2008年05月15日

ブルーオーシャン戦略 未開拓市場をつくって繁栄する企業

ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する (Harvard business school press)


+++今回のあらすじは長いです+++

フランスとシンガポールにキャンパスがある国際ビジネススクールINSEAD(インシアド)を代表するキム教授とモボルニュ教授がハーバードビジネスレビューに発表した論文。

2005年に日本でも翻訳され、話題となった。

バーバードビジネスレビューはダイヤモンド社から日本版も出版されている。以前は会社でも購読していたので、筆者も時々読んでいたが、正直あまり歯が立たなかった論文ばかりだったという記憶がある。

ブルー・オーシャンとは、血の海を意味するレッド・オーシャンに対する言葉だ。レッド・オーシャンが既存市場での競争相手との血みどろの競争を意味するのに対して、ブルー・オーシャンは競争相手のいない独占的な未開拓市場をつくって繁栄するビジネスモデルだ。

ブルーオーシャン戦略の6原則とは次の通りだ。

策定の原則
1.市場の境界を引き直す
2.細かい数字は忘れ、森を見る
3.新たな需要を掘り起こす
4.正しい順序で戦略を考える
実行の原則
5.組織面のハードルを乗り越える
6.実行を見すえて戦略を立てる

この本は具体例で説明している部分が多く、頭にスッと入る。


シルク・ドゥ・ソレイユ

ブルー・オーシャン戦略の典型例として、シルク・ドゥ・ソレイユが最初に紹介されている。

シルク・ドゥ・ソレイユは、火喰い芸人だったギー・ラリベーテがカナダで設立したサーカスをベースにしたエンターテインメントだ。世界各地で常設の劇場やホテルでの常設の出し物がある。

筆者が最初にシルク・ドゥ・ソレイユの出し物を見たのは、米国のフロリダのディズニーワールドで、10年以上前だ。

卓越したアクロバット、よく考えたコミカル、大がかりな舞台、観客を巻き込んだエンターテインメントに感心した。

それからラスベガスのホテルでの出し物(ベラッジオの"O"を見たかったが、チケットが取れなかったのでミラージュの「ミスティア」を見た)、東京に戻って「サルティンバンコ」、「アレグリア」を見た。

最初見た出し物では中国雑技団は参加していなかったが、最近の出し物は中国雑技団のメンバー抜きでは考えられないほど、高度なアクロバットが披露されている。

中国雑技団は話題になったサントリーの「アミノ式」のCMにも出演している。



猛獣使い、アクロバット、ピエロといった従来型のサーカスの最大手リングリング・ブラザース&バーナム&ベイリー・サーカスが100年掛かって達成した売上高を、わずか20年で追い越してしまったという。

シルク・ドゥ・ソレイユは競争相手のいない新しい市場を創造して、高い入場券でも喜んで支払う大人や法人という新しい顧客を惹きつけた。

このように既存の産業を拡張することによって生み出される新しい需要、あるいはこれまでの産業の枠を超えた新しい需要をキム教授はブルー・オーシャンと呼ぶ。


永遠のエクセレントカンパニーは存在するか?

キム教授は過去のエクセレントカンパニーから、永遠のエクセレントカンパニーが存在するかどうか調べたところ、名著「エクセレント・カンパニー」で取り上げられた会社のうち2/3が、5年後には業界リーダーから脱落していたことがわかった。


エクセレント・カンパニー (Eijipress business classics)


ちなみに「エクセレント・カンパニー」の原題は"In search of Excellence"であり、永遠のとは書いていないが、永続的なニュアンスがある。

もう一つの名著「ビジョナリー・カンパニー」は「エクセレント・カンパニー」の二の舞を避けるために、設立後40年以下の会社に対象を絞ったが、それでも「ビジョナリー・カンパニー」が絶賛した企業、たとえばHPは産業全体が好調だったために繁栄できたのだと批判されている。

ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則


このような経緯をふまえ、キム教授は1880年から2000年まで、30を超える業界で150以上の戦略的打ち手を研究した。

ブルーオーシャンを創造した企業とレッド・オーシャンから抜け出せずにいる企業を分析した結果、ブルー・オーシャンを生み出す戦略は業界や時代を超えて不変であることがわかったと。

ブルーオーシャンを切り開いた企業は、レッド・オーシャンに居る企業とは異なり、競合企業とのベンチマーキングを行わず、その代わりに「バリュー・イノベーション」という戦略をとっているとキム教授は指摘する。

「バリュー・イノベーション」とは、差別化とコスト低減が2者択一ではなく、両方を実現する新しい需要の掘り起こし戦略だ。顧客や自社にとっての価値を高め、競争のない未知の市場空間を開拓することによって競争を無意味にする。


シルク・ドゥ・ソレイユの戦略分析

具体例で考えないとわかりにくいので、シルク・ドゥ・ソレイユについてのブルーオーシャン戦略分析のための戦略キャンバスとアクション・マトリクスを紹介しておく。いずれもこの本で紹介されている図に従って筆者が作成したものだ。

シルクドゥソレイユの戦略キャンバス






出典:本書60ページ

戦略キャンバスは横軸に競争要因を抜き出し、縦軸で高低を評価した点をプロットして折れ線グラフとしたものだ。シルク・ドゥ・ソレイユ独自の競争要因は、他の競合にはないので、競合者の評点はない。

独自の競争要因をどれだけつくれるかが、ブルーオーシャン戦略の鍵である。

シルクドゥソレイユのアクションマトリクス






出典:本書65ページ

アクションマトリクスは、従来型のビジネスモデルに「減らす」、「取り除く」、「増やす」、「付け加える」の4象限でアクションを整理したものだ。

シルク・ドゥ・ソレイユが取り除いたものは、コストがかかるものばかりで、逆に付け加えたものが、差別化の競争要因となっていることがわかる。


イエローテイルの戦略分析

具体例として取り上げられているものの分析例を、もう一つ紹介しておく。オーストラリア産ワインのイエローテイルだ。

アメリカは世界第3番目のワイン消費国で200億ドル規模の国内市場があり、この2/3をカリフォルニアワインが占めており、フランス・イタリアなどの旧大陸やオーストラリア、チリなどの新大陸の輸入ワインと激しく競争している。

しかし一人当たりのワイン消費量は世界第31位で伸びていない。全米で1,600あるというワイナリーの業界再編が加速し、上位8社が生産量の75%を占め、残り25%を1,600のワイナリーが争っている。まさにレッド・オーシャンだ。

イエローテイルの戦略キャンバス






出典:本書55ページ

多くのアメリカ人がワインを敬遠していたのは、味わいが複雑すぎて堪能できなかったからだという発見に基づき、イエローテイルは、ビールやカクテル飲料の様に気軽に飲め、フルーティな甘さで後味が残らないワインをつくった。

低価格デイリーワインの倍以上の$6.99という価格設定ながら、イエローテイルは2001年7月の発売からわずか2年でアメリカで最も輸入されたワインとなり、瓶入りの赤ワインではカリフォルニア産に代わって全米で販売量トップとなった。

イエローテイルは他のワインブランドを押しのけた訳ではなく、ビール、カクテル飲料を飲んでいた初心者を取り込んでワインの需要を増加させたのだ。

タンニン、オーク樽、こく、深みなどといった要素を取り除き、ボジョレヌーボーの様に熟成せずに出荷するという方針をとったことで、カセラワイナリーズは運転資本を減らし、資金を短期間で回収できるようになった。

品種も今は赤が3種類、白が1種類だが、当初は白赤一種類ずつ、シャルドネとシラーズのみだった。

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イエローテイルのアクション・マトリクスは次の通りだ。イエローテイルは、ワイン界の常識を打ち破って見事にブルーオーシャン戦略を実現したのだ。

イエローテイルのアクション・マトリクス






出典:本書59ページ


余談になるが、筆者もイエローテイルの白、シャルドネを飲んでみた。熟成されていないので、こくも後味もない。いわば味も香りもない焼酎版のワインを飲んでいるようなものだ。クリヤーな味といえないこともないが、正直、筆者はイエローテイルをワインとは呼びたくない気持ちだ。

