2010年06月11日

グーグルに依存し、アマゾンを真似るバカ企業 前ドコモ夏野剛さんの近著

グーグルに依存し、アマゾンを真似るバカ企業 (幻冬舎新書)グーグルに依存し、アマゾンを真似るバカ企業 (幻冬舎新書)
著者:夏野 剛
販売元:幻冬舎
発売日:2009-07
おすすめ度:2.5
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前NTTドコモ執行役員でiモードやおサイフケータイの推進者夏野剛さんの近著。

本のタイトルが過激だが、別にグーグルを使うなといっているわけではない。

以前の”Web 2.0”ブームでは、誰もがSNS(Social Networking Service)に走ったが、SNS大手のMixiモバゲータウンも伸び悩んでいる。SNSを取り入れて、いかにビジネスに生かすかが課題なのだ。

今の”クラウド・コンピューティング”ブームで、その代表格のGoogle AppsGメールを導入したり、アマゾンを真似てリコメンドなどを始めても、それだけで成功できる訳ではない。ビジネスが成功できるかどうかは、価値を創造して顧客を創れるかどうかであり、その意味ではリアルもネットも同じだと夏野さんは語る。

さらにiモードの仕掛け人だった夏野さんは、ケータイもパソコンもビジネスモデルに違いはないと言い切る。


ウェブビジネスの未来

この本で一番参考になったのは、第3章ウェブビジネスの未来だ。これは次の3節から成っている。


第1節 ウェブ広告の未来

ウェブ広告の身上は確実な効果測定で、ネット広告はマス広告を確実に超えると予言している。ラジオと雑誌はリスナー、ターゲットが絞られるという意味で、もはやマス広告ではなく、あくまで新聞・テレビとネットの比較だという。

未来の広告として、筆者も好きなスピルバーグの「マイノリティ・レポート」の個人にカスタマイズした広告を紹介している。




また夏野さんも、英国のTESCOのポイントカードを使ったデータベースマーケティングを、個人にカスタマイズされた販売促進の先進的な代表例として紹介している。

「TESC0の顧客ロイヤルティ戦略」に関しては、筆者も非常に興味を持っている。

その中心人物が書いた本を筆者のブログで紹介しているので、興味のある人は参照して欲しい。

Tesco顧客ロイヤルティ戦略Tesco顧客ロイヤルティ戦略
著者:C. ハンビィ
販売元:海文堂出版
発売日:2007-09
おすすめ度:2.5
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第2節 仮想通貨(電子マネー)がウェブビジネスを加速させる

おサイフケータイと電子マネーは夏野さんがNTTドコモにいたときに、積極的に推進した戦略だ。

夏野さんはドコモ時代に「コンビニやタクシーで電子マネーを使えるようにする」という発想が、思った以上に受け入れられず、社内外の人を説得するのが大変だったと語っている。

「現金決済と電子マネーのどちらに将来の発展可能性があるか」という議論になかなかならず、売り上げアップと支払い手数料の費用対効果とか、店員教育の負担増といった目先のプラス・マイナスの議論となったので、普及は困難を極めたという。

このコメントは筆者には意外だ。

はたから見たら夏野さんが率いるドコモは、カネにあかせて三井住友カードの1/3を買ったり、ローソンなどのコンビニに出資して、おサイフケータイの端末を一気に普及させたりして、強引に推し進めていると思っていた。

いずれにせよ努力が実を結び、2001年11月にスイカとエディがスタートしてから、2008年10月で電子マネーの発行枚数は1億枚を超えて、さらに拡大しつつある。

電子マネーでも会員の個人情報と商品情報が収集できるので、IYグループのnanacoなどで、マーケティングに利用する動きが出ているという。

夏野さんは電子マネーを導入することにより、支払いが簡単になり、「ついで買い」が増え、客単価が上がると説得したという。

いまや多くのコンビニではiDや電子マネーが使えるようになっている。たとえば筆者はローソンではiD、7/11ではナナコモバイルが使えるので、もっぱら使うコンビニはローソンと7/11に限られている。

コンビニで小銭出すのが面倒くさいのだ。

夏野さんの狙った通りの効果が出ていると思う。これから多くの人がケータイで決済できる便利さを知ると、さらに利用は拡大するだろう。


第3節ネットメディアとデジタルコンテンツ

アメリカのNBSとNews CorpのジョイントベンチャーのHuluやYouTube、日本では夏野さんが取締役となっているドワンゴのニコニコ動画などが紹介されている。

マス広告市場の縮小に伴って、テレビ局の収益も悪化しているが、夏野さんはテレビは優良コンテンツを持っており、これをオンデマンドで有料で配信するか、広告付きで無料で配信すれば良いと提案する。

若者離れ、広告減のテレビを救うのはITだと。

ドコモで苦労したからだろう、随所に50代以上の経営者のインターネットリテラシーが低いことを批判している。

最後に夏野さんは「日本の将来は明るい。この明るさを生かして、IT時代を進んでいこう」と檄を飛ばす。

ドコモ時代に推進したiモードやおサイフケータイを使った様々なサービスが出てきている。

「先進的なIT技術に目を奪われて、海外の企業を真似たり、憧れたりするのは意味がない。自分たちのポテンシャルをもっと生かした先に、日本が持つ真の競争力が現れるのだ」と。


簡単に読めて参考になる本だった。


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2010年05月29日

理系の人々 2 SEマンガの続編

理系の人々 2理系の人々 2
著者:よしたに
販売元:中経出版
発売日:2010-03-26
おすすめ度:4.5
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前回紹介した「理系の人々」の続編。本屋に平積みになっていたので読んでみた。

この「理系の人々」はリクナビNEXT Tech総研のブログ「エンジニア★流星群」で連載されている。作者はSE(システムエンジニア)兼マンガ家のよしたにさんだ

理系の人々最新








この「理系の人々 2」に収録されている最新作もRSSでまとめられているので、本を買わなくてもネットで立ち読みできるが、公開されていない書き下ろしのマンガも面白い。

理系の人々RSS








特に読者からのお便りを紹介している「女子からみた理系男子」というマンガが面白い。次のような人が出てくる。

★手でやった方が早いのに、シューマイをつくる型となりそうな猪口を必死にさがす若い夫。「効率重視なの!」

★恋人同士二人で一緒の布団に入って「なんか息苦しいね」と言ったら、「息を吸った後の酸素の濃度は17%」「空気中の酸素の濃度は21%だから、そんなに苦しくないはずだよ」といわれ、一気に冷めた話。

★圧巻は高校の課外授業のバスの中での話。「メダカより小さく、クジラより大きい生き物なーんだ?」と女子高校生が聞いたら、理系男子がすっくと手を上げて「アルミラリア属菌の一種」と答えた。

Armillaria_ostoyae






出典:Wikipedia

「ハイ、不正解」と流そうとすると、男子生徒は正解だと執拗に言い張る。

しょうがないので、「海の生き物で」と付け加えるが、その場はしらけてしまったという。

(正解は「イルカ」=そんなのいるかというジョーク)


結構参考になる話もある

筆者が特に気に入ったのは、ネットでも公開されている次の作品だ。

理系の人々セキュリティ








無線LANのセキュリティで、WEPという暗号化方式は破られているとは聞いていたが、破るツールが結構簡単に手に入るとは知れなかった。このマンガは役に立った。

入社して1年間はデータの入力(エクセルのデータをウェブにコピペするだけの単純作業)しかやらせてもらえず、すっかり腐っていたところを、新任のプロジェクトマネージャーに開発をやらせてもらった話なども紹介されている。

開発の楽しさ、苦しさを経験したという。

「バッチで起動する」というのを、違うと言い張る。「ジョブ・スケジューラーで起動する」のだと

気軽に読めて、気晴らしになる作品だ。


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2010年05月27日

理系の人々 SEとマンガ家を両立させているよしたにさんの作品

理系の人々理系の人々
著者:よしたに
販売元:中経出版
発売日:2008-09-27
おすすめ度:4.0
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次回紹介する「理系の人々2」が本屋に平積みになっていたので、まずは「理系の人々」を読んでみた。

理系の人々 2理系の人々 2
著者:よしたに
販売元:中経出版
発売日:2010-03-26
おすすめ度:4.5
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作者の”よしたに”さんは本業はSE(システムエンジニア)で、兼業漫画家だという。

「ぼく、オタリーマン」シリーズから「理系の人々 2」までの累計で120万部が売れたという。

この「理系の人々」はリクナビNEXT Tech総研のブログ「エンジニア★流星群」で連載されている。

バックナンバーも含めて35セクションもあるので、本を買わなくてもこのブログで”立ち読み”できる。ブログでは無料で公開し、本を売るという、「フリー」のなかで述べられていた無料でも利益を上げる方法のひとつだ。


実は筆者は理系にあこがれていた

筆者は文系ながら、元々天文学科とかに漠然とあこがれていた。

しかし、高一の時に目が悪くなって、眼鏡を買う前の2ー3ヶ月間で黒板が読めなくなり、黒板に細かい字で書く数学教師の授業が全く理解できなくなった。

そのため数Iの成績がガタガタになり、文系志望に切り替えた。

だから理系の人にはあこがれというか、尊敬の意識がある。

インターネット関係の会社に出向したときに、勉強して初級シスアド資格を取ったので、今は理系の大学や高専などを出たばかりの学生並のシステムとかインターネットの知識はある。

しかしプログラムを書いている訳ではないので、シスアド受験当時はSQLをたたけたが、今や完全に忘れている。

初級シスアド資格は更新審査がなく、一旦取ったらそれっきりだが、理系の資格というのは、メインテナンスしないとすぐに役に立たなくなるということを実感する。

その意味でプログラムを組める人は尊敬してしまう。

この本ではプログラマーの上のSEのオタッキー(英語では"Techy"と言うのだと)な人々がマンガで紹介されている。

この本のなかで気に入ったものをリンク付きで紹介しておく。クリックしてよしたにさんのブログでマンガを見てほしい。

★理学と工学
理学部と工学部卒の差がわかるような気がする。

★結婚を後悔する男と結婚していない男
笑えるが、ウーム…。子供が生まれたらまた違うと思うけど。

★ソニーのデジカメの笑顔を撮る機能
たしかに昔はアイワというメーカーがありました。

★盗撮防止シールのセキュリティ
筆者は経験ないが、やはりエンジニアの訪問する場所(研究所とか)はセキュリティが厳しいんだな。

★彼女の誕生日はケータイのアラーム機能で記憶
言わなくても良いのに…。こんな真っ正直な人たしかにいるね。

★燃えるゴミが燃やすゴミに、燃えないゴミが燃やさないゴミに
気が付かなかったけど、この言い方は正確だ。

★人工イクラはひっくり返すと赤(油)が移動する
知らなかった。もっともこれはこの本には載っていない。

★理系の彼女さん
ブログで紹介されていないマンガもこの本には収録されている。よしたにさんは30歳を過ぎて未婚だが、「理系の彼女さん」というマンガも面白い。

彼女の前で実家から電話が掛かってきて、「彼女いない。いない」と言い切ったら、後で彼女から問いつめられ、「私のこと ほんとに好きなの?」と迫られる。

それで言った言葉が「それって 答え一択じゃない? いや もちろん好きだけどさ」。これで彼女が怒らないはずがない。

その他にも「理系が言ったこのひとこと」など、結構面白いマンガがあるが、この程度にしておく。

オタリーマンシリーズも現在読んでいる。同じ傾向のテーマで、登場人物も同じで楽しめる。

ぼく、オタリーマン。ぼく、オタリーマン。
著者:よしたに
販売元:中経出版
発売日:2007-03-15
おすすめ度:3.0
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女性漫画家が「キッパリ」シリーズや「ダーリンは外国人」シリーズとか、「日本人の知らない日本語」シリーズで、ヒットを飛ばしている。

よしたにさんは「ダーリン」とかと同じ様なユーモア派の売れっ子男性マンガ家だ。SEとマンガ家という貴重なキャリアーなので、是非両立させて、これからも面白い作品を書いて欲しい。


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2010年05月25日

evernote 何でもウェブにアップ!

できるポケット+ Evernoteできるポケット+ Evernote
著者:コグレ マサト
販売元:インプレスジャパン
発売日:2010-03-05
おすすめ度:4.0
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佐々木俊尚さんの「仕事するのにオフィスはいらない」で紹介されていたので読んでみた。evernoteの活用術がわかって参考になる。

仕事するのにオフィスはいらない (光文社新書)仕事するのにオフィスはいらない (光文社新書)
著者:佐々木 俊尚
販売元:光文社
発売日:2009-07-16
おすすめ度:4.0
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evernoteは文字メモだけでなく、ビデオ、写真、ウェブサイトのスクリーンショットなど様々な媒体をウェブサイトに収納できるクラウドサービスだ。

evernote top








「脳をバックアップしてくれるツール」と呼ぶ人もいると、佐々木さんの本には紹介されている。

何か思いついたり、気に入ったものがあれば、身近にあるパソコンでも携帯電話でもネットにアクセスできる端末を使って、evernoteに保存するという使い方だ。

evernote使い方








昔のベストセラー野口悠紀雄さんの「超整理法」では、紙の情報が対象だったので、フォルダーを作って時系列で並べて、いつ頃作ったかという記憶を頼りに探し出すというやり方だった。

「超」整理法―情報検索と発想の新システム (中公新書)「超」整理法―情報検索と発想の新システム (中公新書)
著者:野口 悠紀雄
販売元:中央公論社
発売日:1993-11
おすすめ度:4.0
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しかし、インターネットに保存するなら、そもそも整理は不要だ。検索機能を使って、キーワードで見つけ出すことができるからだ。

保存する際や、後で見直した時にタグ(キーワード)をつけると、検索しやすさが格段に上がる。これがevernoteの特徴だ。

紙のメモでは、何かの方法で整理して保管しないと、後から見つけ出すことが難しい。しかしネット上ならば、検索機能を使えば簡単に目当ての情報を見つけることができる。

いままでこういうサービスがなかったのが不思議なくらい、発想はカンタンだが、便利に使えると思う。

早速登録してみた。

evernote登録








登録画面は日本語になっているが、会員規約は英文のものしかない。まだ日本語規約はできていないようだ。

会員登録すると、evernoteからワンタイムログインパスワードが入ったメールがくるので、それを使って正式登録が完了する。

evernoteの操作画面は次のようになっている。

evernote操作画面








まだ何も入れていないので、welcomeメッセージだけが表示されているが、これから徐々にいろいろ放り入れて、使ってみて、使い勝手などを追記する。

たぶん一番簡単なのは、メールのコピーをevernoteに落とすやり方だ。evernoteのトップページの設定ページに、自分専用のメアドが設定されているので、BCCをここに落とせばevernoteに保存される。

mail設定








ブラウザーで表示したページの画像をevernoteにドラッグ&ドロップするというのは、IEでは対応していないので注意を要する。FirefoxやSafariでは対応しているということなので、Firefoxで一度試してみる。

今までGメールをウェブ上のファイルとして同じような用途に使っている人は多いと思う。evernoteも同じ用途だが、メール以外のワード、PDF、画像、映像など様々な様式で保存できる。

使ってみると便利なサービスである。いずれ日本でもブレークするだろう。


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2010年04月12日

フリー 終わりから読んでもいい優れた構成の本

フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略
著者:クリス・アンダーソン
販売元:日本放送出版協会
発売日:2009-11-21
おすすめ度:4.0
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ユニクロの柳井正さんが「私の最高の教科書」と呼ぶ元ITT社長ハロルド・ジェニーンさんの有名な言葉がある。

本を読む時は、初めから終わりへと読む。
ビジネスの経営はそれとは逆だ。
終わりから始めて、そこへ到達するためにできる限りのことをするのだ。


普通はこの通りだが、この本については終わりから読んでも良いかもしれない。というのは、この本の終わりには付録として、次の3つの簡単な解説と日本語版解説がついているからだ。

先日の朝日新聞日曜版でも出版社のNHK出版の編集者の話が紹介されていたが、人目を惹く本のカバーといい、英語のオーディオブックを無料公開していることといい、斬新なマーケティング手法を自ら取り入れた本である。


10の無料のルール(10のフリーの法則)

1.デジタルのものは遅かれ早かれ無料になる
2.アトム(デジタルに対して)も無料になりたがるが、力強い足取りではない
3.フリーは止まらない
4.フリーからも金儲けはできる
5.市場を再評価する
6.ゼロにする
7.遅かれ早かれフリーと競いあうことになる
8.ムダを受け入れよう
9.フリーは別のものの価値を高める
10.稀少なものではなく、潤沢なものを管理しよう


フリーミアムの戦術

「フリーミアム」とは大多数の利用者は無料として、一部のユーザーだけ有料のプレミアム会員とするやりかたで、著者のクリス・アンダーソンの造語だ。

これがこの本の最大の論点である。このフリーミアムについては、日本語のFreemium.jpという公式解説サイトもある。

そのフリーミアムの様々な手法は次のようなものだ。

1.時間制限
  30日間無料というようなモデル。

2.機能制限
  このLivedoorブログが良い例だ。もっと機能が欲しいと思うと有料のプレミアム版にしなければならない。

3.人数制限
  一定人数の人は無料だが、それ以上は有料。  

4.顧客のタイプによる制限
  小規模で開業間もない企業は無料で、それ以外は有料。マイクロソフトのビズパークがその例だという。

5.適切な移行割は?
  一般的には5−10%の有料会員と言われているが、クラブ・ペンギン(子ども向けオンライン仮想世界)は25%、ハボ(アバターチャット)10%、パズル・パイレーツ(オンラインゲーム)は22%だという。
  
6.無料ユーザーの価値は何か?
  無料ユーザーでも最初の時期の無料ユーザーはサイトを有名にする効果があり、価値が高く、時間が経つに従って価値は下がる。


フリーを利用した50のビジネスモデル

無料ビジネスモデルは経済学では「内部相互補助」という。無料のように見えても結局誰かがコストを負担しているのだ。「この世にタダのランチはない」(There Ain't No Such Thing As A Free Lunch=TANSTAAFL)と言われ、ノーベル賞経済学者のミルトン・フリードマンが有名にした言葉だという。

無料のビジネスモデルには次の3つの類型がある。

1.フリータイプ1(直接的内部相互補助)
  一つ買うと、一つタダというモデル(BOGOF=Buy One Get One Free)や、ケータイ電話を無料でもらえるとか。結局料金設定の一つの形態なのだ。

2.フリータイプ2(三者間市場)
  広告で支えられているテレビ、ラジオ、無料タウン誌などがこれだ。

3.フリータイプ3(前記のフリーミアム)
  普通は無料だが、機能が向上したプレミアム版は有料というモデルだ。たとえばこのLivedoor Blogも筆者は月々300円弱払って、プレミアム版を使っている。強制的に表示される広告がうっとうしいからだ。

それと付録では省かれているが、4番目のモデルの本当の無料モデルとして次がある。

4.非貨幣市場
  ウィキペディアなど、対価を期待せずに人々が貢献するモデル。マズローの欲求段階説による最上位の自己実現欲や、コミュニティの一員としての意識、助け合い精神などの理由だ。


日本語版解説も参考になる

日本語版解説も参考になる。解説者兼監修者の小林弘人さんは日本版「ワイアード」誌編集長だった経歴を持ち、ITメディア分野で活躍している人とのことだが、この解説もさすがと思わせる内容だ。

単にこの本の内容を紹介するだけでなく、著者クリス・アンダーソンの前著「ロングテール」の紹介や、クリス・アンダーソンが編集長を務めるワイヤード誌の紹介、無料で電子版を公開するという前代未聞のこの本の販売方法が紹介されている。

ロングテール(アップデート版)―「売れない商品」を宝の山に変える新戦略 (ハヤカワ新書juice)ロングテール(アップデート版)―「売れない商品」を宝の山に変える新戦略 (ハヤカワ新書juice)
著者:クリス アンダーソン
販売元:早川書房
発売日:2009-07
おすすめ度:3.0
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フリーミアムの考え方は、この本の売り方にも取り入れられており、ハードカバーが発売された2009年7月に電子版をKindle向けに無料で配布したり、クリス・アンダーソン自身が朗読しているオーディオブックも無料でiTunesMusicStoreで配布されている。

Free Podcast







筆者も早速iTunesMusicStoreでダウンロードしてみた。16編+プロローグ、付録など21編に分かれており、章によってはダウンロードに時間が掛かるが、ダウンロードが集中しているのかもしれない。

全部聞くと8時間くらい掛かりそうだが、現在聞いている"The Snowball"(ウォーレン・バフェットの伝記。全部聞くのに30時間以上掛かる)が終わったら、聞き始めてみる。

The Snowball: Warren Buffett and the Business of LifeThe Snowball: Warren Buffett and the Business of Life
著者:Alice Schroeder
販売元:Bantam
発売日:2008-09-29
おすすめ度:4.5
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日本語訳もわかりやすい

構成も良くできていると思うが、訳もわかりやすい。頭にスッと入る訳である。

同じような時期に出た「ブラック・スワン」は長時間掛けて読んだにもかかわらず、結局何が言いたいのか理解できず、あらすじ掲載を断念したが、この本は非常にわかりやすい。

ブラック・スワン[上]―不確実性とリスクの本質ブラック・スワン[上]―不確実性とリスクの本質
著者:ナシーム・ニコラス・タレブ
販売元:ダイヤモンド社
発売日:2009-06-19
おすすめ度:3.5
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いくつか参考になった事例を簡単に紹介しておく。

★モンティ・パイソンはYouTubeの違法映像に業を煮やし、公式高画質映像をYouTubeで無料公開したところ、アマゾンのDVD売り上げでベストセラーとなった。



★フリーの歴史1 ジェロ(Jell-O"、ゼリー)はジェロを使ったデザートレシピの本を無料で各家庭に配ることによって需要をつくりだした。1902年のことだ。

★フリーの歴史2 キング・ジレットは安全カミソリを無料で配った。そして替え刃を売って大きなビジネスとした。

★ペニーギャップ たとえ1セントでも有料とした途端に消費者の手は止まる。「心理的取引コスト」と呼ばれるが、1セントだと買おうかどうしようか考える必要があり、それがブレーキになる。マイクロペイメントのような簡単な支払い方法でも支持は得られないという。

★マイクロソフトは中国での不正コピーを見逃していた。1998年にビル・ゲイツはワシントン大学で、次のように言ったという。「中国では1年に300万台のコンピューターが売れているにもかかわらず、人々は私たちのソフトウェアにお金を払ってくれません。

でも、いつの日か払ってくれるようになるでしょう。だからどうせ盗むならば、わが社の製品を盗んで欲しい。彼らがわが社の製品に夢中になっていれば、次の10年で私たちはお金を集める方法を考え出せるはずです。」

★グーグルでは「これは儲かるか?」という平凡な質問から始めたりはしない。純粋なデジタル世界にいる企業にとっては、そのアプローチは筋が通っているという。

★グーグルはコロンビア川沿いの水力発電所の近くに巨大データセンターを建設し、再生可能エネルギーによるデータセンター運営を進めている。壊れるまでの累積電力料金の方がマザーボードの価格より高いのだと。

★クレイグズリストは13年間でアメリカの新聞社の株価を300億ドルも減らした張本人。

★プリンスは2007年のロンドン公演の前に、「プラネット・アース」という新作アルバムのCDを無料でロンドンの新聞の「デイリーメール」に付けて280万部配った。100万ドルという特別の著作権料でも新聞社は70万ドルの損をしたが、これにより新聞社はブランド力を高めたという。

Planet EarthPlanet Earth
アーティスト:Prince
販売元:Sony
発売日:2007-07-23
おすすめ度:4.0
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プリンスのロンドン公演は全21回分が売り切れで、プリンスは460万ドルの著作権料を諦めることで、2,340万ドルの公演収入を得たのだという。

★UCバークレーの物理学のミューラー教授の授業は、YouTubeのUCBerkeleyの専用チャンネルで公開されている。大学の物理学の講義だが、"Physics for future president"と題されているるだけあって、日常の出来事をわかりやすく解説している。

筆者の一番好きで、最も人気の高い授業は次だ。



最初の隕石が直撃するトヨタのコマーシャルには驚かされる。

これらの有名大学の授業料は年間数万ドルだが、講義内容をYouTubeに公開することによって、優秀な学生を惹きつけたいという考えのようだ。またミュラー教授の本もベストセラーになっている。

Physics for Future Presidents: The Science Behind the HeadlinesPhysics for Future Presidents: The Science Behind the Headlines
著者:Richard A. Muller
販売元:W W Norton & Co Inc
発売日:2009-09-21
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現在この本を読んでいるが、たとえば9.11の犯人がどうやって空港警備をくぐり抜けたかとか、燃料を満載した飛行機がどれだけの破壊力があるか、原子爆弾テロなど、興味を引く話題で物理をわかりやすく説明していて面白い。

★中国のミュージシャンは不正コピーをコストのかからないマーケティング手法と受け止めている。レコード会社にとっては大問題だが、アーティスト自身にとっては、ファンを拡大し、それによりメディアやCMに出演することで収入が得られ、コンサートツアーも成功するからだ。中国では不正コピーが95%を占めるという。

★ブラジルはオープンソースの利用で、世界の先頭にたっている。リナックスによるATMは世界最初で、政府・学校もオープンソースに切り替え中だ。「マイクロソフト・オフィスとウィンドウズのライセンスをひとつ取得するためには、ブラジルは60袋の大豆を輸出しなければならない」と政府の責任者は語ったという。


記憶に残る具体例も満載で、楽しく読める本だ。英語に自信のある人は。iTunesMusicStoreで著者自身が吹き込んでいる無料オーディオブック(Podcast)をダウンロードして聞くのも良いだろう。

大変参考になる本だった。


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Posted by yaori at 13:04Comments(0)

2010年01月04日

あたまにスッと入るあらすじ掲載記事一覧を更新 掲載記事は532件!

