2020年07月08日

超訳 日本国憲法 池上彰さんの憲法解説

2020年7月8日再掲:

以下で紹介した池上彰さんの「君たちの日本国憲法」という高校生への授業をまとめた本を使って、中田敦彦さんが、日本国憲法に関する講義をしていたYouTube大学の動画は現在「非公開」になっている。

そのため、以下のあらすじでもYouTubeのリンクを削除した。

チャンネル登録260万人を超えた中田さんのYouTube大学にも、池上さんが「これが日本の民主主義」で書いている様に、安倍政権のメディアコントロールの網がかかり、「ご説明に上がりたい」という連絡が来たのかもしれない。

以下で示す通り、アマゾンの「君たちの日本国憲法」のサムネイルの帯には、YouTube大学で取り上げられた旨が宣伝文句で載っており、これはどうするのかと思う。

ともあれ、何かが起こったことは間違いないので、YouTubeのリンクなしのあらすじを再掲する。


2020年7月2日初掲:

超訳 日本国憲法 (新潮新書)
池上 彰
新潮社
2015-04-17


池上彰さんの日本国憲法の逐条解説。

中田敦彦さんのYouTube大学で、同じ池上彰さんの「君たちの日本国憲法」という高校生への授業をまとめた本を使って、憲法改正についての講義をしていたので、同系列の本として読んでみた。(2020年7月8日追記:YouTube大学の動画は現在「非公開」になっている)。

君たちの日本国憲法
池上 彰
ホーム社
2019-02-26



筆者は、憲法はリベラル派の小林直樹先生の授業を受けた。このあらすじを書くに際して、小林直樹先生のことを検索したら、2020年2月に98歳で亡くなったことを知った。憲法の教科書の他に、岩波新書の「憲法第九条」や「憲法を読む」などの著書を残している。

憲法第九条 (岩波新書)
直樹, 小林
岩波書店
2002-09-20


学生の時に勉強したとはいえ、その後50年近く経っているので、うろおぼえで、再度勉強するのに憲法の全条文を細かく解説してくれるこの本は大変役にたった。

池上さんは、日本国憲法に関して何冊も本を書いているので、「池上彰の憲法入門」という本もあわせて読んでみた。「憲法入門」では、日本国憲法制定のいきさつや、「芦田修正」などを紹介している。




おさらいのために、経緯を見直しておくと、
・1945年8月15日に日本がポツダム宣言を受け入れて無条件降伏
・1945年10月にマッカーサーが日本の幣原喜重郎首相に憲法の自由主義化を要求
・1946年2月1日に日本側の「憲法改正政府試案」が毎日新聞にリーク。これは大日本帝国憲法と大して変わらず、国民主権、基本的人権、平和主義などの原則が入っていなかったので、マッカーサーが激怒。
・1946年2月3日にGHQ民政局のケーディス大佐以下25名に日本国憲法の草案作成を指示
・1946年2月10日に草案が完成し、マッカーサーが筆をいれ、12日に最終案が完成
・1946年2月13日に日本国憲法の草案が日本側に提示される
・1946年3月4日に日本側が手直しした草案を基に、日米合同委員会で検討し、3月5日に正式な日本国憲法草案が完成。この際、2院制となり、アメリカ側の「土地はすべて国のもの」という案は削除された
・1946年3月6日に憲法改正草案要綱が正式発表される
・1946年4月10日女性投票権も認められた戦後初めての衆議院選挙が行われる
・1946年6月20日帝国議会で「大日本帝国憲法改正案」が審議され、「芦田修正」が入る。衆議院で一部修正・可決、貴族院で一部修正・可決、枢密院で可決される
・1946年11月3日(旧明治節)に日本国憲法公布
・1947年5月3日 日本国憲法施行

芦田修正」とは、衆議院憲法改正案特別委員会で検討された際に、当時の自由党芦田均委員長によって、2か所が大きく修正された。その部分は次の赤字になっている部分だ。(語句の細かい修正は省略)

第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

その後、1957年になって、芦田さんは、日本が自衛のための力を持つことができるように憲法を修正しておいたと説明した。

つまり、「前項の目的を達するため」という表現が入ったことで、無条件に武力を捨てるのではないことが明白になったのだと。

元々マッカーサーが指示した条件には、「自国を守るための戦争も放棄する」とあったのを、草案作成リーダーのケーディス大佐が、自衛の戦争まで放棄するのは非現実的と考えて削除したという経緯がある。

その後、朝鮮戦争が起こり、日本在留の米軍が国連軍として韓国に行き、その真空地帯を埋めるべく、警察予備隊が組織され、現在の自衛隊につながるのは周知の事実だ。

池上さんは、安倍内閣が内閣法制局長の首をすげかえるというやり方で、集団的自衛権についての解釈を変えたことについて、わざわざ「集団的自衛権と日本国憲法」という一章を設けて解説している。

集団的自衛権は国連憲章第51条で規定がある。「国連加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。(後略)」。

これについて、内閣の憲法解釈に責任を持つ内閣法制局は、「国家である以上、日本も自衛の権利は持っているし、集団的自衛の権利も保有している。しかし、集団的自衛権は行使できない」という判断をとってきた。いわば、「持っているが使えない」というものだ。

日本国憲法第9条は、「武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」としている。集団的自衛権は、自国が攻撃されていなくても仲間の国を助けることだから、「国際紛争を解決する手段」としての武力の行使に該当する。これは憲法違反の行動になってしまうから、「持っていても使えない」という論理だ。

