2016年06月14日

技術大国幻想の終わり 日本産業界の生きる道は「価値」の追及



失敗学の権威・畑村洋太郎東大名誉教授の近著。

この本のカバーに結論が書いてある。

「技術では負けていない!」という思い込みを捨てよ。

「品質」、「機能」はもはや競争力にはならない。これからは人々の欲しがる「価値」を突き詰めろ。


まさにその通りだと思う。

畑村さんは、まずご自身が昔読んで感銘を受けたという「碧素(へきそ)・日本ペニシリン物語」を紹介する。



第2次世界大戦中にアメリカ・英国で実用化されて、多くの傷病兵を救うことになるペニシリンが開発されたという事実を、戦争中にドイツから戻った潜水艦が持ち帰った医学誌で知った日本の医学者が、非常な努力の末、10カ月という短期間で開発に成功する話だ。

戦後50年の日本は、次の絵のように、闇夜に光る灯台のように「答えは存在する」という事実があるだけで、人はその方向に向かって努力し続けられてきた。畑村さんは灯台に向けて和船で漕いでいる絵をシンボリックに掲載している。

ちなみに、この絵は西伊豆の戸田(へだ)で、和船を漕いだことがある人にはピンとくるはずだ。そう、戸田湾の湾口突破すると、左に灯台が見えるのだ。

畑村研究室(現在は中尾研究室)は、毎年研究室の夏合宿を戸田で行っているから、この和船の絵になったのだ。

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出典:本書20ページ

しかし、それに次ぐ20年は、「答え」を自分で探さなくてはいけなくなって努力の方向を見失った20年間なのだと畑村さんは語る。

日本の産業界が行き詰っている原因は日本の製品の品質が世界一だという品質幻想だ。品質幻想には次の3つがある。

1.「日本人がつくるものが優れている」という幻想。
 たとえば、日本でつくる日本車のほうが、海外でつくる日本車よりも品質は優れているというような幻想だ。実際には、日系自動車会社ではブラジルで作っている日本車と日本でつくっている日本車の品質は変わらないという。むしろブラジルのほうが、生産性が高いので、日本より良いという。

2.「職人の技幻想」
 たとえばアップルのiPodのステンレスケースは、当初新潟県の燕の金属加工業者が加工していた。ところが、そのうち中国でもできるようになり、燕への注文は来なくなった。職人の技がデジタル制御の加工機械に置き換えられているのだ。

3.品質という言葉に対する間違った理解
 品質とは、あくまで消費者の要求に応えているかどうかで決まってくる。「品質の良いものをつくれば売れる」というのは誤解だ。消費者が求めているのは、良い品質だけではない。「適切な品質」、「適切な価格」、「デザイン」、「必要な機能」、「使いやすさ」、「楽しさ」、「サービス」といった要素すべてで、これらを満たす製品が良い製品なのだ。

もう一度消費者と向き合い、市場を観察しないと、まさに闇夜に海図も持たないで漕ぎ出すことになってしまう。

消費者の求めているものをつくるということを徹底しているのが、韓国のサムスンだ。

この違いは、「価値」を考えることの重要性を理解しているかどうかだ。

畑村さんは、インドに出張した時に、現地企業の社長から、「日本の企業はたしかにどうやってつくるかという構造を考えるのはうまい。でもその土地や土地に住んでいる人々が大切にしている文化のことはあまり考えていません。これは日本企業が価値について真剣に考えてこなかったからではないですか」と言われたことを紹介している。

たとえばインドで売れている電気冷蔵庫は、鍵がかけられ、停電しても何時間は持たすように冷気が上から降りてくる構造だ。サムスンやLGなどの製品がよく売れているという。

畑村さんは、サムスンの元常務だった吉川良三さんとHY研という研究会をつくっている。

以前あらすじを紹介した「『タレント』の時代」の著者の酒井崇男さんはHY研のメンバーだ。



畑村さんは、酒井さんの本から、ある大手通信系の研究所は優秀な若者たちの就職先として知られているが、実際には市場で通用する研究成果がほとんど出てこないまま、毎年数千億円規模の研究費を消化し続けていることを紹介している。

まさに「価値」を考えていない結果である。

サムスンは毎年何百人かの地域専門家を海外各地域に送り出している。

語学研修を終えた後、現地の人と同じように生活することで、その現地の人の習慣や欲求、考え方を吸収していく。現地の文化を身につけた人間を養成することで、はじめて現地の人の価値観にあった商品をつくりだすことができると考えているからだ。

サムスンが変わったのは、1997年の韓国における通貨危機がきっかけだという。このとき韓国は国家の存亡の危機にさらされたが、そんな状況の中で社員の多くが危機意識を持ったことが当時進めていた様々な改革につながったという。

この本では、畑村さんが見聞した世界各地の事例が紹介されていて参考になる。

・中国では自転車はほとんど姿を消し、いまでは見た目はスクーターと変わらない電気自転車が主流だ。年間3,000万台生産しているという。原理的には電気自転車を2台組み合わせれば、電気自動車ができる。

電気自動車が主流になると、電気製品のように組み合わせ技術でつくられるようになる。製品のデジタル化・モジュール化・コモディティ化が進めば、世界のどこで生産しても同じものができるようになる。

・スティーブ・ジョッブスは、いままで機能を中心に考えられていた電化製品の見た目の格好良さ、肌触りといった五感のイメージに徹底的にこだわった。たとえば、iPhoneが入っている紙箱のコストに、600円かかっているという試算があるという。筆者も、他の電気製品の箱はすぐにリサイクルに出してしますが、アップル製品の箱は取っている。なるほどと思う。

・インドの自動車産業は2020年には1,000万台を超えるという予測があり、これは現在の日本の自動車生産台数と同じだ。中国はすでに日本の生産台数の2倍を超えて、2014年では2,400万台を生産した。

中国の自動車生産能力はすでに5,000万台を超えているという見方もあり、いずれ輸出市場に出てくることが予想される。すでに南米ペルーでは、中国車が日本車の半分の価格で売られているという。

・中国で成功している日中合弁の自動車会社は、車体は日本で高級車の部類に入る2,000CCクラスのものを基本にして、そのシートをレザー製にして高級感を出すが、エンジンは1,500CCのものを使ってコストを抑えており、それが市場のニーズに見事に合っているという。

・ホンダベトナムは、密輸された劣悪な中国製コピーバイクに席巻された市場を、コピーバイク修理用にホンダの純正部品を売るという商売で業績を回復し、さらにベトナムで製造した部品をつかったバイクを中国製の倍の価格で売り出して、いまは市場の7割を抑えている。

・インドのニューデリーの地下鉄は日本のJICAの技術援助で建設された。非接触ICカードトークンなどの技術を導入しているが、日本から買った電車は、わずか一編成のみで、その後は自分たちでつくっている。これは中国が日本から新幹線を買ったときとまったく同じやり方だ。日本は単なる製品輸出より、その後のメンテナンスや運用も含めたビジネスを考える必要がある。


畑村さんが経験した具体例が紹介されていて参考になる本である。


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2015年05月05日

異端児たちの決断 日立製作所 川村隆前会長が日経「私の履歴書」に登場

2015年5月5日追記


日経新聞の「私の履歴書」に、この本の主人公の日立製作所の前会長 川村隆さんの連載が始まったので、最初の部分だけ紹介しておく。

日本経済新聞 印刷画面_ページ_1































出典:日経新聞(電子版)2015年5月1日「私の履歴書」


日経IDに会員登録してログインしないと、読めないかもしれないので、その場合には登録して読んでほしい。

ちなみに、川村さんの前の「私の履歴書」はニトリの似鳥昭雄ニトリホールディングス社長だった。連載中は時々読んでいたが、この休みに1か月分まとめて読んだ。ひさしぶりに超面白い履歴書だった。こちらもおすすめである。


2015年4月29日初掲



リーマンショックの直後、日本の製造業では最大規模の8,000億円弱の最終赤字を計上した日立製作所の経営を立て直した川村隆さん他の経営改革の本。

川村さん自身も「ザ・ラストマン」という本を書いているので、今度読んでみる。



日立製作所の2005年から2014年までの業績推移は次の表の通りだ。

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出典:日立製作所IRデータ

川村さんは2009年4月に庄山会長、古川社長の後を継いで日立製作所の社長兼会長に就任し、1年間社長と会長を兼務した後、中西さんを社長として引き入れ、川村・中西体制で日立製作所の復活の舵を切った。

川村さんは2014年に会長職を中西さんに譲り、自らは相談役となって取締役も退任した。中西さんは川村さんを引き継いで2014年に会長兼CEOに就任している。

川村さんは日立製作所では重電畑をずっと経験し、中西さんも重電畑出身だ。日立工場では一緒に働いたこともある。川村さんは1999年に日立製作所の副社長に就任した後、4年後の2003年に、日立本体の副社長を退任し、子会社の日立ソフトウェアエンジニアリング(現日立ソリューションズ)会長に転出、その後は日立マクセルなどのグループ会社の会長職についた。いわゆる「上がり」の人事だ。

そんな「上がり」の川村さんを呼び戻した日立製作所の人事は当時評判になった。

この本では、川村さん自身がちょうど乗り合わせた1999年の全日空機ハイジャック未遂事件が、ちょうど乗り合わせた非番(デッド・ヘッド)のパイロットが、機長を包丁で刺し殺した航空マニアのハイジャック犯がいる操縦室に突入し、かろうじて機体を墜落から救った話を紹介して、川村さんをはじめとする員数外の人間が日立を救ったと紹介している。

筆者はあまり日立製作所に注目してこなかったが、この本で紹介されている日立製作所の取締役会のメンバーを見て驚いた。

ソニーの取締役会は20年ほど前から、国際性とバラエティに富んだ人材で構成されていて有名だが、今の日立製作所の取締役会メンバーも、ソニーと比べても遜色のない多彩な人材をそろえている。

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出典:本書

取締役がそろった写真も本書に載っている。

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出典:本書

筆者は総合商社に勤めているが、日立製作所の取締役会の構成をみると、最も事業のグローバル展開が進んでいるはずの商社が、経営体質では全然グローバルでないことを痛感させられる。

この本を読んで、日立製作所が川村体制下、素晴らしい強靭な体質の会社に生まれ変わったと思ったが、日立OBの大前研一さんは、厳しい評価をしている。

大前さんの「BIZトピックス」というメルマガ?を紹介しているサイトから引用すると。

「このようにV字回復を果たした日立ですが、「本当の復活と呼べるかどうかはまだわからない」と大前研一は指摘します。近年の日立の業績推移をよく見ると、利益は回復しているのに、売り上げが伸びていないことに気づきます。

これが何を意味しているのかといえば、日立が新しい成長産業を見出して、大きな利益を挙げているわけではないということです。既存事業の取捨選択だけでは巨大企業の将来戦略としては不十分というわけです。

「赤字事業をどんどんリストラする一方で、グループに儲かっている会社があれば本体に取り込むという形で、数字の見栄えをよくしてきただけに過ぎない」というのが大前研一の見方です。」

たしかにセグメント別の2009年から2014年までの売上高推移をみると、あまり大きな変化が見られない。

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出典:日立製作所IRデータ

しかしそうはいっても、鉄道車両事業で英国で工場を建設して英国のみならずEU向けを狙ったり、火力発電部門は三菱重工の火力発電部門と経営統合して、三菱65%、日立35%で三菱日立パワーシステムズを発足させたり、大変ダイナミックな動きをしているのは間違いない。

子会社の本体への吸収や、日立金属と日立電線の合併など、日立グループの子会社改革も進んでいる。

大前さんは単に「数字の見栄えをよくしてきたにすぎない」と手厳しいが、筆者には、日立製作所のシンボルツリーである、ハワイオアフ島のモンキーポッドのように日立グループが有機的な成長を続けているように思える。

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従業員30万人以上の日立グループの総帥・日立製作所がここまでグローバル経営に体質改善しているとは、まったく気が付かなかった。大前さんは手厳しいが、筆者はやはりすごいと思う。

日立製作所の現会長兼CEOの中西さんは料理が趣味だという。中西さんの米国駐在時代の来客用のメニューがこの本に載っているので、最後におまけで紹介しておく。プロの料理人の域に達していて、すごいとしかいいようがない。

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出典:本書

大変面白い読み物となっており、読んでいて元気がわいてくる。お勧めの本である。


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2014年11月03日

人を生かす 稲盛和夫さんの経営相談

稲盛和夫の経営問答 人を生かす 新装版
稲盛 和夫
日本経済新聞出版社
2014-09-04


京セラの創業者・名誉会長で、破綻したJALの経営再建も見事にやり遂げた稲盛和夫さんの経営相談。

このブログでは稲盛さんの「生き方」など、何冊か紹介しているので、これらも参照してほしい。

生き方―人間として一番大切なこと
稲盛 和夫
サンマーク出版
2004-07


稲盛さんの生き方が、「必ず夢は実現する」というマンガになって京セラのホームページにeブックとして掲載されているので、稲盛さんのことを知りたい人は、まずはこのマンガを読むことをおすすめする。

稲盛さんに教えを受けようという経営者の集まりが盛和塾だ。盛和塾は現在74カ所、約9,000名の会員がいるという。

日本各地とブラジル(3カ所)、米国(カ所)、中国(11カ所)にも盛和塾がある。

この本は稲盛さんが盛和塾の塾生からの16の質問に答えたものだ。盛和会の塾生は中小企業の経営者が多いので、質問も父親が創業した中小企業の2代目社長からのものが多い。

カテゴリーとしては次の4つにまとめられているが、どれも企業経営ではよく直面する問題だ。

第1章 活力ある社風をつくる
第2章 社員の心に火をつける
第3章 幹部を育てる
第4章 自らを高める − 尊敬されるリーダーとなる

稲盛さんが熱心に、「あなたを弟だと思って」懇切丁寧に答えている。

中小企業はなかなかいい人材が集まらない。稲盛さんも創業した当時は、なかなかいい幹部をつくれなかったので、「孫悟空になりたい」と思ったという。

社長が必死になって、自分の思いを伝えてくれる「宣教師」のような幹部を養成するように、あらゆる機会を設けて、訴え続ける他はないという。

創業者の父親を継いだ2代目社長が「アレやれ、コレやれ」といっても、古手の幹部が動かないのは、組織が硬直化していることもあるが、よく説得して、納得させたうえで命令することをやっていないからだと。

「経営者は一流の心理学者でなければならない」。働く人たちの気持ちが、どう揺れ動くかが読めないようでは、経営者のうちに入らないと稲盛さんは言う。

中小企業には、そんな立派な社員が来るわけはない。京セラも零細企業から始まったが、当時はどこにでもいそうな人しか来てくれなかった。しかし、そういう人たちをまず大事にするということから始めなくてはならないと。

中小企業は、資金もあまりない、技術もない、徒手空拳で創業するケースが多い。そうすると、そこにあるのは社員を含めた人間の心しかない。

稲盛さんの思想の根底にあるのは、その人間の心を大事にしてあげなければ、人をまとめることはできないということだと。

稲盛さんも、創業当初は「稲盛和夫の技術を世界に問う」を目標に会社を創業したが、すぐに「全従業員の物心両面の幸福を追求すること」に目標を変えたという。

これに「人類、社会の進歩発展に貢献すること。」が加わっている。

「人の心は移ろいやすいが、ひとたび固い絆で結ばれると、これほど強いものはない」と稲盛さんは語る。

社長は社員を惚れ込ませなければならない。惚れ込ませるには、まず社員を大事にすることだと。

このような問答の最後に、次のような稲盛さんの「リーダーの役割10カ条」が紹介されている。

要諦1 事業の目的・意義を明確にし、部下に指し示すこと

要諦2 具体的な目標を掲げ、部下を巻き込みながら計画を立てる

要諦3 強烈な願望を心に抱き続ける

要諦4 誰にも負けない努力をする

要諦5 強い意志を持つ

要諦6 立派な人格を持つ

要諦7 どんな困難に遭遇しようとも、決して諦めない

要諦8 部下に愛情を持って接する

要諦9 部下をモチベートし続ける

要諦10 常に創造的でなければならない

これとは若干異なる「稲盛経営12カ条」が京セラホームページにある稲盛さんの特設サイトに掲載されている。

特設サイトには、稲盛さんのフィロソフィーキーワードが、紹介されており、稲盛さんによる解説へのリンクがあるので、興味のある人は特設サイトも見て欲しい。


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2014年10月29日

ベネッセから詫び状と500円が届いた

ベネッセから個人情報漏えいの詫び状と500円のお詫び金支払い手続き通知が届いた。

これが詫び状だ。日本全国約4,000万人の人に届いているはずなので、目新しくもないかもしれないが、受け取っていない人もいると思うので、紹介しておく。

筆者の大学2年の次男の個人情報が漏えいしたということで、届いたものだ。

すでに大学に入学しているので、身に覚えのないダイレクトメールとかは今のところ届いていない。就活を始めるころになると、リクルートスーツなどのダイレクトメールが来るのかもしれない。

ベネッセわび状1









































ベネッセわび状2








































これが500円の支払い手続き通知書だ。アマゾンのギフト券、楽天Edy,nanacoであれば、ウェブで登録コードとログインキーをインプットすれば、すぐに受け取れる。

他に共通図書カードを送ってもらうか、ベネッセのこども基金への寄付も選択が可能だ。

ベネッセお詫び1









































content








































ベネッセこども基金の趣意書は次のようなものだ。

ヤフーBBの漏えいの時は、500円の郵便為替を送付して、現金化されなかった分はヤフーBBが自主的に寄付するという形だった。

今回は漏えい被害者に寄付を求める形で、しかもそれがベネッセ自身が運営する基金だったことから、炎上したという。

この辺の事情は筆者の友人の蒲桐蔭法科大学学科長が寄稿しているヨミウリオンラインの「おとなの法律事件簿」にも取り上げられている。

ベネッセお詫び2









































一時はうやむやになっていたお詫び金500円という相場を復活させたことでも、ベネッセ事件が企業活動に与える影響は大きい。

ベネッセは9月に経産省に報告書を提出したが、再発防止策が不十分としてすぐに突っ返され、是正勧告を受け、10月24日に再改善報告をしている。

ベネッセの再改善報告書は、公表されていない。


最初の第三者委員会の報告書は、何が起こったのかをほとんど明らかにしていないという点で不十分なものだった。

今回の再改善報告書も、内容を公開できないようなクオリティのものなのかもしれない。

いずれにせよ、10代から20代のほとんどの日本国民の個人情報を、これだけ杜撰(ずさん)に管理している会社があったとは驚きである。

欧米で同じことが起こったら、ベネッセには莫大な課徴金が課せられたことだろう。

他の会社もぜひ他山の石として、自社では絶対に同じことが起きないように検証して欲しいものである。



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2014年06月08日

イッシューからはじめよ 問題解決のハンドブック



元マッキンゼーで、脳神経学の博士号を持つ安宅和人さんの本。

安宅さんは現在はYahoo!のCOO室長、CSO(Chief Security Officer)として活躍している。安宅さんのツイッターのアカウントもある。

問題解決では、以前元BCGの内田さんの「仮説思考」を紹介した

仮説思考 BCG流 問題発見・解決の発想法
内田 和成
東洋経済新報社
2006-03-31


「仮説思考」は筆者が読んでから買った数少ない本の一つで、大変参考になった。

「仮説思考」と同様に、この本も大変参考になる。

ほぼ日で糸井重里さんと安宅和人さんの対談が紹介されている。糸井さんはこの本を読んで、「一人ひとりが読み、チームで共有したい本」だと感じたという。

新刊.jpというサイトに、この本に関する安宅さんへのインタビューが載っており、この本のエッセンスが簡潔に紹介されているので、参考にしてほしい。

最初に、この本の主張が次のように整理されている。

★「問題を解く」より「問題を見極める」

★「解の質を上げる」より「イシューの質を上げる」

★「知れば知るほど知識が湧く」より「知り過ぎるとバカになる」

★「一つひとつを速くやる」より「やることを削る」

★「数字のケタ数にこだわる」より「答えがだせるかにこだわる」


「犬の道」には踏み込むな

バリューのある仕事とは、安宅さんの定義だと、イシュー度が高く、解の質も高い仕事だという。

バリューのある仕事をやるためには、「根性」で一心不乱に大量の仕事をしてはいけない。それを安宅さんは「犬の道」と呼んでいる。

問題かもしれないという問題が100あるとしたら、そのうち2つか3つが本当に白黒つけるべき問題なのだと。理系の研究者の研究テーマは、このような考えで絞り込むのではないかと思う。

直観でこれが解決につながりそうだとか目星をつけてはいけない。じっくり考えて、なにが問題解決につながるイシューなのかを見極める。

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出典:本書32ページ

このようなアプローチをとれる人と取れない人では、一週間の仕事の進め方に次のような差がでる。

犬の道の人

月曜 やり方がわからずに途方にくれる
火曜 まだ途方にくれている
水曜 ひとまず役立ちそうな情報・資料をかき集める
木曜 引き続きかき集める
金曜 山のような資料に埋もれ、再び途方にくれる

イシューからはじめる人

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出典:本書34ページ


もっと前にこの本を知っていれば…

この本には上記の全体図のように図が多く使われ、コンサルなどの専門家でなくとも、わかりやすくイシュードリブンの問題解決法が理解できるようになっている。

またイシュードリブン、仮説ドリブンなどのステップではさらにいろいろな図が使われている。

たとえば、イシューを見極めるコツとして、1.一次情報に触れる、2.基本情報をスキャンする、3.集め過ぎない・知り過ぎないの3つが紹介されているが、次が2.の基本情報をスキャンする場合の図だ。

真ん中の四角で囲んだ部分がマイケル・ポーターの「ファイブ・フォース」であり、それに6.技術・イノベーション、7.法制・規則を加えたFAW(Forces at Work)である。

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出典:本書82ページ

惜しむらくは、事例があまり少なく、具体的でないことだが、現在会社に勤めていたり、研究に携わっている人は、経営者でなくても、自分の業務に当てはめて応用してみるとよいだろう。

たとえば、次の図は、イシューを分解するうえで、意味のある分解と意味のない分解を図示したものだ。これがMECEだと言われれば、納得できるだろう。

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出典:本書109ページ

筆者も2002年から2007年まで、子会社のネット企業を代表取締役副社長として経営していたことがある。今思えば、業界の全体図、伸びる分野、自社の占めるポジション、SWOTなどのビッグピクチャーをよく理解せずに、ただ日々の問題を解決するのに手いっぱいという感じで経営していた。全く汗顔の至りだ。

もっと前にこの本を知っていれば…と思う。

筆者の読んだものは、第10版で、本の帯には8万部突破と書いてある。

アマゾンの売り上げランキングでも全体の1,210位で、このブログで紹介した内田さんの「仮説思考」が1,718位、必読書「ロジカル・シンキング」が668位、バーバラ・ミントの「考える技術・書く技術」は1,464位だ。






つまり、これらの名著と同じくらい売れているということだ。

ハンドブックとしても役に立つ。この本はアマゾンの「なか見!検索」に対応しているので、ここをクリックして目次に続く、コンテンツをパラパラめくってほしい。

仕事の役に立ちそうなことがわかると思う。


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2014年03月22日

不格好経営 特に不格好とは思わないけど…

不格好経営―チームDeNAの挑戦
南場 智子
日本経済新聞出版社
2013-06-11


元マッキンゼーのパートナー(役員)で、DeNAの創業者の南場智子さんの最初の著書。

南場さんの生い立ちと経歴、DeNA創業に至った経緯から、最近のDeNAのモバイル事業展開まで、創業者の目から見た事業の立ち上げ担当者の舞台裏の努力が描かれている。


不格好というよりは、筋書きのないストーリーがIT業界なのでは?

本の帯に「経営とは、こんなにも不格好なものなのか。だけどそのぶん、おもしろい。最高に。」という南場さん自身の言葉が書いてある。

南場さん自身は「不格好経営」と言うが、特に不格好と思える点はない。

「コンサルタントが頭の中で考えるストーリーのようなスマートな展開は、実際の経営ではできないよ。」という意味で、「不格好」と言っているのではないかと思う。

筆者も2007年まで5年弱、IT企業経営をしていたので、後で思い返せば、「もっとうまくできたのに…」、「なんでわからなかったんだろう…」と感じることが多々ある。その意味では「不格好」そのものである。

しかしIT企業の成功ストーリーに筋書きはない。楽天だって、泥臭く地道に営業に励むことと、体育系のノリ、金融業界出身の三木谷さんの金融業シフトで、ここまで大きくなった。

アマゾンもここまで大きくなるとは、誰も予想しなかっただろう。さらに、アップルがマイクロソフトを時価総額で凌駕するとは、だれも予想していなかったはずだ。

DeNAも、インターネットオークションでは、ヤフオクに大きく差をつけられた第2位だったが、いち早く携帯電話向けサービスを開始し、モバオク、そしてゲームに進出しモバゲーで急成長した。

筋書きのないストーリーがIT業界そのものの歴史だ。


社員の顔が見える本

IT企業のトップが書いた本は、このブログでもいくつか紹介している。楽天の三木谷さんや、サイバーエージェントの藤田さん最近、刑期を終えたホリエモン倒産したインデックス会長の落合さんなどだ。

IT業界ではないがワタミの渡邉美樹さんの本も紹介している。

これらの本のほぼすべてに共通していえるのが、本人以外に登場する社員が少ないことだ。特に三木谷さんの最近の本と、ワタミの渡邉さんの本に至っては、本人以外にはほとんど誰も社員が登場しない。

南場さんの本は、これらの本と対照的だ。この本には多くの社員が登場する。実際に社員の写真も載っていて、まさに社員の顔が見える本だ。

筆者もピッツバーグから帰任した2000年末に、新規ビジネスの相談に幡ヶ谷のフロスビルにあるDeNAオフィスを訪問して、守安さん、春田さんから意見をお聞きした経験もあり、大変興味深く読めた。春田さんは「取締役 総合企画グループ担当ディレクター」、守安さんは「システム開発グループ」という肩書のない名刺だった時代だ。

南場さんは、最初はもっと多くの社員の名前を紹介していたが、社外の人には読みづらいものになってしまったので、減らしたのだと語る。

しかし、本書に登場していない社員のひとりでも欠けてしまったら今のDeNAはないという。

気配りの人、社員を第一に考える経営者、それが南場さんなのだと思う。

この本では「読者が『DeNA』号に乗ってジェットコースターのような展開をともに体験できるよう、事実をそのまま伝えることを重視した」という。

たしかに、面白い。南場さんの生い立ちや、旦那さんのがんの治療のために、DeNAの社長を退任した事情なども紹介されていて、南場さんの人となりや考え方がわかる。

この本はアマゾンの「なか見!検索」に対応しているので、ここをクリックして目次をみてほしい。

第9章の「人と組織」の、「コンサルタントと事業リーダーの違い」も納得できるし、「MBAは役立つか」では、「学びがゼロかというと、そうではないが、そのために2年間も使うのか、を問いたいところ」と語っている。

自分がMBAに行っていないだけに(その代わり2年間の語学研修でスペイン語はペラペラだが)、MBA信仰のある筆者にとっては、警鐘となった。


DeNAクオリティ

楽天の成長のコンセプトは次の5点だ。

1.常に改善、常に前進
2.Professionalismの徹底
3.仮説→実行→検証→仕組化
4.顧客満足の最大化
5.スピード!!スピード!!スピード!!

これに対して、DeNAクオリティは次の5点だ。

1.デライト (Delight) 顧客のことを第一に考え、感謝の気持ちを持って顧客の期待を超える努力をする
2.球の表面積 (Surface of Sphere) 常に最後の砦として高いプロフェッショナル意識を持ち、DeNAを代表する気概と責任感を持って仕事をする
3.全力コミット(Be the best I can be) 2ランクアップの目線で、組織と個人の成長のために全力を尽くす
4.透明性 (Transparency & Honesty) チームワークとコミュニケーションを大切にし、仲間への責任を果たす
5.発言責任 (Speak Up) 階層にこだわらず、のびのびしっかりと自分の考えを示す

楽天と似ている部分もあるが、DeNAらしさがでていると思う。

筆者は個人的にはDeNAに大変感謝している。というのは、DeNAが横浜ベイスターズを買ってくれたので、郷土の球団としてずっと応援してきたベイスターズファンから卒業するきっかけができたからだ。

今は野球のひいきチームはない。ベイスターズファン時代は、長年不満がうっ積していたが、きれいさっぱりファンを卒業して、いまの気持ちは棋士の羽生さんではないが、「玲瓏」(れいろう)(もとは「八面玲瓏」)、あるいは「明鏡止水」である。


南場さんは文才もあり、ストリーも面白い。三木谷さんのように「夢を見るのは若者の特権だという。美しい言葉ではあるけれど、僕は間違っていると思う。」というような鋭いツッコミもない。

楽しく読める本である。



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2014年02月02日

日本電産永守重信、世界一への方程式



パソコン向けハードディスク市場の急激な縮小から、2013年3月期には純利益が前年同期比80%も減少したにもかかわらず、2013年に文字通りV字回復を示した日本電産・創業社長の永守重信さんの経営手腕を紹介した本。

永守さんと長い付き合いがあるという日経ビジネス編集委員の田村賢司さんが書いている。永守さんは、2012年第4四半期に254億円という営業赤字を計上して、2013年の業績急回復の布石を打った。「残尿感なし。絞りきった!」と言っていたという。

文字通りV字回復を実現したのはさすがだ

このブログで紹介した「人を動かす人になれ」などの永守さん自身の本に比べて、迫力はないが、日本電産の戦略を紹介していて大変参考になる。


大前研一さんなどが絶賛する日本電産の永守さんに注目したのは、「人を動かす人になれ」のあらすじでも書いた通り、筆者のアルゼンチン駐在時代の友人が銀行を辞めて、日本電産に転職しているからだ。

1998年発刊の「人を動かす人になれ」では”365日フル回転”と永守さんは書いていたが、最近は元旦だけは休むらしい。それでも、事実上フル稼働であることに変わりはない。

1984年からここ30年間の売上高と営業利益の推移は次の通りだ。

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出典:本書17ページ

なかなかここまでは仕事漬けにはなれない。すごい経営者である。

この本では37社の企業を買収して、急速に業容を拡大した日本電産が、最初はハードディスク駆動用の精密モーター関連分野に集中、そして次は車載用・家電用・産業用モーターなどの異業種向け多角化と、2段ロケットで、さらなる成長を遂げた姿を紹介している。

過去10年の業績推移の中ほどで紹介されている商品グループ別売上高推移を見ると、車載用・家電用・産業用モーターの売り上げが、精密モーターと肩を並べるくらいまで成長してきていることがわかると思う。

XPパソコンを買い替えた記事で書いた様に、パソコン向けハードディスクはどんどん駆動部がないSSDに変わっている。ノートPCでは特に顕著だ。

コストの問題から、サーバやデスクトップPC向けは当分ハードディスクで変わらないだろうし、大容量のハードディスクをバックアップ用の外付けとして使用する用途はなくならない。

だから、ハードディスクがなくなることは近い将来ないだろうが、それでも精密モーターの最大市場だったハードディスクや、ブルーレイなどのメディア向けディスクドライブの市場は、大きな成長は見込めない。

そんな状況を見越したM&Aは、タイムリーで優れた企業戦略だ。

この本では、モーターの技術的な側面も紹介していて面白い。たとえば日本電産の得意なのはブラシレスモーターである。

最近も教えているかどうかわからないが、筆者が中学の時に工作でつくったようなモーターはブラシ付モーターだ。

ブラシレスモーター















出典:東芝ホームページ

ブラシレスは回転部分に接するブラシがないため、ブラシ部分の摩耗がなく、メインテナンスフリーで、高速回転が可能、騒音も少ないというメリットがある。家電や自動車などのモーターに静穏化が求められる傾向のなかで、売り上げを伸ばしているのがブラシレスモーターだ。

精密モーター分野では、軸受をボールベアリングからオイルで満たすFDB(Fluid Dynamic Bearing)に変えて、より一層の高速化を実現した。

これが日本電産がハードディスク用モーターで市場シェア80%を勝ち取った一つの要因になった。

ball bearing














出典:日本電産ホームページ

FDBモーター

















出典:日本電産ホームページ

買収した37社(2014年に入って1社買収したので、現在は38社)の、時系列的なリストは次の通りだ。
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出典:本書111ページ

