2013年10月13日

農業ビッグバンの経済学 今の農政に批判的な農水省官僚もいたんだ!

農業ビッグバンの経済学
山下 一仁
日本経済新聞出版社
2010-03-24


元農水省の官僚で、農村振興局次長にて退官、現在はキャノングローバル戦略研究所研究主幹、経済産業研究所上席研究員、東京財団上席研究員などを務める山下一仁(かずひと)さんの本。山下さんはS52卒だから、筆者とほぼ同年代だ。

このブログでは農業に関しては、改革派の月刊誌「農業経営者」副編集長・浅川芳裕さんの「日本は世界第5位の農業大国」「日本の農業が必ず復活する45の理由」を紹介している。





一方、農協を中心とする保守派のTPP反対論としては「TPPを考える」や、農林水産省のパンフレットを紹介している。



農林水産省のパンフレットを見る限り、農林水産省の官僚は「保守派」一枚岩で固まっているものと思っていたが、中には農林水産省の保守本流に反対する山下さんのような官僚がいたことを初めて知った。

山下さんはほかにも「『亡国農政』の終焉」や、「農協の大罪」などといった、刺激的な本を出している。

「亡国農政」の終焉 (ベスト新書)
山下 一仁
ベストセラーズ
2009-11-07


農協の大罪 (宝島社新書)
山下一仁
宝島社
2009-01-10



この本の目次

この本はアマゾンの「なか見!検索」に対応していないので、「なんちゃってなか見!検索」で、目次を紹介しておく。項タイトルまで書いてある優れた目次だが、項タイトルまですべて紹介すると長くなりすぎるので、重要なものだけピックアップして紹介しておく。

序章  間違いだらけの日本の農政

第1章 誰のための農業・食料政策か
  1. なぜ農業を保護するのか
  2. 忍び寄る小農主義

第2章 食料安全保障問題の本質
  1. 世界の食料・農産物市場の特殊性
    ・隔離されている国内市場と国際市場
    ・自国優先の政策が増幅する国際食料市場の不安定性
  2. 農業生産の特殊性
    ・代替不能な農地資源
  3. 我が国の食料安全保障の現状
    ・250万ヘクタールの農地が消滅
  4. 食料自給率の向上は食料安全保障にはつながらない
  5. 人口減少時代が迫る農業衰退

第3章 なぜ、農業は衰退するのか
  1. 農業生産の特徴ーBC(Bio/Chemical)過程とM(Machinery)過程
  2. 高収益農業の存在
    ・「考える企業家」としての農家
    ・契約栽培で価格変動を吸収
    ・グローバル化を利用した成功例
  3. 土地利用型農業の可能性
  4. 政策の失敗が招いた日本農業衰退
    ・構造改革を阻んだ農地法の成立
    ・ゾーニングや転用規制の不徹底
    ・農協が兼業農家を重視する理由

第4章 世界農政は価格支持から直接支払いへ
  1. 先進国の農業問題と途上国の農業問題
  2. 1980年代のアメリカ・EC農政と国際貿易の混乱
  3. ガット・ウルグアイ・ラウンド交渉
  4. さらなるEUの農政改革
    ・アジェンダ2000
    ・アメリカとのWTO農業合意に備えたさらなる改革
  5. アメリカ農政の転換
    ・1996年農業法ー不足払いから直接固定支払いへ
    ・2002年農業法ー価格変動型支払いの導入
    ・2008年農業法の内容
  6. 関税か直接支払いか
    ・関税よりも優れている直接支払い
  7. 世界農政の比較
    ・世界農政の流れから取り残される日本農政
    ・保護方法を間違えている日本農政

第5章 グローバル化に対応できない日本農政
  1. WTO交渉がもたらす困難
    ・EUの変化を読み間違えた日本
    ・交渉のコア・グループから外された日本
  2. 農業のためにFTAを結べない

第6章 農地制度の改革
  1. 国際競争力強化の手段としての技術進歩と農地のゾーニング
  2. 農地法廃止という規制の緩和とゾーニング規制の強化
  
第7章 米についての奇妙な経済学
  1. 日本の米は安いのか?
  2. 減反維持の主張のおかしな前提
  3. 構造改革効果が期待できない減反選択制
  4. 自民党が導入した直接支払い政策の経緯と内容
  5. 民主党の戸別所得補償政策
    ・国民負担をさらに重くする戸別所得補償政策
    ・米輸出の可能性を摘み取る戸別所得補償制度

第8章 直接支払いによる構造改革
  1. 規模拡大の条件
  2. 農地の転用・耕作放棄の防止と構造改革
  3. 直接支払いによる規模拡大
  4. 具体的な制度設計

第9章 農業組織の解体的改革
  1. 農政トライアングルの形成と科学的行政の後退
  2. 農協改革
  3. 農林水産省の改革

終章  真の食料安全保障の確立を目指して

以上ちょっと長くなったが、目次を見ると大体の主張がわかると思う。


山下さんの主張は農林水産省の政策とは正反対

山下さんの主張は次の通りだ。

減反を段階的に廃止して米価を下げれば、コストの高い兼業農家は耕作を中止し、農地を貸し出すようになる。そこで、一定規模以上の主業農家に直接支払いを交付し、地代支払い能力を補強すれば、農地は主業農家に集まり、規模は拡大し、コストは下がる。また、環境にやさしい農業を実現できる」。

これは長年高い農産物価格で農家の所得を維持しようとしてきた農林水産省の政策とは正反対だ。

農林水産省のこのような政策を推す進めてきた結果、次のようなウソと現実が生まれたと山下さんは語る。

農林水産省のウソ:

1.小規模の兼業農家が農業を支えている
2.農家は赤字でも米つくりに励んでいる
3.予算額を比較して日本の農業保護はアメリカやEUよりも低い
4.平均コストがアメリカや中国に及ばないので競争できない

長年ウソが続いたので起こった現実:

1.小規模農家が多く、肥料・農薬を多用して環境に悪い農業を継続している
2.食料自給率が40%なのに、米を余らせて水田面積の4割、100万ヘクタールもの減反政策を推進している
3.減反しながらミニマム・アクセス米を輸入している
4.生活様式の多様化と高米価のため、米消費は毎年減少している。

米消費量推移







出典:民主党ホームページの記事

国際農政比較や農業に関する冷静な議論は大変参考になる。

いくつか参考になった点を紹介しておく。


フードマイルの考え方は単純化しすぎている

WTOのパスカル・ラミー事務局長は、次のように語っている。

「食料生産及び出荷チェーンにおける主たるCO2の排出は生産過程で発生する。輸送における排出はわずか4%に過ぎない。殺虫剤および肥料の生産ならびに、農場および食品加工によって必要とされる燃料から生じるCO2の発生に比べると、輸送による排出は小さい。(中略)フードマイルの議論は国内食料調達政策における自給の確立に対する正当化にはならない。

ロンドンの店に出荷されたスペイン産、あるいはポルトガル産のトマトは、イギリスの温室で栽培されたトマトよりもCO2の排出が少ない。ニュージーランド産のラムはイギリス産のラムより4倍エネルギー効率が良い。これはイギリスの農民は気候上の制約のために、補完的な飼料を用いることを余儀なくされるからである。(後略)」

なるほど、その通りだと思う。


水田による二毛作は熱帯雨林を上回るO2を生産する

水田で稲と麦の二毛作を行えば、光合成によるO2の生産量は熱帯雨林に迫ると言われている。以前は6月に麦を収穫してから田植えをして、二毛作を行っていたが、最近は兼業農家が増加し、5月の連休中に田植えが行われるようになって、二毛作はほとんど行われなくなってしまった。

