2020年07月04日

中田敦彦さんのYouTube大学の「お金の授業総まとめ」最終結論

2020年7月4日再掲:

中田さんの勧めに従い、「バンガード・S&P 500 ETF」を6月26日に買ったら、7月1日現在の株主への配当金が7月6日に入金するとの連絡があった。

年4回配当しているのだ。

今回の配当利回りは0.5%程度と大したことはないが、それでも年4回だと2%程度にはなる。

ETF自体も、この間に上下あり、2.5%程度値上がりしている。

もちろん、これは株価次第で、買った翌日に米国株は一旦下がったが、それ以降は上昇を続けている。米国のコロナ対策が再度強化されると、株価はまた下がるだろうが、長期保有するので、一喜一憂することではない。

全く意識していなかったが、配当基準日の直前に買うと余禄がある。

世界の投資信託の市場規模は米国が圧倒的に大きい。日本の12倍だ。だから世界中の資金が集まるし、競争も厳しいので、商品には魅力があり、投資家保護も行き届いている。

20Q1世界投資信託統計











出典:(一社)投資信託協会

米国株。面白い!


2020年6月26日初掲:





中田敦彦さんが「お金の授業総まとめ」として、バフェット太郎さんや、たぱぞうさんなど16冊のお金の本を読んだ最終結論として、お金持ちになる(自分が働くのではなく、お金を働かせる)ためには、余剰資金を長期の米国株インデックス積み立て投信に振り向けることを推奨している。

大手証券会社の窓口には行くな、日本株は買うななど、普通なら言えないことも言えるのは、「芸人だから」なのだと。テレビなどスポンサーがついている番組でも、そういったことは言えないだろう。芸人YouTuberだからこそ言える本当の話なのだ。

バカでも稼げる 「米国株」高配当投資
バフェット太郎
ぱる出版
2019-01-24









預金や国債でなく株式というのは違和感がないし、大半のファンドマネージャーが、株式市況に連動するインデックスファンドに結局勝てないことは知っていたが、日本株ではなく、米国株という結論に最初違和感を持った。しかし、考えてみると、やはりこれが間違いない財産形成の道だと筆者も同意する。

そのこともあって、なぜ日米株価でこれだけ差がついてしまったかを考えてみた。

まずは、事実の検証だ。過去35年のダウ平均株価の推移と、日経平均株価の推移を見ると、日本はバブルのピークをいまだに超えられないのに、米国株価はリーマンショックの時期を除いて順調に右肩上がりとなっている。

ダウ平均株価推移過去35年












日経平均株価推移過去35年












出典:三菱UFJモルガン・スタンレー証券

このグラフを見ただけでも、資産を増やしたいのなら日本株より米国株ということが言えるだろう。

次は前回紹介した村上世彰さんの「生涯投資家」に載っていた米国と日本の上場企業時価総額比較の表だ。

バブルの頃の一時期には日本が上回ったが、それを除いて、1995年頃までは日本と米国の株式市場の規模はほぼ同じだったが、現在日本は500兆円しかないのに、米国は2000兆円以上ある。

日米時価総額推移 (2)





















出典:「生涯投資家」200P

「生涯投資家」で村上さんは、米国の株式市場が成長し続け、日本よりはるかに高い価値を保っているのは、物言う株主がいて、株主の利益を守るコーポレートガバナンスが機能する環境を築いてきたからだと語る。

米国では1980年代のレーガン大統領の年金改革以来、確定拠出型年金の401Kが広まった。これによって年金資金の運用方法を自分で決めることができ、多くの一般市民が株式・投資信託による運用を始めて株式投資のすそ野が広がり、さらに各種ある年金基金も、大量の資金を投入して多くの企業の大株主となった。

このように一般市民、年金基金も加わって、米国の株式市場の拡大に貢献したことが、コーポレートガバナンスという、経営者行動の監視、企業活動への規律が定着した基盤となった。

中田さんは、株式は会社の区分所有権なので、インフレに強いという説明をしている。それはそれで正しいが、インフレ率でも日米に大変な差があり、日本の株価が上がらない理由の一つになっている。

次は過去30年間の日本と米国のCPI(消費者物価指数)の推移のグラフだ。

まずは、日本のCPI推移のグラフ。バブル崩壊後の1990年代前半を除いて、ゼロの線をはさんで上下している。日本はインフレは完全に抑えられているので、その意味では素晴らしいことだが、逆にデフレが日本経済拡大の足かせとなっている。
日本CPI上昇率

















次に米国のCPI推移のグラフ。あきらかに日本のグラフより2〜3%上を行っている。

米国CPI上昇率




















資料:GLOBAL NOTE 出典:IMF

グラフだけだと、どれだけの差となっているのか実感がわきにくいので、上記をエクセル表にして1990年1月1日を100とするCPI指数を計算してみた。その結果が次だ。

日本の過去30年間のCPI推移。30年前に100だったものは、日本では現在115だ。

日本CPI推移









































米国のCPI推移も同様に計算してみた。米国で30年前の100は、現在は206だ。つまり倍以上になっているのだ。日本では30年間で、15%しかCPIが上昇しなかったが、米国では30年間で倍以上になっている。物価だけでもこれだけの違いがあるのだ。ためしに中国も試算してみたら、中国は3倍以上の319だった。

これからもCPIは同様の傾向が続くだろう。そして米国の株価は常にCPIを上回るだろう。しかし、CPIのみが決定要素ではない。GDPだったり、他国と比較するには為替相場、経済全体の活力、社会・経済の透明性、そして個別企業の成長性などがコーポレートガバナンスが徹底した米国企業の株価を今後も支えていくのだ。

日米中GDP推移

















出典:世界経済のネタ帳

筆者自身は、米国株では苦い経験がある。米国に駐在していて、ちょうどインターネットバブルの頃にぶちあたり、その時にインターネット関連のファンド(投資信託)を買った。しかし、インターネットバブル崩壊で、結局投資した金額が1年で半分になってしまった。

この時は、いずれ日本に帰国するので、日本でも店がある新興ネット証券会社ということで、当時のDLJダイレクト証券(現在の楽天証券)に口座を開いた。2000年のことだ。

それ以来、米国株には投資していなかったが、当時と今とでは環境が異なり、中田さんイチ押しの「バンガード・S&P 500 ETF」や、「楽天・全米株式インデックス・ファンド」なら、少額から始められるので、早速やってみた。めちゃくちゃ簡単に米国株が買えるんだ!

筆者はこれまで日本の高配当株に長期安定投資してきており、最近も株価下落を好機に、持高を積み増している。

キャピタルゲイン狙いではないので、今年になって買い増しした部分は現株価が購入価格を下回っているものもあるが、売るつもりはないので株価が下がっても問題はない。むしろ株価が下がって5%以上という高率の配当利回りになっているので、予定通りの配当さえもらえれば別に構わない。

これからも日本の高配当株という基本線は維持するが、余裕がある軍資金は、米国株に振り向けようと思う。

中田さんは、「不都合な真実を言っちゃうのがエンターテイメント」であり、それがオモロイのだと語る。

筆者も、「不都合な真実を言っちゃう」ノリで付け加えると、年金はチョイスがあるのであれば、はやく日本型401Kの確定拠出型年金=iDeCoにした方がよい。

確定給付型の厚生年金だと、自分の積み立てた資金であっても、一定以上の収入が他にあれば、年金支給が停止される。具体的に言うと、「賃金+年金」の月額が65歳未満は28万円、65歳以上は47万円を超えた場合、金額によって一部〜全部支給停止となる。

人生100年時代とか言っていても、実際に長く働き続けて収入を維持すると、年金は国に没収される。まさに逆の政策を続けているのだ。

筆者の場合、毎年支給停止が続き、65歳を過ぎてこれで厚生年金が満額もらえると思ったら、まだ仕事をしているので、ほとんど支給停止となっている。

さらに、日本の「ねんきん定期便」が記載している保険料納付額は、自分の払った厚生年金のみで、雇用者が払った金額が全く表示されていない。

雇用者が同額払っていることを(注)に書くだけで、本当は、「ねんきん定期便」に書いてある倍の金額を国に納めていることを意図的に隠して、ネコババしようとしているとしか思えない。

米国のソーシャルセキュリティの「ねんきん定期便」にあたるステートメントでは、はっきり"You paid"と”Your employers paid"の金額が、両方明示されている。

米国のリーガンからの年金改革は、まさに先見性ある改革だったと今更ながらに思う。

この辺のことを詳しく知りたい人は、2011年の資料だが、金融審議会で、株式会社野村資本市場研究所の人が、「米国における市場型金融の進展」ということで詳しく分析しているので参考にするとよい。中田さんの米国株投信イチ押しという結論をサポートする事実が述べられている。

米国に倣った制度である確定拠出型年金が選べるのであれば、自分の老後資金は自分で守ったほうがよい。

大変参考になり、自分で考えるモチベーションがわく中田さんのYouTube大学講義だった。芸人だから当然だが、話術もうまく、テンポもいい。ぜひ一度視聴してみることをお勧めする。

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2020年06月25日

生涯投資家 村上ファンドの村上世彰さんの「最初で最後の告白」?

生涯投資家 (文春文庫)
村上 世彰
文藝春秋
2019-12-05


<今回のあらすじは長いです>

村上ファンドで、東京スタイル、ニッポン放送、フジテレビ・ライブドア事件、阪神鉄道などで、「もの言う投資家」として有名になったが、2006年インサイダー取引で逮捕、有罪となったことから、現在はシンガポールに住んで、自らの資金のみでアジアの不動産などの投資を行っているという村上世彰(よしあき)さんの本。

シンガポールには相続税がない。その対策もあって、シンガポールに居を移したのだろうと思う。

本の帯に「最初で最後の告白」となっている。

実は、最近全くの別件で、村上さんの村上財団などの援助で、東大、慶応大学、阪大、京大等でコロナウイルスの大規模かつ精密な抗体検査のネットワークが出てきているのを知り、中田敦彦さんのYouTube大学でも、以前取り上げられていたので読んでみた。



ちなみに、村上財団が支援しているコロナウイルスの精密抗体検査については、プロジェクトリーダーの東大の児玉龍彦名誉教授が出演している次のビデオが参考になる。



村上さんは台湾人の投資家のお父さんを持ち、お父さんと一緒に旅をすることで、小さいころから投資家として経験を積んできた。小学校3年生の時に、大学入学までのお小遣いとして、100万円もらい、すぐにお父さんの愛飲するサッポロビールの株を50万円買ったのが株式投資の始まりだ。

この本で、お父さんに連れられてアメリカザリガニの養殖をしている投資家と一緒に会食し、ザリガニは苦手だったと書いている。筆者はニューオーリンズのザリガニ料理(大きなロブスターではなく、こぶりのアメリカザリガニそのもの)は好きだが、当時の村上さんにはおいしくなかったという。

灘中ー灘高ー東大法学部と進学し、大学卒業後はお父さんの後を継いで投資家になろうと思ったら、お父さんから「国家というものを勉強するために、ぜひ官僚になれ」と言われ、当時の通産省に16年間務めた後、1999年に通産省をやめて、オリックスと共同でM&Aコンサルティングという投資コンサル会社を立上げ、それからファンドビジネスに展開した。

村上さんは数字に強く、通産省時代に経営者に会うときには、その会社の財務諸表を読み込んでから会っていた。しかし、その会社の財務状況をちゃんと把握している経営者は多くなかったことに驚いたという。

今では当たり前の「会社は株主のもの。経営者は株主から経営を委託されているにすぎない」という考えは、何を言っているんだと日本では全く通用しなかった。

米国では1980年代から、株主が経営者を監視するという「コーポレートガバナンス」の考えが広まり、会社を私物化していた経営者が株主によって追われるという事例も起こった。それが、1988年の投資会社KKRによるRJRナビスコのLBO(買収した会社の資産・キャシュフローを担保にして買収資金を調達する手法)だ。この案件は、「野蛮な来訪者」という本になっている。




筆者も当時米国に駐在していたので、MBO(経営陣による会社買収)、LBOが盛んにおこなわれていたことを思い出す。

RJRナビスコの社長は、社用ジェット機を10数機、会社の金を使って社外取締役まで手なずけていて、完全に会社を私物化していたという。

村上さんは、日本でも「コーポレートガバナンス」が徹底されるべきだという信念と、すごい資産や内部留保がありながら、株価が低迷しているお買い得の会社がゴロゴロあるという日本の現実を見て、大きく儲けるチャンスだと考えて、会社を立ち上げた。

この本では、村上さんが多くの財界人や著名人と知り合いなことが、散りばめられている。投資には情報が最重要なので、情報を入手するための人脈が不可欠なのだ。

いくつか紹介すると、お父さんの代から家族ぐるみのつきあいだというシンガポールで2番目に大きい豊隆財閥(ホンリョングループ)郭令明さん、(百度のネット辞典で中国語サイト)、KKRのパートナーのクラビス氏、アクティビストファンドのLENSファンドを率いるロバート・モンクス氏、人材派遣会社ザ・アールの奥谷禮子会長、オリックスの宮内義彦会長(村上さんが設立したM&Aコンサルティングに出資してくれた)、福井俊彦元日銀総裁(あとで村上さんのインサイダー事件の際に、村上ファンドに投資していたことが国会で問題となった)などだ。

これらの人から、さらに三井住友銀行の西川善文頭取、日本マクドナルドの藤田田社長、セゾングループの堤清二さん、リクルート創業者の江副さん、小泉純一郎元首相等々、どんどん芋づる式に人脈は広がる。もちろん、仲が悪くなった例もある。イトーヨーカ堂の伊藤雅俊会長には、東京スタイルにTOBを仕掛けた件で、激怒されたことがあるという。

小池百合子都知事(通産省時代に外務省に出向してエジプト関係のイベントをやったときに、カイロの和食レストラン「なにわ」のオーナーから、娘がアナウンサーをやっているということで紹介された)や、期待している経営者としてLIXILの瀬戸欣也社長が紹介されている。

このブログで紹介したITベンチャー企業の創業者たちとも村上さんは親しい。2000年にITバブルがはじけた後、ITベンチャーの株が割安になったので村上ファンドで買ったのだと。

いまは懐かしいクレイフィッシュ(NASDAQと東証マザーズ同時上場した)の松島さんサイバーエージェントの藤田さん(藤田さんとは同じマンションの隣人になったという)、USENの宇野さん楽天の三木谷さん、GMOの熊谷さん、そしてホリエモンだ。

村上さんが、彼らをどのように見ていたのかがわかる。

村上さんが、会社経営で最も重視する指標がROE(当期純利益/純資産)だ。日本の古い経営者は、会社を自分の家計と勘違いしており、借金を嫌い、現金に余裕があれば安心する。そんな余剰資金を、会社経営の血液として循環させるためにROEを重視するルールができたのだと。

アベノミクスでも、第3の矢の成長戦略として、一橋大学の伊藤邦雄教授を座長にした「伊藤レポート」で、「8%を上回るROEを達成することに各企業はコミットすべきである」としている。

米国の株式市場が成長し続け、日本よりはるかに高い価値を保っているのは、物言う株主がいて、株主の利益を守るコーポレートガバナンスが機能する環境を築いてきたからであり、だから日本企業のPBRは平均で1だが、米国企業のPBRは平均3なのだと。

