2020年07月18日

断罪 村上誠一郎議員と古賀茂明さんの安倍政権批判対談



このブログで、著書の「日本中枢の崩壊」「信念をつらぬく」のあらすじを紹介した元経済産業省のエリート官僚の古賀茂明さんが、「自民党ひとり良識派」を自称する村上誠一郎議員と、2017年12月から2018年4月までの間で対談した内容をまとめた本。

以前、知人から借りて読んだが、集団的自衛権を考え直す上で、再度読んでみた。

日本中枢の崩壊
古賀 茂明
講談社
2011-05-20


信念をつらぬく (幻冬舎新書)
古賀 茂明
幻冬舎
2013-01-30



2018年5月に出版された本だが、いまでもこの本の議論は通用する。というか、安倍政権は、全く当時から変わっていないし、この2年間で何の問題も解決されていない。しいていえば、相手基地攻撃力をもつがゆえに、逆に相手からも最初の攻撃目標とされるイージス・アショア計画が撤回されたくらいだ。

さらに、2020年に入って、コロナウイルスとの戦いでは、だれが責任者なのかわからない衆愚政治により、コロナウイルスの日本全国への拡散を招いた(この文は7月18日にアップするが、残念ながら筆者は日本はコロナウイルス対策で失敗した唯一の東アジアの国になるのではないかと思う)ことで、安倍首相は一刻も早く退陣すべきだというこの本の主張に同意する。

村上誠一郎議員は、松島みどり議員のところでも触れたように、筆者の同級生で、みずから村上水軍の末裔と学生時代から言っており、愛媛2区から11期連続で衆議院議員に当選している。昔は普通の体形だったが、今は体重110キロあるという。

村上誠一郎議員は、自民党の中でも「ひとり良識派」として、安倍政権の政権運営について表立って反対するので、総裁選で安倍さんと戦って敗れた石破茂さんと一緒に、衆議院議員席の一番後ろの列で、「セントヘレナ島」のように、二人だけさらに飛び出て席があるという。
自民党ひとり良識派 (講談社現代新書)
村上 誠一郎
講談社
2016-06-15



村上誠一郎議員は、政治家4代目で、安定した選挙基盤を持っているからこそ、自民党執行部にもズバズバものがいえる恵まれた立場だ。

筆者自身も、当初は安倍政権に期待をしていて、株価上昇と「いざなぎ超え」の景気を結果として生んだアベノミクスを支持していた。しかし、首相在任期間が長くなるにつれて、どんどん欠点が見えてきて、あきらかな権力の濫用が目立ってきた。

モリカケ問題などの政治の私物化、安倍内閣に人事権を握られた官僚の劣化と、政権批判を忘れたマスコミの機能喪失、そして2020年に入ってからは、衆愚政治で結果的に日本を東アジアで唯一コロナウイルス対策で失敗した国へと導こうとしている。

この本の目次は次の通りだ。論点が整理されている。

はじめに 村上誠一郎議員
第1章 リベラル保守再生のためにー私たちの自民党改造論
第2章 国を亡ぼす忖度官僚は要らないー私たちの「霞が関:」改造論
第3章 破綻寸前の金融・財政をどう立て直すのかー私たちの日本再生論1
第4章 税と社会保障の一体改革を再びー私たちの日本再生論2
第5章 庶民を潤す真の成長戦略とはー私たちの日本再生論3
第6章 憲法改正をなぜ急ぐ?外交と安全保障をめぐるあやまちの糺す
第7章 日本を危うくする安倍政治に決別を
最終章 希望は教育の再生にあり
おわりに 古賀茂明さん

安倍政権の政権運営を考える上で、大変参考になった。

<官邸の官僚コントロール>

古賀さんは、官僚には3つのタイプがあるという。‥儀薪な出世を目指している人たち、官僚になれば食いっぱぐれがなく、勤めあげれば天下りして70歳まで生活が保障されるという「凡人型」、市民を助けるのが自分の仕事という「消防士型」。

村上さんは、このうち、今の霞が関を悪くしている元凶が一番目のタイプで、2014年の公務員法改正により、上級公務員の人事権を内閣人事局が握った。次官、局長、筆頭総務課長などの幹部職員だけでなく、候補者も入れた幹部候補名簿を作っているので、課長級まで内閣人事局が影響力を行使できるようになった。出世欲が強いエリート官僚ほど、官邸の鼻息を窺うようになったのだと。