地域と製品をマトリクス表にすると見事に日本電産の世界戦略が見えてくる。

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出典:本書130ページ

日本電産は、買収した会社の経営陣にそのまま経営を担当させる。日本電産から送り込む役員はせいぜい数名だ。永守さん自身が会長として毎週行くこともある。

買収された会社はそれなりの理由があって、赤字だったために、買収されたわけだが、それを永守流のKプロ(経費節減)、Mプロ(「まけてよ」の意味、購買コスト削減)、意識改革で大体1年で黒字転換する。

その方程式の例が紹介されている。(日本電産セイミツグループの健全企業経営の指針)

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出典:本書55ページ

この実現のために、世界各地の日本電産グループの会社には、永守さんをキャラクター化した次のようなポスターが貼ってあるという。スローガンは日本語、英語、中国語で書かれている。

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出典:本書162ページ

この本の最後に、「奇人変人の創業者とどう向き合えばよいのか」という永守さんが、一部の経営幹部に送ったメールが紹介されている。

強烈な個性を持った経営者だけに、転職組で、永守流に合わずに辞めていく人もいる。

永守さんは、途中入社の幹部に対しても、どこまで永守さんの叱責に耐えられるかを見極めて、「これなら簡単に敵前逃亡しない人物だから信用できる」と判断して責任ある地位に登用してきたという。いわばストレステストに合格することで、信頼関係が構築できたと判断するやり方なのだと。

役員の中では、長年の同士ともいえるプロパー生え抜き役員の他に、買収した会社の経営者、自動車部品のカルソニック・カンセイ前社長、三菱自動車で電気自動車を育成した役員、三菱電機から外資系を経たCFOなど、多用な人材がいる。

著者の田村さんは、創業から20年は「超ワンマン」の時代、M&Aが本格化した1990年代からは「みこし型ワンマン」の時代、2010年から海外M&Aが増え、「分権型ワンマン」の時代と呼ぶ。

強い思いは変わらない「変わらぬ永守」と、経営者としてのあり方を自ら変えていく「変わる永守」がいるのだと締めくくっている。

200ページ余りの本だが、平易で簡単に読める。日本電産の戦略と永守さんの考えがよくわかる優れた本である。


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2014年01月31日

ダイヤモンドの就職人気企業ランキングで住友商事が文系男子No.1に

ダイヤモンドの就職人気企業ランキングで、住友商事が初めて文系男子の人気No.1になった

須藤元気率いる人気パフォーマーグループ World Orderを使った「全力世界だ」というコンセプトビデオが人気のようだ。

楽しめるビデオなので、ぜひ一度見てほしい。



「今年は違うぞ」という感じだ。

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2013年10月05日

再掲 バナナの世界史 バナナ・リパブリックは衣料品ブランドだけじゃない

2013年10月5日再掲:

議会と大統領の対立で10月からスタートした新年度の予算執行が停止している米国のことを、「バナナ・リパブリック」と呼んで揶揄する人がいる。

政府がコントロール不能に陥っていることを指すのだろう。

しかし、発展途上国などのいわゆる「バナナ・リパブリック」と異なり、米国の場合には制度上の欠陥で予算に議会の承認を得られない場合の規定がないことが原因であり、これをもって「バナナ・リパブリック」と呼ぶのは、ジョークにしても的外れのような気がする。

1995年から1996年にかけてのクリントン政権でも、同じ事態が起こっている。

この「バナナ・リパブリック」?騒動と、バナップルを最近食べたので「バナナの歴史」を再掲する。

「バナナの歴史」の最後で、バナナの新しい品種として紹介されている「バナップル」を食べてみた。近くのスーパーで売っていたものだ。

Banapple












出典:スミフルホームページ

Banapple2












出典:フルーツの殿堂 楽天市場店

味はバナナの中心にリンゴの粒が入っているような感じだった。

食感はバナナ、ほんのりとリンゴの味がするという感じで、普通のバナナよりだいぶ小ぶりだ。

筆者は近くのスーパーで買ったが、上記の「フルーツの殿堂」楽天市場店でも買える。いずれは日本中のスーパーで売られることになるかもしれない。

300〜400円で買えると思うので、一度試してみることをお勧めする。


2013年1月3日初掲:

バナナの世界史――歴史を変えた果物の数奇な運命 (ヒストリカル・スタディーズ)バナナの世界史――歴史を変えた果物の数奇な運命 (ヒストリカル・スタディーズ)
著者:ダン・コッペル
太田出版(2012-01-19)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

世界で一番生産量が多い果物であるバナナの歴史を通してバナナビジネスを描いた本。

世界のバナナ生産量は約1億トン。インドがダントツの1位で30%を占めるが、生産量のほぼ全量が国内で消費され、輸出にはまわらない。2位の中国も同様に国内消費用で、3位のフィリピンと4位のエクアドルが輸出バナナ生産の最大手だ。


バナナのジャイアント:ユナイテッド・フルーツ社

バナナは19世紀から貿易されていたが、現在のように大量に輸出入される商品となったのは、1899年に合併によって成立し、世界32カ国で事業展開したユナイテッド・フルーツ社によるプランテーション拡大によるところが大きい。

ユナイテッド・フルーツ社は専用船団と各地にバナナ倉庫を持ち、パナマ、ホンジュラス、グアテマラ、キューバなどの各地の自社バナナプランテーションで収穫したバナナを専用船で輸送し、米国やヨーロッパに置いた専用倉庫から消費地に出荷していた。


ユナイテッド・フルーツ社の政治力

1912年に米軍がホンジュラス、パナマなどに侵攻した事実は知らなかった。米軍の侵攻後、ユナイテッド・フルーツ社は鉄道建設の許可を得て、プランテーションを建設している。

コロンビア人のノーベル賞作家のガブリエル・ガルシア・マルケス「百年の孤独」には、プランテーションでストライキを起こした3,000人の労働者たちを軍隊が機関銃で殺す場面がでてくる。これは1928〜9年にコロンビアで実際に起こった事件だ。

百年の孤独百年の孤独
著者:G. ガルシア=マルケス
新潮社(1999-08)
販売元:Amazon.co.jp

ユナイテッド・フルーツ社はグアテマラで世界最初のバナナプランテーションを運営していた。

グアテマラのアルベンス大統領は1951年に反バナナプランテーション政策をとったので、ユナイテッド・フルーツ社は政治力を行使してアイゼンハワー大統領を動かし、大統領はCIAに政権転覆工作を命じた。アルベンス大統領は空港で服を脱がされ、下着姿でメキシコに亡命したという。

スパイ映画によくある、多国籍企業が開発途上国の利権を握り、利権を危うくする者をCIAを使って抹殺するというストーリーが現実に起こっていたのだ。

キューバではカストロ政権転覆のためのピッグス湾事件で、自社の船団を反カストロ勢力の輸送に供している。

ユナイテッド・フルーツ社がグアテマラとホンジュラスの独裁政権を支援してきたこと、またユナイテッド・フルーツ社からの依頼でCIAによるグアテマラ工作が実施されたことが、情報公開法により公開された一連の政府文書から明るみに出ている。


まさにバナナ・リパブリック

バナナ・リパブリックというと、現在はカジュアル衣料ブランドとして有名だが、本来の意味は、開発途上国の頼りない政府を揶揄した言葉だ。グアテマラの政権転覆は、まさにバナナ・リパブリックにおける多国籍企業の政治力を見せつける事件だ。

【Men's】BANANA REPUBLIC(バナナリパブリック)ボーダー鹿の子ポロシャツ(Gray)
【Men's】BANANA REPUBLIC(バナナリパブリック)ボーダー鹿の子ポロシャツ(Gray)



バナナの品種交代がユナイテッド・フルーツ社の没落のきっかけ

バナナはクローニングにより栽培されるので、抵抗力のない病気が発生すると大規模な病害が起こる。

現在世界各地で生産されているバナナは中国が原産とされているキャベンディッシュという品種だが、1960年以前は世界のバナナはグロスミッチェルという品種だった。

グロスミッチェルは1910年ごろパナマから広がったパナマ病という病気に耐性がなかったため絶滅した。

米国政府まで動かす政治力があったユナイテッド・フルーツ社だったが、当時のバナナプランテーションの主力品種のグロスミッチェル種にこだわったため、パナマ病の蔓延でシェアを落とした。

日本でもエクアドルバナナの代名詞として有名なチキータはユナイテッド・フルーツ社のブランドで、CMソングは全米で評判になったという。




スタンダード・フルーツ社はバナナの箱輸送で活路

一方、スタンダード・フルーツ社も1899年創業だが、ユナイテッド・フルーツ社よりは規模が小さく、マーケットシェアも長年20%を超えることはなかった。

しかし、グロスミッチェル種がパナマ病に侵される面積が拡大するにつれ、ユナイテッド・フルーツ社の業績は悪化し、1950年の66百万ドルの利益が、1960年には2百万ドルまで落ち込んだ。

これに代わって主要品種として栽培されたのがキャベンディッシュで、スタンダード・フルーツ社はキャベンディッシュに集中することで、マーケットシェアを一気に拡大した。

キャベンディッシュはこすれると黒ずんで柔らかくなるという欠点がある。これをスタンダード・フルーツ社は、箱に詰めて箱ごと輸送するというやりかたで解決した。これは”バナナ産業史上最大の技術革命”と呼ばれている。


ユナイテッド・フルーツ社の落日

落ち目のユナイテッド・フルーツ社は、1969年にユリ・ブラックというユダヤ人投資家に買収され、社名もユナイテッド・ブランズに変更された。

この頃パナマ、コスタリカ、ホンジュラスなどの中米バナナ輸出国が一致してひと箱あたり1ドルの「バナナ税」を課すことを決定した。バナナ版OPECをつくろうとして、「バナナ輸出国機構」設立の動きがあったのだ。

そんななかで1975年ユリ・ブラックは、ニューヨークのパンナムビルにある本社事務所の窓から飛び降り自殺した。

バナナ税を引下げさせるために、ホンジュラス大統領へ巨額のわいろを贈ることを決定したことを悩んでの自殺だったと見られる。

ユナイテッド・ブランズ社は1992年に投資家に買収され、チキータに社名変更したが、シェア低下・収益低下に悩まされ、とうとう2001年にチキータは会社更生法を申請した。1世紀以上も世界のバナナ生産と貿易を牛耳ってきたユナイテッド・フルーツ社の終焉だった。


未来のバナナ

バナナのゲノム解明は2001年に開始され、2012年に完了した。

遺伝子組み換えバナナは不稔なので、在来種との混合の恐れはない。ベルギーなど世界各地で品種改良が進められている。

現在はキャベンディッシュが世界各国で生産されているが、他にアップル・バナナとしてゴールドフィンガーという種類がある。

カハラフレッシュ アップルバナナ プレミアムドライフルーツ  【あす楽対応_関東】【YDKG-kd】【RCP】
カハラフレッシュ アップルバナナ プレミアムドライフルーツ  【あす楽対応_関東】【YDKG-kd】【RCP】


これからもバナナの品種改良は進められ、近い将来は様々な味のバナナが登場することだろう。


バナナ業界を牛耳る多国籍企業の歴史とバナナの雑学が楽しく学べる本である。


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2013年06月18日

マッキンゼー流入社1年目の問題解決の教科書 これが教科書?

マッキンゼー流 入社1年目問題解決の教科書 [単行本]
マッキンゼー流 入社1年目問題解決の教科書
マッキンゼー流 入社1年目問題解決の教科書 [単行本]
著者:大嶋 祥誉
出版:ソフトバンククリエイティブ
(2013-04-27)

エクゼクティブ・コーチングなどの人材育成コンサルタント会社、センジュヒューマンデザインワークス社長の大嶋祥誉(さちよ)さんの本。

大嶋さんは、上智大学卒業後、米国デューク大学でMBAを取得。マッキンゼー勤務のあと、ウィリアム・エム・マーサーワトソン・ワイアット、三和総合研究所などの人材コンサルティング会社やヘッドハンターで勤務した後、2002年に独立した。

編集者は「マッキンゼー流」というタイトルをつけて、売らんかなという姿勢なのだと思うが、アマゾンの、カスタマーレビューでも辛口のコメントが多いようだ。

この本はアマゾンの「なか見!検索」に対応しているので、ここをクリックして目次を見てもらえれば、大体の内容が推測できると思う。

著者の大嶋さんは、独立して人材育成コンサルタント会社を興しているのは、スゴイとは思うが、マッキンゼー流のフレームワークを学ぶのであれば、読むべきなのは、この本ではない。

このブログで紹介している「ロジカル・シンキング」と、「ロジカル・ライティング」の2冊だ。

ロジカル・シンキング―論理的な思考と構成のスキル (Best solution)ロジカル・シンキング―論理的な思考と構成のスキル (Best solution) [単行本]
著者:照屋 華子
出版:東洋経済新報社
(2001-04)

ロジカル・ライティング (BEST SOLUTION―LOGICAL COMMUNICATION SKILL TRAINING)ロジカル・ライティング (BEST SOLUTION―LOGICAL COMMUNICATION SKILL TRAINING) [単行本]
著者:照屋 華子
出版:東洋経済新報社
(2006-03-24)

これらの本の著者の照屋さんは長年、マッキンゼー等で、コミュニケーションのプロとして多くのコンサルタントを教えている。

筆者も読んで、当時大学生だった長男にプレゼントした。

長男は昨年就職して、現在はある会社の地方の寮にいる。

家から持っていた本の中には、「ロジカル・シンキング」と「ロジカル・ライティング」そして、バーバラ・ミントの「考える技術、書く技術」が入っていた。よほど気に入ったようだ。

考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則 [単行本]
著者:バーバラ ミント
出版:ダイヤモンド社
(1999-03)

照屋さんの本こそ、フレームワークのことを理解するための必読書だということを、この本を読んで、あらためて気づかされた。

2冊とも2,300円と結構高いので、どちらか一冊ということなら、「ロジカル・ライティング」をおすすめする。

照屋さんの「ロジカル・シンキング」は2001年発刊の本、バーバラ・ミントの「考える技術・書く技術」は1999年の本だが、どちらも、いまだにアマゾンの売り上げ600位くらいに入っている。

本物の「教科書」はどういうものかがわかるだろう。


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2012年09月03日

孫正義 危機克服の極意 孫さん自身の講演もUstreamで公開中

孫正義 危機克服の極意 (光文社新書)孫正義 危機克服の極意 (光文社新書)
光文社(2012-06-15)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

「孫さんの後継者を育成する」という目的で2年前に設立されたソフトバンク・アカデミア(経営者育成塾)での孫正義さんの講義とツイッターなどの発言を集めた名言集。

この講義に先立つ孫さんの2回の特別講義は「孫正義 リーダーのための意思決定の極意」という本になっている。こちらは「意思決定の極意」と「孫の二乗の兵法」を取り上げている。

孫正義 リーダーのための意思決定の極意孫正義 リーダーのための意思決定の極意
光文社(2011-06-17)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

ソフトバンクアカデミアのウェブサイトで、これらの特別講義の映像が公開されているので、興味のある人は視聴をおすすめする。この本の危機克服の極意の講義はこちらだ。

それぞれ2時間半前後なので、筆者はこのあらすじを書きながら聞いている。本には載っていない東電の社長・会長宅にはなぜマスコミは押しかけないかなど、オフレコの部分もあって面白い。また原発ミニマムについても力強く持論を語っている。

ソフトバンクアカデミアに入学した人の課題は、ソフトバンクの企業価値を10年で5倍にするための具体的なビジョンと戦略を考えることだという。

この本では最初に「孫の二乗の兵法」の略図があり、そのあとで「危機克服の極意」の講義がある。ソフトバンクアカデミアの開校式と「孫の二乗の兵法」の講義はこちらだ。これは孫子X孫正義の兵法ということで、孫の二乗の兵法と呼んでいる。孫さんが創業してすぐに、大病して入院していた27歳の時に考えたものだという。

孫の二乗の法則 孫正義の成功哲学 (PHP文庫)孫の二乗の法則 孫正義の成功哲学 (PHP文庫)
著者:板垣 英憲
PHP研究所(2011-04-09)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

孫さんは孫子の兵法の本は30種類以上読み込んだという。

いくつか参考になった点を紹介しておく。


経営に向いていない人

「いままでは悪かったから、今度はよくなる確率が高いはずだ」と考える人がいる。サイコロの奇数ばかり出ていても、今度は偶数がくるはずだというのは、数学的に完全に間違いだ。次に偶数が出るのは5割の確率でしかない。

そこに波を見てしまって、偶数に一生懸命頑張ろうとする人は経営者には向いていない。波とか”アナログチックな表現”で判断する人、占いに頼る人、誰かの予言に頼る人、これらは経営者としての才覚はゼロ、科学的に正しくない。

自分の判断でものを考えるのでなく、星占いとかゲン担ぎとかに頼る人は経営者として才覚ゼロだと。


ヤフー!BBの個人情報流出

派遣社員の一人が450万人もの顧客情報を持って暴力団に売り、暴力団がソフトバンクを脅しに来た。20億円払わないとマスコミにばらすぞ、顧客情報を外に出すと言ってきた。

警察に届けないで交渉して2億円に負けてもらうという選択肢もあるかもしれないが、孫さんは即刻警察に通報した。そうしたら、次のような答えが来たという。

「相手からの最初の連絡は『盗んだ』ということだけで、その段階では窃盗罪にはならない」

「会社のフロッピーを持ち出したならともかく、自分のフロッピーを持ち込んでコピーとしていれば窃盗罪にはならない」

警察は「事件になったら連絡してくれ」つまり、「具体的に何か脅されたら言ってきてくれ」と言っていたという。

日本の法律では情報を盗んだだけでは窃盗罪にはならない。いずれは「情報窃盗罪」が刑法に含まれると思うが、これはいまだに同じ状況なのだ。

金品の要求があったので、警察は動きだしたが、警察がマスコミに漏らして大問題となり、ソフトバンクの株価は大幅に下落した。いまだに情報漏えい事故が起こったら、ヤフー!BBの例が出される。ソフトバンクのブランドイメージは傷ついた。

NTTもKDDIもその後数か月で情報漏えい事故が起こったが、調査中ということで発表をずらし、1年後に発表した。その時は個人情報漏えいに対する世間の関心が薄れ、ほとんど問題にならなかった。


ヤフー!ジャパンがグーグル検索を導入

ヤフー!USがグーグルとの戦いに敗れて、マイクロソフトに検索部門を身売りして業務提携をして、マイクロソフトのBINGを検索エンジンに導入した。

日本においてもヤフー!ジャパンはマイクロソフトの検索エンジンを使うとほとんどの人が思ったが、孫さんはグーグルと直接交渉して、グーグルの検索エンジンを取り入れた。

日本ではヤフー!ジャパンが5割、グーグルが3割というマーケットシェアだが、もしヤフー!ジャパンがBINGを採用すれば、いずれシェアは落ちる。その時にグーグルと契約しても、有利な契約はできない。

だから孫さんはシェア下落は絶対防ぐということで、グーグルに乗り込んで自らトップ交渉し有利な条件で契約した。

筆者もポータルはヤフーを従来から使っている。ヤフー検索はグーグル検索と同じものなので、グーグルサイトに行く必要ないために、グーグルサイトはほとんど使ったことがない。

もしヤフー!ジャパンがBINGに変えていれば、孫さんが予想したように、筆者もグーグルに切り替えていたかもしれない。


99%の人が登るべき山を決めていない

みんな一生懸命生きているが、実は99%が登りたい山を決めていない。

自分自身のために、自分の人生って何だ?自分は何の事を成したいんだ。このことだけは決めてほしいと孫さんは語る。


孫さんの戸籍

孫さんの戸籍には「佐賀県鳥栖市五軒道路無番地」と書いてあるという。

「無番地」なら「無番地」と書かなければよいのに、国鉄の線路脇の空き地にトタン屋根で板を張って住んでいるわけだから、正式に戸籍を認めるわけにいかないということだったのだろうと。


ソフトバンクのこれからの最大の危機

孫さんが19歳の時に人生50年計画、5段階のステップを作ったときから、継承を最大の問題と考えてきたという。

孫さんは向こう10数年で後継者を決めると公言してきたが、これが一番問題である。だからこの講義をUstreamで公開して、広く後継者候補を募集しているのだと。

ソフトバンクアカデミアは定期的に下10%を入れ替えるが、何度でも再チャレンジできる。是非チャレンジしてくれと言って、Ustreamの講義を終了している。

講義は2時間半と長いが、やはり孫さん自身の講義だけに印象に強く残る。映像を常に見る必要はなく、何かをパソコンでやりながら聞くき流すことでもよいと思うので、ここをクリックしてどんなものか見てみることをおすすめする


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2012年08月29日

暴力団排除条例ガイドブック ガイドブックというよりむしろマニュアル

暴力団排除条例ガイドブック (BUSINESS LAW JOURNAL BOOKS)暴力団排除条例ガイドブック (BUSINESS LAW JOURNAL BOOKS)
著者:大井哲也
レクシスネクシス・ジャパン株式会社(2011-12-22)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

平成23年4月以降、各都道府県で制定・施行された「暴力団排除条例」対応のための模範文例まで完備したマニュアル。

大手弁護士事務所のTMI総合法律事務所の弁護士と、福岡県で暴力団排除条例の制定にかかわった警察庁のエリート・黒川浩一氏、それと(株)エス・ピー・ネットワーク総合研究室という企業危機管理専門会社の共著。平成23年12月の発刊だ。

アマゾンのなか見!検索に対応しているので、詳しくはここをクリックして目次をチェックして欲しい。


この本の構成

この本の構成は次の通りだ。(カッコ内はその章の担当著者)これを見ればわかる通り、いろいろな切り口からの暴力団排除条例への対応マニュアルであり、具体的な模範文例も載っているので、非常に実用的だ。

第1章 反社会的勢力の侵入手口と企業の対応(SPネットワーク)
  機〆廼瓩糧深匆馘勢力排除の動向
  供ヾ覿箸悗糧深匆馘勢力の侵入(関与)事例 3件(上場・不動産)、(上場、小売)、(非上場・倉庫/運輸)
  掘“深匆馘勢力排除の内部統制システム

第2章 反社会的勢力のチェック方法(SPネットワーク)
  機,匹海泙任鯣深匆馘勢力とするのか
  供“深劵船Д奪のポイント

第3章 暴排条項の導入(TMI総合法律事務所)
  機,覆舎叔咯鮃爐必要なのか
  供)叔咯鮃狷各の留意点
  掘)叔咯鮃爐離丱螢─璽轡腑

第4章 契約の拒絶・解除の実務(TMI総合法律事務所)
  機〃戚鹹結前の取引拒絶
  供〃戚鹹結後の解除の法的リスク
  掘ヾ存取引先との関係解消の実務

第5章 海外の反社会的勢力(TMI総合法律事務所)
  機.哀蹇璽丱襪瞥彑舛亡悗垢觝廼瓩瞭宛
  供ヽこ鞍深卩喀の取り組み方
  掘ヽこ鞍深丗弍のための英文版誓約書・暴排条項

第6章 雇用関係等からの反社会的勢力排除(TMI総合法律事務所)
  機―抄醗に対する属性確認義務
  供―抄醗が反社会的勢力に該当する場合の対応
  掘ゞ般外兮スタッフの場合

第7章 上場審査の実務及び出資者・株主への対応(TMI総合法律事務所)
  機‐緇貎該困鮗ける場合
  供“深匆馘勢力との関係発覚による上場廃止
  掘―仍饉圈Τ主への対応

第8章 暴力団排除条例の解説(黒川浩一・前福岡県警察本部組織犯罪対策課長)
  機‐鯲秬定の背景と経緯
  供‐鯲磴亮腓糞定
  掘‐鯲秬定の狙い
  検)塾話弔紡个垢詬益供与の禁止規定の解説
  后)塾話弔紡个垢詭承疎澆靴龍愡
  此)塾話弔箸量接交際
  察仝共事業からの暴力団排除
  次〔唄峪業からの暴力団排除
  宗”堝飴瑳莪からの暴力団排除
  勝)塾話弔琉厠詫用そのものの禁止
 将機(_県条例の改正
 将供,泙箸
 資料 各都道府県の暴力団排除条例における特徴的な規定


暴力団の現状

平成22年度末の暴力団の構成員と準構成員総数は78,600人となっており、前年より2,300人減少しているものの、準構成員は増加している。

最近の判例では、広島のホテルが結婚式を予定していた暴力団関係者との契約を解除したことが有効と認められたり、暴力団関係者であることを隠して銀行から融資を受けた暴力団組員が詐欺罪で起訴されるというような事例を紹介している。

銀行業界では暴力団やそれに準ずる者には口座を開設させず、すでに開設された口座も解除することを決めており、全銀協が暴力団データベースを加盟行に提供している。

不動産業界、自動車販売業界、生命保険業界、旅館・旅行業界などの暴力団排除は進んでいるが、「密接交際者」の島田紳助が引退を余儀なくされたように、テレビ局や芸能界は「密接交際者」に対して甘い点があるという。


反社会的勢力のチェック方法

企業の法務担当者や総務とかでないと、法的手続きのマニュアルが役立つことはないかもしれないが、営業関係者でも時として反社会的勢力が支配する会社との商売の話が出てくることもあるので、第2章の「反社会的勢力の端緒チェックリスト」は参考になると思う。

このチェックリストは次のような構成のチェック項目を含む網羅的なリストとなっている。

・取引経緯等(8項目)
・商業登記情報(14項目)
・不動産登記情報(11項目)
・データベーススクリーニング(7項目)
・企業情報(13項目)
・事務所(7項目)
・社長・役員(4項目)
・従業員(4項目)
・商品・技術(5項目)
・サービス(4項目)
・風評(8項目)
・行為要件(4項目)
・支払い(6項目)

特に商業登記情報分析は重要だ。反社会勢力に乗っ取られたような会社は、次のような兆候があるという。

・主要事業の変更(業種転換)
・事業目的間の関連性が低い。事業目的が多岐にわたりすぎている。大幅に変更されている。
・短期間での大規模な増資や小口の増資、減資などが続く。
・商号、本店所在地、役員が頻繁に変わっている。
・複数役員が一斉に退任している。
・会社の合併、分割がある。
・商業登記簿謄本が存在しない。
・登記内容の変更手続が常態的に法定期間を超えている。

その他、インターネット上の風評や、業界情報なども与信管理という意味からも重要である。


個人情報保護法との関係

ひと言でいうと、反社会勢力との対応は、個人情報保護法の例外規定に該当し、本人同意取得や利用目的の通知など、ほとんどの個人情報保護法の義務は免除される。


暴力団排除条例の実際の活用

暴力団排除条例施行以前は、暴力排除条項を盛り込む根拠は政府指針及び企業の監督官庁の指導だけだったが、条例ができたことにより明確な根拠ができ、反社会的勢力と手を切る大義名分ができた。

たとえば東京都の暴力団排除条例は次のように規定している。

「第十八条 事業者は、その行う事業に係る契約が暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる疑いがあると認める場合には、当該事業に係る契約の相手方、代理又は媒介をする者その他の関係者が暴力団関係者でないことを確認するよう努めるものとする。

2 事業者は、その行う事業に係る契約を書面により締結する場合には、次に掲げる内容の特約を契約書その他の書面に定めるよう努めるものとする。
一 当該事業に係る契約の相手方又は代理若しくは媒介をする者が暴力団関係者であることが判明した場合には、当該事業者は催告することなく当該事業に係る契約を解除することができること。」

つまり上記の18条2項で、契約書に暴力団関係者だと分かった時点で即時解除ができるという条項を入れることが努力義務となったのだ。この条項は紙の契約書のみならず、インターネットなどの約款にも盛り込む必要がある。


模範文例まで載っていて実用的

既存の契約相手先と契約を変更することが難しい場合は、相手から暴力団関係企業ではないという誓約書を出してもらうやり方を紹介している。

取引先への説明文案、誓約書のひな形まで掲載しているので便利だ。

暴排条項のサンプルも、最高水準から一般水準、簡易版、再委託をカバーしたひな形、全銀協、日本建設業連合会(日建連)、不動産流通4団体などの具体例、さらに契約解除通知ひな形もあり、非常に実用的である。

従業員や株主についても誓約書のひな形を紹介している。


警察による暴力団情報の提供

アマゾンのカスタマーレビューでは、警察が平成23年12月22日付けの新通達で、従来の「暴力団排除等のための部外への情報提供について」(平成12年9月14日付)を廃止して、事業者が条例上の義務を履行するために必要と認められる限度で情報の提供をするとして、従来の方針(不可欠の場合だけ情報提供をするという消極的な方針)を転換していることを指摘している。

警察も消極的な姿勢を改めたようなので、もし相手が暴力団ではないかという疑念があれば、警察にまずは相談すべきだろう。


反社会的勢力データベース

海外の反社会的勢力については、各種の国際規制違反者リストや、インターポールのMOST WANTEDリストなど、LexisNexis社などが提供する50弱の有償データベースを紹介しており、日本企業と同様に、暴力団排除条例に従った、英文版誓約書のひな形や、解除条項の英文版のサンプルを紹介している。


Q&Aが参考になる

一般人が読んで一番役に立つのは第8章の暴力団排除条例の解説だ。暴力団排除条例を日本で初めて制定した(平成21年10月制定、平成22年4月施行)福岡県の条例起草担当者の黒川氏が説明しているので、大変参考になる。

意見にあたる部分は黒川氏の私見であるとことわっているが、次のような十分突っ込んだ内容の実用的なQ&Aとなっている。(答えは続きを読むに記載したので、参照してほしい)

Q2.暴力団との関係を遮断したいが、報復が怖い。警察は守ってくれるのか?

Q3.機関紙の購読を依頼され購読料を支払った。条例違反になるのか?

Q4.暴力団の世話になったが、謝礼金の代わりに別会社を下請けに使ってほしいと言われた。条例違反になるのか?

Q5.暴力団事務所と知って宅配ピザを届ける行為は、条例違反となるのか?

Q6.オフィスの内装工事を暴力団員経営の会社と契約すると条例違反となるのか?

Q7.暴力団員との親密な交際を噂されている芸能人をイメージキャラクターとして起用したいが、問題はないか?

Q8.宅配便の配送先が暴力団だったが、配達すると条例違反になるか?

Q9.商店会の福引で暴力団組長が当選したら、賞品を渡すと条例違反になるか?

Q10.どんな行為が「暴力団の活動を助長する」か判断できない。条例の規定は問題あるのではないか?

Q12.暴力団事務所に電気、ガス、水道を供給することは条例違反となるか?

Q13.暴力団事務所に新聞を配達することは条例違反か?

Q14.暴力団から損害賠償訴訟を起こされ、和解金を払うことは条例違反か?

Q15.暴力団にスポンサーとなってもらい、利益を得ることは条例違反となるか?


