
天才棋士羽生善治さんの『決断力』で紹介されていた筆者の旧知のカーネギーメロン大学の金出武雄先生のビジネス書。
カーネギーメロン大学やピッツバーグ大学がある地区にある、見かけは冴えないが、料理はバツグンにうまい中華料理屋オリエンタル・キッチンを思い出す。
カーネギーメロン大学のキャンパス周辺はこんな感じだ。
あーまた行きたいものだ。
スーパーボウルで使用された360度三次元ビデオカメラシステムを開発したことで、『スーパーボウルに出演した唯一の大学教授』とも呼ばれているそうだ。
羽生さんの本でも紹介されていた、KISS(Keep it simple, stupid!)という、複雑に考えるな、単純に考えろというのがこの本の一貫したコンセプトだ。
金出さんのモットーは『素人発想、玄人実行』だという。書家に揮毫してもらい、自宅の居間にも飾っていると。
BCG(ボストンコンサルティンググループ)の内田さんの『仮説思考』に紹介されていた「名刺の裏に書ききれないアイデアはたいしたアイデアではない」というのがあったが、発想は単純、素直、自由、簡単でなければならないと金出さんは説く。
たとえばインターネットの基盤となったDARPAのプログラムマネージャーだったB. カーンの発想は「コンピューターがつながっていれば、軍事的にはソ連の攻撃で一カ所のコンピューターが破壊されてても大丈夫だし、経済的にはアメリカの西海岸と東海岸では3時間の時差があるから、計算の仕事を分散させるメリットがある」というものだったそうだ。
この本は四部構成で、全部で48項目についてエッセー風に書かれている。
第1章 素人のように考え、玄人として実行する 発想、知的体力、シナリオ
第2章 コンピューターが人にチャレンジしている 問題解決能力、教育
第3章 「自分」の考えを表現し、相手を説得する 実戦!国際化時代の講演、会話、書き物術
第4章 決断と明示のスピードが求められている 日本と世界 自分と他人を考える
すべての項目について具体例が満載されている。頭にスッ入り、読みやすく記憶に残る本である。
いくつか印象に残った項目をご紹介しよう。
2.なんと幼稚な、なんと素直な、なんといい加減な考えか
今や常識となっている大陸移動説は、元々は20世紀はじめにドイツの気象学者ウェゲナーが南アメリカ大陸とアフリカ大陸の海岸線が似ていることに気づき、はさみで切って貼りあわせたらパズルの様にぴったりあったことから考えついたものだという。
発表当初は否定されたが、20世紀後半となりプレート移動説によって再発見されてよみがえり、今は定説になっている。
3.成功を疑う
金出さんは「成功から学ぶ」とか、「失敗から学ぶ」ことは誰もが考えるが、「成功を疑う」のが一番難しいと語る。
成功を疑わなかったために、新たな成功をつかみそこねた絶好の例が、パソコンを発明したゼロックスだと。
カリフォルニア州パロアルトのゼロックスの研究所では1970年代のなかばには、アルトと呼ばれるパソコンを完成させていた。アルトはその後出てきたマッキントッシュの機能とアイコンなどの概念を完全に含む、はるかに進んだシステムだった。(アップルがアルトを真似たという歴史家が多いと)
ところがゼロックスはコピー機ビジネスの成功で莫大な利益を上げていたので、パソコンという新しいビジネスに賭けることを嫌い、アルトはお蔵入りしたのだった。
10.できるやつほど迷うものだ
金出さんは記憶力バツグンで、手帳を持ち歩かなくとも予定は1年先まで記憶でき、試験は、どの科目も100点を取るつもりで、一種のゲーム感覚でやっていたと。
その金出さんが大学院の研究でつまづいた。3年間の博士課程のうち2年間を、いろいろな研究課題を取り上げては行き詰まり、なにもできないままに終わってしまいそうになった。
そんな時に「もう少し具体的なことをやったら」と人の顔の画像データベースの研究をアドバイスしてくれたのが、後の京都大学総長長尾真(まこと)先生だと。