たとえば、森友学園問題で、答弁した佐川元財務省理財局長。嘘で押し通し、証拠文書隠滅に携わった近畿財務局の部下を自殺にまで追い込み、安倍総理に恩を売り、最後は国税庁長官になった。

反対に、安倍政権に不利な真実を語った文科省元事務次官の前川喜平さんの場合、官邸が読売新聞に前川氏の出会い系バー利用などの個人情報をリークして、個人攻撃されて社会的に抹殺されそうになった。こんなことがあると、エリート官僚は、安倍官邸に少しでも逆らうと、個人攻撃までされると、びびって否が応でも「忖度」するようになるだろう。

<「安倍全体主義」の自民党>

村上さんは、第二次安倍政権となってから、かつての良き日の自民党の姿は急速に消え、党内の議論を許さない雰囲気が広がり、真剣な議論をする議員がいなくなりつつあると語る。自民党の税調も力を失っている。

象徴的なのは、集団自衛権の解釈変更の時に、弁護士出身の法律家や、東大法学部、筑波大付属高校の同窓議員は多くいたが、結局内閣案に反対したのは、村上さんと検事出身の若狭勝さんだけで、村上さんは衝撃を受けたという。

小選挙区制になったことから、執行部が選挙における公認・政治資金・比例の順位を一手に握ったために、下手に執行部に反対しようものなら、次の選挙で公認すら得られなくなってしまうからだ。それが自民党議員が勇気をなくした原因だ。

小選挙区制は、元々小沢一郎の党内支配のための道具で、それを完成形にしたのは小泉純一郎元総理だ。2005年の秋の郵政選挙で、小池百合子さんなどの刺客を対立候補として公認し、総理に盾突くと、公認まで外されるというトラウマを自民党議員に植え付けたのだ。

このことを如実に表すのが、河井夫妻の選挙違反事件だろう。河井夫妻は安倍首相と近いので、自民党は河井安里候補には1億5千万円の選挙資金を提供したが、現職でありながら落選した岸田派の溝手議員には、その十分の一の1千5百万円しか支援しなかった。

安倍官邸は、「官邸主導・政治主導」を大義名分にして、いつの間にか国会議員と官僚たちのアンダーコントロール化に成功した。これが政治や行政の混乱を招き、日本は滝つぼに向かっている。

事ここに至っては、安倍総理はいさぎよく武士(もののふ)として政治的及び道義的責任をとり、一刻も早く退陣すべきだ、日本を立て直すにはそれしかないと村上さんと古賀さんは完全に一致している。

<マスコミの安倍政権への屈服>

マスコミは政権に完全に抑え込まれていることが語られている。テレビ局は政権批判は怖くてできないし、新聞は親安倍と反安倍に二分されている。

古賀さんも、菅義偉官房長官と思いっきりけんかして、思いっきり干され、在京のテレビ局には出られず、関西の朝日放送のみ出演が可能なのだと。収入も激減したので、もう怖いものはないという。

<わが国の3大危機>

村上さんは、政治家は国民に対して責任をとらなければならない。安倍政権は国民をだましているとして、次のような「わが国の3大危機」という垂れ幕にして、このような問題先延ばしの政治をずっと続けていていいのかと、総選挙の時に街頭演説をした。

村上誠一郎選挙CP (2)



















出典:本書86ページ

財政再建のためには、増税が避けて通れないというのは共通認識だが、消費税を増税することは経済に悪影響があり、非常にパワーがいる。古賀さんは、いま一番早くやらなければならないのは、金融所得課税の総合課税化だという。格差是正にもつながる増税が今は大切なのだと。

<日本の安全保障>

村上さんは、日本では安全保障と防衛が同じような意味にとられていると指摘する。安全保障の要諦は、「敵を減らして、味方をふやす」ことなので、安倍さんのように敵ばかり増やしたら、いくら防衛予算を増やしても追いつかない。日中、日韓、日台、日露とどこもうまくいっていない。

