2009年03月29日

脳と仮想 茂木健一郎さんの”代表作” 不思議な本だ

脳と仮想 (新潮文庫)脳と仮想 (新潮文庫)
著者:茂木 健一郎
販売元:新潮社
発売日:2007-03
おすすめ度:4.0
クチコミを見る


売れっ子脳科学者茂木健一郎さんが自身の代表作と語る本。2004年の発刊だ。

「脳を活かす仕事術」に紹介されていたので読んでみた。

哲学書の雰囲気を持つ本で、読んでいるとインスピレーションがわいてくる不思議な本だ。

筆者が茂木さんが出演するテレビ番組を見たのは、NHKのプロフェッショナル仕事の流儀と、日テレの”世界一受けたい授業”だったと思うが、そのときはたしか”ノーベル賞に一番近い脳科学者”という紹介文句だった。

その紹介が正しいのかどうかわからないが、この本は茂木さんの”代表作”といっても、脳科学書ではない。

普通、ビジネス本を読む時には、著者の意見に同感できるか、新しい知識を得られないと良い本とは思わない。

しかし、この本はそのどちらでもない。しいて言えば読者を仮想に誘って(いざなって)くれる本である。

その意味で文学書に近い。

本の帯に”島田雅彦氏、絶賛「文学的、あまりに文学的な脳科学者!彼に倣い、自分の脳を仮想で満たせば、退屈死しなくて済む。ありがたい。」という推薦の言葉が書いてあるが、まさにこの本の本質を衝いていると思う。

茂木さんの”脳を活かす”シリーズでは、目次が大変充実していて、目次だけをたどっても、大体本の内容が推測できるほどだが、この本の目次はわずかに次の通りだ。

序章 サンタクロースは存在するか

第1章 小林秀雄と心脳問題

第2章 仮想の切実さ

第3章 生きること、仮想すること

第4章 安全基地としての現実

第5章 新たな仮想の世界を探求すること

第6章 他者という仮想

第7章 思い出せない記憶

第8章 仮想の系譜

第9章 魂の問題


これでは目次を見ても何のことか、内容がわからないと思う。


筆者は茂木さんの本の愛読者だが、茂木さんの最大の問題点はテーマとしている”クオリア”という言葉を、しろうとが理解できるレベルまで説明しきれていないことだと思う。

たぶん茂木さんは”クオリア”という言葉が日常化するように、意識して繰り返し使っているのだと思うが、この本を読んでも、いまだに筆者は”クオリア”というものをちゃんと理解できたかどうか自信がない。

”人間の経験のうち、計量できないものを”クオリア”(感覚質)と呼ぶ”、”数量化できない微妙な物質の質感”

…よくわからない。

”赤い色の感覚、水の冷たさの感じ、そこはかとない不安。たおやかな予感。私たちの心の中には、数量化することのできない、微妙で切実なクオリアが満ちている。私たちの経験が様々なクオリアにみちたものとしてあるということは、この世界に関するもっとも明白な事実である”

…さらにわからなくなる。

”感覚質”というのが適切な訳なのかわからないが、こちらの方がまだイメージがわくような気がする。


”クオリア”の理解はあまり進まなかったが、仮想にいざなってくれるという意味で楽しめる本だ。



この本で取り上げられているテーマ

この本では次のようなテーマが取り上げられている。

・サンタクロースは存在するか?

・死んだ人が蛍になって戻ってくる。

・小林秀雄の講演「信ずることと考えること」

・夏目漱石の「三四郎」に出てくる広田先生の”日本より脳の中の方が広い”発言

・ワグナーの「ローエングリン」、「ニーベルングの指環」、「トリスタンとイゾル
デ」などの楽劇

・夏目漱石の「それから」の最後の代助が”門野さん、僕はちょっと職業を探して来る”と言って出て、世の中が真赤になって回転する情景。

・芸術作品による心の傷

・柳田国男の自伝に出てくる「ツバイ・キンダー・システム」(どの家も男女一人ずつの子供しかいない)の深い意味(飢餓予防のための間引き?)

