2016年10月09日

アドテクノロジーの教科書 専門書だが役にたつベストセラー



電通の昨年入社の女性新入社員が、昨年末自殺し、彼女の自殺が労災=過労死に認定された。自殺直前の彼女の残業は105時間に達し、うつ病も発症していたという。小さい時に両親が離婚し、お母さんに育てられて東大の文学部を卒業し、昨年電通に入社したという。

残されたお母さんが記者会見しているのを、ニュースで見るのがつらい

ネットで彼女のツイッター書き込みなどにより、勤務実態や周りの上司・同僚の扱いが紹介されている。

悲劇はまた繰り返されたか!という感じだ。

もっとも、この話は電通だけの話ではない。他の会社でもある話だ。

自殺までには至らないにしろ、社員がメンタルダウンになる事例が続出して、どの会社でも社員の健康管理と残業の規制を厳しくしている。

2015年12月から一事業場で50人以上社員がいる会社には、ストレスチェックという定期的ストレス検査が法律で義務付けられている。

筆者の会社も昔は36協定違反の残業は、翌月に始末書を事務的に出せば済んだが、今は36協定違反が発生するとコンプライアンス違反として社長報告が必要になっている。

広告業界は残業が恒常化しているのかもしれないが、電通も36協定違反は、コンプライアンス違反なので、撲滅が必要だという意識を持つ必要があるだろう。

彼女は電通のダイレクトマーケティング・ビジネス局デジタル・アカウント部で、インターネット広告を担当していたという。

この業界特有の事情も自殺の要因になった可能性もあると思う。

アドテクノロジーが日進月歩で進化していて、まわりが何を話しているのか、わからないことがあったのではないか?

だからせっかく作った提案が、ポイントを押さえておらず、使い物にならないので、ボロクソに言われたのではないか?

IT業界のように、アドテクノロジー業界も三文字略語が氾濫している。

たとえば、DSP、SSP、DMP、PMPはインターネット広告を担当していれば、最低限知っておかなければならない業界用語だが、なんの略かお分かりだろうか?

DSPはDemand Side Platform、SSPはSupply SIde PlatformDMPはData Management PlatformPMPはPrivate Market Placeだ。

これがやたらに話に出てくる。

現在のネット広告業界の業界地図は次のカオスマップの通りだ。


出典:カオスマップ2015−2016

これを理解するために絶対必要なのが、この「アドテクノロジーの教科書」だ。この本の著者は株式会社マクロミルの広瀬信輔氏で、マクロミルのDigital Marketing Labの責任者だ。

もっとも、広告代理店で働いていても、この本を一読しただけではわからない。

アマゾンのカスタマー・レビューに投稿している広告代理店勤務の人のコメントのように、5度くらい読み返す必要があるだろう。

筆者は10年ほど前までは、ネット企業の経営に携わっていたので、広告業界の事情には詳しいと思っていたが、この本を読んで過去の経験が全く陳腐化して役に立たないことを痛感させられた。

筆者がネット業界を離れたのは2007年だったが、2008年から日本でもアドネットワークという「広告配信ネットワーク」が登場した。

アドネットワークに入札・入稿することで、広告主は多数のウェブサイトに広告を配信できるようになったのだ。それからは、急速に時代は変化しており、現在の業界図は上記のカオスマップのように入り組んでいる。

この本はアマゾンのなか見!検索に対応していないので、なんちゃってなか見!検索で、目次を紹介しておく。

Chapter 1.History & Technology

01 アドテク登場以前のインターネット広告
02 アドネットワーク 〜 第三者配信のはじまり
03 BTA(Behavioral Targeting Advertising)
04 アドエクスチェンジ 〜 広告枠の取引市場化
05 オーディエンスデータ/オーディエンスターゲティング
06 DSP/SSP
07 3PAS(第三者配信アドサーバー)
08 アトリビューション分析
09 アトリビューション分析 〜 MIHモデルの概要と事例
10 アトリビューションマネジメント 〜 広告弾力性の問題
11 アドベリフィケーション
12 アドベリフィケーション 〜 調査結果:DSP配信枠の品質
13 DMP(データマネジメントプラットフォーム)
14 DMP 〜 活用事例
15 PMP(プライベートマーケットプレイス)
16 【チェック】 GDN(Google Display Network)のターゲティングの種類と活用方法

