2008年01月24日

フラット化する世界 毎年アップデートされる"ダイナミック"な本

2008年1月24日追記:

以下あらすじで紹介したトム・フリードマン氏の「フラット化する世界」の増補改訂版が発売になった。書店に行ったら山積みになっており、アマゾンの売り上げランキングでも171位に入っている。

このあらすじの初掲分にバージョン3.0の日本語訳がないため、英語のオーディオブックをダウンロード購入したと書いたが、なにせ全部で27時間もの大作なので、実は現在もまだこのオーディオブックを聞いている。

改訂増補版では、最近のストーリーが多く取り上げられているが、最も印象に残ったのは一昨年ノーベル賞を受賞したグラミンバンクのムハマド・ユヌスの話だ。

ムハマド・ユヌス氏が創設したグラミンバンクでは、バングラデシュの8万人の乞食に、一人10ドル程度の金を貸して、お菓子や玩具などの訪問販売業に職種転換をはかっているという。乞食がフルタイム販売員となり、乞食から抜け出す人、半分乞食、半分訪問販売の人が増えたという。

たしかにマイクロクレジット運動で、貧困は世界からなくせるかもしれない。

この本のそこかしこにインド人などの外国人が出てくるが、オーディオブックのナレーターは、インド人や他の外国人のアクセントをまねて話しているので、芸が細かく面白い。英語に慣れている人は、オーディオブックもおすすめである。

同じ本の改訂版が、いきなりベストセラーというのも珍しいと思う。大変参考になる本なので、あらすじを再掲する。



2008年1月8日初掲載:

+++今回のあらすじは長いです+++

フラット化する世界 [増補改訂版] (上)フラット化する世界 [増補改訂版] (上)
著者:トーマス フリードマン
日本経済新聞出版社(2008-01-19)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

前作「レクサスとオリーブの木」が世界的ベストセラーとなったピューリッツァー賞受賞3回のジャーナリスト トム・フリードマン氏の最新作。原著は2005年4月に初版が発売され、1年後の2006年4月に改訂増補版、さらに2007年7月にバージョン3.0が発売され、毎年内容がアップデートされている。

日本語版でも改訂増補版の翻訳が2006年5月に出版され、バージョン3.0の翻訳が2008年1月18日に発売される。

ひとことで言うと「ダイナミックな本」だ。

正確に言うと「ダイナミックに動く世界情勢を、(本としては)ダイナミックに追いかけている本」とでも言うべきなのだろうが、日本語版で800ページもの本が、毎年アップデートされているというのはダイナミックだと思う。

あらすじが長くなってしまったので、内容を簡潔に言いあらわした次のストーリーを紹介しておく。この本の言いたいことが大体わかると思う。

フリードマン氏は、こどもに次のように言い聞かせなければならないと語る。

「いいか、私は子供の頃、よく親に『トム、ご飯をちゃんと食べなさい ー 中国やインドの人たちは、食べるものもないのよ』といわれた。

おまえたちへのアドバイスはこうだ、『宿題をすませなさい ー 中国とインドの人たちが、おまえたちの仕事を食べようとしているぞ』。」



上下二巻の大作なので、一度図書館で借りたが結局手つかずで挫折し、今回は2度めの挑戦だ。

実は会社の上司から、筆者の昔の上司が絶賛しているという話を聞いて、興味を持って再度読んでみた。たしかに凄い本だ。筆者も今までいろいろなビジネス書を読んできているが、こんな本は見たことがない。

この本の凄いところは、著者のトム・フリードマン氏が世界各地で幅広く取材し、きら星のような企業や政府、大学のVIPにインタビューしたFirst-hand-basisの情報をふまえて、この本を書いている事だ。

巻末にインタービューした相手への謝辞を列記しているが、この本の主題のインド関係ではインフォシスのCEOやWiproの前副会長から直接話を聞いており、他にビル・ゲイツやラリー・ペイジ、エリック・シュミット(Google)、ジェリー・ヤン(Yahoo!)、IBM、マイクロソフトのエクゼクティブなど約100名がリストアップされている。

