2016年11月20日

日本核武装計画 トランプ発言で勢いを得るか?田母神さんの日本核武装20年計画



トランプ次期米大統領が選挙運動期間中に、北朝鮮の核に対抗するために、日本も韓国も核武装したらよいという発言をしていることが、マスコミでも取り上げられている。



「富士山噴火」などのクライシス小説を得意とする高嶋哲夫さんの「日本核武装」という小説も売れている。

日本核武装
高嶋 哲夫
幻冬舎
2016-09-23


同じような題名だが、元自衛隊幕僚長の田母神さんの「日本核武装論」を読んでみた。

田母神さんの本は、以前「座して平和は守れず」という本のあらすじを紹介している



この本ではあまり参考になるデータ等は紹介されていない。

たとえば、世界の核保有国のリストはあるが、保有核弾頭数は記載なく、どこがどれだけ核弾頭をもっているのかわからないので、この辺りはこのブログで紹介している元陸将補の矢野義昭さんの「核の脅威と無防備国家日本」という本のあらすじもあわせて参照願いたい。



田母神さんは日本の工業技術をもってすれば、核爆弾製造など簡単にできるだろうという前提でこの本を書いているので、本当に日本でも核爆弾ができるのかどうかは、このブログで紹介している「日本は原子爆弾をつくれるのか」のあらすじも参照願いたい。



筆者はこの本を読んで、田母神さんは、太平洋戦争に突入していった旧陸軍軍部のような発想の人だと感じた。

すべてが楽観的な見通しに基づいて議論しており、特に日本がNPT(核拡散防止条約)から撤退して核爆弾を製造し始めたら、当然予想される世界中からの制裁(当然エネルギーと食料の供給がストップすることだってありうる)にどのようにして耐えていくのかというロジスティックスを全く考えていない。

上記で紹介した「核の脅威と無防備国家日本」も同様の内容の本で、どちらもスキだらけで、突っ込みどころがありすぎる。

田母神さんの主張は、この本の「はじめに」で明らかにされている。要約すると:

「バブル崩壊以降の日本経済はひどいものだった。アメリカがもくろんだ通り、日本は弱体化し、世界一と言われた日本経済は海の底に沈んだ。

こんなことになった根本的原因は、日本がアメリカに守ってもらい、アメリカに依存して生きてきたからということに行きつく。

日本の政治家に日本派はほとんどいない。いるのはアメリカ派と中国派だけだ。しかし、日本人もバカではない。数少ない日本派の政治家の安倍晋三を総理に据え、ようやく踏ん張りを見せ始めた。

その一歩がアベノミクスだが、これだけでは不十分だ。憲法改正、自衛隊の国防軍化、自主防衛体制の確立が不可欠だ。

そもそも自分の国を自分で守れない国は、世界では独立国の扱いをされない。いくら経済が強くても、一流国とは絶対に認められない。だから、まずは自主防衛。そして核武装なのだ。

『世界中の国が願わくば核武装したいと思っている』『核武装をすれば国はより安全になる』と言っても、ピンとこない人が多いのがこの日本である。」


というぐあいだ。

「なんちゃってなか見!検索」で、目次を紹介しておく。目次を読むだけで、この本の内容が推測できるだろう。

はじめに 今こそ「核武装」の議論を

第1章 力なき正義は無能である

・アメリカの「正義」とはアメリカの「国益」である
・敗戦で吹っ飛んだ日本の正義
・領土問題でも無視される日本の正義
・力があるから正義が通る
・国連が国のエゴを抑え込めない理由
・国連常任理事国だけが持つ核の特権
・イスラエルとイランへの対応はなぜ違う?
・核廃絶を訴える人が核保有国を喜ばせている
・国際政治は子供の世界と同じである

第2章 抑止力としての「核武装」を日本に
・核武装で日本は安全になる
・広島・長崎から始まった核兵器の時代
・広島・長崎以降、核は一度も使われていない
・北朝鮮やイランが持っても核は二度と使われない
・核兵器は戦力の均衡を必要としない
・核の登場で世界は安全になった
・「核兵器が亡くなれば平和になる」の嘘

