2013年07月25日

ブレイクアウト・ネーションズ BRICSは終わった? 次はどこだ?

ブレイクアウト・ネーションズブレイクアウト・ネーションズ [単行本]
著者:ルチル シャルマ
出版:早川書房
(2013-02-22)

モーガン・スタンレーで新興国・グローバルマクロ担当ディレクターで、250億ドルを運用するというルチル・シャルマさんの本。

この本はアマゾンの「なか見!検索」に対応していないので、「なんちゃってなか見!検索」で、目次タイトルだけ紹介しておく。

第1章 長い目で見れば何でも正しい?
第2章 宴の後ー中国
第3章 誰もが驚く魔法のロープーインド
第4章 神様はきっとブラジル人ーブラジル
第5章 「大立て者(タイクーン)」経済ーメキシコ
第6章 天上にしかスペースがないーロシア
第7章 ヨーロッパのスイート・スポットーポーランドとチェコ(含ハンガリー)
第8章 中東に響く単旋律ートルコ
第9章 虎への道ー東南アジア(インドネシア、フィリピン、タイ、マレーシア)
第10章 金メダリストー韓国と台湾
第11章 エンドレス・ハネムーンー南アフリカ
第12章 第四世界ースリランカからナイジェリアまで(含ベトナム、ペルシャ湾岸諸国)
第13章 宴の後の後片付けーコモディティ・ドットコムを超えて
第14章 「第三の降臨」−次なるブレイクアウト・ネーションズ

世界各国を網羅的に紹介していることがわかると思う。

付録として新興国一覧とフロンティア諸国一覧が載っている。

scanner537







scanner538








出典:いずれも本書352〜355ページ

ブレイクアウト・ネーションとは、これから突出して成長する国のことで、次のブレイクアウト・ネーションズになる可能性のある国は次の通りだ。

一人当たり国民所得が:

2.5〜2万ドルで成長率が3%を超えそうなのは、チェコと、第三次産業人口が増えず、製造業の常識をぶち破っている韓国。

1.5〜1万ドルではトルコとポルトガル。ちなみにトルコは、「エルドアン首相の強力なリーダーシップ」と褒めているが、もちろんトルコの政情不安が勃発する前の2012年発刊の本なので、致し方ないところだろう。

1〜0.5万ドルでは、タイ。ただし、新政権が誕生したばかりで、これから何ができるのかがまだ見えていないという。

0.5万ドル前後では中国が高い成長率を示すことが見込まれるほか、インドネシア、フィリピン(アキノ新政権に期待)、スリランカ(平和の配当)、ナイジェリア(誠実なリーダーが腐敗した政府に終止符を打つ)、さらに経済同盟が成立しようとしている東アフリカ諸国を挙げている。


いくつか印象に残った話を紹介しておく。

★中国の外貨準備は2兆5000億ドルあり、米国の主要債権国でもある。中国が債務問題を抱えていると思う人は誰もいないが、現実は違う。政府の発表している債務残高はGDPの30%だが、企業(多くは政府所有)と家計の債務残高はGDPの130%、しかもこれは公式発表数字の話だ。

シャドウバンキングと呼ばれる2008年から急増した、銀行を介さない融資残高は公式統計には含まれず、これを入れると中国の債務残高はGDPの200%を超えると見られるという。

★メキシコの10大ファミリーは、電話からメディアまでほぼあらゆる産業を支配しているので、ほどんど労せず値上げを断行でき、ほかの国では考えられないほどの高収益を享受できる。有名な企業としては、世界最大の通信会社・アメリカン・モービル、世界第3位のセメント会社・セメックス、世界最大のコカコーラ販売会社・フェムサ、食品会社のグルマなどだ。

★中国とメキシコは製造業で競合している。しかし、2002年の賃金格差は240%あったのが、最近は13%になっており、メキシコに有利になっている。

★ロシアには中間層は存在しない。中小企業の割合はほかのどの主要国よりも低く、起業家精神に満ちた企業はロシアにはほとんどない。ロシアは十分に保護された巨大国営企業と、誰も耳にしたことがない零細企業で成り立っている。

★モスクワ証券取引所には世界的な製造企業が一社も上場されていない。ウォッカの世界トップブランドにロシア企業は登場しない。ノーベル賞受賞者を27人も生んだ国としてはさびしい現実である。

★ロシアは世界でも最も人口密度の低い20か国のうちの一つで、わずか800しか都市がなく、そのうち人口100万人を超えるのは12都市だけだ。

★世界の10億ドル以上の資産がある資産家の数では、1位米国412人、2位中国115人の次にロシア100人が入っている。経済規模は中国の1/4なのに、ロシアの億万長者の資産総額は中国の億万長者の資産総額の倍であり、中国ほど厳しい競争にさらされていない。

★ポーランドとチェコなどがユーロを敬遠する理由は、共通通貨を採用すると自分の政策に手錠をかけるのと同じことになるからだ。危機の時に、自国通貨を切り下げられない国は、賃金を下げて競争力を保たないと、輸出が崩壊してしまう。これが2009年にギリシャやほかのユーロ圏小国に起こったことだ。

★南アフリカでは各種の社会手当を受けている人の数は1.600万人で、1998年の7倍だ。納税者一人当たり、3人の受給者がいる計算だ。

★モザンビークが大躍進を遂げたのは、ジョアキン・シサノ前大統領の神がかり的な指導力によるところが大きい。シサノ前大統領は、社会主義政策を放棄し、2期目の任期終了とともに、後進に道をゆずった。シサノ前大統領と後継者のすすめた改革で、モザンビークはこの10年で年率7%の成長を遂げた。

★フセイン亡きあとのイラク経済は石油生産の回復で、成長率が5%を超えている。2011年後半には9%を超えており、カムバック経済の代表となった。

★ベトナムの河川港の老朽化はひどく、ベトナムの港に入る船のコンテナーの平均数は169本で、コンテナーを1,000本運べるフィーダー船すら入港できない。現在は1万5千本を運べる超大型コンテナー船まで就航しているのに、ベトナムの後進性は際立つ。

★ベトナムは統制経済の典型的な経路をたどっており、投資額の配分も政治的理由で決まる。

Mペサはケニアで普及している携帯電話を使った少額決済サービスだ。Mペサが始まった2007年以降、銀行にお金を預けるケニア人の数は5人に一人から2人に一人になった。銀行預金が増加すれば、インフラ投資の資金源ともなる。

★カタールの天然ガス資源は膨大で、今のペースで生産を続けていても今後100〜200年は生産を続けられるだけの埋蔵量がある。2010年までの5年間の平均成長率は17.5%で、一人当たりの国民所得は10万ドルと米国の2倍である。

★ボストン・コンサルティング・グループは、2011年に発表した「メイド・イン・アメリカ再び」というレポートのなかで、なぜアメリカの製造業が復活するのかについて説得力ある議論を展開している。低コストのサウスカロライナ、アラバマ、テネシーを中心に製造業が復活すると予測している。


大前研一さんの一連の著書のように、インパクトある実話をもっと織り込めば、もっと良かったと思う。

国や地域にはプラスの評価もマイナスの評価も両方あり、この本ではマイナスの評価ばかり集めているが、もちろんこれらの指摘は一面の真実であって、その国をこれらの指摘だけで評価するわけにはいかない。

判断材料でなく、参考情報として読むべき本だと思う。


参考になれば、投票ボタンをクリック願いたい。


  
Posted by yaori at 12:30Comments(0)TrackBack(0)

2013年07月13日

この金融政策が日本経済を救う 高橋洋一さんの金融政策入門書

この金融政策が日本経済を救う (光文社新書)この金融政策が日本経済を救う (光文社新書) [新書]
著者:高橋洋一
出版:光文社
(2008-12-16)

リーマンショック直後の2008年末に出版された嘉悦大学教授・元財務官僚の高橋洋一さんの「世界一簡単な金融政策の入門書」。これが現在のアベノミクスのベースとなっている。

このブログでは高橋洋一さんの最近著の2013年3月に出版された「アベノミクスで日本経済大躍進がやってくる」と2012年末に出版された「日本経済の真相」のあらすじを紹介している。

アベノミクスで日本経済大躍進がやってくる (現代ビジネスブック)アベノミクスで日本経済大躍進がやってくる (現代ビジネスブック) [単行本(ソフトカバー)]
著者:高橋 洋一
出版:講談社
(2013-03-28)

日本経済の真相日本経済の真相 [単行本(ソフトカバー)]
著者:高橋 洋一
出版:中経出版
(2012-02-15)

イェール大学の浜田宏一名誉教授も、「アメリカは日本経済の復活を知っている」で、この本を推薦書として挙げている。

アメリカは日本経済の復活を知っているアメリカは日本経済の復活を知っている [単行本]
著者:浜田 宏一
出版:講談社
(2012-12-19)


高橋教授の論点を整理すると次の通りだ。

日本の景気は2007年中ごろから後退しているが、これはサブプライムローンの影響ではない。日銀が2006年から2007年にかけて金融引き締め策を打ち出したからだ。

市場に資金供給を減らしたから、日本は景気後退に陥り、日本株は暴落した、。サブプライムローンから最も縁遠い日本が、最も激しい景気後退に襲われたのだ。

日銀が金融政策を誤り、市場に資金供給を減らしたからだ。

日銀のホームページの「にちぎん☆キッズ」という子供向けのコーナーには次のように書いてある。

「デフレのとき、日本銀行は、銀行などの手持ちのお金をふやすそうさをします。
インフレのときや、インフレになりそうなとき、日本銀行は、銀行などの手持ちのお金をへらすそうさをします」。

昔は、公定歩合の上げ下げが金融政策の基本だったが、現在は「公定歩合」という呼び名すらなくなっている。現在の金融政策の中心ツールは、公開市場操作だ。

つまり、日銀が銀行から国債やREITなどを買い上げて、銀行に資金を振り込む。その資金を銀行は融資に回すのだ。


名目金利と実質金利

日銀や世界の中央銀行は、長い間ゼロ金利政策を続けてきた。これ以上は金利では打つ手がないように思えるが、そうではない。名目金利はゼロ以下には下げられないが、実質金利はいくらでも下げられるので、実質金利を下げればよいのだ。

国民の物価上昇率予想に働きかけ、予想がプラス2%のインフレ予想であれば、ゼロ金利なら実質マイナス2%の金利となる。企業は積極的に設備投資を行って、不況から脱出できるのだ。

逆にデフレで、毎年1%づつ物価が下落していれば、ゼロ金利だとプラス1%の金利がついているのと同じになる。つまり1%の金利で資金を借りると、それは実質2%の金利がかかることになる。だから企業の設備投資が盛り上がらないのだ。

このインフレ予想に働きかけるのが量的緩和策だ。


量的緩和

日銀は紙幣を印刷して、民間銀行が持っている国債などを買い取り、民間銀行の当座預金残高を増やす。民間銀行はそのお金を企業の設備投資資金等に貸し出す。紙幣の発行益は、シニョレッジと呼ばれ、国庫納付金として財政収入となる。

早い話が、紙幣をたくさん刷れば、インフレになるというのと同じだ。

日本では財政政策でなく、公共投資で景気回復するという論陣を張るエコノミストが多いが、高橋さんは、ノーベル経済学賞受賞者の「マンデル・フレミング理論」を紹介し、変動為替相場制のもとでは、公共投資の効果が輸出減、輸入増で海外に流出してしまうので、理論的には財政政策の効果はないと説く。


大恐慌からの脱出は金融政策がカギだった

大恐慌からの脱出は、ニューディール政策による公共投資でなく、金融政策がカギであったと最近の大恐慌研究では明らかになっている。

「オズの魔法使い」は19世紀末のアメリカの金融政策からヒントを得ているという。OZは金の単位のオンスの略号で、ドロシーは伝統的なアメリカ人の価値観、カカシは農民、ブリキのきこりは産業資本、ライオンは民主党のブライアン候補だという。

高橋さんは大蔵省の新人研修で、「男子の本懐」を読んで感想文を書けという問題に対して、高橋さんはなぜ世界大恐慌のなかで、浜口雄幸と井上準之助が金解禁を行ったのか理解できなくて感想文を書けなかったという。

男子の本懐 (新潮文庫)男子の本懐 (新潮文庫) [文庫]
著者:城山 三郎
出版:新潮社
(1983-11)

世界のどの国でも金本位制は放棄され、現在に至っている。本来愚策の金解禁のはずが、「男子の本懐」では美談に仕立てられている。

この疑問が解消したのは、留学先のプリンストン大学でバーナンキの「大恐慌論文集」を読んでからだという。

世界恐慌は金本位制によって発生して伝播した。大恐慌から脱出するためには、金本位制を捨て、金融緩和をすることが必要だった。金本位制を維持した国は十分な金融緩和ができず、デフレから抜け出せなかった。金本位制を放棄した国は自由に金融緩和ができて、すぐに抜け出せた。

大恐慌論大恐慌論
著者:ベン・S・バーナンキ
日本経済新聞出版社(2013-03-26)
販売元:Amazon.co.jp


大恐慌研究の世界的権威のバーナンキは、政府が国債を大量に発行し、日銀が国債を購入するという高橋是清の政策を高く評価していたという。これが大恐慌脱出の決定版といえる究極の政策で、ミルトン・フリードマンのいう「ヘリコプター・マネー」、バーナンキのいう「マネー・ファイナンシング」なのだと。


デフレなら円高は続く

為替相場も重要だ。一般に物価上昇率に差がある二国の通貨は、物価が低い方の国の通貨は長期的に通貨高になる。デフレを止められなかった日本は、当然の結末として円高になっていたのだ。


日銀の独立性は手段の独立性

高橋さんは、メディアも含めて多くの人が「日銀の独立性」を誤解しているという。「中央銀行は手段の独立性は確保されているが、目標は政府と協調して決めるのが世界の標準」なのだと。

目標は政府が決めるが、その目標のもとで、どのような手段をどのようなタイミングでやるかは中央銀行が責任を持つ。つまり日銀には手段の独立性が認められているかわりに、本来であればPDCAサイクルを導入し、日銀が選んだ手段の有効性を検証して、失敗であればペナルティを課すというのが世界の常識であると。

こういった考え方を持っていたのに、民主党の反対により日銀副総裁就任を拒否されたのが、東京大学の伊藤隆敏教授だ。伊藤教授の「インフレ目標政策」はこのブログでも紹介している。

インフレ目標政策インフレ目標政策
著者:伊藤 隆敏
日本経済新聞出版社(2013-02-26)
販売元:Amazon.co.jp


日本の景気悪化は金融引き締めが原因

この本は2008年12月に発刊された。つまりリーマンショック(2008年9月)の直後だ。当時、筆者も含めた誰もが日本の景気悪化はサブプライムローン問題によるリーマンショックにより、輸出が減少したためだと思っていたと思う。

日本のGDPに占める輸出の割合はせいぜい15%程度なのに、あれだけ景気が急速に悪くなったので、筆者は間接輸出(見かけは国内取引だが、最終製品は輸出される)が、かなりあるためだと思っていた。

全く的外れだったわけだ。

高橋さんは、この本で日本の景気悪化は2006年から2007年にかけての金融引き締めが原因だと断言する。つまり日銀の政策ミスが原因だと。2008年第2四半期のGDP成長率は、サブプライム問題まっただ中の米国がプラス2.8%で、サブプライム問題の影響がないはずの日本がマイナス3%だった。


外為特会を機動的に運用

高橋さんは、「霞が関埋蔵金」で有名だが、埋蔵金のなかでも大きいのが外国為替資金特別会計(外為特会)の超過積立金だ。この本の当時で20兆円あると言われていた。

霞が関埋蔵金男が明かす「お国の経済」 (文春新書)霞が関埋蔵金男が明かす「お国の経済」 (文春新書)
著者:高橋 洋一
文藝春秋(2008-05)
販売元:Amazon.co.jp


高橋さんは、渡辺喜美金融担当大臣時代に、金融庁の金融市場戦略チームの一員となって、超過積立金を米国の政府系金融機関の救済に機動的に運用する戦略を打ち出しているが、実現しなかったという。既に外為特会を使って、ファニーメイ債などに8兆円投資していたので、株式とスワップすることを考えていたのだと。


25兆円の量的緩和と25兆円の政府通貨発行

この本の最後で、高橋さんは非常時(当時はリーマンショックのまっただ中だった)の対策として、25兆円の量的緩和と、25兆円の政府通貨発行を提言している。25兆円の政府通貨発行を財源として、2年くらい社会保険料を免除するのだと。

通常時であればインフレを引き起こすが、100年に一度の大恐慌であれば、インフレは有効な治療薬となるだろうと。実際の黒田日銀の政策は50兆円より規模は大きい。高橋さんの提言は、まさに株高、円安の流れを作ったアベノミクスそのものだ。


高橋さんが、「世界一簡単な金融政策の入門書」というだけあって、数式は一切出てこず、わかりやすい。

筆者が読んでから買った本の一つである。今なら、アマゾンの中古品なら12円(+送料250円)で買える。高橋さんのようなリフレ派は長らく経済学の主流とはなれなかったが、アベノミクス登場で、流れは変わった。例の予備校講師のコマーシャルではないが、12円なら、買うのは「今でしょ」。


参考になれば投票ボタンをクリック願いたい。


  
Posted by yaori at 02:57Comments(0)TrackBack(0)

2013年05月30日

米韓FTAの真実 TPPの正しい理解に役立つ韓国の事情

TPPの正しい議論にかかせない米韓FTAの真実TPPの正しい議論にかかせない米韓FTAの真実
著者:高安雄一
学文社(2012-11-22)
販売元:Amazon.co.jp

TPP交渉への日本の参加が正式決定した。

TPPに関しては、「考えてみよう!TPPのこと」というサイト、「現代農業絵ときTPP反対」など、様々な反対論が出ているが、中には誤解に基づくものもある。

このブログで紹介した「隣の国の真実」など韓国に関する著書が多い高安雄一さんが、米韓FTA批判への韓国政府の反論を紹介することで、日本のTPP論議での同様の誤解に回答している。

隣りの国の真実 韓国・北朝鮮篇隣りの国の真実 韓国・北朝鮮篇
著者:高安雄一
日経BP社(2012-11-22)
販売元:Amazon.co.jp

ちなみに「みんなの党」のホームページでも「TPP反対論に対する反対論」を公開している。

最初にTPPの論議で、なぜ米韓FTAを題材として取り上げたかの説明をしている。TPPとFTAは次の表のように、非常に似通った内容の条約だ。

scanner516












出典:本書2ページ

また日本と韓国とは農業の国際競争力がなく、貿易立国であるという意味で、経済構造が似ているので、韓国の例が日本の参考にもなる。


韓国はFTA先進国

韓国がFTA先進国であることはよく知られている。この本で紹介する米韓FTAのほかに、EUともFTAを結んでいるので、工業製品の関税については、日本と比べると韓国製品の方が圧倒的に有利なポジションにいる。


対米国貿易      日本製品に対する関税率    韓国製品に対する関税率

自動車        2.5%                    0%
トラック        25%                     0%
カラーテレビ     5%                      0%

対EU貿易      
乗用車        10%                     0%
薄型テレビ      14%                     0%
液晶モニター     14%                     0%
電子レンジ      5%                      0%

これが日本もTPPに加盟して、「バスに乗り遅れるな」という根拠となっている韓国製品との競争力の差だ。

TPPでもよく言われる問題の整理をいくつか紹介しておく。


ISDS(Investor-State Dispute Settlement)条項

★アメリカ企業は日本政府を提訴できるが、日本企業はアメリカ政府を提訴できない?
これは条約がそのまま国内でも効力がある国と、条約を履行するために国内法が必要な国の差だ。

つまりアメリカは条約がそのまま国内では効力がない。外国企業はFTAなりTPPなりの条約を根拠としては提訴できない。

しかし、アメリカは条約を履行するための国内法を作っているので、その法律を根拠にアメリカ政府を訴えることができる。

★国際仲裁機関はアメリカ寄り?
国際仲裁機関で裁定が終わった200件余りのうち、投資家勝訴は30%。しかし公開されていない和解をあわせると推定60%を超えているといわれており、必ずしも国家有利ではない。

国際投資紛争解決センターは世界銀行の下部組織だが、世銀総裁は裁定には関与しない。裁定者は紛争当事者から各1名、双方が合意した第三者1名である。アメリカ寄りという事実はない。

★アメリカ企業による濫訴
アメリカ企業が提訴するケースは相対的に多い。しかし、法制度が未整備の国を提訴するケースが多く、法制度が整備している国が提訴されるリスクは少ない。


食の安全と農業

★ラチェット条項は「毒素条項」でBSE(狂牛病)が発生しても禁止措置を取れない

「ラチェット条項」とは、一度開放された水準は、いかなる場合でも反自由化の方向には戻せないというものだ。しかし「ラチェット条項」は投資、国境間のサービス貿易、金融サービスの一部にしか適用されない。

★未来最恵国待遇で、将来米国より高い水準の市場開放を別の国と合意すると、米国も同じ待遇にしなければならない?
未来最恵国待遇も、投資、サービス貿易のみに適用され、物品貿易には適用されない。

★農業壊滅 コメは守ったが、畜産などその他の農産品は関税撤廃で壊滅する?
たしかに牛肉をはじめ自由化される農産品の生産額は減少するという試算があるが、韓国では牛肉の生産量は増加している。

国産牛を好むという消費者のトレンドが国産品増加の要因で、自由化による生産減少を国産品選好が上回ることが予想される。

日本でも同じことが起こった。BSEによる輸入禁止期間もあったが、日本における輸入牛肉のシェアは一定に留まっているのが実情だ。

その他、次の様な誤解・疑問点についても丁寧に説明している。

★国のエネルギー政策が崩壊する

★国民皆保険が崩壊する

★金融市場が国際資本の草刈り場になる

★ジェネリック薬品が製造不可になる

★著作権侵害が非親告罪になり、誰でも告訴できる

★著作権の保護期間が70年に延びて、一般利用者に負担が掛る


FTAもTPPもほぼ同様の分野についての交渉となるので、米韓FTAについての考察が参考になる。正しいTPP/FTA理解に役立つ本である。


参考になれば投票ボタンをクリック願いたい。






  
Posted by yaori at 12:19Comments(0)TrackBack(0)

2013年05月20日

アベノミクスで日本経済大躍進がやってくる 高橋洋一さんの近著

アベノミクスで日本経済大躍進がやってくる (現代ビジネスブック)アベノミクスで日本経済大躍進がやってくる (現代ビジネスブック)
著者:高橋 洋一
講談社(2013-03-28)
販売元:Amazon.co.jp

このブログで紹介した「日本経済の真相」「さらば財務省!」の著者、高橋洋一嘉悦大学教授の最新作。

2013年3月に出版されたばかりなので最新の話題も織り込んでいるが、基本的には「日本経済の真相」、さらには2008年の「この金融政策が日本を救う」と同じ路線である。

日本経済の真相日本経済の真相
著者:高橋 洋一
中経出版(2012-02-15)
販売元:Amazon.co.jp

俗説を列挙して、論評を加えるスタイルも「日本経済の真相」と同じスタイルである。

アベノミクスの道筋は、大胆な金融緩和でインフレ予想がでてくれば、円安と株高になり、1〜2年内に消費、輸出、設備投資が増えて景気回復、雇用増加につながる。2年半程度で貸出も増え、インフレ率が高まってさらに実需がでて、賃金上昇につながるというものだ。

これが経済学のスタンダードな理論であると高橋さんは語る。

現在のアベノミクスを支える理論的基盤を与えているのは、日銀副総裁に就任した岩田規久男さんが率いていた「昭和恐慌研究会」のメンバーだ。この研究会は、2004年に「昭和恐慌の研究」という本を出して、日経・経済図書文化賞を受賞している。

昭和恐慌の研究昭和恐慌の研究
著者:岩田 規久男
東洋経済新報社(2004-03-19)
販売元:Amazon.co.jp

岩田さんは高橋さんの都立小石川高校の先輩という関係にある。

高橋さんがプリンストン大学留学から帰国した時に、岩田さんの「昭和恐慌研究会」に招かれて、プリンストンでバーナンキ経済学部長やクルーグマン教授などが、どんな議論をしているのかを説明し、それから研究会に参加するようになったという。

クルーグマンは、「日本の金融政策はアブノーマルだからおもしろい」と言っていたという。クルーグマンは1998年に日銀はインフレ・ターゲット政策を採用すべきだという論文を書いている。

15年も前に、世界的に有名な経済学者がインフレ・ターゲットの採用を日銀に提起していたのだ。

バーナンキも、「自ら機能マヒに陥った日本の金融政策」という論文も書いているという。


大恐慌を終息させた金融政策

大恐慌が終息したのは、ルーズベルトがニューディールなどの巨大な公共投資を推し進めた財政政策だというのが通説だったが、これに異論を唱え、金融政策の重要性を指摘したのがミルトン・フリードマンだった。

フリードマンの学説をさらに発展させたのがバーナンキや、カリフォルニア大学のバリー・アイケングリーンなどだ。

当時は岩田さんを中心とするグループはそれほど影響力をもっていなかった。世間には日銀に追随するような議論ばかりで、岩田さんのグループは、まるで「レジスタンス」のようだったという。

今回復刊された岩田規久男さんの「まずデフレをとめよ」は2003年の出版だが、「インフレ目標政策を導入せよ!」と本の帯に書いてあり、今復刊しても修正するところがないという。

日本経済再生 まずデフレをとめよ日本経済再生 まずデフレをとめよ
著者:岩田 規久男
日本経済新聞出版社(2013-03-26)
販売元:Amazon.co.jp

実質金利をマイナス金利に

「ゼロ金利のもとでは金融政策に限界がある」というのは誤りだ。名目金利はゼロ以下には下げられないが、予想インフレ率を高めれば、実質金利はなお下げることができる。これが最も重要なポイントであると高橋さんはいう。

たしかに筆者も高橋さんや岩田さんの本を読む前までは、ゼロ金利になっている以上、貸出金利をマイナス金利にすることは不可能だと思っていたが、この本を読んでよくわかった。

クルーグマンが早くから指摘していたのも、この点で、「日銀は人びとのインフレ予想を高めるような政策を打ち出せ」と主張し、具体的にはインフレターゲット政策を提起していた。

予想は英語だと"expectation"だ。誤解を招くので高橋さんは「期待」でなく、「予想」と訳しているという。


大蔵省の「洗脳」にのらなかった浜田教授

高橋さんは、かつて大蔵省の「洗脳部隊」に属していたという。学者やマスコミに、大蔵省に都合のよい主張をしてもらうことが仕事だ。やり方は勉強会や研究会に参加してもらい、時には海外視察などにつれていくのだと。

しかしこの洗脳部隊の時に、全く誘いを受け付けなかったのが、当時東大にいた浜田宏一イェール大学名誉教授だったという。

浜田教授は2年ほど前に「昭和恐慌研究会」のメンバーとなった。先日紹介した「アメリカは日本経済の復活を知っている」では、「20年もの間デフレに苦しむ日本の不況は、ほぼすべてが日銀の金融政策に由来するものである」と断言している。

アメリカは日本経済の復活を知っているアメリカは日本経済の復活を知っている
著者:浜田 宏一
講談社(2012-12-19)
販売元:Amazon.co.jp


円安が好況の鍵

高橋さんは、小泉政権が成功したのは、日銀に量的金融緩和を実施させ、その結果円安が続いたためだと語っている。

高橋さんは第一次安倍内閣(2006年9月〜2007年9月)の時に、総理補佐官補というポジションで、総理官邸入りするように安倍総理から直接依頼された。

超党派の議員200人が集まり、「増税によらない復興財源を求める会」を結成した時にも、安倍さんに声をかけて加わってもらった経緯がある。

安倍さんは、「増税によらない復興財源を求める会」に参加するとともに、自民党内でも議員立法で日銀法を改正すべく同志を集めていた。結局谷垣総裁が待ったをかけたため、日銀法改正検討は進まなかったが、こういった活動を通して安倍さんは知識を蓄えていった。

そして自民党総裁選で「消費者物価上昇率2%を目標としたインフレ・ターゲット政策を日銀に求める」と宣言して自民党総裁に就任すると、今度は総選挙でもインフレ・ターゲットを自民党の目玉政策に掲げて、選挙に勝利したのだ。


日銀のレジームチェンジ

それまで安倍さんのインフレ・ターゲットを批判していた白川日銀総裁が、豹変してインフレ・ターゲットの受け入れをすぐさま示唆した。「金融政策のレジーム転換」が起こったのだ。

そして3月の黒田新総裁になって、「異次元の金融緩和策」が実施され、円安と株高の流れが加速したのだ。株価は野田民主党政権時のほぼ倍、円相場は30%下落、GDPはプラスに転じた。

平成26年度からの消費税アップもあり、高額商品が良く売れているという。

長期金利が上昇しているが、それでも0.9%という歴史的には低い水準だ。金利が低いうちに長期固定金利の住宅ローンを使って住宅を購入しようとする人が増えている。

国民の心理が「インフレ期待」に一変した。まさに「心理経済学」で大前研一さんが提唱していたように、人々の心理を動かした結果、円安株高がある。

大前流心理経済学 貯めるな使え!大前流心理経済学 貯めるな使え!
著者:大前 研一
講談社(2007-11-09)
販売元:Amazon.co.jp

アベノミクス登場以来、このブログで高橋さんの本は何冊か紹介している。

この本もわかりやすいが、これ一冊ということなら、そのものズバリの2008年末の「この金融政策が日本を救う」だろう。浜田宏一教授の推薦書でもある。

この金融政策が日本経済を救う (光文社新書)この金融政策が日本経済を救う (光文社新書)
著者:高橋洋一
光文社(2008-12-16)
販売元:Amazon.co.jp

次は「この金融政策が日本を救う」のあらすじを紹介する。


参考になれば投票ボタンをクリック願いたい。




  
Posted by yaori at 12:30Comments(0)TrackBack(0)

2013年04月18日

日本経済の真相 アベノミクスの中心的論者 高橋洋一さんの本

日本経済の真相日本経済の真相
著者:高橋 洋一
中経出版(2012-02-15)
販売元:Amazon.co.jp

いまや浜田宏一イェール大学名誉教授と並んで、アベノミクスの中心的な論者となった高橋洋一嘉悦大学教授(元・大蔵省)の本。

高橋さんの「さらば財務省!」のあらすじは以前紹介した。

さらば財務省! 政権交代を嗤う官僚たちとの訣別 (講談社プラスアルファ文庫)さらば財務省! 政権交代を嗤う官僚たちとの訣別 (講談社プラスアルファ文庫)
著者:高橋 洋一
講談社(2010-06-21)
販売元:Amazon.co.jp
高橋さんは、アベノミクス論者としてマスコミにも頻繁に取り上げられるようになってきている。



アベノミクス人脈









出典:日経新聞電子版(2013年4月14日付け)の山本幸三議員に関する記事

この本はアマゾンのなか見!検索に対応しているので、ここをクリックして目次を見てもらいたい。、なんちゃってなか見!検索でも紹介しておく。高橋さんは、俗論と真相を対比して説明している。


第1章 円高、デフレ、不況、電力、企業不正 これが日本経済の真相だ!

1. 俗論 : 異常なまでの円高、打つ手なし
   真相 : 解決は簡単。円を刷れば円安になる

2. 俗論 : 日本のデフレ、原因は人口減少
   真相 : 人口は無関係。デフレはお金不足で起こる

3. 俗論 : 景気が悪い以上、株価低迷はやむなし
   真相 : 円安にすれば日経平均1万3千円も可

4. 俗論 : オリンパス、大王製紙、2社の不正は深刻
   真相 : 不正経理は2社に限らない。まだ隠れている

5. 俗論 : 原発再稼働がないと日本の電力は不足する 
   真相 : 需給データに疑いあり。電力会社の利潤独占

第2章 TPP,ユーロ危機、QE3,中国バブル これが世界経済の真相だ!

6. 俗論 : TPPで日本の産業はダメージを受ける
   真相 : プラスの経済効果あり。参加しないと損

7. 俗論 : ユーロ崩壊を防ぐにはギリシャを救済すべし
   真相 : 破綻は当然。ユーロ離脱が立て直しの条件

8. 俗論 : 米国QE3が日本に打撃を与える
   真相 : 量的緩和で債券価格が下落。影響は小さい

9. 俗論 : 中国はバブル経済。崩壊まで秒読み段階
   真相 : 中国では日本のバブルが研究されている

第3章 財政赤字、国債暴落、復興増税、格付け これが国家財政の真相だ!