Chapter 2. Creative

01 動画広告
02 インストリーム広告の配信事例
03 動画広告の課題とこれから
04 リワード広告/アフィリエイト広告/ブースト広告
05 インフィード広告(イン〇〇広告)
06 ネイティブアドと記事広告の違い(ネイティブアドの解説)
07 ソーシャルメディアマーケティングの成功企業と失敗企業

Chapter 3. Measurement

01 ディスプレイ広告の2つの役割と効果測定方法
02 インバナーサーベイとリードバナーアンケート、ブランドリフト調査の新手法の解説
03 リサーチと購買データを活用した効果測定の事例 〜 株式会社マクロミル
04 クロスメディア効果測定の事例 〜 株式会社インテージ
05 【チェック】スマートフォン対応によって、ウェブサイトのアクセス数は増加するのか?

Chapter 4. Player

01 海外プレーヤー Criteo
02 海外プレーヤー Rocket Fuel
03 海外プレーヤー Rubicon Project
04 海外プレーヤー TubeMogul
05 国内プレーヤー FreakOut
06 国内プレーヤー サイバーエージェント
07 国内プレーヤー VOYAGE GROUP
08 国内DMPパッケージの位置づけ
09 株式会社オムニバス(DMPサービス解説 Pandora)
10 株式会社PLANーB(DMPサービス解説 Juicer β版)
11 最近の買収情報まとめ
12 新規参入について筆者が思うこと

Chapter 5. Market

01 カオスマップのカテゴリ解説
02 市場規模
03 PMPがもたらす広告取引市場の変化
04 DMPと3PASは今後どうなるの?Googleサードパーティポリシー変更の背景考察
05 DMPの市場と課題とマーケティングオートメーション
06 マーケティングオートメーション X DMPの事例
07 動画広告の市場と課題と未来
08 新たな市場を作れるか?CMP(コンテンツマーケットプレイス)

Special Contents

01 DSPを語る 〜 ヤフー株式会社 高田 徹氏
02 DMPを語る 〜 日本オラクル株式会社 福田 晃仁氏
03 動画広告を語る 〜 株式会社オムニバス 山本 章悟氏
04 ネイティブアドを語る 〜 株式会社グラーダーアソシエイツ 荒川 徹氏
05 アトリビューションを語る 〜 アタラ合同会社 岡田 吉弘氏
06 タグマネジメントを語る 〜 Fringe81株式会社 佐藤 洋介氏
07 アドテク業界を語る 〜 株式会社Legoliss 酒井 克明氏

筆者のいた時代のネット広告は、サイトの広告枠を期間単位で広告代理店経由広告主に販売し、クリエイティブは広告主が制作したものを掲載するか、あるいは自社で広告主から提供された素材を使って製作するかというものだった。

1対1の取引だ。

現在は、ネット広告が進化し、RTB(リアルタイムビッデイング)で、表示された広告枠に広告主がリアルタイムで入札して、最も条件のよい広告主の広告を掲載するというのが現在のバナー広告表示のやり方だ。

広告の表示にゼロコンマ数秒間があくのは、その間に自動的に入札して、最も条件のよい広告主の広告を選択しているからだ。

もっとも、こんな時代になっても、優良広告枠は入札では販売されず、相対取引で販売されている。広告を掲載するメディア側が、優良広告枠を入札で販売すると、自社のブランドイメージを損なう広告が入ってくることを懸念しているためだ。

