脳を活かす仕事術
著者:茂木 健一郎
販売元:PHP研究所
発売日:2008-09-10
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前回紹介した「脳を活かす勉強法」の続編。超売れっ子脳科学者茂木健一郎さんの本だ。
最初に茂木さんが就職で苦労した話から始まる。東大で博士号をとったが、卒業前に就職が決まっておらず、いわゆるオーバードクターになるところだった。
自分の将来が決まらず不安だったが、ちょうど理化学研究所で脳科学研究センターを立ち上げるという話があり、タイミング良く就職が決まった。
研究論文がなかなか書けず悩んでいたところ、先輩の”一本目の論文を書いたら、世界が変わってくる”というアドバイスをもらって気持ちが楽になったという。
このような「わかっちゃいるけど、できない時、どうすればよいのか」がわかってきたという。それは脳の「感覚系学習の回路」と「運動系学習の回路」に秘密が隠されていたのだ。
この本の目次
脳を活かす仕事術は、アマゾンのなか見検索に対応しているので、目次をチェックして頂きたい。大体の内容が推測できると思う。
はじめに 卒業前に就職先が決まっていなかった大学院時代
第1章 脳の入力と出力のサイクルを回す
第2章 茂木式「脳の情報整理術」
第3章 身体を使って、脳を動かす
第4章 創造性は「経験×意欲+準備」で生まれる
第5章 出会いが、アイデアを具現化する
第6章 脳は「楽観主義」でちょうどいい
第7章 ダイナミックレンジが人生の幅を広げる
第8章 道なき場所に道を作るのが仕事である
おわりに 脳は何度でもやり直しがきく
いくつか参考になる点を紹介しておく。
●わかっているのにうまく表現できない理由
わかっているのにうまく表現できない理由は、脳の感覚系の学習回路と運動系の学習回路のバランスがとれていないからだと茂木さんは説明する。
Appleのスティーブン・ジョッブスは"Real artitists ship"と言ったが、これは本当の芸術家は製品を生み出す(出荷する)という意味だ。
仕事は「ああでもない、こうでもない」と悩んでいるだけでは、いつまでたっても形にならない。自分で考え込まずに早めに作品としてリリースすることが大切だ。
どんな名人でも脳の中の情報は一度出力してみないと善し悪しを判断できない。茂木さんがインタビューした宮崎駿監督も同じで、イメージボードに何度も何度も出力して、時には数ヶ月かけて映画の場面のイメージボードを完成させるのだ。
運動系と感覚系は脳の中で直接つながっていない。誰かにしゃべっているうちに自分の考えがまとまることがよくある。これをイギリスでは"talk through"と呼んでいる。
このように脳にインプットされた情報を書いたり、話したりして出力する。その結果、その情報が自分のものとなる。これが茂木さんの仕事の極意、”脳の入力と出力のサイクルを回す”ことだ。
●余談ながらプロクラステネーションについて
ところで、この「ああでもない、こうでもない」と悩むことを英語では"procrastination"(プロクラスティネーション)と呼ぶ。筆者が好きなブラアイン・トレーシーの一番の教えが、どうやったら"Procrastination"をなくせるかだ。
筆者が通勤途上に好んで聞いているAudibleのブライアン・トレーシーの"Sucess Matery Academy"では、仕事の生産性を上げるやり方をいくつも紹介しているが、その一つが朝一で自分のやるべきことをまずメモに書き出して、自分の頭の中身をアウトプットしてから仕事に取りかかることだ。
デール・カーネギーだったか、20世紀初頭、鉄鋼王アンドリュー・カーネギーに育てられ鉄鋼メーカーの社長として成功したチャールズ・シュワブは、ある人から毎朝その日やることを5つメモに書いて、仕事に取りかかるというやり方を提案され、その人に報酬として25万ドルの小切手を送ったという。
簡単だが、すぐに試せる高率アップ策だ。
●仕事のクオリティを上げる「高性能の鏡」
単にアウトプットするだけではダメで、常に自分の作品、仕事を客観的に観察し、他人の作品を見るように良い点と悪い点を厳しく分析することが重要だと茂木さんは語る。他でも出てくる”メタ認知”だ。
ハダカの王様になってはいけない。「高性能の鏡」を持つのだと。
ミシュラン3つ星の「すきやばし次郎」の小野二郎さんも、たとえ高値で買い入れたマグロでも自分で味を確かめてお客さんに出せるレベルのものしか出さないという。
常に自分の仕事をモニタリング続けるのだ。
同様に茂木さんは、自分の代表作と考えている「脳と仮想」を他の人の作品と比べて自分にプレゼンテーションするという。
脳と仮想 (新潮文庫)
著者:茂木 健一郎
販売元:新潮社
発売日:2007-03
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今、「脳と仮想」を読んでいるので、いずれあらすじを掲載する。
●1時間脳セットアップ法
脳のコントロールの為には話したり、書いたりして身体を動かすことが一番良い。さらに茂木さんは時間を決めて脳にタイムプレッシャーをかける仕事術を実践している。
たとえばこの仕事は1時間で終わらせると決めて、取りかかるのだ。
茂木さんは5分で原稿用紙1ページくらい書けるようにトレーニングしてるので、原稿用紙5枚程度の週刊誌のコラムだと20分で書くことにする。
すきま時間には、瞬間集中法が有効で、仕事を始めたら1秒後には仕事に集中するということを繰り返していけば、脳の集中回路が確実に鍛えられる。
頭が煮詰まったら、簡単な動作で頭を切り換えるのだと。