10.俗論 : 日本は財政赤字で破綻寸前
   真相 : 資産は世界一。実質の借金は350兆円

11.俗論 : 日本国債がデフォルト、暴落する
   真相 : CDSを見よ。10%の下落は十分あり得る

12.俗論 : 復興財源の確保には増税もやむなし
   真相 : 増税は愚策。100年国債を発行せよ

13.俗論 : 日銀による復興債の引き受けは「禁じ手」
   真相 : その禁じ手、実は毎年行われている

14.俗論 : 国による産業振興で日本経済は復活する
   真相 : 成功した「産業政策」など存在しない

15.俗論 : 格付けの見直しは経済に影響を与える
   真相 : 格下げは増税の道具。分析は不十分

第4章 年金、税制、雇用、空洞化、格差 これが社会保障の真相だ!

16.俗論 : 年金は破たん確実。増税で積立金を補え
   真相 : 国民の不安が利用されている。膨大な未収あり

17.俗論 : 雇用不安・空洞化、原因は海外の安い労働力
   真相 : 空洞化と円高を黙認している政府の無策が根源

18.俗論 : 格差の拡大は深刻。不正受給も増加中
   真相 : 格差是正にまさる良策あり。まず所得底上げを

第5章 公務員改革、大阪府構想、地方分権、失言報道 これが日本政治と報道の真相だ!

19.俗論 : 公務員改革、大阪都構想には高い壁
   真相 : 改革は大阪から始まる

20.俗論 : 決めるのは中央官庁。地方分権は絵に描いた餅
   真相 : 地方分権なら不公平を減らせる

21.俗論 : 新聞は有用な情報源。読めば真実がわかる
   真相 : 新聞にも既得権益。信じ過ぎると目がくもる

22.俗論 : 失言した大臣は即刻辞任すべきだ
   真相 : 問われるのは政策。無知な記者ほど揚げ足をとる

総論 2012年以降をどう生きるべきか?

★ メディアにダマされず真実を見抜く
★ 組織に縛られずすっきりと考える
★ 別の方法で豊かになる


マスコミの脳は「小鳥の脳」

この本のはじめで高橋さんは非常に刺激的な言葉を紹介している。官僚は「マスコミの脳は『小鳥の脳』だから、これくらいの情報をくわせておけばいい」と言っているという。

たとえば日本政府の予算はもともと2,000ページくらいあるものを、50ページの「役所の側でつくった要約資料」をマスコミに配っている。官僚に都合の悪い情報はすべてそぎ落とされ、ごく一部のわかりやすい部分だけが記者たちに手渡される。記者はこのわずか3%程度の「情報」をもとに記事を書いている。

高橋さんはいまでも2,000ページに目を通し、何よりもかつては財務官僚として残り97%の情報を隠す側にいた。だから高橋さんはもう15年以上まともに新聞を読んでいないという。


特記事項

上記の目次で大体の感じはつかめると思うので、印象に残った点をいくつか紹介しておく。

★日銀に60兆円刷らせれば、株価は1万3千円を超える
日銀はまだ60兆円もマネタリーバランスを拡大していないと思うが、株価はまさにぴったり、現状では1万3千円を超えている。

この本ではソロスチャートを紹介していないが、ソロスと同じ考え方で米国のマネタリーベースは2兆ドルなので、円を200兆円まで増やせば、為替は1ドル=100円程度になると語っている。「簡単すぎると思うかもしれないが、計算すればわかることである」。

★オリンパスの損失隠しが「氷山の一角」と言える理由は、バブル後の「飛ばし」をやっていた証券会社の担当者が、別の証券会社に転職し、客の弱みを握って、それをネタに商売しているのだと。

「損失を持ち続けて転々としている人たちが証券業界からいなくならない限り、損失隠しはこれからも続く」。

★CDSを見れば、日本国債の信用の高さがわかる
金融派生商品のCDS(Credit Default Swap)の保険料を見ると、破綻可能性の客観的な指標がわかる。

この本の出版時点で日本国債の保険料は1.4%、フランス国債が2.2%、ドイツや英国が1%。日本国債の破綻保険料は世界でも低い方に属する。

高橋さんがテレビ出演した時に、日本国債は3年から5年で破綻すると言っていた人に向かって「どうしてCDS取引をしないのですか?3年で4.2%払って100%返ってくるということは25倍の高収入です。取引したらどうですか?」と持ちかけると、黙ってしまったという。

★成功者の体験を一般論として取り上げ、簡単に儲けられるかのように書かれた本や雑誌記事はまずウソだと思った方が良い。書籍の印税を10%とすれば、1,000円の本が1万部売れても、印税は100万円。本当に何百万円も儲けられるのなら、本を書かずに、自分でも儲けるだろう。それが経済原則である。

★デフレが人口減少と関係がないことを、世界100カ国以上の数字を使って、次の相関図を導いている。さすが東大数学科出身だ。

scanner514












出典:本書

★日本国のバランスシート。次が高橋さんがつくった日本国のバランスシートだ。これにより、実質の借金(債務超過額)は350兆円だと割り出している。

scanner515












出典:本書


非常にわかりやすい「真相」の解説である。もちろん「真相」が必ずしも真実かどうかわからないが、少なくとも2012年1月の時点で、株価13,000円代を予想していたことなど、現在起こっている事象を言い当てている。

次に紹介する2008年の「この金融政策が日本経済を救う」も、浜田宏一教授の推薦書のひとつで大変参考になった。

この金融政策が日本経済を救う (光文社新書)この金融政策が日本経済を救う (光文社新書)
著者:高橋洋一
光文社(2008-12-16)
販売元:Amazon.co.jp

やや得体が知れない感じはあるが、高橋さんは、アベノミクスを考える上で、欠くことのできない経済論者だと思う。


参考になれば投票ボタンをクリック願いたい。


>  
Posted by yaori at 12:45Comments(0)TrackBack(0)

2013年04月13日

円高の正体 浜田宏一教授推薦書 第2弾 マネー不足が円高の原因

円高の正体 (光文社新書)円高の正体 (光文社新書)
著者:安達誠司
光文社(2012-01-17)
販売元:Amazon.co.jp

以前紹介したイェール大学浜田宏一名誉教授が、「アメリカは日本経済の復活を知っている」で推薦していた本。

アメリカは日本経済の復活を知っているアメリカは日本経済の復活を知っている
著者:浜田 宏一
講談社(2012-12-19)
販売元:Amazon.co.jp

前回の「日本銀行デフレの番人」のあらすじに続く、浜田教授推薦書の第2弾だ。

著者の安達誠司さんは、大和総研、富士投信投資顧問、クレディスイスファーストボストン証券などの調査部でキャリアを積み、現在はドイツ証券経済調査部シニア・アナリストとして活躍している。

日銀副総裁に就任した岩田紀久男教授の「昭和恐慌の研究」では、安達さんも共著者の一員として加わっている。

バーナンキFRB議長は大恐慌の研究で有名だ。期せずして、大恐慌の研究家と、昭和恐慌の研究家が日米の中央銀行の首脳となったわけだ。

昭和恐慌の研究昭和恐慌の研究
著者:岩田 規久男
東洋経済新報社(2004-03-19)
販売元:Amazon.co.jp

Essays on the Great DepressionEssays on the Great Depression
著者:Ben Bernanke
Princeton Univ Pr(2004-01-05)
販売元:Amazon.co.jp

この本の最初に、謎の言葉が掲げられている。

「あと28.8兆円」

本の最後で、米国カーネギー・メロン大学のベネット・マッカラム教授による「目標とする名目経済成長率を達成するために、中央銀行はどの程度マネタリーベースを供給する必要があるかを割り出す方程式」を紹介している。

マクロ金融経済分析―期待とその影響
著者:ベネット・T. マッカラム
成文堂(1997-06)
販売元:Amazon.co.jp

それが「マッカラム・ルール」と呼ばれるもので、それによると2%の経済成長を達成するには、日銀が現在の121兆円から28.8兆円追加すればよい。それが冒頭の「あと28.8兆円」の意味だ。

この場合、2%の名目成長率を達成して、ドル=円レートは95円、インフレ率は1.5%程度になるという。

さらに4%の成長を達成するには、78.8兆円の追加のマネタリーベースが必要となる。この場合、ドル=円レートは115円、インフレ率は3%程度と計算されるという。次がこの28.2兆円と78.8兆円を割り出したグラフだ。

scanner513






出典:本書187ページ

そうすることで日本は成長を取り戻して、円高とデフレから脱却することになる。

ところで、2013年4月の黒田・日銀の「異次元の金融緩和」で打ち出したのは、現在のマネタリーベースを倍にする、つまり138兆円から270兆円に増加させるものだ。安達さんの言うように、マッカラム・ルールを適用すると6%程度の成長になると思われる。

6%の成長が実現するかどうかわからないが、それだけアグレッシブな金融政策なのだ。


円高になると名目GDPは減少する

安達さんは、次の2003年以降のグラフを使って、円高になると名目GDPが減少すると説明している。

scanner506






出典:本書53ページ

なぜこうなるかというと、「輸出産業(と輸入品競合産業)の利益が減っていく負の効果」のほうが、「輸入産業の利益が増える正の効果」より大きいためだ。

円高で日本の賃金は対外的に割高となるので、企業の海外移転も増え、日本の雇用が失われる。


円高だと税収も減少

円高になると税収も減る。安達さんは次のグラフを使って示している。

scanner507






出典:本書 109ページ


「良い円高」論のウソ

安達さんは「良い円高」論者は、”何にとって”良いと言っているのか見極める必要があると語り、「良い円高論者」を次の3パターンに分類している。

1.「強い円」志向説 
たとえば2009年に亡くなった日本銀行元総裁の速水優さんの「強い円 強い経済」や「円が尊敬される日」などが代表的だ。

強い円 強い経済強い円 強い経済
著者:速水 優
東洋経済新報社(2005-02)
販売元:Amazon.co.jp

円が尊敬される日
著者:速水 優
東洋経済新報社(1995-12)
販売元:Amazon.co.jp

その一節を安達さんは引用している。

「各業界においても、円の価値が強いことが対外的な信認を得ることになる。(中略)日本の軍事力、外交力を補填する存在感、発言力は、通貨の強さから出てくるという事実を、過去の半世紀の動きで私は十分理解しているつもりである」。

出典:「強い円 強い経済」154ページ

以前紹介した榊原英資さんの「強い円は日本の国益」も同様の論旨だ。

強い円は日本の国益強い円は日本の国益
著者:榊原 英資
東洋経済新報社(2008-09-04)
販売元:Amazon.co.jp

2.通貨暴落のトラウマ説
変動相場の国では通貨危機は起こらない。だから通貨暴落は円には起こらない。

銀行法違反で有罪となった木村剛・元日本振興銀行会長が喧伝していた「キャピタルフライト」は起こらない、と安達さんは説く。

キャピタル・フライト 円が日本を見棄てるキャピタル・フライト 円が日本を見棄てる
著者:木村 剛
実業之日本社(2001-11)
販売元:Amazon.co.jp

ちなみに、このブログで木村剛さんに関する「日銀エリート 挫折と転落」のあらすじを紹介しているので、参照して欲しい。

日銀エリートの「挫折と転落」--木村剛「天、我に味方せず」日銀エリートの「挫折と転落」--木村剛「天、我に味方せず」
著者:有森 隆
講談社(2010-11-30)
販売元:Amazon.co.jp

3.「円高不況は乗り越えられる」という精神論
プラザ合意の後、日本は1985年の1ドル=235円から、1987年末の122円まで円高が続いても耐えられた。だから今回の円高も耐えられるという精神論。

しかし、安達さんは円相場は、1987年12月に122円になったのち反転し、1990年4月まで160円程度まで戻していたこと、原油価格が1980年の1バレル=40ドルから、1986年には8ドル以下まで急落していたことを指摘する。

日本人の努力もあったが、2012年末のような78円というような円相場が続いたわけではなく、原油値下がりによる恩恵もあったので、「たゆまぬ努力とコスト削減で円高不況を乗り越えた」という説は怪しい。


為替相場はマネタリーベースに連動

さらに安達さんは、ソロス・チャートを使って、2008年からの日米のマネタリーベースと、円の対ドル相場は、きれいに連動することを示している。

scanner508






出典:本書 124ページ

ソロス・チャートは1987年から2007年の20年で見ると、マネタリーベースと為替相場が連動しなかった時期が5年ほどある。2002年から2007年の時期だ。

scanner510







本書:128ページ

しかし、この時はマネタリーベースを増やすために日銀が銀行に無利子で預けても、銀行が産業界に貸し出しを増やさなかった。「インフレ予想」が起こらなかったため、産業界でも積極的な資金需要がなかったためだ。これを「超過準備」と呼ぶ。

ソロスチャートで、マネタリーバランス増加分から、「超過準備」の分を引くと、きれいに連動する。次が「修正ソロスチャート」だ。

scanner511






出典:本書 132ページ

修正ソロス・チャートが示すところは、「為替レートは、2国における将来の物価の予想の格差の変動によって動かされている」ということで、基本的にマネタリーベースの差であることがわかる。


「神の見えざる手」

この本の中で安達さんは、為替相場の成立する仕組みや、経済活動を動かす「予想インフレ率」のことを「神の見えざる手」と呼んでいる。

つまりみんながインフレを予想すれば、インフレとなり、通貨が安くなる。それが「見えざる手」のファンクションである。

これはアダム・スミスが「国富論」で「見えざる手」と評した「個人がバラバラの思惑で動いても、経済は不思議と一定の方向に動く仕組み」のことを指している。

筆者は、この「神の見えざる手」という言葉には抵抗がある。アダム・スミスの表現は「見えざる手」であり、”神の”という言葉はついていない。

安達さん以外にも「見えざる手」に”神の”という言葉をつける人は多い。筆者はそういう人には、「ちゃんと勉強しているのか?」という疑問を持たざるを得ない。

「国富論」は岩波文庫では4巻、日経出版のものは2巻の大作で、筆者の読んだ日経出版のものだと、上が430ページ、下が解説も入れて570ページで、合計でちょうど1,000ページある。

国富論〈1〉 (岩波文庫)国富論〈1〉 (岩波文庫)
著者:アダム スミス
岩波書店(2000-05-16)
販売元:Amazon.co.jp

国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究(上)国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究(上)
著者:アダム・スミス
日本経済新聞社出版局(2007-03-24)
販売元:Amazon.co.jp

実は、「見えざる手」は、日経出版だと下巻31ページに一度だけ出てくるだけだ。

このことは、このブログで紹介した「池上彰のやさしい経済学1」や、浜矩子さんの「新・国富論」などの本でも紹介されている通りだ。

池上彰のやさしい経済学―1 しくみがわかる池上彰のやさしい経済学―1 しくみがわかる
著者:池上 彰
日本経済新聞出版社(2012-03-24)
販売元:Amazon.co.jp

新・国富論 グローバル経済の教科書 (文春新書)新・国富論 グローバル経済の教科書 (文春新書)
著者:浜 矩子
文藝春秋(2012-12-17)
販売元:Amazon.co.jp

「国富論」のあらすじはまだ紹介していないが、当時の「重商主義」を批判した本ゆえ、古臭い部分もある。

筆者も長年手を付けていなかったが、日経出版のものが2007年に出たので、いいきっかけと思って、読んでみただけなので、偉そうなことはいえない。

けれども、”神の”をつけている人がいると、経済アナリストといえども、アダム・スミスを、ちゃんと読んでいない人もいるのではないかと疑ってしまう。

ともあれ、全体の論旨としては明快で、浜田宏一教授が推薦書として取り上げていることでもわかるとおり、現在の「アベノミクス」に沿った見解で、参考になった。


参考になれば投票ボタンをクリック願いたい。

  
Posted by yaori at 23:41Comments(0)TrackBack(0)

2013年04月09日

日本銀行デフレの番人 日銀副総裁に就任した岩田規久男さんの脱デフレ策

日本銀行 デフレの番人 (日経プレミアシリーズ)日本銀行 デフレの番人 (日経プレミアシリーズ)
著者:岩田 規久男
日本経済新聞出版社(2012-06-09)
販売元:Amazon.co.jp

2013年3月末に日銀副総裁に就任した岩田規久男・学習院大学教授の脱デフレ策。

先日紹介した浜田宏一・イェール大学名誉教授の「アメリカは日本経済の復活を知っている」でも、岩田規久男教授は、日銀総裁候補の一人に挙げられていた。

この本では白川・日銀を「デフレの番人」や「物価安定化不合格率67%」などと批判し、リフレ具体策を提案している。


黒田・岩田チームが早速始動

2013年4月4日、黒田東彦日銀総裁と岩田規久男副総裁が就任して初めての金融政策決定会合で、「ツー・バイ・フォー」と言われる、2年間でインフレ率2%をめざし、マネタリーベースは2倍、国債買い入れも2倍にするという「異次元の金融緩和」を発表した。

4月4日と5日で、日経平均は1,000円近く上昇。円相場は4円ほど円安になった。これで2012年11月の「アベノミクス」発表後、日経平均はほぼ5,000円上昇し、ドル・円相場はほぼ20円下落した。(リンクをクリックすると、株価と円相場の相関グラフが表示される)

大胆な金融緩和策が、「インフレ予想」を抱かせ、デフレ脱却に効果があることがはっきり示された。

筆者は大学を卒業して40年近く経済界にいるが、今回ほど経済理論が機能した実例は記憶にない。

大胆な金融緩和→「インフレ予想」形成→円安→企業の収益回復を期待した株価上昇→景気回復の「良いサイクル」が始まったのだ。


2012年バレンタインデーのインフレターゲット実験

この本で岩田教授は、2012年2月14日バレンタインデーの日銀による「インフレ1%目途」発表後、円安が進み、株価も上昇した事実から、対ドル円相場が1円下落すると、株価を225円押し上げる影響があると分析している。

浜田宏一教授が、「アメリカは日本経済の復活を知っている」で、「義理チョコ緩和」と呼んでいる日銀のインフレターゲット実験だ。

アメリカは日本経済の復活を知っているアメリカは日本経済の復活を知っている
著者:浜田 宏一
講談社(2012-12-19)
販売元:Amazon.co.jp

岩田教授は、この「インフレ目途1%」実験が、日銀理論の誤りを実証したと語っている。

ちなみに、「アベノミクス」による昨年11月頃からの円安、株高も、ほぼこれと同じような1円の円安=200〜250円の株価上昇という関係になる。(リンクをクリックすると、株価と円相場の相関グラフが表示される)


「デフレの番人」・日銀のみじめな成績

岩田教授は、総合消費者物価の前年同月比の上昇率が0〜2%の月を「合格」、0%以下の月を「不合格」、2%を超えた月を「引き分け」とする評価基準を持ち込んでいる。

これによると、新日銀法施行以後の14年間の成績は41勝、124敗、3引き分けで、勝率は2割4分だと評価している。

白川総裁の在任中では、13勝、32敗、3引き分けで、勝率は2割7分1厘だ。

筆者自身は、物価の安定という意味では、0%以下を「不合格」とする評価方法には疑問を感じる。

しかし、物価上昇率0%以下が、あまりに長期間続いたからこそ、日本経済が低成長を続けていると考えれば、岩田教授の通信簿は一つの評価かもしれない。その意味では、日銀はインフレ率を0%以下に守ってきた「デフレの番人」であると言えるだろう。


日銀理論ーデフレの責任は日銀にはない?

藻谷浩介氏のベストセラー、「デフレの正体」では、デフレの正体は生産年齢人口の減少、つまり「人口オーナス」だと主張していることは、以前このブログで紹介した通りだ。

デフレの正体  経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)
著者:藻谷 浩介
角川書店(角川グループパブリッシング)(2010-06-10)
販売元:Amazon.co.jp

日銀の白川総裁も同じ見方を採っており、「日本の経験している緩やかなデフレという現象は、趨勢的な成長力低下という根源的な問題の表れ」と講演で語っている。

これに対して岩田教授は、藻谷氏を門外漢と切り捨て、白川総裁を次のように批判している。

「経済学の本は読んだことがないと宣言している藻谷氏が、実質値(相対価格)と名目値(物価)の区別がつかないのは、いたし方ない」。

「しかし、貨幣を扱い、「物価の安定」を仕事とする日銀の総裁ともあろう人が、実質値と名目値の区別がつかないことは、看過できない問題である」。

日本以外で人口が減少している国は中欧諸国(ブルガリア、ハンガリー、ルーマニア、クロアチアなど)や、旧ソ連諸国(ウクライナ、グルジア、ラトビア、リトアニア、エストニアなど)がある。

岩田教授はこれらをリストアップして、日本以外ではすべてインフレになっていることを表で示している。

さらに、生産年齢人口が減少している先進4カ国との比較表を示し、国際比較のない「デフレ原因説」を信じてはいけない、と岩田教授は警告する。

scanner505








出典:本書86ページ

日銀は金融政策は「インフレ予想」の形成に働きかけることができることを理解していないのだと。


岩田教授の提案

岩田教授は、この本で日銀にインフレ目標の達成を義務付けるために、日銀法を改正して、政府が物価安定目標を決定し、日銀にその目標を中期的に(1.5〜2年程度)達成することを義務づけることを提案している(達成手段の選択は日銀に任せる)。

日銀法改正までは、まだ道筋がついていないが、このまま「アベノミクス」で景気が順調に回復し、2013年夏の参議院選挙で自民党が過半数を抑えることになれば、日銀法改正も視野に入ってくるだろう。


リフレ政策はなぜ景気回復に寄与するのか?

岩田教授は、リフレ政策は次のような展開で日本の景気回復に貢献すると説明している。

日本の予想インフレ率が上昇する

円安・ドル高になる

輸出が増え・輸入が減る

輸出企業中心に株価が上がる

株式含み益が増大し、バランスシートが改善する

企業の設備投資が拡大する

株高で個人の資産価値が増え、積極的に消費を拡大させる

景気が拡大する

2013年4月5日に、財務省関連の(一財)金融財政事情研究会が主催した「月間『消費者信用』創刊30周年記念シンポジウム」で、パネリストの一人が言っていたことを思い出す。

最近、若い年代を対象に行ったアンケートでは、「給料が上がる」と答えた人の数が、「給料が下がる」と答えた人の倍だったという。これは、長い期間なかったことだ。

「アベノミクス」、そして2014年度から実施される消費税アップが、人びとの心理に影響しているのだ。

筆者の友人から聞いた話では、株価が上がったので、個人の保有資産の評価額が上がり、ゴルフ会員権の買い希望が増え、売り物が払底しているという。また、REIT=不動産証券相場は急上昇している(リンクをクリックすると、REIT相場グラフが表示される)。

リフレ政策で、日本経済がデフレから脱却し、再びそこそこの経済成長を続けることができれば、自民党の支持基盤は盤石のものとなるだろう。

民主党に政権運営を任せて、大変な失望を味わった4年間は、自民党の臥薪嘗胆につながった。その結果、日銀の刷新と日本経済の活性化が生まれつつある。

4年間はいかにも長すぎたかもしれないが、民主党への政権交代は、日本国民にとっても、自民党にとっても無駄ではなかった(?)と言える日が来るかもしれない。

最後に、なぜリフレ政策が、インフレとなるのかを明確に示しているデータを紹介しておく。

次が浜田宏一教授や岩田教授などが、よく使っている、米国や英国の中央銀行がリーマンショックから立ち直るために、マネタリー・ベースを大幅に拡大したのに対し、日銀が「金融政策の問題ではない」、と何もしなかったことを示しているグラフだ。

scanner479





期間は異なるが、次の表は歴代の大統領の在任期間中の米国の財政赤字額と、財政赤字がGDPに占める割合の推移表だ。

scanner486




出典:住商総研「Business EYE」2013年春号 7ページ

FRBの大胆な金融緩和とは、大規模かつ急激な米国政府の歳入赤字の増大に他ならない。

今度の黒田日銀の大胆な金融緩和で、マネタリー・ベースを倍増させるということは、単純に言うと日銀が追加で140兆円のお金を発行するということだ。この140兆円のほとんどは、政府の「通貨発行益」=シニョレッジ(Seigniorage)となる。

政府がどんどんお金を発行すれば、通貨の価値が下がり、当然インフレとなる。インフレと消費税アップ、そして給料アップで、モノみな上がるとなれば、国民は当然早めにマンションなどの不動産を購入したり、高額商品の購入に走るだろう。

それが結果として日本の景気回復と、成長率アップをもたらす。日本経済の規模が大きくなれば、膨れ上がった国債発行残高も返済可能なレンジになっていく。

このブログで紹介した2008年の榊原英資さんの本の様に、「強い円は日本の国益」とか言っている場合ではないのだ。

強い円は日本の国益強い円は日本の国益
著者:榊原 英資
東洋経済新報社(2008-09-04)
販売元:Amazon.co.jp


米国のようになりふり構わず、強い経済を取り戻す。それが日本が再び活性化する唯一の道だと思う。その意味で、筆者は今回のリフレ政策に賛成だ。

アメリカのニューヨーク・ダウ平均株価は、過去最高を更新している。日本の株価も、何年かかってもよいので、1989年大納会(12月29日)の日経平均38、915円を更新して欲しいものである。


参考になれば投票ボタンをクリック願いたい。





  
Posted by yaori at 23:16Comments(0)TrackBack(0)

2013年03月21日

アメリカは日本経済の復活を知っている イェール大学浜田教授の最終講義

+++今回のあらすじは長いです+++

アメリカは日本経済の復活を知っているアメリカは日本経済の復活を知っている
著者:浜田 宏一
講談社(2012-12-19)
販売元:Amazon.co.jp

安倍首相のご意見番・イェール大学浜田宏一名誉教授の「最終講義」。

浜田さんは1954年に湘南高校を卒業して東大法学部に入学し、卒業後経済学部に学士入学した。その後大学院の修士課程に進み。館龍一郎教授のアドバイスで、フルブライト留学生としてイェール大学のジェームズ・トービン教授に学んだ。その後東大教授を経て、イェール大学で長く教鞭を取っている。

この本を出版する直前に、安倍自民党総裁から衆議院選挙に臨むうえでの政見について国際電話で相談を受け、「安倍総裁の政見は正しいので、自信を持って進むように」とアドバイスしたことを明かしている。浜田教授と安倍首相との親密さがわかるエピソードだ。

この本は、以前紹介した「伝説の教授に学べ」の、続編のような位置づけで、前著の冒頭に載っていた白川日銀総裁への公開書簡の顛末を紹介している。

伝説の教授に学べ! 本当の経済学がわかる本伝説の教授に学べ! 本当の経済学がわかる本
著者:浜田 宏一
東洋経済新報社(2010-06-25)
販売元:Amazon.co.jp

白川総裁と日銀審議委員に「伝説の教授に学べ!」を献本したところ、白川総裁は「自分で買います」という返書をつけて送り返してきたという。

白川総裁の対応は、大人げないように思えるが、公開書簡が白川総裁の気に障ったのだろう。

浜田教授は、「人は『ノーベル経済学賞候補者の一人』と持ち上げてくれるが、教え子である白川総裁を正しく導くことができなかった。とてもそんな資格はない」と語る。

「日銀は、アダム・スミス以来200年の経済学の普遍の法則を無視して、世界孤高の『日銀流理論』を振りかざし、円高を招き、株安をつくり、失業や倒産を生み出している」。

金融政策をうまく使えば、日本経済が苦しむデフレ、円高、不況、空洞化といった問題が解決できるのに、金融政策を独占する日銀が金融政策を使うのを拒否している。

だから、ズバリ、「20年もの間デフレに苦しむ日本の不況は、ほぼすべてが日銀の金融政策に由来するものである」と結論づけている。


この本の目次

この本はアマゾンの「なか見!検索」に対応していないので、なんちゃってなか見!検索で、章題だけを紹介しておく。実際の目次は、サブタイトルまですべて掲載されているので、目次だけで8ページもある。

序章  教え子、日銀総裁への公開書簡

第1章 経済学200年の常識を無視する国

第2章 日銀と財務省のための経済政策

第3章 天才経済学者たちが語る日本経済

第4章 それでも経済学は日本を救う

第5章 2012年2月14日の衝撃

第6章 増税前に絶対必要な政策

第7章 「官報複合体」の罠

終章  日本はいますぐ復活する


全体の要約

目次では、内容が推測しづらいので、全体を要約しておく:

デフレ脱出のために、インフレターゲットを設定して、金融緩和をするのが経済学の通説・法則であり、世界中の経済学者や日本の心ある経済学者は、日銀がなぜそれをやらないのか不思議に思っている。

日銀は経済学の法則からかけ離れた「日銀理論」を持っており、自らをインフレの番人として、インフレ対策は熱心に行うが、デフレは軽く見て、リーマンショックの後でもほとんど何もしなかった。

他方米国や英国は、FRBやイングランド銀行のトップに著名な経済学者を据え、経済学の法則に従って、急激にバランスシートを拡大し、大幅な金融緩和を実施した。

その結果、何もしない日本は円高となり、産業の競争力が失われ、株式市場は低迷を続けた。サブプライムローンに端を発した世界同時不況により、本来サブプライムローン問題とは無縁の日本経済が、最も大きなダメージを食らった。

これはひとえに、日銀がデフレの唯一の対策である金融緩和を推し進めなかったからだ。浜田教授は元教え子の白川総裁に公開書簡まで発表して、「歌を忘れたカナリア」からの脱却を求めたが、日銀は無視して何も動かなかった。

しかし、2012年2月14日のバレンタインデーに日銀はインフレ1%を「目途」とすると発表した。とたんに市場の「期待」は変わり、円高と株高に転じた。ところが、日銀は1%と発表しただけで、実際には強力な金融緩和を実施しなかったので、日銀のバレンタインデー発表は「義理チョコ」に終わった。

自民党の安倍総裁は、経済法則をよく理解し、浜田教授他の「リフレ論者」のアドバイスに基づいて、2%のインフレ目標と、日銀法改正も辞さないことを、2012年末の衆議院選挙前に発表した。とたんに市場の「期待」が変わり、円は75円から95円、株式市場は8,000円台から、12,500円にまで回復した(2013年3月中旬現在)。

浜田教授らの主張するリフレ政策、通称「アベノミクス」は正しい経済学の法則に基づく政策であり、正しい金融政策を取れば、日本経済は必ず復活することを、世界は知っているのだ。


60人を超える世界の経済学者などにインタビュー

浜田教授は学究生活の集大成として、日米の政治家、中央銀行関係者、政策当事者、学者、エコノミスト、ジャーナリストなど60人を超える人にインタビューを行った。

その中にはグレゴリー・マンキューウィリアム・ノードハウスマーティン・フェロドシュタイングレン・ハバードベンジャミン・フリードマンデール・ジョルゲンソンロバート・シラーなどの泰斗が含まれる。

日本では安倍晋三堺屋太一竹中平蔵中原伸之黒田東彦岩田規久男岩田一政伊藤隆敏などだ。

外国人学者のほとんどすべて、そして尊敬すべき日本人学者は、日本経済が普遍の法則に則って運営されさえすれば、直ちに復活し、成長著しいアジア経済を取り込み、再び輝きを放つことができることを知っている。それゆえ、この本のタイトルを「アメリカは日本経済の復活を知っている」としたのだ。


民主党政府の閣僚たちは「ヤブ医者」の群れ

「ヤブ医者」としてここで挙げられているのは、円高論者の藤井裕久、与謝野馨、「増税すれば経済成長する」と語った管直人、「利上げすれば経済成長する」と語った枝野幸男、野田佳彦、「経歴から見て財政とは無縁な素人、安住淳」などだ。

このブログでも紹介した藻谷浩介の「デフレの正体」で、デフレの原因は人口減少だとする説は、「俗流経済学」と片づけられている。日銀はこれをデフレの原因としたいようだが、人口をデフレに結びつけるのは、理論的にも(金融論)実証的にも(国民所得会計)、根拠のないものだと切り捨てている。

デフレの正体  経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)
著者:藻谷 浩介
角川書店(角川グループパブリッシング)(2010-06-10)
販売元:Amazon.co.jp

人口減少は、経済学の率直な議論からすれば、インフレの原因ではあっても、デフレの原因とはなりえないと。


この本のグラフが参考になる

一般的な経済書は、グラフや表が多数使われているが、この本では10のグラフが使われているのみだ。

ゲーム理論の国際金融論への応用で、ノーベル賞候補にも挙げられる浜田教授だが、グラフを使って説明するのが得意ではないようだ。しかし、少ない10のグラフだけ見ても、浜田教授の主張のポイントが理解できる。