第3章 核武装国が言う「核廃絶」に騙されるな
・核武装国の本音
・日本のリーダーたちはなぜ騙されるのか
・発言力は軍事力と経済力で決まる
・憲法改正がなぜ必要なのか
・冷戦終結後、アメリカの日本弱体化計画が始まった
・アメリカに守ってもらっている限り、経済も良くならない

第4章 「核武装」の言論統制に怯むな
・核武装を考えていた日本の首相たち
・非核武装には外務省も反対だった
・「核の傘」と引き換えに宣言された「非核三原則」
・そして核武装論は復活した
・唯一の被爆国には核武装する権利がある
・「核武装で日本は孤立する」の嘘
・できない理由ばかり並べる人たち
・核アレルギー拡大に利用された原発事故
・「日本も核を持て」とアメリカが言っても反対するのか?

第5章 日本が核武装国なら「尖閣問題」は起こらなかった
・国際法で中国船を排除できない日本
・「太平洋をアメリカと2分したい」と言った中国
・「アメリカが永久に日本を守ってくれる」という幻想
・アメリカの「核の傘」がなくなったら…
・核武装すれば中国は尖閣に近寄れない
・現在でも「日本は核を絶対に使いません」とは言えない

第6章 世界平和は「核武装」によって保たれる
・「生活が豊かになれば戦争はなくなる」の嘘
・軍事バランスの均衡が戦争を抑止してきた
・経済力に見合った軍事力を持たないとその地域は不安定になる
・日本が核武装していれば拉致問題も起こらなかった

第7章 核武装国にならなければ一流国になれない
・アンバランスな日本の経済力と発言力
・自分の国を自分で守れない国は常任理事国になれない
・核武装は一流国の条件である
・相手の嫌がることをするのが外交である
・核武装国となれば日本と仲良くなろうとする国が増える

第8章 日本核武装20年計画 前編 武器輸出解禁〜非核三原則見直し
・核武装20年計画で日本に鉄壁の守りを
・核武装20年計画その1−武器輸出の解禁 ひそかに武器をつくって国産体制に切り替えよ
・核武装20年計画その2−国民の意識改革
・核武装20年計画その3−憲法改正
・核武装20年計画その4−非核三原則の見直し

第9章 日本核武装20年計画 後編 レンタル核〜核実験
・核武装20年計画その5−核兵器の貸与を要求
・核武装20年計画その6−ニュークリア・シェアリングの実施
・核武装20年計画その7−核開発の意思表明
・核武装20年計画その8−NPT脱退
・核武装20年計画その9−核開発の実行
・核武装20年計画その10−核実験

筆者が冒頭に書いたNPT条約から脱退した場合の制裁については、田母神さんは次のように述べている。

「インドやパキスタンの場合はアメリカが制裁を呼びかけ、日本などが同調したが、それはあくまでもインド、パキスタンの場合だ。日本とアメリカは同盟国であり、日本はアメリカに黙っていきなり脱退をするわけではないのだ。

核武装の意思をアメリカに話した段階で、もしアメリカが絶対反対と言い、それでも日本が核武装を行う場合は、その時点で日米安保を破棄するなりして同盟関係も壊れる可能性が高い。そうなったらアメリカも日本いじめに走るかもしれないが、そうならないように事前の説得を行うわけである。

そして、インドやパキスタンの例を見ればわかるように、たとえアメリカを中心とした国際社会の非難を浴びたとしても、それは核を保有するまでの話で、持ってしまったらその国を無視することなど結局はできないのだ。

アメリカは中国と組んで日本の孤立化を匂わせながら、日本が核保有を断念するように仕組んでくるかもしれない。こうなると国内でも、アメリカに見捨てられて日本は生きていけるのか」といった弱気な世論が出始め、政府もおろおろするというのがよくあるパターンだ。だが、核武装に踏み切る以上、アメリカの意地悪というのは初めから織り込み済みにしておかなければだめだ。

そうなってもいいように自主防衛の体制を築いておくわけで、そもそも核武装するのはアメリカに依存しない本当の意味での独立国の体制をつくるためなのだから、「アメリカに見捨てられては困る」というのは本末転倒なのである。