・漱石が好んだという「父母未生以前の本来の面目は何か」という禅宗の公案(「門」で宗助が鎌倉の禅寺に修行に入ったときに投げかけられる公案)

門 (新潮文庫)門 (新潮文庫)
著者:夏目 漱石
販売元:新潮社
発売日:1948-11
おすすめ度:4.0
クチコミを見る


・言葉を使うということ自体が、過去の膨大な人類の体験の総体に思いをはせる行為である

・脱出マジックのイリュージョン

・デカルトの”われ思う。ゆえにわれあり”という真理。

・小津安二郎の「東京物語」

・アポロ11号のアームストロング船長の月面散歩


茂木さんが繰り返し見る夢

茂木さんが子供の頃から繰り返し見る夢があるという。

”私は、大地に立ち、上に広がる星空を見上げている。星空は普通より遙かに大きい星がきらめいて、流れと渦や、歯車もある。そんな中を巨大な汽車が銀河の横を走っていく。その全てが、心の中でものすごいリアリティで迫ってきて、私はその夢を見るといつも「うわ−っ」と叫びたくなる。”(筆者編集。原文は続きを読むに掲載)。

この文を読んでピーンと来た。実は筆者は小学校低学年まで「夜恐症」だったことを思い出した。

小学校高学年になると直ったが、寝ていると時々、視界全部に水玉模様の様なものが現れ、水玉がどんどん大きくなって真っ暗闇になり何にも見えなくなり、思わず泣き叫んでしまうということが時々あった。

気がついてみると、まわりに人が集まって、大人に抱かれていた。

そんな完全に忘れていた幼い頃の記憶までよみがえってきた。

脳科学書でも、哲学書でも、文学書でもないが、何かを感じさせる本である。

茂木さんが自分の”代表作”と呼ぶのもわかるような気がする。


是非一度読んで、不思議な読後感を味わってみることをおすすめする。


参考になれば投票ボタンをクリックしてください。







  続きを読む
Posted by yaori at 00:00Comments(0)TrackBack(0)

2009年03月10日

脳を活かす仕事術 売れっ子脳科学者茂木さんのベストセラー第2弾

脳を活かす仕事術脳を活かす仕事術
著者:茂木 健一郎
販売元:PHP研究所
発売日:2008-09-10
おすすめ度:3.5
クチコミを見る


前回紹介した「脳を活かす勉強法」の続編。超売れっ子脳科学者茂木健一郎さんの本だ。

最初に茂木さんが就職で苦労した話から始まる。東大で博士号をとったが、卒業前に就職が決まっておらず、いわゆるオーバードクターになるところだった。

自分の将来が決まらず不安だったが、ちょうど理化学研究所で脳科学研究センターを立ち上げるという話があり、タイミング良く就職が決まった。

研究論文がなかなか書けず悩んでいたところ、先輩の”一本目の論文を書いたら、世界が変わってくる”というアドバイスをもらって気持ちが楽になったという。

このような「わかっちゃいるけど、できない時、どうすればよいのか」がわかってきたという。それは脳の「感覚系学習の回路」と「運動系学習の回路」に秘密が隠されていたのだ。