「伝説の教授に学ぶ!」にも紹介されていた、リーマンショック後に金融緩和をしない日銀と、金融緩和して急激にバランスシートを拡大したイングランド銀行やFRBを対比したグラフのアップデート版を紹介している。中国や韓国も欧米ほどではないが、バランスシートを拡大している。一方、日銀は何もしていないということがわかる。

scanner483





出典:本書99ページ

このため、為替は円の独歩高となった。最近は人民元も強くなってきているが、バランスシート拡大と円高とは、逆相関関係にあることがわかる。

scanner484





出典:本書99ページ

この本には「ソロスチャート」と呼ばれる図を使って、「2国間の為替レートは、両国の通貨量の比率によって決まる」という法則を紹介している。これはまさに白川総裁がシカゴ大学で勉強して持ち帰った「国際収支の貨幣的接近」と同じものだと。

scanner475





出典:本書102ページ

各国の2000年からの11年のGDPは次のようなグラフとなり、韓国、中国が台頭し、先進国では金融緩和に踏み切った英国と米国が良いパフォーマンスを示している。

scanner480






出典:本書49ページ

リーマンショック後の日米欧の鉱工業生産指数では、サブプライムローンでは本来無傷なはずの日本が、最もダメージを被っていることがわかる。

scanner481






出典:本書69ページ

上のグラフと、次の日米欧の実質実効為替レートの推移表を比較すると、円高の独歩高が日本経済に大変なダメージを与えていたかことがよくわかる。

scanner482






出典:本書69ページ

円がドルに対して30%強くなり、韓国ウォンは対ドルで30%安い。合計60%ものハンディがあれば、到底競争できない。電機メーカーの競争相手は韓国企業だ。たとえば、メモリメーカーのエルピーダメモリは、日銀につぶされたようなものだと浜田さんは語る。


日銀のバレンタインデー「義理チョコ」金融緩和

上記の日銀のバレンタインデーの「義理チョコ」金融緩和を示すグラフが紹介されている。

scanner478





出典:本書33ページ

これを見ると、日銀はインフレ「目途」を1%と発表していながら、発表後半年の間、買い入れ資金の5兆円増加を除いては、なんら金融緩和をしていないことがわかる。

一方、FRBは2012年9月からアメリカの弱点である住宅市場で、毎月400億ドルの規模の住宅ローン担保証券を買い上げることを決めた。これがQE3として知られるものだ。

さらに本書発刊後の2012年12月、FRBは追加で毎月450億ドルの米長期国債を購入する追加金融緩和策を発表した

合計850億ドルもの金融緩和策で、米国の株式市場は史上最高値を記録し、米国経済はシェールガスによるエネルギー自給の見込みが出てきたことから、活況を取り戻しつつある。

また日本は、浜田教授のアドバイスに従って2%のインフレターゲットをアベノミクスの根幹政策として打ち出しているので、円安、株高で景気回復感が出ている。

浜田教授は、小泉首相時代に小泉首相と会って、「デフレを脱却するには、予想と期待形成が重要」と伝えたそうだ。現在は、まさにそのもくろみ通り「インフレ予想と期待」が見事に形成されている。


次期日銀総裁の有力候補

この本で浜田教授は、次期日銀総裁候補として次の人たちを挙げている。やや連発しすぎのきらいはあるが、いまやキングメーカーとなった浜田教授ゆえ、挙げられた人が日銀総裁・副総裁に就任しているのは、さすがだ。

★岩田規久男 学習院大学教授(新任日銀副総裁)
金融論が専門で、日銀のデフレ政策をいわば四面楚歌の中で、長年批判しつづけた。

岩田規久男教授の「日本銀行は信用できるか」は読んだ。FRBと日銀の対比や、インフレターゲット政策を採用した国のパフォーマンスの伸びなどを紹介している。

日本銀行は信用できるか (講談社現代新書)日本銀行は信用できるか (講談社現代新書)
著者:岩田 規久男
講談社(2009-08-19)
販売元:Amazon.co.jp


FRB(FOMC)の顔ぶれ:2名のMBAを除き博士号を持っている人ばかり

scanner466











日銀政策委員会顔ぶれ:「女性枠」、「産業枠」があるという

scanner465









インフレターゲット政策を採用した国のパフォーマンスの変化

scanner464





以上3点の出典はすべて「日本銀行は信用できるか」

「日本銀行は信用できるか」は2009年の本なので、あらすじを紹介していない。現在、岩田規久男教授の近著・「日本銀行 デフレの番人」を読んでいるので、近々あらすじを紹介する。

日本銀行 デフレの番人 (日経プレミアシリーズ)日本銀行 デフレの番人 (日経プレミアシリーズ)
著者:岩田 規久男
日本経済新聞出版社(2012-06-09)
販売元:Amazon.co.jp

★岩田一政 日銀政策委員

★黒田東彦 アジア開発銀行総裁

★伊藤隆敏 東大教授 インフレ・ターゲット論者

★堺屋太一 元経済企画庁長官

★竹中平蔵慶応大学教授


そのほかの特記事項

この本は、そのほかにも大変参考になる情報が紹介されている。あまり詳しく紹介すると長くなりすぎるので、特記事項として要点だけ紹介しておく。

★小泉首相は、福井前日銀総裁の就任時に、デフレ脱却を約束させたが、就任から3年たって、福井総裁は、約束を反故にして引締めに転じた。

★クルーグマンの処方箋
クルーグマンは、「お金をものすごい勢いで印刷し続けると約束すること。そこには将来の期待が大いに影響する」、「自分であれば、まずインフレターゲットを発表する」と語っている。

★日銀はインフレに対するトラウマが大きい。インフレと闘うことが仕事と思い込んでいる。日銀法では、物価の安定が唯一の目標とされ、日銀の独立性で、手段を勝手に決めることができ、結果についても責任を問われない。

ほとんどの国では、雇用の維持や経済成長の維持などが金融政策の目的に定めている。中央銀行に自主性が与えられるのは、それらの目標を達成する手段として何を選ぶかだけだ。

だから、日銀法を改正して、インフレ目標の導入や、雇用の維持を目的とすることなどを追加しようとの論議が起こっている。

★日本は「金持ち母さんと貧乏父さんの国」
浜田教授はベストセラーのタイトルになぞらえて、国民が1,500兆円の資産を持つ一方、政府が1,000兆円の国債を発行している日本は、「金持ち母さんと貧乏父さんの国」だと言っている。

金持ち父さん貧乏父さん金持ち父さん貧乏父さん
著者:ロバート キヨサキ
筑摩書房(2000-11-09)
販売元:Amazon.co.jp

★消費税で癒着する財務省と新聞社(「官報複合体」)
新聞社は新聞に軽減税率を適用してもらおうという下心があるので、消費税増税に賛成なのだと。

★池上彰の「日銀を知れば経済がわかる」はもともと日銀の広報誌「にちぎん」の連載だった。

日銀を知れば経済がわかる (平凡社新書 464)日銀を知れば経済がわかる (平凡社新書 464)
著者:池上 彰
平凡社(2009-05-16)
販売元:Amazon.co.jp

池上さんの本によるとデフレ脱却法は、「みんなでがお金を使えば、その日から景気が良くなる」だ。しかし、どうやってみんながお金を使うようになるのかの視点が欠けているので、浜田教授はこれでは不十分だという。

「池上彰のやさしい経済学1.&2.」にも制度の仕組みはわかりやすく書いてある。しかし、なぜデフレや円高がおこるのか、不況から脱出する方法は何かなどは書いていないので、やはり不十分だと。

池上彰のやさしい経済学―1 しくみがわかる池上彰のやさしい経済学―1 しくみがわかる
著者:池上 彰
日本経済新聞出版社(2012-03-24)
販売元:Amazon.co.jp

このブログでも「池上彰のやさしい経済学」を紹介している。内容は、経済学史という感じで、歴代の著名な経済学者の学説を紹介しているもので、筆者は、大学の経済学の授業とはこんなものではないかと思う。

浜田教授の要求レベルは、正統派経済学者でなく、いわばストリート・エコノミストの池上さんには高すぎるような気がする。

筆者は池上さんの本は、あれはあれで教養過程の経済学の教科書として十分な内容ではないかと思う。

浜田教授が「最終講義」というだけあって、非常に充実した内容である。筆者自身は「経済学の普遍の法則」というものが本当にあるのかどうか正直疑問を感じる。

単に「多数派の意見」ということではないかと思うが、ともあれ「アベノミクス」による変化をみれば、浜田教授の議論は説得力があることは間違いない。

2013年になって、読んでから買った本の第2号だ。


参考になれば投票ボタンをクリック願いたい。




  
Posted by yaori at 13:04Comments(0)TrackBack(0)

2013年02月24日

伝説の教授に学べ! 安倍首相の指南役・浜田宏一教授の講義

伝説の教授に学べ! 本当の経済学がわかる本伝説の教授に学べ! 本当の経済学がわかる本
著者:浜田 宏一
東洋経済新報社(2010-06-25)
販売元:Amazon.co.jp

今や安倍首相の指南役として、安倍政権の政策のアドバイザー的な地位にある内閣官房参与・エール大学名誉教授の浜田宏一教授と、早稲田大学の若田部教授、それとカツマーこと勝間和代さんの鼎談(ていだん。3者会談)。

勝間さんは、経済学者ではないがインフレターゲット論をいくつかの著書で展開している。

日本経済復活 一番かんたんな方法 (光文社新書 443)日本経済復活 一番かんたんな方法 (光文社新書 443)
著者:勝間 和代
光文社(2010-02-17)
販売元:Amazon.co.jp

実際にデフレで苦しんでいる人たちの観点から経済をみることこそ、経済学の原点だと勝間さんの著書に教えられたと浜田教授は語っている。勝間さんの著書が、この鼎談のきっかけとなった。

浜田教授の安倍政権の政策に対する影響力については、最近の「ダイヤモンド」誌のインタビューが参考になる。

アマゾンのなか見!検索に対応しているので、ここをクリックして。目次の前に載っている浜田教授から日銀の白川方明総裁にあてた2010年6月の公開書簡を見てほしい。

この公開書簡は、浜田教授が昔の教え子の一人の白川総裁に向け、日銀を強く批判したものだ。

日銀は金融システム安定化や信用秩序維持だけを心配して、その本来の重要な任務であるマクロ経済政策という「歌」を忘れたカナリヤのようなものだと説く。

”不適切な金融政策で苦しみを味わっている国民のこと、産業界のことを考え、あえてお手紙する決心を致しました。”

”白川君、忘れた「歌」を思い出してください。お願いです。”という言葉で締めくくっている。

この本を読むまでは、日銀の「不作為による作為」により、デフレ解消が長引き、円高のために日本の産業界が大きなダメージを受け、日本経済の成長が止まっているとは筆者は考えていなかった。

しかし、次のようなグラフを見せられるとなるほどと思う。

scanner460





scanner461





scanner462





出典:本書35−37ページ

これらのグラフは、この本が完成する直前に亡くなった浜田さんの元同僚・内閣府経済社会総合研究所の岡田靖さんだという。他の主要国のドラスティックな金融政策に比較して、日銀はなにもしなかったといえるほど動きがないことがよくわかる。

白川総裁は、「日銀のバランスシートはもともと大きい」と言っているが、その発言が、官僚の責任逃れとしか思えないようなグラフだ。

浜田教授は、リーマン・ショックの震源地ではない日本が、震源地以上の被害を受けたのは、日銀が金融政策を怠っていたという理由以外には考えられないと語る。

日銀は、自分たちの政策が、人びとの経済状態に影響を与えるという認識が不足していると手厳しい。

たしかに2009年当時、サブプライム・ローン問題には最も縁遠い日本が、急激な経済の落ち込みを経験した。

筆者は、当時は、統計に表れる輸出以外にも、日本国内の取引でも(たとえばトヨタの系列部品会社からトヨタへの販売取引など)最終的に輸出に向けられるものが多いので、日本経済が大きな影響を被ったと思っていた。

この本の浜田教授による日銀批判を読んで、ひょっとすると日銀がデフレを野放しにしていたことが、日本経済の低迷に大きな影響があったのではないかという風に思えてきた。

現に、昨年10月頃から安倍現首相が、自民党が復権したら日銀の政策を変えさせると公言すると、一挙に流れは変わり、円安ー株高という基調に変わった。

株価が上がったことにより、国民全体の意識も変わりつつあり、青息吐息だった日本のエレクトロニクス業界なども元気が出てきている。

浜田教授の主張通りに物事が動いてきている。

浜田教授は、このブログでも著書を紹介した元・財務省の高橋洋一さんの「この金融政策が日本経済を救う」を高く評価している。

この金融政策が日本経済を救う (光文社新書)この金融政策が日本経済を救う (光文社新書)
著者:高橋洋一
光文社(2008-12-16)
販売元:Amazon.co.jp

”すばらしい本で、高校生を対象にすると書いてあるだけあってとてもわかりやすく、みなさんにお勧めします”と推薦している。

今回、日銀総裁、副総裁の候補として、伊藤隆敏東大教授の名前が挙がっている。

伊藤隆敏教授は、2008年に日銀副総裁候補に挙がっていたが、当時の民主党が伊藤教授がインフレターゲット論者だという理由で、拒否した。

そのことが、いまのデフレと混迷を招いた遠因にもなっていると浜田教授は語る。伊藤教授は、論文でも議論で世界の一流経済学者と太刀打ちできる数少ない日本の国際レベルの経済学者の一人だという。

安倍政権の2%のインフレ率を目指す金融政策ならば、伊藤隆敏教授の出番もあるかもしれない。

ここをクリックして目次を見ていただきたいが、日銀批判以外には、浜田教授の経歴、早稲田大学の若田部教授による昭和恐慌と現在の比較などを紹介している。

浜田教授は、日銀はまるで「さるかに合戦」のサルだという。将来柿の木が育って、柿の実がなると国民をいいくるめて、おむすび(雇用や生産)を取り上げてしまっているのだと。

こうまで言われて日銀もアタマに来ているのだと思うが、いまや物事は、浜田教授の方に流れている。

日銀批判本はやはり副総裁候補として名前が挙がっている学習院大学教授の岩田規久男さんの本などもある。

日本銀行は信用できるか (講談社現代新書)日本銀行は信用できるか (講談社現代新書)
著者:岩田 規久男
講談社(2009-08-19)
販売元:Amazon.co.jp

日本銀行 デフレの番人 (日経プレミアシリーズ)日本銀行 デフレの番人 (日経プレミアシリーズ)
著者:岩田 規久男
日本経済新聞出版社(2012-06-09)
販売元:Amazon.co.jp

この本は、浜田教授と若田部教授が、経済学者ではない勝間さんに講義するという内容なので、平易でわかりやすい。

日銀を擁護する人を入れると、議論の幅がさらに増したのではないかという気もする。なぜ日銀の白川総裁がこうまで批判されているのかが、よくわかり、参考になる本である。


参考になれば投票ボタンをクリック願いたい。



  
Posted by yaori at 01:52Comments(0)TrackBack(0)

2013年02月03日

それをお金で買いますか What money can't buy 考えさせられる本

それをお金で買いますか――市場主義の限界それをお金で買いますか――市場主義の限界
著者:マイケル・サンデル
早川書房(2012-05-16)
販売元:Amazon.co.jp

このブログで紹介したベストセラー「これからの『正義』の話をしよう」の著者・ハーバード大学の政治倫理学マイケル・サンデル教授の近著。

これからの「正義」の話をしよう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)これからの「正義」の話をしよう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
著者:マイケル サンデル
早川書房(2011-11-25)
販売元:Amazon.co.jp

原題は"What money can't buy"だ。

What Money Can't BuyWhat Money Can't Buy
著者:Michael Sandel
Penguin(2013-04-04)
販売元:Amazon.co.jp

この題から絶頂期のホリエモンを思い出す。ITバブル崩壊からすこし経ったころ、ホリエモンは「金で買えないもの(モノ?)はない」と発言して世間から非難を浴びた。

その後、ホリモンはライブドアの粉飾決算を指示したことで、証券取引法違反で有罪となり、現在長野刑務所で服役中である。このブログで紹介した「刑務所なう。」など、服役中の生活を書いた本を出版している。

少なくとも釈放される権利は金で買えない。ホリエモンも、カネで買えないものがあることがわかったと思う。

刑務所なう。刑務所なう。
著者:堀江 貴文
文藝春秋(2012-03-15)
販売元:Amazon.co.jp

この本はアマゾンの「なか見!検索」に対応していないので、なんちゃってなか見!検索で、目次を紹介しておく。

広範囲にわたる具体例を取り上げて、経済合理性と倫理について議論していることがわかると思う。

序章 市場と道徳
・市場勝利主義の時代
・すべてが売り物
・市場の役割を考え直す

第1章 行列に割り込む
・ファストトラック
・レクサスレーン
・行列に並ぶ商売
・医者の予約の転売
・コンシェルジュドクター
・市場の論理
・市場VS行列
・ダフ行為のどこが悪い?
・ローマ教皇のミサを売りに出す
・フルース・スプリングスティーンの市場

第2章 インセンティブ
・不妊への現金
・人生への経済学的アプローチ
・成績のよい子供にお金を払う
・保健賄賂
・よこしまなインセンティブ
・罰金VS料金
・21万7千ドルのスピード違反切符
・地下鉄の不正行為とビデオレンタル
・中国の一人っ子政策
・取引可能な出産許可証
・取引可能な汚染許可証
・カーボンオフセット
・お金を払ってサイを狩る
・お金を払ってセイウチを撃つ
・インセンティブと道徳的混乱

第3章 いかにして市場は道徳を締め出すか
・お金で買えるもの、買えないもの
・買われる謝罪や結婚式の乾杯の挨拶
・贈り物への反対論
・贈り物を現金化する
・買われた名誉
・市場に対する二つの異論
・非市場的規範を締め出す
・核廃棄物処理場
・寄付の日と迎えの遅れ
・商品化効果
・血液を売りに出す
・市場信仰をめぐる二つの基本教義
・愛情の節約

第4章 生と死を扱う市場
・用務員保険
・バイアティカル…命を賭けろ
・デスプール
・生命保険の道徳の簡単な歴史
・テロの先物市場
・他人の命
・死亡債

第5章 命名権
・売られるサイン
・名前は大事
・スカイボックス
・マネーボール
・ここに広告をどうぞ
・商業主義の何が悪いのか?
・自治体マーケティング
・ビーチレスキューと飲料販売権
・地下鉄駅と自然歩道
・パトカーと消火栓
・刑務所と学校
・スカイボックス化

ホリエモンのような「金で買えないものはない」という経済学者や新自由主義者に対して、様々な角度から倫理的な疑問を投げかけている。

いくつか印象に残った例を紹介しておく。あなたは、”名案”と思うのだろうか、それとも”やりすぎ”と思うのだろうか。

★50万ドルをアメリカに投資した外国人は、家族とともにアメリカに2年間住むことができ、2年後にその投資によって10人以上の雇用が生まれれば、永住権(グリーンカード)をもらえる(究極のファストトラック=割り込み)。住宅市況を支えるために、50万ドル以上の家を購入した外国人にも同様の特典を与える法案もある。

★北極圏のセイウチを狩る権利を持っているイヌイットが、セイウチを撃つ権利を6,000ドルで販売する。ハンターはセイウチ猟が楽しめ、イヌイットはセイウチの肉や皮を利用する。

★新語:Incentivize(インセンティブを与えて動機づけたり励ます)は急速に普及した。新聞で登場した件数の推移は:

1980年代    :   48回
1990年代    :  449回
2000年代    :6,159回
2010−2011年:5,885回

クリントン、ジョージ. W.ブッシュ大統領は在任中1回しか使わなかったのに、オバマ大統領は3年間で29回使っている。
  
ThePerfectToast.comというサイトでは、質問票に入力する形で、145ドルで結婚式の乾杯の挨拶を代筆してくれる。前もって書かれた標準的な挨拶ならば、InstantWeddingToasts.comで19ドル95セントで買える。本物の挨拶と、プロが代筆した挨拶とどちらが価値があるのか。

★ガールフレンド、ボーイフレンドの誕生日に現金を贈る。相手にふさわしいもの選んで送るのは、彼が「ガールフレンドに対する愛情という個人情報を伝える」一つの方法だという。

★ギフトカードを送る。贈り物と現金の中間のようなものだ。ギフトカードを贈る人が増えているという。

★貧しくて腎臓や角膜を売る人はどうか?養子に出される赤ん坊の市場を創設することはどうだろうか?

★ローマ教皇のミサに参加するチケットを転売する。

★スイスの核廃棄物処理場の村に住む住人に、毎年補償金を払うことにしたら、誘致に賛成する人は半分に減った。

★貧しい退職者の相談に1時間当たり30ドルという割引き価格で乗ってくれるように弁護士団体に頼んだら断られたが、慈善事業としての無料相談なら承諾してもらえた。

★ウォルマートは数十万人に上る従業員に会社を受取人とする生命保険を掛けている。いままで費やした社員に対するトレーニング等のコストの埋め合わせなのだと。本人の遺族は、5000ドルもらえるだけだ。

★不治の病に冒された人から生命保険を買い取る。バイアティカル(生命保険買い取り業)という名前の市場だ。病人が長く生きれば、生命保険の収益率は減る。買い手は病人が早く死ぬことを望むのか?

★子どもが成長し、配偶者も生活の心配がなくなって、生命保険が不要になった高齢者などから、生命保険を買い取るライフセトルメント産業。高齢者は不要になった保険を有利に売り抜け、ライフセトルメント業者は高齢者が死亡した時に保険金を受け取る。上記と同じように、本人が早く死なないと収益率は減る。

★スタジアムの命名権はさらにプレーにも及ぶ。特定のスタジアムでは、ホームランは”バンクワン・ブラスト”、ピッチャー交代は”AT&Tコール”、盗塁セーフは”セーフです。ニューヨーク・ライフ”などと呼ばなければならないのだ。

★ニューヨークのブルームバーグ市長は、2003年に自治体初の最高マーケティング責任者を任命した。彼の最初の大仕事は、市内の6,000の公立学校や施設にジュースと水を独占販売する契約をスナップル社と5年間1億7千万ドルで締結した。

★学校に無料でテレビ、ビデオ機器、衛星リンクを提供する代わりに、2分間のコマーシャルを含んだ番組を学校で毎日放送するという契約を多くの州と結んだチャンネル・ワン社は、2000年には全米で12,000校、800万人の生徒を囚われのオーディンスとして抱えていた。30秒のCMが20万ドルで売れた。

★ハーシーチョコ、マクドナルド、エクソン、アメリカ石炭財団、P&Gなどは、学校に無料の教材を提供して子供たちの心に商標を刻み込もうとした。

★公立学校も体育館や講堂、実験室、校長室まで命名権を販売している。コロラド州のある学区は、通知表の広告スペースを売り出した。


「スカイボックス化」

サンデル教授が初めて経済至上主義に反対してニューヨークタイムズに投稿した時に、ハーバード大学の経済学者を含めて、多くの経済学者から反論があった。

大学時代の経済学の恩師からは、「サンデル教授の言うことはわかるが、誰から経済学の授業を受けたかは明かさないでくれ」という要望もあったという。

サンデル教授は、この本の結論として「スカイボックス化」という言葉を挙げている。資本主義を推し進めて、あらゆるものを市場化している。

かつては、野球場は金持ちも貧乏人も10ドル出せば入れるという平等の象徴だった。ところが今は、年間何十万ドルもするスカイボックスを企業が独占し、金持ちはスカイボックスでプライベートパーティを開催し、一般客はスカイボックスを見上げる。「スカイボックス化」により、野球場は格差の象徴になったのだ。

サンデル教授は、「われわれが望むのは、何でも売り物にされる社会だろうか。それとも、お金では買えない道徳的・市民的善というものがあるのだろうか。」という言葉でこの本を終えている。


どの話題も簡単には解答を出せない。むしろ正解のない問題ばかりだ。実に考えさせられる本である。


参考になれば投票ボタンをクリック願いたい。



  
Posted by yaori at 00:29Comments(1)TrackBack(0)

2012年12月30日

なぜ日本経済は世界最強と言われるのか 日本国債は世界一安全?

なぜ日本経済は世界最強と言われるのかなぜ日本経済は世界最強と言われるのか
著者:ぐっちーさん
東邦出版(2012-09-14)
販売元:Amazon.co.jp

日本経済の強さを力説するブティック投資家・ぐっちーさんの本。会社の読書家の友人から借りて読んでみた。

ぐっちーさんは、1960年生まれ。丸紅を経て1986年にモルガン・スタンレーに移籍、給料が倍になったという。10年ほど在籍したのちに、欧米系金融機関のABNアムロ、ベア・スターンズなどを経て、ブティック投資銀行を開設した。ぐっちーさんのトークショウ広告に頭がぼさぼさで、時代劇に出てくる浪人風の写真が載っている。興味ある人はこちらをクリックして見てほしい。

この本は「グッチーさんの金持ちまっしぐら」というブログ(現在はGuccipostというウェブサイトに移行している)やメルマガの記事を編集加筆したもので、ぐっちーさんの最初の本だ。

一流の投資家であれば資産家が相手なので、一般大衆相手の本やメルマガなどは出さないだろう。どちらかというとメルマガ(月々840円で、数千人読者がいるという)や講演などで儲けているように思える。

とんでも本のように見えるが、予断を排して読んでみた。


ワイン談義はいただけない

ただし、米国と中国、米国と日本の関係を説明するのに、小泉首相訪米の時のディナーで出されたカリフォルニア州産ワインと2011年11月の胡錦濤主席の訪米の時のワシントン州産ワインの比較をして、小泉首相の時のワインの方が断然格上と言っているのはいただけない。

ぐっちーさんはシアトルでも仕事をしているそうだが、小泉首相訪米時のカリフォルニアワインを世界最高のジンファンデルの最高の作り手の最高ヴィンテージと絶賛し、胡錦濤主席訪米時のワシントン州のワインは格落ちとしている。

はたしてそうか?

ためしに楽天でそれぞれの銘柄の2008年ものの値段を調べてみると、次のような結果となった。

クイルセダ クリーク カベルネソーヴィニヨン コロンビアヴァレー[2008]△クリセダ クウィルシーダ クウィルシダ Quilceda Creek CabernetSauvignon ColumbiaValley [2008]△
クイルセダ クリーク カベルネソーヴィニヨン コロンビアヴァレー[2008]△クリセダ クウィルシーダ クウィルシダ Quilceda Creek CabernetSauvignon ColumbiaValley [2008]△

リッジ リットンスプリングス [2008] 750ml
リッジ リットンスプリングス [2008] 750ml

胡耀邦主席の時のワシントン州のクイルセダ・クリーク・カベルネが27,300円、小泉首相の時のリッジ・リットン・スプリングス・ジンファンデルが7,800円だ。

もちろんヴィンテージとか、採れたぶどう畑によりプレミアムがつくことがあるので、組み合わせによっては上記の楽天のような価格差が常にあるというわけではない。

ジンファンデルは、米国が最高なのかもしれないが、最高級赤ワインをつくれるぶどう品種ではないので、他の国や地域ではあまり生産されていないだけだ。その証拠に米国でもカリフォルニア以外の州ではほとんど生産されていない。

ワイン仲間を集めて、両方飲んでテイスティングしてみるが、赤ワインだけ比較すると、胡耀邦主席の時のワシントン州のワインの方が格上といわざるをえない。

ただし、大統領もブッシュとオバマで違うし、ぐっちーさんも書いているように、胡耀邦主席の時は、アメリカに来たらアメリカ料理でもてなすということで、リブアイステーキや、ロブスターなどの”オールアメリカン”の食事だった。

年配の中国人向け料理ではなく、胡耀邦主席は抵抗があったと思うので、赤ワインだけをとって一概に比較はできない。

”ワインは政治や企業にとってのいわば「戦略兵器」だとお心得ください”と書いているわりには、ワシントン州のワインを見くびっている点は残念だ。

ともあれ、本の他の内容は参考になる点が多いので、ぐっちーさんの論点を整理して紹介しておく。


日本国債は世界一安全?

日本国債は発行残高が1,000兆円を超える規模でも問題ない。日本の経済は世界一強いので、日本が破たんすることはない。年収200万円の亭主が1億円借金していても、奥さんが現金で2億円持っていることと同じだと。

2002年に日本の格付けが下がった時に、海外の格付け機関3社に対して財務省が出した意見書では次のように言っている。これは10年後の今も、外貨準備が中国に抜かれて2位となった(当時の2倍になってはいるが)以外は同じだ。

「日本は世界最大の貯蓄過剰国であり、国債はほとんど国内で極めて低金利で安定的に消化されている。また日本は世界最大の経常黒字国であり、外貨準備も世界最大である。日米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない。デフォルトとしていかなる事態を想定しているのか?」

消費税を上げないと日本が破たんするというのは、税金を上げたい財務省のプロパガンダにすぎないという。

このブログで紹介した高橋洋一さんの「さらば財務省」に高橋さん自身がつくったALM(アセット・ライアビリティ・マネジメント)システムの話が載っている。

さらば財務省! 政権交代を嗤う官僚たちとの訣別 (講談社プラスアルファ文庫)さらば財務省! 政権交代を嗤う官僚たちとの訣別 (講談社プラスアルファ文庫)
著者:高橋 洋一
講談社(2010-06-21)
販売元:Amazon.co.jp

日銀も金融庁もALMを持っていて銀行のポートフォリオを把握しているので、銀行が抜け駆けして国債を処分して国債が大暴落ということはありえない。

そもそもアジア通貨危機の時の韓国の政府債務のGDP比率は20%だった。債務のGDP比は、自国通貨だけの場合は意味がないという。いざとなれば紙幣を印刷すれば済むからだ。

ぐっちーさんの言うように「日本国債は100%安全」と言えるかどうかわからないが、紙幣を刷れば済むという問題ではある。

アルゼンチン駐在時代は年率100%超のインフレを経験した筆者としては、インフレがコントロールできないほど膨れ上がるのは問題だが、5%以下のインフレを覚悟して経済運営を取り進めるアベノミクスは、正しい方向性にあるのではないかと思う。


円高は本当に日本経済にとってダメージか?

世界で唯一国内だけで借金が賄えて、中央銀行がきちんと機能している国は日本しかないから円高になる。

円高で日本の輸出が減って、日本経済にダメージがあるとマスコミは宣伝するが、実はGDPに占める輸出の割合は14%で先進国ではアメリカに次いで低い。

scanner443





出典:本書81ページ

ぐっちーさんは触れていないが、自動車産業など輸出産業は裾野が広く、単純な輸出だけでなく、GDPでは国内取引としてカウントされる国内の素材や部品取引にも影響があることは、リーマンショックで経験したところだ。

しかし、そもそもGDPに占める製造業の割合は2割程度で、残り8割を占めるサービス産業などの第三次産業では、円高によるメリットの方が大きいだろう。

scanner447






出典:本書167ページ

「貿易立国」と筆者が小学校のころ習ったが、いまや「貿易立国」なのは韓国や中国で、日本は輸入も入れた貿易依存度では27%に留まり、こちらも先進国の中ではアメリカに次いで低い。

scanner444






出典:本書89ページ

さらに、貿易取引における円建比率は、輸出で41%と上がっている。たぶんトヨタグループとかの大企業グループ内の取引は円建てで輸出入していると思う。

輸入では円建て比率は23%だ。市況商品などの国際相場はドル建てなので、輸入はドル建てが一番多いのだと思う。

だから輸出は円建てで、輸入をドル建てにしておけば、円高でコストが下がるメリットを享受できる。たぶん円高をエンジョイしている企業は多いはずだ。

ぐっちーさんが会社四季報で調べたところ、海外売上高比率が5割を超えている輸出企業は、東証上場企業では286社(全体の「8%)のみで、海外比率30%まで下げても605社しかないという。

円高で儲けている企業は何も言わない。マスコミの「円高が日本経済をほろぼす」論調には、ぐっちーさんは警鐘を鳴らす。ローマ帝国以来、通貨高で潰れた国はないのだと。

この本が出た2012年10月当時は、1ドル=75円くらいだったのが、ここ1か月は「アベノミクス」で、円高修正に転じて1ドル=85円を超え、株価も上がっている。

為替相場はだれにも予測ができない。今後100円に近づくような局面があるのか、あるいは円高に戻すのかわからないが、為替が動けば投機資金も動く。円安となれば世界の投機資金が日本に集まることは間違いない。当面株高は続くだろう。


【余談】GDPに占める農業の割合は先進国では大体1%のみ

余談になるが、GDPに占める農業の割合は某政治家の発言もあった通り1.5%で、世界最大の農業国・米国でも1.1%に過ぎない。

もはや先進国では農業はGDPの1%前後というのが当たり前となっている。TPPにおける議論などでは、依然として農業の政治的発言力は強い。農業の重要性を否定するつもりはないが、冷静に考えれば、際限なく日本農業を支えることはできないことがわかる。


世界は日本を見直している

信義則が通用しない中国で痛い目にあった世界の企業は、信頼できる日本企業を見直しているとぐっちーさんは語る。

日本のように100年以上続いた企業が1万5千社もある国はない。世界の人々は3.11の大災害にあっても秩序正しく生活する日本人を見てわかった。

アフリカ諸国は中国の経済援助や大規模投資に一度は感謝した。

しかし、アフリカに雇用も富みも残さず、イナゴのようにやってきて資源と仕事を奪い尽くす中国は、昔アフリカを植民地にしたイギリス、フランスより悪い相手だったという「チャイナ・バッシング」が現在起きているという。


ヘッジファンドはいまや張り子の虎

この本の中で、最も参考になった部分がこれだ。

ボルカールールなどで金融機関のリスクテイクに対する締め付けが厳しくなっている。その結果、ヘッジファンドは資金源を断たれ、もはや日本政府に対抗できるようなヘッジファンドは存在しない。

2008年までヘッジファンドが大暴れしていた時代は、100億円の資金を元手に(エクイティーとして)CDO(債務担保証券)をつくって、銀行がそれに1,000億円から5,000億円の資金を融資した。

しかし銀行が自己資本比率を13%以上にしなければならない現状では、担保のないヘッジファンドに融資する銀行はない。だからヘッジファンドはいまや「張子の虎」となった。ソロスも同じで、日本政府、日銀に勝てるヘッジファンドなどもはや存在しないのだ。

ちなみに、いまや金融機関の取れないリスクを取っているのが総合商社だ。金融機関ではないのでボルカールールにはかからない。

総合商社は世界の脚光を浴びている日本的経営の最大の成功例であると丸紅出身のぐっちーさんは語る。

現在の総合商社は、貿易会社だけではなく、様々な分野での総合事業・投資会社に変身した。その意味ではぐっちーさんの言っていることは正しいと思う。


日本の年金は破たんするか?