その意味では、優良広告枠については、依然として昔からの相対取引が生き残っている。すべて自動入札で販売されているわけではないのだ。

冒頭に紹介した電通の新入社員の過労死の例もあるように、広告配信技術は進歩したが、広告営業は人間系のソリューションが必要である。

そのことを知って、ちょっとほっとした。

専門書なので、広告業界に携わったことがない人には、ちょっと難しいかもしれない。

著者の広瀬さんが主宰しているDigital Marketing Labのウェブサイトにアドテクに関する説明がある

また、以前「渋谷ではたらく社長の告白」のあらすじを紹介した藤田晋さんのサイバーエージェントが、積極的に宣伝しているので、サイバーエージェントの「日本一やさしいアドテク教室」も参考になる。



時間があれば、サイバーエージェントのアドテクノロジー説明会が同社のウェブサイトに掲載されているので、これを見ることをお勧めする。



筆者の率直な感想は、いつまでもあの業界に働いていなくてよかった、というものだ。日進月歩のアドテクの進化には到底ついていけない。


参考になったら、投票ボタンをクリック願いたい。

  
Posted by yaori at 03:18Comments(0)TrackBack(0)

2015年07月27日

コトラーの戦略的マーケティング いまだに平積みで売られている本



フィリップ・コトラー教授のマーケティングの古典を読んでみた。今でも三省堂のビジネス書コーナーには、平積みで置かれている。2000年に翻訳が出たので、原典は1999年、つまりインターネットバブルの時に出版されている。

出てくる事例は、たとえば1999年10月に亡くなったソニーの故・盛田昭夫さんだったり、現在は苦戦しているマクドナルドや、政府支援でやっと立ち直ったGMの今は無くなったサターンデビジョンなどが成功例として取り上げられていたりして、古いものもあるが、依然としてマーケティングの基本を理解するには適切な本である。

まずマーケティングとセールスの違いを知らなければならない。筆者も1986年から1990年の最初の米国駐在時に、米国人のセールスマネージャーを採用するときに、米国人の人事担当VPから「マーケティングマネージャーとセールスマネージャーは違うよ」と言われて知った。

良く知られた寓話を使って、コトラーが説明している。

南太平洋に浮かぶ島に自分たちの市場があるかどうかを検討している靴メーカーの話だ。最初に派遣された受注担当者は、「ここの人びとは靴をはいていない。ここには市場はない」と報告した。

この報告に納得できなかった社長は次は営業マンを送った。「ここの人びとは靴をはいていない。ものすごい市場がある」と電報を打った。

この営業マンが圧倒的な数の裸足の人たちを目撃して、われを忘れてしまったので、今度はマーケターが送り込まれた。

部族の首長と数人の現地人にインタビューしたマーケターは、こう電報を送信した。

「ここの人びとは靴をはいていない。しかしながら、彼らは足に問題を抱えている。私は、靴をはくことで足の問題が防げることを首長に示した。首長はその考えに夢中になっている。部族の70%が一足10ドルで靴を買うだろうと首長は見ている。

初年度、われわれは5000足を販売できる見込みだ。島に靴を運ぶ輸送費と流通経路の整備にかかる費用は1足あたり6ドル。初年度の利益は2万ドルを超える計算になる。

われわれが計画している投資額からすると、投資利益率(ROI)は20%となり、通常の15%を上回っている。言うまでもなく、この市場に参入することで、将来手に入る価値は高い。ぜひ参入すべきである。」

この寓話にあるように、マーケティングは次の要素で構成されている。

R=調査(Research)

STP=セグメンテーション(S)、ターゲティング(T)、ポジショニング(P)

MM=マーケティングミックス(一般には4Pとして知られている、プロダクト(製品)、プライス(価格)、プレイス(流通チャンネル)、プロモーション(宣伝))

I=実施(インプレメンテーション)

C=コントロール(フィードバック、結果の評価、STP戦略とMM戦術の見直し、もしくは改善)

いわゆるPDCAによる継続的改善と似た考え方だ。

参考になる例がいろいろ紹介されている。

イケアの創業者イングヴァール・カンプラッドは、スウェーデンの高い家具に悩まされていた若い家族が、安くて高品質の家具が買えるようにした。その戦略は、次の通りだ。これが「マーケティング機会」だ。
1.大量購入・大量注文で大幅なディスカウントを達成する
2.家具を組み立て式にして、輸送費を節約する
3.顧客はショールームで見て購入し、自分の車で持ち帰るので配送料がかからない
4.顧客は自分で家具を組み立てる
5.代表的なスウェーデンの家具小売店が高いマージンで少量の家具を販売しているのに対して、イケアは低いマージンで大量に売りさばく