さらに凄いのは、日本語訳で800ページもの本を、毎年アップデートするという著者の熱意だ。

英語版の冒頭にバージョン3.0発刊にあたってのトム・フリードマン氏の言葉が載っている。

「一年前に本書の改訂版を発行してからも急速に時代は変化しているので、章を二つ追加し、改訂せざるをえなかった。そして評者や読者、特に子供を持つ親からの要望や質問にも答えたかった」と、インタラクティブ時代にふさわしいコメントに加えて、「出版業界もスピードアップしたので、毎年全面改訂することが可能になった」と語っている。

読んだ日本語訳より新しいバージョン3.0が既に英語で出版されていることを知り、筆者も思わず最新版の英語のオーディオブックをaudible.comでダウンロード購入してしまった。

audibleでは現在月額$7.49で毎月1タイトルをダウンロードできるキャンペーンを実施中なので、アマゾンで買ったら5,700円のオーディオブックを$7.49でダウンロード購入できた。

audible special offer






オーディオブックは27時間にも及ぶものだが、分かりやすい英語なので、英語に慣れている人には、日本語訳を800ページ読むよりもむしろ楽だと思う。英語版ならではの、インドのコールセンターでのアクセント矯正ドリルの早口言葉も面白い。

"A bottle of bottled water held thirty little turtles. It did not matter that each turtle had to rattle metal ladle in order to get a little bit of noodles, a total turtle delicacy....."


この本のタイトルのフラット化というのは、組織のフラット化というように使われているヒエラルキーやミドルマンがなくなったという意味と、地球の反対側でもインターネット等の新技術と新しい活用法により、まるで隣町のように一体化されたという意味の二つだ。

英語の初版本の表紙のイラストは、地球は丸くない平面だというFlat Earth Societyの地球平面説を意識させるもので面白い。

World is flat











写真出典:Wikipedia

筆者が一度挫折したように正直取っつきにくいが、まずは第一章の「わたしが眠っているあいだに」をざっと読んで貰いたい。

インドや中国のコールセンター、確定申告、レントゲン写真解析、業績速報などのデータ処理アウトソーシング、家庭の主婦へのホームソーシング、マクドナルドのドライブスルーの集中処理センターなど、刺激的な先進事例を多数紹介しているので、これに興味を持ったら、次章以降を読むと良いと思う。


グローバリゼーション3.0

フリードマン氏は、近世からのグローバリゼーションを3段階に分けている。

1.グローバリゼーション1,0 コロンブスの新大陸発見から1800年頃まで 原動力は国家のグローバリゼーション
2.グローバリゼーション2.0 1800年から2000年まで 原動力は企業のグローバリゼーション
3.グローバリゼーション3.0 2000年以降 原動力は個人のグローバリゼーション

フラット化した世界では、アメリカのミドルクラスは、中国・インドと競争するようになる。そこで冒頭のフリードマン氏の「勉強しなさい」発言が出てくるのだ。


インド・中国の参入でかすむ21世紀の日本のプレゼンス

トム・フリードマン氏がグローバリゼーション3.0と呼ぶ時代で、日本のプレゼンスが小さくなっていることを痛切に感じた。

800ページあまりの本だが、日本人がまともに登場するのは、最初に登場する大前研一氏の大連での日本語コールセンターやチャイナ・インパクトなどの話と、「インターネットは恐竜を死滅させた巨大隕石だ」と語るソニーの出井前会長、「東アジアでは一所懸命勉強するDNAがある」と語る野村総研のリチャード・クー氏の3人くらいだ。

日本の進んだインターネット環境や、JETRO、ドコモのワイヤレステクノロジーなどが紹介され、三洋電機、ソニーなども登場するが、印象が薄い。

21世紀のグローバリゼーションの主役は、アメリカと中国/インドなのだということを、思い知らされる。

1999年に出版したフリードマン氏の「レクサスとオリーブの木」のグローバリゼーション側の主役がトヨタだったことを思えば、テーマが異なるとはいえ日本の凋落を感じてしまう。

レクサスとオリーブの木―グローバリゼーションの正体〈上〉


ただそんなことを嘆いていても仕方がないので、先に紹介した大前研一氏の大前流心理経済学 貯めるな使え!でも力説されているように、我々日本人はこの本に書かれている世界の変化に対応して、どう21世紀を生きていくのかを考えるのだ。