要は相手が暴力団だとわかるまではやむないが、暴力団関係者だとわかったら、取引はしないというきっぱりした態度が肝要だろう。

この本の言うように暴力団排除条例ができたことを理由に、疑わしい相手からは暴力団関係者ではないという誓約書を取り付けるということがまず第一歩だろう。そして万が一暴力団関係者だとわかったら、条例を根拠に取引を止めることだ。

誓約書や契約書、通告文書などの文例も紹介されており、すぐに使えるマニュアルである。

企業の法務や総務担当者でなくても、基礎知識を得るために一度読んでおくことをおすすめする。

Q&Aの答えは”続きを読む”に簡単に書いておくが、実際の回答は詳細にわたるので、是非本書を参照してほしい。


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2012年07月19日

勝ち続ける経営 "Made for you"は本当だった 日本マクドナルドの原田さんの経営改革

2012年7月19日追記:

マクドナルドは、"Made for you"というキャッチフレーズ通り実践していることを体験した。

筆者はマクドナルドのメニューでは、ガッツリ型のダブル・クオーター・パウンダー・チーズが好きだ。トレーニングした後など、無性に食べたくなる時がある。

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出典:マクドナルド ホームページ

この写真にもあるとおり、どっさりケチャップがかかっている。しかし、ハンバーガーにケチャップをかけるのはどうしても好きになれず、いつも一旦バンズをはずして中のケチャップを取って食べていた。

ペーパーナプキンで拭き取っていたが、ナプキンにケチャップがついて見苦しいので、いつも何とかならないかと思っていた。

先日のテレビのバラエティ番組で、ロッテリアは特殊な注文に喜んで応じるという話を聞いたので、マクドナルドでも"Made for you"というくらいだから、ひょっとして特殊な注文に応じてくれるのでは?と思ってケチャップなしができるかどうか聞いてみた。

そうしたら全く問題なく、ケチャップなしをつくってくれた。筆者は望み通りのものを食べられ、マクドナルドもケチャップを節約でき(?)、全体としてエコが達成でき、WIN−WINだった。

いままでマクドナルドはマニュアル通りつくっているので、特殊な注文には応じてくれないと思っていたが、頼めばやってくれるのだ。

日本マクドナルドCEOの原田さんに感謝するとともに、原田さんの本のあらすじを再掲する。


2012年5月9日初掲:

勝ち続ける経営 日本マクドナルド原田泳幸の経営改革論勝ち続ける経営 日本マクドナルド原田泳幸の経営改革論
著者:原田泳幸
朝日新聞出版(2011-12-07)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

日本マクドナルドの原田社長が朝日新聞のAERAビジネスセミナーで、2010年12月と2011年6月に、経営改革を語った講演録。最初の100ページが講演で、60ページ余りのQ&Aが収録されている。Q&Aも面白い。

セミナーのタイトルは「非常識を常識に マクドナルドの経営改革」というものだったという。

原田さんはマクドナルドに移る前の33年間はIT業界で仕事をしていた。アップル・ジャパンには14年間在籍し、最後の7年間はアップル・ジャパンの社長を務めていた。その原田さんが2004年にアップル・ジャパン社長から日本マクドナルドの社長に転職したときは「マックからマックへの転職」と言われたものだ。

原田さんが日本マクドナルドの社長になる前には、稀代のベンチャー起業家で、創業者の藤田田さん経営の末期で、日本マクドナルドの業績は既存店売上高が7年間マイナスというどん底の状態だった。そんな日本マクドナルドの業績を原田さんは、7年連続プラスに変えた。

このセミナーはそんな原田さんが語る日本マクドナルドの経営改革だ。読んでみると「非常識を常識に」というタイトルは、全く当てはまらないと思う。すべて基本に忠実なオーソドックスなアプローチだったことがよくわかる。


新しいバス

原田さんが入社して、すぐ全社員を集めて次のように宣言したという。

「今から新しいバスが出発する。新しいバスのチケットを買いたい人は買え。買いたくない人はバスに乗らなくてかまわない。」

当時のマクドナルドの年商は4,000億円、それが現在は6,000億円まで拡大している。

日本マクドナルドは1971年の銀座三越での初出店後、20年間で1,000店まで拡大し、その次の10年で3,000店まで拡大した。これが既存店売り上げの減少をもたらし、結果的に経常利益は減少した。創業者の藤田田さんは2002年に社長を退き、2004年に原田さんが社長として着任して経営改革を実施した。


経営不振の原因:QSCの欠如

原田さんが社長として着任した時に、経営幹部からは出店過多でカニバリゼーション(店舗がお互いに客を奪い合っている)が起こっていると説明を受けたが、原因はもっと単純なことだったという。

それはQSCという基本中の基本ができていなかったからだ。Q=クオリティ、S=サービス、C=クレンリネスだ。それにV=バリュー(価値ある食事体験)を入れてQSCVとも呼ぶ。

外食産業では店の売り上げは店長の能力に大きく左右される。急成長したマクドナルドは人材の育成が追い付いていなかった。店長次第で、クルー=アルバイトの満足度も変わる。クルーの満足度は離職率に影響し、離職率が上がるとQSCは低下し、顧客満足度が下がり、売り上げも下がるという悪循環となっていたのだ。

だから原田さんが社長となった最初の年から、今まで「基本に立ち返れ。基本以外はなにもするな。QSCが一番大事」と言い続けているという。


当たり前のことをやる

当たり前のことをやることがビジネスでは最も難しいのだと。当たり前のことをやり、その会社「らしさ」を取り戻したという例は、業績回復企業には共通して見られるという。

原田さん着任前のマクドナルドは、一時はカレーライスやチャーハンを出していた。経営改革の第一歩はマクドナルドらしさを取り戻すため、基本に立ち返るものだった。


ブランド力の向上

マクドナルドのブランドはブランド・ジャパンの評価で、2007年に81位に入ってから毎年上昇し、2011年には4位にまでなった。これは根拠があってのことだという。

それはブランド・ジャパンの評価の4機軸である、フレンドリー、コンビニエント、アウトスタンディング、イノベーティブの4つにあわせて次のような戦略を展開してきたのだ。

★つくり置きをやめて、オーダーを受けてからつくり、”メイド・フォー・ユー”というキャッチフレーズで、味を向上させた。

★100円マックというバリュー商品を打ち出しながら、8年間で6回値上げを実施した。

★地域別価格、24時間営業、マイナスイメージを払拭するためのヘルシーメニューの導入

その結果競合とのQSC差は拡大し、見事に客数の増加につながったという統計が紹介されている。

従業員満足度も忘れてはならない点だという。マクドナルドでは毎年クルーの技能コンテストを開催するほか、16万人いるアルバイトのトレーニングはニンテンドーDSで行っているという。

アウトスタンディングについては、メガマックやマックグリドル、クオーターパウンダーなどのボリュームメニューの効果をマクドナルドらしさの例として説明している。そのための広告戦略にも大変気を使っていることがわかる。ビッグアメリカ・シリーズのハンバーガーは広告効果もあり爆発的な売り上げを記録したという。

マクドナルドのコーヒーはベストクオリティのコーヒーを低価格で提供している。しかしマクドナルドのコーヒーは他の競合店と競争するためのものではなく、あくまでビックマックを売るためのものなのだと。


常に新陳代謝

店舗の新陳代謝も積極的に実施している。2007年の店舗数は3750店余りだったが、不採算店を閉鎖し、新規に出店を重ね、2011年には3,280店になり、店舗当たりの売上高も増加している。

フランチャイズのオーナー・オペレーターは440人から200人に減った。しかしフランチャイズ比率は30%から65%まで増やし、1オーナーあたりの店舗数も増やして、キャシュフローを向上させた。


レストランはピープルビジネス

原田さんはレストランビジネスはピープルビジネスだという。コストダウンで一番大事な点は、コストを削るのではなく、同じコストで売上げを拡大することだ。”もっとお金をつかって、もっと売る提案を持ってこい”と社員には言っているという。

人材への投資は惜しみなく行う。

サービス残業訴訟があったこともあり、クルーの残業を肩代わりしていた店長に残業手当を出すようにした。しかし今はクルーを増やしているので、店長がクルーの代わりに残業するという事態はなくなり、店長の残業手当支給はほぼゼロだという。


経営理念

三木谷さんの「スピード、スピード、スピード」は有名だが、原田さんもビジネスではスピードが何よりも大事と語る。だからeクーポンに力を入れ、ニンテンドーDSを使ったマックでDSも力をいれている。

マクドナルドの経営では、成果主義を徹底し、年功序列を廃止したという。マクドナルドでは降格は決して恥ずかしいことではないという文化が生まれつつあるという。

原田さんは社員に3年以内にどういう後継者を作りますかとよく聞くという。人材のパイプラインが重要なのだ。


マクドナルドの場合は”Think Global, Act Local”

楽天などの企業はThink Global, Act Globalなのだろうが、マクドナルドの外食産業の場合は、Think Global, Act Localなどだと。だから日本語で考えて、日本語でしゃべれ。英語で考えて、英語でしゃべれ」と社員には言うという。


原田語録

講演の最後に、原田さんがいつも社員に言っている言葉が紹介されている。大変参考になるので紹介しておく。

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出典:本書101ページ


Q&Aも面白い

60ページにわたるQ&Aも面白い。印象に残った回答を箇条書きで紹介しておく。

★マネジメントはなんといってもコミュニケーションが一番大事。

★マックフライポテトは独自性のない商品のように見えるかもしれないが、あの長さでカリカリに揚げるのは大変なノウハウ。ポテトは揚げたあと7分で廃棄するという。テイクアウトしてレンジで温める人が多いのが残念だと。

★やはりチーズバーガーが一番おいしい。

★キャリアを自分で考えるな。キャリアとは周りからくるものと思え。

★チームのパフォーマンスを最大化するのがリーダー

★社長は職位ではない。職種であり、現場に行くのも自分の命題の発見のために行く。たとえばコーヒーのクリームとガムシロップのパッケージが同じ白で、間違えやすかったのに気づいて色分けさせたが、これは経営の課題。

★座右の銘はない。推薦書もない。

★学生時代のデパートの集金のアルバイトが役に立った。5000円の集金なら500円とりあえずもらい、毎週行って5000円回収できる。10人いれば、9人が”また来て”という答えだったという。生活設計にけじめのない人がツケで買っているということだ。

★風土はトップしか変えられない。


原田さんは最後に、「当たり前のことをちゃんとやれ」ということが、世間一般では驚くほどできていない、だから重要なのだと。あたまにスッと入る実践的経営論である。


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2011年09月16日

分析力を駆使する企業 分析力を武器とする企業

2011年9月15日再掲:

分析力を駆使する企業 発展の五段階分析力を駆使する企業 発展の五段階
著者:トーマス・H・ダベンポート
日経BP社(2011-05-26)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

「分析力を武器とする企業」の続編で、2011年5月に出たばかりの同じ著者による「分析力を駆使する企業」を読んでみた。

あらすじは詳しくは書かない。本は当たりはずれがあるという典型のような本だ。

ほとんど印象に残る具体例がない。

わすかに俳優のウィル・スミスが、統計学者といってもよいくらい毎週月曜日には興業成績をチェックし、ヒットした作品の共通点を研究し(すべて特殊効果を使い、ラブストーリーだった)出演作を選んでいるという。

アメリカだけでなく世界各国の売れ行きも重要なので、ウィル・スミスは世界各国にまめに足を運ぶという。



たしかに2008年の「7つの贈り物」のプロモーションで日本にも来日している。



この映画はアメリカではパッとしなかったものの、全世界では1億7千万ドルの興行成績を挙げた。ウィル・スミスのおかげといえるだろうと。この本についてはウィル・スミスの例だけ追記しておく。



2011年7月5日初掲:

分析力を武器とする企業 強さを支える新しい戦略の科学分析力を武器とする企業 強さを支える新しい戦略の科学
著者:トーマス・H・ダベンポート
販売元:日経BP社
発売日:2008-07-24
おすすめ度:4.0
クチコミを見る

いまや"Big Data"としてIBMなど世界の一流IT企業が、顧客データ分析に着目している。この分野の教科書ともいえる「分析力を武器とする企業」("Competing on Analytics")を再度読んでみた。

この本は米国のバブソン大学教授のダベンポート氏と、コンサル会社アクセンチュアのビジネス・インテリジェンスのチームリーダーのジェーン・ハリス氏の共著だ。

同じコンビの「分析力を駆使する企業」という本も出版されたばかりだ。こちらも近々読んであらすじを紹介する。

分析力を駆使する企業 発展の五段階分析力を駆使する企業 発展の五段階
著者:トーマス・H・ダベンポート
日経BP社(2011-05-26)
販売元:Amazon.co.jp
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この分野は筆者が特に興味を持っている分野なので、いままで「CRMの実際」という日経文庫や、流通業界では世界最高峰の英国TESCOのCRMを取り上げた「TESCOの顧客ロイヤリティ分析」などを読んで研究してきた。

CRMの実際 (日経文庫)CRMの実際 (日経文庫)
著者:古林 宏
販売元:日本経済新聞社
発売日:2003-04
おすすめ度:3.5
クチコミを見る

Tesco顧客ロイヤルティ戦略Tesco顧客ロイヤルティ戦略
著者:C. ハンビィ
販売元:海文堂出版
発売日:2007-09
おすすめ度:2.5
クチコミを見る

日経文庫の「CRMの実際」は2003年の本だが基本を抑えるのには適している。

TESCOの本は、ポイントカードを使ったCRMはどうあるべきかという実例を詳しく紹介しており大変参考になった。このブログでも原著の第2版のあらすじを詳しく紹介している。

ポイントカードを使った顧客管理を突っ込んで研究したい人は、2004年に出た第1版の翻訳である日本語版の「TESCO顧客ロイヤルティ戦略」よりは、英語ではあるがテスコクラブカード戦略の見直しまで取り上げている2008年に出た原著第2版「Scoring Points」の方をおすすめする。

Scoring Points: How Tesco Continues to Win Customer LoyaltyScoring Points: How Tesco Continues to Win Customer Loyalty
著者:Clive Humby
販売元:Kogan Page Ltd
発売日:2008-09
クチコミを見る

筆者が読んだ時は、"Scoring Points"はハードカバーしかなかったが、現在はペーパーバック版が出ているので、アマゾンで2,900円で買える。

話が横道にずれたが、「分析力を武器とする企業」は、基本を抑え、各社の実例を広く浅く紹介している。その意味で顧客管理(CRM)の教科書といえると思う。

アマゾンの「なか見!検索」に対応しているので、ここをクリックして目次をみてほしい。
次の表のような顧客分析を生かす企業の実例が取り上げられている。

分析志向の企業リスト













出典:本書23ページ

分析力を武器にする企業は次の4つの特徴を持つという。

1.分析力が戦略的優位性のベースになっている。

2.分析に組織を挙げて取り組んでいる。

3.経営幹部が分析力の活用に熱心である。アマゾンのジェフ・ベゾスが良い例だ。

4.分析力に社運を賭け戦略の中心に置いている。

参考になった具体例をいくつか紹介しておく。


★ネットフレックス

オンラインDVDレンタル。日本のツタヤDISCUSやDMM.COMのようなサービスだ。

DVDの送料は無料、貸出期限は無制限、延滞料は一切無し。借りたDVDを返せば、次のDVDが借りられるというシステムだ。

ネットフレックスは「シネマッチ」というアルゴリズムを組み込んだ映画リコメンドエンジンを持っている。顧客の好みを分析して、映画を推薦するのだ。

ネットフレックスは100万ドルの賞金を出して、社内外の力を借りて「シネマッチ」のアルゴリズムを10%以上改善したという。

ネットフレックスの最優先顧客はめったに借りない会員だという。月額料金は固定なので、めったに借りない人の方が利益率が高いので、この種類のお客をつなぎ止めておくことが重要だ。

いずれはDVDレンタルはオンラインダウンロードに変わるだろうが、ネットフレックスは自社の分析力さえあれば、バーチャルに移行しても利益は上がると自信を持っているという。


★ボストンレッドソックス

データ分析をプロ野球に利用して成功したオークランド・アスレティックスの例は「マネーボール」という本に詳しい。この本も近々読んでみる。

マネー・ボール (ランダムハウス講談社文庫)マネー・ボール (ランダムハウス講談社文庫)
著者:マイケル・ルイス
販売元:ランダムハウス講談社
発売日:2006-03-02
おすすめ度:4.5
クチコミを見る

まだ松坂大輔が加入する前、ボストンレッドソックスは2002年に野球のデータ分析の専門家を雇って、成果を上げ、2003年にはアメリカンリーグのチャンピオンシップシリーズに進出する。

しかしヤンキーズとのチャンピオンシップシリーズでは、監督のグレディ・リトルはデータ分析の専門家の意見を退け、優勝がかかる第5戦先発のペドロ・マルティネスをデータ分析による限界の105球を超えて8回にも登板させた。

データ分析ではペドロ・マルティネスは、105球までなら相手チームの打率は2割3分だが、106から120球だと打率は3割7分に上がっていた。それにもかかわらずリトル監督は自らのガットフーリング(直感)を信じたわけだ。

筆者は今でも覚えているが、たしかこの第5戦の大逆転劇で、松井が同点のホームを踏んで、躍り上がって喜んでいたことを思い出す。2003年でリトル監督はクビ。翌年は分析力と戦力補強が役立ち、86年間の「ベーブ・ルースの呪い」を破って念願のワールドシリーズを制覇したのだ。


★ロッキー・マウンテン・スチール

昔鉄鋼原料を取り扱っていた筆者には懐かしい名前だ。ロッキー・マウンテン・スチールはオレゴンスチールの子会社でシームレス鋼管を製造していたが、不況で生産中止していた。

筆者の記憶が正しければ、この会社は昔のUSスチールのPueblo, Utah工場ではないかと思う。戦争中に万が一敵が西海岸に侵攻してきても、ロッキー山脈のあたりにあれば、爆撃にも平気だということで建設した工場ではなかったかと思う。

鋼管市況が高騰したので、社内外の生産再開を求める声に対し、副社長のロブ・サイモンは"profit insight"というソフトウェアで再開時期を分析し、製品販売での逸失利益を出すことなく工場再開を決めたのだという。

ロッキー・マウンテン・スチールは今はEvrazという会社の一部門になっているようだ。


★マス広告の問題点

マス広告の問題点は、デパートの先駆者のジョン・ワナメーカーが嘆いたように「広告費の半分は無駄に失われている。だが、それがどの半分かがわからない」点だ。

それを科学的に分析するのが、現代の広告業界が力を入れている分野だという。DDB Worldwide社の子会社のDDBマトリクス社が有名だ。

ちなみにDDB Worldwide社のホームページには"Fun Theory"という、人は面白ければ動くという一連の広告活動が紹介されている。

階段をピアノの鍵盤のように改造して、音が出るようにしたら、エスカレーターより階段を使う人が増えたという。フォルクスワーゲンの広告で、興味深い実験が紹介されている。


★キャピタル・ワン(クレジットカード)

1980年代に「情報ベース戦略」により、最もありがたい顧客を突き止めた。クレジットカードの最上のお得意は、高額の商品を買って長期にわたって返済するお客だった。

この結果、リボルビングクレジットカードを発明し、これがアメリカのクレジットカードのスタンダードになった。


★プログレッシブ(損害保険)

クレジットカード業界の信用レーティングでデファクトとなっているFICOスコアを保険ビジネスに生かした。

FICOスコアが高い人は自動車事故を起こす確率が低いことをつきとめ、優良顧客に安い料率を適用して集客に成功した

FICO(フェア・アイザック社」)スコアについては、以前紹介した消費生活評論家の岩田昭男先生の「信用格差社会」に詳しいので、参照してほしい。

「信用力」格差社会―カードでわかるあなたの“経済偏差値”「信用力」格差社会―カードでわかるあなたの“経済偏差値”
著者:岩田 昭男
東洋経済新報社(2008-11)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る


ちなみにFICOスコアはアメリカでは採用時のスクリーニングに使われているという。ミズーリ大学のマーク・オレソン教授のコメントを紹介している。

「お金の問題を抱えている人で、ほかに何も問題がないという人は滅多にいない。だいたいは欠勤をしたり、能率が悪かったりする。あるいは、家庭に問題を抱えていることも多い、つまりクレジット・スコアが低い人は、生活の他の面でも要注意なのだ。

したがって、大量の応募者があるような場合には、企業は最初のスクリーニングにクレジット・スコアを活用して人数を絞ることができるだろう」



★ハラーズ・エンターテインメント(カジノ)

大金をスッたお客に一息入れる20ドルのバークーポンを送ったり、人気コンサートの売れ残りチケットを紹介したりして、顧客との関係を最適化。


★ニューイングランド・ペイトリオッツ(フットボール)

選手のセレクション、選手の年俸決定、試合中の戦術の選択に統計的手法を導入。パトリオッツは2001年から2004年までのシーズンで3回スーパーボウル(ゼンベイチャンピオンシップ)で優勝した。

筆者はピッツバーグ駐在経験者なので、当然ピッツバーグ・スティーラーズのファンだが、以前は弱かったペイトリオッツがなぜ強くなったのか疑問に思っていた。これで理由の一端がわかった。


★ウォルマート(スーパーマーケット)

ウォルマートの保有データは2006年4月時点で583テラバイトだったという。この膨大な顧客データをSCM(サプライ・チェーン・マネジメント)に生かしている。

生データをサプライヤーにレテール・リンク(Retail Link)を通じて提供し、その店にあった商品の品ぞろえ、在庫補給を任せている。また天気予報などの情報を取り入れ、ハリケーンが近づくとケロッグのストロベリー・ポップ・タルトなどの非常用食品を大量に仕入れるという。


★セメックス(メキシコのセメント会社)

ミキサー全車にGPSを備え付け、予測モデルを使って生コンクリートの配送時間を管理し、急な注文への対応を従来の3時間から20分に短縮して顧客満足度を上げ、ミキサー車の生産性を35%向上させた。

印象に残った例を紹介したが、このほかにも多くの事例を紹介している。


★データ分析のウソ

英国の名宰相ベンジャミン・ディズレーリは「嘘には3種類ある。嘘、大嘘、統計だ」と語ったという。恣意的な統計は人を欺くこともできる。


「紙オムツとビール」は都市伝説

データ分析では、以前から紙オムツを買う人はビールも買うという都市伝説があった。その根拠とされるオスコというドラッグストアチェーンに問い合わせたところ、根も葉もないうわさだったという。

しかし、この「紙オムツとビール」伝説には、データ分析するためには多数の専門アナリストが必要だということと、トップが分析を信じてアクションを取ることが重要だということが教訓として潜んでいるという。

このように様々な業界の、データ分析・活用例を紹介し、そのデータ分析を経営に活かすためにはどうしたらよいかを具体的に説明している。


第2部の「分析力を組織力にする」は実戦的

この本の著者の一人はアクセンチュアのコンサルタントなので、第2部の「分析力を組織力にする」は非常に実戦的だ。次のような章構成で、具体的な導入方法について解説している。

第6章 分析力活用のためのロードマップと組織戦略

第7章 分析力を支える人材

第8章 分析力を支える技術

第9章 分析競争の未来


そしてこの本の最後の分析力を武器とする企業の未来像は、次のようにまとめられている。データ分析を生かす企業は何を目標としなければならないかが、よくわかる。

「分析力を武器とする企業は、これからも後発企業から頭一つも二つも抜け出た存在であり続けるにちがいない。効果的・効率的なキャンペーンを打ち、プロモーションを仕掛けて、最高の顧客をつかむ。

顧客が喜んで払ってくれるような、値頃で妥当な価格を設定する。かゆいところに手が届くようなサービスを提供し、高い顧客忠誠度を誇る。

超効率的なサプライ・チェーンを展開し、在庫がだぶつくこともなければ、在庫が切れることもない。

最高の人材を呼び込み、適切に評価し、報いる。

独自の視点から業績評価指数を設定し、将来を的確に予想し、問題が深刻化しないうちに突き止めて対処する。そのすべてにデータ分析が生かされている。

彼らは多くの問題を解決し、競争で優位に立つだろう。未来のビジネスをリードするのは、分析力を武器にする企業だと私たちは確信している。」



データ分析の教科書としてよくまとまっており、参考になる本だった。


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2010年12月15日

技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか 東大妹尾教授の本

技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか―画期的な新製品が惨敗する理由技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか―画期的な新製品が惨敗する理由
著者:妹尾 堅一郎
販売元:ダイヤモンド社
(2009-07-31)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

東京大学 知的資産経営総括寄附講座(イノベーションマネージメントスクール)特任教授で、NPO産学連携推進機構理事長の妹尾堅一郎教授の本。東大イノベーションマネージメントスクールの学生は20人くらいと言っていた。

10月に経産省主催の情報化月間記念講演会で講演を聞く機会があったので、本を読んでみた。

元は富士写真フィルムのビジネスマンとはいえ、最近の大学の先生はここまで話が面白いのかと大変感心した。

この本の冒頭で自身の爆弾発言を紹介して、問題提起をしている。「日本の自動車産業は、15年で壊滅状態になります」。自動車生産のメッカ名古屋での2009年正月の発言だという。

そして2番目の問題提起はインテルだ。インテルは保有特許数だと320しかないと言われている。

一方、日本のメーカーの保有特許は1万を超えているのにもかかわらず、日本の半導体メーカーすべてを束にしてもインテル一社の収益に及ばない。もとはNEC,日立製作所、三菱電機のメモリー部門だったエルピーダメモリは産業再生法の対象となっている。


「負ける日本」という問題意識

妹尾さんは、「負ける日本」に次の2つの問題意識を持っているという。

1.日本には技術力はあるのに、事業で勝てない。なぜか?
  技術で勝っても、知財権を取っても、国際標準を取っても、事業で負ける。

2.日本の産業競争力は崩壊間近いのではないか?

国際競争力比較で有名なスイスのビジネススクールIMDの「世界競争力年鑑2008年版」によると、日本の国際競争力は55カ国中22位、最新の2010年版では27位となっている。

1989年にIMD調査が開始し、5年間は日本がトップを続けてきたが、1998年には20位に下がった。長らく米国がトップを続けてきたが、2010年にはシンガポールが1位となり、2位香港、3位米国となった

中国は18位、韓国23位、日本の一位上の26位はタイで、日本の一位下はチリとなっている。

上のリンクでレポート全文を読めるので、興味のある人は見て欲しいが、日本は"sinner"、つまり”罪深い国”のNO.1で、現在の債務を安全レベルといわれているGDPの60%にまで押さえ込むには2084年までかかると予想している(もっとも債権者はほとんど国内なので問題は少ないという注記がある)。

「日本は科学技術大国だが科学技術立国になっていない」と妹尾さんは語る。

2番目の「産業競争力は崩壊間近いのではないか」という点については、妹尾さんの同僚の小川紘一特任教授の表を見れば、一目瞭然で分かると思う。

日本製品シェア推移







出典:本書 xviページ

それぞれの製品の世界市場の規模は、年を経るごとに飛躍的に拡大しており、その中で、日本のシェアが落ちているということは、他国は販売量を格段に増やしているのに、日本は他国ほどには増えていないということだ。

この裏には欧米企業とNIEs/BRICs地域企業との巧みな協調関係のからくりがあるという。

妹尾さんの表現だと、「日本チーム14安打、22残塁、またも無得点」というところだろうと。

そしてこの2つの問題意識の答えとしては、「三位一体」経営であり、技術が強ければ勝てるというのは過去の話になっていると。


「三位一体」経営

「三位一体」とは、

1.製品の特徴に応じた急所技術の見極めと研究開発。

2.どこまで独自技術としてブラックボックス化したり、特許を取ったり、どこから標準化してオープンに使わせるのかのさじ加減をする知財マネジメント。

3.これが一番重要だが、垂直統合でなく、中間財などを介した「国際斜形分業」などによる、市場拡大と収益確保を両立させるビジネスモデルの構築。

この3つの戦略が一体化してはじめてインテルの成功が可能となる。電気自動車で同じことをやられかねないので、日本の得意分野の自動車業界やロボットは危ないのだと。


成長か、発展か?

最初に妹尾さんは「成長したいのか、発展したいのか?」と問う。

成長はあくまで既存モデルの量的拡大で、発展は新規モデルの不連続的移行である。おたまじゃくしがカエルになるのが発展で、木が大きくなるのは成長なのだと。

筆者もこの辺の区別はついていなかった。

日本のお得意はインプルーブメントで改善を重ねて、コストを下げる。それに対して欧米はイノベーションでモデル自体を変えてしまう。


プロパテントからプロイノベーションへ

2004年末に米国の官民学のリーダー400人が集まって作った競争力向上の通称「パルミサーノレポート」("Innovate America")に、「最後にはゲームのルールを変えたものだけが勝つ」と書いてある。これはまさに至言なのだ。

これに先立つ1985年の「ヤング・レポート」は、日本の製造業に対抗するために、新技術の開発とパテント重視の経営を提言した。

しかしパルミサーノレポートでは日本は外され、中国やインドなどBRICs諸国との対抗を意識して書かれたものだ。「人財」育成を提言し、中国やインドの留学生の取り込みに成功した。


イノベーション促進モデル

妹尾さんは、問題対応の構成として次の3つの切り口から分析している。これを「ソシアルイシュー・マネジメントモデル」と呼んでいる。

タイプ1.問題状況の改善
タイプ2.問題状況の解決
タイプ3.問題状況の解消

タイプ1.の改善は、携帯電話に不可欠なレアアースの例をとると、使用量低減や資源外交、携帯電話の複数番号対応や、1台の携帯電話をできるだけ長く使うことなど。

タイプ2.の解決は、都市鉱山と呼ばれる携帯電話機からのリサイクル、新しい鉱床の発見、探鉱・採掘技術の開発など。

タイプ3.の解消は、レアアースの代替材の開発、金属を使わないシステム開発などだ。

妹尾さんの記念講演では、「VHSとベータ、どっちが勝ったか?」や、「ブルーレイとHD-DVD、どっちが勝ったか?」というような質問をまとめた次のクエスチョンペーパーを配っていた。さまざまな角度から分析することのドリルだと言っていた。

妹尾教授講演20101001













出典:2010年情報化月間記念講演会配布資料

ちなみにHD-DVDでは東芝はブルーレイ連合に負けたが、中国はHD-DVDを国内標準として採用した。

そうなると「13億人のガラパゴス」になるのか、中国に売り込みたい世界の国が競って、13億人の市場にあわせるので、逆世界標準となるのか、わからないところだ。

昔のVIDEO-CDを思い出す。日本では全くはやらなかったが、中国や東南アジアではビデオよりVIDEO-CDの方がはやっていた。


インテル・インサイド

次は勝ちパターンの研究だ。インテルはCPUという基幹部品周り(PCIバス)をブラックボックス化し、インターフェースはオープンとして他のメーカーには関連部品を開発させた。さらにCPUを組み込むマザーボードの技術を開発し、台湾メーカーにノウハウを提供した。

これによりマザーボードという中間製品が安価に製造でき、パソコンメーカーが雨後のタケノコのように出現してパソコンの価格も下がった。パソコンの生産が増えれば、インテルのCPUも売れるという好循環になったのだ。

さらにインテルジャパンが始めた「インテル入ってる」=「インテル・インサイド」を広告することによって、どのメーカーのパソコンでもインテルさえ入っていれば大丈夫だろうという安心感を与え、パソコン市場の拡大に貢献した。

基幹部品が完成品を従属させたのだ。

今は自作するよりショップブランドを買う方が安いので、PCを自作していないが、筆者も10年ほど前にパソコンを自作したことがある。

パソコン自作はプラモデル作り並みに簡単だ。ファンやハードディスクなどの基幹部品をシャーシかマザーボードに取り付け、ケーブルをつなぐだけだ。

若干トリッキーなのは、CPUに断熱ジェルを塗りつけ放熱板を取り付ける作業だが、それ以外はパーツをはめ込むだけだ。

インテルの基本設計で、パソコンは誰でも簡単に組み立てられるようなユニバーサル設計となっていることを実感したものだ。

閑話休題。


アップル・アウトサイド

「アップル・アウトサイド」は妹尾教授の造語だ。アップルのiPodやiTunesなどのサービスと完成品が一体となった「完成品主導型」、あるいは「コンセプト主導型」のモデルのことだ。

iPhoneではオープン戦略を取って、インターフェースを公開し、数万もの関連アプリケーションを他社に開発させ、それがまたiPhoneの魅力を高めている。


ハイブリッドカーは電気自動車への「つなぎ?」

ハイブリッドカーの技術を向上させるのはモーターの改善が主なので、どんどん電気自動車に近くなる。

一方、電気自動車ではモジュラー化が進むので、現在の自動車のような3万点の部品の組み合わせということにはならない。

それこそ部品数百点のインドのタタ自動車が2千ドルで売り出した「ナノ」のような車が、今度は電気自動車として登場するのだ。

ちなみにナノは欧米の部品メーカーが背後で協力しており、どこまで部品数を減らせるのかという実証実験にも見えると妹尾さんは語る。

電気自動車を実用化する場合、家庭での充電以外にも、充電スタンドでバッテリー自体を交換するという方法もある。

また電力消費のピーク時には、電気自動車のバッテリーを蓄電池代わりに使って、バッテリーから逆に家庭を通して電力会社の送電網に電力を供給するという逆方向もありうる。

妹尾さんが「日本の自動車産業は15年で壊滅する」と警鐘を鳴らす理由を、この本では詳しく書いていないので、ハイブリッド車オーナーの筆者が補足しておく。

ガソリンエンジンはレシプロ(上下運動)を回転運動に変えているのでその分ムダがあり、高温反応、燃費、エンジンの密閉性、排気ガス処理、振動対策、騒音対策とさまざまな技術的課題がある。