●脳の「引き込み現象」
脳は思いがけない新鮮な話や、相手が本気で言っていることなどには、興味・関心を持ち、いったん相手の話に引き込まれると、その状態が続いている限り集中力が持続し、さらに引き込まれるという。
たとえばソニーの出井さんは、スピーチをするときに原稿を用意することはないという。その場で「思い」をはき出すのだと。当意即妙のスピーチだから聴衆は引き込まれるのだ。
だから挨拶はそこそこにして、いきなり本題に入る方が効果的だという。
これを茂木さんは「タイガー・ジェット・シン仕事術」を呼んでいる。
プロレスラーのタイガー・ジェット・シンは、サーベルを持っていきなり場外乱闘からプロレスの試合が始まる。選手紹介も何もなしでいきなり試合が始まるのだ。
●自分の「生命の輝き」を放つための5つの行動
茂木さんは自分の「生命の輝き」*を放つためには次の5つの行動が重要だと語り、それぞれにつき1章を割り当てて説明している。
*注:筆者は初めてこの表現を聞いた。生き甲斐とか生きる価値とかいう意味だと思うが、非常にいい言葉だと思う。
・クリエイティビティ(創造性)を持っていること
・セレンディピティ(偶然の幸福と出会う力)があること
・オプティミスト(楽天家)であること
・ダイナミックレンジ(情報の受信範囲)が広いこと
・イノベーション(改革・革新)を忘れないこと
●ノイズが脳にもたらす良い効果
茂木さんが留学していたケンブリッジのパーティでは自分の研究について語ってはいけないという不文律があったという。
当初は茂木さんはこれが不満だったが、途中から研究に全く関係のない話をしていると突然インスピレーションがわいたり、新しい情報をインプットができることがわかり、納得したという。
脳は不確実性やノイズを大切にしているのだ。ずっと集中するのではなく、時にはノイズを入れて、メリハリをつけることが創造性を発揮する。
●根拠なき自信の効果
スガシカオさんは、29歳まで普通のサラリーマンをしていたが、突然プロの音楽家を目指して辞表を提出した。デビューの見通しもなかったが、「根拠のない自信があった。そうとしかいえない」と言っていたという。
茂木さんは人間が輝きを放つためには、この「根拠のない自信」が絶対に欠かせないと語る。
これを茂木さんは楽観主義と呼ぶ。人は未来を楽観的に見ることによって、前進しようとする。脳科学からいうと、ポジティブなイメージをすると扁桃体が活発化して、ドーパミンが分泌される。笑いながら仕事をすることも効果がある。
●メタ認知を活かす
自分を客観的に見られる力をメタ認知と呼ぶ。メタ認知は前頭葉のもっとも大切な働きの一つだという。
組織の中で、何か新しいビジネスを起こそうとする時に、あれやこれやネガティブな理由を挙げて、出来ないことの言い訳としていないか?
それでは前頭葉=仕事脳を鍛えることはできないので、自分でルールを変える、自分でルールをつくってしまう意気込みで取り組むべきだと。
茂木さんはマルチ人間ではないと語る。マルチとは並列したものがたくさん有る状態だが、茂木さんは専門的なことから常識的なことまで、広く知っている総合的な人間力を作りたいという。それが茂木さんの言う”ダイナミックレンジ”が広い人だ。
一芸に秀でるためには総合力が必要なのだ。
●ちゃぶ台返しと水成論・火成論
人間いろいろしがらみがあるが、しがらみに負けていてはプリンシプルが保てないので、どこかで「ちゃぶ台返し」をすることが大事だという。
「巨人の星」の星一徹の「ちゃぶ台返し」だという。ちゃぶ台返しはいわば火山の爆発で、これによって地形ができたというのが火成論で、水の浸食や堆積で地形が出来たというのが水成論だ。
人生を豊かにするには、火山が爆発するような火成論的な動きと、自分の人格や世界観を培う水成論的な両方が欠かせないと茂木さんは語る。
茂木さんの名刺の裏側には、噴火する火山と、海で泳ぐ鯨のイラストが印刷してあるという。
●脳はアウェー戦で鍛えられる
アウェー戦を戦い終えたあとに感じる喜びは、大量のドーパミンが分泌されるからだ。NHKの「プロフェッショナル仕事の流儀」でも、茂木さんはゲスト出演者と事前に会うことは絶対にしないという。真剣勝負を重ねていくのだ。
これからも茂木さんはアウェーの闘いを続けていくつもりであると。
茂木さんは英語圏で勝負できる人間になりたいという。
小さい頃からずっと日本社会にとけ込めない自分を感じていたという。困難を乗り越えて、パッション(情熱と受難)をもっていろいろなことに挑戦したいと語る。
最後にオスカー・ワイルドの言葉をあげている。
"We are all in the gutter, but some of us are looking at stars"(われわれは皆、どぶにいるのだが、何人かは星を見上げている)
人間としてのより高い状態を目指すこと。そのために学習し続け、行動し続ける。それこそが「なりたい自分」になる唯一の方法なのだ。
茂木さんは学生達には、「自分の正体を簡単に決めつけるな」と言っているという。人間の脳は可塑性があり、新しい機能を獲得できるのだ。
理想に向かって実際の行動に移してみること。そのためにもがいてみることが何より大切だ。そして、そのプロセスこそが人生の中で、「生命の輝き」を放つことだと結んでいる。
軽妙なテンポながらも茂木さんの思いがこもった力作である。「脳を活かす勉強法」よりはやや長いので、2時間弱くらいは掛かるが、一気に読み通せる。
是非一度手にとって見ることをおすすめする。
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