべてのカテゴリーに登場している。梅田さん好みの起業家、ビジョナリーだということがわかる。

他にはグーグルのエリック・シュミット、ラリー・ペイジ、冒頭に登場した梅田さんの隣人だというゴードン・ベル、インテルのアンディ・グローブ、アマゾンのジェフ・ベゾスなどの言葉が上位に出てくる。

それぞれどの分野で発言が取り上げられているかを見ると、傾向がわかると思う。

グーグルのところでは「グーグルカルチャー」とか、「グーグル10ヶ条」とか発言者のわからない言葉も取り上げられており、全体では120以上の名言が紹介されている。

最後の部分では、先日紹介したスティーブン・ジョッブスの伝説のスタンフォード大学の卒業式でのスピーチで締めくくっている。

印象に残ったいくつかを紹介しておこう。


1.アントレプレナーシップ

☆パラノイアだけが生き残る。 アンディ・グローブ(インテル創設者)
 Only the Paranoid survive


インテル戦略転換


梅田さんの専門はIT企業の経営だが、考え方の核となったのはアンディ・グローブの考えであり、経営について指針となる本を一冊選べと言われたら、迷わずこの本を挙げるという。

筆者は英語の本は大体オーディオブックで聞いているが、この"Only the Paranoid survive"のオーディオブックを探したが、出ていないので、次のカセットでアンディ・グローブの話を聞いた。

アンディ・グローブがみずからの生い立ち、インテルでの汎用メモリーからマイクロプロセッサーに絞る戦略転換を語っていて、内容はほぼこの"Only the Paranod survive"と重なる。

このオーディオブックでは他にフェデックスのCEOとか伝説のマジェラン・ファンドのファンドマネージャー ピーター・リンチとかがインタビューされていて、参考になる。

Forbes: Great Minds of Business


☆「全く見ず知らずの人間でも信頼できる」ということを、eベイは1億2千万人ものひとたちに分からせたのだ。

eベイの創業者のピエール・オミディアの言葉だ。売り手の信用度をみんなで評価するシステムなどの歯止めはあるものの、この言葉通りネットの世界では性善説で行動でき、トラブルは思いの外少ない。

☆シリコンバレーの存在理由は、「世界を変える」こと。「世界を良い方向に変える」ことだ。そしてそれをやり遂げれば、経済的にも信じられないほどの成功を手に出来る。

アップルのスティーブン・ジョッブスの有名な言葉だ。シリコンバレー特有の世界観と、アントレプレナーシップの真髄を現していると梅田さんは語る。


2.チーム力

☆間違った人を雇ってしまうくらいなら、50人面接しても誰も雇わないほうがいい。会社の文化は計画してつくられるものではなく、初期の社員から始まって、徐々に発展していくものだ。

アマゾン創業者のジェフ・ベソスの言葉だ。一人では何もできない。ケミストリー(相性)があう同僚と働くことで、会社の成長は加速する。グーグルでは当初、5,000人くらいの規模までは、一緒に働く全エンジニアが個別に面接して、一人でもノーと言ったら採用しないというシステムを採っていたという。


☆人がなぜチームスポーツを好むのか、チームの一員となることを好むのか。リナックスを見ればよくわかるよ。

リナックスの発明者リーナス・トーバルスの言葉だ。

ネットでは顔も知らない見ず知らずの他人と共同することで、複雑なOSまでもが作られてしまうのだ。


3.技術者の眼

梅田さんが「ウェブ進化論」で冒頭に引用したのが、インテル創始者ゴードン・ムーアのムーアの法則だ。元々半導体性能は1年半で2倍になるというものが、現在ではより広く、「あらゆるIT関係製品のコストは、年率30%から40%下落する」という意味でも使われている。

これが基本中の基本であると。


☆私はただ「ムーアの法則」を追っかけ、その成り行きについてちょっと推測しただけだ。

シリコンバレーのベンチャー・キャピタリストの重鎮、ドン・バレンタインが語った言葉だ。ドン・バレンタインはアップル、ヤフー、シスコ、グーグルすべてに投資しているセコイアキャピタルの創始者だ。

