2007年10月26日

東大のこと、教えます あまり東大のことがわからない東大紹介本

東大のこと、教えます―総長自ら語る!教育、経営、日本の未来…「課題解決一問一答」


行動派学長、東大総長小宮山教授への55問。

小宮山さんの「課題先進国日本」を読んで好印象を受けたので、この本も読んでみた。

この本は2007年3月の発刊で、「課題先進国日本」が2007年9月なので、ほぼ同時期のものといえる。

News Weekの世界大学ランキングでは東大は16位だった。東大より上はアメリカの大学とイギリスのケンブリッジ、オックスフォードのみだった。上位30位に入っている非アングロサクソンの大学はカナダの大学一校と、東大、京大、スイス連邦工科大学チューリッヒ校、ローザンヌ校だけだった。

独仏の大学は一校も入っていない。独仏の不振の原因は、研究機関と教育機関を分けてしまったからではないかと指摘されているという。

日本は世界の「課題先進国」として、もっと世界に対して情報発信すべきであり、東大は世界の知の頂点として世界の課題解決に役立つ大学を目指すべきであると。

ちなみに小宮山さんの父親、叔父も東大、弟も東大、息子も娘も東大という東大一家で、それゆえ東大に対する愛校心が人一倍強いのだと。

この本は次の5部構成となっている。

1.東大にしかできないことがある
2.東大がニッポンを変える
3.東大だってお金が欲しい
4.(番外編)東大総長の胸のウチ
5.特別対談 小宮山宏 VS 梅田望夫

55の質問

全体で55項目の質問に小宮山総長が答える形となっている。たとえばこんな具合だが、質問の構成が網羅的でないので、正直これを読んで東大のことがわかる人は少ないと思う。

あきらかに東大を目指す高校生向けの本ではない。ビジネスマンの読者をねらった本だ。

・東大に新しい学部をつくるとしたらどんな学部ですか…ビジネススクール

・東大に就職部をつくったのはなぜですか…学生には正しい情報が伝わっていない
 (東大でも留学生や、博士号取得者の就職は難しい)

・早慶やハーバードよりも東大のいいところはどこですか…「総合力」では世界一だ
 (特に工学部などの実学が強い ちなみに小宮山さんは化学工学が専門だ)

・東大では、世界トップレベルの研究が行われていますか…1/3は世界トップ
 (固体触媒光化学の藤嶋昭名誉教授、化学チップの北森武彦教授、固体物性物理学の十倉好紀教授など、思いつくままに40名以上の名前が挙げられると)

・東大には海外から優秀な教授を引き抜く力がありますか…東大にはあるが、問題は日本のインフラ
 (問題は住居や子女教育なので、東大は大規模なインターナショナル・ゲストハウスを建築予定だ)

・ビル・ゲイツを客員教授に呼ぶならばどう口説きますか…口説かなくても来てくれる
 (小宮山さんはオラクルのラリー・エリソンと親しいが、彼の自宅は京都の桂離宮をそっくり模した建物で、宮大工を多いときは60人も呼んだそうだ。サンのスコット・マクナリーは昨年東大で講義した)

・40年前と比べて、東大生の学力は落ちたと思いますか…学問自体が複雑化していることも考えるべき
 ところで東大の女子学生比率は、40年前の理科一類では0.3%だったのが、現在は20%になっているという。

・ドラゴン桜の様に、もともと成績が悪くても受験テクニックで東大に合格できますか…燃え尽きていなければ、テクニックでもOK

・お金持ちの家庭でないと、東大に入れないのでしょうか…親の年収データは、正確なのか見極めるべき
 (自営業の年収捕捉率に問題があるのではないか)

・どうすれば世界における日本の地位が上がりますか…コンセプト先行型でいこう
 (例えば2005年のサミットでの小泉首相の「日本は3Rを推進します」発言は評価できると。3RとはReduce, Reuse, Recycleだ)

