2014年08月17日

中国の大問題 前中国大使 丹羽宇一郎さんの経験談

中国の大問題 (PHP新書)
丹羽 宇一郎
PHP研究所
2014-06-14


元伊藤忠社長で、前中国大使の丹羽宇一郎さんの本。「中国の大問題」として次のような切り口から中国の現状を論じている。

第1章 14億人という大問題
第2章 経済という大問題
第3章 地方という大問題
第4章 少数民族という大問題
第5章 日中関係という大問題
第6章 安全保障という大問題

まるで池上彰さんの「大問題」シリーズ本のコピーの様だ。




終章で、「日本という大問題」として、中国と比較しての日本の教育支出の少なさ、偉くならなくても満足な若者たちなどのテーマを「10年後に死んでいるかもしれない人間のメッセージ」として論じている。

これが丹羽さんが最も言いたかったことなのだろう。

日本の将来を考えたとき、教育の充実こそが、日本が世界で生き残る最重要にして必須の条件となると論じている。

「非正規社員の全廃」、「(出世することの)インセンティブを提示せよ」等の主張を打ち出している。

日本の教育費については、注釈が必要だと思う。中国は国防費の3倍、国家予算の17%を教育費に使っていると丹羽さんは語る。

この本では日本の教育費の国家予算に対する比率を記載していないが、ネットで調べると日本の公財政教育支出の対GDP比は3.3%(つまり国防費の3.3倍)で、一般政府総支出に占める公財政教育支出の割合は9.5%だ。

しかし、日本では公的な教育資金が少ない分、家計から教育費をねん出しているから、家計で負担している私的教育費を含めた教育費はGDPの5%(つまり国防費の5倍)になる。これは塾などの副次的な教育支出を除いた家計負担分だ。

2009年の統計だが、公財政支出と私的教育費を合計したグラフを載せているブログを見つけたので、紹介しておく。

3950




















出典:社会実情データ図録

たぶん財務省筋だと思うが、日本の場合は少子化のため、生徒数が少ない。だから生徒一人当たりを取ってみれば、日本はOECDでもそん色はないという議論もある。

平成20年教育費の現状_ページ_9




















しかし、日本の問題は韓国や他の先進国が教育予算の比率を増やしているのに対して、国家予算の教育費比率を据え置いていることだ。次の文部科学白書2009にある図を見るとわかりやすい。

img052



































出典:文部科学白書2009図表1−1−29

丹羽さんの教育が最重要投資であるという問題提起は正しい。どう実現していくかが問題だが、具体的アイデアはこの本にはない。言いっぱなしで、「10年後に死んでいるかもしれない人間のメッセージ」と自分で言うゆえんだろう。

中国の指導部との人的コネクションはさすが

ともあれ、中国の指導者層と人的なコネクションを広く持つ人だけに、これから習近平体制を支える人脈の読みなども参考になる。

丹羽さんは、習近平には10数回会っているという。

習近平は長崎県と姉妹都市関係にある福建省に14年間居たからだと。丹羽さん自身は、習近平は比較的親日的でフェアな人物という印象を持っているという。

現在は権力闘争が続いているが、5年後は習近平体制が確立し、そのための準備を着々と行っている。たとえば、前政権の中央政治局常務委員の一人だった周永康とその関係者350人を汚職容疑で拘束した

着々と反対派を排して、習近平体制を作りあげている。

次がこの本に紹介されている習近平体制の顔ぶれだ。

img050
























出典:本書41ページ

次のリーダーとして有望なのは、汪洋、孫政才、胡春華という50代の3人だという。それぞれ地方の書記を経験している。

チャイナセブンと呼ばれる、トップの中のトップの常務委員の中では、国際は金融のプロである王岐山が注目だという。

また常務委員でもないのに、国家副主席になっている李源潮も次期国家主席とも目される実力者だと。

習近平体制では、日本の小沢一郎のもとでホームステイした経験を持つNo.2の李克強国務院総理をはじめ、汪洋、孫政才、胡春華、李源潮は知日派で、じつはきわめて親日体制なのだと。

習近平体制を考えるときは、そうした視点を見落としてはならないと丹羽さんは語る。


行動する中国大使

丹羽さんは、中国大使としての在任期間中に、33ある一級行政区のうち27地区を訪問し、その時々で日本の経済人を同行して経済と友好の両方を推進したという。また伊藤忠の社長時代には、北京市、江蘇省、吉林省などの経済顧問を歴任したという。

次が丹羽さんが訪問した27の行政区の地図だ。

img051























出典:本書88−89ページ


丹羽さんは民主党政権の目玉の民間大使として就任した。日中友好を深めるイベントを多く開催したことや、経済面での行動力はさすがだと思う。


評判を落とした尖閣国有化の時の丹羽発言

石原都知事が尖閣列島を東京都で買い上げることを発表したことをきっかけに、民主党政権はすぐに尖閣列島の国有化を宣言した。その時、日中関係を悪化させるので、国有化を急ぐなと注文を出したのが丹羽大使だった

当時は丹羽大使の発言は、日本政府の公式方針に沿っていないとして批判された。しかし、この本では、「領土は1ミリも譲歩できない」とあらためて持論を展開し、あの時は国有化のタイミングを考え直すべきだと発言したものだと釈明している。

このあたりが、アマゾンのカスタマーレビューで☆一つのレビューが多くある原因だろう。言い訳本だと。

「棚上げ合意」はあったのか、という点については「棚上げ合意」は無かったと結論づけている一方で、尖閣問題は「フリーズ」すべきだと語る。

現在もなお外務省のホームページの「尖閣諸島に関するQ&A」には日中国交回復前後の「棚上げ論」が公開されている。

公式な「棚上げ合意」はもちろん無かったが、外務省がホームページで公表している周恩来や小平の意見を踏まえて、尖閣列島付近の日本企業の資源開発に待ったを掛けてきたのは日本政府であり、事実上「棚上げ」を黙認していた事実がある。

それが素人外交の民主党に代わり、石原元都知事のペースにはまって、性急に国有化を宣言したことから現在の尖閣での緊張は始まっている。

丹羽さんの本心としては、「おいおい、棚上げしたはずじゃなかったの?寝た子を起こすなよ」という趣旨だったのだろう。

元中国大使なだけに、丹羽さんもいまさら政府の方針と異なることは言えないので、この本では「棚上げ」ではなく、「フリーズ」と言っている。


商社マンの大先輩なだけに、プロの外交官とは違った中国との交流拡大を実践した功績は高く評価したいが、外交という意味では無力で、かつ最後は使い捨てされたと言わざるを得ない。田中真紀子が小泉内閣の外務大臣に就任した時に、「外務省は伏魔殿」と評したことが、思い出される。

シャドーバンキングについて、「私の試算では…GDPの16%、シャドーバンキングで中国の経済が崩壊することはないだろう」とか、データで見る限り中国は人口減少時代には入らないとか、中国の将来を危ぶむ声が多いなかで、中国を再評価する冷静な発言は参考になる。

また、重慶とドイツを結ぶ国際貨物列車の登場により、チャイナランドブリッジで約10数日で運べるようになったというのも参考になった。

民間人として初めての中国大使としての経験談は興味深く、経済や政治面での分析についても参考になる本である。


参考になれば投票ボタンをクリック願いたい。



  
Posted by yaori at 02:19Comments(0)TrackBack(0)

2014年04月23日

破綻する中国、繁栄する日本 長谷川慶太郎さんの近著

破綻する中国、繁栄する日本
長谷川 慶太郎
実業之日本社
2014-01-31


評論家長谷川慶太郎さんのシャドウバンキングの実態とバブル崩壊に向かう中国の行方を予想する本。さらに最近出た最新作はもっと刺激的なタイトルになっている。

中国崩壊前夜: 北朝鮮は韓国に統合される
長谷川 慶太郎
東洋経済新報社
2014-04-18



この本はアマゾンのなか見!検索に対応しているので、ここをクリックして目次を見てもらいたい。目次を読むだけでもだいたいの内容がわかると思う。

章・節のタイトルを紹介しておく。

序章 迷走する中国
 北朝鮮の衝撃
 防空識別圏設定の誤算
 シャドウバンキングが中国崩壊のトリガー

第1章 日本に屈服するか中国
 窮地に追い込まれた中国
 激しさを増す人民解放軍との攻防
 人民解放軍の急所、「シャドウバンキング」
 リーマン・ショック後の経済対策4兆元の功罪
 不良債権処理に苦しむ銀行
 決定したシャドウバンキングの処理
 中国経済の行方

第2章 揺らぐ中国国内
 冬が山場に
 テロが頻繁化する
 怪しげな不動産ブーム
 工場シャッター街と中国製品
 世界の工場でなくなった中国
 共産党が恐れる弱腰外交批判
 人民解放軍に困る習近平

第3章 国際常識を逸脱した国家
 中国が勝利するのか
 レアアースで躓いた共産党に焦り
 国際条約を守らない中韓
 苦境に陥る韓国経済

第4章 シェール革命で勢力地図が塗り替わる
 運のいい安倍首相
 技術に対するトップの認識と理解度が焦点

第5章 繁栄する日本
 消費増税で景気は中折れせず
 日本の独自技術が世界で注目
 メタンハイドレートの実用化に本腰

第6章 21世紀中に共産主義と民族主義は消滅する
 共産主義は人を幸せにしない
 情報化社会に負ける共産主義
 民族主義は消滅の運命
 イランにみる日本技術の素晴らしさ
 歴史が証明する日本人の素晴らしさ


シャドウバンキングの実態

リーマンショックの時の4兆元(約60兆円)の経済刺激策のうち、3兆元を地方政府に資金負担させて高速道路や鉄道などのインフラ整備に充てた。

地方政府は原則起債は禁止されているので、「融資平台」というプラットホーム会社を設立して、金融商品を銀行に売らせて資金を集めた。その金額が30兆元(約450兆円)に拡大した。これがシャドウバンキングだ。経営者は人民解放軍の幹部たちで、シャドウバンキングで融資を受けた会社は300万社にも上るという。

その金で中国各地に高層マンションなどを建設して経済は急回復した。しかし、建設しても入居者がないので、ゴーストタウン(鬼城)化している。有名なのは、江蘇省常州市や貴州省貴陽市、内モンゴル自治区オルドス市などで、中国全土でゴーストタウンは200以上あるといわれている。



オルドス市は、石炭価格が上昇した時には、好景気に酔いしれたが、石炭価格が下がると炭鉱が閉山して失業が急増した。高層マンションなどに入居できる人が少なくなったのだ。中国の地方政府は、我が世の春をエンジョイしてきたが、シャドウバンキングが崩壊し、ゴールドマンサックスの推計では約300兆円の不良債権が発生するとみられている。

日本のバブルの時の不良債権の総額が100兆円と言われているので、いかに中国のシャドウバンキング崩壊のインパクトが大きいかわかると思う。

こうした事情から、ゴールドマンは2013年5月に中国最大の国有銀行の中国工商銀行の持ち株を全株売却し、バンクオブアメリカも2013年9月に中国建設銀行の持ち株を売却した。


習近平の権力闘争

人民解放軍を押さえつけるために、シャドウバンキングをつぶして大損を解放軍の幹部に経験させて息の根を止めるというのが習近平主席や李克強首相のシナリオだという。国民の生活より、人民解放軍に勝つことを優先するという政治問題なのだと。

習近平は江沢民の牙城の石油閥にもメスを入れている。

中国を代表する石油会社・中国石油天然気集団(CNPC)と子会社のペトロチャイナの元幹部4人が南スーダンの石油利権をめぐる汚職で摘発された。

石油閥は前共産党政治局常務委員の周永康がボスで、周は党内順位9位だった。周まで汚職追及の手が伸びるかどうか注目されている。周は無期懲役となった元重慶市書記の薄熙来と関係が深く、薄の失脚に反対したといわれている。

周は江沢民派で、習近平は江沢民派との権力闘争に勝利するために、石油閥の汚職を追及しているのだという。


せっせと海外蓄財する幹部たち

中国共産党の幹部たちは海外で蓄財している。習近平自身も、姪を通じて香港でオフィスビルなどに投資しているといわれ、中国のバブル崩壊で不動産価格が下落することは避けたいと思っているはずだと長谷川さんは語る。

ちなみに、中国共産党中央規律委員会が把握した中国から不法に海外に流出した資金は、2011年6千億ドル、2012年1兆ドル、2013年は1兆5千億ドルだという。資金の行き先はカナダのバンクーバーや、米国西海岸のサンフランシスコやロスアンジェルスで、資金の移転先では不動産ブームが起こっている。


尖閣列島周辺には石油資源はない

長谷川さんは尖閣列島周辺に海底石油資源があると言われているが、実際には商業ベースで開発可能な油田やガス田はないと語る。

オイルメジャーのロイヤル・ダッチ・シェルとエクソン・モービルは、この地域には商業ベースに乗るような資源はないと言っており、日本側の石油開発業者の試掘計画もない。

中国が開発しているガス田の試掘用パイプから炎が出ているが、たとえ天然ガスが出ても、それを中国本土に運ぶ手段がない。400キロもの海底パイプラインは現実的でなく、LNG化するにはLNGプラントやLNG船が必要で、到底巨大なインフラ投資には引き合わない。

だから中国も本気で開発していない。中国は日本に屈しないという宣伝が目的なのだ。

それでも中国が尖閣列島に対して領土権を主張している理由は、尖閣付近は海が深く、中国のミサイル潜水艦の格好の隠れ場所になるからだ。中国は「最小限核抑止」を狙っている。相手からの第一波の核攻撃に生き残り、最小限の核で報復をするという戦略だ。そのために最も重要なのがミサイル潜水艦なのだ。

東シナ海は海底が浅いので、日本のP3C哨戒機に捕捉されてしまう。ところが、尖閣付近の海は深く、簡単には捕捉できない。人民解放軍はそれを狙っているのだと。

たしかに次の地図を見ると、中国側の大陸棚には潜水艦の隠れ場所はないが。尖閣付近には沖縄トラフがあり、潜水艦の絶好の隠れ場所となりそうだ。

尖閣付近地図







































出典:海洋情報特報掲載論文

最近中国は、米国のヘーゲル国防長官にウクライナから買って改修した空母「遼寧」を案内して、米国とは敵対関係になりたくないという、いわば恭順の姿勢を示している。

中国には米国と軍事的に衝突する自信はない。「本当は、遼寧なんてたいした脅威にはなりませんよ。」と米国に伝えたいのだろう。





その他の話題も参考になる

情報通の長谷川さんらしく、その他の話題も参考になる。いくつか例を挙げておく。

★シェールガス開発に伴う、汚水問題は採掘方式を「ドライ方式」(水の代わりにLPGガスをシェール層に注入して、破砕する方式)に変えたことで、環境汚染の問題は解決している。

★北海道の夕張では露天掘りの炭鉱が操業を続けている。400トンの無人ダンプをはじめ、建設機械が大型化して、地表から80メートルの深さまで経済的に採掘できるようになったからだという。




★カジノ解禁で日本の景気は盛り上がる。超党派の「国際観光産業振興議員連盟」はカジノ法案を議員立法で国会に提出して、2014年中の成立を目指している。カジノを国による免許制にしようというものだ。


この本をうのみにせず、情報が正しいかどうかは自分で確認する必要があると思うが、いずれにせよ痛快かつ刺激的な本である。


参考になったら、投票ボタンをクリック願いたい。


  
Posted by yaori at 23:43Comments(0)TrackBack(0)

2014年02月09日

中国はもう終わっている 二人の帰化日本人の対談



中国からの帰化日本人の石平さんと、台湾からの帰化日本人の黄文雄さんの対談。

この本はアマゾンの「なか見、検索!」に対応していないので、ちょっと長くなるが、”なんちゃってなか見、検索!”で目次を紹介しておく。

第1章 中国経済の崩壊でこれから何が起こるのか
・中国の株価下落でなぜ世界が大騒ぎしたのか
・いまごろリーマン・ショックのつけが表面に
・中国でシャドーバンキングはなぜ生まれたのか
・中国の不良債権は300兆円
・地方政府の崩壊が秒読み
・ますます信用できなくなっている中国の統計
・続々と撤退する外国資本と大量失業者の発生
・中国社会を崩壊させる2つのグループ

第2章 習近平体制は間もなく破綻する
・身内を攻撃する習近平
・習近平と江沢民派との闘いが始まった
・習近平は「大政奉還」を狙っている
・毛沢東路線に回帰する習近平
・習近平が煽るウルトラ・ナショナリズム
・憲政をめぐって分裂する中国
・中国で民主化は可能なのか
・李克強は習近平に取って代わるか
・胡錦濤と習近平の「最終戦争」

第3章 日中はこうして激突する
・アベノミクスを執拗に攻撃する中国
・中国とともに沈没する韓国
・オバマに「宿題」を突きつけられた習近平
・スノーデン問題で冷え込む米中関係
・着々と進む安倍政権の「中国包囲網」
・TPP経済圏の出現に焦る中国
・中韓接近で変化する朝鮮半島情勢
・中国と接近した国の末路
・中国は尖閣問題をどうしたいのか
・中国の本当の狙いは南シナ海か
・習近平が恐れる軍部の暴走
・靖国問題はもう中国のカードにならない
・沖縄問題と反原発に媚中派が結集
・沖縄は中国に飲み込まれるか
・台湾も香港も中国離れが進む

第4章 2014年世界から見捨てられる中国
・偽りの経済成長で深刻化する大気汚染と疫病蔓延
・350年前の人口爆発から始まった環境汚染
・環境悪化が中国の経済成長を不可能にする
・ウイグル問題の爆発が迫っている
・世界から締め出される中国
・日本は中国崩壊に備えよ

目次を読むだけでも、大体の内容が推測できると思う。最近の話題が多く、刺激的なタイトルばかり並んでいて、すぐにでも習近平体制が崩壊しそうな印象を受ける。

そんなに危ういのか、にわかには判断ができないが、参考になった点を紹介しておく。

ちなみに、石平さんは、結構激しいことを言っている。

「私から見ると、まるで中国と韓国は「ドラえもん」のジャイアンとスネ夫ですね。共倒れ同士がお互いを慰めあって、連携して日本に無理な要求をしている。彼らが生き残る道は、頭を下げて日本といい関係をつくるしかないのに、変な意地を通している。とくに、韓国を待っているのは、中国の属国になって中国と共倒れになるという、哀れな将来ですよ。」

まるで長谷川慶太郎さんのようだ。

破綻する中国、繁栄する日本
長谷川 慶太郎
実業之日本社
2014-01-31


★中国の高度成長は終わった。これでせっかく生まれた中産階級は冷え、不動産が暴落し、地方政府の財政が破たんする。富裕層はますます海外に逃げ出す。

★2013年7月に卒業して、9月に就職する中国の大学生は約700万人いる。2013年5月時点で就職内定率は16.8%で、「史上最悪の就職氷河期」と言われており、大量の大学卒業生が職にあぶれることになる。都市と農村の中間地区に集団で暮らす蟻族(平均月収は2,000元=2万6千円以下)が増加する。

★習近平は訪米して、オバマ大統領と8時間も費やして会談したが、延々と日本批判を繰り返す習近平に対して、オバマは「それまでだ。日本はアメリカの同盟国であり、友人だ。あなたはその点をはっきり理解する必要がある」と反論したという。子供の教育問題で時間がないという理由で、習近平の奥さんもオバマ夫人と会えなかった。

★オバマ大統領の最大の関心事は、サイバー攻撃問題と北朝鮮問題で、習近平主席からかなりの譲歩を取り付けた。しかし習近平にはたいした成果はなかった。

★中国によって侵害されているアメリカの知的財産権は年間3,000億ドル(30兆円)にも上る。ハッキング、情報窃盗に協力しているという疑いが、華為技術(ファーウェイ)にかけられている。華為は1988年に人民解放軍の元幹部の任正非社長が人民解放軍の仲間と設立した。

★アジアの中で日本を嫌いなのは中国と韓国だけ。安倍政権の「中国包囲網」は着々と進んでいる。日露間でも2+2(外務大臣と防衛大臣による安全保障協議委員会)設置で合意した。インドとの協力関係も進んでいる。安倍政権は、戦後初めて国益に基づいた戦略的外交を展開している。

img016






















出典:本書134ページ

★韓国軍の統帥権は、朝鮮戦争以来アメリカにゆだねられており、これが2012年に返還される予定だったが、2015年に延長してもらった。それ以降は韓国軍が自ら作戦を指揮しなければならない。韓国は日本の集団的自衛権に反対しているので、韓国が攻撃された場合、アメリカは当然韓国を支援するだろうが、日本は韓国を支援することはできなくなる。

★現実的に中国軍が尖閣に上陸して、占領することは、アメリカが尖閣を日米安保条約の適用範囲と明言しているから不可能。せいぜい、国民に見える形でギリギリの挑発を繰り返すしかない。あわよくば、それで何とか安倍政権に圧力をかけて屈服させたいと思っている。

★南シナ海が中国の本当の狙い。アメリカの軍事力に対抗するために、南シナ海の海底に原子力潜水艦の基地をつくって、そこからICBMでアメリカ本土を核攻撃できる体制をつくることができる。これが中国の対アメリカの切り札となり、南シナ海こそ「核心的利益」だ。

★中国のアフリカ援助は、中国人を派遣し、現地に雇用を生まない「ひもつき援助」なので、ザンビアのマイケル・マタ大統領は、「中国資本をたたきだせ」、「彼らはインベスターではなく、インフェスター(寄生者)だ」と主張して2011年の大統領選挙に勝利した。また、ボツワナのイアン・カーマ大統領も「中国が労働者をつれてくるなら、それは『ノー』だ」と語っているという。

★日本は中国とは正反対のやり方で、直接見返りは求めずに、無償援助や技術移転を中心にアフリカ外交をやっており、中国は脅威に感じている。


石平さんと黄文雄さんは、中国と韓国を悪く言い過ぎではないかという気もするが、ここまで日本の肩を持ってくれる帰化中国人も少ないと思う。

中国、韓国の今後の動向が、この本の指摘するようになるのかどうかはわからないが、いずれにせよ目が離せないことは間違いない。一つの見方として参考になる本だった。


参考になったら、投票ボタンをクリック願いたい。


  
Posted by yaori at 02:17Comments(0)TrackBack(0)

2013年01月09日

中国大分裂 長谷川慶太郎さんの中国分裂予測

中国大分裂 改革開放路線の終焉と反動中国大分裂 改革開放路線の終焉と反動
著者:長谷川 慶太郎
実業之日本社(2012-07-12)
販売元:Amazon.co.jp

85歳になった今でも、「大局を読む」シリーズなど、するどい状況分析に基づく政治・経済予測を毎年出している長谷川慶太郎さんの近著。

長谷川さんの情報が正しいのかどうかわからないが、論理の筋道が立っており参考になる。

この本と同じ路線の「2014年、中国は崩壊する」も読んでみた。

こちらは元マイカル法務部でマイカル大連などの出店経験があるという現国会新聞社編集次長の宇田川 敬介さんが書いたものだ。

北京駅の荷物検査場には手りゅう弾を爆発されるための円筒形のコンクリートの箱があったとか、一人っ子政策に反して生まれた戸籍のない人=黒子が車に轢かれても、警官は死体を崖下に投げ落とすのを見た。さらに黒子の遺族は、車の運転手に器物損壊で訴えられたというような話が宇田川さんの本では載っている。

