2021年01月10日

福島第一原発事故 何が起こったのか真実を知ろう

メルトダウン 連鎖の真相
NHKスペシャル『メルトダウン』取材班
講談社
2013-06-15


2011年3月11日の東日本大震災で起きた津波による全電源喪失のため、福島第一原発の1号機から3号機までの原子炉で起きた炉心損壊(メルトダウン)、そして1号機、3号機、加えて点検中だった4号炉で起きた水素爆発。

あの時テレビにくぎ付けとなって日本全国が注視していた東京電力福島第一原子力発電所の重大事故、チェルノブイリ原発事故を上回る人類史上最悪の原子力発電所事故を、NHKスペシャル「メルトダウン」取材班がテレビドキュメンタリーとして制作した調査結果をまとめた本。

「メルトダウン」機複横娃隠映12月放送)は今でもNHKオンデマンドで見られる。福島原発の1・2号機の中央制御室を忠実に再現したセットを使った再現ドラマは実にリアルだ。月間1,000円かかるが、ぜひ見てみることをおすすめする。

さて、あなたは、いつ最初のメルトダウンが起こったかご存知だろうか?

地震は3月11日の14:46分に起こった。津波が福島に到達して、全電源を喪失(SBO=ステーション・ブラック・アウト)したのは、地震から1時間弱後だ。

地震直後、自動的に立ち上がっていた1号機の非常用冷却装置、通称イソコンは、順調に原子炉を冷却しており、原子炉の温度は津波によるSBOが起こるまでは順調に下がっていた。しかし、イソコンはSBOで自動停止した後、作業員が空焚きを恐れて停止させのだ。

そして、地震からわずか5時間後、冷却水がなくなり空焚きとなった1号機は、12日の0時過ぎには、燃料棒が溶け落ち、厚さ15センチから30センチもある鋼鉄の圧力容器の底を破って、格納容器の底に溜まり、格納容器のコンクリートを溶かし始めた。

メルトダウンは全電源喪失から数時間後に始まっていたのだ。

これをわかりやすくした表がNHKスペシャル「メルトダウン」File5に示されている。

NHKスペシャルメルトダウン1−3号機






















出典:NHKスペシャル「メルトダウン」File 5(2014年12月21日放送)NHKオンデマンドで公開中

当時は民主党政権で、総理大臣は菅直人さんだった。当時の枝野官房長官が、原発では問題は発生していないという説明をしていたことを覚えている人も多いと思う。

NHKは官邸の発表と実際の原発の状況を表にまとめている。

NHKスペシャルメルトダウン一号機 (2)





















出典:NHKスペシャル「メルトダウン」(2011年12月18日放送)NHKオンデマンドで公開中

東京電力からの報告を受けて枝野さんが発表したので、枝野さんがウソをついたわけではないと思うが、当時は外部の専門家も含めて、メルトダウンは起きていないという説明ばかりだった。

そして、東京電力がメルトダウンを公式に認めたのは、事故から2ヶ月以上たった2011年5月15日であり、実際にメルトダウンを起こした3基の原子炉を冷温停止できたのは、なんと事故から9カ月以上経った2011年12月16日だ。

フェイクニュースどころではない、「大本営発表」並みの原発事故情報(原発安全情報?)が流されていたのかがわかる。

菅直人さんは、津波に襲われて全電源を喪失した福島第一原発の状況を憂慮して、地震が起きた翌日の3月12日7時前に福島第一原発をヘリコプターで訪れ、出迎えた東京電力の原発担当トップの武藤副社長を「なぜベントできないんだ?」と、えらい剣幕で怒鳴りつけたという。

福島第一原発の吉田昌郎所長が図面を使って、どこのバルブを開ける等の詳しい説明をしたのち、「決死隊をつくってやります」と答えたので、菅総理はやっと落ち着きを取り戻して、8時に原発を後にした。

この時同行した班目原子力安全委員会長が、菅総理の「爆発はないか」との質問に対して、爆発はないと答えた直後に1号機の水素爆発が起こり、菅総理の班目委員長に対する信頼が失墜した。