世界がフラット化した10の要因

フリードマン氏は世界がフラット化した要因として、次の10項目を挙げている。

1.ベルリンの壁崩壊(1989年11月9日)と、創造性の新時代
ベルリンの壁崩壊後の東欧や旧ソ連諸国のみならず、中国やインドを加え30億人規模の経済圏が西側に合流した。ベルリンの壁崩壊と同じ年に中国では天安門事件(1989年6月4日)が起きて、開放政策、共産主義市場経済に大きく転換した。

またインドでは、それまでヒンドゥー経済成長と揶揄されていた3%の成長から、1991年のマンモハン・シン現首相による政策転換により高度成長に転換し、10億ドルに枯渇していた外貨準備も、1,000億ドルを超えた。

2.インターネットの普及と、接続の新時代
インターネットの普及は説明を要しないが、マイルストーンとしてこの本で取り上げられているのは次のようなイベントだ。MS−DOS時代からのPCユーザーの筆者にとって、同時代史として懐かしく感じられるところだ。

1977年 スティーブ・ジョッブスとスティーブ・ウォズニアックがアップルIIを発売
1981年 IBMがマイクロソフトのMSーDOSを使ってIBM PCを発売
1985年 マイクロソフトが最初のMS-Windowsを発売
1989年 ベルリンの壁崩壊
1990年 マイクロソフトがMS-Windows 3.0を発売 最初のWYSIWYG対応 パソコン通信全盛
1991年 バーナーズ・リーが最初のウェブサイトをオープン WWW, HTML, URL, HTMLなどの規格が決まる
1994年 モザイクを使ったインターネットブラウザー ネットスケープ配布開始 あの流れ星がなつかしい
1995年 ネットスケープの会社公開(8月9日) インターネットバブルをつくった
1998年 サンクスギビング(11月)頃からインターネットショッピングが急成長
1999年 インターネットバブル
2000年 3月にインターネットバブル崩壊
それ以降  オープンソース、光ファイバーによるインターネット通信の高速化

参考までにバーナーズ・リーのつくった世界初のウェブサイトは今でも見られるので紹介しておく。

infocern







3.共同作業を可能にした新しいソフトウェア
最初はコンピュータと電子メールの組み合わせ(自動確認メールなど)から始まった。XML, SOAP, AJAXを利用した共同作業用のソフトウェアの開発が進み、世界中で分業ができるグローバル・バーチャルオフィス化が進む。


4.アップローディング:コミュニティの力を利用する
もともとエンジニアには頭の良さ、自分の優れた仕事をみんなに知って欲しいという願望があり、自然発生的に世界的なコミュニティ開発ソフトウェアプロジェクトが始まった。

ウェブサーバー管理ソフトのアパッチ(名前のアパッチは、"a patchy server"(パッチだらけのサーバー)から付いたという説もある)、ジミー・ウェルズが始めたWikipedia、Linuxなどが典型だ。

変わったオープンソーシングの実例として、カナダの金鉱開発会社、Goldcorpの例が紹介されている。同社は自社の持つマイニングデータをウェブで公開し、金鉱探しコンテストを行った結果、上位入賞の5件の内4件で金鉱を掘り当てた。

ブログによる個人の情報発信、評論は社会的にも大きな影響力を持つようになり、CBSやBBCもブロガーに記事や映像を依頼するようになってきた。


5.アウトソーシング:Y2Kとインドの目覚め
インドではネール首相がつくったインド工科大学(IIT)7校が、優秀な技術開発を担う人材を大量に輩出した。IITはMITや東大よりも難しいといわれているが、それまでは人材がインドに埋もれていた。

GEのジャックウェルチ前会長は、1989年にインドを訪問したときに、インドの知的レベルの高さに「インドは知的能力が発達した発展途上国だ」と驚き、ジョン・F・ウェルチ科学技術センターをインドにオープンし、多くの仕事をインドにアウトソースした。

GEとジョイントベンチャーを組んだのがインド最大のソフトウェア会社のWiproであり、他にインフォシス、タタ・コンサルタンシーサービスなどがある。インドのソフトウェア業界が世界に躍進するきっかけとなったのは、世界を巻き込んだY2K問題対策のプログラミング、検査を下請けで引き受けたことだった。