これを安倍内閣は、「パワーバランスの変化や技術革新の急速な進展、大量破壊兵器などの脅威等により我が国を取り巻く安全保障環境が根本的に変容し、変化し続けている状況を踏まえれば、今後他国に対して発生する武力攻撃であったとしても、その目的、規模、態様等によっては、我が国の存立を脅かすことも現実に起こり得る。」

「こうした問題意識の下に、(中略)我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において、これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに、必要最小限度の実力を行使することは、従来の政府見解の基本的な論理に基づく自衛のための措置として憲法上許容されると考えるべきであると判断するに至った。」ということで、憲法解釈を変えた。

実質的な憲法の改正にあたる「解釈改憲」だという批判がおこったが、安倍首相は、「私が政治の最高責任者。私が決めることができる。反対なら、次の選挙で政権交代させればいい」と言ったと。

これが「民主主義のジレンマ」だと。2012年の衆議院選挙で、国民は民主党から自民党への政権交代を実現させた。安倍首相が開き直って言っているように、選挙で勝つことにより、政権政党がやりたいことをやる可能性もある。選挙はそんな性格を持っている。

当時のテレビで、安倍首相が集団的自衛権の必要性を強調する説明のなかで、「日本人母子を保護した米軍の艦船が攻撃された場合、自衛隊は米国の艦船を守ることをみとめるべきだ」と主張していたことを思い出す。

集団的自衛権の説明




















出典:Huffingtonpost

ところが、アメリカ国務省領事局のウェブサイトを見ると、「緊急時にアメリカが救出するのは米国籍の市民を最優先する」と書いてあり、さらに、「市民救出のために米軍が出動するというのは、ハリウッドの台本だ」とも書いてあると。だから、安倍首相の「米軍が日本人の母子を救出」というのは、二重にあり得ない設定なのだと。

感情論に訴えて自己の主張を通そうとする、よくある手法なのだと池上さんは語る。

池上さんは、「これが日本の民主主義」という本でも、安倍政権を批判している。特に安倍政権のメディアコントロールについては、池上さんが批判すると、ご説明に上がりたいという連絡が来るという。

これが「日本の民主主義」!
池上 彰
ホーム社
2016-10-26


安倍政権の締め付けで、メディアが骨抜きにされていることは、内閣から敵視されている東京新聞の望月衣塑子さんが「権力と新聞の大問題」で語っている。

権力と新聞の大問題 (集英社新書)
マーティン・ファクラー
集英社
2018-06-15


最後に池上さんは、北朝鮮の憲法、中国の憲法、米国の憲法も比較のために簡単に紹介している。

北朝鮮の憲法の前文で、「朝鮮民主主義人民共和国は、偉大な領袖金日成同士と偉大な指導者金正日同士の思想と指導を具現した主体(チュチェ)の社会主義祖国である。」としている。

北朝鮮はソビエトの支配下で独立を達成したが、北朝鮮の公式見解では。金日成率いるパルチザンが日本軍を敗北させ、独立を勝ち取ったことになっている。

北朝鮮では、朝鮮労働党が憲法より上位にある。

北朝鮮の憲法では、「全ての公民に真の民主主義的権利と自由、幸福な物質・文化生活を実質的に保障する。公民は、言論、出版、集会、示威と結社の自由を有する。国家は、民主的政党、大衆団体の自由な活動条件を保障する。」となっているが、憲法に書かれているからといって、それが実現しているわけではないと池上さんは語る。

中国の憲法も同様だ。中国共産党が憲法より上位にある。だから、憲法が、「中華人民共和国公民は、言論、出版、集会、結社、行進及び示威の自由を有する。」と書いていても、全く絵に描いた餅だ。

今香港で起こっている中国の「国家安全法」制定に反対して、1国2制度、言論の自由の維持を求めた抗議活動は、中国の憲法で認められている人民の権利だが、それが中国共産党の不利益になるものであれば、禁止され、反対者は牢獄にぶち込まれるのは、テレビで放送されている通りだ。

これは日本や米国など自由主義諸国の憲法とは異なる。香港返還時に、1国2制度を50年間維持することを中国は確約したので、筆者も香港市民への弾圧には断固反対する。しかし、社会主義国中国の憲法からすれば、当然の帰結なのだ。

チベットやウイグルの少数民族も同様だ。憲法では、「中華人民共和国の諸民族は、一律に平等である。国家はすべての少数民族の適法な権利及び利益を保障し、民族間の平等、団結及び相互援助の関係を維持し、発展させる。いずれの民族に対する差別及び抑圧も、これを禁止し、並びに民族の団結を破壊し、又は民族の分裂を引き起こす行為を禁止する。」となっているが、チベットや新疆ウイグル自治区での中国政府による弾圧、監視カメラによる監視はよく知られている。

中国の憲法では、信仰の自由を保障しているが、中国ではカトリックは抑圧されている。カトリック信者はローマ法王に従うので、外国勢力の支配なのだと。

池上さんは、アメリカ合衆国の憲法も簡単に紹介している。米国の憲法は、修正する場合には、前の条項を残したまま、付加された条項が前の条項を否定する形を取っているので、否定された奴隷制度、禁酒法などが、条文として残っている。

米国憲法の特徴は、銃を持つ権利を保障していることだ。「規律ある民兵団は、自由な国家の安全にとって必要であるから、国民が武器を保有し携行する権利は、侵してはならない。」としている。

池上さんは、いくつも憲法解説本を出している。どれを読んでも参考になると思う。興味がわいたら、まずは「超訳 日本国憲法」から始めることをお勧めする。


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Posted by yaori at 15:00Comments(0)