かつてのコメと麦の水田二毛作が、今では米単作・サラリーマン兼業という二毛作に変わっている。

これは筆者も以前から疑問に思っていた点だ。小学校の時は、北海道・東北を除く日本のほとんどの地域では二毛作が可能だとたしか習ったと思うが、いつの間にか二毛作はほとんど死語になってしまった。

最大の原因は米の減反政策と、小麦価格が米より低いことだと思う。


食料自給率ではなく、食料自給力の強化を

農林水産省は数年前から金額ベースの食料自給率も発表している。これだと65%という数字になり、農政の失敗を問われないからだと。しかし金額ベースでは、価格を上げて消費者負担を増やせば自給率が上昇するという結果となる。

山下さんは、食料自給率ではなく、農地や若い担い手を中心とした農業資源の確保を目標にすべきだと主張する。真に食料安全保障を確立するためには、農業の収益性を向上させ、農地規模の拡大や後継者確保につながるような政策を打ち出す必要がある。

毎日食べなければならない食料に関しては、一週間でも供給不足が生じると大変な事態になるという。

たとえ50年に一度という低い確率でも、その場合の悲惨さは経済面のみならず、社会的、政治的な不安や混乱を生じさせかねない。これは軍事的な紛争の場合と同じであると。

この辺の感覚が筆者とは全然違うところだ。

官僚は、食管会計で麦などを入札で買っているだけなので、ビジネス感覚がないのだろう。

筆者の長い貿易経験では、たとえ不可抗力でも、何らかの事情で売り手が一度でも供給をストップすると、買い手は二度とその売り手からは買うまいと心に誓う。

たとえば米国国内の飼料用の大豆かすの需要が増えて、ニクソン大統領が大豆輸出をストップした時、多くの買い手は米国の大豆に依存するリスクを痛感して、代替ソースの確保に注力した。

もちろんすぐに代替ソースを確保できるわけではないが、そういった着実な努力の結果、米国の大豆禁輸をきっかけに、ブラジルとアルゼンチンの大豆生産量は着実に増加して、今では2国の合計生産量は米国を上回る。

主要国大豆生産量推移









出典:FAO日本事務所長 横山光弘さんの講演資料

「やられたら倍返し」は半沢直樹の専売特許ではない。国際資源ビジネスの常識だ。

中国がレアアース禁輸を宣言してから、日本とはじめとする消費国が代替ソース確保に走ったため、ふたを開けたら中国のレアアース業界自体がひん死の重傷を負う結果となった。

日本レアアース輸入量








出典「木走日記」ブログ・レアアース関連記事

筆者はニクソンの1973年の大豆禁輸は、米国より後に訪中したにもかかわらず、米国より先に日中国交正常化を実現した日本の田中角栄総理に対するニクソンの報復もあると考えている。

アメリカの大豆禁輸が中南米での日本の援助による大豆生産を急増させる結果となった

長くなりすぎるので、この辺でやめておくが、ほかにも「農地法は日本の3大ザル法の一つ」とか、ヨーロッパの徹底した農地ゾーニング、日本の米価格は1953年までは国際価格より安かった、現在の日本の米の単収はヘリコプターで種まきしているカリフォルニアの粗放農業より3割も少ないなど参考になる情報が満載だ。

山下さんは、農林水産省や農協からは裏切り者のように見られていると思うが、冷静な議論は大変参考になる。

一度手に取ってみることをお勧めする。

参考になったら、投票ボタンをクリック願いたい。




  
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2012年07月21日

TPP亡国論 大体予想通りの内容 日本の将来像はどう考えるんだ?

TPP亡国論 (集英社新書)TPP亡国論 (集英社新書)
著者:中野 剛志
集英社(2011-03-17)
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以前紹介した小林よしのりの「反TPP論」で、参考文献の一つとして挙げられていたので読んでみた。

ゴーマニズム宣言スペシャル 反TPP論ゴーマニズム宣言スペシャル 反TPP論
著者:小林 よしのり
幻冬舎(2012-02-24)
販売元:Amazon.co.jp
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大体予想通りの内容だ。詳しくは紹介しないが、日本の最大の問題はデフレであり、1990年代バブル崩壊後の不況で、デフレを心配しなければならない状況にあったにもかかわらず、新自由主義的な構造改革を断行した。その結果デフレから脱却できずにいると中野さんは説く。

戦後の経済運営の歴史上、こんな初歩的なミスを犯した国はほかにない。だから戦後、日本以外にデフレを経験した国がないのだと。

著者の中野剛志さんは、1971年生まれの元経済産業相課長補佐で、エディンバラ大学の社会学の博士号を取っており、京都大学工学研究科助教を経て、現在は経済産業省に復帰しているという。

第1次オイルショックが1974年なので、生まれてこのかたインフレを経験したことがない人なので、わからないのだろうが、いま実効金利率が1%程度で済んでいるから、1,000兆円の国債残高でも大きな問題が生じていないのだ。

インフレとなってたとえば金利が5%になったら、利払いだけで国の財政は破たんする。

筆者がアルゼンチンに駐在していた1970年代末は、インフレ率が100%を超えている時代だった。超インフレ国のアルゼンチンに住んでいた経験がある筆者にとって、インフレは国民の財産をむしりとる国の政策だと思う。

なにせいままでの蓄えが、インフレ率100%だと1年で半減、2年で1/4になってしまうのだ。銀行に預ければ金利はつくが、インフレは下回るので、目減りすることに変わりはない。

ペソでもらった給料を、すぐにドルにしたり、金貨にしたりしていたが、それでもインフレには負ける。

日本でインフレ率100%という事態にはならないとは思うが、国民総資産1,400兆円とかいっても、5−10%くらいのインフレが起これば、数年で激しく目減りし、日本人の世界的地位も凋落を続けることだろう。

そうなるともはや挽回は不可能だ。

ところで、この本の最後は次の言葉で終わる。

「第三の開国?その前に、第一の開国が、まだ終わっていないのです。」

この意味は、日本はまだアメリカなどの陰謀から「自ら守る力」、「自立の力」を持っていないのだという。

農業問題については、反TPP論者の「食料自給率100%を目ざさない国に未来はない」と一緒に、このブログで紹介した浅川さんの「日本は世界第5の農業大国」もも紹介している。

賛否両論併記ということで、結局中野さんが何を言いたいのかよくわからない。

食料自給率100%を目ざさない国に未来はない (集英社新書)食料自給率100%を目ざさない国に未来はない (集英社新書)
著者:島崎 治道
集英社(2009-09-17)
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日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率 (講談社プラスアルファ新書)日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率 (講談社プラスアルファ新書)
著者:浅川 芳裕
講談社(2010-02-19)
販売元:Amazon.co.jp
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TPPに反対する人たちの論拠は農水省のTPPによる影響試算であることは、以前紹介した「TPPを考える」と同様だ。

TPPを考える―「開国」は日本農業と地域社会を壊滅させるTPPを考える―「開国」は日本農業と地域社会を壊滅させる
著者:石田 信隆
家の光協会(2011-02)
販売元:Amazon.co.jp
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中野さんは6月に経済産業省に復職したようだが、経済産業省の官僚としてどうやってTPP亡国論をブツのだろう?