中国人にとってメンツがいかに重要かという宇田川さんの議論はよくわかったが、上記のような話は、いくらなんでもあり得ないのではないかと思う。

2014年、中国は崩壊する (扶桑社新書)2014年、中国は崩壊する (扶桑社新書)
著者:宇田川 敬介
扶桑社(2012-06-01)
販売元:Amazon.co.jp


この本で長谷川さんが予想しているシナリオは次の通りだ。

1.中国ではいままで毛沢東の系譜を継ぐ文革路線の人民解放軍と、胡錦濤・温家宝らが推進する改革開放路線の中国共産党の対立があった。人民解放軍は毛沢東思想を信奉し革命を推し進めるという立場だが、中国共産党は革命を放棄している。

2.人民解放軍の7つある軍区のうち最大の勢力は瀋陽軍区だ。瀋陽軍区には核兵器はないが、ロシアと国境を接しているので5つの機械化軍団のうち4軍団を傘下におき、最強の軍事力を誇っている。

中国の軍区は次の図の通りだ。

scanner452





出典:本書4−5ページ

3.2012年に毛沢東派の薄煕来・重慶市共産党書記・党中央政治局員が、収賄と妻の英人ビジネスマン殺人容疑により失脚し、中国共産党トップの9人の政治局常務委員には人民解放軍の代表はいなくなった。薄煕来は、重慶市に行く前は遼寧省省長や大連市長を歴任した瀋陽軍区の出世頭だった。

4.北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)は瀋陽軍区の傀儡で、先日のミサイル発射もすべて瀋陽軍区の命令を受けて金正恩が実施している。北朝鮮の軍事パレードには瀋陽軍区が貸し出した武器が使われている。

5.北朝鮮は3度目の核実験を近いうちに必ず実施する。瀋陽軍区は核兵器を持っていないため、北朝鮮に核兵器を開発させ、それを瀋陽軍区の切り札として北京政府を恫喝したいからだ。

6.北朝鮮が3度目の核実験を行うと、国連はいままでの経済制裁では効果がないとして、武力制裁を決議する可能性が高い。そうすると常任理事国の中国は、武力制裁に同意せざるをえない。

そうなると北朝鮮の実質支配者である瀋陽軍区が北京政府に叛旗を翻し、中国は分裂状態になる。最終的には中国は、7つの軍区に分かれた連邦制になると長谷川さんは予想している。

7.こういった情勢をわかっていないのは日本だけで、米国は中国が分裂状態になることを予想している。その際に北京政府が米国に助けを求めてくる可能性もあるとみて、2011年に第7艦隊の空母を2隻に増やした。それがトモダチ作戦で活躍した空母ロナルド・リーガンだ。



沖縄にオスプレイを配備して海兵隊の機動性を増したのもその戦略の一環である。



昨年の反日デモでは、暴徒が毛沢東の肖像画を掲げているのが目についた。



毛沢東の主導した文化大革命がいかに悲惨なものだったかは、このブログで紹介した「私の紅衛兵時代」で紹介した通りだ。

長谷川さんの見立てが正しいかどうかわからないが、中国が混乱に陥る可能性はあるのではないかと思う。

そのほか参考になった点をいくつか紹介しておく。

★パナソニックは主力のマレーシアのコンプレッサー工場が、中国のメーカーとの競争に負けて閉鎖に追い込まれた。パナソニックの中国のテレビなどの工場も赤字で閉鎖したいが、中国政府が閉鎖を認めないので、操業中止状態にある。

★中国では輸出不調と不動産価格下落のため失業者は1億人いる。銀行が不動産融資を絞ったため、不動産価格は暴落している。不動産価格は2011年末時点で前年比半額以下になったという。

★中国には預金保険制度がないので、銀行はみんな粉飾決算をしている。中国政府は必死に銀行をテコ入れしている。

★高速鉄道網建設は、総延長8万キロの予定が実績は2万キロしか建設できていない。2011年1年間では300キロしか建設できていない。建設資金が滞ったことと、乗客が少ないためだ。2011年7月の浙江省温洲の高速鉄道事故では、あれだけの大事故なのに死者は40名だけだった。乗客が少なかったからだ。

★中国の富裕層の海外移住で一番人気はカナダだ。固定資産と流動資産160万カナダドルを持ち込むと国籍が買える。カナダのマンションを、香港の財界人の李嘉誠は多く開発し、中国人の富裕層に売っているという。

★上海のブランドショップは店員が偽物をつかませるという噂がある。だから中国人は東京に来てブランド物を買うのだ。

★中国の不穏な動きに敏感に反応したミャンマーは中国離れをして、中国のプロジェクトの多くは中止となった。しかし西側の経済進出で活気を呈している。

★韓国の朴正煕大統領は一切蓄財をしない立派な大統領だったという。娘の朴さんが今回大統領になったが、2DKのマンションに住んで質素な生活をしているという。

★米国の陸・海・空軍は米国議会の上院下院の本会議で戦争決議が成立しないと軍事行動をとれないが、海兵隊は例外で大統領の命令で戦闘行動がとれる。

だから朝鮮半島になにか事が起これば、沖縄の海兵隊がオスプレイで飛ぶのだ。沖縄の海兵隊がいなければ、韓国の国防は成立しない。

★尖閣列島は、人民解放軍の南海艦隊が勝手に動いていて、北京政府は後追いで追認している。先軍政治色が強くなっている。

★中国では電圧もコンセントの形状も地域によってバラバラだ。北京と天津を結ぶ高圧電線もない。

★中国の原子炉はいろいろな国の技術のつぎはぎで、安全性には大きな疑問がある。しかし、すでに15基の原子炉が稼働している。

★日本のメタンハイドレードの開発技術はカナダから導入している。カナダのハドソン湾にもメタンハイドレードが大量に埋蔵されており、その開発技術を使っている。

★アメリカ経済の立役者となるシェールガス革命によりロシアの相対的発言力は低下している。プーチンは日本に天然ガスを買ってもらいたいと思っている。

カナダもインドネシアも天然ガスを売りたいので、日本は有利に交渉を進めることができる。

上記のように様々な情報をポンポン紹介している。しかし、真偽のほどは筆者はまだ確かめていない。まずは未確認情報としておいていただきたい。


参考になれば投票ボタンをクリック願いたい。





  
Posted by yaori at 23:19Comments(0)TrackBack(0)

2012年11月26日

私の紅衛兵時代 中国の映画監督陳凱歌氏の紅衛兵時代

私の紅衛兵時代-ある映画監督の青春 (講談社現代新書)私の紅衛兵時代-ある映画監督の青春 (講談社現代新書)
著者:陳 凱歌
講談社(1990-06-12)
販売元:Amazon.co.jp

前回紹介した「北京バイオリン」や2011年12月に公開された「運命の子」などの優れた映画を監督している陳凱歌(チェン・カイコー)監督の紅衛兵時代のことを書いた手記。会社の読書家の友人から紹介されて読んでみた。

北京ヴァイオリン 特別プレミアム版 [DVD]北京ヴァイオリン 特別プレミアム版 [DVD]
出演:タン・ユン
ジェネオン エンタテインメント(2004-04-02)
販売元:Amazon.co.jp

山崎豊子さんの「大地の子」でも、主人公の陸一心が、中国の文化大革命時代に日本人の子供ということで、スパイ容疑をかけられ、内モンゴル自治区の労働改造所に送られる場面があった。

大地の子 1 父二人 [DVD]大地の子 1 父二人 [DVD]
出演:仲代達矢
NHKエンタープライズ(2002-09-06)
販売元:Amazon.co.jp

今回中国共産党中央委員会総書記に就任した習近平氏も、父の習仲勲国務院副総理が文化大革命中に反動勢力として吊るし上げられたことから、1969年から7年間陝西省に下放され、洞窟で暮らしていたことが報じらている。



陳凱歌さんは1952年生まれ。映画監督の父とシナリオライターの母との間に生まれた。陳さんの母は裕福な家庭の出身で、アメリカ系のミッションスクールを出たが、日本軍が攻めてきたときに破産してしまったという。その後陳さんの母の両親と兄弟は台湾に移り、陳さんの母のみが大陸に残され、2度と両親に会うことはなかった。


陳さんの育った時代

1958年からの大躍進時代に続く1960年から62年にかけての大飢饉で、中国では2−3千万人、つまりオーストラリアの人口の2千万人以上が餓死した。1959年にはソ連と断交し、1962年にはインドとの国境紛争が起こり、1964年にフルシチョフ書記長が失脚した年に中国は核実験を成功させた。陳さんが育った時代は、このように中国が自主独立路線を歩み始めた時代だ。


文化大革命の始まり

陳さんは、1965年9月に北京の四中に入学した。大学進学率90%を誇る有名校で、党の高級幹部の子弟が多く含まれていたという。

1966年5月7日に毛沢東は、後に「5.7指示」と呼ばれる文化大革命の指示を出す。これに呼応して大学生、中学生が紅衛兵となって、「反動主義者」を吊るし上げ、集団リンチを加えた。共産主義では本来許されない個人崇拝が広まり、学生たちは「毛主席の良い子供になる」ことを目指した。

1966年7月29日、小平、周恩来、劉少奇の党首脳は、数十万人の大学生、中学生を前に演説を始め、最後に毛沢東が登場し、集会はクライマックスを迎え、それから町に軍服を着た中学生・大学生の紅衛兵があふれた。

北京四中の教師は頭を半分剃られ、メガネを割られ、首から下げた看板に書いた名前は×印で消されていたという。


破壊の限りを尽くす

「天地をひっくり返し、嵐のような波風を巻き起こして、大いにひっかきまわせ。そうやって、ブルジョア階級を眠れないようにし、プロレタリア階級も眠れないようにするのだ」というのが毛沢東の指令を受けた林彪の指示だったという。

寺院、孔子廟、キリスト教会を破壊し、北京には一切宗教的な建物はなくなった。北京市は築800年の城壁に囲まれていたが、城壁は紅衛兵たちに完全に破壊され何も残らなかった。

筆者の好きな北京ダックの名店「全聚徳」は、看板を壊され、「人民メニュー」を作らせられた。

髪が長すぎるとみられた男女はハサミで髪を切られた。細すぎるスラックスは切り裂かれ、ハイヒールのかかとは折られた。


陳さんは父親を攻撃

陳さんの父親は、若いころ国民党員だったことがあり、この過去が陳さんにも影響を与えてきた。陳さんは父親を憎むようになった。陳さんのお父さんは、「国民党分子、歴史的反革命、網に漏れた右派」として罵倒され、陳さん自身もお父さんを突き飛ばした。陳さんは14歳だった。翌日陳さんのお父さんは連行されていった。

数年後陳さんが下放された雲南省から帰省した時に、ボロをまとい、歯の抜け落ちた老人が学校の便所掃除をしていた。それが50歳になった陳さんのお父さんだったという。


陳さんの自宅も略奪される

陳さんの家は級友による家宅捜索を受け、衣装タンスは壊され、服は引き裂かれ、本は毛沢東のものなど一部を除き、すべて燃やされた。目覚まし時計やカメラなど金目のものは持ち去られ、頭痛薬まで見逃さなかった。

級友たちは破壊し尽くした後、陳さんと握手して立ち去ったという。数百万の家がおなじように略奪を受けた。紅衛兵自身の家もすべて略奪をうけた。共産党幹部、劉少奇や彭徳懐元帥も例外ではなかった。殴り倒され、ケガをさせられた。


文革の犠牲者は多い

「地主」や「資本家」とみなされたものは、もっと悲惨だった。ガラスの破片の上に座らされ、ちょっとでも動くと殴る蹴るの暴行を受け、殴り殺されたものもいた。陳さんも紅衛兵の軍服を着て、赤い腕章をつけて北京市内を自転車でまわった。人を殴ったこともある。

陳さんの友人の父親の元・石炭工業相は、頭を丸刈りにされ、全身に傷を負い、死ぬ直前に息子に会って、「お前は長男だ。しっかりしろ」と言って、数日後に亡くなった。毛沢東と周恩来に手紙を書いて無実を訴え、生涯信じた仕事に悔いはないという遺書が残っていたという。

今も共産党の考えで法律は変更されるので同じ傾向があるが、文革中には法律は存在しなかった。拷問を受け無理やり自供させられ、私設法廷で裁かれて処刑されていった。高いビルから落として、自殺とみせかけて犯行をごまかすといったことが平気に行われていた。

「人民芸術家」とされていた文豪の老舎は、京劇の衣装を焼かれ、重傷を負わされ、みずから北京の太平湖公園で湖に身を投げた。陳さんは死の直前老舎と出会ったという。

文豪老舎の生涯―義和団運動に生まれ、文革に死す (中公新書)文豪老舎の生涯―義和団運動に生まれ、文革に死す (中公新書)
著者:舒 乙
中央公論社(1995-01)
販売元:Amazon.co.jp

駱駝祥子―らくだのシアンツ (岩波文庫)駱駝祥子―らくだのシアンツ (岩波文庫)
著者:老 舎
岩波書店(1980-12-16)
販売元:Amazon.co.jp


雲南省シーサンパンナに下放

1969年の春、陳さんは雲南省の山奥の山林に下放された。17歳だった。労働改造中の父親はホームまで見送りに来て、陳さんは父親の涙を初めて見たという。

雲南のシーサンパンナのタイ族の村で、森林開発に従事した。野焼きして原生林を焼き払い、戦略物資のゴムの栽培をしていたが、結局うまくいかなかったという。

下放された女学生が発狂し、掘立小屋で乞食のように住んでいた話や、上海から来た16歳の知識青年が木の下敷きになって死亡した話が語られている。

陳さんはバスケットボールがうまかったので、1971年に軍のバスケットボールチームにリクルートされ、部隊はラオスに移動する。公然の秘密だったが、ベトナム戦争に中国軍が参加していたのだ。ラオスで爆撃跡の復旧作業を担当し、1975年除隊して北京に復員する。


北京で出発点に戻る

北京映画現像所で空調を取り扱う労働者となり、毛沢東が亡くなると、北京映画学院の監督科に入学する。1975年ー78年の入学者には、その後の中国のあらゆる部門の逸材を輩出しているという。習近平も1975年に精華大学に入学している。下放された1,000万人を超える知識青年たちが、都会に戻ってきて、出発点に戻ったのだ。

陳さんは、北京映画学院を卒業後、広西省と陝西省西安の映画撮影所で数本の映画を制作し、その後1987年に1年間映画の講義をするために米国に行き、そのままニューヨークに滞在して映画制作に取り組んでいる。

この本もニューヨークで日本での出版用に書き下ろしたものだ。

この本を読んでいて、中国は昔から変わらないとつくづく思う。

同じことのぶり返しで、最近の共産党幹部の汚職や日系企業・日本車をターゲットにした攻撃を見ていると、「アラブの春」のように、民衆の怒りが共産党に向かう日も近いのではないかという気がする。

文化大革命は毛沢東が指導した権力闘争だった。反日デモには毛沢東の肖像画を掲げる民衆の姿が放映されていた。このままいくと毛沢東崇拝が復活し、違う形での文化大革命の再来となるかもしれない。

最近では「中国は崩壊する」や、「中国大分裂」などセンセーショナルなタイトルの本が日本で多く出版されている。

2014年、中国は崩壊する (扶桑社新書)2014年、中国は崩壊する (扶桑社新書)
著者:宇田川 敬介
扶桑社(2012-06-01)
販売元:Amazon.co.jp

中国大分裂 改革開放路線の終焉と反動中国大分裂 改革開放路線の終焉と反動
著者:長谷川 慶太郎
実業之日本社(2012-07-12)
販売元:Amazon.co.jp

中国が崩壊した場合、日本も無傷ではないだろうが、共産党の一党独裁が永遠に続くこともありえないだろう。

文革時代を描いてはいるが、同じことがまた起こりそうな懸念を抱かせる本である。


参考になれば投票ボタンをクリック願いたい。



  
Posted by yaori at 12:40Comments(0)TrackBack(0)

2012年11月24日

陳凱歌監督のドラマ 「北京パイオリン」を見た 

北京バイオリン DVD-BOX1北京バイオリン DVD-BOX1
出演:リュウ・ペイチー
マクザム(2007-09-28)
販売元:Amazon.co.jp

次に紹介する「私の紅衛兵時代」を書いた中国を代表する陳凱歌(チェン・カイコー)監督の代表作「北京パイオリン」のテレビ・ドラマ版を見た。

NHKで放送されたので、日本ではNHKエンタープライズがDVDを販売している。

映画は次のジャケットで、配役もお父さん役のリュイウ・ペイチー以外はドラマとは異なる。

北京ヴァイオリン 特別プレミアム版 [DVD]北京ヴァイオリン 特別プレミアム版 [DVD]
出演:タン・ユン
ジェネオン エンタテインメント(2004-04-02)
販売元:Amazon.co.jp

中国のテレビドラマを見るのは初めてだが、画質も良いし、服装もダサいところもない。結構洗練されているという印象を受けた。

元々2時間ほどの映画を18時間程度(45分X24話)のテレビドラマにしただけに、映画にはないエンターテインメント的な挿話もある。

テレビドラマは芸術総監督が陳凱歌、演出(実質上のドラマの監督)が夢継(モン・ジー)という布陣で、DVDの第5巻の特別映像では夢継が映画をテレビ・ドラマに仕立てた時の、原作者の陳凱歌監督とのエピソードなどを語っている。

映画のあらすじは詳しくは紹介しない。

養子であることを知らずに父(リュウ・ペイチー)に育てられた劉小春(リュウ・チャオチュン)が、天性の才能を発揮して北京のコンクールに優勝し、才能を開花させるという誰もが予想できるサクセスストーリーだ。

しかし、ひと癖もふた癖もあるリュウ・ペイチー演じる父親・劉成(リュウ・チェン)に加え、親しくなった友人の女優・莉莉(リーリー)や女たらしの司会者・鐘阿輝(ジョン・アフェイ)、音楽教育の第一人者といわれる余(ユー)教授など、周りを固める俳優の持ち味が面白い。

主人公の少年役の嘉央桑珠(ジャーヤン・サンジュ)がジャニーズ系の顔だちながら、今一つ垢抜けないのはご愛嬌といったところか。

余教授役の俳優は北大路欣也に似ている。次のビデオでも最後の方に登場する。



上記のコンクールの優勝発表の場面でも出てくる友人の女優莉莉(牛莉)は中国の代表的女優のようだ。



友人の司会者役の程前(チェン・チエン)も、手八丁口八丁の味をだしていて面白い。

どんでん返しの結末が、ほとんどの登場人物を一人二役にしているようなイージーな印象を受けるが、楽しめる。

全部見ると18時間と長いが、時間を忘れて楽しめるドラマである。


参考になれば投票ボタンをクリック願いたい。



  
Posted by yaori at 23:40Comments(0)TrackBack(0)

2011年09月02日

中国の言い分 サーチナ編集主幹の鈴木秀明さんの本

中国の言い分 〜なぜそこまで強気になるのか?〜 (廣済堂新書)中国の言い分 〜なぜそこまで強気になるのか?〜 (廣済堂新書)
著者:鈴木 秀明
廣済堂出版(2011-01-18)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

「サーチナ」編集主幹・鈴木秀明さんによる中国人の本音紹介。

前回の加藤嘉一さんの「われ日本海の橋とならん」を紹介した後で、中国シリーズが続くが、大変参考になる本だったので紹介しておく。

ちょうど2010年の中国のレアアース輸出制限の影響で、エアコンが5〜15%値上げされるというニュースが報道されているので、レアアース問題の背景も解説したこの本が参考になる。

サーチナは2000年代初めに中国株投資熱が注目されてきた頃から、急速に存在感を増した中国情報のポータルで、中国株投資をする場合には必須の情報サイトだ。

著者の鈴木さんはサーチナの編集主幹で、レアアース問題、靖国問題、ノーベル平和賞劉暁波氏に対する人権問題、北朝鮮問題など、ともすれば中国人と日本人のマスコミや世論が異なる問題を12件取り上げ、それぞれに中国人の本音、見方をわかりやすく解説してる。

サーチナが中国情報サイトだからといって、決して中国寄りの見方を紹介しているわけではない。たとえば尖閣諸島問題では、1884年から魚釣島に移住して開拓を進めた日本人の貸与願いを受け、清国の支配が及んでいる形跡がないことを10年間かけて確認の上、1895年に国際法上の「無主物先占」原則を適用して日本領に編入したという客観的事実を説明している。

尖閣問題は中国の資源ねらいという見方があるが、実は資源はたいしたことはなく、愛国教育を叩き込まれた若者の政府への不満を爆発させないために日本を強く批判しているのだというのが鈴木さんの見立てだ。

もっとも参考になったのは日本人と中国人は見かけは同じだが、価値観やものの見方はまったく異なるという、当たり前ではあるが、つい忘れてしまう指摘だ。

これを象徴するのが、同じ漢字を使っていてもニュアンスが異なり、誤解のもとになる事例だ。

例えば「原則」という言葉は、いわゆる「和製漢語」の一つだが、日本では例外もありうるというニュアンスがあるが、中国では絶対に譲歩できない議論の前提である。小泉内閣の時に田中真紀子外務大臣が、国会で「中国はこのことを原則と主張しており」と発言すると、「単なる原則だろ!」というヤジが飛んだという。こんなところにも誤解を招く落とし穴がある。

中国は被害者意識が強く、加害者になる恐ろしさをしらないという。非常に参考になる本だが、最後に鈴木さんは差別的発想はしないでくれとくぎを刺している。


★レアアース問題

尖閣列島での漁船衝突問題とレアアース輸出制限が重なったのは報復ではない。たまたま時期が重なっただけ。

中国は世界で流通するレアアースの9割を生産しており、小平はかつて「中東には石油があり、中国にはレアアースがある」と語った。

レアアースは世界中に賦存しており、米国やオーストラリア、ブラジルなどにも資源はある。しかしレアアースの採掘の際にトリウムという放射性物質が混入し、環境汚染を引き起こすので、トリウム除去のためにレアアース採掘コストが上がる。

レアアースの価格は中国との競争が激しく長く低迷していたため、中国を除くほかの国はレアアース生産から撤退してしまった。

中国では環境保護規制がなかったため、最大の生産地の内モンゴル自治区の包頭市では工場排水が飲料水に流入するという大問題が起こった。計画採掘が行われていないので、最も条件の良い鉱床から濫掘され、今では中国のレアアース埋蔵量は世界の30%にまで落ち込んだ。

