2017年01月15日

大前研一 「ビジネスモデル」の教科書 生きた題材を使った経営の問題集



大前さんがBBT(ビジネス・ブレーク・スルー)大学で、実際に取り上げた12のRTOCS(Real Time Online Case Study)の事例を、大前流に分析・考察・結論付けしたもの。

多くのビジネススクールが、すでに時代遅れとなった過去の事例(たとえば、「コダックとポラロイドの戦い」とか「ゲートウェイ2000はいかにしてトップシェアを取ったか」などという、ネットからデータも取れないような古い過去の話)を扱っていたりするという。

それに対して、RTOCSは現在進行中のフレッシュな事例を取り上げ、当事者たるリーダーと同じ立場に立って、自分ならどうするという自分なりの結論を出す訓練だ。

結論を出すためにどういった情報を集めて、それらをどう読み、どう分析し、どう活かすのかを徹底的に考える癖をつけることが目的だ。

BBT大学の学生は毎週1回このRTOCSに取り組み、リーダーになった気持ちで経営課題を考え、クラスでディスカッションする。

こういったトレーニングを2年間やれば、100本ノックならぬ、100本ケーススタディで、頭の回転も驚くほど速くなり、リサーチ作業や収集した情報を整理、分析するスピードも格段に上がると大前さんはいう。

この本で取り上げている12の事例は次の通りだ。

CASE 1 Coca ColaのCEOだったら

CASE 2 ローソンの社長だったら

CASE 3 UberのCEOだったら

CASE 4 任天堂の社長だったら

CASE 5 キャノンのCEOだったら

CASE 6 シャオミ(小米)のCEOだったら

CASE 7 ゼンショーの社長だったら

CASE 8 クックバッドの代表だったら

CASE 9 日本経済新聞社の社長だったら

CASE10 AirbnbのCEOだったら

CASE11 ニトリの社長だったら

CASE12 島精機製作所の社長だったら

それぞれのケースにBBT大学総研が作成した分析チャートが多く配置されており、その会社の現状の姿と経営上の課題が浮き彫りになる。

本来ならその分析まで自分でやるべきところだが、BBT総研の分析は非常にわかりやすく、その会社の問題点がよくわかる。

そのうえで、大前さんが考えるその会社が取るべき経営戦略を解説している。

たとえば、ローソンについては、成城石井の商品を取り込んで「ショップ・イン・ショップ」形式で商品力を強化すること、都心店舗ではコンシェルジュサービスを導入して、顔の見える営業を展開し、半径200メートル内の住民を確実に囲い込むこと、地方店舗は現状維持というものだ。

また、2007年の4.5兆円をピークに、リーマンショック後は売上高が低迷しているキャノンは、オフィス向けソリューション、医療、理化学機器分野、商業用・産業用プリンターという3つの収益事業を強化するために、M&Aを積極的に仕掛け、各分野で圧倒的なトップを狙う、などというものだ。

BBT総研の分析がわかりやすく、チャートが見やすいので、ついつい大前さんの考える経営戦略まで読み進んでしまうが、この本が最高に役立つのは、その会社の現状分析のところで、いったん読み進むのをやめて、そこで自分なりにアイデアを練って、それから大前さんの案を読むという活用法だ。

経営に正解などない。大前さんの案とは違ってもいいので、自分なりのアイデアを考える経営の問題集としての活用をおすすめする。


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2017年01月09日

おとなの法律事件簿 最新判例・法令がわかるコンプライアンスハンドブック



IT企業などの監査役や桐蔭法科大学院長としても幅広く活躍している蒲弁護士が、5年間「ヨミウリオンライン」の「おとなの法律事件簿」というコラムで書いた事例(フィクション)から16ケースを選んで、企業向けに再編集・加筆したもの。

どのケーススタディも「ヨミウリオンライン」に掲載した内容から、その後の判決などを織り込んで加筆・修正している。

16のケーススタディは実践的で、最新の判例や厚生労働省の指針等を反映しているので、企業の実務担当者にはコンプライアンスハンドブックとして役立つと思う。

この本で取り上げているケースは次の通りだ。

第1章 情報漏洩に関する事件簿

CASE 1 相次ぐ個人情報漏洩事件、企業における防止対策の決定打とは?

CASE 2 「産業スパイ」事件、うちの会社は大丈夫?

第2章 ハラスメントに関する事件簿

CASE 3 セクハラに対する企業の処分が、急速に厳罰化しているって本当?

CASE 4 社員から「パワハラ」の訴え、防止策は?

CASE 5 出産後にマタハラ、無事に職場復帰できる? パタニティーハラスメントの解説と共に

第3章 時間外労働に関する事件簿

CASE 6 話題のブラック企業、自分の会社がそう言われないためには?

CASE 7 実態が伴わない”名ばかり管理職”、残業代を請求できる?

CASE 8 50時間もの残業代、年俸制だと請求できない?

第4章 人事異動や退職に関する事件簿

CASE 9 嫌がらせ同然の上司による退職勧奨、法的に問題は?

CASE10 関連会社への出向命令、無効になる場合とは?

CASE11 転勤辞令、「子どもの通学」理由に拒否できる?

第5章 組織の不祥事に関する事件簿

CASE12 ライバル企業の社員の引き抜き、どこまで許される?

CASE13 内部通報で報復人事、配転の取り消しは可能?

CASE14 社内情報で妻や他人名義で株売買、インサイダー取引になる?

第6章 経営に関する事件簿

CASE15 当社も上場、企業にとってのIPOの意味とは?

CASE16 監査役への就任、賠償責任で全財産を失う?

法律本によくある、「この場合はAだが、こういった条件の場合はBで、さらに条件が変わるとCで…」といった、結論を言わない論点はぐらかしのような部分がなく、すべてのケースで「So What?」(だから、どうなの?)がはっきりしていてわかりやすい。
 
どのケースも参考になるが、特に筆者の専門分野である個人情報漏洩事件についてのCASE1が絶対おすすめだ。この本はアマゾンの「なか見!検索」に対応しており、CASE1は全文が立ち読み可能なので、ぜひこちらをクリックして、「なか見!検索」の画面を表示して、右側のスクロールバーを操作してCASE1の全文を読むことをお勧めする。

個人情報漏洩については、「悪意を持った内部者」の犯行を抑えられるかが重要なポイントであり、蒲弁護士は情報漏洩が割に合わない実態を教育で徹底的に周知すべきだと語る。

三菱UFJ証券の個人情報漏洩事件の犯人の三菱UFJ証券の部長代理は、わずか12万8千円の現金のために、そのまま勤めていればもらえたはずの数千万円の退職金を失い、懲役2年の実刑判決で収監され、離婚して家族も失った。

一生消えない刑事前科がつくので、再就職もままならず、さらに会社からも総額70億円と言われる損害の一部を賠償請求される見込みだ。

たった12万8千円のために、失ったものは計り知れなく大きい。

ベネッセ事件の犯人の刑事裁判では2016年3月29日に、不正競争防止法違反による3年6カ月の懲役、罰金300万円の判決が言い渡された。

この本では、社員の日常の変化を見逃さず事前に対応することの重要性、悩み事相談窓口の設置、ベネッセ事件を例にあげての記者会見での発言の注意点や、500円の金券に限らない補償のやり方など、至れり尽くせりの実務的な解説をしている。

その他のケースについて、参考になった点を紹介しておく。最近施行された法令・指針や判決が多く、この本の内容の新しさがわかると思う。

★営業秘密について、2016年1月に施行された改正不正競争防止法では、罰則が強化され、個人に対する罰金の上限は1,000万円から2,000万円に、法人に対する罰金の上限は3億円から5億円になった。国外に流出させた場合の罰金の上限は3,000万円と、法人10億円。

それに加えて、営業秘密侵害行為によって得た収益は、上限なく没収できることを定めている。また、当初は親告罪となっていたが、裁判で営業秘密を公開しない秘匿決定手続きが導入されたこともあり、非親告罪となった。海外のサーバーで管理されている営業秘密が、海外で不正取得された場合でも、処罰の対象となった。

★パワハラケースの最後に「心にしみる言葉」として、次が紹介されている。ある企業の人事担当役員の言葉だそうだが、パワハラケースでよく引用されているそうだ。

すべての社員が家に帰れば自慢の娘であり、息子であり、尊敬されるべきお父さんであり、お母さんだ。そんな人たちを職場のハラスメントなんかでうつに至らしめたり苦しめたりしていいわけがないだろう。」

★マタハラケースの最初に「ガラスの天井」をヒラリー・クリントンが破れなかったという米国の大統領選挙の話を紹介している。12月9日初版発行の本なのに、話題の新しさに驚かされる。判例や法令は常に新しいものが出てくるので、その意味では、この電子書籍+オンデマンド出版という出版形態は、このようなコンプライアンスハンドブックに適したものではないかと思う。

★マタハラ防止措置義務も2016年に動きがあり、厚生労働省が「事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」と「子の養育又は家族介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活の両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針」を2016年8月に公表し、2017年1月から施行されている。

パタニティーハラスメントについてもマタハラの最後に紹介している。東京都の小池知事が、就任早々、都の幹部職員に対して「イクボス宣言」をおこない、男性の育児休業取得率を2020年までに13%に引き上げる目標を掲げている。

★ブラック企業に関するケースでは、厚生労働省の「かとく」(過重労働撲滅特別対策班)が紹介されている。エービーシー・マート、大阪の「まいどおおきに食堂」などを運営するフジオフードシステム、ドン・キホーテなどが「かとく」が書類送検したケースとして紹介されており、2016年11月7日に電通の強制捜査に入ったのも「かとく」だ

★ケース12のライバル企業の社員の引き抜きも参考になる。サイバーエージェントの藤田晋社長は、ライバル企業に引き抜かれた社員に対して「激怒」し、それを社内に拡散させたという。

2000年頃に他社社員の引き抜きを行った際に、業界第2位以下の会社は寛容だったのに対して、業界1位の会社は「出入り禁止」とばかりにカンカンに怒り、その企業は今でも業界首位を維持しているという事例を見て、自分も不寛容と言われようが、社員が同業に引き抜かれた場合には「激怒する」という方針に決めたのだと。

社員の転職も、企業による社員引き抜きも原則自由で、競業禁止の特約はわずか6カ月の制限でも無効とされた判例がある。しかし、首謀者が部下をごっそり引き連れて転職するようなケースでは、損害の範囲は限定的ながらも、損害賠償責任を認めた判決もあり、ケースバイケースで考えなければならない。

会社側の対抗手段は、あまりなく、だからこそ藤田社長も意図的に「激怒」して、それをメディアに載せることでけん制したのではないかと蒲弁護士は推測している。

★ケース13の内部通報者に対する報復人事も参考になる。事例として挙げられているのは、オリンパスの内部通報者が、2007年に内部通報したら、必要のない配転命令を受けたケースだ。

訴訟に発展し、いったん2012年に会社側の権利の濫用を認めて最高裁で確定したが、その後も通報者は元の営業職に戻れず、2012年9月に損害賠償を求めて新たに訴えていたもので、2016年2月に和解が成立して、会社側が1,100万円支払うことになった

この間にオリンパスの粉飾決算による不正経理が発生している。不正経理に気付いた社員が、社内告発をしようと考えたが、内部通報制度で不利益を被った社員がいることを知り、社内通報をやめて、外部のフリージャーナリストに情報を提供したことから、明るみに出た。

オリンパスの内部通報制度が機能していれば、あれほどのダメージは受けなかったのではなかろうかと。

もともと「ヨミウリオンライン」のコラムだったこともあり、一般読者向けにわかりやすく解説している。コンプライアンスの担当者のみなならず、一般読者にも参考になる話題が多いと思う。

この本はオンデマンド出版なので、ネット販売と一部の大手書店のみで取扱っており、一般の書店には並んでいないため、まずはアマゾンの「なか見!検索」で、立ち読みすることをお勧めする。


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2016年12月25日

韓流経営 LINE LINEの世界展開を推し進めた中心人物とは

韓流経営 LINE (扶桑社新書)
NewsPicks取材班
扶桑社
2016-07-02


日本発のSNS、LINE株式会社の成功の裏側をNewsPicksに移籍した「週刊ダイヤモンド」の4人の記者が取材した本。

NewsPicksとは、経済情報に特化したニュースサイトだ。

LINEは日本企業だが、親会社は韓国最大のIT企業ネイバーだ。ネイバーは韓国での検索サービスNO.1で、韓国ではGoogleを寄せ付けない73%という圧倒的なシェアを誇っている。

この本では、次の3つの疑問を記者が追いかけている。

1.誰が本当の経営者なのか?

2.どこが本当の本社なのか?

3.LINEはどのように開発されてきたのか?


ネタバレ的に事実を示すと、LINEのストックオプションのランキング(本書238ページ)で、この答えが大体わかる(数字は丸めている)。

1位 シン・ジョンホ(LINE取締役 CGO 最高グローバル責任者 10.3百万株(想定売却益 152億円)

2位 イ・ヘジン(ネイバー会長) 5.6百万株(82億円)

3位 イ・ジュンホ 1.6百万株(24億円)

4位 パク・イビン 11万株(1億6千万円)

5位 出澤 剛  9万7千株(1億4千万円)

6位 舛田 淳  9万5千株(1億4千万円)

14位 森川 亮 5万3千株(8千万円)

想定売却益は、取得株価を1,320円、公募価格の2,800円で計算したものだ。

上記のストックオプションのランキングは本書238ページに掲載されているが、元々の情報はIPOの時に公開されているLINEの有価証券届出書(新規公開時)の最後の「株主の状況」に記載されている。

これを見るとネイバーの二人が圧倒的な貢献度であることがわかる。LINEは、もともと東日本大震災の際に、電話が機能しなかったことを見たイ・ヘジンが、新たにインターネットを使ったコミュニケーション手法として日本に来て短期間に開発したものだ

LINEの世界展開は目覚ましいものがあると感じていたが、実は韓国にあるLINE+(プラス)が世界展開の中心となっており、初期段階で各国に送り込まれたのは韓国のLINE+の人材だった。

日本のLINEの社員がかかわることは、ほとんどなかったという。

LINEの開発や、世界展開では日本のLINEがかかわることは少なかったが、LINEのマネタイズ(収益アップ)には2010年に買収したライブドアの人材がおおいに貢献した。

スタンプを広告商品として開発したのだ。この本では、その初期のヒットが「 アメイジング・スパイダーマン」の映画キャンペーンの一つとして導入されたスパイダーマンのスタンプだ。



LINEのスタンプのおかげで、スパイダーマンの情報を受け取るフォロワーは113万人に達したという。

LINEは2016年7月にニューヨークと東京で同時上場した。東証のルールは上場会社の35%以上の株式がオープンな市場で取引されなければならないというものだが、同時上場の場合は、このルールは免除される。だから韓国ネイバーが株の80%強を保有したままLINEは東京市場で上場できたのだ。

筆者もLINEを使っており、家族間のコミュニケーションは、昔はメールだったが、今はほとんどLINEだ。非常に便利なLINEは、実は日本の会社というよりは、韓国の会社だったわけだが、そんなことはLINEの価値には関係ない。

世界にはFacebookが買収したWhatsAppという手ごわい競合がおり、LINEはアジア、WhatsAppは欧米というテリトリーわけができている。

上場で資金を得たLINEが、今後どのように世界展開を拡大していくのか。興味のあるところである。

上記のシン・ジョンホさんと、イ・ヘジンさんのリンク先の日経ビジネスの記事を見ただけでも、かなりの情報がわかるが、この本もわかりやすく、よくまとまっている。

お勧めの一冊である。


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2016年12月11日

電通マン36人に教わった36通りの「鬼」気配り いまは逆風だが



高橋まつりさんの過労死自殺で、いまや社会全体からブラック企業の代表とみなされ、逆風下にある電通マンの気くばりの紹介。

「バブルへGO」などの作品で知られる正体不明のクリエイター集団、ホイチョイ・プロダクションズがまとめたものだ。



著者(たぶんホイチョイ代表の馬場康夫さん)は、大手電機メーカー(日立製作所)の宣伝部に勤務した経験があり、当時電通や博報堂などの広告代理店とつきあっていたという。

当時は、他の会社の人が平気で社内を歩き回っていた時代で、電通の営業が「お茶にでも」と誘うのは、部長か部長代理、下はせいぜい主任どまりで、ヒラ社員や窓際族は全く誘われなかったという。

一方、博報堂の営業は決裁権のない若い部員でもバンバンお茶に誘ってくれたから、若手社員は電通よりも博報堂の営業と親しくなった。

広告の良しあしで扱いを決める「競合プレゼン」で、博報堂がいいアイデアを出しても、キャンペーンの扱いはたいてい電通に行ってしまった。だから、若手社員は電通は日ごろのおべっか攻勢で、決定権のある部長や副部長を抱きこんでいるからだと噂しあった。

電通のような「寝技」で仕事を取るのは邪道で、広告の扱いはクリエイティブ力やメディア・プラニング力で決められるべきものだから、電通よりも博報堂を心から応援していた。

しかし、仕事を続けるうちに、その考えが変わってきたという。電通は、得意先、それも決定権のある得意先に対して小さな「貸し」をできるだけたくさんつくっておく、あるいは小さな「借り」をできるだけつくらないようにするという点で、端倪(たんげい)すべからざる(はかりしれないという意味)技術を身につけていたという。

以下で紹介するような細かな気くばりのノウハウが伝承されていて、ビジネス上の大きな成果を生んでいたのだ。

そのことに気が付いたのは、ある程度自分でも仕事を任される入社5〜6年後だったという。

博報堂の社員は好人物が多く、共通の話題などで一緒に盛り上がれるが、自分がある程度仕事を任され、多忙になって、リアルなサービスを求めるようになってくると、話は別だ。

博報堂の新入社員は「得意先を不愉快にさせないことが基本」という原則論を学ぶが、原則論だけでは、この本に紹介されているような小技は身につかない。細かな気くばりの技術は会社全体で蓄積し、体系立てて教育しないと伝承されない。

そういう電通の気くばりは、実は立派なクリエイティブではないかと、ある時からリスペクトするようになったという。

そうした気くばりは、電通だけではない。グローバル・スタンダードなのだと。

この本では、電通の吉田英雄社長が1961年に訪米した時に、表敬訪問した全米最大手の広告代理店ヤング&ルビカムで、吉田社長が大のゴルフ好きなことを調べていたヤングの会長から漢字で正確に吉田英雄と刺繍してあるゴルフバックと、吉田のイニシャルを刻んだゴルフボールをプレゼントされたことを紹介している。

この本の冒頭で、ディズニーランドを日本誘致するときに、三井不動産と三菱地所が競合した時の話を紹介している。三菱地所はディズニーの一行を100キロ離れた富士山麓にバスで連れて行った。

三井不動産は一行をバスで千葉県の舞浜に連れていき、近さを強調するために、バスで食事をとった。バスには小さい冷蔵庫しか置いていなかったにもかかわらず、ディズニーのミッション6名全員に振り袖姿のコンパニオンが、食前酒を「なんでも注文してください」と言った。

メンバーは半信半疑で、めいめい「ブラディメアリーを、ウォッカはストリチナヤで」とか、「ペリエ」とか勝手に注文したが、すべてその小さな冷蔵庫から飲み物は取り出され、メンバーの一人は「あれはアイスボックスじゃなくて、マジックボックスだ」と驚嘆したという。

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実は三井不動産は、ロスアンジェルスの広告マンから、ディズニーの来日メンバーが普段どういう食前酒をのんでいるかのレポートを受け、各人の注文が3パターンしかなく、しかもその多くはダブっていることをつかんでいた。だから小さい冷蔵庫にすべてを詰め込むことができたのだ。

もちろん結果は、舞浜を押す三井不動産の勝利に終わった。

当時の三井不動産の担当者の堀貞一郎は、のちに電通に移っている。

それでは36の「鬼」気くばりを紹介しよう。全部紹介するとネタバレとなってしまうので、ピックアップして紹介する。( )カッコ内に筆者のコメントを付け加える。

1.安物の同じボールペンを必ず2本持ち歩く。(得意先に差し上げて、「貸し」をつくるためである)

2.お詫びやお礼をメールだけで済まさない。

3.名刺は相手より下から出す。

4.得意先の吸っているタバコを常に携行する。

8.3日後に100%の答えを出すより、翌日、60%の答えを出す。(これが高橋まつりさんの過労自殺につながった電通の流儀なのかもしれない)

10.接待の席には、相手の家族向けのおみやげを用意する。

11.見送りはタクシーが角を曲がるまでおじぎをつづける。(この本の著者も同じことを経験したことがあるという。博報堂の営業は解散していたが、電通の営業はおじぎを続けていたと。最近は車のディーラーでも同じことを徹底している)

12.得意先にタクシーで行くときは、100メートル手前で降りて歩く、

14.宴会やゴルフには写真係を置く。

16.葬儀用に白黒の名刺を用意する。

17.葬儀は必ず最後まで参列する。

20.接待では、相手の行きつけの店を予約し、こっちが払う。

22.土下座は、相手の怒りのピークではしない。一晩置いて、翌日みんなでする。

23.メールでCCは多用しない。相手の文面は要約して送る。

26.宴会のために揃いのハッピを作る。

28.会議室は最後に出る。建物は最初に出る。

29.クリップは絶対に相手の社名や「御中」にかけない。

30.口が裂けても逆接の接続詞は口にしない。(「ですが」、「だけど」、「やはり」は禁句、まずは相手の言うことを肯定し、そのあとで、「こういうふうにも考えられないでしょうか」と切り出す)。

32.書類に上司と並んでハンコを押すときは、上司より下に、斜めに傾けてつく。(筆者は全く知らなかった)。

最後に東日本大震災の時に、福島第一原発が水素爆発を起こした時、東京電力に乗り込んで、幹部を怒鳴りつけて「原発から撤退したら東電は潰れる」と恫喝した菅直人の話が載っている。

気くばりの名人木下藤吉郎だったら、どう行動しただろうかと。

菅直人の仕事ぶりは、広告代理店にたとえると、プラニング能力や調査といった「理」の部分は抜群だが、しばしば、それを実行する人を動かすための「気くばり」に欠ける博報堂の仕事ぶりに似ている気がすると、著者の馬場さんはいう。

田中角栄や小沢一郎に代表されるかつての自民党政治は、プランニングや調査といった「理」よりもむしろ、「気くばり」で人を動かし、ものごとを進めてきた電通の仕事ぶりに似ていると。

電通はいまやブラック企業の代表のように言われているが、営業力はじめ広告代理店としての力は抜群だ。その営業力の基本となる「気くばり」が紹介されている。一つ一つを取ってみると、それほどスゴイ気くばりではないが、これらすべてをできるのが、本当の電通の営業なのだろう。