これに対して、EUの安全保障政策には、見習うべきものがあると村上さんは語る。

EUができてから、ロシアから西側は戦争がないという前提が成り立つので、ヨーロッパの中では敵はいない。だから、それまで30万人いたドイツの陸軍はもう7万人くらいしかいない。これが安全保障なのだと。

安倍さんは戦後レジームからの脱却と言っているが、やっていることはその逆で、戦後レジーム(=「アメリカ追従」だと古賀さんは語る)にしがみついている。

<北朝鮮問題>

たとえば2017年7月の核兵器禁止条約も、唯一の被爆国でありながら、日本は締結していない。北朝鮮でさえ、2016年10月の核兵器禁止条約の制定交渉開始の決議では賛成したのに、トランプ大統領が出てきて、北朝鮮をやっつけるといったもんだから、途中で協議から抜けたのだと古賀さんは語る。

アメリカと北朝鮮が戦争になったとして、日本でどれだけの被害が出るのか聞いた日本のマスコミはいないという。アメリカではいくつかシミュレーションが出ていて、国防総省も議会に報告書を出している。アメリカの報道によると、核兵器を使わなくても最初の数日で最低でも3万人が死亡し、核兵器を使えば最大380万人が死亡する。

北朝鮮の核兵器は、いまやアメリカの脅威だ。北朝鮮を先制攻撃することは、アメリカのリスクを避けるための戦争なのだが、当然韓国と日本に甚大な被害が出る。しかし、その被害はアメリカが北朝鮮の核で狙われるリスクに比べれば小さいと報告書に書いてあったと古賀さんは語る。

古賀さんは、日本ではこういったシミュレーションが全く報道されないことを、旧知の東京新聞の望月衣塑子記者に伝え、望月さんは記者会見で菅官房長官に聞いたという。古賀さんが、望月さんが官邸から忌み嫌われる原因を作っていたのだ。ちなみに、望月さんは、「権力と新聞の大問題」という本を書いている。

権力と新聞の大問題 (集英社新書)
マーティン・ファクラー
集英社
2018-06-15



村上さんは、北朝鮮リスクに対して、次の3つの方策を考えているという。
1.圧力だけでは日本の安全保障に大きな危険を生じさせるから、今の安倍さんの圧力一辺倒をやめさせる。
2.日本が呼び掛けて、アメリカに対してアメリカが先に武力行使をしないと言わせる。
3.もし戦争が起きたら、日米間にどんな影響が出るのかをきちんと議論して、認識を正しく共有すること。

この3点が全くやられていないと指摘する。

<教育の再生>

最後に、村上さんの持論である、教育の再生について語っている。「教育は自己発見の旅である」というのが村上さんの人生のテーマだと。国際的に通用する人物を育てていく教育。留学も、卒業後も海外にとどまり、世界で通用するような人材となって帰ってこいと指導する。

村上さんの小学校の時の愛読書が、以前あらすじを紹介した「君たちはどう生きるか」だったと。

漫画 君たちはどう生きるか
羽賀翔一
マガジンハウス
2017-09-19



古賀さんは麻布高校のPTAで講演して、アジアの大学のランキングを示し、「優秀なお子さんだったら、シンガポール大学か清華大学か北京大学を目指してください」というのだと。

実際、古賀さんは30歳になる長男には、外資系の会社に勤めて、いずれ自費でアメリカでMBAを取り、そのままアメリカで就職しろと、ずっと言い続けているのだと。

村上さんは、日本には移民を増やすことが必要なことは、人口動態から明らかなので、アメリカの様な市民権を入口に問題を提起しようと思っていると語る。

古賀さんは、ドイツの例を紹介している。ドイツは移民を経済を支える人材とみなして、ドイツ語教育や職業訓練に力を入れ、フォルクスワーゲンなどの大企業も政府に移民受け入れを強く訴えた。だから、今や移民はドイツ経済の成長を支える重要な存在になってきている。