「ムーアの法則」がインターネット業界で生きていることが分かる言葉だ。


4.グーグリネス

☆私たちは、グーグルを「世界をより良い場所にするための機関」にしたいと切望している。

グーグル創始者のラリー・ページの言葉だ。本当にそれを信念にしてやっているのが、グーグルのすごいところだ。


☆採用候補者は、技術的能力だけでなく、その「グーグリネス」によっても判断される。「グーグリネス」とは、人と協力することを楽しむ性格、上下関係を意識しない態度、親しみやすさなどからなる。

これは「ファイナンシャルタイムズ」に載っていた言葉だという。


☆会社は答えによってではなく、質問によって運営している。(中略)ずばりその通りの答えを提示するのではなく、質問をすることによって会話が刺激される。会話からイノベーションが生まれる。イノベーションというものは、ある日朝起きて「私はイノベートしたい」と行って生まれるようなものじゃない。質問として問うことで、よりイノベーティブなカルチャーが生まれるのだ。

グーグルCEOのエリック・シュミットの言葉だ。

大前研一さんの「質問する力」を以前紹介したが、質問によって会社を運営するという考え方が、グーグルの経営を貫く考えだ。

「一からすべて命令してほしいなら、海兵隊へ行けばいい」、「私たちは混沌を保ちながら経営していると思う」というのも、同じエリック・シュミットの言葉だ。

海兵隊のように命令に一糸乱れず従う組織ではなく、質問することによって、みんなが考え、それから会話が生まれ、ある意味活気ある混沌の中でイノベーションが生まれるという考えだ。

5.大人の流儀

シリコンバレーには、「2ちゃんねる」に代表されるような日本のネット社会特有の匿名文化とは異なる成熟した大人の流儀があるという。

☆私たちはフェースブックをオンラインコミュニティとして認識していない。実際に存在するコミュニティを強化する名簿として提供している。フェースブックに存在するのは、リアルライフに存在するもののミラーイメージだ。

ハーバードの学生名簿から始まったフェースブックの創業者マーク・ザッカーバーグの言葉だ。まじめに何か書き込む時は、実名を使うという文化である。

そしてパブリックという意識が最も顕著に表れているのが、ウィキペディアだろう。

☆ボランティアの人たちと働くことは、伝統的な意味でのマネジメントとは全く異なる。私は何かをしろと誰かに言うことはできない。私にできるのは、励まし、動機づけ、ガイドすることだけ。マネジメントなんか必要ないとも言える。ボランティアたちはじつに頭が良く、モチベーションが高く、自分自身をマネジメントできる人たちだから。

今や250言語に対応しているウィキペディア創始者ジミー・ウェルズの言葉だ。

梅田さんは「学習の高速道路」という言葉を「ウェブ進化論」でも羽生さんとの対談で仕入れた言葉として使っていたが、英語圏のウィキペディアの情報がどんどん蓄積されるのに対して、日本語のウィキペディアの情報は薄いということが、今後大きな差になってくるのではないかと語る。

「私たち一人一人がネット空間を知的に豊穣なものにしていこうという、決意を持つかどうかにかかってくる」と語る。

筆者はまだウィキペディアには投稿したことがないが、たしかに日本語のネット文化を作り上げると言う意味では、積極投稿も考えるべきだと感じた。


☆自分がやらない限り世に起こらないことを私はやる。

これはサンの共同創業者のビル・ジョイの言葉だ。サンはSPARCと呼ばれるチップ、JAVAプログラム言語を生みだし、ネットの世界を変えた。

最後に梅田さんはアップルのスティーブン・ジョッブスのスタンフォード大学での2005年の卒業式スピーチを引用している。

☆偉大な仕事をする唯一の方法は、あなたがすることを愛することだ。まだ見つかっていないなら、探し続けろ。落ち着いちゃいけない。まさに恋愛と同じで、見つかればすぐにそれとわかる。そして素晴らしい人間関係と同じで、年を重ねるごとにもっと良くなる。だから見つかるまで探し続けろ。探すのをやめてはいけない。

このスピーチの字幕入りビデオは以前紹介しているので、参照して欲しい。


カリフォルニア、シリコンバレーというと、筆者などは昔のママス・アンド・パパスの「カリフォルニア・ドリーミング」を思い出す。



筆者はシリコンバレーで仕事はしたことがないが、世界を動かす仕事の多くはシリコンバレーで生まれている。

梅田さんがシリコンバレーに惚れ込んだ理由がわかる。テンポ良く簡単に読めるので頭にスッと入る名言集である。


参考になれば次クリックお願いします。




  
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2008年01月12日

ウェブ時代をゆく ウェブ進化論の梅田望夫さんのウェブ版「学問のすすめ」

ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書)ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書)
著者:梅田 望夫
販売元:筑摩書房
発売日:2007-11-06
おすすめ度:4.5
クチコミを見る