「鬼十則」を廃した電通がこれからどこへ行くのか。興味があるところである。


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2016年11月27日

日本でいちばん大切にしたい会社2 今度は亀田総合病院など



全部で5巻発行されている「日本でいちばん大切にしたい会社」シリーズの第2巻。

第1巻では、このブログで紹介した知的障がい者が社員の7割を占め、ホタテ貝殻を使って粉の出ないチョークをつくっている日本理化学工業などが紹介されている。



今度は次の8社が紹介されている。

1.株式会社富士メガネ(北海道)
「困っている人を助けたい」―世界の難民や中国残留孤児に「視力」を贈る感動のメガネ店

松下幸之助や司馬遼太郎が愛用したメガネをつくったことでも有名な株式会社富士メガネは、世界の難民や残留孤児にメガネを贈る活動をしている

日本で初めてUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)より「ナンセン難民賞」も受賞している。

2.医療法人鉄蕉会亀田総合病院(千葉県)
「もう一度入院したい」と患者が言う病院のモットーは「Always say YES!」

先祖は江戸時代に長崎でシーボルトに西洋医学を学んだという亀田家が運営する総合病院

浅田次郎の「天国までの100マイル」のモデルにもなっている。




千葉県の鴨川市にある亀田総合病院は、最先端の設備と優秀かつ熱心なスタッフによるサービスだ。

その象徴がホテルのような病院・Kタワーで、この最上階に霊安室があるという。

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出典:Wikipedia

このカラフルで奇抜なつくりの建物は、鴨川に行くと遠くからもよく見える。

亀田総合病院のモットーは、"Always say YES!"だという。このブログで紹介したリッツ・カールトンのサービスのようだ。


3.株式会社埼玉種畜牧場「サイボクハム」(埼玉県)
「日本人の食糧不足をなんとかしよう」―使命感に燃えて牧場を経営、「農業のディズニーランド」を実現する

元陸軍・獣医の笹崎龍雄さんが埼玉県で1946年に創業したサイボクハムは、日本の食糧自給率を上げることを使命としていた。

サイボクハムのウェブサイトには、創業者の笹崎さんの「求道豚心」という小冊子がeブック形式で読めるようになっている

本社・工場には、ミニゴルフ場、アスレティック、レストラン、売店、温泉館、子豚とふれあえるトントンハウスなどが併設されていて、買い物とレジャーが同時に楽しめるような施設となっている。


4.株式会社アールエフ(長野県)
「小さな命をもっと救いたい」―世界が驚くカプセル内視鏡を開発。「人間の幸せ」を追い求める中小企業

小型のCTや、バッテリー不要のカプセル内視鏡を開発・販売している会社。

カプセル内視鏡は、社員の投票で、「Sayaka」という名前にしたという。初代の製品名は「Norika」だった。

社員食堂では、昼食は「くじ引きランチ」という形にして、くじ引きで昼食の時に座る席を決定し、社員同士のコミュニケーションを促進している。

女性活用にも積極的で、社員175名のうち、女性は1/3だが、部長職は2/3が女性で、課長以上の管理職は半分が女性だ。

病院向けの営業は訪問営業せずに、東京、名古屋、大阪、福岡に巨大なショールームのような店舗を置いて、ソファーやゆったりできる応接セット、子供の遊び場も用意されており、医師が子供連れでも、自由に訪問できるように配慮されている。

店舗にはアールエフの商品が展示してあり、実際に動かすことができるようになっている。

5.株式会社樹研工業(愛知県)
社員は先着順で採用。給料は「年齢序列」の不思議な会社

プラスティックの射出成形の会社。自社の技術力の高さを示すために、世界一小さな歯車などマイクロ成形品を製造している。

この会社には出勤簿もタイムレコーダーもなく、社員の採用は先着順だという。給料は「年齢序列」、最高齢の社員が最高給だという。

定年はなく、辞めたい時が定年の時としている。社員からは、「私が定年になったときは、子供を入れてほしい」と言われているという。


6.未来工業株式会社(岐阜県)
「日本でいちばん休みの多い会社」だから、不況知らずの会社になれる

この会社は現在採用募集はしていないようだが、会社のウェブサイトの採用ページに「社員への考え方」が述べられている。

「『社員への考え方』

 当社は、社員の「やる木」を育てることを経営の柱にしています。

 一日の大半を過ごす会社で、何から何までがんじがらめでは、社員はそんな会社のために努力しようという気が起きてくるはずもありません。

 そのため、当社は、外せる制約はできるだけ外そうと考えています。

 具体的には、作業服は自由にしました。1日の労働時間は7時間15分、年間休日日数は約140日という日本有数の休みが多い会社です。

 ところで、個人の能力はまちまちです。個々人の能力に差があるのは仕方ないことですが、各々が持っている能力を100%発揮して、皆が力を合わせていくことが大切だと考えています。

 また、社員はプラス思考をすることが大切だと考えています。経験則もないのに「もしも?・・・」というマイナス思考は禁句です。先ず、実行し、その先で万一問題点が発生した時にはその改善をする考え方が、会社発展の基本線です。

 そして、何よりも、社員の自主性を尊重します。」

という具合だ。この会社では残業すると、罰金を徴収するという。


7.ネッツトヨタ南国株式会社(高知県)
全盲の方と行く四国巡礼の旅で、人の本当のやさしさを学んでもらう

トヨタディーラーの顧客満足度で全国NO.1を続ける高知県にあるトヨタ車ディーラー。ショールームはホテルのラウンジのような雰囲気だという。

全車種試乗可能で、試乗期間は、2日間48時間だ。

2回目に訪問したお客は、入口の出迎えスタッフから「〇〇様、こんにちは」と名前を呼びかけられるという。

店の外にいるスタッフが入店してくる車のナンバーを読み上げ、それを別のスタッフがパソコン画面に入力すると、顧客の情報がわかるシステムを全社員が活用しているからだ。

まるで、このブログで紹介した「リッツ・カールトンで学んだ仕事でいちばん大事なこと」のリッツ・カールトンのドアマンとフロントの連携サービスのようだ。



顧客の名前や住所のほか、何回目の来社か、前回は誰と来たのか、どこへ座ったか、どんな飲み物を注文したのか、コーヒーに砂糖を何個入れたか、ミルクを入れたか、どんな新聞や雑誌を読んだかなどを、詳細に記録するという。


8.株式会社沖縄教育出版(沖縄県)
本当に世の中に役立つ事業をしたい。一人ひとりの命が輝く会社になりたい

「障がい者を受給者から納税者へ」、というモットーで、障がい者を積極的に活用している沖縄の会社。教育出版という社名だが、物品販売なども手掛けている。


第1巻は、感動を呼ぶストーリーが多かったが、この第2巻は、どちらかというとサービスが優れた会社や、社員扱いが優れた会社を取り上げている。第1巻を読んでから、次に進むとよいだろう。


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2016年10月15日

「0から1」の発想術 大前研一のアイデア発想法

「0から1」の発想術
大前 研一
小学館
2016-04-06


常に考えるヒントを提供してくれる大前研一さんの近著。

この本では、基礎編として次の11の発想法を紹介している。

1.SDF(Strategic Degrees of Freedom)戦略的自由度 消費者の求めているものは何か?

2.アービトラージ 情報格差

3.ニュー・コンビネーション 組み合わせで成功する

4.固定費に対する貢献 稼働率は利益率と直結

5.デジタル大陸時代の発想 5年後の生活を予想する 

6.早送りの発想 グーグルの動きを「ヒント」にする 孫正義氏の”時間差攻撃”

7.あいているものを有効利用する発想 UBERAirbnb

8.中間地点の発想 「業界のスタンダード」を捨てる 4枚増えて値段は同じ。どっちが得か(富士フィルムの24枚撮り)

9.RTOCS(Real Time On-line Case Study)/他人の立場に立つ発想 2つ上の立場で考える

10.すべてが意味することは何? "森全体”を見る視点にジャンプする

11.構想 ウォルト・デイズニー X ワニのいる湿地

そして実践編として、次の4つの「新たな市場」を作り出す発想法を紹介している。

1.感情移入 ナイキ創業者は大学生のウッズに興奮した

2.どんぶりとセグメンテーション セグメンテーションで生まれるビジネスチャンス

3.時間軸をずらす 手元に資金がなくてもビジネス開発は可能

4.横展開 アパレル企業がトヨタに学んで急成長

おわりに 「0から1」の次は「1から100」を目指せ

読みながら自然と考えるので、大変参考になる。

たとえば、ニューコンビネーションで紹介されているコンビニの話。

日本のコンビニ業界の中で、セブンーイレブンは突出している。一店舗当たりの平均日版がセブンは67万円に対し、ローソンは55万円、ファミマは52万円である。

コンビニの売り上げは基本的には立地で決まるが、セブンに客が集まるのは、企画力、商品開発力に差があるからだ。

たとえば「セブンカフェ」は2013年にスタートし、今では7億杯飲まれているという。マクドナルドから客を奪い、客数は増え、調理パンの売り上げは3割増、スイーツは2割増になったという。

プライベートブランドの「セブンプレミアム」も成功しており、イオンの「トップバリュ」を上回り、ほぼ1兆円の規模となっている。

大前さんは近所の各コンビニを定期的にチェックし、気になった商品は実際に購入して試している。セブンには他のコンビニにはないユニークな商品、少し値段は高くても、つい買いたくなるような商品が並んでいるという。

この本の中で、「あなたがローソンの社長だったら」というケーススタディを出している。

この本が出た後、三菱商事がローソンを子会社化すると発表した。

1,500億円程度の投資で、ローソンの収益を連結でき、大きなリターンを上げられるので、三菱商事の資本政策上は得策であることは間違いない。しかし、肝心のローソンにとっては、三菱商事の子会社になることはプラスとなるのか不明だ。

セブンやユニー(サークルKサンクス)と経営統合してローソンを売り上げ規模で抜いたファミマとの競争上、商品企画力がカギとなると大前さんはいう。

筆者の考えでは、ローソンは商品開発力もさることながら、売り上げ予測に基づく在庫管理に難があるように思える。

筆者はローソンのツナ&タナゴサンドは、わざわざローソンまで買いに行くほど気に入っているが、品切れとなっていることが多く、ローソンに行っても何も買わないで出てくることがよくある。

サンドイッチがなければ、おにぎりを買うという気にはならない。ローソンのおにぎりはおいしいと思うが、筆者は定番のツナ&タマゴサンドが好きなのだ。ローソンになければ、仕方ないので他のコンビニで買う。

売り上げ機会の喪失は、データには出てこないので、ローソンは実態をつかめていないのではないかと思う。セブンは売り上げ機会の喪失を一番に考えて、英語にまでそのまま取り入れられている「単品管理」という考えを導入した。

このあたりのことは、このブログで紹介している「鈴木敏文の『本当のようなウソを見抜く』」に詳しいので、参照してほしい。



いくつか印象に残った話を紹介しておく。

熊本県の黒川温泉の話。

熊本県の黒川温泉は、温泉のウェブサイトにも「黒川温泉は九州の北部中心くらいにあります。山間部の為公共交通機関ご利用はご不自由をお掛けいたします。できればお車かレンタカーのご利用がよろしいかと思います。」と書いてあるような不便な場所にある。

それでも黒川温泉は全国の人気温泉地トップクラスにある。「黒川温泉一旅館」というコンセプトのもとに、乱立していた旅館の看板200本をすべて撤去するなどで景観を統一し、風情ある街並みを完成させ、一つのブランドとしたのだ。

そして、3か所の旅館の露天風呂に入れる「入湯手形」を販売した。そうすると、全部で24か所の露天風呂があるので、全部制覇しようというリピーターが現れて人気を呼んだ。

黒川温泉のウェブサイトを見ると、全旅館の空室状況が一覧でわかるようになっている。温泉旅館全部が協力して、みんなで消費者の利便性を高めようとしていることがわかる。

今年は熊本地震があり、最近阿蘇山が噴火した。旅館の予約状況を見ると、黒川温泉はあまり影響がないように思えるが、ぜひみんなで力を合わせて苦境を乗り越えてほしいものである。

「構想」の事例として挙げられているシティグループの”10億人の口座”という構想も面白い。

1984年に45歳の若さでシティバンクの会長兼CEOに就任したジョン・リードは、これからの銀行のあり方を構想し、「これからは10億人の口座がないと、銀行はリテール部門で生き残れない。だから10億口座はなんとしてでも必ず達成しろ」と指示したという。

この構想から生まれたのが「電子ウォレット」という携帯電話のサービスだ。

シティバンクは現在160カ国以上の国と地域に2億人の口座を持っている。インドのバンガロールでは、最低預入額を25ドルとしたバンキングサービスを始めて、大ヒットしたという。10億人に向けて突き進んでいる。

今はマイクロソフトの傘下に入ったが、フィンランドのノキアのヨルマ・オリラ元会長兼CEOの構想力も優れている。

ノキアは元々はゴムの長靴やタイヤ、紙、電子部品を製造する小さな会社だったが、オリラ氏は「携帯電話を誰もが持つ時代がやってくる」という構想のもと、1988年には当時のCEOが自殺し、倒産寸前だったノキアを携帯電話会社として転換し、一時は世界一の携帯電話メーカーに変貌させた。

「感情移入」に関しては、ナイキの元CEOフィル・ナイト氏やアップルの故・スティーブ・ジョッブス氏の話を紹介している。

大前さんはナイキの社外取締役を務めていた関係で、ナイキの元CEO、ナイト氏をよく知っている。

ナイト氏はいろいろな業界からマネージメントを依頼されるが、「23時間働く覚悟」を持てる仕事でないと、断ってしまう。たとえば、感情移入できないから「電気は苦手」だという。

「やることすべて成功する必要はない。何回失敗しようが、最後の1回で成功すれば、あなたは成功者と呼ばれる」

とよく口にしていたという。

このブログで紹介しているヴァージン・アトランティックのリチャード・ブランソンも、すぐれた構想力が成功の要因だ。



最後の「手元に資金がなくてもビジネス開発は可能」は、発想の転換の一例で、参考になる。

大前さんがマッキンゼー時代に手掛けた案件で、香港の新空港を香港政庁の資金を使わずに建設したNPV(Net Present Value)という考え方だ。

まず新空港ができると、収益が見込めるものをすべて書き出してみる。

・航空機着陸料
・ホテル事業
・エンジン整備などのメンテナンス事業
・免税店の出店料
・レストランなどのテナント料
・荷物のハンドリング

こうした収益事業を権利化して、金融機関に抵当に入れて、建設資金を調達する。問題点は、空港が開港すると、収益を先取りしてしまったために、全く収益が見込めないことで、NPV化した事業とは別の付加価値の高いサービスを考え出していく必要がある。

大前さんは今年73歳になったと思うが、何歳になっても大前さんの本は、フレッシュな話題で参考になる事例が満載である。

具体的事例が多く、簡単に読めるので、一読をお勧めする。


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2016年10月09日

アドテクノロジーの教科書 専門書だが役にたつベストセラー



電通の昨年入社の女性新入社員が、昨年末自殺し、彼女の自殺が労災=過労死に認定された。自殺直前の彼女の残業は105時間に達し、うつ病も発症していたという。小さい時に両親が離婚し、お母さんに育てられて東大の文学部を卒業し、昨年電通に入社したという。

残されたお母さんが記者会見しているのを、ニュースで見るのがつらい

ネットで彼女のツイッター書き込みなどにより、勤務実態や周りの上司・同僚の扱いが紹介されている。

悲劇はまた繰り返されたか!という感じだ。

もっとも、この話は電通だけの話ではない。他の会社でもある話だ。

自殺までには至らないにしろ、社員がメンタルダウンになる事例が続出して、どの会社でも社員の健康管理と残業の規制を厳しくしている。

2015年12月から一事業場で50人以上社員がいる会社には、ストレスチェックという定期的ストレス検査が法律で義務付けられている。

筆者の会社も昔は36協定違反の残業は、翌月に始末書を事務的に出せば済んだが、今は36協定違反が発生するとコンプライアンス違反として社長報告が必要になっている。

広告業界は残業が恒常化しているのかもしれないが、電通も36協定違反は、コンプライアンス違反なので、撲滅が必要だという意識を持つ必要があるだろう。

彼女は電通のダイレクトマーケティング・ビジネス局デジタル・アカウント部で、インターネット広告を担当していたという。

この業界特有の事情も自殺の要因になった可能性もあると思う。

アドテクノロジーが日進月歩で進化していて、まわりが何を話しているのか、わからないことがあったのではないか?

だからせっかく作った提案が、ポイントを押さえておらず、使い物にならないので、ボロクソに言われたのではないか?

IT業界のように、アドテクノロジー業界も三文字略語が氾濫している。

たとえば、DSP、SSP、DMP、PMPはインターネット広告を担当していれば、最低限知っておかなければならない業界用語だが、なんの略かお分かりだろうか?

DSPはDemand Side Platform、SSPはSupply SIde PlatformDMPはData Management PlatformPMPはPrivate Market Placeだ。

これがやたらに話に出てくる。

現在のネット広告業界の業界地図は次のカオスマップの通りだ。


出典:カオスマップ2015−2016

これを理解するために絶対必要なのが、この「アドテクノロジーの教科書」だ。この本の著者は株式会社マクロミルの広瀬信輔氏で、マクロミルのDigital Marketing Labの責任者だ。

もっとも、広告代理店で働いていても、この本を一読しただけではわからない。

アマゾンのカスタマー・レビューに投稿している広告代理店勤務の人のコメントのように、5度くらい読み返す必要があるだろう。

筆者は10年ほど前までは、ネット企業の経営に携わっていたので、広告業界の事情には詳しいと思っていたが、この本を読んで過去の経験が全く陳腐化して役に立たないことを痛感させられた。

筆者がネット業界を離れたのは2007年だったが、2008年から日本でもアドネットワークという「広告配信ネットワーク」が登場した。

アドネットワークに入札・入稿することで、広告主は多数のウェブサイトに広告を配信できるようになったのだ。それからは、急速に時代は変化しており、現在の業界図は上記のカオスマップのように入り組んでいる。

この本はアマゾンのなか見!検索に対応していないので、なんちゃってなか見!検索で、目次を紹介しておく。

Chapter 1.History & Technology

01 アドテク登場以前のインターネット広告
02 アドネットワーク 〜 第三者配信のはじまり
03 BTA(Behavioral Targeting Advertising)
04 アドエクスチェンジ 〜 広告枠の取引市場化
05 オーディエンスデータ/オーディエンスターゲティング
06 DSP/SSP
07 3PAS(第三者配信アドサーバー)
08 アトリビューション分析
09 アトリビューション分析 〜 MIHモデルの概要と事例
10 アトリビューションマネジメント 〜 広告弾力性の問題
11 アドベリフィケーション
12 アドベリフィケーション 〜 調査結果:DSP配信枠の品質
13 DMP(データマネジメントプラットフォーム)
14 DMP 〜 活用事例
15 PMP(プライベートマーケットプレイス)
16 【チェック】 GDN(Google Display Network)のターゲティングの種類と活用方法

Chapter 2. Creative

01 動画広告
02 インストリーム広告の配信事例
03 動画広告の課題とこれから
04 リワード広告/アフィリエイト広告/ブースト広告
05 インフィード広告(イン〇〇広告)
06 ネイティブアドと記事広告の違い(ネイティブアドの解説)
07 ソーシャルメディアマーケティングの成功企業と失敗企業

Chapter 3. Measurement

01 ディスプレイ広告の2つの役割と効果測定方法
02 インバナーサーベイとリードバナーアンケート、ブランドリフト調査の新手法の解説
03 リサーチと購買データを活用した効果測定の事例 〜 株式会社マクロミル
04 クロスメディア効果測定の事例 〜 株式会社インテージ
05 【チェック】スマートフォン対応によって、ウェブサイトのアクセス数は増加するのか?

Chapter 4. Player

01 海外プレーヤー Criteo
02 海外プレーヤー Rocket Fuel
03 海外プレーヤー Rubicon Project
04 海外プレーヤー TubeMogul
05 国内プレーヤー FreakOut
06 国内プレーヤー サイバーエージェント
07 国内プレーヤー VOYAGE GROUP
08 国内DMPパッケージの位置づけ
09 株式会社オムニバス(DMPサービス解説 Pandora)
10 株式会社PLANーB(DMPサービス解説 Juicer β版)
11 最近の買収情報まとめ
12 新規参入について筆者が思うこと

Chapter 5. Market

01 カオスマップのカテゴリ解説
02 市場規模
03 PMPがもたらす広告取引市場の変化
04 DMPと3PASは今後どうなるの?Googleサードパーティポリシー変更の背景考察
05 DMPの市場と課題とマーケティングオートメーション
06 マーケティングオートメーション X DMPの事例
07 動画広告の市場と課題と未来
08 新たな市場を作れるか?CMP(コンテンツマーケットプレイス)

Special Contents

01 DSPを語る 〜 ヤフー株式会社 高田 徹氏
02 DMPを語る 〜 日本オラクル株式会社 福田 晃仁氏
03 動画広告を語る 〜 株式会社オムニバス 山本 章悟氏
04 ネイティブアドを語る 〜 株式会社グラーダーアソシエイツ 荒川 徹氏
05 アトリビューションを語る 〜 アタラ合同会社 岡田 吉弘氏
06 タグマネジメントを語る 〜 Fringe81株式会社 佐藤 洋介氏
07 アドテク業界を語る 〜 株式会社Legoliss 酒井 克明氏

筆者のいた時代のネット広告は、サイトの広告枠を期間単位で広告代理店経由広告主に販売し、クリエイティブは広告主が制作したものを掲載するか、あるいは自社で広告主から提供された素材を使って製作するかというものだった。

1対1の取引だ。

現在は、ネット広告が進化し、RTB(リアルタイムビッデイング)で、表示された広告枠に広告主がリアルタイムで入札して、最も条件のよい広告主の広告を掲載するというのが現在のバナー広告表示のやり方だ。

広告の表示にゼロコンマ数秒間があくのは、その間に自動的に入札して、最も条件のよい広告主の広告を選択しているからだ。

もっとも、こんな時代になっても、優良広告枠は入札では販売されず、相対取引で販売されている。広告を掲載するメディア側が、優良広告枠を入札で販売すると、自社のブランドイメージを損なう広告が入ってくることを懸念しているためだ。

その意味では、優良広告枠については、依然として昔からの相対取引が生き残っている。すべて自動入札で販売されているわけではないのだ。

冒頭に紹介した電通の新入社員の過労死の例もあるように、広告配信技術は進歩したが、広告営業は人間系のソリューションが必要である。

そのことを知って、ちょっとほっとした。

専門書なので、広告業界に携わったことがない人には、ちょっと難しいかもしれない。

著者の広瀬さんが主宰しているDigital Marketing Labのウェブサイトにアドテクに関する説明がある

また、以前「渋谷ではたらく社長の告白」のあらすじを紹介した藤田晋さんのサイバーエージェントが、積極的に宣伝しているので、サイバーエージェントの「日本一やさしいアドテク教室」も参考になる。



時間があれば、サイバーエージェントのアドテクノロジー説明会が同社のウェブサイトに掲載されているので、これを見ることをお勧めする。



筆者の率直な感想は、いつまでもあの業界に働いていなくてよかった、というものだ。日進月歩のアドテクの進化には到底ついていけない。


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2016年06月14日

技術大国幻想の終わり 日本産業界の生きる道は「価値」の追及



失敗学の権威・畑村洋太郎東大名誉教授の近著。

この本のカバーに結論が書いてある。

「技術では負けていない!」という思い込みを捨てよ。

「品質」、「機能」はもはや競争力にはならない。これからは人々の欲しがる「価値」を突き詰めろ。


まさにその通りだと思う。

畑村さんは、まずご自身が昔読んで感銘を受けたという「碧素(へきそ)・日本ペニシリン物語」を紹介する。



第2次世界大戦中にアメリカ・英国で実用化されて、多くの傷病兵を救うことになるペニシリンが開発されたという事実を、戦争中にドイツから戻った潜水艦が持ち帰った医学誌で知った日本の医学者が、非常な努力の末、10カ月という短期間で開発に成功する話だ。

戦後50年の日本は、次の絵のように、闇夜に光る灯台のように「答えは存在する」という事実があるだけで、人はその方向に向かって努力し続けられてきた。畑村さんは灯台に向けて和船で漕いでいる絵をシンボリックに掲載している。