今年に入っての新型コロナパンデミックもあり、今や人々の忘却されつつある福島原発事故だが、何が起きたのか、そしてこれから何をやらなければならないのかを理解するために一連のNHKスペシャル「メルトダウン」番組をNHKオンデマンドで見て、本も読んでみた。

最初に出たのが冒頭の2013年6月に出された本。それから2年おきに、「メルトダウン」の新たな真実を報道するテレビ番組と本が出されている。

2015年に出された2番目の本。
福島第一原発事故 7つの謎 (講談社現代新書)
NHKスペシャル『メルトダウン』取材班
講談社
2015-02-19



そして2017年に3番目の本が出版されている。
福島第一原発 1号機冷却「失敗の本質」 (講談社現代新書)
NHKスペシャル『メルトダウン』取材班
講談社
2017-09-20


2017年に出された本は、事故発生直後から苦労して続けられた消防車による1号機への注水が、実は途中の弁の逆流を防ぐモーターが停電で停止していたため、別系統に漏れ、結局原子炉には全く届いていなかった。それに気が付くのは12日後に計器が回復して、1号機の原子炉温度が400度を超えていることがわかり、急遽給水ルートを変更して、原子炉の温度が下がり始めてからだったという衝撃の新事実を伝えている。

1号機は3月11日の20時頃に圧力容器のメルトスルーが起こり、3月11日22時頃には格納容器もメルトスルーして、約70トンのウラン燃料全量が原子炉建屋のコンクリートと混ざって推定280トンにも上る燃料デブリとなっていた。

そして、燃料デブリが元々原子炉を満たしていた水と反応して水素が発生し、それが3月12日14過ぎに1号機の水素爆発を引き起こした。

だから、たとえ消防車による給水がなされたとしても、結果は変わらなかっただろう。結局この燃料デブリとコンクリート夾雑物は3月23日に給水ルートが変更されるまでくすぶり続け、ルートが変わって給水が始まって、やっと温度が低下した。

NHKによる原子炉に届いた給水ゼロという今回の発見は、原発の安全対策で考慮すべき重要なポイントではあるが、福島第一原発事故の場合は。給水開始前にメルトスルーしてしまっていたことから、1号機の水素爆発という今回の事故が重大化した最大の要因は防げなかっただろう。

水による冷却はそれ以来ずっと続けられている。

この冷却水が地下水と混ざって、高濃度の放射性物質を含む排水が、ALPSと呼ばれる多核種除去設備を通って放射性物質が除去されて、今や1000基を超す排水タンクにどんどん貯められている。ほとんどの放射性物質は除去できているが、三重水素のトリチウムだけは除去できないためだ。

このトリチウム水の発生量は、凍土壁や地表モルタル舗装、屋根敷設等の地下水・雨水対策で、当初の1/5に抑えられてはいるが、それでも毎日100トン程度発生している。

トリチウム水は希釈して、結局海に流さざるを得ないと思われるが、福島沖の漁業補償の問題が当然出てくる。

そして最大の問題は放射性デブリの処分だ。

これから40年かけて廃炉作業が続けられるが、1号機から3号機それぞれ数百トンものデブリを、高い放射線によりロボットも制御不能となるような現場で、どうやって取り出すか、難題が待ち構えている。

チェルノブイリ原発事故の様に「石棺」という手段を取らざるを得なくなる可能性もあるが、今なお避難している双葉町などの住民を含めた、福島県民、国民感情が許さないだろう。

福島の原発事故の後処理は、オリンピック招致合戦の最後に、安倍元首相が言っていた様に「アンダー・コントロール」ではない。「アンダーゴーイング・プロブレム」(進行中の問題)なのだ。

NHKスペシャル取材班も指摘しているが、安全管理指標も見直す必要がある。

日本では福島の事故時までは法定の被爆限度は100ミリシーベルトだったが、原発事故から3日後に急遽臨時措置として250ミリシーベルトに引き上げた。

アメリカやヨーロッパの多くの国では、原発の緊急時の被爆限度は500〜1000ミリシーベルトというICRPの指標を原則としたうえで、人命救助に関わる場合は、かなりの柔軟性を認めている。