この本の目次

脳を活かす仕事術は、アマゾンのなか見検索に対応しているので、目次をチェックして頂きたい。大体の内容が推測できると思う。

はじめに 卒業前に就職先が決まっていなかった大学院時代

第1章 脳の入力と出力のサイクルを回す

第2章 茂木式「脳の情報整理術」

第3章 身体を使って、脳を動かす

第4章 創造性は「経験×意欲+準備」で生まれる

第5章 出会いが、アイデアを具現化する

第6章 脳は「楽観主義」でちょうどいい

第7章 ダイナミックレンジが人生の幅を広げる

第8章 道なき場所に道を作るのが仕事である

おわりに 脳は何度でもやり直しがきく


いくつか参考になる点を紹介しておく。


●わかっているのにうまく表現できない理由

わかっているのにうまく表現できない理由は、脳の感覚系の学習回路と運動系の学習回路のバランスがとれていないからだと茂木さんは説明する。

Appleのスティーブン・ジョッブスは"Real artitists ship"と言ったが、これは本当の芸術家は製品を生み出す(出荷する)という意味だ。

仕事は「ああでもない、こうでもない」と悩んでいるだけでは、いつまでたっても形にならない。自分で考え込まずに早めに作品としてリリースすることが大切だ。

どんな名人でも脳の中の情報は一度出力してみないと善し悪しを判断できない。茂木さんがインタビューした宮崎駿監督も同じで、イメージボードに何度も何度も出力して、時には数ヶ月かけて映画の場面のイメージボードを完成させるのだ。

運動系と感覚系は脳の中で直接つながっていない。誰かにしゃべっているうちに自分の考えがまとまることがよくある。これをイギリスでは"talk through"と呼んでいる。

このように脳にインプットされた情報を書いたり、話したりして出力する。その結果、その情報が自分のものとなる。これが茂木さんの仕事の極意、”脳の入力と出力のサイクルを回す”ことだ。


●余談ながらプロクラステネーションについて

ところで、この「ああでもない、こうでもない」と悩むことを英語では"procrastination"(プロクラスティネーション)と呼ぶ。筆者が好きなブラアイン・トレーシーの一番の教えが、どうやったら"Procrastination"をなくせるかだ。

筆者が通勤途上に好んで聞いているAudibleのブライアン・トレーシーの"Sucess Matery Academy"では、仕事の生産性を上げるやり方をいくつも紹介しているが、その一つが朝一で自分のやるべきことをまずメモに書き出して、自分の頭の中身をアウトプットしてから仕事に取りかかることだ。

success mastery academy






デール・カーネギーだったか、20世紀初頭、鉄鋼王アンドリュー・カーネギーに育てられ鉄鋼メーカーの社長として成功したチャールズ・シュワブは、ある人から毎朝その日やることを5つメモに書いて、仕事に取りかかるというやり方を提案され、その人に報酬として25万ドルの小切手を送ったという。

簡単だが、すぐに試せる高率アップ策だ。


●仕事のクオリティを上げる「高性能の鏡」

単にアウトプットするだけではダメで、常に自分の作品、仕事を客観的に観察し、他人の作品を見るように良い点と悪い点を厳しく分析することが重要だと茂木さんは語る。他でも出てくる”メタ認知”だ。

ハダカの王様になってはいけない。「高性能の鏡」を持つのだと。

ミシュラン3つ星の「すきやばし次郎」の小野二郎さんも、たとえ高値で買い入れたマグロでも自分で味を確かめてお客さんに出せるレベルのものしか出さないという。

常に自分の仕事をモニタリング続けるのだ。

同様に茂木さんは、自分の代表作と考えている「脳と仮想」を他の人の作品と比べて自分にプレゼンテーションするという。

脳と仮想 (新潮文庫)脳と仮想 (新潮文庫)
著者:茂木 健一郎
販売元:新潮社
発売日:2007-03
おすすめ度:4.0
クチコミを見る



今、「脳と仮想」を読んでいるので、いずれあらすじを掲載する。


●1時間脳セットアップ法

脳のコントロールの為には話したり、書いたりして身体を動かすことが一番良い。さらに茂木さんは時間を決めて脳にタイムプレッシャーをかける仕事術を実践している。

たとえばこの仕事は1時間で終わらせると決めて、取りかかるのだ。

茂木さんは5分で原稿用紙1ページくらい書けるようにトレーニングしてるので、原稿用紙5枚程度の週刊誌のコラムだと20分で書くことにする。

すきま時間には、瞬間集中法が有効で、仕事を始めたら1秒後には仕事に集中するということを繰り返していけば、脳の集中回路が確実に鍛えられる。

頭が煮詰まったら、簡単な動作で頭を切り換えるのだと。


●脳の「引き込み現象」

脳は思いがけない新鮮な話や、相手が本気で言っていることなどには、興味・関心を持ち、いったん相手の話に引き込まれると、その状態が続いている限り集中力が持続し、さらに引き込まれるという。