金出さんは研究テーマに迷うことを、研究について研究するということで、メタ研究と呼ぶ。メタ研究はいくらやっても何の役にも立たないのだ。
研究は具体的目標を設定できる課題を選び、ねばり強くやれと。
当たり前のことだが、案外「できるやつほど迷う」ものだと。
アナログ
『アナログ』と、筆者もよく使っている言葉だが、01のデジタルに対してアナログということは知っていても、アナログ自体の意味はよく知らずに使っていた。
アナログとは英語でAnalogous、似ている、相似のという言葉から来ている。
デジタルばビットの集まりという離散的な形で示したが、アナログは連続的という意味で使われる。
筆者が思い出すのは、ラジオのAM放送やレコードだ。電波の波形、あるいは振動の波形が音の波形に似せてあるので、アナロジー、相似形なのだ。
元々は鉄塔間の電線の長さ(懸垂線)を測るために、ひもを用いて同じ種類のカーブを得たことから、アナログ計算という考え方が始まったものだ。
ファジーなあいまいさを残す人間をアナログ人間と呼ぶそうだが、こういわれると自分もまさにアナログ人間だと思う。
19.コンピューターは人より知性的になる
「新しい知性を感じた」というのは、チェスの世界王者ガリー・カスパロフが、IBMのスーパーコンピューター ディープ・ブルーに負けたときに言った言葉だ。
この研究の推進者はカーネギーメロン大学出身のエンジニアだったそうだ、
金出さんは人を越えるコンピューター、ロボットが町を歩く時代も遠い将来のことではないと予測する。
20.思考力、判断力は問題解決に挑戦することで伸びる
金出さんは学生の頃、実験が嫌いだったと。日本の実験は、理論を検証する方法が、『実験の手引き』で決められており、実験するというよりも手順を単に作業するだけだからだったからだ。
これに対してアメリカでは、問題解決学習が基本で、たとえば金出さんの息子さんの行っていたコーネル大学では「使い捨てカメラは、どうしてこんなに安い価格で売れるのか調べなさい」というものだった。
授業で使い捨てカメラと普通のカメラを分解して調べるなど、様々な作業を通して、どうやったらわかるのかを自分で考え、調べて発見する。
自分で問題を考え、解決法を工夫し、判断する能力が養われるのである。
教育者としてのアドバイス、アメリカでビジネスをする上でのアドバイス
金出さんはピッツバーグでは面倒見の良いことで知られている。ピッツバーグ日本人会のゴルフなどは毎回積極的に参加し、金出さんが出るので、他のピッツバーグ在住者もつられて、参加者が多くなっていた。
この本でも面倒見の良いことを発揮して、教育者としてのアドバイス、またアメリカで活躍する超一流の大学教授として、アメリカでビジネスをしていく上での様々なアドバイスを述べている。
実にこの本のほぼ半分はこのアドバイスである。
例えば国際会議などで米国を訪れる研究者には、前置きなしに、結論をさきに話せとアドバイスしている。
日本流に前置きから始めては、聴衆が最も感心を持っている最初の部分を逃すおそれがあるので、日本で用意したスライドの順序を逆にしてちょうど良いくらいであると。
その他、項目だけ紹介するとこんな具合だ:
30.説明して納得させるのではない。納得させてから説明するのだ。
36.論文や人を説得する書き物は推理小説と同じである。
38.プロポーサルは論文プラス資金の要求だ ー 相手が上司に説明しやすく書く アメリカの大学での研究は『研究起業』であると
40.発表と英語に関する三つの変なアドバイス
プレゼン資料は一目で内容がわからないようにつくる
子どもに対する英語教育は早く始めるな
48.「自分が決める」という勇気 アメリカと日本で一番の違いとして感じるのは、日本には「自分が決定者である」という立場になりたがらない人が多いことだ。
文庫本にもなったほど売れた、わかりやすく、スッと読める本である。特にアメリカでビジネスや勉強をしている人には是非おすすめする。
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