2019年07月20日

筋肉の栄養学 トレーニングをしている人におすすめの本



管理栄養士として、2004年のアテネオリンピックでは、女子バレーボールチームや水泳選手、2008年の北京オリンピックでは、男子バレーボールチームをサポートし、数々の有名アスリートを指導してきた実績を持つ川端理香さんの本。

筆者はON/OFFの時期はあったが、1970年頃(高校2年生から)ウェイトトレーニングを続けている。トレーニングと休養・栄養補給が表裏一体なことは、十分理解しているつもりだったが、この本は発見が多かった。自分の栄養に関する知識が古いこともわかって、大変参考になった。



「筋肉は裏切らない」というキャッチフレーズのNHKの筋肉体操が有名になって、出演しているタレントの武田真治さんがCMに頻出したりして、トレーニングに対する世間一般の関心が上がっている。

以前紹介した「筋肉博士」石井東大教授の「一生太らない体のつくり方」にもある通り、筋肉をつけて基礎代謝を上げれば、太りにくい体質とできるし、筋力を維持すれば、自分の足で歩いて行動する健康寿命を延ばすことにもつながる。

一生太らない体のつくり方
石井 直方
エクスナレッジ
2008-01-17



しかし、筋肉をつけたいので、サラダチキンや卵の白身ばかり食べていては逆効果だという。筋肉はタンパク質のみでできているわけではない。トレーニングは筋肉を壊すことなので、筋肉を合成させるには、タンパク質のみではなく、ほかの栄養素も摂る必要がある。

この本で紹介されているタンパク質の合成と分解の図は次の通りだ。

タンパク質の合成と分解













































出典:本書48ページ

タンパク質の摂りすぎは、窒素が増え、便が臭くなり、腎臓に負担がかかる。

タンパク質を多く摂った場合には、腸の状態をよくするために食物繊維を増やすことが欠かせない。川端さんは、「戦略的な食事を」と呼びかける。

筆者の場合は、毎朝朝食はシリアルにしている。それも、「オールブラン」を中心としたシリアルだだ。「オールブラン」は食物繊維が20%以上含まれており、非常に効率よく食物繊維が摂れるシリアルだ。同じ様に見えるが、「ブランフレーク」は、そこまで食物繊維は含まれていないので、要注意だ。




納豆も効果が大きい。納豆は納豆菌の働きでビタミン量が増え、腸内環境をよくすることで、栄養素の吸収を高めたり、便秘の予防にもなる。川端さんは納豆に鰹節をかけて食べることを勧めている。タンパク質を上手に筋肉にするための組み合わせだと。

タンパク質は20種類のアミノ酸からつくられ、そのうち8種類が必須アミノ酸だ。これは体内でつくることができないため食事で摂る必要がある。

筋タンパク質の合成を促すのは必須アミノ酸で、必須アミノ酸が1種類でも足りないと、筋肉は合成できない。特にBCAA、とりわけロイシンは単体でも筋タンパクの合成を急激に増加させる。BCAAは集中力を高める効果もあり、トレーニングの効率を高めるという。

筆者は、味の素のアミノバイタルを時々飲んでいるが、一袋5グラム程度の少量なので、これまで、あまり意識して飲んでいなかった。アミノバイタルは、顆粒で水なしでも簡単に飲める。これからは、トレーニングの前後に摂取してみる。




HMBはロイシン代謝物で、HMBサプリメントなどはロイシンが筋肉や肝臓で代謝された状態で摂ることで、筋肉の分解を抑えて、合成を高める効果がある。




筆者の知識が間違っていたのは次の点だ。

以前は筋肉をつくるには肉を食べるのが良いとされていたが、1985年に見直され、現在では大豆などの豆類もアミノ酸スコアで100点で、タンパク質消化吸収率補正アミノ酸スコアでは、むしろ大豆のほうが牛肉より高いという。

筆者は豆より肉の方が、筋肉づくりには良いと思っていたが、それは古い考えのようだ。

コメはアミノ酸スコアは低い。しかし、リジンを多くふくむ大豆と一緒に食べることで、補正が効く。納豆とコメという組み合わせで、コメのタンパク質も筋肉づくりに使えるのだと。

ラグビーなどのコンタクトスポーツは、脂肪はクッションの役目をするので、ある程度は必要だ。

脂肪は脂肪酸とグリセリンに分けられる。筋肉をつけたいときは、不飽和脂肪酸のオメガ3、DHA、EPAを意識して摂るといいという。この点で優れているのが魚の缶詰だと。トロなどの脂ののった部分もDHA/EPAを多く含んでいる。

筆者は、毎日DHA/EPAサプリメントを飲んでいる。4粒でDHAは500mg、EPAは65mg摂れる。




サバ缶などの魚の缶詰だと、DHAが1,000mg〜2,000mg、EPAが500mg程度摂れるが、これは煮汁も全部飲んだ場合だろう。

EPAは摂取することで、赤血球が柔らかくなり、抹消まで血液が運ばれるので心臓に負担をかけずに酸素が運ばれやすくなる。筋肉痛や腰痛などの炎症はもちろん、花粉症などのすべての炎症を抑える効果があるという。