マクドナルドのレイ・クロックの非凡な才能は、多くの人が早くて、安くて、おいしい食べ物を望み、同じ味を期待していることに気が付いたことにある。マクドナルドが登場するまで、そうしたサービスを提供したものはいなかった。

マイケル・ポーター教授は、「競争の戦略」のなかで、企業の各事業部は、次のいずれかに集中すべきだと提案している。
1.製品の差別化戦略
2.コスト・リーダーシップ戦略
3.ニッチャー戦略
このいずれも中途半端に終わると、どれか一つの戦略に優れた競合企業に負けるだろうと警告した。




★クラリタス社(現在はNielsenの一部)が開発したプリズム(Potential Rating Index by Zip Markets)は郵便番号で分割して、全米50万以上の住宅区域を、プリズム・クラスターと呼ばれる62の異なったライフスタイルのグループに分類している。クラスターは39の因子をグループ化した次の主要な5つのサブカテゴリーを考慮して決定されている。
1.教育水準と経済的な豊かさ
2.家族のライフサイクル
3.生活の都市化の度合い
4.人種と民族性
5.移動性

それぞれのクラスターは次のような名前が付けられている。
1.Blue Blood Estates(名門出)
2.Winner's Circle(勝利者の集まり)
3.Hometown Retired(悠々自適の引退者)
4.Shotgun and Pickups(「上昇志向者」という訳になっているが、銃を好み、シーズンになるとピックアップトラックで狩猟に出かける人たち)
5.Back Country Folks(Uターン族)

Wikipedia英語版にすべて列挙されているので、参照願いたい。

いくつか例を挙げると。
6.American Dream(大都市に現れた高級志向の少数民族の集まり。彼らは輸入車、雑誌の「エル=Elle」、シリアルのミューズリー、週末のテニス、デザイナーブランドのジーンズを好む傾向がある。平均世帯所得は4万6千ドル)。

7.田園生活を好む産業労働者(中央街のオフィスや工場に勤める若い家族が含まれ、彼らのライフスタイルは、トラック、雑誌の「トゥルー・ストーリー」、シェイクン・ベイク(即席のケーキの素)、熱帯魚によって代表される。平均世帯所得は2万2千9百ドル)。

8.カシミヤとカントリークラブ(これらの年輩のベビーブーマーたちは、郊外で豊かな生活を送っている。彼らが購入するのは、メルセデス・ベンツ、「ゴルフ・ダイジェスト」誌、塩の代替製品、ヨーロッパ旅行、最新型のテレビ。平均世帯所得は6万8千6百ドル)。
 
なかなか興味深い。

★統合型マーケティング・コミュニケーション(IMC)
コトラー教授は、企業のマーケティング・コミュニケーション活動がきちんと統合された形で展開されていないことは周知の事実であり、これを解決するには、VPC(Vice President of Communications)を任命すればよいと語る。VPCが関与するのは単に一般的なメディア媒体にとどまらず、会社の服装規定や業務用トラックのペインティング、工場の外観など多岐に及ぶ。

顧客や見込み客は次のようなちょっとしたことで、その企業や製品について、自分なりの判断を下してしまうことがある。
・見込み客が工場を訪問した時、その散らかりようや床のゴミに唖然とした。
・見込み客が営業マンの訪問を受けた時、営業マンの息が臭く、服装もだらしなく、態度にしまりがなかった。
・顧客が企業広告を見て、センスがないと判断した。
・大々的に広告を打っている勢いのある企業のトラックが、実は古く、おんぼろであることに顧客が気づいた。