これならよっぽどチリのフロンテラや南アフリカのKWVの方が安くて、うまいと思うが、こんな味のないワインを好む層も米国にはいるのかもしれない。

飲みやすさだけなら、ポルトガルのマテウスのスパークリングワインの方が良いと思うが、イエローテイルバブルスという名前でスパークリングワインもある様だ。

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ブルーオーシャン戦略の成功事例としていくつもの例が挙げられているので、参考になる例を紹介しておく。


*サウスウェスト航空

ハブアンドスポークシステム(いくつかのハブ空港を軸とした放射線状の路線展開)、空港ラウンジ、機内食、座席の選択肢などを取り除き、心のこもったサービス、便数の多さ、安い運賃に徹して人気を博している。


*ネッツジェッツ社

ウォーレン・バフェットのバークシャー・ハザウェイに買収されたチャーター機の共有サービス。16社で1機を保有し、最初に37万5千ドル払えば、後は飛行機のランニングコストだけで6百万ドルもする専用機を共有できる。

メンバー全員がファーストクラスを使って移動するより割安で、しかも目的地近くの空港に直行でき、移動時間を短縮できるので、ビジネスユーザーに大人気となった。


*NTTドコモのiモード

通信料値下げのレッド・オーシャンから、ケータイによるインターネットアクセスをキラーアプリケーションとしてiモードが1999年に登場した。

スタートして半年で百万人のユーザーが2年後には2千万人、4年後には4千万人になり、一時はドコモの株価総額が親会社のNTTを抜いていたことが記されている。

勿論ドコモはこの本で紹介されているiモードの成功の後、またもやレッド・オーシャンに入ってしまっていることは周知の通りだ。

松永さんの「iモード事件」を読んで知ったのだが、ドコモのiモードは、マッキンゼーがドコモの首脳に提案して、松永さん、夏野さんなど外人部隊が雇い入れられて立ち上げられたサービスだ。

iモード事件 (角川文庫)


勝間和代さんの本には、勝間さんがマッキンゼーに居たときに、ドコモのiモードのコンサルメンバーとして携わっていたことが記されていた。

松永さんがブレインストーミングのために、社内の会議室で開いた「クラブ真理」に出入りする芸能界関係者の「げっく」(月9)発言に、マッキンゼーのメンバーの顔が引きつっていたという一節が思い出される。

iモードの推進者夏野さんがドコモを去ることが決まった今、ドコモがどうやって再度ブルーオーシャン戦略を見つけられるのか注目させる。


*女性専用のフィットネスクラブカーブス

カーブスは1995年にフランチャイズ展開を開始して以来、6,000店もの出店で、会員数が二百万人を突破した。

こじんまりとしたスペースに10台のマシンを円形に配置し、女性会員はおしゃべりしながらトレーニングに励み、30分でサーキットトレーニングを終える。キャッチフレーズは「一日コーヒー一杯のコストで適度なエクササイズと健康が手に入る」だ。


*ブルームバーグ

ブルームバーグが誕生したのは1980年代前半だが、それ以前はロイターとテレレートが金融情報界に君臨していた。ロイターとテレレートはITマネージャー層に適したサービスをしていたのに対して、ブルームバーグはトレーダー向けのサービスに徹して市場を席巻した。

トレーダー向けに二つのスクリーンがついたボタン一つで分析ができる端末を提供し、トレーダーの生活に役立つ情報サービスやオンライン・ショッピング・サービスも付加した。トレーダー達はITマネージャーにブルームバーグシステムへの変更を迫ったという。


*バスメーカー NABI

ハンガリーのIkarus Busの米国法人がスピンアウトしたバス車体メーカー。公共交通部門向けのバス業界では、車両価格の引き下げ競争が常態化していた。NABIは車両価格よりも保守費用の方が高いことに注目し、メインテナンスコストと燃費が良い美しいデザインのグラスファイバー製のバスを導入した。

NABIの新型バスは自治体にも乗客にも好評で、1993年のアメリカ市場参入以来、たちどころに20%のトップシェアを獲得した。


*QBハウス

日本の格安理髪チェーンQBハウスの事例が取り上げられている。1996年に一号店を開店以来、2003年には200店を超え、シンガポールやマレーシアにも店舗を展開しているという。

QBハウスの戦略キャンバスは次の通りだ。ちなみにエアーウォッシャーというのは、バキュームで刈った毛を吸い込むシステムだ。

QBハウスの戦略キャンバス





出典:本書103ページ


新たな需要を掘り起こす

ブルーオーシャン戦略を創造するためには細かい数字は忘れ、森を見ること、新たな需要を掘り起こすことが重要だ。

キム教授は、まだ取り込めていない需要を次の三つのグループに分けて説明している。

第一グループ 市場の縁にいるが、すぐに逃げ出すかもしれない層
第二グループ あえてこの市場の製品やサービスを利用しないと決めた層
第三グループ 市場から距離のある未開拓の層

これらの需要をうまくすくい取って、ブルーオーシャン戦略を創造するのだ。

例として次が挙げられている。


*キャロウェイゴルフ

スポーツ愛好家などにゴルフが敬遠される理由をキャロウェイが調べたところ、「ゴルフボールを打つのは難しそうだ」という認識があった。

そこでヘッドの大きなビッグバーサというクラブを開発して、ボールに当てやすくして新しい需要を掘り起こした。

筆者も初代ビッグバーサを持っている。一時人気No 1のドライバーだった。


プレタマンジェ(Pret A Manger)

ヨーロッパの都市部に働くプロフェッショナル達はレストランで昼食を取るのが普通だったが、ヘルシー志向、時間、コストの面からより良い選択肢を求めていた。

そこでプレタマンジェはレストランに劣らない良質のサンドイッチを、ファーストフード店並にすばやく作りたての状態で提供し、こぎれいな店舗と手頃な価格で提供した。英語だがプレタマンジェのメニューを紹介しておく。寿司もメニューにある。

プレタマンジェは2003年時点でイギリスで130店舗展開し、売上高は年間一億ポンドを上回り、その成長性に注目してマクドナルドが33%の株式を取得した。

これには後日談がある。日本マクドナルドがプレタマンジェチェーンを2002年にオープンしたが、2004年に撤退している。そういえば筆者も三角の紙箱に入ったサンドウィッチを売っている中野坂上(?)だったか日比谷シティだったかの店に入った記憶がある。

プレタマンジェのマーケティング手法の解説をしているブログを見つけたので紹介しておく。


*JC Decaux(ジーセードゥコー)

自治体向けにバス停やゴミ箱、ベンチなどのストリートファーニチャーを広告媒体として無償で維持管理サービスを行うビジネスを開始した。ストリートファーニチャー広告は1996年から2000年まで60%も増えた。

自治体との契約は8年から25年なので、JC Decauxは高利益率のビジネスを長期間独占できることになり、2003年の時点で世界33ヶ国に30万以上の広告板を持っている。(現在は40ヶ国、35万カ所)

JC Decauxは日本では三菱商事と提携しておりMCDecauxという会社をつくり、たしか横浜市の市営バスのバス停広告をやっていたと思う。MCDecauxのサイトではJCDecauxのシェアなどの数字も公開されている


*JSF(Joint Strike Fighter)英米の次世代戦闘機

JSFはロッキードのF−35と決定し、人間の乗る最後の戦闘機と言われている。

F-35






出典:Wikipedia

米国の主力戦闘機は従来、空軍、海軍、海兵隊それぞれが独自の機種を選定していた。

JSFは3軍の異なる需要を大胆に統合し、同じ機体で空軍用、STOVL(垂直離着陸)機能も持たせた海兵隊用、翼が大きい海軍用の三機種を製造し、性能や機能を向上させる一方、コストを当初の約二億ドルから3,300万ドルに劇的に下げることに成功した。

このJSF選定も、ブルーオーシャン戦略の新規市場の獲得というコンテクストで説明されている。たしかに三軍共通の戦闘機というのは米軍始まって以来の出来事で、これにより量産効果もあがるので、コストを下げ、バリューを挙げるというブルーオーシャン戦略の典型的な事例である。


ティッピング・ポイント・リーダーシップ

ブルーオーシャン戦略を実行する上で、組織面でのハードルを乗り越えるために、キム教授はティッピング・ポイント・リーダーシップを用いることが必要だと説く。

ティッピング・ポイント・リーダーシップとは、どんな組織でも一定数を超える人々が信念を抱き、熱意を傾ければ、そのアイデアは大きな流れとなって広がっていくという考え方である。