年金制度については、出生率も高齢者比率も今の年金制度の前提より改善が見込まれるとぐっちーさんは指摘する。

マスコミでは少子高齢化による年金破綻をさかんに宣伝しているが、今の年金制度は出生率1.26、高齢者比率45%で計算している。現実は出生率1.35、高齢者比率が41%なので、現実は想定よりむしろ改善している。

正直あまり聞いたことがない話だが、ネットで調べるとちゃんと根拠があったので、茨城県県議会議員の井出さんのホームページに紹介されている平成19年の厚生労働省年金局の「人口の変化等を踏まえた年金財政への影響(暫定試算)」を紹介しておく。


日本は恒常的経常赤字国に転落する?

マスコミでは大震災の影響もあり、日本は2011年度に貿易赤字に転落し、2012年9月には過去最大の貿易赤字に転落したと報道している。

しかし不思議に所得収支も入れた経常収支のことは取り上げない。実は経常収支では黒字に変わりはないのだ。

日本の外貨準備高は中国に抜かれたが、日本は依然として世界最大の対外純資産保有国だ。日本の対外資産は582兆円で、負債を差し引いた対外純資産は253兆円で世界一である。

scanner448






出典:本書175ページ

これだけの対外資産から入ってくる所得収支が月間1兆円以上ある。だから貿易赤字があっても、経常収支では2011年度でも盤石の黒字だった。

2012年9月の季節調整済みの経常収支がマイナスになったと財務省は発表している。しかし、季節調整前で5,036億円の経常黒字が、季節調整後1,420億円の経常赤字になるというのは、計算根拠が良くわからないところだ。

日本は「金持ち父さん」風に言うと”ラットレース”の貿易取引で外貨を稼ぐのではなく、先進国型の”お金に汗をかかせる”対外投資で儲ける経済となっているのだ。

金持ち父さん貧乏父さん金持ち父さん貧乏父さん
著者:ロバート キヨサキ
筑摩書房(2000-11-09)
販売元:Amazon.co.jp



中国バブル崩壊

今度紹介する長谷川慶太郎の「中国大分裂」に詳しく説明されているが、ぐっちーさんも中国の現状を「バブル崩壊」と称して、つぎのような事象を挙げている。

中国大分裂 改革開放路線の終焉と反動中国大分裂 改革開放路線の終焉と反動
著者:長谷川 慶太郎
実業之日本社(2012-07-12)
販売元:Amazon.co.jp

★中国には金融政策など存在しない。中国では共産党が決断しないかぎり、金融政策に変更はない。

★中国の人民元の変動幅変更は後出しじゃんけん

★中国の生産人口はもう増えない 年金もない老人が多数いて、大きな社会問題になる可能性がある。

★中国は不動産バブル 500兆円が不要債権化する恐れもあるという

★外国人居住者からも社会保障費を徴収開始

★個人所得税の課税最低額を月間2,000元から3,000元に引き上げる一方、高所得者の税率はアップさせた人気取りの税制改革を行った。これにより給与所得者の9割は無税となり、残り1割のほとんどは税率10%で済む。高額所得者のみ45%の税金がかかる。

★中国人の高額所得者は海外、特にカナダに逃げている。平均7億5千万円の資産を持っている資産家96万人が資産を持って海外に流出しようとしている。日本が資産家移民を優遇したら、日本に移住する中国人は多いだろう。

★中国では地方政府の中央政府の政策に対する造反が起こっている。


苦境に立つ韓国経済

韓国の貿易依存度は9割に達していることを、上記の統計データで紹介した。ぐっちーさんが、韓国の現状を簡単に紹介している。

★2008年に3,174億ドルあった対外債務は、直近の2012年5月には4,100億ドルまで拡大している。ウォン安誘導で、対外債務の金利支払いが拡大しているためだ。

★日本が5.5兆円(700億ドル)のスワップラインを設定して韓国を救った。

★韓国政府の外貨準備高は3,100億ドルあると言われている。日本の外貨準備は現金や米国債など安全なドル資産だが、韓国の場合、米国債比率は12%しかない。残りはCDOなどの不要債権化した外国債券なども含まれており、すぐに現金化できない性質のものが多く含まれている。

★韓国がヘッジファンドに狙われないのは、単にヘッジファンドが資金を確保できていないからにすぎない。


最後にぐっちーさんは、「日本神話、いまだ健在」として、日本は実はうまくいっていることの例として、平均寿命の伸び、円の強さ、世界的に最低水準の失業率(4.2%)、経常黒字がバブル期の3倍以上もあること、香港+中国では日本が4兆円の輸出超過なことなどを挙げている。


日本国債が世界一安全かどうかわからないが、一般的なマスコミの論調とは違う論点は参考になる本だった。


参考になれば投票ボタンをクリック願いたい。






  
Posted by yaori at 17:06Comments(0)TrackBack(0)

2012年10月13日

もし小泉進次郎がフリードマンの「資本主義と自由」を読んだら マンガもしドラ

もし小泉進次郎がフリードマンの『資本主義と自由』を読んだらもし小泉進次郎がフリードマンの『資本主義と自由』を読んだら
日経BP社(2011-11-25)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

このブログでも紹介した「もしドラ(もし高校野球のマネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら)」の路線でミルトン・フリードマンの「資本主義と自由」を題材にしたマンガ。

資本主義と自由 (日経BPクラシックス)資本主義と自由 (日経BPクラシックス)
著者:ミルトン・フリードマン
日経BP社(2008-04-10)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

もしドラはマンガのような表紙だが、ビジネス書だ。一方、この本は表紙も内容もマンガで、もしドラのような驚きはない。

もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだらもし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら
著者:岩崎 夏海
ダイヤモンド社(2009-12-04)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

ちなみにもしドラは元AKB48の前田敦子主演で映画にもなっている。



小泉進次郎が首相になる前の近未来日本図

時は2015年。「主民党」は2011年の東日本大震災の対応のまずさで国民の信頼を失い、2013年の総選挙で「民自党」に敗れ、政権を奪還された。

民自党は、「山柿定和」首相のもとで、「教明党」との連立で政権にあたったが、2014年に消費税を10%に上げたものの、不況による税収減少で、ほとんどプラスマイナスゼロとなり、財政赤字は増え続けた。

2015年初の国債の入札で、国債が大量に売れ残る「札割れ」が起こり、長期金利は急上昇した。山柿総理は日銀引き受けを実施させたが、これが「日本の財政はついに破たんした」というシグナルを市場に送る結果となり、日本の銀行は一斉に国債を売り始めた。

長期金利が1%上がると、1兆円の損失が出るといわれるメガバンクが大量に国債を売り始めると、ほかの金融機関も追従し、外資系ファンドも大量の空売りを浴びせかけたので、国債は暴落して長期金利は10%を超えた。

まさに現在スペインやギリシャなどEUの国々で起こっている事態だ。

たちまちのうちに邦銀は軒並み数十兆円の含み損をかかえ、日経平均は6,000円を割った。


狂乱物価で200%を超すインフレに

長い間デフレが続いていた日本経済だが、いったんインフレが起こると、増幅するのはや訳、邦銀が売った国債を日銀が買い取ると、市場に50兆円以上の通貨が供給され、物価は1か月で10%以上上昇し、インフレ率は200%になり、狂乱物価が始まり、金が暴騰した。

円建て資産を売って、外貨に換えようという動きが広がり、円は1ドル=150円まで下がり、輸入物価のインフレを引き起こし、それによって金利が上がるというインフレ・スパイラルが起こった。

ちなみに、日本人で年率200%のインフレを体験したことがある人はほとんどいないと思うが、筆者は1978−1980年の間にアルゼンチンに駐在していたので、200%のインフレを経験した。

給料は現地通貨のペソ建てだったので、給料をもらったら、すぐにドルや金貨に変えていた。インフレ率は月15−20%で、為替の下落率は10−15%だったので、ドルに換えても目減りはするが、それでもペソのまま置いておくよりは良かった。

1週間からある銀行の定期預金金利も月15%くらいだったので、大幅な為替の切り下げが予想されない時は、銀行預金に預けてドルベースで5%前後の金利を稼いでいた。

ドルベースで半年で30%くらいの利率となり、元手はすくないものの、結構エンジョイしたが、大幅な切り下げがあるかもしれないという雰囲気となり、定期預金を引き出して金貨にして運用していた。

金も当時は1オンス300ドル台だったのが、ピークでは800ドルを超え、結局売った時は600ドル台だったので、1年でほぼ倍以上になった。

最も得をしたのが、狂乱インフレが始まる前にペソ建てで車のローンや、家のローンを組んだる人たちで、買った時は2万ドルくらいした車が、ペソが下落したために、結局3,000ドルの負担にしかならなかったという人が続出した。

筆者も含めて今は家のローンは変動金利にしている人が多いと思うが、現在1%前後の金利が、これから5−10年くらいのうちに5%から10%くらいに上がる可能性がある。

だから、この本で想定しているような国債の「札割れ」がもし将来起こったら、すぐにローンを固定金利に切り替えることをおすすめする。

閑話休題。


小泉進次郎首相登場

経済の大混乱を招いた山柿首相は交代し、民自党総裁選挙の結果、小泉進次郎が総理大臣に選ばれる。

「主民党」の「後原誠司」代表とか、官房長官に「酒中平蔵」、幹事長は「野河太郎」、財務大臣「大山さつき」、防衛大臣「岩破茂」とか、完全にパロディだ。元東京都副知事の「小ノ瀬直樹」、元大阪府知事の「本橋徹」も閣僚になっている。

経済産業大臣兼農業水産大臣には民間から「樫井正」ファーストファッション会長を入れ、農業水産分野は今はGDPの1%もないとして、特別扱いせず、経済産業省の農林水産局として統合するという。


サッチャーの政策の支えとなったハイエク

サッチャー元英国首相は、1975年に就任した時に、ハイエクの「自由の条件」を取り出して、「これが私たちの信じているものだ」と宣言したという。

自由の条件I ハイエク全集 1-5 【新版】自由の条件I ハイエク全集 1-5 【新版】
著者:F.A. ハイエク
春秋社(2007-08)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

それをにならって、小泉進次郎は、ミルトン・フリードマンの「資本主義と自由」を「私のやりたいことはここに書いてあります」と取り出す。それがこの本の表紙に載っている絵だ。

小泉進次郎








マンガなので詳しいあらすじは紹介しないが、「ミルトン・フリードマン」の主張はあまり紹介されていないので、ちょっと看板に偽りありという感じだ。


銀行の取り付け騒ぎが発生し、モラトリアムに

国債が暴落して、金融機関に100兆円以上の含み損が発生したので、銀行の返済能力を怪しんだ民衆が銀行に預金引き出しに殺到し、取り付け騒ぎが起こる。

銀行は一時閉鎖され、日本政府がモラトリアムを宣言し、ペイオフが実施される。

小泉進次郎は、お父さんの小泉純一郎さんがやった「郵政民営化選挙」にならって、「第二の郵政解散」をして、総選挙の結果、史上最大の圧勝を収め、IMFを事実上の進駐軍として、フリードマンの「いらないものリスト」にならって、年金を廃止し「負の所得税」に切り替えて、歳出の大幅カットと、増税で国を建てなおし、2020年までにプライマリーバランスを黒字にするというシナリオとなる。

ミルトン・フリードマンの16の「いらない」ものリストは、池上彰さんの「池上彰のやさしい経済学1」のあらすじを参照願いたい。

池上彰のやさしい経済学―1 しくみがわかる池上彰のやさしい経済学―1 しくみがわかる
著者:池上 彰
日本経済新聞出版社(2012-03-24)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

ストーリー展開はさることながら、国債暴落、円急落、メガバンク倒産、ペイオフ、年金廃止、消費税20%など、5−10年くらいのタイムスパンだと、すべて起こりうるシナリオだと思う。

政府には頼れない。結局自分の資産と生活は自分で守るしかない。そんなことをあらためて考えさせられる本である。


参考になれば投票ボタンをクリック願いたい。




  
Posted by yaori at 00:00Comments(0)TrackBack(0)

2012年09月18日

「財務省」 ミスター円が描く大蔵省・財務省

財務省 (新潮新書)財務省 (新潮新書)
著者:榊原 英資
新潮社(2012-06-15)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

元大蔵省財務官(渉外関係を担当する次官級のポスト)で、在任中はミスター円と呼ばれた榊原英資さんの近著。

榊原さんの本は「日本は没落する」、「没落からの逆転」、「政権交代(小沢一郎との対談も収録)」、「フレンチ・パラドックス」の4冊をこのブログで取り上げているので、こちらも参照願いたい

榊原さん自身も言っている通り、表に出たがらず、黒衣(くろこ)に徹する大蔵省・財務省出身者の中ではマスコミにもよく登場する榊原さんは異色の存在だ。

榊原さんは1941年生まれ。東大経済学部を卒業した時は日銀に就職が決まっていたが、日銀に行くのが嫌になり、1年間ぶらぶらしていたところ、当時の大蔵省の高木文雄秘書課長(のちの国鉄総裁)に会い、大蔵省入りを勧められて1965年に入省した。

1965年入省組は20人のうち経済学部出身が7名で、そのうち3名が小宮隆太郎ゼミ出身者だった。ほとんどが東大法学部という例年の採用パターンとはかなり違っていた。高木さんが秘書課長2年めの年で、”多少遊んでみた”採用の結果だと。その次の1966年入省は最も充実してバランス良く採用できたし、”会心の作”だという話が、榊原さんが引用している「財務官僚の出世と人事」という本に書いてあるという。

財務官僚の出世と人事 (文春新書)財務官僚の出世と人事 (文春新書)
著者:岸 宣仁
文藝春秋(2010-08)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

ちなみに榊原さんの同期の1965年入省では、事務次官になった薄井信明さん(元国民生活金融公庫総裁)や、国税庁長官から公正取引委員会委員長になった竹島一彦さんのほうが財務省内での出世という意味では上を行っているという。


親財務省の本

この本では「ホテル大蔵」と呼ばれ、毎晩深夜残業して予算をつくったり、国会の質問に準備する大蔵省・財務省のキャリア官僚の仕事は肉体的にきついが、「省のなかの省」として他の官庁ににらみをきかせ、政治家と連携しながら法律をつくる「事実上の政治家」であり、その後の出世や政界進出にもつながるというやりがいがある仕事であることを誇りを持って語っている。

榊原さんは「親財務省」であり、その意味では、みんなの党の江田憲司の「財務省のマインドコントロール」や、小泉純一郎内閣の時の竹中平蔵のブレーンだった高橋洋一の「「借金1000兆円」に騙されるな」などとは、正反対の立場だと公言している。

財務省のマインドコントロール財務省のマインドコントロール
著者:江田 憲司
幻冬舎(2012-03-28)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

「借金1000兆円」に騙されるな! (小学館101新書)「借金1000兆円」に騙されるな! (小学館101新書)
著者:高橋 洋一
小学館(2012-04-02)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

さらば財務省! 政権交代を嗤う官僚たちとの訣別 (講談社プラスアルファ文庫)さらば財務省! 政権交代を嗤う官僚たちとの訣別 (講談社プラスアルファ文庫)
著者:高橋 洋一
講談社(2010-06-21)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

特に「霞が関埋蔵金を使えば増税は必要ない」と主張し、30年近く務めた財務省を悪しざまに言う高橋洋一は、榊原さんは無責任な議論で、信用していないと批判している。高橋さんの「さらば!財務省」はこのブログでも紹介しているので、参照願いたい。

筆者は長年商社に勤め、官庁とはほとんど接点がなかったので、この本に出てくる歴代大蔵事務次官やその他大蔵省・財務省高官の列伝は、知らない人ばかりで、今一つピンとこない。

筆者の同期の昭和51年入省組と次の昭和52年入省組は、昭和49年入省組から丹呉泰健さんと杉本和行さんの二人が事務次官がでたあおりをくって、事務次官を出せずに、すべて退任しているというのは残念だ。唯一金融庁の畑中龍太郎長官が昭和51年入省組の出世頭だという。

49年入省の異例の2人事務次官に続き、最近退官した大物次官の昭和50年入省の勝栄二郎さんが2年以上事務次官を務めたあおりを食ったのが、本当の理由だと思う。


勝(前)次官をべた褒めする榊原さんの真意は何か不明

このブログで紹介した4冊の本のように榊原さんは政権交代前は盛んに民主党のちょうちん本ばかり書いて、あわよくば堺屋太一さんのように民主党政権の大臣に収まりたかったのだと思うが、その目が消えた今、今度は財務省、特に勝栄二郎(前)次官をほめそやしており、何をやりたいのか不明だ。

勝栄二郎(前)次官は、10年に一度の大物次官ということで、野田内閣を陰で操って消費税増税を実現した張本人と言われている。

榊原さんが国際金融局長だったときに、勝さんが為替資金課長を2年間務めて、日独米の「サプライズ介入」を実施し、80円前後だった円を100円前後にまで戻したという上司・部下の関係がある。

勝さんは留学経験のない「マルドメ派」ではあるが、ドイツで育ったのでドイツ語はペラペラ、英語力もあり、多彩な能力と経験を持ち、特にその根回しの力は優れているとべた褒めだ。

日米独協調介入の時も、ドイツはドイツ語の堪能な勝さんが担当し、米国は当時の米国サマーズ財務長官とハーバード客員教授時代に太いコネがある榊原さんが担当するというタッグを組んでいたからこそ成功した経緯がある。

ちなみに勝さんは、独協高校から昭和44年の東大入試が無かった年に早稲田の政経に入学し、早稲田卒業後、昭和48年に東大に学士入学して、東大法学部を昭和50年に卒業するという経歴の持ち主だ。独協高校からは東大の入学者は毎年は出ていないので、あるいはダイレクトで東大を受けたら今の勝さんはなかったかもしれない。高校や大学の成績と、社会に出てから成功する能力とは別物だと考えさせられる一例である。


日本は財政規模でも公務員数でも小さな政府の優等生?

日本の公務員は、諸外国に比べて国民一人当たりの公務員数も少ないし、財政規模からみてもOECD諸国の中で小さな政府の優等生なのだと。日本はとても効率の良い国で、その効率を支えているのが官僚たちなのだと榊原さんは書いており、次の統計を紹介している。

scanner395











たしかに公務員の数や財政規模だけから言ったら、そうなるのかもしれないが、隠れ公務員のような多くの外郭団体があり、国民の実感とは異なると思う。

榊原さんが攻撃しているのは、政治家、特に地方議員で、公務員給与削減する前に、地方議員の歳費カットを行えと主張している。都道府県議会の議員の平均年収は2000万円を超え、これは米国の州議会議員の5倍以上、イギリスとフランスの地方議員の30倍以上、スイスでは無報酬だという。


財務省の組織図

財務省と金融庁の組織図は次の通りだ。

scanner394





出典:本書34ー35ページ

このうち財務省の心臓ともいうべき主計局には3人の次長、課長級ポストの主計官は11名で、担当は次のようになっている。

・総務課(2名、予算統括と企画)
・内閣、外務、経済協力
・防衛
・総務、地方財政
・司法・警察、財務、経産、環境
・文部科学
・厚生労働第1
・厚生労働第2
・農林水産
・国土交通、公共事業統括

主計官の下には、課長補佐である主査が2−3人いる。主計局だけ、役職呼称が別なのは、主計局が他局より上だという意識があるからだろうと。

「ぶった切りの保さん」と言われ、東京湾横断道路や関西新国際空港などの大型プロジェクトに軒並みゼロ査定をした元事務次官の保田博さんは、厳しく査定をしながら、応援団にもなるというデリケートな役割をこなしていたが、厳しい査定をすることで有名だったテレビにもよく登場する女性(元)主計官は、「厳しいというより冷たい」と、あまり好かれていなかったという。


昭和の3大バカ査定

大蔵スキャンダルで大蔵省を退職した田谷廣明は、毎日のように料亭に部下を連れ出しては豪快に遊んでいたそうだが、昭和の3大バカ査定は、戦艦大和、伊勢湾干拓、青函トンネルだと言いきって、政府予算の無駄遣いを戒めた肝っ玉の太い人物でもあるという。

大蔵スキャンダルでは、中島義雄主計局次長と田谷廣明主計局総務課長が退職に追い込まれ、4名の逮捕者があり、112人が処分され、榊原さんも戒告処分を受けたという。一人の課長補佐がキャリアとしてただ一人逮捕され、有罪となった。

当時は接待は常識化していて、問題という意識はなかったので、大蔵省では「検察ファッショ」だと言われていたという。今から思えば毎日料亭で接待というのは明らかに過剰だが、当時の感覚では、役人接待は普通だったかもしれない。時代の流れということなのかもしれない。


デュプティーズ

榊原さんは自分が財務官だったこともあり、国際金融正治の舞台では、テクノクラートのデュプティーズ(次官)が実質取り仕切り、決めていると誇りを持って語っている。デュプティーズはお互い親しく、率直に話しあえるのだと。


ワルは大蔵省では褒め言葉

財務省は悪役と思われるほうがかっこいいという美学があるという。

ワルの条件はセンス、バランス感覚と度胸だという。

次官の器は「あいつがそこまで言っているんじゃしょうがない、と相手を納得させられる器量、相手を最後の最後まで追い込まない、ハンドルの遊びを持つ人柄、あいつなら危急存亡のときでも安心して組織のかじ取りを任せられるという安定感」だという。


総理秘書官は出世コース

大蔵大臣秘書官、総理秘書官は出世コースの一里塚なのだと。歴代次官は総理秘書官経験者が少なくない。そもそも政治家の事務所通いは日課なのだと。法案の根回し等で主計局や主税局の人間は毎日議員会館通いをしているという。

予算も法律も国会が決定権を持っているので、日ごろから政治家と接触し、良好な関係を保っておくことが、財務官僚にとっては最重要課題の一つだという。榊原さんも宮沢喜一事務所にはよく通ったものだと。


民主党野田政権にはブレーンがいない


松下政経塾出身者は演説はうまいが、行政や経済についてはしろうとで、経済界や行政界に人脈もない。政治主導をうたったところで、それを実現するメカニズムがない。民主党野田政権にはブレーンがいないのだと。

だから政治主導を実現するためには、かつての池田内閣時代の下村治や田村敏雄、田中内閣の下河辺淳のような人や、経済界から協力してくれる牛尾治朗のような人が必要だと。

しかし松下政経塾出身者にはそういった人脈はなく、頼れる財界人としては稲盛和夫くらいしかいないという。


総じて、元大蔵官僚のプライドが、今年71歳になった榊原さんを動かしているのだと感じた。榊原さんは官僚引退後、大学を点々としたが、元大蔵官僚というプライドがひょっとすると邪魔していたのかもしれない。

榊原さんは筆者が9年間駐在したピッツバーグの、ピッツバーグ大学にも留学経験のある親しみがある人だが、もはやトシかもしれないと感じる本だった。

特に違和感を感じたのが、平成23年度入省者17人の名前と出身大学・学部、出身地を一覧にした表をこの本で公開していることだ。彼らの今後のキャリアがどうなっていくか見たい(経年変化を見たい?)ということだが、名前を出された本人達はえらい迷惑だと思う。

ともあれ、ジャーナリストが書く財務省の本と違って、インサイダーが書く本はやはり内容が違う。まずは本屋で手に取ってパラパラめくってみることをお勧めする。


参考になれば投票ボタンをクリックして頂きたい。




  
Posted by yaori at 23:07Comments(0)TrackBack(0)

2012年08月14日

産業構造ビジョン2010 経済産業省が総力を結集した2010年の国家戦略レポート

産業構造ビジョン〈2010〉我々はこれから何で稼ぎ、何で雇用するか産業構造ビジョン〈2010〉我々はこれから何で稼ぎ、何で雇用するか
経済産業調査会(2010-07)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

他の本で紹介されていたので図書館で借りて読んでみた。レポート本体は「産業構造ビジョン2010」という経産省のウェブサイトの特設ページで公開されているので、ダウンロードしてもよい。

ただ、レポート本体は400ページ弱、レポートの内容と重複するものが多い討議資料が300ページくらいあるので、自分で印刷するのは大変だ。図書館にリクエストすれば、取り寄せてくれると思うので、最寄の図書館でチェックしてほしい。

またこのレポート作成の仕掛け人である経済産業省の柳瀬唯夫氏(当時大臣官房総務課長)が、2011年2月に開催されたJETROのシンポジウムでレポートの趣旨を説明しているので参考になると思う。

日本がこれから何で稼ぎ、何で雇用するかは、大変重要なテーマだし、日本国民みんなが問題意識を持っていると思う。

それについて経済産業省が総力を結集し、パナソニック、東京電力、三菱商事、三菱化学、みずほコーポレート銀行、トヨタ、東芝など、次の様な経済界や各界の代表者を集めて開催した「産業構造審議会産業競争力部会」の報告書だ。

部会長:伊藤元重氏(東京大学大学院経済学研究科教授)

・青山理恵子氏(社団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会副会長)

・秋山咲恵氏(株式会社サキコーポレーション代表取締役社長)

・逢見直人氏(日本労働組合総連合会副事務局長)

・大坪文雄氏(パナソニック株式会社代表取締役社長)

・勝俣恒久氏(東京電力株式会社取締役会長)

・小島順彦氏(三菱商事社長)

・小林喜光氏(三菱化学社長)

・佐藤康博氏(みずほコーポレート銀行取締役頭取)

・重久吉弘氏(日揮グループ代表)

・白石隆氏(総合科学技術会議議員)

・妹尾堅一郎氏(東京大学特任教授NPO法人産学連携推進機構理事長)

・千金楽健司氏(株式会社アパレルウェブCEO)

・土屋了介氏(国立がんセンター中央病院病院長)

・鶴田暁氏(環境テクノス(株)代表取締役)

・寺島実郎氏(財団法人日本総合研究所会長、三井物産戦略研究所会長)

・西田厚聰氏(株式会社東芝取締役会長)

・長谷川閑史氏(武田薬品工業社長)

・宮島香澄氏(日本テレビ解説委員)

・森正勝氏(国際大学学長)

・渡辺捷昭氏(トヨタ自動車株式会社取締役副会長)

筆者は経産省が開催した「企業ポイント研究会」のメンバーとして呼ばれたことがある。この種の審議会は官僚と事務局(大体はコンサルタント会社)が一緒になって、プレゼン資料や報告原案をつくり、月に1回程度開催される会議で、委員の意見を聞き、異論がなければ事務局案通りに進められるというやり方だ。

議事内容は録音され、一言一句記録に残される。速記録は公開される場合と、公開されない場合があるようだ。

この「産業構造ビジョン2010」は経産省が総力を結集して作り上げたレポートで、マクロ的視野から各産業ごとの個別施策など、非常に充実した内容になっている。

最も関心のある「日本はこれから何で稼ぎ、何で雇用するか」については、次がこの報告書のまとめだ。

何で稼ぎ何で雇用するのか






民主党が政権を取った直後の2010年6月に出されたもので、分析内容や基本的な方向性は今でも参考になる。唯一の違いは3.11と福島原発事故後の原子力政策に関する状況変化だが、それ以外は現在でも通用する状況認識と方向性だと思う。

この報告書のなかで、文化産業立国政策の一環として、ソフトパワー強化や、日本文化を産業化などの提言が出てくる。

これを総称して「クール・ジャパン」と言い、角川書店会長の角川歴彦さんなどが本を書いている。これは米国のルーズベルトがニュー・ディールの一つとして打ち出した芸術家雇用政策「フェデラル・ワン」や、英国のトニー・ブレア前首相が打ち出した「クール・ブリタニア」に着想を得たもので、韓国も同じような「Cool Korea」をスローガンにしているとは知らなかった。

クラウド時代とクール革命 (角川oneテーマ21)クラウド時代とクール革命(角川oneテーマ21)
著者:角川 歴彦
角川書店(角川グループパブリッシング)(2010-03-10)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

この報告書では、単に構想のみのものも紹介されている。そのうちの一つが外国人ポイント制度だ。

外国人ポイント制






高度人材受け入れのために、学歴、資格、職歴、研究実績、予定年収、年齢、日本語能力をポイント化して、一定ポイント以上の外国人は、在留資格取得を簡素化したり、在留期間を現行の3年から5年にする、最短5年(現行10年)の永住権取得などで優遇するという。

優秀なアニメ、映像クリエーターなどは、大学に行かない人が多いため、現行の在留制度では資格基準を満たさない。それが機会損失となっているという声があるという。

これは小手先だけの議論という気がする。日本はまだ、外国人居住者をどんどん増やすということには踏み出していないと思う。だからこのような小手先の解決策が出てくるのだろうが、このポイントシステムを構築して運営するコストを考えると机上の空論ではないかという気がする。

ともあれ、全体としてよくまとまっている報告書であることは間違いない。たとえば、最近あまり話題にならない超電導についても、次のような図が紹介されていて参考になる。

超伝導




福島原発事故もあり、この報告書がほとんど引用されず、単に報告書を作っただけにとどまっているのは残念だ。

まずは骨子をダウンロードして、是非一度どんなものか見てみることをお勧めする。


参考になれば投票ボタンをクリックして頂きたい。




  
Posted by yaori at 12:44Comments(0)TrackBack(0)

2012年07月11日

池上彰のやさしい経済学1 わかりやすくためになる経済学の基礎

池上彰のやさしい経済学―1 しくみがわかる池上彰のやさしい経済学―1 しくみがわかる
著者:池上 彰
日本経済新聞出版社(2012-03-24)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

池上さんの「やさしい〜」シリーズは何冊も読んだ。この本の姉妹編の「やさしい経済学2」も読んだが、1の方が経済学の勉強という意味で役に立つ。

この本では、そもそも経済って何だろうか?という質問から始まって、最初の2章は、経済学の基礎知識の説明や、銀行ってどんな仕事をしているんだろう?というような、まさに「週刊子どもニュース」のノリだ。

たとえば、お金に関する漢字の多くが貝偏なのは、中国では子安貝をお金に使ったから。サラリーと呼ぶのは、古代ローマでは塩(サラリウム)が兵士の給料として支給されていから、というような面白くてためになる情報が多い。

しかし、この本の真価は、その次の偉大な経済学者の理論のわかりやすい紹介にある。池上さんは、この本でアダム・スミス、カール・マルクス、(デヴィド・リカード)、ケインズ、ミルトン・フリードマンの4人についてわかりやすく解説している。

現在日経新聞で連載している関連記事も同様の内容だ。

池上











出典:日経新聞

実は、4人の中で筆者が読んだのは、アダム・スミスの本だけということで、不勉強を反省するとともに、筆者の経済学の知識が乏しいことにあらためて気づかされた。

筆者は大学2年の時に内田忠夫先生の「経済学」を学んだが、ほとんど覚えていない上に、その後読んだ本も限られている。

内田先生の授業を受けて、推薦書のサミュエルソンの「経済学」を英語で読もうと思って、本を買うまではよかったのだが、大学生の英語力では限界があり、数式などもあって、結局挫折してしまった。