次はこの本に載っている米国と日本の上場企業時価総額比較の表だ。バブルの頃の一時期には日本が上回ったが、それを除いて、1995年頃までは日本と米国の株式市場の規模はほぼ同じだったが、現在日本は500兆円しかないのに、米国は2000兆円以上ある。

日米時価総額推移 (2)





















出典:本書200P

ほぼ同じレベルの純資産を保有しながら、株価に3〜4倍もの差がでるのは、投資家の「期待値の差」であり、投資家への「リターンの差」を意味すると村上さんは語る。端的な例が、米国企業の総株主還元比率が90%を超えているのに対して、日本では50%前後にとどまっている。

過去35年のダウ平均株価の推移と、日経平均株価の推移を見ると、日本はバブルのピークをいまだに超えられないのに、米国株価はリーマンショックの時期を除いて順調に右肩上がりとなっている。

ダウ平均株価推移過去35年












日経平均株価推移過去35年












出典:三菱UFJモルガン・スタンレー証券

世界の投資家が指標として最も重視しているのがROEだが、日本ではROE中心の経営が行われてこず、成長性や投資家へのリターンよりも、財務の健全性が指標として重視されてきたことが影響している。

企業と投資家がWin-Winの関係ができている例として、Appleとマイクロソフトを紹介している。

Appleの2012年度と2016年度のバランスシート

AppleBS (2)






















出典:本書211ページ

Appleは2012年度まではほとんど借入金がなかった。しかし、利益剰余金として資金をため込んでいたAppleに対して、投資家たちから還元の強い圧力がかかった。

無借金だったAppleは社債発行や借入によって、レベレッジを効かせ、株主への超積極的な還元プログラムを導入し、4年で総資産は倍になっているが、純資産はほとんど増えていない。

超積極的な株主還元プログラムの結果、Appleの株価はPBR6倍、PER18倍程度の高い水準となっている。

マイクロソフトの2004年度と2016年度のバランスシート

MSBS (2)






















出典:本書213ページ

マイクロソフトは稼いだ金を事業拡大投資に使い、1975年に創業した後、初めて配当を払ったのは2003年だった。2004年から大規模な株主還元計画を発表し、負債・借入金を増やして総資産を12年間で倍以上にしているが、純資産は減少して、適度なレバレッジが効いた状態になっている。マイクロソフトの株価も右肩上がりだ。

投資家は、投資先から資金が戻ってきた場合、必ず次の投資先を探す。日本の上場企業の様に、何も生み出さないまま資金を寝かせてしまうと、そのまま塩漬けになり、成長のために積極的に資金を必要としている企業へ回っていかない。そして市場は停滞し、経済全体が沈滞してしまうのだと。

米国のS&P500企業の数値で見ると、傾向として毎年ほぼ利益の全部を株主還元に回し、新規の事業への投資は借入によって賄っている(米国には内部留保課税もある)。適度なレバレッジを掛け、自己資本を減らせば自社のROE向上のみならず、銀行に眠っている日本国民の巨額の資金も有効に利用されるというマクロの効果もある。

日米の株式に対する投資家の評価の差は、投資家と企業との間で「資金のキャッチボール」ができているかどうかの差だという。それはまさに、コーポレートガバナンスへの理解と対応の違いだと村上さんは語っている。

日本企業の良い例として村上さんが挙げているのはソフトバンクだ。日本一の借金企業だが、株主価値向上のため、自社株買いにも積極的だ。

Ulletという会社のサイトに、ソフトバンクの過去5年間のバランスシートが掲載されていて参考になる。これによると、過去5年間で、ソフトバンクは総資産をほぼ倍増させており、株価はほぼ5割アップしている。

この本では、村上さん自身がインサイダー取引で有罪となったニッポン放送株大量購入と、ホリエモンのライブドアによるニッポン放送(小さなニッポン放送が、大きなフジテレビの親会社だった)を踏み台としたフジテレビの経営権をめぐる争いについても、村上さん側のストーリーを書いている。

この事件は中田敦彦さんの YouTube大学で詳しく取り上げられているので、こちらを参照願いたい。





村上さんは、阪神鉄道を中心とした関西の私鉄大再編、阪神タイガース上場などのプランを持って、阪神鉄道などと交渉していた時に、インサイダーで逮捕された。長年の阪神ファンの村上さんは、当時阪神のシニアディレクターだった星野仙一さんと会ったあと、星野さんが「いずれ天罰が下る」とメディアに語ったことがショックだったという。

インサイダー裁判は最高裁までいって、罰金300万円、追徴金約11億5千万円、懲役2年、執行猶予3年で有罪が確定した。一審の裁判官には「ファンドなのだから、『安ければ買うし、高ければ売るのが当たり前』と言うが、このような徹底した利益至上主義には慄然とせざるを得ない」と言われたという。

村上さんは、いまもってインサイダーにあたるものだったかどうか違和感が残ると語っている。

この本の最後に、現在取り組んでいる各種の慈善活動、村上財団ピースウィンズジャパンや不動産投資、飲食業、介護事業などについて紹介している。

中田さんは、池上彰さんの「日本の戦後を知るための12人」に、村上さんが取り上げられていることも紹介しており、池上さんは、村上さんの自己弁護色が強いと語っているそうだ。




たしかに自己弁護の本かもしれないが、村上さんがコーポレートガバナンスについて言っていることは正しいと思う。ただ、あまりに金を儲けすぎたので、池上さんがいう「けしからん罪」の司法も含め、日本ではありがちな、金を儲ける人へのやっかみ半分の攻撃に、脇が甘かったところを付け込まれ、足をすくわれたというところかもしれない。

あらすじが長くなってしまったが、インサイダートレーディングで有罪となった「村上ファンド」の自己弁護本という色眼鏡で見ず、華僑にもネットワークを持つ稀代の日本人投資家の本として読むと大変参考になる本である。

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2020年06月16日

【再掲】ジム・ロジャースの中国の時代 20年先まで見据えた投資

2020年6月16日再掲:

中田敦彦さんのYouTube大学でジム・ロジャースの近著「危機の時代」を紹介していたので、2008年に出版された「ジム・ロジャーズ中国の時代」のあらすじを再掲する(リンクは見直して、ところどころに注をつけた)。








20年以上前に中国の時代が来ると予測し、シンガポールに移住したジム・ロジャース。2008年の本なので、予想が当たっていない部分もあるが、21世紀は中国の世紀だと、中国のポテンシャルを的確に見抜いた先見性に驚く。


2008年10月31日初掲:

ジム・ロジャーズ中国の時代ジム・ロジャーズ中国の時代
著者:ジム ロジャーズ
販売元:日本経済新聞出版社
発売日:2008-06-14
おすすめ度:4.0
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前回紹介した橘玲さんの「黄金の扉を開ける賢者の海外投資術」でもしばしば登場したクオンタム・ファンドでジョージ・ソロスのパートナーだったジム・ロジャースの中国投資ガイドブック。「私は20年先まで見据えている」と本の帯に書いてある。

ジム・ロジャースは1988年にクオンタム・ファンドをやめ、バイクで世界一周しながら、自分の目で投資機会を見つけ、早くからいろいろな国で投資しているので、アドベンチャーキャピタリストと呼ばれている。

筆者が最初に中国に出張したのは1983年だが、ジム・ロジャースが中国に最初に行ったのは1984年とのことで、当時の状況を思い出させる。

ジム・ロジャースが最初にバイクで中国を横断したのは1988年だが、一番時間が掛かったのは、上海からカラコルム高速道路?まで3,000キロを走破することではなく、必要な許可を中国政府から取ることだったという。

筆者も記憶があるが、当時は完全な中央集権体制で、地方政府の高官は中央の官庁から派遣された役人ばかりだった。

お金も中国人が使う人民元と、外国人用の外貨兌換券の2種類があり、ホテルやレストランの料金はすべてダブルスタンダード、レストランは外国人とつきそいの中国人の食事場所が分かれていた。

中国人料金は大体外国人料金の1/10から1/30程度だったと思う。ホテルの電話はすべて盗聴されており、日本に電話して交渉戦略を打ち合わせしたりすると、すべて中国側につつ抜けになるということで、事前に暗号のような合言葉を決めて中国との交渉に臨んだものだ。

中国国内は大都市中心の外国人解放区と地方の非解放区とに分かれており、非解放区は基本的に外国人が入ることが禁止されていた。筆者は浙江省杭州から車で6時間程度の横山という場所にある工場を訪問したが、途中のいくつもの町で役場に立ち寄り、通行許可を取ってからでないと進めないという有様だった。

ちなみに杭州の近くには、揚子江が逆流するので有名な銭塘江がある。アマゾンのポロロッカと同じ現象だ。

浙江省には杭州の西湖はじめ観光名所・旧跡が多いので、いまは浙江省杭州市の日本語ホームページもあるが、1983年には杭州には外国人用のホテルが2軒しかなかったし、朝食にパンを頼んだらカステラのようなボロボロくずれるパンが出てきた。

ちなみに1983年はビジネスでの出張だが、中国側が気を使ってくれて西湖観光や、仏教の天台宗の総本山の天台山国清寺、高級ウーロン茶で有名な龍井茶の龍泉を訪問し、宴会は西湖のほとりの楼外楼(赤坂の本店は無くなり、今は新橋と新宿に店があるようだ)で「乞食鳥」を食べた。

初めて「乞食鳥」を食べたので、その調理法にびっくりした。

観光客などほとんどいなかった時代なので、当時出来たばかりの花園飯店(記憶不確か)の食堂で、中国側の通訳やホテルの従業員らと食事のあと一緒に歌を歌って宴会をした。「北国の春」が、中国ではやっていたのに驚かされた記憶がある。



話が横道にそれたが、いずれにせよジム・ロジャースが1988年から中国に注目して、実際に投資していたことには脱帽する。(1988年に中国の株を買ったことは、「商品の時代」に書いてあった)

大投資家ジム・ロジャーズが語る商品の時代大投資家ジム・ロジャーズが語る商品の時代
著者:ジム・ロジャーズ
販売元:日本経済新聞社
発売日:2005-06-23
おすすめ度:4.5
クチコミを見る


この本は23年間、24万キロを掛けて書いた本と言うこともできると、ジム・ロジャースは語る。まさに実践派投資家である。


21世紀は(またもや)中国の世紀

21世紀は中国が中心になって世界を牛耳るので、子どもや孫には中国語を習わせておきなさいとアドバイスしている。2003年に生まれた娘のハッピーには、中国人の乳母をつけたので、北京語がしゃべれるという。

1970年までは「メイドインジャパン」といえば、安っぽくて品質の悪いものだったが、日本が大きく変わったのは今日中国に見られるのと同じ勤労意欲と高い貯蓄率、大企業と政府の利害の一致、技術革新の組み合わせだ。中国は日本の国土の25倍で、日本がもう失ったかもしれないハングリー精神とやる気に満ちているという。

次代のGM,マイクロソフト、AT&Tが現れるかもしれないとジムは語る。

この本では注目される業界と代表銘柄が紹介されているが、ジム・ロジャース自身がどこに投資しているかは書いていない。

この本を書いている2007年の段階で、中国株が上昇していたので、ジムはソフトランディングを予想しているが、もしもバブルが膨れ上がったら、しばらくは注意したほうが良いと警鐘も鳴らしている。その場合には、市況が底入れした段階で動けるように準備しておこうと呼びかける。

現在の中国株の市況動向から言って、底値はまだ見えないと思うが、10年、20年後の世界を考えると中国は「買い」だろうと筆者も思う。ジムが言う様に、準備をして長期保有株を仕込むのには良いタイミングではないかと思う。

shanghai stockmarket







注:上記は2008年時点でのチャートだ。ここ10年の上海総合指数のチャートはこちら。もちろん株価が何百倍にもなった企業もあると思うが、上海総合指数としては低迷していると言った方が良いだろう。

原著はもちろん英語なので、この本でジムはアメリカなど世界の一般投資家に中国への投資を呼びかけており、中国株の歴史的背景や、中国のカントリーリスクなどにも触れている。




ちなみに上に挙げたペーパーバック版は2008年12月に発売予定なので、たぶん最近の状況を踏まえて改訂されるのだと思う。


中国のリスク

1.侵略者としての中国
中国はICBMを40発程度持っていると見られるが、それは米・ロの保有する核兵器の4%程度で、抑止力的なものだ。朝鮮戦争やベトナムとの中越紛争までは中国は拡張主義者と見られていたが、一人っ子政策で子どもが一人しかいない今、親が喜んで戦場に送るだろうかとジムは疑問視する。

台湾問題についても、ビッグマックを売っている国同士では戦争したことがないという「マクドナルド要因」を取り上げる。中国は軍事費に国家予算の7%(実際はその3倍と見られている)を使って、軍備の近代化を進めているが、台湾とは経済面で不可分の関係にあるので(大前研一氏は「霜降り状態」と表現している)、国民党政府となってむしろ両国は強固な結びつきになるのではないかと語っている。

2.環境問題
「僕たちは敵に出くわした。それは僕たちだった」という言葉をジムは紹介し、中国の深刻な環境汚染について説明している。

筆者は知らなかったが、石炭に多くを依存している中国の温暖化ガス排出量は今やアメリカを抜き、世界一にならんとしている。カリフォルニアの曇った空に舞う粒子の1/4は中国から飛んできたものだという。

中国と世界のエネルギーバランスを対比して紹介しておく。いかに中国が温暖化ガス排出量の多い石炭に依存しているかがよくわかる。

energy balance Chinaenergy balance world

注:上記は2008年当時のチャートだが、2018年のエネルギーバランスも依然として石炭(と石油)中心で変わっていない。この辺が弱点と言えば弱点だ。

ジム・ロジャースが懸念しているのは、中国が将来砂漠化してしまうのではないかということだ。インドも中国にも増して水不足はひどいという。ジムは両国をバイクで旅して、水不足のためかつては栄えた町がゴーストタウンと化しているのをいくつも見たという。

世界で最も汚染のひどい都市20のうち16は中国にある。化学汚染によって土壌の良い土地は減少し、森林は砂漠化し、工業地帯に住む子どもの8割は鉛中毒に冒されている。工場排水の80%は下水処理がされておらず、2012年には揚子江は生き物の住めない川になる恐れがある。中国は人口当たりの水の量が世界で下から13番目だといわれている。

ジムは中国の水問題を解決するために、ロシアのバイカル湖の水が使われることを予想している。バイカル湖の周辺をバイクで走ったときに、バイカル湖が米国の5大湖をあわせたよりも多くの水量を持ち、世界の淡水の20%を占める世界最大の淡水湖で、一時は中華帝国の領土の一部だったこともあるという。

次がロシアの極東の地図だ。バイカル湖と中国の間には山脈があり、モンゴルがある。距離も相当あるので、はたしてジムの言っているようになるかどうかは筆者は疑問に思う。

Russland





中国政府や民間企業が上水道・下水道・下水処理のために多くの投資をすることが見込まれ、この関連の業界もビジネスチャンスが増えるだろうと予想している。

バロンズ誌は、中国の問題点として、さらに人口の高齢化と蔓延する汚職をあげているが、ジムは何億といる地方の人が今後何十年も高齢化する人口を補っていき、汚職はいわゆるアジアンタイガーには共通する問題だと整理している。


業界寸評と銘柄紹介

ジムは中国の現状を様々な角度から分析し、関連する業界の中国あるいは台湾又は世界の主要企業のここ3年の業績、上場市場と株価コードを紹介している。紹介している業界の切り口は次のようなものだ。