ちなみに、この絵は西伊豆の戸田(へだ)で、和船を漕いだことがある人にはピンとくるはずだ。そう、戸田湾の湾口突破すると、左に灯台が見えるのだ。

畑村研究室(現在は中尾研究室)は、毎年研究室の夏合宿を戸田で行っているから、この和船の絵になったのだ。

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出典:本書20ページ

しかし、それに次ぐ20年は、「答え」を自分で探さなくてはいけなくなって努力の方向を見失った20年間なのだと畑村さんは語る。

日本の産業界が行き詰っている原因は日本の製品の品質が世界一だという品質幻想だ。品質幻想には次の3つがある。

1.「日本人がつくるものが優れている」という幻想。
 たとえば、日本でつくる日本車のほうが、海外でつくる日本車よりも品質は優れているというような幻想だ。実際には、日系自動車会社ではブラジルで作っている日本車と日本でつくっている日本車の品質は変わらないという。むしろブラジルのほうが、生産性が高いので、日本より良いという。

2.「職人の技幻想」
 たとえばアップルのiPodのステンレスケースは、当初新潟県の燕の金属加工業者が加工していた。ところが、そのうち中国でもできるようになり、燕への注文は来なくなった。職人の技がデジタル制御の加工機械に置き換えられているのだ。

3.品質という言葉に対する間違った理解
 品質とは、あくまで消費者の要求に応えているかどうかで決まってくる。「品質の良いものをつくれば売れる」というのは誤解だ。消費者が求めているのは、良い品質だけではない。「適切な品質」、「適切な価格」、「デザイン」、「必要な機能」、「使いやすさ」、「楽しさ」、「サービス」といった要素すべてで、これらを満たす製品が良い製品なのだ。

もう一度消費者と向き合い、市場を観察しないと、まさに闇夜に海図も持たないで漕ぎ出すことになってしまう。

消費者の求めているものをつくるということを徹底しているのが、韓国のサムスンだ。

この違いは、「価値」を考えることの重要性を理解しているかどうかだ。

畑村さんは、インドに出張した時に、現地企業の社長から、「日本の企業はたしかにどうやってつくるかという構造を考えるのはうまい。でもその土地や土地に住んでいる人々が大切にしている文化のことはあまり考えていません。これは日本企業が価値について真剣に考えてこなかったからではないですか」と言われたことを紹介している。

たとえばインドで売れている電気冷蔵庫は、鍵がかけられ、停電しても何時間は持たすように冷気が上から降りてくる構造だ。サムスンやLGなどの製品がよく売れているという。

畑村さんは、サムスンの元常務だった吉川良三さんとHY研という研究会をつくっている。

以前あらすじを紹介した「『タレント』の時代」の著者の酒井崇男さんはHY研のメンバーだ。



畑村さんは、酒井さんの本から、ある大手通信系の研究所は優秀な若者たちの就職先として知られているが、実際には市場で通用する研究成果がほとんど出てこないまま、毎年数千億円規模の研究費を消化し続けていることを紹介している。

まさに「価値」を考えていない結果である。

サムスンは毎年何百人かの地域専門家を海外各地域に送り出している。

語学研修を終えた後、現地の人と同じように生活することで、その現地の人の習慣や欲求、考え方を吸収していく。現地の文化を身につけた人間を養成することで、はじめて現地の人の価値観にあった商品をつくりだすことができると考えているからだ。

サムスンが変わったのは、1997年の韓国における通貨危機がきっかけだという。このとき韓国は国家の存亡の危機にさらされたが、そんな状況の中で社員の多くが危機意識を持ったことが当時進めていた様々な改革につながったという。

この本では、畑村さんが見聞した世界各地の事例が紹介されていて参考になる。

・中国では自転車はほとんど姿を消し、いまでは見た目はスクーターと変わらない電気自転車が主流だ。年間3,000万台生産しているという。原理的には電気自転車を2台組み合わせれば、電気自動車ができる。

電気自動車が主流になると、電気製品のように組み合わせ技術でつくられるようになる。製品のデジタル化・モジュール化・コモディティ化が進めば、世界のどこで生産しても同じものができるようになる。

・スティーブ・ジョッブスは、いままで機能を中心に考えられていた電化製品の見た目の格好良さ、肌触りといった五感のイメージに徹底的にこだわった。たとえば、iPhoneが入っている紙箱のコストに、600円かかっているという試算があるという。筆者も、他の電気製品の箱はすぐにリサイクルに出してしますが、アップル製品の箱は取っている。なるほどと思う。

・インドの自動車産業は2020年には1,000万台を超えるという予測があり、これは現在の日本の自動車生産台数と同じだ。中国はすでに日本の生産台数の2倍を超えて、2014年では2,400万台を生産した。

中国の自動車生産能力はすでに5,000万台を超えているという見方もあり、いずれ輸出市場に出てくることが予想される。すでに南米ペルーでは、中国車が日本車の半分の価格で売られているという。

・中国で成功している日中合弁の自動車会社は、車体は日本で高級車の部類に入る2,000CCクラスのものを基本にして、そのシートをレザー製にして高級感を出すが、エンジンは1,500CCのものを使ってコストを抑えており、それが市場のニーズに見事に合っているという。

・ホンダベトナムは、密輸された劣悪な中国製コピーバイクに席巻された市場を、コピーバイク修理用にホンダの純正部品を売るという商売で業績を回復し、さらにベトナムで製造した部品をつかったバイクを中国製の倍の価格で売り出して、いまは市場の7割を抑えている。

・インドのニューデリーの地下鉄は日本のJICAの技術援助で建設された。非接触ICカードトークンなどの技術を導入しているが、日本から買った電車は、わずか一編成のみで、その後は自分たちでつくっている。これは中国が日本から新幹線を買ったときとまったく同じやり方だ。日本は単なる製品輸出より、その後のメンテナンスや運用も含めたビジネスを考える必要がある。


畑村さんが経験した具体例が紹介されていて参考になる本である。


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2016年05月16日

「タレント」の時代 求められる人材とは



東大院卒で、大手通信会社研究所勤務後独立して、人事・組織関係のコンサルティングをやっている酒井崇男(たかお)さんの本。

なぜアップルやグーグル、トヨタは成功し、なぜ日本の電機・半導体・通信・IT企業は完敗してしまったのか。

酒井さんは、それは売れるモノやサービスを生み出す「タレント」とは何かを理解し、価値を生み、利益を生むとはどういうことかを理解していたかか否かの違いだけであると。

日本の賃金相場は次のように分けられる。

1.知識を伴わない定型労働 −−−時給1,000円

2.改善労働を伴う非定型労働 −−−年収300万円〜500万円

3.知識を伴う定型労働 −−−年収400万円〜600万円

4.複数分野の知識を伴う創造的知識労働 −−−年収1,000万円〜数億円

ある仕事を分解して、それぞれの割合を掛け合わせたものが給与の目安になる。

いわゆる士業は3.で、ほとんどの公務員や準公務員は実質1.のハタラキしかないが、中央官庁に勤めている役人の中には、国の政策をまとめあげるような4.の仕事をしている人もいる。

日本では年収的には3,000〜5,000万円もらっていても不思議ではない優れたタレントが、年収600〜1,000万円くらいしかもらっていないこともある。

大手電機メーカーのエンジニアなどに多く、そのためサムスンやアップルなどのような企業が、ピンポイントで優れたタレントを簡単にヘッドハンティングできたのだ。

タレントの特徴は、創造性と非定型性で、それらは知識を目的的に組み合わせる能力である。「知識を獲得する力」の強さがタレントの必要条件であり、別の言葉でいうと「地頭」となる。

現在最も貴重なタレントは、「広くて深い基礎知識があり、2つか3つの専門分野を持っていて、目的的に知識獲得をしながらアナリシス(分析)、シンセシス(統合)を繰り返し、答えを出す人」だという。

タレントの例としてトヨタの主査制度を取り上げている。主査制度は、人材のタレント性にまで踏み込んだうえで運用されている制度だ。

トヨタ自動車の創業者である豊田喜一郎は、戦後すぐ将来を見越して戦前・戦中の航空技術者を多く採用した。

たとえば、初代パブリカと初代カローラの主査を務めた長谷川龍雄氏は東大の航空工学科を卒業した後、立川飛行機に勤務し、20代でB29撃墜用の異形の戦闘機キ94の主任設計者を務めていた人物だ。

キ94の最初の試作機は次の本の表紙となっている。前後にプロペラが付いている多分唯一の機種だ。



2番目の試作機、キ94−兇鷲當未侶舛鬚靴討い襦



日本陸海軍機大百科 2012年 6/13号 [分冊百科]
アシェット・コレクションズ・ジャパン
2012-05-30



映画「風立ちぬ」のモデルとなった零戦の主任設計者の堀越二郎さんも同じく東大の航空工学科出身で、三菱航空機に勤務した。



航空工学では、機械、電気、制御、流体、素材、材料加工技術などバラバラの専門技術をシンセシス(統合)して、目標性能を発揮する戦闘機というシステムを設計・開発していたのだという。

酒井さんのいうタレントとは、いわゆる「T型人間」のことを指すのだと思う。

具体例が少ないので、あまり印象に残らない本だが、自分のキャリアが「T型」となっているか見直すにはよい本だと思う。


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2016年05月03日

チョコレートの帝国 M&Mのマースとキスチョコのハーシーの物語

チョコレートの帝国
ジョエル・G・ブレナー
みすず書房
2012-05-23


チョコレートの近代史を、米国の巨大チョコレート会社のハーシーマースの創業者たちを中心に描いた物語。

ちなみに、この本ではMars=「マーズ」と呼んでいるが、日本法人のホームページでは「マース」と呼んでいるので、このブログでは「マース」に統一した。

チョコレートの原料となるカカオはメキシコを中心とするメソアメリカ原産で、既に紀元前1,000年頃からスパイスと混ぜた苦い飲み物・「チョコラトル」として王族や支配者階級で楽しまれていた。

コロンブスは4回目の航海でチョコラトルを知り、エルナン・コルテスはスペイン王に献上し、甘くして飲むようになると、ヨーロッパの貴族の間で広まった。

良く知られた名前も出てくる。ヴァン・ホーテンは1828年位カカオ豆をすりつぶしてココアバターを減らす製法を発明し、飲みやすいココアを作り出して大ヒットした。


バン・ホーテン ココア 400g缶
1847年に板チョコを作り出したのはイギリスのフライアンドサンズで、この会社は後にキャドベリーと合併した。

1875年にはスイスのネスレ兄弟がミルクチョコレートを発明した。水分の多いミルクと脂肪分の多いチョコレートを混ぜ合わすのは、水と油を混ぜるようなもので、なかなかうまくいかなかったが、ネスレはコンデンスミルクを使うことでミルクチョコレートの製造に成功した。

イギリスのキャドバリー、スイスのトブラローネリンツ(Lindt)、アメリカのギラデリなど今でも続くチョコレートメーカーが登場する。



現在の世界の菓子業界のランキングでは、一位がキャドバリーを傘下に収めた旧クラフト・フーズ、現モンデリーズ、2位がネスレ、3位がマース、4位フェレーロ、5位ハーシーとなっている。日本の明治は9位にランクインしているが、売り上げは一位のモンデリーズの1/10である。

ミルクチョコレートはあまりにもポピュラーなので、簡単にできそうな気がするが、この本を読んでチョコレートの味を左右する製造工程や原料のサイズ調整、ミルクとのブレンドの難しさなどが理解できた。

ハーシーでもマースでもチョコレートの配合比率や製造法は最高機密なのだという。

マースはいまだに非上場企業でマース一族が株を握っているので、秘密主義を貫いている。

そんなマース社が珍しく取材に協力したのがこの本だ。著者のブレナーさんは、1年以上かけてマース社にアプローチし、やっとOKを取って2年かけてマース社を取材した。伝説の経営者フォレスト・マース・シニアの物語が多く紹介されている。

マースは2004年にマース兄弟が経営の第一線から退き、一族外のポール・マイケルズがCEOに就任しており、2014年に一族外のCEOに席を譲った。

2008年には、ウォーレン・バフェットと一緒に世界最大のチューインガムメーカーのリグレーを共同買収した。現在は同族経営色は薄れているのかもしれない。

マース社は1911年創業。創業者のフランク・マースは当初ハーシーのムリー社長の支援を受けて、マース・チョコレートをつくった。マースチョコレートの最も有名なブランド「M&M」はマースのMとハーシー社社長だったムリーのMだという。



1930年フランク・マースはスニッカーズを考案する。ハーシーのチョコレートを仕入れて、マースが加工するという協力関係があったのだ。マースに原料チョコレートを販売することにより、ハーシーのチョコレート売上高は急増した。

マースとハーシーの蜜月関係は続いたが、フランクの息子フォレスト・マースは家を飛び出し、スイスのトブラローネの工場と、ネスレの工場に工員として働き、技術を学ぶ。

フォレストは1933年にイギリスに移り、自らの工場を立ち上げる。マースバーをつくり、次はペットフードの会社を買収した。タイムレコーダーを入れ、遅刻がないものには報奨金を出したのもこのころからだ。

1939年マースUKは第3位のメーカーになっていたが、英国政府が打ち出した外国人の特別税のために、フォレストは英国を去らなければならなかった。

1940年米国に戻ったフォレストは、ニュージャージーに工場を建設し、ハーシーから原料の供給を得て、M&Mの製造をはじめた。スニッカーズ、ミルキーウェイのチョコバーの生産も開始した。





コーティングしたM&Mは、温度が上がるとチョコレートが解けるという問題を解決し、チョコレートが軍の配給食に大量に使われることになった。次は米軍のMRE(Meal Ready to Eat)レーション(配給食)の内容物だ。M&Mがパッケージのまま入っている。

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このジャンバラヤ配給食を盛りつけた例が次の写真だ。

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出典:Wikipedia

そしてフォレストは1964年に、ついにシカゴのマースを買収し、重役用ダイニングルームを取り壊し、社用ヘリコプターを売却し、給料を30%アップさせて、タイムレコーダーを持ち込んだ。

マースでは、全社員が「同僚」と呼び合い、CEOを含む全社員がタイムカードで勤務時間を管理していると紹介している。CEOも出社時間を守ると10%のボーナスが支給されるのだ。社有車も役員用個室もない。これが資産1兆円を超える経営者とは信じがたい。

まさに惑星マース(火星)の勤務生活といえる。個人秘書はだれにもつかず、コピーは各自自分で、電話も個々人が受け、出張はエコノミークラス。ファーストクラスは使わない。しかし給料は業界一で、副社長の年俸は50万ドル以上だという。

(この邦訳は2012年発刊だが、原著は1999年発刊なので、この辺の記述はマース一族が経営していない現在では違っているかもしれない)

ベストアンドブライテストを高給で優遇し、優秀なスタッフを集めた。

フォレストがシカゴのマースを買収した時に、契約を切られたのが広告代理店のオグルヴィだった。

復讐に燃えるオグルヴィは、「ハーシー、グレート・アメリカン・チョコレート」というキャッチコピーを打ち出し、ハーシーの売り上げは急増したという。

ハーシーはミルトン・ハーシーが1894年に設立した。

ペンシルベニアの農村地帯の工場で、新鮮なミルクを用いたミルクチョコレートで有名となった。著者のブレナーさんはペンシルベニアのハーシータウンに2年間通い詰めて取材したという。

キスチョコや、板チョコが主力商品で、1914年から米軍にチョコレートの供給を開始し、1937年からは米軍のレーションDバーとして配給食として採用され、砂糖でコーティングしたマースのM&Mとともに、軍隊の配給食として大量に納入している。

チョコレートはカロリーが高く配給としては理想的なのだ。

ハーシーは、ハーシートラストが株を持つ上場企業であり、2002年にハーシートラストがハーシーフーズ売却をリグレーやネスレと交渉したが、地元の反対で売却を断念している。

ハーシーの創業者のミントン・ハーシーは全財産をハーシートラストに寄付してハーシータウンと言う理想郷をつくった。

筆者は米国ペンシルベニア州のピッツバーグに駐在していたので、同じ州のハーシータウンにも家族で行ったことがある。車で4時間くらいのところだ。

ペンシルベニアの州都・ハリスバーグの近くだ。

ハーシータウンの遊園地でも遊んだ。ディズニーランドなどと違って、子供用の遊具が中心なので、何日も滞在して乗り物をすべて制覇するというタイプの遊園地ではないが、小さい子供でも楽しめるようになっている。遊園地の街頭は当然キスチョコの形をしている。



ミントン・ハーシーは孤児のために孤児院をつくり、ハーシースクールをつくった。生徒と教師の比率は9対1。教育プログラムや施設は有名私立高に匹敵する充実ぶりだった。

ハーシーとマースでは会社のカラーが、かなり違うことがわかると思う。

この本にはハーシーの広告の成功例も紹介されている。

興味深いのは映画「ET」のETをチョコレートで誘い込むシーンだ。プロダクトプレイスメントという広告手法で、それをやったのはM&Mに対抗するハーシーのリーセスピーセスだった。マーケティング史上最高の大当たりだったという。







「ちゃんとした人はチョコレートを食べない」という1970年代の通説に挑んだのはキャンベルスープの一部門となったゴディバだった。ゴディバは全米で1,300店もの店を開いて、チョコレートブティックを成功させた。

ゴールドコレクション12粒入
ゴールドコレクション12粒入


その他にもチョコレートにまつわる話が満載だ。

なにせ400ページもの本なので、この本を読んだらチョコレートに相当詳しくなる。チョコレート好きの人にはお勧めの本である。


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2016年04月29日

マネーボール ビッグデータを野球に適用するとこうなる



データ分析をビジネスに活用した例として、このブログであらすじを紹介しているデータ分析の教科書の「分析力を武器とする企業」で紹介されていたので読んでみた。

分析力を武器とする企業
トーマス・H・ダベンポート
日経BP社
2008-07-24


ブラッド・ピット主演で映画化されている。



ボストン・レッドソックスが採用したことで有名なセイバー・メトリクスを使ったデータ野球の本だと思って読んでみたが、抜群に面白い。

松井秀喜中島裕之が一時在籍していたオークランド・アスレティックスは30年ほど前は、ホセ・カンセコマーク・マグワイアを擁する大リーグ屈指の金満強豪球団だったが、オーナーが代わり、資金の余裕がなくなって、大リーグでも最低予算球団に仲間入りした。

アステレィックスはワールドシリーズ優勝は1989年以来ないものの、それでも毎年のようにプレーオフには出場する。金満球団との競争のなかで、いかにオークランド・アスレティックスがタレントの宝庫ともいえるような戦力をつけていったのかを明かしている。

主人公のアスレティックスの前GMであるビリー・ビーンは、スポーツ万能で体格にも恵まれ、将来を嘱望されて高卒でニューヨークメッツに入団したが、生来の短気さが災いし、メンタル面での弱さが足を引っ張り、メジャーでは目立った成績を残せなかった。

筆者はたまにやるゴルフでミスショットをすると、それが後を引いてスコアを崩すことがよくある。コンバット・フライト・シミュレーターなどのコンピューターゲーム(ちょっと古いか。今はゲームをやらないので)をやる時も、カーッとなって、機械に八つ当たりする傾向がある。

ビリーのように頭に血が上らないように気をつけなければならない。

Microsoft Combat Flight Simulator
マイクロソフト
1998-11-13


ビリーはメッツがワールドシリーズで優勝した時の中心選手、ダリル・ストロベリーと同期の1980年のドラフト入団組で、翌年入団のレニー・ダイクストラとは2年間同じ部屋に住んだ仲だ。

レニー・ダイクストラからは「おい、読書なんてしてどうする。目が悪くなるぞ」と言われたという。

ビリーはむらが多く、三振するとバットを折ったり、壁に穴をあけて八つ当たりする。ビリーの打順が回ってくると、控え投手がブルペンから出てきて、ビリーが三振して暴れまくるところを見物していたという。

メッツからツインズにトレードされ、ツインズで1987年のワールドシリーズ制覇、それからタイガースを経てアスレティックスにトレードされ1989年のワールドシリーズ制覇のベンチにいた。

メジャーリーガーだったら誰でも欲しいワールドシリーズの優勝記念指輪を2個持つビリーは、野球界の「フォレスト・ガンプ」だと自嘲的にいう。

アスレティックスのワールドシリーズ制覇にベンチウォーマーとして参加した翌年、現役をやめてアドバンス・スカウトになる。「とくに野球をやりたいってわけじゃないんだ」というのがビリーの本心だった。

出塁率に注目した野球理論を発掘した当時のアスレティックスのサンディ・アルダーソンGMの右腕として頭角を現し、1999年にアスレティックスのGMに就任する。

GMに就任してからはハーバード大学出身のポール・デポデスタにデータ分析を担当させ、旧来の新人発掘スカウトを全員クビにする。

競争相手が気が付かない、データに基づいた野球を目指して低コストで強いチームを作り上げた。ただし、GMのできることはチームをプレイオフに進出させることまでで、後は運だという。たしかに、アスレティックスは1989年のワールドシリーズ優勝以来、ワールドシリーズ制覇から遠ざかっている。

この本では、抜群の選球眼で、高い出塁率を誇るスコット・ハッテバーグや、大リーグでは珍しい長身の下手投げ投手チャド・ブラッドフォードなどを取り上げている。長年ボストン・レッドソックスで活躍し、最後は楽天に短期間来たケビン・ユーキリスは、ビリーが欲しがった選手として紹介されている。

独自の基準で目を付けた新人を育て上げ、安い年俸の時に活躍させ、高い年俸を払わざるを得なくなるFAの直前に他のチームにトレードして対価を稼ぐのがビリーのやりかただ。

アスレティックスはティム・ハドソンバリー・ジートマーク・マルダーの”ビッグ3”はじめ、後に大成する投手を何人も新人として発掘しているが、意外だったのは、アスレティックスは投手より打者を優先的に獲得するという方針だという。

たしかに、アスレティックスは前記のマーク・マグワイア、ホセ・カンセコ、ジェイソン・ジアンビなど打者としてその後大リーグを代表する存在になる選手も数多く育てている。

そして他のチームから受け入れるのは力の割には評価されていない年俸が低い選手がもっぱらだ。松井秀喜が良い例である。アスレティックスにいた時の松井の年俸はヤンキース時代よりも大幅に下がっているが、打点ではチーム2位と貢献している。

クローザーは買うより育てた方が安いという方針も、たしかにその通りかもしれない。

驚かされるのは、著者のマイケル・ルイスの取材の緻密さだ。どのページを開いても、メジャーリーガーか、ドラフトにかけられるルーキーの名前が誰かしら載っており、それぞれの特徴を簡潔に紹介している。大リーグに親しみのない人でも抵抗感なく読める本に仕上がっている。

ビジネスにも役立つ。選手起用や対戦相手研究にデータ分析を使うことは、いわば当たり前であるが、GMとしてチーム戦力アップのためにデータ分析を使い、低予算で強いチームを作り上げることは、誰でもできることではない。

怒るとイスや壁に当たり散らし、試合観戦はしない主義だというビリーや、電話会議で行われるドラフト会議など、もともと「絵になるシーン」の連続のような本なだけに、ブラッド・ピット主演の映画も大変面白い。

ビリー・ビーンは、スタンフォード大学への進学が決まっていたのに、大リーグの契約金に目がくらみ、高卒でプロ野球選手となったことを、ずっと悔やんでいたという。

GMとして成功してボストン・レッドソックスから250万ドルX5年という巨額の年棒で契約オファーがあったときも、「私は、金のためだけに決断を下したことが一度だけある。スタンフォード進学をやめて、メッツと契約したときだ。そして私は、二度と金によって人生を左右されまい、と心に決めたんだ。」といって断った。