どちらも東大法学部出身、どちらも安倍政権から敵視されていることもあり、議論がかみあって面白い。

安倍政権を評価する上で参考になる本である。

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2013年04月16日

信念をつらぬく 経済産業省出身の古賀茂明さんの自伝

信念をつらぬく (幻冬舎新書)信念をつらぬく (幻冬舎新書)
著者:古賀 茂明
幻冬舎(2013-01-30)
販売元:Amazon.co.jp

以前紹介した「日本中枢の崩壊」の著者、経済産業省出身の古賀茂明さんの自伝。

日本中枢の崩壊日本中枢の崩壊
著者:古賀 茂明
講談社(2011-05-20)
販売元:Amazon.co.jp

現在は「無職」

古賀さんが「日本中枢の崩壊」を出版した時は、まだ経済産業省の官僚だったが、過激な公務員制度改革を推進しようとした関係で反感を買い、ポスト待ちポジションの大臣官房付として2年弱も留め置かれ、ついに2011年9月に経産省を辞職した。

その後は、大阪府市東郷本部特別顧問となった。このポストは月に数回呼ばれて日当は2〜3万円。交通費は新幹線の普通車分で、グリーン車に乗って仕事をするとか、会議に間に合わせるために前日に大阪入りしたりすると、ほとんどお金は残らないという。

他にはテレビのレギュラーコメンテーター、「エコノミスト」、「週刊現代」、「週刊プレイボーイ」連載、そして有料メルマガの発行をしている。職業は「無職」であると。

「日本中枢の崩壊」でも簡単に触れていた、古賀さんの官僚としての仕事ぶりを紹介していて興味深い。


古賀さんの経歴

古賀さんは1955年生まれ。父親は石炭会社に勤めるサラリーマン、母は専業主婦という家庭に生まれた。九州生まれではあるが、3歳の時に東京に引っ越してからは、東京と神奈川に住んだ。

麻布中学に入り、麻布の開放的な雰囲気を楽しむ。1974年に東大文気貌り、法学部に進学してテニスサークルを立ち上げる。法学部の司法試験や公務員試験を目指して勉強にいそしむ雰囲気に慣れず、2年留年する。


官庁訪問での印象

2留だと民間企業に行けないと脅され、公務員試験を受けた。勉強していなかった行政法は一夜漬けでなんとかこなす。10月の合格発表まで待っていると、「官庁訪問は合格発表前にしなければならない」と知らされ、ほとんど内定が終わった9月初めからあわてて官庁訪問を始める。

大蔵省は感じが悪かった。しかし、成績の良さが気に入られ、次回面接を言い渡され、内々定をもらえた。

東大法学部の成績で、「優」は勝ち、「良上(りょうじょう)」は引き分け、「良」と「可」は負けとしてカウントするのだと。古賀さんは成績には全く関心を持っていなかったが、「良上」が3つで、残りはすべて「優」だった。

筆者は公務員試験を受験するつもりはなかったので、「成績ドレッシング」に関心を持っていなかったが、当時の学生票(通信簿)を引っ張り出してきてみると、5勝、8引き分け、12敗だった。これではいいところの公務員は無理だろう。

公務員志望の学生は、教室の最前列に陣取り、熱心に授業をうけて、「優」を増やすべくよく勉強する。もしテストが「良」程度になりそうだと、そのテストを受けるのをやめてしまう。まさに「優」コレクターの「成績ドレッシング」である。

古賀さんが通産省を訪問してみると、「大蔵省とかけもちの学生が抜ける可能性があるから、追加で取っておこう」という段階だったようだが、そんなことはおくびにも出さず、言葉も態度も驚くほど丁寧だった。

仕事も趣味もバリバリこなす若手の課長補佐を紹介され、古賀さんは通産省に行きたいという気持ちが強くなった。しかし入省してみたら、こういったエネルギッシュな人は、ほとんどいなかった。なんのことはない、官庁訪問用の特殊な人材を配置した、巧妙な採用戦略だったことがわかったという。

建設会社に転職していた父親の関係で、建設省も一度だけ行った。最初は「もう大方内定は出しているので、面倒だな」という感じがありありだったが、成績が良いと知ると、前に待っている学生をすっとばして古賀さんを面接し、最初から「うちに来ませんか」と態度が豹変したという。

公務員試験の結果に自信がなかった古賀さんは、会社回りもして、日本興業銀行、日本長期信用銀行、東京海上から公務員志望者枠で内定をもらったという。いまはありえない景気の良かった時代の話だ。


入省後の仕事は人間ソーター

1980年に入省すると、工業技術院総務課に配属された。「1年生が先輩より早く帰るなんてとんでもない」という雰囲気や、「人間コピー・ソーター」、地獄の国会答弁資料作りの様子などが紹介されている。