だいたい、インドやパキスタンを見捨てなかったアメリカが、「核武装するなら日本とは縁を切る」などと脅しで言うことはあっても、本気でいうことはないはずだ。

中略

アメリカは日本に防波堤の役割を担ってもらわなければ困るはずなのである。

つまり、核兵器を持つまでは、アメリカからの意地悪もある程度は覚悟しなければならない。しかし、(中略)核保有にまでたどりつけばそこでおしまい。向こうが勝手に「ハイ、それまでよ」と挙げたこぶしを下してくれるのである。」


超楽観論である。これが筆者が田母神さんを「太平洋戦争に突入していった旧陸軍軍部のような発想の人」と評する理由だ。

さらに、

「近年南シナ海で中国に脅かされてきたASEANの国々や日本の原発を買おうとしているインドは、日本の核武装を支持し、応援してくれる可能性が高いのである。

いずれにしても日本の技術力をもってすれば、核開発に入ってから核兵器を作り上げるまでに「持っているぞ」を見せるだけのものなら1年以内、きちんとつくっても2、3年あれば核兵器は完成することだろう。」


と言い切っている。

ASEANとインドについては、田母神さんが出席した米国が毎年主催している世界の空軍の参謀長会議での、インドの空軍参謀長やインドネシアの参謀総長との会話を根拠としている。しかし、この程度の立ち話?で、ASEANとインドは応援してくれる可能性が高いと断言できるのか、全く疑問である。

また日本の技術力については、冒頭に記した通り、全くの思い込みで、なんの根拠もない。

筆者の大学の先輩も含めて、日本の原子力技術者は、研究の際の被ばくに備えて、精液を保存している(正確には、していたというべきかもしれない。現在はどうしているのかわからないが、たぶん同様だと思う)。

原子力の平和的利用の場合でも、被ばくのリスクがあるのに、「日本は原子爆弾をつくれるのか」で紹介したような、複雑な構造の原子爆弾をつくる際の被ばくのリスクを考えると、原子爆弾開発には、良心的就労拒否の研究者も多数でてくることが予想される。

Implosion_bomb_animated








出展:Wikipedia

田母神さんは、この本を「日本国の平和と安全のため、豊かな未来のために、我々は核武装を目指すべきである」という言葉で結んでいる。

トランプ次期大統領の発言で、半信半疑の人も含めて、やや勢いを得ている日本核武装論だが、依然として日本国民の少数意見であることは間違いない。

トランプ外交の展開によっては、検討すべき課題となるかもしれないが、もしNPT条約を脱退し、核武装を進めるなら、世界中から制裁を受ける前提で全てを考える必要があるだろう。

筆者は日本核武装論は日本の国益にも国民感情にも反すると思うが、興味のある人は、今回紹介した三冊のあらすじを参考にして、さらに自分で研究願いたい。


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2009年08月06日

座して平和は守れず 田母神さんの国防放談 

座して平和は守れず―田母神式リアル国防論座して平和は守れず―田母神式リアル国防論
著者:田母神 俊雄
販売元:幻冬舎
発売日:2009-05
おすすめ度:4.5
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このブログでも紹介した「日本は侵略国家ではない」の著者、元航空幕僚長の田母神さんの国防論。

日本は「侵略国家」ではない!日本は「侵略国家」ではない!
著者:渡部 昇一
販売元:海竜社
発売日:2008-12
おすすめ度:3.5
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本の帯に「世界はみんな腹黒い アメリカも国連も役立たず 日本も核武装すべきである」というような過激な言葉が載っているが、実はこの言葉がこの本の内容をよく言い表している。

「日本は侵略国家ではない」でも提案していたが、ドイツ、オランダ、イタリア、ベルギー、トルコの5カ国が導入しているニュークリアシェアリングやクラスター爆弾についての主張は、国防を考える上で検討すべき意見だと思う。

ちょうど広島、長崎の原爆投下記念日前後でもあり、オバマ大統領が言うように、核兵器廃絶は人類共通の願いであり、筆者もそれを切に望む。しかし、それに至るまでの現実的なプロセスとしては、田母神さんの言うニュークリアシェアリングの考え方も有効ではないかと思う。