データの信奉者らしからぬ発言ではあるが、信念を曲げないビリーらしい行動だ。

マネー・ボールで取り上げられている選手は成功者ばかりではない。この本でデータ分析による新人選考の結果、有望新人として大きく取り上げられているジェレミー・ブラウンは、結局目が出ず、大リーグ出場はわずか5試合にとどまった。

高卒をドラフトで採用しても、多くはジェレミー・ブラウンの様に目が出ないケースが多い。

日本ハムの大谷翔平も、高卒でメジャーに行くよりも、まずは日本のプロ野球で成功して、それから大リーグに挑戦するほうが正解なのだろう。

あまり野球に興味のない人でも、面白く読める。映画もお勧めだ。


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2016年04月19日

戦略がすべて 瀧本哲史さんの戦略的思考「攻略本」

戦略がすべて (新潮新書)
瀧本 哲史
新潮社
2015-12-16



このブログで紹介した「僕は君たちに武器を配りたい」と「武器としての決断思考」の著者、京都大学准教授の瀧本哲史さんの近著。






この本はアマゾンの「なか見!検索」に対応していないので、「なんちゃってなか見!検索」で目次を章まで紹介しておく。

機.劵奪肇灰鵐謄鵐弔砲蓮峪迭櫃院廚ある

1.コケるリスクを排除するーAKB48の方程式

2.全てをプラットフォームとして考えるー鉄道会社の方程式

3.ブランド価値を再構築するー五輪招致の方程式

供]働市場でバカは「評価」されない

4.「儲ける仕組み」を手に入れるースター俳優の方程式

5.資本主義社会の歩き方を学ぶーRPGの方程式

6.コンピューターにできる仕事はやめるー編集者の方程式

7.人の流れで企業を読むー人材市場の方程式

8.二束三文の人材とならないー2030年の方程式

掘 岾弯掘廚覆プロジェクトは報われない

9.勝てる土俵を作り出すーオリンピックの方程式

10.多数決は不毛であるーiPS細胞の方程式

11.人脈とは「外部の脳」であるートップマネジメントの方程式

12.アナロジーから予測を立てるー北海道の方程式

検‐霾鵑棒む「企み」を見抜け

13.ネットの炎上は必然であるーネットビジネスの方程式

14.不都合な情報を重視するー新聞誤報の方程式

15.若者とは仲間になるーデジタルデバイスの方程式

16.教養とはパスポートであるーリベラルアーツの方程式

后/祐屬痢峅礎諭廚篭軌蕕之茲泙

17.優秀な人材を大学で作るー就活の方程式

18.エリート教育で差別化を図るー東京大学の方程式

19.コミュニティの文化を意識するー部活動の方程式

20.頭の良さをスクリーニングするー英語入試の方程式

21.入試で人間力を養うーAO入試の方程式

此\治は社会を動かす「ゲーム」だ

22.勝ち組の街を「足」が選ぶー地方創生の方程式

23.マーケティングで政治を捉えるー選挙戦の方程式

24.身近な代理人を利用するー地方政治の方程式

察\鑪を持てない日本人のために

それぞれの章で上記の「方程式」と呼ばれる「勝ちパターン」=戦略が紹介されているので、瀧本さん自身はこの本を「戦略的思考ケースブック」と呼んでいる。

たとえばAKB48の方程式とは、「プラットフォーム」をつくることだ。「人」を売るビジネスでは、「成功の不確実性」、「稼働率の限界」、「交渉主導権の逆転」の問題がある。AKBの方程式では、これらの課題を次のように解決している。

AKBのメンバーは芸能プロダクションに所属していて、AKB活動の時だけ、AKBに派遣されている。大量のメンバーを入れながら、リスクやコストをすべて負う必要はない。AKBの社員ではないので、固定費はない。稼働率の問題はないのだ。

誰が売れるかわからないが、誰かが売れるだろうというやり方ができ、総選挙という消費者の好みを聞くしくみもある。総選挙で上位のタレントを集中的に売り出せばよいのだ。これなら成功の確実性は非常に高い。

AKBというプラットフォームに仕事が来るので、個々のタレントの独立や報酬の高騰といったリスクは小さい。つまり、交渉主導権を失うリスクは小さい。

このようにプラットフォームをつくることで、様々なリスクを軽減して、ビジネスに永続性を持たせることができる。

AKBのセンターがどんどん変わり、「卒業」しても、AKBの人気は維持できる仕組みができている。たとえば宝塚歌劇団でも同じような構造を持っているし、コンサルティング会社や弁護士事務所などのプロフェッショナルファームも似たような仕組みを持っている。

コンサルティング会社は素質のありそうな人をアソシエイトとして大量採用し、その中から才能が開花して顧客を獲得できた人材だけをパートナーにしていく。誰が売れるかわからないAKBのシステムとよく似ている。

また、稼働率の問題はアソシエイトに見えない調査などの仕事をやらせて、顧客対応などの見える仕事はパートナーが行うことで解消できる。

瀧本さんが居たマッキンゼーの例が紹介されている。現在「マッキンゼー」という本を読んでいるのので、近々あらすじを紹介する。




このような形で、それぞれの「方程式」を紹介している。それぞれの章の最後に「まとめ」があって、わかりやすい。

たとえば、非常に参考になった12.の「アナロジーから予測を立てるー北海道の方程式」の「まとめ」は次のようになっている。

・アナロジーから未来を予測することで、ビッグデータには導けない仮説を導き出せる。
・北海道のように、未来を読むための縮図や実験場を見つける(北海道は日本の縮図として、消費財のテストマーケティングに使われることが多い)。
・ドラスティックな変化は新しいビジネスのチャンスになる。
・「日本人の知恵」の部分を輸出するというビジネスモデルには商機がある。

21.の「入試で人間力を養うーAO入試の方程式」では、ひところ有名になった「ビリギャル」の入学後についての新聞インタビューによる後日談を紹介している。結局、大学教育になじめず、あまり業界リサーチをせず就活をして、結局短期で退職し、その後同業種の小さな会社に再就職しているという。

入学試験で合格することは手段でしかなく、その後何をするかが大事だが、「受験が最高の成果だった人」の受験本がヒットするという歪んだ構造があるという。




最後に瀧本さんは、日本企業のキャリアパスに疑問を投げかける。

日本の一般的な組織においては、「良き平社員が、係長に」、「良き係長が、課長に」、「良き課長が、部長に」の延長で、最高意思決定者が決まる。

多くの場合は本流の部門や業績を伸ばした部門を上り詰めた者が選ばれる。意思決定の力量ではなく、環境や時代に恵まれていたり、社内評価を高めることに成功した人というわけだ。

そんな人が突然戦略的思考を求められても無理だろう。実のところ、作戦指揮と戦略決定は、野球とサッカーぐらい違うのだ。

企業という組織においては、各階層での仕事は大きく異なるため、日本のようなキャリアパスの設計は適切ではない。事実、多くのグローバル企業では、最初からリーダーを選抜し、かなり早い段階から難しい意思決定をさせて経験を積ませている(日本でも先進的な企業はすでにそうなっている)。

だから戦略的思考を身につけるには、中堅幹部向けの戦略思考研修や、ロジカルシンキング本などの「勉強」ではあまり成果は上がらない。

多くの問題を解いたり、「実戦」の場に出たりして、その成否を検証できるプロセスを何度も経験することが重要で、ビジネススクールなどで行われているケーススタディを大量にこなすという「疑似トレーニング」が有効だと瀧本さんは語る。

身の回りに起きている出来事や、日々目にするニュースに対して、戦略的に「勝つ」方法を考える習慣を身につけ、「勝利の方程式」を自分で考えてみることを勧めている。

筆者も、ネット企業の経営者だったことがあるので、瀧本さんのいうことはよくわかる。

経営者は「できる営業マン」の最終形ではない。経営者は、その会社の立ち位置を完璧に理解し、どういう戦略で強みを伸ばして、収益を上げるのか、どこに集中しなければならないのか、どうしたら社員の士気を上げることができるのか等、明確な戦略を持ち、それをもとに社員を鼓舞して組織を動かさなければならない。

当時の筆者には会社の全体像が見えておらず、どこに成長の限界となる弱みがあり、どうやって永続的成長を遂げるのかの戦略を持っていなかった。

そんな反省も「実戦」を経験したからこそ、わかったことだ。

この本では、上記のような「方程式」を紹介することで勝ちパターンを考えるヒントを与えてくれる。

このブログであらすじを紹介している「ロジカルシンキング」「ロジカルライティング」といった本も「教科書」として役に立つが、戦略的思考の実践的練習を始めるなら、「攻略本」としてこの本が役立つと思う。







まず一度読んで、気に入ったら、何度も読み込むことをお勧めする。


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2016年04月03日

日本型モノづくりの敗北 ”日本の技術力は高い”のか?



大学のクラブの先輩から勧められて読んでみた。

零戦がサブタイトルに入っているが、もっぱら半導体産業と電機メーカーの話だ。

電機メーカーの話は、シャープの経営危機について湯之上さんが参加したテレビ討論が湯之上さんのHPでリンク付きで紹介されているので、これを読むとこの本の論点がわかる。

この本と同じような話は失敗学の権威・畑中洋太郎さんが「技術大国幻想の終わり」で書いているが、この本のほうが現場の元技術者の告発本だけに説得力がある。



著者の湯之上(ゆのがみ)さんは、元日立製作所の半導体研究者で、日立からDRAM製造のエルピーダ(現マイクロン・ジャパン、もともと日立、NECのDRAM製造部門を統合した会社。のちに三菱電機のDRAM部門も買収)に出向した。

そのあとは超LSI開発コンソーシアムのセリートに出向、日立を退職して、いったん半導体エネルギー研究所に務めた後は、同志社大学のフェローとして半導体産業の社会科学を研究し、2010年に微細加工研究所を設立してみずから所長となっている。

湯之上さんはもともと微細加工技術の専門家で、日立でも微細加工技術を研究し、日立とNECがDRAM生産部門を統合して設立したエルピーダにエッチンググループの課長として赴任した。

エルピーダでは当初は日立・NECのたすき掛け人事だったが、技術開発の考え方が日立とNECでは大きく異なり、製造設備の互換性もなかったので、そのうちに「ほとんどNEC」になり、湯之上さんは課長を降格され、部下も仕事も取り上げられて追い出された。

日立ではいったん出向すると、本社のキャリアパスに戻ることはほとんどないので、3度の早期退職勧告を受け退職した。

しかし、転職がなかなか決まらず、早期退職申し込み期限を1週間過ぎて退職したため、自己都合退職となり、早期退職金の約2,500万円はもらえず、退職金は100万円のみだったと。

この話を2回も書いているので、よほど悔しかったのかもしれないが、もし本当に知っていて期限をミスったのであれば、筆者に言わせればこの人は「極楽とんぼ」か「技術者バカ」だ。

たとえば失業保険だって、会社都合なら退職の翌日から支給されるが、自己都合であれば、なかなか認められない。単に退職金だけの話ではない。扶養家族もいるのだと思うが、会社都合と自己都合の違いがわかっていて、自己都合退職したのだろうか?

自己都合とせざるをえない、なにか事情があったのではないかと勘ぐってしまう。

そんな印象を持ったので、この本のところどころに、エルピーダに問題点を指摘したら、出入り禁止になったり、ルネサス(日立、NEC,三菱電機の超LSI製造部門を統合した会社)の幹部から、講演や執筆活動をやめろと言われた話がでてくるが、どこまでが本当なのか信憑性を疑ってしまう。

ともあれ、日本の半導体、電機メーカーの凋落の原因分析としては、この本の指摘していることは正しいと思う。

今までは筆者も韓国の半導体メーカーの成功は、日本の半導体製造機器メーカーから最新鋭の機械を購入して大量生産しているからだと思っていた。

つまり、日本のメーカーの工場は古く、生産機械も旧式なので、そんな設備で少量生産していては韓国の最新鋭機械による大量生産に勝てないものだと思っていた。

ところが、この本を読んでみると、そんなに簡単な話ではないことがわかった。

半導体製造技術は次の3つの技術のすり合わせだ。

1.要素技術(成膜技術、微細加工技術、洗浄技術、検査技術などの製造基礎技術)

2.インテグレーション技術(要素技術を組み合わせて、半導体をシリコンウエハーの上に形成するための500ほどの工程フローを構築する技術)

3.量産技術(構築した工程フローを量産工場に移管して大量生産する技術)

機械を買っただけではダメで、要素技術をすり合わせるインテグレーション技術と量産技術が必要なのだ。

特に、DRAM製造工程の30%を占める洗浄工程は重要で、洗浄液が秘伝のタレのようにメーカーごと、工場ごとに違っている。そのため、エルピーダはNECの開発センターで構築されたDRAM工程フローを日立の量産工場では移管できず、エルピーダが急速にシェアを失った原因となったという。

湯之上さんによると、日立は新しい技術開発に熱心で、NECは均一な製品を作る(そして歩留まり100%を目指す)ことに最重点を置いているが、いずれも低コストで生産することが最重点ではない。

一方、三菱電機は、日立やNECに比べて安くつくる技術は高い。

エルピーダも、日立が新技術の開発を行い、三菱がインテグレーション技術を担当し、NECが生産工場の生産技術に専念すれば成功しただろうが、”ほとんどNEC”となってしまったので、「こてこて」の工程フローで生産コストは下がらなかったという。

これに対して、韓国のサムスンは歩留まりは80%程度でよいので、ともかく安く量産し、スループットを上げることに最重点を置いている。

日本の半導体メーカーは1980年代にDRAM(メモリ)で世界で80%のシェアを持っていたが、当時の主なDRAMの販売先はメインフレームコンピュータや、電話交換機などだった。当時は25年保証のメモリなどが要求されていた。

日本は過剰技術で過剰品質をつくっているが、安く作る技術力は低いのだ。

ところが、1990年代に入り、コンピュータ業界にパラダイムシフトが起こり、メインフレームからPCが主流になったとき、メモリは25年も持つ必要はなく、安いメモリが要求された。

日本の半導体メーカーは「イノベーションのジレンマ」に陥ったのだ。




サムスンは開発から量産まで一つのチームが担当するチーム交代制の組織となっており、日本のように研究所、開発センター、量産工場で士農工商のようなヒエラルキーはないという。

たとえばA〜Eのチームが回路幅100ナノメートルの量産品から、95〜80ナノメートルの次世代DRAMを試作し、95NMが量産化されれば、100NMの量産チームは今度は75NMの開発に着手するという具合だ。

また多くのマーケッターを抱えるのもサムスンの特徴だ。作ったものを売るのではなく、売れるものを作るという発想だから、市場を熟知したマーケッターを多く抱えるのだ。

ちなみにこの本の「サムスン電子の驚くべき情報収集力」というコラムも面白い。湯之上さんのセリート在勤中の論文をサムスンの100人規模の日本人顧問団が入手していたのだという。

ルネサスはマイコンの世界シェア1位(30%)で、自動車用のマイコン製造では断トツだ。

東日本大震災でルネサスの常陸那珂工場が被災した時も、自動車メーカーなどが2,500人の応援部隊を出して、復旧作業を助けた。

インベストメントファンドのKKRが買収直前まで行ったが、経産省の荒井勝喜情報通信機器課長(当時)の画策により、政府系ファンドの産業革新機構、トヨタ自動車、日産自動車などの官民コンソーシアムが阻止した。

ルネサスは自動車産業の食物連鎖の中に組み込まれており、下請けという存在から抜け出せず、利益も上げられていない。KKRが経営すれば、ルネサスが生まれ変わるチャンスだったのに、経産省はそれをぶち壊したと湯之上さんは語っている。

この本の最後では、苦境に陥っているインテルのことを書いている。

2010年台湾のTSMCのCEOモリス・チャンは、日本の半導体メーカーは規模も小さく、生産効率が悪いから今後ファブレス化せざるをえないだろう、20年後に残っている総合半導体メーカーはインテルとサムスンだけだろうと予測した。

ところがインテルの総合半導体メーカーとしての生き残りもが怪しくなってきた。スマホ向けプロセッサーがないのだ。

アップルがiPhone向けCPUをインテルに打診したとき、インテルのオッテリーニCEOは、iPhoneの市場規模を実際の100分の一と予想して断った。

それを受注したのがサムスンだ。サムスンのGalaxyにはiPhoneのCPU生産で得られたノウハウが生かされている。

この本の最後に主要製造装置のメーカー別シェア(2011年)を紹介している。筆者はいままで半導体製造装置ではニコンはじめ日本メーカーが圧倒的シェアだと思っていたが、露光装置はいまやオランダのASMLがトップで8割近いシェアを持っている。

日本の生産装置は一台一台の「機差」が大きいいが、ASMLの露光装置は「機差」が極めて小さく、工程ごとに専用機化する必要はなく、稼働率が高いのだという。

まさに盛者必衰の世界だ。

若干、「ホントかな?」という情報もあるが、読みやすく、よくまとまっている。

一読をお勧めする。


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2016年03月21日

逆境経営 山口県の田舎の酒蔵が「獺祭」で成功した理由



現在最も手に入りにくい日本酒の代表格・獺祭をつくる山口県の旭酒造の桜井社長が語る逆境をバネにした経営。

旭酒造はJR徳山駅から1〜2時間に1本しか電車のない岩徳線で40分程度いった周防高森駅から車で15分程度の周東町獺越(おそごえ)にある。

旭酒造アクセス








































Google Mapで「周東町獺越旭酒造」と入力すると、ストリートビューで立派な酒蔵所ビルが表示されるので、一度見ていただきたい。

旭酒造は、もともとは普通酒(1・2級酒)の地酒・旭富士をつくっていたが、普通酒の経済的製造最小単位の年間5,000石(日本酒ビン詰にして50万本/年)を大幅に下回る1,000石以下の生産量だった。

桜井社長は先代の社長の長男として生まれ、ほかの日本酒メーカーで修行した後、旭酒造で働いていたが、先代の社長と経営方針でぶつかり、勘当されて日本酒作りとは無関係の仕事をしていた。

先代の社長が急死したため、急きょ実家に戻り、旭酒造の立て直しに奔走した。

しかし、多角経営策として打ち出した地ビール事業が失敗し、このままではジリ貧となることが明白だったので、方針を転換して大吟醸酒に特化して、東京市場に進出することとした。

経営の先行きを危ぶんで、杜氏が去っていったので、こちらも酒造りの常識を破って、社員で製造することにした。

普通、日本酒は杜氏が冬に仕込むが、旭酒造では社員が年間仕込めるように、空調を入れて年間5度程度の作業環境とし、さらに遠心分離機などの新技術も導入した。

酒米については、山田錦にこだわり、さらに磨き率も最高で2割3分まで削り込んだ。

獺祭 磨き二割三分 木箱入 720ml


東京に進出した1990年ころに「獺祭」と命名して、ブランド名を統一した。

「酒造りは夢創り、拓こう日本酒新時代」をスローガンに、日本酒製造の革新をはかる桜井社長が、「獺祭書屋主人」の別号を持つ正岡子規の進取の精神に共鳴していたことと、酒蔵の地名・獺越(おそごえ)にちなんだものだ。

ラベルにもこだわり、山口県出身の書家・山本一遊(いちゆ)さんに書いてもらった。

力強い字で、印象的なラベルだと思う。

東京に進出した後は、輸出を拡大している。

最大の市場は米国、特にニューヨークだ

ニューヨークのレストランはパリのレストランに影響を受けており、ニューヨークで成功するためにも、パリが重要なのだと。

2014年にはパリに獺祭を出す直営レストランを開店し、2016年にはロンドンでも直営レストランを開店する予定だという。

獺祭は純米大吟醸酒なので、酒造用アルコールを一切添加していない。それがユダヤ人向けマーケティングに重要な「コーシャー」ライセンスをとるのに役立ったという。

2015年には冒頭のGoogle Mapで紹介した立派な酒造所ビルが完成して、生産能力は3倍の5万石(一升瓶換算で500万本)となった。

筆者の家の近くには様々な地酒を置いている「まさるや」という有名な酒屋がある。

昔は獺祭50(一番安い獺祭で、一升瓶が3千円程度だが、十分うまい)も買えたが、今は品切れで、高価な獺祭2割3分しか置いていない。

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ぜひ増産して、安くてうまい獺祭50が出回るようにしてほしいものである。


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2015年12月01日

アー・ユー・ハッピー? バリバリのビジネスマン・矢沢永吉



先日紹介した「成りあがり」に続く矢沢永吉(永ちゃん)の独白録。

「成りあがり」に続くといっても、「成りあがり」は永ちゃんが28歳の時の本で、「アー・ユー・ハッピー?」は永ちゃんが51歳の時の本だから、その間23年間もブランクがある。

「成りあがり」は図書館で借りた本を読み終わらないうちに購入したと書いたが、この本も同じだ。

全くぶっとんだ。

前作は、永ちゃんの生い立ちから、キャロルが売れる前の下積み時代を経て、わずか3年弱のキャロルの大躍進と、早すぎる解散、そしてE.YAZAWAとしてソロシンガーとなって独立した永ちゃんが、年間150ステージをこなすまでの道のりを描いている。

それから23年経ち、「アー・ユー・ハッピー」では、ビジネスマンとしての永ちゃんを描いている。

成功した永ちゃんの姿ばかりではない。

1980年代に、永ちゃんはマネージャーによる横領事件に巻き込まれた。早い話が、ピンハネだ。永ちゃんには150万円のギャラを50万円と言って、100万円をネコババするという手口だった。

永ちゃんは警察沙汰にはしなかったという。

次に永ちゃんが巻き込まれたのが、オーストラリアのゴールドコーストで、永ちゃんの世界戦略のための音楽施設を建設するというプロジェクトで、永ちゃんの部下が永ちゃんをだまして30億円を横領したオーストラリア事件だ。

これはオーストラリアで詐欺事件として刑事裁判になり、被告の2人はオーストラリアで1年程度服役した。この本の末尾に実名と顛末が書かれている。

永ちゃんの離婚についても書いてある。

糟糠の妻すみ子さんと離婚して、再婚したのはマリアさんというクオーターの女性だ。

マリアさんと知り合ったのは「成りあがり」を出すちょっと前の1977年だ。

スーパースターとして成功はしていたが、すみ子さんからは家には仕事は持ち込むなといわれ、すみ子さんや家族との気持ちの隔たりを感じていたころだった。

すみ子さんは、「私は朝8時に家を出て、夕方6時にちゃんと帰ってくる男と一緒になりたかった。」という。

夜中の酒が増えていった。さびしかったのだと。

1980年ころからマリアさんと一緒にロスで生活しはじめ、結局すみ子さんと離婚したのは1989年だ。

前作同様、この本には糸井重里が協力している。

実はこの本の原稿は10年前にできあがっていたが、なにか違うという感じがあり、その時は糸井さんと永ちゃんが話して、お蔵入りすることにしたのだという。

それから10年経って出版した。

この本ではビジネスマンとしてもバリバリの永ちゃんの姿を紹介している。

日本の外タレ招聘ビジネスは一部の興行会社が独占している。出入国管理局の許可が既得権化していたのだ。

永ちゃんは政界に顔の利く実力者に頼んで、出入国管理局長と3者面談し、外人タレントの招聘権を取った。永ちゃんのバンドのメンバーは永ちゃん自身が選んで呼んでいるという。

日本国内のコンサートツアーも、キョードーなどの音楽事務所に地方の興行を仕切ってもらって、ブラックボックス化していたのを、一部自分で手掛けた。弁当の仕出しから、ケータリングまですべてやった。キャラクターグッズも当初は他人に任せていたが、今は自分の会社で手掛ける。

すべて「なめんなよ」というメッセージだ。

猿の調教師は、まず猿の頭をかじって、「オレがボスだぞ」っていうことを教えるという。そうすると猿は調教師のいうことを聞くようになるのだと。人間も、一発かじられなきゃ気がつかないときがあると永ちゃんは語る。

