グーグルに依存し、アマゾンを真似るバカ企業 (幻冬舎新書)
著者:夏野 剛
販売元:幻冬舎
発売日:2009-07
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前NTTドコモ執行役員でiモードやおサイフケータイの推進者夏野剛さんの近著。
本のタイトルが過激だが、別にグーグルを使うなといっているわけではない。
以前の”Web 2.0”ブームでは、誰もがSNS(Social Networking Service)に走ったが、SNS大手のMixiもモバゲータウンも伸び悩んでいる。SNSを取り入れて、いかにビジネスに生かすかが課題なのだ。
今の”クラウド・コンピューティング”ブームで、その代表格のGoogle AppsやGメールを導入したり、アマゾンを真似てリコメンドなどを始めても、それだけで成功できる訳ではない。ビジネスが成功できるかどうかは、価値を創造して顧客を創れるかどうかであり、その意味ではリアルもネットも同じだと夏野さんは語る。
さらにiモードの仕掛け人だった夏野さんは、ケータイもパソコンもビジネスモデルに違いはないと言い切る。
ウェブビジネスの未来
この本で一番参考になったのは、第3章ウェブビジネスの未来だ。これは次の3節から成っている。
第1節 ウェブ広告の未来
ウェブ広告の身上は確実な効果測定で、ネット広告はマス広告を確実に超えると予言している。ラジオと雑誌はリスナー、ターゲットが絞られるという意味で、もはやマス広告ではなく、あくまで新聞・テレビとネットの比較だという。
未来の広告として、筆者も好きなスピルバーグの「マイノリティ・レポート」の個人にカスタマイズした広告を紹介している。
また夏野さんも、英国のTESCOのポイントカードを使ったデータベースマーケティングを、個人にカスタマイズされた販売促進の先進的な代表例として紹介している。
「TESC0の顧客ロイヤルティ戦略」に関しては、筆者も非常に興味を持っている。
その中心人物が書いた本を筆者のブログで紹介しているので、興味のある人は参照して欲しい。
Tesco顧客ロイヤルティ戦略
著者:C. ハンビィ
販売元:海文堂出版
発売日:2007-09
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第2節 仮想通貨(電子マネー)がウェブビジネスを加速させる
おサイフケータイと電子マネーは夏野さんがNTTドコモにいたときに、積極的に推進した戦略だ。
夏野さんはドコモ時代に「コンビニやタクシーで電子マネーを使えるようにする」という発想が、思った以上に受け入れられず、社内外の人を説得するのが大変だったと語っている。
「現金決済と電子マネーのどちらに将来の発展可能性があるか」という議論になかなかならず、売り上げアップと支払い手数料の費用対効果とか、店員教育の負担増といった目先のプラス・マイナスの議論となったので、普及は困難を極めたという。
このコメントは筆者には意外だ。
はたから見たら夏野さんが率いるドコモは、カネにあかせて三井住友カードの1/3を買ったり、ローソンなどのコンビニに出資して、おサイフケータイの端末を一気に普及させたりして、強引に推し進めていると思っていた。
いずれにせよ努力が実を結び、2001年11月にスイカとエディがスタートしてから、2008年10月で電子マネーの発行枚数は1億枚を超えて、さらに拡大しつつある。
電子マネーでも会員の個人情報と商品情報が収集できるので、IYグループのnanacoなどで、マーケティングに利用する動きが出ているという。
夏野さんは電子マネーを導入することにより、支払いが簡単になり、「ついで買い」が増え、客単価が上がると説得したという。
いまや多くのコンビニではiDや電子マネーが使えるようになっている。たとえば筆者はローソンではiD、7/11ではナナコモバイルが使えるので、もっぱら使うコンビニはローソンと7/11に限られている。
コンビニで小銭出すのが面倒くさいのだ。
夏野さんの狙った通りの効果が出ていると思う。これから多くの人がケータイで決済できる便利さを知ると、さらに利用は拡大するだろう。
第3節ネットメディアとデジタルコンテンツ
アメリカのNBSとNews CorpのジョイントベンチャーのHuluやYouTube、日本では夏野さんが取締役となっているドワンゴのニコニコ動画などが紹介されている。
マス広告市場の縮小に伴って、テレビ局の収益も悪化しているが、夏野さんはテレビは優良コンテンツを持っており、これをオンデマンドで有料で配信するか、広告付きで無料で配信すれば良いと提案する。
若者離れ、広告減のテレビを救うのはITだと。
ドコモで苦労したからだろう、随所に50代以上の経営者のインターネットリテラシーが低いことを批判している。
最後に夏野さんは「日本の将来は明るい。この明るさを生かして、IT時代を進んでいこう」と檄を飛ばす。
ドコモ時代に推進したiモードやおサイフケータイを使った様々なサービスが出てきている。
「先進的なIT技術に目を奪われて、海外の企業を真似たり、憧れたりするのは意味がない。自分たちのポテンシャルをもっと生かした先に、日本が持つ真の競争力が現れるのだ」と。
簡単に読めて参考になる本だった。
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