掲載記事一覧の更新が遅れていたが、年末年始の休みを使って、2009年12月31日現在の掲載記事一覧をマイクロソフトのSkyDriveにアップした。

最新掲載記事一覧は、右のアイコン、または次の「あたまにスッと入るあらすじ記事一覧」アイコンをクリックしてダウンロード願う。



一覧表はエクセル表なので、著者別のソートなども可能。URL付きなので、興味ある本が見つかれば、URLをクリックすればあらすじページが表示される。

このブログの掲載記事は532件になった。あらためて掲載記事一覧を読み返してみると、本は知識の宝庫であることが実感できる。

ブログトップの検索窓とともに、掲載記事一覧も是非活用願いたい。


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2009年05月29日

Google Mapストリートビュー 削除画像が復活

Google Mapのストリートビューで、車のナンバープレートが写っていたため、昨年9月に自宅の画像を削除してもらったが、Googleの新技術でナンバープレートにぼかしを入れるようになったので、筆者の自宅の画像も復活している。

Google Map






どうやら今年の初め、冬に撮った写真のようだ。

筆者のハリアーハイブリッドが写っているが、こんどはナンバープレートにぼかしがはいっていて読めない。

あたらしい画像に入れ替えて、すべて復活したのだと思う。

ピッツバーグで住んでいた家も2台車が写っているが、ナンバープレートは読めないようになっている。アメリカの画像は以前と変わっていない。たぶん画像を入れ替えたのは日本だけなのだろう。

google map pittsburgh






ナンバープレートをぼかすプログラムを追加したのだろうが、それにしてもGoogleはやることが早い。さすがだと思う。

参考になれば次クリック投票お願いします。





2008年9月19日初掲:

Google Mapのストリートビュー機能が始まって、1ヶ月強がたった。

始まった時にそのすごさをブログに書いたが、実は日本の自宅については車のナンバープレートが読めるというプライバシーの問題があった。

そこでGoogle Mapストリートビューのヘルプで問題を報告してみた。

Streetview help1





このストリートビューヘルプをクリックすると次の画面が現れる。

Streetview help2





これに記入して送信すると、次のような確認メールが届く。

Google の記録によりますと、お客様から Google マップのストリートビュー
に、公開に適さない画像があるというご連絡を頂戴いたしました。 現在、ご報
告いただいたコンテンツを確認しております。確認が取れ次第、画像を削除する
など、適切に対応させていただきます。 ご協力のほどよろしくお願いいたしま
す。 今後ともよろしくお願い申し上げます。

Google マップ チーム

そこで削除してもらったのが次の画面だ。

Streetview





自分の家の住所を入れると、ストリートビュー表示されるのが「この画像はなくなりました」というメッセージだ。

自分の家の画像がなくなるというのは、ちょっと寂しい気もするが、人の顔はスクランブルをかけて自動的にぼかしが入るが、車のナンバープレートの数字だけを消すという芸当はできなかったようだ。

たぶんこれからポツポツと歯抜けが出てくると思う。

もし自分の家で、不適切な画像があればGoogleに連絡すると良い。数日で削除されると思う。


参考になれば次クリック投票お願いします。



  
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2009年04月23日

ウェブ進化論再読 クラウドコンピューティングとは「ネットのあちら側」

最近クラウドコンピューティングが注目されている。

筆者は以前インターネット企業に出向していたが、数億円掛けた自前のサーバー群を毎月数百万円もハウジングコストが掛かるデータセンターに置いて、ハードやソフトの償却と保守料、システム監視コストなどを入れると毎月多大なコストがかかったものだ。

しかもサーバーのCPUはすぐに旧式になり、何千万円も掛けてXEONベースのブレードサーバーに入れ替えても、最新のパソコンのQuad-Coreなどがより高性能になってきて、旧式になってしまう。

もし自前のシステムを持たずに、クラウドコンピューティングでシステムを構築できれば、システムコストは大幅にコストダウンできると思う。

クラウドコンピューティングのことは、2006年の「ウェブ進化論」で梅田望夫さんが、「あちら側」と呼んで説明しているので、再度「ウェブ進化論」のあらすじを掲載する。

今読んでも決して陳腐化していない。是非「ウェブ進化論」の再読をおすすめする。

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)
著者:梅田 望夫
販売元:筑摩書房
発売日:2006-02-07
おすすめ度:4.5
クチコミを見る


atamanisutto前書き: 著者の梅田望夫(うめだもちお)さんはブログを『究極の知的生産の道具』と呼んでいるが、筆者も同感である。

このブログは筆者の備忘録も兼ねて作成しているが、この本についてはあまりに参考になることが多すぎて、備忘録が長くなりすぎてしまった。

以下のあらすじは元々非公開版としていたものだ。元のあらすじの1.5倍くらいのボリュームがある。

あらすじを公開、非公開と2種類つくったのは、はじめてだ。それほど参考になるということである。

間違いなく、ベストセラーになるだけのことはある中身の濃い本である。もし読んでいない方がいたら、新書の定価の740円以上の価値があること、筆者が請け合います。



以下は2006年3月の初掲載当時の記述。

昔の仕事仲間、日本最大の間接資材のネットショップMonotaROモノタロウ瀬戸社長に最近読んだ本で一番良いとすすめられて読んだ。

今世界のインターネット業界でなにが起こっているのか、どんな構造変化が起こっているのかよくわかる。

著者の梅田さんのブログによると発売して4週間で15万部売れているそうだ。筆者の近くの書店でも売り切れだったので、アマゾンで買った。まさに爆発的な売れ行きである。

筆者は米国駐在時代の1999年にインターネットの威力と将来性に驚き、会社・上司の了解を得て、それまで鉄鋼原料のトレーダーのキャリアから、インターネット関連業界に移った。

モノタロウの瀬戸社長は米国駐在からダートマスのMBAを取った異色の存在で、元々は鋼材トレーダーだが、鉄鋼原料を経て、インターネット関連業界に移った仲間だ。

筆者がインターネット関連業界に移った理由は、まさにPCスクリーンのあちら側に『未来』が見える様な気がしたからだった。

当時、ソニーの出井さんは『インターネットは(恐竜を死滅させたと言われる)巨大隕石だ』と表現していた。

日本に帰国してそれから5年余りたち、出張もせず東京で過ごしていると、アメリカや世界の情勢にどうしてもうとくなるが、インターネットで、いわば第2の隕石が落ちた様な変化が起きていることを思い知らされたのがこの本だ。

著者の梅田望夫さんは、シリコンバレー在住のコンサルティング会社ミューズ・アソシエイツ代表。梅田さんご自身のブログMy Life Between Silicon Valley and Japanもある。

梅田さんが常時寄稿しているCNETや、asahi.comITPROなどが梅田さんとのインタビューを載せているのでこれも参考になる。


現状分析がわかりやすく、かつ鋭い

まずは現状分析だ。現在のウェブ社会を次の3大潮流で説明している。

1.インターネット 
リアル世界に対するバーチャル世界・経済の出現。文章、映像、動画等、知的財産をなんでもネットに置き、不特定多数が見られ、何百万件でも検索して網羅できる。

国境等の物理的限界はなく、コミュニケーションも瞬時に行える。全世界の『不特定多数無限大』の人がはじめて経済ベースで捉えられるようになった。

2.チープ革命 
ムーアの法則は半導体の集積度が18ヶ月で倍増するというものから、IT製品のコストは年率30−40%下落すると広義に解釈されている。

3.オープンソース 
世界中の200万人の開発者がネット上でバーチャルな組織をつくり、イノベーションの連鎖で、最先端ソフトウェアをつくっていく世にも不思議な開発手法。


ネット界の3大法則

上記3大潮流が相乗効果を起こし、次の3大法則を生み出した:

1.神の視点からの世界理解 
Yahoo!などのネットサービスは1,000万人もの人にサービスを提供し、しかも一人一人の行動を確実に把握できる。膨大なミクロの情報を全体として俯瞰(ふかん)でき、今なにが起こっているのかがわかるのだ。

まさにお釈迦様、神のみぞ知るということが実現している。

2.ネット上につくった人間の分身がカネを稼いでくれる新しい経済圏ネット上に自分の分身(ブログやウェブサイト)をつくると、分身がネットでチャリンチャリンと稼いでくれる世界が生まれた。

自分は寝ていても儲かるしくみができる。奥さんもサイトを持っていれば、ダブルインカムならぬ、クアドラプルインカムも可能なのだ。

3.無限大 x ほぼゼロ = なにがしか(Something)
『不特定多数無限大』の人とつながりを持つためのコストはほぼゼロとなった。

不特定多数無限大の人々から1円貰って1億円稼ぐことが可能となったのだ。


これら3大潮流と3大法則が引き起こす地殻変動で、想像もできなかった応用が現実のものとなった。その本質がGoogleである。


バーチャル世界政府のシステム開発部門Google

梅田氏のGoogleに勤める友人は『世界政府というものが仮にあるとして、そこで開発しなければならないはずのシステムは全部Googleでつくろう。それがGoogle開発陣のミッションなんだよね。』と真顔で語っていると。

梅田氏はグーグルはシリコンバレーの頂点を極めるとてつもない会社だと確信しているそうで、Googleのすごさを次の観点から説明している:

1.世界中の情報を整理し尽くす

グーグルは自らのミッションを『世界中の情報を組織化し、それをあまねく誰からでもアクセスできるようにすること』と定義している。

全世界のウェブサイトの情報を集めるグーグル検索、全世界のニュースを優先順位を付けるグーグル・ニュース、過去出版されたすべての本をデータベース化するとブチ上げ、著作権者ともめているグーグル・ブックサーチ。

個人のメール内容を判断して最適な広告を載せるGメール。グーグル・マップグーグル・アース等々。

グーグルのサービスすべてを通して言えるのが、情報を人手を使わずコンピューターによって自動的に分析して組織化するという基本思想だ。人が扱わないのだから個人のメール内容などもプライバシーの問題はないという理屈だ。


2.構想を実現するために情報発電所とも言うべき30万台から成る巨大コンピューターシステムを、ネットの『あちら』側に構築したこと

すべての言語におけるすべての言葉の組み合わせに対して、最も適した情報を対応させる。これがグーグル検索エンジンの仕事だ。

グーグルの判断基準は、ウェブサイト相互に張り巡らされるリンクで判断する『民主主義』である。

全世界を英語圏のシステム一本で運営するための自動翻訳機能も、最適の情報を対応させるための必要機能だ。

そのためにグーグルの30万台ものコンピューターが日々稼働し続けている。


3.巨大コンピューターシステムを圧倒的な低コスト構造で自製したこと
オープンソースを最大限に利用して、30万台ものリナックスサーバーを自社でつくり、運営している

この30万台というのはCPUを備えたマザーボードの推定数で、最近はブレードサーバーというマザーボード差し込み式の、昔のサーバーの何十台分もの機能があるものも出ているが、それにしても30万台というのは尋常な数ではない。

拡張性に優れるスケーラブル・ストラクチャーをつくり、処理能力を上げるためにはサーバー数を増やせば良い構造とし、一部が故障しても全体としては動くしくみを取り入れている。


4.検索連動型広告『アドワーズ』に加え、個人サイトに自動的に広告配信する『アドセンス』を実装し、個人にまで広告収入が入る『富の再配分』のメカニズムを実現したこと

筆者も一時『アドセンス』をこのブログに貼り付けていたが、たしかに個人サイトでもグーグルから自動配信される広告表示で、チャリンチャリンとお金が落ちる感覚を体験できた。

インターネット広告業界では、ネット専業代理店が力を持っており、電通・博報堂など大手広告代理店が相手にしない小さなクライアントまで広告の裾野を広げているが、それにしてもアドセンスで配信される情報起業の様な小企業などは到底カバーできない。

アドセンスは、英語圏の先進国の広告報酬設定なので、先進国では小遣い程度でも、途上国では生計が立てられる収入となりうる。


5.多くが博士号を持つベスト・アンド・ブライテスト社員5,000人が情報共有する特異な組織運営

グーグルは株式公開したとはいえ、創業者のセルゲイ・ブリンとラリー・ページが一般株主とは違う種類の株式を持つ特異な所有形態である。これはマイクロソフトによる敵対的買収や経営介入を防ぐためだという。

グーグルには経営委員会などの経営組織はなく、5,000人の社員全員が情報を共有し、情報が『自然淘汰』される。

博士号を持つ社員も多いが、それぞれ仕事の20%は自分のテーマで研究することを求められる。アイデアは社内で共有され、平均3人の小組織がアイデア実現のスピードを競争するのだ。


6.既に存在するネット企業のどことも似ていないこと。

強いて言えばYahoo!はメディア、グーグルはテクノロジーであると。

Yahoo!は人間が介在してサービスの質が上がるなら、人手を使うべきだという考えである。


それぞれの論点につき興味深い分析がなされており、もっと詳しく説明したいところだが、それだと『あらすじ』でなくなってしまうので、上記の通り切り口だけ紹介しておく。


いくつか印象に残った点を紹介しておこう。


『こちら側』と『あちら側』

パソコンは『こちら側』。機能を提供する企業のサーバーやネットワークは『あちら側』だ。どちらかというと日本のIT企業はこちら側に専念し、アメリカの企業はあちら側に注力している。

これを象徴する出来事が昨年起こった。売上高1兆円のIBMのパソコン部門がレノボに2、000億円以下で売却され、売上高3,000億円のグーグルの公開直後の時価総額は3兆円で、いまは10兆円だ。

グーグルの動きはすべてあちら側の動きだ。


『恐竜の首』と『ロングテール』

ロングテールについてはアマゾンでは専門書と古典的名著が売れる例で紹介したが、リアル店舗では返品の憂き目にあう『負け犬』商品がアマゾンでは売上の1/3を占める。

パレートの80:20の法則で、従来は20%の売れ筋商品=『恐竜の首』に注力すれば良かったのが、インターネットにより陳列・在庫・販売コストを気にしなくて良くなった今、残り80%の『負け犬』もちりも積もれば山となることが可能となった。

グーグルのアドセンスは個人でもクレジッドカード払いで広告出稿でき、無数にある個人サイトに広告を掲載することができる。

梅田さんの言葉で言うと『ロングテール』、筆者の言葉で言うと『バンカー・ツー・バンカー』が、巨大なビジネスとなっている。


Web 2.0

今までのインターネット企業や機能をWeb 1.0と呼び、開発者向けにプログラムしやすいデータ、機能(API=Application Program Interface)を公開するサービスをウェブサービスと呼ぶ。

グーグルの台頭にYahoo!が危機感を強め、自社の検索エンジンを導入することを決定したのが、2002年から2003年にかけてであり、ちょうどこのころインターネットの先駆者たちは、Web 2.0を研究しだした。

(筆者はこのWeb 2.0というのが、どうもよく理解できなかったが、筆者のたとえでいうと、いわばひもでつないでいた鵜飼いの鵜(個人サイト)を、ひもなしの不特定多数の漁船群(企業サイト)に変え、網元が一挙に魚を捕る量を拡大し始めたという感じではないか。)

アマゾンアソシエイトで一個一個の商品にリンクをつけて販売するのが、従来からのWeb 1.0。アマゾンの商品データベースへのアクセスを認め、アマゾンが卸売りのようになり、専門サイト、小売りがアマゾンの商品を販売するのを支援するのがWeb 2.0。

もちろんアマゾンの全世界単一システムに巨大な負荷が掛かるはずだが、それをこなすシステム増強をアマゾンは『あちら側』で行って、Web 2.0を可能とのだろう。

単にアマゾンが配信する次のようなダイナミックリンク広告ではなく、ECサイト全体をアマゾンのウェブサービス(商品データベース)を使って作り上げるやり方で、インターフェースを公開することにより、開発を不特定多数の外部開発者に依存する手法だ。

ウェブサービスにおけるアマゾンの利益率は15%なので、今やアマゾン本サイトよりもウェブサービスの方が利益率が良くなっており、自己増殖的に増えていると。




ブログと総表現社会

米国ではブログ数が2,000万を越え、日本でも500万を越えた。ブログの増殖の理由は

1.量が質に変化したこと
  いくら母集団が玉石混淆でも、母集団が大きくなるとキラリと光るブログが現れてくる。500万のたとえ0.1%でも5、000である。

いままでネットで情報発信していた人たちはマスコミやネット企業関係の圧倒的少数だったが、絶対多数の声なき声が表現する場を得たのだ。

2.ネット上の玉石混淆問題を解決する糸口が技術の進歩で見えつつある。それは検索エンジンの進歩であり、ブログの持つトラックバック、RSS(Really Simple Syndication)、更新情報送信等の機能だ。

まだまだコンテンツの玉石混交問題は解決されていないが、Yahoo!など検索エンジンがトップにランクするブログはやはりそれなりに支持されている。ここでも自然淘汰がおこっているのだ。


知的生産の道具としてのブログ

梅田さんはブログこそが究極の知的生産の道具ではないかと感じ始めているそうだ。
ブログの効用とは:

1.時系列にカジュアルに記載でき、容量に事実上限界がない
2.カテゴリー分類とキーワード検索ができる
3.てぶらで動いてもインターネットへのアクセスがあれば情報にたどり着けること
4.他者とその内容をシェアするのが容易であること
5.他者との間で知的生産の創発的発展が期待できること

筆者も同感である。ただブログは出典を明らかにして、リンクを貼るという著作権上の配慮は重要である。


マス・コラボレーション

オープンソース、マス・コラボレーションの例としてウィキペディアを挙げている。ウィキペディア・プロジェクトは2001年1月にスタートしたので、5年強の歴史だが、既にブリタニカの65,000項目に対して、英語では870,000項目にも及ぶ百科事典が既にできあがり、200にも及ぶ言語毎に百科事典がつくられ、日本語版でも16万項目以上に揃ってきた。

誰でも書き込み、修正できるが、それでいてかなりの水準に達している。


不特定多数無限大は衆愚か?

梅田さんはWisdom of Crowds、群衆の英知、日本語訳「『みんなの意見』は案外正しい」を紹介している。仮説ではあるが、ネット上で起こっているオープンソース、コラボレーション、バーチャル開発の質の高さを考えると、不特定多数無限大の人が参加する知的プロジェクトは成功すると言えるのではないかと思う。

「みんなの意見」は案外正しい「みんなの意見」は案外正しい
著者:ジェームズ・スロウィッキー
販売元:角川書店
発売日:2006-01-31
おすすめ度:4.0
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羽生善治名人の高速道路論

梅田さんは羽生名人と親しいそうだが、羽生名人はITがもたらした将棋界への影響として、「将棋が強くなるための高速道路が一気に敷かれたということです。でも高速道路を走り抜けた先では大渋滞が起きています」と語ったそうだ。

羽生名人の言葉によると奨励会の2段くらいまでは、一気に強くなるが、それから上は人間の能力の深淵にかかわる難問であり、これを抜けることが次のブレークスルーに繋がる。

羽生善治さんの「決断力」も参考になるので、こちらのあらすじも参照して欲しい。

決断力 (角川oneテーマ21)決断力 (角川oneテーマ21)
著者:羽生 善治
販売元:角川書店
発売日:2005-07
おすすめ度:4.5
クチコミを見る


以上2006年に書いたあらすじを見直したが、あらためてこれを読み返しても梅田さんの書いておられることが全然新鮮味を失っていないことがよくわかる。

既に読んだ人も、まだ読んでいない人も、このあらすじを参考にして本を手にとって頂きたい。


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Posted by yaori at 12:53Comments(0)TrackBack(1)

2009年01月09日

楽天の研究 これぞホントの楽天研究(山田善久さんの消息)

2009年1月9日追記:

12月に山田さんの経営するネインを訪問したときに名刺にメッセージを書いて残していったら、山田さんより次のメールを頂いた。


元楽天の山田善久と申します。

ブログで私のことを取り上げて頂いたり、また先日はお店にもお越し頂いたそうで、ありがとうございます。

ブログにも書いておられる通り、昨年の12月14日にフジテレビの「新報道2001」という番組で私がドーナツショップを始めたことが13〜14分ほど取り上げられ、それ以降、お店のお客様もかなり増えています。また、AERAにも同様の記事が掲載されました。

このように周囲からは不思議なことを始めたと見られていますが、自分としてはさほど違和感もなく、結構楽しく仕事をしています。

またお近くにお越しの際にはお店にお立ち寄り頂ければ幸いです。

今後ともよろしくお願い致します。簡単ながら、お礼まで。

山田



ネインは年中無休なので大変だと思うが、大人気のドーナッツショップになっているので、山田さんには体に気をつけて是非頑張って欲しい。

ケーキ一個が400円前後もする時代なので、スペシャルティドーナッツの200−300円のほうがいろいろなバラエティもあって楽しめると思う。筆者も今度は事前に電話で予約して、持ち帰りで家族用にネインのドーナッツを買おうと思う。

首都圏に住んでおられる方は、地下鉄の赤坂駅の4番出口からすぐのネインのドーナッツをためされることを是非おすすめする。



2008年12月25日追記:

12月14日(日)にこのブログへのアクセスが急増した。朝8時に一挙に1時間400人以上がアクセスし、「山田善久」で検索して訪問する人がその日は1、000人以上にも達した。

実はGoogleで「山田善久」で検索すると、このブログがトップに表示されるのだ。

たぶん日曜日朝8時のテレビで紹介されたのだろうと思っていたが、このブログでも紹介している山田さんのドーナッツショップ ネインに一度行って見なければならないと感じていた。

本日赤坂の取引先に行く機会があったので、朝ネインに行って、ドーナッツを食べてみた。山田さんはおられなかったが、毎日朝一と昼には店にいるとのこと。

12月14日(日)08:00のフジテレビの新報道2001で元楽天の山田さんがドーナッツショップを開いたことが報道されたため、お客さんも問い合わせも急増しているとのことだった。

これがお店の外見だ。中にイートインのテーブルといすもある。

neynmaccha and montblanc

左が抹茶あん、右がモンブラン。抹茶あんはドーナッツの中にあずきあんが入っている。

mont blancberry

左がモンブラン。筆者はこれが一番気に入った。上には栗ペーストとくるみなどが載っており、大変おいしい。右がベリーノエルだ。各種ベリーとカシスも加えているという。

ネインのホームページに載っていたマンゴーのドーナッツを食べたかったが、これは期間限定で現在はフィッグに変わっているとのこと。

ドーナッツもおいしいが、コーヒーが大変気に入った。朝食を抜いていったので、ドーナッツを3個食べてコーヒーも2杯飲んでしまった。ドーナッツ3個とコーヒーで1,000円ちょっとだった。毎日食べるわけにはいかないが、たまには良いと思う。