ウェブ進化論の著者梅田望夫さんの新著。「ウェブ進化論」に次ぎベストセラーになっており、1月12日現在アマゾンの売上ランキングでは57位だ。

この本は、福沢諭吉西洋事情学問のすすめの2つの書物の関係になぞらえて、「西洋事情」が「ウェブ進化論」、そしてこの本が「学問のすすめ」にあたるウェブ時代の生き方について書いたものだと梅田さんは語る。

「ウェブ進化論」のように教養書として知識を得ようとすると、新規性が少なくて失望するが、ウェブ時代を生きていく人に対する指針として書かれたものだ。


梅田さんの経歴

梅田さん自身は、慶應の工学部を卒業後、東大の情報科学科でマスターを取った後、趣味の将棋や数学を生かした職業などを考えていたが、アメリカのバッテル研究所にあこがれ、それに近い会社としてADリトルに最低年俸で良いとして入社する。

ジェネラリストの経営コンサルタントではなく、専門性の高いコンサルタントをめざし、「レジス・マッケンナ」というテクノロジー・マーケティング戦略に特化したコンサルをロールモデルとして、ADリトルでも仕事をした。

その後社内エクスチェンジ制度を利用して、ADLサンフランシスコ事務所で勉強し、帰国して「ADL情報電子産業フォーラム」を立ち上げ、企業会員を集め、朝食会を中心としたフォーラムを3ヶ月に一度開催し、最盛時は年間1億円の売上をあげた。

このフォーラムの顧客人脈がその後のコンサルティングの仕事につながり、また梅田さんが1994年に独立してシリコンバレーに移住した時から現在に至るまでの顧客人脈となっているのだという。

ブログという新しいメディアに出会ってからは、自分の時間という希少資源を思いっきりブログにつぎ込み、自分のブログをスタートさせた。

有名なベンチャーキャピタリストジョン・ドーアは「若い心をもって、スタンフォード大学やMITを毎日うろうろ歩く」ことを若き日にやっていたというが、梅田さんもこれをロールモデルにして、CNET Japanを立ち上げた山岸さん(現グリー副社長)を窓口に、日本に出張するときは、山岸さんがこれぞと思う若い人材と会うことに努めていると語る。

そして会った一人がはてなの近藤社長だ。

ソフトバンクの孫さんが、Yahoo!を発掘する前に、まずアメリカのITに強い出版社ジフ・デービスに出資し、ZD Netを通じて、有望な企業の情報を集めたのと同じ発想だ。

梅田さんは500枚入る名刺ホールダーに、自分が仮に組織をやめて一人になったときに、自分の能力に正当な対価を払ってくれそうな人の名刺を埋めていくことをすすめている。

"in the right place at the right time"(時宜を得て)、運をつかむことができるための種まきだ。


学習の高速道路とその先の大渋滞

この本の主題になっているのは、「ウェブ進化論」で紹介されていた将棋の羽生善治さんとの対談で、羽生さんが言っていた、「学習の高速道路とその先の大渋滞」という言葉だ。

インターネットの発達により、知識は非常に手に入りやすくなったので、それを生かして、いかに生き、いかに仕事を選ぶのかが問題だ。

アップルは"iTunes U"というスタンフォード、UCバークレー、MITなどの全米の大学の講義を無料配信するサービスを2007年5月に始めたという。

i Tunes U






これからは世界のどこにいても、全米トップクラスの授業を、iPodにダウンロードして講義を受けられることになった。

学ぶ気持ちがあれば、いつでもアメリカの一流大学の授業を聴講できるのだ。

Googleは人類のあらゆる知識をデータベース化するGoogle Book Searchを2004年から始めている。日本語版も既にスタートしている。

趣旨に賛同したハーバード大学、スタンフォード大学、ミシガン大学、オックスフォード大学、ニューヨーク公共図書館と共同でスタートし、その後日本の慶應大学を含め多くの大学が参加し、既に100万冊のスキャンを終えたという情報がある。