クラスター爆弾廃棄の誤り

クラスター爆弾についてはオスロ・プロセスというNGO中心のグループと、穏健な特定通常兵器使用禁止制限条約派(Convention on Certain Conventional Weapons=CCWグループ)の二派があり、日本は元々CCWに入っていたのだが、外務省主導でオスロ・プロセスに加入した。これは大きな誤りだと田母神さんは語る。

条約発行後8年以内にクラスター爆弾を廃棄しなければならないが、アメリカもロシアも中国も韓国も禁止条約を受け入れていない。

対人地雷が禁止されて以降は、クラスター爆弾ほど海岸線の長い日本には有効な防衛武器はない。

航空自衛隊と陸上自衛隊は相当数のクラスター爆弾を保有している。日本にとってクラスター爆弾は国を守る上で不可欠であり、だから石川県の石川製作所で製造しているのだ。

すべて外務省主導で決めたことだが、クラスター爆弾を廃棄するだけでも多額の費用がかかり、どれだけのカネがムダになるのか試算もしなかったのではないかと。

爆弾は整備しなくても何十年も性能は保たれる。抑止力として持っているだけだから、使用しないという前提であれば非常にコストパフォーマンスは高い兵器なのだ。


このクラスター爆弾についての意見は、使わない兵器ー抑止力という意味では、有意義な議論だと思う。しかし、それ以外は田母神さんの性格なのだろう、あまりにも無防備な発言が目立つ。


陸上自衛隊は兵員を削減してF−22を持て!?

田母神さんの話は論理矛盾が多い。

たとえば日本の軍備は海軍に集中し、空母を持つべきで、陸上自衛隊は人数を削るべきだと言う。

その一方で、陸上自衛隊が反対するなら、予算は減らさずに、減員した上で陸上自衛隊でもF−22を2個中隊と空母2隻を持つべきだという。

そもそもF−22は超高性能のステルス戦闘機ではあるが、アメリカ政府自身も調達を止めることが決定した戦闘機である。最高の軍事技術が使われているので、F−22は輸出禁止だし、機密情報がジャジャ漏れの日本に将来も輸出されることはないだろう。

F-22








写真出典:以下明示ない限りWikipedia

日本の航空自衛隊はF−22が欲しくてたまらないようだが、当のアメリカでさえ調達を止めることを決定しているのに、まさに無い物ねだりとしか思えない。

1機200億円ともいわれる超高価な買い物な上に、以前も書いたように、いまさら飛行機に人間が乗って防衛する時代ではないのではないか?

このブログで紹介した「日本に足りない軍事力」で江畑謙介さんが書いていたように、軍事衛星、無人飛行機、無人超高高度飛行船などとパトリオットミサイルやSAMー3ミサイルを組み合わせた無人防衛網がこれからの方向ではないかと思う。

日本に足りない軍事力 (青春新書INTELLIGENCE)日本に足りない軍事力 (青春新書INTELLIGENCE)
著者:江畑 謙介
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戦闘機を導入するにしても、多くの国の共同開発でコストが安く、様々なバリエーションがあるF−35や、ユーロファイターなどを検討すべきではないか?

F−35

F-35








ユーロファイター

ユーロファイター








ここまで書くにはF−22をもっと知らなければならないと思って、「F−22はなぜ最強といわれるのか」という本も読んだ。



たしかにF−22は様々な点で世界最高の戦闘機である。

・航空支配戦闘機(制空権を抑える)という新しいコンセプトを可能にする最高の軍事技術

・ステルス性 巨大な機体がレーダーにはなんと小鳥程度にしか映らないという

・搭載コンピューターの性能

・対巡航ミサイルも含めた多目標攻撃に適した統合火器統制システム

・フライバイワイヤーと呼ばれる最新のコンピューター飛行制御

・2基あるプラットアンドホイットニー製F−119エンジンの推力変向による超機動性

・燃費が悪いアフターバーナーなしでも超音速飛行ができる超音速巡航性(他の戦闘機はアフターバーナーという追加燃料噴射がないと超音速を出せない)