朝から注文が殺到しており、販売量は一人12個までと制限しているそうだ。

地下鉄赤坂駅の4番出口からすぐ。是非ネインのドーナッツをためすことをおすすめする。


2008年9月16日追記:

たにたけしさんから次のコメントを頂いた。

2008/09/15 22:36 投稿者:たにたけし
こんにちは、初めて拝見させていただきました。
山田さんの新しい事業はこちらです。
9月からスタートされたので検索件数が増えたのではないかと思います。

http://www.neyn.com/

美味しいですよ。


前楽天の山田善久さんが赤坂でスペシャルティドーナッツショップNeyn(ネイン)を経営されていたとは知らなかった。

楽天の中村晃一さんのブログにも紹介されている。

ドーナッツショップとは三木谷さんの楽天創業時のエピソードを思い出させる。

三木谷さんと創業メンバーの本城さんはECモールの他、スペシャルティベーカリー(アメリカで有名なAu Bon Pain?)、地ビールチェーンなどのビジネスを検討したという。

東京ではKrispy Kremeドーナッツが買うのに約1時間待ちと異常な人気だが、英国ではスーパーのTESCOでも売っている普通のドーナッツだ。アメリカがオリジンだが、アメリカでも特に人気だったわけではない。

その意味では山田さん達の目の付け所は良いと思う。

ドーナッツはダンキンとミスタードーナッツの2つのチェーンがダントツで、その他は追従できていないので、Krispy Kremeなどが人気が出ているが、ネインの様なさらに高級なスペシェルティドーナッツの可能性もあるかもしれない。

ネインのサイトはユニークな作りのサイトだ。ドーナッツショップとしては、一個250−300円と高いが、ドーナッツも大変凝っている。

Neyn





たしかにおいしそうだ。

山田さんの消息がわかってよかった。ドーナッツもおいしそうなので、是非近々ネインも行ってみようと思う。

たにたけしさん有り難うございました。


2008年9月15日追記:

「山田善久」で検索して当ブログを訪問する人が急増して、毎日百人以上にのぼっている。Googleで「山田善久」で検索すると、当ブログがトップ表示されるからだ。

楽天の三木谷さんのいわば右腕であった山田善久前楽天トラベル社長が、今どこにおられるのか知らないが、急に1日百人以上の訪問者があるということは、何か次の活動を始めているのかもしれない。

筆者も一度まだ楽天が中目黒にいたころに山田さんにお会いしたことがある。たしか三木谷さんの興銀の1年先輩で、ハーバードのMBA仲間だったはずだ。当時は楽天のNo.2というポジションだった。

紳士的で物静かな人という印象を受けたが、あるいは第一印象が間違っているのかもしれない。

現在どこにおられるのかわからないが、まだ若いので、新しい事業を仕込んでいるところなのだろう。

その山田さんも含めて、六本木ヒルズにいた頃の楽天の様子がよくわかるので、「楽天の研究」を再掲する。


2005年8月20日初掲:

楽天の研究―なぜ彼らは勝ち続けるのか楽天の研究―なぜ彼らは勝ち続けるのか
著者:山口 敦雄
販売元:毎日新聞社
発売日:2004-12
おすすめ度:4.0
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今回のあらすじは長いです。要点は次の通りです:

1.楽天は三木谷さんのワンマン会社ではなく、それぞれ専門を持つメンバーの集合として見るべきである
2.楽天は単なるIT企業ではなく、日本でトップクラスのM&Aのプロ集団
3.楽天の営業はドブ板から始まった。今は問い合わせ中心だが、2分以内に電話が来るのが特徴
4.楽天のシステムは自前主義で、案件毎にプロデューサーが企画、システム開発から運営まで担当する
5.M&Aを成功確率を上げる手段として使い、利益1,000億円、会員6,000万人を目指す

“教祖”降臨―楽天・三木谷浩史の真実“教祖”降臨―楽天・三木谷浩史の真実
著者:児玉 博
販売元:日経BP社
発売日:2005-07
おすすめ度:3.5
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この前の教祖降臨が三木谷さんの経歴中心だったので、もっと楽天のビジネスの研究をするために2004年12月発刊のこの本を読んだ。

この本は毎日新聞の『週刊エコノミスト』の記者が書いているが、次の楽天観に基づき主要メンバーへきっちり取材し、それぞれのメンバーのストーリーを通じて楽天の強さがよくわかる構成となっている。

1.楽天を、三木谷氏のワンマン企業とみるのではなく、それぞれ専門分野を持つ複数の人たちの集団として見ること。

2.現在の楽天を、単なるIT企業というよりM&A(企業買収)のプロ集団と見ること。

いくら三木谷さんが傑出した経営者とはいえ、あれだけの会社を一人で経営できるはずはない。経営システムの強さが楽天の強みである。

この本で取り上げられている主要メンバーは次の通り。

楽天の創業メンバー6名。三木谷さんの他、三木谷夫人(下山晴子氏、創業時は経理・広報担当)、本城慎之介氏(システム開発担当)、増田和悦氏(システム開発担当)、杉原章郎氏(営業担当)、小林正忠氏(営業担当)。

三木谷夫人は興銀時代に三木谷氏と社内結婚、楽天創業前はリーマンブラザース証券に転職していた。

本城氏、杉原氏、小林氏は慶応湘南出身で、楽天には20代で参加。増田氏は技術畑で三木谷氏と同年齢。

M&Aプロ集団として後からのメンバー3名。興銀時代の1年先輩山田善久氏、興銀での同期高山健氏、社外取締役としてM&A弁護士の草野耕一氏。

さらにDLJディレクト証券から國重惇史氏。東大法学部卒ながらリクルートでISIZEを立ち上げ、システム開発プログラマーとして楽天に入社し頭角を現した吉田敬氏。

この本では取り上げられていないが、ポータル・メディアカンパニー担当取締役の森学氏。社外取締役はUSENの宇野社長、CCCの増田社長、エイベックスの依田氏という豪華な顔ぶれである。

楽天の朝会

この本のストーリーは楽天グループの月曜8時の朝会から始まる。2004年11月8日の朝会で三木谷社長は全部署で対前年比100%の成長目標と、各事業部の格付けを行うこと、野球参入を発表。

その後各事業部の責任者が入れ替わり立ち替わり事業報告を行う。これは最大90秒と決められており、時間が過ぎると「チン」とベルが鳴り、時間の無駄が全くない。
楽天らしい朝会だ。

成功のコンセプト

それにもまして楽天らしいのが、オフィスの至る所に貼られている成功のコンセプト5箇条だ。

世界1のインターネット・サービス企業

1.常に改善、常に前進
人間には2つのタイプしかいない。
「GET THINGS DONE」様々な手段をこらして何が何でも物事を達成する人間
「BEST EFFORT BASIS」現状に満足し、ここまでやったからと自分自身に言い訳する人間。
一人一人が物事を達成する強い意志を持つことが重要。

2.Professionalismの徹底
楽天はプロ意識を持ったビジネス集団である。勝つために人の100倍考え、自己管理の元に成長していこうとする姿勢が必要。

3.仮説→実行→検証→仕組化
仕事を進める上では具体的なアクション・プランを立てることが大切。

4.顧客満足の最大化
楽天はあくまで「サービス会社」である。傲慢にならず、常に誇りをもって「顧客満足度を高める」ことを念頭に置く。

5.スピード!!スピード!!スピード!!
重要なのは他社が1年かかることを1ヶ月でやり遂げるスピード。勝負はこの2〜3年で分かれる。

三木谷さんは2000年の毎日新聞のインタビューに答えて、「ビジネスで失敗したことがない」と答えたそうだが、よくわかる。変な話で、結果論のようだが、実は強運はビジネスマンの成功の最大の要因だと思う。

楽天のジャスダック上場はITバブル崩壊直前の2000年4月。サイバーエージェントは3月、ライブドアは同じ4月の上場だ。株価は急上昇して時価総額6000億円となったあと急落し年末までに10分の1となる。

上場して得た500億円という資金を使ってM&Aを展開し、Infoseek、ライコス、旅の窓口やDLJディレクト証券を買収してワンオブゼムから抜き出し、時価総額も1兆円を越えた。

楽天のシステム:本城慎之介氏の証言

創業メンバーの本城慎之介氏は、慶応湘南の大学院の時に三木谷氏と出会い、行動を一緒にする。

小説 日本興業銀行〈第1部〉 (講談社文庫)小説 日本興業銀行〈第1部〉 (講談社文庫)
著者:高杉 良
販売元:講談社
発売日:1990-10
おすすめ度:4.0
クチコミを見る


高杉良の『小説 日本興業銀行』を読んで「興銀に入って、日本の産業を元気にしたい」と思っていたところ、三木谷氏に会って「もう興銀とか、銀行、商社が日本をつくる時代は終わった。むしろ個人や中小企業が既成事実をつくることで日本を変えていくのだ」と説得され、コンサルをしていた三木谷氏のクリムゾングループに入社する。

クリムゾンは深紅であり、ハーバードのスクールカラーである。

逆転の発想

しかし4名いた従業員は独立し、三木谷氏と本城氏の2名となってしまう。コンサル業は2名では続けられないので、事業を起こすことを決め、次の3つの事業プランを検討する:

1.地ビールレストランのフランチャイズ展開
2.天然酵母のパン屋の全国展開
3.インターネットモール

当時はIBMがモール事業から撤退したところで、日本では大日本印刷とか、凸版印刷とかがやっていたが、インターネットモールは儲からないと思われていた。

しかし、みんな失敗しているからこそ、参入する余地があり、失敗の原因を分析しさえすれば、勝てると逆転の発想で進出を決意した。

1997年2月にMDM(Magical Digital Market)設立、1997年5月より開業。

失敗の原因は、みんな片手間でやっていることと、簡単にネット上でショップを開設できるシステムがないことだった。楽天はモール事業専業で、システムは自分たちでつくった。

楽天マーチャントサーバー

そのシステムをつくったのが、本城氏だ。

システムを開発しなければならないとなったときに、慶応の大学院生にシステム開発をやらせたが、ダメだった。そこで三木谷氏から「この本を読んでお前がつくれ」と言われ、『初めてのSQL』という本を読んで、1週間だけシステムの家庭教師をつけてもらい、あとは自分だけでシステム開発を始めた。

むちゃくちゃな話だが、結局完成し、ものを売る人が、ホームページ作りから受注発注まで、一人ですべてできるシステムがはじめてできた。専門家でない本城氏がつくったから、普通のユーザーが使いやすいシステムができたのだ。

ここにエキスパートとして加わったのが、理系参考書出版社にいた増田和悦氏だ。

本城氏と増田氏がシステム担当だったが、三木谷氏もふくめ創業メンバーのほとんどはUNIXサーバーが使えて、HTMLを書けた。だからシステムに関して全員で知恵を出し合えた。これが強みだったと。

本城氏は楽天の副社長になったあと、三木谷氏にならって30歳になった時に楽天をやめ、いまは教育関係の事業を始めるかたわら(公募で横浜の港北ニュータウンにある山田中学校の校長になった)、楽天の社外取締役となっている。

なぜ教育かというと、日本をもっと元気にしたいからだと。

本城氏の目から見て楽天の今後の課題は、マネジメント層をもっと育てていくことだ。

万が一なんらかの事故で三木谷氏が執務できなくなったときも、楽天として変わりなく、経営をしていけるようにしなければならない。カリスマ的で、非常に優秀な社長なので、どうしても頼ってしまう面があるが、これからはそれをしてはならないと。

楽天の営業:小林正忠氏、杉原章郎氏

システムと並んで創業時のもう一つの関門の営業はドブ板営業でこなした。そのときに活躍したのが、三木谷氏と、本城氏の慶応の1年先輩の杉原氏と小林氏だ。破格の出店料の月5万円だが、6ヶ月前払いという条件で、キャッシュフローも確保するという優れた作戦だった。

小林正忠氏は慶応大学卒業後、大日本印刷に就職したが、同期の杉原章郎氏が起業したホームページ制作のアールシーエー(有)で三木谷氏を手伝っているうちに、杉原氏とともに営業として引っ張られる。

三木谷氏より「絶対に出資しろ」と言われて、資本金の2,000万円の一部を貯金をはたいて出資した6人のうちの2人だ。

最初は日経流通新聞の新製品の売れ筋欄を見てアポイント取りの電話をしていたが、その後、メインバンクの住友銀行の協力を得て、取引先を紹介してもらうようになって成果が上がるようになった。銀行の協力は絶大であったと。

そのうち問い合わせが増えたので、飛び込み営業はやめ、興味のある人に対応する営業に変え、資料請求のフォローアップをしている。

楽天では今でもツー・ミニッツ・コールをやっている。ウェブ経由で資料請求がくると、2分以内に電話をかけて営業するのだ。現在ではよく請求がくるから10秒以内では電話していると。

すぐに電話が掛かってくるから、お客は驚き、テンションが上がった状態で営業ができるのだと。ドブ板のマインドが生きている。

スピード!!スピード!!スピード!!

小林氏は三木谷氏を『ビッグトーカー』だという。夢や希望を絶妙な大きさで表現できる才能を持った人であると。三木谷氏の目標設定能力こそ、楽天の成功の秘訣であると。

たとえば楽天カードを始めたとき、カード会社の常識では万人単位の会員を集めるには何ヶ月もかかると言われたが、他社が1年でやることを楽天では数ヶ月でやる手法を考えろと社内キャンペーンをはり、わずか1〜2ヶ月で1万人以上を獲得した。

社内でよく使われている言葉に「いすの足をふく」、つまり徹底的にやるということと、「Make mistake early(早めに失敗せよ)」というのがある。机上で議論するくらいなら、まず行動して誰よりも早く失敗し、その結果から解決策を考えろという意味だそうだ。

杉原章郎氏は政治家志望だったが、ホームページ制作会社アールシーエーを起業、三木谷氏と知りあう。本城氏と増田氏がつくったRMS(楽天マーチャントサーバー)を見て驚き、楽天に入社を決意する。

もともと政治家志望だったので、ドブ板は性に合っていると。

現在杉原氏は楽天ブックス担当。楽天ブックスは日販と組んだ本の直販。自前で在庫を持たず、日販の在庫をフルに利用できるので、高価な専門書でもすぐ手にはいるのが特徴である。

日本の書籍販売サイトではAmazonがダントツの月間利用者数11百万人以上。二位グループのESブックスYahoo!Shopping、紀伊国屋、楽天ブックスいずれも2百万人前後で圧倒的な差がついていて、いまのところ差が縮まる見込みはない。

楽天のM&Aプロ集団:山田善久氏、草野耕一氏、高山健氏

次にM&Aプロ集団を見てみよう。楽天は2000年4月のジャスダック上場以来、M&Aを繰り返している。Infoseek, Lycos, 旅の窓口、DLJディレクト証券、あおぞらカード、国内信販、中国の旅行予約サイト シートリップなど、まさに怒濤のM&Aラッシュである。

これを可能にしているのが元々興銀のM&Aバンカーだった三木谷社長と、上場直前に楽天に参加した山田善久氏、高山健氏、社外取締役で弁護士の草野耕一氏である。

楽天のM&Aの考え方は「企業拡大の道具で、成功確率を上げるための手段」で、次の2つの基準で判断していると:
1.買うことにより楽天グループのサービスの質的向上につながるかどうか。
2.楽天市場の顧客データベースと統合して、相乗効果が見込めるかどうか。

買収した先は基本的に在庫を持たないマーケットプレース型が多い。トラベルや金融は情報のやりとりなので、ネットとの親和性はよく、米国のネット企業の成功例でも金融・トラベルは多い。

株式交換でもキャッシュでも経済原則から言えば同じだが、楽天の株は将来的に上がっていくので、株ではなくキャッシュの方が安いという考えであると。

M&A戦略の右腕山田善久常務は興銀/ハーバードの1年先輩で、興銀をやめゴールドマンサックスに転職、IPOやM&Aを担当した時に、楽天のビジネスの将来性をいかに投資家に伝えるかというプレゼンを三木谷社長に行い、楽天入りを勧められる。

投資銀行の立場からも楽天は将来必ず成功すると思い転職を決め、ディズニーからのInfoseek買収を手始めにライコス買収などを手がける。

上場準備していた旅の窓口を323億円で買収、さらに中国のシートリップネット、格安航空券のワールドトラベルにそれぞれ21%出資して着々と体制を整えている。現在山田氏は楽天トラベルの社長で、3〜4年後は楽天トラベルをJTBにとならぶ総合旅行会社にしたいと語る。

今三木谷氏がもっとも注目しているのは中国市場だそうで、山田善久氏によると「米国のナンバーワンを買うことは難しいが、中国のナンバーワンを120億円で買えるのは決して高い買い物ではない。」

もう一人の興銀出身者の高山健氏は、一橋大学、興銀の同期。テキサス大学でMBAを取得、三木谷氏と同じ企業投資情報部に配属される。三木谷氏より「株式公開を考えているが、財務を見てくれないか」と誘われ、一時期銀行と楽天の2足のわらじをはき、楽天を手伝う。

社外取締役の草野耕一氏は西村ときわ法律事務所パートナーである。M&A専門の弁護士であり、三菱自動車=クライスラー、ロシュ=中外製薬などの大型案件を手がける。

ハーバード・ロースクール留学から戻って、T・ブーン・ピケンズの小糸製作所買収をうち負かしたという輝かしい経歴の持ち主である。

楽天証券:國重惇史氏

國重惇史氏は楽天が買収したDLJディレクト証券の社長で、入札を経て楽天が買収後も楽天証券社長として残る。

株に興味のない人にいくら株を勧めてもダメという調査結果をもとに、株の好きな人に徹底的にアプローチした方が良いとして、個人投資家向けのリアルタイム株価自動更新機能のあるマーケットスピードのサービスを開始、信用取引も始めてアクティブトレーダーを取り込むことに成功した。

楽天証券の取締役会には三井住友銀行の西川頭取も社外取締役として参加している。

楽天証券はアニメファンド、REITなどのファンドマネージャー、IPOの主幹業務、M&A案件の紹介などリテールとホールセール両方ができるネット証券を目指し、将来楽天が経常利益1,000億円を達成する際には、金融事業だけで300億円を達成することを目標としている。

楽天プロデューサー集団のトップ:吉田敬氏

新設の楽天球団の初代社長を務めたのが、吉田敬常務だ。吉田氏はリクルートでイサイズの立ち上げに加わるが、リクルートのスピード感のなさに落ち込んでいた時期に、三木谷氏より2度目の誘いが来て、プログラマーとして楽天入社。

開発のエンジニアでありながら広告などのシステムをつくって、営業の仕方とか営業企画の建て方までシステム化して頭角を現し、営業本部長になった。

たとえばバナー広告の営業で大変なのは、売る段階よりも、売った後の入稿とか、請求とかである。当初は営業マンの負担であったものを、顧客にIDとパスワードを与え、セルフサービスで入稿、広告枠を買ったり、レポートを見たりできるようにした。

それまで500万円くらいの売上だったものが一挙に3,000万円となった。その結果セールスに関係ない人件費を削減し、コスト削減を行い、さらにアグレッシブな広告単価設定をしてそれまで10万円の広告枠を2万円にして裾野を広げた。

楽天にはシステム開発から、サービスの企画、運営までを担うプロデューサーという役職があり、吉田氏はプロデューサー集団のトップである。

楽天のウェブ作成、メルマガ配信システム、広告配信システム、楽天フリマ、楽天ブックス、楽天会員システム、楽天ゴーラ、楽天スーパーポイント、楽天アフィリエイトなど楽天トラベル、楽天証券以外のサービスはすべてプロデューサーにより作成・管理されている。

システムは基本的には全部自社開発。顧客に一番近いところに最終の開発者が居る方がコミュニケーションロスがなくなり素早く開発できる。作り出すより、作ったものをどう改善していくかに重点を置く。それが楽天のこだわりである。

吉田氏はヒューマンリソースを動かすのが得意である。

楽天では三木谷氏の発案で、毎月一回誕生会をやっている。コミュニケーションをどう取るかは非常に重要で、これが吉田氏の仕事である。単にお金だけ与えれば済むという問題では絶対にない。

目標はYahoo!を越えることである。

三木谷社長

最後に三木谷社長のインタービューである。時節柄野球の話題が多いが、「インターネットはすべてのビジネスにつながるので、展開しようと思えばいくらでもできる。」と語る。

「ポイントはむしろなにをやらないかを決めることだ。」アマゾンのような在庫リスクを抱えるビジネスはやらず、マーケットプレイスモデルだと。

世界でネットモールで成功しているのは楽天だけであり、ネットショッピング市場は4〜5年で今の10倍になるだろう。1回ものを買った人は習慣化し、年に5〜10回は買い物をする。

筆者の場合でも楽天市場では購入したことがなかったが、一旦買ってみるとたしかに習慣化した。

現在2,800万人いる楽天グループ会員を同じIDですべてのサービスを受けられる様にすることが目標で、サービス利用者にポイントを付与するしくみを拡大し、最終的には楽天グループ会員を日本の人口の半分の6,000万人まで伸ばしたいと語っている。

三木谷社長のリーダーシップもすごいが、勝つしくみつくりが絶妙。是非close watchして見習いたい強い会社である。


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2008年11月02日

あたまにスッと入るあらすじの掲載記事一覧エクセルを更新しました

2008年11月2日現在の掲載記事一覧をマイクロソフトのSkyDriveに置きました。次の「あたまにスッと入るあらすじ記事一覧」フォルダーをクリックしてファイルをダウンロードしてください。




一覧表はこんなエクセル表ですので、著者別のソートなども自由にできます。またURL付きですので、興味ある本が見つかれば、URLをクリックすればあらすじページが表示されます。

記事一覧表






このブログの掲載記事は372になりました。

  
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2008年08月09日

Googleストリートビューがスゴイ

このブログを訪問する方は、もうご存じの方が多いと思うが、8月5日にGoogle Mapの新機能としてストリートビューがリリースされた。

今のところ大都市近郊のみということだが、住所を入れて右に「ストリートビュー」というボタンが表示されたら、カーソルを動かして是非試して見て欲しい。

360度のカメラを搭載した車で、ほとんどの道を通行してストリートビューデータを蓄積したようで、大変なデータ量だと思う。

人の顔は画像処理ソフトでぼかしてあるが、車のナンバープレートはそのまま見えるし、表札も見える。

もちろん米国も対応している。

次が筆者がピッツバーグで住んでいた家だ。裏に広い庭があるが、さすがに道から見えない裏庭は表示されず、表通りから見てのストリートビューだけだ。

Pittsburgh






前庭に落ち葉が一杯なので、たぶん昨年の秋くらいの映像だと思う。庭の郵便箱は筆者が建てたものだ。

不動産業界にはたぶん大変役に立つだろうし、いろいろな活用方法があると思う。プライバシーについては問題があるかもしれないが、まずはいろいろな活用法を知りたいものだ。


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2008年08月01日

ぐるなび No.1サイトへの道 ぐるなび成功秘話

ぐるなび―「No.1サイト」への道


交通広告の最大手エヌケービーの社長で、ぐるなび会長でもある滝久雄さんの本。

滝さんの思い入れも込めて、「理工系ベンチャーを目指す人たち必読の書」と本の帯に書いてある。

この本は、大きく分けて次の3部構成となっている。

1.ぐるなびストーりー

2.起業するための心得、ベンチャー成功の12ヶ条

3.貢献する心(滝さんの前著「貢献する気持ち」のエッセンス)

ぐるなびの経験談をより良く理解するために、最初にベンチャー成功の12ヶ条を紹介しておく。


ベンチャー成功の12ヶ条

ベンチャー成功の12ヶ条として次が挙げられている。

第1条 夢と執念を持続する

第2条 時代を読む目を持つ

第3条 企業の最も重要な4つの要素は、顧客、社員、社会性、株主である

第4条 世界一を意識する

第5条 IT時代は最短で変化する

第6条 若い人の発想を潰さないで育てる

第7条 ビジネスモデルが大切である

第8条 技術だけでは駄目 「法の概念」と「マネジメント」が必須である

第9条 経営陣のなかに「人が好きな人」が必要である

第10条 人脈とお金は常に蓄積の気持ちが必要である

第11条 マスコミを見方にする

第12条 大手参入に対する備えを怠らない


滝さんの経歴

滝さんは、エヌケービーの前身の交通文化事業社創設者の滝富士太郎さんの子息で、1963年に東京工業大学機械工学科を卒業して三菱金属に勤め、金属の切削加工技術を研究していた。