これまで意識していなかったが、ここ数年、筆者の花粉症がひどくならないのは、DHA/EPAサプリメントを飲んでいる効果なのかもしれない。

魚のCMソングでも「頭がよくなる」と歌われている。DHAは脳の神経には大事な栄養素で、疲労回復にもつながる。



サバ缶とか、サンマの蒲焼缶などは、これまであまり意識して食べてこなかったが、これからは意識して食べてみようと思い、早速数種類買って食べてみた。

サバ缶他





















川端さんは、おにぎりと、おかずにサバ水煮缶と粉チーズを勧めていたので、試してみたが、これを続けるのはきびしい。

DHA/EPAが大量に含まれている煮汁を、ご飯にかけることを川端さんは推奨していたが、これは、ちょっと抵抗があるので、結局捨ててしまった。たぶん缶に書いてあるDHA/EPAの含有量は摂れなかったと思う。

やはりサプリメントの方が筆者には向いているようだ。続けるなら、蒲焼缶などの調理缶とするか、サバ水煮そのままでなく、何らかの調理をすべきだと思う。

さて、炭水化物も重要だ。炭水化物は、糖質と食物繊維に分けられる。体が吸収できないのが食物繊維だ。

糖質はダイエットの敵の様にみなされているが、糖質を摂ることで分泌されるインシュリンが原因となって、筋肉の合成が進みやすくなることがわかっているという。

タンパク質だけ摂ってトレーニングを行うよりも、調味料も含めてインシュリンを出すような食事をすることが、筋肉づくりには有効なのだと。

川端さんは、この本で、主要なビタミンそれぞれについて、特徴と効果を説明している。筆者の場合は、毎日マルチビタミン・ミネラルを飲んでいるので、ビタミンはケアしなくてよさそうだ。




この本では、筋肉を作る食べ方を紹介している。

トレーニングをした日に必要なたんぱく質摂取量は、2グラム/体重1KGで、トレーニングしない日は、1グラム/体重1KGだという。

トレーニングした日は、トレーニング直後、30分以内にタンパク質を摂取する。このゴールデンタイムに成長ホルモンの濃度や血流、インシュリンの筋肉への感受性が高まっているからだ。

逆に、トレーニングしない日は、少し食事を意識するだけでタンパク質は十分とれると。

筆者はこれまで、トレーニングをしない日も筋合成は起こると考えて、毎朝晩プロテイン豆乳シェイク(200CC一杯でタンパク質30グラムは摂取できる)を飲んで、タンパク質を摂ってきた。

しかし、トレーニングの強度(今は、せいぜい1回/週程度しかできない)に比べて、タンパク質摂取量が多かったようだ。タンパク質の摂りすぎは、腎臓に負担をかけるので、良くない。







川端さんは、朝食、昼食、夕食、それと男性、女性、シニアのおすすめメニューを紹介している。

川端さんのおすすめは、納豆ピザ(食パン、納豆とゴマ、トマト、チーズをのせて焼くだけ)、魚の缶詰を使った丼(たとえば、さんま蒲焼丼とか)、おにぎりとサバ缶+粉チーズ+野菜スティック、ファーストフードの場合はケチャップやマヨネーズ抜きなどだ。

居酒屋は、実は筋肉をつける食事ができるのだと。冷奴、納豆、タコ酢、ぬか漬け、刺身、焼き魚、焼き鳥といった低脂肪で糖質を気にせずにタンパク質を摂ることができる。

ただし、アルコールは筋肉づくりにはマイナスだ。利尿作用があるので、脱水症を起こしやすく、筋肉づくりに関与する成長ホルモンなどの分泌が減り、タンパク質の合成が阻害されるのだと。筆者もアルコールの量には気を付けなければならない。

遅い時間の食事も、BMAL1(ビーマルワン)という脂肪合成にかかわるたんぱく質の一種の影響で、体脂肪になりやすいので、要注意だ。

この本の最後は、アスリート流食事法で締めている。

川端さんが契約した最初のプロチームの東京ヴェルディは、当時はJ1で優勝争いをする強豪チームで、クラブハウスも診療室にはMRIを備え、立派なものだった。

川端さんは、ラーメンやカレーなど職員向けの食事が中心だったクラブハウスのメニューを、選手用メニューに変えて、ビュッフェスタイルにした。メインは肉2種類と魚介類1種類、複数のサラダ、海藻や野菜の総菜は3品、果物2種類、ヨーグルトなどだ。

そうすると、シーズンが終わると体重が減っていた選手が、体脂肪が落ちるだけでなく、筋肉量は増加したという。

バレーボールの北京オリンピック代表では、年間でジャンプ力が平均10センチ上がった。それまでは、高く飛ぶために体重を減らしていたが、逆に筋肉をつけて、高く飛べるようにしたのだ。

毎朝サバやサンマの缶詰を1缶食べる選手、鮭がいいとアドバイスすると、鮭を切り身を一度に5切れ食べる選手、アルコールが良くないと聞くと、シーズン中は全く飲みにいかない選手などを紹介している。

(そういえば、筆者が20年くらい前に、前のラミーズで見かけた清原選手も、シーズン中だったので、全く酒は飲んでいなかった。)

向上心が、メンタルの強さにもつながるのだと。

筆者はトレーニング歴だけは長いが、トレーニングと栄養補給が、うまく結びついていなかった。この本を読んで、すべてのパズルが組みあがった感じだ。これで、腎臓への影響を心配せずに、トレーニングとタンパク質補給ができる。

トレーニングをしている人は、一読の価値がある本である。

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Posted by yaori at 01:18Comments(0)