・若い世代の活字離れを食い止めるにはどうしたらいいと思いますか…ネットの情報だけでは、頭がバラバラになってしまう

・学者が社外取締役を兼務するのは、望ましいですか…どんどんやればいい
 (東大の50歳くらいの教授の年収は1,100万円くらいであると。社外取締役になって稼いで、自分の研究に投資してほしいと)

・経営者になる自信はありますか…利益を第一に考えたことがないから、自信がない

・経営者で、東大教授にスカウトしたい人はいますか…若者が好きな人なら歓迎
 (伊藤忠の丹羽宇一郎さんは物事を原理的に考える人なので、学者に向いている。ウェブ進化論の梅田望夫さんもいいと思うと)

・自分の研究ばかりで学生の教育をしない教員はいてもいいのですか…研究成果があってこそ、良い教育ができる

・もっと給料をもらうべきだと思っていますか…この激務なら二倍は欲しいところ
 (小宮山さんの年収は2,480万円だと)

・協業してみたい!と思う経営者がいますか…大構想「アジアの水田」に賛成してくれる人、求む
 (燃料としてコメを使うと石油の40%のカロリーだが、石油より安い。日本の技術でベトナムでコメを三期作するとか、ヤシ油を使ったバイオマスとか。アジアの水田は「金のなる木」だという。)

・これまで一番感銘を受けた本は何ですか…「坊ちゃん」(この答えに正直筆者は???だ)


梅田望夫氏との対談も面白い

最後の梅田望夫氏との対談も面白い。一般的な話題が多いが、特に印象に残ったのは、梅田さんは1975年以降生まれの日本人はすごく違うという。たとえばMixiの笠原さんとか、はてなの近藤さんだ。

帰国子女も増えて、語学力のある人が増えてきた。

彼らは15,16歳でバブルがはじけ、大学に入ってパソコンを使い出したが、大学に入ったときはバブル後のひどい時期で、卒業した時期に金融危機があり、自分たちはどうやって生きていくか真剣に考えているという。

卒業して1−2割が外資系やベンチャー企業という、旧来の「日本株式会社」でないところに就職した。旧世代よりよっぽどグローバルなメンタリティを持っているので、彼らを応援してやれば、日本は必ず良くなると。

さらに梅田さんはその次の世代は1991ー93年頃生まれになるだろうと。今の中学生の年代だ。彼らは生まれたときから世界一のITインフラの中で生きてきていると。

最後に東大教授になりたくないかと聞かれ、梅田さんはこう答えている

「そういって頂けるのは大変光栄です。先生からそういわれたら、1,000人中999人が『ありがとうございます』って受けるわけですよね。でも、僕は残りの一人になりたい。組織に属さないで、これだけ大きな事ができるっていうのを、身をもって示したいんです。

大学で教えることはすごく大事だと思いますが、同じエネルギーがあったら、僕はネットの向こうにいる不特定多数に向かって、自分が考えていることを語り続けたい。東大で僕の授業を受ける100人は、優秀かもしれないけど、本当に僕の話を聞きたい順に上から100人ではないでしょう。

ネットでは、何かを本気でやっていると、志を同じくした人たちがマグネットみたいにつながってくるんです。そっちのほうが面白いですね。」


梅田さんのブログには毎日15,000人がアクセスするという。さすが梅田さん、ネットの面白みをマグネットにたとえるのは、秀逸だ。

ひとことで言うと「読者愛」なのだろう。筆者も同じ思いだ。それゆえこのブログを三年弱も続けることができているのだと思う。

ビジネスマン向けのミクロ的東大紹介として読むと、参考になる本だ。


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2007年10月08日

課題先進国日本 東大の行動派総長 小宮山教授の提言

「課題先進国」日本―キャッチアップからフロントランナーへ


東大総長小宮山宏教授の日本改革の提言。

小宮山教授の専門は化学工学で、小宮山教授自身がCVD(Chemical Vapor Deposition)という半導体の薄膜製法を手がけ、CVD反応工学という新しい学問を生み出したという功績がある