★よりよいサービスの例 
フォーシーズンズホテルや、ノードストローム百貨店の例は有名だが、コトラー教授は次のような例を挙げている。

USAA保険 
軍人とその家族に、保険業と銀行業のサービスを販売している。戸別訪問は行っておらず、保険はすべてテレマーケティングを通して販売している。USAA保険のCTIには、各顧客の記録が入っており、電話を受けると顧客の記録がテレマーケターの画面に映し出され、テレマーケターは顧客が喜ぶことをいろいろと話しかけることができる。

サックスフィフスアベニュー 
個人向けのショッピング・サービスでは、顧客は電話で予約し、店に着くとスイートルームに通され、専任の購買代理人が服を運んでくるか、自宅に服を届ける。もし全店セールの予定があれば、自宅に連絡が行き、もし同じものを購入した後で、セールが行われれば、代金が払い戻される。毎年一定金額以上を購入した顧客には、サックスは贈り物を送っている。

ハーレー・ダビッドソン 
ハーレーのバイクの購入者には、ハーレー・オーナーズ・グループ(HOG)の初年度無料会員証が与えられる。会員更新料は年間40ドルで、永年会費は350ドルである(注:現在は会費は上がっているかもしれない)。36万人の会員には、次がプレゼントされる。
1.特典情報が記載された会員マニュアル。
2.40ページの隔月誌 HOG Tales
3.オートバイ雑誌 The Enthusiast
4.特製のピンとバッチ
5.HOGツーリング・ハンドブック
6.12段階の達成段階別マイレージ・プログラム
7.ツーリングのABCに関したコンテスト
8.世界中どこでもハーレー・ダビッドソンのバイクがレンタルできるプログラム
9.月例会や組織的なツーリング、資金集めの各種活動への招待
10.バイクの手入れとHOGライフスタイルについての記事が掲載された月刊誌
11.安く加入できる傷害保険及び生命保険

ハーレー・ダビッドソンは自社製品を愛し、お互いに集うことが好きな顧客のブランド・コミュニティの構築に成功し、さらにブランドを革のジャケット、サングラス、ビール、タバコまで拡張した。



★資生堂クラブ(花椿クラブ)、クラブ任天堂リアドロ・コレクターの集いなど紹介している。

★マーケティング監査
コトラー教授は、最後にコペルニクス社によるマーケティング監査の手法について紹介している。

Kotler1





















Kotler2





















出典:本書309〜311ページ


この手のマーケティングの教科書としては読みやすい。マーケテイングにおける基本が具体例とともに紹介されていて参考になる本である。


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Posted by yaori at 00:06Comments(0)TrackBack(0)

2014年12月08日

あの夏、サバ缶はなぜ売れたのか? データ分析もPDCAサイクルだ



博報堂グループで制作と広告・プロモーションをワンストップで提供する博報堂プロダクツのデータベースマーケティング部長大木真吾さんの本。

顧客分析は筆者が最も興味を持っている分野の一つで、いままで世界最高のCRM能力を持つといわれている「TESCO顧客ロイヤルティ戦略」や「アナリティクス界のドラッカー」(大木さんの表現)といわれる米国ダブソン大学のトーマス・ダベンポート教授の「分析力を武器とする企業」などのあらすじを詳しく紹介してきた。

Tesco顧客ロイヤルティ戦略
C. ハンビィ
海文堂出版
2007-09



分析力を武器とする企業
トーマス・H・ダベンポート
日経BP社
2008-07-24


この本では、データ活用のPDCAサイクルを次の様に紹介している。

PLAN : 「意志を持つ」フェーズ データ分析の目的を明確にして仮説を構築する

DO   : 「可視化する」フェーズ データを収集し、分析作業を行う

CHECK: 「翻訳する」フェーズ   分析結果の意味するところを解釈し、課題解決を目指す施策を打ち出す

ACTION: 「アクションする」フェーズ あらかじめ目標を設定し、実際に分析結果に基づいたアクションをする

参考になったのは、JALが行った「海外女子旅」プロジェクト。最初はデータには全く触れず、JALの旅客販売統括部WEB販売部と博報堂プロダクツの社員で構成されるプロジェクトチームが、顧客の旅行パターンを思い思いに挙げて70の「行動仮説」をつくった。