マイクロソフトも大英図書館や、コーネル大学と組んで同様の活動を始めている。

人類の叡智として取り込むべき図書は数千万冊なので、丁寧にスキャンすれば一冊20ドルとして、数千億円の予算があればできる。

そのうちネットで検索すれば、過去の本すべてが読めるようになるのだろう。

梅田さん自身は「高速道路」を下りて、「けものみち」を20年近くも歩いてきたと語るが、ウェブ時代を生き、高速道路を走る「ネットアスリート」に対して、次のキーワードを挙げている:

1. Only the paranoid survive(偏執狂のみが生き残る)インテルの元会長のAndy Groveの有名な本の題名だ。競争の激しいIT業界、半導体業界で、一時は日本とのメモリー競争に敗れ、倒産しかかったが、CPUビジネスに転換し、生き延びたインテルのグローブ元会長ならではの言葉だ。

Only the paranoid survive






2. Entrepreunership 不屈の企業家精神 

3. Vantage point 見晴らしの良い場所に出て、自分のまわりを見渡すこと 


今の日本の若者には、力があっても自信がなさすぎるという。米国の若者は力がなくとも、自信ばかりある人が多い。両極端であると。


「18歳の自分に対するアドバイス」

梅田さんは、「18歳の自分」に対するアドバイスとして、次のようなウェブ・リテラシーを持つ事をすすめるという。

1.ネットの世界がどういう仕組みで動いているのかの原理は、相当詳しく徹底的に理解している。

2.ウェブで何かを表現したいと思ったら、すぐにそれができるくらいまでのサイト構築能力を身につけている

3.「ウェブ上の分身にカネを稼がせてみよう」みたいな話を聞けば、手をさっさと動かして、そこに新しい技術を入れ込んだりしながらサイトを作って実験ができる。

4.ウェブ上に溢れる新しい技術についての解説を読んで独学できるレベルまで、ITやウェブに対する理解とプログラミング能力を持つ。

これらが、ネットとリアルの境界のフロンティアで、新しい職業に就く可能性を広げるためのパスポートだという。


二人の日本人プログラマーが、例として紹介されている。

世界のオープンソースコミュニティで尊敬されている日本人として「まつもとゆきひろ」という天才プログラマーがいる。

島根県に住んで、島根県松江市のネットワーク応用通信研究所に勤務しているが、1993年にRubyというプログラム言語をつくった。

Rubyは世界で数十万人が使う、日本初の数少ない世界プログラミング言語である。

まつもとゆきひろは世界のプログラミング言語オタクのアイドルで、島根県議会は「地域資源」(人間国宝?)として捉えているのだという。

もう一人梅田さんの親しい石黒邦宏さんというプログラマーも紹介されている。

現在はシリコンバレーに住んでいるが、寝ても覚めてもプログラムを書いているという。石黒さんはシリコンバレーに移住し、IP Infusionという会社を立ち上げ、日本のアクセスに会社を売却し、創業者利益を得た。

自分の作品として自信を持って言えるプログラム、美しい作品を作るのだという。石黒さんはいままで、こいつはすごいなあと言えるプログラマーに一人だけ会ったという。

食事しているときと寝ている時以外は、ずーっとプログラムを書くか勉強しているのかのどっちかだってことが、コード見て分かるという。


最後に梅田さんは、「自助の精神」がより求められると語る。自助の精神に基づく勤勉の継続が求められるのだ。

先日サミュエル・スマイルズの「自助論」を再度読んだが、梅田さんのウェブ時代を生きるためのアドバイスも「自助」である。

スマイルズの世界的名著 自助論 知的生きかた文庫


スマイルズの「自助論」は1858年の発刊だ。ちょうど150年前に出版された本だが、今も輝きを失っていない。いつの時代も目標を設定して、それを達成するために地道に努力する人が勝つ。

「ウェブ進化論」とは趣が異なる本だが、梅田さんの21世紀の日本、日本人に対するあせりを含んだ期待感がよくわかる Nononsenseな(きまじめで真摯な)本だ。


参考になれば次クリックお願いします。


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Posted by yaori at 23:28Comments(0)TrackBack(0)

2006年12月17日

ウェブ進化論 Googleはインターネットの第2の巨大隕石!?