部品一つ一つがしっくり噛み合っていないと、効率が落ち、振動や音が発生して、燃費が低下し、運転の邪魔となる。だからガソリン自動車では日本の噛み合わせ技術が生きるのだ。

とくに噛み合わせ技術がもっとも必要なのは、エンジンのガスケットだ。エンジンは鋳造品なので、組み合わせるときのすきまをガスケットをかませて密閉性を保っている。

ガスケットが悪いとエンジンからガスが抜けて、出力が上がらないという問題が起こる。

陸軍のトラック輸送部隊にいた亡くなった父から聞いた話だが、戦前の日本のエンジンは密閉性が悪く、オイル漏れだらけだったが、進駐軍のトラックのエンジンを見てオイル漏れがないのでびっくりしたと言っていた。

ところが電気自動車のモーターなら初めから回転運動なので、密閉性も高温の問題もなく、燃費の問題もない。問題は航続距離だけなので、上記のすべての技術的対策が不要となる。逆に音がしないので、近々ハイブリッド車には、人に近づくとわざとエンジン音が出る装置が付けられることになっているほどだ。

だから電気自動車はモジュール化に適しており、モジュール化したら、ガソリンエンジンのような緻密な噛み合わせは不要となり、日本の噛み合わせ技術は無用の長物になるのだ。


その他参考になった点

大変参考になった本なので、あらすじが長くなりすぎるので、特に参考になった点だけ箇条書きする。

★日清食品が開発した即席ラーメン市場が拡大したのは、特許技術のオープン戦略によるもの。

★デンソーはQRコードの技術を公開して、誰でも使えるようにした。デンソー自身はリーダー機器に技術を集中し、リーダー機器販売でビジネスを成立させようとしている。

★コカコーラは1831年に薬剤師のジョン・ペンバートン博士が開発して以来、処方は企業秘密で、特許も取っていない。特許を申請すると、技術が公開されてしまうので、特許を申請しないという戦略も有効である。

★IBM,ノキア、ソニーなどの企業が結成した「エコ・パテント・コモンズ」では、環境保護に使える特許を無償で開放して、相互に使おうというもの。

★1991年に基本特許が取得されたカーボン・ナノチューブは、大規模な用途開発がようやく進展しはじめたが、すでに特許は切れる段階に来ている。

★従来はイノベーション=インベンションだったが、今はイノベーション=インベンションXディフュージョン(廉価化)だ。

★月島機械は日本有数のプラント会社だが、プラント建設だけでなく、下水道設備の運用サービスにも乗り出している。これはIBMの「ソリューションビジネス」というビジネスモデルのプラント版である。

★妹尾さんは「真珠湾・マレー沖海戦思考」と呼ぶそうだが、「勝った理由をしっかり認識せず、負けた原因をしっかり分析せず、それらの対応を真剣に考えず、それゆえ適切な対応をしないこと」を意味するという。

IBMもインテル、アップルも一度徹底的に負けた経験を持つ。野村監督が言うように「負けに不思議の負けなし」で、負けの理由をしっかり反省しなくては、次の試合にはつながらない。

★日本企業の役員の多くは、若い時は日本の黄金時代を過ごし、バブル経済とその崩壊を通して、失われた10年を過ごしているが、頭にしみ込んだモデルは変わらない。だから「これで勝てるという方程式」を一度捨ててみるべきだと。

環境は変わったのではなく、欧米諸国に変えられたのだと。日本が垂直展開していくうちに、欧米とNIEs/BRICsのコラボレーション共闘はさらに先に進む。


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2010年07月28日

はじめて語られる企画の「虎の巻」 CCC増田さんの久しぶりの本

はじめて語られる企画の「虎の巻」はじめて語られる企画の「虎の巻」
著者:増田 宗昭
販売元:毎日新聞社
発売日:2010-03-20
おすすめ度:2.5
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CCC(カルチャー・コンビニエンス・クラブ)社長の増田宗昭さんの14年ぶりの本。

増田さんの以前の著書の「情報楽園会社」は、復刊ドットコムという会社から最近復刊されている。

情報楽園会社情報楽園会社
著者:増田宗昭
販売元:復刊ドットコム
発売日:2010-05-20
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この本では世界一の企画会社をめざすCCCで、増田さんが日頃伝えている企画人になるための「虎の巻」をまとめたものだという。130ページあまりの本だが、だいたい半分は写真なので、1時間で読める。


「プロダクトアウト」と「マーケットイン」

ちょっと気になったのは「プロダクトアウト」と「マーケットイン」という言葉の使い方だ。

通常「プロダクトアウト」とは、供給者が見込み生産した商品を消費者に売りつけるというイメージだ。モノが不足していた時代の売り方である。

他方「マーケットイン」とは、モノ余り時代の売り方で、消費者のニーズをつかんで、それにあわせて製品を製造・供給するという手法だ。

ところが増田さんはそれぞれを全く逆の意味に使っている。

「『マーケット・イン』では、結果を手っ取り早く得ようと市場のニーズに合致した商品やサービスを作り、売り上げを立てようとします。しかし、この『マーケット・イン』の手法は、既に世の中に必要なものが全て揃っているモノあまりの時代では通用しなくなってきています。

「これからのビジネスで求められるのは『プロダクト・アウト』です。『プロダクト・アウト』では、企業サイドが、『この商品こそが世の中の人々が求めているものだ』と開発した商品を顧客に届けるビジネススタイルのことをいいます」

「言い換えると、前例のない中でやりきることだと私は思っています。そして、この『プロダクト・アウト』ができる人こそが、これから求められるのではないでしょうか。」

良く読んでみると、増田さんは昔の大量生産の時代の「プロダクト・アウト」のことを言っているのではなく、世の中のトレンドを先取りするような新規需要を喚起するような商品をつくれと言っているのだとわかる。

「プロダクトアウト」の進化については、J-Marketing.netというサイトの「プロダクト・アウト」、「マーケットイン」の説明に詳しい。


企画を規格化

増田さんの主張は、企画力を磨くことで、消費者や時代のニーズを先取りしろ、そして企画が圧倒的に成功するために、「企画を規格化」しろというものだ。

「企画を規格化」というのはわかりにくいが、要はツタヤのようなフランチャイズ制を思いおこすと理解しやすい。

つまり本とDVD/ビデオのレンタル/販売の複合店というライフスタイルを提案し(企画)、それをフランチャイズとしてリピートできるように規格化するということだ。

オーダーメードの採寸の洋服屋で、大きくなったところはないと。


企画セオリー20ヶ条

この本では増田さんの「企画」セオリー20ヶ条が紹介されている。

参考になった「セオリー」をいくつか紹介しておく。

☆原因>結果

結果でなく原因を探る。「原因」はプロダクト・アウトの基本で、企画はプロダクト・アウトでなくてはならない。「原因」が作れれば、「結果」は後からついてくる。

筆者もPDCAサイクルでの改善を常に意識しているので、この考え方には大賛成だ。通常「原因」と呼んでいることは、単に現象面での理由であり、根本原因でないことが多すぎる。

トヨタの様に、「なぜ」を5回繰り返して、根本原因を探らないと、「プロダクト・アウト」もできないのだ。

☆企画の3要素=情報とお金と好感度人間

☆お客様の目線で考える

☆「儲かる」とは、「信者」を作ること

顧客が儲かるということが一番大事だ。「儲かる」という漢字は、「信者」つまり、ファンを増やすこだ。ファンを増やせば、仕事は自然に増えてくる。

☆企画は「心」から生まれる

「心根」の良い人間、「好感度人間」こそが世界一の企画人間になれるのだと。

☆いつも初心が基本

「ありがとう」という一言が素直に言える。それだけで人は、幸せになれる。

☆約束と感謝

ビジネスの基本は「約束と感謝」の心を忘れないことだ。


Tポイントの特徴

この本では増田さんがTポイントのメリットを力説している。ポイントマニアの筆者には大変参考になったので、紹介しておく。

次が2010年1月のTポイントエクゼクティブ・カンファランスでの加盟店トップの発言だ。

カメラのキタムラの北村社長:「私たちの店だけのポイントだとそれは円でしかない。これが他の店で使えれば、面白いことになると思い直ぐに加盟することに決めた」

ニッポンレンタカー松本社長:「加盟後にTポイントを希望される顧客が突出して伸びている」

ファミマ上田社長:「コンビニはこれからはシニア層をきちんと、取り込めなければ脱落する。そこで、増田さんのリッチなシニア層を取る込むスキームという言葉に惹かれた。増田さんには夢がある」


Tポイントの5つの戦略

参加企業はTポイントに加盟すると「その結果が売り上げに出る」と語っているという。お客に喜んで貰うためのTポイントの5つの戦略とは次の通りだ。

1.ポイントが貯まる=ポイントの付与

2.一枚のカードで、どこでも使える=共通のカード

3.どこでもクーポンがもらえる=POSアライアンス

4.ネットでもポイントが受け取れる=ネットアライアンス

5.T会員だから参加できるイベント=共同事業

Tポイントは、日本でしか使えない「円」ではなく、世界に通用する「ドル」のような存在なのだと。いずれは海外へという思いはあると。

Tポイントの特徴は相互送客で、加盟店間の共同事業は広がり、2010年3月にはTポイントレディスゴルフトーナメントを初めて開催した。

TPoint ladies tournament







筆者は”ポイントマニアのブログ”も書いているポイントマニアなだけに、Tポイントには成功してほしい。

1業種1社の縛りがあると、今以上には拡大難しいのではないかと思うが、是非使える店を増やして、ユーザーの利便性を上げて欲しいものだ。


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2010年06月04日

不祥事は財産だ 9件の不祥事の顛末と学習

不祥事は財産だ-プラスに転じる組織行動の基本則 (祥伝社新書184) (祥伝社新書 184)不祥事は財産だ-プラスに転じる組織行動の基本則 (祥伝社新書184) (祥伝社新書 184)
著者:樋口 晴彦
販売元:祥伝社
発売日:2009-12-01
おすすめ度:4.5
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樋口晴彦警察大学警察政策研究センター教授の「組織行動」シリーズ第3弾。

樋口さんは東大経済学部卒。上級職として警察庁に入り、数々の警察のポジションを経験。外務省情報調査局勤務も経験し、官費でダートマス大学でMBAも取得している。

樋口さんは失敗学の権威、東大畑中洋太郎名誉教授が会長となっている失敗学会理事も務めている。

畑中さんの「失敗学にすすめ」は昔読んだが、大変参考になる本だった。

失敗学のすすめ (講談社文庫)失敗学のすすめ (講談社文庫)
著者:畑村 洋太郎
販売元:講談社
発売日:2005-04-15
おすすめ度:4.5
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9件の最近の事故・不祥事

この本では9件の最近の事故・不祥事の原因と顛末を紹介している。

1.雑司ヶ谷下水道事故 ー マニュアル通りの危険

2.三菱化学鹿島事業所火災事故 ー リスク管理の死角となった下請け会社

3.海上自衛隊イージス艦防衛機密流出事件 ー 被害を拡大させた抜本的対策の遅延

4.三井物産DPFデータ改ざん事件 ー 成果主義が誘発した企業不祥事

5.日興コーディアル不正会計事件 ー 金融エリートたちの暴走

6.ジーエス・ユアサ循環取引事件 ー 機能しなかった内部通報制度

7.シンドラーエレベーター事件 ー 業界内対立構造がもたらした情報の断絶

8.加ト吉循環取引事件 ー 売上至上主義の組織文化

9.赤福不適正表示事件 ー 強すぎた「もったいない」意識

これに加えて、歴史に学ぶ視点ということで、たぶん樋口さんの趣味なのだろう、信長最大の危機(志賀の陣)、日本の条約型重巡「妙高」の優劣、乃木将軍旅順攻略戦などのトピックについて解説している。

最近の失敗学研究では必ず取り上げられるJR福知山線の脱線事故がないのが気に掛かるが、解説されている不祥事はどれも記憶に新しい事件ばかりで、新聞などでは報道されていなかった経緯や顛末、そして最も重要な学習効果を説明していて興味深い。


三井物産DPF事件

特に筆者が興味深かったのは、三井物産のDPF(ディーゼルエンジン排ガス浄化装置)の経緯と顛末、後日談だ。

樋口さんはこの事件の遠因は三井物産の行きすぎた成果主義だと整理している。

当初S飛行機工業と共同で開発していたが、期待した性能が得られなかったのでS飛行機工業が開発の1年延期を申し出たのに対し、三井物産は子会社による単独開発を決定。

問題はワイヤーメッシュフィルターの目詰まりによる溶損で、高価なインコネル(クロム、ニッケルを大量に使った超耐熱材、ジェットエンジンなどに使われる)を使って、実験機試験を通したが、ステンレスワイヤーを使った量産品では基準を満たす見込みはなかった。

そこで三井物産の担当者は、データを改ざんする一方、都の立会人を接待攻勢で籠絡し、きちんと試験に立ち会わせないで都の認定を取得し、量産を開始した。

不祥事が発覚したのは、三井物産の社内監査だった。

この会社は実質一人の人間が牛耳っており内部統制上の問題があるとして、特命監査を実施。データ改ざんや、背任行為が発覚、三井物産は事態を公表した。

石原都知事は「都民の願いを裏切る卑劣な行為」と三井物産を非難したが、樋口さんによれば、石原都知事の反応には失笑を禁じ得ないと。こういった性能不良の製品が大量に出回ったのは、都の怠慢によるものだとまで言っている。

都が勝手に決めた厳しい基準を満たす小型DPFはなく、都は三井物産の装置が合格しないと、困る事態になっていた。だからうすうす事情が分かっていても、目をつぶったのではないかとも勘ぐれるという。

この事件のあと、三井物産は社内監査を強化。人事評価では伝統の成果主義を改め、定性評価を8割まで上げた。そしてCSR関連分野は社内承認を厳しくした。

三井物産の当時の槍田(うつだ)社長は「コンプライアンス無くして、仕事無し、会社無し」、「コンプライアンスの徹底で会社がつぶれるというのであれば、それでもかまわない」と大胆なメッセージを社内に発信し、社内の意識改革を行った。

槍田さんは「業績への影響を気にして、私が何も言わなかったら、この会社は変わらない」、「物産には目標を達成しようという企業風土が骨の髄までしみこんでいる。」、「そんななかで、私まで利益、利益と言い出したら、『形状記憶合金』のように元の状態に戻り『数字の病気』が出てしまう」と語っている。

いかにも東大工学部精密機械工学科出身の槍田さんらしいコメントだ。

三井物産は不祥事を風化させないために、「風化させないために」と題する新書230ページの社内資料を作成し、湯河原の社員研修所には問題のDPFが飾られている。

三井物産DPF











出典:本書91ページ

たしかに10年ほど前までは、すべての会社でコンプライアンスに対する意識が低かったと思う。別に不正を働いていたわけではないが、たとえば残業時間などは36協定を破るのが常態化していた。

そんななかで、会社がつぶれるという危機を持って、社内の意識改革に努めた槍田さん以下の物産のトップマネージメントは良い実例を残してくれたと思う。


三井物産の独立採算制と成果主義

次は筆者の意見である。

筆者は槍田さんとは直接面識はないが、槍田さんが常務で情報産業本部長時代に、物産と共同事業をやっていた経験もある。湯河原の研修所で、物産の仲間と一緒に研修したこともある(事件の前なので当然DPF展示はない)。

三井物産といえば昔は部別独立採算制で、海外駐在員も含め部長が全人事権を掌握し、他社の本部長並の権限を持っていた。

だから一つの商品を、たとえば鉄鋼と非鉄の複数の部が、社内で取り合うというようなことも起きていた。

DPFも本来なら機械本部が取り扱うところだろうが、機械ではなく化学品で見つけてきた商材なので、化学品部門(現在は機能化学品本部機能化学品業務部が窓口)が取り扱っていたのだろう。

この本で指摘されている三井物産の成果主義以外にも、商材を見つけた人がたとえ商品エクスパートでなくても、そのビジネスを手がけるという社内ルールにも、この”ありえない事件”の根本原因があるのかもしれない。

ちなみにこの物産のDPF顛末は、2004年の事件ながら、いまだに物産のホームページに掲載されている。まさに「風化させないために」だ。


その他、上記に挙げたような事件が、詳しく解説されていて参考になる。

今や不祥事を起こすと企業には致命的なダメージにもなる。この本のタイトルのように「不祥事は財産」とできる余裕のある企業は大企業に限られると思うが、少なくとも他の企業には他山の石となるので、その意味では知的財産と言えるかもしれない。


乃木将軍を無能呼ばわりの司馬史観は誤り

おまけの乃木大将の話は、司馬史観のベースとなった陸軍大学の兵学教官が執筆した「機密日露戦史」を批判している。乃木批判は後世の後知恵であると。

機密日露戦史機密日露戦史
著者:谷 寿夫
販売元:原書房
発売日:2004-05-25
おすすめ度:5.0
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「機密日露戦史」は参謀本部が自らの非を認めず、第三軍司令部や乃木将軍に責任転嫁する意図を持って書かれたと樋口さんは語る。

それに加え、藩閥批判(乃木将軍は長州、伊地知参謀長は薩摩出身)と奇策重視の陸軍大学の教育方針を正当化する意図もあったという。

乃木将軍の件は、世によく知られた事案でも、真の教訓が伝えられているとは限らない格好の例であると。

最後にまとめとして、「重大な失敗事案について、担当者個人のミスだけを問題視している文献を当てにしてはならない」というのが樋口さんの識別法だと語っている。


最近起こった事件を中心に解説しているので、興味深く、簡単に読めて参考になる本だった。


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2010年05月14日

もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら

もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだらもし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら
著者:岩崎 夏海
販売元:ダイヤモンド社
発売日:2009-12-04
おすすめ度:4.0
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ドラッカーと女子マネという一見関係のないことを結びつけたビジネス小説。なんとアマゾンの本の売り上げランキングで第7位のベストセラーだ。

作者の岩崎夏海さんは、放送作家としてバラエティ番組に参加、AKB48のプロデュースなどを経て、現在はマネージャーとして芸能関係で働いている。この小説の登場人物も、AKB48のメンバーを意識して書いたという。

この本の発端は、岩崎さんがドラッカーの「マネジメント」を読んで感動し、日本の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだらどうなるだろうという構想を思いついたことだ。その構想を自分のブログで発表したら、小説にしてはどうかという話がダイヤモンド社から寄せられ、この本が誕生した。

ダイヤモンド社はドラッカーの著作を多く出版している。

マネジメント - 基本と原則  [エッセンシャル版]マネジメント - 基本と原則 [エッセンシャル版]
著者:P・F. ドラッカー
販売元:ダイヤモンド社
発売日:2001-12-14
おすすめ度:5.0
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大学生の息子が買って読んで、大した本ではなかったと言うから、積ん読になっていたが、前回紹介した柳井さんの「わがドラッカー流経営論」という本を読んだついでに読んでみた。

電車のなかでブックカバー無しで、おっさんが読むのは恥ずかしいような表紙だし、正直バカにしていたが、読んでみたら、これが結構面白い。


ドラッカーの経営論を高校野球のチーム経営に生かす

女子マネとマネージャーを結びつけたのは、奇抜な発想ではあるが、高校野球のチーム経営でもドラッカーの経営論が生かせる。顧客創造から始めて、マーケティングとイノベーションの2大武器と、知識労働者としてのスタッフを育成することで、高校野球のチームでも成功できるのだ。

筆者のポリシーとして小説は詳しいあらすじは紹介しない。簡単にだけ紹介しておく。

小学校の時に男子に混じって活躍していた野球少女が、しだいに男子との力の差を思いしらされ、野球をキライになる。野球に対してそんな複雑な気持ちを持つ女子高生が、病気入院中の親友に代わり高校野球の女子マネになる。

「マネージャー業」を学ぶするために、ドラッカーの超ベストセラー「マネジメント」で勉強する。そして先生や選手も含めて仲間をどんどん増やして、最後には強いチームを作り上げるというストーリーだ。

ところどころにドラッカーの教えが引用されて出てくる。

まずは「野球部の顧客は誰か」という質問から始まる。クイズ集の様に、自分でも考えてみると面白い。そして得られた高校の野球部の定義は、「顧客に感動を与えるための組織」というものだ。

ドラッカーの経営の2大武器の一つの、マーケティングは部員全員、部長(専門家というカテゴリー)、その他の関係者の野球部に対する期待をよく聞くことから始まる。

もう一つの武器のイノベーションは、野球部監督(東大野球部卆のこの高校のOBという設定)の持論である、高校野球を面白くなくしているバント多用主義とボール球を打たせる主義の2つの戦術に対するアンチテーゼの、「ノーバント・ノーボール」戦術だ。

練習方法にもイノベーションと競争原理を取り入れる。部員を3チームに分けてそれぞれ競わせて練習し、ピッチャーだけは別メニュー。

他の運動部との相互助け合いの一環で、陸上部との練習で走力をアップし、ピッチャーは柔道部と練習して足腰を鍛える。

小学生を招いて野球教室を開いたり、甲子園出場者を多く擁する私立大学有名野球部との交流とかの校外活動で、野球技術向上の機会をつくる。そして同時に応援の輪を広げる。

モデルケースを考えることも、頭の体操になって楽しい。

この程度の紹介にとどめておくが、少女漫画のような表紙を見て食わず嫌いにならず、是非中身を読んで欲しい本だ。


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2010年01月06日

スーパーマーケットほど素敵な商売はない 安土敏さんのスーパーの教科書

+++今回のあらすじは長いです+++

スーパーマーケットほど素敵な商売はない―100年たってもお客様から支持される企業の原則スーパーマーケットほど素敵な商売はない―100年たってもお客様から支持される企業の原則
著者:安土 敏
販売元:ダイヤモンド社
発売日:2009-12-11
クチコミを見る

スーパー業界の理論家、そして小説家としても知られる安土敏(あづちさとし)さんのスーパーマーケットの教科書。

安土さんの「小説スーパーマーケット」は故伊丹十三監督の映画「スーパーの女」の参考文献にもなり、安土さん自身が映画のアドバイザーも務めている。



小説スーパーマーケット (上) (講談社文庫)小説スーパーマーケット (上) (講談社文庫)
著者:安土 敏
販売元:講談社
発売日:1984-02
おすすめ度:5.0
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「不倫疑惑の潔白を死をもって証明する」と言い残した伊丹十三監督の顔がなつかしい。YouTubeのこの短いビデオが、良いスーパーのチェックポイントを紹介していて面白い。

この本は安土さんが会長を勤めるオール日本スーパーマーケット協会(AJS)の機関紙「Network」の巻頭言を加筆修正したものだ(この巻頭言はAJSのホームページの荒井伸也コラムとしても掲載されている)。元々スーパーマーケット業界の人向けに書かれたものなので、経営上のアドバイスと、経験に基づく業界人へのアドバイスで構成されている。

このブログは筆者の読書ノートも兼ねているので、仕事に役立つ本のあらすじはどうしても長くなってしまう。この本も大変参考になり、あらすじが長くなってしまったので、経営上のアドバイスの部分は”続きを読む”に箇条書きで掲載した。


GMSとスーパーとは違う

筆者は米国ピッツバーグに合計9年間駐在し、ポイント業界にもいたので、イオングループ、IYグループ両方とビジネス経験があり、世界最高の顧客管理を誇る英国のTESCOの本や、今度紹介するウォルマートのサム・ウォルトンの本なども読んでいる。

流通業界のことは、ある程度分かっているつもりだったが、この本を読んで自分の知識はうわべだけで、本当のところは全然分かっていないことがよくわかった。

その一例として、この本では最初に「スーパーマーケットの誤解を解く」ということで、GMS(総合スーパー)とスーパーマーケットの違いについて解説している。

たとえばジャスコとサミットとは同じスーパーマーケットである。筆者は商品構成が、何でも置いている(ジャスコ)のと、食品・日用品主体(サミット)の差くらいにしか思っていなかったが、両者は戦略も異なり、戦う土俵も違うことが、この本を読んでわかった。

GMSは一日来店客1万人程度の大型店で、基本的に1都市に1店舗の大型店をつくることが出店戦略だ。その都市の商圏人口の大きさによって、店舗の大きさも変わる。

GMSは多くの客に来店して貰うために、価格を「破壊的」にして、しかも遠くからわざわざ来店してもらうために、珍しい商品も置かなければならない。

様々な商品を置いているので、たとえば家具や衣料品のセールなど、来店の動機さえつくれれば、他の商品はそこそこの値段で良いので、生鮮食品の価格を常に「破壊的」にする必要はない。

一方スーパーは住宅地なら一日2〜3,000人程度の客数だ。大体半径500メートル以内に5,000世帯あれば出店が可能なので、1都市に何軒も同じスーパーがある。客数が少なく商品の回転が低いにもかかわらず、生鮮食品主体なので、高度な鮮度管理技術が要求される。

基本的に日用品と生鮮食品以外は置いていないので、他の商品のセールで客を惹きつけることはできないため、食品の鮮度と価格が勝負だ。高級和牛も最先端の流行商品もいらないのだ。

だから「GMSの食品売り場を取り出して、そこに日用雑貨を加えワンフロアの店舗にして住宅地に持って行っても、いいスーパーにはならない」と安土さんは語る。

実際に近くのGMSとスーパーを比較してみると、この差が分かる。

筆者の住んでいる町田市には、町田からJR横浜線で1駅の小淵という場所にイトーヨーカ堂とジャスコが隣り合わせで出店している。国道16号沿いに立地して、それぞれ1,000台を越える大駐車場を持っている。

一方サミットは町田駅からやや離れたところに、ヤマダ電機と一緒に出店しており、駐車場も完備している。周りには食品スーパーの競合がひしめいており、小田急・東急両デパートのデパ地下の食品売り場もそれなりに充実しているので、食品スーパーとしては町田は激戦区だと思う。

ジャスコは松阪牛など高級和牛を置いており、イトーヨーカ堂は本マグロの良いのを置いている。PB商品もあるので、加工食品の価格も安い。しかしどちらも店がでかすぎる上に、お客が多くて混雑しており、買い物しにくいこと、この上ない。

一方サミットは、通路も広く、壁際をメイン通路とするスーパーのオーソドックスなレイアウトで、外側のメイン通路を一周すればほとんどの買い物が出来る。ポイントマニアの筆者にはうれしい土日ポイント5倍だし、競合他社に比べて価格も安い。

自宅からの距離はどちらも同じようなものだが、どうせ土日しか行かないので、食品なら混雑したジャスコよりサミットに行っているが、この差にはちゃんと理由があることが、この本を読んで初めてわかった。

「GMSとスーパーは同じ食品を扱っている以上、互いに多少は影響を受けるが、直接的には競合しない」のだと安土さんは語る。GMSは安い物から高級品まで豊富な品揃えが要求されるが、スーパーは「つまらない売り場」が最良の売り場なのだと。


安土さんの経歴

安土敏(本名:荒井伸也)さんは、昭和12年(1937年)生まれ。東京大学卒業後、住友商事に入社。住友商事と米国西海岸の大手スーパーマーケットセーフウェイとの合弁会社、サミットストアに経営建て直しのために1970年に出向し、40年間スーパーマーケット経営ひとすじに歩んできた。

サミット(サミットストアが社名変更)の社長、会長を歴任し、現在はオール日本スーパーマーケット協会(AJS)の会長だ。

安土さんはサミットストアを立て直すために、昭和52年に関西スーパーマーケットの北野祐次 現名誉会長にスーパーの経営の教えを請うたと語る。北野さんはAJSの名誉会長で、いわば安土さんのメンターである。

「スーパーマーケットはおかず屋です」と言い切った北野さんの見方が、スーパーは「内食産業」と考えていた安土さんの考えとぴったり一致したという。

いままで筆者は、安土さんの「小説スーパーマーケット」と「企業家サラリーマン」を読んだことがある。

企業家サラリーマン (講談社文庫)
著者:安土 敏
販売元:講談社
発売日:1989-06
おすすめ度:5.0
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安土さんは小説のほかに、「日本スーパーマーケット原論」や、「日本スーパーマーケット創論」など、スーパーマーケット業界についての著書も多い。

日本スーパーマーケット創論 内食提供ビジネスのマネジメント日本スーパーマーケット創論 内食提供ビジネスのマネジメント
著者:安土 敏
販売元:商業界
発売日:2006-05-09
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スーパーマーケットほど素敵な商売はない

安土さんは、生まれ変わってもスーパーの仕事をしたいと語っており、長嶋茂雄の言葉のように、「家庭内食がある限り、スーパーは永遠に不滅だ」と語る。

その理由は、1.スーパーマーケットは正直でなければ生き残れないビジネスであること、 2.スーパーのビジネスは半永久的に安定しており、科学的な分析が可能であることだ。

この本の冒頭で「スーパーの女」の故伊丹十三監督の言葉を紹介している。

「安土さん、スーパーマーケットって、本当に素晴らしい商売ですね」

「スーパーマーケットで働いているパートタイマーは、ほとんどがその店の近くに住んでいる主婦です。その人たちは、同時にお客様。だからゴマカシができない商売です。ゴマカシのない商売ほど、働く人にとって素晴らしいものはありません」

昔は多くのスーパーが、売れ残ったパックを新しい日付でパックしなおしたり、40年ほど前は、アルゼンチンの馬肉に牛脂肪を組み合わせるとおいしい霜降りのスキヤキ肉が出来るということで、合成肉を売っていたという。

ちなみにアルゼンチンの牛肉は、大前研一氏によると、世界一美味いそうだが(アルゼンチン駐在経験者の筆者も同感できる)、家畜の伝染病である口蹄疫汚染国であるとして、日本には生肉は輸出できない。しかし馬肉であれば生肉輸出が可能なのだ。

安土さんは、再パックなどのごまかし表示と徹底的に闘った。一時は利益は減ったが、すぐに売り上げと利益が増加したという。冒頭の伊丹十三監督のビデオでも再パックは取り上げられているが、消費者の目はふし穴ではないのだ。

スーパーのビジネスは、基本的に半径500メートルを中心とした「不特定多数」に対して「おかずの提供」という一定の役割を果たすというものので、ビジネスは安定している。その上、ポイント○倍デーや、チラシの出来不出来などの販促効果が検証しやすい科学的分析の対象としても最適のビジネスだ。


この本でもっとも参考になった点をいくつか紹介しておく。


長期安定収益確保の為にはスクラップアンドビルドは不可欠

小売業では一旦地域ナンバーワン店となれば、そのままで良いわけではない。スクラップアンドビルドが不可欠なのだと安土さんは語る。

イトーヨーカ堂と、ダイエーや西友・マイカルなど他GMSとの差は、イトーヨーカ堂は一旦出店して成功した商圏は、スクラップアンドビルドで、たとえ同じ地区でイトーヨーカ堂グループの店が一時的に競合することになっても、絶対に離さないということだ。

イトーヨーカ堂の戦略は、短期の利益を犠牲にしても長期の利益を求めるというものである。イトーヨーカ堂が出遅れと見られていた1970年代はスローペースの成長だったが、これはコストを掛けても既存商圏を守っていたからで、既存商圏を守らず、単に新規出店を繰り返したダイエーは破滅の道を歩んだ。

ダイエー前社長樋口泰行さんのダイエー時代の奮闘記、「変人力」を以前紹介したが、社長に着任してまずやったのは、263店舗のうち54店舗の不採算店を閉めることで、ダイエーのスクラップアンドビルドの遅れを物語っている。店舗閉鎖で商圏も失い、ダイエーの地盤沈下に拍車を掛ける結果となった訳だ。

安土さんはスクラップアンドビルドは、いわば車のエンジンの排気量を変えるようなものだと語る。儲かっている店を潰す勇気も必要なのだ。

この本では、サミットの各店のスクラップアンドビルドの有様が語られている。

1970年代に導入した関西スーパーの生鮮食品のジャストインタイム方式では店舗面積は300ー400坪必要だったが、当時のサミットストアの店は狭く、時には売り場より作業場の方が広くなったという。

安土さんには思い入れがあるのだろう、立て替えられなかった閉鎖店は、名誉の戦死として店名と閉鎖年を書いている。「スーパーの女」の舞台の多摩プラーザ店も閉鎖され、今はマンションになっている。

目先の利益と中長期の利益が矛盾するのがこの業種の特色だ。だから「勝つ出店」ではなく、「負けない出店」なのだと。


お客に足を運んでもらうために不可欠な要素

価格とは店の「価値そのもの」である。もし価格が高いと判断されたら、たとえどんなに品揃えが良く、品質・鮮度・接客サービス・飽きさせない工夫が優れていても、客足は遠のく。だから競合の価格には常に注意を払わなければならない。

もっともチラシで宣伝する特売品のみを買う客はほとんどなく、平均的に特売品以外の10品目も同時に買うという。どうやら非セール品の値付けが、スーパー経営のコツのようだ。

品揃えも重要だ。

スーパーでは「いい物を置こう」と考える前に、「悪い物を置かないで、完璧な品揃えをする」という考えが大切だ。たとえ野菜とかの部門が良くても、肉とか魚とか、どこかの部門が弱いと、客はその店に向かわなくなる。

スーパーは半径500メートル以内の5,000世帯を商圏としている。価格が高いという印象を持たれたり、ある部門が弱かったりすると、客の足は競合に向かう。不特定多数を相手にするスーパーにとって、多数の主婦の下した評価は常に正しいと受け入れざるを得ないのだ。

「店全体の機能(はたらき)」が勝れば、価格水準で劣ることが無ければ、いかなる競合にも勝てるのだと安土さんは語る。


理論の姿をした迷信や常識

成功するスーパーの立地条件は、まずは半径500メートル以内の商圏に5,000世帯以上が住んでいるかどうかで、客単価に最も影響を与えるのは競合店の有無・強弱と、駐車場の有無である。

サミットは当初所得水準に目を付けて、杉並区と世田谷区に出店したが、所得水準は全く客単価に影響しなかった。これは「理論の姿をした迷信や常識」に惑わされた結果なのだと。


スーパー経営は長期安定利益を目指す経営

安土さんは短期利益の最大化を求める経営姿勢には警鐘を鳴らす。あるべき姿は、「使命を達成して利益を上げること」なのだと。より良いスーパーをつくるべく、利益を出しながら、10年後を見据えた店舗経営が必要なのだ。

たとえば短期利益を求めるなら、魚屋・肉屋は専門家に委託する方法がある。また一時はやった集中加工場を持つセントラルパッケージ方式というやり方もある。

しかし、これらは鮮度の良い商品を販売し、長期利益の最大化を目指すという方向性とは合致していない。そのため安土さんは、1.セントラルパッケージ方式からの決別、2.委託に頼らない未来志向の従業員教育、3.正直商売への転換を実施したという。


ダイエーとイトーヨーカ堂の差は不動産投資だったのか?