この人は、どういう日本の将来像を持っているのだろう。ここをクリックして、目次を見ればわかるが、個別論だけで全体像がよくわからない。そんな印象を受ける本である。


参考になれば投票ボタンをクリックして頂きたい。




  
Posted by yaori at 22:39Comments(0)TrackBack(0)

2012年06月02日

日本の農業が必ず復活する45の理由 農業について物知りになれる本

日本の農業が必ず復活する45の理由日本の農業が必ず復活する45の理由
著者:浅川 芳裕
文藝春秋(2011-06-28)
販売元:Amazon.co.jp
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農業経営者向けの月刊誌「農業経営者」の副編集長の浅川芳裕さんが、農業に関する様々な疑問に答えるQ&A集。農業に関しては知っているようで知らない点が多いのに気づかされる。

農業経営者 2012年3月号(192号)農業経営者 2012年3月号(192号)
農業技術通信社(2012-03-06)
販売元:Amazon.co.jp
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農家って誰のこと?

たとえば「農家って誰のこと?」という質問だ。

誰もが農家は何か知っているが、統計だと必ずしも農家=農業ではない。10アール以上の農地を持っているか、年間15万円以上の農作物売上げがあれば、農林水産省の定義する「農家」となり、これが253万戸ある。

そのうち、年間50万円以上の売上げのある販売農家が163万戸、それ以下が自給的農家90万戸だ。販売農家のうち主に農業収入の割合が5割以上の主業農家が36万戸あり、この世帯の農家が日本の農産物の大半を生産している。

一方農地だけ持っている「土地持ち非農家」が137万戸ある。自給的農家や土地持ち非農家から農地を借り受けて耕作しているのが、3万社余りの農業法人などだ。


農家優遇策

農地がないと農家にはなれない。農家はある意味特権階級で、補助金が交付されたり、生産物は公設市場に持って行けば必ず値段がつく。農業収入が5兆円に対し、農地を転用した「転売収入」は3兆円だ。猶予制度を利用すれば、相続して20年経てば、宅地にしても相続税はゼロと優遇されている。農家が農業を積極的に辞める理由はどこにもない。


農家に生まれなければ「農業就業人口」には入らない

農水省が発表している「基幹的農業従事者」は農家の同居世帯員で、主に農業に従事している人だ。全体的には高齢化による引退により減少しているが、専業農家数は増えている。定年を期に、農家に戻って農業を始める高齢者が増えているからだ。

このようにリターン農業でおいしいコメの生産をめざす人が増えていることもあり、コメの直売率は増え続け、生産量の2割の165万トンが直売となっている。

「農業就業人口」は、販売農家の世帯員であり、「基幹的農業従事者」と時々農業を手伝う同居の主婦や学生も含んでいる。しかし、農家や農業法人に雇われている233万人の農業労働者が含まれていない。つまり1日でも農業を手伝う農家の世帯員はカウントされ、農業生産に従事していても農家に生まれなければ「農業就業人口」にはカウントされないのだ。

このような誤解を招く指標を多く使って、農業をミステリアスな分野化して、日本の土地は狭い=日本の農家は小規模=保護が必要というロジックで、国家予算を確保し、自分たちの権益維持に使っているのが日本の農林水産省である。


食料自給率の欺瞞

その最たる手口が、食料自給率だ。日本の農水省の発表する食料自給率は2種類ある。一つは1983年から用いられているカロリーベースの自給率で日本独自の指標である。世界各国の自給率もこの指標で計算されているが、計算根拠は公表されていない。

自給率





もう一つは生産額ベースの自給率で、これは世界各国の公表された統計を元にした指標である。国際交渉でコメを一粒たりとも入れないという論理を通すために国内向けに生み出されたのがカロリーベースの自給率なのだ。

エネルギー自給率のように4%では低すぎるので、4割くらいになる指標を生み出したというのが実際のところだという。これにより農水省の自給率予算は2006年の17億円から、戸別所得補償制度が始まった2010年度は8,000億円になっている。

農水省は食料危機で輸入全面停止に備える為と言っているが、日本のエネルギー自給率は4%で、このボトルネックを無視して食品だけの自給率を議論するのは空理空論であると浅川さんは語る。


取引の本質を理解していない食料危機論者

食料危機をあおる人は多いが、筆者は商社マンで原料の貿易に20年間従事していたので、この人たちは取引の本質を理解していないのではないかと思う。

穀物は商品取引所で価格が決定されるが、取引は毎年継続されてきており、何十年も続くものだ。たしかに干ばつなどの不作の年は、市況が高騰し、売り手市場になることもあるが、逆に豊作の年は市況が低迷し、買い手市場になり、穀物は長期間保存が利かないため、物理的に在庫スペースがなくなれば、投げ売りしなければならなくなる。

市況が下がり、どこにも売れないのに、在庫がどんどん積みあがるという恐怖は、市況商品の取引を経験したことにない人にはわからないだろう。

不作の年もあれば豊作の年もある。たまたま市況が高騰したからといって、長年の買い手に一切売らず、スポットで一番高い値を付ける買い手に売ったりすると、信頼関係が崩れ、需給が緩和したらその取引先には、もう買ってもらえなくなる。市況商品はいい時もあれば、悪い時もある。だから実際の取引者は短絡的な行動はとらないものだ。

もし日本の食料輸入が止まれば、世界中の食料生産者が主要売り先を失って困ることになる。食料は長期保存が利かないから、供給が止まって困るのは日本だけではない、供給者も困るのだ。

日本の食料輸入が止まるというような安全保障上の問題が起これば、たぶん中国、台湾、韓国の輸入も止まる。世界中の穀物生産国が極東アジアという最大の顧客を失い、途方に暮れることになるだろう。

第1次世界大戦中も、第2次世界大戦中も大勢が決するまでは食料の貿易は中断したことはない。それで豊かになったのが、筆者が駐在していたアルゼンチンだ。アルゼンチンは1943年まで中立を保ち、両陣営に食料を売っていた。戦時中の日本でも、アルゼンチンからの情報は中立国の情報として重宝されたのだ。

食料危機説は取引の本質を理解していない机上の空論だと思う。


経済合理性を追求するとカロリーベースの食料自給率は下がる

単価が安く国際競争力のない小麦や大豆の代わりに、日本が世界に誇れる品質の果物や野菜、牛肉を増産して輸出が増え、農家が儲かってもカロリーベースの食料自給率は下がる。果物や野菜はカロリーが低く、牛肉は飼料を輸入に頼っているので、農村の理想像を達成しても自給率は下がるのだ。


日本は世界5位の農業大国

このブログで紹介した「日本は世界5位の農業大国」の通り、FAOが発表する農業生産額では、日本は世界第5位の農業大国である。中国が一位、2位は米国、3位がインド、4位ブラジルで、いわゆる農業大国のオーストラリアは16位、アルゼンチンは36位となっており、日本第一位の北海道の農業生産額の方が多くなっている。

日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率 (講談社プラスアルファ新書)日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率 (講談社プラスアルファ新書)
著者:浅川 芳裕
講談社(2010-02-19)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

日本は農業生産に最適の風土

日本は南北に長く、四季がはっきりしていて雨が多いので、農業に最適で、品種改良も盛んで技術力の裏付けもある。さらに肥料や育成技術で糖度や酸味などの食味まで管理して、販売価格を上げるという技は海外の農家から見れば異次元の世界である。購買力のある日本国民の好む農産物を生産してきた日本農業の努力の賜といえるのが世界第五位というランクなのである。

たとえば世界にはイチゴは600品種が登録されているが、そのうち日本だけで1/3を保有している。センサーによる糖度管理や、物流の鮮度保持技術などの周辺技術の高さも日本の特長である。スーパーで多くのイチゴの品種が陳列されているのも、日本独自のものである。