こういった非生産的な官僚の仕事は、話には聞いていたが、「体験者語る」という形で聞くと、あらためて驚かされる。

先端技術開発をめぐって、通産省と科学技術庁の間で、なわばり争いが起こった。これは通産省から一人理事を出すということで決着した。「天下り先を確保できれば万事OK」という霞が関の考え方に初めて触れたという。

法律を作る場合でも、必ずと言っていいほど推進団体をつくる。たとえば原子力の安全性を担保する法律を作ると、原子力安全基盤機構をつくる。理事長、理事といったポストをつくり、天下り先を確保するのだ。天下りポストをたくさんつくると、官僚は上司から評価されるからだ。

古賀さんは2年目の後半に係長に昇進し、3年目には経済企画庁財政金融課に係長として出向した。国の経済見通しは、実は経済企画庁、大蔵省、通産省の交渉で、「経済成長率の見通しは何パーセントで行きましょう」という風に決めていたという。

もともと役人の大半は法学部出身者なので、経済に関する知識レベルは低い。2年間の経企庁出向で通産省に戻ってくると、「経済のプロ」とみなされるようになったという。

次に古賀さんは大臣秘書官となり、村田敬次郎渡辺美智雄田村元大臣に仕える。

1987年から南アの総領事館に駐在する。釈放されたばかりのネルソン・マンデラを日本領事館のパーティに呼んだら来てくれ、大変な混雑だったという。


課長補佐時代

1990年に帰国して産業政策局産業構造課の課長補佐となり、日米構造協議の取りまとめをする。アメリカの要求が正しいと思えば、それを受け入れるべく省内を説得して回っていたので、「改革派」のレッテルを貼られる。この時に実現したのが、行政手続法、審議会の公開化だ。

労働時間の短縮、少子化問題も手掛けたが、いまだに大きな進展がないのは残念だと。

古賀さんはそもそも官僚にはなりたくなかったし、出世してトップになっても天下り先のあっせんばかり考えているのは性に合わなかった。

その「出世したくない」古賀さんがエリートコースの基礎産業局総務課の筆頭課長補佐になった。

筆頭課長補佐は法令審査委員(その後廃止)も兼任している。法令審査委員会は予算と人事の強い権限があり、課長補佐以下の人事には局長でも課長でも口出しできなかった。

その中でも大臣官房の秘書課、総務課、会計課の筆頭課長補佐は別格で、次官候補とみなされる。

古賀さんは次に大臣官房の会計課の筆頭課長補佐となった。そして「官房長から予算削減の指示が出ている」とウソをついて数百億円の無駄を削減できた。「古賀流事業仕分け」だ。

予算折衝では、各省庁の総務課長、局長、事務次官、大臣の4段階に族議員も絡んでいた。古賀さんは、大蔵省の主査と話して、総務課長と局長折衝を廃止した。


課長に就任

古賀さんは産業政策局に戻り、産業組織政策室長に就任した。誰もが不可能だと思っていた独禁法を改正し、持ち株会社の解禁を実現する。

当時の橋本龍太郎大臣が支持してくれた。公取委の人数を増やし、事務局長を次官クラスに、部長を局長クラス、その下に部長クラスのポストをつくるという公取委の地位を上げる提案をしたところ、公取委は持ち株会社解禁賛成に回った。

1996年に古賀さんはOECDのプリンシパルアドミニストレーターとしてパリに赴任して3年いた。

この時にOECDから発送電分離、電力市場自由化を日本に勧告した。プレスに情報提供して、日本国内でニュースとして流れるように仕組んだという。

1999年にフランスから帰国すると商務情報政策局の取引信用課長、産業技術環境局の技術振興課長を経て、2002年に内閣府の産業再生機構設立準備室の参事官となった。5年間の期間限定で産業再生機構を立ち上げる。

銀行は当初、産業再生機構を行員の出向先として考えていたが、銀行からの出向は断った。

企業再生のプロを雇って、自前の人材で運営し、4年間でカネボウやダイエーなど40社の再生を手がけ、利益を上げて300億円の税金を払い、解散後は400億円を国庫に納めることができた。