EconomicsEconomics
著者:Paul Anthony Samuelson
McGraw-Hill(2010-04)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

それが後を引いて、経済学は難しいという固定観念ができてしまった。マルクスの「資本論」も読んだというか、字面だけ眺めたようなものだ。難解な上に、時代も違うので、全然理解できなかった。

資本論 1 (岩波文庫 白 125-1)資本論 1 (岩波文庫 白 125-1)
著者:マルクス
岩波書店(1969-01-16)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

最近「まんがで読破」シリーズの「資本論」を読んだが、これがはたして理解に役立つのかわからない。

資本論 (まんがで読破)資本論 (まんがで読破)
著者:マルクス
イースト・プレス(2008-12-01)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

続・資本論 (まんがで読破)続・資本論 (まんがで読破)
著者:マルクス
イースト・プレス(2009-04-28)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

アダム・スミスの「国富論」は数年前に、日経新聞版が出た時に読んだ。これはまさに古典であり、それまで聞いてきたことを自分で確かめたという感じだ。「国富論」は”見えざる手”で有名だが、”見えざる手”という表現は一か所に、それも目立たず出てくるだけだ。

その後のアダム・スミスの評価がこの一言で決まったといってもよい言葉だが、本の中ではさらりと扱われているのが印象に残る。

国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究(上)国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究(上)
著者:アダム・スミス
日本経済新聞社出版局(2007-03-24)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究 (下)国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究 (下)
著者:アダム・スミス
日本経済新聞社出版局(2007-03-24)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

この本は京都造形芸術大学での講義を元にしたもので、前記のように日経新聞でも毎週?連載されている。経済学部ではない大学生に対する講義なので、非常にわかりやすい。

まず、アダム・スミスについては、「見えざる手」=市場の自動調節機能を中心に、「国富論」で出てくるピンを自分で作る場合と、分業して作る場合などの有名な例を紹介しながら説明している。

マルクスについては、資産家の友人のエンゲルスの援助を受けられたからこそ、労働が価値を生み出し(労働価値説)、資本家は労働者を搾取しているとして、いずれは労働者が革命を起こすと説きつづけられたことを説明している。

しかし、その後生まれた社会主義国は効率が悪いので、ことごとく失敗して、ソ連など大半の国は資本主義に戻ったことなどを、旧東ドイツ製のトラバントというおもちゃのような自動車を例に出しながら説明している。

800px-Trabant_601_Mulhouse_FRA_001





出典:Wikipedia

ケインズについては、1929年の世界恐慌のあと、恐慌から脱出する政策として、政府が赤字国債を発行して資金を調達し、それを使って公共事業を拡大して、雇用を維持し、経済を回復させるという処方箋を書いて、米国を大恐慌から回復させた(もっとも米国が経済回復したのは、第2次世界大戦で大量の武器を生産したからという説もある)ことを紹介している。

またロシアのバレリーナと大恋愛して、それでお金が必要だったことも付け加えている。

デヴィッド・リカードについては、「比較優位」の考え方で、国際貿易は双方の国にとってメリットがあると主張して、国際貿易の飛躍的拡大をもたらしたことを紹介している。

最後にシカゴ学派のボス、新自由主義の旗手・ミルトン・フリードマンの経済理論をわかりやすく紹介している。

筆者はミルトン・フリードマンやシカゴ学派の理論については、ほとんど理解していなかったことが、この本を読んでわかったので、現在「資本主義と自由」を読んでいる。

資本主義と自由 (日経BPクラシックス)資本主義と自由 (日経BPクラシックス)
著者:ミルトン・フリードマン
日経BP社(2008-04-10)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

小泉・竹中改革は、シカゴ学派の新自由主義を日本に導入しようとするものだ。「もしドラ」の二番煎じのような「もし小泉進次郎がフリードマンの『資本主義と自由』を読んだら」も、この点を書いているのではないかと思うので、今度読んでみる。

もし小泉進次郎がフリードマンの『資本主義と自由』を読んだらもし小泉進次郎がフリードマンの『資本主義と自由』を読んだら
日経BP社(2011-11-25)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

フリードマンの学説は、シカゴ学派、マネタリストと呼ばれ、絶対自由主義の立場は、このブログで紹介したマイケル・サンデルの「これからの正義の話をしよう」で有名になった「リバタリアン」と呼ばれており、小さな政府を提唱し、米国の「ティーパーティ」政治運動にも影響を与えている。

これからの「正義」の話をしよう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)これからの「正義」の話をしよう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
著者:マイケル サンデル
早川書房(2011-11-25)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

フリードマンの理論を、池上さんは、次の「こんなものいらない」リストで紹介しており、こんな考え方もあるんだと、頭の体操をすることを勧めている。

1.農産物の買い取り保証価格制度
2.輸入関税または輸出制限
3.家賃統制、物価・賃金統制
4.最低賃金主義や価格上限統制
5.現行の社会保障制度
6.事業や職業に関する免許制度
7.営利目的の郵便事業の禁止(これが小泉郵政民営化の基本だ)
8.公営の有料道路
9.商品やサービスの参入規制
10.産業や銀行に対する詳細な規制
11.通信や放送に関する規制
12.公営住宅及び住宅建設の補助金
13.平時の徴兵制
14.国立公園
15.企業のメセナ活動
16.累進課税(ユニタリータックス提唱)

フリードマンは、学校選択制も提唱している。

日本でも新自由主義的な政策は、橋本政権から「金融ビッグバン」ということで始めており、小泉改革では派遣労働の自由化を推し進めたことで、格差拡大をもたらしたと非難されている。

エキセントリックな議論が多く、賛否両論があるフリードマンだが、上記のような本を何冊か読んでみる。


まさに「やさしい経済学」というタイトル通りだ。経済にはあまり詳しくない人に絶対おすすめの本である。


参考になれば投票ボタンをクリックして頂きたい。







  
Posted by yaori at 23:10Comments(0)TrackBack(0)

2011年12月21日

日本の未来について話そう マッキンゼー編集の日本再生への提言

日本の未来について話そう日本の未来について話そう
小学館(2011-07-01)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

3.11後の日本の再生についてマッキンゼーが世界各国、各界の経営者、知識人、著名人などにインタビューし、あるいは寄稿を頼んでまとめた日本再生への提言集。

この本はアマゾンの「なか見!検索」に対応しているが、すべての目次は表示されないので、「なんちゃってなか見!検索」で目次を紹介しておく。

はじめに 明るい未来を創るために ドミニク・バートン(マッキンゼー代表パートナー社長)

第1章 日本の再生へ向けて

3.11が予感させる「国家の地殻変動」 船橋洋一(朝日新聞社 前主筆)

がれきのなかに見えた日本の課題と未来 ヘンリー・トリックス(「エコノミスト」日本支局長

「ガマン」の力 トム・リード(「ワシントンポスト」前東京支局長

実行の時がきた ピーター・タスカ(評論家、アーカス・インベストメント創業パートナー)

日本よ、いますぐ目を覚ませ 長谷川閑史(武田薬品 代表取締役社長)

第2章 再び変化の時代へ

コスモポリタン国家への転換 イアン・ブルマ(作家)

変革へのギアチェンジ カルロス・ゴーン(ニッサンCEO/ルノーCEO)

モノづくりの時代を超えて 孫正義(ソフトバンク社長)

若者よ、日本を出でよ 柳井正(ファーストリテーリング社長)

「変化への抵抗」という錯覚 ジョン・ダワー(MIT名誉教授)

ジャパン・アズ・ナンバーワンはどこへ エズラ・ヴォーゲル(ハーバード大学名誉教授)

「失われた20年」からの脱却 デビッド・ザンガー

第3章 再建のための現状把握

過去から未来へのメッセージ スティーブン・ローチ(モルガン・スタンレー・アジ
ア会長)

7人のサムライを呼べ アダム・ボーゼン(ピーターソン国債経済研究所 シニア・フェロー)

数字で見る日本の競争力 クラウス・シュワブ

日本が世界の未来に向けて貢献すべきものとは 岩崎夏海(作家)

光(エネルギー)を絶やさないために ブルッキングス研究所

第4章 国際化への鍵

「日本企業のグローバル化」への具体的施策 マッキンゼー

グローバル企業への変身 前田新造(資生堂会長)

鎖国を解く グレン・S・フクシマ(エアバス・ジャパン会長)

保守化する若者 山田昌弘(中央大学教授)

野茂効果 ロバート・ホワイティング(作家)

ベンチから見た日本野球 ボビー・バレンタイン(野球監督)

サッカーで見る日本 岡田武史(前サッカー日本代表監督)

第5章 日本外交政策の選択

日本に突きつけられた選択肢 ビル・エモット(「エコノミスト」前編集長)

米国の戦略的資産としての日本 マイケル・グリーン(ジョージタウン大学準教授 CSIS日本部長)

中国と向き合う 田中均(日本国際文化交流センター シニア・フェロー)

外交力のない国、ニッポン ポール・ブルースタイン(ブルッキングス研究所)

第6章グローバルな視座

パーフェクトブレンドを求めて ハワード・シュルツ(スターバックス会長)

米国中西部から極東へ ボブ・マクドナルド(P&G CEO)

社長 島耕作からのアドバイス 弘兼憲史(漫画家)

着眼大局、着手小局 坂根正弘(コマツ会長)

アジアのパイオニア ピーター・レッシャー(シーメンスAG CEO)

第7章 技術と思考のイノベーション

ガラパゴスからの脱出 関口和一(日本経済新聞論説委員)

Tシャツか着物か セナパティ・ゴバラクリシュナン(インフォシスCEO)

日本のハイテク企業を再起動させる4つのモデル マッキンゼー

シリコンバレーのDNA 南場智子(DeNA前CEO)

日本ゲーム産業のネクストミッション 稲船敬二(コンセプト社長)

独自性から強さを築く ジョン・チェンバース(CISCO CEO)、エザード・
オーバービーク(CISCOジャパン社長)

クリーン・テクノロジーの先鋒の地位を守れるか マッキンゼー

第8章 人材の「発見」と活用

リーダーの必須条件 柴田拓実(野村ホールディングス COO)

若者に席を譲ろう 岡田元也(イオン社長)

ワーク・ライフバランスと女性の活躍 小室淑恵(ワーク・ライフバランス社長)

家族を第一に 佐々木かをり(イーウーマン社長)

企業家と女性が拓く日本の未来 スティーブ・ヴァンアンデル(アムウェイ・コーポレーション会長)

教育改革の第一歩は、民間校長の登用 藤原和博(前和田中学校長、著述業)

第9章 文化の継承と発展

秋田犬の系譜 マーサ・シェリル(小説家)

目利きの文化 ベルナール・アルノー(LVMH CEO)

「ポスト・ラグジュアリー」の時代 タイラー・ブリュレ(「フィナンシャルタイムズ」コラムニスト)

日本美食革命 グゥエン・ロビンソン(「フィナンシャルタイムズ」記者)

外から見た日本ブランド論 クリストファー・グレイヴス(オグルビーCEO)

立体緑園都市構想 森稔(森ビル社長)

日本建築に宿る温故知新の心 鈴木エドワード(建築家)

たとえ多くが変わっても ピコ・アイヤー(作家)

おわりに 日本のロードマップーこれから20年の道筋 エアン・ショー(マッキンゼー日本支社長)


さすがマッキンゼーという感じで、様々な立場の人が、いろいろな見地から寄稿しているが、フォーカスが定まらない印象がある。この手のオムニバス論文集ではやむをえないところかもしれない。

あえて言えば、財政再建、移民問題、教育問題(向上心)が日本再生のカギとなるというのが、多くの論者の語るところだ。

この中でもっとも注目したのは、かつてベストセラーとなった「ジャパン・アズ・ナンバーワン」を書いたハーバード大学名誉教授のエズラ・ヴォーゲルさんの「ジャパン・アズ・ナンバーワンはどこへ」だ。
 
Japan As Number One: Lessons for AmericaJapan As Number One: Lessons for America
著者:Ezra F. Vogel
iUniverse(1999-06)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

ジャパン・アズ・ナンバーワンジャパン・アズ・ナンバーワン
著者:エズラ・F. ヴォーゲル
阪急コミュニケーションズ(2004-12)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

筆者も会社に入ってすぐにジャパン・アズ・ナンバーワンを英語で読んだ。元々は1979年発刊なので、たぶん1980年頃だと思う。表紙は今は赤だが、出版された当時は同じデザインで青だった。

米国の傲慢な思い込みに対する警鐘として書いた本だが、多くの人がタイトルに飛びつき、マスコミが取り上げて、日本が世界一の経済国になるなどありえないと批判した。

ヴォーゲルさんは、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」でも日本が世界一の経済大国になるとは、ひとことも言っておらず、「日本という国はいろいろなことをたいていの国より上手にこなしている」と言ったまでだと語る。

そのヴォーゲルさんは、今の日本の将来を大変心配していると語る。

日本の根本問題は高齢化などではなく、日本には政治家が長期的視点に立って考えることができる制度が必要なのに、それが欠けていることが最大の問題だという。

毎年莫大な歳出赤字を垂れ流すシステムでは到底続けていけない。

日本にはかつて、たとえば経済産業省のような有能な人材から成るエリート集団が存在しており、かれらが1970年代を通じて一貫した将来計画を打ち出していた。ところが1990年代に各政党が崩壊すると、一貫性がなくなった。

かつては中曽根康弘首相(在任は1982〜1987年)のような強力なリーダーがいたが、いま強力なリーダーになりえる人材は河野太郎氏や林芳正氏くらいしかいないという。

中国に関しては、日本は中国に「戦後日本がどのように平和主義に転じたか、1980年代に日本がどれだけ中国を援助したかを、どのように国民に伝えていますか?」と問うべきだという。

高齢化については、ヴォーゲルさんは80歳だが、いまでも多少の仕事はしていると語る。肉体労働中心の昔ならともかく、頭脳労働の場合には60歳定年よりも5〜10歳ほど延長しても良いのではないかと。

日本は深刻な高齢化問題に直面しているとは考えていないとヴォーゲルさんは語る。


作家のロバート・ホワイティングさんの「野茂効果」や、十年前は海外比率は10%だったのが、今は40%以上となっているという資生堂の前田さんや、「コーヒージェリーフラペチーノ」や「抹茶ラテ」は日本発だと語るスターバックスのシュルツCEOの話、コマツの坂根会長の話も参考になった。

65人が寄稿する400ページあまりの本だが、興味ある論者のものをピックアップして読んでも良いと思う。


参考になれば投票ボタンをクリックしてください。






  
Posted by yaori at 12:58Comments(0)TrackBack(0)

2011年11月02日

総理、増税よりも競り下げを! 衆議院議員 村井宗明さんの提言

総理、増税よりも競り下げを!総理、増税よりも競り下げを!
著者:村井宗明
ダイヤモンド社(2011-08-26)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

当選3回、富山一区選出の衆議院議員村井宗明さんの競り下げ(リバース・オークション)導入のすすめ。書店で目に付いたので、読んでみた。書店に並んでいる本にはこんな帯がついている。

scanner244











リバース・オークションについては、筆者は思い入れがある。

実は2度めの米国駐在の時にインターネット上のリバース・オークションサービスを提供しているピッツバーグの会社に投資して関係をつくり、共同で事業展開をするために日本に戻して貰ったのだ。

その会社から貰った日本語取材ビデオが次のものだ。



取材の条件としてビデオ公開の権利を貰ったということだった。

次が9分とちょっと長いが英語版のサービス紹介のビデオだ。



帰国後2年ほど電子部品や化学品原料などの様々な原材料でトライアルを重ね、リバース・オークションの事業採算を検討していた。

平均するとコストセーブは10%を超えたが、結論としてはリバース・オークション自体は国や地方公共団体中心に普及していくだろうが、商社として採算性が見込めないということでやむなく撤退した。

あれから10年経って、オークション自体は地方公共団体が税金の差し押さえで没収した美術品や様々な商品を中心に広く普及したが、調達コストを下げるリバース・オークションの普及は今ひとつのようだ。

この本では郵便事業会社でのリバース・オークション導入で、2010年上半期には141億円の予算のところ、13億円コストが下がったこと、なかには60%以上も予算より削減できた案件があったことを紹介している。

scanner245





出典:本書28−29ページ


少額随契で160万円未満は担当者の自由

国や独立行政法人には「少額随意契約」と呼ばれる制度があり、160万円未満の購入や250万未満の工事は担当者の自由に決められる。

2008年度に国が結んだすべての契約156万件のうち、89%の138万件は少額随意契約で、その実態は未公表で闇の中だという。

scanner246










出典:本書88ページ

160万円を超える案件でも、160万円以下に分割してしまえば、網の目をくぐることができる。実際に恣意的に分割して会計検査院が摘発した例が紹介されている。まさに氷山の一角である。

この本では文房具やコピー用紙を例にとり、官公庁がかなり高く物品を購入していることを報告している。たとえばコピー用紙の例ではグリーン購入法を満たすコピー用紙の民間価格はA4で0.54円なのに対して、官公庁の平均は0.677円で、民間よりも24%高く買っている。

各官庁がバラバラで購入するのでなく、まとまって共同購入という形を取ることでも、少額随意契約からはずれ、調達コストは下がる。

海外に於ける財政再建への取り組みとしては、英国の保守党・自由民主党連合政権の打ち出した2015年に財政収支を黒字化、そのために2011年度は医療費と海外援助を除いた政府全体の支出を19%削減するという予算編成を紹介している。

英国では公共機関の調達をサポートするBuying Solutionsという会社を通じてリバース・オークションを導入してきており、いままで平均14%コストを削減し、コスト削減額の合計は32億ポンド(4,000億円)に上る。

手法としては共同購入のためのWebカタログと、リバース・オークション、共同調達だ。Webカタログではサプライヤーの価格や条件が比較できる。またサプライヤー側にも、中小企業でも政府調達に参加できるというメリットもある。

インターネット・リバース・オークションは2010年は128の公共機関で実施し、コスト改善率は31%だったという。このオークションの仕組みはZanzibarと呼ばれている。

リバース・オークションが有効になる条件として次を挙げている。これがまさにキーポイントである。

1.供給市場に競争環境があること
2.調達の仕様が明確であること

この辺は米国駐在時代を含め1999年からリバース・オークションを研究してきた筆者がノウハウを持っているところだ。


日本での適用

民主党国土交通質問研究会では、日本でリバース・オークションサービスを提供しているディーコープの谷口 健太郎社長を招いて講演してもらったという。

会社のコストを利益に変える リバースオークション戦略会社のコストを利益に変える リバースオークション戦略
著者:谷口 健太郎
東洋経済新報社(2010-04-23)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

ディーコープでのリバース・オークションの国内導入例は次の通りだ。

scanner247











出典:本書145ページ

東大の小宮山前総長がインバーター蛍光灯の一括購入で半値近くなったと言っていたことがあるから、東大の導入例は蛍光灯かもしれない。

ディーコープはソフトバンクグループの会社で、筆者が日本でリバース・オークションのトライアルをやっていた2000〜2002年当時に名前は聞いたことがある。

筆者たちがあきらめた、リバース・オークション・サービスを続け、今や170人くらいの社員を雇用しているのは大したものだと思う。

ちなみに日本で過去、最もリバース・オークションを活用していたのはダイキンだと思う。しかしそのダイキンも、長年リバース・オークションを利用してコスト削減の効果が十分出たと思うので、最近はリバース・オークションをやっているのかどうかわからない。

すかいらーくなどは2001年当時は食材の調達にリバース・オークションを毎週何度も開催していたが、現在は多分やめているのだと思う。


リバース・オークションで2兆円国の歳出を削減

リバース・オークションを国の一般会計に導入すると、2兆円程度のコスト削減が期待できるという。

リバース・オークションが成功するためには、仕様の明確化とより多くの企業の参入が不可欠である。それを実現するためには、次がポイントになる。

・具体的
・オーバースペック禁止
・継続的な費用
・品質
・インターネット
・流動性
・匿名性
・見積期間
・手続きの簡素化

リバース・オークションサービス提供者への報酬は、固定費型と成果報酬型があり、村井さんは成功報酬型が効果が高いと考えていると語っている。

まさに筆者たちが陥った「採算性が見込めないので、事業撤退」というストーリーが繰り返されるようなシナリオが見えてくる。

この10年間日本のe調達は全く進歩していないと感じる。リバース・オークションは強力な武器だが、使い方が難しく、上記のような要件が揃わないと効果を発揮しない。

筆者はかつてリバース・オークションを日本に普及させるために帰国した経緯もあり、リバース・オークションが国や公機関の調達で浮上して欲しいという気持ちは強い。抵抗は強いだろうが、村井議員に期待するところ大である。


特記事項 IMFが進駐してくるとどうなるか?

日本政府が財政破綻して、IMFの管理下にはいると、どうなるか予測したネバダ・レポートというものがあり、国会で財務副大臣の五十嵐文彦衆議院議員が報告しているという。その内容は次の通りだ:

1.公務員の総数、給料は30%カット、ボーナスは例外なくすべてカット
2.公務員の退職金は一切認めない 100%カット
3.年金は一律30%カット
4.国債の利払いは5年〜10年停止
5.消費税の20%引き上げ。課税最低限を引き上げ、年収100万円から徴税を行う
6.資産税を導入し、不動産に対しては公示価格の5%を課税。債権、社債については5〜15%の課税
7.第1段階として、預金の一律ペイオフを実施
8.第2段階として、預金の30%から40%を財産税として没収

どの程度現実化するかは不明だが、IMF管理下にはいると、国民生活に大きな影響がでることは間違いない。参考になる情報である。


参考になれば投票ボタンをクリックして頂きたい。






  
Posted by yaori at 01:04Comments(0)TrackBack(0)

2011年09月26日

日本中枢の崩壊 経産省古賀茂明さんの本 キワモノ告発本にあらず

日本中枢の崩壊日本中枢の崩壊
著者:古賀 茂明
講談社(2011-05-20)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

最近テレビで見かける経済産業省大臣官房付の古賀茂明さんの本。家内が図書館から借りていたので読んでみた。アマゾンの売り上げで現在19位のベストセラーだ。書店で平積みにしてある本には次のような帯がついている。

scanner131












本の帯には「日本の裏支配者が誰か教えよう」とかいういかにもキワモノ的なキャッチが書いてあるので、以前からあるようなキワモノの(元)官僚による個人攻撃だらけの告発本かと思ったら全然違った。

告発している部分もあるが、政治家などの公人を除き、官僚の個人名は一切伏せられており、告発が目的の本ではないことがわかる。

次に目次を紹介しておく。細かく各節の題が載っており、目次だけを読んでも内容が推測できるすぐれた目次である。序章と終章だけ各節のタイトルを紹介しておく。まずは書店で立ち読みして目次を読んで欲しい。


序章 福島原発事故の裏で

・賞賛される日本人、批判される日本政府
・官房副長官「懇談メモ」驚愕の内容
・「ベント」の真実
・東電の序列は総理よりも上なのか
・天下りを送る経産省よりも強い東電
・「日本中枢の崩壊」の縮図

第1章 暗転した官僚人生

第2章 公務員制度改革の大逆流

第3章 霞ヶ関の過ちを知った出張

第4章 役人たちが暴走する仕組み

第5章 民主党政権が躓いた場所

第6章 政治主導を実現する3つの組織

第7章 役人ーその困った生態

第8章 官僚の政策が壊す日本

終章  起死回生の策

・「政府閉鎖」が起こる日
・増税主義の悲劇、「疎い」総理を持つ不幸
・財務官僚は経済が分かっているのか
・若者は社会保険料も税金も払うな
・「最小不幸社会」は最悪の政治メッセージ
・だめ企業の淘汰が生産性アップのカギ
・まだ足りなかった構造改革
・農業生産額は先進国で2位
・「逆農地改革」を断行せよ
・農業にもプラスになるFTAとTPP
・「平成の身分制度」撤廃
・中国人経営者の警句
・「死亡時精算方式」と年金の失業保険化
・富裕層を対象とした高級病院があれば
・観光は未来のリーディング産業
・人口より多い観光客が訪れるフランスは
・「壊す公共事業」と「作らない公共事業」
・日本を変えるのは総理のリーダーシップだけ
・大連立は是か非か

補論  投稿を止められた「東京電力の処理案



この本を読んで古賀さんが真の憂国の士であることがよくわかった。古賀さんは既得権に執着する霞ヶ関の官僚が、公務員制度改革を骨抜きにしている実態を明らかにしたことから、出身の経産省はもとより、財務省からもにらまれ、経産省からは2010年10月末で退職しろという勧告を受けるなど様々な圧力、誹謗中傷を浴びている。

古賀さんは経産省の大臣官房付という閑職に1年以上も追いやられているが、雑誌・テレビ等のマスコミに頻繁に登場する古賀さんを経産省の幹部は苦々しく思っている様だ。

この本を読むといかに菅政権の打ち出した公務員制度改革を官僚が骨抜きにしていったのかがよくわかる。ただ公務員制度は戦後何十年も掛けてできあがったいわば「エコシステム」であり、古賀さんのような異端者がポッと出ても事態は変わらないだろう。


天下りがなぜいけないのか

古賀さんは2010年10月15日の参議委員予算委員会で、天下りの問題点について発言し、その場で当時の仙石官房長官の恫喝を受けた経緯を語っている。

その国会発言のなかで、なぜ天下りがいけないか次のように整理している。

天下りがいけない理由は、第1には天下りによってそのポストを維持することにより、大きな無駄が生まれ、無駄な予算が維持される。第2には民間企業も含め天下り先と癒着が生じる。これにより企業・業界を守るために規制は変えられないとか、ひどい場合には官製談合のような法律違反も出てくる。

一部に退職金を2回取るのが問題という話もあるが、それは本質的な問題ではなく、無駄な予算が山のように出来る、癒着がどんどん出来るのが問題だと。

これに対する現在の霞ヶ関のロジックは、1.官庁からの天下りの斡旋等は一切ない、あくまで本人が求職活動をしたものである。2.現役出向は「官民交流法」に基づいた民間のノウハウ吸収である。(現役出向先の企業への再就職も、一旦役所に戻って定年退職した後はOK)というものだ。

特に現役出向に関する菅政権の「退職管理基本方針」の問題点について古賀さんが「週刊東洋経済」に寄稿したところ、霞ヶ関の「アルカイーダ」、「掟破り」として古賀さんは全霞ヶ関から監視されているという。

週刊 東洋経済 2010年 10/2号 [雑誌]週刊 東洋経済 2010年 10/2号 [雑誌]
東洋経済新報社(2010-09-27)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

古賀さんは大腸ガンで手術して、その後腸閉塞を併発して体調を崩し抗ガン剤を飲みながら闘病を続けていたこともあるという。

大腸ガンは死亡率が高く、男性でガン死亡率の第3位、女性ではガン死亡率の1位になっている病気だ。ひょっとすると長くは生きられないかもという不安が、古賀さんの勇気ある発言を支えているのかもしれない。

2158





出典:http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/2158.html

この本では古賀さんの官僚人生での功績にも触れている。GHQが財閥解体のために残していった純粋持株会社を解禁する独禁法第9条の改正、ガソリンスタンドのセルフ給油解禁、クレジットカード犯罪の刑罰化などが古賀さんの成果だ。官僚の仕事の進め方がわかって興味深い。


古賀さんの日本起死回生策

上記目次で紹介したように、古賀さんはこの本の終章で具体的な起死回生策を提案している。「若者は社会保険料も税金も払うな」などという過激な提案もあるが、さすがに政策論争に慣れた経済官僚だけあって、提案内容は練れていると感じる。

ただこれらの政策提案は、上記の目次を見るとわかるように、いわば「暴論」であり、これらが現状では政策として実現する可能性は低いといわざるをえない。

日本の財政破綻を回避する方法として、政府は増税で何とかしようという知恵しかない。これは自民党政権でも菅政権でもバリバリの増税論者の与謝野馨氏を経済財政政策担当大臣にしたことから明らかだ。これは消費税増税を狙う財務省のたくらみ通りである。

このままいくと日本の消費税は30%になり、経済は縮小し、町には失業者があふれ、犯罪も増え治安も悪いという悲惨な国になっていく可能性が高い。数年内に歳入不足で「政府閉鎖」が起こる可能性もある。

英国の「エコノミスト」誌は、「日本人はこの震災を機に、自らの対応能力と世界から寄せられる畏敬の念によって自信を取り戻すかも知れない」と語っているという。この世界からの期待に応えられるような社会を作らなければならない。

そのための古賀さんの起死回生策をまとめると次のようなものだ。実現性は非常に疑問ではあるが、方向性として正しい議論もある。

1.国の保有資産はJT,NTT株でも公務員宿舎でも独立行政法人の資産でも何でも売って数百兆円の資産売却を行う。

2.社会保障費の削減。支給額削減、先延ばし、富裕層支給カット。「死亡時精算方式」、年金の失業保険化

3.農業、中小企業、組合だからという助成策はすべてやめる。

4.公務員は大幅削減、給与も民間以上にカット、天下り団体は廃止。

5.タブー廃止。農業への株式会社参入OK,休耕地課税、TPP参加、時間をかけても関税撤廃。3ちゃん農業=兼業農家保護縮小。

6.消費税アップだけでなく相続税改革も含めた税制改革を行う

7.衰退産業・企業は潰して有望な企業・産業にスクラップ・アンド・ビルド 観光を未来のリーディング産業に



特記事項

他にも参考になった情報をいくつか紹介しておく。ただし、真偽のほどは確認する必要があるということを言い添えておく。

・東電を含め電力業界は、日本最大の調達企業なので他の業界のお客さんだ。自民党の有力な政治家を影響下に置き、労組を動かせば民主党も言うことを聞く。巨額の広告料でテレビ・新聞などマスコミを支配し、学界に対しても研究費で影響力を持っており、誰も東電には逆らえない。だから菅総理が怒り狂って東電に殴り込みにいっても、「総理といえども相手にせず」という態度だった。

・OECD駐在中に送電分離を唱えた古賀さんはあやうくクビになるところだった。

・現みんなの党渡辺喜美代表から、自民党時代に行革・規制改革担当大臣になったときに補佐官就任要請があったが、大腸ガンの予後が悪く断ったという。渡辺さんは即断の人だという。

・2008年6月福田内閣で成立した「国家戦略スタッフ創設」、「内閣人事局の創設」、「キャリア制度の廃止」、「官民交流の促進」などを柱にした国家公務員制度改革基本法案を中曽根元総理は「これは革命だよ」と言ったという。

・2008年7月に発足した国家公務員制度改革推進本部事務局の審議官に就任した古賀さんは、それから官僚人生の暗転が始まったという。

・経産省では日本企業の細やかな「擦り合わせ」こそ、他国がマネのできない特有の文化で、日本の競争力の原動力との解釈がまかり通っている。

・国税庁は普通に暮らしている人を脱税で摘発し、刑事被告人として告訴できる。金の流れが不透明な政治家は国税庁が怖く、国税庁を管轄する財務省には刃向かえない。ジャーナリストもマスコミも同じだ。古賀さんもマスコミ関係者から「国税のことは書かない方が良いよ」といわれたという。

・小泉首相は政策は竹中平蔵氏をトップとする竹中チーム、マスコミ対策は飯島秘書官の飯島チームを持っていたので、強力なリーダーシップを発揮できたが安倍さんは自前のチームを持たなかった。


現役官僚の暴露本というキワモノではない。政策の妥当性はさておいて、日本の将来を本気で心配する古賀さんの官僚としての良心がわかる本である。


参考になれば投票ボタンをクリックして頂きたい。





  
Posted by yaori at 23:28Comments(1)TrackBack(0)

2011年06月27日

三度目の奇跡 日本復活への道 日経新聞の特集記事

緊急出版 三度目の奇跡 日本復活への道緊急出版 三度目の奇跡 日本復活への道
日本経済新聞出版社(2011-05-17)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

2011年元旦からスタートした日経新聞の連載シリーズ。

途中で東日本大震災と福島原発事故が起こり、当初の「平均年齢45歳の国の未来図」を描く特集が、大震災・原発事故からの復興を目指す記事に変わった。

参考になる情報が多く載せられている。印象に残ったものをいくつか紹介しておく。

★枝野官房長官は「復興庁創設」に意欲を示しているが、官僚は冷めているという。「ハコ作りに力を割いている場合じゃない。」「民主党政権は『形』にばかりこだわる」。これらは経済官庁幹部の発言だという。