この本で、永ちゃん流の「倍返し」が出てくる。

テレビドラマの半沢直樹で有名になった「倍返し」で、半沢直樹の場合はリベンジという意味だが、永ちゃんの場合は違う。



オーストラリアの30億円詐欺事件で、巨額の負債を負った永ちゃんに対する銀行の目は厳しかったという。だから、永ちゃんはすぐに「倍返し」をするようマネージャーに指示した。

月々の返済額を倍にするのだ。

そうすると当然、予定より早く返済が完了する。あわてたのは銀行だ。永ちゃんのような優良融資先を失ってはならないと、態度が変わったという。

永ちゃんが権利関係を意識するようになったのは、永ちゃんが崇拝するビートルズの影響だという。読んでいたビートルズの本に、著作権や、フィルム権、肖像権とかが出ていたのだと。

前作「成りあがり」では、年間150回ものコンサートをこなしていた永ちゃんだが、この本では年間5〜6カ月程度しか音楽をやっていないと語る。

音楽を離れると、音楽が恋しくて、より一層のパワーがでるのだと。

その他にロスでの暮らしぶりや、アメリカで持っている大型クルーザーの維持費が日本とは比べ物にならないくらい安いことなどを語っている。

最後にウェンブリーで行われた世界のスーパースターを集めた” SONGS AND VISIONS"コンサートで、ロッド・スチュアートとかボン・ジョビと一緒に歌ったことを語っている。



筆者は永ちゃんの曲もほとんど聞いたことが無いし、ファンでもなんでもないが、永ちゃんの本には感心する。

是非一読をおすすめする。


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2015年11月22日

Q&A共通番号 ここが問題 マイナンバーはプラスにもマイナスにもなる



この本の著者の黒田さんが、先日テレビでそもそも総研という「マイナンバーにあたる制度は海外ではうまくいっているのだろうか?」という番組に出ていたので読んでみた。

テレビ番組では、マイナンバーのような国民共通番号制度は、OECD先進国では例外なく取り入れられていると政府は説明するが、実際にはイギリスは国民ID制度はやめている、ドイツは憲法違反の疑いがあるので共通番号はない、フランス、イタリアもない。米国とカナダは社会保障番号はあるが任意加入で、日本のような強制ではないと説明していた。

そもそも総研















番組の最後では、大臣が番組に出てきて釈明しろというような口調だった。

一方、政府広報資料の各国比較は次の通りだ。上記のテレビの表と全然違うことがわかると思う。たしかに、ドイツだけは番号の用途を税務に限定しているが、その他の国ではすべて社会保険と税務や年金、医療などの共通番号が導入されている。

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出典:内閣官房マイナンバー広報資料

また、テレビでは、米国、カナダは「任意」で日本のように「強制」ではないと言っていた。

しかし、米国に住んだ経験のある人はみんな知っていると思うが、この番号がないと社会保障が受けられず、銀行口座も開けないので、米国及びカナダの国民ほぼすべてが取得しているのが現実だ。

かなりミスリーディングな番組だったが、その番組で、マイナンバー反対論を展開していたのがこの本の著者の黒田充さんだ。

黒田さんは大阪市立大学工学部を卒業後、松原市役所に17年間勤めた後、立命館大学の大学院で学び、現在は自治体情報政策研究所の代表となっている。自治体情報政策研究所は黒田さんが設立したもので、所員は他にはいないという。

黒田さんはマイナンバー制度導入中止を現在も呼びかけている。

自治体情報政策研究所サイト自治体情報政策研究所ブログでマイナンバー制度の問題点を呼びかけ、この本に収録されているマイナンバーに関するQ&Aもサイトで一部公開している。

この本の結論として、黒田さんは次の様に最後に書いている。

「高齢化が急速に進む日本において、いま必要とされているのは、国が国民等に共通番号を付け、個々の国民等への社会保障を直接管理し、そのための個人情報を中央集権的にコントロールするようなシステム なのでしょうか。

住民としての国民等にとってより身近な市町村が、 住民の困りごとを具体的に把握しながら必要な社会保障を提供してい く、そのために必要な個人情報は個々の市町村が責任を持って管理する、国は市町村の必要に応じて制度を整え、財源を保障するといった 地方自治に則したシステムではないでしょうか。

こうしたシステムの方が、個人が本当に必要とする社会保障サービ スをよりきめ細かく、かつ的確に提供できるという意味での効率性の点でも、社会保障にまつわるセンシテイブな個人情報が大規模に流出するなどの危険性を避ける点でも、有効ではないでしょうか。」

この本を読んで考えさせられたのは、国と地方自治体のあり方だ。

マイナンバーは国が国民の個人情報を管理することを可能とする。まずは税務(つまり収入)と社会保障(年金、雇用保険、健康保険)だが、今後は銀行口座などの金融資産(とりあえずは任意)、株式資産(配当の源泉徴収のため)とどんどん広がっていく。

健康保険証としても利用可能となり、公務員の共通身分証明書としての利用も可能となる。

民間利用としては、スマホに載せられるようにするとか、クレジットカード機能を持たせるとか、デビットカード、ポイントカード、診察券等の機能を載せるという話もある。

スマホに載せることや、戸籍やパスポート、海外在留の邦人の選挙制度で利用しようという案もある。

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出典:首相官邸第9回 マイナンバー等分科会議事録

国と地方自治体との二重行政の問題点は、今回のマイナンバー通知カードの配布を見れば明らかだ。

実は筆者の番号通知カードはまだ手元に届いていない。筆者の住む東京都町田市では、11月18日に郵便局差出完了となっているが、簡易書留はまだ届いていない。

もし国が直接国民に配布することにしていたら、こんなことにはなっていないはずだ。

米国では、社会保険は社保庁(Social Security Administration)、税金は歳入庁=IRS(Internal Revenue Service)が直接国民と対応する。

かつてはこのブログで以前紹介したような案内が国民に直接届いていた(現在は郵便は廃止し、ウェブサイトで自分で見に行く形に変更されている)。

地方自治体はセールスタックス(消費税)やスクールタックス(固定資産税)などの市町村税等については、国民に対応するが、所得税や社会保険は連邦政府のファンクションだから、国の機関が直接対応するのだ。

この本の黒田さんの説明では、政府は個人の情報は住民基本台帳で持っているが、世帯の情報は持っていない。地方自治体が世帯情報を持っているので、今回のマイナンバーも地方自治体が世帯単位で通知カードを送付しているのだ。

マイナンバーがあれば国と地方とは同じネットワークを共有することとなり、当然、世帯情報も共有することができるはずだ。

もしマイナンバーを活用することにより、国と地方の二重行政を一本化できたら、地方公共団体の職員は何十万人も削減できるかもしれない。そのことを黒田さんは最も恐れているのだろう。

マイナンバー制度にはもちろんマイナス面もある。マイナス面にも気づきながらも、適正な運用を進めることが重要だと思う。

その意味では、黒田さんのブログは気付きの機会を与えてくれ、役立つ。

マイナンバー制度は、国による国民のフロー(収入)とストック(金融資産、株などの有価証券、不動産)管理を可能とするので、その意味では国による管理強化となる。

一方、全く話題にならないが、やりようによっては国と地方自治体の二重行政が抜本的に簡素化できる可能性も秘めている。

プラスにもマイナスにもなるツールだ。

そんなことを考えさせられる本である。


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2015年10月15日

マイナンバー いまさら聞けないという人に

マイナンバーの配布が始まりました。来週あたりから皆さんのご家庭にもマイナンバーの通知カードが世帯分まとめて簡易書留で届くはずです。

さっそく事故が起こっています。茨城県取手市がマイナンバーを間違って記載した住民票を配布していたことがわかりました。

マイナンバー漏えい





















来年1月から住民票にも希望すればマイナンバーを表示できるようになりますが、取手市はミスで、すべての住民票にマイナンバーが表示されるように設定していたようです。

マイナンバーはたぶん今年の流行語大賞の上位に食い込むのは間違いなく、インターネットやメールマガジンでもマイナンバー関連サービスの広告が目立つようになりました。

マイナンバーの問題は、制度がスタートするというのに国民の理解度が進まない点です。それに付け込んで、マイナンバー詐欺という新しい手口も登場しています。

マイナンバー詐欺





















そんななかで、私が尊敬する弁護士で桐蔭法科大学院の法科大学院長でもある蒲俊郎先生が、ご自身のヨミウリオンラインの「おとなの法律事件簿」のなかで、わかりやすくマイナンバーを取り上げています

大変タイムリーな読み物で、さっそくページビュー上位に登場しているそうです。マイナンバーへの実務対応について「いまさら聞けない」と不安がある方には、是非一読をおすすめします。

おとなの法律事件簿





















蒲先生はヨミウリオンラインの人気コーナーのバックナンバーをまとめて、「おとなのIT法律事件簿」という本も出版されています。



どれも興味深い記事ばかりです。

ヨミウリオンラインの前回のコラムは「改正派遣法成立 派遣労働者にとって有利?不利?」という大変興味深い読み物でした。

改正派遣法





















マイナンバーや改正派遣法について簡単に知りたいという方。蒲先生のヨミウリオンラインのコラムがおすすめです。


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2015年07月27日

コトラーの戦略的マーケティング いまだに平積みで売られている本



フィリップ・コトラー教授のマーケティングの古典を読んでみた。今でも三省堂のビジネス書コーナーには、平積みで置かれている。2000年に翻訳が出たので、原典は1999年、つまりインターネットバブルの時に出版されている。

出てくる事例は、たとえば1999年10月に亡くなったソニーの故・盛田昭夫さんだったり、現在は苦戦しているマクドナルドや、政府支援でやっと立ち直ったGMの今は無くなったサターンデビジョンなどが成功例として取り上げられていたりして、古いものもあるが、依然としてマーケティングの基本を理解するには適切な本である。

まずマーケティングとセールスの違いを知らなければならない。筆者も1986年から1990年の最初の米国駐在時に、米国人のセールスマネージャーを採用するときに、米国人の人事担当VPから「マーケティングマネージャーとセールスマネージャーは違うよ」と言われて知った。

良く知られた寓話を使って、コトラーが説明している。

南太平洋に浮かぶ島に自分たちの市場があるかどうかを検討している靴メーカーの話だ。最初に派遣された受注担当者は、「ここの人びとは靴をはいていない。ここには市場はない」と報告した。

この報告に納得できなかった社長は次は営業マンを送った。「ここの人びとは靴をはいていない。ものすごい市場がある」と電報を打った。

この営業マンが圧倒的な数の裸足の人たちを目撃して、われを忘れてしまったので、今度はマーケターが送り込まれた。

部族の首長と数人の現地人にインタビューしたマーケターは、こう電報を送信した。

「ここの人びとは靴をはいていない。しかしながら、彼らは足に問題を抱えている。私は、靴をはくことで足の問題が防げることを首長に示した。首長はその考えに夢中になっている。部族の70%が一足10ドルで靴を買うだろうと首長は見ている。

初年度、われわれは5000足を販売できる見込みだ。島に靴を運ぶ輸送費と流通経路の整備にかかる費用は1足あたり6ドル。初年度の利益は2万ドルを超える計算になる。

われわれが計画している投資額からすると、投資利益率(ROI)は20%となり、通常の15%を上回っている。言うまでもなく、この市場に参入することで、将来手に入る価値は高い。ぜひ参入すべきである。」

この寓話にあるように、マーケティングは次の要素で構成されている。

R=調査(Research)

STP=セグメンテーション(S)、ターゲティング(T)、ポジショニング(P)

MM=マーケティングミックス(一般には4Pとして知られている、プロダクト(製品)、プライス(価格)、プレイス(流通チャンネル)、プロモーション(宣伝))

I=実施(インプレメンテーション)

C=コントロール(フィードバック、結果の評価、STP戦略とMM戦術の見直し、もしくは改善)

いわゆるPDCAによる継続的改善と似た考え方だ。

参考になる例がいろいろ紹介されている。

イケアの創業者イングヴァール・カンプラッドは、スウェーデンの高い家具に悩まされていた若い家族が、安くて高品質の家具が買えるようにした。その戦略は、次の通りだ。これが「マーケティング機会」だ。
1.大量購入・大量注文で大幅なディスカウントを達成する
2.家具を組み立て式にして、輸送費を節約する
3.顧客はショールームで見て購入し、自分の車で持ち帰るので配送料がかからない
4.顧客は自分で家具を組み立てる
5.代表的なスウェーデンの家具小売店が高いマージンで少量の家具を販売しているのに対して、イケアは低いマージンで大量に売りさばく

マクドナルドのレイ・クロックの非凡な才能は、多くの人が早くて、安くて、おいしい食べ物を望み、同じ味を期待していることに気が付いたことにある。マクドナルドが登場するまで、そうしたサービスを提供したものはいなかった。

マイケル・ポーター教授は、「競争の戦略」のなかで、企業の各事業部は、次のいずれかに集中すべきだと提案している。
1.製品の差別化戦略
2.コスト・リーダーシップ戦略
3.ニッチャー戦略
このいずれも中途半端に終わると、どれか一つの戦略に優れた競合企業に負けるだろうと警告した。




★クラリタス社(現在はNielsenの一部)が開発したプリズム(Potential Rating Index by Zip Markets)は郵便番号で分割して、全米50万以上の住宅区域を、プリズム・クラスターと呼ばれる62の異なったライフスタイルのグループに分類している。クラスターは39の因子をグループ化した次の主要な5つのサブカテゴリーを考慮して決定されている。
1.教育水準と経済的な豊かさ
2.家族のライフサイクル
3.生活の都市化の度合い
4.人種と民族性
5.移動性

それぞれのクラスターは次のような名前が付けられている。
1.Blue Blood Estates(名門出)
2.Winner's Circle(勝利者の集まり)
3.Hometown Retired(悠々自適の引退者)
4.Shotgun and Pickups(「上昇志向者」という訳になっているが、銃を好み、シーズンになるとピックアップトラックで狩猟に出かける人たち)
5.Back Country Folks(Uターン族)

Wikipedia英語版にすべて列挙されているので、参照願いたい。

いくつか例を挙げると。
6.American Dream(大都市に現れた高級志向の少数民族の集まり。彼らは輸入車、雑誌の「エル=Elle」、シリアルのミューズリー、週末のテニス、デザイナーブランドのジーンズを好む傾向がある。平均世帯所得は4万6千ドル)。

7.田園生活を好む産業労働者(中央街のオフィスや工場に勤める若い家族が含まれ、彼らのライフスタイルは、トラック、雑誌の「トゥルー・ストーリー」、シェイクン・ベイク(即席のケーキの素)、熱帯魚によって代表される。平均世帯所得は2万2千9百ドル)。

8.カシミヤとカントリークラブ(これらの年輩のベビーブーマーたちは、郊外で豊かな生活を送っている。彼らが購入するのは、メルセデス・ベンツ、「ゴルフ・ダイジェスト」誌、塩の代替製品、ヨーロッパ旅行、最新型のテレビ。平均世帯所得は6万8千6百ドル)。
 
なかなか興味深い。

★統合型マーケティング・コミュニケーション(IMC)
コトラー教授は、企業のマーケティング・コミュニケーション活動がきちんと統合された形で展開されていないことは周知の事実であり、これを解決するには、VPC(Vice President of Communications)を任命すればよいと語る。VPCが関与するのは単に一般的なメディア媒体にとどまらず、会社の服装規定や業務用トラックのペインティング、工場の外観など多岐に及ぶ。

顧客や見込み客は次のようなちょっとしたことで、その企業や製品について、自分なりの判断を下してしまうことがある。
・見込み客が工場を訪問した時、その散らかりようや床のゴミに唖然とした。
・見込み客が営業マンの訪問を受けた時、営業マンの息が臭く、服装もだらしなく、態度にしまりがなかった。
・顧客が企業広告を見て、センスがないと判断した。
・大々的に広告を打っている勢いのある企業のトラックが、実は古く、おんぼろであることに顧客が気づいた。

★よりよいサービスの例 
フォーシーズンズホテルや、ノードストローム百貨店の例は有名だが、コトラー教授は次のような例を挙げている。

USAA保険 
軍人とその家族に、保険業と銀行業のサービスを販売している。戸別訪問は行っておらず、保険はすべてテレマーケティングを通して販売している。USAA保険のCTIには、各顧客の記録が入っており、電話を受けると顧客の記録がテレマーケターの画面に映し出され、テレマーケターは顧客が喜ぶことをいろいろと話しかけることができる。

サックスフィフスアベニュー 
個人向けのショッピング・サービスでは、顧客は電話で予約し、店に着くとスイートルームに通され、専任の購買代理人が服を運んでくるか、自宅に服を届ける。もし全店セールの予定があれば、自宅に連絡が行き、もし同じものを購入した後で、セールが行われれば、代金が払い戻される。毎年一定金額以上を購入した顧客には、サックスは贈り物を送っている。

ハーレー・ダビッドソン 
ハーレーのバイクの購入者には、ハーレー・オーナーズ・グループ(HOG)の初年度無料会員証が与えられる。会員更新料は年間40ドルで、永年会費は350ドルである(注:現在は会費は上がっているかもしれない)。36万人の会員には、次がプレゼントされる。
1.特典情報が記載された会員マニュアル。
2.40ページの隔月誌 HOG Tales
3.オートバイ雑誌 The Enthusiast
4.特製のピンとバッチ
5.HOGツーリング・ハンドブック
6.12段階の達成段階別マイレージ・プログラム
7.ツーリングのABCに関したコンテスト
8.世界中どこでもハーレー・ダビッドソンのバイクがレンタルできるプログラム
9.月例会や組織的なツーリング、資金集めの各種活動への招待
10.バイクの手入れとHOGライフスタイルについての記事が掲載された月刊誌
11.安く加入できる傷害保険及び生命保険

ハーレー・ダビッドソンは自社製品を愛し、お互いに集うことが好きな顧客のブランド・コミュニティの構築に成功し、さらにブランドを革のジャケット、サングラス、ビール、タバコまで拡張した。



★資生堂クラブ(花椿クラブ)、クラブ任天堂リアドロ・コレクターの集いなど紹介している。

★マーケティング監査
コトラー教授は、最後にコペルニクス社によるマーケティング監査の手法について紹介している。

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出典:本書309〜311ページ


この手のマーケティングの教科書としては読みやすい。マーケテイングにおける基本が具体例とともに紹介されていて参考になる本である。


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2015年07月19日

憂欝でなければ仕事じゃない



幻冬舎社長の見城徹さんと、サイバーエージェント社長の藤田晋さんが、見城さんの35の過激な言葉一つ一つについて交互に語る本。

この本をつくるために、藤田さんは2010年の後半から、2011年の3月まで毎週のように見城さんと打ち合わせしてきたという。

この本はアマゾンの”なか見!検索”に対応していないので、目次を紹介しておく。

目次1






















目次2























出典:本書

このブログでは見城さんの「編集者という病」を紹介している。この本を読めば、見城さんが大変な人だということがわかるだろう。




この本でも見城さんらしい過激なフレーズが並ぶ。「憂鬱でなければ、仕事じゃない」というこの本のタイトルからして過激だ。

一方のサイバーエージェントの藤田晋さんのベストセラー「渋谷で働く社長の告白」のあらすじも、このブログで紹介している。




「渋谷で働く〜」を出した頃は、女優の奥菜恵と結婚していた時代なので、2004年頃の話だ。今は当然経営者としても成長して、この本でも、なるほどと思わせる発言が多い。

いくつか印象に残った部分を紹介しておく。

ふもとの太った豚になるな。頂上で凍え死ぬ豹になれ

これはヘミングウェイの「キリマンジャロの雪」の冒頭に出てくる一節だ。




グレゴリー・ペック主演の映画でも最初の1分45秒くらいに、この話が出てくるので、注意して見て欲しい。



見城さんは、頂上で凍え死ぬ豹になりたいといつも思っていると。だから、1997年に創業4年目で幻冬舎文庫を立ち上げたときは、一挙に62冊の文庫本を売り出した。文庫は新刊書のストックがないとできないので、通常は10年かかるという。

幻冬舎の前に大手出版社で文庫を出したのが光文社で、幻冬舎文庫スタートより12年前に31冊の文庫を出した。だから幻冬舎は、その倍の62冊の文庫を売り出したのだ。

その時に新聞の全面広告を出し、「新しく出ている者が無謀をやらなくて、一体何が変わるだろうか」というキャッチで宣伝した。まさにその当時の見城さんの正直な気持ちそのものだったという。

アルチュール・ランボーの詩集「地獄の季節」の”俺たちの舟は、動かぬ霧の中を、纜(ともづな)を解いて、悲惨の港を目指し”という一節をイメージした荒海に小舟が乗り出していくイラストをつけたという。

地獄の季節 (岩波文庫)
ランボオ
岩波書店
1970-09



幻冬舎には広告部員は見城さん一人だけだと。自分で広告代理店と交渉し、メディアを決め、どんな広告にするかイメージし、コピーも手掛ける。キャラクターが必要なら、自分で選び、交渉する。

宣伝だけは誰にも任せない。最初からそう決めていた。
それは、見城さんが本を売るセンスに誰よりも自信があるからだと。


スポーツは仕事のシャドーボクシングである

見城さんは、週6日ジムに行くという。都内4つのホテルのジムの会員になっているのだと。仕事が一段落した時に、一番近いところに行けるようにするためだ。

若いころは、仕事よりトレーニングを優先して、ボディビルの大会に出ようとベンチプレス130キロまで挙げたという。

今でも見城さんは、強迫観念に駆られながらトレーニングするという。トレーニングすると、心の中でファイティングポーズを取れるからだ。

トレーニングは決して楽しいことではないが、自分を追い込み、憂鬱なことを乗り越える。そうすることが、仕事をするときの姿勢に、大きな影響を及ぼす。そもそも仕事とは、憂鬱なものだと。

筆者もこの態度を見習わなければならない。筆者もトレーニングをしているが、ジムに行くのは週1回、プールに行くのも週1回。減量中のこともあり、ベンチプレス100キロまで戻したものが、95キロまで落ちている。マズイ傾向だ。

週6日はともかく、やはり週3日くらいはやらないと。

見城さんは自分の言葉ながら、「憂鬱でなければ、仕事じゃない」という本のタイトルが気に入ったという。デューク・エリントンの「スイングしなけりゃ意味がない」という曲と重なったからだと。



実際、仕事は「正」であり、憂鬱は「負」である。その両極をスイングすることで、はじめて結果が出るのだと。

見城さんは、「京味」(新橋)に行けなくなったら、仕事はやめるという。「京味」は一人5万円くらいする。「京味」に行けなくなったら、仕事がうまくいかないということを意味するので、見城さんにとっては、「京味」が絶対的な仕事の基準なのだと。

藤田さんにとっては、西麻布の「エスペランス」が「京味」にあたるという。

一つ一つのテーマについて見城さんと、藤田さんが見開きで2ページずつ書いており読みやすい。見城ワールドと藤田ワールドの入門書のような内容だ。

簡単に読めるので、是非一度手にとって見て欲しい本である。


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2015年06月28日

筋トレをする人は、なぜ、仕事で結果を出せるのか? アバウト過ぎないか?