アメリカの大豆生産はヘンリー・フォードが促進

アメリカの大豆生産は人類の完全食の実現を目指すヘンリー・フォードがエジソン研究所で世界中の作物を調べた結果、大豆が最適という結論から1920年代から生産を促進したものだ。

当時アメリカの大豆生産は少なく、日本は50万トンの大豆生産があったが、フォードの音頭取りで大豆油を使って工場を創業する他、車のシート材にも大豆繊維を使い、今では日本の20万トンに対し、米国7000万トンと圧倒的な差が付いている。

単位当たり収穫量も米国のヘクタール当たり3トンに比べ、日本は1.5トンで、2トンの中国にも追い抜かれ、日本が大豆生産を教えたブラジルは3トン近くなっている。

米国の農家は醤油・味噌・豆腐・納豆と用途別に作り分けられるのに対して、日本は虫がついていないか、汚れがないかという外観検査だけで等級が決まり、この面でも日本は大豆生産後進国である。


戸別所得補償制度

戸別所得補償はすでにコメの生産を辞めている減反地で、単価の安い麦や大豆の生産や飼料用や米粉用の米をつくれば、最大の所得補償金がもらえることになる。

2012050514080000











出典:農水省パンフレット

そのため補償金目当ての不採算作物の生産が増え、その埋め合わせに税金が使われることになる。さらに所得補償制度のために、意欲のある専業農家に貸していた農地の返却を土地持ち農家が迫り、農地の”貸しはがし”が起こっている。

民主党がこの政策を続けるねらいは、農業を弱体化させ、食料不安をいだく国民の農政に対する期待を高め、農家・非農家ともに政治に頼ってこさせることにあると浅川さんは言う。

農業生産技術についても注目すべき動きがある。


世界的な直播(じかまき)の増加

日本の田植機が普及し始めた1960年代に、ヨーロッパでは田植えは完全廃止されたという。直播(じかまき)はアジアでは15%にも広がっているが、日本では秋田県大潟村などを除いては1.2%の普及率に留まっている。

田植機は田植え作業自体を効率化したが、機械が高価な上に田植えしかできないし、種もみから田植えの前の苗床での育苗など、一連の準備作業はそのままだ。直播きは準備作業もなくすことができる技術革新である。


TPPは大平首相の環太平洋連帯構想がそもそもの発端

1979年の大平首相の環太平洋連帯構想が、オーストラリアに引き継がれ、APECとなり、1995年のAPEC大阪行動指針をさらに具体化したものがTPPであるという指摘も新鮮である。ちなみに農水省は大平首相のビジョン構想当時蚊帳の外に置かれたとして今でも恨んでいるという話があるという。

TPPのメリットとしては、日本が競争力のある野菜、花卉(かき)、果物は輸出しやすくなる。外国人の受け入れが容易になれば、農業労働者不足が解消できるというものがある。

小麦の輸入関税は252%だが、無税の国家輸入枠があり、農水省が差益をエンジョイしてきた。大麦の輸入関税も256%だが、これが無税となれば畜産業界の飼料コストが下がる。

過去輸入解禁に農水省の指導の元に減産・国内果汁工場の設備を廃棄したミカン産業は、国産がピークの300万トンから100万トン以下に減少した。一方アメリカンチェリー解禁に増産で対抗したさくらんぼ業界は、旬の長期化により消費が拡大し、国産もメリットを享受した。


アメリカのコメは長粒種が中心

アメリカは1000万トンのコメの生産量があるが、ジャポニカ米の短粒種の生産は30万トンのみだ。食味的に許容できる中粒米でも輸出量は80万トン。そのうち35万トンを日本政府がミニマムアクセス米として輸入している。

世界的に需要が大きい長粒種であれば、タイやインドネシアなどの不作によりコメの国際相場は一挙に上昇するので、数年に一度は大もうけ出来る可能性がある。

しかし日本市場向けの短粒種は、生産量のわずか3%で、現在生産しているカリフォルニアなどの生産者を除いては、手間が掛かる上に生産経験がないので短粒米に転換するメリットがないのだ。


トウモロコシは最強の作物

トウモロコシはC4作物といって、他のC3作物より効率よく二酸化炭素を固定できる。単位面積当たりの収穫量も1ヘクタール当たり、小麦の3トンに比べて11トンと桁違いで、飼料用に使える茎や葉を含めると18トンの収穫が可能な最強の農作物だ。

天候変動・渇水にも強い。成分もたんぱく質、脂質、糖質をバランス良く含んでいるので家畜を飼育する上でも最高の作物だ。飼料に使われる他、甘味料、マーガリンなどのコーン油にも使われている。茎、葉などのセルロースを使えるようになれば、バイオ燃料生産も拡大が期待される。

唯一トウモロコシに勝てる作物はススキだという。同じC4作物で、トウモロコシより繁殖力が強く、多年草で、面積当たりのバイオマス収穫量はトウモロコシの3倍だが、残念ながら効率よく糖・アルコールに転換する技術は開発されていない。


カロリー確保ならイモ

同じ10アールで生産できる量は、米なら600キロだが、イモなら5トンで作物の中で最も多くのカロリーを供給できる。イモは食べるまで面倒な手間が掛からない。戦中・戦後に家の庭などでイモを生産していたのは、国民のカロリー確保という意味では至極妥当なことだったのだ。

ちなみにフレンチフライやポテトチップスの大成功は、大豆油革命で高品質の油が大量に出回るようになったからだという。


灌漑は世界の9%のみ

世界の灌漑比率は9%しかなく、灌漑地の7割は水田の多いアジアに集中している。

オーストラリアや南米では灌漑はほとんど行われておらず、オーストラリアの単位収穫量は世界でも100位程度に留まっている。広い面積の農地で手間を掛けずに生産するやり方を選んでいるのだ。


砂漠農業

日本の年間鉱量1700ミリに対してドバイは年間60ミリ。そんなドバイの砂漠での養液農業によるイチゴ栽培の話も参考になる。

砂漠での昼夜の寒暖差は果実には最適だ。植物は凍結しないように水分を下げて、糖度を上げる。植物が身を守るための生理現象によって、甘みが強い果実ができるのだ。

砂漠は日射量が多く、害虫と雑草がないので無農薬農業が可能だ。野外で養液栽培をやっているので、ハウスも必要ない。イスラエルやエジプトからヨーロッパに無農薬野菜が大量に輸出されているという。

最後に日本の農家の海外進出の例が紹介されている。千葉の和郷園はタイでマンゴーとバナナを生産している。

日本の種苗メーカーのサカタのタネとタキイ種苗は世界第8位と第10位で、日本の種苗業界は世界第3位だ。世界第一位の種苗メーカーはモンサント、2位デュポン、3位シンジェンタ(スイス)という順だという。農業機械業界や農薬業界も世界第3位なのだ。

アスパラは多年草で、一度株が育つと何年も収穫ができるとか、中国には世界的な農業生産基準であるGAP認定農場数が日本の倍あり、面積では日本の15倍とか、遺伝子組み換え作物は農産物で唯一安全性が公認されている食品とかいった情報も参考になる。

45の例を見てくると、土地が狭くとも日本農業は競争力があるのがわかる。別に市況商品の小麦や大豆で世界と競争する必要はないのだ。国民が高いお金を払ってくれる付加価値の高い甘い果実やおいしくて安全な野菜で勝負すれば良いのだ。

知っているようで知らない農業に関する基本的な知識を得るために最適の本である。


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2012年04月30日

TPPを考える 農協(JA)グループのTPP反対論の根拠は?