このままではいずれ中国のレアアースは枯渇し、将来は中国は外国から高いレアアースを輸入しなければならなくなる恐れもあるということで、輸出制限を発動したのだ。


チベット問題

チベットは元の時代から中国の領土であり、外国からとやかく言われる筋合いはない。

中国によるチベットの併合は、ダライ・ラマ以下の貴族に搾取されていたチベット人民の解放である。

中国が少数民族を迫害しているという事実はない。むしろ一人っ子政策を適用しないとか、大学の入学にはゲタを履かせるとかで少数民族を優遇する米国のアファーマティブアクションのような政策を実施している。


★劉暁波氏のノーベル平和賞受賞

劉暁波氏は1989年の天安門事件で「国家政権転覆扇動罪」で裁かれて服役中の犯罪者であり、その犯罪者にノーベル平和賞を授与することは、1999年のダライ・ラマのノーベル平和賞受賞と同じ、西側の政治的な意図の表れである。


★中国の経済格差問題と蟻族

小平は社会主義市場経済を推し進めることにより「格差の出現も一時的にはやむを得ない」と言った。その後の経済発展により経済格差は拡大した。江沢民政権は2000年になって西部大開発を打ち出し、沿岸部と内陸部の経済格差是正に着手した。

しかし格差問題は、「都市部と周辺農村部」、「勝ち組と負け組」、「企業経営者と労働者」といった複雑な様相を見せてきて、江沢民政権は格差解消にはさじを投げた。

都市と農村部の格差は拡大しており、農村部では一日100円以下の貧しい生活をしている住民が大勢いる。都市部でも地方から出稼ぎに来ている農民工は、病気になってもまともな治療が受けられないほど貧しい。黒診所という無許可の診療所に行き、満足な医療が受けられず死亡するケースも出てきている。

都市部のもう一つの問題は、大学を卒業してもホワイトカラーの就職口が少ないので、まともな職業に就けないため大勢で狭い部屋に暮らす蟻族と呼ばれる若者が急増している。

蟻族はインターネットを使い慣れているので、何かあるとインターネットで「炎上」するような騒ぎを起こしがちだ。

政府は経済格差で国民の不満が爆発することを最も恐れており、蟻族は政府がもっとも警戒している対象である。国民の不満が中国政府に向けられないように、時にはパフォーマンスも必要となる。尖閣列島の中国漁船衝突事件の時のように、日本を強硬に非難し、真夜中に丹羽中国大使を呼びつけるなどのパフォーマンスを行っているのはそのあらわれと見られる。


★人民元問題

アメリカが人民元の切り上げを迫ってきているが、日本がプラザ合意以降の円高で競争力を失い、日本経済が停滞に陥った例も見ているので、中国は日本の轍は踏まない。

当時の日本のように中国はアメリカ国債を大量に保有しているので、切り上げれば損失が発生する。投機マネーに狙われることになるので、一気の切り上げは危険だ。切り上げで中国経済が冷え込むと、各国の対中輸出に影響が出るという問題もある。

中国は2007年にそれまでの1ドル=8.28元という固定相場をやめ、通貨バスケット制に移行した。その後だんだんに人民元を切り上げ、現在は1ドル=6.5元となっている。

日本円は1971年に1ドル=360円から、308円に切り上げられ、変動相場制に移行直後の1973年に260円となり、1995年の79.75円まで円高が進行した。日本が変動相場制で急激な円高に苦しんだ歴史を見ているだけに、中国は為替レートを一気に切り上げるのには慎重なのだ。

一方中国はドルが基軸通貨である体制にも疑問を持っており、ロシアのプーチン首相と二国間の決済はそれぞれの通貨で行うことを発表し、ドル離れに一歩踏み出している。


★環境問題

中国は環境問題を深刻に受け止めている、しかしそもそも先進国の企業が中国に進出して工場をつくって製品を作りまくったから環境問題が発生したのだ。一人当たりの温室効果ガスの排出量は中国よりもアメリカのほうがはるかに多い。


中国では水道水は汚染されていて飲めないとか、土壌も汚染されているので野菜なども安全性に問題が生じ、野菜が洗える洗濯機まで売り出されている。

生活にゆとりのある中国人は、外国のミネラルウォーターを飲み、外国産の米や野菜を食べる。日本の有機野菜などは値段が高くとも中国で人気があるという。

日本は衛生面で中国に信頼されているので、日本製の粉ミルクなどはよく売れる。日本は自らの努力で環境汚染問題を克服し、経済成長も両立させたという高い評価がある。

米国のネットメディア・ハフィントン・ポストは2010年9月に世界で汚染が進んだ9つの地域のナンバーワンとして山西省の臨汾市を挙げ、汚染が最悪で洗濯物を干すと、夕方には黒くなっていると指摘している。まるで筆者の住んでいた米国の鉄の町ピッツバーグの1940〜1950年代頃の姿の様だ。

中国では旧式の石炭火力発電所が各地にあり、日本の発電所では100%装備されている脱硫・脱NOX設備を備えていない。急増する自動車からの排気ガスもあり、大気汚染がひどいのだ。

比較のために、中国と日本のエネルギー構成のグラフを紹介しておく。中国の石炭依存度の高さが際だっていることがわかる。

energy balance China






energy balance Japan







★中国には共産党以外にも8つの政党が存在するが、それらは全部ひっくるめて民主党派と呼ばれ、原則として共産党の友党で、すべて共産党と協調して政治を動かそうという立場である。

習近平

次期主席と目される習近平氏は1953年北京生まれ。清華大学化学工学部を卒業した後は、政治家秘書として活動。浙江省、上海市の行政トップを歴任し、江沢民に引き立てられた。

習近平の父親の習仲勲は共産党政治局常務委員までなった人物だが、1966年の文化大革命で失脚し、習近平自身も辺鄙な農村の人民公社で農作業に従事した。

いわゆる太子党と呼ばれる有力者の子弟だが、父親の権力を利用せず、地方政府に職を得て、下働きから始めたということでおおむね国民から好印象を持たれているという。

習近平の奥さんは有名な歌手の彭麗媛(ほうれいえん)だ。人民解放軍の少将で、総政治部歌舞団団長というポストだ。習近平が廈門市長だった1986年に結婚した。

胡錦涛などの共産主義青年団(共青団)出身者の「共青団派」と江沢民をトップとする「上海閥」は権力闘争を繰り広げているが、今のところ「上海閥」の習近平が胡錦涛の後継者となる路線に影響はないようだ。


★靖国問題

中国への侵略戦争を実行した戦犯を祀る靖国神社へ日本政府要人が参拝するのは、侵略戦争を正当化するのに等しい行為。特に小泉元首相が靖国参拝をしたのは絶対に許せない。中国側の配慮を無視した裏切り行為だった。

あの侵略戦争は日本の一部の軍国主義者がやったことで、日本国民はだまされた被害者だ。そこまで譲歩した理屈をつくってあげているのだから、軍国主義者を祀る神社への参拝は辞めて貰いたい。


中国では1980年代から「愛国教育」と称して小中学生の教科書にかなり大きく「南京大虐殺」を取り上げている。中国人にアンケートを取ると、日本で思い浮かぶことのトップが「南京大虐殺」の65%という結果が出ている。

戦後日本は中国に対して20回以上も謝罪や侵略戦争に対する反省を公にしているが、中国人の多くは「日本人は口では謝罪していても心の中では反省をしていない」と思っている。

先日図書館で借りて「靖国」という映画を見た。台湾人監督が隠しカメラで盗み撮りしたような映画で、何かの記念日で旧軍人が軍服で行進する場面もあり、日本人はいまだに軍国主義者ばかりだと思わせるような内容だった。

靖国 YASUKUNI [DVD]靖国 YASUKUNI [DVD]
TOブックス(2010-09-24)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

胡耀邦総書記は靖国問題が原因で失脚したと言われている。胡耀邦総書記は中曽根首相と仲が良かったが、その中曽根首相が終戦記念日に靖国神社を参拝したので、窮地に立たされた。

胡耀邦総書記は日本の戦犯に対しても「愛国主義者だったが、あまりにも狭い考え方で国を誤った。つまり『誤国主義』に陥り、多くの人に災いをもたらした」として、日中両方の若者に愛国心と国際的な広い視野の両方を身につけるように求めた。

しかしこの考えは中国人には到底受け入れられる考えではなかった。靖国問題が契機となり、胡耀邦総書記失脚したので、中国の政府中枢にいる政治家は、「日本に甘い顔をするとひどいめに会う」との思いを強めたという。

ちなみに天安門事件の契機は改革派の胡耀邦総書記が死去したことを悼む学生が天安門の前に集まったことだ。

胡錦涛も胡耀邦に引き立てられた人物なので、過度の愛国心には警戒感を持ち、歴史問題は蒸し返さないという立場だった。しかし小泉首相が靖国神社を繰り返し訪問したことで、江沢民前主席らが胡錦涛を攻撃し、「軟弱姿勢を示したせいで、日本は対中外交の原則を踏みにじった」と非難され窮地に立たされた。

首相が靖国神社を訪問しただけで、どうしてそんなに中国が大騒ぎするのか日本人には理解出来ない部分もある。これは中国共産党の正当性の最大の根拠が「日本の侵略から中国を守った。共産党にしかできなかった偉業だ」ということだからだ。

つまり日本との関係回復と、戦争責任問題のジレンマを解決する論理が、「すべての責任は日本の軍国主義者にあった。日本の人民は中国の人民と同様に、戦争の被害者だった」というものなのだ。

日本と国交を樹立し、友好関係を築くにあたっての中国側の論理は、「日本に軍国主義者はいない。過去の戦争については反省している。だから対等の立場でつきあえる」というものなのだ。だから日本の首相が靖国神社を参拝すると国内的にも説明できなくなってしまうので、日本を厳しく非難するのだ。

中国の政治指導者は立場上「戦争責任はすべて”軍国主義者”に負って貰うことにした。そのシンボルはA級戦犯だ。日本の立場を考え、互いにうまくいくようにしたじゃないか」とは言えない。

心の底では「日本の政治かはどうして、こんなことを問題にしてしまうのか。避けようと思えば、避けられるではないか。政治センスのかけらもない」と舌打ちしているのだろうと。

中国には悪いことが起きると、問題を発生させた本人にすべて責任を押しつけることが一般的で、4人組が良い例だという。文化大革命では4人組以外の多くの人が加わったのだが、罰せられたのは4人組を中心とした一部の人だけだった。

つまり「悪いのはすべて4人組」は免罪符の機能があり、日中関係でも「悪いのはすべて軍国主義者」が免罪符となるのだ。

「死者を鞭打たない」という考え方は中国にはない。むしろ死者の墓を暴くことが歴史上頻繁に行われている。伝統的な発想の違いも問題がこじれる大きな原因となっている。


★北朝鮮問題

中国と北朝鮮には朝鮮戦争以来の血の友誼(ゆうぎ)があるといわれている。これは朝鮮戦争の時に中国が人民志願軍を送って共に戦ったことから生まれた意識だが、実際にはイデオロギー的な連帯感はない。

中国は北朝鮮を何かと守ってきた。しかし北朝鮮は中国の言うことを聞かずに、核実験やヨンビョン島を砲撃したりして暴走している。これには手を焼いている。

それでも北朝鮮に崩壊して貰っては困る。そうなると米軍の駐留する韓国と国境を接することになる。それだけは避けたいので、北朝鮮に生きながらえて欲しいというのが本音だ。


中国には根強い反韓感情があるという。韓国が中国文化を横取りして世界遺産に登録しようとしていると警戒する中国人が多いという。サーチナが行ったアンケートでも、「韓国も北朝鮮も両方とも嫌い」が最も多く32%を占め、残りは「北朝鮮が好き」、「両方好き」、「韓国が好き」がほぼ同数の15%ずつだった(残りは無回答)。

つまり両方好きを入れても、北朝鮮を好きな中国人は30%しかおらず、北朝鮮を嫌いな人はほぼ50%に上るのだ。

中国政府はかつて1990年代に中国東北地方を活性化させるために、「環日本海経済圏」構想をぶちあげ、ロシア、中国、北朝鮮、日本、韓国で経済圏をつくるべく大プロジェクトを推進しようとした。しかしロシア・北朝鮮が関心を示さなくなり、構想が宙に浮いたという苦い経験がある。


★中国人の意識

この本のまとめとも言えるのがこの部分だ。次にこの本の中国人の言い分を紹介しておく。

scanner035













出典:本書205ページ

「被害妄想」、「上に政策中国は国際ルールを長年無視してきたが、最近は著作権などのルールを守る様になってきたという印象がある。中国人の根底には、欧米や日本に長らくいじめられてきたという被害者意識があるという。

4000年も続く歴史を持ち、かつては世界一の大国だったというプライドがあるので、清朝の末期に列強や日本が侵略行為を繰り返したのは許し難いことだという意識がある。

特に日本には日清戦争で負けて領土を取られ、日露戦争では戦争に参加していないにもかかわらず主戦場とされ、日中戦争では攻め入られたという意識がある。第2次世界大戦後も共産主義が世界から非難されたこともあり、国際法には不信感を持っているという。

さらに中国人には「上に政策あれば、下に対策あり」という言葉があり、良くも悪くもルールを疑ってかかり、方の抜け道を考え出すことに長けている国民性がある。

「事情変更の原則」といったところだ。

さらに鈴木さんは中国人を「交渉上手の宣伝下手」という。宣伝下手というのは、国際的なルールやエチケットを知らないことから誤解を招く行動が多いということだろう。

もっとも、これは今の中国には当てはまるが、たぶん戦前の中華民国の政治家には当てはまらないだろう。筆者は常に感じているが、戦前の日本に蒋介石宋子文のような国際感覚あふれる政治家がいたら世界は変わっていたのではないかと思う。

中華民国の政治家は堕落していたが、金は持っていたので宣伝は上手だったと思う。

しかしそれでも米英のふところには入れず、トルーマンから見放され、蒋介石の率いる中華民国が台湾に退去する結果となったことは、歴史の事実である。

中国共産党の方が、ソ連の支援を受けて日本の関東軍の残した飛行機や戦車、大砲、機関銃などをすべて受け取って軍事力を増強する一方で、汚職のない統治で民衆の支持を得るという政策が功を奏して、1949年10月に中華人民共和国が成立したわけだ。


さすが中国情報サイトナンバーワンのサーチナの編集主幹の本だけあって、中国人の本音がよくわかる参考になる本だった。筆者が読んでから買った数少ない本の一つである。


参考になれば投票ボタンをクリックして頂きたい。

  

  
Posted by yaori at 13:10Comments(0)TrackBack(0)

2011年08月25日

われ日本海の橋とならん 中国で最も有名な日本人 加藤嘉一さんの本

われ日本海の橋とならんわれ日本海の橋とならん
著者:加藤 嘉一
ダイヤモンド社(2011-07-23)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

以前紹介した一新塾のメンバーの友人から紹介されて読んでみた。

明治時代、新渡戸稲造は、アメリカ留学に際して「われ太平洋の橋とならん」と語ったという。

それにならって、”中国で一番有名な日本人”の加藤嘉一(よしかず)さんが、中国政府の官費留学生として北京大学に学び、大学院まで卒業した自らの経験を紹介し、日本の若者に対し、日本人が海外に出て行くことは”ローリスク・ハイリターン”なのだと、海外への雄飛を呼びかける。

楽天の三木谷さんもツイッターでこの本を紹介していた

「友人に頂き読みましたが。本当に共感するところが多い本でした。このような若者がどんどんとでてこないと!」

書店に並んでいる本には、次のような帯がついている。

scanner099












著者の加藤嘉一さんは、1984年静岡県の伊豆地方の生まれ。現在27歳の若者だ。

山梨学院大学附属高校から提携校の北京大学に中国政府の官費留学生として学部4年間と大学院の2年間学ぶ。(ちなみに学生は全員寮生活で、宿舎費は年間1万3千円、食費は一日15元=200円程度だという)


言葉は世界へのパスポート

箱根駅伝で有名な山梨学院大学の附属高校という校名でピンとくるように、中学時代から陸上競技に打ち込む一方、いずれは世界に出るべく英語勉強にも精を出す。

加藤さんの英語勉強法は、1.毎日辞書を読み覚える。2.自転車通学途上で「一人芝居」で英語会話をする。3.英語新聞を毎日読む。というものだ。中・高時代は、国連職員になるというのが目標だったという。

加藤さんは2003年から北京大学に留学する。ちょうどSARS問題で半年間休講だったので、その間毎日、色々な人と世間話9時間、単語の読み書き2時間、人民日報を音読して暗記、ラジオで中国語放送を聞くという中国語漬けの生活を送って、半年でネイティブなみの中国を話すようになる。

言葉は「世界」へのパスポートであり、その国の人々から受け入れられ、心の永住権を得るためのグリーンカードなのだと。

筆者も全く同感である。筆者は会社に入って3年目でアルゼンチンの研修生として2年間ブエノスアイレスで暮らした。その後米国ピッツバーグには2回にわたり合計9年間駐在した。

「芸は身を助ける」ならぬ「言葉は身を助ける」が筆者の持論だ。


北京大学での学生生活

北京大学の公用語は英語で、英語力とパワーポイントなどを使ってのプレゼン能力は、若者フォーラムで交流のある東大生も舌を巻くほどで、比較にならないという。加藤さん自身も「世界には、こんなにすごいやつがいるのか!」と衝撃を受けたという。

学内のコピー料金は安く、分厚い専門書も200円もあればコピーできてしまうので、学生は英語の専門書や「タイム」や「ニューズウィーク」など海外の雑誌もまわし読みかコピーで必ず目を通すという。


中国のテレビのインタビューで一躍有名人に

中国語がかなりできるようになった2005年4月に、反日デモで日本大使館が投石されたり、日本料理屋が壊されたりした最中に、香港のテレビ局のインタビューを受ける。

インタビューで日中どちらに非があるかを問われ、簡単に現状分析を語り、「外交的な案件であるかぎり、どちらに非があるというようなものではない」と切り返し、「問題解決には相互理解に基づく建設的な議論が必要である」と語った。

その時の受け答えが見事で、中国語が完璧だったことから、中国メディアの取材が殺到し、現在はテレビ局のコメンテーターや中国語版ファイナンシャルタイムズに自分のコラム「第3の目」を持ってコラムニストとしても活躍している。

年間300本以上の取材を受け、100回以上の講演を行い、毎年2〜3冊のペースで出版し、胡錦涛主席とも会見し、胡錦涛主席は加藤さんのブログの読者だという。加藤さんは中国共産党の指導部と個人的にコンタクトできる間柄だという。

中国のメディアは「加藤現象」と呼び、「中国でもっとも有名な日本人」と呼ばれているという。

まさに「言葉は身を助ける」の典型だ。


加藤さんのストライクゾーン

加藤さん自身は次の4つの観点から自分の発言をコントロールしているという。

1.自分は日本人であること。2.ここは中国であること。3.政府・インテリ層にとって価値ある提言であること。4.大衆に伝わる言葉であること。この4つの接点が加藤さんのストラークゾーンなのだと。


中国についての7つのよくある質問

加藤さんは、次の7つのよくある質問から始めている。

1.中国に自由はあるのか? 
民主主義国の日本でも目に見えないタブーがある。中国には天安門事件という最大のタブーがあるが、それ以外は比較的自由だ。

2.共産党の一党独裁は絶対なのか?
中国共産党は7800万人もの党員を抱える世界最大の政党である。民主主義的選挙はないが、政治は国内世論を後ろ盾とする健全な権力闘争が存在し、成果主義が根付いている。

3.人々は民主化を求めているか?
天安門事件で最も流血を見たのは北京大学生だった。人々は現実主義者となり、民主主義信奉者は少ない。共産主義も民主主義も手段なのだと考えている。

4.ジャーナリズムは存在するのか?
一部の官製メディアを除き、地方メディアは独立採算、これにインターネットメディアが加わる。天安門事件という最大のタブーはあるがそれ以外は誰にもコントロールはできない状態だ。

ちなみに中国にはGoogleもFacebookもYouTubeもないが、中国版のGoogle, Facebook,YouTubeの様なサイトがあるので、ほぼ同じサービス・情報が得られるのだと。

5.本当に覇権主義国家なのか?
中国の人口は13億人。13億人をまとめるのは大変な仕事であり、中国の指導者が最も恐れているのは国内の分裂だ。インターネットにより情報統制は不可能となったので、国民の世論が爆発しそうな国家主権と領土保全問題には、強い態度を取らざるをえない。これが中国が「核心的利益」を追求する背景だ。

6.途上国なのか超大国なのか?
経済規模はアメリカに次ぐ規模だが、いまなお「戦略的途上国」の立場を取るという「ダブルスタンダード」がある。加藤さんは「戦略的途上国」を卒業せよと訴えているという。

先日読んだ「2011〜2015年の中国経済」という東大の田中修教授の本の最後にも”中国は「大国」か”という文があった。

2011~2015年の中国経済―第12次5カ年計画を読む2011~2015年の中国経済―第12次5カ年計画を読む
著者:田中 修
蒼蒼社(2011-07)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

田中教授は「心・技・体」が揃わない中国はまだ大国とはいえないと、加藤さんと若干異なる観点から同様の結論を出していた。

7.反日感情はどの程度なのか?
中国は第2次世界大戦の戦勝国であり、日本軍国主義と戦って勝利し、戦禍と貧困にあえぐ中国人民を解放し、新生中国を建設したのは共産党だという「建国神話」がある。(筆者注:これが「神話」である理由は、日本を倒したのは米国とその圧倒的な武器・物資支援であって、共産党は山の中に閉じこもっていただけという見方があるためだ)

そのため「親日国」ではないが、日本製品の評価は高く、親日的な人もいる。


日中関係について

加藤さんは、尖閣列島沖中国漁船拿捕事件の時に、中国政府がレアアースの輸出停止を打ち出したのは、中国政府が事前にシミュレーションを行って、先手を打ってきたものだと語る。

中国は天安門事件の反省から、1990年代から「愛国教育」を行ってきた。その結果、「反日は正義」と考える若者が「日本の横暴を許すのか!」と爆発してしまう新しいリスクが生じてきている。

中国政府にとって、日本と敵対するメリットはなにもないが、反日は「建国神話」ともつながり、厳しい態度を取らざるを得ないのだ。

だから小泉首相の靖国問題が一段落すると、当時の谷内外務次官と戴秉国(たいへいこく)外交部常務副部長との間で、「日中総合政策対話」を始め、その成果として「戦略的互恵関係」を打ち出した。

これは以前紹介した、宮本前駐北京日本大使の「これから中国とどう付き合うか」に詳しい。

これから、中国とどう付き合うかこれから、中国とどう付き合うか
著者:宮本 雄二
日本経済新聞出版社(2011-01-06)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

その象徴的なできごとが、東日本大震災に際し、中国が日本に初めて救援物資を送り、救援隊を送ったことだ。

中国は3000万元(3.8億円)の救援物資と15名の救助隊を派遣し。約20億円のガソリン、ディーゼルオイル、ミネラルウォーターなどを日本に初めて送った。


「暇人」という政治勢力

加藤さんは若者と並び、失うものを持たない政治勢力があるという。それを仮に「暇人」と呼んでいる。仕事はしないが、不動産はあるので最低限の生活はできる人たちだと。

この「暇人」=政治パワー論は初めて聞いた。まさに北京で学生・民衆と一緒になって生活していないと分からない指摘なのだと思う。


日本の政治不在に警鐘

加藤さんは日本の政治不在にも警鐘を鳴らしている。

中国の四川省大地震の時に、温家宝首相はその日のうちに被災地入りし、胡錦涛主席が5日目に現地入りした。

トップダウンで取り組む姿勢が明らかだし、わかりやすい。

さらに四川大地震の復興には、自治体レベルの復興支援が機能した。たとえば北京市がA市、上海市がB市、天津市がC市という具合だ。

一方日本の菅直人首相が現地入りしたのは23日後、それ以前はヘリコプターで上空から視察しだたけだった。

中国と対比するとリーダーシップ不在の日本の現状が浮かび上がる。中国は3.11以降、トップダウンですべての原発計画を白紙に戻している。


見方がちょっと外人化?