学生の時は東北大学ボディビル部の主将だったという千田拓哉さんの「99冊目」の本。

そんなたくさんの本を書いているとは知らなかったが、筆者はこの本が初めて読んだ千田さんの本だ。

タイトルからして、たぶんアバウトな本だと予想していたが、予想通りアバウトな本だ。

千田さんは、学生時代東北大学のボディビル部の主将だったそうで、全日本パワーリフティング大会で100キロ超級で2位に入賞したことがあると。

東北大学のボディビル部には知り合いがいるので、今度評判を聞いてみようと思う。

この本はアマゾンのなか見!検索に対応しているので、次をクリックして目次を見て欲しい筋トレをする人は、なぜ、仕事で結果を出せるのか? [単行本(ソフトカバー)]アバウトな目次が並んでいる。

筆者が気になるのは、目次の29の「大学デビュー同士の競技なら、東大生が強い」だ。

東大はかつて関東学生ボディビル大会では、11連勝したことがあり、最近は関東学生パワーリフティング大会で2連勝している。

ラクロスとかも結構強いが(2014年のシーズンで関東学生1部リーグA組2位で、決勝トーナメントに進んだ)、たとえばアメフットとか、フィールドホッケーとかは抜群に強いわけではない。

また東大が強いなら、京都大学や東北大学だって、それぞれの地区では強いはずだが、そういった話はない。

パワーリフティングやボディビルは東大生に向くスポーツだと思うが、東大のパワーリフティングやボディビルが強いといっても、一般化はできないと思う。

この他の千田さんの本のタイトルを見ると、このブログでも本を紹介している中谷彰宏さんと同じ様な路線で行こうとしているように思える。

しかし中谷さんはゴーストライターを使っていても、巻頭の3行の本の総括はたぶん自分で書いており、読者のご意見は、必死に読むと巻末で語っている。たぶんそうしているのだと思う。

だからあれだけ多作にもかかわらず、それぞれが良く売れている。

中谷彰宏さんの境地に達することができるのか?

千田さんにやや仲間意識を感じるので、はやくその域に達して欲しいものである。


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2015年06月14日

黒子の流儀 DeNAを支えた春田前会長の自伝

黒子の流儀 DeNA 不格好経営の舞台裏
春田 真
KADOKAWA/中経出版
2015-04-12


南場智子さんが創業したDeNAの経営を「黒子」として支えた春田真(まこと)さんの自伝。

この本はアマゾンの「なか見!検索」に対応していないので、目次を紹介しておく。春田さんの経歴が1/3、DeNAのビジネスが1/3、横浜DeNAベイスターズのことが1/3という感じだ。

第1章 球界参入
第2章 銀行員時代
第3章 ベンチャー
第4章 DeNA事件簿
第5章 野球への想い

DeNA創業者の南場智子さんの「不格好経営」のあらすじはこのブログで紹介しているので、参照してほしい。春田さんは、もちろん「不格好経営」の中にも登場する南場さんを支えた腹心の部下だ。

不格好経営―チームDeNAの挑戦
南場 智子
日本経済新聞出版社
2013-06-11



「不格好経営」のあらすじにも書いた通り、筆者はDeNAには大変感謝している。横浜大洋ホエールズ以来、長年続けてきた横浜ファンから卒業できたからだ。

横浜ファンだったころは、シーズン初めは期待できたが、5〜6月で調子を落とし、毎年最下位あたりを低迷するという繰り返しだった。

1998年に優勝した当時のマシンガン打線大魔神・佐々木主浩を擁した投手陣は、ほんの一時のピークに終わり、あとは毎年同じことの繰り返しで、毎年欲求不満を抱えていた。

今はプロ野球のひいきチームはない。「明鏡止水」という心境だ。

そんなわけで、ベイスターズファンだったら、この本はもっと興味深く読めたかもしれないが、春田さんの横浜ベイスターズ買収の裏話を聞いても、フーンという感じだ。

以前から友人から横浜スタジアムには既得権がからんでいるという話を聞いていたが、この本ではそのあたりは簡単に触れている。どうやらDeNAがベイスターズを保有することとなって、条件見直し交渉をしたようだ。

そういえば、DeNAの前にベイスターズ買収交渉をしていた住生活グループ(LIXIL)は、本拠地を新潟か静岡に移転するという考えを明かしたので、これが破談の原因になったという話があった。LIXILも既得権対策として本拠地移転案を出してきたのだと思う。

春田さんも書いているが、DeNAがプロ野球に参入を表明し時に、最も反対したのは、楽天の三木谷さんだ。

春田さんは、次の理由を挙げている。

1.経営者として球団を持つことのメリットの大きさを自身の体験からよく理解しており、競合の可能性のある企業が大きなメリットを得られる球界参入を阻止しようとした。

2.単純に競合する事業もあるDeNAが嫌い?

南場さんと三木谷さんについては、不仲が取りざたされている

この記事では南場さんが春田さんに代わってベイスターズのオーナーに就任する6月以降、オーナーとして三木谷さんとやたらと衝突すると予測しているが、そんなことはまずないと思う。

春田さんは、ベイスターズをDeNAが保有する宣伝効果は試算では1,000億円になるという。NHKでもDeNAの名前を毎日何回もニュース等で紹介してくれるのだ。なるほどと思う。

この本では、春田さんのおいたちも紹介している。

春田さんのお父さんは住友銀行に勤めていたが、春田さんが小学校5年生の時に、病気で亡くなり、以降はお父さんの実家の春田家で、母子家庭としてお母さんに育てられたという。

お母さんの話では、お父さんが亡くなった後も、住友銀行にはなにかと世話になったという。だから春田さんが京都大学を卒業して、住友銀行に就職した時は、お母さんは大喜びだったという。

逆に、1999年の住友銀行とさくら銀行の合併を機に、30歳で春田さんが住友銀行を辞めてDeNAに転職した時は、お母さんは泣いたという。

そんな春田さんご自身の経歴も、この本を読むうえで別の見方を与えてくれる。

この本の「黒子」というタイトルほど、春田さんは脇役ではないと思う。

飾らない語り口が好印象を与える本である。


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2015年05月07日

キングオブオイル マーク・リッチ伝

キングオブオイル
ダニエル・アマン
ウェイツ
2010-11-05


原油のスポット市場を作り上げ、イランやナイジェリアなどの原油を、イスラエルやアパルトヘイト時代の南アフリカに販売して巨額の富を得たが、米国でイランとの禁輸の網をくぐったとして訴追され、クリントン大統領の特赦により免罪されたトレーダー マーク・リッチの物語。

マーク・リッチという名前は、一般の人にはあまりなじみがないかもしれないが、筆者は鉄鋼原料の商売を20年ほど担当していたので、まさに同時代のビッグショットとして知っていた。

Marc Rich













出典:ネット検索で取得

米国政府からイランとの禁輸を破り、巨額の脱税をしたという罪で訴追されるまでは、マーク・リッチの会社のマーク・リッチ+Co. AGが世界最大のコモディティトレーダーとして君臨していた。

訴追後、マーク・リッチ+Co. AGはグレンコアと名前を変え、マーク・リッチが持ち株を売却すると、エクストラータがスピンアウトして石炭などのコモディティトレードで大きく成長した。

2013年には、グレンコアがそのエクストラータを合併して、グレンコア・エクストラータとして世界最大のコモディティ・トレーダーとして君臨している。

筆者はマーク・リッチとは取引したことはないが、マーク・リッチがトレーダーとして頭角を現したフィリップ・ブラザースとは取引したことがある。入社して初めての仕事が、フィリップ・ブラザースからの鉄鋼原料の輸入商売だった。

いままでマーク・リッチはメタル・トレーダーだと思っていた(「メタル・トレーダー」というマーク・リッチの伝記も出版されている)。



しかし、この本を読んで、実は巨額の富を築いたのは、もっぱら原油のスポットトレード、それもアラブ諸国から石油の禁輸措置を食らって、「油断」状態だったイスラエルに、シャーの時代はもとより、ホメイニが復帰してからもイラン原油を売っていたためだということがわかった。

この本によると、マーク・リッチは1973年から20年間、イスラエルの石油必要量の1/5を供給し続けた。

マーク・リッチは同様に、アパルトヘイトで国連から禁輸措置を受けていた白人政権時代の南アフリカにも、イラン産原油やナイジェリア産原油などを売って、こちらでも巨額の利益を上げている。サダム・フセイン時代のイラクともマーク・リッチは取引があった。

もともと原油は長期契約で取引され、原油のスポット市場は存在していなかった。そのスポット市場を作り上げたのが、マーク・リッチだ。

マーク・リッチはベルギーに生まれ、幼少の時に、一家はナチスを逃れて、カサブランカ経由で米国に逃れる。外国語が達者だったお父さんは、南米からのジュート(麻)の輸入会社を立ち上げて成功し、マークはニューヨークの私立ローズ高校から、ニューヨーク大学に進み、19歳からフィリップ・ブラザースの見習いとして働き始める。

マーク・リッチは最初に水銀の取引で大儲けして、頭角を現した。

次にマーク・リッチは「石油は武器になる」と予想して、イランと原油100万トンの固定価格(5ドル)での長期取引を決めた。この買持取引は、フィリップ・ブラザースのトップの了解を得ておらず、当時の公定価格3ドルよりも高かったため、マークはその原油を米国のアシュランドオイルに転売するはめとなった。

これがマーク・リッチがフィリップ・ブラザースから独立することを決心するきっかけとなった。

その直後に、第4次中東戦争が起こり、イスラエルが軍事的には勝利したが、アラブ諸国はイスラエルと親イスラエル国に対する石油の禁輸で対抗し、第1次オイルショックが起こり、原油価格は12ドルまで急騰した。

マーク・リッチが予想していた通り、「石油は武器になる」ということが明らかになったのだ。

ちなみにこの本では、トップシークレットとして、第4次中東戦争前にイランとイスラエルは共同でパイプラインを運営して、イラン原油をパイプラインでイスラエルまで輸送していたことが明かされている。

マーク・リッチは1979年1月にシャーが追放され、イラン革命が起きてからもイラン革命政府との取引を続けた。

1979年11月にイランによるアメリカ大使館人質事件が起こって、米国はイランと断交してからも、マーク・リッチはイランとの取引を続け、イランから原油を買って、イスラエル等に販売していた。

イランは原油の向け先がイスラエルであることを知っていたが、何も言わなかったという。

この取引はマーク・リッチのスイスのツーク(Zug)にある本社が行った取引で、スイス法ではイランとの取引は合法だった。(Zukは法人税が約10%と安く、フィリップ・ブラザースなど多くの企業が本社を置いていた)

しかしこの取引に目をつけて、政治問題化しようとたくらんだ人物がいた。後にニューヨーク市長となり、一時共和党の大統領候補ともなったルドルフ・ジュリアーニ連邦検事だ。

マーク・リッチは1982年に米国籍を離脱して、スペインに帰化していたが、米国政府はこれを認めず、1983年にイランとの禁輸破りと脱税で起訴した。

マーク・リッチは「逃亡者」となったのだ。

逃亡者 製作20周年記念リマスター版 [Blu-ray]
ハリソン・フォード
ワーナー・ホーム・ビデオ
2013-10-02


筆者には、デビッド・ジャンセン主演のテレビドラマシリーズの方が親しみがある。

逃亡者 SEASON 1 (全30話収録) [DVD] 2TF-4500
デビッド・ジャンセン
株式会社イーエス・エンターテインメント/キープ株式会社
2010-04-30


マーク・リッチの元妻のデニーズ・リッチは民主党の支援者として知られ、100万ドル以上を民主党に寄付していた。イスラエルのバラク首相からの頼みもあり、ビル・クリントン大統領は2001年の任期満了の数時間前にマーク・リッチに対する大統領特赦にサインした。

この行為は金で特赦を買った行為として非難され、政治問題となったが、覆されることはなかった。

しかしマーク・リッチは特赦後も、米国を訪問したり、スイス国内でスイス法を平気で無視する米国官憲に捕まると、また訴追されかねないとして警戒し、死ぬまで米国には足を踏み入れなかった。

そして2013年、稀代のトレーダー、マーク・リッチは79歳でスイスで死去した。

筆者はマーク・リッチと会ったことはないが、この本は興味深く読んだ。

マーク・リッチのスイスの豪邸には、モネ、ルノワール、ピカソなどの絵画が飾ってあったという。

巨額の富を築いたトレーダーの先輩ではあるが、尊敬する気にはなれない。

1980年前後は「コンプライアンス」という言葉はなかった。「コンプライアンス」が単に法令順守以上のものを意味するようになったのは、割合最近のことだ。

マーク・リッチの行為は、マーク・リッチ本人が言うように、形式からすればスイス法では違法ではないということになるのだろうが、実質的には米国の対イラン禁輸の網をかいくぐった、まさに「コンプライアンス」違反である。

今でいう「コンプライアンス」意識がなかったのが、マーク・リッチの致命傷になったともいえる。

同時代史としても楽しめる。

マーク・リッチの名前を憶えている人には、是非一読をおすすめする。


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2015年05月05日

異端児たちの決断 日立製作所 川村隆前会長が日経「私の履歴書」に登場

2015年5月5日追記


日経新聞の「私の履歴書」に、この本の主人公の日立製作所の前会長 川村隆さんの連載が始まったので、最初の部分だけ紹介しておく。

日本経済新聞 印刷画面_ページ_1































出典:日経新聞(電子版)2015年5月1日「私の履歴書」


日経IDに会員登録してログインしないと、読めないかもしれないので、その場合には登録して読んでほしい。

ちなみに、川村さんの前の「私の履歴書」はニトリの似鳥昭雄ニトリホールディングス社長だった。連載中は時々読んでいたが、この休みに1か月分まとめて読んだ。ひさしぶりに超面白い履歴書だった。こちらもおすすめである。


2015年4月29日初掲



リーマンショックの直後、日本の製造業では最大規模の8,000億円弱の最終赤字を計上した日立製作所の経営を立て直した川村隆さん他の経営改革の本。

川村さん自身も「ザ・ラストマン」という本を書いているので、今度読んでみる。



日立製作所の2005年から2014年までの業績推移は次の表の通りだ。

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出典:日立製作所IRデータ

川村さんは2009年4月に庄山会長、古川社長の後を継いで日立製作所の社長兼会長に就任し、1年間社長と会長を兼務した後、中西さんを社長として引き入れ、川村・中西体制で日立製作所の復活の舵を切った。

川村さんは2014年に会長職を中西さんに譲り、自らは相談役となって取締役も退任した。中西さんは川村さんを引き継いで2014年に会長兼CEOに就任している。

川村さんは日立製作所では重電畑をずっと経験し、中西さんも重電畑出身だ。日立工場では一緒に働いたこともある。川村さんは1999年に日立製作所の副社長に就任した後、4年後の2003年に、日立本体の副社長を退任し、子会社の日立ソフトウェアエンジニアリング(現日立ソリューションズ)会長に転出、その後は日立マクセルなどのグループ会社の会長職についた。いわゆる「上がり」の人事だ。

そんな「上がり」の川村さんを呼び戻した日立製作所の人事は当時評判になった。

この本では、川村さん自身がちょうど乗り合わせた1999年の全日空機ハイジャック未遂事件が、ちょうど乗り合わせた非番(デッド・ヘッド)のパイロットが、機長を包丁で刺し殺した航空マニアのハイジャック犯がいる操縦室に突入し、かろうじて機体を墜落から救った話を紹介して、川村さんをはじめとする員数外の人間が日立を救ったと紹介している。

筆者はあまり日立製作所に注目してこなかったが、この本で紹介されている日立製作所の取締役会のメンバーを見て驚いた。

ソニーの取締役会は20年ほど前から、国際性とバラエティに富んだ人材で構成されていて有名だが、今の日立製作所の取締役会メンバーも、ソニーと比べても遜色のない多彩な人材をそろえている。

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出典:本書

取締役がそろった写真も本書に載っている。

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出典:本書

筆者は総合商社に勤めているが、日立製作所の取締役会の構成をみると、最も事業のグローバル展開が進んでいるはずの商社が、経営体質では全然グローバルでないことを痛感させられる。

この本を読んで、日立製作所が川村体制下、素晴らしい強靭な体質の会社に生まれ変わったと思ったが、日立OBの大前研一さんは、厳しい評価をしている。

大前さんの「BIZトピックス」というメルマガ?を紹介しているサイトから引用すると。

「このようにV字回復を果たした日立ですが、「本当の復活と呼べるかどうかはまだわからない」と大前研一は指摘します。近年の日立の業績推移をよく見ると、利益は回復しているのに、売り上げが伸びていないことに気づきます。

これが何を意味しているのかといえば、日立が新しい成長産業を見出して、大きな利益を挙げているわけではないということです。既存事業の取捨選択だけでは巨大企業の将来戦略としては不十分というわけです。

「赤字事業をどんどんリストラする一方で、グループに儲かっている会社があれば本体に取り込むという形で、数字の見栄えをよくしてきただけに過ぎない」というのが大前研一の見方です。」

たしかにセグメント別の2009年から2014年までの売上高推移をみると、あまり大きな変化が見られない。

img007

















出典:日立製作所IRデータ

しかしそうはいっても、鉄道車両事業で英国で工場を建設して英国のみならずEU向けを狙ったり、火力発電部門は三菱重工の火力発電部門と経営統合して、三菱65%、日立35%で三菱日立パワーシステムズを発足させたり、大変ダイナミックな動きをしているのは間違いない。

子会社の本体への吸収や、日立金属と日立電線の合併など、日立グループの子会社改革も進んでいる。

大前さんは単に「数字の見栄えをよくしてきたにすぎない」と手厳しいが、筆者には、日立製作所のシンボルツリーである、ハワイオアフ島のモンキーポッドのように日立グループが有機的な成長を続けているように思える。

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従業員30万人以上の日立グループの総帥・日立製作所がここまでグローバル経営に体質改善しているとは、まったく気が付かなかった。大前さんは手厳しいが、筆者はやはりすごいと思う。

日立製作所の現会長兼CEOの中西さんは料理が趣味だという。中西さんの米国駐在時代の来客用のメニューがこの本に載っているので、最後におまけで紹介しておく。プロの料理人の域に達していて、すごいとしかいいようがない。

img008
































出典:本書

大変面白い読み物となっており、読んでいて元気がわいてくる。お勧めの本である。


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2015年03月24日

【再掲】マイナンバー制度と企業の実務対応

2015年3月24日追記:

政府がマイナンバーの理解度テストをインターネットで公開している。

全部で10問あり、参考になるので、ここをクリックして一度試してほしい。

ちなみに、同じサイト(Yahoo!の特別ページ)で上戸彩さんのCMと、上戸彩さんのメッセージを公開しているので、こちらも紹介しておく。


2015年3月9日追記:

政府が上戸彩さんを使って、マイナンバーの宣伝を始めた。どうってことないCMだが、まずはマイナンバーという名前の周知を狙っている様だ。




2015年2月25日再掲:

今年に入って一般的なマイナンバーの実務対応セミナーはどこも満席が続出している。会社の友人に教えてもらった最近の内閣府のアンケートでは、マイナンバー制度の内容まで知っていたという人は28.3%に留まるという結果が出ている。

個人が手書きで対応するなら、全く問題ないが、税金関係や社会保障関係の処理をシステム化している企業では、システム改変等が必要となる。

日本では数年前からプログラマー不足が恒常化しており、一時はやった中国などでのオフショア開発も最近は下火で、多くのシステム開発会社では需要はあるが、人手不足で対応できないという状態が続いている。

2015年2月23日に発表された帝国データバンクの「人手不足に対する企業の動向調査」でも、従業員が最も不足しているのは「情報サービス」で、「不足」と回答した割合が59.3%となり、業種別に見て最も高かったという結果を公表している。

帝国データバンクでは、”「人材不足が深刻化しており、IT エンジニアが確保できない」(ソフト受託開発、東京都)や「人材不足で仕事を断っている」(ソフト受託開発、京都府)など、年度末の需要期に加えて、マイナンバー制度の導入や金融機関のシステム投資拡大などもあり人手不足が高水準で続いている。”という解説も付けくわえている。

日本の全法人約400万社が、2016年1月からマイナンバーの利用が義務付けられているので、マイナンバー対応のシステム改変だけでも、大変なシステム開発ラッシュとなることが見込まれる。

システム改変を伴うマイナンバー対応準備は前広に実施する必要があるので、「マイナンバー制度と企業の実務対応」のあらすじを再掲する。


2015年1月12日追記:

この本の著者の榎並さんが、2014年11月10日に開催された経団連の「マイナンバー実務対応シンポジウム」で講演しているので、紹介しておく。配布資料はここをクリックしてダウンロードして頂きたい。

シンポジウム全体の議事要旨と配布資料も公開されている。

この配布資料と榎並さんの講演要旨を読めば、実務対応で何をやらなければならないかよくわかると思う。

詳しくは本を読むとして、とりあえずは配布資料を参照してほしい。


2014年12月29日初掲:



2015年10月に全国民に対して配布されるマイナンバー制度の企業対応をまとめた本。

著者の榎並利博さんは富士通総研の主席研究員で、このブログで紹介した「マイナンバーがやってくる」も共著者として出版しているマイナンバーのオーソリティだ。



マイナンバーについては、内閣官房の社会保障・税番号制度のウェブサイトに掲載されているマイナンバー制度概要資料が参考になる。他にも「マイナンバー制度で企業実務はこう変わる」などの企業向け解説書もある。



読み比べてみたが、榎並さんの本の方が、分かりやすく、いろいろな情報満載で、実用的だと思う。

この本の「序章」を読めば、大体やるべきことがわかる

この本の最大の利点は「序章」(4ページ〜16ページ)を読めば、やるべきことが大体わかる点だ。実務書として大変よくできていると思う。

「序章」は次のような節にわかれている。

チェックポイント 1.マイナンバー対応の組織体制

民間企業は基本的には、「個人番号関係事務実施者」(単にマイナンバーを行政機関に提供するなど、補助的に扱う人)となるが、企業年金と健康保険組合に限っては、行政機関と同じ「個人番号利用事務実施者」(マイナンバーを業務利用する人)となる場合がある。

「個人番号利用事務実施者」となると、マイナンバー導入のためのシステム改変前に、「特定個人情報保護評価」(Privacy Impact Assessment=リスク分析)を実施する必要があり、また国の「情報提供ネットワークシステム」に接続するので、それなりの情報セキュリティが必要だ。違反した場合には罰則が科せられる。

「マイナンバー法」は「個人情報保護法」(一般法)に対して、特別法という位置づけとなるので、マイナンバーの取扱いに限っては、「個人情報保護法」の要求事項に加えて、「マイナンバー法」の要求事項も満たさなければならない。

民間企業でマイナンバーを取扱うのは、次のような部署だ。

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出典:本書5ページ

民間企業は現在は従業員の住んでいる自治体ごとに仕分けて、源泉徴収票と給与支払調書を郵送している。これが大変な手間だった。

マイナンバーを導入することによって、今後はオンラインでeLTAX(”エルタックス”=地方税ポータル)にデータを送れば、マイナンバーを利用して、eLTAXが、税務署やそれぞれの自治体に必要なデータを振り分けて送信することになり、民間企業の手間は軽減される。

一方、マイナンバーの取扱いで最も注意すべき点は、現状では税金、社会保険、健康保険(+激甚災害対応)以外の目的でマイナンバーを利用することは法律で禁止されていることだ。

たとえば、社員番号としてマイナンバーを利用することなどは、法律上禁止されている。だから、マイナンバーと他の個人情報を一緒に記載したエクセルシートなどを作成することは、上記の目的に限られる。

罰則も個人情報保護法に比べて、各段に厳しくなり、保護法では、主管官庁の改善命令等に従わない場合のみ、罰則が適用されたのが、今度は不正提供や不正取得、漏えいに直接罰が設けられるようになった。不正手段でカードを取得することだけでも最高6か月以下の懲役刑が課せられる。