筆者の記憶が正しければ、砂を板に載せて板をだんだんに傾けていくと、砂が一斉に流れ出す傾斜角度がティッピング・ポイントだ。

ティッピング・ポイント・リーダーシップの例として、1994年にニューヨーク市警察(NYPD)本部長に任命されたビル・ブラットンのリーダーシップを紹介している。

1990年代前半までのニューヨークは犯罪発生率が高く、殺人件数は市場最悪を更新し、市民は不安な毎日を送っていた。にもかかわらず、予算面では厳しい制約を受けていた。

ところがブラットンが着任して2年間で予算の増額なしに重大犯罪発生率は軒並み35−50%減少し、1996年にブラットンが退任してからも犯罪は減少し続けた。

ブラットンが行った改革は次のようなものだ。

治安が悪く市民が利用できないニューヨークの地下鉄に市警の目は行き届いていなかった。ブラットンは、就任直後から自ら地下鉄で通勤し、幹部にも地下鉄通勤させることで、市警の地下鉄治安対策への考え方を180度変えさせた。

市警と市民との対話集会を通じて、重大犯罪の検挙率が上がっていることに市民はほとんどありがたみを感じていないことがわかり、むしろアルコール中毒者、街娼、物乞い、落書きなどの身近な軽犯罪に絶えず不快な思いをさせられていることがわかった。

そこでブラットンは「割れ窓理論」というブルーオーシャン戦略に重点を置くこととした。

ティッピング・ポイント・リーダーシップの考え方として、Hot Spot(重点領域), Cold Spot(非重点領域), Horse Trade(資源交換)というものがある。

地下鉄の犯罪を減少させるために、それまでは各路線や出口に警官を配備していたので膨大な費用がかかっていたが、大きな犯罪が集中している特定の路線と駅には十分な警官が配備されていなかった。これを同じ数の警官を重点地域のみに配備することにより、コストを抑えて犯罪件数のめざましい減少を勝ち取った。

麻薬関連が全犯罪に占める割合は50%程度なのに、麻薬班は警官全体のわずか5%で、しかも平日に勤務していた。麻薬班を増員して重点配備したら麻薬犯罪はみるみる減少した。

犯罪逮捕も以前は逮捕した警官自らが犯罪者を裁判所に連れて行って、戻ってくるまで16時間も掛かっていたが、犯罪者移送用の巡回バスを運行させ、警官は自分の担当の地下鉄駅で犯罪者を引き渡す様にした。警官は1時間で職務に戻れるので稼働率も大幅に上昇した。

ティッピング・ポイント・リーダーシップでは組織に影響力を持つ中心人物(Kingpin、ボウリングの1番ピン)に徹底して働きかける。ブラットンの場合は76人の分署長を中心人物とし、彼らをてこにしてNYPDの36,000人の警官を掌握した。

次に金魚鉢のマネジメント(fishbowl management)だ。中心人物の行動が見通せるようにすることだ。ブラットンの場合は全分署長、市警幹部と市のお偉方に二週間に一度集まって貰い、「犯罪対策評価会議」を開いた。分署長は働きが悪いとみんなの前で糾弾されるので、成果を上げようとする組織体質ができた。

次に細分化(atomization)だ。「アメリカ一危険な巨大都市を最も安全な都市に変貌させる」という目標は達成不可能と思われたが、ブラットンはこの目標を警官一人一人の担当地区での安全を確保することにして細分化して達成した。

自分の受け持ち地区の安全を守れば、それでよいとしたのだ。

政治的なハードルを乗り越えるには、「守護神」に頼り、「大敵」を黙らせ、「アドバイザー」を起用するのだ。ブラットンは警官の中の警官ともいえる人物にアドバイザーとなってもらい反対勢力となりそうな人物を事前にパージした。

ブラットンの場合、「守護神」は市長であり、「大敵」は犯罪者の逮捕急増でうまく機能しなくなるおそれがあった裁判所だった。

こまごました犯罪を多数裁判所に持ち込んでも、裁判所は対処できるはずで、むしろ身の回りの犯罪を押さえておいた方が、長い目で見れば取扱件数は減るだろうという論戦を展開し、市長の信任とマスコミの支持を得て裁判所を動かした。

ブルーオーシャン戦略を実行するにあたって重要なのは関与Engagement, 説明Explanation, 明快な期待内容Clarity of Expectationの3つのEだ。従業員を巻き込み、納得するまで説明して、明確な期待水準を示すのだ。

警視総監の矢代さんは、筆者の寮の先輩だ。是非NYPDのブラットンのように、「守護神」と「アドバイザー」を得て、首都の治安を改善して欲しいと思う。


ブルーオーシャンを探すと言う発想は斬新なものがある。単なる抽象論でなく、戦略キャンバスとアクション・マトリクスを使った戦略の整理法は実例に簡単に適用でき、役立つと思う。

具体例が多く、読みやすい経済書なので、是非一度手にとって見て頂きたい本である。


参考になれば次クリックと右のアンケートお願いします。


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Posted by yaori at 12:53Comments(0)

2008年02月21日

朝30分の掃除から儲かる会社に変わる "No-nonsense"な経営改善策

朝30分の掃除から儲かる会社に変わる―社員ニコニコ業績ピカピカの法則


ダスキンの代理店業務の一方で、経営サポート業を大きな柱とした株式会社武蔵野社長の小山昇さんの経営指南。

2月19日(火)の日経新聞の朝刊に広告が出ていたので、気がついた人も多いと思う。

小山さんは社長!儲けたいなら数字はココを見なくっちゃ!とか強い会社をつくりなさいなどのベストセラーを連発しているビジネス作家でもある。

20年前までは社員の半分はアルバイト上がり、1/3は元暴走族という落ちこぼれ集団だった会社を2,000年には日本経営品質賞、経済産業大臣賞を受賞する企業に再生した秘密は毎朝30分の掃除だったという。

武蔵野は掃除を核に、経営サポート業に進出し、数多くの成功企業を指導している。この本では27社の実例が紹介されていて興味深い。


掃除で思い当たること

筆者は湘南高校出身だが、この本を読んで掃除のことを常に言っていた湘南高校の倫理の先生を思いだした。

小山さんと同様に掃除の効用を語っていたものだ。

湘南高校は戦後すぐ佐々木信也さんが居た時に甲子園で全国優勝したことがあり、箱根の山を深紅の優勝旗が初めて越えたとして、藤沢の地元では大歓迎会が開かれた。その翌日湘南高校の野球部員を中心にみんなで藤沢駅前を掃除したという。

掃除により心身共に鍛錬ができていたのだと、その先生は言っていたものだ。

楽天の三木谷さんの本でも、楽天には掃除人はいない、社員みんなが掃除をするのだと書いてあったが、同じような考えだろう。


他社視察で衝撃を受ける

元々小山さん自身も落ちこぼれだったというが、落ちこぼれ集団で何でも良いから一位になり、社員に誇りを取り戻させたいと考えた。掃除であれば簡単でお金がかからないし、これならできるだろうと思って始めたという。

しかし掃除を始めてすぐ、長野県の精密機械メーカーをベンチマーキングの為に訪問したときに、小山さんはあまりの違いにぶちのめされたという。

精密加工業なので、毎日大量の切削片などがちらかるが、旋盤など工具にはチリ一つ落ちておらず、油がつくこともなかった。

社長に聞いたら、「その方が安全だから。安全だと高品質の製品が効率的に生産できます」と言っていたという。

「徹底するということは、第三者から異常だと思われることだ」と小山さんは語るが、まさに異常なまでの整頓だったという。この精密加工メーカーは京セラのパートナーで、ここの部品は京セラでは何の検品もなく、そのまま納入されるそうだ。

この会社は毎日1時間を掃除に充てていたので、小山さんはせめてその半分でもと思って毎日30分を掃除に充てることにしたのだという。


たしかにある掃除の効用

人を鍛えて組織を掌握するには「環境整備」と呼ぶ掃除が一番と小山さんは語る。「毎朝30分の掃除から儲かる会社に変わる」と聞くと、半信半疑に思えるだろうが、この本を読むとうまく真理を突いていると感心した。