6.オフショアリング:中国のWTO加盟
この節はライオンとシマウマの話から始まる。シマウマはライオンより早く走らないと生き残れない。ライオンは一番足の遅いシマウマに追いつけないと飢え死にする。世界で一番足の速いライオンは中国であろうと。(原著のバージョン3.0ではシマウマでなくガゼルになっているが、なぜ日本語訳がシマウマなのか不明)

2001年の中国のWTO加盟時に、中国は国際法、標準的な国際商習慣に従う旨を表明しており、その通り行動してきた。このあおりを受けたのがメキシコで、中国のWTO加盟以来メキシコでは工場閉鎖が相次いで、アメリカの第二番めの貿易相手国という地位を中国に奪われている。

大前研一氏のチャイナ・インパクトで「中国は脅威、中国は顧客、中国は競争相手」と語っていることが紹介されているが、中国は単に低賃金競争で勝っているのではない。アメリカの研究によると、中国の国営企業を除く民間企業部門では、1995−2002年で生産性が年率17%向上している。

中国がこれだけの経済発展を遂げた一つの理由は、文化大革命世代は役に立たないが、主に中国本土出身で多国籍企業の経験を積んだ「新中国マネージャー」の力が大きい。


7.サプライチェーン:ウォルマートはなぜ強いのか
史上最高のSCMオペレーターとされるウォルマートの、CPFR(共同計画・予測・補充)プログラムや、RFIDを使ったSCMが紹介されている。ウォルマートの倉庫では、伝票を廃止し、オペレーターはヘッドセットをつけて作業を行い、生産性は飛躍的に向上したという。

1988−2000年のウォルマートのCEOだったデビッド・グラスは、フォーブス誌で「最も過小評価されているCEO」とされている。

ウォルマートの中国との貿易額は国にするとロシア、オーストラリア、カナダを抜いて世界第八位だ。三洋電機はウォルマートの本拠があるアーカンサス州の工場を閉鎖せずに操業を続けたことで、今や世界最大のテレビ工場を持っている。

デルのPCをフリードマン氏自身が分解し、そのSCMを現地取材した話も面白い。様々な企業から部品を集めてマレーシアで組み立てていたが、日本企業の部品があまり使われていないのが象徴的だ。


8.インソーシング:UPSの新しいビジネス
UPSは様々な企業のサプライチェーンに食い込み、パパジョンピザの原料調達や、東芝パソコンの修理、ナイキのオンラインショップなど、「シンクロナイズド・コマーシャル・ソリューション」と呼ばれる水平分業を請負っている。


9.インフォーミング:知りたいことはGoogleに聞け
グーグルのCEOのエリック・シュミットは「検索というのはまったく個人的な作業なので、ほかの何よりも人類に力をあたえた」と語っている。

「グーグルはまるで神だ。神はワイヤレスで、どこでもいる。すべてを見通す。この世でなにか知りたいことがあれば、グーグルに聞けばよい。」というユーザーの声をフリードマン氏は紹介している。


10.ステロイド:新テクノロジーがさらに加速する
ステロイドとは穏やかでないが、ワイヤレステクノロジー、インスタントメッセージ、ファイル共有、IP電話(スカイプ、VoIP)、テレビ会議、CGなどの新しいテクノロジーが紹介されている。

ロールスロイスは、世界中の飛行機のエンジンに監視ソフトを入れ、衛星通信でリアルタイムでデータを収集し、エンジンの状態を管理しているという。


三重の集束(トリプルコンバージェンス)

コンバージェンス(集束)とは、ITバブル前後で良く使われたなつかしい言葉だが、ITと従来の技術や商習慣などを統合して、さらに良いものを創り上げる事を指している。

この本で三重のコンバージェンスと言われているのは、次の通りだ:
1.10の要因でフラットになった世界(新しい競技場)
2.旧共産圏、中国、インドなどからの30億人の新しい人々(新しい人材)
3.グローバルな水平共同作業などの新しいビジネス手法(新しい手法・ルール)

様々な例が挙げられていて、それぞれ面白いが、新しいビジネス手法として最も印象に残った例を一つだけ挙げておく。それは、イラクでの米国軍のオペレーションだ。

イラクでテロ対策に活躍している無人偵察機プレデターは、ラスベガスの基地から無線操縦されており、空からテロ勢力を監視、ミサイルで先制攻撃している。

Predator





フリードマン氏がイラクの前線司令部を訪れたとき、プレデターが写す映像を、CIA,DIA(国防情報局)、NSA(国家安全保障局)、陸軍、空軍のアナリストがリアルタイムでオンラインチャットしながら分析していたという。