図1




















出典:内閣官房 社会保障・税番号制度 ホームページの「番号制度の概要」資料


チェックポイント 2. すべての民間企業が対応しなければならないこと

「個人情報保護法」は5,000件以上の個人情報を取扱っている法人・個人が対象だが、マイナンバーには5,000件という制限はなく、すべての民間企業が対象となる。日本には約400万社の企業があるといわれている。そのすべてが2016年1月からマイナンバーに対応する必要がある。

すべての民間企業は、マイナンバーを安全に管理するために規則を制定したり、教育研修を行ったり、取扱う従業者に対して適切な監督を行うことが求められている。また、国や自治体が行うマイナンバー関係の施策に協力する義務もある。

といっても特に難しいことではない。2016年1月からの社会保険(厚生年金、介護保険等)、健康保険、税金の手続きの際に、個人から取得した本人及び必要に応じて被扶養者のマイナンバーと、国税庁より配布される法人番号の両方を記載するだけのことだ。

たとえば従業員、株主、講演講師、不動産賃貸人などからマイナンバーを集め、税務署への支払調書に記載することになる。

これが手書きで届出書に記入するなら話は簡単だが、多くの企業が給与計算とか税金の支払い、社会保険の手続きをシステム化しているので、2016年1月の運用開始前に、マイナンバーと企業番号の両方を組み入れるためにシステムを改変しなければならない。

これが「マイナンバー特需」といわれる、システム開発ラッシュだ。

システム的に対応できない企業は、社労士とか公認会計士などの外部の委託先に頼むことになる。

筆者はプライバシーマーク審査員として、システム開発会社を数多く訪問してきたが、日本のシステム開発会社はどこも人手不足で、今でさえ受注したくとも、人手が足りないので、受注できない状況だ。

みずほ銀行のシステム入れ替え特需(3,000億円といわれている)に加え、「マイナンバー特需」が出てくると、システム開発会社の能力を上回るシステム開発需要が発生することが予想されている。

一時、はやっていたような中国でのオフショア開発とかも、最近はほとんど話を聞かない。オフショア開発を続けている会社もあると思うが、とても日本の特需に対応できるような規模ではない。

多くの企業でのシステム開発の遅れが、筆者が最も懸念している点だ。


チェックポイント 3. 金融業界における特別な対応

金融業界では、毎年税務署に膨大な支払調書を提出している。たとえば、投資信託、先物取引、株式の特定口座、生命保険支払、年金型の生命保険等の支払調書などだ。これらの支払調書のすべてにマイナンバーを記載する必要がある。

また、マイナンバーのもう一つの利用目的として、激甚災害被災者救援がある。激甚災害で通帳やカードをなくした人にもマイナンバーの通知で、金銭の払い出しが可能となるのだ。


チェックポイント 4. マイナンバー関連業務の受託

マイナンバー関連業務の取扱いを再委託する場合には、委託元の承諾を得る必要がある。


チェックポイント 5. 民間企業がマイナンバーを業務利用する場合

民間企業でも「個人番号利用事務実施者」となる例外的な場合がある。

それは、確定給付あるいは確定拠出年金制度がある事業主が、従業者の企業年金の管理にマイナンバーを使う場合だ。

この場合、「情報照会者」として国の「情報提供ネットワーク」(2017年1月運用開始)に接続して、年金の給付状況などを照会することができる。


チェックポイント 6. 健康保険組合は個人番号利用事務実施者となる

大企業の健康保険組合や国民健康保険組合は、保険給付や保険料徴収にマイナンバーを利用するので、「情報提供ネットワーク」に接続する必要がある。

さらに、情報照会者から依頼があった場合、医療保険給付関係情報を提供しなければならない立場となるので、中間サーバを設置して、被保険者や被扶養者の医療保険情報を「情報提供ネットワーク」に提供する必要がある。

中間サーバが必要な理由は、マイナンバーの安全対策として、各機関が保存する個人情報とマイナンバーは直接結びつけず、マイナンバーを翻訳する符号を保存するという複雑な仕組みになっているからだ。

行政機関と同等の作業となるので、単一企業組合などの場合を除いて、特定個人情報保護評価も必要となってくる。

民間企業でのマイナンバー取扱いで、最もややこしいのはこの健康保険組合での取扱いだ。


チェックポイント 7. 情報提供ネットワークシステムへの接続

情報提供ネットワークシステムへ接続するためには、インターフェースシステム、中間サーバ、住基連携用サーバが必要となってくる。

住基連携用サーバが必要な理由は、上記のようにマイナンバーと個人情報を結びつける符号を住基ネットから取得するためだ。

住基連携用サーバで住基ネットから住民票コードを割り出し、それを情報提供ネットワークに送信して、住民票コードに対応する符号を生成してもらい、中間サーバ経由で符号を受領するという手順となる。


チェックポイント 8. 特定個人情報保護評価の実施

確定拠出・給付年金制度を持っている企業、単一組合を除く健康保険組合で情報提供ネットワークに接続する場合は、接続する業務について特定個人情報ファイル(マイナンバーを含む個人情報)が取扱われる前に、プライバシーに与える影響評価(PIA=Privacy Impact Assessment)を行う必要がある。

これが特定個人情報保護評価だ。プライバシーマーク認定企業では、社内に保有する個人情報を台帳等で特定して、次に取扱いのライフサイクル等に沿ってリスク分析をする。これと基本的には同じ作業となる。

この特定個人情報保護評価は、取扱う個人情報の件数、事故の有無、取扱者の人数により閾(しきい)値が設けられている。それが次の図だ。

閾値判断





















出典:特定個人情報保護委員会 特定個人情報保護評価指針の解説(平成26年11月11日)第5.

つまり、「基礎項目評価書」は1,000人未満の小規模機関を除いて、全部が必須。

1万人までの小規模は基礎項目評価書のみ、1万人~10万人、10万人〜30万人は、取扱者数や事故の発生によって、重点項目評価表または全項目評価表、30万人以上は全項目評価表という振り分けとなる。

作成した基礎項目評価書と重点項目評価表は、特定個人情報保護委員会に提出され、公表される

また全項目評価表は、特定個人情報保護委員会で内容審査及び承認を受けて公表される。

評価は年1回以上見直す必要があり、評価作業を実施する組織体制も確立しておく必要がある。


チェックポイント 9. マイナンバー対応のスケジュール

マイナンバー対応スケジュールは次のようになる。

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出典: 本書16ページ

前述のように日本全体でプログラマーが不足している。マイナンバー運用開始まで、あと1年あるともいえるし、あと1年しかないともいえる。

情報提供ネットワークに接続するのであれば、システムの要件定義段階までに特定個人情報保護評価も実施する必要がある。

早めに準備を開始しておくことが肝要だと思う。


その他の特記事項:

この本は上記のような実務的な対応のポイントを紹介しているとともに、マイナンバー制度そのものについても、様々な情報を掲載しており、参考になる。特記事項として箇条書きでいくつか紹介しておく。

★マイナンバーはもともと民主党のマニフェストで提案されていた
2009年の選挙の際の民主党のマニフェストで提案されていた。民主党政権時代に、法案が国会に提出されたが、審議未了で廃案となった。

2012年末に政権交代し、自民党はむしろマイナンバーの民間利用の検討準備期間を、当初案の5年から3年に早め、安倍政権下で2013年5月にマイナンバー法が成立した。

特定個人情報保護委員会の権限強化も、自民党案で織り込まれた。2015年には「個人情報保護法」自体が改正され、「特定個人情報保護委員会」が、諸外国の「個人情報コミッショナー」と同等の「個人情報保護委員会」に改組される見込みである。

★ノルウェーでは個人の氏名、住所、生年、年収、資産、税額までインターネットで公開されている。
これは驚きだ。北欧諸国はスウェーデンが1972年に世界で初めて個人情報保護法を制定していることでもわかるとおり、個人情報保護には世界で最も進んでいる地域とみなされている。

日本人から見れば、こういった情報を公開することは、プライバシーの侵害になるということで、大騒ぎになると思うが、ノルウェーではこういった情報はプライバシーとは考えられていないのだと。

インターネットで"Skattelister"で検索すると、ノルウェー語のページが出てくる。意味が良くわからないが、どうやら"Skatte=tax"、"Inntekt=income"、"formue=fortune=asset"のようだ。

トップページではノルウェーの高額取得者のリストや国民の年収分布グラフなどが公開されている。

日本ではプライバシーと個人情報の区別があいまいだが、ノルウェーでは資産や年収はプライバシーとはみなされていないのだろう。

★スウェーデンでは国税庁傘下のSPAR(住民情報登録機関)が住民情報を提供する名簿ビジネスを有料でやっている。ダイレクトメールを受け取りたくない住民はオプトアウト(受け取り拒否)できる仕組みだ。

日本のように名簿屋を悪者として敵視するのも、行き過ぎではないかという気がする。スパムメールは確かに迷惑だが、ダイレクトメールであれば、オプトアウトで受け取り拒否すれば、それで済むのではないかと思う。

★預金口座へのマイナンバー適用
マイナンバー法でも、投資信託、先物取引、株式の特定口座、生命保険支払、年金課型の生命保険等の支払調書にはマイナンバーの記載が求められている。最近の新聞記事で、2018年1月からは任意で、預金口座にもマイナンバーの記載を求めると報道されていた。

預金金利支払では税金を源泉徴収されており、時間の問題で、預金口座にもマイナンバー記載が求められるだろう。当然の流れだと思う。

★医療・介護分野へのマイナンバー導入
厚生労働省は医療分野を囲い込むために、日本医師会を巻き込んで自前の「医療ID」制度をつくりたいのだろうが、榎並さんは、マイナンバーによる医療分野の情報連携によるイノベーションの可能性と在宅医療・介護分野へのマイナンバーの活用のメリットを説いている。

マイナンバーの医療分野への活用というよりは、マイナンバーを本人確認の手段として使うという目的であり、方向性としては、正しいと思う。

「医療ID」などの独自の個人認証制度をつくるのは、政府として莫大な二重投資となり、マイナンバーが全国民に普及して、だんだんに民間利用なども進んでいけば、「医療ID」は、いずれ立ち消えとなるのではないかと思う。

★韓国の現金領収証制度
韓国では消費活性化と所得捕捉のために、1999年からクレジットカード利用促進策を実施し、2005年から現金の流れも捕捉するために、現金領収証制度を導入した。

現金で店で買い物する際に、住民登録番号と携帯電話の番号を店に提示すると、店側がクレジットカードのネットワークを利用して、オーソリ(支払確約)を受けて「現金領収証」を発行する。

消費者には、現金領収証は所得控除や福引に使えるというメリットがある。

マイナンバー制度への企業の対応についても、それに関連する話題についても、大変参考になる実用的な本である。


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2015年03月22日

税金を払わない巨大企業



国税庁勤務の経験もある中央大学名誉教授の富岡幸雄さんの本。富岡さんは「税務会計学講義」などの、税務会計に関する著書もあり、税務会計研究学会の顧問を務めている。富岡さんは今年90歳の高齢なので、実際には「取材・構成」として名前が出ている河貴一さんがライターだと思う。

税務会計学講義
富岡 幸雄
中央経済社
2013-04


この本の主張は、一言で言って本のタイトル通りだ。

この本はアマゾンの”なか見!検索”に対応していないので、”なんちゃってなか見!検索”で、目次と主要な章題を紹介しておく。大企業批判の、いわば「アジ=アジテーション本」であることがわかるだろう。

第1章 大企業は国に税金を払っていない

日本の法人税は本当に高いのか
マスコミが誤用する「実効税率」
巨大企業の驚くべき実効税負担率

1%未満は三大メガバンクとソフトバンク
5期通期でも三大メガバンク、持ち株会社がランクイン
なぜ商社の実行税負担率は低いのか

受取配当金が巨額でも法人税には関係なし
利益の10倍以上もある受取配当金
子会社、関連会社からであれば申告ゼロに

第2章 企業エゴむき出しの経済界リーダーたち
減税を叫ぶ経済界リーダーの厚顔ぶり
住友化学
みずほフィナンシャルグループ
三菱商事
三井物産

日産自動車
トヨタ自動車
本田技研工業
HOYA
ファーストリテイリング
日本航空

第3章 大企業はどのように法人税を少なくしているのか
巨大企業の負担は法定税率の半分以下
税金逃れの手口と税法上の問題
 ヾ覿箸硫餬彖犧
◆ヾ覿箸侶弍直霾鵑良堝明さ
 受取配当金を課税対象外に 上昇する配当性向 二重課税のケースはまれ

ぁ〜点覇段盟蔀嵋,砲茲詬ザ税制
ァ‘睇留保の増加策
Α.織奪ス・イロージョンとタックス・シェルターの悪用

А^榲床然柄犧
─.璽蹇Ε織奪スなどの節税スキーム
 多国籍企業に対する税制の不備と対応の遅れ
企業エゴと経営者の社会的責任

第4章 日本を棄て世界で大儲けしている巨大企業
日本企業もアメリカ発の手口を模倣
海外企業買収の裏には

第5章 激化する世界税金戦争
”企業性善説”が通用しない時代
議会で追及されたグーグルの節税手法
アップルCEOティム・クックの反論

アマゾンジャパンも法人税を払っていない
日本の大企業も税率が低い国へ
アメリカの知財戦略
租税国家を脅かす「国際的二重非課税問題」
「税源浸食と利益移転」を阻止せよ
OECD租税委員会の対応

第6章 富裕層を優遇する巨大ループホール
世界一安い日本の富裕層の税金
何度も延長された証券優遇税制
富裕層もタックス・ヘイブンを悪用
不十分な所得税最高税率の引き上げ

第7章 消費増税は不況を招く
消費増税はデフレ要因
置き去りにされる社会保障
消費税10%でも税制は大赤字
アンバランスな庶民と法人の税負担
中小企業の7割は赤字経営

第8章 崩壊した法人税制を建て直せ!
消費増税より税制の結果を修正すべき
法人税減税効果は果たしてあるか?
苦しい代替財源探し

この本で紹介している2013年3月期の実行税負担率の低い大企業のリストは次のようなものだ。

img112











































出典:本書

連結純利益が1兆円もある三井住友FGが3百万円、同じく純利益が6、500億円のソフトバンクが5百万円の法人税しか払っていないとは、たしかに驚きだ。

同じ時期の11位から20位までのリストは次の通り。

img113



































出典:本書

2008年から2012年3月期までの5期通算での実効性負担率の低いランキングは次の通りだ。

img109









































出典:本書

11位以下、26位までは次の通りだ。

img110














































出典:本書

この本は大企業への課税を強化しろという点にあるが、その中でも中心となるのが、受取配当金への課税を強化しろというものだ。

次が2008年から2013年3月期までの6期の受取配当金の多い企業ランキングだ。

img111











































出典:本書

日本の大手金融グループ、大手商社、自動車メーカーや大手電機メーカーは国内、海外からの子会社からの受取配当金が税引前純利益の多くを占めている。これは日本企業の国際化や、グループ経営強化の流れを反映している。

受取配当金に対する課税は「受取配当金益金不算入制度」により、子会社は課税益金から100%不算入、それ以外は50%が課税益金不算入が認められている。これが大手企業の実効税負担率を軽減している。

この制度が導入された理由は、子会社で課税されて、親会社でもまた課税されるとなると、二重に課税されることになり、子会社を親会社が吸収した方が税負担が軽くなるという事態が生じるからだ。

金融機関や電機メーカーの実行税負担率が低いのは、各種の租税特別措置(研究開発や設備投資、環境やエネルギー対策等)や、欠損金の繰越が認められているからだ。

商社やメーカーの実行税負担率が低いのは、外国で支払った税金を控除できる外国税額控除を使っていることも大きい。外国で支払った税金は二重課税を避けるために、本邦では控除できるのだ。

一方、法人税減税をバランスさせる措置として、次のような代替財源確保策が打ち出し/検討されている。

1.欠損金の繰越控除制度の見直し
  繰越控除期間の延長、控除上限額の引下げ、帳簿書類の保存期間の延長と納税者側の立証責任の発生
2.受取配当等の益金不算入制度の見直し
  益金不算入制度の対象範囲や割合などの見直し
3.減価償却制度の見直し
  定率法を廃止し、定額法に一本化
4.地方税の損金算入の見直し
  法人事業税や固定資産税等の損金不算入化
5.中小法人課税の見直し
  中小法人の範囲見直し(資本金基準の見直し)、軽減税率見直し
6.特例措置の見直し、法人成りによる個人・法人間の税率差の歪みの是正(給与所得控除の見直し、
  留保金課税の中小法人適用)
7.公益法人課税等の見直し
  公益法人等の範囲や収益事業の範囲の見直し(例えば社会福祉法人が実施する介護事業を収益
  事業へ)、軽減税率とみなし寄附金制度の見直し
8.地方法人課税の見直し(法人事業税を中心に)
9.国際課税の見直し(外国子会社配当益金不算入制度の見直し)

この本の主張するように、たしかに法人の実行税負担率は低い。その主因となっている受取配当金の益金への不算入は、いずれにせよ見直されることになるだろう。

グーグルのダブルアイリシュ・ウィズ・ダッチサンドイッチという手法による国際節税手法も紹介されている。

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出典:efxcursion.com(ネット検索)

世の中には節税のために、複雑な仕組みを考える人もいるものである。

現在行われている法人税改革の必要性と、法人税負担の実態がわかって参考になる本である。


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2015年03月07日

世界で暗闘する超グローバル企業36社の秘密



読書家の友人に勧められて読んでみた。

この本はアマゾンの「なか見!検索」に対応していないので、「なんちゃってなか見!検索」で取り上げられている企業を紹介する。

金融
ゴールドマン・サックス
モルガン・スタンレー
バンク・オブ・アメリカ
パリ・オルレアンSA(ロスチャイルド家
ドイツ銀行(ドイチェ・バンク)
中国4大商業銀行の野望

エネルギー
BP Plc
ガスプロム
シェブロン・コーポレーション
中国3大国有石油企業の研究

鉱物資源
BHPビリトンリオ・ティント
ヴァーレ
(三井物産はヴァーレの持株会社ヴァレパールの15%の株式を保有)

商社
ジャーディン・マセソン・ホールディングス

資源商社
グレンコア・インターナショナル(グレンコア・エクストラータ、登記上の本社はタックス・ヘイブンのイギリス王室属領のジャージーにある)

メーカー
GE
(エディソンが創業したが、その後エディソンは持ち株を売却)

原子力総合
アレヴァSA

旅客機・軍需
ボーイング

マスメディア
ニューズ・コーポレーション

インフラ
GDFスエズ

建設
サウジ・ビンラディン・グループ

食品
ネスレダノンの「ボトルウォーター戦争」
アンハイザー・ブッシュ・インベブ

総合小売
ウォルマート・ストアーズ

電機・半導体・他
サムスン(三星)・グループ

財閥
タタ財閥

新興国
トルコ4大財閥 コチ サバンジュ ドアン ドウシュ

業界でトップの上位3社など、ルールに基づいたまとめ方はしておらず、随意リストなので、あまり整理されていない印象を受ける。

上記ではウィキペディアの記事を中心にリンクを入れておいたので、気になる企業があれば、リンクをクリックしてさらに詳しい紹介を参照してほしい。

この本で参考になったのがジャーディン・マセソンだ。

中国のお茶や生糸を輸入して、インドのアヘンを中国に売って、アヘン戦争の原因をつくったのがジャーディン・マセソンである。

日本では1859年に横浜に事務所を開設、続いて神戸、長崎にも事務所を開設し、長崎支店長のグラバーは武器商人として薩長を支援し、坂本竜馬の亀山社中との取引があった。明治になると三菱財閥の岩崎弥太郎と深くかかわることになる。

吉田茂首相の養父の吉田健三は、ジャーディン・マセソンの横浜支店長をつとめたあと、起業した。吉田茂は養父の莫大な遺産を相続している。

現在は日本での影響力はなくなったが、アジアでは依然として各国で建設、運輸、ホテル(マンダリン・オリエンタルなど)、製造業(インドネシアでトヨタ車を製造しているアストラ・インターナショナルなど)。

現在はジャーディン家の閨閥のケズウィック家が経営を握っている。

ボーイングの歴史も参考になった。

1929年にボーイング、ユナイテッド航空機、ノースロップ航空機、プラット&ホイットニー、シコルスキーなどが大合同してユナイテッド・エアクラフト・アンド・トランスポート社を設立したが、ルーズベルト大統領時代に独占禁止法違反で解体され、西部のボーイング、当部のユナイテッド・テクノロジー、航空会社のユナイテッド航空に分割されたのだ。

現在のCEOのジョン・マクナニーは、GEでジャック・ウェルチの後継者を争ったが、後継者レースに敗れ、スリーエムのCEOに転出、その後2001年にボーイングのCEOに選ばれたものだ。

マクナニーは、ジョージ・ブッシュ大統領とエール大学で同級生だったという。

グレンコアについても、筆者は依然は鉄鋼原料の貿易を担当していたので、思い出深い。

もともフィリップ・ブラザースにいたマーク・リッチが、独立してMarc Rich + CO.を設立し、石油ショックの時にイラン原油で大儲けしたが、イラン革命後もホメイニ政権と取引を続けて莫大な利益を上げていたため、脱税の容疑で米国から指名手配され、1990年にグレンコアに社名を変えたものだ。

現在ではメタルのほか、石油、石炭の資源商社としてロンドン証券取引所などに上場し、日本商社を上回る時価総額で評価されている。

筆者が会社に入社した約40年ほど前はフィリップ・ブラザースは世界でも最大手のメタルトレーダーで、その後、証券会社のソロモン・ブラザースを買収するほどの勢いがあった。

東京・大阪はじめ、世界中にオフィスがあったが、名前もフィブロ(Phibro)に変えて、シティグループを経て、現在はオキシデンタル・オイルの子会社として米国コネチカット、ロンドン、アイルランド、シンガポールの4か所のみにオフィスがある。

フィブロがまだ会社として残っていたことも驚きだが、世界最大のメタルトレーダーがここまで規模が小さくなってしまったことも、また驚きだ。

自分ではこれまでの40年は短いと感じているが、やはり40年間の栄枯盛衰は避けられないものだ。

平家物語の「祇園精舎の鐘のこえ、諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色、盛者必衰のことわりをあらわす。…」という冒頭の文が、思い出される。

上記のリストで社名をクリックすれば、ウィキペディアでかなりのことはわかるが、本としてまとまっていた方が読みやすいので、興味のある人は一度手にとってみてもよいと思う。


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2015年02月22日

医療詐欺 タイトルが内容を表していないが参考になる



図書館の新刊書コーナーにあったので読んでみた。

東大医学部卒で、東大系の病院を何か所か勤め、現在は東大の医科学研究所で「先端医療社会コミュニケーションシステム社会連携研究部門」特任教授を勤める上(かみ)昌広さんの本。

医療詐欺というと、ろくな治療もしていないのに法外な治療費を請求する医者とか、実際には効果のない医薬品をでっちあげの実験データを使って承認を取って、高額で販売する医薬メーカーとかが思い浮かぶ。

たとえば新薬開発では、2013年に明るみに出た事件として、ノバルティスファーマの「ディオバン(バルサルタン)」という血圧を下げる降圧剤の臨床データ不正操作疑惑がある。ノバルティスファーマの社員が結果の統計解析を行ったり、臨床試験を行った5大学に11億円の奨学寄附金を払ったというものだ。

また研究費の不正請求としては、2013年7月に詐欺容疑で逮捕された電子カルテの権威・東大の秋山昌範教授の事件が有名だが、同様の事件は国立がん研究センターの牧本医師などでも起こっている。

ところが、この本でいう「医療詐欺」とは、医者の育成から、薬価決定、大学病院や国立病院を中心とする日本の高度医療機関など、日本の全体の医療システムが詐欺、つまり一般人をだましているということだ。