"No nonsense"な経営施策だ。

仕事がしやすい環境を整えて、備えるから利益が出る。環境整備の範囲は新聞紙1枚程度というのがミソだ。毎朝強制的に30分で環境整備できる範囲をピカピカにする。

そうすることで社員が気持ちよく仕事しやすくなるので、効率と安全性があがる。さらに定期的に第三者に見てもらうことで、励みにもなり自信も生まれてくる。

社員同士がぺちゃくちゃ話しながら一緒に掃除するので、社内のコミュニケーションは劇的に変わり、連帯意識が生まれてくる。

来客にも気持ちよく挨拶するので、規律と教育のゆきとどいた良い会社だという印象を与える。そうなればしめたもので、他企業と競争になった場合でも、第一印象が良いから勝てるので売り上げにも直結する。

経営の好循環が環境整備から始まるのだ。


形から入って心に至る

小山さんのやり方はまさに、「形から入って心に至る」を実践している。たとえばお客さまに対して、起立して挨拶ができれば一人当たり100円をその部に払うという。

動機は不純でも、しっかり挨拶を続けることで、必ず心がこもる様になる

アメとムチを使い分けている。環境整備チェック結果の賞与評価反映度は30%だという。だから社員も上司も必死になって環境整備に取り組む。

武蔵野の社員は仕方なく環境整備をしている。仕方なくやることが素晴らしいのだと小山さんは語る。逆説的ではあるが、仕方なくやるという人間の本性に従っているからこそ他の会社にも応用可能なのだろう。

資金が足りない会社には、スタンプカードを導入して50点集まれば、商品券と交換できるようなやり方を勧めている。


中小企業に適した経営施策

中小企業に適した小山さんの経営感覚はすばらしいと思う。

「新聞紙1枚の掃除で、利益3倍の会社が誕生」というのもありえない話ではないと思う。

その反証に小山さんの会社でも、もう大丈夫と安心して掃除時間を30分を20分にしたら、業績が落ちたという。社長に甘えが生じ、それが社員に伝わり社内のムードが変わったからだ。

女性社長が出した本が売れているホッピービバレージも、2006年に小山さんの指導を受けて環境整備を始め、効果が現れた例だ。

全部で27社が紹介されているが、中小企業ばかりなので、筆者が名前を知っている会社はホッピービバレージだけだ。

日本には250万以上の会社があり、中小企業が圧倒的多数を占めているので、中小企業を元気にし、業績を上げる方策としては効果的だと思う。


整理と整頓の違い

環境整備の本質は掃除ではない、整理と整頓であると。整理は捨てること、やらないことを決めることであり戦略だ。まずはやらないことを最初に決めよと小山さんは語る。

書類もドンドン捨て、現在はオフィスでは全員が引き出しのない共有机を使っていると。引っ越し、人事異動、部屋替えが定期的に捨てるチャンスだという。

新人には「やってはいけないこと」を一番先に教えているという。

これに対して整頓は、必要なものを必要な時にすぐ使える状態に保つことで、戦術だ。小山さんはまずは徹底的に捨てることから始めよという。


様々なノウハウを紹介

小山さんの会社や27社の様々なノウハウが紹介されている。たとえば:

*ボランティアにしない(=勤務時間内にやる) 社長自らが率先してやる

*環境整備前、環境整備後を写真などで記録する

*社員に体験させること、定期的に第三者に見て貰うことでやる気を起こさせる


環境整備では、ものの置き方までこだわる。ものを揃えて置くと社員の美的感覚が養われるのだと。

当番表(環境整備カード)は、社員が入れ替わっても維持できるように、変わるものを両軸に配し、変わらないものを表に記入している。

普通は日付と場所の表に名前を記入するという形だが、武蔵野の場合は、日付と氏名が縦横軸で、担当場所を記入するという表になっている。


チェックが重要

環境整備で一番大切なのは、事後のチェックをすることだという。環境整備の成果は4週に一度チェックする。1拠点当たり10分で、抜き打ちチェックは御法度にしていると。

武蔵野が使っている環境整備チェックシートが紹介されている。

チェックシート






採点は社長の小山さんのみが行う。面倒くさがりの小山さんが「仕方なく」現場にいけるようにする仕組みであると。

また△を付けたい場合には×にすると。△ではお客さまに買って頂けないからだという。


パクリを奨励する

社内ベンチマーキングということで、他部門、他社の良いところをどんどん盗むことを奨励しているという。

社員に模範企業を積極的に訪問させ、社員をやる気にさせるもの重要だ。

20年前は社員を社長の小山さんが引っ張る形だったが、現在は360人の社員それぞれがモーターとなり動きだした。1ヶ月もすると会社がすっかり変わり、社長の小山さんですら変化についていくのが大変なのだという。

石原都知事の本に出てきた仏TGVと日本の新幹線の様な話だ。

このような会社に変わったことをうれしく思うという小山さんの言葉で締めくくられている。


筆者もタイトルを読んで半信半疑だったが、読んで納得した。どうやって社員をその気にさせるかをじっくり考えれば、どの会社でも導入可能だと思う。大変役に立つ本だ。

是非一読をおすすめしたい本だ。


参考になれば次クリックお願いします。


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Posted by yaori at 00:41Comments(0)TrackBack(0)

2007年11月12日

会社は頭から腐る 元・産業再生機構代表 冨山さんの経営者育成提言

会社は頭から腐る―あなたの会社のよりよい未来のために「再生の修羅場からの提言」


元・産業再生機構代表冨山和彦さんの、企業再生の現場経験を踏まえた経営者育成への提言。

ちょっとすごみのある冨山さんの顔が表紙帯になっているが、アマゾンの写真は本の帯を抜いているので、デジカメで撮った表紙の写真を載せる。

会社は頭から腐る





冨山さんは1985年東大法学部卒業。在学中に司法試験に合格したが法曹の道には進まず、ボストンコンサルティンググループに入社し、1年後、先輩達とコーポレイトディレクション(CDI)という小さな戦略コンサルティング会社をつくる。

10人でスタートしてバブル期は順調に会社が拡大し、80人の規模となったので、冨山氏はスタンフォード大学に留学する。

留学中にバブルがはじけ業績は急落、コンサル契約はキャンセルされ、受注は前年の半分に減りあっという間に資金繰りが悪化する。

銀行からも資金を借りられず、退職金も払えないのに仲間や先輩に辞めて貰い、最悪の時期をなんとか乗り切った。

冨山氏は2001年からCDI社長となり、個人連帯保証も入れていたので、失敗して会社がつぶれれば、自分も家族も路頭に迷うというリスクを感じながら経営していた。

その後、2003年からは期間限定の企業再生専門機関、産業再生機構のCOO、代表取締役専務として4年間で41社の企業の再生を手がける。

2007年に産業再生機構が終了してからは、経営共創基盤を設立して社長となる。


「性弱説」

自分自身も含めて、企業再生の修羅場で見たのは、ほとんどの人間は土壇場では各人の動機づけ(インセンティブ)と性格の奴隷となるという現実だという。

それを冨山さんは「性弱説」と呼ぶ。

典型的なインセンティブの例は、大手企業が集まって設立した携帯電話事業者に冨山さんが出向した時に経験したという。

東大卒などの一流大学を卒業した大企業から出向してきた人たちは、成功すると出向が長引いてしまうので、仕事もほどほどにこなす。仕事のインセンティブは成功ではなく、少しでも早く出向元に戻ることだったのだ。

これに対して現場の若手社員、女性社員はバブル期に前の会社がつぶれたり、就職氷河期にやっとの思いで会社に入った連中で、会社の成功と自分の人生のベクトルが合致していた。

日本の競争力の源泉は現場力にあり、それは高学歴のエリート管理職ではないと冨山さんは感じたと語る。

ミスミの創業者の田口社長は、「人が足りないという部門からはむしろ人を取り上げたほうが本質的な効率改善が進むものだ」と語っていたという。冨山さんはこれを聞いて考え込んでしまったという。