1.戦時によし、平時によし − 航空宇宙産業と台湾プラステックなど台湾企業

2.流体利益 − 公害対策企業とシンガポール企業、欧米企業など

3.この世では誰もが知っている − 保険・年金、石炭、タイヤ、アルミ、通信

4.現代中国の5大革新者 − 分衆伝媒(デジタルサイネージ)、百度(検索エンジン)、中国徳信(通信)、無錫尚徳太陽能電力(サンテック、太陽電池。2013年に経営破綻し、2014年に順風光電に吸収された)、アリババ(BtoB電子商取引)

5.うまい汁を啜る − 電力会社、石炭会社、石炭掘削機

6.イケ株、石油 − ペトロチャイナなどの石油会社

7.中国の風に吹かれて − アレヴァ(フランス企業、中国発の原発を建設),ユーセック(ウラン生産)、BHP(鉱山会社)、再生可能エネルギー会社など

注:ユーセックは米国企業で、2014年に経営破綻している。

8.アスファルトの上に立つ − 高速道路会社、港湾運営会社、建設業者

9.自動操縦 − 自動車会社、自動車部品メーカー

10.出発進行 − 鉄道会社、鉄道建設、船会社

11.船乗り計画 − 携程旅行網(旅行会社)、芸龍旅行網、空港会社、航空会社

12.全室煌々と − 上海錦江国際酒店(ホテル150軒のチェーン。1983年には上海で唯一の高級ホテルだった)、地方の旅行会社

13.空の飛び方 − 航空会社、空港会社

14.人民公社よ、さようなら、コンバインよ、こんにちは。− 食品会社

15.ジューシーな果実を − 飲料メーカー

16.タネ銭 − 食肉加工、種メーカー、農業機械

17.ファーストフード − 砂糖メーカー、牛乳メーカー

18.人民のスピリッツ − ワインメーカー、ビールメーカー

19.緑の大地 − 有機野菜、肥料

20.金を生む処方箋 − 超音波検査機、バイオ、医療サービス

21.中国の未来を保障する − 保険会社

22.宿題を少々 − 新東方教育科技集団(外国大学の入試英語教育)、通信教育、職業学校

23.建設的批判 − 不動産開発会社

24.エマージング中国 − ハイテク、宇宙・航空、インターネット(2006年末で、中国のインターネット人口は1億4千万人(そのうち76%は高速回線)、ブロガーは8千万人、中国語ウェブサイトは84万)、映画、スポーツ、クレジットカード、携帯電話(利用者5億人!)、ケーブル・テレビ(利用者1億4千万人)、出版、小売・ファッション。

1999年に中国にはスーパーマーケットは1軒しかなかったが、2003年には6万軒に増えたという。


最後にジム・ロジャースは、人民元に対する投資も比較的優れた安全な方法であると語っている。今後20年の間に、ドルに対して300−500%上昇すると予測している。次は人民元の対ドル相場推移だ。

CNY_USD





注:最近の人民元の対ドル相場はこちら。人民元に関しては、ジム・ロジャースの予言は当たっていない。

筆者が現在も使っている米国のインターネット専門銀行everbank(注:現在はTIAABankとなっている。ネット専用銀行の老舗で、いまだに健在だ)の多通貨投資サービスの人民元口座開設を紹介している。ちなみに筆者は知らなかったが、everbankは人民元以外でもいろいろな国の通貨で預金ができる。


やはり足で稼いだ情報は貴重だ。BRICS、特に将来のソニー、ホンダをさがすべく中国株投資を考えている人には是非一読をおすすめする。


参考になれば、次を応援クリックしていただければ、ありがたい。


書評・レビューランキング


  
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2011年10月04日

史上最大のボロ儲け 金融危機で巨大化したポールソン&カンパニー

史上最大のボロ儲け ジョン・ポールソンはいかにしてウォール街を出し抜いたか史上最大のボロ儲け ジョン・ポールソンはいかにしてウォール街を出し抜いたか
著者:グレゴリー・ザッカーマン
阪急コミュニケーションズ(2010-12-09)
販売元:Amazon.co.jp
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2008年にアメリカのサブプライムローンの破綻から端を発した世界金融危機は世界の株式投資家の資産を30兆ドル減らし、世界の金融機関に3超ドルの損失をもたらした。その後の全世界同時不況によりGMが米国政府の支援により倒産を免れるなど、世界経済に与えた影響は計り知れない。

そんな中で、世界同時不況で巨額の利益を挙げ、自らのヘッジファンドを世界第2位の規模にした投資家がいる。

それがポールソン&カンパニーのCEOジョン・ポールソンだ(同じポールソン姓でも、ヘンリー・ポールソン元財務長官とはつながりはない)。

この本では400ページに渡って、ポールソンや彼を取り巻く部下、他のヘッジファンド代表者などが、世界金融危機をどう乗り越えたかをそれぞれの人にスポットライトを当てて、一つのストーリーとして構成している。

2007年にポールソン&カンパニーの挙げた利益は150億ドル(当時の為替レートで1.8兆円)、ポールソン自身は40億ドル(4,800億円)の収入を得た。2008年にも会社は50億ドル、ポールソン自身は20億ドルの収益を上げている。

ポールソンは世界金融危機以前は資金20億ドルと自己資産1億ドルを運用していた中小ヘッジファンドだったが、2009年には360億ドルの運用資産を持つ世界第2位のヘッジファンドとなった。

まさに世界一成功した投資家だ。


最近は金に注目

最近ポールソンはドル安にも注目している。人民元以外のほとんどの主要通貨は危ないとして、金を安全資産と見て、金の現物と金鉱山会社に巨額の投資をした。

2009年夏にポールソンは「3,4年後にはみんなもっと早く金を買っておけばよかったって言うさ。いずれドルの価値が下がり、インフレになる。間違いなくね」と語っているという。

金相場はポールソン予言の通り、急騰している。

gold2006-2011





出典:三菱マテリアルホームページ

なんという先見の明だろう。


米国不動産バブルの前にCDSを大量購入

筆者は日本のバブル直後に米国駐在から帰国した後で、郊外に一戸建ての家を購入して大きな損失をくらった。

投資は言うは易し、行うは難しだが、この本を読むと今から思えばサブプライムローンの破綻や米国の住宅バブルの破綻は、日本のバブル崩壊と同じ道を10年後にたどった当然の帰結だったことがわかる。

FRBは実質ゼロ金利政策を実施し、米国の不動産価格は大恐慌以来下がったことがないので、誰もが一本調子で上がると信じていた。筆者はバブル時代には米国に駐在しており、日本にいなかったが、この状況は日本のバブルと全く同じである。

ポールソンが違っていたのは、不動産市場はバブルで、住宅ローン債権の価値は下がると見込んで、逆バリで一挙に投資したことだ。

ポールソンはニューヨークのクイーンズで育ち、ニューヨーク大学とハーバードビジネススクールを優秀な成績で卒業後、BCG(ボストン・コンサルティング・グループ),ベアスターンズなどに務めた。1994年に独立して着実な運用が売り物のヘッジファンド会社を設立した。

ポールソン&カンパニーの業績はずっと低位安定しており、不動産投資の経験もなかったが、サブプライムローン破綻前の2007年からあらゆる金融会社のCDS(Credit Debt Swap)というデリバティブを買い占め、巨額の利益を挙げる。当時100ドルの債権が50セント(0.5%)以下の値段で購入できたという。

2007年秋、ついにサブプライムローンが破綻し、世界の金融機関が巨額の評価損を計上しはじめた。CDSを買った企業から現金が送られてきてポールソン&カンパニーは巨額の利益を計上しはじめた。2007年の利益は150億ドルにも上った。

2007年秋にはジョージ・ソロスがポールソンを呼んで、CDSの手ほどきを受けている。いよいよポールソンへの注目度が高まっていった。

2008年にはベア・スターンズのJPモルガンへの身売り、2008年9月にはリーマン・ブラザースの清算、住宅金融公社ファニーメイ、フレディマックの救済、バンクオブアメリカによるメリルリンチの買収などが続けて起こった。

CDSの価格は跳ね上がり、2008年もポールソン&カンパニーは50億ドルの利益を計上した。


バブル崩壊後は金融機関株で大儲け

さらにポールソンはロイヤルバンクオブスコットランド、バークレイズ、ロイズTSBの核の空売りで10億ドルを稼いだ。イギリスの世論はポールソンをバブルを利用して儲ける"Public enemy"(公衆の敵)と見なしたという。

2009年にはシティバンクを中心とした金融機関の株や債権に200億ドルを投資し、ちょうど経済が達直し始めたタイミングに合致して30億ドルの利益を挙げた。
ポールソンが次のターゲットを金として、行動を開始していたことは前述の通りだ。


グリーンスパンを顧問に

2008年11月にはポールソンは主要顧客100名を招いて、メトロポリタン・クラブで定例ディナーパーティを開催した。

シャトー・オー・ブリオンシャトー・マルゴーシャトー・ムートン・ロートシルトなど超一流フランスワインがふるまわれ、元FRB議長のアラン・グリーンスパンがポールソン&カンパニーの顧問に就任したことが発表された。


目立たない生活

年間40億ドルも稼ぎ、世界トップのトレーダーとなったポールソンだが、運転手付きの車を使わず、タクシーや電車・バスで通勤しているという。豪邸に住んではいるが、スーパーで買い物するのも以前と同じだ。

この本と同じようなテーマで、この本にも登場する元医者の投資家マイケル・バリーや会社に巨額の損失を与えながら、高額のボーナスを受け取ったモルガン・スタンレーのチームなどを取り上げた「世紀の空売り」という本もある。

こちらは今度紹介する「マネーボール」や「ライアーズポーカー」を書いた人気作家のマイケル・ルイスが書いている。

世紀の空売り世紀の空売り
著者:マイケル・ルイス
文藝春秋(2010-09-14)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る


著者のグレゴリー・ザッカーマンはウォールストリートジャーナルの記者で、CNBCの番組にもレギュラー出演しているという。

200時間にもおよぶ関係者のインタビューを通してまとめた作品で、サブプライム破綻直後の有力ヘッジファンドの動きがよくわかる優れた作品である。


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2008年12月19日

わが友、恐慌 金鉱山オーナー松藤民輔さんの近著

わが友、恐慌──これから日本と日本人の時代が訪れる8つの理由わが友、恐慌──これから日本と日本人の時代が訪れる8つの理由
著者:松藤 民輔
販売元:講談社
発売日:2008-07-31
おすすめ度:3.0
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このブログでも「無法バブルマネー終わりの始まり」と「マネーの未来、あるいは恐慌という錬金術」を紹介しているアメリカで金鉱山を保有している松藤民輔さんの近著。

2008年7月30日に発刊されている。

松藤さんはブログ「松藤民輔の部屋」や、メルマガの牛之宮ウィークリーを公開しており、それらの記事を題材ごとにまとめたものの様だ。

目次は次の通り:

第1章   僕たちが生きる世界
第2章   バベルの塔とマーク・アリムラ
第3章   ブラックマンデーと天才エリック・スプロット
第4章   悲劇と革命
第5章   紀伊国屋文左衛門とタミーの賭け
第6章   凡人と天才
第7章   日本の錬金術
第8章   都市鉱山とリサイクルジャパン
エピローグ 常識では考えられない物語

松藤さんは、1955年福岡に生まれ、明治大学卒業後、1980年に日興証券に入り、久留米支店に勤務、1982年にメリルリンチの試験を受けて合格し、1986年からはソロモン・ブラザースでトレーダーとして活躍、億の収入を得ていたが、1993年に株式会社牛之宮を設立、金投資に専念する。

アメリカネバダ州に金鉱山を所有している。

船井総研の船井幸雄さんのホームページに松藤さんのことが紹介されている。

この本では当時のナンバーワントレーダー シュガー明神さんはじめ、ソロモン・ブラザースのトレーダーはランボルギーニやフェラーリ、ジャガーなど何台も持っていて年収数億円稼いでいた話なども紹介されている。

金融危機以降、今はこういったトレーダーたちがどうなったのかよくわからない。

都内でフェラーリやポルシェなどを時々見かけるのでIT企業の社長などが乗っているのかと思っていたが、あるいは外資系証券会社のトレーダーもいるのかもしれない。

LTCMをつくって倒産させたジョン・メリウェザーなどはソロモン時代は年収100億円、ゴルフはハーフ30台、40歳でソロモン・ブラザースの副社長というスーパーとレーダーで、彼のチームメンバーは20才台で10億円貰っていたという。

マネックス証券の松本大CEOも松藤さんのソロモン時代の同僚だ。

ブログやメルマガの記事をまとめたものなので、一つのテーマを深く掘り下げる記事はないが、簡単に読めて参考になる。

たとえばソロモンがオプション取引を発明したのは、文化のゆがみに注目したのだという。

日本の銀行融資はいつでも返せるというのが日本の慣行だったが、これを組み替え、期限前に返済する権利をオプションとして販売したら成功したのだという。

ソロモン時代は、松藤さんは3−4人の顧客とのビジネスで億の年収があったという。塩野義製薬の塩野社長、阪和興業の北茂さん、摂津板紙の西川常務などだという。

「歴史を知らない人間は人ではない。豚にすぎない」というイギリスの格言があるという。歴史を研究すると、いくつか相場の定石があるという。たとえば:

*銅が暴落すると革命が起こる。松藤さんは中国で革命が起こるのではないかと思っているという。

中国では2年間で3,500万人が株式投資したというが、バブルが崩壊し、だれが責任を取るのだろうと。

*金/銀比率が100に向かっているときは恐慌が起こるという。

田中貴金属のホームページによると、最近の金/銀比率は70を超えている。

松藤さんは金投資家なので、蒔絵や、都市鉱山などの話題が面白い。蒔絵は金を含んでいるが、将来世界で注目される芸術品になるだろうと松藤さんは予測する。

金鉱石1トンに含まれる金はせいぜい50グラムだが、携帯電話1万台を集めると金200〜300グラムが回収できるという。これが都市鉱山である。

世界中で廃棄された製品をかき集めると金6,800トン、銀6万トンが回収でき、これは世界の埋蔵量のそれぞれ16%、22%だという。液晶に使われるインジウムなどは、埋蔵量の61%になるという。

日本は都市鉱山をうまく利用することで、どこの産出国よりも多い資源を回収できるという。

松藤さんはここ15年間恐慌を待っていたという。この瞬間になすべきは、金への投資又は金鉱山への投資だという。金がさらに高騰するチャンスがやってきたとワクワクしていると。

是非バスに乗って欲しいという。

以前も書いたが、筆者は1979年から1980年の1年強という短期間に金に投資し、1オンス=200ドル台で買ったメキシコ金貨を1オンス=650ドル換算で売って儲かった経験がある。

しかし金相場はその後20年以上鳴かず飛ばずだった。1980年に売っていなければ、結局その後20年間は売るタイミングがなかったということだ。

gold price







現在は800ドル程度に上がっているが、1980年前のときの様にまた300ドル前後に下落する可能性もあるのではないかと感じている。

しかしこれは筆者の直感であり、理論的に金相場を分析したわけではない。


金相場投資に興味ある人には参考になると思う。

簡単に読め、参考になる部分も多い本である。


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2008年11月14日

ジム・ロジャースの商品の時代 商品投資ガイドブック

大投資家ジム・ロジャーズが語る商品の時代大投資家ジム・ロジャーズが語る商品の時代
著者:ジム・ロジャーズ
販売元:日本経済新聞社
発売日:2005-06-23
おすすめ度:4.5
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「中国の時代」を紹介した冒険投資家ジム・ロジャースの商品投資ガイドブック。