各官庁の事務次官・局長レベルは民主党の動きの遅さにさじを投げているという話も聞いたことがある。

「いくら情報を官邸に集約しても、その後の指示が降りてこない」と官僚は語る。

この本には書いていないが、筆者の言葉では「ヘッドレス・チキン」。これが菅政権を形容する言葉だ。

★宮城県石巻市の「イトーヨーカドー石巻あけぼの店」は地震の影響で、建物が一部損壊した。しかし営業をやめたのは3時間だけだった。店頭で飲料水、カップ麺、乾電池など数十品目を販売したのだ。

「まさか開いているとは思わなかった」東北にあるイトーヨーカドー全10店舗は一日も営業をやめていないという。

★バングラデッシュからも日本への援助が寄せられている。日本は1972年にバングラデシュがパキスタンから独立して、先進国で最初に承認した。そのことを覚えている人々も多いという。

★バングラデッシュでは日本のベンチャー企業が活躍している。例えば納豆のねばねば成分を固めた水浄化剤「ポリグル」を売る日本ポリグルだ。

2007年のサイクロンの時に、現地にサンプルを送ったら好評で、ヤクルトレディに倣いポリグルレディを通じて売っているという。

★中国政府系のシンクタンクは、「人民元高を容認する『中国版プラザ合意』はありえない」としている。こんなジョークがあるという。「日本のことを研究するな。社会主義になってしまう」。

★陸軍の秋丸次朗中佐の「戦争経済研究班」は、陸軍きっての実力者で、当時の軍務局軍事課長の岩畔豪雄(いわくろひでお)に命じられ、1939年から日米開戦を前提に世界大戦の予測をした。

メンバーの有沢広巳(英米班)、中山伊知郎(日本班)、武村忠雄(独伊班)の報告は、「日本の生産力はもうこれ以上増加する可能性はない」、「ドイツはこれ以上の余力なし」。最終結論は「日本の経済力を1とすると英米は合わせて20。日本は、2年間は蓄えを取り崩して戦えるが、それ以降は経済力が下降線をたとり、英米は上昇し始める。彼らとの戦力格差は大きく、持久戦には耐えがたい」だった。

開戦直前の1941年半ばに陸軍首脳らに対する報告会が開催された。列席した杉山元参謀総長は「報告書はほぼ完璧で、非難すべき点はない」しかし、「その結論は国策に反する。報告書の謄写本はすべて燃やせ」。

「見たくないものは見ない」という態度が太平洋戦争の惨劇を招いた。1988年の有沢広巳死後に、遺品から秋丸報告書の一部が発見されたという。

いまこそ戦時の失敗に学べと日経新聞はいう。

★JA(農協)に頼らない人たちが増えている。コメリの出す「アグリカード」は、支払いは年1回、収穫月だけでよいという。カード保有者は4万人、コメリの売上高は3千億円で、JAの2兆円には及ばないが、存在感は小さくない。

★人材を輸出する韓国。
李明博大統領は「2013年までに5万人の海外就職、3万人の海外インターンシップ、2万人の海外ボランティアを育てる」グローバルリーダー10万人育成計画を打ち出した。

韓国人の若者が日本にも求職に来る。「韓国の就職は本当に厳しく、会社に入っても週末に自分の時間が全然取れない。日本企業は給料も労働環境もいいので、日本でずっと頑張っていきたい」という。

韓国では最低賃金が安いので、日本の若者のように「フリーター生活」で暮らしていくこともままならないのだという。

厚生労働省の国民生活基礎調査によると、国民所得がピークだった1994年と2008年を比べると、平均的な日本国民はどんどん貧しくなっている。

                   1994年      2008年
一世帯当たりの年間平均所得  664万円      548万円
300万円以下の世帯比率     23.5%      33.3%
800万円以上の世帯比率     29.1%      21.3%

実際のグラフは次の通りだ:

2-1a







出典:国民生活基礎調査(平成21年版)

平均所得金額以下の世帯比率が増え、所得がより低い層が増加していることを示している。

2-2b





出典:国民生活基礎調査(平成21年版)

次は、以前紹介した大前研一さんが、近著「日本復興計画」で示していた図だ。

scanner064












出典:「日本復興計画」109ページ

先進国のなかで日本だけが国民所得が減少していることがわかる。

もっとも、これらのグラフだけから結論付けるのは事実認識を誤る危険がある。日本の場合、1994年の1世帯当たりの人員は2.95人だったが、2008年では2.62人になっている。

世帯数と平均世帯人員




出典::国民生活基礎調査(平成21年版)

同じ時期で、高齢者世帯が4百万世帯から9.6百万世帯に、単身者世帯は8百万世帯から12百万世帯に増えている。

筆者は平均世帯所得が減少している傾向として正しいとは思うが、為替相場とかインフレ率や世帯構成の違いなどを考慮にいれないと、Apple-to-appleの比較や正確な評価はできない。

主に年金で生活する高齢者世帯と単身者世帯が増えることにより、平均では日本人は貧しくなっているようにみえることも留意しておく必要があるだろう。

ちなみにこの点は筆者の会社の読書家の友人から指摘があったので付記したものだ。



その他にも参考になる事例が多い。簡単に読めるので、是非一読をおすすめする。


参考になれば投票ボタンをクリックして頂きたい。


  
Posted by yaori at 14:28Comments(0)TrackBack(0)

2011年06月06日

日本復興計画 大前さんの原発事故と東日本大震災からの復興計画

日本復興計画 Japan;The Road to Recovery日本復興計画 Japan;The Road to Recovery
著者:大前 研一
文藝春秋(2011-04-28)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

大前さんがビジネスブレークスルー大学院大学で東日本大震災と、その後の福島原子力発電所事故について解説した番組を加筆して緊急出版したもの。

このブログでも紹介している通り、大前さんは東日本大震災が起こり福島の原発事故が発生した直後の3月13日から毎週、ビジネスブレークスルー大学院大学で原発事故について講義をしていた。これらはYouTubeにも収録されている。



大前さんは当初からこれで日本原子力産業は終わったと言っていた。

大前さんの復興計画の根幹をなすのは次の2点だ。

1.道州制
2.個人の意識改革

道州制については、大前さんが「平成維新の会」を立ち上げる前から主張しているものだ。

今回の提案は、被災地に最初に道州制を導入するという先行導入案だ。県単位でバラバラに復興計画が出されて、全体最適が損なわれる事態を、道州制を導入して全体で整合性のある復興計画にしようというものだ。

たとえば昔の「ここより下には家をつくるな」の石碑などの例にならい、住居は高台につくり、漁師などは海辺に車で通勤するとかの提案が含まれている。



最近では道州制賛同者も増え、公的な会議の議題にも道州制が上る様になってきた。先日前経団連の御手洗さんの講演を聞く機会があった。御手洗さんも道州制を復興計画の柱として提案されていた。

2.の個人の意識改革というのは、大前さんが「大前流心理経済学」などで、繰り返し提案しているものだ。

大前流心理経済学 貯めるな使え!大前流心理経済学 貯めるな使え!
著者:大前 研一
講談社(2007-11-09)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

次の表の通り、日本は20年間所得が減り続けている世界唯一の先進国だという。これを克服するには日本人のメンタリティを変えなければならない。住宅、車、教育の3大熱病は早く治すべきだと語る。

scanner064












出典:本書109ページ


筆者の場合、すべての「熱病」を抱えており、いまさらどうにもならないが、たしかに賃貸物件もいいものがあるので、若い人がこれからマンションとかを買うのは考えた方が良いかもしれない。


特筆すべき発言

テレビ放送を本にしたものなので、オフレコ的な発言も収録されている。

★たとえば4島返還でなくてもよいから日露平和条約を早期に締結して、シベリアの無人地域に核廃棄物の埋設場所を確保させてもらうことを提案している。

放射性廃棄物の問題は日本の国難であり、北方4島と次元が異なる問題だからだという。

合理的な提案かもしれないが、ロシアと日本の国民感情を考えれば、到底受け入れられる提案とは思えない様に筆者には思える。

今後紹介する「大前研一 洞察力の原点」で、世間話ができないことを「大前研一敗戦記」で書いていることが紹介されている。


世間話ができない

「日本全体のこととか、世界経済だとか、東京全体の問題とかは、一生懸命考えてきたけれど、下町の風景のなかでおじいちゃん、おばあちゃんと世間話ができない。

日本改造から自分はスタートしたが、まずは自分の改造が崎だということに気がついたのだった。」

原出典;「大前研一敗戦記」

「シベリアで核廃棄物埋設場建設」というのも、この傾向が出ていると思う。つまり大前さんの欠点の一つは、庶民感覚がないのだ。


★大前さんの奥さんはアメリカ人なので、アメリカ大使館から連絡があってヨウ素カリを大使館指定の薬局でもらってきたという。アメリカの本気度と日本に対する信頼のなさが読み取れるという。

表の顔、裏の顔を使い分けて万全を期すのがアメリカのやり方だ。いかにもありそうな話だと思う。


★日本には「ウラの国策」があり、プルトニウムをためていけば90日で原爆が造れるという。日本は唯一の被爆国として非核三原則を掲げているが、それに抵触しないで核武装の能力だけは備えておく、つまり90日で原爆を作る能力のある「ニュークリア・レディ」国なのだ。

だから使用済み核燃料を国内にずっとため込んでいるのだと。

この「ニュークリア・レディ」の話を読んで、大前さんもヤキがまわったと思っていた。

以前「日本は原子爆弾をつくれるのか」で紹介したとおり、プルトニウム原爆の起爆装置は非常に複雑で、実験もできずノウハウもない日本が90日で原爆ができるとは到底思えない。

Implosion_bomb_animated








出典:Wikipedia

日本は原子爆弾をつくれるのか (PHP新書)日本は原子爆弾をつくれるのか (PHP新書)
著者:山田 克哉
PHP研究所(2009-01-16)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

ましてや運搬手段のミサイルも爆撃機もない日本で、原爆弾頭だけつくっても、何の役にも立たない。そもそも原爆保有を大多数の国民が許すとは到底思えず、中国や北朝鮮から攻められるとかいう事態があっても、国民のコンセンサスは得られないのではないか?

ところが、最近読んだ京都大学原子炉実験所小出裕章助教の「隠される原子力・核の真実」という本を読んで、日本はせっせとプルトニウムをため込んでおり、すでに長崎原爆を4,000個つくれるだけのプルトニウムを保有していることがわかった。

scanner066










出典:「隠される原子力・核の真実」46ページ

隠される原子力・核の真実―原子力の専門家が原発に反対するわけ隠される原子力・核の真実―原子力の専門家が原発に反対するわけ
著者:小出 裕章
創史社(2011-01)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る


大前さんはヤキがまわったのではなく、元原子力関係者として一般人が知らない真実をチラッと明かしただけなのかもしれない。そんな気がした。


大前さんはこの本の印税をすべて寄付するという。震災・原発直後の復興提案としては提案スピードといい、提案内容といい、優れたものだと思う。

本を読むか、あるいは上記のYouTubeの2番目の映像の公開講義を見ることを、ぜひおすすめする。


参考になれば投票ボタンをクリックして頂きたい。





  
Posted by yaori at 13:02Comments(0)TrackBack(0)

2011年03月11日

経済古典は役に立つ 竹中平蔵教授の経済史講義

経済古典は役に立つ (光文社新書)経済古典は役に立つ (光文社新書)
著者:竹中平蔵
光文社(2010-11-17)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

小泉内閣で経済財政政策担当大臣、金融担当大臣、郵政民営化担当大臣などを勤め、名実共に小泉首相の片腕として活躍した慶應大学教授、グローバルセキュリティ研究所所長の竹中平蔵さんの本。

慶應大学丸の内シティキャンパスでの「問題解決のための経済古典」という5回ものの講義がベースになっている。

慶應丸の内







章のタイトルは次の通りだ。サブタイトルとして細かく分かれており、目次だけ見ても中身が推測できる優れた目次なので、ここをクリックして目次をチェックして欲しい。


第1章 アダムスミスが見た「見えざる手」

第2章 マルサス、リカード、マルクスの悲観的世界観

第3章 ケインズが説いた「異論」

第4章 シュムペーターの「創造的破壊」

第5章 ハイエク、フリードマンが考えた「自由な経済」


今回竹中さんが紹介している本では、筆者はアダム・スミスの「国富論」だけは2年ほど前に日経新聞社のものを読んだ。

国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究(上)国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究(上)
著者:アダム・スミス
日本経済新聞社出版局(2007-03-24)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

経済を勉強する人には「国富論」は間違いなく古典の一つとしておすすめできる。

ただし、「見えざる手」というのは、竹中教授も指摘している通り上下2巻1、000ページのこの本で、たった1ヶ所しか出てこない。(下巻31−32ページ)

アダム・スミスも「見えざる手」が、やがて「神の見えざる手」という風に解釈され、アダム・スミスの代表的な議論として有名になることなど予想もしていなかったのだろうと思う。

マルクスの「資本論」、マルサスの「人口論」は学生の時に読んだ。マルサスの方は内容はおぼろげながら覚えている。

人口論 (中公文庫)人口論 (中公文庫)
著者:マルサス
中央公論新社(1973-09)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

実は1972年に出たローマ・クラブという世界の学者の集まりが出した「成長の限界」という警鐘を鳴らす本がベストセラーになったので、その関係でマルサスの「人口論」を読んだのだ。

成長の限界―ローマ・クラブ人類の危機レポート成長の限界―ローマ・クラブ人類の危機レポート
著者:ドネラ H.メドウズ
ダイヤモンド社(1972-05)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

マルクスの「資本論」は学生の時は全然理解できなかった。「超訳資本論」という本が出ているので、超訳なら読みやすいかもしれないと思って、再度読んでみたが、全然頭に入らなかった。

超訳『資本論』 (祥伝社新書 111)超訳『資本論』 (祥伝社新書 111)
著者:的場 昭弘
祥伝社(2008-04-23)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

筆者にはマルクスは向かない様だ。

ケインズ、シュムペーター、ハイエク、フリードマンの作品は読んだことがない。いずれ読んでみようと思うが、その前に吉川洋東大教授の本があるので、これを読んでみる。

いまこそ、ケインズとシュンペーターに学べ―有効需要とイノベーションの経済学いまこそ、ケインズとシュンペーターに学べ―有効需要とイノベーションの経済学
著者:吉川 洋
ダイヤモンド社(2009-02-27)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る


雇用、利子および貨幣の一般理論〈上〉 (岩波文庫)雇用、利子および貨幣の一般理論〈上〉 (岩波文庫)
著者:ケインズ
岩波書店(2008-01-16)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

経済発展の理論―企業者利潤・資本・信用・利子および景気の回転に関する一研究〈上〉 (岩波文庫)経済発展の理論―企業者利潤・資本・信用・利子および景気の回転に関する一研究〈上〉 (岩波文庫)
著者:J.A. シュムペーター
岩波書店(1977-09-16)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

資本主義と自由 (日経BPクラシックス)資本主義と自由 (日経BPクラシックス)
著者:ミルトン・フリードマン
日経BP社(2008-04-10)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る


この本は竹中教授がまとめた著名な経済学者の理論と特長をコンパクトにまとめており、参考になる。

それぞれの経済学者のことを知るだけだったら、竹中教授の本でなくても良いかもしれない。

経済学史を学ぶのであれば、もっと良い教科書もあるかもしれないが、竹中教授は、今も昔も経済学説は実際の経済問題への解決策を模索したものだという主張を貫いており、興味深く読める。

ここをクリックしてアマゾンのなか見!検索で見るか、本屋で立ち読みしてパラパラっと中身を見て欲しい。


参考になれば投票ボタンをクリックして頂きたい。





  
Posted by yaori at 01:09Comments(0)TrackBack(0)

2010年12月22日

デフレの正体 人口動態変化が日本経済デフレの原因

デフレの正体  経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)
著者:藻谷 浩介
角川書店(角川グループパブリッシング)(2010-06-10)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

日本政策投資銀行参事役の藻谷浩介さんの本。

2010年12月19日の朝日新聞日曜版の書評審査員お薦め「今年の3点」で、植田和男東大教授のイチ押しに挙げられていた。

「いよいよ現実のものとなった日本の人口減少が、いかに内需不振の主因であるかを、簡潔なグラフ中心にわかりやすく示した好著。薄々感じていた不安に直接手で触れたような読後感。対策として高齢者から若者への所得移転、女性就労、外国人観光客の増加を推奨」が推薦の言葉だ。

まえがきのところで、藻谷さん自身も、自分が書いた本ながら「これは読んだ方がいい」と誰にでも薦められるという。

誰が読んでも客観的とわかるような事実を並べているが、類書にない、オンリーワンの内容だからだと。

最初からちょっと大風呂敷だと思ったが、読んでみるとなるほどと思わせる内容だ。但し、この本には藻谷さん自身も書いている通り、タネ本があることは後述する。

藻谷さんは日本政策投資銀行の地域振興グループの参事役で、2000年から各地で数多くの地域振興の講演を行っており、全国3,200市町村の99.9%を訪問した経験を持つという。

アマゾンでも2010年12月20日現在売り上げ47位と、よく売れているようだ。

この本の目次

この本はアマゾンのなか見!検索に対応しているので、ここをクリックして、目次を見て欲しい。次のような章が並んでいる。

第1講 思いこみの殻にヒビを入れよう

第2講 国際経済競争の勝者・日本

第3講 国際競争とは無関係に進む内需の不振

第4講 首都圏のジリ貧に気づかない「地域間格差」論の無意味

第5講 地方も大都市も等しく襲う「現役世代の減少」と「高齢者の激増」

第6講 「人口の波」が語る日本の過去半世紀、今後半世紀

第7講 「人口減少は生産性向上で補える」という思いこみが対処を遅らせる

第8講 声高に叫ばれるピントのずれた処方箋たち

第9講 ではどうすればいいのか1.高齢富裕層から若者への所得移転を

第10講 ではどうすればいいのか2.女性の就労と経営参加を当たり前に

第11講 ではどうすればいいのか3.労働者ではなく外国人観光客・短期定住者の受入を

補講  高齢者の激増に対処するための「船中八策」


内需不振の本当の原因

「世界同時不況の影響で地域間格差が拡大したことが内需不振の原因」などというのは、藻谷さんは、SY(数字を読まない)、GM(現場を見ない)、KY(空気しか読まない)人たちが確認もしていないウソを拡大再生産しているのだと。

SYの例が中国と日本の貿易バランスで、中国一国だけだと日本の赤字だが、香港を入れると日本の大幅黒字である。

そういえば中国との輸出入は香港も入れて考えるというのが、昔は常識だったが、筆者もすっかり忘れていた。

日本の国際収支














出典:本書41ページ

日本の大得意はハイテク生産国の台湾、韓国だ。中国にも日本ブランド製品は売れ続けている。日本は国際競争の勝者なのだ。

一般的に言われている「リーマン破綻以降の世界同時不況の影響で、輸出が激減し日本経済は停滞している」という説明、「景気さえ良くなれば大丈夫」という「妄想」が日本をダメにしたのだ。

その証拠として次のグラフを挙げている。

日本の基礎代謝







出典:本書57ページ

上のグラフの左側が増え続ける日本の実質GDPと減り続ける小売販売額と雑誌書籍販売部数。

右側が同じく、増え続ける日本の実質GDPと減り続ける新車販売台数、貨物総輸送量、自家用車旅客輸送量、酒類販売量のグラフだ。

このグラフからわかることは:

・小売販売額は1996年度をピークに12年連続で減少が続いている

・雑誌書籍販売部数は1997年度をピークに11年連続で減少が続いている

・国内貨物総輸送量、自家用車旅客輸送量もそれぞれ2000年、2002年から減少続き

・酒類販売量は2002年度から減少続き(ビールだけだと1997年度から減少続き)

・グラフにはないが、日本の水道使用量は1997年から減少続き


2000年に一度の生産年齢人口減少

「若者の車離れ」、「景気変動」、「出版不況はインターネットの普及のせい」、「地域間格差」など、内需の減少の原因としてあげられる理由はすべて間違いだ。本当の内需減少の原因は、生産年齢人口の減少である。

05k21-6




出典:総務省統計局人口推計

藻谷さんは、日本政策投資銀行の地域振興グループの参事役という得意分野を生かして、青森県、首都圏、東京23区、(リーマン不況まで景気が良かった)愛知県、関西圏、沖縄県の1990年からの小売指標と個人所得の推移を比較している。

青森県と関西圏を除いて個人所得は増加しているにもかかわらず、どこも小売販売額は1998年頃がピークで、毎年減少している。

唯一の例外が沖縄県で、個人所得も小売販売額も増加している。しかし、その他はすべて小売販売額が減少している。

これこそ「2000年に一度」の生産年齢人口減少と「高齢者の激増」の影響なのだ。


所得はあっても消費しない高齢者

所得はあっても消費をしない高齢者が日本全国で激増している。特に首都圏では2000-2005年の間に65歳以上の老齢者が118万人増えている。高齢者は将来の不安があり、買いたい物もあまりないので消費をせず貯蓄する。

次が日本の人口ピラミッドだ。

人口ピラミッド








出典:総務省統計局人口推計

日本で一番人口の多い団塊世代が60歳を超えて続々と退職している。年金だけでは所得が減少するので、将来の不安から消費を抑え、貯蓄する。


団塊の世代が起こしたバブルとバブル崩壊

この団塊の世代の影響で起こったのが住宅バブルとバブル崩壊だ。

最初は団塊世代の実需で住宅・土地市場が活性化した。ところが日本人のほとんどが、住宅市場の活況の要因を「人口の波」と考えずに、「景気の波」と勘違いした。

だから住宅供給を適当なところで止めることができず、供給過剰=バブル崩壊が生じたのだ。

この説は元マッキンゼー東京支社長で、現東大EMP企画・推進責任者の横山禎徳さんが「成長創出革命」という本で指摘していることだと、藻谷さんはタネ本を開かしている。

成長創出革命―利益を産み出すメカニズムを変える成長創出革命―利益を産み出すメカニズムを変える
著者:横山 禎徳
ダイヤモンド社(1994-02)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

この「成長創出革命」は現在絶版で、アマゾンでは中古本が約7千円とプレミアム付きで売られている。図書館にリクエストして他の図書館から借りて貰うので、入手したらあらすじを紹介する。

団塊世代のライフステージに応じて様々なものが売れ、そして売れなくなっていくという単純なストーリーで説明・予測できる物事は多い。たとえば:

・バブルがなぜ首都圏と大阪圏に集中していたのか

・スキーや電子ゲームが流行り、その後急速に衰退していったのか

・ゲーム市場の拡大は高齢者にも売れる任天堂Wiiまで待たなければならなかったのか

生産年齢人口の減少は今後も続き、「好況下での内需縮小」は延々と続くことになる。


藻谷さんの解決策

★高齢者から若者への所得移転

現在は高齢者から高齢者への相続で貯蓄は死蔵され続けている。

高齢化社会における安心・安全の確保は生活保護の充実で行い、年金から生年別共済に変更するというのが解決策だ。

これまで日本は生産性を上げて人口減少に対処しようとしている。そのための施策が、経済成長率至上主義、インフレ誘導、リフレ論、出生率向上、外国人労働者受入、エコ分野の技術で世界をリードすることで日本の活路を見いだす等々だが、いずれも内需拡大には繋がらない。

そこで、解決策としては「生産年齢人口が3割減になるなら、彼らの一人当たり所得を1.4倍に増やせば良い」というものだ。つまり団塊世代の退職で浮く人件費を若者の給料に回そうというものだ。この解決策は、藻谷さんが若手官僚から聞いたものだという。

ちなみに中国でも生産年齢人口の減少は20年後くらいから急激に起こる。中国が同じ悩みを抱えるのも時間の問題なのだ。


★女性就労拡大

藻谷さんの解決策の一つは女性就労拡大だ。女性は高齢になっても消費意欲は衰えないので、女性の所得が上がれば、内需拡大にもなり、税収も上がる。

日本の女性の就労率は45%で世界的に低いので、まだまだ上がる余地はある。


★外国人観光客を誘致して観光収入をアップ


横山禎徳さんのタネ本

藻谷さんは「成長創出革命」しか紹介していないが、実はこれらの解決策は、上記の元マッキンゼー東京支社長の横山禎徳さんの2003年の本「『豊かなる衰退』と日本の戦略」で提唱されている「3つのシステム・デザイン」という提案とかなりかぶっている。

「豊かなる衰退」と日本の戦略―新しい経済をどうつくるか「豊かなる衰退」と日本の戦略―新しい経済をどうつくるか
著者:横山 禎徳
ダイヤモンド社(2003-03)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る


横山さんの3つの提案(+α)とは:

1.一人二役(兼業・兼職も認める。セカンドハウスを持つ。週休三日とする)

2.二次市場の創造(住宅など中古市場の充実)

3.観光立国(外国人旅行者大量受入システム)

+女性への期待(主婦への期待)


生産性向上とは付加価値を増やすこと

マイケル・ポーター教授の日本公演の時に、聴衆から質問があり、それに答えて生産性向上の例として出したのはカリフォルニアワインだったという。

人手を掛けて品質を向上させることによって、ブランド力を上げることに成功し、値上げができた。

カリフォルニアワインがブランド力を上げる要因となったできごとは「パリスの審判」に詳しいので、興味がある人は参照して欲しい。

生産性とは付加価値を増やすことだが、日本では労働者を減らすことが生産向上と誤解されているために、このときの講演後のQ&Aではポーターの説明が伝わらなかったという。


残念な誤植

大変説得力ある本だが、致命的な誤植がある。相続税を支払う人が相続人の4%まで減り、納税額も12兆円というところは、1.2兆円の誤りだ。

税収が40兆円程度しかないなかで、もし相続税収入が12兆円もあれば4割を占める大変なパーセンテージだ。SY(数字を読まない)でない限り、普通なら誰でも気付く誤植と思う。

せっかく納得性のある議論をしているだけに、こんなポカミスは残念ながら藻谷さんの全体の議論の信憑性を疑わせる恐れがある。

筆者も他山の石としなければならないミスである。


ともあれ斬新な見地からの議論で、大変参考になる本だった。


参考になれば投票ボタンをクリック願う。



  
Posted by yaori at 12:51Comments(1)TrackBack(0)

デフレの正体 人口動態変化が日本経済デフレの原因

デフレの正体  経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)
著者:藻谷 浩介
角川書店(角川グループパブリッシング)(2010-06-10)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

日本政策投資銀行参事役の藻谷浩介さんの本。

2010年12月19日の朝日新聞日曜版の書評審査員お薦め「今年の3点」で、植田和男東大教授のイチ押しに挙げられていた。

「いよいよ現実のものとなった日本の人口減少が、いかに内需不振の主因であるかを、簡潔なグラフ中心にわかりやすく示した好著。薄々感じていた不安に直接手で触れたような読後感。対策として高齢者から若者への所得移転、女性就労、外国人観光客の増加を推奨」が推薦の言葉だ。

まえがきのところで、藻谷さん自身も、自分が書いた本ながら「これは読んだ方がいい」と誰にでも薦められるという。

誰が読んでも客観的とわかるような事実を並べているが、類書にない、オンリーワンの内容だからだと。

最初からちょっと大風呂敷だと思ったが、読んでみるとなるほどと思わせる内容だ。但し、この本には藻谷さん自身も書いている通り、タネ本があることは後述する。

藻谷さんは日本政策投資銀行の地域振興グループの参事役で、2000年から各地で数多くの地域振興の講演を行っており、全国3,200市町村の99.9%を訪問した経験を持つという。

アマゾンでも2010年12月20日現在売り上げ47位と、よく売れているようだ。

この本の目次

この本はアマゾンのなか見!検索に対応しているので、ここをクリックして、目次を見て欲しい。次のような章が並んでいる。

第1講 思いこみの殻にヒビを入れよう

第2講 国際経済競争の勝者・日本

第3講 国際競争とは無関係に進む内需の不振

第4講 首都圏のジリ貧に気づかない「地域間格差」論の無意味

第5講 地方も大都市も等しく襲う「現役世代の減少」と「高齢者の激増」

第6講 「人口の波」が語る日本の過去半世紀、今後半世紀

第7講 「人口減少は生産性向上で補える」という思いこみが対処を遅らせる

第8講 声高に叫ばれるピントのずれた処方箋たち

第9講 ではどうすればいいのか1.高齢富裕層から若者への所得移転を

第10講 ではどうすればいいのか2.女性の就労と経営参加を当たり前に

第11講 ではどうすればいいのか3.労働者ではなく外国人観光客・短期定住者の受入を

補講  高齢者の激増に対処するための「船中八策」


内需不振の本当の原因

「世界同時不況の影響で地域間格差が拡大したことが内需不振の原因」などというのは、藻谷さんは、SY(数字を読まない)、GM(現場を見ない)、KY(空気しか読まない)人たちが確認もしていないウソを拡大再生産しているのだと。

SYの例が中国と日本の貿易バランスで、中国一国だけだと日本の赤字だが、香港を入れると日本の大幅黒字である。

そういえば中国との輸出入は香港も入れて考えるというのが、昔は常識だったが、筆者もすっかり忘れていた。

日本の国際収支














出典:本書41ページ

日本の大得意はハイテク生産国の台湾、韓国だ。中国にも日本ブランド製品は売れ続けている。日本は国際競争の勝者なのだ。

一般的に言われている「リーマン破綻以降の世界同時不況の影響で、輸出が激減し日本経済は停滞している」という説明、「景気さえ良くなれば大丈夫」という「妄想」が日本をダメにしたのだ。

その証拠として次のグラフを挙げている。

日本の基礎代謝







出典:本書57ページ

上のグラフの左側が増え続ける日本の実質GDPと減り続ける小売販売額と雑誌書籍販売部数。

右側が同じく、増え続ける日本の実質GDPと減り続ける新車販売台数、貨物総輸送量、自家用車旅客輸送量、酒類販売量のグラフだ。

このグラフからわかることは:

・小売販売額は1996年度をピークに12年連続で減少が続いている

・雑誌書籍販売部数は1997年度をピークに11年連続で減少が続いている

・国内貨物総輸送量、自家用車旅客輸送量もそれぞれ2000年、2002年から減少続き

・酒類販売量は2002年度から減少続き(ビールだけだと1997年度から減少続き)

・グラフにはないが、日本の水道使用量は1997年から減少続き


2000年に一度の生産年齢人口減少

「若者の車離れ」、「景気変動」、「出版不況はインターネットの普及のせい」、「地域間格差」など、内需の減少の原因としてあげられる理由はすべて間違いだ。本当の内需減少の原因は、生産年齢人口の減少である。

05k21-6




出典:総務省統計局人口推計

藻谷さんは、日本政策投資銀行の地域振興グループの参事役という得意分野を生かして、青森県、首都圏、東京23区、(リーマン不況まで景気が良かった)愛知県、関西圏、沖縄県の1990年からの小売指標と個人所得の推移を比較している。

青森県と関西圏を除いて個人所得は増加しているにもかかわらず、どこも小売販売額は1998年頃がピークで、毎年減少している。

唯一の例外が沖縄県で、個人所得も小売販売額も増加している。しかし、その他はすべて小売販売額が減少している。

これこそ「2000年に一度」の生産年齢人口減少と「高齢者の激増」の影響なのだ。


所得はあっても消費しない高齢者

所得はあっても消費をしない高齢者が日本全国で激増している。特に首都圏では2000-2005年の間に65歳以上の老齢者が118万人増えている。高齢者は将来の不安があり、買いたい物もあまりないので消費をせず貯蓄する。

次が日本の人口ピラミッドだ。

人口ピラミッド








出典:総務省統計局人口推計

日本で一番人口の多い団塊世代が60歳を超えて続々と退職している。年金だけでは所得が減少するので、将来の不安から消費を抑え、貯蓄する。


団塊の世代が起こしたバブルとバブル崩壊

この団塊の世代の影響で起こったのが住宅バブルとバブル崩壊だ。

最初は団塊世代の実需で住宅・土地市場が活性化した。ところが日本人のほとんどが、住宅市場の活況の要因を「人口の波」と考えずに、「景気の波」と勘違いした。

だから住宅供給を適当なところで止めることができず、供給過剰=バブル崩壊が生じたのだ。

この説は元マッキンゼー東京支社長で、現東大EMP企画・推進責任者の横山禎徳さんが「成長創出革命」という本で指摘していることだと、藻谷さんはタネ本を開かしている。

成長創出革命―利益を産み出すメカニズムを変える成長創出革命―利益を産み出すメカニズムを変える
著者:横山 禎徳
ダイヤモンド社(1994-02)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

この「成長創出革命」は現在絶版で、アマゾンでは中古本が約7千円とプレミアム付きで売られている。図書館にリクエストして他の図書館から借りて貰うので、入手したらあらすじを紹介する。

団塊世代のライフステージに応じて様々なものが売れ、そして売れなくなっていくという単純なストーリーで説明・予測できる物事は多い。たとえば:

・バブルがなぜ首都圏と大阪圏に集中していたのか

・スキーや電子ゲームが流行り、その後急速に衰退していったのか

・ゲーム市場の拡大は高齢者にも売れる任天堂Wiiまで待たなければならなかったのか

生産年齢人口の減少は今後も続き、「好況下での内需縮小」は延々と続くことになる。


藻谷さんの解決策

★高齢者から若者への所得移転

現在は高齢者から高齢者への相続で貯蓄は死蔵され続けている。

高齢化社会における安心・安全の確保は生活保護の充実で行い、年金から生年別共済に変更するというのが解決策だ。

これまで日本は生産性を上げて人口減少に対処しようとしている。そのための施策が、経済成長率至上主義、インフレ誘導、リフレ論、出生率向上、外国人労働者受入、エコ分野の技術で世界をリードすることで日本の活路を見いだす等々だが、いずれも内需拡大には繋がらない。

そこで、解決策としては「生産年齢人口が3割減になるなら、彼らの一人当たり所得を1.4倍に増やせば良い」というものだ。つまり団塊世代の退職で浮く人件費を若者の給料に回そうというものだ。この解決策は、藻谷さんが若手官僚から聞いたものだという。

ちなみに中国でも生産年齢人口の減少は20年後くらいから急激に起こる。中国が同じ悩みを抱えるのも時間の問題なのだ。


★女性就労拡大

藻谷さんの解決策の一つは女性就労拡大だ。女性は高齢になっても消費意欲は衰えないので、女性の所得が上がれば、内需拡大にもなり、税収も上がる。

日本の女性の就労率は45%で世界的に低いので、まだまだ上がる余地はある。


★外国人観光客を誘致して観光収入をアップ


横山禎徳さんのタネ本

藻谷さんは「成長創出革命」しか紹介していないが、実はこれらの解決策は、上記の元マッキンゼー東京支社長の横山禎徳さんの2003年の本「『豊かなる衰退』と日本の戦略」で提唱されている「3つのシステム・デザイン」という提案とかなりかぶっている。

「豊かなる衰退」と日本の戦略―新しい経済をどうつくるか「豊かなる衰退」と日本の戦略―新しい経済をどうつくるか
著者:横山 禎徳
ダイヤモンド社(2003-03)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る


横山さんの3つの提案(+α)とは:

1.一人二役(兼業・兼職も認める。セカンドハウスを持つ。週休三日とする)

2.二次市場の創造(住宅など中古市場の充実)

3.観光立国(外国人旅行者大量受入システム)

+女性への期待(主婦への期待)


生産性向上とは付加価値を増やすこと

マイケル・ポーター教授の日本公演の時に、聴衆から質問があり、それに答えて生産性向上の例として出したのはカリフォルニアワインだったという。

人手を掛けて品質を向上させることによって、ブランド力を上げることに成功し、値上げができた。

カリフォルニアワインがブランド力を上げる要因となったできごとは「パリスの審判」に詳しいので、興味がある人は参照して欲しい。

生産性とは付加価値を増やすことだが、日本では労働者を減らすことが生産向上と誤解されているために、このときの講演後のQ&Aではポーターの説明が伝わらなかったという。


残念な誤植

大変説得力ある本だが、致命的な誤植がある。相続税を支払う人が相続人の4%まで減り、納税額も12兆円というところは、1.2兆円の誤りだ。

税収が40兆円程度しかないなかで、もし相続税収入が12兆円もあれば4割を占める大変なパーセンテージだ。SY(数字を読まない)でない限り、普通なら誰でも気付く誤植と思う。

せっかく納得性のある議論をしているだけに、こんなポカミスは残念ながら藻谷さんの全体の議論の信憑性を疑わせる恐れがある。

筆者も他山の石としなければならないミスである。


ともあれ斬新な見地からの議論で、大変参考になる本だった。


参考になれば投票ボタンをクリック願う。



  
Posted by yaori at 12:51Comments(1)TrackBack(0)

2010年12月08日

フレンチ・パラドックス なぜ「大きな政府」なのにあの国はうまくいっているのか

フレンチ・パラドックスフレンチ・パラドックス
著者:榊原 英資
販売元:文藝春秋
発売日:2010-06-11
おすすめ度:4.5
クチコミを見る

かつて「ミスター円」と呼ばれた元大蔵省財務官で、現在は青山学院大学教授の榊原英資(えいすけ)さんの最新刊。

フレンチ・パラドックス表紙












表紙の帯には榊原さんの写真とキャッチコピーが載っている。”なぜ「大きな政府」なのに、あの国は、うまくいっているのか?”