加藤さんは3.11地震の翌週の月曜日にいつも通り通勤する東京のサラリーマンを見て驚いたという。

「今日くらいは家族と一緒に過ごしたらどうなんだ?ここで有給休暇を使わずしていつ使うのか?」。日本人は忍耐心や我慢心が強すぎるのではないかと。

加藤さんに指摘されるまで、そんな考えは思いもつかなかった。筆者自身も家では本棚の本が倒れたり、ランプや飾り皿などが破損するという被害があったが、会社を休むという発想は全くなかった。

IMG_6281











IMG_1323











あの時は日本人誰もが、大地震・津波から一刻も早く"Business as usual"、いつもの状態に戻ろうとしていたのだと思う。その意味で加藤さんの「休みを取る」という発想には違和感を感じる。

やはり日本に住んでいないと、良い意味でも悪い意味でも一般的な日本人のセンスとはズレる部分があるようだ。


若者よ海外に出でよ

最後に加藤さんは、日本の若者に海外に出ようと呼びかける。

具体的にはすべての大学生に2年間の猶予を与え、1年間は海外留学、1年間は社会で介護事業などでインターンとして働くことを提案している。1年間の留学費を後半の1年間の労働でまかなうのだと。

筆者も24歳でアルゼンチンに赴任した。加藤さんのアイデアの実現性はともかく、是非日本人には”ローリスク・ハイリターン”の海外を目指して欲しい。


参考になれば投票ボタンをクリックして頂きたい。

  
  
Posted by yaori at 00:14Comments(0)TrackBack(0)

2011年07月10日

チャイナインパクト 在中国日本大使館経済部アタシェの現場レポート

チャイナ・インパクトチャイナ・インパクト
著者:柴田 聡
中央公論新社(2010-10)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

大前研一氏にも2002年発売の同タイトルの本があるが、こちらは財務省から北京の中国大使館に出向している柴田聡さんによる中国経済の分析レポート。柴田さんは1996年にはスタンフォードでMBAを取っており、2008年6月から北京に赴任している。

柴田さんのお母さんは1944年中国河北省生まれ。祖父がシベリアに抑留されたので、祖母が中国人に助けられて、生まれたばかりのお母さんを連れて命からがら日本に引き揚げたという。中国には縁のある一家だ。


GDPでは中国は世界第2位

2010年に中国はGDP総額では日本を抜き世界第2位となった。

日本と中国のGDPの比較がこの本に載っているので紹介しておく。中国の経済規模が日本の半分になったのは、わずか5年前のことだ。しかし日本がマイナス成長を繰り返している間に、中国は10%以上の成長を遂げ、遂に日本を追い抜いたのだ。

scanner036






出典:本書25ページ


4兆元(60兆円)の緊急経済対策

リーマンショック後、いち早くV字回復し、世界トップクラスの経済成長率を維持している中国経済の強みは「政経一体システム」にある。4兆元(60兆円)という内需拡大策のほとんどはインフラ投資だ。同時に個人消費拡大のための自動車取得税減税と農村への家電普及補助金を導入し、これらも大成功を収めた。

4兆元はGDPの13%に当たる金額で、日本や米国の緊急対策がGDPの1−2%に留まっていたことを考えると、規模の大きさは際だっていた。

この4兆元の経済対策は次の10項目だ。

1.低所得者向け住宅等の建設

2.農村インフラ建設 ー 全体の9%

3.重要インフラ(鉄道、道路、空港等)の整備 ー全体の45%

4.医療、教育等の民生事業の強化 ー全体の1%

5.環境対策の強化(汚水、ゴミ処理、省エネ、CO2排出量削減)

6.産業構造改革の加速(技術革新、リストラクチャリング)ー 全体の4%

7.四川省地震地区の災害復興の加速 ー 全体の25%

8.都市農村住民の収入向上(農産物最低買い上げ価格の引き上げ等)

9.減税措置(増加値税改革の全国実施等)

10.経済成長のための金融による下支え強化(商業銀行の与信貸出制限撤廃等)

これを発表したのが最強の経済官庁・「国家発展改革委員会」のトップの張平主任だ。

自動車は2003年の100世帯当たり1.4台から2009年には10.4台に急増。カラーテレビは農村部100世帯当たり、1990年の5台から、2009年には109台となり、一世帯に一台以上になってきた。それでもGDPに占める消費の比率は36%(日本は60%)に過ぎず、まだまだ伸びる余地がある。


中国政府は「巨大不動産デベロッパー」

中国政府が思い切った内需拡大策を実施出来る理由の一つは諸外国と比べて格段に低い債務比率である。さらに土地は国有だが、利用権を売買するという形で、地方政府自体が「巨大デベロッパー」として、日本でいう第三セクター方式(地方融資プラットフォーム)で土地利用権を使っての錬金術ができることだ。

内陸部への開発が進めば進むほど、地方政府は土地の使用料を高く売れ、それゆえ巨大開発を促進できるというエンジンとなっている。


中国経済のリスクは多い

中国経済のリスクは、不動産バブル、地方政府の債務償還能力の低さ、土地依存財政、労働コストの大幅上昇(北京市の最低賃金は2割引き上げられ、1万3千円/月となった)、大規模ストライキ、投機資金の流入などが生じている。


しかし、長年の課題となっていた不良債権問題は、主要金融機関に巨額の資本注入を行って、不良債権比率を2002年の26%から1%にまで低下させて解決した。日本のバブル後の不良債権比率が8.4%だったことを考えると26%は非常に高い数字だが、これを今や1%に抑え込んだ。

その結果4大銀行の中国政府持ち株比率は次の通りだ。

中国銀行   68%
中国工商銀行 35%
中国建設銀行 57%
中国農業銀行 50%

その上で外貨準備を使って2007年9月に2,000億ドルの中国版SWF(政府系投資ファンド)のCICを設立し、ブラックストーン、モルガンスタンレーに出資するとともに、金融機関への出資金を引き継いだ。

中国のSWFともいえる国家投資の関係図は次の通りだ。

scanner037









出典:本書229ページ

2007年にブラックストーンとモルガンスタンレーに投資しているが、これはリーマンショックで高値づかみとなり、2008年はマイナス2%と赤字だったが、2009年の投資利回りは11.7%と回復している。


日本のバブル処理を徹底研究

このように日本のバブル処理を研究した中国政府の経済運営手腕は見事なものがある。

「経済刺激策で最も避けるべきは、途中で投げ出すことであり、元日本銀行総裁の速水優氏のように落とし穴に陥ることである」と経済誌は解説し、日本のバブル崩壊後の経済政策を研究しつくして、歴史の教訓としていたという。

「日本はアメリカの圧力を受けて大幅な円高を受け入れた結果バブルがはじけて経済がダメになった」と、中国の経済学者からよく聞かされるという。

しかしこれは途中の金融緩和による過剰流動性がバブルを起こし、その後の不良債権の大量発生につながったというプロセスが省略されている。

中国の輸出がGDPに占める比率は33%と極めて高く、日本の倍だ。人民元を切り上げれば、輸出競争力にモロに影響する。従って人民元問題は国際問題であるとともに、雇用・社会安定に直結する国内問題なのだ。


消費エンジン拡大が今後の成長のカギ

2010年は輸出主導の規模拡大路線の限界に来ており、消費を成長エンジンに転換する時期だと柴田さんは語る。中国の個人消費のGDP比率は2009年で36%で、アメリカの7割超はもとより、ブラジルの60%、インドの54%と比べても低い。

まだまだ消費を伸ばす余地はあるのだ。その一つがサービス業の発展である。北京や上海等の一部大都市を除けば、近代的な流通業は普及しておらず、コンビニもスーパーマーケットもない都市がまだまだ多い。


中国の問題点

グローバルに通用する一流企業がほとんどない。中国移動通信、中国石油など、資産規模や株価総額で世界トップクラスの企業はあるが、華為(ファーウェイ)を除くとほとんどグローバル企業がない。

他にも地域経済格差、農村部の貧困と高齢化、裁判官の独立性がないなどの問題点は多い。

中国はGDPの総額では世界NO.2となったが、ひとりあたりGDPでは100位にも入っていない。中国はその意味ではまだまだ発展途上国なのである。


日本の生きる道

2010年に中国に抜かれた日本経済の先行きを悲観する人もいるが、柴田さんはむしろ日本のすぐ近くにある中国という巨大市場を利用して、中国の台頭という歴史的好機を逃がさず、中国の成長によってもたらされる冨を吸収していくことが大事だと語る。

日本も中国も歴史問題や尖閣列島問題など様々な隣国であるがゆえの感情問題はあるが、経済大国同志で冷静な判断のもとに互恵関係を保ち、米国、EUに匹敵するアジアという大経済圏の構築を目指すべきだと柴田さんは提言している。


読みやすくよくまとまっている中国経済レポートである。


参考になれば投票ボタンをクリックして頂きたい。



  
Posted by yaori at 01:16Comments(0)TrackBack(0)

2011年05月18日

これから、中国とどう付き合うか 宮本・前駐中国大使ソフトパワー交流のススメ

+++今回のあらすじは長いです+++

これから、中国とどう付き合うかこれから、中国とどう付き合うか
著者:宮本 雄二
日本経済新聞出版社(2011-01-06)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

昨年まで駐中国日本国全権大使を勤められ、伊藤忠出身の丹羽さんと交代した宮本雄二大使の中国関係論。宮本大使は外務省のいわゆるチャイナスクールの代表格だ。

「中国と予測可能な協力関係を築くことができる稀有の機会」が出現していると宮本大使は強調する。

尖閣列島中国漁船衝突事件などの問題が生じるにつけ、日中間では深刻な問題が存在しているように思う人が大半かもしれないが、2008年の胡錦涛国家主席の来日時に福田首相と署名した日中共同宣言に定められた「戦略的互恵関係」で、日中関係は新しい時代を迎えた。


日中間のもめごと

1972年の日中国交回復以来、宮本大使は日中間のもめごとを次のように整理している。

1.歴史問題
2.領土問題
3.台湾問題
4.海洋進出と海軍の増強問題

3.の台湾問題については、「ひとつの中国」は常識中の常識であり、台湾が祖国復帰しないかぎり、屈辱の歴史は終わらないというのが絶対法則だ。日米にとっては、中国の立場に配慮しながら、台湾との関係を可能な限り残すというのが交渉ポジションとなる。最後の4.は最近加わったものだ。

日中間の特有の問題は1.の歴史問題だけで、他の問題は他の国も中国との間に抱えている問題である。

この歴史問題の整理がついて、「日中戦略的互恵関係」樹立が可能となった。しかし、これからも日中関係は平穏無事とは限らない。日中の国民感情も脆弱なので、対立や紛争を回避する努力を今後も行う必要がある。

日本が中国にとって必要な無視できない存在であり続けるためには、科学技術や快適な社会をつくりあげるソフトパワーの強化が急務である。

特に科学技術の分野では日本は中国の一歩先を歩まなければならない。中国問題は日本自身の問題なのだ。

宮本大使の好きな言葉だという「等身大」の相互理解を進めるためにも、歴史を振り返り、相手をより正確に理解し、問題を正確にとらえ、新しい時代の日中関係を考えようというのがこの本の趣旨だ。


中国のクイックレビュー

中国は日本の国土の25倍、アメリカとほぼ同じだ。人口は日本の10倍の13億人、55の少数民族が居て、人口の90%は漢民族である。

中国共産党一党支配の国で、共産党は4つの基本原則を掲げている(中国共産党の党員数は7,500万人)。

1.社会主義
2.中国共産党の指導
3.人民民主独裁
4.マルクス・レーニン主義と毛沢東思想

毛沢東死後、華国鋒が毛沢東の「2つのすべて」(1.毛沢東の決定はすべて変えてはいけない。2.毛沢東の指示にはすべて従う)を打ち出した。これに対して小平が論戦を挑み、勝利した。

小平は「黒猫で白猫でも、ネズミをとればよい猫だ」と語り、改革開放政策を推し進めた。その後ソ連の書記長に就任したゴルバチョフがペレストロイカ(改革)を開始、ソ連・東欧に改革の嵐が吹き荒れ、中国でも1989年に天安門事件が起きた。

天安門事件で民衆を武力で弾圧してからは、政治的には保守化した。この状況に小平は危機感を強め、さらに経済の大胆な改革を推し進めるよう「南巡講話」を発表した。政治的には保守化傾向は変わらなかったが、独特の社会主義市場経済は発展し、現在の中国の発展に繋がる。

中国共産党の適応能力は高いが、腐敗と汚職はむしろ悪化している。中国共産党は憲法の適用を受けないという位置づけになっているからだと宮本大使は語る。

中国の友人には「いくら名医でも、自分の病気の手術はできない」というたとえで説明してきたという。今の体制のままでは、原因は突き止められても、除去はできないからだ。

この本で宮本大使は、外務省のチャイナスクールの主要メンバーとして、中国との外交交渉に通訳兼担当官として携わった当時のエピソードを披露していて興味深い。

1969年のダマンスキー島附近での中ソ武力衝突の後、中国はソ連の核攻撃の危険にさらされていた。それが中国が米国にアプローチしてくる原因となったが、日本との交渉でも「反覇権条項」を入れるよう求めてきたという。

この本では1972年の日中共同声明、1978年の日中平和友好条約が参考文書として添付されている。


小平と日本の経済協力

中国の現在の開放経済は小平がグランドデザインを書いたと言える。小平は2度失脚して、2度復活している。

小平は1956年に党中央書記処総書記となり、毛沢東が大躍進政策の失敗の責任を取って公務から退くと、国家主席の劉少奇と一緒に中国経済の立て直しに尽力した。文化大革命が始まった直後の1968年に総書記を解任され、翌年江西省南昌に下放される。これが第1回目の失脚だ。

江西省南昌では暖房もない住居で、トラクター工場や農場での労働に従事させられたという。

1973年に周恩来に呼び戻され、国家副主席として復活する。1974年には国連資源総会に中国代表団の団長としてアメリカを訪問し、アメリカの偉容に驚嘆する。

しかし1976年に周恩来が死去すると、周恩来追悼に集まった民衆を四人組が送った軍隊が弾圧するという第一次天安門事件が起こり、四人組によって再び失脚させられる。

1976年9月に毛沢東が死去すると後継者の華国鋒が四人組を逮捕し、1977年に小平は2度目の復活を果たし、国務院常務副総理、党副主席、中央軍事委員会副主席兼人民解放軍総参謀長に正式に復帰する。

1978年10月に日中平和友好条約の批准書交換のために中国のトップとして初めて日本を訪れ、昭和天皇や日本政府首脳と会談したほか、新日鉄君津製鉄所、東海道新幹線やトヨタ自動車などの視察を行なった。

そのとき、小平の頭のなかの中国現代化のイメージが、すでに現代化を達成していた日本と重なった。中国現代化の最も重要なモデルのひとつに、日本が選ばれた瞬間である」と宮本大使は表現している。

小平は日本からの帰国直後の1978年12月の第11期三中全会で、「改革開放政策」を打ち出し、圧倒的な支持を得て、中国の最高権力者の座を確保する。

ちなみに尖閣列島は歴史的にも国際法的にも日本の固有の領土だとという立場を取り、実行支配をしている。これに対し中国(台湾も)は1971年から自国の領土だと主張し始めた。

その後小平は棚上げによる共同開発案を出し、これが中国政府の公式見解として現在に至っている。


中国を一貫して支援してきた日本

小平の路線の延長が現在の中国の発展だ。中国は日本のGDPを超えるほどの経済的成功を収めているが、宮本大使は中国の改革開放の道のりは決して平坦なものではなく、困難な時期にある中国を一貫して懸命に支えたのは日本だけだった。

★1970年代後半の改革開放政策初期の頃、中国に資金と技術の支援をしたのは日本だけだった。このころの日中友好の証しが、上海の宝山製鉄所だ。

筆者は1983年に宝山製鉄所を訪問した。たしか当時はまだ高炉が完成していなかったと思う。

上海の川向うにある宝山製鉄所がある場所は、今は浦東地区として高層ビルが立ち並ぶ近代的な地域で、1980年代は高層の建物は全くなかったと思う。

宝山寶館というホテルがあり、技術支援していた新日鉄のエンジニアがたくさん宿泊していた。そこで中国側の人と昼食を一緒にした覚えがある。

宝山製鉄所の建設は、一旦新日鉄や三菱重工、石川島播磨重工業などから主要設備を購入する契約が結ばれたあと、中国が外貨不足でキャンセルするという話が出てきて、宙に浮きそうになった。

新日鉄の人は、そんな契約を後でキャンセルしたり、変更したりという国際ビジネスマナーを守らない中国と根気強く付き合い続けた。その結果、現在の宝山製鉄所があるのだ。このあたりは「大地の子」でも取り上げられているストーリーだ。

大地の子 全集 [DVD]大地の子 全集 [DVD]
出演:仲代達矢
NHKエンタープライズ(2002-09-06)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る


★1989年の天安門事件で世界から孤立した中国に最初に手をさしのべたのも日本だった。

★1999年中国のWTO加盟に際し、主要国のなかで最初に加盟の支持を明したのも日本だった。

これらの事実は中国の人たちにも正確に理解し、記憶しておいて欲しいと宮本大使は語る。

日本は中国に対して1980年から2008年まで3兆3164億円の円借款、1530億円の無償資金協力、1670億円の技術協力を行った。


感謝にこだわる日本、お詫びにこだわる中国

宮本大使は「感謝にこだわる日本、お詫びにこだわる中国」と評しているが、日本からの巨額の援助に対して、最近になって胡錦涛主席・温家宝首相が日本に対する感謝を表明するようになってきた。宮本大使は素直に評価したいと語る。

胡錦涛主席は2008年5月に早稲田大学で演説し、次のように語った、

中国の近代化建設において日本政府は、中国に円借款協力を提供し、中国のインフラ建設、環境保護、エネルギー開発、科学技術の発展を支持し、中国の近代化建設を促進するうえで積極的な役割を果たしました。

日本各界の方々は、さまざまなかたちで中国の近代化建設に温かい支援を提供しました。大勢の日本の方々が中日友好事業のために心血を注がれたことを、中国人民は永遠に銘記します。」


この感謝の演説が「戦略的互恵関係」という新しい日中関係の基礎となったのである。

歴史問題を正しく理解する

中国では1972年の日本との国交正常化を前に、一部の軍国主義者と一般国民・兵士を区分する二分論が考え出されたという。

中国が愛国主義教育をしているから対日感情が悪化しているという見方もあるが、宮本大使は、両親や祖父母から伝えられたものも含めた日本の対中侵略時の原体験に対する痛みや恨みが根底にあることを日本人は決して忘れてはならないと警告する。

英語で言えばファミリー・ストーリーなのだと。中国で仕事をする人は、中国人の痛みに対する理解がないと中国人とのコミュニケーションは不可能だろうと。

宮本大使は1972年の日中国交回復交渉から関係者だったので、田中角栄首相訪中の時の「ご迷惑」発言に、中国側が表現が軽すぎると騒然となったことや、1982年の「第一次教科書問題」(「侵略」を「進出」に変えた)、1986年の「第2次教科書問題」(日本を守る国民会議」編纂の高校日本史教科書の認定問題)などの経緯を振り返っている。

2001年4月に成立した小泉内閣では、首相の靖国訪問が日中関係を悪化させたのは記憶に新しい。小泉首相は、首相に就任した初年度は、2001年8月13日に靖国神社を訪問し、8月15日を避けたことを中国側は「留意」したことになっていた。

しかし2002年4月に小泉首相は海南島のボーアオ・アジア・フォーラムで朱鎔基総理と会談した9日後に春季例大祭にあわせて靖国神社を訪問する。この一件で、朱鎔基総理はメンツを失ったという話は、宮本大使が中国の友人から何度か聞かされたという。

小泉首相在任中は靖国神社参拝のたびごとに日中間の問題が起こり、サッカーのアジアカップでの反日応援や、日本の国連常任理事国入りに反対する各地での反日デモが暴徒化したことなどが思い出される。

小泉首相は、靖国参拝以外の対中政策はリベラルだったが、靖国問題でここまでやられると中国は振り上げた拳をおろせなくなってしまったというのが実情に近いのではないかと宮本大使は語る。

温家宝首相の明確な靖国神社訪問取りやめ要請にもかかわらず、小泉首相は2005年10月に5回目の靖国神社参拝を実施する。すべての日中間の外交交渉はキャンセルされ、新華社は2005年を日中関係で最悪の年と論評したという。


日中戦略討論のスタート

それでも2005年5月から外務省の谷内事務次官と、戴秉国(たいへいこく)外交部常務副部長との間で、「日中総合政策対話」を始めることとなり、これが「日中戦略対話」となり、その後の日中関係を改善する上で重要な役割を果たした。

2006年4月宮本大使は、駐中国日本国全権大使として3度目の北京勤務の辞令を受けた。日中関係は様々な問題で最悪の時期だったが、谷内次官からは次のように言われて勇気づけられたという。

「外務省の同僚でも、日本外交はいま袋小路に入って先が見えないと暗い顔をしている。しかし自分はそうは思わない。いまやっているのはオセロゲームであり、牌の色が一枚変われば全部が変わる。その一枚が中国だと思っている。全力を挙げて対中関係を改善する決意だ。君には中国でそれを支えて欲しい。」

日本の安全保障理事会入りを阻止しようと、中国はアジア、アフリカ、中南米で穏やかな仮面を脱ぎ捨て怖い顔をさらけ出してしまった。これは中国外交の失敗だった。

日中関係がこのままなら、中国の国益を損なうことがはっきりしてきて、胡錦涛主席が2006年3月に表明した「和すればともに利益し、戦えばともに損す」という考えに中国側もなってきた。


安倍内閣が転機

小泉総理は首相任期の最後に念願の8月15日に靖国神社を参拝し、日中関係をこれ以上ない悪化の状態に落とし込んだ。代わりに後任の安倍首相が就任直後に中国を訪問し、「氷を割る旅」で日中関係を新しいステージに導いた。谷内次官と戴秉国副部長の信頼関係と、二人が双方の政治指導者の信頼を得ていたことが「氷を割る旅」を実現した。