ジム・ロジャースは1964年にエール大学在学中に夏休みのアルバイトでウォール街で働き、卒業後オックスフォードに留学して政治・哲学・経済学を学んだ。帰国して兵役につき、兵役終了後1968年から金融関係で働き始めた。

商品相場については1970年代から興味を持っていて、種々研究したとのことで、ソロスとのクアンタムファンドをやめて、1998年8月にロジャース・ロウ・マテリアルズ・インデックスファンドを立ち上げた。


ロジャース国際コモディティインデックス

このファンドの使用する相場指標がロジャース国際コモディティインデックス(RICI)であり、日本では大和証券が、ダイワ・コモディティインデックス・ファンドを設定している。

RICI




大和のファンドは2004年12月の設定以来、ゆるやかに上昇し、2008年7月に基準価格の倍の2万円を超えたが、すぐに月1割のペースで急降下し、遂に10月末には基準価格の1万円を割り込むほど急落した。

ファンドの残高もこの数ヶ月で急激に減少していることが、上のグラフでわかる。

ファンドの最近の構成比は次の通りだが、最大構成要素のエネルギー関係がピークの半値以下になっているし、そのほかの金属・食料・工業原料といったコモディティも例外なく下落しているので、ファンドの成績としては不調だ。

RICI composite





出典:大和証券 プレスリリース

ちなみにそれぞれの商品の相場動向は、フジフューチャーズという会社のオンライントレードの画面で、様々な情報やチャートが提供されているので、紹介しておく。


商品市況の現状

7月までは絶頂を極めたコモディティファンドも、わずか4ヶ月で奈落の底という感じに落ち込んでいる。

石炭や鉄鉱石といった原料も中国やインドの大量消費でここ数年市況が急激に上昇していたが、ここへきて鉄鋼製品の価格が下落したため中国の鉄鋼生産が急激に落ち込んでおり、キャンセルなどが続出していると聞く。

鉄鋼原料などで前年の数倍などという価格がそもそも異常だが、それも中国の旺盛な需要がなせる業だった。その中国がコケたので、商品価格が下落している。

今回の高値相場はあきらかに投機筋がつくった人為的なもので、需給で決まる価格からは逸脱している。その投機マネーが抜け、実体経済に沿った需給で決まる価格メカニズムに戻ると、価格の急落はやむをえないのだと思う。

歴史的にみて株が下がれば、商品は上がるという逆の相関関係があるという。株式と商品の相場は平均18年の周期で、代わる代わる上昇していると研究者は語っているそうだが、今回も7月までは調子がよかった。

それでも感心するのはジムが「私はトレーダーとしては最低だ」と語っており、全く自分の相場観を信じていないことだ。だから短期投資は避けていると。

近々ジョージ・ソロスの本を紹介するが、ソロスも自分は相場に向いていないと言っていた。驚くべき謙虚さだが、このようなファンドマネージャーの方が、下手に自信がある人間より良いかもしれない。


商品相場の見通し

商品相場では景気は大して関係ない。一本調子では上がらない。中国のおかげで楽あれば苦ありなことを注意している。

中国がくしゃみをすれば、商品価格が下落し、たくさんの投資家がパニックに陥る。その時がもっと商品を買うチャンスなのだと。価格は少なくとも2015年までは上がるはずだという。

ジムは鉛が有望だという。鉛と聞くと鉛害を連想させるが、鉛の需要は減少し、過去25年に開かれた鉛鉱山は1箇所しかない。一方車用の蓄電池の需要は中国とインドの経済発展とともに増加しているので、需給ギャップは莫大な費用を掛けて新しい鉱山がスタートしない限り続くと予想している。

spot-lead-5y-Large





出典:http://www.kitcometals.com/charts/lead_historical.html

まさにジムの予想通り、鉛相場は一本調子で上がってきたが、今年初めの高値から現在はほぼ1/3になってしまっている。

メタル関係の価格はKITCOという会社のサイトに詳しい。

ジムはロシアとカスピ海沿岸の共和国は天然資源に恵まれているが、地域全体がすでに危機的状況にあり、崩壊に向かっているので、びた一文たりとも投資したくないという。南アフリカも治安の問題がある。ロシアや南アフリカでいずれ問題が起こるのは避けられそうもない。そのことからもジムは商品に強気なのだと。


商品先物のティッカー

この本はガイドブックなので、ジムは各商品のティッカーの読み方、先物取引のしくみ等につき丁寧に説明している。

たとえば小麦はWで、ニッケルはN、コーンはC、商品のティッカーはわりあい想像しやすい。

受け渡し期限は記憶する必要がある。

1月=F
2月=G
3月=H
4月=I
5月=K
6月=M
7月=N
8月=Q
9月=U
10月=V
11月=X
12月=Z

商品に使われているアルファベットと、IとLの様に数字と紛らわしいアルファベットは避けられているのだと。


中国とインドの比較

アドベンチャーインベスターらしく、自ら走破した中国とインドの比較も面白い。ジムは2001年と2004年にインドを訪問した。インドは旅をするには良い国だが、インドの人たちの精神が依然として反資本主義的だという。

社会、経済の重要な分野でインドは中国と勝負にすらなっていないと語る。たとえば携帯電話は中国ならどこでも同じ電話機が使えるのに、インドだと町ごとに違う機種を買わなければならないことがほとんどだと。

また自国の産業を保護するため、使用しているコンピューターはアメリカの3年落ちだったりする。

インフラ、たとえば道路はジムがムンバイからコルカタへ横断した2,000マイルは道が老朽化していた。同じ道をトラックもラクダもロバも通るので、1週間掛かったという。もっとも最近高速道路が整備されたはずだが、インドのインフラ改善には時間が掛かりそうだ。

さらにインドの問題は、教育制度で、中国では子どもは全員小学校を卒業するが、インドでは半分が小学校を中退する。外国の大学にあれだけ留学しているのは、国内では大学が不足しているからだという。

その他カースト制や、女性差別(女性の半分以上が文盲だという)、宗教対立といった問題を抱えている。


商品ごとの解説

この本でジムは、それぞれの商品について1章を割り当てて次のように詳しく説明している。

第6章 安い石油よ、さようなら
第7章 金 ― 神秘か実体か
第8章 鉛の飛行船が空を飛ぶ
第9章 砂糖 ― いつか甘い気分に
第10章 コーヒー ― やがて心うきうき


原油市況

2004年現在の石油の需給は次の通りだ:

供給 8,350万バレル/日 減少中
需要 8、240万バレル/日 増加中

石油の需要はアメリカなど先進国のみならず、中国・インドでも急増しているにもかかわらず、新規巨大油田はこの35年カザフスタンで1箇所見つかっただけだ。

地質学者によると、平均的な油田の産出量は年に4.8%減少するという。アメリカの石油生産は減少し、2004年は消費の60%を輸入でまかなった。北海油田の産出量もピークを過ぎている。

サウジの5箇所の巨大油田は1940年から1965年の間に発見されたもので、サウジの石油の9割を生産しているが、ピークを迎えており、水を注入しないと生産が継続できない。特に世界最大の油層であるガワール油田は90%が使い果たされた。

さらにサウジの油田に関しては、1975年以来第三者による調査が行われておらず、埋蔵量はどこまで正しいのか不明であり、新しい油田を開発するのは困難になってきているという見方がある。

ところがサウジ側はこれを否定し、アメリカのUSGS(国土地理院)やEIA(エネルギー情報局)もサウジの数字は信頼でき、サウジの生産がピークを迎えるのは早くても2037年以降、遅ければ2047年以降だとしている。

どちらの言い分が正しいのかわからないが、遅かれ早かれ採掘条件はサウジといえども悪化し、生産コストが上がり、生産量が減少してくるのは間違いない。

サウジに代わる国は今のところなく、ロシアもプーチン政権下で産油設備に莫大な投資を行った結果、生産量は5割アップしたが、その後外資を締め出して自国の掘削技術にこだわっているので、これ以上大きな生産拡大は望めない。

「ロシアン・ダイアリー」でも登場した新興石油財閥のユコスは、エクソンモービルと北太平洋で石油を開発するプロジェクトを推進していた。

エクソンモービルがユコスの過半数の株式を購入する話も進んでいたが、プーチン大統領がユコスの社長を脱税で逮捕し、外資がロシアの石油会社の過半数の株主になることを禁止したので、結局プーチンの側近企業に買収されてしまった。

カナダのオイルサンドも、採掘に大変手間とコストがかかり、かつ回収された石油は温暖化ガスの排出量がサウジの原油よりも25%多いという。


金その他

金については消費は減少、投機は増大。鉛は消費は増加、供給は減少。砂糖はブラジルの生産と先進国の補助金がファクター。コーヒーについては豊作不作年で相当需給が変動することとなどを紹介している。


筆者は長く商社で金属原料の取引に携わってきたが、商品相場についてはあまり気乗りがしないのが正直なところだ。今まであまりにも相場で振り回されてきたという印象であり、相場でうまく行ったこともあったが、それは偶然でしか過ぎなかった。

商品市況は市場規模も小さく、実体経済の需給と深くかかわりあっているので、今年7月にピークを打って、数年は低迷の時代が続くのではないかと思っている。

鉄鋼原料などは、あまりに急に値段が上がったので、鉄鋼メーカーなどの需要家の意趣返しのキャンセルや値引き要求が出てくるだろう。

この本の出た2005年6月前後に商品相場に投資していれば、2008年7月のピークまで大もうけできたと思うが、向こう2−3年はブームは来ないのではないかと思う。

もっとも今まで筆者の市況の読みはたびたび外れてきたので、中国の大量購入という中国ファクターさえ復活すれば、案外早く市況が戻る可能性もあるかもしれない。

ちょっと新規投資の時期は失したかもしれないが、話も面白く、商品投資の基礎的な知識を得るためには、おすすめの本だ。


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2008年10月29日

黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 目からウロコのオルタナティブ投資指南

+++今回のあらすじは長いです+++


黄金の扉を開ける賢者の海外投資術黄金の扉を開ける賢者の海外投資術
著者:橘 玲
販売元:ダイヤモンド社
発売日:2008-03-07
おすすめ度:4.5
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このブログでも何冊か紹介している、「海外投資を楽しむ会」のメンバーの橘玲(たちばなあきら)さんの2008年3月の最新作。

前回紹介した「臆病者のための株入門」の続編である。

「金融2.0時代のグローバル運用法」と本の帯に書いてあるが、たしかに様々な海外投資法やジム・ロジャースなどの有名な投資家の考えがわかって、目からウコロのオルタナティブ投資指南本だ。

ただし、この本に書いてある投資戦略や節税手法は、著者の個人的な見解なので、実践するのは読者の自由だが、それによって損失を被っても著者及び出版社は一切責任を負わないと最後に書いてある。

当たり前であるが、それだけ内容が濃いものがある。

この本が書かれた2008年始め頃と現在とでは世界金融危機のため、株式、原油、新興国市場などが軒並み暴落・暴騰し、当時とは相場環境が全く違う。

円は対ドルは90円台まで行き、結局100円弱に戻ってきたが、ユーロ等他の通貨に対しては大幅に上昇した。株式市場や石油などは暴落したが、金は700ドル台と価値を保っている。

日本株はバブル崩壊後の小泉内閣時代の2003年4月28日の7607円を割って急反発し、8000円台でさらに上値を探る勢いだ。資産ポートフォリオを考え直し、新たに投資するには絶好のタイミングではないかと筆者は思っている。


金持ちかどうか判定する計算式

橘さんはこのブログでも紹介した「となりの億万長者」という本に載っている自分が金持ちかどうか知る計算式を紹介している。

期待資産額=年齢 x 年収/10

これによると筆者は全然金持ちではないが、世界一の大富豪バフェットもゴールドマンへの投資などで活発に買いあさっている今がチャンスだと思うので、できる範囲で投資をしようと思う。

その意味で、今読むには大変参考になる本だ。読んだ本しか買わない筆者が、読んでから買った今年4冊目の本である。


この本は次の構成となっている。

序章  さよなら、プライベートバンカー

第1章 究極の投資VS至高の投資

第2章 誰もがジム・ロジャーズになれる日

第3章 ミセス・ワタナベの冒険

第4章 革命としてのヘッジファンド

第5章 タックスヘイヴンの神話と現実

第6章 人生設計としての海外投資

終章  億万長者になるなんて簡単だ


序章の「さよなら、プライベートバンカー」では、プライベートバンカーの起源は十字軍の遠征までさかのぼり、財産を相続や放蕩などで失わない様に、執事に委託したことから始まると説明する。

財産保全を目的としていたので資産運用のノウハウは元々なく、強固な守秘性が売り物だったが、マネーロンダリング対策でスイス政府が守秘性を認めなくなると、運用成績で優れているゴールドマンサックスなどの投資銀行に取って代わられたという。

香港のプライベートバンカーは「私たちは絶滅していく人種なのです」、「プライベートバンクは、ベントレーのようなものです。今の時代に、好きこのんでこんな手のかかる車に乗る人はそれほど多くありません」と言っていたという。

「高級車に乗ったからと言って特別な目的地が用意されているわけではありません。電車やバスを使っても、同じ場所にたどりつくことができるでしょう」と。

この本では、金融業は元々情報産業であり、純粋にグローバルな産業なので、Web2.0情報革命とともに個人がエンパワーされ、機関投資家やヘッジファンドと対等の立場で、何億円も儲けられる「金融2.0時代」になったことを様々な切り口から説明しており、参考になる。

その切り口が、「美味しんぼ」の山岡の海原雄山(機関投資家などのプロフェッショナル)に対する「究極の投資」であったり、ジム・ロジャースだったり、ミセスワタナベという架空のFXに投資する主婦であったりして面白い。


究極の投資と至高の投資

「究極のメニュー」とはマンガ「美味しんぼ」で貧乏サラリーマンの山岡が実の父である美食家海原雄山の「至高のメニュー」に対抗するメニューだが、それになぞらえて橘さんは「究極の投資」を紹介する。

「至高の投資」がプライベートバンクなどのプロの投資であるのに対して、「究極の投資」はサラリーマンなど庶民ができる投資だ。

そのやり方はオーソドックスである。アセットアロケーションの3分割法、つまり債券・不動産・株式だ。

富裕層は豪邸などの不動産資産を持っているので、あとは日本・世界債券と日本・世界株式を組み合わせる。これがプライベートバンクがアドバイスする「至高の投資」だ。

これを300万円程度の資金で実現しようとするのが、庶民の「究極の投資」である。


サラリーマン債券?