ダイエーはバブルの頃土地を買いあさって、バブル崩壊で大損したが、イトーヨーカ堂は土地を買わなかったので、バブルの被害はなかった。それがダイエーとイトーヨーカ堂の差だと、まことしやかに言われている。

しかしサミットも土地を購入していたので、バブルのかなり前に買った土地なら、バブル崩壊後も含み益があった。不動産投資が損か益かは、単に土地取得タイミングの問題である。

むしろイトーヨーカ堂はバブル前までは、経営が伸び悩んでいると見られていたので、土地まで買う潤沢な資金が手当てできなかったことがこの差ではないかと語る。

結局、或る時期には土地を取得すべきであり、或る時期には取得してはならないというのが結論だと。


ウォルマート経営への疑問

ウォルマートについて安土さんは次の本を参考に挙げている。

ウォルマートに呑みこまれる世界ウォルマートに呑みこまれる世界
著者:チャールズ・フィッシュマン
販売元:ダイヤモンド社
発売日:2007-08-03
おすすめ度:4.5
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「あの店は大嫌い。でも買ってしまう」というのはウォルマートを言う言葉だが、その徹底した低価格は製造業を絞り上げ、下請化してしまう可能性がある。

製造業はさらに価格を下げるために、米国から中国などの低開発国に生産基盤を移す。そうなると米国の雇用が失われ、結局消費者自身の生活水準にも影響すると安土さんは指摘する。

筆者はサム・ウォルトンの「私のウォルマート商法」を読んだので今度あらすじを紹介するが、サムの本はサムが亡くなった1994年に書かれた本だ。最近のウォルマートについては安土さんの勧める本が詳しいようだ。こちらも読んでみる。

私のウォルマート商法―すべて小さく考えよ (講談社プラスアルファ文庫)私のウォルマート商法―すべて小さく考えよ (講談社プラスアルファ文庫)
著者:サム ウォルトン
販売元:講談社
発売日:2002-11
おすすめ度:4.5
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スーパーマーケットで幸せになろう

安土さんは最後にスーパー業界を目指す人に「スーパーマーケットで幸せになろう」という章をつくって、「流れに身を任せてはいけない」、「人生航海の3つの指針、『健康な身体』『能力』『哲学』」、「スピーチ能力はプレゼンテーション能力」や「20歳台から『書く能力』『相手の立場に立って考える能力』を磨け」など、経験者として至れり尽くせりのアドバイスを書いている。


大変参考になる本なので、もっと詳しく紹介したいが、あらすじが長くなりすぎるので、経営上のアドバイスは”続きを読む”に箇条書きで紹介した。

抽象論でなく、安土さんの40年にわたるスーパーマーケット経営実体験をふんだんに織り込んでいるので大変わかりやすい。スーパー業界を理解するために最適な教科書である。

是非一読をおすすめする。


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2008年11月22日

プロフェッショナルマネージャー ユニクロ柳井さん絶賛の経営の教科書

プロフェッショナルマネジャープロフェッショナルマネジャー
著者:ハロルド・ジェニーン
販売元:プレジデント社
発売日:2004-05-15
おすすめ度:4.0
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ユニクロ社長柳井正さんが「私の最高の教科書」と絶賛する米国の多国籍企業ITTの元社長ハロルド・ジェニーンさんの経営指南書。

巻頭に柳井さんの紹介文「これが私の最高の教科書だ」、そして巻末に柳井さんの解説とまとめ「創意と結果、7つの法則」が付いている。まさに柳井さんが「私の教科書」と呼ぶ力のいれようだ。

この本の初版は1985年に出版された。柳井さんはユニクロの1号店を広島にオープンしたばかりで、ユニクロが小郡商事といってた時代に読み、大変衝撃を受けたという。

この本を読んで、柳井さんは自分の経営は甘いと思ったという。


三行の経営論

柳井さんが最も影響を受けたジェニーン氏の「三行の経営論」とは次の通りだ。

本を読む時は、初めから終わりへと読む。
ビジネスの経営はそれとは逆だ。
終わりから始めて、そこへ到達するためにできる限りのことをするのだ。


この言葉を柳井さんは実践して、その時々の目標を設定し、こうありたい姿を目指して現在のユニクロを築き上げたのだ。

実はこの本はブログを書き始める前の2004年に一度読んだ。

ジェニーンさんの「三行の経営論」とジェニーンさんが公認会計士からスタートしてトップに上り詰めたことなどが記憶に残っていたので、再度読み直してあらすじをブログに書いた。


ジェニーンさんの経歴

ジェニーンさんは1910年生まれ。両親は5歳の時に離婚し、母親は歌手だったので、ジェニーンさんと妹は修道院付属の寄宿学校で生活する。15歳の時に会社の使い走りとして就職し、ボーイをしながら何とか高校を卒業。広告会社の営業や証券取引所の場立などを経て、8年間かけてニューヨーク大学の夜学で公認会計士の資格を取る。

会計士として会計事務所に就職、戦争では海軍に志願するが、メガネのせいで不合格となる。戦時中は魚雷をつくっていたアメリカン・キャン(缶メーカー)に勤め、その後光学器械メーカーを経て、ピッツバーグのジョーンズ・アンド・ラフリン(J&L)のコントローラー、副社長となる。

筆者も何回か訪問したピッツバーグの製鉄所(Midland, PAというオハイオ川沿いの巨大な製鉄所だったが、筆者が駐在した当時はそのほんの一部しか使われておらず、大部分が廃墟と化していた)で勤務した後、ハーバード・ビジネススクールのエクゼクティブプログラムを受講。

1956年に軍事メーカーレイセオン社にNo.2として転職し、1959年にITT社長に就任する。ジェニーン氏が就任した時のITTの売上高は8億ドル弱、利益は3千万ドル弱だった。

ジェニーン氏は最高経営責任者として一株当たり利益を年10%以上増加させるという目標を掲げ、58四半期連続増益を達成した。ジェニーン氏が退任した1977年にはITTは多国籍コングロマリットとしてフォーチュン500の11位にランクされ、売上高166億ドル、利益六億ドル弱と売上高・利益ともに20倍になった。

ITTはレンタカーのエイビスを買収し、1968年にシェラトンホテルチェーンを買収している。シェラトンホテルチェーン立て直しには8年掛かったというが、毎年一億ドルの収益をもたらしてくれるという。

ジェニーンさんがこの本を出版した1980年代初めは、「セオリーZ]などと呼ばれた日本的経営が世界を席巻した時代である。

セオリーZ―日本に学び、日本を超える (1981年)

この本でもジェニーンさんは、日本とはたしかに文化の違いはあるが、日本の経営システムだけが勝因ではないと語る。

低い労働コスト、最新式の設備、政府援助(?)、産業政策などが日本が勝っている要因であると分析し、米国企業は日本と今後も競争できると語っている。

なにか現在の中国企業の説明の様で、歴史は繰り返すという感じだ。


この本の目次

この本の目次がよくまとまっているので、紹介しておく。

はじめに 「これが私の最高の教科書だ」 柳井正

第一章 経営に関するセオリーG
ビジネスはもちろん、他のどんなものでも、セオリーなんかで経営できる物ではない。Gはいうまでもなくジェニーンの頭文字。したがってセオリーGは、「ジェニーン理論」の意味である。

第二章 経営の秘訣
(三行の経営論)
本を読む時は、初めから終わりへと読む。
ビジネスの経営はそれとは逆だ。
終わりから始めて、そこへ到達するためにできる限りのことをするのだ。

ジェニーンさんがITT社長に就任して、まず出した方針は「今後、長期計画はいっさい無用とする」というものだ。しかしこれは計画をつくるあまり、四半期ごとの収益を気にしない風潮があったためである。

自分が何をやりたいのかしっかり見定め、それをやり始めよということだ。しかし言うは易く、行うは難しだ。肝心なのは行うことだという。

第三章 経験と金銭的報酬
ビジネスの世界では、だれもが二通りの通貨−金銭と経験−で報酬を支払われる。金は後回しにして、まずは経験を取れ。さらに、ビジネスで成功したかったら上位20%のグループに入ることが必要だ。

第四章 二つの組織
どの会社にも二つの組織がある。その一つは組織図に書き表すことができる公式のもの。そしてもうひとつは、その会社に所属する男女の、日常の、血の通った関係である。

世の中の事実の中には、次が混ざっているとジェニーンさんは語る。

1.「表面的事実」(一見事実と見える事柄)
2.「仮定的事実」(事実と見なされていること)
3.「報告された事実」(事実として報告されたこと)
4.「希望的事実」(願わくば事実であってほしい事柄)
5.「受容事実」(事実のレッテルを貼られ、事実として受け入れられた事実)

プロフェッショナル・マネージャーという最高の芸術は、本当の事実を嗅ぎ分け、それが「揺るぎない事実」であることを確認するひたむきさと、知的好奇心と、根性と、必要な場合には無作法を備えていなければならないという。

ITTの基本ポリシーは"No surprise"だという。悪いことはまず先に言うことだ。

第五章 経営者の条件
経営者は経営しなくてはならぬ! 経営者は経営しなくてはならぬ! 「しなくてはならぬ」とは、それをやり遂げなくてはならぬということだ。それはその信条を信条たらしめている能動的な言葉だ。

第六章 リーダーシップ
リーダーシップを伝授することはできない。それは各自がみずから学ぶものだ。ビジネス・スクールで編み出された最新の経営方式を適用するだけでは、事業の経営はできない。経営は人間相手の仕事なのだ。

第七章 エグゼクティブの机
机を見れば人がわかる。トップ・マネジメントに、いやミドル・マネジメントにでも、属する人間にとって、当然なすべき程度と水準の仕事をしながら、同時に机の上をきれいにしておくことなど、実際からいって不可能である。

第八章 最悪の病−エゴチスム
現役のビジネス・エグゼクティブを侵す最悪の病は、一般の推測とは異なって、アルコール依存症ではなくエゴチスムである。自分の成功を盾にエゴチスムをまき散らす社員、全体最適を考えず、自己最適に走る社員をどうすべきか。

第九章 数字が意味するもの
数字が強いる苦行は自由への過程である。数字自体は何をなすべきかを教えてはくれない。企業の経営において肝要なのは、そうした数字の背後で起こっていることを突きとめることだ。

第十条 買収と成長
難点はただ、大作戦にはいつもつきもののことだが、他のだれもが彼らと同じものを見、まったく同一の戦略を思いつくことだった。その結果として、彼らはみな、巨大市場をめぐって、トップメーカーと戦うことになる。

第十一条 企業家精神
企業家精神は大きな公開会社の哲学とは相反するものだ。大企業を経営する人びとのおおかたは、何よりもまず、過ちを −たとえ小さな過ちでも− 犯さないように心がける。 

第十二条 取締役会
勤勉な取締役会は、株主のために、この基本問題に取り組まねばならぬ。その会社のマネジメントの業績達成の基準をどこに置くか。去年または今年、会社がどれだけの収益を挙げたかではなく、挙げるべきであったか。

第十三条 気になること −結びとして
良い経営の基本的要素は、情緒的な態度である。マネジメントは生きている力だ。それは納得できる水準 −その気があるなら高い水準− に達するように物事をやり遂げる力である。

第十四章 やろう!

付録 「創意」と「結果」7つの法則 柳井正


具体例が満載


目次に示されているような理論だけでなく、具体例も満載である。いくつか印象に残った例を紹介しておく。

ある時ブラジル向け電話交換機商談で、「ブラジル大統領には会えないと思う」という現地責任者に、「なぜやってみないんだ。失うものはなにもないではないか」と言ったところ、翌月彼は大統領に会い、商談をまとめたという。

ヨーロッパ全体で深刻な在庫過多が起こっていたが、ある工場の資材積み卸し係に、注文した物以外は受け取りを拒否する担当を一人配置したら、在庫問題は解決した。そこで他の全工場にも受け取りを拒否する担当を置いて問題を解決した。


事前採算性検討(F/S)が大事という例だが、カナダのケベック州カルチェにセルロース工場を建設したが、極寒地方では樹木は直径3インチ以上には生育しないことを見落としていたという。我々は森を見たが、木を見なかったのだと。


創意」と「結果」7つの法則

ジェニーンさんの本をふまえた柳井さんの経営術の七点とは次の通りだ。

1.経営の秘訣 −まず目標を設定し、「逆算」せよ

2.部下の報告 −「5つの事実」をどう見分けるか

3.リーダーシップ −現場と「緊張感ある対等関係」をつくれ
柳井さんは、パート従業員を不当に解雇した店長は、即座にクビにするという。

4.意志決定 −ロジカルシンキングの限界を知れ

5.部下指導法 −「オレオレ社員」の台頭を許すな
柳井さんはエゴチスム社員を「オレオレ社員」と呼ぶ。

6.数字把握力 −データの背後にあるものを読み解け

7.後継ぎ育成法 −「社員FC制度」が究極の形だ。


柳井さんが絶賛するだけあって、会社経営の基本として大変参考になる。1980年代はじめに書かれた本だが、内容は決して陳腐化していない。

是非一読をおすすめする。


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2008年11月18日

貧困のない世界を創る グラミン銀行ムハマド・ユヌス氏の最新作

貧困のない世界を創る貧困のない世界を創る
著者:ムハマド・ユヌス
販売元:早川書房
発売日:2008-10-24
おすすめ度:5.0
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2006年度ノーベル平和賞を受賞したマイクロファイナンスのグラミン銀行創始者ムハマド・ユヌス氏の最新作。

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巻末にノーベル賞受賞の記念スピーチが収録されている。「貧困は博物館に」が目標だ。素晴らしい言葉、そして実行力だ。

世界の人口の半分は一日2ドル以下で生活していると言われる。

ユヌス氏の始めたマイクロファイナンスは、利用者が2006年末に世界で1億人を超え、ミャンマー、インドネシア、トルコ、ザンビア、コソボ、グアテマラなど世界の多くの国で広まりつつあり、人々を貧困から救うことに役立っている。

バングラディシュの貧民向け無担保融資専門のグラミン銀行は1983年の創設後、現在では7万8千もの村で700万人相手にローンを行っており、その97%は女性だ。

返済率は98.6%である。借り手を5人ごとのグループにわけ、お金を借りたい時は他の4人の許可を得なければならない。それぞれの借り手が自分のローンに責任を持つが、グループとして互いに励まし合うことで、精神的なサポートになるという。

「グループの他のメンバーを失望させたくない」というのが、ローンをきちんと返済する一番の理由だ。

グラミン銀行のスタッフは融資金額では評価されない。

「5つの星」制度があり、担当するすべての借り手(通常600人程度)が100%返済すれば緑の星。仕事で利益が出れば青の星。ローンを預金額が上回れば紫の星。借り手のすべての子どもが確実に学校に入れば茶色の星。そして最後の赤い星は、すべての借り手が貧困から脱却できれば貰えるという。

この本ではユヌス氏とヨーグルトの世界最大のメーカーのフランスのダノンの会長が意気投合して、バングラディシュで子どもの栄養失調をなくすためにヨーグルト事業を合弁で始めたことなどを取り上げている。

バングラディシュで零細酪農家が生産する牛乳を原料とする小規模工場をつくり、ヤクルトレディならぬグラミンレディが毎日20個ずつ販売するというしくみだ。

ヨーグルトは1個7セント程度で販売し、利益はすべて再投資に向けて、配当はしないというのが新しい「ソーシャル・ビジネス」の形である。

この「ショクティ・ドイ」(パワーのためのヨーグルト)と呼ばれるヨーグルトは、バングラディシュの味覚にあわせるためにヤシの木の糖蜜でほんのり甘く味付けされており、カップは有機プラスティックで出来ている。

2006年11月のグラミン・ダノンヨーグルト工場の完工式にはダノンのリブーCEOの他、元サッカー選手のジネディーヌ・ジダンが友情参加して、バングラディシュのみならず世界の注目を集めてスタートした。

ジダン自身も貧しいアルジェリア移民の子どもだ。

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ジダンは最後にバングラデシュの大統領と面談し、バングラデシュの子ども達と会うために戻ってくることを約束したという。

ダノンはミネラルウォーターのVolvicのメーカーでもある。

Volvicは異臭がするとしてリコールを発表したばかりで、ミソがついてしまったが、1L for 10Lというボルビック1L買うとアフリカに10Lの清潔な水を寄付するというキャンペーンを行っており、その社会貢献の姿勢に筆者は以前から感心していた。

1Lfor10L






ノルウェーテレノールとの合弁会社グラミンフォンは加入者数が1,600万人を超え、バングラデシュ最大の納税企業となった。

グラミンフォンでは、村々のテレフォン・レディーが携帯電話を貸すサービスを提供し、貧しい人でも電話が使えるようになった。

グラミンフォンもいずれソーシャル・ビジネスとして非利益企業に転換したいとユヌス氏は語る。

グラミン・シャクティは10万台のソーラーパネルを全国あらゆる場所に設置し、世界最大の太陽光発電供給者の一つとなっている。2012年には100万台まで増やす計画だ。

50ワットのユニットは、通常4つの白熱電球を4時間ともすのに必要なエネルギーを供給するという。

グラミン・カルヤンは医療サービス、グラミン・ウドーグとグラミン・シャモグリーは手織りの美しい織物製造。グラミン漁業とグラミン畜産は読んで字の通り。

グラミン・シッカは育英資金や教育サービスなど、ユヌス氏のグラミングループは、様々なソーシャル・ビジネスを立ち上げ、貧困の撲滅を目指している。

ユヌス氏のマイクロファイナンスのことは、スティーブン・コヴィーの「第8の習慣」で初めて知ったのだが、精力的にバングラデシュ国民、そして世界のあらゆる国の貧しい人を貧困から救おうとする姿勢には脱帽する。

第8の習慣  「効果」から「偉大」へ第8の習慣 「効果」から「偉大」へ
著者:スティーブン・R・コヴィー
販売元:キングベアー出版
発売日:2005-04-23
おすすめ度:4.0
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ノーベル平和賞受賞者には、政治家なども多いが、本当に価値のあるノーベル平和賞受賞者だと思う。

370ページほどの本だが、一気に読める。是非一読をおすすめする。


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2008年10月16日

イオンが仕掛ける流通大再編 流通業界の現状がよくわかる

イオンが仕掛ける流通大再編!イオンが仕掛ける流通大再編!
著者:鈴木 孝之
販売元:日本実業出版社
発売日:2008-02-28
おすすめ度:2.0
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西友出身で、西友シカゴ駐在員事務所長の後、バークレーズ証券、メリルリンチを経て独立してプリモリサーチジャパンという流通関係に強いコンサルタント会社を運営している鈴木孝之さんの本。2008年2月の発売だ。

日本の流通業界の一般知識を得るために読んでみた。この本にはスーパー業界のみならず、家電量販店やドラッグストア、コンビニ、百貨店などの売上高ランキングと上位企業の利益率なども掲載されており、参考になる。

目次は次の通りだ。

第1章 イオンが真の流通覇者になるときはいつか
第2章 セブン&アイは21世紀の主導者たり得るか
第3章 イオンが描く首都圏スーパーマーケット連合の全貌
第4章 ウォルマートが日本から撤退する日は来るのか
第5章 ウォルマート流は成功するか?−日本を狙う外資小売の課題
第6章 イオンとセブン&アイを取り巻く流通大再編のゆくえ

イオンは2001年に21世紀ビジョンとして、次を2010年までに達成することを発表している。

グループ売上高     7兆円
グループ経常利益    2,800億円
イオン本体の営業利益率 5%
グローバル10に入ること

売上高7兆円の内訳は、GMS(総合量販店)3兆円、SM(スーパーマーケット)2兆円、ドラッグストア1兆円、その他1兆円だ。

上記目標のうち、現時点で最も達成が難しいと見られているのが現状1.8%にとどまっている営業利益率だ。

利益率を改善するために、イオンが力を入れているのが、2、200億円を売り上げ日本最大のプライベートブランドとなったトップバリュ、仕入れの1割にまで拡大したサプライヤー60社強との直接取引、200を超えるメーカーとの間の需要共同予測システムだ。

イオンの国際部門の全社営業利益に占める割合は14%で、グローバルにタイ、マレーシア、香港、中国などに展開しており、中国にも日本と同じイオングループをつくるべくショッピングセンター型の「イオンモール」という形で進出している。

ちなみにこのブログでも紹介した世界第3位のTESCOとイオンはトップ同士が親交があるという。


イオンのGMS/SM部門

イオンのGMS/SM部門は自社及びグループ会社を含め、次から構成されている。日本最大のGMS/SMグループであること間違いない。

イオン(ジャスコ、イオンモール、まいばすけっと)
マックスバリュ
ダイエー
マイカル
マルエツ(イオン31%。含ポロロッカ、サンデーマート、フーデックスジャパン、リンコス)
カスミ(イオン32%)
いなげや(イオン15%)
ベルク(イオン15%)

これにコンビニのミニストップが加わる。


イオンのドラッグストア部門

イオン・ウェルシア・ストアーズが、世界最大のドラッグストアチェーンの米国ウォルグリーンを手本にして事業拡大を目指している。ドラッグストアグループとしては、No.1の8、500億円の売上げ規模で、2位のマツキヨグループは6,700億円である。

グループのCFS(ハックキミサワ)には、グループ離脱の問題がくすぶっている。


セブン&アイ

セブン&アイの問題点は、セブンイレブンの成功の後、21世紀のグランドデザインが書けていないことであり、これは鈴木敏文さんに次ぐ経営者が育っていないことも原因だと鈴木さんは指摘する。

鈴木敏文さんの著書はこのブログでも何冊か紹介しているが、立派な経営者であることは間違いないが、たしかに後継者は誰なのか名前と顔が浮かんでこない。

元そごうと西武百貨店のミレニアムリテイリングを傘下におさめたが、シナジーという面ではまだ発揮できていない。

次の転機はウォルマートが西友を売却検討するときではないかと鈴木さんは語る。ウォルマートのリー・スコットとセブンの鈴木さんとは親しく、ウォルマートがイトーヨーカドーの経営指導を受けたり、セブンがウォルマートの製品を販売したりで、緊密な関係があるという。

だからもしウォルマートが西友を手放す場合には、本当はイオンがベストな相手ではあるが、まずセブンに声を掛けるのではないかというのが鈴木さんの読みだ。


イオンのグループマーチャンダイジング

イオンは次の3社の機能会社を設立している。

イオントップバリュ
イオン商品調達
イオングローバルSCM

グローバル10に入るための、戦略ITと戦略物流を伸ばそうという考えだ。


ウォルマートの撤退はあるのか

鈴木さんは西友出身でもあり、ウォルマートについては全く評価していない。西友はウォルマートと提携する前までは、経営努力で黒字を続けていたが、ウォルマートが入ってきてから赤字が続いている。

売り場に魅力がなく、活気がなく、大幅な人員削減で店長の1/4が退社して、人材もいなくなったという。ウォルマートとの提携はあきらかに誤りだったと鈴木さんは指摘する。

西友はバブル崩壊で子会社の東京シティファイナンスが4,000億円の不良債権をかかえ、資金繰りに困っていた。メインバンクの第一勧業銀行に断られたので、まず住友商事の出資を受けた。次にイオンが西友に関心を示すが、西友が断り、結局ウォルマートの出資を受けてから凋落がはじまった。

イオンと提携していれば、イオンは首都圏の店が少なく、提携もうまく行っていたのではないかというのが鈴木さんの見立てだ。

ウォルマートはこれまで西友に約2,500億円をつぎ込んだが、赤字が続いているので、さらに500億円程度が必要と見られている。

ウォルマートが昨年1,000億円を掛けて西友を完全子会社化したのは、西友の信用不安をかき消し、ウォルマートの日本市場に対する不退転の決意を示すためだと思われているが、いかにウォルマートでも、赤字続きの西友をいつまでも支援するわけにはいかないだろうというのが鈴木さんの見方だ。

このブログで紹介したロバート・ライシュ元労働長官の「暴走する資本主義」にも書いてあったが、ウォルマートは強大だが米国でもウォルマート出店反対運動が起こるなどの問題もある。鈴木さんは米国での問題点も含めて詳しく説明している。


共同持株会社による効率化

最後に鈴木さんは共同持株会社による統合は日本の小売業界にダイナミズムをもたらすと歓迎している。合併だと合併会社・被合併会社という色分けがつくが、経営統合なら参加企業は並列なので、さらに多くの企業を迎え入れることができるという。

小売業のメリットは、1.水平拡大、2.総合化、3.マルチブランド化だという。

家電量販店ではデオデオとエイデンが経営統合し、エディオンになった。ヤマダ電機に対抗するグループができた。


これからの再編の動き

これからはプライベートブランド戦略の優劣が競争力を決めること。総合商社と卸の系列が再編に加わること。ローソンとミニストップが統合の可能性があること。ちょうど10月10日に発表があった阪神・阪急と高島屋の経営統合などを鈴木さんは予測している。


わかりやすく簡単に読めて参考になる本だった。流通業に興味のある人には、是非おすすめできる本である。


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2008年10月11日

暴走する資本主義 ライシュ米元労働長官の警鐘

暴走する資本主義暴走する資本主義
著者:ロバート ライシュ
販売元:東洋経済新報社
発売日:2008-06-13
おすすめ度:4.0
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ロバート・ライシュ元労働長官、現カリフォルニア大学バークレー校教授の最新作。

英国留学時代からの友人のクリントン夫妻と親しく、クリントン政権ではハーバード大学教授をやめて労働長官をつとめ、今回の大統領選挙でもヒラリーを応援すると見られていたが、2008年1月にクリントン陣営のネガティブキャンペーンを批判し4月にはオバマ支持を表明した。オバマ氏の政策ブレーンとして最も影響力がある人物である。


この本の目次は次の通りだ。

序   パラドックス
第1章 「黄金時代」のようなもの
第2章 超資本主義への道
第3章 我々の中にある二面性
第4章 飲み込まれる民主主義
第5章 民主主義とCSR
第6章 超資本主義への処方箋

勝間和代さんの推薦文が付いている。「一人でも多くの日本人に読んでもらいたい」本だという。


資本主義の暴走

ライシュ氏は、資本主義と民主主義は共存共栄していると考えられているが、米国では1970年代後半から自由市場主義は成功を収めている一方、民主主義は衰退してしまったと語る。

格差が拡大し、雇用を不安定にし、地球温暖化などの環境問題も引き起こした。

これがライシュ氏の呼ぶ資本主義の暴走、超資本主義だ。

企業は競争に勝ち、収益を拡大するために賃金を含めコストを削減し、販売価格を下げて売上を拡大しようとする。当然の経済活動だが、これが負の結果を引き起こす。


ウォルマートの例

たとえば世界最大の流通業のウォルマートだ。ウォルマートは"Everyday Low Price"を旗印に、ITを駆使してコストを削減してサプライヤーから最安値で仕入れ、競争相手よりも低価格で売り、消費者のふところの助けとなっている。

しかしウォルマートの従業員は時給10ドル程度の低賃金で、平均年収は17,500ドル。多くの従業員には医療保険がない。それでもさらにパートタイム従業員を増やしている。ウォルマートには組合はなく、カナダで組合結成の動きがあった店舗は閉鎖された。

オバマ氏の副大統領候補として選ばれた労働者階級出身のジョセフ・バイデン上院議員は、「ウォルマートは時給10ドル払うと言います。しかしそれでどうやって中流の生活ができますか?」と訴えていたという。

ウォルマートが食品や医薬品の販売を拡大してきたので、競合のチェーン店は自社の労働者の賃金を切りつめ始めた。低賃金は伝染していくのだ。

ウォルマートのCEOリー・スコット・ジュニアの2005年の年収は1,750万ドル。平均的従業員の900倍だったという。

創業者サムウォルトンの子孫4人の資産は2005年で合計720億ドルであり、ビルゲイツの460億ドル、ウォレン・バフェットの440億ドルを上回る。

これに対して、2005年の米国の資産額下位40%の1億2千万人の資産合計は950億ドルだったという。

ウォルマートの様にCEOの待遇は良いのに、労働者の賃金は減らされる例がいくつも挙げられている。GMから分離独立した自動車部品メーカーのデルファイの新しいCEOは、時給27ドル(諸手当を加えると65ドル)を10ドル以下にしようとして会社を倒産させようとした。

キャタピラー、ノースウェスト、インテルなども従業員と賃金をカットしている。

多くの世帯の勤労所得でもシュンペーターが言うところの「創造的破壊」が起きているのだとライシュ氏は語る。

富は中流家庭から最上位に行ったのだ。1980年には米国の所得上位1%は、総収入の8%を得ていたが、2004年には16%を占めている。上位0.1%の所得はこの期間に3倍になったという。

ウォルマートグループと競合しているウェアハウスクラブのコストコは、従業員のスキルレベルを上げ、給料を高く払うかわりにサービスの質を上げる作戦で成功している。ウォルマートより高い平均17ドルの時給を払いながらも、念入りな社員教育によりサービスで差別化しているが、こういった考え方の企業はまれだ。


有能なCEOは希少資源

1980年のCEOの所得は平均的労働者の40倍だったが、2001年には350倍にふくれあがった。

有能な経営者は世の中には少ない。大企業の取締役会は失敗を恐れるので、成功者をCEOとして雇い入れるためには、高額の報酬を出しても良いと考える。だからCEOの報酬がスカイロケット化したのだ。

エクソン・モービルの元会長のリー・レイモンドは、同社が2005年360億ドルの利益を計上した年に引退し、1億4千万ドルの報酬と、2億6千万ドルのストックオプションを得たという。しかしそれはエクソン・モービルの利益に比べれば小さいものだという。

金融業界の賃金も高騰した。

大きな買収の相次いだ2006年には投資銀行の上級役員は3,000万ドル前後、トレーダーは5,000万ドル前後のボーナスを受け取っていた。ヘッジファンドはさらに上で、某社のヘッジファンドマネージャー26名の平均は年収3億6千万ドルで、前年比45%アップだったという。

2006年9月に苦境にあるフォードのCEOとして就任したムラーリー氏は基本給200万ドルとサイニングボーナス750万ドル、前の職場のボーイングを離れる際に失ったオプション補填の1100万ドルを含めて、3600万ドルが支払われた。

ムラーリーはボーイング時代に労働力を6割削減したという。痛みを伴う選択ができる人物だという。


ロビイストにあやつられる政治

ワシントンのロビイストは急増し、新興のマイクロソフト、グーグルなども大量の政治資金を投入している。

2006年10月に米国議会はインターネット賭博にクレジットカードの使用を禁じる法律を可決し、事実上インターネット上の賭博は禁止されることになった。これはカジノがロビー活動をしたためだ。

ビジネスでは勝ち続けているウォルマートが銀行への進出で敗北したのもロビー活動のせいだ。工業ローン会社の買収が、銀行業界のロビー活動によりFDICにブロックされたのだ。


アメリカ人の二面性

アメリカ人は市民としては地球温暖化に切実な関心を寄せているが、消費者や投資家としては、SUVを乗りまわし、2−3台の車を持ち、全部屋セントラルエアコンの快適な家に住み、大画面の薄型テレビを持ち、二酸化炭素をまき散らして、地球の温度を上げている。

消費者や投資家としての私たちは、市民としての声をかき消している。

クリントンが健康保険制度を導入しようとしたときも、企業が反対したのに対して、労働組合などからも支持が得られず結局成立させられなかった。

デジタルデバイドも拡大している。2006年全米の42%の世帯はパソコンを持っておらず、インターネットに接続していない。


ライシュ氏の処方箋

企業は人ではない。正確なイギリス英語では企業を呼ぶ場合は、たとえば"Rolls-Royce are"と複数形にしているという。

間違った人格化の結果、人間の権利が企業にも与えられているような錯覚が生じ、それが資本主義と民主主義の境界をあいまいにし、悪い公共政策に繋がっているという。

企業は愛国心を持っているわけではない。愛国心のために米国労働者を雇ったり、米国工場を維持するわけにはいかないのだ。例えばワールプールは米国の工場を閉鎖し、ドイツから食器洗い機を米国に輸出している。今やドイツ最大の対米食器洗い機輸出メーカーだという。

ライシュ氏の結論は「我々は消費者であり、投資家であるが、民主主義を守るために、民主主義という権力で、社会コストを引き下げ、購入する商品やサービスのコストを下げることができる」というものだ。

まるで小説の終わりのようにいわば余韻を残したような結論で、しかも日本語訳だと上記の太線部分はわかったようでわからない。

しかし本には具体的な処方箋は書いてなくとも、読者に考えさせる余韻を与える終わり方であることはたしかだ。

筆者は米国に合計9年間駐在したので、いろいろ考えさせられた。

たしかに米国には無駄が多い。全然エコではない。社会的にもライシュ氏が指摘しているロビー活動を制限するだけでも、膨大なコストが削減できるだろう。

社会的コストとしては、自分で自分の仕事(訴訟)をつくる日本の50倍もいる弁護士と天文学的な賠償金。高い訴訟リスク保険のため産婦人科医などが維持できなくなり、医療費も高騰していることなどがある。

いくらエネルギーコストが安いからといって、巨大なSUVを載りまわし、車を何台も持ったり、人が居てもいなくてもセントラルエアコンで家の隅々まで冷暖房したりということは、地球資源の浪費であり、もはや許されることではないだろう。

グリースパンを舌鋒鋭く批判するラビ・バトラは、「経済民主主義」を提唱しているが、まさにアメリカ人の国民としての品格が問われている。

グリーンスパンの嘘グリーンスパンの嘘
著者:ラビ バトラ
販売元:あうん
発売日:2005-07
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経済合理性を極限まで追求したアメリカだからこそ、本書で述べられているような問題が起きている。

アメリカの轍を踏まない―それが日本人いや人類としての務めであり、警鐘を鳴らすという意味で、考えさせられる本だ。


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2008年09月24日

TESCO顧客ロイヤルティ戦略 世界最高の顧客管理とは?