・すべての兵器を機体内部に格納できる徹底したステルスデザイン

対F−15,F−16,F−18などとの空戦シミュレーションで、144対0,241対2という圧倒的戦績を収めたことが、航空自衛隊がF−22に飛びついた理由なのだろうが、だからといって、いまさら人間が戦闘機を操縦して敵の航空機と空戦を行う時代でもないのではないか。

不用意な発言が目立つ本だけに、本音ともとれる発言が多い。

ジェット機はメインテナンスコストが大きい

田母神さんはジェット戦闘機はF−15でも1時間飛ばすと200万円かかり、燃料代は15%で、残り85%は部品代だと明かしている。飛行機はたとえば100時間で部品交換するなど予防整備を行っているのだという。

F−15で1時間200万円なら、もしF−22を買ったらその数倍はかかるだろう。

「ドイツ版最終決戦兵器」という本に、第2次世界大戦中に開発されたドイツの数々のジェット戦闘機やロケット戦闘機が紹介されているが、メッサーシュミットME262のジェットエンジンはたった50時間しか飛行できなかったという。

ドイツ版最終決戦兵器―連合軍を圧倒する恐るべき技術力の成果ドイツ版最終決戦兵器―連合軍を圧倒する恐るべき技術力の成果
著者:桜井 英樹
販売元:光人社
発売日:2002-11
おすすめ度:4.0
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メッサーシュミットME262ジェット戦闘機

Messerschmitt_Me_262




筆者は昔特殊鋼、超耐熱合金に使うクロム、マンガンなどの原料を輸入していたので、ジェットエンジンの寿命という話もよくわかる。第2次世界大戦中には当時世界最高と言われたドイツの超合金技術でも、ジェットエンジン部品は50時間しかもたなかったのだ。たぶんニッケル、コバルトが手に入らなかったからだろう。ドイツはニッケルの代わりにマンガンを使っていたが、やはり同じ性能は出せなかったのだ。

消耗する部品を壊れる前にどんどん換える必要がある。昔も今もジェット戦闘機は整備が大変なのである。

またパイロットの肉体的負担も大きい。急上昇したりすると飛行中はMAX 9Gという大変なGがかかる。ジェット戦闘機の飛行時間は1時間から2時間、パイロットが第一線で飛ぶのは45歳が限界だと。


アメリカは最先端技術は日本には売らない

F−22を導入すべきという話と矛盾しているのが、この話だ。

日本のF−15は機体は同じだが、レーダーやソフトはアメリカのお古を押しつけられているという。

アメリカは自分のところで新しいものをつくって、旧型の部品が余ったところで日本韓国に売るのだと。

またアメリカから購入する飛行機には暗号キーが設定されており、アメリカ自身に向けて兵器が使われないようにコントロールしている。

たとえばイギリスがイラク戦争の時にSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)を発射しようとしたが、アメリカがGPSを使ってコントロールしていたので、発射できなかったという。

技術属国になった上で、高いものを買わされているのだと。

そこまでわかっているなら、F−22を買ったところで、最新鋭の航空・火器管制システムなどはついてこないだろう。

ナチスの幻の防空ロケット戦略

F−22の話が長くなったが、実は無人防衛網は別に新しいものではない。

ヒトラーお気に入りの建築家でナチスドイツの軍需相をつとめたアルベルト・シュペーアが「第三帝国の神殿にて」で書いている。

第三帝国の神殿にて〈上〉ナチス軍需相の証言 (中公文庫―BIBLIO20世紀)第三帝国の神殿にて〈上〉ナチス軍需相の証言 (中公文庫―BIBLIO20世紀)
著者:アルベルト シュペーア
販売元:中央公論新社
発売日:2001-07
おすすめ度:4.0
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ドイツではメッサーシュミットME262ジェット戦闘機やV2弾道弾ミサイルが有名だが、シュペーアによるとジェット戦闘機以外にもリモコンで飛ぶ爆弾、ジェット機よりも速いロケット機、熱線追尾型ロケット弾、音響探知ホーミング魚雷、地対空ロケット弾の開発を1944年には終わっていたという。

ジェット戦闘機設計者のリピッシェは、当時の航空機製造の標準をはるかに超えるLi P13aなどのジェット機も開発していた。

リピッシュP13型機(模型)

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ところが開発計画が多すぎた。おまけにヒトラーは間違った優先順位を決定した。