たとえばソニーの出井さんは、スピーチをするときに原稿を用意することはないという。その場で「思い」をはき出すのだと。当意即妙のスピーチだから聴衆は引き込まれるのだ。

だから挨拶はそこそこにして、いきなり本題に入る方が効果的だという。

これを茂木さんは「タイガー・ジェット・シン仕事術」を呼んでいる。

プロレスラーのタイガー・ジェット・シンは、サーベルを持っていきなり場外乱闘からプロレスの試合が始まる。選手紹介も何もなしでいきなり試合が始まるのだ。


●自分の「生命の輝き」を放つための5つの行動

茂木さんは自分の「生命の輝き」*を放つためには次の5つの行動が重要だと語り、それぞれにつき1章を割り当てて説明している。

*注:筆者は初めてこの表現を聞いた。生き甲斐とか生きる価値とかいう意味だと思うが、非常にいい言葉だと思う。

・クリエイティビティ(創造性)を持っていること

・セレンディピティ(偶然の幸福と出会う力)があること

・オプティミスト(楽天家)であること

・ダイナミックレンジ(情報の受信範囲)が広いこと

・イノベーション(改革・革新)を忘れないこと


●ノイズが脳にもたらす良い効果

茂木さんが留学していたケンブリッジのパーティでは自分の研究について語ってはいけないという不文律があったという。

当初は茂木さんはこれが不満だったが、途中から研究に全く関係のない話をしていると突然インスピレーションがわいたり、新しい情報をインプットができることがわかり、納得したという。

脳は不確実性やノイズを大切にしているのだ。ずっと集中するのではなく、時にはノイズを入れて、メリハリをつけることが創造性を発揮する。


●根拠なき自信の効果

スガシカオさんは、29歳まで普通のサラリーマンをしていたが、突然プロの音楽家を目指して辞表を提出した。デビューの見通しもなかったが、「根拠のない自信があった。そうとしかいえない」と言っていたという。

茂木さんは人間が輝きを放つためには、この「根拠のない自信」が絶対に欠かせないと語る。

これを茂木さんは楽観主義と呼ぶ。人は未来を楽観的に見ることによって、前進しようとする。脳科学からいうと、ポジティブなイメージをすると扁桃体が活発化して、ドーパミンが分泌される。笑いながら仕事をすることも効果がある。


●メタ認知を活かす

自分を客観的に見られる力をメタ認知と呼ぶ。メタ認知は前頭葉のもっとも大切な働きの一つだという。

組織の中で、何か新しいビジネスを起こそうとする時に、あれやこれやネガティブな理由を挙げて、出来ないことの言い訳としていないか?

それでは前頭葉=仕事脳を鍛えることはできないので、自分でルールを変える、自分でルールをつくってしまう意気込みで取り組むべきだと。

茂木さんはマルチ人間ではないと語る。マルチとは並列したものがたくさん有る状態だが、茂木さんは専門的なことから常識的なことまで、広く知っている総合的な人間力を作りたいという。それが茂木さんの言う”ダイナミックレンジ”が広い人だ。

一芸に秀でるためには総合力が必要なのだ。


●ちゃぶ台返しと水成論・火成論

人間いろいろしがらみがあるが、しがらみに負けていてはプリンシプルが保てないので、どこかで「ちゃぶ台返し」をすることが大事だという。

巨人の星」の星一徹の「ちゃぶ台返し」だという。ちゃぶ台返しはいわば火山の爆発で、これによって地形ができたというのが火成論で、水の浸食や堆積で地形が出来たというのが水成論だ。

人生を豊かにするには、火山が爆発するような火成論的な動きと、自分の人格や世界観を培う水成論的な両方が欠かせないと茂木さんは語る。

茂木さんの名刺の裏側には、噴火する火山と、海で泳ぐ鯨のイラストが印刷してあるという。


●脳はアウェー戦で鍛えられる

アウェー戦を戦い終えたあとに感じる喜びは、大量のドーパミンが分泌されるからだ。NHKの「プロフェッショナル仕事の流儀」でも、茂木さんはゲスト出演者と事前に会うことは絶対にしないという。真剣勝負を重ねていくのだ。

