
著者:ドナ・ハート
出版:化学同人
(2007-06-28)
アンリ・ルソーの人を襲うヒョウの表紙絵がキャッチーな本。
この本はアマゾンの「なか見!検索」に対応しているので、ここをクリックして表紙、目次、そして頭の後ろにかぶるトラよけのインドのお面の写真をチェックしてほしい。
昔のカップヌードルの"Hungry?"というコマーシャルにあるように、人間は集団による狩りや、こん棒やヤリ、弓矢などの武器を発明して、どんどん動物を追い詰め、日本オオカミなど多くの種類を絶滅させたと思われているが、実は人間自身が動物に食べられていたという事実を紹介している。
ネコ科、ハイエナ、オオカミなどのイヌ科、クマ、空から襲ってくる猛禽類、ヘビ、変わったところではコモド・オオトカゲなど、人間を捕食してきた動物たちは多い。
この中で最も気を付けなければならないのは、ネコ科のライオン、トラ、ヒョウ、ピューマなどだ。ハイエナもネコ目のハイエナ科である。
ライオン、トラなどは夜間獲物を襲うことは少ないが、ヒョウは夜行性で、寝ているヒトを襲い、殺して獲物を横取りされないように、木の上に引っ張り上げるという。
ディズニーのアニメ映画「ターザン」でも冒頭のシーンで、ゴリラの子供がヒョウにやられた後、ターザンの父母もヒョウにやられて、残された赤ん坊のターザンがゴリラに育てられるシーンが出てくる。
この本でもヒョウが人を獲物にしている想像図が載っている。おぞましい絵だが、一目瞭然なので紹介しておく。

出典:本書
人間は常に食べられていた
ヒトはチンパンジーから約500万年前に分岐して(分岐は600〜760万年前という報告もある)、独自の進化系を構成した。
320万年くらいにアフリカにいたアウストラロピテクス・アファレンシスの人体骨格の40%がアフリカ・エチオピアで発掘され、ルーシーという愛称で呼ばれている。
人間は最近1万年くらいはヤリや弓矢、ここ1,000年位は鉄砲などで、ほかの動物には圧倒的な強さを示し、今では武装していれば、ネコ科等の動物にやられることは、ほとんどなくなった。
しかし、その前の500〜600万年は、動物に食べられる弱い存在だったのだ。
ゴリラなど大型霊長類も含めて、霊長類はネコ科などの猛獣に食べられていた。
ネコ科の捕食のやりかた
ゴリラがヒョウにやられるというのは、にわかには信じがたいが、この本ではヒョウの糞にゴリラの足指がそのまま見つかった写真を載せている。
ネコ科の捕食は後をつけて、動けなくするのが基本だ。最終段階での攻撃では、飛び掛かって伸縮自由の鋭い爪で獲物をつかみ、首のひと噛みで脊髄を切断して死をもたらす。
さらに、噛み方は、獲物を窒息させるための首へのひと噛み、鼻や口をねらうひと噛み、獲物の頭骨を押しつぶすほどのひと噛みという3つのバリエーションがある。
ヒョウに人間やゴリラがやられる場合でも、首へのひと噛みで勝負は決するのだ。
北京原人の化石はハイエナに食べられたヒトの骨
ネコ科に属するハイエナ類も、その抜群のあごの力で、ヒトを捕食してきた。
北京原人の骨が発掘された周口店では、頭蓋骨が破壊された人骨が多く発見された。当初は北京原人が人肉を食べていたという仮説が出されたが、その後、ハイエナが頭骨をかみ砕いて、脂質のつまった脳を食べていたという説が有力になった。
周口店で発見された北京原人の骨はハイエナに食べられた人類の骨だったのだ。
武器も持っていないヒトが、なんらかの理由で集団から離れると、猛獣の恰好の獲物だろう。
この本の原題は"Man the Hunted"だ。たしかに、人類の歴史の中で、動物に食べられることも、動物を食べることと同様に頻繁に起こっていたのだと思う。
読んでいくうちに、ネコが嫌いになってくるという副作用?はあるかもしれないが、新しい視点に気付かせてくれる本である。
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