せっかくのジェット機に爆弾を積ませてプロペラ機と変わらない速度の戦闘爆撃機としたことは有名だが、重さ3トンのV2ミサイルを月産900基生産させて英国に対して報復するつもりだった。

当時連合軍は平均4,100機の戦略爆撃機で、一日3,000トンの爆弾を降らせていたのに、一日30基のV2でたった24トンの爆薬をイギリスに投下することで報復しようというばかげた考えだったとシュペーアは語る。

地対空ロケット弾の代わりにヒトラーのV2生産の決定を支持したのはシュペーア自身の重大な誤りだったと語っている。

地対空ロケット弾はWasserfall(滝)と呼ばれ、ペーネミュンデロケット工場フォン・ブラウン博士の下で、大量生産できるほど十分に開発されていた。

長さ8メートルで、短波誘導で300キロの爆薬を高度1万5千メートルまでの敵機に命中させることができたという。

英語だがネットでWasserfallミサイルの情報があるので、紹介しておく。

wasserfall







出典:http://www.luft46.com/missile/wasserfl.html

ジェット機にはR4Mという直径わずか55ミリの空対空ロケット弾を開発していた。R4Mを24発搭載したME262は、1945年の2月の第4週だけで45機の戦略爆撃機と12機の戦闘機を撃墜したという。

r4ms








出典:Wikipedia

シュペーアは、月産900基のV2攻撃用大型ロケットの代わりに、費用の安い地対空ロケットを毎月数千基生産して、ジェット戦闘機と一緒に使えば、連合軍の戦略爆撃を崩壊させることができたろうと語っている。

仮定の話ではあるが、ありえないシナリオではなかったと思う。

閑話休題。


最高指揮官としての総理大臣の自覚欠如

この本は田母神さんの放談集の部分もある。

日本の総理大臣は最高指揮官としての自覚を持っていない。これは世界の標準から見て嘆かわしいことだと。

たとえば昨年9月の「自衛隊高級幹部会同」には全国から将官が集まり、最高指揮官たる総理大臣が訓示をすることが恒例となっているが、福田総理は辞任を表明したためか欠席した。士気が下がり、「こらっ、康夫!」と一喝したいくらいだったという。

文民統制が聞いてあきれると。

軍人は戦争をもっとも避けたがる人種であり、たとえばイラク戦争の時も、元軍人のパウエル国務長官は戦争に反対したがブッシュとチェイニーに押し切られたという。

ヒトラー、ムッソリーニ、毛沢東も皆文民だったと。

たしかに文民統制だから良いとかいった議論ではないかもしれないが、挙げる例が極端すぎないだろうか?

「世界があきれるほどスキだらけ、日本の国防」とは、この本の第1章のタイトルだが、意識も含めてたしかにその通りだと思う。


核戦力が最高の抑止力という現実

英国のサッチャー元首相の時に中距離核戦力が英国に配備され、イギリスに核兵器を置いたら攻撃の対象になるという意見が出たが、サッチャーは「日本がなぜ原子爆弾の攻撃を受けたか?それは、日本が原爆を持っていなかったからです。私は原爆のない世界よりは、原爆があっても平和な世界を選びます」と主張したという。

まさにこれが現実である。

核実験が成功した後の北朝鮮の強気の態度はまさにこの通りである。

核兵器を持った国同士が大規模な戦争をした例は一つもない。

サッチャーの言うように現代の防衛は抑止力を中心に考えるべきだろう。

田母神さんが「日本は侵略国家ではない」で主張していたニュークリアシェアリングも検討に値する提案だと思う。

現在はNATO五カ国で採用されているが、たとえば日米韓台の四カ国でニュークリアシェアリングは検討すべきではないかと思う。


北朝鮮のミサイルは脅威ではない

原爆さえ積んでいなければ北朝鮮のミサイルが運んでくる通常弾頭の弾薬量などたかが知れている。飛来したミサイルが身近に着弾する確率は交通事故に遭う確率よりもはるかに低い。