事故後にアメリカの原子力発電運転協会が福島第一原発事故にから得られた教訓に関する調査報告書を発表し、事故対応にあたった運転員や幹部には「プロ意識、勇気と熱意及び一人一人の責任感に最大限の敬意を払う」と最大限の賛辞を贈りながらも、「被ばく線量の限度が、事故対応における柔軟性を認めていなかった」ことを問題視している。

吉田所長は菅総理に「決死隊をつくってやります」と約束したが、その決死隊が100ミリシーベルトの壁に跳ね返され、途中で戻ってきたのだ。1号機のベントのために2つの弁を開ける作業は、事故後の吉田所長のヒアリングでも、ベントが成功したのかわからないということだったが、放出された放射線量から考えて、3月12日14時の時点で、1号機のベントは成功していた。

しかし、想定されていたサブミッションチャンバーの水を通してベントすると放射線量は千分の1になるというのは、水温が低い状態で不活性ガスが含まれていない場合のケースで、実際には放射線量が高いままで放出された。

次が原発近くのモニタリングポストで記録された放射線量の推移だ。
NHKスペシャルメルトダウン放射性物質放出量推移


















出典:NHKスペシャル「メルトダウン」File 5(2014年12月21日放送)NHKオンデマンドで公開中

3月15日の午前8時に2号機の原子炉建屋から白い湯気が出ていることが確認された。格納容器が高温の圧力に耐えきれず、配管のつなぎ目や蓋の部分から放射性物質が漏れたのだった。

2号機は一番長くRCICと呼ばれる冷却装置が動いていたが、そのあと水がはいらず、メルトダウンを起こし、このままではチャイナシンドローム、そして東日本壊滅に至るところだったが、なんとか格納容器は決定的には壊れず、東日本を壊滅されるほどには壊れなかった。

チャイナ・シンドローム [Blu-ray]
ジャック・レモン
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
2013-06-26



3号機も消防車から水が投入されたが、停電のため途中のポンプのモーターが動かず、水の抜け道ができて、「死角」となって、復水タンクに大量に水がたまる結果となった。

冷温停止は2011年12月までかかった。

事故の総括として、事故から2年経った2013年3月に東京電力は「人智を尽くした事前の備えによって防ぐべき事故を防げなかった」と総括し、「防げた事故だった」と人災的側面があったことをはっきり認めた。

日本に原発は不要という議論もあるが、筆者は原発は必要だと考えている。

あの巨大な黒部第4ダムの最大出力が、33.5万KWだ。一方福島第1原発では、一番小さい1号炉が46万KW、2号機以降は78〜110万KWで、原発の発電効率の良さ、CO2を排出しないことなど、メリットは大きい。

日本で最高の原子炉技術を持っていると言われていた東京電力。日本では原子炉の重大事故は起こらないとされていた「安全神話」。SBOは起こりえないから、考慮不要としていた国の原子力行政。

それらがもろくも崩れた現在、福島原発の事故を教訓に、これからは安全に関する多重的な措置を講じ、事故が起こる場合を想定したドリルを定期的に実施して、1000年に一度の災害が起きても、大丈夫な安全操業を達成すべきだろう。

今年の3月11日で震災、原発事故から10年になる。結局何もできていないのではないかという気がするが、少なくとも原発事故に関する正しい理解はもつべきだ。

そんなニーズにぴったりの本とNHKオンデマンドで見られるNHKスペシャル「メルトダウン」だ。本は写真や図が一杯で、非常に参考になるが、NHKオンデマンドを契約すれば、原発事故のみならず、東日本大震災のあの生々しい津波の映像も見られる。

震災後10年の区切りに、見返す価値のあるドキュメンタリーである。

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2020年07月11日

東京ブラックアウト 原発ホワイトアウトの続編

東京ブラックアウト
若杉 冽
講談社
2014-12-05


2014年にあらすじを紹介した「原発ホワイトアウト」の続編。



小説のあらすじは詳しく紹介しない主義なので、前回のあらすじでは、はっきり書かなかったが、「原発ホワイトアウト」では、北朝鮮の秘密工作員と元関東電力社員の不満分子が、爆弾低気圧の猛吹雪の中で、「新崎県」にある「新崎原発」からの高圧送電線の鉄塔を爆破する。