小宮山教授は2003年に技術を生活に生かす「動け!日本」というプロジェクトを主宰しており、2006年、2007年と連続してダボス会議にも出席している。

東大総長がダボス会議に出席していたとは初耳だが、象牙の塔にこもらない行動派の総長という印象だ。


出羽の守

明治以来の学問は「出羽の守(かみ)」だったと。つまり米国「では」、イギリス「では」と外国の例を紹介するだけの論文を書いた人々だった。

今もこういう人は多い。ちょうど10月1日に郵政民営化が実現したが、マスコミに登場する評論家の多くは依然としてイギリス「では」、ドイツ「では」、スゥエーデン「では」と言っている「出羽の守」ばかりだ。

これからは、自分でゼロからモデルを創造しなければならないと小宮山教授は主張する。


東大総長としての訓辞

東大総長に就任して、小宮山教授は学生生活で獲得すべき目標として次を訓辞したという。

1.本質を捉える知
2.他者を感じる力
3.先頭に立つ勇気

筆者もかすかに記憶があるが、歴代の総長の訓辞はだいたい1が多い。有名な大河内一男総長の「ふとった豚よりやせたソクラテスになれ」というのも、1の路線だ。

つまり大学というアカデミズムのトップの自覚を持って、リーダーとして社会のために勉学に励めというものだ。

そんななかで、実社会で成功する上で不可欠なコミュニケーション能力や、リーダーとなる勇気を説いているのも、行動派総長小宮山教授の特徴と思える。


日本は課題先進国

小宮山教授は日本は課題先進国だという。

まだどの国も解決したことのない問題が山積だ。エネルギーや資源の欠乏、環境汚染、ヒートアイランド現象、廃棄物処理、高齢化と少子化、都市の過密と地方の過疎、教育問題、公財政問題、農業問題など。

これらは遠からず世界共通の問題となってくる。

日本のGDPは世界第2位で世界の11.2%を占めるが、二酸化炭素排出量では世界4位、4.7%にとどまる。日本には公害対策や、省エネ、太陽電池利用、ハイブリッド車開発という輝かしい歴史がある。

日本が課題解決先進国として世界をリードするのだ。

GDP規模ではいずれ人口が10倍の中国、インドに追い抜かれようが、エネルギーの効率的利用や公害問題で示したように、持続可能な世界をつくる課題先進国、21世紀のフロントランナーとして世界の範となるのだ。


サステイナブル・ソサエティ

小宮山教授は1999年に「地球持続の技術」という本で、「ビジョン2050」という環境と資源に関するトータルビジョンを提案した。

地球持続の技術 (岩波新書)
地球持続の技術 (岩波新書)


2030年には中国・インドが先進国の仲間入りをすると予想され、2050年には今の途上国を含め、世界中のすべての国が先進国並の生活水準となる。そのとき人口は90億人となり、それ以降は漸減する。エネルギーの消費は3倍まで増える可能性がある。

2050年を目標として、持続可能な(サステイナブル)社会をつくるためには、次の3つが必要となる。

1.徹底したリサイクルによる物質循環システムの構築
2.エネルギー効率を現在の3倍に引き上げる
3.自然エネルギーの利用を現在の2倍に引き上げる

ハイブリッド車から深夜電力が利用できるプラグインハイブリッド車、さらに電気自動車に向かうことによって自動車用のガソリン消費は2050年までにはゼロとすることができるという。

小宮山教授は廃材、モミガラ、麦わらなどを利用したバイオマスも提唱する。

バイオマス・ニッポン―日本再生に向けて (B&Tブックス)
バイオマス・ニッポン―日本再生に向けて (B&Tブックス)