これからも茂木さんはアウェーの闘いを続けていくつもりであると。

茂木さんは英語圏で勝負できる人間になりたいという。

小さい頃からずっと日本社会にとけ込めない自分を感じていたという。困難を乗り越えて、パッション(情熱と受難)をもっていろいろなことに挑戦したいと語る。

最後にオスカー・ワイルドの言葉をあげている。

"We are all in the gutter, but some of us are looking at stars"(われわれは皆、どぶにいるのだが、何人かは星を見上げている)

人間としてのより高い状態を目指すこと。そのために学習し続け、行動し続ける。それこそが「なりたい自分」になる唯一の方法なのだ。

茂木さんは学生達には、「自分の正体を簡単に決めつけるな」と言っているという。人間の脳は可塑性があり、新しい機能を獲得できるのだ。

理想に向かって実際の行動に移してみること。そのためにもがいてみることが何より大切だ。そして、そのプロセスこそが人生の中で、「生命の輝き」を放つことだと結んでいる。


軽妙なテンポながらも茂木さんの思いがこもった力作である。「脳を活かす勉強法」よりはやや長いので、2時間弱くらいは掛かるが、一気に読み通せる。

是非一度手にとって見ることをおすすめする。


参考になれば投票ボタンをクリックしてください。


  
Posted by yaori at 12:51Comments(0)TrackBack(0)

2009年03月04日

脳を活かす勉強法 売れっ子脳科学者 茂木健一郎さんの勉強法

脳を活かす勉強法脳を活かす勉強法
著者:茂木 健一郎
販売元:PHP研究所
発売日:2007-12-04
おすすめ度:3.5
クチコミを見る


テレビに頻繁に出演し、NHKでは「プロフェッショナル 仕事の流儀」というレギュラー番組まで持っている超売れっ子脳科学者茂木健一郎さんの勉強法。

この本は2007年12月に発売され、2008年の総合10位、ビジネスジャンルの1位になったベストセラーだ。2008年末の段階で76万部売れたというから、今年中には100万部を突破すると思う。

アマゾンでもいまだに301位にランクされている。

この本を読んだのは昨年の夏だが、あらすじを書きそびれている間に時間が経ってしまった。内容をだんだん忘れてきたので、今回あらすじを書いて自分の頭にもしっかりたたき込むことにする。

ベストセラーになるだけあって、大変おもしろいし、1時間程度で読めてしまうのも良い。中学生の息子にも読ませている。これを読んで発憤して勉強してくれれば良いのだが…。

茂木さんは東大出身だが、中学でも高校でも最初はトップクラスではなかったにもかかわらず、3年の時には学年トップになっていたという。

それは”勉強のしかた”がわかったからで、新しい知識を得ることがなによりの喜びと感じるようになったので、自分から進んで勉強したからだという。


この本の目次

脳を活かす勉強法はアマゾンのなか見検索に対応しているので、是非目次をチェックしてほしいが、この本の構成は次のようになっている。

はじめに 入学当初の僕は「できない子」だった

第1講 脳は「ドーパミン」と「強化学習」が好き

第2講 「タイムプレッシャー」が脳の持続力を鍛える

第3講 「瞬間集中法」で勉強を習慣化させる

第4講 茂木健一郎流「記憶術」

第5講 茂木健一郎の「読書のススメ」

第6講 脳のコンディションを把握しよう

第7講 自分を変える「一回性」に巡り会うには

第8講 偶有性がさらなる脳の発達を促す

おわりに 知の「オープンエンド」時代がやってきた


茂木さんの勉強法

最初の第1講から3講までで、茂木さんの勉強法の特徴を脳科学の見地から説明している。

問題に正解するたびに、脳には快楽を生み出す脳内物質のドーパミンが分泌される。難しい問題・課題に取り組み、それを解決することによって、問題を解く(勉強すること)が快楽となり、これを繰り返すことにより強化学習ができる。さらに自分で制限時間を決めて、脳にさらにタイムプレッシャーを与えることによって、脳の持続力を鍛える。