2006年12月16日追記:


以前『ウェブ進化論』のあらすじの中で紹介した、企業向け消耗品、間接材のeコマースサイトモノタロウが12月に東証マザースに上場した。

瀬戸社長は以前鉄鋼原料で、同じ新製鉄法プロジェクトを米国と日本で担当していた仕事仲間なので、瀬戸社長の成功はおおいに刺激になる。

その瀬戸社長のおすすめの『ウェブ進化論』。

今年初めのベストセラーなので、多くの人に読まれたと思うが、モノタロウの上場を祝して再度あらすじをご紹介する。


ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる


atamanisutto主人前書き: 著者の梅田望夫(うめだもちお)さんはブログを『究極の知的生産の道具』と呼んでいるが、筆者も同感である。

このブログは筆者の備忘録も兼ねて作成しているが、この本についてはあまりに参考になることが多すぎて、備忘録が長くなりすぎてしまった。

元の原稿は非公開として保存し、以下の公開版は半分程度にまとめた。あらすじを公開、非公開と2種類つくったのは、はじめてだ。それほど参考になるとともに、intriguing(興味をそそられる)ということである。

是非次のあらすじを参考にして、実際に『ウェブ進化論』を手に取って頂きたい。

ベストセラーになるだけのことはある中身の濃い本である。新書の定価の740円以上の価値があること、筆者が請け合います。


昔の仕事仲間、日本最大の間接資材のネットショップMonotaROモノタロウ瀬戸社長に、最近読んだ本で一番良いとすすめられて読んだ。

今世界のインターネット業界でなにが起こっているのか、どんな構造変化が起こっているのかよくわかる。

著者の梅田さんのブログによると発売して4週間で15万部売れているそうだ。筆者の近くの書店でも売り切れだったので、アマゾンで買った。まさに爆発的な売れ行きである。

筆者は米国駐在時代の1999年にインターネットの威力と将来性に驚き、キャリアを変更したが、当時、ソニーの出井さんは『インターネットは(恐竜を死滅させたと言われる)巨大隕石だ』と表現していた。

日本に帰国してそれから5年余りたち、出張もせず東京で過ごしていると、アメリカや世界の情勢にどうしてもうとくなるが、インターネットで、いわば第2の隕石が落ちた様な変化が起きていることを思い知らされたのがこの本だ。


著者の梅田望夫さんは、シリコンバレー在住のコンサルティング会社ミューズ・アソシエイツ代表。梅田さんご自身のブログMy Life Between Silicon Valley and Japanもある。

梅田さんが常時寄稿しているCNETや、asahi.comITPROなどが梅田さんとのインタビューを載せているのでこれも参考になる。


現状分析がわかりやすく、かつ鋭い

まずは現状分析だ。現在のウェブ社会を次の3大潮流で説明している。

1.インターネット 
リアル世界に対するバーチャル世界・経済の出現。文章、映像、動画等、知的資産をなんでもネットに置き、不特定多数が見られ、何百万件でも検索して網羅できる。

国境等の物理的限界はなく、コミュニケーションも瞬時に行える。全世界の『不特定多数無限大』の人がはじめて経済ベースで捉えられるようになった。

2.チープ革命 
ムーアの法則は半導体の集積度が18ヶ月で倍増するというものから、IT製品のコストは年率30−40%下落すると広義に解釈されている。

3.オープンソース 
世界中の200万人の開発者がネット上でバーチャルな組織をつくり、イノベーションの連鎖で、最先端ソフトウェアをつくっていく世にも不思議な開発手法。


上記3大潮流が相乗効果を起こし、次の3大法則を生み出した:

1.神の視点からの世界理解 
Yahoo!や楽天などのネットサービスは1,000万人もの人にサービスを提供し、しかも一人一人の行動を確実に把握できる。膨大なミクロの情報を全体として俯瞰(ふかん)でき、今なにが起こっているのかがわかるのだ。まさにお釈迦様、神のみぞ知るということが実現している。

2.ネット上につくった人間の分身がカネを稼いでくれる新しい経済圏
ネット上に自分の分身(ブログやウェブサイト)をつくると、分身がチャリンチャリンと稼いでくれる世界が生まれた。自分は寝ていても儲かるしくみができる。奥さんもサイトを持っていれば、ダブルインカムならぬ、クアドラプルインカムも可能なのだ。

3.無限大 x ほぼゼロ = なにがしか(Something)
『不特定多数無限大』の人とつながりを持つためのコストはほぼゼロとなった。不特定多数無限大の人々から1円貰って1億円稼ぐことが可能となったのだ。