経産省でKYとみなされる

2004年に経産省に戻り、経済産業政策局経済産業政策課長となる。各局の筆頭課長が集まる「政策調整官会議」で、経産省で当時発覚した「裏金問題はもっとしっかり調査すべきだ」などと発言して、KYとみなされる。

産業構造審議会に「基本政策部会」を作ろうとして当時の局長と対立し、「勝手にやれ」と言われて、部会を立ち上げると、半年で中小企業庁の経営支援部長に左遷された。


大腸ガンに罹り九死に一生を得る

1年後に中小企業基盤整備機構に理事として出向、その時に下血して大腸ガンが見つかり、大手術の上復帰を果たす。

1年後に産業技術総合研究所へ理事として出向中に、福田内閣で公務員制度改革基本法の制定を推し進める渡辺喜美さんに呼ばれ、内閣府の「国家公務員制度改革推進本部」の幹部として2008年7月に就任する。

1か月後渡辺喜美大臣が退任させられた。しかし、堺屋太一氏や屋山太郎氏などをまねいた顧問会議の支援を得て、2009年3月に「国家公務員法改正案」が麻生内閣から国会に提出されたが、不成立に終わる。

2009年9月に民主党政権が誕生し、当初は仙谷大臣より補佐官就任を要請されたが、霞が関の反対で実現しなかった。公務員制度改革推進本部幹部は全員更迭、古賀さんは経産省に大臣官房付として戻った。

民主党内閣は、公務員の「退職管理基本方針」を打ち出し、仕事はないが給料は高い「専門スタッフ職」をつくったり、「現役出向」で民間企業へ天下りの抜け道をつくる方針をだしてきた。これは民主党の「脱官僚、天下り根絶」の方針とは全く逆のものだった。

長妻大臣はこの動きに抵抗した。厚生労働省だけはこれを認めないとしたことで、官僚のクーデターに会い、更迭の憂き目を見た。官僚にとってはそれほど重要な骨抜き工作だったのだ。

古賀さんはなんとかこの動きを阻止すべく、実名で民主党の政策を批判する論文を書き、2010年6月29日、「週刊エコノミスト」に「現役経産官僚が斬る『公務員改革』消費税大増税の前にリストラを」という題で論文が掲載された。

「退職管理基本方針」は記事が載った翌日に閣議決定されたが、「専門スタッフ職」創設にはストップがかかった。


このようにもっぱら古賀さんの経歴を語っている。

はっきりいって、打たれるべくして打たれたクイである。本を出す目的がよくわからない本というのが、率直なところだ。

ともあれ、経産省での仕事のやりかたなどは参考になる本だった。


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2011年09月26日

日本中枢の崩壊 経産省古賀茂明さんの本 キワモノ告発本にあらず

日本中枢の崩壊日本中枢の崩壊
著者:古賀 茂明
講談社(2011-05-20)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

最近テレビで見かける経済産業省大臣官房付の古賀茂明さんの本。家内が図書館から借りていたので読んでみた。アマゾンの売り上げで現在19位のベストセラーだ。書店で平積みにしてある本には次のような帯がついている。

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本の帯には「日本の裏支配者が誰か教えよう」とかいういかにもキワモノ的なキャッチが書いてあるので、以前からあるようなキワモノの(元)官僚による個人攻撃だらけの告発本かと思ったら全然違った。

告発している部分もあるが、政治家などの公人を除き、官僚の個人名は一切伏せられており、告発が目的の本ではないことがわかる。

次に目次を紹介しておく。細かく各節の題が載っており、目次だけを読んでも内容が推測できるすぐれた目次である。序章と終章だけ各節のタイトルを紹介しておく。まずは書店で立ち読みして目次を読んで欲しい。


序章 福島原発事故の裏で

・賞賛される日本人、批判される日本政府
・官房副長官「懇談メモ」驚愕の内容
・「ベント」の真実
・東電の序列は総理よりも上なのか
・天下りを送る経産省よりも強い東電
・「日本中枢の崩壊」の縮図