TPPを考える―「開国」は日本農業と地域社会を壊滅させるTPPを考える―「開国」は日本農業と地域社会を壊滅させる
著者:石田 信隆
家の光協会(2011-02)
販売元:Amazon.co.jp
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農協(JA)グループの出版・文化事業を担当する「家の光協会」が発行するTPP反対論。農林中金出身で、現在は農林中金総合研究所理事の石田信隆さんの本だ。

「家の光協会」のビルは別件で訪問したことがある。てっきり宗教団体だと思っていたが、農協の宣伝部門だった。

”1時間でよくわかる”という枕詞がついている60ページほどの小冊子だ。「『開国』は日本農業と地域社会を壊滅させる」というサブタイトルがついている。

この本で挙げられている論点は、次に紹介する浅川芳裕さんの「日本の農業が必ず復活する45の理由」や、「TPPで日本は世界一の農業国になる」でボコボコにされている農林水産省の論点そのままだ。

日本の農業が必ず復活する45の理由日本の農業が必ず復活する45の理由
著者:浅川 芳裕
文藝春秋(2011-06-28)
販売元:Amazon.co.jp
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TPPで日本は世界一の農業大国になるTPPで日本は世界一の農業大国になる
著者:浅川 芳裕
ベストセラーズ(2012-03-16)
販売元:Amazon.co.jp
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JAグループがTPPに反対する理由の最大のものは、TPPで関税が撤廃され、安い外国産農産物が日本に大量に輸入されると、日本の農業生産は壊滅的な打撃を受けるからというもので、農林水産省のTPP影響評価の数字をそのまま使っている。

TPP影響資産





コメ生産は一部の銘柄米のみに9割減少し、農林水産業全体で4兆5千億円も生産が減少する。

結果として食糧自給率(カロリーベース)は現在の40%から13%に激減する。

そうすると、いままで水田稲作や林業に頼っていた日本の治水インフラも大打撃を受け、”農業の多面的機能の損失額”は3兆7千億円にも達し、あわせたGDP減少額は8兆4千億円にも上るという農水省の試算をもとにした議論だ。

この農林水産省によるずさん極まりないTPPダメージ試算と、筆者のコメントは次の通りだ:

★コメの生産は9割減少し、約2兆円減少する。

農水省資料_ページ_04





⇒ちょっと待て。平成22年度のコメの生産額は1兆5千億円だ。日本のコメ生産がすべてなくなっても2兆円も減少しないぞ。

★牛肉の生産が4千5百億円減少

農水省資料_ページ_08






⇒ちょっと待て。平成22年度の肉用牛の生産額は4千6百億円だ。日本の牛肉生産がすべてなくなるのか?

★乳製品の生産が4千5百億円減少

農水省資料_ページ_07






⇒ちょっと待て。平成22年度の生乳の生産額は6千7百億円だ。牛乳のように毎日新鮮なものを輸送し、長期間の輸送には適さないものがなぜ1/3の規模に減少するんだ?

★砂糖の国内生産はゼロになる(他にもいくつも国内生産がゼロとなる品目がある)

農水省資料_ページ_06






⇒ちょっと待て。政府が農家を保護するやりかたは関税だけではない。TPPは農業の輸出補助金は禁じているが、農業に対する様々な政府援助を禁じているわけではない。

水産物ではひじきの国内生産がゼロになるという。わかめは93%減、昆布は70%減だ。日本人が日本の豊富な海藻を食べずに、70〜100%外国産の海藻に切り替えるのか?日本人がすこしくらいの価格差で、東北の被災地や北海道の漁民を見捨てるのか?

水産林業影響











農業協同組合新聞(JACOM)がホームページで図解しているので、ここをクリックして参照してほしい。

日本の農林水産業は関税に守られないと国際競争力がないと言いたいのだろうが、全く現実味のない前提を持ち出して、こんなずさんな試算を平気で出してくる農林水産省の存在意義はもはや無いのではないかという気がしてくる。

農林水産省試算を錦の御旗にしているこの本の信頼性も、推して知るべしではあるが、ともかく印象に残点を箇条書きで紹介しておく。

★日本はすでに十分に開かれた国で、いまさら「開国」は不要
日本の平均税率は2009年で全商品が4.9%、農産品が21%。

非農産物の関税は日本が一番低く、農産物の関税がEU,アメリカより高いので、全品目では米<日本<EUの順である。

★日本の農業保護の水準が高いのは、耕地面積が狭いなどのハンディキャップが高いため。

★アメリカ主導でTPP参加するということは、アメリカの巨額の農業補助金をそのままにして、日本の関税だけ撤廃するもので「不平等条約」だ。WTOのルールはアメリカやEUの主導でつくられたもので、それに日本が乗っていると、どんなルールの不利益変更に見舞われるかもしれない。

★農業の多面的機能が失われる。

食と農のあした3_ページ_1






貨幣的価値を見積もると、農業の多面的機能の喪失額は年間3兆7千億円だという。

食と農のあした3_ページ_3






★農産物輸出でも、加工品輸出が中心となるので、たとえ農産物輸出が1兆円を突破しても、農産物の輸出はせいぜい1千5百億円程度。農業生産額の2%にも満たない。

★「TPPに乗り遅れるな」というような性急な姿勢でTPP交渉に参加することは、看護師資格や弁護士資格などの広い範囲の交渉に安易に妥協して、国の形が取り返しがつかないほど変わってしまう恐れがある。

★アメリカはWTOで拒否された投資、競争政策、政府調達分野などをTPPで実現しようとしている。

結論として、「平成の開国」は不要。今必要なのは、行き過ぎた自由化によってあまりにも低い水準となった食料自給率を回復させるための「不平等条約」の改正なのだと。

JAグループの主張は、「いまこそTPPに対抗する多様な協同の輪を」といいうことで、次の2点を提言している。

1.地域を大切にし地域というまとまりのなかで、そこにある自然・資源・人が結びつきながら、1+1が2ではなく3になるような、よい相互作用を生み出すこと。

2.日本もその一員であるアジアを重視した戦略をとること。

なにを言いたいのかわからないが、TPP反対連合をつくろうと呼びかけていることだけはわかる。

2012年は「国際協同組合年」だそうだが、これは協同組合がもたらす社会経済的発展への貢献が認められたものだという。


筆者の考察(ご参考)

次はあらすじでなく、筆者の意見である。

いままでいくつか農業や食料に関する本を読んできたが、この本も含めて食料自給率の低さを問題とする本は、カロリーベースの食料自給率しか根拠として示していない。

ところが、カロリーベースの食料自給率を編み出した本家本元の農林水産省でさえ、計算根拠を明らかにしていないカロリーべースと、国際統計から計算できる生産額ベースの自給率の両方を発表している。

自給率






しかも上記グラフの示す通り、生産額ベースの自給率は近年上昇しており、農水省が2030年の目標としている自給率70%を、ほぼ達成しているのだ。

農家も収入を増やすべく必死に努力しているのだから、コメや麦など価格の安いものより、カロリーは低いが価格が高い野菜や果物などの作物にシフトするのは当たり前だろう。

農水省もその辺がわかっているから、カロリーベースと生産額ベースの自給率を両方発表しているのだろう。

日本の産業は常に新陳代謝を繰り返し、たとえ一時は国際競争力があった産業でも、国際競争力を失えば、どんどん縮小あるいは高付加価値生産に切り替えて体質を変えてきた。

たとえば石炭産業は、現在では日本国内ではほとんどなくなったが、昭和20年代までは黒いダイヤといわれて、基幹産業の一つだった。基幹産業でも競争力がなくなれば、変わらざるを得ない。