それをさらにふるいにかけて、十数個のグループにわけ、それぞれにJAL顧客のデータをあてはめていって、「海外女子旅」というグループを見つけた。

このグループは:
1.JALのホームページにログインしたうえで、WEB経由で購買している。
2.過去2年間に1回以上、日本発のJAL国際線に搭乗している。
3.20〜45歳の女性マイレージ会員である。
4.比較的同年代の女性同志での搭乗が1回以上ある。

クロス分析の結果、1万人の海外女子旅経験者を抽出できた。、

次に、この1万人の海外女子旅経験者をプロファイリングして、ペルソナ化(擬人化)して、同様の人を探した結果、母集団8万人から、1万7千人の「近い将来海外女子旅をするかもしれない候補者」グループをあぶりだすことができた。

母集団8万人は、今や次のようなグループに分けられた。

1万人 海外女子旅経験者
1万7千人 近い将来海外女子旅をするかもしれない候補者
5万人 海外女子旅をしないと思われる候補者

同じ「海外女子旅」のバナー広告などを表示した結果、上記の1万7千人の「近い将来海外女子旅をするかもしれない候補者」グループが、5万人の「海外女子旅をしないと思われる候補者」より10倍も売り上げが上がったという。

データ分析の成功例だ。

この本ではID−POSデータ(ポイント会員組織を持つスーパーなどでのPOSレジ売り上げデータ)を分析した例も紹介されている。

本のタイトルになっている「あの夏(=2013年)、サバ缶はなぜ売れたのか?」は、2013年7月30日に「たけしの健康エンターテインメント! みんなの家庭の医学 新発見!やせるホルモンで病の元凶【肥満】を解消SP」で「サバの水煮缶」がダイエット効果があると放送されたからだった。

大雪と「雪見だいふく」の関係とか、食べるラー油とキムチにラー油をかけた「キムラ君」など、テレビCMとの関係が紹介されている。

その他には「シュークリーム男子」とか、「地域ナンバーワンスーパーが、ネットサービスの会員を増やしたい」、「居酒屋の顧客単価を上げる」などの例が紹介されている。

平易に読めるのはいいが、いかんせん具体例が弱い。

顧客データ分析では、英国のTESCO社と、NECTAR共通ポイントプログラムを英国、イタリア、チリなどで運営するカナダのAIMIA社が世界最高峰だ。

残念ながら日本の顧客分析は、到底英国のレベルに達していない。

最大の原因は、英国の流通業界は寡占で、TESCOやAIMIA(運営会社は英国のLMG=Loyalty Management Group、スーパーはSainsburry)は、英国の全世帯数の半分以上の情報を持っているのに対し、日本最大の流通業のイオンでもマーケットシェアは10%強程度だからだ。

日本の消費者は、スーパーのチラシで特売情報を入手し、いつも行くスーパー数社の中から選択している。それだけスーパーは競争も激しいし、結果として消費者の購買情報はスーパー数社で散逸してしまう。

だから集められるデータが少なく、たとえID=顧客情報を持っていても、一人の顧客の全体像がつかめないのだ。

それと誰も問題にしていないが、実は日本の郵便番号のメッシュは荒すぎて、たとえば建物一つ一つに郵便番号がついている英国とは比べ物にならない。

階級社会の英国は、年収や勤務先などのデータがなくても郵便番号だけで、どういったクラスの人が住んでいる場所なのか判別できるという。郵便番号をプロファイリングデータの一つとして活用しているのだ。

実際、筆者が英国出張中にNECTARのカードをロンドン支店の住所で申し込んだら、その住所には住んでいる人はいないので、正しい住所を連絡して欲しいという回答があった。

日本ではこういう具合にはいかないだろう。

この本では、データ分析はどういう具合にやるのかがわかって、参考になった。しかし、ビッグデータ時代到来と騒がれているが、日本の所与の条件で、どれだけデータ分析が進歩していくのか不安を感じさせる内容でもあった。


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Posted by yaori at 12:28Comments(0)TrackBack(0)