第1章 暗転した官僚人生

第2章 公務員制度改革の大逆流

第3章 霞ヶ関の過ちを知った出張

第4章 役人たちが暴走する仕組み

第5章 民主党政権が躓いた場所

第6章 政治主導を実現する3つの組織

第7章 役人ーその困った生態

第8章 官僚の政策が壊す日本

終章  起死回生の策

・「政府閉鎖」が起こる日
・増税主義の悲劇、「疎い」総理を持つ不幸
・財務官僚は経済が分かっているのか
・若者は社会保険料も税金も払うな
・「最小不幸社会」は最悪の政治メッセージ
・だめ企業の淘汰が生産性アップのカギ
・まだ足りなかった構造改革
・農業生産額は先進国で2位
・「逆農地改革」を断行せよ
・農業にもプラスになるFTAとTPP
・「平成の身分制度」撤廃
・中国人経営者の警句
・「死亡時精算方式」と年金の失業保険化
・富裕層を対象とした高級病院があれば
・観光は未来のリーディング産業
・人口より多い観光客が訪れるフランスは
・「壊す公共事業」と「作らない公共事業」
・日本を変えるのは総理のリーダーシップだけ
・大連立は是か非か

補論  投稿を止められた「東京電力の処理案



この本を読んで古賀さんが真の憂国の士であることがよくわかった。古賀さんは既得権に執着する霞ヶ関の官僚が、公務員制度改革を骨抜きにしている実態を明らかにしたことから、出身の経産省はもとより、財務省からもにらまれ、経産省からは2010年10月末で退職しろという勧告を受けるなど様々な圧力、誹謗中傷を浴びている。

古賀さんは経産省の大臣官房付という閑職に1年以上も追いやられているが、雑誌・テレビ等のマスコミに頻繁に登場する古賀さんを経産省の幹部は苦々しく思っている様だ。

この本を読むといかに菅政権の打ち出した公務員制度改革を官僚が骨抜きにしていったのかがよくわかる。ただ公務員制度は戦後何十年も掛けてできあがったいわば「エコシステム」であり、古賀さんのような異端者がポッと出ても事態は変わらないだろう。


天下りがなぜいけないのか

古賀さんは2010年10月15日の参議委員予算委員会で、天下りの問題点について発言し、その場で当時の仙石官房長官の恫喝を受けた経緯を語っている。

その国会発言のなかで、なぜ天下りがいけないか次のように整理している。

天下りがいけない理由は、第1には天下りによってそのポストを維持することにより、大きな無駄が生まれ、無駄な予算が維持される。第2には民間企業も含め天下り先と癒着が生じる。これにより企業・業界を守るために規制は変えられないとか、ひどい場合には官製談合のような法律違反も出てくる。

一部に退職金を2回取るのが問題という話もあるが、それは本質的な問題ではなく、無駄な予算が山のように出来る、癒着がどんどん出来るのが問題だと。

これに対する現在の霞ヶ関のロジックは、1.官庁からの天下りの斡旋等は一切ない、あくまで本人が求職活動をしたものである。2.現役出向は「官民交流法」に基づいた民間のノウハウ吸収である。(現役出向先の企業への再就職も、一旦役所に戻って定年退職した後はOK)というものだ。

特に現役出向に関する菅政権の「退職管理基本方針」の問題点について古賀さんが「週刊東洋経済」に寄稿したところ、霞ヶ関の「アルカイーダ」、「掟破り」として古賀さんは全霞ヶ関から監視されているという。

週刊 東洋経済 2010年 10/2号 [雑誌]週刊 東洋経済 2010年 10/2号 [雑誌]
東洋経済新報社(2010-09-27)
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古賀さんは大腸ガンで手術して、その後腸閉塞を併発して体調を崩し抗ガン剤を飲みながら闘病を続けていたこともあるという。

大腸ガンは死亡率が高く、男性でガン死亡率の第3位、女性ではガン死亡率の1位になっている病気だ。ひょっとすると長くは生きられないかもという不安が、古賀さんの勇気ある発言を支えているのかもしれない。

2158





出典:http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/2158.html

この本では古賀さんの官僚人生での功績にも触れている。GHQが財閥解体のために残していった純粋持株会社を解禁する独禁法第9条の改正、ガソリンスタンドのセルフ給油解禁、クレジットカード犯罪の刑罰化などが古賀さんの成果だ。官僚の仕事の進め方がわかって興味深い。


古賀さんの日本起死回生策

上記目次で紹介したように、古賀さんはこの本の終章で具体的な起死回生策を提案している。「若者は社会保険料も税金も払うな」などという過激な提案もあるが、さすがに政策論争に慣れた経済官僚だけあって、提案内容は練れていると感じる。