これら3大潮流と3大法則が引き起こす地殻変動で、想像もできなかった応用が現実のものとなった。その本質がGoogleである。


バーチャル世界政府のシステム開発部門Google

梅田氏のGoogleに勤める友人は『世界政府というものが仮にあるとして、そこで開発しなければならないはずのシステムは全部Googleでつくろう。それがGoogle開発陣のミッションなんだよね。』と真顔で語っていると。

梅田氏はGoogleはシリコンバレーの頂点を極めるとてつもない会社だと確信しているそうで、Googleのすごさを次の観点から説明している:

1.世界中の情報を整理し尽くす

Googleは自らのミッションを『世界中の情報を組織化し、それをあまねく誰からでもアクセスできるようにすること』と定義している。

全世界のウェブサイトの情報を集めるグーグル検索、全世界のニュースに優先順位づけするグーグル・ニュース、過去出版されたすべての本をデータベース化するとブチ上げ、著作権者ともめているグーグル・ブックサーチ。

個人のメール内容を判断して最適な広告を載せるGメール。グーグル・マップグーグル・アース等々。

こうして見てくると、筆者にはGoogleがCIAの別動隊の様に思えてくる。まさに映画ターミネーターのスカイネットの世界だ。

グーグルのサービスすべてを通して言えるのが、情報を人手を使わずコンピューターによって自動的に分析して組織化するという基本思想だ。人が扱わないのだから個人のメール内容などもプライバシーの問題はないという。


2.構想を実現するために情報発電所とも言うべき30万台から成る巨大コンピューターシステムを、ネットの『あちら』側に構築したこと
すべての言語におけるすべての言葉の組み合わせに対して、最も適した情報を対応させる。これがグーグル検索エンジンの仕事だ。全世界を英語圏のシステム一本で運営するための自動翻訳機能も、最適の情報を対応させるための必要機能だ。

そのためにグーグルの30万台ものコンピューターが日々稼働し続けている。


3.巨大コンピューターシステムを圧倒的な低コスト構造で自製したこと
オープンソースを最大限に利用して、30万台ものリナックスサーバーを自社でつくり、運営している。拡張性に優れるスケーラブル・ストラクチャーをつくり、処理能力を上げるためにはサーバー数を増やせば良い構造とし、一部が故障しても全体としては動くしくみを取り入れている。


4.検索連動型広告『アドワーズ』に加え、個人サイトに自動的に広告配信する『アドセンス』を実装し、個人にまで広告収入が入る『富の再配分』のメカニズムを実現したこと
筆者も一時『アドセンス』をこのブログに貼り付けていたが、個人サイトでもグーグルから自動配信される広告表示で、チャリンチャリンとお金が落ちる感覚を体験できた。

インターネット広告業界では、ネット専業代理店が力を持っており、小さなクライアントまで広告の裾野を広げているが、それにしてもアドセンスで配信される個人の『情報起業』の様な小企業などは到底カバーできない。


5.多くが博士号を持つベスト・アンド・ブライテスト社員5,000人が情報共有する特異な組織運
グーグルは株式公開したとはいえ、創業者のセルゲイ・ブリンとラリー・ページが一般株主とは違う種類の株式を持つ特異な所有形態である。これはマイクロソフトによる敵対的買収や経営介入を防ぐためだという。

グーグルには経営委員会などの経営組織はなく、5,000人の社員全員が情報を共有する。

博士号を持つ社員も多いが、それぞれ仕事の20%は自分のテーマで研究することを求められる。アイデアは社内で共有され、平均3人の小組織がアイデア実現のスピードを競い合う。キーワードは『自然淘汰』だ。


6.既に存在するネット企業のどことも似ていないこと
強いて言えばYahoo!はメディア、グーグルはテクノロジーであると。Yahoo!は人間が介在してサービスの質が上がるなら、人手を使うべきだという考えである。


それぞれの論点につき興味深い分析がなされており、もっと詳しく説明したいところだが、それだと『あらすじ』でなくなってしまうので、上記の切り口だけ紹介しておく。

いくつか印象に残った点を紹介しておこう。


『こちら側』と『あちら側』

パソコンは『こちら側』。機能を提供する企業のサーバーやネットワークは『あちら側』だ。どちらかというと日本のIT企業はこちら側に専念し、アメリカの企業はあちら側に注力している。