谷内ー戴秉国ラインについてははこのブログで紹介した元NHKの手嶋龍一さんの「葡萄酒か、さもなくば銃弾を」に詳しい。

葡萄酒か、さもなくば銃弾を葡萄酒か、さもなくば銃弾を
著者:手嶋 龍一
講談社(2008-04-25)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

宮本大使は、戴秉国氏が事前交渉のために訪日する際に、この任務に成功したら銅像を建てると約束してしまい、戴秉国氏から催促されて困っているという。

安倍訪中時の共同発表で、「戦略的共通利益に基づく互恵関係」という言葉ができ、これが後の「戦略的互恵関係」という日本側が提案したキーワードに結びつく。

2006年10月の安倍総理の「氷を割る旅」に続き、2007年4月の温家宝首相による「氷を溶かす旅」、2007年12月の福田首相による「春を迎える旅」、2008年5月の胡錦涛主席による「暖春の旅」と続くのである。

温家宝首相による代々木公園でのジョッギング、太極拳、立命館大学での野球、京都での農家訪問、福田首相の北京大学での公演後の絶妙な質疑応答と孔子の故郷曲阜訪問、胡錦涛主席の早稲田大学訪問と福原愛選手との卓球、パナソニック本社訪問など、近くで見ていて宮本さんには多くの思い出があるという。

この本の資料として2008年5月の胡錦涛訪日に際しての「『戦略的互恵関係』の包括的推進に関する日中共同声明」が添付されていて興味深い。


戦略的互恵関係の意義

戦略的互恵関係について詳しく宮本大使が解説している。

この新しい関係によって、中国は日本を「平和国家」と公式に認め、日本の軍国主義が復活することはないと結論づけられたことの意義が大きい。いわば「モグラたたき外交」から「攻めの外交」に転換することができたのだと。

1世紀という時間の中でも、そう何度も訪れることのない貴重な機会であり、この機会を逃すべきでないと。

歴史問題が、中国では若い世代の民族主義感情を煽り、強い反応を引き起こし、逆に国内の安定に影響を及ぼす図式になったことも、「歴史カード」が使いにくくなった理由の一つだ。

宮本大使は相互理解の大切さを訴えている。中国人の日本研究家は、「中国人は戦前の日本しか知らず、日本人は隋唐の中国しか知らない」と言っていたという。


その他の特記事項

★宮本大使の大学の恩師の高坂正堯さんの印象に残る話があるので紹介しておく。高坂さんはニュースを見たり、聞いたりしないという。時間の無駄だと。毎日のトップニュースのなかで将来の歴史書に書き残されるものは、ほんのわずかで、人類の歴史という観点から残すべき重要な話はほとんど起こっていない。であれば、歴史書を読んだ方がためになる。なぜなら人類が重要だと考えたことだけが記されているからだと。

3月11日からの福島原発事故のテレビ報道を見ていて、筆者も高坂さんの考えに同感だ。原発報道を見ていて、最初から炉心溶融は間違いないと思っていたのは筆者だけではないだろう。地震直後は1号機、3号機の冷却ができず燃料棒が露出しているという報道だった。

誰もが炉心溶融を思ったのに、NHKなどのマスコミは休止中の4号機の使用済み燃料プールの冷却問題、自衛隊ヘリコプターのセミのションベン報道に移り、全く一号機については報道しなかった。

今頃になって一号機の炉心溶融とか言い出しているが、そんなことは元からみんなが分かっていたことだ。

閑話休題

★中国人に北海道旅行ブームを巻き起こした「非誠勿擾」という映画はこれだ。



★中国では「大砲かバターか」の時代となった。一人から1,000円徴収しても1兆3千億円になるので、こういうやり方で北京オリンピックも上海万博もやったが、人口13億人の中国で一人1,000円配ったとしても1兆3千億円の予算が必要だ。

年金や社会保障を充実させるためには、巨額の資金がかかる。そのことを考えれば、世界に雄飛する軍事大国の建設というのは難しい。

★中国指導部は、ソ連の崩壊を徹底的に分析している。ソ連が崩壊した理由の一つがアフガン侵略に代表される帝国主義的行動である。だから中国は領土を求めることはしない。そして、もう一つの理由はソ連がアメリカとの軍拡競争に敗れて国が疲弊したことだ。

中国は湾岸戦争やイラク戦争での米軍の装備と作戦に驚愕した。軍の近代化は一刻も猶予は許されないが、軍備はあくまで祖国防衛が主眼である。

★四川大地震の時の日本の国際緊急援助隊が死者に黙祷を捧げる姿が、中国国民に与えたイメージは中国人の日本人に対するイメージを変えた。



これ以外にも北京オリンピックの時の入場行進で中国の旗を振ったのは日本チームだけだったとか、女子サッカーで「謝謝CHINA」との横断幕を掲げて、感謝の気持ちを示したりということなどで、日本は「礼の国」だという評価が高まってきた。

宮本大使は、地方交流、青少年交流、観光交流の重要性を挙げて、ソフトパワーの交流の大切さを訴えている。まさに草の根ベースのつきあいが重要なのだ。


さすが中国との外交を長年担当されてきた外務省チャイナスクールの代表格だけある。大変参考になる外交史をふまえた中国との付き合い方論である。


参考になれば投票ボタンをクリックして頂きたい。




  
Posted by yaori at 00:45Comments(0)TrackBack(0)

2011年04月22日

趙紫陽極秘回想録 天安門事件で失脚した趙紫陽主席の肉声

趙紫陽 極秘回想録   天安門事件「大弾圧」の舞台裏!趙紫陽 極秘回想録 天安門事件「大弾圧」の舞台裏!
著者:趙紫陽
光文社(2010-01-19)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

1989年の天安門事件で武力鎮圧に反対して失脚した趙紫陽(ちょうしよう)中国共産党総書記の回想録。2010年1月発刊だ。

アメリカで発売された"Prisoner of the State"という本が原本で、中国では発禁処分になっているという。

Prisoner of the State: The Secret Journal of Premier Zhao ZiyangPrisoner of the State: The Secret Journal of Premier Zhao Ziyang
著者:Zhao Ziyang
Simon & Schuster(2010-05-18)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

1989年6月4日(中国では6.4事件と呼ぶ)天安門事件の武力鎮圧後、趙紫陽は当時の最高権力者・小平の怒りを買って失脚し、事件の2ヵ月後から自宅に幽閉された。

幽閉生活は16年にも及び、最初は外出も禁止されていたので、好きなゴルフもできず、自宅で孫と遊んだり、ネットに向かってゴルフ練習をする毎日だったという。

この回想録は趙紫陽が監視の目を逃れて、60分テープに約30本録音したものを時系列的に整理したもので、翻訳で420ページものボリュームがある。


前任の胡耀邦も失脚

趙紫陽の前の総書記の胡耀邦(こようほう)も1987年1月に開明的すぎるとして小平の怒りを買い、辞任に追い込まれている。

胡耀邦の場合には、日本を訪問した時に、日本の若者3,000人を中国に招くと約束したり、中曽根首相と個人的にも親しくなって手紙のやりとりや、自宅に招いて宴会を開いた。それで「中国は個人外交をしてはならない。中曽根にきちんと対応できないものもいるようだ」として小平の批判を受けた。

加えて、香港のジャーナリストに小平の引退を望むような発言をしたことが、小平の怒りを買ったのだ。


趙紫陽の履歴

趙紫陽は河南省生まれ。13歳で中国共産主義青年団に入団した後に、1938年に共産党に入党、毛沢東周恩来と一緒に抗日戦争を戦った。

戦後は主に広東省で行政官としてキャリアを積み、特に農業生産拡大に成果を上げ、1965年に46歳という若さで広東省の党委員会第一書記に就任した。ところが、1966年からの文化大革命で失脚し、湖南省の機械工場で組立工として働かされた。一家4人で小さなアパートに住み、スーツケースを食卓代わりにしていたという。

1971年に毛沢東の指示で北京に呼び出され、内モンゴル自治区の党書記として復活し、広東省、四川省と党第一書記を務めた。

当時の中国は農業はソ連のコルホーズ(集団農場)にならって、人民公社が農業生産に当たっていた。いくらまじめに働いても個人の所得が増えないシステムなので、中国の農業生産は人口の伸びに見あっては増えず、凶作があった年は数千万人?の餓死者が出たといわれている。

この悪平等の人民公社システムを、一生懸命働いて生産量が増えれば、それだけ収入が増える戸別請負制に変え、あわせて国家の取り分も抑えて農民の生産意欲を格段に向上させた。

この農業改革が功を奏す一方、一人っ子政策で人口の伸びが頭打ちになったこともあり、中国の農業生産は人口を十分賄えるほどに拡大した。

このようにして趙紫陽は四川省などの勤務地で農業改革に成果を挙げ、それが中央の権力者の目にとまって、1979年には中央政治局委員、1980年には政治局常務委員会委員、国務院総理とトントン拍子で出世し、1987年に胡耀邦の失脚により党総書記に就任した。


1989年の天安門事件

ところが1989年4月15日に胡耀邦が亡くなると、自由化・民主化を求める学生や市民が天安門に集まり、デモを繰り返し、軍隊も出動して天安門事件が起きる。

ちょうどこのタイミングで北朝鮮を訪問することになっていた趙紫陽は、流血の事態を避けることを提案し常務委員会の全会一致で承認を得てから北朝鮮を訪問した。

一旦は収まった学生達の抗議行動が、再度燃え上がるのは4月26日の人民日報に、デモを非難する小平の厳しい言葉が掲載されてからだ。

小平は自分の言葉が公表されたことにショックを受けるが、最高指導者の言葉を撤回するわけにもいかず、デモ隊との衝突は避けられなくなる。

趙紫陽は2つのミスを犯したといわれている。

一つはアジア開発銀行の総会で「民主主義と法の原則に基づいた冷静かつ合理的かつ節度ある秩序正しい方法で問題の解決を図る必要がある」と演説し、学生デモは収まると発言したこと。

そして天安門事件のさなかに、ソ連共産党書記長のゴルバチョフと中ソ首脳会談をしたときに、小平が中国の最高指導者であるとゴルバチョフに語ったことだ。

小平は党中央軍事委員会主席ではあったが、国家主席でも党総書記でもなく、外から見れば国家主席の趙紫陽の方が権力者に見える。しかし、実は小平との会談が今回のゴルバチョフ訪中のクライマックスであると述べたという。

この2つのミスが、小平と長老達を激怒させ、趙紫陽と対立する李鵬首相を勢いづかせ、趙紫陽失脚に繋がった。


武力弾圧前の最後の学生達説得の試み

趙紫陽は5月19日に学生たちに広場から退去するよう天安門に直接出向いて演説したが、学生たちは聞き入れなかった。そして6月4日に軍隊により武力弾圧され、数千人の犠牲者が出たといわれる。

趙紫陽はすぐに党の全職務を解任され、それから16年間自宅に幽閉される。

その後1997年に小平が死去し、趙紫陽は2005年に死去している。

この本に1989年に天安門に出かけていって学生達にメガホンで呼びかける趙紫陽の写真が掲載されている。そしてその後ろには見たことのある顔がある。

scanner033







出典:本書5ページ

そう、恩家宝首相だ。当時はメガネをかけていないが、党中央弁公庁主任、中国共産党のいわば秘書長官のような立場だった。

恩家宝は胡耀邦、趙紫陽、江沢民の3人の総書記に仕え、出世して現在は首相の地位にある。天安門事件で趙紫陽は失脚したが、恩家宝はしぶとく生き残ったのだ。


いわば同年代史

筆者が中国との貿易に最初に携わったのは1976年で、1983年以来何度も中国を訪問している。

四人組が文化大革命で、政権を掌握して中国社会がめちゃくちゃになり、餓死者が数百万人出たと言われたのが1970年代初めだ。筆者が中国との貿易にかかわった1970年代後半は、毛沢東が死んで四人組が裁判にかけられ、小平が実権を握った時期だった。

中国とビジネスをやっていて困ったのは、1980年代初めに中央統制貿易から地方に貿易権を移譲する決定が出て、それまで交渉していた北京の冶金総公司から、契約窓口は地方の冶金分公司になるということで、急に窓口を移管されたことだ。

契約交渉には北京の冶金総公司の担当者も参加して、うまく契約できたから良かったが、中国政府の政策がガラリとかわったことには驚かされたものだ。

当時フィリピンの原料を中国浙江省に持って行って、委託加工して製品を日本に持ち帰るという取引をやっていた。

今は中国に原料を持ち込んで委託加工して製品を日本に持ち帰るという取引は普通に行われていると思うが、当時は画期的な取引だった。

この本を読むと1980年代は外資を活用して中国の経済を拡大する「合作」を奨励していたことがわかり、あの委託加工取引は中国の政策転換にぴったりタイミングがあっていたのだと思う。

筆者が1983年に委託加工工場の浙江省の横山鋼鉄廠を訪問した時には、夏にもかかわらずすっぽんを捕まえておいて、宴会をやって歓迎してくれた。たぶん浙江省の冶金分公司も中国中央政府の政策に沿って、外国との「合作」を実現したとして、評価されていたのだと思う。


中国の権力構造

1980年代は中国で誰が実権を持っていたのかわからなかったが、この本を読むと、中国共産党総書記は必ずしも実権を掌握しているわけではなく、四人組を追放した後は、小平が実権を持っていたことがわかる。

毛沢東の後継の総書記の華国鋒は1976年に党主席に就任して四人組を抑え込んだが、1978年に小平が最高権力者となると、権力闘争に敗れ、1981年に党主席を退いた。

華国鋒の後の総書記は小平によって推挙された胡耀邦で、1981年から1987年に失脚するまで党総書記を務めた。そのあとがやはり小平より推挙された趙紫陽で、1987年から1989年のわずか2年間だけの総書記だった。

趙紫陽の後を継ぐのが江沢民で、江沢民も中国のトップになったのが、主席就任後3年の1992年からだった。

小平は1978年から1992年まで一貫して党中央軍事委員会主席の座に座り続け、外国からはわかりにくい形で、中国のトップとして君臨した。

胡耀邦、趙紫陽、江沢民が総書記でありながら、中国の最高権力者ではなかったというのは、今回初めて知った。

中国の対外政策に関する権限がバラバラ(fractured)だと指摘するストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の「中国の新しい対外政策」という本を紹介したばかりだったので、趙紫陽の回想録はまさに当事者の発言で大変興味深かった。

中国の新しい対外政策――誰がどのように決定しているのか (岩波現代文庫)中国の新しい対外政策――誰がどのように決定しているのか (岩波現代文庫)
著者:リンダ・ヤーコブソン
岩波書店(2011-03-17)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

小平は1997年に亡くなっており、現在の中国には小平のような絶対権力者はいないと思うが、趙紫陽そしてその前任の胡耀邦と華国鋒の3人の国家主席が相次いで権力闘争に破れ失脚したことは、現在の胡錦涛、恩家宝らの首脳陣にもトラウマのようになっていると思う。

つまり外国に対してあまり友好的な態度を示すと、中央政府ではやっていけないということだ。


その他参考になった点

その他参考になった点を箇条書きで紹介しておく。

★中国政府は巨大なデベロッパーとして、中国経済の急成長を推進している。土地の賃借権を売って、開発を進めるという考えは、1985年に趙紫陽が香港の実業家ヘンリー・フォック(霍英東)に会ったときに、市街地の開発資金がないと言うと、「土地があるのに、どうして資金がないのですか」と言われて気が付いたものだという。

★1980年代前半には「三来一補」=来料加工(委託加工)、来様加工(サンプル委託加工)、来件装配(部品組み立て)と補償貿易(技術や機械の提供を受け、製品で支払う貿易)を進めたという。上記で紹介した通り、まさに筆者が中国で委託加工貿易を進めたタイミングと一致している。

★胡耀邦が北朝鮮に甘すぎたことも小平の怒りを買った理由の一つ。北朝鮮を訪問したときに、金日成から中国のジェット機を供給して、北朝鮮のパイロットを中国でトレーニングして欲しいとの要請を胡耀邦が受け入れたが、帰国後小平に潰された。

★趙紫陽自身はまだ読んでいないが、ゴルバチョフの回想記には、1989年に中国を訪問したときに趙紫陽から複数政党制と議会制への移行を示唆されたと書いてあるという。趙紫陽の考えは、共産党独裁という統治の方法は変えなければならないことと、「人治」から「法治」にすべきだという2点だという。


なにせ中国の元主席が書いた本なので、中国を動かすいわゆるFAW(Forces at Work=そこに働く力)の実態がよくわかる。

同時代史としても価値があり、大変参考になる本である。


参考になれば投票ボタンをクリックして頂きたい。





  
Posted by yaori at 00:20Comments(0)TrackBack(0)

2011年04月12日

モノ言う中国人 中国のネットメディアの現状がよくわかる

モノ言う中国人 (集英社新書)モノ言う中国人 (集英社新書)
著者:西本 紫乃
集英社(2011-02-17)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

駐中国日本大使館で外務省専門調査員としてネットメディアを研究した西本紫乃さんの本。西本さんは中国在住歴が10年で、現在は広島大学大学院博士課程に在籍中だ。

先日会社で前駐中国日本全権大使の宮本大使の講演を聞く機会があった。講演の冒頭で宮本大使が西本さんの研究を本にして出版するように勧めたという話をされていた。

宮本大使ご自身も「これから中国とどう付き合うか」という本を出されている。

これから、中国とどう付き合うかこれから、中国とどう付き合うか
著者:宮本 雄二
日本経済新聞出版社(2011-01-06)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る


モノ申す中国大衆

西本さんは最初に、中国では「話語権」という言葉を新聞やインターネットで目にすることが増えたと語る。

話語権とは単なる発言権でなく、世論に影響を与えるほどの影響力があることを意味している。「モノ申したい人」が増えており、中国の大衆が「モノ申す場」がインターネットなのだ。

中国のメディアは次の図のように完璧に国家によってコントロールされている。

scanner028




出典:本書54−55ページ

これに対してインターネット情報の監視システムは次の通りだ。

scanner029













出典:本書 83ページ

「インターネット管理室」が監視し、好ましくない記事にはサイト管理者に電話連絡して、「15分以内に削除しないと罰金3万元=39万円」が課せられるという。

このほかに「五毛党」という世論を体制側に有利なように誘導するため1件当たり五毛=8円の報酬を貰って書き込みをするインターネット評議員がいる。


最近の事例紹介

この本ではインターネット関連で問題になり、役人などの関係者が処分されたり、「人肉捜索」(いわゆる”さらし(晒し)”、ネット上でプライバシーや言動などをよってたかって暴くこと)になった例が紹介されている。


★「あなたはどこの単位の人間?」
国家水泳スポーツ管理センターの副主任の周継紅が、インターネット上の飛び込み競技の八百長について質問した記者に対して言った言葉だ。

国体の飛び込み競技の12個の金メダルは事前に受賞者が決まっているという八百長疑惑に対して、記者を見下した周継紅の発言が2009年の流行語にもなったという。


★蘭州の悲劇
2010年1月に甘粛省蘭州の省共産党の宣伝部長が不用意に650名から成るインターネット評議員のチームを編成したことを発表した。エース級50名、ハイレベル要員100名、ライター500名で構成され、エース級の人員を中心に、チームは緊密に連携を取りながらインターネットの掲示板などに活発に「正しい」意見を書き込むのだと。

甘粛省で650人もの評議員がいるということは、全国では10万人を超える評議員がいるのだろうから、仮に評議員の年収が五万元(65万円)だとすると、年間50億元(650億円)もの費用が評議員に充てられている。

それほどの予算があれば、四川省地震の時にロシアから借りたヘリコプターが90機買えるので、何が大事なのか考えるべきだという非難が盛り上がったという。

ちなみに甘粛省は中国の西域の省で、水力発電による安価な電力が有名な省だ。


★南丹錫鉱事故
広西チワン族自治区の南丹市の錫鉱山で2001年に浸水事故が発生し、81名の労働者が死亡したが、南丹県の幹部と鉱山主が結託して、事故の隠蔽を行ったことが、クチコミで広がった。

取材に行った記者は暴力で追い返されたが、インターネットで匿名の情報が掲載されてから、大きな問題になった。

「人民網」や「強国論壇」でもスレッドがつくられ、数万件の非難が寄せられ、南丹県の書記は死刑、錫鉱山オーナーは懲役20年の判決を言い渡された。中国でインターネットが世論を動かした初めての事件と言われている。


★孫志剛事件
2003年に広州で、身分証明書をもっていなかったため警察に拘束され、むかったために暴行されて死んだ孫志剛の死因が「心臓発作」と処理された事件。

両親が広州の都市報の「南方都市報」に事件を告発し、インターネットでも非難の声が広まった。大学教授などの法律専門家が、政府に対して法律の見直しを求めた結果、「収容送還の規則」が廃止された。

収容した農民たちから金を巻き上げて私腹を肥やしていた収容所職員の汚職も明るみに出たという。


★山西省闇レンガ工場事件
河南省に住む両親が行方不明となった我が子を探すために全国を探し歩き、山西省の違法闇レンガ工場で奴隷のような労働をさせられている息子を捜し当てたという事件。

河南省のテレビ局の記者が、行方不明の子どもを捜している親がいるという情報をもとに、闇レンガ工場に潜入し、最後に親子の再会の場面を映像におさめて放送するとともに、インターネットでも公開した。

インターネットでの書き込みは一週間で一万件を超え、政府を非難する声も高まったので、胡錦涛、恩家宝他の指導者が徹底的に調査するよう指示した。

監督不行届で山西省の省長が謝罪し、95名の党員や公務員が処分を受けた。ネットユーザーのパワーとインターネット世論の恐ろしさを中国の指導者が痛感した事件だった。

中国では農村と都市との年収格差が問題になっているが、農村でもインターネット人口は2007年以降急速に拡大している。


★許霆(きょてい)ATM事件
2006年広州市でたまたまATMの誤作動で、大金を引き出した許霆が、無期懲役に処せられた。刑が厳しすぎるとネットの声がひろまり、再審で懲役五年に大幅に減刑された事件。


★深圳市の女児わいせつ未遂事件
2008年に深圳市の海鮮レストランで、女児がトイレに連れ込まれそうになった事件で、犯人が「北京の交通部から派遣された市長と同格の高級官僚だ。何が悪い」と居直った事件。

レストランの監視カメラが女児が連れ込まれそうになった現場の映像を捉えており、両親とのやりとりも録音されていて、それがネットに公開された。公務員の横暴に非難の声が高まり、人肉捜索が行われ、犯人は広州市の党書記ということがわかり免職となった。


★インターネットの社会風刺が流行語に
2008年貴州省で、中学生が強姦され川に投げ捨てられるという事件が発生した。容疑者三人のうち二人が地元警察署長と親戚だったことで、真相隠しが行われ、容疑者が深夜の橋の上で、「腕立て伏せ」をしている最中に、女子中学生が自殺したという警察の発表が行われた。