まずはサラリーマンの人的資本を評価する。富裕層は働いていないので、彼らの人的資本はゼロだが、庶民は働いているので、サラリーマン債券を保有していると考える。

生涯賃金3億円(年収は入社時250万円、退社時1,300万円、退職金3,000万円とする)の標準モデルで考えると、入社直後の人的資本は1億4千万円、40歳で1億3千万円、50歳で1億2千万円と計算できる。

1億円のサラリーマン債券からサラリーという金利を得ていると考えても良い。

だからサラリーマンが債券に投資するのは不要で、全額株式に投資すべきだと橘さんは語る。またサラリーマン債券価値を毀損しないために、専門知識や特殊技能を身につけて人的資本の充実を計るべきだと。

金持ちでも全く仕事をしていない人は少ないはずなので、サラリーマン債券というのは奇抜な発想ではあるが面白い考え方だ。

そこで投資の基本法則1.だ。

金融資産に比べて、人的資本が圧倒的に大きい場合(つまりサラリーマンの場合ということだ)、全資産を株式で運用すべきである。


投資にはレバレッジをかける

山岡は1億円のサラリーマン資産を保有しているのに、投資額は300万円、つまり3%だ。保守的な機関投資家ですら、3割は株式投資しているので、山岡ももっとレバレッジを掛けてたとえば1,000万円くらいのリスクを取るべきだと論じる。

300万円しか貯金がないのに、1,000万円も投資して損をしてしまうと破産してしまうではないかと言う人がいるかもしれないが、これはマイホーム購入と同じだと橘さんは反論する。

新築の不動産の購入がそれだ。300万円の頭金で、3000万円の物件を買い、しかも新築物件は買ったとたんに1−2割価値が下がる。

これはレバレッジ10倍で、不動産に投資していると解釈でき、しかもほとんどの人が損をしている。

ワンルームマンションなども、本当に儲かるならワンルームマンション会社自身がやっているはずだ。

マイホームを購入した人はせっとと繰り上げ返済する以外にやるべきことはないと橘さんは語る。

同じ不動産投資をするなら、マイホームを売り払って、REITに乗り換えた方が経済合理的だと橘さんは言う。REITなら東京などの一等地の不動産に投資することができるからだと。

橘さんは不動産も車も持っていないそうだが、評価損がある自宅を抱える筆者などには耳が痛い話だ。

これが投資の基本法則2.である。

金融資産に比べて人的資本が圧倒的に大きい場合、投資にはレバレッジをかけるべきである。

株式の信用取引ではレバレッジ率は3.3が限度だが、金融先物を使えば最大25倍のレバレッジが賭けられる。


全資産を海外市場に投資?

さらに投資の基本法則3.は全資産を海外市場に投資せよというものだ。

金融資産に比べて人的資本が圧倒的に大きい場合、全資産を海外資産で運用すべきである。

プレイベートバンクでは、投資家の国籍に関係なく世界株ポートフォリオが勧められ、それは米国50%、欧州30%、日本15%、その他5%というようなものだ。

オーソドックスな分散投資は債券:株式=50:50が理想と言われているので、サラリーマン債券を1億円保有する山岡が1億円の株式ポートフォリオを持つのが理想と橘さんは言う。

サラリーマンの山岡はサラリーマン債券は日本で保有しているので、全額を海外株式で運用すべきだと。

日本株は1989年末のピーク終値38915.87円をいまだに越えられないが、株価は成長率が高い国では伸びている。

nikkei





世界株ポートフォリオを保有するには

世界株ポートフォリオを保有するのは子どもでもできるという。証券会社に行ってMSCIコクサイ株価指数に連動するインデックスファンドを購入すれば良いのだと。

MSCIワールドは北米、ヨーロッパ、アジア、オセアニアの23の主要市場の大型株に投資するもので、これから日本株を抜いたものがMSCIコクサイだ、

インデックスファンドでは信託手数料がかかるので、もっとコストを安く投資したい場合には、EFTを買う。ETFは株式市場に上場されているが、相対取引なので、売りたいときに買い手がいない場合がありうる。このリスクを避けるためにできるだけ売買高の大きいEFTを購入するのだ。

代表的なEFTはS&P500に連動する「SPY(スパイダーズ)」とNASDAQ100社のインデックス「QQQQ」だ。世界投資ならバークレーズ・グローバルのiShareシリーズでMSCIに連動したEFTを上場させている。

MSCIコクサイに連動するEFTはiShare MSCI KOKUSAI(TOK)であり、これは日本の投資家にはきわめて利用価値の高いEFTである。

エマージング市場に投資するiShare MSCI Emerging Markets (EEM)を組み合わせるのも便利だ。

こうして「至高の投資」でプライベートバンクがやっていた世界株ポートフォリオが、EFTの登場で今や誰でも世界株ポートフォリオが保有できるようになったのだ。

EFTには中小型株EFTや不動産REITのEFT、石油や商品相場に連動する商品EFTもある。

EFTはまるでドラえもんの異次元ポケットの様だと橘さんは語る。「こんなことできたらいいな」と思っていると、それにあったEFTが上場されるからだと。

橘さんは国民に代わって国が年金を分散運用しているが、それを個人に返還すべきだと語る。すくなくとも個人が分散投資ができるまで金融市場は進化しているのだと。

山岡は300万円の金融資産に8倍のレバレッジをかけ、2,400万円のバーチャルポートフォリオで、海原雄山の至高の投資と対決する。このポートフォリオから8%のリターンが得られるとすると、金融資産は10年で5000万円、20年で1億円、30年で2億2千万円になる。

さらにボーナスと給料で毎年100万円積み立て、3年に一回やはり8倍のレバレッジをかけて追加投資したとすると、資産は10年で1億5千万円、20年で4億3千万円、30年で10億円となって富豪になる。

となりの億万長者」を思わせる話だ。

これを机上の空論と笑うだろうが、マイホーム投資で300万円の頭金で、2,400万円のマイホームを買うのも同じ投資だと。

金利3%で金を借りられるが、買ったとたんに不動産投資は1−2割価値を失い、30年後には上物の価値はゼロとなり固定資産税も毎年かかる。

日本人はこれまでマイホームの名のもとに、荒唐無稽な不動産投資を行い、異常とも奇妙とも思ってこなかったと橘さんは語る。考えさせられる指摘だ。

筆者はtoo lateだが、息子たちには借家で過ごすというのもアリかもしれない。一生借家で過ごす必要はなく、持ち家がどうしても欲しければ、50代くらいになるまでに資産を運用し、キャッシュで中古住宅(新築はすぐ減価する)を買えばよいのだ。


誰もがジム・ロジャースになれる日

ジム・ロジャースはジョージ・ソロスとともにクォンタム・ファンドを立ち上げた後、独立して大型バイクで世界を旅しながら中近東や西アジアなど自分の目で見つけた有望投資先や商品に投資している。

テンプルトン・エマージング・ファンドを立ち上げたスキンヘッドのマーク・モビアスも投資と旅にとりつかれた男だ。

ベトナムファンドを中小証券会社が売り出したところ、どうせなら自分で投資しようとベトナムの現地証券会社に個人投資家が殺到し、なんと証券口座の半分が日本人のものだったという。小ジム・ロジャースが何千人も集まったわけだ。

この時期ベトナム株は確実に儲かるギャンブルだったという。日本の証券会社が次々とベトナムファンドを設定し、資金が入ってくることがわかっていたからだ。

ベトナムファンドの手数料は高く、2割の成功報酬もあったので、2006年3月に設定されたファンドは60%上昇しているが、実はこの時期ベトナム株式市場のVN指数は100%上昇していたのだと。

割高な手数料のため、市場平均を40%も下回っているのだが、これは説明のどこを見ても書いていない。だからこの時期自分でベトナムで直接口座を持てば100%のリターンが得られたので、個人投資家が殺到したのだ。

これがジム・ロジャースの言うエマージング投資の報酬なのだと橘さんは語る。

第2のベトナムを求めて、モンゴルやカザフスタン、ドバイを投資家は訪れているという。

インドの株式市場は外国人を厳しく制限している。しかしニューヨーク市場に上場されているインド企業のADR(American Depositary Receipts)を買えば、インド企業にドル建てで投資できるのだ。

インド以外でもジョージ・ソロスが昨年約600億円を投資したブラジルの石油会社のペトロブラス(ソロスは相当な含み損を負っていると思う)、世界最大の鉄鉱石メーカーリオドセ、世界最大のダイヤモンド生産者の南アフリカのアングロアメリカン、世界最大の鉄鋼メーカーアセロール・ミッタルなどがADRを上場している。

アメリカの上場基準はSEC(証券取引委員会)が厳しくコントロールしているので、アメリカの厳しい上場基準を逃れロンドンで上場しているエマージング株もある。

例えばロシア最大の石油会社ルークオイル、世界最大のガス会社ガスプロムはGDR(Global Depositary Receipt)をロンドンで上場している。


エマージング投資法

エマージングマーケットに投資する方法は次の4つある。

1.日本の金融機関のエマージングファンドを買う 但し手数料が高い
2.アメリカ市場に上場されているEFTを買う i-Share MSCI Emerging Marketsなどだ。最も手軽でコストパフォーマンスが良い
3.ADRやGDRを利用してエマージングマーケットの優良銘柄に投資する 但し買える銘柄は限られ、一部の株は割高である。
4.現地の証券会社に口座を開く 時間も手間もお金もかかる

現地の証券会社に口座を開く問題を一挙に解決するオンライン証券会社が香港にできたという。

Boom証券は香港、深セン、上海、シンガポール、タイ、インドネシア、マレーシア、オーストラリアなど中国A株とベトナム株を除くと東南アジア地区のほとんどの株が購入できる。

橘さんの「至高の銀行・証券会社」という本に口座の解説方法などが詳しく紹介されている。

黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 至高の銀行・証券会社編黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 至高の銀行・証券会社編
著者:橘 玲
販売元:ダイヤモンド社
発売日:2008-07-26
おすすめ度:3.5
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この他にも同様のマルチマーケット・マルチカレンシー投資のオンライン証券会社はいくつかあるという。

現地の証券会社に口座を開けば、オンライン証券会社の手数料分セーブできるので、最もコストパフォーマンスは良いが、そのためには現地に行かなければならない。

しかしエマージング投資のプロのマーク・モビアスは「あらゆる人々が投資に適切と考える頃には、本当のタイミングはとうの昔に過ぎ去っている」と語る。

実際ジム・ロジャースがアフリカのガーナの株式を買ったのは1990年代だったという。

技術的にはジムと同じ事をできるようになった。エマージング投資はブームを過ぎており、急落しているが、10年先のことを考えると依然として魅力的な投資だと思う。

ただし、プロは一般人よりは一歩も二歩も先を進んでいるので、本がいろいろ出回る頃には、しろうとはブームの終わりのババをつかまされる可能性が高いことにも注意しなければならない。


ミセス・ワタナベの冒険

ミセス・ワタナベとは、実在の人物ではなく、日本の主婦トレーダーの総称だという。投資のレバレッジ率は株の信用取引では3.3倍が普通だが、外貨FXだと大手で20倍、中小業者だと200−400倍というところもあるのだ。

いわゆる円キャリートレードで、たとえば100万円の資金でレバレッジ200倍で2億円を借り、200万ドルに両替してドル金利の5%を得る。

200万ドルのバーチャルな預金から毎年10万ドルのリアルマネーが入ってくるので、元手100万円で一生暮らしていけるのだ。

架空の人物ミセス・ワタナベは数兆円の円資産を売って、米ドル、オーストラリアドル、ニュージーランドドルなどの高金利の通貨を買っているのだという。

外貨FXはクリック一つで終わり、後は金利が振り込まれるまで待てば良いだけで、手軽に不労所得が得られるので、主婦やフリーターに急速に広まった。

外貨FXで多くの巨額の脱税事件が発生したが、外貨FXは手数料率が0.05%程度と低く、かつ胴元が300倍までの資金を貸してくれるので、宝くじより非常に効率の良いギャンブルなのだという。

勿論資金が200倍、300倍のレバレッジをかけていると、ちょっとでも逆方向に動くとすぐに損失か利益が出る。

経済理論からするとデフレ+低金利の通貨は強く、インフレ+高金利の通貨は弱いはずだが、円に限ってはデフレ+低金利の円安が10年間続いている。

この理由の一つが外貨先物取引に於けるスワップポイントだ。ドルと円の金利差を、外貨FX業者は毎日のキャッシュ支払いに転換したのだ。1万ドルの円売りポジションを持っていれば、金利差年率5%とすると0.013%つまり、毎日1.3ドル入金する。

逆にドル売りポジションを持っていると、毎日1.3ドルが口座から差し引かれるのだ。

参加者は外貨FXは外貨預金の一種と考えていることもあり、この心理的効果は大きく、結果として円売りポジションばかり積み上がり、ドル売りポジションは少ないのだという。

この10年間円高にかけて円買いを敢行したプロ投資家はことごとく敗退し、苦杯をなめてきた。為替レートが一定以上の円高になると、必ず円売りドル買いの投資家が現れ、相場を押し戻すのである。

1998年のLTCM破綻でも、2007年のサブプライムショックでも、欧米の金融機関やヘッジファンドが損失を出し、円キャリートレードを手じまおうとして巨額の円買いが出た時でも、1ドル=105円の水準で必ず円売りドル買いが出て為替相場を円安に押し戻したという。

現在の90円まで行って、また100円近くまで急速に戻ってきた円相場を見ると、たしかに橘さんの言っていることが当てはまるような気がする。

LTCMは破綻時には60倍のレバレッジをかけていたとされるが、ミセス・ワタナベは300倍のレバレッジをかけることができる。

為替市場に於けるミセス・ワタナベの存在は謎につつまれているという。

自らの取引を外貨預金と信じているミセス・ワタナベはスワップ金利が受け取れる限り、円高で含み損がふくれあがっても容易にポジションを解消しようとしない。その結果外貨資産が根雪のようにふくれあがる。

かくして最新の金融工学で武装した日本の主婦が、機関投資家・ヘッジファンドと立ち向かう近未来活劇を我々は見ているのだという。しかも彼女たちはデリバティブ取引について全く理解していないのだ。


日本人全員が働かずに暮らせるユートピア

そして奇妙きてれつなおとぎ話が生まれたという。

デフレ+低金利の円安というマーケットの歪みが固定化し、為替が将来も一定範囲に収まるならば、もはや日本人は働く必要はない。

外貨FXで高金利の外貨を買い、あとはスワップ金利を受け取りながら遊んで暮らせばいいのだ。この投資法はなんの知識も技術も不要で、子どもから老人まで誰でもできる。

そうなると低金利と円安が永遠に続くことが望まれ、もっとも忌み嫌われるものは、金利の上昇と円高だ。

すなわち、日本を長い不況が襲い、改革は遅々として進まず、株価も不動産も下落する社会こそ日本人全員が働かずに暮らしていけるユートピアが実現するのだ。

公的年金や医療制度は破綻するかもしれないが、スワップ金利さえあれば何の問題もない。こうして賢明な有権者は無能な政治家を為政者に選ぶだろうと。

ミセス・ワタナベはとてつもない潜在力を持っている。レバレッジ300倍で、国民資産の1500兆円を運用すると、45京円という金額になる。これは地球上に存在するお金1.6京円の30倍である。

日本国が国として滅びることによってこの世に極楽浄土が到来するのだと。

「ミセス・ワタナベ」と言うこんな恐ろしい話があったとは知らなかった。しかしなるほどとここ10年来の円安の理由がうなずけるような気もする話である。

ミセス・ワタナベのFX取引のために、円安が続き日本の国民一人当たりのGDPが世界2位から22位まで落ちて、国民全体の資産が対外的に目減りしていたわけだ。

しかし最近の世界金融危機で、円は他通貨に対して大きく値を戻しており、ここ数日で値を戻しているが、それでも独歩高と言っても良い。

たぶん今まで為替FX取引で円安に賭けて円売りベースでやってきた人には、極楽ならぬ地獄になっていると思うが、いままでFX取引をやっていなかった人には新規参入のチャンスかもしれない。