繊維産業は昭和40〜50年代は、日米貿易摩擦を引き起こしたほど競争力のある業界だった。当時は、輸入の衣料などブランド品を除いて皆無だったが、今や日本製の衣料を見つけるのが難しくなってきているほどだ。

繊維業界は海外メーカーを技術指導して現地生産に切り替え、自分で体質を変えてきたのだ。

農業も同じで、農家は自分で体質を変えてきている。一般的には農業従事者は毎年減少して、しかも65歳以上の高齢者の割合はどんどん上昇していると言われている。

農業従事者_ページ_2










しかし上記の「基幹的農業従事者」には、「農家」でない人、つまり、農家や農業法人に雇われている従業員は含まれていない。その数は定期雇用と臨時雇用を含めて233万人と上記の「基幹的農業従事者」と同じ数だけいる。農家は減っているが、農家に雇われる人は増えているのだ。これは浅川さんの「日本の農業が必ず復活する45の理由」で説明されている。

浅川さんの「日本は世界5位の農業大国」のあらすじで紹介した通り、日本の農業生産額は世界第5位だ。

日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率 (講談社プラスアルファ新書)日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率 (講談社プラスアルファ新書)
著者:浅川 芳裕
講談社(2010-02-19)
販売元:Amazon.co.jp
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牛肉、オレンジで見せた様に、日本の農業は決して弱者ではない。むしろTPPで自由化されたら、アジアの高所得層向けに輸出できることを心待ちにしている農家も多いはずだ。

この「TPPを考える」では農協のTPP反対論は伝わってくるが、農家の声はゼロである。この本が農家向けの教宣本だからかもしれないが、農協が農家から遊離した組織であることを物語っているような本である。


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2012年04月22日

私たちがつくる食と農のあした 農水省がつくった子供向けパンフレット

これから何回か農業に関する本を取り上げていくので、その前に2010年3月に民主党政権下で閣議決定された、現在の国策である「食料・農業・農村基本計画」について農林水産省が子ども向けにつくったパンフレットで問題点を整理しておく。

次が「私たちがつくる食と農のあした」という農林水産省がつくった子ども向けパンフレットの表紙だ。農林水産省のホームページでも何部かに分けてダウンロードできる

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目次は次のようになっている。全部で50ページのマンガ入りのパンフレットで、全国の図書館には必ず置いていると思うので、最寄りの図書館の「産業:農業」コーナーをチェックしてみて欲しい。たぶん全国の小学校にも配布されたのだと思う。

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いま、食に起こっていることとして、あまり食とは関係のないような生活習慣病の増加も指摘されており、さらに朝ごはんを食べない若者の比率が3割にも上ることが指摘されている。

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日本の農業を取り巻く問題点についてもわかりやすく整理されている。

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日本の農業・農村の再生のために、2020年に食料自給率5割(カロリーベース)をめざし、次のような政策を打ち出している。

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この政策が実現すると、2020年には小麦、飼料用作物(コメ)、大豆の国際生産が飛躍的に拡大し、朝食を食べる人が増えて、コメの消費も増加するという将来像を打ち出している。

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食品自給率が5割を超えると、何が変わるのかを示したのがこの図だ。国産小麦と食用大豆の国産品が増える比率が大幅にアップする他は、あまり目立った変化は内容に思える。

油の摂りすぎの抑制というのは、たぶん輸入大豆の多くは、食用油生産用に使われることから、輸入の大豆が減る効果という意味なのだろうが、なぜ食料自給率がアップする効果として挙げられているのかよくわからない。あるいは逆に油の摂りすぎを抑制して、輸入大豆を減らそうということなのかもしれない。

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食品自給率については、日本の農林水産省が創り出した独自の「カロリーベースの自給率」という指標をつかって、各国の食料自給率を比較し、主要国では日本が最低の食料自給率であることを示している。

「国内の農地を有効利用しないで、大量輸入して大量に捨てるなんて、国際的にも許されない状況になってきているのだよ」というコメントがついている。

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農林水産省は、公式の発表の際には、農水省がつくっていながら計算根拠も公表せず、日本しか使っていないカロリーベースの自給率と、公表されている統計から計算した生産金額ベースの自給率を両方発表するが、この子ども向けの本では、カロリーベースしか記載していない。

たぶん生産金額ベースでは自給率が69%となり、インパクトがなく、予算も取れないからだろう。うがった見方をすれば、子どもが小さいうちから、日本独自のカロリーベースの自給率の低さを刷り込もうとしているように思える。

自給率
















肝心の、「なぜ自給率を上げないといけないのか」については、次の様に説明しているが、要は「我が国の輸入食料の確保が厳しくなる可能性」しか理由として挙げていない。

バーチャルウォーターや二酸化炭素排出量なども付け加えて、「地球のために」とか「日本はたくさんの国に助けてもらっているのね」とかコメントを入れているが、なぜ自給率を上げなければならないのかの、理由になっていない。

日本は石油・石炭などのエネルギー、そして鉄鉱石や銅などの非鉄地金、レアアースなど産業用原料も、ほとんど100%海外に依存している。

堺屋太一さんが通産省の官僚だった時に書いた「油断」で描かれていたように、石油がなければ農業機械も温室もビニールハウスも使えず、日本の農業生産は成り立たない状況にあるのに、なぜ無理矢理食料自給率だけ上げなければならないのかがわからない。

油断! (日経ビジネス人文庫)油断! (日経ビジネス人文庫)
著者:堺屋 太一
日本経済新聞社(2005-12)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

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「食料輸出国もいざという時は自国民を優先」という説明をして、過去輸出規制を実施したことがある国をピックアップしているが、日本の主要な輸入先であるアメリカとオーストラリアはこれに入っていない(もっともアメリカはニクソン大統領の時に、大豆の輸出規制をした前科はある)。

またこのリストは輸出規制を実施した国ということで、輸出税を賦課した国も含まれているが、たとえば筆者が駐在した1980年ころのアルゼンチンは、自国内では到底消費できない量の小麦を生産していたが、税金を取る一つの財源として小麦に輸出税を掛けていたのであり、自国民を優先していたということではない。

輸出規制国






















「食料需給は逼迫し、食料価格は高止まり」というページでは、穀物相場は一本調子で上昇するような予測を建てている。

価格予想























実際の穀物市況は、乱高下している。傾向的にはたしかに昔の低い価格レベルとは違う水準となっているが、需給が逼迫しているわけではなく、世界の貿易額は大幅に拡大している。

農業がこれだけ巨大な貿易産業になると、将来日本が他の国に「買い負ける」ということはありえても、金を出しても買えないという事態になることは到底考えられない。

というのは農業は一度限りの商売ではない。毎年ほぼ自動的に一定量の生産物を売らなければならないので、たとえある年が不作で、相場が高騰しても、輸出には一切回さないなどという、売り手と買い手の信頼関係を根底から壊すようなことは生産者はやらないからだ。

穀物市況


















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出典:農林水産省 平成22年度食料・農業・農村白書

農業の多角的機能としては、洪水を防ぎ暮らしを守るとか、土砂崩れを防ぐとか、安らぎをもたらすといったものが挙げられている。これらを金額で評価すると、年間約6兆円の効果があると、日本学術会議が評価したという。