ただこれらの政策提案は、上記の目次を見るとわかるように、いわば「暴論」であり、これらが現状では政策として実現する可能性は低いといわざるをえない。

日本の財政破綻を回避する方法として、政府は増税で何とかしようという知恵しかない。これは自民党政権でも菅政権でもバリバリの増税論者の与謝野馨氏を経済財政政策担当大臣にしたことから明らかだ。これは消費税増税を狙う財務省のたくらみ通りである。

このままいくと日本の消費税は30%になり、経済は縮小し、町には失業者があふれ、犯罪も増え治安も悪いという悲惨な国になっていく可能性が高い。数年内に歳入不足で「政府閉鎖」が起こる可能性もある。

英国の「エコノミスト」誌は、「日本人はこの震災を機に、自らの対応能力と世界から寄せられる畏敬の念によって自信を取り戻すかも知れない」と語っているという。この世界からの期待に応えられるような社会を作らなければならない。

そのための古賀さんの起死回生策をまとめると次のようなものだ。実現性は非常に疑問ではあるが、方向性として正しい議論もある。

1.国の保有資産はJT,NTT株でも公務員宿舎でも独立行政法人の資産でも何でも売って数百兆円の資産売却を行う。

2.社会保障費の削減。支給額削減、先延ばし、富裕層支給カット。「死亡時精算方式」、年金の失業保険化

3.農業、中小企業、組合だからという助成策はすべてやめる。

4.公務員は大幅削減、給与も民間以上にカット、天下り団体は廃止。

5.タブー廃止。農業への株式会社参入OK,休耕地課税、TPP参加、時間をかけても関税撤廃。3ちゃん農業=兼業農家保護縮小。

6.消費税アップだけでなく相続税改革も含めた税制改革を行う

7.衰退産業・企業は潰して有望な企業・産業にスクラップ・アンド・ビルド 観光を未来のリーディング産業に



特記事項

他にも参考になった情報をいくつか紹介しておく。ただし、真偽のほどは確認する必要があるということを言い添えておく。

・東電を含め電力業界は、日本最大の調達企業なので他の業界のお客さんだ。自民党の有力な政治家を影響下に置き、労組を動かせば民主党も言うことを聞く。巨額の広告料でテレビ・新聞などマスコミを支配し、学界に対しても研究費で影響力を持っており、誰も東電には逆らえない。だから菅総理が怒り狂って東電に殴り込みにいっても、「総理といえども相手にせず」という態度だった。

・OECD駐在中に送電分離を唱えた古賀さんはあやうくクビになるところだった。

・現みんなの党渡辺喜美代表から、自民党時代に行革・規制改革担当大臣になったときに補佐官就任要請があったが、大腸ガンの予後が悪く断ったという。渡辺さんは即断の人だという。

・2008年6月福田内閣で成立した「国家戦略スタッフ創設」、「内閣人事局の創設」、「キャリア制度の廃止」、「官民交流の促進」などを柱にした国家公務員制度改革基本法案を中曽根元総理は「これは革命だよ」と言ったという。

・2008年7月に発足した国家公務員制度改革推進本部事務局の審議官に就任した古賀さんは、それから官僚人生の暗転が始まったという。

・経産省では日本企業の細やかな「擦り合わせ」こそ、他国がマネのできない特有の文化で、日本の競争力の原動力との解釈がまかり通っている。

・国税庁は普通に暮らしている人を脱税で摘発し、刑事被告人として告訴できる。金の流れが不透明な政治家は国税庁が怖く、国税庁を管轄する財務省には刃向かえない。ジャーナリストもマスコミも同じだ。古賀さんもマスコミ関係者から「国税のことは書かない方が良いよ」といわれたという。

・小泉首相は政策は竹中平蔵氏をトップとする竹中チーム、マスコミ対策は飯島秘書官の飯島チームを持っていたので、強力なリーダーシップを発揮できたが安倍さんは自前のチームを持たなかった。


現役官僚の暴露本というキワモノではない。政策の妥当性はさておいて、日本の将来を本気で心配する古賀さんの官僚としての良心がわかる本である。



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Posted by yaori at 23:28Comments(1)