革命としてのヘッジファンド

ミューチュアルファンドはバイアンドホールド(買い持ち)しか許されていなかったが、ショート(空売り)をはじめたのがヘッジファンドの始まりで、1949年にアルフレッド・ジョーンズが始めたA.W.ジョーンズが始まりだという。

それまでは持っている株しか売れなかったのが、今度は空売りもできるようになり相場が下落しても儲けられるようになったのだ。

アメリカの法律ではヘッジファンドのリミテッドパートナーを投資額100万ドル上の投資家100名以下、又は投資額500万ドル以上のポートフォリオを持つ投資家5,000名以下と定めている。

投資家が金融のプロか富裕層に限定されていれば、国家が介入することはないと考えたのだ。

ジョーンズは自分の報酬も成功報酬のみの20%とし、全財産をファンドに預けたという。高い成功報酬を取る以上、投資家とリスクを共有するのは当然と考えたのだ。

1966年4月「フォーチュン」誌に「ジョーンズには誰も追いつけない」という記事が出たという。

成功報酬の20%を差し引いても、ジョーンズのファンドが5年間で最高利回りのミューチュアルファンドのフィデリティを44%上回り、10年では最高のドレイファスファンドを87%も上回ったのだ。

この記事をきっかけに第一次ヘッジファンドブームが起こった。そのなかの一つがハンガリーから逃げてきたジョージ・ソロスの運営するクォンタム・ファンドだ。

ジョージ・ソロスはイングランド銀行を相手にポンド売りを仕掛けて勝利し、一躍有名になった。ソロスのファンドは1日で10億ドルを超える利益を手にしたという。

近々ソロスの「ソロスは警告する」のあらすじを紹介するが、相変わらず難解な本を書く人だ。

ソロスは警告する 超バブル崩壊=悪夢のシナリオソロスは警告する 超バブル崩壊=悪夢のシナリオ
著者:ジョージ・ソロス
販売元:講談社
発売日:2008-09-02
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その後ヘッジファンドは増え続け、2007年には1万社を超え飽和状態に達したという。

ヘッジファンドが市場インデックスを上回るというのは統計の詐術であると。ファンドマネージャーが成功報酬をもらえないような運用実績を記録した場合、ファンドを解散するので、統計に反映されない。運用に成功したファンドだけ統計に反映されるからだという。こうして年間数百社のヘッジファンドが消えていく。

米国以外では投資家の制限はないので、ヘッジファンドは下限投資額を引き下げ、海外投資家を勧誘する。日本人に最もなじみのふかい老舗マン・インベストメンツは5万ドルから投資できる。

こうした個人向けヘッジファンドは手軽に購入できるが、販売は代理店に任せているので、5%程度の販売手数料と毎年0.3%程度の管理手数料が販売者にキックバックされる。販売代理店に資格は必要ないので、マルチ商法まがいの会社もいるので要注意だ。

ヘッジファンドの仕組みは簡単だ。たとえば自分の元手1億円を用意して、他の出資者99人から1億円ずつ集める。100億円をレバレッジ20倍の2,000億円で運用し、年率1%で運用すれば20億円の利益、つまり100億円の元手を20%のリターンで回したことになる。

だがもし損失を出すとレバレッジをかけている分、損失も大きくなる。たとえば1%のロスで、20億円の損失、マイナス20%の運用成績となるのだ。

ヘッジファンドのマネージャーは成功報酬だが、失敗したときは最悪は報酬ゼロであり、損は負担しなくてよい。だからファンドマネージャーにはモラルハザードが発生しやすい。


その他、詳しく紹介しているときりがないが、マレーシアのラブアン島やランカウイ島のタックスヘイブンの話とか、イラン革命の時、アメリカの共和党が秘密裏に、人質になっていた米国大使館の職員を解放しないようにイランに金を渡していた(?)ことが決済会社の社員によって暴かれた話とかが面白い。

マネーロンダリングの代理人―暴かれた巨大決済会社の暗部マネーロンダリングの代理人―暴かれた巨大決済会社の暗部
著者:エルネスト バックス
販売元:徳間書店
発売日:2002-04
おすすめ度:4.5
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筆者はラブアン島に行ったことはないが、米国にいたときに、まさにラブアン島にあったマレーシアのガス会社の子会社の直接還元鉄の会社から、アイアンブリケットを米国に輸入していたので感慨深い。


パーペチュアルトラベラー

一ヶ所に定住することなく、常に世界中を旅していればどこの国でも税金を納めなくても済む可能性がある。

ところが日本の税務当局は海外に住んでいても、国内に住所を有すると推定されれば所得税を取り立てる。捕捉率は低いが、著名な人はしばしば税務調査ターゲットになる。

たとえば香港在住の武富士創業者の息子の相続税脱税裁判は、2007年5月東京地裁で判決が出て、1,300億円の追徴課税が取り消され、国税当局は還付加算金を含む1,715億円を返還することになったが、2008年1月の東京高裁では国側の逆転勝訴判決が出された。

ハリーポッターシリーズの翻訳者も2001年スイスジュネーブにマンションを購入して住民票を移していたが、2006年7月に3年間で35億円の申告漏れを指摘され、7億円の追徴課税を受けた。

これらは氷山の一角だ。

タックスヘイブンのマレーシアのラブアン島は日本人のリタイア層に人気だそうだが、日本人の現地業者が日本人向けに8万円で仕入れた部屋を25万円で貸してぼったくっているケースもあるという。海外移住者から甘い汁を吸おうとする業者には要注意だと。

オーストラリアの通貨高、物価高でオーストラリアに移住した人が日本に戻ってくるケースも続出しているという。日本円が安くなったので、もはやオーストラリアよりも日本の方が物価・生活費が安いのだと。

もっとも最近の円高で、かなり状況は変わっていると思う。

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ポンド高もあって、イギリスでは人口の約1割が海外移住しているという。円高になれば、また海外移住という話題も復活してくると思う。


前作「臆病者の株式投資」の上級編といった感じの本書だが、まさに目からうろこで、読み物としても面白く大変参考になる本だ。

この本が書かれた2008年初めと今とでは、かなり市場環境が変化しているが、逆にチャンスではないかと思う。

是非一読をおすすめする。

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Posted by yaori at 13:01Comments(0)

2008年10月19日

マネーの未来、あるいは恐慌という錬金術 明快でわかりやすい

マネーの未来、あるいは恐慌という錬金術──連鎖崩壊時代の「実践・資産透視学」マネーの未来、あるいは恐慌という錬金術──連鎖崩壊時代の「実践・資産透視学」
著者:松藤 民輔
販売元:講談社
発売日:2008-07-11
おすすめ度:3.5
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このブログで紹介した「無法バブルマネー終わりの始まり」の著者で金鉱山オーナーの松藤民輔さんの2008年7月発刊の近著。

無法バブルマネー終わりの始まり──「金融大転換」時代を生き抜く実践経済学無法バブルマネー終わりの始まり──「金融大転換」時代を生き抜く実践経済学
著者:松藤 民輔
販売元:講談社
発売日:2008-01-16
おすすめ度:4.5
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前著に引き続き、サブプライム問題に端を発した今回の金融危機を分析し、「日本人にとって、金融恐慌は60年に一度のビッグチャンス!」と語る。

「ひょっとして恐慌が来るかもしれない」ではない。次の理由で既に恐慌なのだと松藤さんは語る。

1.サブプライム問題はまだ片づいていない
2.金融機関の倒産はこれからが本番
3.ドルの転落
4.原油高、資源高、食料高のトリレンマが始まる
5.「有事のドル」の伝説崩壊

しかしむしろいまこそ千載一遇のチャンスなのだ。投資に臆病で、これまで利殖運用の世界と縁がなかった人には、現在進行中の金融恐慌は人生で1回の「ビッグチャンス」なのだと。

松藤さんは金鉱山のオーナーなので、金に期待する。

金価格は1980年の高値875ドルを超えて、今年前半のピーク1,000ドルを挟んで上下しているが、金融恐慌が本格的に始まれば2,000ドルの壁を越えていくに違いないと語る。直近の10月17日の金相場は785ドルだ。

gold price






出典:三菱マテリアルGOLDPARK

金相場が本当に松藤さんの予想通り行くのかわからないところである。


よくできた目次

松藤さんの本の目次はそれぞれの章が10ほどの節にわかれており、目次を読めば内容が推測できる。

作者の頭の中がよく整理されていることが一目でわかる優れた目次なので、ちょっと長くなるがそれぞれの節まで紹介しておく。

第1章 動き出した「悪魔のシナリオ」
    神の怒りに触れた人々
    バブルの顔はどれもよく似ている
    底なしの住宅価格
    売れない車と凍りつく個人消費
    急上昇する「原油価格」と「失業率」
    始まった自治体の連鎖財政破綻
    密かに進行する恐慌化10のプロセス
    「悪夢のシナリオ」は止まらない
    賞味期限切れの欧米中心型金融システム
    ドルの未来
    アメリカは滅び、ドルは強くなる
    「M」が示すマネーの暗号

第2章 USBとベアー・スターンズの転落
    「証券化」という錬金術
    UBSオスペル会長の末路
    「ローカル銀行」の栄光と挫折
    サブプライム誕生の秘密
    バブルは、すべてを失って初めて気づく
    「死に体」ベアー・スターンズの異例すぎる救済
    どこかで聞いたセリフ
    エリートを待ち続ける訴訟の嵐
    「120兆円」に向かって積みあがる損失
    「質は日本のバブル崩壊によく似ている」
    バブル処理コストは「15年200兆円」
    「有事のドル」から「有事の金」へ

第3章 宴の最中に始まった「中国パッシング」
    中国の急減速
    アメリカに依存しすぎた中国経済
    失敗だらけの中国の巨額投資
    中国パッシングが始まった
    「脱中国」の動きは止まらない
    中国の外堀を埋める東南アジア
    毒餃子事件とチャイナリスク
    中国政府が隠す「不都合な真実」
    資源を盗掘し続ける無法国家
    四川大地震は人災か?
    地下資源を狙ったチベット弾圧
    中国投資熱はとっくの昔に冷めている

第4章 絶望のドバイ
    原油価格はドル相場と逆相関に動く
    利下げ、ドル安、原油高のドミノ倒し
    原油価格高騰の真犯人
    中東の出資は「追証」!?
    世界最大の国富ファンドは日本にある
    アブダビ投資庁の9割が外国人職員
    原油価格高騰が招く食料インフレ
    次世代エネルギー開発のチャンス
    日本企業から続々生まれる代替エネルギー
    石油がほとんどいらないエコ住宅
    公開実験に成功した夢の「固体核融合」

第5章 恐慌の錬金術ー2025年までは金と金鉱株の独歩高
    ドル神話の終わり、金神話の始まり
    幻想の中の通貨
    資産としての価値、商品としての価値
    NYダウ暴落と金暴騰
    チャートが示す流動性危機の予兆
    未来のポジション
    金融恐慌化の金ETFのメリット
    金はますます足りなくなる
    日本に眠る巨大な都市鉱山
    古い投資法、新しい投資法
    ローリスク・ハイリターンの分散投資
    天井知らずの金価格
    金の理論値は2、289ドル
    金投資の有望性と留意点

グリーンスパンの言葉を引用して始まる。「アメリカのこの金融危機は、第2次大戦以来最悪という評価を将来受けるだろう。」

グリーンスパンの回顧録は大変参考になり、既に何回も読んだので、近々紹介する。

英語の原著のペーパーバック版には最近の金融危機についてのエピローグが追加されたので、英語のオーディオブックに加えて、英語のペーパーバックまで買ってしまった。このエピローグの日本語訳は追加で出版されている。

The Age of Turbulence: Adventures in a New WorldThe Age of Turbulence: Adventures in a New World
著者:Alan Greenspan
販売元:Penguin USA (P)
発売日:2008-09-09
おすすめ度:5.0
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波乱の時代 特別版―サブプライム問題を語る波乱の時代 特別版―サブプライム問題を語る
著者:アラン グリーンスパン
販売元:日本経済新聞出版社
発売日:2008-10
おすすめ度:4.5
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今回の金融恐慌の本質は:

1,儲かればなにをやってもかまわないという文化
2.膨大なボーナスを得るためには、どんな仕組みでもつくってしまうというゲーム感覚に似た文化
3.自分だけ成功すればいい、というエリート特有の鼻持ちならない文化

松藤さんは神の怒りに触れた人々だと呼ぶ、つまり「行き過ぎの資本主義=モラルハザード」がそのベースに横たわっているのだ。

松藤さんは現状をコンパクトにまとめているので、その文を紹介しておこう。

「本来なら、たんなる住宅ローンの延滞率上昇に過ぎなかったトラブルが、「証券化」という核爆弾を積んでいたおかげで連鎖反応をくり返し、住宅不況、金融不況、ドル暴落(ドル独歩安)、株価暴落、原油高騰、金高騰、穀物高騰、不況、物価高....そして、経済破綻から本格的な世界恐慌を引き起こす、というのが現在の実情なのである」

まさに現状をよく言い表していると思う。

サブプライムローンをプライムローンと混ぜて証券化し、モノライン(金融保証会社)が保証を与えて高い格付けの商品とするというCDO(債務担保証券)は魔法の杖だった。

この魔法の杖が消えて、モノラインが実質破綻したので、モノラインが保証していた自治体などの債券が急落しているという。

筆者が住んでいたピッツバーグにある肝臓移植手術では世界トップのピッツバーグ大学医療センターが発行している債券の金利も、2008年2月より3.5%から17%に跳ね上がってしまったという。

ニューヨークの有料橋/トンネルやフェリーなどを運営しているニューヨーク・ニュージャージーポートオーソリティの債券金利も4%から20%に跳ね上がった。

それだけ金利を上げないと資金が調達できない非常事態になってきているのだ。

証券業務では5位にすぎないベアー・スターンズだが、証券化ビジネスではトップで、10兆ドルにものぼるスワップ取引の契約相手になっていたのだという。だからFRBが乗り出してベアー・スターンズをJPモーガンに救済させたのだ。

いざ破綻すればCDOなど世界中のデリバティブに次々波及して、本当にアメリカ発の金融恐慌の引き金を引いてしまうからだ。

この本に「巨大すぎるデリバティブの規模」として、世界の店頭デリバティブの想定元本合計の4京9300兆円(国際決済銀行=BIS調査)と、世界の株式市場7,200兆円、世界の債券市場5,500兆円などを対比した図が載っている。

いかにデリバティブ市場が巨大で、なぜベアー・スターズを救済したのかよくわかる。


金融機関の損失の全体規模

ゴールドマンサックスのエコノミストは金融機関の抱える損失を最大1兆2千億ドルと2008年4月に予想していたという。バーナンキの当初の予想1,000億ドル、ドイツ連銀の予想4,000億ドルをさらに上回る金額だ。

日本のバブル処理コストは投入された公的資金11兆円、無税償却で39兆円、景気浮揚策として130兆円、ゼロ金利政策で国民に入るべき金利が削られた部分を加えて15年で200兆円だったと松藤さんは推定している。