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食料自給率をカロリーベースでしか記載しておらず、しかもその基準が日本のみでしか使われていないことを一切説明していないので、40%という食料自給率のみが独り歩きして、子どもに誤解を与えるような内容だが、農林水産省の主張がよくわかるという面では役立つ資料だ。


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2010年06月25日

日本は世界5位の農業大国 ベストセラーとなった農業の現状分析

日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率 (講談社プラスアルファ新書)日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率 (講談社プラスアルファ新書)
著者:浅川 芳裕
販売元:講談社
発売日:2010-02-19
おすすめ度:4.5
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月刊「農業経営者」副編集長の浅川芳裕さんの日本の農業の現状分析。

農業経営者 2010年5月号(171号)農業経営者 2010年5月号(171号)
販売元:農業技術通信社
発売日:2010-04-01
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別の本に紹介されていたので図書館で借りて読んでみたが、気がついたらアマゾンでなんと売上100位前後に入っているベストセラーだった。筆者が今年になって読んでから買った数少ない本の一つだ。アマゾンの新書売り上げNo. 1で、ホリエモンが絶賛していると本の帯に書いてあった。

この本を読んで日本の農業政策について、政府もマスコミも信用できず、何を信用したらよいのかわからなくなった。

比較検証のために、「食品自給のなぜ」という農水省の食料安全保障課長が書いた本と、法政大学講師の書いた「食料自給率100%を目ざさない国に未来はない」も読んでみたので、それからの情報も織り込んであらすじを紹介する。

食料自給率のなぜ (扶桑社新書)食料自給率のなぜ (扶桑社新書)
著者:末松 広行
販売元:扶桑社
発売日:2008-11-27
おすすめ度:4.0
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食料自給率100%を目ざさない国に未来はない (集英社新書)食料自給率100%を目ざさない国に未来はない (集英社新書)
著者:島崎 治道
販売元:集英社
発売日:2009-09-17
おすすめ度:4.0
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国産農産物愛用キャンペーン

日本政府、農水省、そしてマスコミは「農家弱者論。国産農業危機論」で凝り固まり、石川遼などをつかったテレビCMで国産食品愛用を訴えている。



この広告は農水省が金を出し、電通の中に「食料自給率向上に向けた国民運動推進本部」を置いて有名タレントを使って広告を作っている。食品自給率向上のための農水省の予算は2008年度は166億円で、前年度の65億円から2.5倍になった。

しかし、この本を読んで、日本の食品自給率が41%で、世界の主要国で最低だと言うのが、そもそも恣意的な数字ではないかという疑問が起こった。

次が日本のカロリーベースの食品自給率の推移だ。

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そして次が世界主要国の食品自給率の比較だ。

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出典:いずれも日本国内食品自給率ホームページ

農水省のホームページには「食料自給率の部屋」というセクションがあり、食品自給率アップが農水省の政策の目玉になっていることがわかる。

食品自給率アップについては、自民党や民主党も同じトーンでマニフェストで訴えているし、メディアもこの食品自給率を鵜呑みにしている。

ところがどっこい、この食品自給率の「カロリーベース」というのが、くせものなのだ。


日本独自のカロリーベースの自給率

カロリーベースの自給率とは次の数式だ。

(一人一日あたり国産供給カロリー)÷(一人一日あたり供給カロリー) 

しかしこの内訳は:

{(国産+輸出)供給カロリー}÷人口/{(国産+輸入ー輸出)供給カロリー}÷人口

なのだ。つまり分母は日本全体の供給量なので、当然大量に発生する食べ残し、消費期限切れの廃棄食品も含まれている。

ためしに数字を見ると、2008年は

1012キロカロリー ÷ 2473キロカロリー = 40%

筆者は消費カロリーも計れる体重計を持っているが、筆者の消費カロリーは大体1,850前後、つまり上記の分母は筆者の消費カロリーの1.5倍の数字なのだ。

実際の国民一人当たりの消費エネルギーを1,850キロカロリーとすると(分母)、分子をいじらなくても自給率は一挙に56%にあがる。つまりカロリーベースの自給率を上げるには食べ残しや賞味期限切れを減らすことが有効なのだ、

さらに分子の国内供給カロリーには、農家の自家消費や親戚・近所への提供は含まれていない。日本の農家のほとんどは兼業農家で、もっぱら自家消費用に野菜やコメなどをつくっているが、これはカウントされていないのだ。


カロリーベースだと自給率が低くなる要因

農家が米を生産調整でやめて、野菜や果実に切り替えると、売上は増えて供給金額は増える。ろころが、野菜はカロリーゼロに近く、果実の生産量は少ないので、国産供給エネルギーとしては大幅に減少する。

国のコメ減反政策に従って、農業経営者にとって合理的な産品の切り替えをやると、生産金額ベースの自給率は上がるが、カロリーベースの自給率は下がるのだ。

こういった分母を大きくして、分子を小さく抑える工夫があるのが、カロリーベースという日本と韓国でしか採用されていない自給率だ。他の国では、穀物輸入比率という指標はあるが、カロリーベースの自給率という比較はない。農水省の役人がせっせとFAOなどの統計を元に各国の自給率を計算しているのだという。

また肉、鶏卵、酪農品はエサを輸入に頼っていると、たとえ国産の産品でも国産から除外される。畜産品の自給率は金額ベースだと70%だが、農水省によるカロリーベースだと17%で、これが全体にも響いてくる。

たとえば石川遼がテレビCMで宣伝していた”卵かけご飯”。卵は当然100%国産と思ったら大間違い。カロリーベースの自給率では卵は10%と低くなる。鳥のえさはほとんどが輸入だからだ。

この卵の自給率については農水省の課長の「食品自給率のなぞ」にも書いてある。じゃあなぜ卵かけご飯を国産食品としてCMで宣伝するのかよくわからないところだ。

たとえ輸入のエサを使っていても、肉や酪農品は国産であることは間違いない。たしかに飼料の輸入が完全にストップしたら、生産に支障をきたすかもしれないが、それは日本でけではない。

昔と異なり農産物の貿易市場が巨大化している現在では、世界各国が自国の強い産品を生産し、自国が弱いものは輸入している。農産物の貿易が止まるという「戦時体制」を前提とした食糧自給率に何の意味があるのかと思う。


生産額ベースの食品自給率だと66%

こういった問題点があるので、生産額ベースの総合食品自給率を使えという声も有識者の間に強いという。もし生産額ベースの自給率を割り出すと、日本の食品自給率は66%になる。

要は数字のマジックなのだ。農水省が自分達の政策を通すために、都合の良い数字と計算式を作り上げている自作自演の食品自給率キャンペーンなのだ。

その証拠に、もともと自給率は1965年から生産額ベースで発表されていたが、1983年からカロリーベースでも発表され、1995年からはカロリーベースで最近まで統一されてきた。発表する数字のベースを意図的に変えていたのだという。

農水省の課長の本でも、食品自給率はカロリーベースと生産額ベースの両方が一つのグラフで示されているが、生産額ベースの自給率を使わない理由の説明はない。

日本の小学生の教科書でも自給率を高めてきたと紹介されている英国は、カロリーベースで農水省が計算すると着実に食品自給率を向上させてきているが、生産額ベースでは日本の自給率を下回るという。

気候の厳しい英国では日本の様に高価格の野菜とかは生産できない。

穀物の自給率は高いので、カロリーベースでは高くなるが、生産額ベースでは自給率は1991年の75%から2007年には60%と15%も下落して、日本を下回っていると浅川さんは指摘する。