これを象徴する出来事が昨年起こった。売上高1兆円のIBMのパソコン部門がレノボに2、000億円以下で売却され、売上高3,000億円のグーグルの公開直後の時価総額は3兆円で、いまは10兆円だ。

グーグルの動きはすべてあちら側の動きだ。


『恐竜の首』と『ロングテール』

ロングテールについてはこのブログでアマゾンでは専門書と古典的名著が売れる例で紹介したが、リアル店舗では返品の憂き目にあう『負け犬』商品がアマゾンでは売上の1/3を占める。

パレートの80:20の法則で、従来は20%の売れ筋商品=『恐竜の首』に注力して80%の売上をあげれば良かったのが、インターネットにより陳列・在庫・販売コストを気にしなくて良くなった今、残り80%の『負け犬』もちりも積もれば山となることが可能となった。

グーグルの『アドセンス』は個人でもクレジッドカード払いで広告出稿でき、無数にある個人サイトに広告を掲載することができる。梅田さんの言葉で言うと『ロングテール』、筆者の言葉で言うとゴルフの『バンカー・ツー・バンカー』という様な分野が、巨大なビジネスとなっている。


Web 2.0

今までのインターネット企業や機能をWeb 1.0と呼び、開発者向けにプログラムしやすいデータ、機能(API=Application Program Interface)を公開するサービスをウェブサービスと呼ぶ。

グーグルの台頭にYahoo!が危機感を強め、自社の検索エンジンを導入することを決定したのが、2002年から2003年にかけてであり、ちょうどこのころインターネットの先駆者たちは、Web 2.0を研究しだした。

(筆者はこのWeb 2.0というのが、どうもよく理解できなかったが、筆者のたとえでいうと、いわば漁師が網元になる様な感じではないか。つまり漁師が今まで自分で魚を捕っていたものが、網元となり漁船に網を貸して分け前を受け取ることにより、一挙に魚獲量を拡大し始めたという感じではないか。)

アマゾンアソシエイトで一個一個の商品にリンクをつけて販売するのが、従来からのWeb 1.0。アマゾンの商品データベースへのアクセスを認め、アマゾンが卸売りのようになり、専門サイト、小売りがアマゾンの商品を販売するのを支援するのがWeb 2.0。

もちろんデータベースを公開すれば、アマゾンの全世界単一システムObidosに巨大な負荷が掛かるはずだが、それをこなすシステム増強をアマゾンは『あちら側』で行って、Web 2.0を可能としたのだろう。

ウェブサービスにおけるアマゾンの利益率は15%なので、今やアマゾン本サイトよりもウェブサービスの方が利益率が良くなっており、自己増殖的に増えていると。


ブログと総表現社会

米国ではブログ数が2,000万を越え、日本でも500万を越えた。ネット上の玉石混淆問題を解決する糸口が技術の進歩で見えつつあると。


マス・コラボレーション

オープンソース、マス・コラボレーションの例としてウィキペディアを挙げている。ウィキペディア・プロジェクトは2001年1月にスタートしたので、5年強の歴史だが、既にブリタニカの65,000項目に対して、英語では870,000項目にも及ぶ百科事典が既にできあがり、200にも及ぶ言語毎に百科事典がつくられ、日本語版でも16万項目以上に揃ってきた。

誰でも書き込み、修正できるが、それでいてかなりの水準に達している。

不特定多数無限大は衆愚か?

梅田さんは"Wisdom of Crowds"、日本語訳「『みんなの意見』は案外正しい」を紹介している。仮説ではあるが、ネット上で起こっているオープンソース、コラボレーション、バーチャル開発の質の高さを考えると、不特定多数無限大の人が参加する知的プロジェクトは成功している。キーワードは、ここでも情報の『自然淘汰』だ。


「みんなの意見」は案外正しい


羽生善治名人の高速道路論

梅田さんは羽生名人と親しいそうだが、羽生名人はITがもたらした将棋界への影響として、「将棋が強くなるための高速道路が一気に敷かれたということです。でも高速道路を走り抜けた先では大渋滞が起きています」と語ったそうだ。


編集してカットしても、まだあらすじが長すぎて、著者の梅田望夫さんにしかられそうだが、それほど中身の濃い本だった。最近ピカいちの本だろう。


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Posted by yaori at 00:13Comments(0)TrackBack(1)