2009年には雲南省の刑務所で入所四日めの囚人が頭部損傷で死亡した。刑務所側は「鬼ごっこ」をしていた時に壁に頭を打ち付けたという発表をした。

「腕立て伏せ」、「鬼ごっこ」という体制側の荒唐無稽な言い訳が、都合の良い言い逃れに対する冷ややかな批判をこめて、インターネット上の流行語になったという。

さらに2004年から胡錦涛主席の掲げる「和諧=ホーシェ社会」=ハーモニーの取れた社会、を皮肉って「河蟹=ホーシェ」がインターネットによく登場し、「河蟹される」というのは、管理者から発言を削除されるという意味で使われているという。


★愛国教育の世代
中国のインターネット人口は4億人を超え、年齢構成は若く、「80後」という1980年以降生まれの20代、「90後」といわれる10代が7割弱を占める。

次が日中のインターネット人口の年代別構成だ。30歳以下の年代が中国では7割を占め、日中間では大きな差があることがわかる。

scanner030







出典:本書161ページ

インターネットの普及により、以前であればデモ行動は簡単に抑圧できたのが、インターネットで抗議が広まると中国政府もコントールしがたくなっている。

この本では1999年のベオグラード中国大使館誤爆デモ、2005年の小泉靖国神社参拝反対デモ、2008年のカルフールボイコット騒動を比較し、インターネットで抗議が一般の民間人にまで広がっていることが比較説明されている。


尖閣漁船衝突事件
2010年9月に発生した尖閣列島沖での漁船と巡視船の衝突事件は、中国のインターネット人口が愛国教育を受けている若いユーザーが多いことから、燃え上がる可能性があった。

しかし北京や上海などの大都市では目立った抗議行動は発生せず、西安や武漢といった地方都市でのみ反日デモが発生した。もちろん中国政府の必要以上に事を荒立てないという方針もあったのだろうが、西本さんはこの現象は大衆の価値観の「ポストモダン化」が影響しているからだと説明している。

つまり大都市ではイデオロギーや国益といった大きな問題よりも、就職とか物価、あるいは海外旅行や車の購入といった個人的なことに関心を持つ人が増えているからだという。

西本さんはさらに中国理解のキーワードトは「非主流」だと語る。

経済の自由化によって中国では大衆社会というパンドラの箱があいた。メディアが国によってコントロールされていた頃は、海外の人は知る由もなかった「非主流」の情報が流れ出したのだと語る。

テレビ番組などの「三俗」(庸俗=下品、低俗=暴力的、媚俗=他人に迎合)の問題が指摘され、匿名性があり敷居の低いインターネットの普及により、大衆がインターネット上で様々な意見を述べるようになった。

胡錦涛や恩家宝もオンラインでインターネットユーザーと直接対話を行い、広州市では広州市の都市報の「南方都市報」傘下の「奥一網」でインターネットの対話コーナーを設けている。

米国の有名なチャイナ・ウォッチャーのスーザン・シャークは「中国・危うい超大国」という本で、中国のシンクタンク研究員の「私たちは、自分たちが行ってきたプロパガンダの虜囚となってしまったのです」という発言を紹介している。

中国危うい超大国中国危うい超大国
著者:スーザン L.シャーク
日本放送出版協会(2008-03-30)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

いままで愛国教育として「共産党よくやった史観」をマスメディア、博物館、映画、演劇などあらゆる機会で国民に植え付けてきた。そのため若い世代の多くは中国は優れた国、強い国と信じ、「西側の悪意に満ちた報道で不当な批判にさらされている」と思いこみがちだという。


2011年2月22日に出版された本で、中国のインターネットを中心とする世論の成り立ちがよくわかる。尖閣漁船衝突事件など最新の話題も含まれており、興味深く読める本である。


参考になれば投票ボタンをクリックして頂きたい。




  
Posted by yaori at 13:05Comments(2)TrackBack(0)

2011年04月07日

中国の新しい対外政策 ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の最新論文

中国の新しい対外政策――誰がどのように決定しているのか (岩波現代文庫)中国の新しい対外政策――誰がどのように決定しているのか (岩波現代文庫)
著者:リンダ・ヤーコブソン
岩波書店(2011-03-17)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

軍備・戦略研究で世界トップクラスのストックホルム国際平和研究所の中国研究者2名が、誰がどのように中国の外交政策を決定しているのかについての研究結果を発表した論文。

ストックホルム国際平和研究所は略称SIPRIとして知られており、世界各国の軍事費を調査した「軍備,軍縮及び世界の安全保障年鑑」が有名だ。

SIPRI年鑑:軍備,軍縮及び世界の安全保障2006SIPRI年鑑:軍備,軍縮及び世界の安全保障2006
著者:ストックホルム国際平和研究所
広島大学出版会(2007-03-31)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

この本は原注が240以上、全体の1/4を占める本格論文で、次のような構成となっている。

要約

第1章 序説

第2章 対外政策における公的関与者
    中国共産党
      政治局及び政治局常務委員会
      党外事指導小組と他の中央委員会機関
    国務院
      外交部
      大使
      他の政府機関
    人民解放軍

第3章 対外政策関与者の思考に影響する諸要因
    「合意形成」による政策決定
    非公式チャンネルと忠誠心
    教育
      海外での教育と経験
第4章 周辺の関与者
    実業界
      金融機関
      エネルギー関係企業
      その他の企業
    地方政府
    研究機関と学術界
      政治局の集団学習会
      高次の政策提言
      情報の収集と共有
    メディアとネチズン
      多様性、速度、そして表現方法
      全方向的影響

第5章 結論
  
    
目次を見ただけでも、この論文がポイントをついていることがわかると思う。


著者は中国語ペラペラの中国研究専門家

著者のリンダ・ヤーコブソン(林達)はフィンランド人で、フィンランド国際問題研究所を経て、2009年にストックホルム国際平和研究所の「中国と世界の安全保障」の責任者に就任した。中国滞在15年以上という人で、流暢な中国語を話すという。

もう一人の著者はアメリカ人のディーン・ノックス(那鼎承)。核不拡散問題の専門家で、台湾に6年間滞在し、ストックホルム国際平和研究所の「中国と世界の安全保障」の研究補佐。やはり中国語はペラペラという。


この本の要約

この本の最初に要約がある。中国の対外政策の決定過程は外から見て非常に見えにくいが、次の3つの傾向があるという。

第1は対外政策に関する権限がバラバラなことだ。外国人はもはや政策決定者の一つとだけ交渉することはできず、複数のキープレーヤーの管轄権や対抗関係を考慮しながら交渉しなければならないこと。

上記では「権限がバラバラ」と書いたが、英語の原文が併記してあり、それが"fractured"となっていたので、筆者なりに訳したものだ。

この本では「細分化」と訳しているが、"fractured"は複雑骨折などの時に使われる言葉で、てんでんバラバラで組織化されていないというイメージがある。

もし「細分化」だったら原文は"fragmented"となるはずであり、あえて"fractured"という言葉を使った原文の意味が通るように上記のように訳した。


第2に中国のすべての関係者が国際化は中国にとって不可避だと感じているが、どの程度まで国際化するかどうかは様々な見解があること。


第3に中国が国際的にその権益をより強く追求するべきだという見解が外交政策関与者の間で広まっていること。


これらの見方は、東大の高原教授が指摘されている小平の「韜光養晦、有所作為」スローガンを、2009年の大使会議の席で胡錦涛「堅持韜光養晦、積極有所作為」に変えたという中国外交政策のFAW(Forces at Work)の変化と符合している。


中国の国家機関

中国の国家機関の組織図は次の通りだ。

中国国家機関組織図





出典:外務省ホームページ

一般的には日本の内閣にあたり、温家宝首相が率いる国務院が中国政府の最高機関であり、対外関係で中国を代表するが、日本の外務省にあたる外交部はここ10年来権力が低下しており、楊潔篪(ようけつち)外交部長の儀典上の順位は5番目か6番目である。

外交上重要でない国は別として、重要な対外政策については、外交部は政策決定部門ではなく政策執行部門となりつつあるという。


影響力のある権力者や機関

外交部が力を失い、次のような幾重にも重なり、相互の関係がわからない権力者や委員会が中国の対外政策に影響を与えていることがこの本で詳述されている。

1.共産党の組織

政治局常務委員会(メンバー9名、胡錦涛が委員長)−最高決定機関
          I    (7−10日に会議開催ー非公開)
          I
党中央政治局(メンバー25名)ー不定期で会議開催

政治局常務委員会でも意見が分かれることはあるが、すべての重要決定には胡錦涛の支持が必要であり、かつ全員の合意が必要である。それゆえ対外政策決定は「まとまりがなく、混乱した、非効果的なもの」(原注:政府に助言を与えている中国の研究機関責任者へのインタビュー)となりがちである。


2.国の機関にポストを持たない党中央委員 
王家瑞(党中央対外連絡部長)
・王滬寧(党中央政策研究室主任)


3.党中央指導小組(一部メンバーのみ明らか)
・党外事指導小組(国家安全保障指導小組とも呼ばれる)
重大な対外政策決定はほとんどこの小組で行われ、常務委員会はそれを単に承認するにすぎないと推定されている。政治局常務委員のほとんどが対外政策問題には不慣れのため、対外政策専門家の経験に依存している。

主要メンバーは、戴秉国(たいへいこく)国務委員(議長)、王家瑞国際部長、楊潔篪(ようけつち)外交部長、陳徳明商務部長、梁光烈国防部長、国家安全部長である.

・党中央対台湾工作指導小組(国務院にも属する)
・金融経済工作小組


4.その他の党中央委員会関連機関 
・政策研究室
・中央書記処弁公室
以上の2機関の長は胡錦涛の外訪にも同行し、対外政策に影響力を持つとみられている。

・党中央国際部
もともとは海外の共産党との窓口だったが、現在は非共産党を含む海外政党との関係を担当。その出自から北朝鮮労働党、ミャンマー、イランなどの対外政策に影響力を持つ。

他にも宣伝部、対外宣伝弁公室、組織部なども対外政策に限定的な影響力を持つという。


5.大使
駐EU,ブラジル、フランス、ドイツ、インド、日本、北朝鮮、英国そして米国の駐在大使は副部長(次官級)だが、外国の影響を受けすぎて妥協するとして立場は弱体化しているという。


6.他の政府機関
・商務部 
対外援助の大部分を配分。

・中国人民銀行
為替レートと外貨保有の管理

・国家発展改革委員会
エネルギー分野での対外政策の関与者

・財務部
予算管理権を持つ。

・国家安全部
安全保障


7.人民解放軍
現在は軍の代表は政治局常務委員会にはいないので、中央政治局と人民解放軍の間には距離がある。人民解放軍を統括する党中央軍事委員会には、胡錦涛と昨年から習近平が唯二の文民メンバーとなっている。

人民解放軍と共産党の微妙な関係が、2007年の中国の衛星破壊兵器実験や2010年の米国ゲーツ国防長官訪中時の「殲−20」ステルス戦闘機の公開など、外交関係者が軍事面での動きを知らなかったという連絡不足を招いている。




8.非合法チャンネルと忠誠心
いわゆるコネのことである。出身地、出身校、履歴などを詳しく調べることで関係が見えてくる。前職が国有企業の社長であったり、同じ時期に留学していたなどだ。

たとえば胡錦涛と李克強は同じ中国共産主義青年団出身で、胡錦涛は次期首席に李克強を推したのは有名な話だ。

忠誠心も見えない力学の一つだ。たとえば江沢民はいまも政治局のすべての文書が届けられるという。


その他の特記事項

次のような面からも対外政策への影響力について分析している。

★教育
党中央委員会の203名のうち、少なくとも172名(85%)が学士以上、73名が修士、16名が博士だ。ただしこの中には教育レベルの低い中央党学校などの党の教育機関から認定を受けたインフレ学位もある。

★政治局の集団学習会
2002年に胡錦涛が党総書記に就任したときに政治局の集団学習会を始め、2010年までに66回開催されたという。毎回2人の専門家が招かれ、テーマの1/3は対外問題だったという。政治局のほとんどの議事は秘密だが、集団学習会の開催は公開されているので、報告者には知名度アップと昇進の機会となる。

★メディアとネチズン
メディアとインターネットメディアの分析も非常に参考になる。

1980年代に中国政府がメディアへの補助を打ち切ったことから、メディアは市場から資金を獲得せざるをえず、結果的に2000種類もの新聞、雑誌、数百ものテレビ局、インターネットのニュースサイトが顧客と広告収入を求めて競いあっている。

インターネット人口は2009年に4億人弱となり、世界最大のネット社会を形成している。もっとも人気があるのが「強国論壇」で、利用者は2百万人。

ブログも盛んで、公安当局は「五毛党」と呼ばれるアルバイトを多数使って、危険な内容を当局に通報し、ネット上の好ましくない見解を圧倒しているという。「五毛党」というのは、当局に有利な書き込みをすると5毛(約6円)もらえるからだという。

ネチズンの対外政策形成への影響力は増大しており。日本と米国に関する過激な民族主義的な意見が当局の行動の自由を制約している。世論が分かれている場合は、政府は無視できるが、世論が一致していると政府も無視するわけにいかなくなるからだ。

2008年フランスのサルコジ大統領がダライラマと面談したので、中国は温家宝首相のフランス訪問をキャンセルせざるをえなかったという例が挙げられている。


監修者の岡部達味東京都立大学名誉教授が負け惜しみ気味に語っているが、西洋人に弱いという東洋人のメンタリティをうまく活用してオフレコ情報も含めて突っ込んだ情報収集をしている。

このような高度な研究レポートの英文原本が、SIPRIサイトで無料でダウンロードできる。便利な時代になったものである。

プレスリリース:
http://www.sipri.org/media/pressreleases/2010/100906chinaforeignpolicy
レポート・ダウンロード:
http://books.sipri.org/product_info?c_product_id=410

興味があれば上記のリンクから原文をダウンロードして見て欲しい。


参考になれば投票ボタンをクリックして頂きたい。



  
Posted by yaori at 13:08Comments(0)TrackBack(0)

2011年03月18日

中国最大の敵 日本を攻撃せよ 中国軍現役大佐のトンデモ戦争論

中国最大の敵・日本を攻撃せよ中国最大の敵・日本を攻撃せよ
著者:戴旭
徳間書店(2010-12-17)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

中国空軍現役の戴旭(ダイシュイ)大佐の世界軍事情勢分析と対日米戦争論。戴旭大佐は中国の有名な軍事専門家ということで、著作も多く北京大学の中国戦略研究センター研究員も兼任している。

このブログで田母神元航空幕僚長の「座して平和は守れず」などを紹介しているが、戴旭大佐は中国で30万部も売れているというトンデモ本を出版して何のおとがめもないのが大きな違いだ。

決して中国の支配層を代表する意見とは思わないが、こういう見方もあるということを知っておくことは、日米両国には役立つと思う。

この本はアマゾンのなか見!検索に対応していないので、サブタイトルまで含めた目次を紹介しておく。この本の内容が大体推測できると思う。

第1章 日米のC型包囲網を突破せよ
 1  中国の出口を閉ざす「海上包囲網」
 2  鉄格子を撃ち込まれた「陸上包囲網」
 3  アメリカの標的は、イスラム世界、ロシア、中国に絞られた
 4  中国はまもなく戦争に突入する
 5  中国は三たび分割の危機に直面する
 6  中国をむしばむ国内のガン
 7  今こそ中国は勇敢に戦争を肯定せよ

第2章 中国は日本との戦争が避けられない
 1  日本という猛獣が凶器を手にする日
 2  右傾化しはじめた日本は何を狙っているのか
 3  中国は日本の「戦争」にいかに対処するか
 4  日本はその正体を決して見せない
 5  300年にわたる「抗日戦争」はまだ続くのか
 6  琉球は日本のものではない
 7  迎撃ミサイルは、アメリカによる日本への新しい首輪

第3章 中国空軍はこうして戦う
 1  ラプターを狩れ!
 2  中国が目指す次世代戦闘機開発
 3  「J−8精神」で自主イノベーションを起こせ
 4  「攻防一体」を担う戦闘機の開発を急げ
 5  ステルス機には長距離弾道ミサイルで対抗する
 6  2015年にステルス機を完成させる日本の魂胆
 7  中国はいかに攻め、いかに守るか
コラム 金融危機はアメリカが仕掛けた戦争だった

第4章 中国軍は陸海でこう戦う
 1  時代遅れの陸軍をすぐに改革せよ
 2  日本とロシアを捕捉せよ
 3  中国海軍は自国領海内の存在感を高めよ
 4  南沙進出が中国の未来を決める鍵
 5  国家利益を守るため一流の海軍を建設せよ
 6  中国は空母を所有し、占領された島々を奪還せよ
コラム アメリカの「反テロ」の本当の標的はロシアだ

第5章 強大な中国が世界を救う
 1  中国は世界の覇権など狙っていない
 2  中国が目指すのはアジアの大国
 3  中国を侵略する勢力に対する攻撃
 4  中国が強大になれば世界は平和になる
 5  正義の戦争は中国発展のチャンス


読んでいてバカらしく思えるような過激なタイトルが並ぶ。


中国は日本との戦争が避けられない?

この本が生まれた遠因には、レーガン政権で国防長官を7年間勤めたキャスパー・ワインバーガー氏が書いた「ネクスト・ウォー」という本がある。

ネクスト・ウォー―次なる戦争ネクスト・ウォー―次なる戦争
著者:キャスパー ワインバーガー
二見書房(1997-05)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

今度この本も読んでみるが、こちらの本では2007年に日本戦艦が中国領海内に侵入し、強力なコンピューターウィルスをまき散らすロジック爆弾を中国と台湾に発射し、すべての運輸・航空管制・社会基盤システムを破壊する。中国軍が機能停止している間に日本軍は中国、台湾に飛行機による爆撃と巡航ミサイルを雨のように振らせ、そのうち中国はやむなく講和を受け入れるというシナリオだという。

しかし空軍力で圧倒した後は、歩兵が侵攻しなければならないわけで、ワインバーガー氏が描く先制攻撃など、中国にとっては即時講和を望むほどのダメージにはならないだろう。

日本は侵略戦争の準備はほとんどなく、とりわけ兵力を敵地に送り込む”パワープロジェクション能力”がゼロであることは、以前紹介した故江畑謙介さんの「日本に足りない軍事力」の通りだ。

今回の東北関東大震災でも、自衛隊の災害支援トラックを米軍の揚陸艦が運んでいるところをテレビが報道していた。道路が渋滞でマヒしている今回のような災害出動の場合、米軍の力を借りないと日本国内でさえ自衛隊は大規模輸送ができないというのが現実だ。

パワープロジェクション能力のない自衛隊が中国侵略に大軍を繰り出せるとは思えないし、空爆や巡航ミサイルで圧倒できるほど中国は小さい国ではないことは第2次世界大戦が証明している。

たぶん「中国も空軍力を増強すべき」という結論を誘導したいのだろう、戴旭大佐はこのような仮想攻撃がトム・クランシーの"Clear and Present Danger"(いま、そこにある危機)のように、すぐにも現実化する脅威だと喧伝したいようだ。

いま、そこにある危機〈上〉 (文春文庫)いま、そこにある危機〈上〉 (文春文庫)
著者:トム クランシー
文藝春秋(1992-06)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

”日本は新型軍用大型機の開発で中国からリードを奪おうともくろんでおり”、ヘリ空母を持ち、国産のC−X輸送機P−X哨戒機を開発し、国内に数千発の原子爆弾がつくれるプルトニウムを貯蔵していると戴旭大佐は語る。


ステルス戦闘機の脅威と中国の対抗策

この本ではF−22ステルス戦闘機を、大きな脅威と位置づけており、日本がF−3導入計画でステルス能力のある国産戦闘機を製造するようになると、さらに大きな脅威になると警告している。

F−22

F-22






出典: Wikipedia

そしてF−22に対抗する手段は、ステルス機の航続距離≪2,000キロ)の外から長距離弾道ミサイルで基地や空母を叩くことだと語る。

たとえば精密装備を持たないコストの安い無人機を10万機くらい持ち、衛星測位システムにより誘導して爆弾を持たせて敵を攻撃するという「人海戦術」ならぬ「機海戦術」もあると語っている。

中国が最近「殲ー20」というF−22そっくりのステルス戦闘機のテストフライトに成功したことが報じられたが、中国も自前ステルス戦闘機開発に拍車を掛けているようだ。



この本の第5章のサブタイトルのひとつのように「中国は世界の覇権など狙っていない」なら、なぜ自前のステルス戦闘機が必要なのか理解に苦しむところだ。


南沙地域が中国の生命線

「満蒙は大日本帝国の生命線」というのは、戦前の日本のスローガンだったが、戴旭大佐は「南沙進出が中国の未来を決める鍵」と語っており、非常に違和感を覚えるところだ。

南沙列島は中国がフィリピン、マレーシアなどと領有権を争っている地域だ。

この本によると、この南沙地域には数百億トンの石油と天然ガス資源があるという。そして既に石油と天然ガスの生産は、中国の近海石油・ガス生産量の数倍の規模だという。

南沙諸島にそれだけの天然資源があると推測している根拠は、「権威ある部門の推計による」と書いているが、参考までに世界で最も「権威ある」BPの世界のエネルギー資源の統計を紹介しておく。

次のグラフはすべてBPがホームページで公開している資料だ

世界の国別石油埋蔵量

oil_reserve_2010











世界の国別石油生産量

oilproductionstatistical_review_of_world_energy_full_report_2010











世界の国別天然ガス確定埋蔵量

gasreservestatistical_review_of_world_energy_full_report_2010











世界の国別天然ガス生産量

gasproductionstatistical_review_of_world_energy_full_report_2010











少なくとも今の確定埋蔵量や生産量では、南沙周辺や尖閣列島周辺に戦争をしてまで争うほどの大規模な化石燃料資源があるとは思えない。


中国のGDPは年8−9%で成長しており、軍事費も10%以上の伸びを示している。

本のタイトルが刺激的が、現役の中国軍人が日本やアメリカをどう見ているのかがわかって参考になる貴重な資料だと思う。


参考になれば投票ボタンをクリックして頂きたい。


  
Posted by yaori at 13:10Comments(0)TrackBack(0)

2010年09月14日

タオバオの正体 中国のEコマースがわかる

中国巨大ECサイト タオバオの正体 (ワニブックスPLUS新書)中国巨大ECサイト タオバオの正体 (ワニブックスPLUS新書)
著者:山本 達郎
販売元:ワニブックス
発売日:2010-06-08
おすすめ度:5.0
クチコミを見る

「アリババ帝国」に続いて、中国のEコマースの本を読んでみた。

アリババ帝国 ネットで世界を制するジャック・マーの挑戦アリババ帝国 ネットで世界を制するジャック・マーの挑戦
著者:張 剛
販売元:東洋経済新報社
発売日:2010-07-09
おすすめ度:3.5
クチコミを見る