三菱金属入社後5年目で退社を決意。そのときの上司から「ライフワークはあるのか?」と聞かれ、退社後1ヶ月半アメリカにライフワーク探しの旅に出て、「鉄道と駅」をライフワークにしようと決心する。

帰国後会社をつくって、いろいろな事業を手がけていたが、1975年に父親の滝富士太郎氏が交通事故で急逝、当時従業員10名強だった交通文化事業社(現在のエヌケービー)を引き受けることを決意する。

ライフワークの「鉄道と駅」に沿った事業展開を考えるが、車内吊り広告は既に大手広告代理店の縄張りが決まっていて、入り込む余地がなかったので、駅広告に絞って事業を拡大する。

同時にコンピューター時代の到来を予想し、1985年に公衆回線が自由化された時にNKBシステム開発という子会社を設立して、IT関係の新規事業を手がける。

当時はビデオテックス(電話回線を利用した画像システム)で、東京駅の銀の鈴広場にブライダル情報やアルバイト情報などが見られる端末を設置したが、コストが高くて大きな事業にならなかった。

一番採算が良かった「JOYJOYブライダル」という事業は継続し、500店もの結婚式2次会のレストラン情報が蓄積されていたので、そのネットワークを利用して1995年にインターネットが登場した時に、ぐるなび事業を開始した。

滝さんはインターネットで情報コストが二桁下がったことから、「情報系の産業革命を起こすのだ」、「今までとの連続性はないぞ」と呼びかけたという。まさにムーアの法則である。

ぐるなびは2000年2月29日に分離独立したが、あえて2000年の閏年の2月29日を選んだのは、インターネットは1000年に一度のビジネスチャンスだという思いを込めてのことだったという。


ぐるなびの成功要因

ぐるなびは次の3段階で、事業を拡大していった。

1.店をともかく増やすいわゆるどぶ板営業 3,000円/月でどんどん飲食店を獲得

2.獲得した店から売り上げを増やすAE(アカウントエクゼクティブ)型営業 付加価値をつけて5万円〜10万円/月の販促パッケージを拡販

3.基盤事業をベースとした関連事業(旅関連、海外事業、BtoBなど)日本最大のグルメポータルの強みを生かす

ぐるなびが誕生する前に、いろいろITを使っての事業拡大を検討していた滝さんは、1995年に取引先のリコー大井町工場で、インターネットを見せてもらい、これこそ進むべき道だと24時間で決断したという。

インターネットのすごさを見て、最初に滝さんが出した指示は、電話帳に広告を出している飲食店の数を調べさせることだった。というのは前述のブライダル情報サービスで、一流レストラン500軒とのネットワークが既にあったし、外食分野は規模が大きく未開拓の分野だと思っていたからだという。

その当時電話帳に広告を載せていたのは2,500軒。年間10〜15万円の電話帳広告費を払えるのは、東京で10万軒ある飲食店のうち、2,500軒、2.5%しかなかったのだ。

そこで全国40万店の飲食店のうち1万軒をターゲットに、ぐるなび事業を1996年にエヌケービーの関連事業として開始した。

外食産業全体では25兆円のマーケットで、飲食店全体では15兆円程度。そのうち上位1万軒の売り上げは1.5兆円。広告宣伝費に3%使うとして、全体で450億円程度のマーケットだという見込みだ。

ぐるなびが先駆者だったが、他の大手企業や「ある大手情報系企業」(たぶんリクルート)などは事業性が明らかになれば、一挙に進出してくるはずだった。

そこで従業員一人一人がユーザーのニーズ・ウォンツを取り入れて進化し続けている限りは、大手でも追いつけないだろうとの戦略をたて、それが可能となる仕組み、モチベーションを高める仕組みとして、「エクスパートシステム」と呼ぶ魅力ある報酬体系を作ったという。

給料を低く抑えたベンチャーの成功はありえない。瞬間的に苦しいときはストックオプションで補って、会社が潤ったら割高な給料だって払う。ぐるなびは最初からそれを実行してきたという。これによって一人一人の啓発と、組織が進化できたのだと滝さんは語る。「将来は楽天の3割増の給料を保証する」と言っていたのだと。

ある情報系大手はぐるなびの営業マンが飲食店を1軒1軒回って、月々3,000円の契約を取っているのをナンセンス呼ばわりしていたそうだが、滝さんはちっとも気にならなかったという。外食産業を研究し、飲食店と親しくなれれば、それが将来的には大きな成果を結ぶと確信していたからだ。

当初から会員は無料、加盟店から料金を取るというビジネスモデルでスタートした。

当時はパソコンがない店が多かったので、メールで受信した予約をファックスで飲食店に送るファックス自動変換システムが機能して、スタートして4年後の2000年に目標の1万軒を達成した。

この本にはコラムとして、いろいろな社員の苦労話や体験談が載っていて、面白い。


収益モデルの転換

1万軒が達成されてから、滝さんはドラスティックな収益モデル転換を計る。それはAE(アカウントエクゼクティブ)型のビジネスモデルである。アカウントエクゼクティブとは、広告業界でよく使われる営業スタッフがクライアントと相談しながら販促プランを提案するという営業スタイルだ。

従来は月3,000円だけだったものを、いろいろな販促手段を提案することで月5万円から10万円などのパッケージに格上げしてもらうのだ。

滝さんが、あるレストランオーナーと話していて、ぐるなびは月100万円くらいの集客に貢献しているとの話があり、それなら売り上げの5%を手数料としてくださいと、半ば冗談で言ったところ、オーナーはこれからも売り上げ増に役立つなら費用を支払うのは問題ないと言われたことがきっかけだ。

このことからAE型への移行の可能性を強く意識したのだという。

収益モデルへの転換を達成するため、まずは社内の意識改革を行った。

従業員全員をヒラ社員に降格したのだ。そして月々400万円以上の売り上げを6ヶ月続けて達成することを正AE昇格の条件とした。

そして実施して10ヶ月で15名がぐるなびのシニアマネージャーとして昇格した。

トップにいる人間が実力でポジションに就いたわけなので、本人が自信にあふれているし、部下たちも尊敬している。雰囲気もいいし、まとまりもある組織に変わっていったという。

コラムでは「一瞬で消えた給料」という題で、降格されたマネージャーの「会社を辞めよう」と思ったという話も載っていて面白い。最初の月の給料が手取りで7万円で、飲みに行って一晩でつかってしまったという。

全員がコミッション制になると情報のいわゆる「たこつぼ化」が起こるので、勉強会を頻繁にひらき、成功事例の研究に力を入れ、「私の自慢話」というような企画や、企画コンペを合宿研修で取り入れてノウハウの共有につとめたという。

25歳の天才営業レディの出現が、みんなもついてくる結果となったと語る。

この人の営業手法は情報誌の広告やチラシを使っている予算のあるところに絞り込み、雑誌で150万円使っているなら、ぐるなびで100万円でもっと成果が出せると売り込んでいたのだ。「雑誌・チラシは1回限りだが、ぐるなびなら毎日続く」が殺し文句だった。

最初の1年間はAEの報酬は10%、次が3%、三年目が1%と決めていたので、この営業レディの年収は2,000万円くらいにはなっていたはずだという。

試行錯誤を通して、年間パックという営業方式が定着する。年間120万円と設定し、レストランは毎月10万円使っても良いし、ある月は5万円、ある月は30万円と販促に幅を持たせることも可能だ。

加盟店からもらった効果データが役立ったという。ぐるなびは月1万円もかけていなのに、営業効果は400万円、雑誌・情報誌の広告は数十倍のコストにもかかわらず売り上げは10万円から100万円程度。この店はビルの7階にあったので、広告が不可欠でかなりの予算を掛けていたという。

AE型に転換が成功した初年度に社員全員でハワイ旅行に行ったという。初年度で早速約5億円の利益を出すことができたからだ。


着実な改善

情報ポータルなので、コンテンツが勝負だ。トップページのリニューアルには滝さんが趣旨を説明した上で社内コンペも行い、現在のトップページに近い原型が500時間かけて2001年5月に完成した。

滝さんの思いつきである毎日プレゼント企画、ぐるなびラーメンなどについての社員の回想コラムも面白い。

楽天マーチャントサーバー(RMS)の様に、飲食店自身がページを更新する加盟店管理画面のシステム開発も同時に進められていた。「楽天大学」の様に、「ぐるなび大学」を1回1万5千円の参加料で実施、年間開催1,200回を超えた。

滝さんがリクルートした東工大の後輩の久保現ぐるなび社長の面目躍如たるものだ。

これにより営業員は煩雑な入稿作業から解放され、コンサルティング営業に集中できるようになった。

当初は社内の制作と営業のセクト意識があった。

バレンタインデー特集の入稿締め切りが年末だったり、飾り物でしかなかった「ぐるなび特集」を滝さんの一声で、締め切りをキャンペーンスタート前日までに変更し、今では年間1,000本のぐるなび特集がページを飾っているという。

ぐるなびホームページには多くの特集が載っているが、UGAパーティステーションというサービスでは、今話題の芋洗坂係長が出演するCMを公開しているので楽しめる。

会員獲得はアフィリエイト(成果報酬型広告)をスタートして半年で100万人を超えたという。NIKKEI NETとも提携して優良顧客を獲得した。

ぐるなび こちら秘書室!」を会員限定でスタートし、秘書を7,700人、登録者数約5,000社の規模のネットワークをつくった。たぶん秘書だけのネットワークというのは初めてなのではないかと思う。滝さんの発案で、一流店の下見会も開催しているという。ボスが利用する高級店を秘書が下見できるので、人気がある。

ぐるなびe-DMという販促メールを導入したり、滝さんの思いつきで、「春雨じゃぬれていこう」という月形半平太のせりふにちなんで、雨が降りそうなときにケータイにメールが届くという「月形半平太メール」サービスも開始した。

「ぐるなびご当地グルメ」、「ぐるなびシェフクル」などのコラムも面白い。


ぐるなびの拡大

ぐるなびは2005年4月にヘラクレスに上場した後も順調な成長を遂げている。

えきから時刻表は兄弟サイトだ。

ぐるなびの特徴をとらえたメリルリンチのアナリストの評価が引用されている。

「ロングテールを効率的に取り込むサービスプラットフォームを構築した企業」として「飲食店からのリアルタイムに近い情報配信が可能なシステムを構築しており、中小飲食店の広告需要というロングテール市場の取り込みを行っており、Googleの飲食店版のような位置づけと考える」というものだ。

滝さんは、これからは土産サイトと海外に進出したいと言う。

ぐるなび上海は「Gudumami」という名称だ。グドゥアミは「お母さん、お腹が空いた、何か食べたい」という意味だという。

筆者もぐるなびを使っているが、地図に大体割引クーポンがついているので、店を利用する前に、必ずぐるなびで検索するようにしている。これからもグルメサイトのNo.1としてさらに成長すると思う。


貢献する心

滝さんは「メメント・モリ」(死を憶えよ)ということを常に意識しているという。

級友の兄ががんになって当初は遊ぶだけ遊んだが、その後は思い詰めたように勉強をはじめ、二度と遊ぶことはなかった。滝さん自身も、骨の腫瘍で、そのままいくと全身に転移してしまうという恐ろしい病気にかかり手術したことがある。

滝さんは母校の評議員になったり、賞をつくったり、総務省のICT国際競争力懇談会のメンバーになったりして「貢献する心」をいろいろな形で示している。


滝さんの話も、社員が書いている様々なコラムも面白い。ベンチャーの成功秘話としておすすめの一冊である。


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2008年07月01日

ウェブ時代 5つの定理 梅田望夫氏の選んだ名言集

ウェブ時代 5つの定理 この言葉が未来を切り開く!


「ウェブ進化論」で一躍有名になったシリコンバレー在住の梅田望夫氏の最新作。

梅田さんは毎日4時とか5時に起きて毎日3−4時間も読書しながら、今まで1万冊もの本を集め、シリコンバレーを中心としたアメリカのビジョナリーピープルの言葉を研究し、変化の予兆を捉えようとしてきた。

そしてその金言を著作の中に、隠し味のようにして織り込むことで勉強してきたという。

いわば砂漠での砂金探しのように、膨大な量を読んだり聞いたりしても金言は本当に少ないが、いざ見つかると、だれもが生きるヒントを得られ、仕事に生かせる。未来を切り開く言葉だという。

そんな梅田さんが推奨する金言をこの本では紹介している。

最初のアントレプレナーシップ(起業家精神)では、梅田さんがメンターと仰ぐゴードン・ベル(DECの初期コンピューターPDPシリーズを設計したコンピュータ産業の先駆者の一人)の言葉(プログラム言語)を紹介している。

驚いたことにGordon Bellはすべての自分の著作、プレゼンテーション、論文などを自分のウェブで公開している様だ。

以下は彼のサイトに掲載されている"High-Tech Ventures"の梅田さんがピックアップした一節だ。

Start a high-information-technology company

if frustration is greater than reward

and greed is greater than fear of failure

and a new technology/product is possible then begin

exit (job);

get (tools to write business plan); write (business plan);

get (venture capital);

start (new company);

もしフラストレーションが報酬よりも大きかったら、そして失敗の恐れよりも欲の方が大きかったら、そして、新しい技術や製品がつくれるのなら、始めよ。
(仕事を)辞めよ
そして(ビジネスプランを書くツールを)揃え
(ビジネスプラン)を書き、
(ベンチャーキャピタルから)資金を集め、
(新しい会社を)始めるのだ。


この言葉はゴードン・ベルの"High-tech Ventures"の最初のページにプログラム形式で書いてある。


このような至言をシリコンバレーで活躍する人を中心に34人ピックアップしている。

それぞれ別のシチュエーションで発言したものを集めて、5つのカテゴリーに分類しtているので、次のようなマトリクス表をつくって整理してみた。

Visionary matrix





5つのカテゴリーとは:
1.アントレプレナーシップ
2.チーム力
3.技術者の眼
4.グーグリネス
5.大人の流儀だ。

スティーブン・ジョッブスは、4.のグーグリネスを除いてすべてのカテゴリーに登場している。梅田さん好みの起業家、ビジョナリーだということがわかる。

他にはグーグルのエリック・シュミット、ラリー・ペイジ、冒頭に登場した梅田さんの隣人だというゴードン・ベル、インテルのアンディ・グローブ、アマゾンのジェフ・ベゾスなどの言葉が上位に出てくる。

それぞれどの分野で発言が取り上げられているかを見ると、傾向がわかると思う。

グーグルのところでは「グーグルカルチャー」とか、「グーグル10ヶ条」とか発言者のわからない言葉も取り上げられており、全体では120以上の名言が紹介されている。

最後の部分では、先日紹介したスティーブン・ジョッブスの伝説のスタンフォード大学の卒業式でのスピーチで締めくくっている。

印象に残ったいくつかを紹介しておこう。


1.アントレプレナーシップ

☆パラノイアだけが生き残る。 アンディ・グローブ(インテル創設者)
 Only the Paranoid survive


インテル戦略転換


梅田さんの専門はIT企業の経営だが、考え方の核となったのはアンディ・グローブの考えであり、経営について指針となる本を一冊選べと言われたら、迷わずこの本を挙げるという。

筆者は英語の本は大体オーディオブックで聞いているが、この"Only the Paranoid survive"のオーディオブックを探したが、出ていないので、次のカセットでアンディ・グローブの話を聞いた。

アンディ・グローブがみずからの生い立ち、インテルでの汎用メモリーからマイクロプロセッサーに絞る戦略転換を語っていて、内容はほぼこの"Only the Paranod survive"と重なる。

このオーディオブックでは他にフェデックスのCEOとか伝説のマジェラン・ファンドのファンドマネージャー ピーター・リンチとかがインタビューされていて、参考になる。

Forbes: Great Minds of Business


☆「全く見ず知らずの人間でも信頼できる」ということを、eベイは1億2千万人ものひとたちに分からせたのだ。

eベイの創業者のピエール・オミディアの言葉だ。売り手の信用度をみんなで評価するシステムなどの歯止めはあるものの、この言葉通りネットの世界では性善説で行動でき、トラブルは思いの外少ない。

☆シリコンバレーの存在理由は、「世界を変える」こと。「世界を良い方向に変える」ことだ。そしてそれをやり遂げれば、経済的にも信じられないほどの成功を手に出来る。

アップルのスティーブン・ジョッブスの有名な言葉だ。シリコンバレー特有の世界観と、アントレプレナーシップの真髄を現していると梅田さんは語る。


2.チーム力

☆間違った人を雇ってしまうくらいなら、50人面接しても誰も雇わないほうがいい。会社の文化は計画してつくられるものではなく、初期の社員から始まって、徐々に発展していくものだ。

アマゾン創業者のジェフ・ベソスの言葉だ。一人では何もできない。ケミストリー(相性)があう同僚と働くことで、会社の成長は加速する。グーグルでは当初、5,000人くらいの規模までは、一緒に働く全エンジニアが個別に面接して、一人でもノーと言ったら採用しないというシステムを採っていたという。


☆人がなぜチームスポーツを好むのか、チームの一員となることを好むのか。リナックスを見ればよくわかるよ。

リナックスの発明者リーナス・トーバルスの言葉だ。

ネットでは顔も知らない見ず知らずの他人と共同することで、複雑なOSまでもが作られてしまうのだ。


3.技術者の眼

梅田さんが「ウェブ進化論」で冒頭に引用したのが、インテル創始者ゴードン・ムーアのムーアの法則だ。元々半導体性能は1年半で2倍になるというものが、現在ではより広く、「あらゆるIT関係製品のコストは、年率30%から40%下落する」という意味でも使われている。

これが基本中の基本であると。


☆私はただ「ムーアの法則」を追っかけ、その成り行きについてちょっと推測しただけだ。

シリコンバレーのベンチャー・キャピタリストの重鎮、ドン・バレンタインが語った言葉だ。ドン・バレンタインはアップル、ヤフー、シスコ、グーグルすべてに投資しているセコイアキャピタルの創始者だ。

「ムーアの法則」がインターネット業界で生きていることが分かる言葉だ。


4.グーグリネス

☆私たちは、グーグルを「世界をより良い場所にするための機関」にしたいと切望している。

グーグル創始者のラリー・ページの言葉だ。本当にそれを信念にしてやっているのが、グーグルのすごいところだ。


☆採用候補者は、技術的能力だけでなく、その「グーグリネス」によっても判断される。「グーグリネス」とは、人と協力することを楽しむ性格、上下関係を意識しない態度、親しみやすさなどからなる。

これは「ファイナンシャルタイムズ」に載っていた言葉だという。


☆会社は答えによってではなく、質問によって運営している。(中略)ずばりその通りの答えを提示するのではなく、質問をすることによって会話が刺激される。会話からイノベーションが生まれる。イノベーションというものは、ある日朝起きて「私はイノベートしたい」と行って生まれるようなものじゃない。質問として問うことで、よりイノベーティブなカルチャーが生まれるのだ。

グーグルCEOのエリック・シュミットの言葉だ。

大前研一さんの「質問する力」を以前紹介したが、質問によって会社を運営するという考え方が、グーグルの経営を貫く考えだ。

「一からすべて命令してほしいなら、海兵隊へ行けばいい」、「私たちは混沌を保ちながら経営していると思う」というのも、同じエリック・シュミットの言葉だ。

海兵隊のように命令に一糸乱れず従う組織ではなく、質問することによって、みんなが考え、それから会話が生まれ、ある意味活気ある混沌の中でイノベーションが生まれるという考えだ。

5.大人の流儀

シリコンバレーには、「2ちゃんねる」に代表されるような日本のネット社会特有の匿名文化とは異なる成熟した大人の流儀があるという。

☆私たちはフェースブックをオンラインコミュニティとして認識していない。実際に存在するコミュニティを強化する名簿として提供している。フェースブックに存在するのは、リアルライフに存在するもののミラーイメージだ。

ハーバードの学生名簿から始まったフェースブックの創業者マーク・ザッカーバーグの言葉だ。まじめに何か書き込む時は、実名を使うという文化である。

そしてパブリックという意識が最も顕著に表れているのが、ウィキペディアだろう。

☆ボランティアの人たちと働くことは、伝統的な意味でのマネジメントとは全く異なる。私は何かをしろと誰かに言うことはできない。私にできるのは、励まし、動機づけ、ガイドすることだけ。マネジメントなんか必要ないとも言える。ボランティアたちはじつに頭が良く、モチベーションが高く、自分自身をマネジメントできる人たちだから。

今や250言語に対応しているウィキペディア創始者ジミー・ウェルズの言葉だ。

梅田さんは「学習の高速道路」という言葉を「ウェブ進化論」でも羽生さんとの対談で仕入れた言葉として使っていたが、英語圏のウィキペディアの情報がどんどん蓄積されるのに対して、日本語のウィキペディアの情報は薄いということが、今後大きな差になってくるのではないかと語る。

「私たち一人一人がネット空間を知的に豊穣なものにしていこうという、決意を持つかどうかにかかってくる」と語る。

筆者はまだウィキペディアには投稿したことがないが、たしかに日本語のネット文化を作り上げると言う意味では、積極投稿も考えるべきだと感じた。


☆自分がやらない限り世に起こらないことを私はやる。

これはサンの共同創業者のビル・ジョイの言葉だ。サンはSPARCと呼ばれるチップ、JAVAプログラム言語を生みだし、ネットの世界を変えた。

最後に梅田さんはアップルのスティーブン・ジョッブスのスタンフォード大学での2005年の卒業式スピーチを引用している。

☆偉大な仕事をする唯一の方法は、あなたがすることを愛することだ。まだ見つかっていないなら、探し続けろ。落ち着いちゃいけない。まさに恋愛と同じで、見つかればすぐにそれとわかる。そして素晴らしい人間関係と同じで、年を重ねるごとにもっと良くなる。だから見つかるまで探し続けろ。探すのをやめてはいけない。

このスピーチの字幕入りビデオは以前紹介しているので、参照して欲しい。


カリフォルニア、シリコンバレーというと、筆者などは昔のママス・アンド・パパスの「カリフォルニア・ドリーミング」を思い出す。



筆者はシリコンバレーで仕事はしたことがないが、世界を動かす仕事の多くはシリコンバレーで生まれている。

梅田さんがシリコンバレーに惚れ込んだ理由がわかる。テンポ良く簡単に読めるので頭にスッと入る名言集である。


参考になれば次クリックお願いします。




  
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2008年01月12日

ウェブ時代をゆく ウェブ進化論の梅田望夫さんのウェブ版「学問のすすめ」

ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書)ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書)
著者:梅田 望夫
販売元:筑摩書房
発売日:2007-11-06
おすすめ度:4.5
クチコミを見る


ウェブ進化論の著者梅田望夫さんの新著。「ウェブ進化論」に次ぎベストセラーになっており、1月12日現在アマゾンの売上ランキングでは57位だ。

この本は、福沢諭吉西洋事情学問のすすめの2つの書物の関係になぞらえて、「西洋事情」が「ウェブ進化論」、そしてこの本が「学問のすすめ」にあたるウェブ時代の生き方について書いたものだと梅田さんは語る。

「ウェブ進化論」のように教養書として知識を得ようとすると、新規性が少なくて失望するが、ウェブ時代を生きていく人に対する指針として書かれたものだ。


梅田さんの経歴

梅田さん自身は、慶應の工学部を卒業後、東大の情報科学科でマスターを取った後、趣味の将棋や数学を生かした職業などを考えていたが、アメリカのバッテル研究所にあこがれ、それに近い会社としてADリトルに最低年俸で良いとして入社する。

ジェネラリストの経営コンサルタントではなく、専門性の高いコンサルタントをめざし、「レジス・マッケンナ」というテクノロジー・マーケティング戦略に特化したコンサルをロールモデルとして、ADリトルでも仕事をした。

その後社内エクスチェンジ制度を利用して、ADLサンフランシスコ事務所で勉強し、帰国して「ADL情報電子産業フォーラム」を立ち上げ、企業会員を集め、朝食会を中心としたフォーラムを3ヶ月に一度開催し、最盛時は年間1億円の売上をあげた。