そして最後は茂木さんの「鶴の恩返し」勉強法だ。

勉強のスピードを上げながら、すこしづつ分量を増やし、他人が何を言っても聞こえないような没頭して勉強に集中する状態をつくり、瞬時にこの状態に入れるように訓練する。そうすると細切れの時間でも勉強できるようになる。一心不乱に機を織る鶴の姿から「鶴の恩返し」勉強法と名付けたのだという。


茂木流記憶術

茂木さんは高校(東京学芸大附属高校)時代、試験の前には教科書を全文暗記していたという。記憶は脳の大脳皮質にある側頭葉の側頭連合野に蓄えられるが、ここは五感などを司るところなので、耳で聞き、目で見て、声に出して読み、手で書き、様々なモデリティ(五感、第六感)を使って記憶に定着させるのだと。

記憶には短期記憶と長期記憶があり、長期記憶にとどめるためには、海馬(かいば)も活性化させる必要がある。

そのためには見ながら書き写してはダメで、一度原文を見て記憶してから、それを書き写し、これを何度も何度も繰り返すのだと。これが脳の記憶回路を利用して書くということだ。

横道にそれるが、このブログも茂木さんの言われる「モデリティ記憶」で書いているようなものだ。

ブログに書くと、本の内容を記憶に刻み込むことができ、他人にもすらすら説明できる。この他人に説明することが重要で、これによってさらに深く記憶に刻み込めるので、本を「読破」したことになる。

備忘録としてのブログの活用法は「ウェブ進化論」にも書かれていたので、実践している人も多いと思うが、読んだ本のまとめ・要点をブログに書いて覚えれば、理解度が飛躍的に高まること請け合いだ。

勉強する時間帯も重要で、一夜漬けではあまり効果は上がらないので、脳のゴールデンタイムである朝にすることを茂木さんは勧める。

一日の記憶の整理は「レム睡眠」(Rapid Eye Movementの略)中に行われるので、勉強したことをしっかり記憶するためには、しっかり睡眠をとる必要がある。

茂木さんは起きてからの朝の三時間が貴重な仕事の時間だと語っている。


茂木流読書のススメ

文章能力と国語力は勉強や仕事の基本で、これらを鍛えるには読書が良い。茂木さん自身、小学校3年生からSFものや探偵ものを中心に年間100〜200冊読んでいたという。

読書は脳をクールダウンさせる貴重な時間ともなる。

インターネットの普及とともに、大学が独占していた知の情報は、インターネットで公開されるようになってきている。これからは大学に行かなくともインターネットの情報収集でノーベル賞を取る人がいずれ出てくるだろうと。

日本でもインターネットやポッドキャストで、講義を公開している大学もあるが、アメリカの大学、特にインターネットビジネスのメッカ、Stanford大学の授業公開はすごい。

Podcastの検索画面で、"Stanford University"と打ち込んで検索すると、150の講義が表示され、ほとんどが無料で視聴できる。

Podcast Standford University





その気があれば、大学に行かなくとも相当高度な授業を受けられる時代なのだ。

ただし独学で自己満足していては意味がないので、本居宣長と賀茂真淵の「松坂の一夜」というエピソードを紹介している。独学で古事記を研究していた本居宣長が、賀茂真淵に出会ったことで、一生の研究の方向性を決めたという。これが「松坂の一夜」だ。

人とのかかわりを大切にしつつ、重要な情報の取捨選択を行える人がこれからの時代に輝く人だ。

茂木さんは東大理学部と法学部両方を卒業しているが、アメリカでは理系の大学を出たエンジニアでも文系の大学院や弁護士資格を目指す。日本では大学の四年間の勉強だけで、文系理系と人を区分するが、これはナンセンスな話だと茂木さんは語る。