タオバオはアリババグループのCtoC,BtoCサイトで、アリババとソフトバンクのジョイントベンチャーとして2003年に誕生した。タオバオとは見つからない宝はないという意味だ。

taobao site






当時中国ではeBayが投資する易趣味が圧倒的シェアーを持っていたが、タオバオは少なくとも3年間は出店料、手数料を無料にすると発表、急速にマーケットシェアを奪っていく。

2003年10月にはアリペイという決済システムがスタート、中国Eコマースで最大の問題だった信用問題を解決した。現在中国Eコマース決済の2/3がアリペイだ。

2003年8月には5万人だったユーザーが、2004年末には350万人、2005年末には1400万人に拡大。2010年には1億8千万人にまで拡大した。中国のネットユーザーは3億人といわれているので、その6割がタオバオユーザーだ。

CtoCビジネスでは2009年のタオバオのシェアーは81.5%を占めている。


タオバオの拡張戦略=大タオバオ戦略

タオバオの拡張戦略はオーソドックスだ。まずは個人向けオークションで、先行するeBayの易趣網を追い抜き、次にタオバオモールでBtoCビジネスに展開した。

2008年9月からタオバオアフィリエイトサービスを開始、またたくまに40万ものサイトがタオバオの商品を飾るショップフトントとなった。

2009年3月からはタオバオモバイルを開始、携帯電話でもタオバオの商品を購入できるようになった。

チャットツールのアリワンワンや、SNSの淘江湖、クチコミの淘心得、タオバオQ&Aサイトという具合に事業を拡大してきた。

変わったところでは女性を中心としたユーザーが、ファッションなどを自ら身につけてネットショップとモデル契約を交わす、いわばモデルのマーケットプレースの淘女郎もある。

mmtaobao






タオバオの売れ筋商品

タオバオには現在250万もの個人ショップが出店しているという。この本では日本からタオバオに出店する場合の手続きを詳しく解説している。

タオバオの売れ筋商品は次の通りだ。

1.化粧品
2.レディースファッション
3.デジタル家電
4.レディースバッグ
5.韓国アクセサリー
6.日用品と家具

タオバオの成功モデルとして、2009年4月に出店したユニクロが取り上げられている。ユニクロの柳井社長は、「ユニクロの目的は世界最大のアパレル販売会社になることであり、その戦略の中でもタオバオは非常に重要な位置を占めている」と語っているという。

IBMのパソコン事業を買収したレノボ、スポーツ用品のKappa、通販のフェリシモなどの企業の成功例が紹介されている。

また成功した個人ECショップも紹介されている。タオバオナンバーワンの個人ECショップは「檸檬緑茶」というサイトだ。このサイトでは化粧品、ファッション、アクセサリー、時計などを販売している。

檸檬緑茶





この本では檸檬緑茶や日本人の経営する粉ミルクショップ「宝貝心願」についても詳しく説明している。

宝貝心願






日本製粉ミルクショップはちょうど中国で粉ミルクにメラミンを混ぜるという悪質な品質詐欺事件があったことから、大ブレイクした。

「宝貝心願」のオーナーの内田さんのコメントも興味深い。内田さんは、中国人には絶対に仕入を任せてはいけないという。すぐに独立して中抜きされたり、私腹を肥やしたりするケースが多いという。

その他タオバオで成功した泥パックのショップ「御泥坊」や、田舎町の産品を売っている「四川味道」など、様々な個人ショップが取り上げられている。

タオバオショップの成功の秘訣は、1.クチコミ、2.ユーザーへの対応/アフターサービス、3.商品説明のわかりやすさ、4.中国市場の研究他だという。

タオバオではニセモノ排斥運動に力を入れており、7日以内であれば理由を問わず返品、交換を保証したり、ニセモノがあった場合、3倍の賠償を保証している。

この本の著者の山本達郎さんの経営している北京ログラスなどの出店・運営代行サービスも紹介している。

これからはEコマースは日本のヤフーの運営するタオバオ購買サービスのYahoo!チャイナモールで中国製品を買ったり、タオバオ販売代行サービスを通じて、中国に日本の製品を売ったりする日中共通ECサービスの時代だという。

Yahoo!





タオバオで成功している店が詳しく紹介されていて参考になる本だった。一度中国製品のEコマースも体験してみようと思う。


参考になれば投票ボタンをクリックして頂きたい。





  
Posted by yaori at 12:06Comments(0)TrackBack(0)

2010年08月13日

アリババ帝国 中国発のインターネット巨人 ジャック・マーの10年

アリババ帝国 ネットで世界を制するジャック・マーの挑戦アリババ帝国 ネットで世界を制するジャック・マーの挑戦
著者:張 剛
販売元:東洋経済新報社
発売日:2010-07-09
おすすめ度:5.0
クチコミを見る


中国のインターネット企業を代表するアリババグループCEOの馬雲(ジャック・マー)の1999年から2009年までの10年の軌跡。

馬雲さんは独特の風貌で、ひときわ目立つ。YouTubeにもファイナンシャルタイムズのインタービューが掲載されているので、紹介しておく。馬雲さんの英語のうまさに驚くと思う。



馬雲さんは1964年浙江省杭州生まれ。杭州師範大学の英文科を卒業し、5年間英語教師をやったあと、「自分が成功できるなら80%の人が成功できる。そのことを証明するために起業した」という。


浙江省杭州市は中国で筆者の最も好きな都市

余談になるが、浙江省や杭州は筆者にとって中国で最も愛着がある場所だ。

筆者は1983年に浙江省にフィリピン産鉱石を持ち込んで、ステンレス鋼の原料に加工して日本に持ち込む委託加工(当時は合作と呼んだ)のビジネスを担当していた。その契約相手が浙江省の杭州市にあった浙江省冶金分公司(こんす)だった。

当時は中央集権を見直していた時期で、北京の冶金公司と交渉を始めたが、最終的に契約相手は浙江省冶金分公司になった。

初めて中国を訪問した1983年の夏には、北京、上海、長沙(上海ー長沙は汽車で20時間以上)の工場を歴訪し、最後に上海から電車で杭州に行き、杭州から車で1日掛けて横山という場所にある工場を訪問した。

当時は外国人の中国での旅行は厳しく制限されており、横山や途中の町も非開放地区だったので、杭州を朝出発したが、途中の町の役場に立ち寄っては通行許可証を取っていたので、横山に辿り着いた時は夜になっていた。

その夜歓迎宴を工場の人が開いてくれたが、夏はスッポンが手に入りにくいため数日前に捕まえておいたというスッポン料理で歓待してくれて感激した。

横山工場には遊休となっていたニッケルの生産設備があり、それはアルバニア人技術者が建設したものだと語っていた。中国はソ連と断交した後、同じくソ連と断交していたアルバニアと親しくなり、アルバニアから技術を導入していたのだ。

優秀な品質の製品をつくる工場で、日本でも評判が良かった。

当時はビジネスで出張すると、せっかく来たんだからと先方がわざわざ観光地を案内してくれる習慣があり、北京では万里の長城、故宮、上海では豫園(よえん)、長沙では毛沢東の生家や刺繍工場を見学した。

杭州では西湖をボートで観光し、日本の天台宗の開祖の最澄も学んだ天台山国清寺、龍泉茶で有名な龍泉(泉の水をかき回して波立てても、しばらくするとスーッと波が消えて、鏡のようになる)などを観光した。

鉱石を陸揚げした寧波にも行って一泊した。当時は中国にはエアコンなどなく、水浴びをしてなんとかしのいだ。夜になると多くの市民が夕涼みのために散歩していて、大変な混雑だった。

杭州市ではできたばかりの花園飯店というホテルに泊まり、宴会の後に若い従業員も加わって、みんなで歌った。千昌男の「北国の春」が中国でもヒットしていたことを思い出す。

毎日おかゆには飽きたので、朝食にパンを頼んだら、カステラみたいにボロボロくずれるパンが出てきたことには閉口した。当時はまともなパンは北京と上海の一流ホテルでしか食べられなかった。

杭州の最初の宴会では、山西省出身の人民解放軍上がりの総経理に汾酒(アルコール度53度でセメダインみたいなにおいがする)で乾杯させられ、死ぬほど飲まされたので、翌日の楼外楼での答礼宴では、ブランデーで乾杯し、コカコーラを用意して、乾杯するたびにコーラを飲んで薄めていた。

汾酒・フェンチュウ(ふんしゅ) 500ml【中国酒】
汾酒・フェンチュウ(ふんしゅ) 500ml【中国酒】


楼外楼は日本にも支店がある杭州の老舗レストランだが、当時はそんなきれいな店ではなく、一般庶民も多く利用していた。名物の乞食鳥を初めて楼外楼で食べた。乞食鳥という名前を奇異に感じたものだ。

閑話休題


1999年にアリババ起業

馬雲さんは「中国黄頁」(中国版イエローページ)など何件か起業した後に、中国国際電子商務中心の情報部総経理(部長)となり「国富通」、「中国商品交易市場」などのサイトを立ち上げる。これらのサイトはすぐに黒字となり、合計300万元(40万ドル)の黒字となった。

馬雲さんはこの成功でインターネットの可能性を感じ、1999年に仲間とBtoBサイトのアリババを立ち上げる。


アリババというサイト

アリババは日本語サイトも立ち上げている。もっぱら企業向けなので訪問したことがない人が多いと思うが、BtoB(企業間取引)向けのサプライヤーとバイヤーのマッチングサイトだ。

alibaba





筆者は10年ほど前にインターネット逆オークションを使った電子調達ビジネスを研究していたので、アリババのサイトも10年ほど前から知っている。

自分の興味ある商品を登録しておくと、メルマガなどでサプライヤーのリストを送ってくれるが、そのサプライヤーの品質がどうか、信頼できそうな相手なのかは自分で調べなければならず、結局使わなかった。

今はアリババの登録ユーザーは4000万人で、中国が8割。登録店舗数は5百万件にまで成長してきたので、それなりの信用や品質情報などもあるのだと思うが、当時は企業版のYellow Pageをインターネットに載せたようなものだった。


アリババ起業の十八羅漢

このときの起業メンバーが馬雲さんも入れて「十八羅漢」と呼ばれる面々で、現在でもアリババやタオバオの幹部を占めている。ちなみに仏教では普通十六羅漢と呼ばれるが、十六でも十八でも大きな差はない。

十八羅漢の中でも、1999年10月の蔡崇信(現アリババCFO)の入社で、アリババは資金確保に悩まされることはなくなった。

蔡崇信は、スウェーデンのインベスターABグループの副総裁だったが、アリババと投資交渉をしていて、急に気が変わり、アリババに入社することを決意、70万ドルの年俸を捨ててわずか500元(60ドル)の月給でアリババに入社した。

蔡崇信が入社してすぐにゴールドマンサックスなどが500万ドルを投資した。


ソフトバンクの孫さんが二千万ドル投資

そのすぐ後に馬雲さんと会ったのがソフトバンクの孫正義さんだ。1999年9月のビジネスウィークにはebiz25というインターネット起業家特集があり、孫さんは日本人として唯一ebiz25に入っていた。

次が1999年9月のBusiness Weekの表紙だ。当時筆者は米国に駐在しており、IPO投資した電子調達会社の社長もebiz25に入っていたので、この表紙をスキャンして保存していたものだ。

BWeek19990927cover










出典: Business Week

この記事はBusinessweek.comで読めるので、参照して欲しい。

孫さんは5−6分馬雲の説明を聞いただけでビジネスモデルを理解し、「我々はアリババを第2のヤフーに育て上げる」と語り、30%の株式を2,000万ドルで取得し、アリババの顧問にもなった。

孫さんの目標は「情報革命で人々を幸せにする」ことで、馬雲さんも「インターネットを通じて、社会を豊かにする」との夢を共有する同志であるという。

ソフトバンクの投資は、後に回収するときに70倍以上になってソフトバンクに富をもたらした。

孫さんのヤフー立ち上げ時の1億ドルの投資は有名だが、それに負けずとも劣らないのが、アリババへのこの2,000万ドルの投資である。

1999年はインターネットバブルのピークで、中国の初期のポータルサイト新浪(sina.com)に、シリコンバレーのベンチャーキャピタルが数千万ドル投資し、クライナー・パーキンス、住友商事の子会社のPresidio Venture Capitalなどもsina.comに投資している。


アリババの目標

馬雲さんの打ち出した目標は次の3つだ。

(1)80年持つ企業になる。この80年は後に102年となり、1999年から2101年まで3世紀にわたって存続する企業を目ざすと若干変わった。

(2)世界のインターネットビジネスで10位内に入る。

(3)ビジネスマンなら誰でもアリババが必要となるようにする。

2000年のネットバブルの崩壊直前にアリババは必要十分な資金を調達したので、順調に拡大を続けたが、好事魔多し、アリババにダメージを与えたのは2003年に広まったSARSだった。SARSのためにアリババのオフィスは12日間隔離された。


タオバオとイーベイの覇権をめぐる争い

2003年5月にアリババのCtoCサイト、タオバオが誕生した。タオバオはイーべイが支援する易趣網に対抗して作られたBtoC、CtoCサイトだ。

taobao site






イーベイはヤフージャパンのオークション無料化戦略で2002年に日本から追い出されたが、中国では1999年スタートのCtoCサイト最大手易趣網に2,000万ドル投資し、33%の株を取得して中国でのシェアを90%以上にまで押し上げていた。

アリババはイーベイの小口送金サービスペイパルに対抗し、アリペイを2003年10月に立ち上げた。

2004年初めのタオバオのシェアは9%だったが、ヤフージャパンと同じく手数料無料戦略をとったので、急速にイーベイ易趣網からシェアーを奪い、2004年末には9%から41%にシェアを上げた。イーベイ易趣網は90%から53%にまで落ちた。

それには2004年2月のソフトバンクの6,000万ドルを核とする8,200万ドルの追加投資が役に立った。日本からイーべイを追い出したヤフージャパンの代理戦争がタオバオでも始まっていたのだ。


2005年に決着

2005年は中国企業が大躍進を遂げた年だ。レノボがIBMのPC部門を買収、中国海洋石油総公司がユノカル買収を発表(結局米国政府が認可しなかった)、他にも英国ローバーを南汽が買収した。

2005年でタオバオとイーベー易趣網の戦いはタオバオの勝利に終わり、タオバオ57%、イーベイ34%という結果となった。さらにタオバオはシェア−7%で3位の一拍網も傘下に収めた。

アリババは順調に成長し、2006年に国際貿易の会員数は3百万人を超え、2006年の取り扱い高は260億ドルと、2005年の200億ドルを3割上回った。国内取引でも会員社数は1,600万社を超えた。

タオバオはさらに急成長を遂げ、2006年には取引額は169億元で、2005年のほぼ倍、2006年一年間で220万台の携帯電話、2000万の携帯電話カード、4000万の化粧品、230万のインナーウェア、60万台のデジタルカメラを売っていた。


アリババの株式を公開

2007年はアリババが株式を上場して、飛躍を遂げた年だ、2007年11月アリババは香港市場で株式を公開し、IPO当時の時価総額は260億ドルとなった。

2007年には米国ではサブプライム問題、中国では不動産バブルが発生しており、馬雲さんは、当初の予定の2009年上場を早める必要があると考え、2007年中に香港市場で上場したのだ。

アリババ株の33.5%を持っていたヤフーのジェリー・ヤンは多額の資金を得たが、それでも米国Yahoo!の経営は立て直せず、失意のうちに経営を退いた。

第二位株主のソフトバンクの持ち株の時価総額は45億ドルとなった。投資資金が七十倍のリターンをもたらしたのだ。

アリババ社員は26%持っており、一挙に約5千人の富豪サラリーマンが誕生した。このうち7名の幹部社員が13%を持っていた。馬雲の持ち分は7%で、創業社長にしては少なかったが、馬雲は社員が裕福になったことを喜んだという。

アリババ上場後、香港株は下がった。このブログでも紹介しているバイクライダー投資家のジム・ロジャースは香港株は高すぎるが、アリババ株は例外だと語ったという。


株式上場後、すぐに非常事態宣言

株式公開後すぐの2007年末に馬雲さんは非常事態宣言を出し、タオバオの総裁、アリババグループのCTO,VPが交代すると発表した。

2008年9月には中国の検索で70%以上のシェアを持つ百度ヨウアというECサービスを始め、タオバオと直接競合するようになった。百度からはタオバオに行けないようにしたので、タオバオは報復としてタオバオからも百度に行けないようにした。

リーマンショックの影響が大きかったので、馬雲はアリババの登録費用を6万元から、2万元弱に引き下げて、5万社の中国企業を支援すると発表した。

2009年にはタオバオは利益はまだ出していないが、1.2億のユーザー、アリペイは1.8億人のユーザーを持っているという。アリババの登録ユーザーは4、000万人で、中国が8割。登録店舗数は5百万件だ。

中国のインターネット人口は、1999年末の630万人から、2009年には4.4億人に急拡大しており、中国のほとんどのECサイトに急激なトラフィック増加をもたらした。


顧客第一、社員第二

馬雲さんは、顧客第一、社員第二、株主第三だと語る。

馬雲さんは、本を書くなら「アリババと1001の過ち」という本を書きたいと語っている。アリババの過ちを公開することで、多くの人にヒントを与えるからだと。

最後に馬雲さんの2009年6月の北京大学国際MBA卒業式のスピーチを紹介している。結びの言葉は、なんと映画フォレストガンプの有名な言葉だ。さすが元英語教師の馬雲さんらしい。

"Life is like a box of chocolates, you never know what you're gonna get"だから"Enjoy the life"だと。



著者のジャーナリストの張剛さんは、公開されている資料中心に、そつなく十年間の軌跡をまとめているが、たとえば何故タオバオのトップを総入れ替えしたのかなど、馬雲さんの考えがわからない。

馬雲さんのインタビューを中心に本を書けばもっと良かったと思う。


参考になれば投票ボタンをクリックして頂きたい。




Cto  
Posted by yaori at 13:19Comments(0)TrackBack(0)

2008年10月31日

ジム・ロジャースの中国の時代 20年先まで見据えた投資

ジム・ロジャーズ中国の時代ジム・ロジャーズ中国の時代
著者:ジム ロジャーズ
販売元:日本経済新聞出版社
発売日:2008-06-14
おすすめ度:4.0
クチコミを見る


前回紹介した橘玲さんの「黄金の扉を開ける賢者の海外投資術」でもしばしば登場したクオンタム・ファンドでジョージ・ソロスのパートナーだったジム・ロジャースの中国投資ガイドブック。「私は20年先まで見据えている」と本の帯に書いてある。

ジム・ロジャースは1988年にクオンタム・ファンドをやめ、バイクで世界一周しながら、自分の目で投資機会を見つけ、早くからいろいろな国で投資しているので、アドベンチャーキャピタリストと呼ばれている。

筆者が最初に中国に出張したのは1983年だが、ジム・ロジャースが中国に最初に行ったのは1984年とのことで、当時の状況を思い出させる。

ジム・ロジャースが最初にバイクで中国を横断したのは1988年だが、一番時間が掛かったのは、上海からカラコルム高速道路?まで3,000キロを走破することではなく、必要な許可を中国政府から取ることだったという。

筆者も記憶があるが、当時は完全な中央集権体制で、地方政府の高官は中央の官庁から派遣された役人ばかりだった。

お金も中国人が使う人民元と、外国人用の外貨兌換券の2種類があり、ホテルやレストランの料金はすべてダブルスタンダード、レストランは外国人とつきそいの中国人の食事場所が分かれていた。

中国人料金は大体外国人料金の1/10から1/30程度だったと思う。ホテルの電話はすべて盗聴されており、日本に電話して交渉戦略を打ち合わせしたりすると、すべて中国側につつ抜けになるということで、事前に暗号のような合言葉を決めて中国との交渉に臨んだものだ。

中国国内は大都市中心の外国人解放区と地方の非解放区とに分かれており、非解放区は基本的に外国人が入ることが禁止されていた。筆者は浙江省杭州から車で6時間程度の横山という場所にある工場を訪問したが、途中のいくつもの町で役場に立ち寄り、通行許可を取ってからでないと進めないという有様だった。

ちなみに杭州の近くには、揚子江が逆流するので有名な銭塘江がある。アマゾンのポロロッカと同じ現象だ。

浙江省には杭州の西湖はじめ観光名所・旧跡が多いので、今や日本語ホームページもあるが、1983年には杭州には外国人用のホテルが2軒しかなかったし、朝食にパンを頼んだらカステラのようなボロボロくずれるパンが出てきた。

ちなみに1983年はビジネスでの出張だが、中国側が気を使ってくれて西湖観光や、仏教の天台宗の総本山の天台山国清寺、高級ウーロン茶で有名な龍井茶の龍泉を訪問し、宴会は日本にも支店?がある西湖のほとりの楼外楼で「乞食鳥」を食べた。

初めて「乞食鳥」を食べたので、その調理法にびっくりした。

観光客などほとんどいなかった時代なので、当時出来たばかりの花園飯店(記憶不確か)の食堂で、中国側の通訳やホテルの従業員らと食事のあと一緒に歌を歌って宴会をした。「北国の春」が、中国ではやっていたのに驚かされた記憶がある。



話が横道にそれたが、いずれにせよジム・ロジャースが1988年から中国に注目して、実際に投資していたことには脱帽する。(1988年に中国の株を買ったことは、近々紹介する「商品の時代」に書いてあった)

大投資家ジム・ロジャーズが語る商品の時代大投資家ジム・ロジャーズが語る商品の時代
著者:ジム・ロジャーズ
販売元:日本経済新聞社
発売日:2005-06-23
おすすめ度:4.5
クチコミを見る


この本は23年間、24万キロを掛けて書いた本と言うこともできると、ジム・ロジャースは語る。まさに実践派投資家である。


21世紀は(またもや)中国の世紀

21世紀は中国が中心になって世界を牛耳るので、子どもや孫には中国語を習わせておきなさいとアドバイスしている。2003年に生まれた娘のハッピーには、中国人の乳母をつけたので、北京語がしゃべれるという。

1970年までは「メイドインジャパン」といえば、安っぽくて品質の悪いものだったが、日本が大きく変わったのは今日中国に見られるのと同じ勤労意欲と高い貯蓄率、大企業と政府の利害の一致、技術革新の組み合わせだ。中国は日本の国土の25倍で、日本がもう失ったかもしれないハングリー精神とやる気に満ちているという。

次代のGM,マイクロソフト、AT&Tが現れるかもしれないとジムは語る。

この本では注目される業界と代表銘柄が紹介されているが、ジム・ロジャース自身がどこに投資しているかは書いていない。

この本を書いている2007年の段階で、中国株が上昇していたので、ジムはソフトランディングを予想しているが、もしもバブルが膨れ上がったら、しばらくは注意したほうが良いと警鐘も鳴らしている。その場合には、市況が底入れした段階で動けるように準備しておこうと呼びかける。