榊原さんの著書はこのブログでも紹介している。民主党の政策検討のブレーン的な役割を果たしてきた。

英国ではサッチャー首相、米国ではレーガン大統領、日本では小泉政権が「小さい政府」を標榜し、民営化政策を進めてきた。しかし最近は北欧型の大きな政府にすべきと主張するグループも台頭してきている。


フレンチ・パラドックス

榊原さんも北欧型の「大きな政府」派だが、手本にすべきはフランスだと主張する。

フレンチ・パラドックスとは、一般的にはフランス人はバターや肉などをたくさん食べるのに心臓病が少ないというパラドックスのことを言い、フランス人がよく飲む赤ワインのポリフェノールがコレステロールを下げる働きをしていることが原因と言われている。


日本はすでに小さい政府

榊原さんは、日本は既に諸外国に比べると「小さい政府」だと指摘する。

国民負担率












出典:本書17ページ

2001年4月に成立した小泉政権は「聖域なき構造改革」を標榜し、郵貯民営化など、様々な民営化を推進するとともに、従来禁止されていた製造業への労働者派遣を解禁した。

雇用が正規雇用と非正規雇用に二分化し、格差が拡大、アジア諸国へアウトソーシングされ、先進国では雇用が減少している。グローバリゼーションの流れは止まらず、デフレも続くだろう。


フランスの少子化対策

フランスの少子化対策は100年の歴史がある。

フランスの人口は18世紀末にはイギリスの3倍だったが、1900年にはフランス3800万人、ドイツ5600万人、イギリス3200万人と、イギリスに近づかれ、ドイツに大きな差を付けられた。1916年には出生率は1.23まで低下した。

このため1932年に家族手当を制度化し、教育支援や女性の労働環境を整備する等の様々な政策を打ち出した。

現在は専業主婦比率は2割を切っており、ほとんどが共稼ぎ家庭だ。子ども手当は14歳以上は年齢加算もある。産休(16週間)、育児休暇制度、補足手当、出生手当、3歳未満の子ども加算などがある。

もちろん託児システムの完備も見逃せない。3ヶ月から3歳までの子どもを預かる公共の託児所がある他、私立の託児所もある。

3歳から5歳までは無料の公立幼稚園があり、空きがあれば2歳から預けることは可能だ。給食も支給され、延長保育もある。幼稚園が休みの時や不定期に預かって欲しい時は、臨時託児所も完備している。

フランスで子ども二人を育てる家族は、成人するまで3万9千ユーロ(500万円)の家族手当の支給が受けられるという。

フランスの特徴は婚外子が多いことだ。フランスの場合、事実婚が多く、2008年には婚外子が52%だ(日本は婚外子は2%)。しかしフランスでは嫡出子と非嫡出子との法的な差別はない。


大学まで教育は無料

幼稚園を終えると義務教育が始まり、6歳から16歳までが義務教育だ。授業料は無料で、私立の場合でも国からの補助があるので、年間10万円程度に抑えられている。学童保育施設もあり、放課後に子どもを預かってくれる。収入が少なければ無料だ。

義務教育は6歳が準備学級、7歳から4年間小学校、中学校が4年、2年間が高校、その後は職業訓練を受ける人と、バカロレアという大学入学資格試験を受験して大学に進学する人と分かれる。

大学は9割が国立で、授業料は無料だ。グラン・ゼコールという高等教育機関は国家公務員待遇となり、給与が支給される。


フランス型を目ざす政策

榊原さんが提唱するフランス型社会を目ざす政策は次の3つだ。

1.格差を縮小し、出生率を増やすための、現役世代向けの社会保障政策
2.日本の国際競争力を高めていくための教育政策
3.次の成長分野を日本が先導していくための産業政策

そしてその財源は国債発行を充てるという。

日本政府の財政赤字はGDPの9.3%、赤字の累積額はGDPの約2倍と先進国の中ではダントツで悪いが、日本国債の94%が国内で保有されている。

ムーディーズも日本国債の格付けをAa3からAa2も引き上げており、発行利回りが先進国の国債の中でも最低レベルの1.3%なのに売れ残ることはない。

地方を入れて、国公債発行残高が900兆円とすると、国民の資産が1、400兆円あるので、まだ500兆円ほどの資産増加であり、国債の発行余地はあるという。

ちなみに今度紹介する経営共創基盤CEOの冨山さんはまったく違うことを言っている。

榊原さんは国民資産はまだ国債発行の余裕があると語り、冨山さんは100兆円の蓄えしかないという。最大の違いは冨山さんは国民負債(300兆円)を国民金融資産(1400兆円)から減じていることだ。
カイシャ維新 変革期の資本主義の教科書カイシャ維新 変革期の資本主義の教科書
著者:冨山 和彦
朝日新聞出版(2010-08-20)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

冨山さんの指摘は斬新だったので、筆者も平成20年度国民経済計算統計を調べてみた。

一般に言われる国民の金融資産1,400兆円は、負債を引いていないグロスの資産で、ネットの試算だと1、000兆円であることがわかった。

一方政府の負債は970兆円だが、資産を差し引くとネットの負債は500兆円だ。

だから結論としては榊原さんの議論は正しいことになる。つまりネット同士の比較だと、政府のネット負債は500兆円、民間のネット資産は1、000兆円。榊原さんの言うように理論的には国内で500兆円の国債引き受け余地はある。

もっとも国民が資産500兆円をすべて国債に使うとは思えないので、あくまで机上の議論ではあるが、政府がどんどん国債依存高を高めているのは、こういった背景があるからだ。

日本の資産総括表負債残高総括エクセル表のリンクを入れておくので、一度自分でもチェックすることをおすすめする。

閑話休題。


政府は何をなすべきか

榊原さんは政府がなすべき政策として次のようなものを挙げている。

1.景気刺激策
  マニフェスト通り、ガソリン暫定税率を撤廃。

2.マネのできない技術力の高い製品をつくること。

3.医療・観光・教育サービスを充実

4.英語を公用語に
  日本の最大の弱みは語学力である。日本マーケットはそこそこ大きいので、翻訳マーケットも見込める。

ちなみに前出の冨山さんは、英語についても全国民のレベルを上げるのではなく、一流大学を中心にトップレベルの英語力を上げるべきだと主張する。

5.道州制は非現実的なので、廃県置藩で地方分権を


たぶん批評家から言わせれば、「フランスでは」という榊原さんは「出羽の守(ではの守)」なのだろうが、フランスの教育や育児支援制度は日本でも参考になると思う。

具体的な政策提言はやや弱い気もするが、少子化対策の先進国、フランスに着目して日本のことを考えるのも有益と思う。


参考になれば投票ボタンをクリック願う。



  
Posted by yaori at 13:18Comments(0)TrackBack(0)

2010年06月16日

分析力を武器とする企業 データ分析の教科書

分析力を武器とする企業 強さを支える新しい戦略の科学分析力を武器とする企業 強さを支える新しい戦略の科学
著者:トーマス・H・ダベンポート
販売元:日経BP社
発売日:2008-07-24
おすすめ度:4.0
クチコミを見る

データ分析を経営に生かす実例とその理論や分析ツールを解説したデータ分析の教科書。

英国のデータ分析専門会社の人から紹介されて読んでみた。。

この分野は筆者が特に興味を持っている分野なので、いままで「CRMの実際」という日経文庫や、流通業界では世界最高峰の英国TESCOのCRMを取り上げた「TESCOの顧客ロイヤリティ分析」などを読んで研究してきた。

CRMの実際 (日経文庫)CRMの実際 (日経文庫)
著者:古林 宏
販売元:日本経済新聞社
発売日:2003-04
おすすめ度:3.5
クチコミを見る

Tesco顧客ロイヤルティ戦略Tesco顧客ロイヤルティ戦略
著者:C. ハンビィ
販売元:海文堂出版
発売日:2007-09
おすすめ度:2.5
クチコミを見る

日経文庫は2003年の本だが基本を抑えるのには適している。

TESCOの本は、ポイントカードを使ったCRMはどうあるべきかという実例を詳しく紹介しており大変参考になった。このブログでも原著の第2版のあらすじを詳しく紹介している。

ポイントカードを使った顧客管理を突っ込んで研究したい人は、2004年に出た第1版の翻訳である日本語版の「TESCO顧客ロイヤルティ戦略」よりは、テスコクラブカード戦略の見直しまで取り上げている2008年に出た英語の第2版「Scoring Points」の方をおすすめする。

Scoring Points: How Tesco Continues to Win Customer LoyaltyScoring Points: How Tesco Continues to Win Customer Loyalty
著者:Clive Humby
販売元:Kogan Page Ltd
発売日:2008-09
クチコミを見る

筆者が読んだ時は、ハードカバーしかなかったが、現在はペーパーバック版が出ているので、アマゾンで2,500円で買える。

話が横道にずれたが、「分析力を武器とする企業」は、基本も抑え、各社の実例も広く浅く紹介している。

次の表のような顧客分析を生かす企業の実例が取り上げられている。

分析志向の企業リスト













出典:本書23ページ

分析力を武器にする企業は次の4つの特徴を持つという。

1.分析力が戦略的優位性のベースになっている。

2.分析に組織を挙げて取り組んでいる。

3.経営幹部が分析力の活用に熱心である。アマゾンのジェフ・ベゾスが良い例だ。

4.分析力に社運を賭け戦略の中心に置いている。


参考になった具体例をいくつか紹介しておく。

★ネットフレックス

オンラインDVDレンタル。日本のツタヤDISCUSや、テレビで盛んに宣伝しているDMM.COMのようなサービスだ。

DVDの送料は無料、貸出期限は無制限、延滞料は一切無し。借りたDVDを返せば、次のDVDが借りられるというシステムだ。

ネットフレックスは「シネマッチ」というアルゴリズムを組み込んだ映画リコメンドエンジンを持っている。顧客の好みを分析して、映画を推薦するのだ。

ネットフレックスは100万ドルの賞金を出して、社内外の力を借りて「シネマッチ」のアルゴリズムを10%以上改善したという。

ネットフレックスの最優先顧客はめったに借りない会員だという。月額料金は固定なので、めったに借りない人の方が利益率が高いので、この種類のお客をつなぎ止めておくことが重要だ。

いずれはDVDレンタルはオンラインダウンロードに変わるだろうが、ネットフレックスは自社の分析力さえあれば、バーチャルに移行しても利益は上がると自信を持っているという。


★ボストンレッドソックス

データ分析をプロ野球に利用して成功したオークランド・アスレティックスの例は、「マネーボール」という本に詳しい。この本も近々読んでみる。

マネー・ボール (ランダムハウス講談社文庫)マネー・ボール (ランダムハウス講談社文庫)
著者:マイケル・ルイス
販売元:ランダムハウス講談社
発売日:2006-03-02
おすすめ度:4.5
クチコミを見る

まだ松坂大輔が加入する前、ボストンレッドソックスは2002年に野球のデータ分析の専門家を雇って、成果を上げ、2003年にはアメリカンリーグのチャンピオンシップシリーズに進出する。

しかしヤンキーズとのチャンピオンシップシリーズでは、監督のグレディ・リトルはデータ分析の専門家の意見を退け、優勝がかかる第5戦先発のペドロ・マルティネスをデータ分析による限界の105球を超えて8回にも登板させた。

データ分析ではペドロ・マルティネスは、105球までなら相手チームの打率は2割3分だが、106から120球だと打率は3割7分に上がっていたのだが、監督は自らのガットフーリング(直感)を信じたわけだ。

筆者は今でも覚えているが、たしかこの第5戦の大逆転劇で、松井が同点のホームを踏んで、躍り上がって喜んでいたことを思い出す。YouTubeにその時のビデオが載っている。



2003年で監督はクビ、翌年は分析力と戦力補強が役立ち、86年間の「ベーブ・ルースの呪い」を破って念願のワールドシリーズを制覇したのだ。


★ロッキー・マウンテン・スチール
昔鉄鋼原料を取り扱っていた筆者には懐かしい名前だ。ロッキー・マウンテン・スチールはオレゴンスチールの子会社でシームレス鋼管を製造していたが、不況で生産中止していた。

筆者の記憶が正しければ、この会社は昔のUSスチールの工場ではないかと思う。戦争中に万が一敵が西海岸に侵攻してきても、ロッキー山脈のあたりにあれば、爆撃にも平気だということで建設した工場ではなかったかと思う。

鋼管市況が高騰したので、社内外の生産再開を求める声に対し、副社長のロブ・サイモンは"profit insight"というソフトウェアで再開時期を分析し、製品販売での逸失利益を出すことなく工場再開を決めたのだという。

ロッキー・マウンテン・スチールは今はEvrazという会社の一部門になっているようだ。


★マス広告の問題点

マス広告の問題点は、デパートの先駆者のジョン・ワナメーカーが嘆いたように「広告費の半分は無駄に失われている。だが、それがどの半分かがわからない」点だ。

それを科学的に分析するのが、現代の広告業界が力を入れている分野だという。DDB Worldwide社の子会社のDDBマトリクス社が有名だ。

ちなみにDDB Worldwide社のホームページには"Fun Theory"という、人は面白ければ動くという一連の広告活動が紹介されている。

階段をピアノの鍵盤のように改造して、音が出るようにしたら、エスカレーターより階段を使う人が増えたという。フォルクスワーゲンの広告で、興味深い実験が紹介されている。


データ分析のウソ

★英国の名宰相ベンジャミン・ディズレーリは「嘘には3種類ある。嘘、大嘘、統計だ」と語ったという。恣意的な統計は人を欺くこともできる。

★紙おむつとビールの伝説は都市伝説
オスコというドラッグ・ストアチェーンが話の元らしいが、オスコではビールと紙おむつと一緒に陳列したことはないし、そもそもビールを売っていない店もあるという。

この例を紹介して、データ・マイニング・ソフトなどを使ってデータを分析するだけでは不十分で、統計分析のスキルを備えたデータ分析のアナリストが社内に必要だと力説している。

興味のある人向けに、用語解説とツール解説を続きを読むに載せる。

データ分析の用法、手法、ツールなど、広く浅くトピックスを取り上げていて参考になる本だった。


参考になれば投票ボタンをクリック願いたい。


  続きを読む
Posted by yaori at 00:23Comments(0)TrackBack(0)

2009年12月20日

日本米国中国 団塊の世代

日本 米国 中国 団塊の世代日本 米国 中国 団塊の世代
著者:堺屋 太一
販売元:出版文化社
発売日:2009-03-29
おすすめ度:4.5
クチコミを見る

堺屋太一さんが監修する日本、米国、中国の団塊世代の特徴を説明した本。


米国のベビーブーマー

米国のベビーブームは1947年から20年間くらい続いたが、1950年前後に生まれた団塊の世代の多くはベトナム戦争に従軍した。唯一の戦勝国ともいえる米国が初めて敗戦を経験したのだ。

米国の出生数と人口の推移

USA population2 P27





出典:本書27ページ

次がベトナム戦争で戦死したアメリカ軍人の年齢統計だ。

Vietnam death toll P70







出典:本書 70ページ

「19」という歌で歌われている通り、ベトナム戦争では徴兵されたばかりの19歳から21歳の若者が最も多く戦死した。ケネディ暗殺、アポロ計画、1969年のウッドストックのコンサートが1960年代の出来事だ。



1970年代には、ベトナム戦争は終結したものの、ウォーターゲート事件、石油ショックや環境汚染問題で、近代工業社会はゆらぎ、アメリカの団塊世代は、堺屋太一さんが「知価革命」と呼ぶ「人間の幸せは物財の豊かさではなく、満足の大きさである」というパラダイムシフトを経験する。

1980年代のレーガンの貿易・経済自由化政策のために、米国の製造業は衰退し、製造業の中間管理職が軒並み失業し、低賃金の時間給で働くサービス業に転職を余儀なくされた。

その結果、刹那主義的な「欲しいときに買って、後で払う」というライフスタイルが定着し、1982年に10%あった貯蓄率が2007年には0.5%にまで低下してしまう。

そして起こったのがサブプライム問題をきっかけとする2008年の金融危機だ。アメリカの金融危機脱出の道筋はまだ見えない。

アメリカの社会保険(Social Security)は、このまま行くとベビーブーマー世代が続々リタイアする2010年頃から収支が悪化し、2020年には赤字になることが予想されている。

筆者も米国で合計9年間働いていたので、社会保険の受給資格がある。米国ではこのような通知が社会保険受給資格者には毎年来る。

SS1











筆者の場合は、66歳から毎月1,000ドル程度もらえるが、前倒しで62歳からもらう場合には800ドルに減額される。

SS2











この予想額は毎年変わるので、もし米国の社会保険制度が赤字となったら、当然支給額は減額されるのだろう。


米国のもう一つの特徴は人種による出生率の差だ。

US population growth by race







出典:本書63ページ

白人・黒人の出生率は低下が著しいが、ラテン系の出生率は依然として2.5〜3と高いままである。


中国の団塊世代

中国の出生率、死亡率と人口推移は次のとおりだ。

Chinese population P43






出典:本書43ページ

中国の出生率は1959〜1961年に天災により急激に低下するが、その前1949年から1958年頃までが第1ベビーブーム、1962年から1970年頃までが第2次ベビーブームだ。

中国の団塊世代の大部分は1966年からの文化大革命を経験した。まともな教育を受けられず、都市部の若者は地方に下放された。毛沢東が死ぬとすぐに「4人組」は逮捕され、死刑となり、ようやく文化大革命の大波は収まる。

この本でモデルとなっているベビーブーマーは内モンゴルに下放され、遊牧民とパオで暮らしたという。

1980年代からは小平の「白猫でも黒猫でも鼠を捕る猫は良い猫だ」という発言に象徴される自由化・工業化が推進される。

1990年代からは高い貯蓄率に裏打ちされた高度成長モードに入り、2000年代にさらに成長は加速している。

モデルとなっているベビーブーマー一家は北京で住んでいた古い社宅がオリンピックのため取り壊されたため、十分な補償金が支給され、150M2の広いマンションを買ったという。

2008年の金融危機により中国も影響を受けたが、政府がGDPの2割弱の4兆元(54兆円)という巨額の景気対策を2年間にわたり実施することで、景気は立ち直ったかに見える。

中国の出生率は低下しているが、進学熱はさらに高まっており、中学生の3/4は高校に進み、高校生の3/4は大学を目指している。元々教育熱心な民族なので、今後も中国の教育ブームは続くだろう。

Chinese education








日本の団塊世代

1968年は「坂の上の雲」の連載が産経新聞で始まった年だが、西ドイツを抜いて日本が世界第2位の経済大国になった歴史的な年でもある。

1968年は団塊の親の世代が目指してたどり着いた「坂の上」だったが、団塊世代には学園紛争の時代でもあった。

日本の団塊世代も世界金融危機の影響は受けているが、若者に比べてダメージは少ない。むしろタクシー運転手のような職業では、安い賃金でも働く団塊世代が若い世代を追い出した業界もある。

堺屋太一さんは、これからは「高齢者が働いて、高齢者が費う(「購う=あがなう」の間違いか?)時代」だという。

最後に昭和10年生まれの堺屋太一さんは団塊世代に、「団塊世代よ、決して諦めるな!君たちにはまだ未来がある。君たちが諦めずに働き、働こうとすることで、新しい文化がこの地球に育つのである」とエールを送っている。


日米中の団塊の世代が生きてきた時代を振り返ることで、それぞれの国のここ60年間の動きがよくわかる。思えばいろいろなことが起こったものだ。グラフや表も多く、参考なる本である。


参考になれば投票ボタンをクリック願う。


  
Posted by yaori at 00:52Comments(0)TrackBack(0)

2009年12月06日

堺屋太一 東大講義録 文明を解く 知価革命に至る歴史

東大講義録 ―文明を解く―東大講義録 ―文明を解く―
著者:堺屋 太一
販売元:講談社
発売日:2003-04-11
おすすめ度:5.0
クチコミを見る

堺屋太一さんが2002年4月から7月まで12回にわたって東大先端科学技術研究センターで行った講義録。


堺屋さんの略歴

堺屋太一さんは昭和10年(1935年)生まれ。今年で74歳だ。大阪の住吉高校から二浪して東大の今の文IIIに入る。建築家を志して学生会館の設計で一等賞を取るが、目が悪いので作図には向かないとして断念して経済学部に進む。

堺屋さんが東大卒の元通産官僚とは知っていたが、秀才型のキャリアでは全くないことをはじめて知った。

退職者が最も多くの分野で活躍しているという理由で官僚をこころざし、昭和35年に通産省に入省。このときの公務員試験は生涯で一番の出来だったという。

昭和37年の通商白書で世界に先駆けて「水平分業」論を打ち出す。その後「日本で万国博覧会を開催しよう」と提唱すると、政策として決まっていないことを外で言って歩くのはけしからんとして、辞表を書けと言われる。

なら懲戒免職にしてくれとがんばっていると、そのうち万博の支持者が増え、役所でも賛成論が出て誘致活動ができるようになった。

昭和45年の大阪万博の次に、沖縄に赴任、昭和50年に沖縄海洋博覧会を開催する。その後太陽光発電とか石炭液化のサンシャイン計画を担当した後に、昭和50年にはベストセラーとなった「油断!」、51年には「団塊の世代」を出版。

油断! (日経ビジネス人文庫)油断! (日経ビジネス人文庫)
著者:堺屋 太一
販売元:日本経済新聞社
発売日:2005-12
おすすめ度:5.0
クチコミを見る

団塊の世代 (文春文庫)団塊の世代 (文春文庫)
著者:堺屋 太一
販売元:文藝春秋
発売日:2005-04
おすすめ度:3.5
クチコミを見る

「油断!」は筆者も学生時代に読んだが、石油供給が止まり、日本各地に死者が発生したことを示す赤いランプが続々点って、主人公が愕然とするシーンは今でも思い出す。たしか通産省の現職課長が書いた覆面小説というふれこみだった。

ベストセラー作家としてデビューできたこともあり、いずれ官僚主導の時代ではなくなると見越して昭和53年に通産省を退職。未来予測小説と歴史小説の2分野で、多くの作品を生み出し、「峠の群像」と「秀吉」はNHKの大河ドラマになる。

小渕内閣の時には経済企画庁長官にも起用された経済の専門家であり、ベストセラー作家でもある。堺屋さんは筆者の好きな作家なので、このブログでも最近の作品を2冊紹介している


堺屋さんの講義

そんな経歴を持つ堺屋太一さんが、この講義で、世界と日本の近代にいたる道、日本の近代工業社会の盛衰を分析し、「知価革命」が起こっている現在の社会の構造を解明する。

「知価革命」とは、「人間の幸せは物財の豊かさではなく、満足の大きさである」という考え方で、近代工業社会の否定であり、人類が産業革命以来200年ぶりに迎えた時代を変える革命のことである。

この本が出た当時は小泉政権だったが、小泉首相は「小泉内閣くらい改革を実行しているところはない」と言うが、実態は何も変わっていないと切り捨てている。

現在の経済学には3つの流派があるという。

第1は新古典派、近代工業社会の理論が今でも通用するという学派。
第2はニューエコノミー派。近代工業社会が、情報産業の発展により高度情報社会となり、景気変動が少なくなるという理論。
第3が堺屋さん自身も属するというニューパラダイム派で、近代工業社会は終わり、今始まろうとしているのは知価社会の初期であるという主張。


1990年以降の日本の衰退

堺屋さんはまず1990年以降の日本の衰退の現実を数字を挙げて説明する。なぜ日本経済が1990年を境に変わったのかが、この講義のテーマだ。

1990-2001JPNS economy





出典:本書31ページ

劇的に下がったのは、市街地の地価だ。1990年の100に対し、2001年は17でしかない。1990年以降の自民党政権下の財政不均衡もひどい。次が国の財政収支の推移だ。

財政不均衡






出典:本書33ページ

このように1990年を境として日本経済の流れは大きく変わった。これは人類の文明が大きく変化したのに、日本が立ち遅れているからだと堺屋さんは説く。


減税の効用

いろいろ面白い話が紹介されているが、一番印象に残ったのは、日本の最高税率と米国のレーガノミクスの話だ。

次がこの本で紹介されている日本の最高税率の推移だ。

日本の最高税率




出典:本書192ページ

NHK大河ドラマ「坂の上の雲」の作者、司馬遼太郎さんの話が面白い。

司馬さんが自分は原稿を1枚書くと3万円になり、自分のところの書生は4千円なので、俺は努力と幸運と才能の結果、あいつの8倍くらい稼げるようになったと思って喜んでいた。

しかし、よくよく考えると自分は88%を税金で持って行かれる、3万円あっても、3千6百円しか残らない。しかし書生は所得が低いから、無税で4千円全部残る。あいつの方が実質所得は上かと思った途端に創作意欲がなくなったという。

ちなみに最低課税所得額は夫婦二人で約400万円で世界でも高い水準である。

一方アメリカではレーガノミクスで、情報産業や観光産業が盛んになり、金融業が大発展した。都市は明るくきれいになり、雇用が2,000万人増えが、製造業は輸入品の洪水で大打撃を受け、雇用は製造業からサービス業に移った。

レーガン減税では、多くのタックスシェルターがあるかわりに最高70%まで逓増型だった従来の税率を、一挙に15%と28%の2本に簡素化し、タックスシェルターの多くを廃止した。

筆者は1986年から米国に駐在していたので、レーガン減税には驚いたものだ。タックスシェルターはたとえば以前は家を何軒持っていても、借入金の金利はすべて所得から控除できたが、レーガン減税以降は2軒までに限定された。

相当な金持ちしか3軒以上家を持っていないので、金持ちの最高税率を下げるかわりに家の借り入れ金の金利控除を制限するというのは実際的な措置だった。

レーガノミクスで雇用がふえたのは、製造業が縮小して、サービス業とりわけ知価産業が伸びたからだ。

堺屋さんが語るレーガノミクスのすごさは、まずは減税をして財政を黒字化するという20年単位で考えた点だという。実際クリントンの1996年からは黒字となって、湾岸戦争まで黒字を続けた。

実に壮大な絵を描いたものだ。

日米ともに実効税率は大幅に低下しているが、それが経済の活性化とつながったかどうか、経済の活性化につなげるにはどうしたらよいのかを考えさせられる講義である。


公務員で出世する法というのも面白い

国家公務員になって出世したいなら、事前に議題に関係のある数字を30ばかり覚え、関連の法律の条文も30くらい覚える。そして会議の場で「慎重に」と言うことだと。

会議の席では、「これこれの予算がかかりそうです。わが省の予算枠から見るとキツイので、慎重に考えた方が良い」、「何々法何条何項に抵触する心配があるので、よほど慎重に考え、これらの問題がクリアーできるなら賛成する」

というように、「慎重に、慎重に」と言えば、最後に責任を取らなくて良いのだ。失敗したら、「私は慎重にやれといったのに」と逃れ、成功したら、「わたしがあれだけいろんなことをやったから、やはり成功しましたね」と言えばいい。

決断しないということほど怠惰なことはないと。


知価革命の影響

戦後日本の国是は、1.日米同盟を基軸に西側自由主義陣営に属し、軍事小国、経済大国を目指す、2.規格大量生産型の近代工業社会を確立するというものだった。

堺屋さんがいう「昭和16年体制」が成立し、帝国主義、軍備の拡大と、国内的には中央集権、統制経済(情報統制、経済統制)、没個性教育が実施され、戦争で帝国主義と軍備は無くなったが、他は戦後も残った。

ところが1980年代に知価革命が起こり、規格大量生産型の近代工業社会は変質したのだ。


日本のアルゼンチン化

日本に知価革命を起こさないと、日本は20世紀のアルゼンチンのようになると警鐘を鳴らす。

20世紀初頭のアルゼンチンは世界有数の豊かな国で、イタリアから出稼ぎに来た母を捜してマルコ少年はイタリアのジェノバから旅をした。

マルコ少年はブエノスアイレスの町に着いて、その豊かさに驚く。いまならアルゼンチンからイタリアに出稼ぎにいくようになるだろうと。

そして日本から中国・アジアに出稼ぎに行く時代も遠くないかもしれない。

筆者がアルゼンチンに住んでいた時代の話は、堺屋さんの「団塊の世代”黄金の十年”が始まる」のあらすじで詳しく紹介したので、参照して欲しい。 


首都移転賛成論

日本の歴史を見ると、首都が変わらない限り改革が成功したためしはないという。世界の工業国の中でも、戦後首都圏の経済・文化に占める割合が上昇したのは日本だけだ。

アメリカ東部、ロンドン近郊、ローマ、パリもすべて人口は減少したが、東京だけが集中している。


日本の問題は低い起業率

日本の問題は、低い起業率だ。

起業率は4%くらいだが、5%の会社が無くなっているので、この10年間事業所の数がどんどん減っている。アメリはは起業率15.5%、155件起業して、130件つぶれるので、20件ずつ増える。