陸軍と空軍や海軍は連絡も悪く、情報交換もままならなかったのは昔の話で、今や完全に協力しながら作戦を遂行しているのは驚きだ。まさに新しい時代のゲームのルールだと思う。

そしてハードだけではダメだ。無人偵察機だけでも、監視システムだけでもダメだ。それらハードを完璧に使いこなすビジネス手法がないと、このオペレーションは成り立たない。

基地では多面スクリーンにプレデターからの映像を流していたが、一つの画面ではボストンレッドソックスとヤンキースの試合を流していたというのが、いかにもアメリカらしい。


グローバリゼーション3.0を生き抜く為に

フリードマン氏は、グローバリゼーション3.0時代の人間像は次の三つだと語る。
1.かけがえのない特化した人々
2.地元に密着した人々
3.代替可能な工場労働者、ミドルクラスなど

このうち3.のミドルクラスは、これからはインドや中国との競争にさらされる。この時代を生き抜くためには、次の才能を身につけなければならない。

1.学び方を学ぶ ー まずは正しい学び方を学ぼう
2.IQよりもCQ(Curiosity Quotient)とPQ(Passion Quotient) ー 好奇心と熱意が差を生む
3.人とうまくやる能力 ー いつの時代にも人とうまくやれる人が成功する
4.右脳の資質 ー 大前さんが翻訳したダニエル・ピンクの「ハイコンセプト」を引用している。

一例として、ジョージア工科大学のクルー学長は、「才能のある学生の大部分は、教室で教わることよりも、創造的な表現手段のほうに興味を示す」と気づいて、学生受け入れ基準を変えて、楽器やコーラス、チームスポーツをやるような学生を集めた。卒業率も上がり、卒業生の質も上がり、今やマーチングバンドにチューバが24本もあるという。

クラリネット奏者の大前さんが、さぞかし喜びそうな話だ。


アメリカの強みは薄れてきている

アメリカの基礎教育はKー12といってK=Kindergartenから12年生=高校3年だ。アメリカは20世紀初頭のハイスクール運動で、高校教育までの義務化ができている。

さらに「すべてのアメリカ人を、男も女も、大学のキャンパスに立たせることが夢だ」とフリードマン氏は語る。

アメリカの強みは、高等教育であり、アメリカ全体で大学以上の高等教育機関が4,000ある。その他世界全部足しても7,768しかない。カリフォルニア州だけもで130の大学があり、130以上の大学を持つ国は世界で14ヶ国しかない。

移民や留学生を惹きつけるアメリカの魅力は、アメリカ社会が開放的で、知的財産が保護されており、柔軟な労働法があげられる。

しかし世界がフラット化したので、グローバルな水平共同作業の結果、母国で良い給料で、居心地良く快適で、多国籍企業の良い仕事が得られるようになってきた。

インド本国でITの仕事に就くことの方が、すさまじい競争になっており、今や「インドに居られるかどうか」が悩みになってきているという。

必ずしもアメリカで教育を受ける必要性がなくなってきたのだ。

ノーベル賞経済学者のポール・サミュエルソンは、アメリカは自転車レースの先頭で、後ろの人の空気抵抗を減らしてきたと言うが、これからもアメリカは先頭で行き、世界の頭脳を惹きつけなければならない。

そうしないと今まで外国人や移民の頭脳に頼っていたアメリカの高等教育と高度研究の競争力が失われてしまうのだ。


Perfect Storm

アメリカ最古の工科大学であるレンセラー工科大学長のシャーリー・アン・ジャクソンは、今の現状は"Perfect Storm"だと表現する。エアマットの空気が抜ける様に、気が付かないうちに頭が地面に着いてしまうのだと。

老壮年層の引退、若手不足、外国人不足でアメリカのエンジニアの層が薄くなるのだ。中国では大卒の60%が理工系だが、アメリカでは31%にとどまる。

プロバスケットボール選手でつくったアメリカのドリームチームは、アテネオリンピックでは銅メダルだった。もはやアメリカが突出してはいないのだと。

ベンチャーキャピタルのクライナーのジョン・ドーアは「中国の指導者層と話をすると、みんなエンジニアなんだ。だから呑み込みが早い。アメリカ人はだめだ。みんな弁護士だからね。」という。