2008年9月24日追記:

今日早朝2時過ぎにあらすじをアップしたら、よっちゃんさんより次のコメントを頂いた。



すんごい、今回は全然頭にすっと入りませんでしたが、それは本の内容が内容だからであって、繰り返し読ませて頂きました。

うなっちゃいます。で、


反省するところ大である。筆者の好きなポイント分野なので、つい専門的な話ばかり並べてしまった。専門的な部分は「続きを読む」に置き直したので、詳細に興味があれば「続きを読む」を参照お願いしたい。


+++今回のあらすじは長いです+++


Tesco顧客ロイヤルティ戦略Tesco顧客ロイヤルティ戦略
著者:C. ハンビィ
販売元:海文堂出版
発売日:2007-09
おすすめ度:5.0
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筆者は自他ともに認めるポイントマニアで、"ポイントマニア"でGoogle検索トップの「ポイントマニアのブログ」という別ブログもやっているほどだが、ポイントカードの活用で有名な英国No.1のスーパーマーケットで世界No.3の流通業者であるTESCOのカード戦略について書かれた本を読んでみた。


バフェットもTESCOに投資

TESCOは日本など11ヶ国に進出し、2007年に米国進出を発表している。ウォーレン・バフェットは2006年にTESCOの株を3%取得しており、バフェットも注目する流通業界のジャイアントである。

英国の投資銀行のJP Morgan Cazenoveは2005年8月のレポートで、TESCOの成功の要因としてTESCO Clubcardを挙げ、これがTESCOの最も強力な武器であると説明しており、TESCO株はアンダーバリューだと評価している。たぶんこのレポートもウォレン・バフェットのTESCOへの投資判断の参考になっていると思われる。

原書は2004年2月に第一版が出版され、2007年2月に改訂版が出版されている。原書のサイトもあり、著者のプロフィールや様々な書評が紹介されていて参考になる。

Scoring Points: How Tesco Is Winning Customer LoyaltyScoring Points: How Tesco Is Winning Customer Loyalty
著者:Clive Humby
販売元:Kogan Page Ltd
発売日:2007-02
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翻訳は2007年9月に出版されているが、この種の専門書としては珍しく第2刷が出ている。TESCOについての最初の本ということで、注目を集めている様だ。

残念ながら第一版の和訳で、第二版に記されているClubcardの見直しと米国Krogerでの最新の事情等が反映されておらず、日本語だと用語の意味が分からないところもあるので原書も参照した。


著者はTESCOのロイヤルティプログラム戦略の立役者

著者はTESCOのロイヤルティプログラム戦略のコアメンバーとして参加したdunnhumby社会長のClive Humby氏、ダイレクトマーティング大手のEHS Brann社会長のTerry Hunt氏というドリームチームで、ジャーナリストのTim Phillipsが読みやすくまとめている。

Clive Humby氏は、dunnhumbyという世界的に有名なデータベースマーケティング会社の会長で、TESCOが数年前にこの会社の過半数の株式を取得して子会社化している。dunnhunmbyはいわゆる知る人ぞ知るデータベースマーケティングのスペシャリスト集団だ。

著者の二人目のMr. Terry Hunt氏は、世界最大級のダイレクトマーケティングコンサルタント会社EHS Brannの会長で、データベースマーケティング、CRM、ロイヤルティプログラムの大家である。

dunnhumbyはアメリカにもKrogerとの合弁会社を持っており、アメリカのスーパーマーケットのKrogerの業績向上に貢献した

この本ではTESCOがTESCO Clubcardというポイントカードを1995年に立ち上げ、これを武器にそれまで万年2位だったマーケットシェアを増やして1位となり、その差を年々拡大していったサクセスストーリーと、CRM(Customer Relationship Management)を目的としたロイヤルティプログラムについて詳述しており、大変参考になる。

この本のどの部分に書いてあったか忘れたが、次のような言葉がCRMの本質を言い当てている「今まではどれだけ売れたかを管理していたが、これからは誰が買うのかを管理するのだ」。


英国のポイントカード事情

筆者は今月(9月)に欧州に出張したので、英国のポイントカード事情についても説明しておく。

日本ではポイントカードが乱発状態にあり、平均では消費者一人10社近く、ポイントマニアの筆者は40社くらいのポイントを貯めているが、英国の場合には大手のスーパー数社、ドラッグストアBoots、それと航空マイルの合計3−5枚というのが一般の消費者の平均的なカード保有枚数だ。

アクティブユーザー数No.1は共通ポイントのNectarの13百万人、次がTESCOの11百万人、3位がBootsの9.5百万人、この本でもしばしば登場する共通ポイントのAirMilesは2.5百万人といったところだ。

日本の大手ポイントカード発行者は1千万人クラスがざらで、ドコモの4千万人、Tカードの3千万人というのに比べると英国は会員数は少ないが、一人数枚しかポイントカードを持っていないので利用頻度は高い。

特に英国の場合には、大手のコンビニチェーンがなく、スーパーのTESCOやSainsbury's(セインズベリー)が小規模都心型店舗をコンビニがわりに展開しているので、スーパーのポイントカードの利用頻度がより高くなっている。

TESCOは世界で最もCRMで成功した小売業と言われているが、その秘密がこの本で明かされている。


日本NCR関係者が翻訳

この本は元日本NCR社員が現役社員を集めて「寺子屋」活動の一環として訳したものなので、最初に日本NCR社長のメッセージが寄せられている。

それによると、ポイントカードの機能は3つあるが、乱立する日本のポイントカードは1)値引きの先送り、2)疑似貨幣化までしかできておらず、3)の顧客データの収集手段としての活用が出来ていないと語る。

それを行ったのが13年前のTESCOであり、ポイントプログラムを単なる販促ではなく、顧客との密接な「絆(きずな)」作りに活用し、スタート時はNo.2だったマーケットシェアをポイントカード発行によってまたたく間に英国No.1とした。

現在はTESCOのマーケットシェアは2位のAsda(ウォルマートの子会社)と3位のSainsbury'sの合計に近い31%前後を占めている。「JETRO日刊通商弘報2008年8月25日付け)。

UK supermarket share







「絆」はTESCOブランドとして顧客に認知され、信頼できる購買代理業、総合生活支援業としての進化をみせているという。

従来日本の小売業は「単品管理」によって顧客のニーズを把握しようとしてきたが、過剰生産、過剰店舗の現在では新たに顧客分類を加えた商品分類とのマトリクス分析なしに、潜在化する顧客ニーズへの対応は不可能であると語る。


TESCOのポイントプログラム

TESCOのポイントプログラムは1%割引で、4半期毎に郵便でその人の購買パターンにあわせたポイント券とクーポンを送ってくるシンプルなもので、土日5倍などもないが、ポイントカードを顧客との「絆」として、顧客のセグメントにあわせてCRMを駆使して販促をかけることで売上を伸ばすことに成功している。

ウォルマートは世界最大の流通業だが、アメリカでは「単品管理」は出来ているが、ポイントカードがないので「顧客管理」はできておらず片手落ちだ。

これに対しTESCOはポイントカードがあり、かつCRMがしっかりしているので、誰が何をいつどこでいくらで買ったのかがすべてわかり、いわゆる5W1Hのうち4W1Hをつかんでいる。

残るは、その人がなぜ買うのかーWHYだが、WHYがわかれば有効な販売促進策が打てる。

だから4W1Hの購買履歴に加えて、顧客の性別・年齢・家族構成・嗜好などの属性情報を総合的に分析することによって、最後残るWHYを顧客類型として割り出し、次の購買につながりそうな提案をするという手法だ。

1%のポイントコスト(実際コストは不使用分もあって0.74%)をかけても、顧客のTESCOに対する支持と、コストを上回る売上アップが得られ、相次ぐ買収にによる規模の拡大もあり、TESCOのマーケットシェアは現在の31%にまで増加したのだ。

広告代理店の人は聞きたくない話だろうが、広告費用の削減効果も大きかったという。

TESCOは1993年には英国のTV広告主の最大手だったが、1995年にClubcardをスタートしてからは、TV広告が約1,000万人へのダイレクトメールによるクラブカードコミュニケーションに置き換えられたので、ついに1995年のクリスマスにはTV広告をゼロにできたという。

現CEOのSir. Terry Leahy(リーヒー)は1997年にClubcardを推進した功績でTESCOのCEOに抜擢されている。


TESCO Clubcardがスタートするまで

TESCOはロンドンで露天商を営んでいたJack Cohenによって1929年に店がスタートしたのが始まりだ。1956年には最初のスーパーマーケットをオープンし、1961年には大型スーパーを開業している。

1963年からTESCOはアメリカから導入されたスタンプカード式のGreen Shieldスタンプを導入するが、15年ほどで行き詰まった。当時のTESCOは大量安売り販売を特徴とするスーパーで、「より高く積み上げて、より安く売る」というやり方だった。

1977年に創業者他の反対を押し切ってスタンプカードは廃止となり、TESCOは店の改装と統一価格の導入というベーシックな「チェックアウト作戦」で地道に業績を上げ、安売りで業界No.2のスーパーになるが、どうしても業界No.1のSainsbury'sを超えられなかった。

1993年にクレジットカード対応のEPOS(Electric POS)レジが導入され、POSを使ったカード導入の基盤が整ったので、1993年からダイレクトマーケティング会社のEHS Brann社の支援を得て、「オメガプロジェクト」と呼ばれるポイントカード作戦のトライアルが14の店舗で開始された。

1994年からはデータベースマーケティング会社のdunnhumbyが加わり、TESCO Clubcardとして顧客/購買データ分析の体制が整えられた。

1994年11月末にClubcardトライアルにより、レスポンス率や売上がアップしたことがTESCO取締役会で報告されると、TESCOの当時のMacLaurin会長は次のように語ったという。

私がこれを聞いて恐ろしいと思っているのは、私が私の顧客に対して30年間で知り得たこと以上のものを、この3ヶ月間であなたたちが知ったということだ。

それほどClubcardの効果は絶大だったので、1995年2月13日に全店展開され、すぐに成功は明らかとなった。


TESCO Clubcardの成功

TESCO Clubcardはすばやく顧客に受け入れられ、英国の世帯数の約半分の約1千万枚のカードが2−3ヶ月で配布された。立ち上げ費用は1千万ポンド(約20億円)掛かったが、売り上げの1.6%のコストを上回る4%以上の増益が達成され、店舗によっては二桁以上の売り上げ増を記録した。

競合のSainsbury'sの会長は「電子的Green Shield(スタンプカード)にすぎない」とこき下ろしたが、Clubcardの威力はすさまじかった。

Clubcardを発行した翌月の1995年3月に、TESCOのマーケットシェアは19.3:19.1と遂にSainsbury'sを逆転し、それ以降もNo.1の地位を保ち続けた。

TESCO Clubcardが圧倒的な成功を収めたので、Sainsbury'sも同様のポイントカードのReward Cardを18ヵ月後に開始したが、既に時遅くSainsbury'sがTESCOのマーケットシェアを上回ることはなく、差はむしろ拡大していった。

TESCOが英国No.1の地位を手に入れたのは、Clubcardのみの効果ではなく、1995年にスコットランドのWilliam Lowというスーパーマーケットチェーンの買収合戦でSainsbury'sに勝ち、店舗数でも545と英国一位になったという要因もある。

それでもClubcardがTESCOの成功の要因の一つであることは間違いない。


他社の反撃

Sainsbury'sもSaver Cardというポイントプログラムを持っていたが、355店舗のうち200しか導入しておらず、しかもカード発行店でしか使えなかった。ポイントの価値もわかりにくかった。

結局Sainsbury'sはTESCOに対抗してReward Cardを始めたが、それはTESCOより1年半遅れた。またSainsbury'sが4半期ごとのクーポン郵便をはじめたのはNectarポイントプログラムに乗り換えた2002年からだった。

SafewayもTESCOに遅れること8ヶ月でABCカードを始め、900万人の会員を獲得したが、結局広告費にコストを使いすぎて採算は悪化し、1998年には2千万ポンドもの販売促進費にもかかわらず、売上は減少した。結局ABCカードは1999年に撤収が宣言された。

TESCOはABCカードからの切り替えキャンペーンを実施し、最初の1週間で10万人がABCカードからTESCO Clubcardに切り替えたという。

Asdaも一部店舗でカードを試験的に導入したが、結局全面展開はしなかった。Asdaはレジのレシートと一緒にクーポン券をその場で印刷するCatalinaシステムで対抗したが、現在はCatalinaは使われていない。

またAsdaはTESCO Clubcardのポイントクーポン券でAsdaでも買い物できるようにした。いわばハイジャックである


Clubcardの改善

TESCOは個々の顧客との「絆」を深めるために、店長主催で上顧客を招いての「クラブカードの夕べ」や各種イベントを開き、好評を博した。これのレポンス率は40%という高率だったという。

そんなTESCO Clubcardでも学生カードは失敗だった。学生達のためにポイント付与下限を最低5ポンドからにしたが、学生達は年に一回は引っ越しをし、コミュニケーションを取ることが難しかったという。

TESCOは1995年のクリスマスにはカードホルダー全員に、40ポンド以上買い物すると七面鳥が1羽無料というキャンペーンを行い、100万羽の七面鳥を配った。これは米国のスーパーでもよくやるキャンペーンだ。

さらにTESCOの運営するガスステーションでもポイントが付くようにしたので、25万人の男性会員が新しく加入した。


他社ポイントとの交換も開始

TESCOは1995年に申し出があったAirMilesとの他社ポイントとの交換提携を断り、自社ポイントとしてClubcardを定着させた。しかし共通ポイントは何百万人もの熱心な収集家がいて、継続力に優れている。

TESCOは他の小売業にもポイントを販売したが、他社はTESCOポイントを発行するだけで、償還はTESCOのみが行った。

一方Sainsbury'sはAirMilesと提携し、RewardカードポイントをAirMilesに交換できるようにした。提携最後の年2001年には10億ドルのAirMiles発行額のうち、2億5千万ポンドがSainsbury'sからのポイント交換だった。

TESCOは自社のみでのポイント償還にこだわったが、スーパーでの買い物の割引だけでは最上級の顧客の要望に応えられないのは明らかとなってきたので、2002年にSainsbury'sとAirMilesとの契約が終了した時に、すぐさまAirMilesと提携した。

これによりTESCO Clubcardメンバーは25ポイントという低ポイントからAirMilesに交換できるようになった。

AirMilesは熱狂的なファン基盤があるので、すぐさま反応は現れ、TESCOはAirMilesを貯めている裕福で、分別があり、AirMilesを貯めるためにはスーパーのブランドを変え、買い物習慣を変えることをやぶさかでない顧客を獲得し、新たに100万枚のClubcardが配られた。

一方Sainsbury'sはAirMilesとの提携が終了したので、1%の減収となることに気が付いた。最も価値のある6万人がTESCOに移るからだ。

AirMilesとの提携で、TESCOは店外で顧客に特典を使用させる必要性を理解した。AirMilesは脅威ではなく、価値ある少数派へ訴える方法で、両方のプログラムは互いに補完していることに気が付いた。

TESCOの担当者は、「早い時期には我々はAirMilesを競争相手として見ていたが、我々は顧客がAirMilesを異なる種類のロイヤルティ通貨と見ていることを発見した。」と語っている。

TESCOのCEOテリー・リーヒー卿は「小売業の成功の秘密は、消費者の声を聞くことと、消費者が欲するものを与えるのを止めないということだ」と語っており、TESCO原資のポイントが他社でも使われることを容認したのだ。


Clubcardの見直し

この部分は翻訳にはない、英語の原書第2版からのあらすじだ。

2004年にClubcard戦略は見直され、カード自体も磁気ストライプのカードからバーコードカードに置き換えられたので、紙のカードや車のキーに付けられる小型カードも配布できるようになった。

TESCO Clubcardは1995年に導入され、1997年にはTESCOの売上の80%がTESCOクラブカードを提示してのものだったが、年々この比率は低下し、2001年74%、2002年72%、2003年は70%と低下傾向が明らかだった。

TESCOがコンビニチェーンを買収し、少額決済中心の小型店舗を拡大したことも背景にあるが、TESCOマネージメントは事態を深刻に受け止め、2004年には9,000人の会員を面接アンケート調査した。

その結果、Clubcardの「通貨」がポイント、キー(来店ポイントの様なもの)、値引き券と3種類あって複雑で、また月60ポンド以上使う会員を優遇していること、来店頻度の落ちた失われつつある客に最大の優遇をしていること、あまりに売り込み目的のクーポンが多いことなどの問題点が指摘された。

会社のモットー"Every little helps"(「どんな小さなこともで役に立つ」ということわざ。ちなみにeveryの後には単数形がくるので、「すべての小さなヘルプ」という意味ではない)に基づいてお客に"Thank you"を伝えるという本来のTESCO Clubcardが導入された目的からはずれてことに気が付いた。

そこでTESCOは原点に立ち返り、「通貨」をポイントだけにすること(価格を割り引くクーポンは廃止)、月60ポンド以上という会員のランク付けをやめ、失われつつある客でなくロイヤルな顧客に販促予算をつぎ込むことにした。

また従来申込書にプラスティックカードを付けていたが、これだと名前・住所を登録しない"Skelton"と呼ばれる会員が増えて百万人を超えたので、申込用紙には紙のテンポラリーカードを付ける様にして、"Skelton"を減少させた。

顧客へのクーポン郵便については、基本的に月1回と限定し、いわば"Air traffic control"(航空管制)の様に、顧客に出す売り込みダイレクトメールを制限した。但し、もっとクーポンを受け取りたいという顧客からはオプトイン方式で同意を取得して例外とした。

これらの原点回帰策をTESCOでは"Unconditional love"(無条件の愛)と呼んでおり、これらが実施されると1年間で会員が百万人純増するという成果が上がった。これは1997年以来最高の顧客純増数だった。


価格競争に勝つ

TESCOは27のTESCOライフスタイル(クラスター)で顧客を分類し、価格競争に勝つ戦略を生み出した。

従来小売ビジネスがしてきたことは、いわゆる量販型で、よりコストを安くするために巨大な販売数量に達することで、最も大きい販売アイテムの価格を下げるようにしてきた。

しかしClubcardで顧客行動を調べると、価格を意識する顧客と意識しない顧客がいることがわかった。

たとえば、すべてのバナナを安売りしてはいけない。なぜなら積極的に安売りを求めていない人にも値引きしてしまうからだ。

このセグメントの良い攻め方の例は「バリュー・ブランド・マーガリン」だ。この商品は低価格を求める顧客が買い、他の客はほとんど買っていないことがわかったので、TESCOはこの種のプライベートブランドの低価格商品に値下げを集中した。

さらに値下げだけでなく、手に取りやすさ、非食品ビジネスの開発、営業時間延長、クラブカード改良、キャッシャーのサービスを向上させ、非価格競争力を高めた。


商品と顧客両方をセグメンテーション

TESCOは行動理論を元にセグメンテーションを顧客と商品両方に対して行った。その2つの理論とは「リッカート・スケール」と、「オズグッド・プロファイル」だ。

香川大学経済学部の堀啓造教授が、福沢周亮編(1996)『言葉の心理と教育』教育出版,「ことばで測る」p210-p215に修正を加え、「ことばで測る」という文を公開されているので、参考までに紹介しておく。どんな感じかわかると思う。

TESCOでは27の顧客セグメンテーションと、20次元の商品セグメンテーションがある。


商品セグメンテーションはRolling Ballアルゴリズム

「Rolling ball algorithm」というTESCOが商品のセグメンテーションに使ったアルゴリズムについて簡単に説明してある。

勿論秘中の秘なので、詳しくは説明してないが、牛乳やバナナなど誰でも買う商品は除いて、Rolling Ballアルゴリズムを利用して「冒険的な商品」と「新規性の高い商品」といった細かい区分もしながら、3人のアナリストが20のセグメントに振り分けた。


顧客セグメンテーションは「買い物習慣」

次に20元の行動に於ける類似性を比較して、27の顧客クラスターを定義した。これは何を購入したかの「買い物習慣」をセグメンテーション化したものである。

「買い物習慣」は、これから何を購入したいのかを理解する助けとして大いに役立った。「買い物習慣」のカテゴリー化は数学、クリエイティブな分析、小売の智恵の結合で、顧客が何を望み、何を望んでいないという情報が得られた。

たとえばTESCOはプライベートブランドの「Finest」を高額所得者の多い店向けに導入したが結果は散々だった。

高額所得者はそもそもプライベートブランドには興味がないのだ。そこでTESCOはアプローチを変えて、Clubcardの情報から「Finest」に似合うライフスタイルを持つ顧客の多い店で販売促進を実施した。

他の例では、「TESCOびいきの人」は、通常16ある売り場の内12で買い物をしていたので、残る4つの売り場で3ヶ月に一度買い物をするようなクーポンで誘導した。

この人たちが、すべての売り場で買い物をしてくれれば、年間の増収は18億ポンド(3,600億円)にもなるという。

秘中の被なので、あまり詳しく述べられていないが、CRMで売り上げ・収益アップにつなげるということは、こういうことなのである。

最後にセグメンテーションの最終目標はone-to-oneマーケティングだとしばしば考えられているが、実際には個人へのone-to-oneマーケティングは実行不可能だと語っている。

One-to-oneは実は不必要で、「買い物習慣」においては、個人は他人と多くの共通点を持つのだと語っている。

普通CRMというと究極はOne-to-oneマーケティングと思われているが、さすがに経験と実績に裏打ちされたTESCOチームの言葉は違う。


個人情報保護

この本を読むと英国が日本よりも個人情報保護には厳しく、また先進的であることがわかる。そんな環境で実施しているTESCOのCRMはどの国の個人情報保護規制も満たすであろうことがよくわかる。

TESCOはClubcard憲章として、データは顧客が欲する商品の情報やオファーを送るために利用され、個人情報はClubcardの運営以外では、他のどの会社にも提供されず、個人情報を削除したい場合はフリーダイヤルで要求することができると規定されている。

消費者団体の中には、ジョージ・オーウェルの「1984」のビッグ・ブラザーの様にスーパーは消費者を「奴隷化」しようとしていると非難するところもあるので、TESCOは細心の注意を払っている。

1984年 (ハヤカワ文庫 NV 8)1984年 (ハヤカワ文庫 NV 8)
著者:ジョージ・オーウェル
販売元:早川書房
発売日:1972-02
おすすめ度:4.5
クチコミを見る


日本で「個人情報保護法」が施行されたのは2005年4月だが、英国にはその20年以上前の1984年に「データ保護法」に基づき「データ保護登録官」が監督する制度ができている。

1998年にはEUの法律と整合性がとられ、日本の「個人情報保護法」と同様の法律に変更されたが、「データ保護登録官」は「情報コミッショナー」と名前を変えて個人情報を保護しており、日本にはない制度だ。

TESCOは個人を特定できない統計データを除いて、顧客個人情報は第三者に渡さないことを遵守している。


クラブカードの未来への5つの挑戦

最後にTESCO Clubcardの未来への5つの挑戦として次を挙げている。


1.Clubcardは世界的なスキームになりうるか

TESCOは2004年の時点で日本を含む世界11ヶ国で事業展開しているが、TESCO Clubcardを展開しているのは顧客満足度追求で有名なSuperquinnと競合しているアイルランドとSamsungとの合弁で始めた韓国だ。

TESCOは他の国の小売企業からロイヤルティ・マーケティングを支援して欲しいとの要請を受けているが、今のところプリオリティではないとして断っている。

例外は2001年に53%の株を取得したdunnhumbyの米国展開で、dunnhamby USAは世界第5位の流通企業Krogerとdunnhumbyの50:50の合弁会社で、Krogerの既存カード(レジで提示すると会員価格が適用され割引になる)を利用してロイヤルティプログラムをつくることだ。


2.Clubcardは英国で最も普及したロイヤルティプログラムであり続けるか

TESCO Clubcardの強力なライバルで、全く異なるビジネスモデルがNectarである。TESCOはClubcardを通して顧客に還元されるべき現金は、すべてTESCOを通して使われるべきであるとの主義をあきらめていない。

Nectarは2002年の開始とともに世界を驚かせた。長期的にNectarとTESCO Clubcardのどちらかが成功するかは、まだ判断できないと結論づけている。


3.Clubcardは販売促進をより有効にできるか

販売促進策の効果測定は、販売増加額のみではない。単に低価格で買いだめしたり、チェリー・ピッカーと呼ばれるバーゲンハンターが買っただけでは、長期的な利益拡大にならない。

クラブカードデータを活用することにより、どの顧客が販売促進に対して積極的に反応するか、顧客のブランド嗜好はどのように影響されるかTESCOでは判別できており、販売促進に否定的な顧客に好意的に受け取られる様な販売促進も可能である。


4.Clubcardはその場でメリットを提供できるか

TESCO Clubcardの特徴の一つは、その場での割引に使えないことで、他の小売業が支払い時にポイントを割り引きとして使えるのに対して、TESCOは3ヶ月に一度のメールでのポイント券送付にこだわっている。

その理由は次の通りである。

(1)4半期ごとのメールは小売のカレンダー上主要なイベントとなっている
(2)レジでその場で特典払い戻しをしてしまうと、顧客がその店をこれ以上ひいきにする理由が薄れる
(3)3ヶ月の間に顧客はポイントを十分に貯められ、貯める楽しみが得られる
(4)3ヶ月ごとの郵便は顧客の現在の住所と世帯の情報の精度を高める。顧客を個人として捉えているので、メーカーから高く評価され、コミュニケーションの媒体をつくりだす。

しかし顧客が買い物を考えている時に、Clubcardを補強するケータイメールとかその場の割引やプロモーションを提供する手段はあるはずで、今後の課題である。

TESCOはCatalina社の提供するレジ・クーポンを補完的に使っており、効果を上げている。


5.ClubcardはTESCOの取引先メーカーを手助けできるか

TESCOは「データ保護法」の最も厳密な解釈を受け入れ、個人を特定できる購買データは第三者とは共有してないが、統計的な売れ行きデータはメーカーの販売促進策をより効果的なものにするために、メーカーと共有している。

2001年にdunnhumby社の株を取得した目的は、dunnhumby社に個人を特定できないデータを扱わせ、TESCOの仕入れ先と分析を共有するためである。

メーカーはTESCOで得た情報を、Sainsbury'sやAsdaなどでも使うかもしれないが、それは制限不能である。

またClubcardにより、メーカーは広告の有効性を確認できる。dunnhumby社はClubcardの個人の買う雑誌、好きなテレビ・ラジオショーなどの個人情報データを総合的に分析して、メーカーにメディアパッケージを提案している。


以上がTESCOポイントカードに関する概要だが、この本ではセグメンテーションの手法、「自社ポイント、共通ポイント、外部委託」のメリット・デメリット比較、TESCOのネットスーパー(世界最大のネット上の食品販売店)やTESCOの金融などの事業、米国KrogerでのCRM等についても説明しているので、これも興味深いので「続きを読む」で紹介しておく。

最新の現状が知りたくて英語の原書の第2版まで読んでしまったが、大変参考になる本であった。

翻訳のあとがきに監訳者が「本書はTESCOに関しての初めての書であり、顧客戦略のステルス性のため、すべてが明かされているわけではない。富士山の3合目ぐらいであろうか?」と書いてあるように、ノウハウという面ではほとんど開示されていないが、それでもTESCOがどう考えて、どういう行動を取ったのか正確に記されており、大変参考になる。

是非おすすめしたい本である。


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2008年09月12日

メイドインチャイナ 「現場学者」関教授の中国進出企業レポート

メイド・イン・チャイナ―中堅・中小企業の中国進出メイド・イン・チャイナ―中堅・中小企業の中国進出
著者:経営労働協会
販売元:新評論
発売日:2007-12
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以前紹介した「現場学者中国を行く」の一橋大学関満博教授による2007年12月のレポート。