つぎのような「不都合な真実」が紹介されている。この本はアマゾンの「なか見!検索」に対応していないので、「なんちゃってなか見!検索」で「不都合な真実」の項目を紹介しておく。

1.日本には「原子力ムラ」とよく似た「医療ムラ」が存在している。

2.医学会には薬の宣伝をする「御用学者」がいる

3.「中医協」によって日本の製薬会社の「開発力」が低下している

4.今のままでは日本の再生医療研究は欧米や韓国よりも遅れてしまう

5.名門国立病院は軽症患者ばかりを集めたがる

6.国立病院は旧日本軍の人事システムと体質を引き継いでいる

7.戊辰戦争で政府に反逆した地域は医師不足になっている

8.東北の急性白血病患者は北陸の患者と比較してリスクが二倍

9.20年後、郊外の高齢者は「通院ラッシュ」に揺られて都心の病院に通う

10.20年後の医療はテレビ局入社並みの超コネ社会になる

11.「日本医師会」とは医師の団体ではなく「開業医」の団体

12.実は「学費の安い私大医学部」をつくる方法がある

13.「医師が増えると医療費が増える」という主張は世界的には否定されている

14.国や医師会が批判する「混合医療」を導入すれば安全性が上がる

まず日本の新薬の値段の決め方が紹介されている。日本の新薬の値段は類似薬があれば、その薬の価格を基準として同じような薬価が決められる。類似薬がない場合は、コストをベースに考え、米国、英国、ドイツ、フランスの「先進四か国」の薬価とも比べられる。

普通の先進国では、評判の良い薬は需要も増え、薬価も上がる。ところが、日本の場合は、国が強い影響力を持つ「全国健康保健協会」加盟の健康保険組合に、買い手がほぼ一本化されているので、良い薬ほど価格が引き下げられなければならないという論理がまかり通っている。

だから新薬開発のインセンティブが低いため、「ドラッグラグ」(他の先進国で承認された新薬が日本では承認に時間がかかること)が生じている。

また、他の先進国であればジェネリックなら新薬の値段の2〜3割程度なのが、日本ではジェネリック医薬品は新薬の6割程度で、あまり安くないので、ジェネリック医薬品が普及しない原因の一つにもなっている。

日本の薬の売り上げは、2011年度で9.3兆円、そのうち8.7兆円が病院で処方される医療用医薬品で、薬局で売られる薬は6,500億円しかない。売り上げの最も多いのが「長期収載品」で、これは特許が切れたブランド薬で41%、次に新薬36%という比率だという。

つまり特許が切れた古い薬を日本人は高く買わされているのだと。

このようにインサイダーならではの医療行政批判を展開している。

特異な見方のようにも思えるが、上さんは、国立病院は「国の政策医療」を推進する施設なので、「臨床研究」に参加できる患者を受け入れ、重症患者でも研究に参加できないものは難癖つけて他の病院に追いやるのだという。

国立病院と旧日本軍の類似性や、賊軍地域の医師不足など、にわかには信じられないが、人口当たりの医師数では明らかに西高東低になっている。埼玉、千葉、茨城県が、日本で最も医師が少ないワースト3となっていることなど考えると、本当かもしれないという気になってくる。

「水戸市の医師数は離島以下、つくば市だけが孤軍奮闘」なのだと。

「徳川家親藩、譜代が治めていた茨城県水戸市、兵庫県姫路市、埼玉県川越市、新潟県長岡市、福島県会津市、静岡県静岡市、神奈川県小田原市には大学病院がないため、深刻な医師不足になっている」と上さんは語る。

日本の医師と看護師の絶対数の不足も参考になる。看護師や薬剤師を含む病院従事者のことを「コ・メディカル」と呼ぶが、日本ではコ・メディカルが圧倒的に少ない。上さんは、日本の病院は欧米より「超危険」なのだという。

現場の医師も、様々な統計資料を挙げて同様の警鐘を鳴らしている

日本の医師不足が解消しない理由は、「日本医師会」と「全国医学部長病院長会議」が医学部新設に反対しているからだと。「日本医師会」は開業医の団体で、同業者=商売敵が増えるのを嫌っている。

そんなわけで日本の医学部新設は1979年の琉球大学以来1件もない。安倍政権で特区で医学部を新設しようという動きに対して、またも「日本医師会」と「全国医学部長病院長会議」が反対している

医者が例に出すのは歯科医だ。今や歯科医はコンビニより多いと言われるほどで、同じような現象が起こることを開業医は懸念しているのだ。

大学病院は地方の医療界のトップに君臨する「殿様」なので、「全国医学部長病院長会議」は、「殿様」が増えることを嫌っている。

最後に「日本医師会」がパンフレットまでつくって反対し厚生労働省も反対している混合診療は「医療のビジネスクラス」で、ビジネスクラスが航空業界の活性化に役立ったように、混合診療も医療界の活性化に役立つと提言している。

にわかには信じられない主張もあるが、何が医療で問題なのかわかり、参考になる本である。


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2015年02月15日

僕はミドリムシで世界を救うことに決めました 発端はグラミン銀行から



会社の人間力向上セミナーで(株)ユーグレナの出雲充社長の講演を聞いた。

出雲さんの「僕はミドリムシで世界を救うことに決めました」は数年前に読んだ。手元にある本は2012年12月の初版本なので、たぶん2013年くらいに読んだのだと思う。

出雲さんが次男と同じ駒場東邦高校の出身ということもあり、以前から興味を持っていた。

出雲さんの講演内容はだいたいどこの講演でも同じようなストーリーのようだ。たとえば大阪市で行った講演内容がネットで公開されている。会社で行った講演も全体のストーリーとしては同じような流れだ。

この部分はネットで公開されているので、詳しくは紹介しない。時間のある人は、YouTubeに出雲さんのインタビューが様々な資料と一緒に公開されているので、参照してほしい。



1980年に生まれ、多摩ニュータウンで育ったごく普通の家庭に育った出雲さんが、東京大学に入学して初めての夏休みに、バングラデシュのグラミン銀行にインターンとして働き、「貧困は博物館に」をスローガンとしているグラミン銀行創始者のムハマド・ユヌスさんの主張に感動した。

そして動物と植物両方の特性を備え、59種類のビタミン、ミネラル、アミノ酸、不飽和脂肪酸などの栄養素を含むミドリムシで世界を救おうと決め、東大の文靴ら農学部の農業構造経営学科に進学する。

そこで数学の天才鈴木健吾と出会う。鈴木さんはユーグレナの取締役研究開発部長を務めている。鈴木さんと一緒にミドリムシの大量培養技術開発に専念するが、なかなかうまくいかない。

その時に会ったクロレラ販売会社の専務だった福本さんを販売担当として招き入れ、福本さんのツテで石垣島の八重山興産でクロレラ培養用のプールを借り、独自の培養液を使ったミドリムシの大量生産に成功する。

大量生産に成功しても、実績がないので、なかなか買ってくれる会社が現れなかったが、501社めでミドリムシ事業を支援してくれる会社が現れた、それが伊藤忠商事だ…。

このような内容だ。

ただし、最後のメッセージの部分はその場にあった内容に変えている。つまりユーグレナ創業ストーリーやミドリムシの大量培養に成功した話は、どこでも同じ講演をしているが、それから引き出すメッセージはその会場とオーディエンスにあわせたものにしている。

たとえば筆者の会社の場合には、出雲さんが500社訪問して1社もミドリムシを採用してくれなかったという500社の一社なので、若手社員向けのセミナーということもあり、やたらと同業の伊藤忠商事のことを持ち上げていた。

501社めに伊藤忠に行ったら、それまでの500社が「実績がないから採用を見送る」という反応だったのに対して、伊藤忠は「実績がないから、大きなビジネスチャンスがある」と判断してくれ、ユーグレナに出資し、大手企業への紹介を引き受けてくれたのだと。

ユーグレナのミドリムシが売れるようになったのは、伊藤忠のおかげであり、出雲さんはコンビニならどんなに遠くともファミマに行くと語り、ベンチャーは助けてくれた会社には絶対に恩返しすると強調していた。筆者の会社の若手社員には、発奮材料として大変刺激になったと思う。

それと講演ではふれていなかったが、本で恩人として紹介しているのが、元マイクロソフト日本法人社長の成毛眞(まこと)さんだ。

ユーグレナは当初、ホリエモンが「ミドリムシは宇宙食に役立つ」と考えて、ライブドアの支援を受けていたが、ホリエモンが粉飾決算で逮捕されると、ライブドア関連企業ということで、どこからも総スカンをくらった。

その時ミドリムシの将来性に注目して、出資して助けてくれたのが成毛さんだ。

成毛さんと最初に会った時の話がこの本に紹介されている。

ミドリムシは発電所からでてくる高濃度の炭酸ガスを使って光合成できるという話をすると、

成毛さんは「そんなに高い濃度の二酸化炭素を処理するために培養液にエアレーション(水中に気体を溶かし込むこと)したら、PHが急激に下がって、強い炭酸水になるだろう。そんな環境でミドリムシは生存できるのか?」と聞いてきたという。

これに対し、「はい、ミドリムシは5億年前から光合成をしており、その当時の地球環境は…」と説明すると、

「ふーん、そもそもなんでミドリムシはそんなに光合成の能力が高いんだ?クロロフィル(葉緑素)には3種類あるけど、ミドリムシはどのパターンを使ってるの?」と聞いてきたという。

さすが読書クラブHONZを主催している成毛さんだ。その知識には出雲さんならずとも驚かされる。

この本では、筆者の会社の先輩で、成毛さんの会社のインスパイアで役員をしている芦田さんが、ANAなどを説得して航空燃料ビジネスの道を開いたことも紹介されている。

航空燃料生産のために、JX日鉱日石エネルギーと日立プラントテクノロジーが出資した。

ミドリムシから燃料をつくるというのは、まさに当時の通産省が国家プロジェクトとして推進していた「ニューサンシャイン計画」の藻類活用プロジェクトそのものだ。

しかし巨額の国費を投入した「ニューサンシャイン計画」の藻類から燃料をつくるというプロジェクトは、結局ミドリムシの大量培養ができなくて頓挫した。

ミドリムシは食物連鎖の最下層にいるので、少しでも他の微生物が侵入してくると、あっという間に食べつくされてしまう。国家プロジェクトでもできなかったミドリムシの大量培養に成功したのは、ミドリムシだけが生き延びられる劣悪な環境の培養液をつくるという逆転の発想だったという。

講演の後の質問で、出雲さんはミドリムシの応用技術、たとえば食品の製造法とかは、パテントで保護するが、ミドリムシの培養液はノウハウで公開はしないと説明していた。

コカコーラやケンタッキー・フライド・チキンがレシピを公開しないのと同じだという。パテントとして公開してしまうと、パテントを侵害して同じようなものをつくる業者が現れても、パテントを侵害しているという証明が民間企業では難しいからだと。

講演の最後で出雲さんはメンター(支援者)とアンカー(精神的な支え)の重要性を強調していた。

出雲さんの場合、アンカーは18歳の時にグラミン銀行で出会ったムハマド・ユヌスさんだという。

今は、バングラデシュの2,500人の小学生の給食にミドリムシ製品を提供しているが、いずれは100万人分のミドリムシ製品をバングラデシュの小学生に提供したいと言っていた。

筆者は30年近く毎日マルチビタミン・ミネラルサプリメントを飲んでいるし、食事でもできるだけ食物繊維の多いものを摂るようにしているので、59種類のビタミン・ミネラル・不飽和脂肪酸…と聞いても、あまり必要性を感じないが、一度試しにサプリメントかユーグレナバーを買ってみようと思う。

【ユーグレナ公式通販ショップ】ユーグレナ・プラス(1箱3粒×31包入)
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【ミドリムシ クッキー】ユーグレナ・バー 12本(2箱)【5%OFF】【送料無料】 [みどりむし粉末500mg配合] ほんのり甘いクッキーテイスト 自然のサプリメント[ユーグレナバー]【レビューで送料無料】[p10] 10P08Feb15
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本も面白いし、講演も大変参考になった。学名とか物質名の部分では急に早口になり、ほとんど聞き取れない調子で話しているのが印象に残った。

ベンチャー企業の社長の本は、ワタミの渡邉美樹さんが典型だが、三木谷さんといい、大体自分のことしか書かないジコチュー本が多いが、この本は仲間のことも紹介している。その意味でも好感を持った。

出雲さんが講演で言っていたように、普通のサラリーマン家庭出身の子供でも、ベンチャーで成功できる。たとえ成功確率が1%しかなくても、四百何回(はっきりした数字は忘れた)繰り返せば、成功率は99%になるという。

やる気が起こる本とセミナーだった。


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2014年12月15日

ウィスキーと私 「マッサン」の主人公・竹鶴政孝さんの自伝

ウイスキーと私
竹鶴 政孝
NHK出版
2014-08-27


現在NHKの朝ドラで放映中の「マッサン」の主人公、日本のウィスキーの創始者・竹鶴政孝さんの自伝。

日経新聞の「私の履歴書』の連載をNHK出版が単行本にしたものだ。

「マッサン」は筆者も「どんど晴れ」以来、久しぶりに見ている朝ドラだ。毎日録画して、土日に1週間分まとめて見ている。



朝ドラを見だしたきっかけは、昨年北海道旅行の際に余市蒸留所を訪問したからだ。

すでにその時にNHKの朝ドラになるという話は決まっていたが、まだブームとなる前で、ゆったり蒸留所やその中にある竹鶴邸を見学できた。

その時はフーンと思って、あまり気にしなかったが、ポットスティルで蒸留した無色無臭のアルコールを樽に入れて5年ほど熟成すると、量は2/3くらいに減ってしまうかわりに、ウィスキーのあの色と味が出るのは思えば不思議なものだ。

減ってしまう分は「天使の分け前」と言われている。

この「ウィスキーと私」は竹鶴さんの自伝で、事実と違う点は、リタさんと出会ったときは、リタさんの父親は亡くなった後だったという点だけだと、この本の註と竹鶴さんの孫の竹鶴孝太郎さんの随想で語られている。

父親の亡くなった家庭に独身男性が出入りすることになっては、リタさんの実家に不名誉だと思って、わざと事実を変えて記しているのではないかというのが、孫の孝太郎さんの見解だ。

「マッサン」は、テレビドラマとして部分部分、脚色はされているが、ストーリーは竹鶴さんの原作に近い内容となっている。

この本では、竹鶴さんがスコットランド留学を決め、アメリカのサンフランシスコ経由で、アメリカのカリフォルニア・ワイナリーというワインの醸造所を見学してから、スコットランドに渡ったことも紹介されている。

当時は第一次世界大戦の最中で、竹鶴さんの乗った船が、ドイツの潜水艦攻撃を避けるために随伴船とジグザグ航行していたら、随伴の貨物船にぶつかって貨物船が沈没してしまい、生存者は1名だけだった話が紹介されている。

ちょうど乗り合わせたベルギーの皇太子が音頭を取って、竹鶴さんが犠牲者の義捐金集めに一役買ったのだという。

当時の日英同盟の関係もあり、スコットランドでは王立工科大学(原書ではグラスゴー大学と記されているが、これは記憶間違いのようだ)やロングモーン・グレン・リベット蒸留所の工場長に大変親切にしてもらっい、ウィスキーの製造法を学んだ。

しかし日本に帰ってからは、留学に送り出してもらった摂津酒造ではウィスキー製造は、株主会議で否決され、結局サントリーの前身の寿屋の鳥井信治郎さんに拾ってもらい、京都の山崎に蒸留所を建設する。

鳥井さんは今のボンドなど接着剤をつくっているコニシの前身の小西儀助商店の出身で、「やってみなはれ」の人だ。

鳥井さんがマッサンをウィスキー工場長として、年俸4,000円で雇うのも、朝ドラの通りだ。大正12年、1923年のことだ。契約は10年間だったという。

その後、サントリーは日本で白札、赤札などのウィスキーを売り出し、当初は日本人の味に合わなかったが、だんだんに売れるようになった。マッサンは横浜でサントリーのビールもつくっていた。

マッサンはその後独立して、出資者を集め、住友銀行などから融資を得て、大日本果汁株式会社を設立。昭和9年に余市工場を建設した。ウィスキーの原酒を寝かす5年以上の間は、リンゴジュースをまず販売して食いつないだ。これがニッカの社名の由来だ。

工場設立の2年目の昭和11年にウィスキーの蒸留を始め、一級ウィスキー工場として大蔵省の認定を受けた。戦争中は海軍の指定工場となって、原料は優先的に配分されていた。

戦後は、ウィスキーは酒税法で、特級から3級(その後廃止)まで等級分けされ、3級は原酒の配合率が0〜5%とされていた。つまり、ウィスキーの原酒がゼロでも3級ウィスキーは作れたのだ。

筆者の学生時代は、2級ウィスキーはサントリーのレッド、1級はホワイト、特級は角瓶以上だったが、たぶん当時も2級ウィスキーには原酒はほとんど入っておらず、醸造用アルコールが主体だったのだと思う。

どうりで飲みすぎると悪酔いしたわけだ。

ニッカは余市工場と、仙台郊外に宮城峡に工場を建設し、昭和44年から生産を始めた。

余市はハイランド・モルト工場だ。

西宮工場にカフェ式連続蒸留機を入れて、穀物原料からアルコールを蒸留してグレイン・スピリッツをつくり、ハイランド・モルトと混ぜた。

さらに宮城峡では、ローランド・モルトをつくり、これでうまいウィスキーの原酒のフルセレクションがそろった。

最後に竹鶴さんは、ウィスキーのうまい飲み方をエッセーで書いている。

毎日飲むにはストレートだと、胃に悪いので、ウィスキー:水=1:2が適当だという。竹鶴さんは、オンザロックは冷えすぎるとしてあまり勧めていない。いずれにせよ、人それぞれ、一番うまいと思う方法で楽しむべきだし、飲む人の量によっても変わってくると。

巻末のコラムや随想も入れて190ページ余りの本で、簡単に読める。

竹鶴さんの他の本も読みたくなる。ウィスキーのことも学べ、読んでいて楽しい明治生まれの気骨ある日本男児の自伝である。


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Posted by yaori at 23:49Comments(0)TrackBack(0)

2014年12月08日

あの夏、サバ缶はなぜ売れたのか? データ分析もPDCAサイクルだ



博報堂グループで制作と広告・プロモーションをワンストップで提供する博報堂プロダクツのデータベースマーケティング部長大木真吾さんの本。

顧客分析は筆者が最も興味を持っている分野の一つで、いままで世界最高のCRM能力を持つといわれている「TESCO顧客ロイヤルティ戦略」や「アナリティクス界のドラッカー」(大木さんの表現)といわれる米国ダブソン大学のトーマス・ダベンポート教授の「分析力を武器とする企業」などのあらすじを詳しく紹介してきた。

Tesco顧客ロイヤルティ戦略
C. ハンビィ
海文堂出版
2007-09



分析力を武器とする企業
トーマス・H・ダベンポート
日経BP社
2008-07-24


この本では、データ活用のPDCAサイクルを次の様に紹介している。

PLAN : 「意志を持つ」フェーズ データ分析の目的を明確にして仮説を構築する

DO   : 「可視化する」フェーズ データを収集し、分析作業を行う

CHECK: 「翻訳する」フェーズ   分析結果の意味するところを解釈し、課題解決を目指す施策を打ち出す

ACTION: 「アクションする」フェーズ あらかじめ目標を設定し、実際に分析結果に基づいたアクションをする

参考になったのは、JALが行った「海外女子旅」プロジェクト。最初はデータには全く触れず、JALの旅客販売統括部WEB販売部と博報堂プロダクツの社員で構成されるプロジェクトチームが、顧客の旅行パターンを思い思いに挙げて70の「行動仮説」をつくった。

それをさらにふるいにかけて、十数個のグループにわけ、それぞれにJAL顧客のデータをあてはめていって、「海外女子旅」というグループを見つけた。

このグループは:
1.JALのホームページにログインしたうえで、WEB経由で購買している。
2.過去2年間に1回以上、日本発のJAL国際線に搭乗している。
3.20〜45歳の女性マイレージ会員である。
4.比較的同年代の女性同志での搭乗が1回以上ある。

クロス分析の結果、1万人の海外女子旅経験者を抽出できた。、

次に、この1万人の海外女子旅経験者をプロファイリングして、ペルソナ化(擬人化)して、同様の人を探した結果、母集団8万人から、1万7千人の「近い将来海外女子旅をするかもしれない候補者」グループをあぶりだすことができた。

母集団8万人は、今や次のようなグループに分けられた。

1万人 海外女子旅経験者
1万7千人 近い将来海外女子旅をするかもしれない候補者
5万人 海外女子旅をしないと思われる候補者

同じ「海外女子旅」のバナー広告などを表示した結果、上記の1万7千人の「近い将来海外女子旅をするかもしれない候補者」グループが、5万人の「海外女子旅をしないと思われる候補者」より10倍も売り上げが上がったという。

データ分析の成功例だ。

この本ではID−POSデータ(ポイント会員組織を持つスーパーなどでのPOSレジ売り上げデータ)を分析した例も紹介されている。

本のタイトルになっている「あの夏(=2013年)、サバ缶はなぜ売れたのか?」は、2013年7月30日に「たけしの健康エンターテインメント! みんなの家庭の医学 新発見!やせるホルモンで病の元凶【肥満】を解消SP」で「サバの水煮缶」がダイエット効果があると放送されたからだった。

大雪と「雪見だいふく」の関係とか、食べるラー油とキムチにラー油をかけた「キムラ君」など、テレビCMとの関係が紹介されている。

その他には「シュークリーム男子」とか、「地域ナンバーワンスーパーが、ネットサービスの会員を増やしたい」、「居酒屋の顧客単価を上げる」などの例が紹介されている。

平易に読めるのはいいが、いかんせん具体例が弱い。

顧客データ分析では、英国のTESCO社と、NECTAR共通ポイントプログラムを英国、イタリア、チリなどで運営するカナダのAIMIA社が世界最高峰だ。

残念ながら日本の顧客分析は、到底英国のレベルに達していない。

最大の原因は、英国の流通業界は寡占で、TESCOやAIMIA(運営会社は英国のLMG=Loyalty Management Group、スーパーはSainsburry)は、英国の全世帯数の半分以上の情報を持っているのに対し、日本最大の流通業のイオンでもマーケットシェアは10%強程度だからだ。

日本の消費者は、スーパーのチラシで特売情報を入手し、いつも行くスーパー数社の中から選択している。それだけスーパーは競争も激しいし、結果として消費者の購買情報はスーパー数社で散逸してしまう。

だから集められるデータが少なく、たとえID=顧客情報を持っていても、一人の顧客の全体像がつかめないのだ。

それと誰も問題にしていないが、実は日本の郵便番号のメッシュは荒すぎて、たとえば建物一つ一つに郵便番号がついている英国とは比べ物にならない。

階級社会の英国は、年収や勤務先などのデータがなくても郵便番号だけで、どういったクラスの人が住んでいる場所なのか判別できるという。郵便番号をプロファイリングデータの一つとして活用しているのだ。

実際、筆者が英国出張中にNECTARのカードをロンドン支店の住所で申し込んだら、その住所には住んでいる人はいないので、正しい住所を連絡して欲しいという回答があった。

日本ではこういう具合にはいかないだろう。

この本では、データ分析はどういう具合にやるのかがわかって、参考になった。しかし、ビッグデータ時代到来と騒がれているが、日本の所与の条件で、どれだけデータ分析が進歩していくのか不安を感じさせる内容でもあった。


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Posted by yaori at 12:28Comments(0)TrackBack(0)