新崎原発は緊急停止するが、福島第1原発の時と同様、非常用電源が吹雪のため稼働せず、バックアップ用の電源車も積雪と道が凍って動かせず、結局最新鋭の6号炉と7号炉が、メルトダウンを起こし、燃料プールの使用済み核燃料も巻き込んで爆発する。

フクシマ50の様に、爆発前に決死隊が冷却用電源を動かすべく現場に向かうが、爆発に巻き込まれてしまう。



格納容器爆発の結果、半径170キロ圏内は年間50ミリシーベルトの強制移住レベルとなり、関東を中心とした地域は人が住めなくなり、混乱で多くの人命が失われ、首都は京都へ移転するというストーリーだ。

この本の中心は、電力業界の団体がつくりあげた、電力業界が外部に発注する年間5兆円から、上前をはねて、年間2000億円という規模とした「電力モンスター・システム」だ。

「モンスター・システム」は、与党と野党の代議士、落選した代議士、地方の首長、地方議会議員、はては町の自治会長や町内会長に至るまで、電力業界が有利になるように、政治資金として幅広くばらまく。

さらに、テレビやマスコミでは電力業界に有利な広告を大量に流し、反原発のタレントは干し、多数の元検針員に「市民の声」としてネットやマスコミに投稿させ、電力業界が有利なように世論を誘導しているという構図だ。

国からも、原発歓迎の地元には、巨額の電源立地交付金も、新幹線も、高速道路も来るというのが日本の政治のお作法だという。

電力業界の目標は、仝業再稼働、∩配電網分離阻止、E杜肋売り自由化の骨抜きだ。そして、新崎原発爆発事故の後も、電力業界は次のメモの様な政策の実現を目指すというストーリーだ。

東京ブラックアウト










































出典:本書217ページ

最終的に、日本はゴーストタウン・無法地帯と化した関東地方で、世界の核廃棄物の中間貯蔵施設(50年間保存)をつくって外貨収入を獲得するのだと。

2度の原発事故を憂慮された天皇や安倍首相夫人と思われる人物、小泉元総理の反原発運動などもプロットとして描かれている。

山本太郎元議員が園遊会の時に、天皇に請願書を渡したことをふまえ、そんなことをしなくても、内閣官房宛に送れば、憲法16条に基づく天皇への正式な請願は可能だとして、今上天皇への請願の正式な送付先を、この本の最後に記載している。

〒100−8968 東京都千代田区永田町1−6−1 内閣官房内閣総務官室

筆者は、たまたま原子力規制委員会が入っている六本木ファーストビルで仕事をしている。そんなこともあって、この小説はフィクションではあるが、すごく現実に近いと感じた。

現在稼働中の原発は次の通りだ。

稼働中原発





















出典:ウェブ

この本を読む前に池上さんの、「池上彰が読む小泉元首相の『原発ゼロ』宣言」も読んで勉強した。




原発がなくても、日本はやっていけるということは、既に3.11以降の何年かで証明されている。現在は安全基準に達した9基(うち4基は裁判で停止中)の原発だけ動いている。原発を動かせば、電力会社には1000億円単位の利益が出るので、電力会社は原発稼働に積極的だが、この小説や、池上さんの本を読むと、本当に日本で原発が必要なのか考えさせられる。

この本の後半は、原発メルトダウン・爆発後の、人が住めなくなった関東での大混乱と多数の死者発生を描くホラーとなっている。現実に起こらないと言えないところが怖いところだ。

著者の若杉冽さんは、現役の官僚で、国会議員、高級官僚、電力業界の業界団体の代表など、登場人物は、いかにも本当にいそうなリアルなキャラクターに描かれている。

娯楽小説というわけではないが、もしフクシマ級の事故が再度起こったら日本はどうなるかをシミュレーションした小説として大変参考になった。

このブログで紹介した「原発ホワイトアウト」のあらすじも参考にして、原発問題を再度考えてみることをお勧めする。

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