今回の世界金融危機の処理コストはどれだけになるか予想が付かないが、いずれにせよバーナンキの当初予想の1,000億ドル程度の額でないことは確かだと松藤さんは語る。

筆者も記憶があるが、日本のバブル崩壊当時でも全体の損失額は結局誰にもわからず、時がたつにつれだんだん損失が巨大化していった。それと同じことが起こるのだろう。


中国の不都合な真実

中国の「不都合な真実」として公害やチャイナリスクと呼ばれる食物・玩具・日用品汚染、砂漠化、原油輸入の増大、原発を15−20倍に増設する計画などを指摘している。

チベットについては、少数民族の女性は漢民族の男性との結婚は認められているが、その逆は認められていないという。チベットには仕事がないので適齢期の女性は都会に出て働き、漢民族の男性と結婚して都会に住むしか選択肢がなくなり、チベット人男性の結婚相手はいなくなり、壮大な民族浄化計画が進んでいると松藤さんは語る。


絶望のドバイ

原油価格高騰の犯人は年金資金だと松藤さんは語る。アメリカの大手年金資金が積極的に商品相場をポートフォリオに織り込んでおり、2003年比20倍の規模になっている。

たとえばカルパースは運用資産の8%を商品で運用しているという。

世界最大の国富ファンドは日本の旧年金福祉事業団だ。現GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)その運用規模は150兆円だが、運用益は3.5%にとどまるという。


日本の技術力という現代の黄金

日本のメタンハイドレートなど、次世代エネルギー開発のチャンスだ。日本が得意な代替エネルギーもおおいに期待される。電気自動車、ハイブリッド車に使われるリチウムイオン電池、水素エネルギー、燃料電池、北海道大学の水野忠彦教授が理論を確立した常温固体核融合などが紹介されている。

松藤さんの持論は金だ。CPI調整したリアル・ゴールド・チャートで見ると金は1,000ドルでもまだ安い。3倍ほどの上昇余地はあると語る。

gold price







金ETFが良いという。そして金の理論値は2,289ドル/オンスだという。

金については松藤さんの前著「無法バブルマネー終わりの始まり」のあらすじで筆者の私見を書いたが、筆者自身は金に大きな期待を寄せるのは疑問に思う。

この本で松藤さんは逆オイルショックは早く来ると予測している。実際松藤さんの予測どおり、原油相場はピークの半値となった。

一方穀物相場は暴落し、予想は外れている。

最後にブラジルのOGX Petroleoという新興石油会社を紹介している。

単に海底油田にボーリングを打つ権利を持つだけの会社が昨年マーケットのピークでIPOして株価は最高1,385リアルまで上がったが、現在は340リアルまで下落している。(1リアルは50円弱だ)

まさに2000年のインターネットバブル崩壊をほうふつとさせる事例だ。


日本の新興国株投信のマイナス50%などという運用成績は、時代を読み間違えた人々の運用なのだと松藤さんは語る。

いろいろ本が出て、新興国投資とか豪州ドルやニュージーランドドルのFXが話題になる頃はピークは過ぎていて、参入した素人はプロの餌食になるという典型例のような話だ。

逆にこれだけいろいろなものが暴落したら、新しく投資するリスクは少ないともいえる。松藤さんが言うように、現在進行中の金融恐慌は人生で1回の「ビッグチャンス」なのではないかと思う。

筆者の持論は、近未来はわからないが、10年先の未来なら大体誰でも予測ができるというものだ。松藤さんの言うように「時代はどこを見ているのか、僕らはどこに行こうとするのか考え」て、投資するチャンスだと思う。


松藤さんの言うように金が良いのかどうかわからないが、現状を分析する上で、大変参考になる本だった。

簡単に読めるので、まずは本を手にとってみることをおすすめする。


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2008年10月15日

無法バブルマネー終わりの始まり 投資家で金鉱山オーナー松藤民輔さんの本

無法バブルマネー終わりの始まり──「金融大転換」時代を生き抜く実践経済学無法バブルマネー終わりの始まり──「金融大転換」時代を生き抜く実践経済学
著者:松藤 民輔
販売元:講談社
発売日:2008-01-16
おすすめ度:4.5
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昨年からサブプライム後の金融バブル崩壊の警鐘を鳴らしている松藤民輔さんの本。

松藤さんは日興証券、メリルリンチを経て、ソロモンブラザースで年収2億円の敏腕トレーダーとして勤務。その後独立して牛之宮という投資クラブ?を設立してメルマガで情報提供している。

ペーパーマネーから実体マネーに移るとの見込みのもとに、1995年に株式会社ジパングを設立して、2003年にアメリカの金鉱山のオーナーとなる。

松藤さんは船井総研の船井さんと親しいようで、船井さんのブログに松藤さんの活動が紹介されている

昨年から世界金融危機に関していくつもの刺激的な本が出されているが、松藤さんも昨年からサブプライム問題や金融危機に関して数冊の本を出している。

今回松藤さんの本を初めて読んだが、億のサラリーを貰っていたトレーダーをやめ、金鉱山オーナーになったという異色の経歴だ。

「これからは商品の時代」と商品・金投資を提唱するジム・ロジャースのことを紹介し、結論として金投資を進めている。

この種の本は他にもいくつも出ているが、結論として警鐘を鳴らしているだけで、書いている人自身がどうしたらよいのかわかっていないので、苦し紛れとしか思えない無茶なことを書いている本が多い。

評論家なら本に書いてそれで終わり、いわば書き捨てなのだろうが、松藤さんの場合、自分で10億ドルといわれる金鉱山を所有しているので説得力が違う。

この本の目次は次の通りである。大体目次を見ただけで内容が推測できると思う。各章は10ほどの節にわかれており、わかりやすい構成だ。

第1章 サブプライム・ショックの本当の恐怖
第2章 中国の不都合な真実
第3章 ロシア資源戦略の「限界」
第4章 これから10年は、金と金鉱株の時代
第5章 500年目の「黄金の国ジパング」

松藤さんはアメリカネバダ州の金鉱山のオーナーなので米国の事情にも詳しく、サブプライムショックに対する解説もわかりやすい。


アメリカの不動産ローン事情

筆者はアメリカの地方都市、ピッツバーグに二回駐在したが、ピッツバーグには貸家が少ないので、二回めの駐在の時の1997年には家を買ってモーゲージ(住宅ローン)を借りていた。

Mortgage






30年ローンで当初7年間の金利は7.6%というものだった。頭金はわずか5%で、18万ドルくらいの家だったので頭金とその他費用や税金等を入れて、1万5千ドルくらい初めに払った。(金利は店頭に表示されている金利そのままで、プレミアムはついていなかったので、「プライムローン」ではあった)

その時は気がつかなかったが、今再度モーゲージ契約書を読み返してみると、借り手が返済できない場合は、貸し手が不動産を没収すると書いてあり、いわゆるノンリコースローンである。

よくテレビ等で報道されているので、お分かりの方も多いと思うが、アメリカの不動産ローンは個人でなく、物件に対してのローンなので、ローンが返せなかったら、不動産からウォークアウェイ(退去)すれば、支払い義務から逃れられるのだ。

この日米の不動産ローンの根本的な差が、今回の不動産バブルがはじけた後のサブプライムローン問題を引き起こしているひとつの要因だ。

それと不動産をローンで買うと、税制上の数々の優遇がある。だからたとえ裕福な人でも家を買うときは手持ち資金では買わず、必ずローンを組むのだ。

今も変わらないと思うが、アメリカの場合、家2軒分までは金利や税金・諸費用が所得から控除できる。

筆者の場合は、アメリカの家の住宅ローン金利と税金、日本に持っていた家の賃貸ロス(駐在の間は日本の家を貸していたので、受け取る賃貸料から住宅ローン金利と減価償却・税金など諸費用を引いたときの損失)がすべて所得から控除できた。

タックスリターンと呼ばれる確定申告で税金が戻ってくる分は毎年1万ドルを超えており、ばかにならない金額だった。

さらに不動産鑑定士の家の評価額が20万ドルを超えていたので、ローン17万ドルとの差額の3万ドル程度をホームエクイティローンとして借りて、家の改装(浴室を日本風に改造し、タイル張りにしてジャクージーも入れた)にあてた。

築40年弱の家だが、居住性も良く全く問題ない。アメリカではむしろ1970年代の石油ショック前後に建てられた家は材料も工事も手抜きが多く、むしろ1960年代以前の家の方が堅牢に建てられているのだ。


大きな地図で見る

このホームエクイティローンの金利も不動産ローン金利として所得から控除できるので、限度額まで借りた方が得という非常にメリットあるものだった。

アメリカの場合、ローン債権がしばしば譲渡されるので、貸し手が変わることがよくある。筆者の場合にも4年間の間に貸し手が2度変わった。


サブプライムショックの本当の恐怖

今回のサブプライム問題では、ローン債権が譲渡されるだけでなく、さらにデリバティブに組み込まれ、全く別の高い格付けの新規証券として売買されるという債券の流動化が、問題の根を深くしている。

今度紹介するジョージ・ソロスの「ソロスは警告する」では、CDS(Credit Debt Swap)やCDO(Collateralized Debt Obligation)のデリバティブの残高は42.6兆ドルと推定している。

ソロスは警告する 超バブル崩壊=悪夢のシナリオソロスは警告する 超バブル崩壊=悪夢のシナリオ
著者:ジョージ・ソロス
販売元:講談社
発売日:2008-09-02
おすすめ度:4.5
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この42.6兆ドルという推定が正しいのかどうかわからないが、もしそれに近い数字だとすると、米国の7,000億ドルの金融支援が焼け石に水になる可能性がある。

だから誰もサブプライム問題の全体の金額がわからないという現実を引き起こしているのだ。

松藤さんは、サブプライム問題は世界の金融機関を悩ます「ガン細胞」だと呼んでいる。まさにその通りだと思う。

サブプライム問題は自動車業界にも「飛び火」しており、北米マーケットの終わりの始まりだと語る。

日本の金融機関はサブプライムにはあまり首を突っ込んでいないので、松藤さんはこれからは日本の一人勝ちになると予想している。―本当にそうなってくれればよいのだが...。


中国の不都合な真実

昨年政府系ファンドが注目され、日本でも政府系ファンドを立ち上げるべきだという議論が活発になったときに、中国が2003年に設立した中国投資有限責任公司が、アメリカのヘッジファンド最大手のブラックストーングループの8%の株式を取得したことが話題になった。

取得株価は新規公開時の35ドルだと思うが、ブラックストーンはサブプライムでもやられているので、株価は下落の一方だったが、なんと昨今の株価急落で直近では8ドル以下になっている

誰が責任を取るのか知らないが、なんと約8割の株価下落である。

役人に資産の運用など任せられないという典型例が中国の政府系ファンドだ。


このブログでもたびたび紹介しているウォーレン・バフェットのペトロチャイナ株の売りぬけなどについて解説している。

スーダンのダルフール紛争へのペトロチャイナのかかわりなどが、国際的にも非難されたが、バフェットは中国株の売却はあくまでタイミングを見てのものであり、政治的な圧力を考えた訳ではないと語っている。

その後原油相場の下落もありペトロチャイナの株も下落が止まらない。直近では6ドルまで下落したが、まだ先が見えないところなので、まさに見事なプロフィットテイキングである。

バフェットのみならず、フィデリティグループもバフェットに先立つこと3ヶ月で、ペトロチャイナ株を手じまっている。

アラン・グリーンスパン前FRB議長も、2007年10月に「中国の株式市場はあらゆる角度から見てバブルの特徴を備えている。バブルの定義を求めたいのなら、これこそそうだ」と語っているという。

松藤さんは中国でバブルが繰り返される理由として次をあげている。

1.1億2千万人を超える個人投資家
2.株式と不動産しか投資・運用先がない
3.金利を誰もあてにしていない
4.わずかな売買で株価が騰落する
5.インサイダーと粉飾がまかり通る

さらに「コピー大国に未来はない」や、「世界中に毒を撒き散らす中国」、「リストラ軍人が中国を破壊する?」と手厳しいタイトルが並ぶ。


ロシア資源戦略の「限界」

ロシアは資源価格高騰で復活しているが、「サハリンII」を強引にガスプロムが過半数を持つ企業体に変えたりして、ロシアのカントリーリスクは世界一だと松藤さんは語る。

政治や軍事の分野では「上海協力機構」をロシア、中国と中央アジア諸国4カ国の合計6カ国で設立し、イラン、インド、モンゴル、パキスタンの4カ国がオブザーバーとなっている。

敵の敵は味方というロジックで、対米連合となっているのだ。

古くはセブンシスターズと呼ばれるオイルメジャー7社、これが現在は4社(BP,シェル、エクソンーモービル、シェブロン)になっている。

今後は新しいニューセブンシスターズ(サウジアラビアのアラムコ、ロシアのガスプロム、中国ペトロチャイナ、イランNIOC、ベネズエラPDVSA、ブラジルのペトロブラス、マレーシアのペトロナスの7社)が今後40年間で世界の90%を押さえるだろうと英国のファイナンシャルタイムズは予測しているという。

しかし時代のトレンドは脱石油なので、ロシアの天下は資源価格下落とともに終わるだろうと松藤さんは予測する。

これからは省エネルギー技術が発達し、原子力技術に強い日本企業が世界をリードするだろうと松藤さんは予想する。ハイブリッド車、燃料電池車、水素車、とくに常温核融合に注目しているという。


これから10年は金と金鉱株の時代


最後に松藤さんのホームグラウンドの金について自説を述べている。松藤さんのポジションはNYダウ暴落、金暴騰が基本であると。ドルはNYダウが暴落しても、一瞬暴騰し、時間を掛けて下落すると予想している。

まさに松藤さんの予想通り、現在これが起こりつつある。

現物回帰が基本で、ジム・ロジャースが「これからは商品の時代だ」と語っている様に、これから10年は金が運用商品の中心になると予測している。

大投資家ジム・ロジャーズが語る商品の時代大投資家ジム・ロジャーズが語る商品の時代
著者:ジム・ロジャーズ
販売元:日本経済新聞社
発売日:2005-06-23
おすすめ度:4.5
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目先の小さな儲けより、歴史の大きなトレンドに乗ることを優先すべきであると。

「有事」になると金が注目される理由は、金は資産として永遠の価値を持っているからだ。

松藤さんが注目するのは、東証版金ETFだという。6月30日に東証に上場され、現在は基準価格を割っているようだが、松藤さんの言うとおり長期トレンドを考えるべきだろう。


筆者の私見

筆者は金についてはタイミングよく大変儲けた経験があるが、長期的に価格が上がるという点は、自信が持てない。

筆者は1978年から1980年までアルゼンチンに駐在していたが、インフレ対策としてペソ建て給料をすぐに金貨に換えて持っていたのだ。

1オンスのメキシコ金貨を何枚か持っていたが、ちょうど1980年はレアメタル高騰の時期で、1オンス200ドル台で買った金貨が、1980年の日本帰国の時に売ったら1オンス650ドル程度で売れて、大変儲かった。

本当は保有しつづけたかったが、金貨なので日本に持ち帰るときに、身に着けて持って帰らざるを得ず、空港とかの手荷物検査で大変だと思って処分したのだ。

しかしその後金相場は20年以上低迷を続けたので、結果的に大正解だった。その時の経験から、本当に長期的に金相場が上昇するのか確信が持てないのだ。

松藤さんは「アル・ゴアのノーベル平和賞が保証する金価格の上昇」と題して、原状回復コストなどの環境対策コストが高いので、新しい金鉱山の開発は事実上無理なので、供給が増えないため金価格は上昇すると語っているが、上記の事情で筆者は半信半疑だ。

最後に松藤さんは、金鉱山こそ、「夢追い人」の目指す山として、日本がかつてジパングとよばれ、各地に金山があったことを説明している。

戦国武将も武田信玄が伊豆の土肥金山などを抑えていたり、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康などは莫大な金資産を持っていたという。

21世紀の日本は技術力という「現代の黄金」によって生き残るのだと松藤さんは結んでいる。


テンポ良く読め、わかりやすく面白い本だった。是非おすすめする。


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2008年09月26日

臆病者のための株入門 プロにカモられないために知っておくべきこと

臆病者のための株入門 (文春新書)臆病者のための株入門 (文春新書)
著者:橘 玲
販売元:文藝春秋
発売日:2006-04
おすすめ度:4.5
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このブログでも「お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方」など何冊か紹介している異色の経済・投資ライター橘玲さんの2006年の著作。

お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 ― 知的人生設計入門お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 ― 知的人生設計入門
著者:橘 玲
販売元:幻冬舎
発売日:2002-11-26
おすすめ度:3.5
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投資の入門本としてベストセラー作家の勝間さんの「お金は銀行に預けるな」を紹介したが、勝間さんの本は机上の議論という感じが強い。

これに対して橘さんは、1ヶ月で100万円を1億円に増やすべく自ら実行したり、実践の裏付けがあるので、説得力がある。

この本は「投資の専門家」とはどういう人たちかなど、独自の見方で解説しており、目からうろこの素人向け入門書である。

お金は銀行に預けるな   金融リテラシーの基本と実践 (光文社新書)お金は銀行に預けるな 金融リテラシーの基本と実践 (光文社新書)
著者:勝間 和代
販売元:光文社
発売日:2007-11-16
おすすめ度:4.0
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アマゾンのなか見検索に対応していないので、目次を紹介しておく。

はじめに 臆病者には臆病者の投資法がある

第1章  株で100万円が100億円になるのはなぜか?