リスクヘッジが主目的の会議。

優秀なサラリーマンほど組織力学のマネジメントに知恵とエネルギーを使うものだ。

これらのインセンティブと性格が、仕事と一致していないと、良い仕事は達成できないのだと冨山さんは語る。


戦略は仮説でありPDCAの道具である

うまくいっている会社とそうでない会社の違いは、戦略立案の優劣ではなく、PDCAがよく回っている会社がよい戦略にたどりつくのだと語る。

PDCAとはPlan-Do-Check-Actionというプロセス管理の基本だ。スパイラルアップと呼ばれ、仮説を検証して改善することで、経営の質の向上を目指す。

悪い会社は戦略の立案はあっても、その後の検証がなく、やりっ放しになっている。失敗しても失敗したで終わり、成功したら「ラッキー」で終わってしまう。

この繰り返しでは、戦略の精度は上がらない。

太平洋戦争での日米の差もPDCAの差であると。

真珠湾攻撃は、海上航空戦力を主力とするという大イノベーションであったが、攻撃されたアメリカはそれを学び、航空機と空母を大量に用意してPDCAを回したが、日本はその後も大艦巨砲主義から抜けきれなかった。

だからアメリカ軍は強かったのだ。

トヨタの強さも、生産、販売、物流などそれぞれの機能で、日々PDCAを徹底的に回していることにある。「なぜを五回問う」、「カイゼン」などのトヨタ語録は、まさにPDCAをまわす努力のたまものである。

このPDCAを回すというのは、一見簡単に見えるかもしれないが、人間の本性と違うものを要求されているのだと。人間は弱いもので、見たい現実しか見たくない生き物なのだ。人間が集まれば、PDCAは、回りにくくなる。

筆者もPDCAを経営に生かす仕事をしているが、特にC=チェック、つまり見直しをやることが難しい。

自分の計画がうまくいっているか冷徹に見るのはとても辛い作業で、ましてやうまくいっていなければ、よけいに目をそらしたくなると冨山さんは説明する。

だから経営は難しい。冨山さんは自分自身が経営者となって、経営者はだれもゴールには到達できないのではないかと感じると。

時々「経営がわかった」、「経営を極めた」などという言葉を耳にしたり、「この会社の再建にメドがたった」などという報道を目にするが、メドが立ったと思った瞬間からその会社の衰退は始まっているのだ。


腐りかける会社の3タイプ

冨山さんが典型として挙げる腐りかける会社は次の3タイプだ。1.名門一流大企業(カネボウや三井鉱山がこのパターン)、2.地元名門企業(名門一族企業など)、3.創業オーナー企業(ダイエーが典型)。

ダメになる会社は、結局のところ経営者、経営陣が弱ってしまった会社、つまり頭が腐ってしまった会社なのだと冨山さんは語る。

会社は頭から腐り、現場から再生するのだと。


カネボウ化粧品の再建

カネボウ化粧品の場合、最も重要なのは7,000人のビューティカウンセラーに、どうしたら一所懸命仕事をしてもらえるかだった。

20代の彼女らが支えている会社で、経営トップが60代では距離がありすぎる。彼女たち、それを支える20代、30代のスタッフが最も喜んだのは41歳の知識賢治氏の社長昇格だったと。

知識体制にして、「おかげで仕事がしやすくなった」と匿名のメールが来るようになった。名前入りだと、なにかのインセンティブがありそうだが、匿名なら本心だ。うれしいメールだったという。


かつて日本にも有効に機能したガバナンス機構があった

財閥がそうであると。合名会社はそもそも無限責任の財団である。財閥本体は合名会社であり、誰にも株をもたれていない。そして傘下の企業にガバナンスを効かせていたのだ。

またメインバンク制や官僚統制もそうだ。しかし今はこれらのガバナンスはない。

ガバナンス機構の究極的な役割は、経営者が適正かどうかの判断のみだ。


この本は中国・インドとも戦える経営者をつくるという提言で、大変参考になるが、最初から読むと、具体例が少なく抽象的な話が多い。次回紹介する「レバレッジ・リーディング」なら、たぶん第6章まですっ飛ばして読むところだろう。


今こそガチンコで本物のリーダーを鍛え上げろ

この本の肝である最終章、第6章のタイトルは、「今こそガチンコで本物のリーダーを鍛え上げろ」というものだ。

この部分だけを読んでもよいくらい中身の濃い部分だ。サブチャプター(中見出し)のタイトルを太字で引用するので、感じがわかると思う。

・会社を腐らせない最強の予防薬は、強い経営者と経営人材の育成・選抜

・経営者も、経営者候補も鍛えられる機会がなかった

・試験型エリートをリーダーにすることが、本当に正しいことなのか

冨山さんが朝日新聞に連載した文が入学試験に使われ、最後に筆者の意図はどれかという択一式の問題が出た。笑い話のようだが、冨山さん自身、答えがわからなかったという。

それで第一問から真剣にやってみると、出題者の意図がわかってきた。つまり自分の頭で考えない=出題者の意図を探す競争をしているのだ。

この様に「こっちの顔色を読んで、オレの期待している答えを書いてこい」という上司の思いに応えるのが、サラリーマン的に正しい生き方だ。

しかし経営者は違う。経営は答えがないし、たとえ答えがあってもそれを断行すると大きな摩擦や葛藤が生じる時こそが経営者の出番である。自分の頭で判断し、その結果、責任をすべて負うからリーダーなのである。

試験型の競争をまじめにやればやるほど、リーダーとしては不向きな人間が偉くなっていってしまうと冨山さんは語る。

・胆力と自分の頭で考える能力ー東大卒とは無関係?

日本のエリートは負けを経験していないと冨山さんは語る。

リーダーを目指すなら、比較的若い時から負け戦、失敗をどんどん体験した方がよい。そして挫折した時に、自分をどうマネージして立ち直るか身をもって学ぶ。その実体験を持つからこそ、他人の挫折を救えるのである。

失われた15年は、団塊世代が負け戦を経験してなかったからだと冨山さんは感じている。日本の戦後の驚異的な復興は、太平洋戦争という負け戦を経験したからこそだったのだ。

・中国、インドの勃興は、欧米との国際競争とはまったく違う脅威である

日本は自国の豊かさに対する最大の脅威を目の前にしていることに、多くの人は気づいていない。それはアジア諸国の勃興であり、旧社会主義国の勃興である。

日本がこれまで稼いでいたいくつかの産業は、彼らに奪われることになるだろうと。たしかにメモリー、PC、液晶、ケータイ電話など、今やすべてアジア諸国の方が日本を上回っている。

欧米とはある程度棲み分けできていたが、アジア諸国は日本の得意とする人的資本を中心に戦ってくる。日本が金メダルを取れる分野はひとつもなくなる可能性があるのだ。

世界の中で、新興アジア諸国と戦う経営では、根本的なエコノミクスを見据えながら、細かな戦略のPDCAを高速で回していく能力を持つリーダーが求められてくると冨山さんは語る。

・一流企業のガチンコなど所詮は「ごっこ」にすぎない

小さな会社を経営していれば、競争の恐ろしさがわかる。

失敗はへたをすると死を意味するからだ。個人保証を入れて、中小企業を経営している人は、失敗したら、社会人としてほとんど死に瀕するほどのダメージを受ける。

まじめな人の中には、生命保険で少しでも借金を返そうと自殺する人もいる。本当に妻子を路頭に迷わせる可能性があるのだ。

大企業での失敗は命までは取られない。自分たちの経験しているガチンコは、甘い世界のものだと、覚えておいて欲しいと。

学歴エリートごっこ、出世競争ごっこ、経営者ごっこ。もうこういう緩い(ゆるい)世界には別れを告げる時期が日本には来ているのだと冨山さんは語る。

・組織からはみ出す根性のない人間をリーダーにしてはいけない

日本は「脱藩」した人間には冷たい社会だ。しかしリーダーとしてつけるべき能力を考えた場合、一度は脱藩して肩書きを失い、世間の風の冷たさを本当に思い知っておくべきなのだと。

冨山さんは人間性と能力で経営者を評価する。

人間性とは胆力や、他人への影響力、目的達成への情熱や執着心。能力は、基本的な経営知識、スキルと、ありのままの現実を冷徹に見つめる力、そして自分の頭でものを考え、建設的に解決策を創造する力である。

冨山さんは、マネジメントエリートになる人間は、30歳で一度全員クビにしてしまい、五年間脱藩浪人として武者修行に出る。そして元居た組織あるいは別の組織が使えると判断したら雇われる制度を提唱する。