日本は世界第5位の農業大国

この本のタイトルにあるとおり、FAOの統計から割り出すと一位の中国、それから順にアメリカ、インド、ブラジルと続き、日本の農業生産は約8兆円で、世界第5位となる。そして農家の所得は世界第6位だ。

「日本農業は弱い」なんて誰が言った?と著者の浅川さんは語る。

「農業はきつい仕事のわりに儲からない。だから、もっと農家を保護しないと日本人の食料は大変なことになる」という主張は、農水省がつくりだしたもので、その目的は農水省の省益、天下り先の確保であると浅川さんは指摘する。

ある農水省の幹部は、「自給率政策がなければ俺たちが食っていけなくなる」とまで語っているという。

浅川さんは政治家に会うと、必ず日本の農業生産規模が世界第何位か聞くことにしているという。大体50ー80位という答えが多く、正確に答えられる政治家はいなかったという。

多くの政治家が農水省の宣伝を鵜呑みにして、日本農業の強さを認識していないのだ。


日本の農家は兼業農家が圧倒的多数

民主党の戸別所得補償政策の対象の農家はコメで180万戸、そのうち100万戸は、1ヘクタール未満で、農業所得は数万円からマイナス10万円程度。これでは食べていけないとして、1ヘクタール当たり95万円が補償される。

しかしこれら100万戸の平均所得は500万円で、彼らのほとんどは役所や農協など一般企業につとめるサラリーマンの週末農業で、「疑似農家」なのだと。

「スケールの大きな家庭菜園がついた一戸建て住宅に住む、日本でもっとも贅沢な階層」と言っても良いと浅川さんは語る。

もっぱら生産コストの高いコメや野菜をつくり、自家消費や近所・親戚に配っている。

日本の農業従事者の数は1960年の1,200万人から現在は200万人以下に減っているが、一人当たりの生産量は5トン以下から25トンに増えている。

農業従事者推移













出典:本書117ページ

兼業農家は農薬の知識もないので、やたら農薬をばらまき環境に悪影響がある。規模が小さいのに機械も導入するので、日本のコンバインの保有数は97万台で、米国の41万台、中国の40万台に倍以上の差をつけた圧倒的世界一位だという。


民主党の戸別所得補償制度は間違い

民主党内閣が打ち出している「戸別所得補償制度」は、2011年度から1兆4千億円を使って、日本の農業を赤字まみれのダメ農家で埋め尽くそうとしていると浅川さんは切り捨てる。

民主党の計算では、1ヘクタールで最大95万円が補償される。これなら単に農地だけ持って、形だけ農業するふりをした方が良い。年に1−2週間しか農作業に従事しない疑似農家を助ける制度なのだと。

そして所得補償の対象となるコメは1兆8千億円、小麦は300億円、大豆は240億円しか生産規模がない。

日本全体の農業生産は8兆円で、野菜が2兆3千億円、果樹が8千億円、花卉(かき)が4,000億円だ。

民主党は、EUは直接所得補償のおかげで自給率を向上できたというが、小麦に対するEUの補助金は1ヘクタール当たり5万円程度だ。

ところが民主党案は、日本で1ヘクタールで小麦をつくるとそのコストが60万円、小麦の販売価格が6万円だから、差額54万円を全額補填するというもので、実にEUの補助金の10倍以上の法外なのものだ。

「食品自給率のなぞ」で農水省の課長も認める通り、そもそも国産小麦は品質が悪く、安くしか売れないという。

また輸入とはいえオーストラリアの小麦は日本のラーメン、うどん向けにつくった品種で、日本に売るしかない品種だという。また日本の食品として必要な小麦は540万トン、それを米国300万トン、カナダ150万トン、オーストラリア100万トンと、いずれも友好国から輸入している。アメリカと戦争でもしない限り、これらの友好国からの供給がストップすることはないだろう。


民主党の本当のねらいは疑似農家関連の500万票

浅川さんは農業界全体を弱体化させることが民主党の本当のねらいだと語る。小沢一郎前幹事長も、選挙でわかりやすい「所得補償」に政策名を変えろと指示したという。

民主党は100万戸の疑似農家の、家族や親類を入れた500万人という票が欲しいのだと。

都市部と比べて一票の差が2−3倍ある地方では、500万人の疑似農家関係者が一大勢力で、農家の票を抑えたら地方や都市郊外の小選挙区で勝利することができる。


日本の農家の数はまだ多すぎる

日本の農家は他の先進国に比べてまだ多すぎるという。日本は人口の1.6%が農家だが、米国はじめ欧州各国でも1%を切っている。

日本の面積30アール以上、農業売り上げ50万円以上の農家は200万戸ある。売り上げ1,000万円以上の農家はわずか7%だが、かれらが日本の農業生産の8兆円の6割を生産しているのだ。

農家の所得につき「農業経営者」が独自に行った2,600人のアンケート結果では、平均所得は343万円で、社員4−9名の中小企業の年収平均243万円を上回っているという。

農業人口の高齢化が問題とされるが、全体の7%のプロ農家が高齢化したのではない。全体の8割を占める疑似農家の多くが、リタイアして農業に精を出し始めた人たちだからだ。農業人口の高齢化は必ずしも悪いことではないという。


農業は成長産業

農業は成長産業というのが世界の常識だ。次が世界の貿易額のグラフだが、年々拡大し、特に近年は相場上昇とともに急激に拡大している。

世界の農産物貿易







米国のオバマ大統領は、「世界市場のなかで、高度な技術力とマーケティング力、そして経営判断が求められる複雑な仕事だ」と農業を評している。

そんな将来性のある農業振興のため、浅川さんは次の8つの政策を提案している。

1.民間版・市民レンタル農園の整備
2.農家による作物別全国組合の設立 成功例は米国ポテト協会などだ
3.科学技術に立脚した農業ビジネス振興 たとえばイチゴのとちおとめを世界商品にすることなど
4.輸出の促進
5.検疫体制の強化
6.農業の国際交渉ができる人材の育成または採用
7.若手農家の海外研修制度
8.海外農場の進出支援

日本の農業の可能性を信じているのが和郷園の木内博一代表だという。日本の農作物は世界一だと思っているので、ジャパンプレミアムを創設するのだと。

和郷園がタイで生産するバナナはドールよりも高く売れているという。


農家弱者論との対比

「食品自給率のなぞ」や「食品自給率100%を目ざさない国に未来はない」は、従来型の議論が中心で、単に食料輸入断絶というあり得ない事態の不安をあおるだけで、何の解決も提案していない様に思える。

農水省の課長は「ご飯を一食につきもうひと口食べると食品自給率が1%アップする」と、もっとご飯をたべることが自給率アップに繋がるという。

どうせ国民に訴えるなら、技術革新で生まれ、世界中で生産の中心となっているGMO食品を本格導入して、国産農産物の生産量を上げるとか、食べ残しを減らす運動を推し進めるとか、賞味期限切れの食品撲滅運動を行うとか、別のことで自給率をアップさせることができるだろう。

両論比較して読むことで、むしろ浅川さんの鋭い指摘と、統計の読み方に強い印象を受けた。

浅川さんの主張の根拠を提供しているのが青山学院大学の神門教授の次の本だ。

日本の食と農 危機の本質 (シリーズ 日本の〈現代〉)日本の食と農 危機の本質 (シリーズ 日本の〈現代〉)
著者:神門 善久
販売元:NTT出版
発売日:2006-06-24
おすすめ度:4.5
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こちらも近々読んでみる。


冒頭に述べた通り筆者が読んでから買った数少ない本の一つである。一読の価値はあると思う。


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Posted by yaori at 00:04Comments(0)TrackBack(0)