中国に進出した102社の日本の中小企業の現地での苦労話を中心にレポートしている。

102社もの話を読んでいると、それぞれの地区の特徴がよく分かる。

大連地区が33社、上海を中心にする長江デルタが39社、珠江デルタが30社だ。

大連など旧満州地区は日本語が話せる人材も多く、日本とのつながりが深く、製品は日本への持ち帰りが中心だ。

長江デルタは機械やコンピューターなどの多くの産業の集積地で、中国最大の需要地でもあるので、進出企業は中国の内需(日系企業向けも含め)向けが多い。

珠江デルタは電子部品の一大生産地で、「広東型委託加工」と呼ばれる工場の建物と従業員は現地側が提供する「合作」型が特徴で、最近は自動車産業も拡大しており、労働者の確保が難しくなってきているほどだ。

この地域は基本的に輸出基地だったが、最近は日系を中心に電機メーカーや自動車メーカー向けの販売も増えている。

日本の本社は従業員100人以下の中小企業が多いので、東京にあった工場が、東北に移転し、それから中国に移転した会社が多く、取引先に要請されたりして中国に進出し、日本にはもう会社がない企業もある。

まさに背水の陣で中国に進出してきているのだ。

個別の企業の話もそれぞれ面白い。

たとえば最初に紹介されているのは、日本の有力電子メーカーの中国進出のモデルと言われているカーオーディオのアルパインだ。

1988年に元社長の沓沢さんが少年時代に住んでいた遼寧省の丹東を訪問し、その後訪れた瀋陽で東北大学のソフトウェア技術に驚いたことが、同社が中国に進出したきっかけだ。

日本を引き払って社長自らプレス機1台で深圳テクノセンターに飛び込んだヒサダは、まさに背水の陣の典型例だ。現在はプレス機15台、従業員は260人の規模になったという。

日本ではマスコミに顔を見せたことがないという伝説の女性経営者、ミドリ安全社長を50年間勤める松村元子さんも写真入りで紹介されている。ミドリ安全は元々安全靴の生産のために広州に進出し、なめし革の工場をブラジルに持っていることを利用して、ホンダをターゲットに自動車シート生産を中国で始めたという。

ミドリ安全の作業服の合弁会社は中国側にマジョリティを売り、現在は中国人女性が社長となっている。

人間模様も面白い。

関教授の持論である「台湾企業が日本企業より成功しているのは、経営者が現地に駐在しているかどうかだ」という点についても、102社のうちわずかに5社のみで経営者自身が駐在しているが、経営者の親族が駐在している会社は6社あり以前より増えてきたという。

3年程度のローテーションのサラリーマン駐在者では、新たなことに取り組むことは期待しにくく、失敗しないように前例踏襲で行動しがちだという。

商社やメーカー出身の中国経験の長い人をスカウトして社長に据えている会社もあれば、中国人の日本留学経験者を採用したりして中国人をトップに据える会社も17社ある。

第二の人生として中国事業に賭けるシニアもいれば、20代の現地責任者もいる。

102社をレポートする600ページ弱の本なので、全体はざっと読み、興味のある会社や分野の企業についてじっくり読むと良いと思う。

それにしても関満博教授のエネルギーには感心する。中国各地、台湾、ベトナム、モンゴル、日本の地方活性化など400−700ページの本ばかり何冊も出版している。

定価7,000円という高い本なので、まずは図書館で探して読むことをお勧めする。


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2008年08月28日

松下電器の経営改革 詳細な「中村改革」レポート

松下電器の経営改革 (一橋大学日本企業研究センター研究叢書 2)


「松下ウェイ」が今ひとつ合点がいかなかったので、さらに松下改革について調べるため、一橋大学の伊丹教授他による研究レポートを読んでみた。

やはり「松下ウェイ」に出てきた「サッカーボール理論」はおろか、コンサルとしてのマキナニーさんの名前もどこにも出てこない。

コンサルは縁の下の力持ちなので、表に出てこないことが多いが、それにしても「松下ウェイ」で書いてあることが、はたして中村邦夫現会長の松下電器の改革に、どれほど影響を与えたのかわからないところだ。

間違いないのは中村さんがマキナニーさんの本を読み、それの影響を受けたということで、中村さんが2000年7月の社長就任後に打ち出した、5S(Speed, Simplicity, Strategy, Sincerity, Smile)はそれの現れだと思う。しかし、それ以外はよくわからない。


「中村改革」の実行チーム

この本を読むと、松下電器の改革が、中村社長一人の力ではなく、中村さんを中心としたトップマネージメントグループにより行われたことがよくわかる。

トップマネージメントとは、中村邦夫さんが社長就任時のタイトルで列挙すると、人事・企画担当の村山敦副社長、営業の田中宰専務、AVC社の戸田一雄専務、技術の三木弼一常務、経理の川上徹也取締役、そして中村さんを社長に選んだ森下会長と後任社長の大坪文雄現社長だ。

フラットテレビでのつまずき

中村さんは、1989年からほぼ10年間、アメリカ松下電器の社長・会長(途中一年間はイギリス松下電器社長)としてアメリカ勤務を経験し、衰退する企業は「傲慢、自己満足、内部議論、摩擦を恐れる」という四つの特徴を持っていると話を聞いたそうだ。

中村さんは「松下電器はつぶれる」という危機感を持って改革に取り組んだが、その一つのきっかけとなったのが、ソニーの平面ブラウン管ベガに対するテレビ事業部長のコメントだ。

ソニーのベガがすごい勢いで売れていたときに、松下のテレビ事業部長は、「当社の画面はナチュラルフラットです。ベガは平面なので、真ん中がくぼんで見えるが、当社はほぼ平面で絵が自然にみえるでしょう」と言って、全く危機感を感じていなかったという。結局松下が平面ブラウン管を販売するのは2年後だった。

テレビでのシェアは1980年には松下25.5%、二位の東芝13.5%、三位ソニー9.8%と二位の倍のシェアーを持っていた。1990年でさえ松下23.5%、東芝15.0%、シャープ14.5%、ソニー9.5%だったのが、ベガショックのため、2000年には松下18.3%、ソニー17.8%、東芝13.6%とソニーに並ばれた。

ブラウン管テレビの地盤沈下をプラズマテレビ、液晶テレビで回復するプロセスはこの本に詳しい。


中村改革の分析

中村さんが社長に就任する一年前から改革はスタートしており、社長に就任してすぐに、改革が加速した。2001年1月には「創生21」という網羅的な中期経営計画を打ち出し、2001年度は13,000人の早期退職などの巨額のリストラ費用のため約4000億円の赤字を計上したが、それからは見事なV字回復を記録した。

この本では次の目次のような切り口で中村改革が分析されており、大変参考になる。(括弧内は主な論点。)

第1章 中村改革の意義
第2章 雇用構造改革(大量早期退職、大量配置転換)
第3章 事業構造改革(100を超える事業部・関係会社を5ドメインに集約、松下電工をTOB)
第4章 家電営業改革(二つのマーケティング本部設立、スーパーショップ制度=系列小売店の再生)
第5章 管理会計改革とバランスシート改革(個別最適から全体最適へ、CCM(Capital Cost Management) 導入、MCA売却,松下興産整理)
第6章 IT革新(SCM(Supply Chain Management)、顧客要望に応えるウィークリー納期管理)
第7章 テレビ事業に見る中村改革(プラズマへ集約、LCDで東芝と合弁、90のV商品、ビエラ)
第8章 利益率に見る中村改革(利益率もV字回復)
第9章 不変の経営理念
第10章 中村邦夫会長インタビュー
第11章 歴史は跳ばない、しかし加速できる


松下電器創業以来はじめての人員整理

松下電器は国内で14万人、全世界では30万人を雇用している巨大企業である。

創業以来人員整理を行ったことはなかったが、2001年初めて早期退職制度で13,000人の人員整理を行った。松下幸之助は、「松下電器は製品をつくっていない、人をつくっている」と言ったと記憶しているが、人員整理を行っても、人に対する配慮はさすが松下電器と思わせる。

当時の早期退職金の相場は24ヶ月と言われていたが、松下電器は組合員で最大40ヶ月、課長級は最大45ヶ月、部長級で50ヶ月という加算を行った。さすがに人を大切にする松下である。

中には感謝して手紙をくれた50代の工員もいたという。


「同行二人」 経営理念以外に聖域なし

中村さんは「経営理念以外に聖域なし」として改革に取り組んだことが、経営幹部、従業員の指示を得て、求心力を失わずに改革が進められた理由だという。

中村さんは、松下幸之助の経営理念ほど世界に普遍的なものはないという確信を持っていたという。これは捨て去るわけにいかないが、しかしあとは変えなくてはいけない。

松下電器は創業者の残像がまだ濃い会社であると。これを中村さんは「同行二人」(どうぎょうににん)という言葉で表現する。別途紹介する北康利さんの本、「同行二人」は中村さんがよく使う言葉だ。

経営理念のなかで中村さんが中心に置いたのは次の三点だ。

1.お客様第一
2.企業は社会の公器
3.日に新た


経営理念は万国共通

中村さんがアメリカ駐在の時に「メルク」というニュージャージーにある世界的製薬会社を訪問した時に、メルクもしっかりした経営理念を持っていて、どの人もその理念を言っていたという。

「アメリカでも理念なき企業は30年持たない、理念があるから100年持つんだ」と中村さんのパートナーだった米人COOは言っていたという。中村さんはメルクを訪問して、これが確信に変わったという。

日本電産から買収提案があったモーター工場を売却せず閉鎖し、EBO(従業員が買収)で再生した時は、中村さんの「経営理念が相容れない会社に従業員は渡せない」という意思が働いたという関係者の証言を日経産業新聞は報じている。


最後に伊丹教授がまとめているが、キーワードは「変わる経営、変わらぬ経営」と「歴史は跳ばない」である。

多くの関係者のインタビューを元に松下改革を分析しており、しかも非常にわかりやすい。一橋大学大学院の教科書なのだと思うが、大変参考になる本である。

書店でも置いておらず、3,600円もする本なので、まずは図書館でリクエストして読むことをおすすめする。


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2008年07月23日

松下ウェイ 松下復活のブレイン マキナニー氏の内部からの報告

松下ウェイ―内側から見た改革の真実


現松下電器会長の中村邦夫さんの松下再建計画を支えた経営コンサルティング会社ノースリバー・ベンチャーズ社長のフランシス・マキナニーさんのレポート。

筆者自身が松下電器とは仕事でもつきあいがあり、2000年11月に「創生21」計画が発表された直後には、エアコン工場や冷蔵庫工場などでコスト削減の協力をしていただけに、興味深く読めた。

当時は昼休みになると工場の事務所のすべての照明が消されて、会議室の壁にはたしか”C30”だったか、コスト30%ダウンを目標とするポスターが貼られていた。

企業再生の例としては、GE,IBMなどがよく取り上げられるが、GEは20年、IBMは10年掛かったところを、松下は6年で達成したとマキナニー氏は語る。また従業員が35万人という規模からも、松下の再生は世界最大の企業再生だと語る。

この本を読んで松下電器の再建に、マキナニーさんというブレインが居たことを初めて知った。

マキナニーさんと松下電器中村会長とのつきあいは1993年にまでさかのぼるという。

マキナニーさんの著作日本の弱点―アメリカはそれを見逃さないでニューヨークの松下のショールームを批判したところ、出版されてすぐにショールームは閉鎖され、マキナニーさん達は米国松下の社長だった中村さんに招かれ、どうすれば米国事業を改善できるのかアドバイスを求められた。

中村さんとマキナニー氏はいくつかの共通点もあるという。数年の差でともに外国人として米国で働くこととなったこと、中村さんが英国駐在の時に住んでいたサニングデールはマキナニー氏の出身地で、ゴルフが趣味で、読書傾向も似通っているという様な点だ。


松下改革のリーダー中村邦夫会長

中村さんは名古屋での営業課長時代に、松下幸之助が考案した松下と販売店主が50:50で設立する販社システムの再編の必要性を痛感し、みずから名古屋地区の販社の再編に取り組むが、社内外からの批判にさらされる。

その後、1987年から米国松下で家電営業を担当し、1992年から93年までは英国松下、そして1993年に再度米国に戻り1997年まで米国松下のトップとして経営を担当する。

マキナニー氏が「日本の弱点」で提案した分権化、脱・自前主義、組織のフラット化、製品でなくサービスを売るの4つの戦略を読んで、中村さんは次の5つのSを取り入れた経営システムを導入していた。

Small
Simple
Speed
Strategies
Smile

そして前述のように1996年に中村さんはマキナニー氏の協力を求めてきた。マキナニーさんは、「平均的な米国企業は5年ごとに顧客の半分を失っており、離反顧客の60−80%は直前まで満足と回答している。顧客の離反は突然やってくる」と説明したという。

当時の松下は、事業領域もテレビ・ビデオなど成長が鈍化した分野が中心で、高成長の分野が弱かった。

グループ企業間で重複があり、たとえば携帯電話分野では欧米市場で販売能力を持たない松下通信工業が拒否権を持っており、手が打てなかった。

ブランドもパナソニック、ナショナル、安価家電のパルサー、オーディオのテクニクスと分かれていて、同じ松下でも松下電器と松下電工はそれぞれ本家を名乗っているが別会社で間違いやすいといった具合だ。

こんな状態の松下を再生させたのが、マキナニー氏の「サッカーボール理論」だという。


「サッカーボール理論」

「サッカーボール理論」と言われても、イメージがわかないが、以前は会社や事業部が分かれて、それぞれ独立採算、個別最適で動いていて、全体最適が達成できていなかった巨艦松下を、フラットな組織に作り変えたということだ。

ムーアの法則で情報コストが低下すると、市場での力関係が変化し、顧客が力を持ってくる。これに対応するために、企業はいわばサッカーボールのように顧客に接する薄い皮に経営資源を集中し、中空構造になってくるというものだ。

それによって顧客の要望に迅速に対応して商品開発が行える体制をつくるのだ。

指標は次の2つだ。

1.キャッシュ化速度(在庫日数+売掛金日数)が5日以下であること。
2.資本収益性速度(総資本対営業利益率)が20%を上回る。

マキナリー氏が松下のコンサルを始めた時、デルと比較すると現金化期間はデルのマイナス10日に対し、松下は70日だった。また粗利益では松下がデルを上回っているにもかかわらず、純利益ではデルが上だった。松下は販管費がふくれあがり、その他の優位性を相殺していたのだ。

2000年に就任した中村社長は、松下再生のために次の対策を打ち出した。

1.「V商品」の打ち出し。V商品とは、タフブック(現場用パソコン)、プラズマディスプレイ、デジタルカメラ、ななめドラム式選択乾燥機、カーエレクトロニクスなどだ。

2.海外で実績を上げた幹部「外人部隊」の日本への呼び戻し

3.2001年度から3年間「創生21」で破壊と創造を実施。

4.ブラックボックス技術を持つ。(半導体など)

5.在庫を劇的に減らす

連結利益率5%以上、資本コスト管理0%以上(在庫削減。キャッシュ化速度向上)、連結売上高9兆円が数値目標だった。

全国19,000のナショナルショップも、業績トップクラスを「スーパープロショップ」と名付けて、大規模小売店と同様の契約条件と、サポートも強化して、選別を進めた。

デルとの大きな差であるSCM(サプライチェーンマネージメント)強化にも力を注いだ。中村社長がモデルにしたのは、ノキアだったという。

筆者も覚えているが、松下でSCMを導入する前段階として、事業部で別々だったパーツの品番を全社で統一する作業を1年半掛けて地道に行っていた。30もの中核システム、1000以上のデータベースの再編を行ったという。

この結果薄型テレビでは調達時間が70%短縮され、発売までの時間も42%短縮、加工時間が75%短縮された。

セル生産方式も導入され、2001年10月には、国内では82%、世界全体では半分がセル生産方式となった。

プラズマディスプレイパネル(PDP)工場では、従業員一人当たりの生産台数は1.4倍から1.8倍となり、需要の変化にも機敏に対応できるようになった。

パナソニックとナショナルが混在していたブランドも、ブランドイメージ・タスクフォースを結成し、米国のブランドコンサルティング会社ランドーをマキナニーさんの推薦のもとに起用し、"Panasonic ideas for life"に統一した。この一環で、ユニバーサルデザインも導入された。

2005年にFF石油ファンヒーターの欠陥による死亡事故が起こると、松下が年末商戦の広告をすべてやめ、石油ファンヒーターの回収広告に入れ替えたことは記憶に新しい。

マキナニーさんは米国のタイレノールの例を松下の幹部に説明したという。タイレノールの親会社のJ&Jは毒物が薬瓶に混入されて数人が死亡するという事件が起きてすぐ、3100万本のタイレノールすべてを回収した。この措置のお陰で、2年後は以前より大きな規模の商品となったという。これに倣った思い切った対応だった。

筆者が一緒に仕事をしていた松下電器の工場の購買の人は、なんと6ヶ月間営業支援のために、量販店の店頭などに派遣されていた。

それもこれも松下は変わったという印象を強く焼き付ける事件だった。


マキナニーさんの言う「サッカーボール理論」があまりに世に知られていないので、「サッカーボール理論」が松下改革のバックボーンだったのかどうかは半信半疑である。

しかしなんと呼ぶかは別にして、松下はDellやNokiaの方向に近づいていることは間違いない。それはマキナニーさんのコンサルティングによるものなのだろう。

もう数冊松下改革についての本を読んで、別の角度からも検証してみる必要がありそうだ。


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2008年06月02日

愚直論 マイクロソフト新社長樋口泰行さんの自伝的ビジネス論

「愚直」論 私はこうして社長になった


元ダイエー社長で、4月1日にマイクロソフトジャパンの社長に就任した樋口泰行さんの日本HP社長時代の最初の著書。樋口さんの著書は、以前「変人力」のあらすじを紹介した。

2005年の本だが、いまだにビジネス書のベストセラーランキングに入っている。アマゾンではむしろ最新の「変人力」より売れているようだ。

「変人力」には、現場で人を動かすぎりぎりの戦いをしてきた人のみが持つ言葉の重みがあり大変良かったので、この本も読んでみた。

樋口さんは文才があり、わかりやすく頭にスッと入る。

この本は樋口さんの経験に基づく自伝的経営論だ。


ビジネスで成功するには

樋口さんはビジネスで成功するには、次の3つが重要だと語る。

1.ハングリー精神
樋口さんの家は裕福ではなかった。毎日食パンを買うだけのお金を持って、お使いに行っていたが、ある日余計にお金を貰ったので食パンと一緒に菓子パンを買ってきたところ、お母さんに「うちにはそんなものを買うお金はないのよ。早く返して来なさい!」と言われたという。

その時自分の欲しい物は自分で努力して手に入れるしかないと思ったという。

2.熱意と経験が成長を決める
仕事は苦しいからこそ、それを乗り越えた時の喜びも大きい。失敗であれ成功であれ、熱意を持って取り組んだ経験の積み重ねが成長につながる。

3.仕事のスコープを広げる
樋口さんは「T」型人間を目指せという。自分の専門分野を深く知っていながら、製造、開発、マーケティング、営業、経理、財務、人事などの様々な分野でも広く理解できることで仕事のスコープを広げるのだ。

樋口さんは自身の経験を、長い時間をかけて認められるような「愚直な」生き方と呼んでおり、ケーススタディとして活用して欲しいという。


社会人としてのスタート松下電器時代

樋口さんは1957年兵庫県生まれ。兵庫県出身だったことから、ダイエーの再建を引き受けた話は「変人力」で紹介した。大阪大学の工学部に進学したが、アルバイトに明け暮れた。ほとんど授業には出席していなかったが、教授推薦で松下電器に就職する。

松下電器では8ヶ月の新人研修の後、子会社の松下産業機器で溶接機事業部に配属され、パチパチっと火花が出るアーク溶接の電源装置を作っていた。業界シェアNO.1とはいえ、いわゆる3K(きつい、きたない、危険)の職場で、閉塞感を感じ技術者として焦燥を感じていた。

そのころ新人研修の時に聞いた「T」型人間になれという言葉を思い出し、技術者として専門分野を極める一方、自分の幅を広げるために休日を利用して英語や情報処理を学び、異業種交流会を開催するようになった。

専門を深く追求した成果が出て、特許を6件取得した。自分のスコープを広げ、なによりもコミュニケーションの重要性を溶接機事業部で学んだという。


コミュニケーションはなぜ重要か

仕事をする上でコミュニケーションの重要性を述べる人は多いが、樋口さんのコメントは秀逸なので紹介しておく。

樋口さんは典型的な理系人間で、答えは一つしかないという世界に慣れていたが、現実のビジネスの世界では多様な価値観の人がいて、答えは一つではない。

自分の出した「たくさんある中の一つの答え」に基づいて人を動かそうとするとコミュニケーションが非常に大事なことを樋口さんは学んだという。


その通りだと思う。所詮たくさんある中の一つの答えをみんなに納得して貰うにはコミュニケーションしかないという考えは、実に説得力がある。

松下電器ではすばらしい経験をさせてもらい、社会人としての基礎を教えてもらった溶接機事業部には感謝の気持ちで一杯であると。

溶接機事業部での5年間の後、IBMのOEMを担当している特別プロジェクト室に異動し、入社当時からあこがれていたデジタル技術の分野を担当する。

米国IBMの社員と仕事をし、技術者としてトラブルやクレームに対応する中で、コンピューター製品や技術の理解を深めると同時に、米国流のマネージメントや仕事の進め方を学ぶ。

樋口さんは、ビジネスの基本、企業人の基本はすべて松下電器で学んだと語る。米国でもIBMやP&Gの出身者は「企業人としての基本がでてきているから、転職後も活躍できる」という話を聞くが、大企業の長い歴史で培われた精神的・文化的な土壌にふれることで、学べることは多いのではないかと。

たしかに大企業でみっちり新入社員教育を受けた人材は基礎ができている。なるほどと思う。


MBA留学試験に挑戦

その後松下が毎年20名前後のエンジニアを派遣しているMITへの技術留学を考えるが、上司の薦めでMBA留学に方向転換する。集中的に英語を勉強して、最初550点だったTOEFLスコアをアップさせる(当時の満点は677点)。

このブログでも「ドラゴン桜」「レバレッジ時間術」などの受験技術を紹介しているが、樋口さんのTOEFL対策は次の3点だ。

1.問題のひっかけにはパターンがある。3択の過去問を勉強していくうちに、クセがわかったという。

2.音響設備の良い試験場を調査し、ヒアリング問題の聞きやすい試験場を選択した。

3.問題を朗読する人によって個性があるが、TOEFL本試験は毎年3人の朗読者だった。その3人の過去問のテープをできるだけ集めて、その3人の声ばかりを聴く様にした。

この3つの対策で、650点を取ったときはまさに「してやったり」という気持ちだったという。

ビジネススクールの合否を大きく左右するエッセーには自分史を書いて第一志望のMITの面接試験で合格し、ハーバードにも電話面接で合格する。松下はMITと技術留学で関係が深く選択に悩んだが、奥さんの「男なら挑戦しないと」とのひと言で、ビジネススクールのトップのハーバード留学を決心する。


ハーバードの人格改造講座

樋口さんは英語が得意ではなかったので、ボストンに着いていきなり自信喪失し、落第候補生になってしまう。しかし深夜の3時か4時に寝て8時に起きるという生活を毎日続け、ローソンの新浪さんなどの勉強会仲間の協力も得て、なんとか進級できる。

ハーバードが元祖のケーススタディを週13回こなす。それぞれが4ー5時間の予習と解答準備が必要なので、1日3ケースとすると毎日12時間の予習をしなければならなかった。結局1年次に学外に出たのは3回だけだったという。

ビジネススクールでは発言しないと評価されない。技術屋の樋口さんは授業での発言が苦痛だった。「今日は発言できた?」というのが仲間うちの挨拶だったという。

それまで完璧主義者の技術者だった樋口さんは、毎日限られた時間内に決断を迫られるケーススタディを大量にこなすことで、「ビッグ・ピクチャー」を捉え全体最適な解答を探す現実的なスタイルに転換できたのだ。

ハーバードの2年間は樋口さんにとって「人格改造講座」だったという。

MBA取得に価値はあるかと問われれば、就職や転職の通行手形になり、キャリアの選択肢が広がり、人的ネットワークができるというメリットがある。

しかし入社してしまえば結果がすべてだし、他に代替手段もある。樋口さんはやはりビジネススクールは2年間プレッシャーの中で、質の高い教育をうけることが価値だと語る。


実力主義の世界…ボストンコンサルティンググループ

松下に帰任した樋口さんは、松下が8,450億円をかけて買収したMCA事業を検討するAVソフト室に配属された。

しかしクリエイティブな世界に生きるMCAは「親会社の言うことを聞け」という資本の論理など通用しない相手だった。樋口さんは伝書鳩としての自分の限界を感じ、帰国半年で退社を決意し、ボストンコンサルティンググループ(BCG)に転職する。

BCGの面接では、面接官一人1時間の面接を連続して5回行い、樋口さんは疲れ切ったが、その場で内定を貰った。「やりがいだけはある」という面接官のひと言が決め手だったという。

BCGに入社し、製造業のプロジェクトに配属された。上司は8歳年下で20代半ばの大学卒のマネージャーだった。

ひとたび仮説を構築すると、事実とロジックをつなぎ合わせてプロジェクトを進行させていく彼の仕事ぶりには驚かされたという。

技術者である樋口さんは気になることがあるととことんまで追求してしまう追求癖があるので、アウトプットで評価されるアウトプット主義にはなかなか感覚がつかめなかった。

身体の限界まで頑張っているのに、アウトプットの質が高まらない苦しみを最初の1年強は味わったという。

徹夜が続き、会議で失神し、「過換気症候群」と診断されたにもかかわらず、病院からまたオフィスに戻って仕事をした時もあったという。

仕事に成功を収めるが、だんだんクライアントから「後は我々に任せて下さい」と言われ、提言だけして、あとはいなくなるコンサルタントの仕事に飽き足らないものを覚える。

BCGの仕事はいわば短い時間と大きな期待という圧力釜の中での仕事で、生き残り競争も過酷だったが、ハーバードで習った経営者としての疑似体験を、リアルなビジネスの現場で直接体験し、戦略立案の頭の使い方が骨の髄までたたき込まれたという。

自分の伝えたいメッセージを、1時間ならこう、20分ならこう、エレベーターで乗り合わせた相手ならこうと、自由自在に加工できるように、何がポイントで本質はどこにあるかを常に意識し、仮説に基づいて問題を構造化し、整理できていなければならない。いわゆるフレームワークだ。それが戦略立案の仕事であり、BCGで徹底的に鍛えられたという。

このブログで「仮説思考」を紹介しているBCGでの樋口さんの上司、内田和成さんが、当時の樋口さんのことをブログで書いているので、紹介しておく。


テクノロジー業界への回帰

BCGには「アルムナイ」というOB組織があり、現役組と強いつながりを持っている。BCGの平均在職年数は3年で、或る意味3年で卒業する学校の様な風土があるという。

BCGで2年ほど経験をつんだ樋口さんは、BCGを退社してアップルに入社した。パイオニア製などのマック互換機を日本市場で売り出すことをキヤノン販売の協力を得て成功させたが、互換機が売れるとアップル本体の製品が売れなくなると考える米国本社との板挟みという問題を抱えていた。

いわばパソコンのハーレーダビッドソンのアップルでの仕事は楽しかった。

アップルで2年間働き、いずれは社長になりたいという気持ちを抱き、転職先を考えていたところ、コンパックに転職していたアップルの元上司から誘われ、1997年当時売上No.1で世界シェア10%のコンパックに入社する。

しかしコンパックは米国では好調だったが、日本法人は苦戦しており赤字と黒字を行ったり来たりしていた。ビジネス向けは一定の売り上げがあったが、コンシューマー向けは年間3万台前後、シェア1%以下だった。

そういえばあのころのコンパックを思い出す。

筆者自身は1994年頃から1997年までコンパックに買収されたDECのラップトップ(ポインティングデバイスはトラックボールで大変使いやすかった)を使っていた。コンパックというとIBM PCとほぼ同価格で、高価格・高性能という印象があった。

DEC









出典:Wikipedia

日本コンパックの社員約200人のうち10名が樋口さんのコンシューマー部門の部下だったが、マニュアルの翻訳などを除くと自由に動けるのは5名程度だった。世界共通デザインの、つくりが大ざっぱなモデルの輸入販売で、日本コンパックはコンパックグループでも全く発言力がなく、覇気がなかった。

樋口さんは、アップル時代につきあいのあったキヤノン販売を実質エクスクルーシブの販売チャネルとして起用し、強硬な米国本社との間を玉虫色で調整し、1998年に新モデルを売り出し大成功を収めた。元々コンパックは世界NO.1PCメーカーなので、品質も良くコスト競争力もあったのだ。

続いてデザイン性に優れた日本独自仕様のPCをマス・マーケティングで販売するために、独自の台湾のOEM工場を見つけ、ヒューストン本社に乗り込み「YESと言うまで日本に帰らない」と宣言して交渉した。

3週間ほどで本社のOKが出た。本社は一切サポートしないことと、うまくいかなかったらすぐに撤退し、樋口さんがやめるという2つが条件だったという。

そうして生まれたのがスリムタワー型で、今までのモデルより体積比で60%小型化したプレサリオ3500シリーズだった。TOKIOを使ったTVコマーシャルを打って大ヒットし、2000年には販売台数が30万台を超えた。

TOKIOのCMは2000年のものなので、メンバーも皆若い。

マーケティングの4大要素といわれる製品、価格設定、広告宣伝、販売チャネルのすべてがそろっての成功事例だ。

イメージキャラクターがTOKIOに決まる前に、当時の高柳社長から茶髪とピアスはダメだぞと厳命が下っていたが、現場がTOKIOで行かせてくれというので、現場の意向に上層部のOKを取った。

みんなが能力を発揮しあって、楽しく働け、実績にも結びつくという職場づくりの理想型に近いものだったという。

この業績で樋口さんは日本コンパックの取締役に昇進した。


社長という職業

コンパックは大型コンピューターに強いタンデムコンピューター、企業向けワークステーションに強いDECを買収し、2001年9月にHPによる250億ドルという巨額の合併を発表する。

樋口さんはそのとき米国コンパック本社で10ヶ月のエクゼクティブトレーニングを受けている最中だった。HPの創業家は反対を表明し、コンパック社内でも動揺が走るが、すぐに"Business as usual"という指令が出され、翌2002年3月の正式合意、5月の正式合併に至る。

受付嬢からCEOになった女性経営者として有名なHPカーリー・フィオリーナと、コンパックマイク・カペラスの指導力の成果だ。フィオリーナはHPにスカウトされて着任以来、世界で87あった事業部を12に再編し、強力な中央集権体制をつくってHPを再建した。

両者の単純合計で売上高874億ドル、利益39億ドル、従業員14万5千人、世界160カ国の事業拠点を持つ巨大企業となった。両者の得意とする事業領域は異なり、理想的な合併といわれた。

HPの伝統的なクレド、HPウェイは「+HPウェイ」となった。

HPウェイは、1939年のHP設立時につくられたもので、「企業は社員によって成っており、両者は共有関係にある」という企業と社員の間の共有を柱としている。MBO(Management by Objective=目標管理)や「良き市民であること」というCSRの考え方など、現代にも十分通用する先進的なものだった。

樋口さんは米国研修から戻って新生HPのPCサーバーのラインを任される。新生日本HPは従業員6,000人で、樋口さんが入社したときの日本コンパックの24倍になった。

樋口さんのプロライアントPCサーバー部門はDELLの攻勢を受け、シェアを徐々に失っていった。そこで樋口さんは低価格サーバーと高付加価値サーバーの2本立ての商品構成とし、1ヶ月で2億円使った広告を打って一挙にシェアを盛り返し、5位だったシェアを2位にまで回復させた。

2003年3月にHP本社から日本の社長候補に選ばれたという連絡があり、3月末に寺澤会長から「君に内定したぞ。君に断るオプションはないからな」と言われる。

20人弱の日本HPの取締役会の中で2番目に若い45歳の平取締役が社長になったのだ。それまで最大で30人の部下しか持ったことのない樋口さんが社員6,000人の企業の社長となったのだ。