脳のコンディションを把握

茂木さんは当初現代国語が苦手だったという。

現代国語では自分なりの解釈を展開していたが、現代国語の問題が求めていることは、オリジナルで奇抜な発想でなく、文章に即してあっさりと無機的に答えを返すことが求められているのだと気がついてからは得意科目になったという。

正しい勉強法とは実にシンプルだ。自分の欠点、弱点、ミスを直視でき、その原因を自分自身で論理的に突き止め修正できるかどうかが勝負なのだ。

茂木さんが話を聞いた完全無農薬のアイガモ農法を開発した古野隆雄さんも、アイガモを思いつくまで何度も失敗を繰り返しているという。逆境の時に何をやるか、失敗した経験を次に生かせるかで決まってくる。


自分を変える一回性に出会うには

「一回性」とはその後の人生を変えてしまう出来事を経験することだ。茂木さんはケンブリッジのトリニティカレッジに留学していた時に、貴重な経験をしたという。

トリニティカレッジでは様々な分野の教授が食事の時に集まっては活発に議論しているという。全く違った分野の教授達が自由に議論をしてくる環境をみて、こういう環境があるからノーベル賞受賞者を31人も出せるのだと悟った。

ここには「変人であることの自由」=自分の好きなことをとことん追求することが許される自由があるのだ。

たとえばアップルのスティーブン・ジョッブスも、マイクロソフトのビル・ゲイツもいわゆる変人であることで知られているという。日本では変人を平均人にしてしまおうとする周りの圧力があるが、トリニティカレッジでは正反対だったという。

ちなみに茂木さんの高校には、卒業文集に「ラテン民族における栄光の概念について」というエッセーを書いた同級生がいたと。

トリニティカレッジのような環境に身を置くことが必要なのは、人間にはミラーニューロンという1996年に発見された共感回路が備わっているからだという。

他人がある行動をしていると、自分もそのことをしていると思いこむ様な活動のことで、テレビでグルメ番組を見ていると、おなかが空いてくることもその例で、相手の感情や心を推測する力の源泉となっている。

競走馬も同じようなことが起こり、10年連続最多勝を記録している競馬のJRAの調教師藤澤和雄さんに話を聞いた時も、強い馬と弱い馬を一緒に走らせるというそれまでの競馬界のセオリーに反した調教で成功したという。弱い馬は強い馬に追いつこうとし、強い馬は燃え尽き症候群がなくなった。

藤澤さんのモットーは「一勝よりも一生、一つ勝つよりも一生続ける」というものだ。

人間も馬も良い環境に自分を置くことが重要なのだ。


偶有性がさらなる脳の発達を促す

偶有性(contingency)とは、予想できることと予想できないことが混在している状態だという。

予想できることと予想できないことが混ざっているから脳は楽しいと受け取る。

できるかできないかわからない難しいことに成功すると、喜びもひとしおとなる。たとえば難しい入学試験に受かるようなことだ。


知の「オープンエンド」の時代

茂木さんは学問の本質は、「知のオープンエンド性の楽しみを知ることだ」と考えているという。

学問はどんなに学んでも必ず次がある。終わりがない、これがオープンエンドだ。

プラントンは弟子に「オリンピック競技の勝者には賞品が与えられるのに、哲学者には賞品が与えられないのはなぜか」と聞かれ、「賞品とは、その人の業績に比較して、より価値のあるものでないと意味がない。しかし、知識を得る以上に価値があるものなど、この世には存在しない。だから、知恵を得た人には、あげるべきものがないのだ」と答えたという。

江戸時代に本居宣長の元に集まった近江商人たちが、「学問ほどの快楽はないということがよくわかりました」と語ったという話を小林秀雄さんが紹介している。

学習は脳を喜ばせるための最大の快楽なのだと。脳が思うままに教科学習の回路を暴走させろと茂木さんは結んでいる。


わかりやすく、脳科学者だけあって、記憶に残る話が満載だ。ベストセラーを続けている理由がわかる。是非一度手にとってみることをおすすめする。


参考になれば投票ボタンをクリックしてください。


  
Posted by yaori at 00:10Comments(0)TrackBack(0)