ビル・ゲイツも「中国人は危険を冒すのが平気で、重労働が平気で、教育がある。中国の政治家に会うと、みんな科学者かエンジニアだ。数字の話ができる。」と語っている。

マイクロソフトは世界で4番目の研究所を北京に開いたが、ビル・ゲイツによると「出てくるアイデアの質がものすごく高い。これにはぶったまげた。」という。

フルタイム研究者200人を抱えるこの研究所では、次のような金言があるという「いいか、おまえが10万人に一人の人材だとしても、おまえみたいなやつは他に13,000人いるんだ」。ビル・ゲイツでなくても「ぶったまげる」話だ。

フリードマン氏は、フラット化時代に適したケネディ大統領のニューフロンティア政策のようなトップダウンの政策が必要だと語る。IBMを再生させたルー・ガースナーの様なリーダーが必要だ。ガースナーは、終身雇用をやめ、エンプロイアビリティ、雇用される能力に置き換え、IBMを再生させた。

2004年に競争力評議会によるナショナル・イノベーション・イニシアティブサミットが開催され、イノベート・アメリカと題した研究が発表された。中国はウェブに公開されていた報告書を入手し、注目していたが、ブッシュ大統領は無視して、同じ日、同じ場所での共和党支持者への演説を優先させた。

ブッシュ政権のやっているようなことをこのまま続けると、アメリカ・中国・インドは、地球環境を顧みない「悪の枢軸」と呼ばれる可能性もあるのではないかとフリードマン氏は語る。


フラット化した世界で勝ち抜く条件

フリードマン氏の「天然資源がすくないほど、その国の人はフラットな世界で成功する」という法則には、野村総研のリチャード・クー氏も賛成する。中国には「頭と胃に入れてしまえば、誰も奪うことができない」ということわざがある、「東アジアでは一所懸命勉強するDNAがある」のだと。

中東でもその例はある。バーレーンだ。バーレーンは中東で最初に石油が出なくなったが、労働者の能力開発と労働改革に力を入れ、女性の参政権も認め、アメリカと最初にFTAを結んでいる。

ちなみに前作レクサスとオリーブの木―グローバリゼーションの正体〈上〉">で「オリーブの木」側として取り上げられていたイスラムなどの民族主義者の動きの研究は、いわばフリードマン氏のライフワークでもあり、この本でも頑強な抵抗勢力として、様々な場所でふれられている。バーレーン、ドバイなどのアラブの中での穏健派、経済開発推進派と正反対の急進派イスラム勢力だ。

フラット化した世界では、インフラ、教育、法のガバナンスという3要素がそろった国が繁栄する。そしてビジネスのしやすさを判定する要素として、起業、雇用・解雇、契約執行、融資、破産・廃業のしやすさが挙げられる。

たとえばペルーではエルナンド・デ・ソトの改革により、10年かけて不法居住者120万世帯に、所有権権利書を発行した。これにより親は財産を守るために家に居る必要がなくなり、外に出て仕事を見つけられるようになった。また子供も学校に行けるようになったという。

大前さんが「心理経済学」で、なぜ南米のペルーの経済が伸びているのか、石油の出ないドバイがなぜ好調なのかと質問していたが、答えがこの本でわかった。

その他参考になる話として、石油消費削減こそ国家の最優先課題だとするセット・アメリカ・フリーの運動も取り上げられている。

プラグインハイブリッド車とアルコール80%の混合ガソリンで、1ガロン当たり500マイル(リッター当たり222KM)の燃費が達成できるので、アメリカの石油消費の2/3を占めている輸送向け需要が激減し、アメリカは石油を自給できるのだという。世界の未来像を考えるときには、これらの代替エネルギーの動きも考慮に入れる必要があるだろう。


世界情勢が手に取るようにわかり、分析もたしかだ。800ページもの大作だが、このあらすじを参考にして、興味を持ったら、是非書店か図書館で本を手にとって、ページをめくってみて頂きたい。


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Posted by yaori at 13:00Comments(0)TrackBack(0)