冗談で言っているのではないと。本気でこうしたエリート育成をしないと日本は中国、インドには勝てないと。

・トップの要件ー100万円を稼ぐ大変さを肉体化して理解させよ

・女性、若者、学歴のない人間は「眠れる資源」だったという幸運

・ファイナンスを知らない経営者ー平時においても事業と財務は一体

・若いエリートは、あえて負け戦に飛び込め

・人間的要素と算数的要素とに、のたうち回ることから、経営は始まる

マネジメントの仕事は他人の人生に影響を与えてしまう仕事だ。人の人生を背負おうという決心・覚悟がない人はマネジメントをやらない方が良い。

今日生き延びることをやりながら、一年後、十年後のことを考えなければならない。

宮本武蔵は五輪書のなかで、「観の目つよく、見の目よわく」という言葉を残している。一点だけをみつめるのではなく、大局で物事を見よという趣旨だ。

五輪書 (岩波文庫)


今の日本のトップ層に、観を持ち合わせた人間がどれだけいるかと。哲学の香りのする経営者がどれほどいるか。観を大事にしようとする経営者がどれだけいるか?と冨山さんは問う。

松下幸之助はじめ、稲盛和夫、伊藤雅俊など哲学を持つ経営者は何人も挙げられるが、たしかに今の日本のトップとなると、筆者もあまり思いつかない。

「観」は結局「情」と「理」のはざまで、悩み続けて生み出すしかないのだと。

「日本は豊かになった。だからこそ、会社の、経営の、人と人の、そして人間の原点や本質というものに、そろそろ真っ正面から向き合わなければいけない時期に来ている。これこそが、会社を、経済を、そして国家を腐らせないための、遠回りなように見えるが唯一の予防策なのではないか。私は強くそう感じている。」

これが冨山さんの結論である。


コンサル出身で、スタンフォードのMBAホールダーながら、みずから中小企業の経営者としてバブル後の苦境を生き延びた経験を持つ。30歳浪人制という思い切った提言の実現性はともかく、独特の見方と、力強い言葉は印象深い。

経営者を目指す、あるいは経営の質の向上を目指す人には、おすすめの一冊である。


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2007年05月17日

アメーバ経営 稲盛和夫さんの独特経営手法がよくわかる

アメーバ経営―ひとりひとりの社員が主役
アメーバ経営―ひとりひとりの社員が主役


京セラ名誉会長の稲盛和夫さんが、5年間にわたって京セラの経営幹部に対して行ったアメーバ経営講義をまとめた本。

アメーバ経営は京セラグループに定着している経営手法だが、その思想や仕組みをまとめた本はなかったという。2006年9月に出版されたばかりだ。

アメーバ経営とは、会社の組織をアメーバと呼ばれる小集団に分け、それぞれにリーダーを置き、独自の会計基準に基づいて独立採算で運営する手法だ。

稲盛さんは筆者の尊敬する経営者というか人生の先達なので、このブログでは今まで「稲盛和夫の実学」、「高収益企業のつくり方」、「君の思いは必ず実現する」の3冊を紹介してきているが、それらの中でもアメーバ経営という言葉は幾度か出てきた。

今までばくぜんと理解したつもりだったが、この本を読んでアメーバ経営を導入する具体的手法はどういうものかわかった。

京セラやKDDIだけではなく、他にも300社以上が京セラの関連企業のコンサルティング会社の支援を受けてアメーバ経営を導入しているという。


アメーバ経営の原点

稲盛さんは大学を卒業して京都の松風工業というセラミックメーカーに就職するが、数年で辞めて京セラを創業する。創業3年目で前年に採用した高卒新入社員10名が、昇給・ボーナスを将来にわたって保証しないと辞めると団体交渉を求めてくる。

創業したての京セラに将来を保証できるはずはなく、稲盛さんは三日三晩社員と話し合って納得を得たが、このことが稲盛さんに、小さい会社でも従業員は会社に一生を託して入社してくることを痛感させる。

このことが原因で、稲盛さんは京セラの経営理念を「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」と定めた。

またあたかも自分が経営者であるように従業員が懸命に働いてくれる全員参加の経営の仕組みを考えた。それがアメーバ経営である。


アメーバ経営の三つの目的

アメーバ経営の目的は次の三つである。

1.市場に直結した部門別採算制度の確立
2.経営者意識を持つ人材の育成
3.全員参加経営の実現

この本で稲盛さんは上記の三つの目的について、わかりやすく解説している。

重要なのは、人間として何が正しいのかというフィロソフィーをに基づいた明確な意志、売上を最大に、経費を最小にする努力、そして市場変化に従いアメーバの様にダイナミックに変化する活力だ。

アメーバは、まず第一に収入と費用が切り分けられる単位であることが必要だ。

第二に、アメーバの単位は単に細かくするだけではだめで、ビジネスとして完結する単位にする必要がある。例えば、セラミック製造工程の中で、京セラは事業単位を、原料、成型、焼成とわけた。それぞれ同じ事業を行う他の会社が存在していたからであると。つまり理論的にはその部分をそっくり他社にアウトソーシングできる切り分けである。

第三に会社全体の目的、方針を遂行できる組織であることも必要である。

例えば営業の場合は、受注部門、納期管理部門、代金回収部門と分け、全体の手数料収入10%を例えば5%、3%、2%と分けることも可能だが、それだと顧客に対して一貫したサービスを提供できず、お客様第一主義という会社方針に沿った営業ができなくなるので、営業の組織を分けることはできない。

アメーバ経営は実力主義であるが、成果主義ではないと。つまり短期の成果で個人の報酬に極端な差はつけないが、長期にわたり実績を上げた人を正当に評価して処遇に反映させているのだと。


アメーバ経営を支える経営管理部門

アメーバ経営の思想、手法と仕組みを維持、発展させる重要な役割を担う部門が経営管理部門であり、その役割は次の三つである。

1.アメーバ経営を正しく機能させるためのインフラつくり
2.経営情報の正確かつタイムリーなフィードバック
3.会社資産の健全なる管理


アメーバ経営の時間あたり採算表

アメーバ経営の時間あたり採算管理といっても、今まではっきりとしたイメージがわかなかったが、この本では製造部門と営業部門の具体例が紹介されており、わかりやすい。

製造部門だと次の様な構成となる:

総出荷     : 650百万円
(社外出荷   : 400)
(社内出荷   : 250)

(−)社内買  : 220百万円

総生産     : 430百万円

(ー)控除額  : 240百万円
(原料費、電力水道代、通信費、公租公課、減価償却、旅費等)

差引売上    : 190百万円

総時間     :  35,000時間
(定時     :  30,000時間)
(残業他    :   5,000時間)

当月時間あたり :  5,430円


営業部門だと次の様な構成となる:

受注      : 360百万円
売上高     : 350百万円
受取口銭    :  28百万円

(ー)経費合計 :  12百万円
(運賃、旅費、通信費、販促費、交際費、公租公課、減価償却、金利、本社経費、間接共通費等)

差引利益    :  16百万円

総時間     :  2,000時間
(定時     :  1,800時間)
(残業     :    100時間)
(部内共通・間接共通時間 100時間)

当月時間あたり :  8,000円

ちなみに営業部門の収入は生産金額の10%を口銭として受け取るルールとしており、製造と営業の仕切価格は認めていない。さらに製造がいくつかのアメーバに分かれている場合には、各アメーバが公平に負担する。

アメーバ経営の特長は、人はコストではなく付加価値を生み出す源泉であるという考え方だ。だから労務費は経費としては扱わない。

これによって各アメーバの時間あたり採算が計算できるので、アメーバの時間あたりの採算が実際の労務費を上回れば黒字、下回れば赤字となる。


アメーバごとの年度計画(マスタープラン)

採算管理と並んで重要なのが経営計画だ。各アメーバは経営の最小単位なので、会社全体の方針や事業部に於ける方針や目標を受けて、三年ごとのローリングプランと年度ごとのマスタープランを作成する。これによってリーダーの意志を示すことになる。

具体的な売上、総生産、時間あたり採算などの経営目標も、アメーバ単位で設定され、年度計画(マスタープラン)に基づく月次計画が作成される。

明確な目標を設定して、全従業員のベクトルをあわせるのだ。そして毎月マスタープランに対しての進捗を確認し、部門長以下の関係者は、もし遅れていればキャッチアップのためのアクションを取らなければならない。