樋口さんは肩の荷が重いと感じたが、なぜ自分が選ばれたかを考えると、「正義感の強さ」と「馬力の強さ」だと思い、これまで以上に頑張ることを決意する。

まずは外見から揃えようと、社長就任後、分刻みとなったスケジュールの合間に、デパートに飛びこみメガネとオーダーメードのスーツ、シャツとネクタイそして靴、ワニ皮ベルトの時計と、それまで使ったことのなかったカフスボタンを買い、1時間で数十万円散財したという。

いかにも等身大の社長、樋口さんらしい話だ。折角買った30万円のメガネは誰にも気づかれなかったのでがっかりしたそうだ。

社長就任早々、樋口さんの出したビジョンは次の5点だ。

1.お客様第一主義
2.スピード
3.結果重視
4.オープン
5.日本市場に根ざす

樋口さんは「不謹慎な言い方だが、社長の仕事は皿回しみたいなものだ」と語る。両手に何本も棒を持って数え切れないほどの皿を落ちないように回す。すべての皿を見ながらバランス良く皿を回すのだと。

樋口さんは外資系企業の日本法人のトップだが、外資の最先端のテクノロジーを駆使して、日本の発展に貢献し、日本を素晴らしい国に変えていきたいと語る。


樋口さんは、大学卒業から今まで一貫してハードワーカーだった。熱心に働いてビジネスで自己実現するんだという志を持って努力することで、思い通りの人生が描けるのではないかと語る。成果は後からついてくると。

樋口さんの経験に基づき、次のように語っている。

1.仕事は自ら創るもの これが短期間に成長するコツだ 電通の鬼十則を思わせる
2.「現場百回」の姿勢を持つ 答えは現場にある
3.勝負どころを見極める
4.価値観の異なる人とあえて交わる
5.身近な助言者を見つける
6.普遍的な実力を身につける
7.「T」字型人間になれ
8.マインドがすべて マインドとは、.僖奪轡腑鵝↓▲ーナーシップマインド、コラボレーティブマインド、ぅ好圈璽百兇裡瓦弔世函

リーダーに求められる役割は、メンバー一人一人がやりがいを感じ、成長できるような環境を創造することであると。

そのためにはリーダー自身がどれだけビジネスの現場で格闘してきたかが重要である。経験に裏打ちされた言葉にメンバーは共感する。

リーダーには高いマインドも求められる。皆が自分たちの共通の目標として捉えることができる方針を、哲学を持って打ち出し、コミュニケートできなければならない。

リーダーは大変な役割だが、リーダー自身が困難を乗り越えて成長することで、その背中を見ているメンバーも成長していく。こうして良質な人材が育ち、組織は拡張するのだと。

樋口さんは自分は不器用で変わり者だという。樋口さん自身ももっと成長しないといけないと。

日本HPの社長といういわば雲の上の人が、身近に感じられる。等身大のビジネス奮闘記で、面白く参考になる。

是非一読をおすすめする。



参考になれば次クリックお願いします。

  
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2008年05月15日

ブルーオーシャン戦略 未開拓市場をつくって繁栄する企業

ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する (Harvard business school press)


+++今回のあらすじは長いです+++

フランスとシンガポールにキャンパスがある国際ビジネススクールINSEAD(インシアド)を代表するキム教授とモボルニュ教授がハーバードビジネスレビューに発表した論文。

2005年に日本でも翻訳され、話題となった。

バーバードビジネスレビューはダイヤモンド社から日本版も出版されている。以前は会社でも購読していたので、筆者も時々読んでいたが、正直あまり歯が立たなかった論文ばかりだったという記憶がある。

ブルー・オーシャンとは、血の海を意味するレッド・オーシャンに対する言葉だ。レッド・オーシャンが既存市場での競争相手との血みどろの競争を意味するのに対して、ブルー・オーシャンは競争相手のいない独占的な未開拓市場をつくって繁栄するビジネスモデルだ。

ブルーオーシャン戦略の6原則とは次の通りだ。

策定の原則
1.市場の境界を引き直す
2.細かい数字は忘れ、森を見る
3.新たな需要を掘り起こす
4.正しい順序で戦略を考える
実行の原則
5.組織面のハードルを乗り越える
6.実行を見すえて戦略を立てる

この本は具体例で説明している部分が多く、頭にスッと入る。


シルク・ドゥ・ソレイユ

ブルー・オーシャン戦略の典型例として、シルク・ドゥ・ソレイユが最初に紹介されている。

シルク・ドゥ・ソレイユは、火喰い芸人だったギー・ラリベーテがカナダで設立したサーカスをベースにしたエンターテインメントだ。世界各地で常設の劇場やホテルでの常設の出し物がある。

筆者が最初にシルク・ドゥ・ソレイユの出し物を見たのは、米国のフロリダのディズニーワールドで、10年以上前だ。

卓越したアクロバット、よく考えたコミカル、大がかりな舞台、観客を巻き込んだエンターテインメントに感心した。

それからラスベガスのホテルでの出し物(ベラッジオの"O"を見たかったが、チケットが取れなかったのでミラージュの「ミスティア」を見た)、東京に戻って「サルティンバンコ」、「アレグリア」を見た。

最初見た出し物では中国雑技団は参加していなかったが、最近の出し物は中国雑技団のメンバー抜きでは考えられないほど、高度なアクロバットが披露されている。

中国雑技団は話題になったサントリーの「アミノ式」のCMにも出演している。



猛獣使い、アクロバット、ピエロといった従来型のサーカスの最大手リングリング・ブラザース&バーナム&ベイリー・サーカスが100年掛かって達成した売上高を、わずか20年で追い越してしまったという。

シルク・ドゥ・ソレイユは競争相手のいない新しい市場を創造して、高い入場券でも喜んで支払う大人や法人という新しい顧客を惹きつけた。

このように既存の産業を拡張することによって生み出される新しい需要、あるいはこれまでの産業の枠を超えた新しい需要をキム教授はブルー・オーシャンと呼ぶ。


永遠のエクセレントカンパニーは存在するか?

キム教授は過去のエクセレントカンパニーから、永遠のエクセレントカンパニーが存在するかどうか調べたところ、名著「エクセレント・カンパニー」で取り上げられた会社のうち2/3が、5年後には業界リーダーから脱落していたことがわかった。


エクセレント・カンパニー (Eijipress business classics)


ちなみに「エクセレント・カンパニー」の原題は"In search of Excellence"であり、永遠のとは書いていないが、永続的なニュアンスがある。

もう一つの名著「ビジョナリー・カンパニー」は「エクセレント・カンパニー」の二の舞を避けるために、設立後40年以下の会社に対象を絞ったが、それでも「ビジョナリー・カンパニー」が絶賛した企業、たとえばHPは産業全体が好調だったために繁栄できたのだと批判されている。

ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則


このような経緯をふまえ、キム教授は1880年から2000年まで、30を超える業界で150以上の戦略的打ち手を研究した。

ブルーオーシャンを創造した企業とレッド・オーシャンから抜け出せずにいる企業を分析した結果、ブルー・オーシャンを生み出す戦略は業界や時代を超えて不変であることがわかったと。

ブルーオーシャンを切り開いた企業は、レッド・オーシャンに居る企業とは異なり、競合企業とのベンチマーキングを行わず、その代わりに「バリュー・イノベーション」という戦略をとっているとキム教授は指摘する。

「バリュー・イノベーション」とは、差別化とコスト低減が2者択一ではなく、両方を実現する新しい需要の掘り起こし戦略だ。顧客や自社にとっての価値を高め、競争のない未知の市場空間を開拓することによって競争を無意味にする。


シルク・ドゥ・ソレイユの戦略分析

具体例で考えないとわかりにくいので、シルク・ドゥ・ソレイユについてのブルーオーシャン戦略分析のための戦略キャンバスとアクション・マトリクスを紹介しておく。いずれもこの本で紹介されている図に従って筆者が作成したものだ。

シルクドゥソレイユの戦略キャンバス






出典:本書60ページ

戦略キャンバスは横軸に競争要因を抜き出し、縦軸で高低を評価した点をプロットして折れ線グラフとしたものだ。シルク・ドゥ・ソレイユ独自の競争要因は、他の競合にはないので、競合者の評点はない。

独自の競争要因をどれだけつくれるかが、ブルーオーシャン戦略の鍵である。

シルクドゥソレイユのアクションマトリクス






出典:本書65ページ

アクションマトリクスは、従来型のビジネスモデルに「減らす」、「取り除く」、「増やす」、「付け加える」の4象限でアクションを整理したものだ。

シルク・ドゥ・ソレイユが取り除いたものは、コストがかかるものばかりで、逆に付け加えたものが、差別化の競争要因となっていることがわかる。


イエローテイルの戦略分析

具体例として取り上げられているものの分析例を、もう一つ紹介しておく。オーストラリア産ワインのイエローテイルだ。

アメリカは世界第3番目のワイン消費国で200億ドル規模の国内市場があり、この2/3をカリフォルニアワインが占めており、フランス・イタリアなどの旧大陸やオーストラリア、チリなどの新大陸の輸入ワインと激しく競争している。

しかし一人当たりのワイン消費量は世界第31位で伸びていない。全米で1,600あるというワイナリーの業界再編が加速し、上位8社が生産量の75%を占め、残り25%を1,600のワイナリーが争っている。まさにレッド・オーシャンだ。

イエローテイルの戦略キャンバス






出典:本書55ページ

多くのアメリカ人がワインを敬遠していたのは、味わいが複雑すぎて堪能できなかったからだという発見に基づき、イエローテイルは、ビールやカクテル飲料の様に気軽に飲め、フルーティな甘さで後味が残らないワインをつくった。

低価格デイリーワインの倍以上の$6.99という価格設定ながら、イエローテイルは2001年7月の発売からわずか2年でアメリカで最も輸入されたワインとなり、瓶入りの赤ワインではカリフォルニア産に代わって全米で販売量トップとなった。

イエローテイルは他のワインブランドを押しのけた訳ではなく、ビール、カクテル飲料を飲んでいた初心者を取り込んでワインの需要を増加させたのだ。

タンニン、オーク樽、こく、深みなどといった要素を取り除き、ボジョレヌーボーの様に熟成せずに出荷するという方針をとったことで、カセラワイナリーズは運転資本を減らし、資金を短期間で回収できるようになった。

品種も今は赤が3種類、白が1種類だが、当初は白赤一種類ずつ、シャルドネとシラーズのみだった。

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イエローテイルのアクション・マトリクスは次の通りだ。イエローテイルは、ワイン界の常識を打ち破って見事にブルーオーシャン戦略を実現したのだ。

イエローテイルのアクション・マトリクス






出典:本書59ページ


余談になるが、筆者もイエローテイルの白、シャルドネを飲んでみた。熟成されていないので、こくも後味もない。いわば味も香りもない焼酎版のワインを飲んでいるようなものだ。クリヤーな味といえないこともないが、正直、筆者はイエローテイルをワインとは呼びたくない気持ちだ。

これならよっぽどチリのフロンテラや南アフリカのKWVの方が安くて、うまいと思うが、こんな味のないワインを好む層も米国にはいるのかもしれない。

飲みやすさだけなら、ポルトガルのマテウスのスパークリングワインの方が良いと思うが、イエローテイルバブルスという名前でスパークリングワインもある様だ。

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ブルーオーシャン戦略の成功事例としていくつもの例が挙げられているので、参考になる例を紹介しておく。


*サウスウェスト航空

ハブアンドスポークシステム(いくつかのハブ空港を軸とした放射線状の路線展開)、空港ラウンジ、機内食、座席の選択肢などを取り除き、心のこもったサービス、便数の多さ、安い運賃に徹して人気を博している。


*ネッツジェッツ社

ウォーレン・バフェットのバークシャー・ハザウェイに買収されたチャーター機の共有サービス。16社で1機を保有し、最初に37万5千ドル払えば、後は飛行機のランニングコストだけで6百万ドルもする専用機を共有できる。

メンバー全員がファーストクラスを使って移動するより割安で、しかも目的地近くの空港に直行でき、移動時間を短縮できるので、ビジネスユーザーに大人気となった。


*NTTドコモのiモード

通信料値下げのレッド・オーシャンから、ケータイによるインターネットアクセスをキラーアプリケーションとしてiモードが1999年に登場した。

スタートして半年で百万人のユーザーが2年後には2千万人、4年後には4千万人になり、一時はドコモの株価総額が親会社のNTTを抜いていたことが記されている。

勿論ドコモはこの本で紹介されているiモードの成功の後、またもやレッド・オーシャンに入ってしまっていることは周知の通りだ。

松永さんの「iモード事件」を読んで知ったのだが、ドコモのiモードは、マッキンゼーがドコモの首脳に提案して、松永さん、夏野さんなど外人部隊が雇い入れられて立ち上げられたサービスだ。

iモード事件 (角川文庫)


勝間和代さんの本には、勝間さんがマッキンゼーに居たときに、ドコモのiモードのコンサルメンバーとして携わっていたことが記されていた。

松永さんがブレインストーミングのために、社内の会議室で開いた「クラブ真理」に出入りする芸能界関係者の「げっく」(月9)発言に、マッキンゼーのメンバーの顔が引きつっていたという一節が思い出される。

iモードの推進者夏野さんがドコモを去ることが決まった今、ドコモがどうやって再度ブルーオーシャン戦略を見つけられるのか注目させる。


*女性専用のフィットネスクラブカーブス

カーブスは1995年にフランチャイズ展開を開始して以来、6,000店もの出店で、会員数が二百万人を突破した。

こじんまりとしたスペースに10台のマシンを円形に配置し、女性会員はおしゃべりしながらトレーニングに励み、30分でサーキットトレーニングを終える。キャッチフレーズは「一日コーヒー一杯のコストで適度なエクササイズと健康が手に入る」だ。


*ブルームバーグ

ブルームバーグが誕生したのは1980年代前半だが、それ以前はロイターとテレレートが金融情報界に君臨していた。ロイターとテレレートはITマネージャー層に適したサービスをしていたのに対して、ブルームバーグはトレーダー向けのサービスに徹して市場を席巻した。

トレーダー向けに二つのスクリーンがついたボタン一つで分析ができる端末を提供し、トレーダーの生活に役立つ情報サービスやオンライン・ショッピング・サービスも付加した。トレーダー達はITマネージャーにブルームバーグシステムへの変更を迫ったという。


*バスメーカー NABI

ハンガリーのIkarus Busの米国法人がスピンアウトしたバス車体メーカー。公共交通部門向けのバス業界では、車両価格の引き下げ競争が常態化していた。NABIは車両価格よりも保守費用の方が高いことに注目し、メインテナンスコストと燃費が良い美しいデザインのグラスファイバー製のバスを導入した。

NABIの新型バスは自治体にも乗客にも好評で、1993年のアメリカ市場参入以来、たちどころに20%のトップシェアを獲得した。


*QBハウス

日本の格安理髪チェーンQBハウスの事例が取り上げられている。1996年に一号店を開店以来、2003年には200店を超え、シンガポールやマレーシアにも店舗を展開しているという。

QBハウスの戦略キャンバスは次の通りだ。ちなみにエアーウォッシャーというのは、バキュームで刈った毛を吸い込むシステムだ。

QBハウスの戦略キャンバス





出典:本書103ページ


新たな需要を掘り起こす

ブルーオーシャン戦略を創造するためには細かい数字は忘れ、森を見ること、新たな需要を掘り起こすことが重要だ。

キム教授は、まだ取り込めていない需要を次の三つのグループに分けて説明している。

第一グループ 市場の縁にいるが、すぐに逃げ出すかもしれない層
第二グループ あえてこの市場の製品やサービスを利用しないと決めた層
第三グループ 市場から距離のある未開拓の層

これらの需要をうまくすくい取って、ブルーオーシャン戦略を創造するのだ。

例として次が挙げられている。


*キャロウェイゴルフ

スポーツ愛好家などにゴルフが敬遠される理由をキャロウェイが調べたところ、「ゴルフボールを打つのは難しそうだ」という認識があった。

そこでヘッドの大きなビッグバーサというクラブを開発して、ボールに当てやすくして新しい需要を掘り起こした。

筆者も初代ビッグバーサを持っている。一時人気No 1のドライバーだった。


プレタマンジェ(Pret A Manger)

ヨーロッパの都市部に働くプロフェッショナル達はレストランで昼食を取るのが普通だったが、ヘルシー志向、時間、コストの面からより良い選択肢を求めていた。

そこでプレタマンジェはレストランに劣らない良質のサンドイッチを、ファーストフード店並にすばやく作りたての状態で提供し、こぎれいな店舗と手頃な価格で提供した。英語だがプレタマンジェのメニューを紹介しておく。寿司もメニューにある。

プレタマンジェは2003年時点でイギリスで130店舗展開し、売上高は年間一億ポンドを上回り、その成長性に注目してマクドナルドが33%の株式を取得した。

これには後日談がある。日本マクドナルドがプレタマンジェチェーンを2002年にオープンしたが、2004年に撤退している。そういえば筆者も三角の紙箱に入ったサンドウィッチを売っている中野坂上(?)だったか日比谷シティだったかの店に入った記憶がある。

プレタマンジェのマーケティング手法の解説をしているブログを見つけたので紹介しておく。


*JC Decaux(ジーセードゥコー)

自治体向けにバス停やゴミ箱、ベンチなどのストリートファーニチャーを広告媒体として無償で維持管理サービスを行うビジネスを開始した。ストリートファーニチャー広告は1996年から2000年まで60%も増えた。

自治体との契約は8年から25年なので、JC Decauxは高利益率のビジネスを長期間独占できることになり、2003年の時点で世界33ヶ国に30万以上の広告板を持っている。(現在は40ヶ国、35万カ所)

JC Decauxは日本では三菱商事と提携しておりMCDecauxという会社をつくり、たしか横浜市の市営バスのバス停広告をやっていたと思う。MCDecauxのサイトではJCDecauxのシェアなどの数字も公開されている


*JSF(Joint Strike Fighter)英米の次世代戦闘機

JSFはロッキードのF−35と決定し、人間の乗る最後の戦闘機と言われている。

F-35






出典:Wikipedia

米国の主力戦闘機は従来、空軍、海軍、海兵隊それぞれが独自の機種を選定していた。

JSFは3軍の異なる需要を大胆に統合し、同じ機体で空軍用、STOVL(垂直離着陸)機能も持たせた海兵隊用、翼が大きい海軍用の三機種を製造し、性能や機能を向上させる一方、コストを当初の約二億ドルから3,300万ドルに劇的に下げることに成功した。

このJSF選定も、ブルーオーシャン戦略の新規市場の獲得というコンテクストで説明されている。たしかに三軍共通の戦闘機というのは米軍始まって以来の出来事で、これにより量産効果もあがるので、コストを下げ、バリューを挙げるというブルーオーシャン戦略の典型的な事例である。


ティッピング・ポイント・リーダーシップ

ブルーオーシャン戦略を実行する上で、組織面でのハードルを乗り越えるために、キム教授はティッピング・ポイント・リーダーシップを用いることが必要だと説く。

ティッピング・ポイント・リーダーシップとは、どんな組織でも一定数を超える人々が信念を抱き、熱意を傾ければ、そのアイデアは大きな流れとなって広がっていくという考え方である。

筆者の記憶が正しければ、砂を板に載せて板をだんだんに傾けていくと、砂が一斉に流れ出す傾斜角度がティッピング・ポイントだ。

ティッピング・ポイント・リーダーシップの例として、1994年にニューヨーク市警察(NYPD)本部長に任命されたビル・ブラットンのリーダーシップを紹介している。

1990年代前半までのニューヨークは犯罪発生率が高く、殺人件数は市場最悪を更新し、市民は不安な毎日を送っていた。にもかかわらず、予算面では厳しい制約を受けていた。

ところがブラットンが着任して2年間で予算の増額なしに重大犯罪発生率は軒並み35−50%減少し、1996年にブラットンが退任してからも犯罪は減少し続けた。

ブラットンが行った改革は次のようなものだ。

治安が悪く市民が利用できないニューヨークの地下鉄に市警の目は行き届いていなかった。ブラットンは、就任直後から自ら地下鉄で通勤し、幹部にも地下鉄通勤させることで、市警の地下鉄治安対策への考え方を180度変えさせた。

市警と市民との対話集会を通じて、重大犯罪の検挙率が上がっていることに市民はほとんどありがたみを感じていないことがわかり、むしろアルコール中毒者、街娼、物乞い、落書きなどの身近な軽犯罪に絶えず不快な思いをさせられていることがわかった。

そこでブラットンは「割れ窓理論」というブルーオーシャン戦略に重点を置くこととした。

ティッピング・ポイント・リーダーシップの考え方として、Hot Spot(重点領域), Cold Spot(非重点領域), Horse Trade(資源交換)というものがある。

地下鉄の犯罪を減少させるために、それまでは各路線や出口に警官を配備していたので膨大な費用がかかっていたが、大きな犯罪が集中している特定の路線と駅には十分な警官が配備されていなかった。これを同じ数の警官を重点地域のみに配備することにより、コストを抑えて犯罪件数のめざましい減少を勝ち取った。

麻薬関連が全犯罪に占める割合は50%程度なのに、麻薬班は警官全体のわずか5%で、しかも平日に勤務していた。麻薬班を増員して重点配備したら麻薬犯罪はみるみる減少した。

犯罪逮捕も以前は逮捕した警官自らが犯罪者を裁判所に連れて行って、戻ってくるまで16時間も掛かっていたが、犯罪者移送用の巡回バスを運行させ、警官は自分の担当の地下鉄駅で犯罪者を引き渡す様にした。警官は1時間で職務に戻れるので稼働率も大幅に上昇した。

ティッピング・ポイント・リーダーシップでは組織に影響力を持つ中心人物(Kingpin、ボウリングの1番ピン)に徹底して働きかける。ブラットンの場合は76人の分署長を中心人物とし、彼らをてこにしてNYPDの36,000人の警官を掌握した。

次に金魚鉢のマネジメント(fishbowl management)だ。中心人物の行動が見通せるようにすることだ。ブラットンの場合は全分署長、市警幹部と市のお偉方に二週間に一度集まって貰い、「犯罪対策評価会議」を開いた。分署長は働きが悪いとみんなの前で糾弾されるので、成果を上げようとする組織体質ができた。

次に細分化(atomization)だ。「アメリカ一危険な巨大都市を最も安全な都市に変貌させる」という目標は達成不可能と思われたが、ブラットンはこの目標を警官一人一人の担当地区での安全を確保することにして細分化して達成した。

自分の受け持ち地区の安全を守れば、それでよいとしたのだ。

政治的なハードルを乗り越えるには、「守護神」に頼り、「大敵」を黙らせ、「アドバイザー」を起用するのだ。ブラットンは警官の中の警官ともいえる人物にアドバイザーとなってもらい反対勢力となりそうな人物を事前にパージした。

ブラットンの場合、「守護神」は市長であり、「大敵」は犯罪者の逮捕急増でうまく機能しなくなるおそれがあった裁判所だった。

こまごました犯罪を多数裁判所に持ち込んでも、裁判所は対処できるはずで、むしろ身の回りの犯罪を押さえておいた方が、長い目で見れば取扱件数は減るだろうという論戦を展開し、市長の信任とマスコミの支持を得て裁判所を動かした。

ブルーオーシャン戦略を実行するにあたって重要なのは関与Engagement, 説明Explanation, 明快な期待内容Clarity of Expectationの3つのEだ。従業員を巻き込み、納得するまで説明して、明確な期待水準を示すのだ。

警視総監の矢代さんは、筆者の寮の先輩だ。是非NYPDのブラットンのように、「守護神」と「アドバイザー」を得て、首都の治安を改善して欲しいと思う。


ブルーオーシャンを探すと言う発想は斬新なものがある。単なる抽象論でなく、戦略キャンバスとアクション・マトリクスを使った戦略の整理法は実例に簡単に適用でき、役立つと思う。

具体例が多く、読みやすい経済書なので、是非一度手にとって見て頂きたい本である。


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Posted by yaori at 12:53Comments(0)TrackBack(0)

2008年02月21日

朝30分の掃除から儲かる会社に変わる "No-nonsense"な経営改善策

朝30分の掃除から儲かる会社に変わる―社員ニコニコ業績ピカピカの法則


ダスキンの代理店業務の一方で、経営サポート業を大きな柱とした株式会社武蔵野社長の小山昇さんの経営指南。

2月19日(火)の日経新聞の朝刊に広告が出ていたので、気がついた人も多いと思う。

小山さんは社長!儲けたいなら数字はココを見なくっちゃ!とか強い会社をつくりなさいなどのベストセラーを連発しているビジネス作家でもある。

20年前までは社員の半分はアルバイト上がり、1/3は元暴走族という落ちこぼれ集団だった会社を2,000年には日本経営品質賞、経済産業大臣賞を受賞する企業に再生した秘密は毎朝30分の掃除だったという。

武蔵野は掃除を核に、経営サポート業に進出し、数多くの成功企業を指導している。この本では27社の実例が紹介されていて興味深い。


掃除で思い当たること

筆者は湘南高校出身だが、この本を読んで掃除のことを常に言っていた湘南高校の倫理の先生を思いだした。

小山さんと同様に掃除の効用を語っていたものだ。

湘南高校は戦後すぐ佐々木信也さんが居た時に甲子園で全国優勝したことがあり、箱根の山を深紅の優勝旗が初めて越えたとして、藤沢の地元では大歓迎会が開かれた。その翌日湘南高校の野球部員を中心にみんなで藤沢駅前を掃除したという。

掃除により心身共に鍛錬ができていたのだと、その先生は言っていたものだ。

楽天の三木谷さんの本でも、楽天には掃除人はいない、社員みんなが掃除をするのだと書いてあったが、同じような考えだろう。


他社視察で衝撃を受ける

元々小山さん自身も落ちこぼれだったというが、落ちこぼれ集団で何でも良いから一位になり、社員に誇りを取り戻させたいと考えた。掃除であれば簡単でお金がかからないし、これならできるだろうと思って始めたという。

しかし掃除を始めてすぐ、長野県の精密機械メーカーをベンチマーキングの為に訪問したときに、小山さんはあまりの違いにぶちのめされたという。

精密加工業なので、毎日大量の切削片などがちらかるが、旋盤など工具にはチリ一つ落ちておらず、油がつくこともなかった。

社長に聞いたら、「その方が安全だから。安全だと高品質の製品が効率的に生産できます」と言っていたという。

「徹底するということは、第三者から異常だと思われることだ」と小山さんは語るが、まさに異常なまでの整頓だったという。この精密加工メーカーは京セラのパートナーで、ここの部品は京セラでは何の検品もなく、そのまま納入されるそうだ。

この会社は毎日1時間を掃除に充てていたので、小山さんはせめてその半分でもと思って毎日30分を掃除に充てることにしたのだという。


たしかにある掃除の効用

人を鍛えて組織を掌握するには「環境整備」と呼ぶ掃除が一番と小山さんは語る。「毎朝30分の掃除から儲かる会社に変わる」と聞くと、半信半疑に思えるだろうが、この本を読むとうまく真理を突いていると感心した。

"No nonsense"な経営施策だ。

仕事がしやすい環境を整えて、備えるから利益が出る。環境整備の範囲は新聞紙1枚程度というのがミソだ。毎朝強制的に30分で環境整備できる範囲をピカピカにする。

そうすることで社員が気持ちよく仕事しやすくなるので、効率と安全性があがる。さらに定期的に第三者に見てもらうことで、励みにもなり自信も生まれてくる。

社員同士がぺちゃくちゃ話しながら一緒に掃除するので、社内のコミュニケーションは劇的に変わり、連帯意識が生まれてくる。

来客にも気持ちよく挨拶するので、規律と教育のゆきとどいた良い会社だという印象を与える。そうなればしめたもので、他企業と競争になった場合でも、第一印象が良いから勝てるので売り上げにも直結する。

経営の好循環が環境整備から始まるのだ。


形から入って心に至る

小山さんのやり方はまさに、「形から入って心に至る」を実践している。たとえばお客さまに対して、起立して挨拶ができれば一人当たり100円をその部に払うという。

動機は不純でも、しっかり挨拶を続けることで、必ず心がこもる様になる

アメとムチを使い分けている。環境整備チェック結果の賞与評価反映度は30%だという。だから社員も上司も必死になって環境整備に取り組む。

武蔵野の社員は仕方なく環境整備をしている。仕方なくやることが素晴らしいのだと小山さんは語る。逆説的ではあるが、仕方なくやるという人間の本性に従っているからこそ他の会社にも応用可能なのだろう。

資金が足りない会社には、スタンプカードを導入して50点集まれば、商品券と交換できるようなやり方を勧めている。


中小企業に適した経営施策

中小企業に適した小山さんの経営感覚はすばらしいと思う。

「新聞紙1枚の掃除で、利益3倍の会社が誕生」というのもありえない話ではないと思う。

その反証に小山さんの会社でも、もう大丈夫と安心して掃除時間を30分を20分にしたら、業績が落ちたという。社長に甘えが生じ、それが社員に伝わり社内のムードが変わったからだ。

女性社長が出した本が売れているホッピービバレージも、2006年に小山さんの指導を受けて環境整備を始め、効果が現れた例だ。

全部で27社が紹介されているが、中小企業ばかりなので、筆者が名前を知っている会社はホッピービバレージだけだ。

日本には250万以上の会社があり、中小企業が圧倒的多数を占めているので、中小企業を元気にし、業績を上げる方策としては効果的だと思う。


整理と整頓の違い

環境整備の本質は掃除ではない、整理と整頓であると。整理は捨てること、やらないことを決めることであり戦略だ。まずはやらないことを最初に決めよと小山さんは語る。

書類もドンドン捨て、現在はオフィスでは全員が引き出しのない共有机を使っていると。引っ越し、人事異動、部屋替えが定期的に捨てるチャンスだという。

新人には「やってはいけないこと」を一番先に教えているという。

これに対して整頓は、必要なものを必要な時にすぐ使える状態に保つことで、戦術だ。小山さんはまずは徹底的に捨てることから始めよという。


様々なノウハウを紹介

小山さんの会社や27社の様々なノウハウが紹介されている。たとえば:

*ボランティアにしない(=勤務時間内にやる) 社長自らが率先してやる

*環境整備前、環境整備後を写真などで記録する

*社員に体験させること、定期的に第三者に見て貰うことでやる気を起こさせる


環境整備では、ものの置き方までこだわる。ものを揃えて置くと社員の美的感覚が養われるのだと。

当番表(環境整備カード)は、社員が入れ替わっても維持できるように、変わるものを両軸に配し、変わらないものを表に記入している。

普通は日付と場所の表に名前を記入するという形だが、武蔵野の場合は、日付と氏名が縦横軸で、担当場所を記入するという表になっている。


チェックが重要

環境整備で一番大切なのは、事後のチェックをすることだという。環境整備の成果は4週に一度チェックする。1拠点当たり10分で、抜き打ちチェックは御法度にしていると。

武蔵野が使っている環境整備チェックシートが紹介されている。

チェックシート






採点は社長の小山さんのみが行う。面倒くさがりの小山さんが「仕方なく」現場にいけるようにする仕組みであると。

また△を付けたい場合には×にすると。△ではお客さまに買って頂けないからだという。


パクリを奨励する

社内ベンチマーキングということで、他部門、他社の良いところをどんどん盗むことを奨励しているという。

社員に模範企業を積極的に訪問させ、社員をやる気にさせるもの重要だ。

20年前は社員を社長の小山さんが引っ張る形だったが、現在は360人の社員それぞれがモーターとなり動きだした。1ヶ月もすると会社がすっかり変わり、社長の小山さんですら変化についていくのが大変なのだという。

石原都知事の本に出てきた仏TGVと日本の新幹線の様な話だ。

このような会社に変わったことをうれしく思うという小山さんの言葉で締めくくられている。


筆者もタイトルを読んで半信半疑だったが、読んで納得した。どうやって社員をその気にさせるかをじっくり考えれば、どの会社でも導入可能だと思う。大変役に立つ本だ。

是非一読をおすすめしたい本だ。


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Posted by yaori at 00:41Comments(0)TrackBack(0)