このフォーラムの顧客人脈がその後のコンサルティングの仕事につながり、また梅田さんが1994年に独立してシリコンバレーに移住した時から現在に至るまでの顧客人脈となっているのだという。

ブログという新しいメディアに出会ってからは、自分の時間という希少資源を思いっきりブログにつぎ込み、自分のブログをスタートさせた。

有名なベンチャーキャピタリストジョン・ドーアは「若い心をもって、スタンフォード大学やMITを毎日うろうろ歩く」ことを若き日にやっていたというが、梅田さんもこれをロールモデルにして、CNET Japanを立ち上げた山岸さん(現グリー副社長)を窓口に、日本に出張するときは、山岸さんがこれぞと思う若い人材と会うことに努めていると語る。

そして会った一人がはてなの近藤社長だ。

ソフトバンクの孫さんが、Yahoo!を発掘する前に、まずアメリカのITに強い出版社ジフ・デービスに出資し、ZD Netを通じて、有望な企業の情報を集めたのと同じ発想だ。

梅田さんは500枚入る名刺ホールダーに、自分が仮に組織をやめて一人になったときに、自分の能力に正当な対価を払ってくれそうな人の名刺を埋めていくことをすすめている。

"in the right place at the right time"(時宜を得て)、運をつかむことができるための種まきだ。


学習の高速道路とその先の大渋滞

この本の主題になっているのは、「ウェブ進化論」で紹介されていた将棋の羽生善治さんとの対談で、羽生さんが言っていた、「学習の高速道路とその先の大渋滞」という言葉だ。

インターネットの発達により、知識は非常に手に入りやすくなったので、それを生かして、いかに生き、いかに仕事を選ぶのかが問題だ。

アップルは"iTunes U"というスタンフォード、UCバークレー、MITなどの全米の大学の講義を無料配信するサービスを2007年5月に始めたという。

i Tunes U






これからは世界のどこにいても、全米トップクラスの授業を、iPodにダウンロードして講義を受けられることになった。

学ぶ気持ちがあれば、いつでもアメリカの一流大学の授業を聴講できるのだ。

Googleは人類のあらゆる知識をデータベース化するGoogle Book Searchを2004年から始めている。日本語版も既にスタートしている。

趣旨に賛同したハーバード大学、スタンフォード大学、ミシガン大学、オックスフォード大学、ニューヨーク公共図書館と共同でスタートし、その後日本の慶應大学を含め多くの大学が参加し、既に100万冊のスキャンを終えたという情報がある。

マイクロソフトも大英図書館や、コーネル大学と組んで同様の活動を始めている。

人類の叡智として取り込むべき図書は数千万冊なので、丁寧にスキャンすれば一冊20ドルとして、数千億円の予算があればできる。

そのうちネットで検索すれば、過去の本すべてが読めるようになるのだろう。

梅田さん自身は「高速道路」を下りて、「けものみち」を20年近くも歩いてきたと語るが、ウェブ時代を生き、高速道路を走る「ネットアスリート」に対して、次のキーワードを挙げている:

1. Only the paranoid survive(偏執狂のみが生き残る)インテルの元会長のAndy Groveの有名な本の題名だ。競争の激しいIT業界、半導体業界で、一時は日本とのメモリー競争に敗れ、倒産しかかったが、CPUビジネスに転換し、生き延びたインテルのグローブ元会長ならではの言葉だ。

Only the paranoid survive






2. Entrepreunership 不屈の企業家精神 

3. Vantage point 見晴らしの良い場所に出て、自分のまわりを見渡すこと 


今の日本の若者には、力があっても自信がなさすぎるという。米国の若者は力がなくとも、自信ばかりある人が多い。両極端であると。


「18歳の自分に対するアドバイス」

梅田さんは、「18歳の自分」に対するアドバイスとして、次のようなウェブ・リテラシーを持つ事をすすめるという。

1.ネットの世界がどういう仕組みで動いているのかの原理は、相当詳しく徹底的に理解している。

2.ウェブで何かを表現したいと思ったら、すぐにそれができるくらいまでのサイト構築能力を身につけている

3.「ウェブ上の分身にカネを稼がせてみよう」みたいな話を聞けば、手をさっさと動かして、そこに新しい技術を入れ込んだりしながらサイトを作って実験ができる。

4.ウェブ上に溢れる新しい技術についての解説を読んで独学できるレベルまで、ITやウェブに対する理解とプログラミング能力を持つ。

これらが、ネットとリアルの境界のフロンティアで、新しい職業に就く可能性を広げるためのパスポートだという。


二人の日本人プログラマーが、例として紹介されている。

世界のオープンソースコミュニティで尊敬されている日本人として「まつもとゆきひろ」という天才プログラマーがいる。

島根県に住んで、島根県松江市のネットワーク応用通信研究所に勤務しているが、1993年にRubyというプログラム言語をつくった。

Rubyは世界で数十万人が使う、日本初の数少ない世界プログラミング言語である。

まつもとゆきひろは世界のプログラミング言語オタクのアイドルで、島根県議会は「地域資源」(人間国宝?)として捉えているのだという。

もう一人梅田さんの親しい石黒邦宏さんというプログラマーも紹介されている。

現在はシリコンバレーに住んでいるが、寝ても覚めてもプログラムを書いているという。石黒さんはシリコンバレーに移住し、IP Infusionという会社を立ち上げ、日本のアクセスに会社を売却し、創業者利益を得た。

自分の作品として自信を持って言えるプログラム、美しい作品を作るのだという。石黒さんはいままで、こいつはすごいなあと言えるプログラマーに一人だけ会ったという。

食事しているときと寝ている時以外は、ずーっとプログラムを書くか勉強しているのかのどっちかだってことが、コード見て分かるという。


最後に梅田さんは、「自助の精神」がより求められると語る。自助の精神に基づく勤勉の継続が求められるのだ。

先日サミュエル・スマイルズの「自助論」を再度読んだが、梅田さんのウェブ時代を生きるためのアドバイスも「自助」である。

スマイルズの世界的名著 自助論 知的生きかた文庫


スマイルズの「自助論」は1858年の発刊だ。ちょうど150年前に出版された本だが、今も輝きを失っていない。いつの時代も目標を設定して、それを達成するために地道に努力する人が勝つ。

「ウェブ進化論」とは趣が異なる本だが、梅田さんの21世紀の日本、日本人に対するあせりを含んだ期待感がよくわかる Nononsenseな(きまじめで真摯な)本だ。


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2007年10月29日

セカンドライフ まずはどんなものか知ってみよう

一時の勢いはなくなったが、今でも話題に上るセカンドライフ。

日本語にも対応してきたので、利用者も増えているようだ。

取り扱いが難しいと言われているので、セカンドライフを楽しむサイトもマグスルとか、セカンドライフの歩き方とか何種類かある。

セカンドライフがどういうものか知るのには、「やさしいセカンドライフ入門」がおすすめだ。

やさしいセカンドライフ入門


セカンドライフのユーザー登録から専用ビューアーのダウンロード、アバターの調整法まで、スクリーンショット入りで、わかりやすく解説している。

セカンドライフではベーシックアカウントなら無料、土地が所有できるプレミアムアカウントなら月9.95ドル、3ヶ月か1年分まとめて払うと割引がある。

セカンドライフでビジネス展開を考えるなら、「ウェブ仮想社会『セカンドライフ』」が入門書としてはわかりやすい。

ウェブ仮想社会「セカンドライフ」 ネットビジネスの新大陸 (アスキー新書 8)


著者の浅枝大志さんは、セカンドライフ参入支援サービスの(株)メルティングドッツの社長で24歳だ。

浅枝さんはセカンドラフは「現実に近い体験」が得られるバーチャルの本質を具体化したサービスだと語っている。

セカンドライフでは性別、年齢、人種、血縁など制約のすべてをリセットして、新たな生を得ることができる。その意味で本当の自分と出会えるのだという。

この2冊を読んでみたが、筆者はアバターにハマッたことがないこともあり、今ひとつセカンドライフを試す気にならなかった。

やはり世代の違いかもしれないが、筆者が興味を感じるのはゲームまでで、自分でアバターをつくって楽しもうという気にならないのだ。

余談になるが、時間があれば、やりたいと思っているのは大前研一さんが訳したダニエル・ピンク氏のハイコンセプトで紹介されていたAMERICA'S ARMYだ。

1年前で760万人が参加といわれていたので、今は1,000万人程度が参加しているのではないかと思う。

高度なオンラインシューティングゲームなのだと思うが、アメリカ陸軍がリクルート・広報の一環として提供しているものなので、興味がある。

America's Army2








ともあれ、日本でもセカンドライフを試してみる人は増えているので、どんなものか知るためには参考になる2冊だと思う。


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2007年03月04日

ケータイの未来 夏野剛 ドコモの戦略がよくわかる

ケータイの未来ケータイの未来
著者:夏野 剛
ダイヤモンド社(2006-11-17)
販売元:Amazon.co.jp
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ドコモの戦略を陣頭指揮する夏野剛氏の近著。

夏野氏と一緒にi-modeを立ち上げた松永真理さんの「iモード事件」は楽しく読めたが、松永さんはiモードを立ち上げてすぐにドコモを去り、夏野さんが実質総責任者としてドコモのマルチメディア戦略を作り上げてきた。

iモード事件 (角川文庫)iモード事件 (角川文庫)
著者:松永 真理
角川書店(2001-07)
販売元:Amazon.co.jp
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この本を読むと、夏野氏が携帯電話の生活インフラ化を目指して、おサイフケータイにこだわり、積極的に仕掛けてきたかがよくわかる。

本の半分がおサイフケータイ関係の話であり、それ以外の半分はドコモで働いて感じた点などだ。

ドコモは昨年10月末のナンバーポータビリティ導入以降、徐々にシェアーを失い、KDDIがシェアーを延ばしている。

しかし、夏野氏は瞬間風速的にはドコモはシェアーを落としているが、ドコモが過半数を占め、それ以外を二社が分け合うという競争構造自体は、今後もあまり変化はないだろうと語る。


「ケータイの未来2020」

最初に「ケータイの未来2020」というミニ小説で始まる。

ケータイが生活インフラとして、なくてはならないものになっている将来の姿を描いた未来小説だ。

腕時計一体型や、口紅、名刺入れ、ペンなどの様々な形状で、スターウォーズでR2−D2が投射するレイア姫の様なバーチャルディスプレイ(但し3次元でなく、2次元)を持つ。

入力が必要な時は、バーチャル・キーボードが投射され、指の動きをセンサーが感じとるのだ。

鍵がわり、外出時のナビ、乗車券、指紋認証などは当たり前、お天気や、ニュースは情報は常時表示され、スケジューラーにもなる。


おサイフケータイはiモード以来の転換点

夏野氏は「生活をもっと便利に、豊かにしたい」という思いで、松永真理さんに招かれて、ドコモのiモードプロジェクトに参加した。

ドコモにくる直前は、「社長失格」の板倉雄一郎さんがつくったハイパーネットの副社長として、会社倒産の修羅場をくぐった経験がある。

社長失格―ぼくの会社がつぶれた理由社長失格―ぼくの会社がつぶれた理由
著者:板倉 雄一郎
日経BP社(1998-11)
販売元:Amazon.co.jp
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iモードは松永真理さんが打ち出した「コンシェルジュ」というコンセプトのもとで推進されたことは有名だ。

おサイフケータイは松永さんの後を継いだ夏野さんが、「生活インフラ」というコンセプトのもとに2004年から推進したものだ。

JR東日本が携帯電話の中にSuica機能を取り込めないかと、呼びかけてきたことがきっかけで、ソニーのFeliCa技術を採用して、おサイフケータイを展開することを決めた。

勝ち馬に乗る、という理由でFeliCa技術に決めたという。

iモードの誕生は、「いつまでも音声通信に頼っていては先がない」という1997年当時の大星公二社長の危機感が発端になっている。

社長の命を受け榎啓一さん(現在NTTドコモ東海社長)が、松永さんや、夏野さんを引き込み、スタートさせたのがiモードだ。

iモードは、今やオランダ、イスラエル、ロシア、英国、アイルランドなど世界69ヶ国で利用可能となっている。


DCMXが夏野氏のドコモ入社の理由

DCMXとはよくわからないネーミングだが、DoCoMoーXの略だ。

DCMXはドコモが始めたクレジットサービスで、ドコモ自身のクレジット事業DCMX、中学生でも使えるDCMX miniと、クレジットカード会社に供与するiDがある。

DCMXとは通信サービスと決済サービスの融合で、夏野さんはこれを実現するために着々と準備を重ねてきた。Javaを採用、おサイフケータイを導入し、三井住友カードに出資したのもすべてDCMXに向けた礎であると語る。

ドコモがクレジットカード事業に乗り出す理由は、日本のクレジットカード産業は急速に伸びている産業であるからだ。

1999年は19兆円だった市場規模が、2005年には29兆円になった。それでも300兆円といわれる個人消費に占める割合は10%以下である。

米国の24%まで行くかどうかはともかく、まだまだ伸びしろは大きい。

さらに少額決済市場は60兆円といわれ、クレジットカードはほとんど使われていないので、ドコモのDCMXやiDの可能性は大きい。

クレジットカードにはドコモ自身で参入を考えていたそうだが、ある人より「村の掟」があると言われ、「村の先住民」の三井住友カードへの出資参加による参入に変えたのだと。

夏野さんの提案に、当時の三井住友銀行頭取の西川善文さん(現日本郵便会社社長)は、モバイルクレジットのメリットを瞬時に理解し、ドコモとの提携を即決してくれたという。

橋渡しをしたのは、現楽天副社長の国重惇史さんだ。


1500万人にクレジットを与えるドコモのDCMX

DCMXはプラスティックカードも発行できる通常のクレジット。

そしてDCMXミニは、滞納のないドコモユーザーなら月一万円まで、すぐに使えて電話料金と一緒に返済ができるドコモの消費者向けクレジット事業だ。

中学生から1万円まで借りられるので、おサイフケータイ保有者1500万人にクレジットを与える巨大な金融事業なのだ。

DCMXはエンブレムのデザイン、サウンド、リーダー・ライターのデザインなど細かいところまで凝り、かっこいいサービスとなることをねらっているのだと。

リーダー・ライターは2006年度内に15万台設置する予定になっている。

最近コンビニや100円ショップなど、いろいろなところでiDが使えるところが増えてきている。

おサイフケータイでどれだけ収入は見込めるのかという点は、次のように語っている。

iモードでもドコモの収入はアプリあたり月額数十円だったが、ちりも積もれば山となるで、iモードは今ではドコモの大きな収益となっている。

これと同じシナリオをクレジットカード事業でも目指したいと。


この本の残り半分がケータイクレジット以外で、このうち印象深い点をいくつか紹介する。


事務系、技術系という言い訳

夏野さんはトップの出身学部や分野は、事業の成功にはほとんど意味がないと語る。そういえばNTTの社長は技術系とか、次は事務系だとか下馬評があがる。

IT革命の最大の功績は、技術の詳細な内容がわからなくともビジネスモデルを構築できるようになったことだと。

50歳を過ぎた役員が、三十年も前に卒業した学部が文系か理系かと言っているのは、仕事や責任を回避しているとしか思えないので、周囲を含め、こうした甘えは絶つべきであると。

理系・文系のこだわりは、一種の日本流ワークシェアリングではないかと夏野さんは一刀両断している。

               
淘汰が必至のモバイル・コンテンツ業界

従来コンテンツホルダーは、モバイル向けは専業のベンチャー企業に任せていたが、儲かるとわかるとわかると、モバイル向け事業に自ら乗り出してきた。

コンテンツを持たないいわゆるコンテンツ・アグリゲーターのモバイル専業ベンチャーは、経営基盤が脆弱で、成長余地は以前と比べて小さくなっていると。

夏野さん自身は、フル・ブラウザーはさほど影響力が大きくないと考えているが、フル・ブラウザー脅威論も出ているので、モバイル専業ベンチャーは、事業規模を実力に見合った大きさにして、無理が生じないようにしてもらいたいと語っている。


携帯端末メーカーの世界競争

携帯端末メーカーが世界で勝負するには、技術力、営業・マーケティング力、政治力の3つが必要であると。

日本の端末は画面の精緻度や、ソフトの安定性、端末の機能性などで、海外端末の数歩先を行っているが、営業・マーケティング力は海外メーカーが数段上手だ。

これまでは日本の通信規格が独自規格で、鎖国状態だった。

第三世代となり、ドコモがW−CDMA、KDDIがCDMA2000となり、世界共通規格となったので、日本メーカーが外に出て行くことも、外から海外メーカーが参入することもやりやすくなった。

日本のメーカーは、携帯電話事業者に売り切りで販売し、在庫リスクもなかった。そのため自身の営業力がついていない。

ところが欧米メーカーは消費材として世界で電話機を売ってきたので、営業力が違うと。

また世界での規格会議などでも、日本は現場に近い技術者などが参加しているが、欧米のメーカーは標準化のプロが参加しているので、政治力が違うのだと。


サムスンの強さ

世界で強い例として、サムスンを夏野さんは挙げている。

強さの秘訣の一つは経営トップが持つ強いリーダーシップで、即断即決であると。

夏野さんは、サムスン電子のテレコミュニケーションネットワークビジネス社の李基泰(Kae Tee Lee)さんと懇意にしているが、海外端末を増やそうとサムスンと交渉を始めた席で、夏野さんが説明を終えると、李社長が社員にすぐやれと指示したのには驚いたと。

今ではサムスンが海外iモード機の販売No. 1で、技術力もある上に、全社員は英語か日本語を第二外国語として習得しているので、世界のどこの市場にも食い込んでいける営業力をつけていると。


最後に夏野さんは、「ケータイの未来は無限に広がり、ケータイの最大の強みは、人間の体にもっとも近いハイテク製品であることだ」と語っている。

ドコモのマルチメディア戦略の責任者が、自ら語る近未来のドコモで、読みやすく大変参考になる。是非一読をおすすめする。


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2006年12月23日

グーグル ネット業界に強いジャーナリスト佐々木俊尚さんのレポート

グーグル―Google 既存のビジネスを破壊する 文春新書 (501)


ヒルズな人たちなどの著書で知られるIT業界に強いジャーナリスト佐々木俊尚さんの本。

グーグルのすごさについては、大ベストセラー梅田望夫さんのウェブ進化論に詳しいが、キーワード広告で飛躍的に売上を伸ばした例など、違った角度から述べている。

たとえばGoogle News

ベータ版だが、日本版は610ものサイトから最新ニュースを自動的に収集して十数分毎に再構成する。

日本語版ではどうしても記事が限られるが、英語版だと4,500ものニュースソースから自動編集され、大変な情報量だ。

情報リテラシーの観点から、同じニュースを各国のメディアがどう見ているのかが比較でき、多様な価値観が理解できる。英語版であれば、辺境の新聞社の記事でも世界中の読者に読まれるようになるのだ。

情報のハブがCNNとか、ニューヨークタイムズとかの大手マスコミからグーグルに移っていくのだ。

新聞社から記事提供を拒むとかの動きもあったが、日本でも当初は記事提供を拒否していた読売新聞も記事提供を始め、スタートして三ヶ月で3大全国紙からの情報提供がはじまった。

まだまだYahoo!ニュースに比べると知名度も読者数も今ひとつだが、英語版なら世界の情報を収集でき、日本語版なら地方のニュースもわかるという意味では、使い方次第によっては非常に便利な情報源となるだろう。

この本ではグーグルの『破壊者』的性格と、すべてを検索、選別、そして『支配』していく全能の神的なグーグルの性格を様々な角度から紹介している。

成功例としては次を紹介している。

羽田の近くの有料駐車場がキーワード広告のアドワーズのおかげで、時にはお客を断らなければならないくらい顧客を集めることができたこと。

福井の三和メッキ工業という中小メッキ工場が、必殺メッキ職人というサイトを立ち上げ、キーワード広告やSEO(サーチエンジンオプティマイゼーション)で、全国の研究所や個人などから注文が集まったこと。

他方支配する神的な例としては、個人が広告収入を得られるアドセンスでクリック詐欺として停止処分を受けた映画評論家の例を紹介している。

この映画評論家のサイトの例では、1年2ヶ月あまりで30万円ほどの広告収益があったそうだが、その道が絶たれてしまったという。

梅田望夫さんのウェブ進化論の様なインパクトはないが、簡単に読めてグーグルを中心とする最近のインターネットの動きと意味がわかる本である。



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2006年12月17日

ウェブ進化論 Googleはインターネットの第2の巨大隕石!?