ミサイルの怖さで騒ぐなら、北朝鮮よりロシアや中国のミサイルの方がよほど怖いはずだと。


妄言のオンパレード

田母神さんはこんな事も書いている。

「アジア情勢や中国の情報に詳しいジャーナリスト・青木直人氏がブログに書いていますが、クリントン政権のとき、大統領夫妻は1980年代から1996年まで、中国共産党と人民解放軍のスパイ組織から繰り返し収賄をしていました」

とくにヒラリーはFBIが人民解放軍スパイ機関のエージェントだったと正式に認定されたバンク・オブ・チャイナ香港の副頭取だったジョン・ホアンから何回も収賄して、商務省の国際経済政策担当・次官補代理のポストを与えたという。

収賄などという重大な罪で、人を非難するならちゃんとした論拠を示す必要がある。フリージャーナリストの青木氏は中国通ということで有名なのかもしれないが、少なくとも筆者は初めて聞く名前だ。

筆者は米国に九年間駐在していたが、米国の公務員は20ドルを超える贈り物を受け取ることは禁止されている。そんな国の公務員に対して収賄していたなど、伝聞証拠でよくも言えるものだ。

それにしても、米人ジャーナリストを解放させるために北朝鮮を訪問した元大統領、妻は米国の国務長官を務めるクリントン夫妻が収賄していたというのなら、証拠を示さないと誰も相手にしない。

ジャーナリストがブログに書いたことを、そのまま真実だと思いこんで本に書いている田母神さんの無神経さはあまりにも危険だ。


石原慎太郎氏の発言?

田母神さんが石原慎太郎東京都知事と対談したときの話だという。

関連部分を引用すると:

「氏が以前アメリカの「湾岸戦争白書」のような資料を見たところ、そこには、

「我々はこの戦争で、日本の先端技術のおかげを被った。これは八万の兵士を送り、ともに血を流したイギリスの貢献よりも数十倍評価すべきだ」

と書いてあったというのです。

氏の説明によれば、ここで言う先端技術とは、ピンポイントミサイルの半導体で、バグダッド参謀本部の屋上の煙突から中に入り、内部で爆発したミサイルを指しています。…」

決めつけて申し訳ないが、もはや笑い話としか思えない。

こんなことアメリカが公式文書の中で、一緒にイラク戦争に出兵してくれて人的損害も被った英国に、口が裂けても言う訳がない。

石原氏でさえ「湾岸戦争白書のような資料」とはぐらかしているではないか。この爆弾が出てくるのは湾岸戦争ではなく、イラク戦争だろう。そんな白書はないのだ。

よしんばこの話が本当だったにしても、ミサイルの半導体はたしかに重要部品で必要不可欠な部品かもしれないが、巨大なミサイルという超音速飛行物体を、風があったり気圧が変わったりする自然条件のなかで、煙突の穴を通すような超高精度のコントロールを可能としたアメリカのGPSを使った遠隔精密操縦技術があくまで主役のはずだ。

さらに続けてFSXを採用するときも、アメリカはF−16をベースにした共同開発を押しつけた。自動車に続いて戦闘機でも、日本に追い抜かれることを警戒したのだと。

「アメリカにしてみれば太平洋戦争開戦の時の無敵のゼロ戦のトラウマがあるのではないか、という石原氏の洞察はさすがです。」

別にゼロ戦を貶めるつもりはないが、緒戦こそアメリカ軍はゼロ戦に手こずったが、アリューシャン列島でゼロ戦を捕獲すると徹底的に研究し、新型戦闘機や新戦法でゼロ戦を打ち負かした。特に戦争末期の最新鋭P−51マスタングにゼロ戦は全く歯が立たなかった。

P−51

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アメリカにあるのはトラウマではなく、不屈の研究心ではないのか。


このブログはあらすじブログで書評ブログではない。

筆者は本の批判はしないポリシーだが、申し訳ないがこの田母神さんのノー天気ぶりにはあきれてものが言えない。

せっかく良い提案もあり、たぶん田母神さんは純な人であることは間違いないと思うが、本を書くのであれば、伝聞証拠に惑わされず、確実な情報と自らの徹底的な調査に基づいて発言して欲しいものである。


ともあれ参考になる本ではあった。


参考になれば投票ボタンをクリックして頂きたい。




  
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