アメーバ経営はリーダーを育成し、全従業員の経営者意識を高める究極の教育システムであると稲盛さんは結論づける。

経営の基本を抑え、採算と費用をわかりやすく把握し、人材を育てるアメーバ経営がよくわかる。おすすめの本である。


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2006年08月27日

イノベーションのジレンマ 名著を再度読もう

イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)
著者:クレイトン・クリステンセン
販売元:翔泳社
発売日:2001-07
おすすめ度:4.5
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数週間前の東洋経済に夏休みに読みたい本特集があり、会社トップのすすめる本の中にこの名著があった。

本書の原書は1997年に出版され、米国でビジネス書のベストセラーとなり、訳書は日本でもベストセラーになった。

筆者も何年か前に読んだことがあるが、再度読んでみた。

日本の失敗学では畑村教授が有名だが、この本の著者のクレイトン・クリステンセンハーバード大学教授も『破壊的技術(disruptive technology)』というコンセプトで、「偉大な企業はすべてを正しく行うが故に失敗する」という困難な問題を指摘している。

失敗学のすすめ (講談社文庫)失敗学のすすめ (講談社文庫)
著者:畑村 洋太郎
販売元:講談社
発売日:2005-04
おすすめ度:4.5
クチコミを見る


この本ではハードディスク業界や油圧式掘削機業界、パソコン業界、HPに於けるインクジェットプリンターとレーザープリンター、電気自動車などを取り上げている。

特にハードディスク業界は変化がはやいので、産業界でショウジョウバエに一番近い存在だとして、大きく取り上げられている。

筆者は高校の生物で、実際にショウジョウバエを使っての実験をやったことがある。ショウジョウバエとは果物などにたかる小さなハエで、実験ではセピア(目の色がセピア)、カール(羽がカールしている)など、遺伝的特徴が次世代に引き継がれるかという実験だった。

それぞれの班がセピアとかカールとかの種類を何代も育てて、突然変異とか、遺伝とかを研究するというものだった。

生物の先生はカメというあだ名だったが、実験重視の先生で、県立高校で本当の生物(いきもの)を使って、あれだけの専門的な実験を生徒に体験させる学校も、あまりなかったのではないかと思う。

こんな経験があるので、産業界のショウジョウバエというとなるほどと思う。

ハードディスク業界は技術革新が激しく、14インチ→8インチ→5.25インチ→3.5インチ→2.5インチ→1.8インチと進化した。

それぞれのサイズのハードディスクのNo. 1メーカーが、必ずしも次世代のサイズのNo. 1となっていない。それどころか、多くのNo. 1企業は没落してしまった。

シーゲートテクノロジーはまだハードディスクの有力メーカーとして生き残っているが、IBMが日立にハードディスク部門を売却したり、大きな変化がある業界である。

破壊的技術の展開は次のようなサイクルをたどる。

破壊的技術はまず実績ある企業で開発されるが、主要顧客は従来のものとあまりに違うものには興味を示さない。

たとえば2MBが主流だったコンピューター業界に2倍の4MBのハードディスクは容易に受け入れられるが、100倍の200MBのハードディスクは用途がないとして受け入れられないという様な例だ。

そのうち持続的技術(sustaining technology)が旧来の製品の性能を上げるので、経営陣は破壊的技術に力を入れない。

不満を抱いた破壊的技術の開発者は新しい会社をつくり、新しい顧客を獲得しようとし、徐々に成功する。やがて実績ある企業も遅蒔きながら参入し、破壊的技術が主流となる。

つまり優秀な企業は顧客の声をちゃんと聞いて製品の能力を持続的に向上させるがゆえに、破壊的技術の導入に遅れるのだ。

コンピューター業界の破壊的技術に乗り遅れた例として挙げられているDECは筆者にとっては懐かしい名前だ。

DECはコンパックと合併し、いまはHPとなっているが、筆者はDECのノートパソコンを使っていたことがある。1990年代の中頃だったと思う。

トラックボールと呼ばれるボール状のマウスポインターを備えたノートパソコンで、トラックボールの使い勝手の良さは最高だった。

そのDECはミニコンではIBMのメインフレームに対する破壊的技術だったが、ミニコン市場はデスクトップパソコンという破壊的技術に見舞われた。

DECはパソコン市場には4回参入し、4回撤退するという結果となった。会社そのものが超高速の64ビットアルファプロセッサーとか、高収益のハイエンド商品に力を入れて、儲からないパソコンには経営資源を振り向けなかったからだ。

ミニコン市場でIBMのメインフレームの脅威となったDEC、WANG、データ・ゼネラルなどのメーカーは現在全部存在していない。

イノベーションの怖いところだ。

クリステンセン教授は、HPがレーザープリンターとインクジェットプリンターを完全に独立した組織として分離し、互いに競争させ成功させる道を選んだことを指摘する。

レーザープリンター部門にインクジェットも手がけさせていたら、とっくに競争相手にやられていただろうと。

最後にクリステンセン教授は電気自動車についてふれている。当時は電気自動車が破壊的技術であるとされていたが、当時も今も全然普及していない。

この本の出た10年前はハイブリッド車はなかったが、現在はトヨタを筆頭とするハイブリッド車が、過渡的技術とはいえ非常に勢いを得ている。

こんな現状を見てクリステンセン教授はなんと言うだろうか?

そんなことを考えさせられた。

最後にこの本の解説者でハーバードビジネススクールでの教え子の玉田氏は、クリステンセン教授が、授業の最後にこう言っていたとまとめている。

「私のボストンコンサルティンググループ時代の友人は、大きなヨットを持っていて、土日となればクルージングに出かけている。ところが彼は、やれ係留の費用が高いだの、メインテナンスを頼んでいたのにちゃんと終わっていないだのといつも不平ばかり言っていて少しも幸せそうでない。

一方、私は毎週日曜は欠かさず教会に行き、困っている人の相談に乗って、アドバイスをしたりしている。毎週日曜日が取られるのは大変だが、自分が人や地域のために役立っていることから得られる満足感でいつも満たされている。

諸君もこれから社会に出て、ビジネスの場で活躍するのだろうが、本当の幸福はお金ではなく、家族やコミュニティから得られるということを覚えておいてほしい」

好感の持てる学者の優れた分析に基づく失敗論である。最初に本がでたのは10年前だが、今再読してもその価値は変わらない。

まだ読んでいない方には、是非一読をおすすめする。


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2005年10月11日

好き嫌いで人事 松井道夫氏の新たな宣戦布告!

好き嫌いで人事

おやんなさいよでもつまんないよ


今回のあらすじは長いです。

松井証券社長の松井道夫氏の近著。

松井さんの本のネーミングには本当に感心する。前著の『おやんなさいよでもつまんないよ』も秀逸だったが、この本もタイトルから連想される様なワンマン会社の人事の本ではない。

これから飛躍的に拡大する個人の株投資市場で圧倒的なシェアーを取りに行こうという松井道夫氏の宣戦布告本である。

また松井証券の良いところもちゃんと宣伝している。ホリエモンはライブドアの最強のPRマンだが、松井氏も松井証券の最強のPRマンである。自分では凡人だと謙遜するが、着想が良く実行力が抜群で凄い人である。

松井証券は85年間住み慣れた兜町から昨年半蔵門に引っ越したことから話は始まる。官僚主義の兆しが見えたので、大企業病を払拭させるために移転したのだ。

ビジネスの世界はIT革命により集団から個へのパラダイム転換期にある。お客に自社を選んで貰うため、『会社にとっていちばん損する方法』、つまり『顧客がいちばん得する方法』を考えられなければダメなのだ。

顧客に支持されるビジネスの仕組みを提案する会社を目指し、それ以外の社員はいらない。今は2フロアーだが、徹底的に規模を縮小しいずれはワンフロアーにすると。既に松井氏が社長になってから大半の社員は入れ替わり、今は野村、大和、日興、山一などの出身者が多くなっている。

また移転を機会に管理職も30名を15名に減らし、プロジェクトごとに担当部長をもうけるという形にして、アメーバ型組織としている。役員も担当はローテーションで変わる。

そんな社員に向かって松井氏は『給料を貰って働く人間は要らない。働いて給料を貰う人間しか要らない。』と言い続けている。新入社員から全員年俸制とし、ボーナスをなくした。