現在の中国株の市況動向から言って、底値はまだ見えないと思うが、10年、20年後の世界を考えると中国は「買い」だろうと筆者も思う。ジムが言う様に、準備をして長期保有株を仕込むのには良いタイミングではないかと思う。

shanghai stockmarket




原著はもちろん英語なので、この本でジムはアメリカなど世界の一般投資家に中国への投資を呼びかけており、中国株の歴史的背景や、中国のカントリーリスクなどにも触れている。

A Bull in China: Investing Profitably in the World's Greatest Market
A Bull in China: Investing Profitably in the World's Greatest Market


ちなみに上に挙げたペーパーバック版は2008年12月に発売予定なので、たぶん最近の状況を踏まえて改訂されるのだと思う。


中国のリスク

1.侵略者としての中国
中国はICBMを40発程度持っていると見られるが、それは米・ロの保有する核兵器の4%程度で、抑止力的なものだ。朝鮮戦争やベトナムとの中越紛争までは中国は拡張主義者と見られていたが、一人っ子政策で子どもが一人しかいない今、親が喜んで戦場に送るだろうかとジムは疑問視する。

台湾問題についても、ビッグマックを売っている国同士では戦争したことがないという「マクドナルド要因」を取り上げる。中国は軍事費に国家予算の7%(実際はその3倍と見られている)を使って、軍備の近代化を進めているが、台湾とは経済面で不可分の関係にあるので(大前研一氏は「霜降り状態」と表現している)、国民党政府となってむしろ両国は強固な結びつきになるのではないかと語っている。

2.環境問題
「僕たちは敵に出くわした。それは僕たちだった」という言葉をジムは紹介し、中国の深刻な環境汚染について説明している。

筆者は知らなかったが、石炭に多くを依存している中国の温暖化ガス排出量は今やアメリカを抜き、世界一にならんとしている。カリフォルニアの曇った空に舞う粒子の1/4は中国から飛んできたものだという。

中国と世界のエネルギーバランスを対比して紹介しておく。いかに中国が温暖化ガス排出量の多い石炭に依存しているかがよくわかる。

energy balance Chinaenergy balance world

ジムが懸念しているのは、中国が将来砂漠化してしまうのではないかということだ。インドも中国にも増して水不足はひどいという。ジムは両国をバイクで旅して、水不足のためかつては栄えた町がゴーストタウンと化しているのをいくつも見たという。

世界で最も汚染のひどい都市20のうち16は中国にある。化学汚染によって土壌の良い土地は減少し、森林は砂漠化し、工業地帯に住む子どもの8割は鉛中毒に冒されている。工場排水の80%は下水処理がされておらず、2012年には揚子江は生き物の住めない川になる恐れがある。中国は人口当たりの水の量が世界で下から13番目だといわれている。

ジムは中国の水問題を解決するために、ロシアのバイカル湖の水が使われることを予想している。バイカル湖の周辺をバイクで走ったときに、バイカル湖が米国の5大湖をあわせたよりも多くの水量を持ち、世界の淡水の20%を占める世界最大の淡水湖で、一時は中華帝国の領土の一部だったこともあるという。

次がロシアの極東の地図だ。バイカル湖と中国の間には山脈があり、モンゴルがある。距離も相当あるので、はたしてジムの言っているようになるかどうかは筆者は疑問に思う。

Russland




中国政府や民間企業が上水道・下水道・下水処理のために多くの投資をすることが見込まれ、この関連の業界もビジネスチャンスが増えるだろうと予想している。

バロンズ誌は、中国の問題点として、さらに人口の高齢化と蔓延する汚職をあげているが、ジムは何億といる地方の人が今後何十年も高齢化する人口を補っていき、汚職はいわゆるアジアンタイガーには共通する問題だと整理している。


業界寸評と銘柄紹介

ジムは中国の現状を様々な角度から分析し、関連する業界の中国あるいは台湾又は世界の主要企業のここ3年の業績、上場市場と株価コードを紹介している。紹介している業界の切り口は次のようなものだ。

1.戦時によし、平時によし − 航空宇宙産業と台湾プラステックなど台湾企業

2.流体利益 − 公害対策企業とシンガポール企業、欧米企業など

3.この世では誰もが知っている − 保険・年金、石炭、タイヤ、アルミ、通信

4.現代中国の5大革新者 − 分衆伝媒(デジタルサイネージ)、百度(検索エンジン)、中国徳信(通信)、無錫尚徳太陽能電力(サンテック、太陽電池)、アリババ(BtoB電子商取引)

5.うまい汁を啜る − 電力会社、石炭会社、石炭掘削機

6.イケ株、石油 − ペトロチャイナなどの石油会社

7.中国の風に吹かれて − アレヴァ(フランス企業、中国発の原発を建設),ユーセック(ウラン生産)、BHPビリトン(鉱山会社)、再生可能エネルギー会社など

8.アスファルトの上に立つ − 高速道路会社、港湾運営会社、建設業者

9.自動操縦 − 自動車会社、自動車部品メーカー

10.出発進行 − 鉄道会社、鉄道建設、船会社

11.船乗り計画 − 携程旅行網(旅行会社)、芸龍旅行網、空港会社、航空会社

12.全室煌々と − 上海錦江国際酒店(ホテル150軒のチェーン。1983年には上海で唯一の高級ホテルだった)、地方の旅行会社

13.空の飛び方 − 航空会社、空港会社

14.人民公社よ、さようなら、コンバインよ、こんにちは。− 食品会社

15.ジューシーな果実を − 飲料メーカー

16.タネ銭 − 食肉加工、種メーカー、農業機械

17.ファーストフード − 砂糖メーカー、牛乳メーカー

18.人民のスピリッツ − ワインメーカー、ビールメーカー

19.緑の大地 − 有機野菜、肥料

20.金を生む処方箋 − 超音波検査機、バイオ、医療サービス

21.中国の未来を保障する − 保険会社

22.宿題を少々 − 新東方教育科技集団(外国大学の入試英語教育)、通信教育、職業学校

23.建設的批判 − 不動産開発会社

24.エマージング中国 − ハイテク、宇宙・航空、インターネット(2006年末で、中国のインターネット人口は1億4千万人(そのうち76%は高速回線)、ブロガーは8千万人、中国語ウェブサイトは84万)、映画、スポーツ、クレジットカード、携帯電話(利用者5億人!)、ケーブル・テレビ(利用者1億4千万人)、出版、小売・ファッション。

1999年に中国にはスーパーマーケットは1軒しかなかったが、2003年には6万軒に増えたという。


最後にジム・ロジャースは、人民元に対する投資も比較的優れた安全な方法であると語っている。今後20年の間に、ドルに対して300−500%上昇すると予測している。次は人民元の対ドル相場推移だ。

CNY_USD




筆者が現在も使っている米国のインターネット専門銀行everbankの多通貨投資サービスの人民元口座開設を紹介している。ちなみに筆者は知らなかったが、everbank人民元以外でもいろいろな国の通貨で預金ができる


やはり足で稼いだ情報は貴重だ。BRICS、特に将来のソニー、ホンダをさがすべく中国株投資を考えている人には是非一読をおすすめする。


参考になれば次クリック投票お願いします。



  
Posted by yaori at 12:47Comments(0)TrackBack(0)

2008年09月12日

メイドインチャイナ 「現場学者」関教授の中国進出企業レポート

メイド・イン・チャイナ―中堅・中小企業の中国進出メイド・イン・チャイナ―中堅・中小企業の中国進出
著者:経営労働協会
販売元:新評論
発売日:2007-12
クチコミを見る


以前紹介した「現場学者中国を行く」の一橋大学関満博教授による2007年12月のレポート。

中国に進出した102社の日本の中小企業の現地での苦労話を中心にレポートしている。

102社もの話を読んでいると、それぞれの地区の特徴がよく分かる。

大連地区が33社、上海を中心にする長江デルタが39社、珠江デルタが30社だ。

大連など旧満州地区は日本語が話せる人材も多く、日本とのつながりが深く、製品は日本への持ち帰りが中心だ。

長江デルタは機械やコンピューターなどの多くの産業の集積地で、中国最大の需要地でもあるので、進出企業は中国の内需(日系企業向けも含め)向けが多い。

珠江デルタは電子部品の一大生産地で、「広東型委託加工」と呼ばれる工場の建物と従業員は現地側が提供する「合作」型が特徴で、最近は自動車産業も拡大しており、労働者の確保が難しくなってきているほどだ。

この地域は基本的に輸出基地だったが、最近は日系を中心に電機メーカーや自動車メーカー向けの販売も増えている。

日本の本社は従業員100人以下の中小企業が多いので、東京にあった工場が、東北に移転し、それから中国に移転した会社が多く、取引先に要請されたりして中国に進出し、日本にはもう会社がない企業もある。

まさに背水の陣で中国に進出してきているのだ。

個別の企業の話もそれぞれ面白い。

たとえば最初に紹介されているのは、日本の有力電子メーカーの中国進出のモデルと言われているカーオーディオのアルパインだ。

1988年に元社長の沓沢さんが少年時代に住んでいた遼寧省の丹東を訪問し、その後訪れた瀋陽で東北大学のソフトウェア技術に驚いたことが、同社が中国に進出したきっかけだ。

日本を引き払って社長自らプレス機1台で深圳テクノセンターに飛び込んだヒサダは、まさに背水の陣の典型例だ。現在はプレス機15台、従業員は260人の規模になったという。

日本ではマスコミに顔を見せたことがないという伝説の女性経営者、ミドリ安全社長を50年間勤める松村元子さんも写真入りで紹介されている。ミドリ安全は元々安全靴の生産のために広州に進出し、なめし革の工場をブラジルに持っていることを利用して、ホンダをターゲットに自動車シート生産を中国で始めたという。

ミドリ安全の作業服の合弁会社は中国側にマジョリティを売り、現在は中国人女性が社長となっている。

人間模様も面白い。

関教授の持論である「台湾企業が日本企業より成功しているのは、経営者が現地に駐在しているかどうかだ」という点についても、102社のうちわずかに5社のみで経営者自身が駐在しているが、経営者の親族が駐在している会社は6社あり以前より増えてきたという。

3年程度のローテーションのサラリーマン駐在者では、新たなことに取り組むことは期待しにくく、失敗しないように前例踏襲で行動しがちだという。

商社やメーカー出身の中国経験の長い人をスカウトして社長に据えている会社もあれば、中国人の日本留学経験者を採用したりして中国人をトップに据える会社も17社ある。

第二の人生として中国事業に賭けるシニアもいれば、20代の現地責任者もいる。

102社をレポートする600ページ弱の本なので、全体はざっと読み、興味のある会社や分野の企業についてじっくり読むと良いと思う。

それにしても関満博教授のエネルギーには感心する。中国各地、台湾、ベトナム、モンゴル、日本の地方活性化など400−700ページの本ばかり何冊も出版している。

定価7,000円という高い本なので、まずは図書館で探して読むことをお勧めする。


参考になれば次クリック投票お願いします。



  
Posted by yaori at 00:48Comments(0)TrackBack(0)

2008年09月02日

「現場」学者中国を行く 一橋大学 関満博教授の中国定点観測

「現場」学者 中国を行く「現場」学者 中国を行く
著者:関 満博
販売元:日本経済新聞社
発売日:2003-04
おすすめ度:4.0
クチコミを見る


関満博 一橋大学教授の20年にわたる中国定点観測レポート。

先日関教授の講演を聞く機会があり、非常に参考になったので読んでみた。

筆者が中国に始めて行ったのは1983年で、それ以来中国訪問は7回程度、最近では2002年だ。

中国に行ったのは1983年が最初だが、中国とのビジネスは1976年から手がけていた。

中国の会社(五金公司)とは電報で連絡を取っていたと言うと、いまどき戦前の話かと思われるかもしれないが、当時は中国地方企業との唯一の通信手段は電報だった。

関教授が中国に初めて行ったのは1987年で、それ以来70回以上訪中し、1,000社以上の企業を訪問したという。

同じような時期に中国訪問を始めたので、昔の中国の印象も大体同じで、納得できる点が多い。関教授は、なにせ70回以上も訪中し、1,000社以上の企業を訪問しているので、現場の動きをよくつかんでいる。

関教授は他にも600ページ弱の「メイドインチャイナ」など、中国進出関係の大作を何冊も出しているので、こちらも現在図書館で借りて読んでいるところだ。

メイド・イン・チャイナ―中堅・中小企業の中国進出メイド・イン・チャイナ―中堅・中小企業の中国進出
著者:経営労働協会
販売元:新評論
発売日:2007-12
クチコミを見る


この本のタイトルにあるように、「現場」学者という面では、右に出る人はいないのではないかと思う。


この本の構成

アマゾンのなか見検索には対応していないので、ちょっと長くなるが目次を紹介しておく。

プロローグ 中国は「世界」そのもの

第1章 中国経済の見えないルール
 1. 「自転車理論」、「ライター理論」、「エレベーター理論」で理解する
 2. 見えないルール ー 過剰人口と戸籍制度
 3. 「単位」に縛られる人生

第2章 中央無視の「広東型委託加工」
 1. あなたは東莞に行ったことがありますか?
 2. リスクを排除した最強のビジネスモデル
 3. 低賃金を支える無尽蔵の出稼ぎ労働者
 4. 日中の架け橋 ー 深圳テクノセンター

第3章 未曾有の世界都市に向かう上海経済圏
 1. 上海消費市場の向かうところ
 2. 閔行、漕河瓠虹橋の実験から、浦東新区開発へ
 3. 台湾企業が集結する上海の郊外都市

第4章 日韓企業が主役の北東アジア経済圏
 1. 日本企業が集積する大連
 2. 地場企業と韓国企業が目立つ青島
 3. 日韓企業が伯仲する天津
 4. 北東アジアの交差点 ー 瀋陽、丹東

第5章 知られざる中国内陸産業の実態
 1. 「三線建設」が内陸を工業化した
 2. 内陸で戸惑う日本企業
 3. ハイテク部門と私営企業の意外な発展

第6章 日本企業は何に直面しているか
 1. 日系家電・バイク企業の撤退
 2. 日本企業が一番コストが高いのはなぜか
 3. 現地化著しい韓国企業
 4. 中国に定着する日本人

第7章 中国企業はどこに向かうのか
 1. 中国における「企業」とは何か
 2. 変わらない国営企業の実態
 3. 「郷鎮企業」とは何か
 4. 民営化され、消滅する郷鎮企業
 5. 中国企業の将来を読む

第8章 中国ハイテク産業化の担い手
 1. 北京シリコンバレーの実験
 2. 東北大学の輝き ー 瀋陽
 3. 日本と中国の新たな芽

エピローグ グローバルとローカルに新たな可能性を

それぞれのサブタイトルに、さらに細かい見出しが掲載されており、目次を読んだだけで内容が推測できる優れた目次である。

2003年4月発刊で5年前の本だが、内容は全然陳腐化していない。中国の経済発展の本質と地域別の特徴を鋭く分析している大変参考になる本である。

関教授も大前研一さんが「チャイナインパクト」で指摘した、「メガリージョン」として中国をいくつかの地域に分けて理解するという議論に賛同し、さらに「先進国的な部分」と「後進国的な部分」が混在しているという見方を加えている。


中抜きされた中国の世代構成

中国は1966年から10年間の文化大革命で、前後をふくめた15年間は十分な教育がなされなかった。だから現在45歳から60歳の世代は中抜きされ、支配階級の60歳以上から、一挙に次の世代は45歳以下に若返っているのである。(この本は5年前の本なので、本文で記載されている年齢に5歳足した)

たしかに筆者も中国の人とつきあって、急に若返りが進み、ダイナミックに資本主義的に行動する人が増えたと感じている。

その理由を、関教授は45歳以下の人たちは「物心ついたときから市場経済」世代で、工場で働く20−25歳以下の人たちは「生まれたときから市場経済」世代だからであると説明する。

日本人には中国に対する微妙な感情があり、中国が成功しては困るという感情があるが、このような「縮み志向」は日本の可能性をつみ取ってしまう。「中国の成功は、わが国の成功、ひいては東アジアの安定につながる」という大きな視野を持って、新たな歴史をつくることに積極的に協力し、共通の基盤を形成しながら、そのエネルギーをもらうべきだと関教授は語る。


中国経済を理解するための7つの視点

中国経済を理解するための次のような7つの視点が紹介されている。

1.独特な社会主義 ー 基本は変わっていない
2.組織構造の基本 ー フルセット主義
3.過剰人口が背景 ー 戸籍、単位、档案(とうあん、個人の公的履歴書)
4.共産党の存在  ー そのメリットの範囲の改革
5.地域による特殊性ー 経験が他地域で通用しない
6.中国の人々    ー 45歳を境に価値観が違う(これも原文に+5歳した)
7.日本人の心    ー ねじれた思いをどう乗り超えるか

ちなみに次が中国の行政地図である。

China Map






出典: Wikipedia


中国を理解するための三つの理論

初めに関教授は日本人が理解しにくい中国の仕組みを次の3つの理論を挙げて説明している。

1.「自転車理論」
  中国の自転車は乗るとすぐにどこかが壊れる。そのせいかそこら中に自転車修理屋がある。直してもまた壊れ、1年くらい修理を重ねるとやっと「完成車」になる。中国の製品はだいたいこうしたものであると。法律や制度にもこの「自転車理論」が当てはまるのだと。

2.「ライター理論」
  中国で売れるのは、格安の100円ライターと外国製の数万円のライターで、中途半端なものは売れない。日本企業の合弁会社の製品はこうした中途半端なものが多く、家電にしてもオートバイにしても結局中国国産の品質が向上してくるとシェアを失うのである。

3.「エレベーター理論」
  中国に日本のビデオメーカーが鳴り物入りで進出したが、結果はさっぱりだった。中国ではVCD(Video-CD)が普及し、さらにDVDに向かっている。FAXも同様でさっぱり普及せず、eメールに変わった。日本では一歩一歩階段を登るような形で進歩していくが、中国はエレベーターに乗っているように、いくつかの段階をパスして日本を追いかけてくるのだ。


中国特有の三つの制度

中国の実情を理解するために重要なのは、次の3つの制度だ。

1.一人っ子政策 
  1970年代末から厳しく実行され、現在20代の若者ならば兄弟はいない。一人っ子政策は、大学進学率向上には役立っているが、このままいくと30年後は超高齢社会となってしまう。

2.戸籍制度
  中国には戸口(戸籍)制度があるため、人々は自由に移動できない。農村戸口の人が都市戸口に移る最大のチャンスは大学に合格することだ。広東省などは、暫定戸口を発給することで、内陸の安くて豊富な労働力を大量に導入している。

3.「単位」に縛られる人生
  人民公社や国営企業のある町は、昔はすべて人民公社や工場で完結した社会をつくっていた。国家の年金はなく、国営企業が年金を負担し、教育、医療費、住宅提供などの福利厚生のすべてを負担していたのである。中国の国民のすべてが都市では国営企業、農村部では人民公社の「単位」に属することになっていたが、人民公社がすたれたため、農民には年金も福祉もなくなっている。

その「単位」での履歴書が档案(とうあん)だ。档案は本人は見ることができず、「単位」が保管している。


あなたは東莞に行ったことがありますか?

関教授は講演会の初めに、「あなたは東莞に行ったことがありますか?」と聞くという。筆者が参加した講演会でもそうだった。全体的な傾向として大体1割前後なので、「今どき東莞を見ないでよくやれていますね」と脅すと、講演がスムーズに進むという。

珠江デルタ







香港から深圳、そして広州に至る途中の東莞市はOA機器、電子電器パーツや自動車部品の製造業の中心として、大変な発展を遂げており、戸籍人口150万人の東莞市に500万人以上の出稼ぎ労働者がいるという。

出稼ぎ労働者の大半は農村出身の若い女性で、一部屋に2段ベッド6−8台が置かれた寮で集団生活をして、お金を貯めて数年で出身地に帰るのだ。

東莞には台湾企業が4,000社以上進出し、日本企業も多く進出している。


広東型委託加工

広東省では、「広東型委託加工」という仕組みがあり、土地、建物、従業員は中国側が提供し、外資は生産設備を導入する。工場の管理も外資が行うが、中国には直接投資していないので、中国では法人税は発生しないというしくみだ。

中国の中央政府はこの形の委託加工を認めないとの指令を出したが、広東省は中央の意向を無視して続けている。

製品は本来輸出100%だが、広東省型の場合中国国内ユーザー向け販売も「転廠」ということで認められている。

筆者も25年前に中国で委託加工(中国側は「合作」と呼んでいた)をやった経験がある。フィリピンの原料を中国の中国浙江省に持ち込み、電気炉で製品に加工して、日本に持ち込む方式だ。

当時外人には非開放地域にあった浙江省の横山工場では、筆者の訪問の歓迎宴に備えるために数日前にスッポンを捕まえて飼っていてくれた。素朴なホスピタリティに感激するのと、アルコール度50%を超す強烈な汾酒(山東省産の白酒ということだった)の乾杯攻撃には、本当にまいった思い出がある。

この本では「深圳テクノセンター」という日系企業向けのインキュベーション工業団地のことが紹介されている。筆者の先輩がそこで働いていたので、筆者も2002年に訪問したことがある。


地域別の特色

詳しく紹介しているときりがないが、上記の目次のように上海、大連、青島、天津、などについてそれぞれの地域の特色が簡潔に述べられていて参考になる。大前さんが「チャイナインパクト」で「メガリージョン」と呼んでいる通りだ。

中国の内陸部についての「三線建設」というのは、1964年に毛沢東が打ち出した防衛線のことで、これに基づいて軍需工場などを沿岸部から内陸部への移設した。防衛上沿岸部が第一線、四川、貴州、雲南を中心とする西南地域から甘粛省などの西北部を結ぶ線を第三線と呼び、その間の地域を第二線と呼ぶ。

四川省の重慶などの奥まったところに軍需工場が建設され、沿岸から1,000キロ程度離れているので、日本軍の爆撃機の航続距離では届かなかったという。

日本企業では四川大地震で有名になったヤマハの他、スズキ、いすずなどが進出している。

ちょうど8月30日に四川省で再度大地震が起こったが、筆者も震源地四川省攀枝花(ハンシカ)市の鉄鋼メーカーを訪問したことがある。四川省の山奥で、駅からかなり離れたところにある工場の町に高層マンションや流しのタクシーがあったので、驚いた記憶がある。

内陸にも重工業で栄えた都市があり、特に四川省は四川サイエンスパークと呼ばれる核開発の拠点があると言われている。

参考になるトピックが満載だ。

たとえばホンダは最大のコピーメーカーである海南島の新大州というメーカーに資本参加するという離れ業を演じている。コピーでも品質は良いということを認めた形だ。

「スタバではグランデを買え!」でも紹介されていた100円ショップの仕入れ元の集積地、浙江省の義烏市の常設見本市の「中国小商品城」や、中国のシリコンバレーの北京や東北大学のソフト開発も紹介されている。

非常に盛りだくさんで、参考になる事例と解説が満載である。中国と取引がある人には是非おすすめできる本だ。


参考になれば次クリック投票お願いします。




  
Posted by yaori at 00:11Comments(0)TrackBack(0)