小宮山教授は、自宅でも太陽光発電、アイシネンという断熱材、二重ガラス、エコキュートというヒートポンプ型冷暖房を導入して、自分でも実践している。


教育に関する提言

教師育成にも問題があると小宮山教授は主張する。

筆者も知らなかったのだが、以前は9割の高校生が物理を学んだが、今の高校ではわずか2割しか受講していない。

また以前は大学3年生からでも単位をよけいに取ることで、教員免許が取れたが、今は小学校の先生になるためには、事実上文系の教員養成コースに行かないと難しい。

物理も勉強したことがなく、文系で先生となるので、理科の嫌いな小学校の先生がどんどん増えていると。

小宮山さんは教員免許取得機会の多様化を主張しており、さらに教育院を設立して、多くの大学と教育委員会が共同して、新しい教師育成と現場の教師の研修にあたるべきだと主張する。


高等教育投資の財源

日本と米国の高等教育投資の差は大きいと小宮山教授は指摘する。

日本は2兆円だが、米国は15兆円で日本の7.5倍もある。これに加えてエンダウメントと呼ばれる寄付を基にした基金を高利で運用し、巨額の運営資金としているのだ。

たとえばハーバード大学の基金は3兆円弱、これを平均運用利回り15%で回して、2006年の利益は4,000億円にも上る。イェール大学は2兆円、平均運用利回りは20%に達するという。

日本では慶應大学のエンダウメントの規模が300億円で、全く勝負にならない。東大の年間予算が2,000億円なので、米国の一流大学は基金の運用益だけで東大の年間予算の倍の資金を得ているのだ。

米国の大学が豊富な資金によって、学費免除と奨学金を与えて、世界中から優秀な学生をリクルートしているのは知る人ぞ知る事実だという。

教育の質は予算規模だけでは決まらないが、理系などの実験装置・設備が必要な分野では、予算の差が高度な研究が可能かどうかを決めるファクターともなる。

小宮山教授は日本の大学への財政投資を今の倍の5兆円に増やすべきだと主張する。

財政事情が許さないのであれば、米国の様に個人の寄付を活用するために、税額控除を認めるべきだと主張する。

現在の日本の税制では、寄付は基本的に所得控除で税額控除ではない。

東大では2名の副理事に加え、10名以上をフルタイムで雇用して寄付集めに専念させているが、現状では限界があると。

発泡酒の例を見るまでもなく、税制は社会を動かす力がある。その意味で寄付を税額控除として、日本国民の1,500兆円の個人資産を教育に振り向けようという小宮山教授の主張は合理的だと思う。


東大の公開講座Podcasting

東大の知に関する公開講座がPodcastingで提供されている。iTunesで無料でダウンロードできる。

ノーベル賞受賞者の小柴昌俊教授が第1回に宇宙はどうやってできたかを講義している。

筆者もダウンロードして現在聞いているが、わかりやすく面白い。

便利になったものだ。

東大ポッドキャスト







日本人への応援歌

日本は江戸時代に教育普及率が70〜85%に達し、当時の世界で圧倒的にトップだった。高い教育水準と識字率が文明の基盤でもあった。

明治になって、欧米に工業化の面で追いつくべく富国強兵を実現した。敗戦でほとんどすべての産業基盤、社会基盤を失ったが、再び欧米モデルを追いかけ、終戦から23年後の1968年に世界第2位のGDPを達成した。明治維新から100年後のことだった。

狭い国土で乏しい資源でありながら高い成長を達成し、なおかつ公害問題もエネルギー問題も解決した日本。

その国民性を持ってすれば、「課題先進国」として世界に先駆けて課題を解決することもできるはずだと小宮山教授は日本国民に対してエールを送る。

「課題解決先進国になれ、日本はそれができるのだ、日本はきわめて良い位置にあるのだ」と。

行動派総長の日本への応援歌。あらためて発見することも多い。是非一読をおすすめする。


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Posted by yaori at 03:10Comments(0)TrackBack(0)この記事をクリップ!