2006年12月16日追記:


以前『ウェブ進化論』のあらすじの中で紹介した、企業向け消耗品、間接材のeコマースサイトモノタロウが12月に東証マザースに上場した。

瀬戸社長は以前鉄鋼原料で、同じ新製鉄法プロジェクトを米国と日本で担当していた仕事仲間なので、瀬戸社長の成功はおおいに刺激になる。

その瀬戸社長のおすすめの『ウェブ進化論』。

今年初めのベストセラーなので、多くの人に読まれたと思うが、モノタロウの上場を祝して再度あらすじをご紹介する。


ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる


atamanisutto主人前書き: 著者の梅田望夫(うめだもちお)さんはブログを『究極の知的生産の道具』と呼んでいるが、筆者も同感である。

このブログは筆者の備忘録も兼ねて作成しているが、この本についてはあまりに参考になることが多すぎて、備忘録が長くなりすぎてしまった。

元の原稿は非公開として保存し、以下の公開版は半分程度にまとめた。あらすじを公開、非公開と2種類つくったのは、はじめてだ。それほど参考になるとともに、intriguing(興味をそそられる)ということである。

是非次のあらすじを参考にして、実際に『ウェブ進化論』を手に取って頂きたい。

ベストセラーになるだけのことはある中身の濃い本である。新書の定価の740円以上の価値があること、筆者が請け合います。


昔の仕事仲間、日本最大の間接資材のネットショップMonotaROモノタロウ瀬戸社長に、最近読んだ本で一番良いとすすめられて読んだ。

今世界のインターネット業界でなにが起こっているのか、どんな構造変化が起こっているのかよくわかる。

著者の梅田さんのブログによると発売して4週間で15万部売れているそうだ。筆者の近くの書店でも売り切れだったので、アマゾンで買った。まさに爆発的な売れ行きである。

筆者は米国駐在時代の1999年にインターネットの威力と将来性に驚き、キャリアを変更したが、当時、ソニーの出井さんは『インターネットは(恐竜を死滅させたと言われる)巨大隕石だ』と表現していた。

日本に帰国してそれから5年余りたち、出張もせず東京で過ごしていると、アメリカや世界の情勢にどうしてもうとくなるが、インターネットで、いわば第2の隕石が落ちた様な変化が起きていることを思い知らされたのがこの本だ。


著者の梅田望夫さんは、シリコンバレー在住のコンサルティング会社ミューズ・アソシエイツ代表。梅田さんご自身のブログMy Life Between Silicon Valley and Japanもある。

梅田さんが常時寄稿しているCNETや、asahi.comITPROなどが梅田さんとのインタビューを載せているのでこれも参考になる。


現状分析がわかりやすく、かつ鋭い

まずは現状分析だ。現在のウェブ社会を次の3大潮流で説明している。

1.インターネット 
リアル世界に対するバーチャル世界・経済の出現。文章、映像、動画等、知的資産をなんでもネットに置き、不特定多数が見られ、何百万件でも検索して網羅できる。

国境等の物理的限界はなく、コミュニケーションも瞬時に行える。全世界の『不特定多数無限大』の人がはじめて経済ベースで捉えられるようになった。

2.チープ革命 
ムーアの法則は半導体の集積度が18ヶ月で倍増するというものから、IT製品のコストは年率30−40%下落すると広義に解釈されている。

3.オープンソース 
世界中の200万人の開発者がネット上でバーチャルな組織をつくり、イノベーションの連鎖で、最先端ソフトウェアをつくっていく世にも不思議な開発手法。


上記3大潮流が相乗効果を起こし、次の3大法則を生み出した:

1.神の視点からの世界理解 
Yahoo!や楽天などのネットサービスは1,000万人もの人にサービスを提供し、しかも一人一人の行動を確実に把握できる。膨大なミクロの情報を全体として俯瞰(ふかん)でき、今なにが起こっているのかがわかるのだ。まさにお釈迦様、神のみぞ知るということが実現している。

2.ネット上につくった人間の分身がカネを稼いでくれる新しい経済圏
ネット上に自分の分身(ブログやウェブサイト)をつくると、分身がチャリンチャリンと稼いでくれる世界が生まれた。自分は寝ていても儲かるしくみができる。奥さんもサイトを持っていれば、ダブルインカムならぬ、クアドラプルインカムも可能なのだ。

3.無限大 x ほぼゼロ = なにがしか(Something)
『不特定多数無限大』の人とつながりを持つためのコストはほぼゼロとなった。不特定多数無限大の人々から1円貰って1億円稼ぐことが可能となったのだ。


これら3大潮流と3大法則が引き起こす地殻変動で、想像もできなかった応用が現実のものとなった。その本質がGoogleである。


バーチャル世界政府のシステム開発部門Google

梅田氏のGoogleに勤める友人は『世界政府というものが仮にあるとして、そこで開発しなければならないはずのシステムは全部Googleでつくろう。それがGoogle開発陣のミッションなんだよね。』と真顔で語っていると。

梅田氏はGoogleはシリコンバレーの頂点を極めるとてつもない会社だと確信しているそうで、Googleのすごさを次の観点から説明している:

1.世界中の情報を整理し尽くす

Googleは自らのミッションを『世界中の情報を組織化し、それをあまねく誰からでもアクセスできるようにすること』と定義している。

全世界のウェブサイトの情報を集めるグーグル検索、全世界のニュースに優先順位づけするグーグル・ニュース、過去出版されたすべての本をデータベース化するとブチ上げ、著作権者ともめているグーグル・ブックサーチ。

個人のメール内容を判断して最適な広告を載せるGメール。グーグル・マップグーグル・アース等々。

こうして見てくると、筆者にはGoogleがCIAの別動隊の様に思えてくる。まさに映画ターミネーターのスカイネットの世界だ。

グーグルのサービスすべてを通して言えるのが、情報を人手を使わずコンピューターによって自動的に分析して組織化するという基本思想だ。人が扱わないのだから個人のメール内容などもプライバシーの問題はないという。


2.構想を実現するために情報発電所とも言うべき30万台から成る巨大コンピューターシステムを、ネットの『あちら』側に構築したこと
すべての言語におけるすべての言葉の組み合わせに対して、最も適した情報を対応させる。これがグーグル検索エンジンの仕事だ。全世界を英語圏のシステム一本で運営するための自動翻訳機能も、最適の情報を対応させるための必要機能だ。

そのためにグーグルの30万台ものコンピューターが日々稼働し続けている。


3.巨大コンピューターシステムを圧倒的な低コスト構造で自製したこと
オープンソースを最大限に利用して、30万台ものリナックスサーバーを自社でつくり、運営している。拡張性に優れるスケーラブル・ストラクチャーをつくり、処理能力を上げるためにはサーバー数を増やせば良い構造とし、一部が故障しても全体としては動くしくみを取り入れている。


4.検索連動型広告『アドワーズ』に加え、個人サイトに自動的に広告配信する『アドセンス』を実装し、個人にまで広告収入が入る『富の再配分』のメカニズムを実現したこと
筆者も一時『アドセンス』をこのブログに貼り付けていたが、個人サイトでもグーグルから自動配信される広告表示で、チャリンチャリンとお金が落ちる感覚を体験できた。

インターネット広告業界では、ネット専業代理店が力を持っており、小さなクライアントまで広告の裾野を広げているが、それにしてもアドセンスで配信される個人の『情報起業』の様な小企業などは到底カバーできない。


5.多くが博士号を持つベスト・アンド・ブライテスト社員5,000人が情報共有する特異な組織運
グーグルは株式公開したとはいえ、創業者のセルゲイ・ブリンとラリー・ページが一般株主とは違う種類の株式を持つ特異な所有形態である。これはマイクロソフトによる敵対的買収や経営介入を防ぐためだという。

グーグルには経営委員会などの経営組織はなく、5,000人の社員全員が情報を共有する。

博士号を持つ社員も多いが、それぞれ仕事の20%は自分のテーマで研究することを求められる。アイデアは社内で共有され、平均3人の小組織がアイデア実現のスピードを競い合う。キーワードは『自然淘汰』だ。


6.既に存在するネット企業のどことも似ていないこと
強いて言えばYahoo!はメディア、グーグルはテクノロジーであると。Yahoo!は人間が介在してサービスの質が上がるなら、人手を使うべきだという考えである。


それぞれの論点につき興味深い分析がなされており、もっと詳しく説明したいところだが、それだと『あらすじ』でなくなってしまうので、上記の切り口だけ紹介しておく。

いくつか印象に残った点を紹介しておこう。


『こちら側』と『あちら側』

パソコンは『こちら側』。機能を提供する企業のサーバーやネットワークは『あちら側』だ。どちらかというと日本のIT企業はこちら側に専念し、アメリカの企業はあちら側に注力している。

これを象徴する出来事が昨年起こった。売上高1兆円のIBMのパソコン部門がレノボに2、000億円以下で売却され、売上高3,000億円のグーグルの公開直後の時価総額は3兆円で、いまは10兆円だ。

グーグルの動きはすべてあちら側の動きだ。


『恐竜の首』と『ロングテール』

ロングテールについてはこのブログでアマゾンでは専門書と古典的名著が売れる例で紹介したが、リアル店舗では返品の憂き目にあう『負け犬』商品がアマゾンでは売上の1/3を占める。

パレートの80:20の法則で、従来は20%の売れ筋商品=『恐竜の首』に注力して80%の売上をあげれば良かったのが、インターネットにより陳列・在庫・販売コストを気にしなくて良くなった今、残り80%の『負け犬』もちりも積もれば山となることが可能となった。

グーグルの『アドセンス』は個人でもクレジッドカード払いで広告出稿でき、無数にある個人サイトに広告を掲載することができる。梅田さんの言葉で言うと『ロングテール』、筆者の言葉で言うとゴルフの『バンカー・ツー・バンカー』という様な分野が、巨大なビジネスとなっている。


Web 2.0

今までのインターネット企業や機能をWeb 1.0と呼び、開発者向けにプログラムしやすいデータ、機能(API=Application Program Interface)を公開するサービスをウェブサービスと呼ぶ。

グーグルの台頭にYahoo!が危機感を強め、自社の検索エンジンを導入することを決定したのが、2002年から2003年にかけてであり、ちょうどこのころインターネットの先駆者たちは、Web 2.0を研究しだした。

(筆者はこのWeb 2.0というのが、どうもよく理解できなかったが、筆者のたとえでいうと、いわば漁師が網元になる様な感じではないか。つまり漁師が今まで自分で魚を捕っていたものが、網元となり漁船に網を貸して分け前を受け取ることにより、一挙に魚獲量を拡大し始めたという感じではないか。)

アマゾンアソシエイトで一個一個の商品にリンクをつけて販売するのが、従来からのWeb 1.0。アマゾンの商品データベースへのアクセスを認め、アマゾンが卸売りのようになり、専門サイト、小売りがアマゾンの商品を販売するのを支援するのがWeb 2.0。

もちろんデータベースを公開すれば、アマゾンの全世界単一システムObidosに巨大な負荷が掛かるはずだが、それをこなすシステム増強をアマゾンは『あちら側』で行って、Web 2.0を可能としたのだろう。

ウェブサービスにおけるアマゾンの利益率は15%なので、今やアマゾン本サイトよりもウェブサービスの方が利益率が良くなっており、自己増殖的に増えていると。


ブログと総表現社会

米国ではブログ数が2,000万を越え、日本でも500万を越えた。ネット上の玉石混淆問題を解決する糸口が技術の進歩で見えつつあると。


マス・コラボレーション

オープンソース、マス・コラボレーションの例としてウィキペディアを挙げている。ウィキペディア・プロジェクトは2001年1月にスタートしたので、5年強の歴史だが、既にブリタニカの65,000項目に対して、英語では870,000項目にも及ぶ百科事典が既にできあがり、200にも及ぶ言語毎に百科事典がつくられ、日本語版でも16万項目以上に揃ってきた。

誰でも書き込み、修正できるが、それでいてかなりの水準に達している。

不特定多数無限大は衆愚か?

梅田さんは"Wisdom of Crowds"、日本語訳「『みんなの意見』は案外正しい」を紹介している。仮説ではあるが、ネット上で起こっているオープンソース、コラボレーション、バーチャル開発の質の高さを考えると、不特定多数無限大の人が参加する知的プロジェクトは成功している。キーワードは、ここでも情報の『自然淘汰』だ。


「みんなの意見」は案外正しい


羽生善治名人の高速道路論

梅田さんは羽生名人と親しいそうだが、羽生名人はITがもたらした将棋界への影響として、「将棋が強くなるための高速道路が一気に敷かれたということです。でも高速道路を走り抜けた先では大渋滞が起きています」と語ったそうだ。


編集してカットしても、まだあらすじが長すぎて、著者の梅田望夫さんにしかられそうだが、それほど中身の濃い本だった。最近ピカいちの本だろう。


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2006年09月09日

別ブログがallaboutで取り上げられました

筆者はポイントマニア副社長のブログという題で、アメーバブログ(アメブロ)で別ブログを持っています。

その別ブログが9月8日のallaboutマネーのトップで紹介されました。


allaboutマネー








筆者の尊敬する消費生活評論家の岩田昭男先生のallaboutクレジットカードにて取り上げて頂いたからです。


allaboutクレジットカード








ポイント、電子マネー、マイルを発行する企業はどんどん増えており、このままでいくと消費者にとっては兌換性のないポイントが増えてポイントカードでサイフが一杯になってしまいます。

Gポイントはそんなポイントを発行する企業と、利便性をもとめる消費者の架け橋となるポイント交換サービスを提供している会社です。

これからもポイントの情報を別ブログで発信しますので、よろしければ別ブログもご覧ください。  
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2006年07月10日

日本人が知らなかったネットで稼ぐ新手法 ドロップシッピング 海外向けネットビジネスのすすめ

日本人が知らなかったネットで稼ぐ新手法 ドロップシッピング


ドロップシッピングという言葉がネット業界ではやりつつある。

今までのアフィリエイトでは商品の紹介をして、売れれば手数料を貰うというビジネスモデルで、商品の価格はマーチャントが決めていた。

ドロップシッピングは、マーチャントに自分向けの商品を提供してもらい、それを自分のサイトやオークションで自分の好きな価格で売り、売買が成立したらマーチャントに直接送付してもらうビジネスモデルだ。

在庫も一切持つ必要がなく、マーチャントが支払い機能を提供してくれ、商品の発送も直接マーチャントが行う。

こう聞くと画期的なビジネスモデルで、アフィリエイトよりも儲かりそうに聞こえるが、現状ではこうしたドロップシッピング機能を提供してくれるサイトはまだ少ないので、さほど広がっていない。

著者の富田貴典さんは14歳の時にオーストラリアに留学、12年をオーストラリアで過ごし、2005年5月に帰国した。

英語力を活かし、オーストラリア在住時代に日本語の漢字をデザインしてタトゥーなど向けに販売するネットビジネスを始め、次に漢字を印字したTシャツやマグなどの販売をドロップシッピングで始めた。

それらのサイトがDSFY.com海外ネットだ。

富田さんは海外に向けて日本のものを売ることをすすめる。日本人をターゲットとするよりも、外国人をターゲットにしたほうが需要が大きいからだと。また売る商品もニッチなもので、需要があっても競争の少ないものが狙い目だ。

ニッチな商品を見つけた方法はキーワードアドバイスツールとアクセスのキーワード解析であると。

この本は「ドロップシッピング」というタイトルがついているが、ネットビジネスを始める上で、知っておくと便利なアクセスアップの手法(検索エンジンへの登録など)、アンケートの導入、無料資料のダウンロードサービスでメールアドレスを収集することなどが実例をもとに説明されていてわかりやすい。

また海外のネット決済手段である2chechoutClickbankなどのクレジットカード決済、Paypalによるeメール決済についても詳しく説明してあり、参考になる。

日本の様にまぐまぐやメルマなどのメルマガ配信スタンドはないが、海外でもオートリスポンダーなどのサービスを使ってメルマガで営業する手法も詳しく紹介されている。ProAutoResponderというサイトはしゃべるメルマガを送れるという機能がある。

ドロップシッピングではcafepressというサイトを利用して、自分のアカウントを作成してオリジナルのTシャツをつくる方法を画面キャプチャー付きで詳しく解説してあり、わかりやすい。

また情報起業家向けなどにcafepressを使って自費出版する方法も紹介しており、役に立ちそうだ。

PDFにした原稿と表紙のJPEG画像があれば本がつくれ、ワイヤーで留めるマニュアル風のものや、薄いものは雑誌の様な体裁、本格的なペーパーバックスの体裁と3種類あり、それぞれ6ドルから8ドルでつくれるので非常に便利だ。

富田さんはISBN(International Standard Book Number)の登録の仕方も解説してくれているので、かゆいところに手が届く感じだ。

筆者も大学のクラブの部史の自費出版を考えていたので、非常に参考になった。

その他ブログをつくってGoogle Adsenseで広告を載せ、広告料を稼ぐ方法や、eBayで不要品を海外で販売する方法や、実際にeBayでおもちゃなどを販売して月50万円の売上を上げている人とかの実例も紹介している。

英文ライティングのコツも紹介してあり、非常に親切である。

最後に富田さんは行動力とNever give upの精神が大事であると。ともかく実践してみて自分を信じてあきらめないこと、そしてやり続けることだと語る。

世の中に『アフィリエイトで月100万円儲けた』とかいったタイトルの本は多くあるが、海外向け中心にアフィリエイトからドロップシッピング、自費出版までの広い範囲をここまで詳しく解説した本はあまりない。

実戦的で役に立つ本だった。オークションに参加している人には特におすすめです。


最後にドロップシッピングのリスクについて(筆者の意見)

筆者は長年商社に勤めて貿易に携わってきたので、トレードにまつわるリスクには敏感だ。

ドロップシッピングの問題点は、買い手からのクレイムがあった場合、アフィリエイトであれば自分は関わりなしで済ませられるが、ドロップシッピングの場合には自分が売り手なので、買い手と仕入先のマーチャントとの間に立って、クレイム解決をしなければならない点だ。

問題がこじれると解決に時間が掛かり、場合によっては損をこうむる危険性もある。

それとクレジットカードで支払いを受けることは、絶対安全な債権回収方法とは言えない点である。

日本ではあまり表だって言われていないが、欧米ではクレジットカードの不正使用は巨額にのぼり、たとえば英国では2004年の不正使用額は5億ポンド(1000億円)にものぼる。

ユーザーはクレジットカードの保険で、ほぼ間違いなく補填されるが、マーチャントは時によりクレジットカード会社から支払いを受けられない場合があるのだ。

余り知られていないが、米国の通販会社などはクレジットカードの不正利用で巨額の損失をこうむっているのである。

英語版のWikipediaのクレジットカードのところを読むとクレジットカード詐欺について次のように書いてある。

Fraud costs. Where a card is stolen, or an unauthorized duplicate made, a most card issuers will refund some or all of the charges that the customer would have otherwise received, for things they didn't buy. These refunds will in some cases be at the expense of the merchant, especially in mail order cases where the merchant cannot claim sight of the card, but in other cases, these costs must be borne by the card issuer. The cost of fraud is high; in the UK in 2004 it was over £500 million [1].

アンダーラインの部分が問題のところだ。通販会社などではカード詐欺で不正利用された分をマーチャントが負担しているケースもあるのだ。

ネット通販も通販である以上、このようにクレジットカード詐欺でお金が回収できないというリスクがある。

ドロップシッピングで少しぐらい儲けても、もし代金がクレジットカード会社からちゃんと支払われなければ、儲けなど吹き飛んでしまうおそれがある。

以上の2点を頭に入れて、海外向けネットビジネスは進めた方が良いと思う。


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Posted by yaori at 23:47Comments(0)

2006年06月27日

グーグルを越える日 ネットにアットホームなコミュニティをつくるオーケイウェイブ

グーグルを超える日 オーケイウェブの挑戦


2006年6月27日追記: 

オーケイウェイブが先週名古屋セントレックス市場で株式公開した。初日は売り出し値より高く、初値がついたが、その後初値を割っている。OK Web(オーケイウェブ)からOK Wave(オーケイウェイブ)とサービス名を変え、やっと上場したが、収益力が疑問だと見られているようだ。

上場を記念(?)して、昨年紹介したオーケイウェイブの兼元社長の本の紹介を再掲する。尚、社名・サービス名が変わったので、文中のOK WebはOK Waveと変更した。


前回OK Waveの『教えてください!!』を紹介したので、同時期に発売されたOKWave社長の兼元(かねもと)さんの本を紹介する。

兼元謙任さんについてはこのブログのヒルズな人たちで簡単に紹介したが、ネットに人間味を吹き込んだ信念の人である。

この本のタイトルの『グーグルを越える』も、普段から誰彼となく言っているそうだが、兼元氏の志の高さがわかる。

OK Waveは現在従業員55人の会社。OK Waveのミッションと信条は次の通りである:


OK Waveのミッション

1.Q&Aインフォメディアリ(情報仲介者)のNo. 1となり世界知識資産を構築する

2.世界一大きな助け合いの場を創造している

3.世界一早い回答を提供できる窓口を構築している

4.世界一多くのQ&Aをつくり出している

5.世界一多くの人々、企業にQ&Aサービスを提供している


OK Waveの信条

1.私達は『世界知識資産』を創造させていただきます

2.私達は質問と回答を中心とした情報仲介の分野においてNo. 1を目指します

3.私達は上記1,2においてお客様、ご利用者に十分喜んでいただけるサービス、
ツールを提供させていただきます

4.私達は喜びをもって、一つ一つの仕事を完遂させていただきます

5.私達はお客様が対価に応じて通常望む、二倍以上の成果を提供するよう努めさせていただきます


兼元さんの経歴

愛知県で在日韓国人として生まれ、後に日本国籍を取得した。在日と意識したのは小学校の頃、区役所で指紋捺印をさせられた時だと。

孫さんと同様、生い立ちからくる『なにくそ』という反骨心、さらに小さい頃から体が弱かったので弱い者いじめにもあい、これに対する負けん気がエンジンだ。

大学は愛知県立芸術大学デザイン学部に進学。デザインは本来みんなの意見をどう取り入れるかというもので、自分の作りたいものをつくる芸術とは違うという考えから、仲間とグローバルブレインという組織をつくり、愛知県の環境デザインなどいろいろな賞を受賞する。

三菱自動車への就職が内定していたが、単位が足りず留年。翌年京都のデザイン研究所に就職。名古屋の建設会社に転職し、結婚、子供も産まれる。

その後独立し、25歳ころから体調が良くなったが、グローバルブレインの仲間割れなどがあり精神的にも追いつめられ、このころ奥さんから離婚届けを突きつけられる。

東京で一旗揚げるためにソフマップの社長を頼って上京。

お金がないので、表参道の児童公園、麻布に近い児童公園で野宿し、宿代を節約しながら必死でデザインの仕事をこなした。

このころQ&Aというスタイルを思いついたが、実際に当時の電子掲示板に投稿してみると、『こんな事も知らないのか』と、つまはじきされるという体験をする。

気軽にわからないことを教えあい困っている人を助けるコミュニケーションシステムを誕生させることが自分の使命であると考え、1999年にOK Waveを設立。資金集めを始めた。

しかし儲かるビジネスモデルを考えないとダメということで、見事にベンチャーキャピタルからはすべて断られる。

しかたなく、自分で月2万円のレンタルサーバーを借りる。資金もなくプログラム作成に困っていたところ、たまたま友人に紹介された外人プログラマーが無償で二週間でプロトタイプまでつくってくれ、2000年1月にOK Waveとして無償Q&Aサービスをスタート。

起業家支援に熱心な会計事務所の向ヶ丘遊園の無料共同オフィスで仕事をスタート。住所不定ではまずいので、名古屋から妻子を呼び寄せ、町田に家を借りて引っ越した。(蛇足ながら筆者も町田に住んでいるので親近感を感じる)


OK Waveの目的

社会起業家―社会責任ビジネスの新しい潮流


OK Waveの目的について説明するために、兼元さんは『社会起業家』という言葉を使っている。

『社会起業家』とは(1)『働くという行為』を単に金を稼ぐ手段としてでなく、自己実現の場だと考えている、(2)『何のために生きているか』の答えとして事業を興している企業家である。

兼元さんは人を助けたいという思いからQ&Aコミュニティを始め、究極的には誰もがあらゆるポータルから困ったときに質問して回答をもらえる『世界知識資産』の開設を目指している。

あらゆる人のあらゆる疑問を解決し、あらゆる望みをかなえられる機会を提供することを使命に、インターネットによって社会の発展に寄与したいと。Q&Aは情報のコンビニだとも言っている。

ビジネスを通じて社会を変えていきたい。インターネットで世の中を良くしたい。それが『社会起業家』の兼元氏の考えである。


OK Waveの特徴

OK Waveは2005年5月で会員37万人。月間300万人以上が訪れ、ページビューは1億/月。

350のカテゴリーに分かれており、質問を投稿するとそのカテゴリーに登録してる会員にメールで質問が連絡が行き、あるいはサイトでその質問を見た会員が回答を寄せるという簡単な仕組みである。

筆者自身も自分で会員になって驚いたのだが、何の報酬もなくとも、単に人を助けられた、小さな親切をしたという満足感で回答する人が集まっており、苦品質の役に立つ回答を効率的に得られる優れた仕組みである。

『グーグルを越える』と言っているのは検索とQ&Aの違いからである。

検索はあくまでマニュアル化された情報で『形式知』だけだが、Q&Aなら『暗黙知』が伝えられる。

グーグルもグーグルアンサーズを始めているが、有料で専門の調査員に聞くという形で、まだ試行錯誤状態の様だ。

いずれ検索エンジンは限界が来て、インターネットでつながった人間のパワーを使って解決に導く仕組みが必ず求められるはずである。それが『グーグルを越える』という目標に込められた思いである。

OK Waveは特許も出願しており、これは質問をデータベース化してインデックスをつける技術の様だ。


兼元さんの人脈

筆者も愛読している評論家の田坂広志氏は『OK Waveは知識のイーベイだ』と語っているそうだ。

製造業向けネット市場のNCネットワーク社長も支援者の一人だ。

楽天の三木谷さんも投資家として登場する。

三木谷さんは『面白そうだからあしたそっちの会社に行く』ということで来社した。

『僕らも創業のころはこんなところでやっていたんだよ。いいねえ。将来的にはどうするの?』

『これを世界に広めていきたいと思っています』

『うん、わかった』という具合で、3分で立ち去り、同日投資すると回答があった。

楽天の4000万円を筆頭に他に、サイバーの藤田晋さんが2000万円、インプレスの塚本社長他も投資し、1億円強の資金を調達し、システム売りでなく、ASP事業としてサポートセンターの人件費一人分程度という価格設定で事業を拡大した。


OK Waveの発展

当初のヘルプデスクの機能はユーザーの質問を全社員が見られ、気が付いた者から回答を入れるというものだったが、引き合いは多いのに、全く売れなかった。

そこで『FAQを充実させて取い合わせを減らすツール』ということで発想を変えると、爆発的に売れ、ニッサン、ヤマハ、ソニー、日本航空、東京ガスなど大手150社に導入された。

ナレッジマネージメントの社内ツールとしても住友生命に『スミセイ 教えて!答えて!ドットコム』を販売、社内情報共有ツールとして一躍注目を浴びた。


兼元さんの信条

兼元さんが経営者として注目しているのはワタミの渡邉美樹社長であると。ワタミは『地球人類の人間性向上のためのよりよい環境をつくり、よりよいきっかけを提供する』ことを会社のミッションとして掲げている。

『やられた』と思ったと。

ライブドアのホリエモンは『はっきりいってつまらない』と。

このブログでも紹介したが『稼ぐが勝ち』の『人の心はお金で買える。中略。人を動かすのはお金です』発言が兼元さんと相容れないのだ。

兼元さんはジョン・レノンのイマジンに強く影響されているそうだ。イマジンの歌詞のようにdreamer(夢想家)だがBut I am not the only oneだ。