ドイツもイギリスも同様だと。日本では大企業に入るのが安全だという風潮で、20代で起業する人が少ない。50代での起業が多く、創業者の年齢が高くなっている。


その他のトピック

その他にも面白い話が多い。印象に残ったトピックだけ箇条書きで紹介しておく。

★ピラミッドは墓ではあるが、公共事業を主目的として墓をつくったので、王が長生きすると第2、第3のピラミッドをつくった。ちょうど今の道路公団と似た形態だ。これはイギリスのメンデルスゾーンという学者の説である。

★カルタゴのハンニバルの象は、チュニジアから連れ来た。当時はチュニジアにも森林があったが、木の根っこを食べてしまう羊の放牧と、森林の伐採で砂漠化が進み、ローマ時代に人口は減少したという。

★十字軍の後、貿易が盛んになり、肉の保存用の胡椒の取引が盛んになる。東洋の胡椒を中東を通さないで、直接取引するためにポルトガルのエンリケ航海王子が資金を出してバスコダガマがインド航路を開発した。

★15世紀はヨーロッパでは人口が減少し、イタリアでは1340年の930万人が1500年には550万人に減った。

★16世紀頃には西欧も中国も日本も大差なく、日本の鉄砲生産は世界一だった。日本は外国から技術を学ぶとすぐ世界一になるという能力がぬきんでているのだ。

★江戸時代の日本は、効率よりも安定が求められたので、自給自足の閉鎖社会が維持されたが、その間18世紀から19世紀のヨーロッパでは効率至上主義の産業革命が起こって、経済は大きく成長した。

★応仁の乱から関ヶ原までの100年で、人口は2倍、GDPは3倍になり、関ヶ原から元禄までの100年間でやはり人口は2倍、GDPは3倍になった。元禄時代の日本の人口は2,600万人から3,000万人くらいだったという。

★「マッチは三角形」事件も面白い。銀行の役員と宴会をしていた大蔵省の担当課長が、「マッチは三角形がいいね」とつぶやいたら、「マッチは三角形が大蔵省の意向だ」ということになり、半年で全国の銀行のマッチが三角形になったのだという。

★第2次世界大戦後恐慌が起こらなかった理由は、資源供給が豊かだったことが最大の原因だと語る。資源のない国が有利になったのだ。今は需給均衡からやや供給過剰状態に戻っているが、1割足りないと石油と食料の価格は2倍になるという。

★真球のボールベアリングはその道10年くらいの熟練者がつくらないとできないので、世界ではスウェーデンのSDKと日本の東大阪の中小企業だけだったのが、1980年代になってコンピューター制御になって中国でもつくれるようになった。

★堺屋さんが東大経済学部で学んだ時は、マルクス経済学でなければ経済学でない、他の学説は非科学的であるというのが主流だったという。マルクスの理論は、結局官僚主導だという。

資本論 1 (岩波文庫 白 125-1)資本論 1 (岩波文庫 白 125-1)
著者:マルクス
販売元:岩波書店
発売日:1969-01
おすすめ度:4.0
クチコミを見る

筆者もマル経の東大と言われたマル経の人たちはどこに行ったのかと不思議に思う。


学生向けの講義なので、ところどころで堺屋さんの原稿料や印税収入など本音トークも混じっていて、面白い講義だ。2002年の講義ではあるが、今も参考になる本である。



参考になれば投票ボタンをクリックしてください。




  
Posted by yaori at 04:05Comments(0)TrackBack(0)

2009年10月25日

資本主義はなぜ自壊したのか 構造改革推進派 中谷巌さんの反省の書

資本主義はなぜ自壊したのか 「日本」再生への提言資本主義はなぜ自壊したのか 「日本」再生への提言
著者:中谷 巌
販売元:集英社
発売日:2008-12-15
おすすめ度:3.0
クチコミを見る

以前は公務員の兼業が禁止されていたため、一橋大学教授をやめてソニーの取締役となった中谷巌さんのグローバル資本主義に対する「懺悔の書」。

中谷さんは一橋大学を卒業後日産自動車に勤めるが、27歳で休職してハーバード大学の博士課程に留学。博士号を取って帰国してからは大阪大学教授、一橋大学教授を歴任、ソニーの一件以来国立大学には奉職せず、多摩大学教授や三菱UFJリサーチ&コンサルティング理事長などを勤めて、最近はテレビのコメンテーターとしてもしばしば登場する。

2005年まではソニーの取締役会の議長を勤めていた。


グローバル資本主義はモンスター

中谷さんはグローバル資本主義は世界経済活性化の切り札となるというプラスもある反面、(1)世界経済の不安定化、(2)所得や富の格差増大、(3)地球環境破壊・食品汚染など、人間社会にマイナスの効果ももたらすモンスターだと語る。

このモンスターに自由を与えすぎて規律を失ったから資本主義そのものが自壊したのだと。

中谷さんは古き良きアメリカ時代にアメリカに留学しているが、最近アメリカに行くたびに「何か変だ」と感じていたという。

所得上位1%の富裕層の財産が8%から17%に倍増する一方、かつての豊かなアメリカを支えていた中流階級の所得はほどんど上がらず、没落した。

そして資本主義は暴走してサブプライム問題に端を発する世界金融不況に突入する。信用程度の低いサブプライムローンを分割して他の債権商品とくっつけ債権レーティングをAAとするまやかし金融術がまかり通り、不動産市況が下落に転じるとすべてのスキームが破綻に陥った。

金融のプロ達は破滅が来ることは計算済みだったのだ。


構造改革推進派

中谷さんは小渕内閣で「経済戦略会議」議長代理を務め、竹中平蔵氏と一緒に二百数十項目の改革提案をまとめ、その後の小泉構造改革路線でも「改革なくして成長なし」のスローガンのもとに、構造改革を支持した。しかし、これは人を不幸にする改革だったと反省しているという。

ここ10年で日本も年収200万円以下のワーキングプアと呼ばれる低所得者が1,000万人を越え、非正規社員比率は1990年の2割から毎年上昇して2008年には1/3を越え、日本の終身雇用・安心・安全神話は崩れた。

パンドラの箱は開いてしまったのだ。


構造改革は日本人を幸福にしたか?

中谷さんの最大の反省点は、「構造改革は日本人を幸福にしたか」という点だ。

日本経済が「グローバルスタンダード」なるものを受け入れ、構造改革、規制緩和、100円ショップなどの価格破壊、郵政民営化を実現したが、小泉改革により日本社会は他人のことを思いやる余裕を失い、自分のことしか考えないメンタリティが強くなった。

だから日本人は小泉構造改革には幻滅している。

小泉元首相が支持表明し、2008年9月の自民党の総裁選に出馬して構造改革路線の進化・発展を訴えた小池百合子氏が、自民党地方票では1票も取れなかったことがその証拠だと中谷さんは語る。

ちょうど小池百合子さんの「もったいない日本」という自民党総裁選後2008年10月に出版された本を読んだところなので、小池さんの言い分も紹介しておく。同じ出来事でも、小池さんは全く正反対の評価をしているので面白い。

もったいない日本もったいない日本
著者:小池 百合子
販売元:主婦と生活社
発売日:2008-10
クチコミを見る

「特に、各地の党員・党友が投票する地方票において、47都道府県中35の地で第2位となることができたのは、大きな意義がありました。これは、地方の「声なき声」が私を支持してくださったからであり…。」

自民党の総裁選挙のしくみはよく知らないが、どうやらアメリカ大統領選挙のような一位がその県の全票を取るという"Winner takes all"式なのだろう。その意味では、どちらも真実なのだろうが、小泉改革支持派は小池さんしかいなかったことから考えると、中谷さんの言うことが当を得ていると思う。


中谷さんが見過ごしたもの

1970年代初めにハーバード大学の博士課程に留学した中谷さんは、ノーベル賞受賞者揃いのハーバードの教授陣や、世界中から集まった同級生の優秀さに驚かされ、一気にアメリカかぶれになった。

その後1970年代後半に台頭した小さい政府、規制緩和を掲げるレーガンノミックスを支える市場原理肯定派に感化されたという。しかし、ここで中谷さんは2つのことを見逃していたと反省する。

一つはアメリカ流経済学を日本に適用しても日本人が幸せになれる保証はどこにもないこと。

もう一つは当時の豊かなアメリカ社会を支えていたのは、レーガンノミックスによる自由な市場活動ではなく、政府の役割を重視していたサミュエルソンなどの「新古典派総合」経済政策だったことだ。


レーガン政権で潤ったのは富裕層

レーガンが登場し、小さな政府、大胆な減税により、最も潤ったのは富裕層だ。2005年では上位1%の富裕層が17%の所得を得ており、上位0.1%の最富裕層がなんと全体の7%の所得を得ている。

これはクルーグマンが「格差はつくられた」で指摘しているところだ。

格差はつくられた―保守派がアメリカを支配し続けるための呆れた戦略格差はつくられた―保守派がアメリカを支配し続けるための呆れた戦略
著者:ポール クルーグマン
販売元:早川書房
発売日:2008-06
おすすめ度:4.0
クチコミを見る


資本主義や民主主義は元来非情なもの

マーケットメカニズムを説く近代経済学も、自由を重んじる民主主義も、貴族階級から権限を奪うためのエリート支配のツールだったという一面もある。

アダム・スミスの「見えざる手」による資源の適正配分と自由主義市場の自律機能は、王侯・貴族から権限を奪い、ブルジョワジーに力を与える理論だったのだ。

国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究(上)国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究(上)
著者:アダム・スミス
販売元:日本経済新聞社出版局
発売日:2007-03-24
おすすめ度:5.0
クチコミを見る

中谷さんはアダム・スミスの「見えざる手」を繰り返し強調しているが、「国富論」の中に「見えざる手」が出てくるのは2個所のみというのは有名な話だ。

だからといって「国富論」の価値が下がる訳ではないが、元々「国富論」は当時のイギリス経済の状況について書いた本なのだ。筆者も昨年「国富論」(約1,000ページ)を読み直して、これを確認した。いずれ「国富論」のあらすじも紹介する。


日本の産業空洞化は必然

モノを安く供給しようと思えば、生産は必然的に中国・ベトナムなどの低賃金国に移る。中谷さんが「生産と消費の分離」と呼ぶ、日本の産業空洞化が生じたのだ。

ロバート・ライシュはこのブログでも紹介した「暴走する資本主義」の中で、先進国では消費者と資本家はグローバル資本主義の恩恵を受けたが、労働者と市民は被害を受けたと説いている。

暴走する資本主義暴走する資本主義
著者:ロバート ライシュ
販売元:東洋経済新報社
発売日:2008-06-13
おすすめ度:4.0
クチコミを見る

「資本主義とは個人を孤立化させ、社会を分断させる悪魔の挽き臼」であるというのは、ハンガリーの経済学者カール・ポランニーが第2次政界大戦中に書いた「大転換」という本の中の言葉である。


「国民総幸福量」という考え方

中谷さんは世界でも低所得国のブータンキューバを取り上げ、貧困でも心がすさまない、明るく他人に親切な社会について語っている。

キューバは、その高い医療水準で医療立国を目指している。これを取り上げたのがマイケル・ムーア監督の「シッコ」だ。

アメリカで医療を受けられない人々をキューバに連れて行ったら、キューバでは無料で高度な医療が受けられたという。



ブータンでは王室が選挙制度を導入し、民主主義に移行したが、国民の90%は民主化に反対したと。この国では30年以上の前に「国民総幸福量」という概念を発表している。

ブータンの産業は水力発電くらいしか思いつかないが、鶴が電線で感電死するかもしれないという理由で、村を電化することを住民が止めたというエピソードまである。まさに「ボロは着てても心は錦」の国なのだ。


世界幸福感指数

イギリスのレイチェスター大学が発表した世界の幸福感指数では、ブータンは福祉の行き届いた北欧諸国と並んで、世界第8位で、日本は90位だという。それは次のようなランキングだ。

The 20 happiest nations in the World are:

1. Denmark
2. Switzerland
3. Austria
4. Iceland
5. The Bahamas
6. Finland
7. Sweden
8. Bhutan
9. Brunei
10. Canada
11. Ireland
12. Luxembourg
13. Costa Rica
14. Malta
15. The Netherlands
16. Antigua and Barbuda
17. Malaysia
18. New Zealand
19. Norway
20. The Seychelles

Other notable results include:

23. USA
35. Germany
41. UK
62. France
82. China
90. Japan
125. India
167. Russia

The three least happy countries were:

176. Democratic Republic of the Congo
177. Zimbabwe
178. Burundi


アメリカは「宗教国家」

中谷さんは、アメリカは「マニフェストデスティニー」を背負った「宗教国家」なのだと語る。だから神から受けた使命を達成するために原住民のインディアンを殺したり、ペリーを派遣して未開国日本を開放させたり、戦争で日本に勝ったが、ベトナムで敗北し、ブッシュ政権はイラクで壁にぶちあたった。

これを修復するのがオバマ大統領だ。オバマは(1)大不況からの修復、(2)中産階級の修復、(3)モラル・リーダーシップの修復をすることが期待される。


中谷さんの日本人論

この本の中で中谷さんは日本人論に多くのページをさいている。いくつかサブタイトルをひろうと。

・なぜ日本人は自然と共生できたのか
・なぜ、西行や芭蕉は聖人と慕われたか
・神道と仏教を融合した日本人
・弥生人は縄文人を征服しなかった
・国譲りによって統一された日本の独自性
・自然に神聖さを感じる日本人、自然を征服の対象と考える欧米人
・日本文化の中にこそ環境問題への解決の鍵がある
・戦後日本を経済大国にした談合・系列の秘密
・信頼こそが社会資本である
・稀に見る均質性こそ日本近代化の鍵だった
・今や貧困大国となった日本
・雇用改革が破壊した日本社会の安心・安全


中谷さんの結論

結論としては、江戸時代以来の伝統である安心・安全という価値観を、環境対策や省エネといった分野で、世界に広めようというものだ。そして安心面で日本が学ぶべきモデルケースとして高福祉国デンマークを挙げている。

デンマークではいつでも余剰人員を解雇できる。解雇されても、高い失業保険がもらえ、さらに職業訓練学校に通いスキルアップのチャンスとなるので、解雇されることをマイナスと思わないという。デンマークでは同一労働同一賃金が徹底しているので、同じ所に長く働いても賃金が上がるわけではないのだ。

デンマークでは社会に支えられているという実感があり、たとえば子育ての親の苦労を地域社会全体が負担しようと公共の養育施設が充実している。


これからはグローバルスタンダードでなく、相互に認め合う相互承認の時代であると結んでいる。この本はグローバルスタンダード論から日本の構造改革を支持してきた中谷さんの方針転換、反省の書である。

筆者もGDP世界第二の経済大国の座を失っても、日本は世界のリーダーとして存在意義を十分示せると思う。この本の中谷さんの提言に賛成だ。

中谷さんほどの著名な学者がここまで謙虚に「懺悔の書」を書くとは驚きだ。日米文化論は中谷さんの放談という感があるが、全体を通して中谷さんのまじめな性格が伺える。

本屋で平積みになっていると思うので、是非一度手に取ってみて欲しい本である。



参考になれば投票ボタンをクリックしてください。


  
Posted by yaori at 10:40Comments(0)TrackBack(0)

2009年05月04日

世界は感情で動く クイズ感覚で楽しく読める行動経済学第二弾

世界は感情で動く (行動経済学からみる脳のトラップ)世界は感情で動く (行動経済学からみる脳のトラップ)
著者:マッテオ・モッテルリーニ
販売元:紀伊國屋書店
発売日:2009-01-21
おすすめ度:4.0
クチコミを見る


以前このブログで紹介した「経済は感情で動く」の姉妹編。

題材も基本的に同じで、クイズ感覚で楽しく読める。

経済は感情で動く―― はじめての行動経済学経済は感情で動く―― はじめての行動経済学
著者:マッテオ モッテルリーニ
販売元:紀伊國屋書店
発売日:2008-04-17
おすすめ度:4.0
クチコミを見る


多くの論点は「経済は感情で動く」と共通なので、この本で印象に残った点を紹介しておく。


ヒューリスティック(heuristics)

元々アルキメデスが風呂でアルキメデスの原理を発見したときに、「ユーレカ」と叫んだことが語源となっていると言われる。意思決定したり、判断を下す時に、厳密な論理を積み上げる方法でなく、直感ですばやく結論を出すこと。

ヒューリスティック・バイアスの例として「代表性」が挙げられている。「代表性」とは、いわゆるステレオタイプのことで、国籍、出身地、職業、年齢などから思い浮かべる特徴でその人を判断してしまうことだ。

面白い例が紹介されている。

問15(選挙の候補者について)

3人の候補者の誰に投票しますか。

A.一番目の候補者は腐敗した政治団体との一件に巻き込まれたことがある。星占いに凝っている。愛人が2人。ヘビースモーカーで日に6箱から10箱開ける。

B.二番目の候補者は、二度役職を罷免されたことがある。抑うつ傾向(鬱病傾向)があり、お昼まで寝ている。毎日ウィスキーを一瓶空け、仕事中に居眠りする。

C.三番目の候補者は、愛国者で軍部から勲章を与えられた。菜食主義者で、タバコを嫌い、たまにビールを一本飲み、性生活はきわめて慎ましい。

A.はフランクリン・ルーズベルト
B.はウィンストン・チャーチル
C.がアドルフ・ヒトラーだという。


ハロー効果(ハローとは「後光がさす」の「後光」のこと)

商標とか価格などにまどわされて、判断をしてしまうことがある。これをハロー効果と呼ぶ。

たとえばブランドテイスティングでは、ペプシを選ぶ人が多いのに、商標が見えていると、圧倒的にコカコーラの方がおいしいと答える。

またワインのブラインドテイスティングの例では、5ドルと35ドルと90ドルの三本のワインが使われた。

値段を言われてテイスティングすると、5ドルのワインを45ドルと言われたときの方が、実際の値段の5ドルと言われた時よりもおいしいと感じる。

90ドルのワインも、90ドルと言われてテイスティングした時が最高においしく、同じワインを10ドルと言われてテイスティングするより断然おいしかったという。

この本では、「脳のなかで、味や香りが生み出す快感に密接に結びついた内側面前頭葉眼窩面皮質が、同じワインでも高い値段で試飲するときのほうが、見るからに活動的になるからである」と学説のように説明しているが、これは冗談半分・本気半分といったところだろう。

筆者もワイン好きなので、価格とか原産地、生産者、ブランドの魔法は気を付けなければならない。

実は一度だけテイスティングして、味がおかしいと感じて出すのをやめたことがある。アメリカに駐在していた時、取引先を自宅に招いて日本で買ったボルドーの第二級シャトーワインを出した時に、おかしいと感じたのだ。

1993年のシャトー・デュクリュ・ボーカイユだったが、日本で買ったのを普通のコンテナで引っ越し荷物の中に入れて持ってきたから劣化が激しかったのか、あるいは1993年のビンテージは元々良くないのか、ボルドー特有のタンニンの効いた味の深みが全然ないので、出すのをやめた。

ボルドーのシャトーワインは、良いビンテージと悪いビンテージと大きな差があり、同じワインの1993年のビンテージは、今でも値段は余り上がっていないようだ。

★送料無料★[1993]シャトー・デュクリュ・ボーカイユ/サン・ジュリアン(クール代別)
★送料無料★[1993]シャトー・デュクリュ・ボーカイユ/サン・ジュリアン(クール代別)


良いビンテージだと若い2005年のワインでも、1993年のものの倍以上の値段で売られている。

【クリアランス&円高還元セール】☆シャトー・デュクリュ・ボーカイユ [2005]!【dotou_0501】
【クリアランス&円高還元セール】☆シャトー・デュクリュ・ボーカイユ [2005]!【dotou_0501】



Wingdingsという記号フォント

どうでも良い話ではあるが、Wingdingsというフォント(特殊記号?)を選んで、”Q33NY”と入力すると次のシンボルが表示されるという。

wingdings



これは「2つのタワーに飛行機が激突し、イスラエルを巻き込んだ大惨事に発展した」と読むのだと。

"wingdings"というフォントがあることを始めて知った。閑話休題


「コノンの千里眼」

筆者は初めて聞く話だが、ギリシャの将軍コノンは、アテネ同盟軍でスパルタと戦い、紀元前394年のクニドスの海戦で、勝利を収める

アテネは同盟国と戦利品を分けることになり、コノンは捕虜を裸にして、捕虜の所持品と捕虜とを分けて、同盟国にどちらか選択させた。

同盟国は驚いたが、所持品を選んだ。スパルタ人は労働には向いていないと考えたのだが、後にスパルタの捕虜の身内が捕虜開放に莫大な金を払ったことを知り、「コノンの千里眼」を身をもって知ることになったという。

多くのクイズが出題されており、コラムも面白く、前作の「経済は感情で動く」と同様クイズ感覚で楽しめる本だ。


いずれかを手にとってみることをおすすめする。


参考になれば投票ボタンをクリックしてください。






  
Posted by yaori at 01:57Comments(0)TrackBack(0)

2009年03月01日

経済は感情で動く クイズ感覚の行動経済学

経済は感情で動く―― はじめての行動経済学経済は感情で動く―― はじめての行動経済学
著者:マッテオ モッテルリーニ
販売元:紀伊國屋書店
発売日:2008-04-17
おすすめ度:4.0
クチコミを見る


はじめての行動経済学という副題がついているが、クイズ集のような読み物になっている。原著はイタリア語で書かれているが、翻訳は非常に軽妙で読みやすく、翻訳とは思えないできばえで、わかりやすいように日本の事例も多く盛り込まれている。

こんな経済学の授業なら是非受講したいものだ。

いくつか参考になる例を紹介する。


●お金の価値は一定というのは幻想。ギャンブルで稼いだ金はパッと使うが、汗水垂らして稼いだ生活費はケチる。

●選択で目が行きやすいのは肯定面より否定面。政治家が汚職やスキャンダルを嫌うのはそのため。

●3つあると真ん中を選ぶ。

●選好の逆転

・第一問 あなたはどちらを選びますか? 
 A.賞金は7,000円だが、当たる確率は80%
 B.賞金は70,000円だが、当たる確率は10%

 67%がA.を選んでいる。

・第2問 上記A./B.をお金に換算するとどちらが高いですか?
 
 71%がB.を選んでいる。

これが「選好の逆転」という現象で、ラスベガスのカジノでの実験で明らかになったという。選ぶのは確率が高い方だが、価値は賞金の額で判断する。

●保有効果

・コーネル大で大学のロゴが入っているマグカップを使って2種類の競売を行った。
 A.カップを持っているグループには、いくらならカップを手放すか
 B.カップを持っていないグループには、いくらなら買うか

 A.の平均は5.25ドルで、B.の平均は2.75ドルだった。たいしたものではなくても、自分のものの価値は人が考える価値より2倍にもなる。これが保有効果だ。

●コンコルドの誤謬
 別名サンクコストの過大視といえばわかる人も多いと思う。コンコルド開発の途中で、完成しても採算がとれないことが予想されたが、既に巨費をつぎ込んでいたので、そのまま突っ走り完成したが、巨額の赤字を垂れ流すことになった。

 第2東名とか、これになりそうなプロジェクトも多い。


●勝者の呪い
 もっとも高い価格でスポーツ選手や資源の採掘権などを手に入れた勝者が、高コストで結局損をしてしまう。これが勝者の呪いだ。

●アンカリング効果
 一番典型的なのは値札だ。10,000円の元値が5,000円になっている商品と、正札が5,000円の商品では、あなたはどちらを買うだろうか?

 ある人の意見を聞いた後で、自分も同じことを考えていた気がするというのもアンカリング効果だ。

●ヒューリスティクス(目の子算)のバイアス
 経済に心理学を導入したことで、2002年にノーベル賞を受賞したダニエル・カーネマンが名付けた現象。

 直感で見積もる時、バイアス(偏り)がでることがある。たとえば次の様な場合だ。

・リンダは大学で人権や社会正義のためデモにも参加していた。次のどれが当てはまる可能性が高いか?
 A.リンダはグローバル化反対の活動家である。
 B.リンダは銀行員である。
 C.リンダは銀行員で、グローバル化反対の活動家である。

 80%の人はA>C>Bと判断する。しかしBとCは論理的には常にB>Cである。これが連語錯誤と呼ばれる現象だ。

 首都大学東京 都市教養学部経営学系長瀬ゼミナールのwikiサイトというのがあり、行動意思決定論の用語を解説しているので、紹介しておく。この本に出てくるいくつかの用語も解説している。

●少数の法則 

 少ないサンプルでも大きな数の法則が当てはまると考えること。たとえば3割バッターが3打席ノーヒットだと、次の打席はヒットを打つ確率が高いと考える。ヒットを打つ確率は毎打席3割だ。

 野球評論家の「後知恵」的説明は話半分に聞いておくと良いと。結果を知っていれば誰でも評論家になれる。

●フレーミング効果
 質問のされ方によって選択が異なる現象。

・撤退ルートにより兵士の生存率が異なる場合。
 1.A.を選べば200名が助かり。B.を選べば1/3の確率で全員が助かり、2/3の確率で全員が死亡する。

 2.A.を選べば400名が犠牲になる。B.を選べば1/3の確率で全員が助かり、2/3の確率で全員が死亡する。

 70%以上の人が1.ではA.を選び、2.ではB.を選ぶ。助かる人命を説明に入れると、なるべく多くの兵士を助けようとするから慎重になるが、失われる人命を説明に入れると、一人も失いたくないので、かえって危険を冒してしまう。

 投資の場合に当てはめると、確実に得をする可能性の高い時は慎重になり、確実に損をする場合には余計にリスクを負ってしまう。ギャンブラーによく見られる現象であると。

・ガン手術の場合に外科手術か放射線治療かを選ぶというケースの場合
 1.外科手術を受けた100人の患者のうち90人が手術に成功し、1年後の生存者数は68人、5年後の生存者数は34人だった。放射線治療を受けた100人の患者のうち、100人が無事に治療を終え、1年後の生存者数は77人、5年後の生存者数は22人だった。

 2.外科手術を受けた100人の患者のうち10人が手術中に死亡し、1年後には32人が死亡し、5年後には66人が死亡していた。放射線治療を受けた患者で治療中に死んだ患者はなく、1年後の死亡者数は23人、5年後の死亡者数は78人だった。

 1.も2.も同じ質問だが、1.の様に生存者で質問されると82%が外科手術を選んだが、死亡者数が表示されると外科手術を選んだ人は56%にまで下がった。

おもしろい問題もある。

●雨の日のマンハッタンでどうしてタクシーがつかまらないのか

 普通に考えれば、売り上げの上がる日によく働き、売り上げの少ない日にはさっさと切り上げるべきなのだが、運転手たちは短時間で儲かる日には労働時間を短くしていることがわかったという。

 運転手たちは、売り上げ目標に達しないとそれを損失と考え、もっと長く働こうとし、短時間で目標額に達してしまえば得した気分となり、さらに長く働こうとは思わず、帰って一杯やろうとする。だから雨の日にはいつまでもタクシーが見つからないのだと。

 これは「損失回避の原則」と呼ばれ、ダニエル・カーネマンらがプロスペクト理論として実証したものだという。同じ1万円でも、1万円得する満足よりも、1万円損する苦痛の方がはるかに大きいのだ。

 株の場合は、投資家は手元に置いておくべき株を売り急ぎ、売るべき株を売り遅れる傾向があるという。

●してしまったことを後悔するか、しなかったことを後悔するか

 人は短い期間では失敗した行為に強い後悔を覚えるが、長期的にはやらなかったことを悔やんで心を痛めるという。マーク・トウェインは「20年経てば、したことよりもしなかったことを嘆くようになる」と言ったという。

お金についての錯覚については多くの例が紹介されている。

●実収入か額面か

・インフレゼロでの2%の賃下げと、インフレ4%での2%の賃上げではどちらが好ましいか?

・クレジットカードを使うと2%高くなるという張り紙と、現金で買うと2%割引になる張り紙ではどちらが好ましいか?

・寒い日には150円で売るが、暑い日には10円値上げするというコカコーラと、暑い日には160円で売るが、寒い日には10円値引きするというペプシコーラではどちらが好ましいか?

たぶんあなたの感じたのと同じことを他の多くの人も感じている。


裁判員制度がいよいよ5月から実施されるが、裁判員の心証が言い方によって操作される場合があるので注意しなければならない。たとえば次のような場合だ。

 A.毎年そのガンで死ぬ人は100人につき平均24人である。
 B.毎年そのガンで死ぬ人は1万人につき平均1,285人である。

どっちのガンが危険度が高いか?

ある研究によると75%の人がB.の方が危険だと考えるという。1,285人という数字に引かれるからだ。

 A.X氏のような患者を釈放すると、半年以内の犯罪発生率は20%である。
 B.X氏のような患者を釈放すると、100人のうち20人が半年以内に犯罪を犯す。

 A.の場合は21%の専門家が釈放に反対、B.のケースでは41%の専門家が反対したという。人数を言われた方が犯罪を犯す場面を想像しやすいからだ。

教訓として、マスコミの報道を見るときに各種の統計数字については、母体数がどれだけかを確認し、%表示であれば実数で、実数表示であれば%に置き換える頭を持とうと呼びかけている。

そうすれば最初に受けた印象と異なり、騒ぐようなことではないとわかるかもしれないと。

筆者が通勤途上によく聞いているAudibleでダウンロードしたブライアン・トレーシーのオーディオブックの"Success Mastery Academy"で言っていたが、テレビドラマや映画に登場する悪人の84%は白人ホワイトカラービジネスマンで、女性の悪人も結構いる。

しかし犯罪統計によると白人ホワイトカラービジネスマンの犯罪は全体の1%以下で、そのうち女性の犯罪はきわめて少ないと。

audible






success mastery academy






アメリカでポリティカリーコレクト(人種問題を起こさない)ドラマをつくろうとすると、白人ホワイトカラー犯罪しか制作できないのだという。


●知ってるつもり 自信過剰がはめる罠

運転能力の問題はよく出されるが、(あなたは自分の運転がうまいと思っていますか?)、この本ではあなたが正解である確率を自己評価してみろという。問題は次のようなものだ:

1.日本のカルデラ湖で一番大きいのはどれでしょう? (自己申告正解度   %)

3.国会議員に立候補できるのは何歳からですか?(自己申告正解度   %)

6.太陽と地球までの距離を100メートルとすると、地球と月の距離はつぎのうちどれですか? 。横汽瓠璽肇襦↓■押ィ汽瓠璽肇襦↓25センチ、ぃ押ィ汽札鵐繊 兵己申告正解度   %)

7.日本で35歳以下の第一の死因は何ですか? (自己申告正解度   %)


正解を問うのではなく、自己申告正解度を聞いているのがミソだ。ちなみに筆者はすべて誤答だった。(正解は続きを読むに記載)

人は過信しがちで、成功すると自分のため、失敗すると人のせいにしたがる。これでは将来も同じ失敗を繰り返す。自分の誤りを認めることが前進のカギとなると語っている。

●ピーク・エンドの法則
 1999年にダニエル・カーネマンが発表したもので、快・苦の記憶はピーク時と終了時の快・苦の度合いで決まるというもの。ことわざの「終わりよければすべてよし」である。

 だから別れ際の一言、最後の一言が大切なのだ。「本日はお時間を取っていただき、ありがとうございました」の一言が言えるかどうかで印象はがらりと変わるという。


最近では「神経経済学」という行動経済学の一部で、人間がある行動をとるときに脳のどの部分が働いているかで、合理的判断か感情かをMRIなどで判定しようという試みがあるそうだ。またどんなホルモンがでていればどのような行動になるのかを調べているという。


「はじめての行動経済学」という副題がついているが、経済学の本というよりはクイズ集のようである。おもしろく読め、また参考になる。

ベストセラーゆえ本屋に平積みになっているのではないかと思うので、是非一度手にとってみることをおすすめする。



参考になれば投票ボタンをクリックしてください。


  続きを読む
Posted by yaori at 11:28Comments(0)TrackBack(0)