退職金は奴隷制度だと排し、月給に上乗せ。証券マンなら自分で財を築けと年金制度もない。

社員教育もない。大人を洗脳もできないし、人は囲い込めるものではないからだ。それでも社員が150名なのに14名の証券アナリストがいる。資格を持つ社員の比率は業界でもトップクラスだ。

松井証券の従業員一人あたりの経常利益は1億5千万円で業界でダントツに高いが、これを5億円にすることを目標にしている。


松井証券の躍進

松井氏が日本郵船を辞め、義父が経営している松井証券に入社した18年前の株式取り扱い金額は年間で1,000億円だった。今は1日1,000億円と約300倍である。松井証券は証券ビッグバンの流れに乗り、IT革命の流れに乗り、万年ブービーからはい上がった。

以前のドブ板式、販売員中心の手間の掛かる個人営業から、営業いらずのインターネットに変え、『頑張らなくても良い仕組み』を考えたからこそこれだけの飛躍ができたのである。

1996年 株式保護預かり料の無料化
1997年 店頭株式の手数料半額化
1998年 日本初のインターネット取引ネットストック開始
1999年 新手数料ボックスレートの開始


ボックスレートの導入

世界で初めてボックスレート(定額取引手数料)を開始したが、他社は手数料を値下げして追いつき、今や松井証券の手数料は割高となっている。

あるオンライン証券会社(eトレード証券?)は松井証券の手数料の1/3の水準まで下げ、松井の後追いでサービス入れデイトレーダーを引きつけ、取引量も松井の倍くらいになっている。

利益は松井の半分以下だが、油断していると差を広げられるおそれがあるので、今度は特許を押さえたサービスで対抗すると。オンライン証券で生き残るのは松井とeトレードとあと1社か2社だろうと。


無期限信用取引

2003年に開始した無期限信用取引は、現物取引感覚で信用取引ができるクリーンヒットだった。

それまでは6ヶ月と期間が決められており、6ヶ月で必ず現金決済しなければならなかった。

松井の社員が『一般信用取引』として制度として存在していることに気づき、他社より先に導入した。


拡大する個人の株式投資の構図

証券業界では口座数で規模が比較されるが、ネット証券の数十倍の口座数を持つ大手証券が実際の個人株式取引扱いではネット証券の遙か後塵を拝している。

IT革命により顧客は一人でいくつも口座を持ち、一番都合が良いところを使い回しているのだ。もはや自己中心で『顧客を重視』するのでなく『顧客中心』で世界は回っているのだ。

松井証券は対面とネット取引の両方をそれなりの規模で経験した唯一の会社だ。二万人の顧客を分析してわかったことは、年一回しか売買しなかった人が、ネットの出現により年10回売買するようになったのだ。

当時このことがわかっていたのは松井証券だけで、このデータを元に戦略を考えたのだ。

当時バカにしていた大手証券会社も、最近ボックスレートを松井証券と同じに設定して、無期限信用取引もマネしてきたと。「良いものは取り入れる」と言っているらしいが、返り討ちにしてやると。

ストックで言うと個人投資家の80兆円のうち、オンライン証券会社が預かっているのは5兆円に過ぎない。

しかしその5兆円が平均20回転するので、100兆円のフローを生んでいる。拡大余地はまだまだある。

筆者も同感である。団塊世代が一斉に退職する2007年には100兆円の退職金資産ができるという。この人たちはネットも使い慣れているので、対面式の大手証券会社よりは、オンライン証券に親近感を感じるだろう。

この100兆円の何割かが流れ込んで、1年間に何回転もするだろうゆえ、日本の株式市場はヒートアップ間違いないだろう。以前Great Boom Aheadというアメリカのベビーブーマーの本を紹介したが、日本でもGreat Boom Aheadだと思う。


松井証券の人事=『実力主義』

松井証券は『実力主義』であると。

「実力とは、人間トータルの力量である。個としての従業員が給料をいくらもらっているのか、給料水準に比較して仕事のさばき方はどうか、優しいか厳しいか、暖かいか冷たいか、理論的か感情的か、一緒に仕事をしていると啓発されるか…等々の総和である。」

トータルな人間として接したとき、当然、好悪の情が生まれてくる。この感情が人の実力を図る目安になると。

それが『好き嫌いで決める』と言う根拠であると。

実際には松井証券の評価は社員を3レイヤーにわけて、自己申告、部下からの評価、管理職相互の360度評価、2回の評価面接から構成されている。

これを年二回実施して人事評価が決まる。年俸も実力評価の要素ゆえ、年俸上位30名の年俸は公表している。

年俸は必ず、上がるか下がるかで、同じということはない。

本のタイトルは『好き嫌い』だが、ここまで整備された360度評価を『好き嫌い』とは到底呼べないと思う。


松井証券の役員の待遇

松井証券では社員の役職定年は39歳だ。これを過ぎるといくら長く勤めても役職は上がらない。

自然な新陳代謝で退職するか、役員になるしかないのだ。社員の年俸は300万円から最高が2000万円だが、役員報酬は青天井である。

松井証券の8名の役員の平均年齢は44歳で、松井氏(52歳)と同年齢の一人が平均年齢を引き上げているが、新しく役員に就任するのは30代後半になるケースが多くなる。

役員の任期は1年で、プレッシャーもあるが報酬は世間並みは全く考慮していない。ニッサンのカルロスゴーン方式だ。

筆者は丹羽さんの謙虚さに恐れ入ったが、、松井さんは伊藤忠の丹羽さんが、カローラに乗っているという話は「社長がカローラ(いい車だが…)に乗っていることを誇る『風土』はいったい何なのだろうか?」と語っている。

役員年俸たとえば一億円とかだと、横並びを強く意識する日本の大企業ではありえない。その意味では太く短くか細く長くかどっちもありだな、という気がする。


新たな宣戦布告=IPO引受販売手数料無料宣言!

『頑張らなくても良い方法』を頑張って考えるのが松井証券のやり方だ。顧客が待ってましたと飛びついてくる仕組みである。それを新規公開株(IPO)引受販売手数料の無料化でやると、この本で発表している。

IPOは上場審査を行う主幹事証券会社と、引受販売する幹事証券会社の2種類がある。上場審査は主幹事証券会社に任せ、松井証券は引受手数料無料で、引受販売幹事証券会社のシェアーを狙うのだ。

これには理由がある。

個人向け取引の80%はオンライン証券が握り、大手証券会社のシェアーは20%程度しかない。

大手証券会社は資産家がターゲットで、大多数の一般大衆、個人投資家はターゲットではないのだ。

ところがIPO株の引受シェアーは、大手証券会社に握られ、オンライン証券会社は2〜3%しかない。

IPO株の買い手の大半は個人投資家だが、主幹事の大手証券会社が大半のIPO株を握っているので、オンライン証券会社にIPO株に申し込んでも、抽選で当たる可能性は宝くじに当たる様なものだ。

このボトルネックを解消するためには、オンライン証券会社が少しでも多くのIPO株を引き受ける必要がある。

IPO株の販売手数料は無料で引き受けるので、企業からの手数料収入はないが、投資家はいずれにせよ松井証券で株を売買するので、そこでの商売が広がれば良いという考えである。

初値が売り出し値の数倍が当たり前という現状のIPO株人気は、個人投資家のIPO熱が異常に高まっているのが原因である。

松井証券が多数の個人投資家を引きつけ、IPO株の事前人気が上がれば、企業も安心して株式公開に踏み切れる一方、松井証券も活発な個人投資家を引きつけられるので、非常に良いポイントをついていると思う。


社長として何が一番大事か?

最後に社長として何が一番大事かという質問には「思いこみと開き直り」だと答えることにしている。社長の決断は開き直って決断するしかないと。

時代とのギャップを埋められるのは社長しかいない。その意味で社長の頭の中が最大のコストなのであると。創造的破壊、捨てる決断、いずれも社長の決断でしかできないものだ。

サラリーマン時代は不満は一杯あったが、不安はなかった。社長となって不満はなくなったが不安だらけとなった。

社長と副社長の距離は社長と新入社員の距離よりも遠い。松井氏は『不安との同棲生活』を満喫していると語る。

「面白い時代になったものである。」と。凄い経営者である。


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Posted by yaori at 22:57Comments(0)TrackBack(1)