これからも広がって欲しい、また必ず広がるはずのサービスである。


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Posted by yaori at 23:32Comments(0)

2006年06月12日

ザ・サーチ ウェブ進化論で話題のグーグルの歴史

ザ・サーチ グーグルが世界を変えた


ベストセラーになっている梅田望夫さんの『ウェブ進化論』にもしばしば引用されているグーグルの歴史を詳しく説明した本。

グーグルのビジョンは「世界中の情報を組織化し、それをあまねく誰からでもアクセスできるようにすること」だと梅田さんは紹介しており、世界で最も注目されている企業の一つだ。

著者のジョン・バッテル氏はアメリカのインターネット業界紙Wiredの共同創刊者であり、グーグルと検索業界の歴史を400ページにもわたって詳述している。

バッテル氏は、エピローグで「検索ボックスに自分の名前を打ち込み、不安げにその結果を待ったことがあるあなたへ」と呼びかけ、古代アッシリア文明のギルガメシュ叙事詩に関連して次のように書いている。

「粘土に刻まれて不滅となることは、ビットとなりウェブに移されて不滅になることは、果たしてなにを意味するのだろうか…。検索も、同じ不滅の痕跡…。かつて先人たちが石に物語を刻んだように、現代のわたしたちは、グーグルなどのインデックスに、永遠に生き続けるのではないか」

このブログでも亡き友の名前で検索して、訪問される人が時々おられる。サーチワードで亡き友の名前を見るたびに、筆者も『不滅の痕跡』を感じている。


グーグル前

インターネットの検索はクローラー、インデックス、クレリープロセッサの3つから成り立っている。クローラーが取得したウェブ上の情報を、インデックスをつけて蓄積し、クエリープロセッサでユーザーが入力した検索ワードを順番をつけてアウトプットするという基本構造だ。

インターネット検索は1990年のカナダの学生が開発したアーチーが最初で、ネバダ大学の学生が開発したベロニカ、MITのワンダラーと続き、後にコンパックに買収されるDECのアルタビスタと続く。

アルタビスタ検索はDECが自社製高性能64ビットコンピューターアルファサーバーの使い道として開発した用途だった。実は筆者の会社の初代のシステムはこのアルファサーバーを使って構築されており、その意味でも感慨を感じる。

Yahoo!の検索エンジンは、1990年代後半はアルタビスタ、次にインクトゥミ、グーグルと変わっていく。

Yahoo!はジェリー・ヤンとデビッド・ファイロの二人が1994年に"Akebono"という相撲の曙から名前を取ったホームページをスタートさせ、これが1995年に名前を変えてYahoo!となる。


グーグル誕生

スタンフォード大学院博士課程のコンピューターサイエンスに在籍していたラリー・ペイジとセルゲイ・プリンが逆リンクに基づいた検索技術とページのランキングシステムを開発し、1996年8月にGoogle Version 1.0がスタンフォードのウェブサイトでスタートした。

GoogleはGoogol(10の100乗、天文学的数字)にちなんで名付けられた。

検索エンジンには多大なコンピューターのリソースが必要だが、彼らは新しいコンピューターを買う金がなかったので、余った部品と機材で作り上げたコンピューターを使ってサービスをスタートした。

このDIY精神でつちかった独自OSと、しくみが、数万台の巨大システムを使った分散型コンピューティングを可能としたのだ。

1998年9月にペイジがCEO、ブリンが社長となってグーグル株式会社がスタートした。

1999年には2大ベンチャーキャピタルのクライナーとセコイアからの投資を含め1億ドルの資金を得て、クライナーのパートナーでシリコンバレーを代表するベンチャーキャピタリストジョン・ドアー(John Doerr)とセコイアのパートナーマイケル・モリッツが役員として加わった。

検索で儲けるにはバナー広告が一番簡単だが、それをやると恐ろしくページの負荷と画像処理時間が増えるという理由で、グーグルのホームページには広告が一切ない。モリッツの表現を借りればこの『広告アレルギー』に立ってグーグルはビジネスモデルを捜すことになった。


オーバーチュアの誕生とグーグルの台頭

検索連動型広告でグーグルと競合するオーバーチュアは、アイデアラボというネットベンチャー育成会社を持つビル・グロスが1998年に設立したGOTO.COMが母体だ。

初期の検索エンジンはスパムに弱く、何を検索してもアダルトが出てくるという状態だったので、スパムを消す必要コストを広告主に負担して貰おうという発想で検索連動型広告は始まった。

当初、キーワードを1セントから上限2ドルと設定したところ、広告主は急増した。

自社サイトのみならず、他社に検索連動型広告をシンジケーションする手法を進め、2000年にAOLのトラフィックを独り占めできる契約を結んでからは一挙に黒字化した。

しかしGOTO.COMとシンジケーションサイトとの競合問題が起こり、2001年9月にGOTO.COMは自社サイトを閉鎖し、オーバーチュアと社名を変え裏方のシンジケーションビジネスに特化する。

一方グーグルはアドワーズ広告を始め、オーバーチュアとは逆に検索専用サイトとして急速にトラフィックを集める様になる。

オーバーチュアはグーグルを特許侵害で訴えるが、勢いは完全にグーグルに移る。オーバーチュアはその後Yahoo!に買収された。


グーグルの成長

2000年6月にYahoo!が検索エンジンをインクトゥミからグーグルに変えたことで、グーグルは急成長した。

2001年のグーグルの収入は8,500万ドルに対し、オーバーチュアは2億9千万ドルと大きな差があったが、グーグルはアドワーズ広告に人気という概念を導入し、単にコストだけで決まるオーバーチュアと差別化に成功する。

検索連動型広告アドワーズは2000年10月にスタートした。クレジットカードさえあれば5分で広告をスタートできるというのが売り物で、一挙に爆発的に伸びる。

パテントを取得した独自のOS、部品、空調、組み立ての分散型コンピューティングが急成長を支えたのだ。

2001年7月にはノベルCEOのエリック・シュミットをCEOに迎え、ページ、ブリンの三頭体制となり、従業員も200名となった。

2002年5月にAOLとの契約でオーバーチュアに勝利してからは、急成長し2002年末には従業員1,000人以上、コンピューターインフラは10,000台以上となり、収入も4億4千万ドルと前年の5倍となった。

人間は検索エンジンを使ってものを探すようになったのだ。

少人数のエンジニアがプロジェクトチームを組織して、ブリンとペイジ他が優れたプロジェクトを選び、開発費と人材を投入するというコンペ方式開発の経営手法を導入したのもこのころだ。

2003年3月にはアドセンスを導入、個人ブログがチャリンチャリンとトラフィックを現金化できる広告ビジネスを新しいビジネスモデルとして開始した。


グーグル上場

グーグルは2004年8月に二重構造をもつ特異な株式会社としてナスダックに上場した。

株の売り出しについてはオークション方式。ページとブリンが30%の株式を保有するが、公開する株の10倍の発言権を持ち、会社の決定には全面的な支配権をふるえる。これはダウジョーンズとかワシントンポストなどメディア企業でも例があるやり方であると。

株価は85ドルで上場したが、その後急上昇し、現在は400ドル弱となっている。


検索とプライバシー 完全な検索をめざして

グーグルは"Don't be evil"を社是としているが、グーグルのGメールはメールの内容を判断して適切な広告を載せる、またグーグルのGDS(デスクトップサーチ)はパソコンのハードディスクのコンテンツをインデックス化できる。

グーグルは個人のプライベートなデータを収集できるしくみを持っているのだ。

米国には愛国者法があり、政府が容疑者と判断すれば、プライベートなデータ通信を傍受できる権限が与えられている。

政府の圧力で、グーグルがため込んだ個人プライバシー情報が政府にわたないとも限らないのだ。

グーグルは中国に進出するにあたって、禁止されたサイトが表示されないようにした。中国で権力に屈したグーグルが、アメリカでも権力に屈する可能性もあるのだ。

そうなるとまさにターミネーターのスカイネットの世界である。

豊富な資金を使って、新しいサービスを導入し、『完全な検索』をめざしているグーグル。プライバシー侵害や、クリック詐欺などの懸念はあるが、人間生活を変えるだけのパワーがある最も生きのいい会社であることは間違いない。

400ページもの対策で、根を詰めて読む必要があるが、グーグルについて相当くわしくなれる良い本だった。


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Posted by yaori at 21:39Comments(0)

2006年05月21日

カリスマはいらない ベンチャーの『アニキ』 USEN宇野社長の挑戦

USEN宇野康秀の挑戦!カリスマはいらない。


フジテレビの持つライブドア株を約90億円で個人購入し、一躍ライブドア再建の救世主として世間の注目を集めたUSENの宇野康秀社長の履歴と戦略。

宇野康秀さんは、まさにベンチャーの『アニキ』と言える存在だ。

このブログではサイバーエージェントの藤田晋社長の『渋谷ではたらく社長の告白』とか、テイクアンドギブニーズの野尻佳孝社長の『史上最短で、東証2部に上場する方法』、フルキャストの平野岳史社長の『満点の星』、インデックスの落合正美会長の『当てるコンテンツ外すコンテンツ』など、ベンチャー経営者自身が語るリアルストーリーを書いた本を紹介してきた。

この本は宇野さん本人への取材を通して、和田勉さんというジャーナリストが書いた本だ。

宇野さんは昨年溜池山王ではたらく社長のblogという社長ブログを書いており、筆者は注目してよくブログチェックしていたのだが、年末頃から更新が止まってしまったのが残念だ。

この本の印象に残ったところを紹介しよう。


USENの戦略事業GyaO

USENの無料ブロードバンド放送局GyaOは2005年4月に開局し、スタートしてから1年で視聴登録者は1,000万人目前の950万人まで急成長した。

やることを決めたのが、2005年の正月、それから3ヶ月、ほとんど土日も休みなくUSENの役員・社員が働き、4月25日にサービスインさせた。

宇野さんの統率力と、後述する様に『子供のサッカー』とも呼ばれるUSENの社員一丸となった機動力を物語る、すごい話である。

いままでインターネットのビデオ配信サービスは、USENと宇野社長の盟友楽天の三木谷社長が一緒にはじめたショウタイムなどの、会員制有料サービスはあったが、完全無料ブロードバンド配信サービスはGyaOが初めてである。

ちなみに『GyaO』とはアイスランドにある大地の裂け目のことで、北米プレートとユーラシアプレートの境目が地上で見られる場所のことだと。インターネット通信とテレビ放送がぶつかったところに、GyaOは存在しているのだと。


「なんでもないけど、いいアイデア」

これが宇野さんが、舎弟ともいえるサイバーの藤田晋社長に相談した時の、GyaO事業についての藤田さんの答えだ。

「誰でも思いつくアイデアだが、宇野さんが本気でやるなら面白いと思う。タイミングもいい」と藤田社長は後に取材に応えて語っている。

USENはGyaOサービスを開始してすぐ、宇野社長自身が参加する独自コンテンツを作り上げた。

友人の村上ファンドの村上世彰社長、楽天の三木谷社長、サイバーエージェントの藤田社長、GMOインターネットの熊谷社長などと宇野社長との対談を『リアルビジネス』という番組で放送したのだ。

筆者もこの番組を見たくてGyaOの会員になったが、相当な強力コンテンツだと思う。

本書のなかで、宇野社長は「オンデマンド放送でCMをスキップができない様にすれば、広告主も興味を持ってくれるはず。テレビ局がなりたっているなら、無料ネット放送もなりたつはずです」と語っている。

ハードディスクレコーダーでCMスキップに慣れている筆者自身の経験からすると、無料で様々なコンテンツを見られるのは歓迎だが、はじめの数分間の映画の予告編やコマーシャルは苦痛だ。

映画館なら予告編は気分を盛り上げる効果があるので、むしろ歓迎だがパソコン放送となると、話は全然異なる。

どうせCMが入るなら、広告主の最新のCMを流すより、その広告主が過去流した評判の良く面白いCMとかを流し(たとえばアコムならクーちゃんとか、キンチョーなら沢口靖子シリーズとかゴン中山とか)てはどうか?

クーちゃんCMはテレビでは放送禁止になっていると思うが、GyaOなら可能なのではないか?

ちょっと脱線したが、いずれにせよ今後GyaOがどうなるのか注目して見守りたい。


宇野社長の経歴

宇野社長は大阪有線社長の故宇野元忠氏の次男として1966年に生まれる。明治学院大学を5年掛けて卒業、不動産業のリクルートコスモスに入社する。在学中はプロデュース研究会代表としてイベントやコンサートなどを請け負っていた。

会社をつくって社長になるというのが宇野さんの夢だったので、リクルートコスモスに1988年に入社したものの、翌年の1989年9月には退社し、友人でリクルートコスモス同期で現インテリジェンス社長の鎌田和彦さん、リクルートにいた前田徹也さん(現コンサルタント)、島田亨さん(現楽天球団社長)と4人でインテリジェンスを起業。

みんなに推されて宇野さんが社長となる。インテリジェンスの当初の業務は総合コンサルタント業で、そのうち人材派遣業に進出。創業メンバー4人を中心とする社員の会社に泊まることは当たり前という猛烈ながんばりで、業績は拡大し、2000年4月に店頭公開を果たす。

しかし宇野さんの父親の急病で大阪有線の社長となることを母親から頼まれ、1998年7月から宇野さんはインテリジェンスと大阪有線の社長を兼務することとなる。

1999年よりインテリジェンスでは会長となり、大阪有線社長職に比重を移し、『正常化活動計画』を打ち出し、全国の750万本にもおよぶ電柱の使用状況を調べ、過去分も含めてNTTや電力会社に電柱使用料を支払った。

その額は2000年8月期には240億円にものぼったが、これで電柱不正使用という汚名をそそぎ、晴れて普通の企業として正常化できた。

2000年4月には有線ブロードネットワークスと社名を変え、光ファイバーによるインターネット接続を月額5千円程度で提供するUCOMを設立。UCOMは50社の出資を受けてオールジャパンの事業としてスタートする。

しかし月額2,500円というソフトバンクのADSLの猛烈な売り込みに、日本全国展開を断念し、現在はマンション向けの光ファイバー一括請負を中心とした事業モデルに転換し、NTTと業務提携している。

有線ブロードワークスは資金調達力が弱く、UCOM設立時には宇野社長自身がインテリジェンスの株を担保に、りそな銀行から70億円の借金をして立ち上げた経緯がある。

そのため資金を得る目的で2001年4月にナスダックジャパンに上場を果たした。

初値が公募価格を大きく上回った前年のインテリジェンスの上場と異なり、ITバブルの崩壊で、初値は公募価格20万円を下回る13万円という展開ではあったが、なんとか切り抜け、2005年3月にはUSENに社名を変えて現在に至っている。


『オペラ座の怪人』と倖田來未

USENがGyaO事業に乗り出す前の布石が、映画配給会社のGagaコミュニケーションズと音楽事務所大手エイベックスへの出資だ。

USENは2004年10月にエイベックスに出資、筆頭株主となっている。創業者の依田名誉会長、現経営者松浦社長とのバランサーとして宇野社長が関与し、経営陣の対立でもめていたエイベックスの安定に寄与した。

Gagaは赤字が続き、2004年9月期には100億円を超す当期損失を計上した。エイベックスの依田名誉会長が宇野社長に話も持ち込み、依田氏が30億円、2005年1月にUSENが100億円出資した。Gagaは昨年『オペラ座の怪人』のヒットを飛ばし、赤字幅も縮小している。

宇野社長はGagaの社長も兼任し、GyaOを推進するうえで映画と音楽という自前のコンテンツを持つ優位性をいかんなく利用している。


仲間・同志を重視する宇野社長の経営スタイル

「カリスマ性だけが、成功するスタイルではないんじゃないか。自分に能力がないなら、能力のある人と一緒にやればいいじゃないか」と宇野社長は語っており、カリスマを否定している。

これがこの本のタイトルになったゆえんだ。

サイバーの藤田晋さんの本にも書いてあったが、藤田さんがインテリジェンス入社2年目で独立し、インテリジェンスと合弁会社をつくるときに、宇野さんは「何をやるかより、誰とやるかが大事だ」と語っていたそうだ。

マッキンゼーから宇野さんに引き抜かれた加茂副社長は、「一緒にとことん仕事をしよう」というUSENの仕事のスタイルを見て、『子供のサッカー』だと言っていたが、そのうちこれが新しい組織の形かもしれないと思い直したと。

『子供のサッカー』とは役職員全員で新規事業に取り組むやりかたのことだ。一つの夢を共有して、仲間として一体感を持ち、社員にチャンスを与え、みんなで実現に取り組むのだ。

筆者は高校時代にサッカーをやっていたのだが、当時はこの『子供のサッカー』を『百姓一揆』と呼んでいた。たぶん加茂さんは言葉を選んだのだと思うが、たぶん『百姓一揆』の方が感じが伝わると思う。

一つのボールをみんなで追いかける『子供のサッカー』精神で、情熱を持って起業する人は応援したいとして、宇野社長は資金面でも支援している。「そういう人が頑張る姿に対して素直に応援してあげたいと思って」個人で出資するのだと。

サイバーエージェントの藤田社長の独立を助けたのが良い例だ。


アンバランスをバランスさせる経営

インテリジェンスの鎌田社長は宇野社長の経営の特徴を『非連続性』と表現する。身の丈にあった経営をしていくのではなく、ときどき未知なところへジャンプするという意味だ。

社員30人の時に、日経新聞に1ページ大の求人広告を載せるといったジャンプを宇野社長は数々つくりあげてきた。

加茂副社長は「アンバランスをあえて作り出す」と表現している。

有線放送から、光ファイバー通信事業、GyaO事業とジャンプを続けているUSEN。USENのホームページに業績資料が公開されているが、業務用有線放送と通信カラオケ事業という成長性が見込めない分野から、ジャンプして新しい事業に進出し、業績を大きく伸ばしている。

ホリエモンや三木谷さんが言っていた、『インターネットと放送の融合』を単に言葉だけのイメージでなく、現実の事業として実現しているトップ企業と言っていいだろう。

阪神の金本知憲選手の活躍で『アニキ)』という言葉が、良いイメージを持って受け止められる様になってきている。社内で一番の働き者として尊敬され、寝る間も惜しんで仕事に没頭し、リスクを負ってもベンチャーを支援するUSENの宇野社長。

まさにベンチャーのアニキである。

宇野社長を応援したいという気持ちにさせる本だった。


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2006年03月27日

検索エンジン戦争 検索エンジンの歴史と方向性がわかる

検索エンジン戦争


このブログで紹介したヒルズな人たちとか図解ネット業界ハンドブックの著者、佐々木俊尚さんとECジャパンにSEOコラムを連載しているジェフ・ルート氏の共著だ。

検索エンジンとポータルサイトは、現在のインターネット産業の2大分野であり、インターネット広告分野でも最も延びている分野である。

タイトルに惹かれ、またこの前読んだウェブ進化論にも触発されてこの本を読んでみた。

検索エンジンの歴史と現在の対立構造がよくわかる。

各章のタイトルを紹介すれば、内容が推測できると思うので、次に紹介する。

第1章 先史時代の検索エンジン

第2章 検索エンジンと広告の物語

第3章 パックス・グーグル(グーグル王国の平和)

第4章 そして、乱世が幕を開けた

第5章 ますます広がる検索エンジンの役割

第6章 パワー・トゥ・ザ・ピープル(オープンソースの検索エンジン)

検索エンジンを巡ってのグーグルとヤフーの力関係の変化、ヤフーの逆襲、マイクロソフトのグーグル買収を初めとする戦略、アマゾンもウェブサービスで参戦と続く。

最後にオープンソースでの検索エンジン開発の動きであるNutchも紹介している。

筆者は知らなかったが、グーグルに囲い込まれてしまわない開発者の集団がナッチを支えていくのだと。

サッ読めて、グーグル、ヤフー、マイクロソフト、アマゾン等の列強の対立構造がよくわかる良い本だ。

ウェブ進化論と一緒に読むことをおすすめする。


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2006年03月12日

図解 ネット業界ハンドブック ネット業界が概観できるおすすめハンドブック

図解 ネット業界ハンドブック


このブログでも取り上げた『ヒルズな人たち』の著者佐々木俊尚さんのまとめたネット業界ハンドブック。


ヒルズな人たち―IT業界ビックリ紳士録


東洋経済のハンドブックシリーズは就職活動の業界参考書にも使われるので、それを意識した構成となっている。

各企業の特徴をよくつかんでおり、佐々木さんがネット業界に精通しているジャーナリストであることがよくわかる。


この本の構成は次の通りだ:

1.ネットビジネス驚異の成長10年史

2.勝ち組ネット企業の秘密

3.ネットビジネスの儲けの仕組み

4.ネットビジネスを支えるキーワード

5.ネットビジネス成功のカギ

6.ネット企業の育て方

7.ネット企業で働いて成功する

資料 ネット業界主要企業データ


ネット業界の歴史から説明し、主要企業、ビジネス(儲け)のしくみ、成功のカギ等も説明しているので、わかりやすい。

広く浅く説明しているが、ポイントを押さえているので、新入社員教育用にも適当なおすすめハンドブックである。


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2006年03月02日

楽天の三木谷社長夫人の三木谷晴子さんとは?

2006年3月2日追記:

楽天『三木谷社長夫人』あるいは『三木谷晴子さん』で検索して、このブログを訪問される方がまたも急増している。

今回の1,000億円もの楽天の公募増資に際して、三木谷社長と三木谷晴子さんの両方が10万株ずつ市場で売却するという発表があったためだと思う。

現在の楽天株の相場が9万円前後で、創業者として取得価格はほとんどゼロなので、それぞれ90億円の株式売却利益が出ることになる。

莫大な利益が上がるので、たぶんご夫妻でビルゲイツ夫妻の様に、慈善事業とかに社会貢献をされるのではないかと思うが、今後どういったニュースが出てくるのか楽しみだ。

さすが三木谷さんと言わせるような発表を期待したい。

楽天グループの株主構成等は次の記事が詳しいので、再掲します。




2005年12月1日追記:

依然として楽天三木谷社長夫人の三木谷晴子さんで検索してこのブログを訪問される方が多い。

評論家の山崎宏之さんが三木谷夫人のことを書いておられるので、追加でご紹介しておく。

筆者は山崎さんのブログの内容については全く知らないし、三木谷夫妻の私生活には全く興味がない。真偽のほどは読者にてご判断願いたい。

私生活がどうであれ、楽天=三木谷夫妻が日本でも希な盤石の経営体制を持っていることに対する筆者の驚きと尊敬は変わらない。

ちなみにこの盤石の経営=所有体制は前例がある。西武グループの堤康次郎が実は確立していたのだ。




依然としてこのブログへのアクセスが急増している。

検索キーワードで見ると三木谷夫人、三木谷晴子さん、(旧姓)下山晴子さんというキーワードで検索して、このブログを見る方が多い。

実はYahoo!で『三木谷夫人』や『三木谷晴子』で検索するとこのブログがトップで表示されるのだ。

Yahoo!の検索エンジンの威力を思いしったところである。

楽天のTBSとの経営統合提案の関係で、三木谷浩史社長が「無一文になってもやり遂げる」と、三木谷夫人に言ったというマスコミ報道がなされているので、三木谷晴子さんとはどういう人かと興味を持った人が多い様だ。

このブログでは今回の楽天、TBSの関係では次のタイトルでアップしてある。

東洋経済の『IT・ネット業界地図』 楽天とTBSどっちが大きい?全体像を知るには最適のハンドブック

楽天の研究 これぞホントの楽天研究

これらを見て頂くと同時に、訪問者の方の参考の為に2004年度の楽天のホームーページで公開されている事業報告書の楽天の株主構成を紹介する。

三木谷浩史          19.34%
クリムゾングループ     19.11%(三木谷社長の投資会社)
三木谷晴子          13.20%
マスダアンドパートナーズ  4.53%(CCCの増田社長の投資会社?)
信託2口             6.25%
本城慎之介           2.11%
増田和悦             1.91%
ゴールドマン・サックス    1.47%
杉原章郎             0.97%

三木谷夫妻以外で個人名が出ている人はすべて楽天の創業メンバーだ。

クリムゾングループを入れると三木谷社長自身で38.45%、これに三木谷晴子夫人の持ち株を加えると51.65%となり三木谷夫妻で過半数を抑えている。

つまり三木谷社長は自分だけでも拒否権があり、夫人と意見が異ならない限り楽天の経営を思う存分できる盤石の資本構成なのだ。

楽天の時価総額は約1兆円なので、三木谷夫妻の資産は楽天株だけでも5,000億円、三木谷社長は他のIT企業の多くにも投資しているので、さらに数千億の資産はあるだろう。

実際には大量に楽天株を売ると、株価は急落するだろうが、それでも「たとえ一文無しになっても」というのは並々ならぬ決意表明なのだ。

赤坂の土地とかの不動産資産価値は別にして、本業で民放4位に転落のおそれがあるTBSが最適なのか?という気もしないでもない。起死回生のTBSターンアラウンド策はどういうものがあるのだろうか?