第2章  ホリエモンに学ぶ株式市場

第3章  デイトレードはライフスタイル

第4章  株式投資はとういうケースか

第5章  株で富を創造する方法

第6章  経済学的に最も正しい投資法

第7章  金融リテラシーが不自由な人たち

第8章  ど素人のための投資法
   1.アセットアロケーション
   2.国際分散投資
   3.為替リスク
   4.トーシロ投資法
   5.世界市場ポートフォリオ
   6.トーシロ投資法VSプライベートバンク

あとがき 追証がかかった日


株の本を読んでもわからない

筆者の橘玲さんは「海外投資を楽しむ会」の創設メンバーの一人で、Perpetual traveler(常に海外を渡り歩き、一つの国に半年以上滞在しないので税金も納めなくて良い?ライフスタイル)を追求している。

橘さんは元々サラリーマンだったが、阪神淡路大地震があった年にビルゲイツの「ビル・ゲイツ未来を語る」を読んで感銘を受け、マイクロソフトの株を買いに行ったら売ってくれなかったことから、それなら自分でやると決心して、株研究本を何十冊も読み株で大もうけしようとたくらむ。

ビル・ゲイツ未来を語るビル・ゲイツ未来を語る
著者:ビル・ゲイツ
販売元:アスキー
発売日:1995-12
おすすめ度:5.0
クチコミを見る


しかし何冊読んでも全くわからなかったという。それぞれが違うことを言い、ファンドマネージャーは神のお告げの様に語り、ファイナンシャルプラナーはハイパーインフレが来ると脅す。

結局、株の本は理解できないように作られていることが分かったという。

株は欲望が生み出した迷宮で、次になにが起こるか誰にもわからない。だから臆病なしろうと向けにこの本を書いたのだと。


100万円を1億円に

最初に橘さんの経験談がある。

1999年のインターネットバブルの時に一念発起して1ヶ月で100万円を1億円に増やすという計画を思いつき、NASDAQの株価データを統計解析し、インターネットでアメリカの先物会社に口座を開き1999年10月に投資ポジションをつくった。

明らかなトレンドが存在するときに、上がり相場は買いまくり、下がり相場は売りまくるという「モメンタム戦略」を採れば、平均的な運用成績を10%以上上回れるという研究を知り、100万円をレバレッジ20倍で約20万ドルにしてシカゴの株先物で運用し、利益が出ればさらにポジションを積み増すという戦略で投資を開始した。

アメリカの証券会社を選んだ理由は、投資で損失が発生してもアメリカから日本まで追証を取り立てにくるわけないし、たとえ裁判に訴えられても家もマイカーもないので、儲けは無限大で、損失は最初の100万円に限られると思ったからだと。今から思えば恥ずかしいと橘さんは告白している。

当初の予定では儲かっていればシカゴの大引け前に追加で買い、損していれば自動的にストップロスを発動するというものだった。

空前の上がり相場の時だったので、利益が出ては、さらに信用買いで先物を積み増して買うということを続けて投資金額も順調に拡大したが、もしストップロスが発動しないと破産するとの強迫観念で眠れなくなった。

そして一晩中株価ボードを見つめ、1時間程度の仮眠の後会社に出るという生活を2週間続けていたら突如色彩のない白と黒の世界になって、このままでは死んでしまうと思ったので、結局その日のうちにポジションを手じまった。

そのまま続けていれば12月31日に運用額は80億円に達し、4億円近い利益を手にして、そして1月3日にはさらに2億円儲け、ポジションは100億円に達するが、翌1月4日の暴落で結局7億円損したはずだという。

筆者もちょうど1999年ー2000年に米国でインターネット関係で投資したことがあるので、この頃のことを思い出す。Janusのインターネットミューチュアルファンドを買い、インターネット株をIPOで取得したのだ。

ミューチュアルファンドは完全な高値づかみだった。結果的にピークで買ったので、それまでは年率40−50%のリターンだったものが、2000年は一挙にマイナスに転じ、結局平均30%のロスだった。

IPO株は約40ドルで買ったものが、1ヶ月弱でピークは300ドル超、半分は200ドル強で売り抜けたが、半分はそのまま持っていたので10ドル台となった。まさにローラーコースターである。


無職・無資産でないとできないこと

2005年12月のジェイコムの誤発注で20億円を儲けたジェイコム男は27歳無職男性だという。

要は最悪無一文になってもかまわない無職の若者でないとレバレッジをかけたハイリスク投資はやれないし、ハイリスク投資で勝ち残るのはほんの一握りだということだ。

ジェイコム男がプロを上回る実績を出せたということは、たまたまそうなったからであり、株式はじゃんけんと同様に本来プロもアマも同じだ。

多くの失敗した人は表に出てこないが、成功した人は珍しいので本を書けるまでになる。そうするとあたかも誰でも成功できるような錯覚に陥るので、またカモネギが増える。

本来「金融のプロ」なんていない、単なる確率の世界なのだ。


ホリエモンの冒険

しかし単なる確率の世界でも、降ってわいた儲け話もある。金融システムの欠陥を追求するのだ。

ホリエモンがやったのは、株式を100分割すると新たにつくられる99株は信用買いはできても、空売りはできないという規制を逆手に採った手法で、残りの1株は自動的に高値になるというシステムの欠陥を突いたものだ。

自社株買いは厳しく制限されているが、投資組合に適当な会社を買収させ、ライブドアの自社株と相手企業の株を交換すると、いくらでも自社株が発行できる。これはいわばお札を印刷しているようなものだ。

これは株式市場の歪みであり、彼らはこれを利用しただけなのだ。

ところでホリエモンが情報発信をを再開している。「六本木で働いていた元社長のアメブロ」というブログを再開している。

昔のようにアクセスNo.1になるはずもないが、何を書くつもりなのか、彼の人間性が判断できるだろう。


株式市場はゼロサムゲーム

株式市場はゼロサムゲームだ。誰かが得すれば、誰かが損する。

たとえばひところ株価が100円以下になると、機関投資家はストップロスの内規により自動的に売るので、必ず翌日は下落するという現象があった。いわばオンラインゲームのように、みんながインターネットで情報交換してターゲットを撃沈することをやっていたところ、機関投資家が裏をかく行動に出て、個人投資家を食い物にしだしたという。

債券投資は将来の金利を予想するゲームで、株式投資は会社の将来の利益を予想するゲームなのだ。だから使われる指標はEPS(一株利益)とPER(株価収益率)だ。

このゼロサムゲームというのは、筆者自身もふくめて株をやるうえで頭にたたき込んでおくべき事だろう。


バフェットの法則

オマハの賢人ウォレン・バフェット氏は昨日(9月24日)今の金融危機は「経済のパールハーバー(economic pearl harbor)」だから、政府も議会も一致団結して金融システムを守らなければならないとテレビで訴えていると豊島逸夫さんのブログに書いてあった

バフェット氏は2000年のインターネットバブルの時も、ネット企業に全く投資しておらず、その先見性で名声を高めたが、今回の中国株や新興国株の下落でも、11−14%保有していた中国最大の企業ペトロチャイナの全株をピークの2007年10月の直前の9月と7月に売りぬけ、またもや名声を高めた。

(もっともバフェットのペトロチャイナへの投資は、ペトロチャイナがスーダンのダルフールの石油開発に携わっているので、バフェットも20万人もの虐殺や強姦を支援していると非難されていたので、ある意味手を引く時期だったのかもしれない)


そのバフェットの法則は次の通りだという。

1.企業に関する原則
 ・その事業は簡明で理解しやすいか
 ・安定した業績の記録があるか
 ・長期の明るい展望があるか

2.経営に関する原則
 ・合理性を尊重できる経営者であるか
 ・株主に対して率直で誠実か
 ・横並びの強制力に負けないか

3.財務に関する原則
 ・1株当たり利益ではなく株主資本利益率を重視する
 ・「フリーキャッシュフロー(オーナー収益)」を計算する
 ・売上高利益率の高い企業を探す
 ・留保資産1ドル当たり、少なくとも1ドルの割合で株価に反映していることを確認する

4.マーケットに関する原則
 ・企業の真の価値を確定する
 ・企業の価値に対し大幅に割安な価格で買えるか

どれもオーソドックスなものばかりだ。


金融のプロとは

バフェットのもっとも嫌っているのが「金融のプロ」のアナリスト達であるという。彼らが投資家に損をさせているからだと。儲かる銘柄を知っている人は、人に教えたりせず、黙って自分で買う。

橘さんはバフェットのようにアナリスト達を全否定はしないが、彼らの機能は安心を売ることだ。だから「買い」と「中立」ばかりで、「売り」はほとんどないのだと語る。

カリスマ評論家になるには、当たったケースばかりを並び立て、はずれた予想は無視するのだ。そのうち人は忘れるからだ。


経済学的に最も正しい投資法

経済学的に最も正しい投資法について、マーコウィッツジェームズ・トービンウィリアム・シャープなどの歴代ノーベル賞受賞者の説を紹介している。

結論は簡単でインデックスファンドを買えというものだ。

橘さんは過去のデータを統計解析してノーベル賞学者の理論が正しいことを確認したという。市場平均を上回れるファンドは3−4割しかないのだ。

これに対してウォール街の金融マン達は、効率的市場仮説などはありえない、株式市場の歪みを利用して6兆円を稼いだバフェットがいるではないかと当然反論した。しかし運用実績の話になると、とたんに黙ってしまう。

手数料の差もあり、長期にわたってインデックスファンドを上回るファンドはほとんどないのだ。

日本の株式市場はバブルのピークに近づくことすらない。これは一国の株式市場だけに投資していてはダメなことを物語っている。

経済学的に最も正しい投資法は、世界市場全体に投資することだと。


銀行・生保にも気を付けよう

銀行の外貨預金や投資信託キャンペーンなども銀行に販売手数料が継続的に入る商品ばかりで、「ぼったくり」を目的としている商品ばかりだと橘さんは語る。だから金融リテラシーが必要だと。

元本保証型ファンドも手数料でがっぽり稼いでいる。ヘッジファンドは成功報酬制でプラスのパフォーマンスに対して通常20%の報酬が請求され、利益は実現していなくても良い。

生命保険も「家族の愛情」とか称して非常に分が悪い保険を売ると橘さんは語る。

筆者も生命保険では驚いたことがある。筆者は掛け捨ての生命保険しか掛けない主義だが、米国に駐在していたときに取った生命保険の見積もりでは死亡保障50万ドル、30年間料率固定で月々110ドル、30年間の保険料合計が37,500ドルというものだった。

当時アメリカの保険会社は空前の好決算を迎えていたので、こんな長期低料率の保険が出せたらしく、そのうちに最長でも10年までしか料率が固定できなくなったが、78歳まで同じ料率で、しかも漸増する追加料金を払えば95歳(!)まで延長可能というものだ。

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たぶん95歳までには死ぬと思うし、78歳までに死ぬ確率も結構あるのではないかと思うが、78歳までに死亡すると50万ドルが支払われる。

合計4万ドル弱の保険金で50万ドルの保障が得られるのである。

本当は現在価値に置き換える必要があるが、単純計算だと78歳までに死ぬ確率が7.5%を上回ると保険会社は損をするという計算になる。

日本人男性の平均寿命は79歳。平均余命だと2年ほど伸びるがそれでも78歳までには10%を超える人は亡くなっていると思う。筆者の高校の同級生でも50人のうち2人(4%)が亡くなっている。

喫煙者の場合は保険料は倍だった。それだけ喫煙者の死亡率が高いということだ。

日本の場合には高齢者になると死亡保険は掛けられなくなり、料率も極端に高くなる。最近ネットで生命保険の料率を見積るサービスもあるが、5千万円で70歳までの保障とすると保険料は月々5万円を超える。

「ぼったくり」とは言わないが、掛け捨てでも高すぎる様な気がしてならない。ましてや満期割り戻し保険をやだ。

世の中にフリーランチはない。誰かが得すれば誰かが損するのだ。


トーシロ投資術

最後にトーシロの投資法として、サラリーマンは自分自身が最大の資産なので、いわば数億円のサラリーマン債券を保有しているのと同じである。だから無鉄砲に上司と喧嘩して飛び出したり、痴漢や飲酒運転でクビになったりしてサラリーマン債券の価値を毀損してはいけないと橘さんは語る。

また新築マイホームは買ったとたんに値段が1−2割下がる非常に分が悪い不動産投資であると。

だから結論としては世界ポートフォリオに投資することだと。

橘さんの「黄金の黄金の扉を開ける賢者の海外投資術」に詳しく手法が書いてあるので今度紹介するが、MSCIコクサイ・インデックスTOPIXを85:15で組み合わせるか、信託コストを下げるならEFTでSPYとEFAを組み合わせることを勧めている。

もっとも橘さん自身は「経済学的に最も正しい」インデックスファンド投資をやっていないという。たしかにインデックスファンドでは投資の興奮は味わえないので、橘さんの言うこともわかる。

人には正しくないことをする自由もあるからだと。


みずから実践した者のみが語れる迫力があって面白い。目からウロコの投資入門書である。



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Posted by yaori at 01:57Comments(0)