その意味で『踊る大捜査線』などのコンテンツもあり、民放トップのフジテレビに目を付けたホリエモンは、目の付け所が良いが、経営統合の実現可能な相手ということではTBSしかないということかもしれない。

いずれにせよ三木谷氏が本当に自分の財産を売ってでも、TBSとの経営統合を強硬に推し進めるのか、それともお茶を濁したような和解的な解決となるのか、目が離せないところである。

エンターテインメントの王者ながら、業績としては長期伸び悩みの民放業界の再生がいかなる手法で可能なのか?注目される。


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2006年01月01日

2006年念頭挨拶 ブログを訪問して頂いてありがとうございます

このブログもおかげさまで、この1月で1周年を迎え、一番アクセスが多かった2005年10月は、なんと5,000人以上のユニークユーザーに訪問して頂ける様な規模となりました。

このブログは様々な本を紹介していますが、本を売ることが目的のコマーシャルなブログではありません。

図書館を利用するメリットを、重ねてご紹介していることからもわかるとおり、読者のみなさまの『時短読書』にお役に立てれば幸いと思って運営しています。

現代人が読書にあてる時間は年々減少してきており、出版業界は構造不況業種といわれています。

そんななかで新聞の書評や、表紙の帯の宣伝文句、あるいはカバーのデザインとかに惹かれて本を買い、内容の乏しさに落胆することは、ただでさえ少なくなっている読書時間を浪費するものです。

だからもっと効率的な本の読み方として、筆者は『時短読書』を是非おすすめします。

『時短読書』というのは、筆者のあらすじブログの様なあらすじをまず読んで、それから気に入った本だけ買って、あるいは図書館で借りて読むということです。


じつはあらすじというのはプロのライターにも難しいものだそうです。

『あらすじで読む…の名著』というシリーズが売れていますが、内容にばらつきがあり、全然頭にスッと入らないあらすじも、なかにはあることがおわかりになると思います。

筆者もできるだけ、『あたまにスッと入る』ようなわかりやすいあらすじを書く様に今年も努力しますので、ひきつづきお時間があればこのブログの訪問をお願い致します。


atamanusutto主人敬白
  
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2005年12月30日

インターネットを使って自宅で1億円稼いだ!超・マーケティング 札束を燃やす覚悟がありますか?

インターネットを使って自宅で1億円稼いだ! 超・マーケティング


マーケティング部門メルマガNo. 1の金森重樹さんが書いたインターネットビジネス成功のためのノウハウ集。

SEO(サーチエンジンオプティマイゼーション)やキーワード広告など技術的な説明をしている本は他にわんさとあるが、この本のようにマーケティング(見込み客集め)の考え方と覚悟、広告の活用法、メルマガ利用法等、実戦的なノウハウをわかりやすく説明した本は少ない。

金森さんの主張は「札束に火をつけて燃やす覚悟がない人間は、商売の世界では勝てません」という言葉に集約されている。

どんな商売をするかの着眼も重要だが、一旦ビジネスを始めたら、借金してでも広告費を投入して、札束を燃やす緊張感の中に置かれてこそ、商売の感覚は研ぎ澄まされて成功への道が開けると。

余裕ができたら広告を打つという発想では爆発的な成功はありえない。

念力でどんなに頑張っても、池の水を動かすことはできない。池の水を動かすには、小石を投げ込むしかないのだと。


金森さんのケース ー インフォミディアリー(情報仲介業)

金森さんはサラリーマンをやめて、国民生活金融公庫から300万円の融資を受け、自宅で行政書士事務所を開設した。

筆者は国民生活金融公庫というのは初めて知ったが、起業する人に1%台の金利で開業資金を貸し出すという有利な制度金融の様だ。

開業当初からファックスを使って大量集客を達成していたが、自分一人でやっていては処理能力に限界があり、ボトルネックとなっていたので、インターネットを利用して、ホームページを開設し、メールで資料のやりとりとか、依頼の受付も自動化して業務効率化を図ろうとした。

ところが、インターネットで公開したので、自分の営業範囲の東京以外の全国各地からも依頼が来て、到底取り上げることができないため莫大な機会損失を感じた。

そこで全国の行政書士をネットワーク化して、顧客と近くの行政書士を結びつけるというマッチング、インフォミディアリー(情報仲介業)のサービスをはじめ、個人の行政書士サービス提供から、情報仲介業に業態を変え、何百倍、何千倍もの処理能力のあるスケーラブルなビジネスに転換した。

まずは知り合いの行政書士、司法書士に声をかけ、全国の30%くらいからはじめたが、集客で困っている行政書士向けに『超・営業法』という本を出版して、本と連動したホームページをつくり、さらに広告も打って、数百人単位で行政書士を集め、ついに全国ネットを作り上げたのだ。


超・営業法



失敗からしか学びは得られない

渡辺仁さんのベストセラー『起業バカ2』については、このブログで取り上げたが、渡辺さんは「バカは成功に学んで失敗し、利口は失敗に学んで成功する」と言っている。

金森さんも「成功は何も教えてくれず、失敗からしか学びは得られない」として、マーケティングにおいては、失敗は成功以上に必要なものであると説く。

今までのテレビや新聞などを使ってのマスマーケティングでは、巨額の費用が掛かるわりには、異なったやり方や、違ったクリエイティブ(表現)を見せて、効果を比較するということが簡単にはできなかった。

ところが、インターネットを使ってのマーケティングは簡単にこれらの比較ができ、さらにマスマーケティングでは不可能な、誰が実際に購入したかもトラッキング(追跡)できるので、広告の効果がはっきり検証できる。

テレビだとせいぜい1万人程度のモニター母集団の視聴率調査に依存せざるをえないが、インターネットであればやろうと思えば、購入者全員のデータが取れ、しかも購入者のその後の行動まで追跡できるのだ。

だから札束に火をつけて燃やして広告を打っても、決して無駄にはならないのだ。


いくつか参考になったポイントをあげておこう。

『コントロール』と『スプリットラン』

ダイレクトメール広告にはリスト(対象)、オファー(提供内容)とクリエイティブ(表現)の3要素があるが、異なったオファーとクリエイティブの組み合わせを同時にためして(『スプリットラン』)、最も反応が良かったものが『コントロール』(基準)となる。

一旦コントロールが決まれば、次回以降はオファーを変えたり、クリエイティブを変えたりの部分変更で対応し、より高い反応率を目指すのだ。

アマゾンのABテストについてはこのブログで紹介したが、市場のことは、市場に聞くのが一番なのだ。

最高の広告原稿(コントロール)はお客さんが教えてくれるのだ。


ツァイガルニック効果

ツァイガルニック(Zeigarnik)という人が見つけたのでこう呼ばれている。問題が解決されてしまうと、その問題については忘れてしまうが、中断されたり、答がなかなか与えられないと、それが深く記憶に残るという効果のことである。

たとえば自分が答えられなかったなぞなぞが良い例である。

筆者も30年以上前の大学入試の数学の問題を覚えている。三角関数でタンジェントα=Xと置いて、方程式をつくり図形の面積を求めるという問題だった。

今思えば、こんな三角関数がなぜできたのか、信じられない問題である。


ホームページとメルマガでどちらが稼げるか? ザイオン効果

答はメルマガの方が何倍も稼げるだ。

これはザイオン効果(単純接触効果)によるものだ。ザイオン効果とは接触頻度が上がれば、その対象に対する好感度が上がるというものだ。

だからテレビコマーシャルなどは、同じ広告を繰り返して流したりする。

メルマガはお客さんの絞り込みとコミュニケーションのためにはコストも安く、非常に有効なツールなのだ。

メルマガ受信を選択してくれたお客は、既に優良見込み客なので、ターゲット層に適した内容のメルマガを送り、コミュニケーションの機会を増やることで、購入してくれる確率を高めるのだ。


集客後の販促、営業が受注増のカギ

金森さんはネットビジネスはネットだけでは完結しないと説く。

表題だけあげておくが、おわかりのように非常に実用的な内容なので、SOHO事業家には是非一読をおすすめする。

1.メールで来た客にメールで回答するな。
2.フルフィルメントの改善 ー 無コストでできる販促活動
3.テレマーケティング
4.メール分散処理システム
5.メールの高速処理のために

このブログで『楽天の研究』を紹介したが、この『楽天の研究』のブログ記事の中程にある『楽天の営業:小林正忠氏、杉原章郎氏』というところに、ツー・ミニッツ・コールの話を紹介している。

楽天ではインターネット経由で資料請求があったら、原則2分以内に電話連絡するのだ。実際には10秒以内に電話していると言う。

まさにネットビジネスはネットで完結させないという典型である。


さすがマーケティング部門メルマガNo. 1のマーケターである。
実戦的で至れり尽くせりの、おすすめできる本である。


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2005年12月13日

新第三世代ネットビジネス 電子商取引法の権威 蒲俊郎氏の新著 ネット業界の教科書として最適!

新第三世代ネットビジネス―新たな潮流に対応できる法務・マーケティング


桐蔭横浜大学法科大学院教授で、日本で初めて電子商取引法講座を開設した蒲俊郎氏と、インターネットやポイントCRMのコンサルタント林一浩氏、ICカードやポイントカードの専門家昌栄印刷の信濃義朗氏の3人の共著である。

このトリオで前著『第三世代ネットビジネス』を2003年6月に発刊している。

第三世代ネットビジネス―成功する法務・技術・マーケティング


前著は大学の教科書用に1/4程度が各種法律の引用資料編だったのに対し、新著は同じタイトルに『新』をつけただけながら、内容は全く異なる。

資料編無しで380ページもの大作である。じっくり読むと延べ10時間くらい掛かったが、内容が濃く実戦的手法が満載で驚く。

いくつかの例を挙げると:

マーケティング 顧客のシーンを考える

マーケティング解説では、顧客に選ばれる企業こそが勝ち残る企業だという考え方から、選ばれるために次の切り口から顧客のシーンを分析している。

タイトルを見れば内容が想像できると思うが、非常に実用的な解説である。

1.Webを見つけるシーン
  (1)ドメイン名はどんな名前にすればよいのか
  (2)検索サービスを有効に使う
  (3)広告
  (4)SEO(サーチエンジンオプティマイゼーション)
  (5)アフィリエイト
  (6)検索エンジンとPPC(Pay Per Click)広告
  
PPC広告の説明の中ではGoogleのAdWordsのクリック上限単価とクリック率の相関関係による課金額の決定方式がコラムとして紹介されており参考になる。

2.Webを見続けるシーン  
  (1)利用者にあわせたページつくり
  (2)アクセシビリティ(受け入れやすさ)という考え方

利用者を引きつけるウェブサイトのナビゲーション、構造、デザイン、文章の作り方などの基本が説明されており役に立つ。

3.利用後のサービス(会員化/メール/ポイント)
  (1)会員組織を作るということ
  (2)会員登録は個人情報を提供するに値するサービスとなっているか
  (3)ネットにおけるポイントの意義
  (4)ポイントの種類と動向

2005年のインターネット白書によると、最も投資効果の高いアクセス誘導対策は次の通りである:

  会員登録して貰った人へのメルマガの配信   23.8%
  SEO(検索エンジン上位に表示される技術)   20.8%
  キーワード広告への出稿              17.9%
  懸賞・プレゼント企画への参加            7.7%
  オークションへの出品                 7.1%
  アフィリエイトプログラムの導入            6.5%

会員組織をつくり、個人情報データベースを構築する最も効率的な手段がポイントである。

4.口コミとネットビジネス
  (1)口コミマーケティングの科学
  
イノベーター(新しもの好き)、メイブン(イディシュ語で博識な人のこと)、コネクター(顔の広い人)というカテゴリーが紹介されており興味深い。

  (2)会員組織とネットビジネスの関係
  (3)お友達紹介の構造  

5.クレーム対応とネットビジネス
  (1)利用者の声は誰のため
  (2)FAQとフィードバックのツール

カスタマーサポートツールASPお任せ業務メーラーというサービスが紹介されており参考になる。

ネット関連の新しい技術動向として、ブログ、携帯電話、QRコード、QUICPay、おサイフケータイ、電子マネー、ICカードなど専門家の見地からわかりやすく説明してあるのも参考になる。


ネットビジネスにおける法務

第2章のマーケティング編も参考になるが、なんといっても本書の肝は、電子商取引法を得意とする蒲俊郎弁護士みずからが、実例に基づき詳しく説明する第3章である。

前著『第三世代ネットビジネス』ではネットビジネスに関係する諸法規を網羅的に解説していたが、本書では次のテーマをそれぞれ掘り下げて説明しており、大変参考になる。

1.ネットビジネスとコンプライアンス経営
雪印食品の不祥事などが相次ぎ、企業の社会的責任とコンプライアンス(法令・倫理遵守)がいっそう重要になってきている。

内部告発者保護の公益通報者保護法が2006年4月より施行され、もはや隠蔽することが大きなリスクとなったことも、企業のコンプライアンス重視にいっそう拍車をかける事になるだろう。

2.ネットビジネスにおける規約の役割と重要性
会員制を取っている多くのネット企業が会員規約をサイト上に掲載しているが、蒲教授がサンプル規約をベースに詳しく解説をしている。

インターネット業界に働く人でも、実際に自社の会員規約を読んだことがない人が多いのではないかと思うが、この本を読めばまるで蒲教授を家庭教師にした様な親切な解説で、会員規約の考え方やリスクが理解できる。

未成年者を会員とする場合、契約の成立時期、個人情報の利用、免責事項、クッキー使用の注意書きなど、すぐに役立つ解説である。

丸紅ダイレクトが19万円のパソコンを1万9千円と価格を誤表示した事件などの具体例も解説しており、わかりやすい。ちなみに丸紅ダイレクトのケースは、注文を受けると自動的に注文確認メールが発信されるシステムであったことから、丸紅は表示価格通りで販売するという苦渋の選択をした様だ。

しかし、2ちゃんねるで『祭(まつり)』になり、注文が殺到したことを考えると、発注者も誤表示であることを認識してた訳でもあり、悪しき前例を残さないためにも『誤表示であって契約は無効である』と主張して対処する方が適切であったと解説している。

3.ネット広告における法規制
景表法(不当景品類及び不当表示防止法)による表示の規制、ネット上の懸賞についての制限、ポイントが当たる懸賞広告、特定商取引法(通信販売への規制)による誇大広告等の禁止、迷惑メール規制(特定電子メール法)と電子メール広告の平均単価下落、広告倫理綱領、広告掲載ガイドラインなど、実用的な説明が満載である。

4.ネット上の誹謗中傷
掲示板で誹謗中傷されたという事件が、古くはニフティ、最近では2ちゃんねるを相手にしていくつかの訴訟が提起されている。この関係で2002年に施行されたプロバイダ責任制限法を説明している。

結論的には、よほど極端な例を除いて、開示請求に応じない方がリスクが少ないと。

プロバイダ責任制限法は発信者からの意見聴取義務を定めているので、本書では発信者への通知のサンプルまで掲載されている。至れり尽くせりである。

サイト運営者が掲示板等で誹謗中傷されるケースでは、無視して放置しておくのが最善の策であることが実は多いと。

追従者を出さないように徹底的に叩くという選択肢もありうるが、いずれにせよ基本スタンスがぶれないことが重要である。

ちなみに日本では名誉毀損の損害賠償額は低額なので、勝訴しても弁護士費用もまかえない程度であることが現実である。

5.現時点でのビジネスモデル特許の意義
もはやビジネスモデル特許は神通力が薄れているので、あまり気にする必要はないと思われる。

6.ネットビジネスにおける個人情報保護法
各省庁のガイドライン一覧、過去の個人情報漏洩事件、訴訟リスクと慰謝料相場、個人情報保護法の概説、サンプル規約、事故対策がわかりやすく解説されている。

NPO日本ネットワークセキュリティ協会2004年度情報セキュリティインシデントに関する調査報告を公開しているが、個人情報漏洩の原因別件数による集計結果は次の通りである:

(1) 盗難(36.1%)
(2) 紛失・置き忘れ(21.6%)
(3) 誤操作(10.7%)
(4) 管理ミス(9.8%)
(5) 内部犯罪・内部不正行為(7.9%)
(6) 不正な情報持ち出し(2.7%)
(7) 目的外使用(2.7%)
(8) 不正アクセス(1.9%)
(9) 設定ミス(1.6%)
(10) バグ・セキュリティホール(1.4%)

個人情報漏洩事故の多くは企業内の人為ミスと犯罪によるものであり、技術的対策不足に基づく事故は少数にすぎない。従い社内体制整備を確立することによって個人情報漏洩事故の大半は防止できるのだ。

漏洩経路もネット経由でなく、紙やディスク等の媒体経由であることが多い。さらに大規模被害を引き起こした事故の多くは、内部者が関与するケースである。

その意味でも社内体制整備が最重要だが、社員を監視し、疑うのではなく、ちゃんとやっていることを社外にもアピールし、それによって会社を守り、ビジネスチャンスをつかむという積極的な発想が重要であると結論づけている。

最後のコラムはカカクコムの不正アクセスとメアド流出事件を取り上げている。非常に実用的で、すぐに実際の業務に使える。まさにネット業界の教科書である。


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Posted by yaori at 12:52Comments(1)

2005年11月22日

アマゾンの秘密 組織としてのアマゾンの強さの要因がかいま見える

アマゾンの秘密──世界最大のネット書店はいかに日本で成功したか


アマゾン日本のサービス立ち上げ時にコンサルタントとして働いていた松本晃一さんのレポート。先にご紹介したアマゾン配送センター潜入レポートのアマゾン・ドット・コムの光と影とこの本くらいしかアマゾンに関する日本書はないので、こちらも読んでみた。

アマゾンは元従業員も守秘義務契約で縛っているので、核心に触れる情報は公開はできないのだろう。

松本さんは2000年3月から2002年6月までアマゾンに勤務していたが、この本の出版されたのは2005年1月で、最新の情報をカバーしている訳ではない。

それでも立ち上げ当初のCEOの長谷川純一氏に見込まれて契約社員(但し契約はコンサル契約)として採用されただけあって、アマゾンの裏側やアマゾンの経営哲学の様なものが、かいま見えて参考になる。

松本さんは2000年3月に採用されたが、1999年に日本でのアマゾンのサービス立ち上げは決定されており、秘密裏にプロジェクトチームが結成されていた。

2000年内にサービスを立ち上げ、アウトソースせず自力でサイトを立ち上げるというのがアマゾンCEOのジェフ・ベゾスから与えられた使命だった。

アマゾンの特徴であるいくつかのCRM機能が日本でどのように立ち上げられたのかのドキュメンタリーとしても面白い。

いくつか印象に残った点を挙げてみよう。


アマゾンのCRMデータには性別・年齢がない

アマゾンと言えば、膨大な顧客・購買データを利用したデータベースマーケティングやCRMが有名で、『atamanisuttoさん、おすすめがあります』とか『この本を買った人は他にこんな本も買っています』とかのリコメンドがその例である。

しかし通常は顧客の年齢や性別、職業や地位などを調べてプロファイル化することによって、20代女性とかいったターゲット層を決めるのに対して、アマゾンでは顧客の個人的なプロファイルに関わる特性を購買活動に結びつけていない。

アマゾンにとって重要なことは、その顧客が誰であるかということではなく、その顧客が何を買ったか、またどの商品に興味を持ったかという点である。

ネットという非常にプライベートな世界では、たとえば少女コミックでも購入者は必ずしも女性のみとは限らないので、購買実績を重視するのだ。

そういえばアマゾンでは配達の時に必要なので住所とか電話番号、メールアドレス、時としてクレジットカード情報の入力は必要だが、それ以外の年齢や性別などの情報は一切不要である。

顧客一人一人を点として捉え、相似の購入行動という線を見いだし、向かう方向性をリコメンドしていくことによって顧客が真に望んでいるものの発見へのヒントを見いだすという考え方なのだ。


アマゾンレビューとカスタマーレビュー

アマゾンのコンテンツには2種類ある。カタログコンテンツと呼ばれる出版社、著者から提供される書評等と、エディトリアルコンテンツと呼ばれるアマゾンのエディターや専門のライターまたは読者から提供される書籍紹介文である。

エディトリアルコンテンツにはアマゾン自身で制作するアマゾンレビューと読者の投稿によるカスタマーレビューの2種類がある。

アマゾンジャパン立ち上げ時には、アマゾンレビューのライターを確保するために、日本の出版社からライターの紹介して貰ったが、日本の出版社はアマゾンを『黒船』として警戒するのではなく、総じて協力的であったと松本さんは語っている。

日本の出版業界改革の為にも、アマゾンを応援したいという出版業界の人が多かったことは驚きであったと。

松本さんはカスタマーレビューこそアマゾンの成功の要因だと語っている。アマゾンのおすすめ度はカスタマーレビューのおすすめ度に基づいており、出版社などから提供される情報・意見よりも顧客の意見を尊重するというアマゾンの基本姿勢が良くあらわれている。

アマゾンではABテストという大規模なテストを行い、カスタマーレビューのあるサイトの方がカスタマーレビューのないサイトよりもコンバージョンレート(実購買率)が高いことを検証している。

ABテストとはある一定期間、異なるサイト構成のAバージョン、Bバージョンを展開して、どちらのバージョンが効果があったのかを測定する、いわば本番テストの様なものである。

また書籍に関してはカスタマーレビューの効果は高いが、音楽CDなどでは大きな影響は出ていないということも検証の結果、わかっている。

こんなデータがあったので、アマゾンジャパン立ち上げの時には毎週抽選で5,000名のカスタマーレビュー投稿者にアマゾンギフト券が当たるというキャンペーンを行い、順調にスタートさせたのだ。

アフィリエイトマーケティングの元祖アマゾンのアソシエイトプログラムと並び、カスタマーレビューも『買い手のマーケティング』という、昔ながらの口コミをITを使って実現する手法なのだ。


アマゾンのサイトは巨大なソフトウェア


アマゾンのURLには/OBIDOS/という文字が入っているが、これはアマゾン独自のシステムであり、マクロ言語である。これは顧客の購買行動から導かれた個人向けの情報を動的にページ生成し配信する仕組みだ。

いわばサイト全体が巨大なソフトウェアという性格を持っている。

アマゾンでは社内のヘルプデスクをリメディシステムと名付け、障害を発見した人は『リメディチケット』と呼ばれる障害報告をオンラインでシステムに登録する仕組みとなっている。

もしトラブルがあるとシアトルのビルダーと連絡を取って障害対応する。

松本さんが在職中に一度『インパクトレベル1のリメディチケット』が切られる事態が発生したそうだが、リメディチケットには5段階あり、最緊急の事態がインパクトレベル1である。


小さな書店

アマゾンは1995年創業で、しばしば経営危機がささやかれながらここまで成長してきた。

インターネットの先駆者だけあってアマゾンの開発したアソシエイトプログラム(アフィリエイトプログラム)とか、リコメンドなど、現在の消費者向けウェブサービスの最先端を走っている。

アマゾンの日本代表と言っても名前も顔もわからず、個人の顔が見えない会社であるが、ジェフ・ペゾスの『小さな書店』コンセプトをネット上で実現させるために、組織としての蓄積はすごいものがある。

そんなことを考えさせる本であった。

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Posted by yaori at 13:04Comments(0)TrackBack(0)